JP2014219669A - 天体望遠鏡対物レンズ、天体望遠鏡及び天体観測方法 - Google Patents

天体望遠鏡対物レンズ、天体望遠鏡及び天体観測方法 Download PDF

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伸悟 鹿島
Shingo Kajima
伸悟 鹿島
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Abstract

【課題】温度変化の大きな環境であっても高い星像位置決定精度を有する天体望遠鏡対物レンズなどを提供すること。
【解決手段】本発明の第1の側面は、屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置されている天体望遠鏡対物レンズにあり、回折光学素子は平行平面板を基板としている。本発明の第2の側面は、回折光学素子の材質は合成石英である天体望遠鏡対物レンズにある。本発明の第3の側面は、屈折レンズは複数あり、各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦5を満たす天体望遠鏡対物レンズにある。
【選択図】 図1

Description

本発明は、温度変化の大きな環境で使用可能な天体望遠鏡対物レンズ、天体望遠鏡及び天体観測方法に関する。
月面に望遠鏡を設置し、月の回転変動を高精度に観測し、月の中心核の状態を調べようとする計画がある。月面天測望遠鏡(In-situ Lunar Orientation Measurements、ILOM)計画は、月の物理秤動の観測精度を画期的に上げることによって、月の内部構造や物性、とくに中心部の物質が何であるか、それが溶けているかどうかを通して月の起源と進化を解明しようとするものである(非特許文献1参照)。
この計画では、個々の星に対してCCDの複数のピクセルに記録された星像の重心位置を1ミリ秒角(1mas)以下の精度で決定し、それらの星の1年以上にわたる軌跡を解析することによって月の物理秤動各成分の振幅や位相を従来より一桁以上高精度に推定する。月回転の高精度観測は月の科学にとって重要であるばかりでなく、将来の月面からの超高精度位置天文観測を行う場合の座標系を確立する上でも不可欠の観測である。
月の表面温度は、例えば赤道付近で最高およそ110℃、最低およそ−170℃であり、温度変化が大きい。ILOM計画では、月面という温度変化の大きな過酷な環境で星像位置決定精度1ミリ秒角という高精度を実現する必要があるため、その光学系には非常に高い性能が要求される。
一般に、天体望遠鏡として反射型と屈折型があるが、色収差がないことから反射型が主流となっている。しかしながら、反射型の天体望遠鏡は、ミラーの前後で光路が折り返されるため配置に制限があり、用途によっては使用に適しない場合がある。例えば、月の物理秤動の観測では、写真天頂筒が使用される可能性があるが、このような写真天頂筒で反射型の光学系は採用できない。一方、かかる用途に屈折型の天体望遠鏡を用いる場合、配置の制限に関しては有利であるが、目的とする波長範囲内で良好に色収差を補正する必要があり、環境温度の変動に依らない安定性を確保する必要も生じる。一般的な屈折型の天体望遠鏡では、これを構成する結像用の光学素子として屈折レンズが用いられ、複数の、アッベ数の異なる材質からなる屈折レンズを組み合わせることによって色消しが行われている。しかしながら、温度変化が大きな環境で使用可能な硝材には制限があり、良好な色消しを達成することは容易でない。
屈折レンズに対応する機能をもたせることができる光学素子としては、ミラーの他に回折光学素子(Diffractive Optical Element、DOE)が存在する。回折光学素子を天体望遠鏡の対物レンズに組み込む試みもなされており、対物レンズの凸状の第1面に回折光学素子を組み込んだものが公知になっている(特許文献1参照)。しかしながら、この種の天体望遠鏡で環境温度の変動に対する安定性を十分に考慮したものはない。
特開2004−126395号公報
H. Hanada et al., "Application of a PZT telescope to In situ Lunar Orientation Measurement (ILOM)", International Association of Geodesy Symposia Volume 128, 2005, pp 163-168
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、温度変化の大きな環境であっても高い星像位置決定精度を有する天体望遠鏡対物レンズなどを提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、
屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置され、
回折光学素子は平行平面板を基板としていることを特徴とする天体望遠鏡対物レンズにある。
本発明の第2の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
回折光学素子の材質は合成石英であることを特徴とする。
本発明の第3の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
屈折レンズは複数あり、各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする。
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦5
なお、屈折レンズの規格化パワー及び材質に関する上記値|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|については、
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦3
であることが好ましく、
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦2
であることがより好ましい。
本発明の第4の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
屈折レンズは複数あり、
各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕が以下の条件式を満たすことを特徴とする。
|dn/dT|≦5
なお、屈折レンズの材質の屈折率の温度係数に関する上記値|dn/dT|については、
|dn/dT|≦3
であることが好ましく、
|dn/dT|≦1
であることがより好ましい。
本発明の第5の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
屈折レンズは複数あり、
各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズの材質のd線(587.56nm)基準のアッベ数をvdとする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする。
50≦|ΣPi*vd|≦200
なお、屈折レンズのパワー等に関する上記値|ΣPi*vd|については、
50≦|ΣPi*vd|≦150
であることがより好ましい。
本発明の第6の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
回折光学素子の焦点距離をfdとし、全系の焦点距離をfaとする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする。
30≦|fd/fa|≦150
なお、回折光学素子の焦点距離に関する上記値|fd/fa|については、
60≦|fd/fa|≦120
であることが好ましい。
本発明の第7の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
入射側から順に、正レンズ、負レンズ及び回折光学素子が配置されていることを特徴とする。なお、正レンズについては、凸レンズと呼ぶこともあり、負レンズについては、凹レンズと呼ぶこともある。
本発明の第8の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
入射側から順に、保護ガラス兼用の回折光学素子、正レンズ及び負レンズが配置されていることを特徴とする。
本発明の第9の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、
入射側から順に、負レンズ、正レンズ及び回折光学素子が配置されていることを特徴とする。
本発明の第10の側面は、上記天体望遠鏡対物レンズにおいて、以下の(1)又は(2)の構成を特徴とする。
(1)入射側から順に、負レンズ、正レンズ、負レンズ及び回折光学素子が配置されたもの
(2)入射側から順に、正レンズ、正レンズ、負レンズ及び回折光学素子が配置されたもの
本発明の第11の側面は、
屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置されている天体望遠鏡対物レンズであって、
回折光学素子は平行平面板を基板としており、
回折光学素子の材質は合成石英であり、
屈折レンズは複数あり、
各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度変化dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たし、
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦2
各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dTが以下の条件式を満たすことを特徴とする天体望遠鏡対物レンズにある。
|dn/dT|≦1
本発明の第12の側面は、
上記天体望遠鏡対物レンズを有することを特徴とする天体望遠鏡にある。
本発明の第13の側面は、
屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置された天体望遠鏡対物レンズを使用し、環境温度変化に伴う近軸量(例えば焦点距離)及び実収差の変化を小さくし、天体を観測することを特徴とする天体観測方法にある。
本発明の第14の側面は、
屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置されており、回折光学素子は平行平面板を基板としており、回折光学素子の材質は合成石英であり、屈折レンズは複数あり、各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たし、
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦2
各々の屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dTが以下の条件式を満たす天体望遠鏡対物レンズを使用し、
|dn/dT|≦1
環境温度変化に伴う近軸量及び実収差の変化を小さくし、天体を観測することを特徴とする天体観測方法にある。
本発明によれば、温度変化の大きな環境であっても高い星像位置決定精度を有する天体望遠鏡対物レンズなどが得られる。
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかにする。
第1実施例の天体望遠鏡対物レンズについてレンズ構成を示す断面図である。 第1実施例の縦収差図等(球面収差、像面湾曲と非点収差及び歪曲収差)である。 第1実施例の横収差図である。 第2実施例のレンズ構成を示す断面図である。 第2実施例の縦収差図等である。 第2実施例の横収差図である。 第3実施例のレンズ構成を示す断面図である。 第3実施例の縦収差図等である。 第3実施例の横収差図である。 第4実施例のレンズ構成を示す断面図である。 第4実施例の縦収差図等である。 第4実施例の横収差図である。 第5実施例のレンズ構成を示す断面図である。 第5実施例の縦収差図等である。 第5実施例の横収差図である。 第6実施例のレンズ構成を示す断面図である。 第6実施例の縦収差図等である。 第6実施例の横収差図である。 屈折レンズだけで構築した対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心位置の変化を示す図である。 回折光学素子(Diffractive Optical Element、DOE)を用いた対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心重位置の変化を示す図である。 (A)及び(B)は、画角0°の方向からの入射光の結像状態を評価したものである。 (A)及び(B)は、画角0°の方向からの入射光の結像状態を評価したものであり、特に(B)は、必要光に不要光を合成したものを示す。 (A)及び(B)は、画角0.4°の方向からの入射光の結像状態を評価したものである。 (A)及び(B)は、画角0.4°の方向からの入射光の結像状態を評価したものであり、特に(B)は、必要光に不要光を合成したものを示す。 天体望遠鏡への適用例を説明する図である。 (A)及び(B)は、回折光学素子の作製結果を説明する図である。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
1.天体望遠鏡対物レンズ
[本発明に至る経緯]
屈折型の天体望遠鏡対物レンズでは、通常ある波長範囲内で良好に色収差を補正する必要がある。そのため、例えばオハラ社製のもので言えばS-FPL51やS-FPL53といった所謂「低分散特殊ガラス(人工蛍石)」、あるいは使用波長によっては蛍石そのものを使う必要がある。ところが、これら低分散特殊ガラスや蛍石は屈折率の温度係数dn/dTが通常のガラスに比べて一桁以上大きく、環境温度が変化すると特性が急激に変化するため、目標性能によっては非常に狭い環境温度範囲内でしか使えない。
ここで、回折光学素子(Diffractive Optical Element、DOE)の原理と特徴に関して簡単に記す。回折光学素子自体は、公知のものであり、
(1)オプトロニクス社発行の「光学デザイナーのための小型光学エレメント」の第6章及び第7章(非特許文献2)、
(2)「SPIE,No.162, P.46-53(1977)」(非特許文献3)等
に詳しく記されている。要は、通常のレンズは屈折作用により光線を曲げるのに対して、回折光学素子はその名の通り、回折作用で光を曲げるものであり、これをレンズとして用いたものが所謂回折レンズである。屈折は、スネルの法則に従い波長が短い光ほど良く曲がるが、回折は、その逆であり波長が長い光ほど良く曲がる。これを材質に用いられるアッベ数に換算すると約−3.45となるが、一般的な材質のアッベ数が20〜95であることを考えると、逆分散且つ非常に高分散であることがわかる。また、回折レンズは非常に大きな異常分散性も併せ持つ。そのため、通常の屈折レンズと回折レンズとを組み合わせることにより、非常に強力な色収差補正が可能となるのである。また、回折による曲がり角はそのピッチによって自由に制御できるため、非常に自由度の高い非球面特性も持たせることができる。なお、本明細書では、回折レンズのことを広義に捉えて回折光学素子又はDOEと呼ぶこともある。
本実施形態は、これらの状況に鑑み、屈折型の天体望遠鏡対物レンズ、より詳しくは、例えば、衛星軌道上や月面上のような環境温度変化が激しく、且つそれを一定に制御することが困難である場所に設置する屈折型天体望遠鏡の対物レンズを得るためになされたものである。
本実施形態の対物レンズによれば、非反射系であって色収差を含む諸収差を良好に補正した場合でも、環境温度変化に強いものとすることができるという利点がある。
[本実施形態の概要]
本実施形態の対物レンズでは、所謂低分散特殊ガラスの代わりに回折レンズ(DOE)を用いている。通常のレンズは屈折で光を屈曲させるが、DOEは文字通り「回折」で光を屈せしめるものである。屈折と回折は色分散が逆であるため、これらを組み合わせることで非常に良好に色収差を補正することが可能となる。更にDOEは基本的に基板の材質に依存しないため、温度による特性変化が問題とならない材質を選ぶことで、これまでの問題点を回避し、実用的な広い温度範囲で良好な光学性能が維持される。
本実施形態の対物レンズは、屈折率の温度係数dn/dTが小さい材質からなる複数の屈折レンズと、DOEとから構成される(以下、同様)。これにより環境温度がある程度変化しても所望の光学性能を維持することができる。
DOEの基板は、目的に応じて適切な材料を適宜選択することができる。本実施形態のDOEでは、合成石英製の平行平面板を基板としている。これにより、基板の材質の特性変化の光学性能への影響を小さくすることができる。平行平面板を基板とするDOEでは、基板の材質の屈折率の温度係数dn/dTに依存する光学性能劣化はほとんど発生せず、収差を発生せしめるのは回折面の変形のみであるため、dn/dTではなく、線膨張係数dL/dTに依存する。その点合成石英は、dn/dTが通常のガラスより一桁以上大きいが、dL/dTが逆に一桁以上小さいため、非常に好適である。DOEには基板に曲率を持たせ、基板にレンズ(屈折)効果を持たせたものもあるが、こうするとある温度下での性能は向上するというメリットがある一方、環境温度が変化した際に性能が劣化するというデメリットがある。
なお、平行平面板は、厳密に平行であるものに限らず実質的に平行であれば足り、例えば曲率半径R/有効直径Dの絶対値|R/D|については、|R/D|≧10であればよく、好ましくは|R/D|≧30、より好ましくは|R/D|≧50とする。回折面は、効率や収差を考慮して平行平面板の片側にのみ形成されることが望ましい。
なお、合成石英は、二酸化ケイ素(SiO2)を元にした素材であり、例えば不純物含有量10億分の1以下の超高純度の材質である。
DOEのピッチ(溝間隔)を制御することにより、変曲点があっても良い、形状が自由な非球面レンズとしての効果もある。ここで、変曲点とは、非球面形状の微係数の正負反転点である。
対物レンズを構成する複数の屈折レンズは、少なくとも2枚のレンズであり、各レンズは、正又は負のパワーを有する。複数の屈折レンズのみである程度の色収差を補正する観点で、上記少なくとも2枚のレンズは、正のパワーを有するレンズと、これとはアッベ数が異なり負のパワーを有するレンズとを組み合わせたものとする。なお、DOEのパワーの正負については、特に制限の必要はない。
[好ましい数値範囲]
各屈折レンズの焦点距離を全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各屈折レンズを構成する材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)としたとき、
|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦5 … 条件式(1)
を満たすことが好ましい。この場合には、環境温度変化に伴う近軸量の変化を小さくすることができる。値|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|が5を超えると、近軸的にも環境温度変化に弱くなり、所望の光学性能を維持できる範囲が狭くなる傾向が生じる。この値|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|が3以下になると、環境温度変化に伴う近軸量変化が更に小さくなり、より好適となる。さらに、この値|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|が2以下になると、環境温度変化に伴う近軸量変化がほぼ無視できるため、更に好適となる。
また、屈折レンズを構成する各材質が
|dn/dT|≦5 … 条件式(2)
を満たすことが好ましい。条件式(1)はあくまでも近軸的なものであるため、この条件を満足していても環境温度変化に伴う実収差は発生する。その量を小さくするためには、条件式(2)のように個々のレンズの材質の屈折率の温度係数dn/dTも小さくしておくことが望ましいためである。ここで値|dn/dT|が5を超えると、実収差が大きく発生し、やはり所望の光学性能を維持できる範囲が狭くなる傾向が生じる。この値|dn/dT|が3以下になると、環境温度変化に伴う実収差発生量が更に小さくなり、より好適となる。さらに、値|dn/dT|が1以下になると、環境温度変化に伴う実収差発生量がほぼ無視できるため、更に好適となる。
各々の屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の屈折レンズのd線(587.56nm)基準のアッベ数をvdとしたとき、
50≦|ΣPi*vd|≦200 … 条件式(3)
を満たすことが好ましい。 値|ΣPi*vd|が下限を下回ると、DOEに十分な色収差補正効果を持たせることができず溝本数が少なくなり、十分な回折効果が得られない傾向が生じる。一方、値|ΣPi*vd|が上限を上回ると、DOEを使っても十分な色収差補正が困難になったり、溝本数が多く最小ピッチが小さくなり過ぎるため、製造が困難になるという傾向が生じる。
なお、より好ましくは、50≦|ΣPi*vd|≦150とする。
回折光学素子である回折レンズの焦点距離をfdとし、全系の焦点距離をfaとしたとき、
30≦|fd/fa|≦150 … 条件式(4)
を満たすことが好ましい。
値|fd/fa|が下限以上となることにより、回折光学素子である回折レンズで大きな収差が発生することを防止し、屈折レンズと組み合わせて収差を相殺しきれるものとなっている。また、回折レンズの周辺のピッチが細かくなって製造が困難になることを防止できる。一方、値|fd/fa|が上限以下となることにより、不要次数光の焦点ズレを大きくできるので、不要次数光の悪影響を抑制することができる。
なお、より好ましくは、60≦|fd/fa|≦120とする。
[DOEの設計方法]
DOEの設計方法には主にふたつの方法がある。ひとつはDOEを非常に屈折率が大きい仮想的な材質として設計する方法であり、ultra-highindex法と呼ばれている。もうひとつが、DOEの特性を直接位相関数として表すものであり、位相関数法と呼ばれている。前者は、非常に大きな屈折率さえ入力できれば一般の光学ソフトで設計可能であるが、ソフトによっては収束が遅い等の問題がある。後者は、その機能をもった光学ソフト(例えばCodeV)でなければ扱えないが、直接的であり収束も速い。本実施形態の設計は全て、CodeVの位相関数法で行っている。
以下、本発明に係る天体望遠鏡対物レンズの具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例は、入射側から順に、正レンズ11と、負レンズ12と、DOE13とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図1参照)。
正レンズ11すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは1.8、Pは2.282である。負レンズ12すなわち第2レンズの、計基準波長・温度でのdn/dTは−0.2、Pは−1.308であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|=1.8*2.282+0.2*1.308=4.37となり、条件式(1)及び(2)を共に満たしていることがわかる。
表1は、第1実施例のレンズデータを示す表である。表2は、第1実施例の波面収差を示す表である。図1は、第1実施例のレンズ構成を示す断面図である。図2は、第1実施例の縦収差図である。図3は、第1実施例の横収差図である。
なお、表1及び以後の表において、「S−number」は面番号、「RDY」は曲率半径、「THI」は面間隔、「GLA」は材料をそれぞれ示す。また、「S−number(面番号)」の欄において、「OBJ」は物体、「STO」は絞り、「IMG」は像をそれぞれ示す。2つの面に挟まれた「DOE」欄は、回折光学面データを示しており、「DOE」欄において、「HOR」は回折次数、「HWL」は規格化波長、「HCT」の「R」は回転対称型であること、「BLD」はブレーズ深さ、「BLT」はブレーズタイプ、「HCO」の「Ck」は回転対称多項式の係数それぞれ示す。ここで、Ckは、半径をRとしてR2kの項の係数を意味する。
また、表2及び以後の表において、「BEST INDIVIDUAL FOCUS」欄は、各画角でのベスト位置とそこでのRMS波面収差及びストレール強度を示し、「BEST COMPOSITE FOCUS」欄は、画角重み付きの平均ベスト面位置とそこでのRMS波面収差及びストレール強度を示す。なお、ストレール強度(STREHL)は、実際の光学系の点像強度分布のピーク強度とそれに対応する無収差PSFのピーク強度との比である。
[表1]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 5.000000
3: 635.93601 12.000000 SBSM15_OHARA
4: -471.06693 2.104115
5: -449.49695 8.000000 SFTM16_OHARA
6: INFINITY 2.000000
7: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
DOE:
HOR: 1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:-.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : -5.7105E-06 C2 : 7.8235E-11 C3 : -2.5778E-15
C4 : 9.5979E-20

8: INFINITY 42.895885
9: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
10: INFINITY 11.000000
11: INFINITY 895.872099
IMG: INFINITY 0.000000
[表2]
(実施例2)
本実施例は、入射側から順に、保護ガラス兼用のDOE21と、正レンズ22と、負レンズ23とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図4参照)。正レンズ22すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは1.8、Pは2.285である。負レンズ23すなわち第2レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは−0.2、Pは−1.312であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|=1.8*2.285+0.2*1.312=4.37となり、条件式(1)及び(2)を共に満たしていることがわかる。
表3は、第2実施例のレンズデータを示す表である。表4は、第2実施例の波面収差を示す表である。図4は、第2実施例のレンズ構成を示す断面図である。図5は、第2実施例の縦収差図である。図6は、第2実施例の横収差図である。
[表3]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 2.000000
DOE:
HOR: -1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:0.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : 5.4945E-06 C2 : -6.6470E-11 C3 : 1.9463E-15
C4 : -2.7714E-20

3: 635.82636 12.000000 SBSM15_OHARA
4: -469.99080 2.104076
5: -448.46983 8.000000 SFTM16_OHARA
6: INFINITY 2.000000
7: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
8: INFINITY 11.000000
9: INFINITY 944.047804
IMG: INFINITY 0.000000
[表4]
(実施例3)
本実施例は、入射側から順に、負メニスカスレンズ31と、正メニスカスレンズ32と、DOE33とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図7参照)。負メニスカスレンズ31すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは4.1、Pは−2.864である。正メニスカスレンズ32すなわち第2レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは3.5、Pは3.892であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|=4.1*(−2.864)+3.5*3.892=1.88となり、条件式(1)及び(2)を共に満たしていることがわかる。
表5は、第3実施例のレンズデータを示す表である。表6は、第3実施例の波面収差を示す表である。図7は、第3実施例のレンズ構成を示す断面図である。図8は、第3実施例の縦収差図である。図9は、第3実施例の横収差図である。
[表5]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 5.000000
3: 357.68301 8.000000 SLAH64_OHARA
4: 153.47927 0.200000
5: 147.95379 12.000000 SBAL35_OHARA
6: 7971.87277 2.000000
7: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
DOE:
HOR: 1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:-.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : -4.7439E-06 C2 : -2.5399E-10 C3 : 5.7431E-14
C4 : 1.0078E-17

8: INFINITY 42.895885
9: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
10: INFINITY 11.000000
11: INFINITY 895.578942
IMG: INFINITY -0.078572
[表6]
(実施例4)
本実施例は、入射側から順に、負メニスカスレンズ41と、正レンズ42と、負メニスカスレンズ43と、DOE44とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図10参照)。第1の負メニスカスレンズ41すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは2.0、Pは−0.085である。正レンズ42すなわち第2レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは2.5、Pは1.988、第2の負メニスカスレンズ43すなわち第3レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは2.4、Pは−0.987であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|=2.0*(−0.085)+2.5*1.99+2.4*(−0.91=2.61となり、条件式(1)及び(2)を共に満たしていることがわかる。
表7は、第4実施例のレンズデータを示す表である。表8は、第4実施例の波面収差を示す表である。図10は、第4実施例のレンズ構成を示す断面図である。図11は、第4実施例の縦収差図である。図12は、第4実施例の横収差図である。
[表7]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 5.000000
3: 381.72279 8.000000 STIH13_OHARA
4: 362.37088 1.332586
5: 515.47959 12.000000 SBSL7_OHARA
6: -515.47959 0.200000
7: -516.75800 8.000000 STIM2_OHARA
8: -2203.98293 8.000000
9: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
DOE:
HOR: 1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:-.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : -6.5040E-06 C2 : 5.8570E-11 C3 : -2.1485E-15
C4 : 2.0592E-19

10: INFINITY 42.895885
11: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
12: INFINITY 11.000000
13: INFINITY 887.123178
IMG: INFINITY -0.044344
[表8]
(実施例5)
本実施例は、入射側から順に、DOE51と、正メニスカスレンズ52と、正レンズ53と、負レンズ54とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図13参照)。正メニスカスレンズ52すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは2.4、Pは0.514である。正レンズ53すなわち第2レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは2.5、Pは1.391、負レンズ54すなわち第3レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは2.0、Pは−0.926であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i)}|=2.4*0.514+2.5*1.391−2.0*0.926=2.86となり、条件式(1)及び(2)を共に満たしていることがわかる。
表9は、第5実施例のレンズデータを示す表である。表10は、第5実施例の波面収差を示す表である。図13は、第5実施例のレンズ構成を示す断面図である。図14は、第5実施例の縦収差図である。図15は、第5実施例の横収差図である。
[表9]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 8.000000
DOE:
HOR: -1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:0.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : 6.3159E-06 C2 : -3.7282E-11 C3 : -1.1827E-15
C4 : 1.3120E-19

3: 890.39556 8.000000 STIM2_OHARA
4: 3461.43609 2.000000
5: 736.81016 12.000000 SBSL7_OHARA
6: -736.81016 2.000000
7: -815.88799 8.000000 STIH13_OHARA
8: 27827.51298 8.000000
9: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
10: INFINITY 11.000000
11: INFINITY 932.373828
IMG: INFINITY -0.048301
[表10]
(実施例6)
本実施例は、入射側から順に、DOE61と、第1の正メニスカスレンズ62と、第2の正メニスカスレンズ63と、負メニスカスレンズ64とを配置したものであり、その他の光学部品は保護ガラスやフィルタであり、光学性能に本質的なものではない(図16参照)。第1の正メニスカスレンズ62すなわち第1レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは1.4、Pは0.779である。第2の正メニスカスレンズ63すなわち第2レンズの、設計基準波長・温度でのdn/dTは−1.1、Pは1.651、負メニスカスレンズ64すなわち第3レンズの、設計基準波長・温度での常温でのdn/dTは1.4、Pは−1.350であり、|Σ{Pi*(dn/dT)i}|=2.62となり、条件式(1)及び(2)を満たしていることがわかる。
表11は、第6実施例のレンズデータを示す表である。表12は、第6実施例の波面収差を示す表である。図16は、第6実施例のレンズ構成を示す断面図である。図17は、第6実施例の縦収差図である。図18は、第6実施例の横収差図である。
[表11]
S-number RDY THI RMD GLA
OBJ: INFINITY INFINITY
STO: INFINITY 8.000000 SILICA_SPECIAL
2: INFINITY 2.000000
DOE:
HOR: -1.000000
HWL: 650.00 HCT: R
BLD:0.118690E-02 BLT: KINOFORM
HCO
C1 : 1.1421E-05 C2 : -1.9692E-09 C3 : 1.6032E-13
C4 : 1.5474E-17

3: 280.24964 12.349126 STIH4_OHARA
4: 388.41340 11.182444
5: -175.90929 10.000000 SFSL5_OHARA
6: -112.11222 6.468429
7: -105.64812 10.000000 STIH4_OHARA
8: -135.84046 8.000000
9: INFINITY 39.000000 SBSL7_OHARA
10: INFINITY 11.000000
11: INFINITY 950.055454
IMG: INFINITY 0.068064
[表12]
以下の表13は、第1〜6実施例の特性を比較したものである。
[表13]
以下の表14は、表13の元になる数値を参考のため示したものである。なお、焦点距離f,fd,faの値は、設計基準(重心)波長650nmにおけるものとなっている。
[表14]
[環境温度変化と星像重心位置の変化]
環境温度変化に伴う性能劣化を比較した結果について説明する。
図19は、屈折レンズだけで構築した対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心位置の変化を示す図である。表15は、屈折レンズだけで構築した対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心位置の変化を示すデータである。
図20は、DOEを用いた対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心位置の変化を示す図である。表16は、DOEを用いた対物レンズの場合の環境温度変化と星像重心位置の変化を示すデータである。DOEを用いた対物レンズは実施例1のように各部材が配置されている。
[表15]
[表16]
図19に示すように、屈折レンズだけで構築した対物レンズの場合に1ミリ秒角の精度を実現するためには約±0.2℃の許容範囲しかなく、これは月面上では到底実現不可能な値である。一方、DOEを用いた対物レンズの場合では図20に示すように、1ミリ秒角を実現する温度範囲が±5℃以上に拡大されており、これは断熱やヒーターによる加熱等を適切に行えば、月面上でも達成可能な温度範囲であり、本発明によって月面上で星像位置を1ミリ秒角の精度で決定するための天体望遠鏡について実現の目処が立ったことになる。
[不要次数光]
DOEを用いた天体望遠鏡対物レンズでは、不要次数光による迷光について検討する必要がある。本実施形態の天体望遠鏡対物レンズでは、DOEの1次光を利用する。つまり、不要次数光は、1±m次(m=1,2,3,…)で発生し、回折効率を考慮すると、その影響の大きさは下記のようになる。
2次(0次,m=1)>3次(−1次,m=2)>4次(−2次,m=3)…
したがって、必要とする1次光のPSF(点像強度分布)と、それ以外の次数光のPSFとを比較することで、DOEを用いた対物レンズの性能を評価することができる。一例として、1次光については、e線について計算した1次光のPSF(PSF(e))を目安とし、その他の不要次数光については、C線及びF線について計算した2次光のPSF(PSF(C),PSF(F))を目安とする。この場合、不要次数光を含めた全PSFすなわちPSF(total)は、
PSF(total)
=PSF(e)+{PSF(C)*de(C)+PSF(F)*de(F)}
となる。ここで、de(C)及びde(F)は、各波長における不要な2次光の回折効率である。なお、計算では、最も悪影響がある場合を見積もってde(C)=de(F)=5%とした。
図21(A)、21(B)、22(A)及び22(B)は、実施例1と殆ど同じ光学系を前提として、画角0°の入射光を評価したものである。全てのチャートは、グリッド間隔が0.6μmで51×51のグリッドによって表示したものとなっている。これらのうち、図21(A)は、DOEを組み込んだ本対物レンズでe線に関する1次光を用いた際のPSF(e)を計算した結果を示す。また、図21(B)は、DOEを含む対物レンズでC線に関する2次光を用いた際のPSF(C)を計算した結果を示す。図22(A)は、DOEを含む対物レンズでF線に関する2次光を用いた際のPSF(F)を計算した結果を示す。図22(B)は、全PSFであるPSF(total)を計算した結果を示す。
以上のPSFを比較すると、天体望遠鏡対物レンズの2次光を含むPSF(total)は、1次光についてのPSF(e)と殆ど同じ特徴又は分布を有するものとなっており、重心が一致していることが分かる。上記のように、本対物レンズでDOEの3次光はPSF(C)等の2次光に比較して十分小さく、DOEの3次光のPSF(total)への影響はさらに小さい。この計算はC,e,Fの3波長(大凡650−450nm)でのものであるが、実施例(実際)は750−550nmで長波長側にシフトしているため、影響は更に小さくなる。このことから、DOEを組み込むことによって形成された1次光の像については、これに不要次数光が重畳されてもその影響は限定的であり、輝度分布等を十分な精度で検出することが分かる。すなわち、DOEを組み込んだ天体望遠鏡対物レンズによって星像の重心位置を高い精度で計測することができる。
図23(A)、23(B)、24(A)及び24(B)は、画角0.4°の方向からの入射光を評価したものである。これらのうち、図23(A)は、上記と同様のシミュレーションを用いてDOEを含む対物レンズにおいてe線に関する1次光を用いた際のPSF(e)を計算した結果を示す。また、図23(B)は、同対物レンズにおいてのC線に関する2次光を用いた際のPSF(C)を計算した結果を示し、図24(A)は、同対物レンズにおいてのF線に関する2次光を用いた際のPSF(F)を計算した結果を示す。図24(B)は、全PSFであるPSF(total)を計算した結果を示す。なお、倍率色収差は存在するが、DOEを含む対物レンズのPSF(total)は、1次光についてのPSF(e)と殆ど同じ特徴又は分布を有するものとなっており、重心が一致していることが分かる。
以上のように、光軸に対して傾いた方向からの入射光の場合も、DOEを含む対物レンズによって形成された1次光の像については、輝度分布等を十分な精度で検出することが分かる。すなわち、DOEを組み込んだ天体望遠鏡対物レンズによって星像等の位置を高い精度で計測することができる。
2.天体望遠鏡及び天体観測方法
図25は、図1等に例示する天体望遠鏡対物レンズを組み込んだ天体望遠鏡等を説明する概念図である。
図示の天体望遠鏡100は、写真天頂筒方式(PZT)の装置であり、付随する光検出部97、画像取得部98等と組み合わせることによって望遠鏡装置200を構成する。天体望遠鏡100は、天体望遠鏡対物レンズ10と、水銀容器93と、光路折曲ミラー95とを鏡筒91内に固定した構造を有する。天体望遠鏡対物レンズ10に入射した光は、収束しつつ光軸OAに沿って進み、水銀容器93内の水銀94の表面で反射されて逆行し、光路折曲ミラー95で横方向に光路を折り曲げられて光検出部97に入射する。この天体望遠鏡100では、水銀94の表面が常に水平に保たれることを利用して、鏡筒91が若干傾斜しても天体等の対象像を移動させないような傾斜補償を達成している。月面で使用される写真天頂筒方式の天測望遠鏡の構造、使用方法等については、例えば上述した[非特許文献1]に説明されている。
なお、光検出部97は、画像取得部98に駆動されて画像信号を出力し、得られた画像信号は、データ記録部99に保管される。光検出部97により、特定の星像重心の軌跡を例えば1年以上の長期間にわたって解析することによって、月の物理秤動やこれに関連する現象を評価することができる。
以上は、図1等に例示する天体望遠鏡対物レンズを写真天頂筒に組み込む場合についての説明であったが、図1等に例示する天体望遠鏡対物レンズは、写真天頂筒に限らず、様々なタイプの天体望遠鏡に組み込むことができる。
3.天体望遠鏡対物レンズの作製(DOEの作製)
実施例のDOE13、DOE21、DOE33、DOE44、DOE51、DOE61等は、研削と研磨によって形成される。石英等の被加工材料を回転させた状態で、自転する傘歯車状のダイヤモンドホイールを被加工材料の半径方向に移動させつつ、被加工材料の回転軸の方向に鋸歯状の軌跡で移動させる。これにより、起伏形状を同心円状に周期的に形成したレリーフを有する被加工材料が形成される。その後、レリーフ形成された被加工材料の表面に残る微細な凹凸を研磨によって除去する。レリーフ形成された被加工材料の場合、深い溝の奥を研磨する必要があり、例えば空気圧と磁気力とを利用してゴムシート上に設けたポリシャーを被加工材料の表面に押し付けつつ研磨を行った。これにより、十分実用になるレリーフ型回折レンズを得ることができる。
なお、DOE以外の屈折レンズは、通常の方法、すなわち研磨等によって作製される。
図26(A)は、研磨前の回折レンズの表面の断面形状の実測図であり、図26(B)は、研磨後の回折レンズの表面(回折面)の断面形状の実測図である。図26(B)に示す回折面は、鏡面となっており十分実用レベルのものとなっていることが分かる。
[権利解釈など]
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。

Claims (15)

  1. 屈折レンズと、透過型の回折光学素子とが配置され、
    前記回折光学素子は平行平面板を基板としていることを特徴とする天体望遠鏡対物レンズ。
  2. 前記回折光学素子の材質は合成石英であることを特徴とする請求項1に記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  3. 前記屈折レンズは複数あり、
    各々の前記屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする請求項1及び2の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズ。
    |Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦5
  4. 前記屈折レンズは複数あり、
    各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕が以下の条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズ。
    |dn/dT|≦5
  5. 前記屈折レンズは複数あり、
    各々の前記屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の前記屈折レンズの材質のd線(587.56nm)基準のアッベ数をvdとする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズ。
    50≦|ΣPi*vd|≦200
  6. 前記回折光学素子の焦点距離をfdとし、全系の焦点距離をfaとする場合、以下の条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズ。
    30≦|fd/fa|≦150
  7. 前記屈折レンズとして2つのレンズのみを有することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  8. 前記2つのレンズは、正レンズ及び負レンズであることを特徴とする請求項7に記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  9. 入射側から順に、正レンズ、負レンズ及び前記回折光学素子が配置されていることを特徴とする請求項8に記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  10. 入射側から順に、保護ガラス兼用の前記回折光学素子、正レンズ及び負レンズが配置されていることを特徴とする請求項8に記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  11. 入射側から順に、負レンズ、正レンズ及び前記回折光学素子が配置されていることを特徴とする請求項8に記載の天体望遠鏡対物レンズ。
  12. 屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置されている天体望遠鏡対物レンズであって、
    前記回折光学素子は平行平面板を基板としており、
    前記回折光学素子の材質は合成石英であり、
    前記屈折レンズは複数あり、
    各々の前記屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たし、
    |Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦2
    各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dTが以下の条件式を満たすことを特徴とする天体望遠鏡対物レンズ。
    |dn/dT|≦1
  13. 請求項1乃至12の何れかに記載の天体望遠鏡対物レンズを有することを特徴とする天体望遠鏡。
  14. 屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置された天体望遠鏡対物レンズを使用し、環境温度変化に伴う近軸量及び実収差の変化を小さくし、天体を観測することを特徴とする天体観測方法。
  15. 屈折レンズと透過型の回折光学素子とが配置されており、前記回折光学素子は平行平面板を基板としており、前記回折光学素子の材質は合成石英であり、前記屈折レンズは複数あり、各々の前記屈折レンズの焦点距離を対物レンズ全系の焦点距離で割った規格化焦点距離の逆数(規格化パワー)をPi(i=1,2,・・・)とし、各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dT〔10-6/℃〕を(dn/dT)i(i=1,2,・・・)とする場合、以下の条件式を満たし、
    |Σ{Pi*(dn/dT)i)}|≦2
    各々の前記屈折レンズの材質の屈折率の温度係数dn/dTが以下の条件式を満たす天体望遠鏡対物レンズを使用し、
    |dn/dT|≦1
    環境温度変化に伴う近軸量及び実収差の変化を小さくし、天体を観測することを特徴とする天体観測方法。
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