JP2014148718A - ハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】表面をC面としたハイドロキシアパタイトの薄膜が容易に形成できるようにする。
【解決手段】第1工程S101で、ハイドロキシアパタイトの焼結体からなるターゲットおよびH2Oガスを含むキセノンガスを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア基板101の上に薄膜102を形成する(第1工程)。次に、酸素が存在する雰囲気で薄膜102(サファイア基板101)を加熱して結晶化する(第2工程)。例えば、酸素ガスの雰囲気中、または大気中で加熱を行えばよい。
【選択図】 図1
【解決手段】第1工程S101で、ハイドロキシアパタイトの焼結体からなるターゲットおよびH2Oガスを含むキセノンガスを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア基板101の上に薄膜102を形成する(第1工程)。次に、酸素が存在する雰囲気で薄膜102(サファイア基板101)を加熱して結晶化する(第2工程)。例えば、酸素ガスの雰囲気中、または大気中で加熱を行えばよい。
【選択図】 図1
Description
本発明は、表面をC面としたハイドロキシアパタイトの薄膜を形成するハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法に関するものである。
ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO4)6(OH)2]は、骨や歯を構成する主成分であり、また、人工的に合成可能な生体適合性を有する無機材料であり、医用工学やバイオテクノロジーに応用されている。特に、様々な基板上に成膜したハイドロキシアパタイト膜の特性を制御することで、生体物質との相互作用を規定した上で、新たな応用先を開拓できる可能性が指摘されている。例えば、C面で終端されたハイドロキシアパタイト結晶膜は、骨に類似の構造を持ち、骨と生体物質との相互作用を研究する上で、プラットホームとしての利用が考えられる。
現在、ハイドロキシアパタイトは、細胞培養のための足場材料として、医学生物学分野において使用されている。例えば、骨の欠損部へハイドロキシアパタイト多孔体やペーストを埋入し、骨の再生を促進する治療などが行われている。これらの粉末やペーストではなく、基板上に堆積したハイドロキシアパタイト薄膜を中間層に用いると、骨との接合強度がより高く、回復の早い治療が可能になると期待されている。また、生体内へ埋め込む金属構造の表面を、ハイドロキシアパタイト膜で被覆して用いることもなされている。
上述したことから明らかなように、様々な基体(基板)の上にハイドロキシアパタイトの膜を形成する技術が重要となる。例えば、金属構造体の表面をハイドロキシアパタイト膜で被覆する場合、主にプラズマスプレー法により行われている。また、これまで、基板上にハイドロキシアパタイト膜を形成する試みが様々な成膜手法によりなされている。例えば、RFマグネトロンスパッタリングによるハイドロキシアパタイト膜の形成(非特許文献1,2参照)、イオンビームスパッタリングによるハイドロキシアパタイト膜の形成(非特許文献3参照)、パルスレーザー堆積(PLD)法によるハイドロキシアパタイト膜の形成(非特許文献4参照)が報告されている。
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しかしながら、上述した技術により形成されたハイドロキシアパタイト膜の結晶の方位は、通常ランダム配向である。これに対し、膜厚,組成,結晶性,配向性などを精密に制御して、ハイドロキシアパタイト膜を形成するプロセス技術が望まれている。特に、配向性は、ハイドロキシアパタイト結晶薄膜と他の分子との相互作用を規定する重要な指標である。ハイドロキシアパタイト結晶は、六方晶系に属し、六角柱の端面がC面、側面がA面で構成されている。C面は疎水性、A面は親水性とされている。このように外部の分子との相互作用は面指数に強く依存する。
例えば、骨はコラーゲン繊維のc軸配向したハイドロキシアパタイトナノ結晶が多数配列したものである。従って、C面終端したハイドロキシアパタイト結晶膜が得られれば、骨類似のハイドロキシアパタイト結晶膜と生体物質との相互作用の研究に弾みがつくと考えられる。また、C面に特有な反応性を利用したバイオセンサ/バイオチップを開発することも可能となる。
しかしながら、上述したように、一般的な成膜方法で得られるハイドロキシアパタイト結晶膜は基本的にランダム配向であり、親水性と疎水性の結晶面が混在している。成膜条件を適切に選べば、C面が主な結晶膜が得られる場合もあるが、この場合、プロセスパラメータの範囲は非常に狭いという問題点があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、表面をC面としたハイドロキシアパタイトの薄膜が容易に形成できるようにすることを目的とする。
本発明に係るハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法は、ハイドロキシアパタイトの焼結体からなるターゲットおよびH2Oガスを含むキセノンガスを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア基板の上に薄膜を形成する第1工程と、酸素が存在する雰囲気で薄膜を加熱して結晶化する第2工程とを備える。
上記ハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法において、第2工程では、600℃〜900℃の範囲で加熱を行えばよい。
以上説明したことにより、本発明によれば、表面をC面としたハイドロキシアパタイトの薄膜が容易に形成できるようになるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法を説明するための説明図である。この製造方法は、第1工程S101で、ハイドロキシアパタイトの焼結体からなるターゲットおよびH2Oガスを含むスパッタガスを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア(コランダム)基板101の上にハイドロキシアパタイトの薄膜102を形成する(第1工程)。スパッタガスは、キセノンガスである。
例えば、H2Oガスの圧力は10-3Paから10-2Pa台に設定すればよい。また、ECRプラズマ生成のためのマイクロ波パワーは、500W、ターゲットへ印加するRFパワーは500Wとすればよい。
次に、酸素が存在する雰囲気で薄膜102を加熱して結晶化する(第2工程)。例えば、酸素ガスの雰囲気中、または大気中で、薄膜102が形成されているサファイア基板101を加熱することで、薄膜102の加熱を行えばよい。
上述したようにECRスパッタ法を用いることにより、10-2Pa台という低ガス圧下の成膜が可能であり、良質な薄膜が得られることが多くの材料について実証されている。ECRプラズマはリモートプラズマであり、円筒型ターゲットと組み合わせることにより、陰イオン入射による薄膜へのプラズマダメージが少ない。
また、ECRスパッタ法の成膜速度はあまり高くないが、成膜時間を要するために、成膜中にプラズマが照射される時間が長い。例えば、成膜中に、10−30eVの低エネルギーイオンが連続的に薄膜に照射される。これにより、プラズマがハイドロキシアパタイトの薄膜と基板の間の原子拡散を促進し、基板とハイドロキシアパタイト薄膜との間に接着層を挟まなくても、優れた密着性が得られるといった最大の特徴を有している。これは他のスパッタ法やPLD法にはないメリットである。さらに、ECRスパッタ法を実現する装置では、PLD法では不可能な、8インチ基板までの大面積成膜が可能であり、生産目的にも向いている。
また、H2Oガスを含むスパッタガスを用いているので、次に説明するように、形成している薄膜中に効率的にOHを取り込ませることが可能となり、良質なハイドロキシアパタイトの薄膜が形成できる。ハイドロキシアパタイトには、OH基が構成要素として含まれているが、ハイドロキシアパタイトターゲットをスパッタすると、質量の小さいOHは空間的に広い範囲に散らばり、これらの全てが基板へ到達することはない。このため、薄膜中に取り込ませるOH基を補うことが必要になる。H2とO2ガスの混合ガスを用いると、H2、O2の各々の分解が必要となり、両者の流量比も制御しなければならない。これに対し、H2O分子は、OHとHへ分解するだけですぐにOH基を生成するため、堆積している膜中に取り込ませるOHを補うための反応ガスとして優れている。
以上に説明したように、実施の形態では、主表面をC面としたサファイア基板を用いているところに特徴がある。ここで、ハイドロキシアパタイトの結晶単位ユニットには、Ca2+、PO4 3-、OH-と3種類のイオンが含まれ、複雑な構造をしている。このため、単純な二元系の金属酸化物とは異なり、基板の原子配列が、この上に形成されるハイドロキシアパタイト薄膜の結晶の原子配列を規定するだけの影響を及ぼしにくく、C面終端のハイドロキシアパタイト膜を得ることは、かなり困難である。このことは、成長条件によっては、C面とは別の面指数の面が趨勢になることもあり得ることを意味している。
これらのことに対し、本発明においては、上述したように、ハイドロキシアパタイト焼結体ターゲットを備えたECRスパッタ装置を用い、H2Oガスを流しながら、室温(20〜25℃)の状態で、主表面をC面としたサファイア基板の上へハイドロキシアパタイト膜を形成する第1の工程と、このようにして形成したハイドロキシアパタイト膜を酸素ガスが存在する雰囲気中において加熱して結晶化させる第2の工程により、C面だけで終端されたハイドロキシアパタイト膜を得るようにした。
ECRスパッタ法は、リモートプラズマを下流に位置するRF印加したターゲットへ衝突させてスパッタするため、前述したように、堆積する膜に対してプラズマが与える損傷が少なく、優れた密着性が得られ、大面積成膜が可能であることが特長である。また、後述するように、特にスパッタリングガスとしてキセノンを用いることで、組成ずれを最小限に抑えることができる。また、第2工程において加熱する際の温度(基板温度)を600℃以上900℃以下に設定することで、他方位への結晶子の形成を抑え、C面だけに終端されたハイドロキシアパタイト膜が得られる。
次に、ECRスパッタ法を用いて実際に作製したハイドロキシアパタイト薄膜(試料)について、ECRスパッタ装置の構成とともに説明する。
ECRスパッタ装置は、図2に示すように、成膜室201と、成膜室201に連通するプラズマ生成室203とを備える。プラズマ生成室203には、マイクロ波供給源204により例えば2.45GHzのマイクロ波が供給可能とされている。また、プラズマ生成室203の周囲には、例えば、0.0875T(テスラ)の磁場をプラズマ生成室203内に発生させる磁気コイル205が備えられている。
また、成膜室201には、プラズマ生成室203の出口近傍を取り巻くリング状のターゲット202が配置されている。ターゲット202は、例えば、ハイドロキシアパタイトの粉末を焼結した焼結体から構成され、所定のターゲットバイアス(高周波電力)が印加可能とされている。また、成膜室201内に載置されるサファイア基板101は、ヒータ206により加熱可能とされている。
上述したように構成されたECRスパッタ装置の成膜室201の内部に、ターゲット202と所定の間隔を開けてサファイア基板101を載置した後、よく知られた排気機構(不図示)により、成膜室201の内部を所定の圧力にまで真空排気する。例えば、成膜室201の内部を、10-4〜10-5Pa台の高真空状態の圧力に減圧する。
次に、ECRスパッタ装置の処理室、例えばプラズマ生成室203に、キセノンを導入して所定の真空度(圧力)とし、この状態で、磁気コイル205により2.45GHzのマイクロ波(500W程度)と0.0875Tの磁場とを供給して電子サイクロトロン共鳴条件とすることで、プラズマ生成室203内にECRプラズマを形成させる。この状態で、成膜室201に、バリアブルリークバルブ(不図示)を通してH2Oガスを導入する。H2Oガスの導入により内部圧力が10-3Paから10-2Pa台となるように設定した。
上述したことにより生成されたECRプラズマは、ECRスパッタ装置の磁気コイルの発散磁場により、プラズマ生成室203から、これに連通する成膜室201の側に放出される。この状態で、プラズマ生成室203の出口に配置されたターゲット202に、例えば、13.56MHz・500Wの高周波電力(ターゲットバイアス)を供給(印加)する。このことにより、生成されているECRプラズマにより発生した粒子が、ターゲット202に衝突してスパッタリング現象が起こり、ターゲット202を構成している粒子が飛び出す状態となる。また、成膜室201に導入されているH2OよりOHおよびHが生成される。
以上のようにしてECRプラズマを生成してスパッタ状態にすることで、ターゲット202よりスパッタされている粒子が、サファイア基板101の上に堆積し、サファイア基板101の上に薄膜102(ハイドロキシアパタイト薄膜)が形成される。また、OHおよびHが、サファイア基板101の上に堆積する膜中に取り込まれるようになる。なお、成膜中にサファイア基板101は加熱しないが、プラズマが照射されることにより、基板温度は70℃程度にまで上昇した。成膜時のH2Oガス圧によって多少変わるが、膜厚0.8−1μmのハイドロキシアパタイト薄膜を形成した。
また、結晶化のための加熱は、酸素雰囲気中および大気中で行う。また、成膜時のH2Oガス分圧および結晶化のための加熱の温度を変化させて複数の試料を作製する。なお、比較のため、真空中で加熱を行った比較試料、成膜中に加熱を行った比較試料、およびスパッタガスとしてアルゴンガスを用いて作製した比較試料も作製した。また、比較のため、主表面をA面としたサファイア基板の上に、上述同様にハイドロキシアパタイト薄膜を形成した比較試料も作製した。なお、加熱は、成膜室201内部でヒータ206により行えばよい。例えば、プラズマを生成しない状態で、成膜室201内に酸素を導入すれば、酸素雰囲気における加熱が行える。形成された薄膜は、平滑な表面を持ち、いずれの成膜/加熱条件においても、クラックが入ることも、剥離することもなかった。
図3は、上述した実施の形態における製造方法で作製したハイドロキシアパタイトの薄膜による各試料のX線回折パタンを示す特性図である。ここでは、H2Oの分圧を1.3×10-2PaとしたECRスパッタ法で成膜したハイドロキシアパタイトの薄膜を、酸素雰囲気中で、温度条件500℃、550℃、600℃、900℃において加熱(アニール)して形成した試料におけるハイドロキシアパタイト薄膜のX線回折パタンを示している。また、真空排気中で、温度条件900℃において加熱した試料におけるハイドロキシアパタイト薄膜のX線回折パタンも示している。なお、500℃、550℃は、加熱時間を10時間とし、600℃は加熱時間を2時間とし、900℃は加熱時間を1時間としている。
500℃および550℃の条件(10時間)では、ハイドロキシアパタイト結晶からの回折ピークはごく弱く、結晶化が十分に進展していないことが分かる。これに対し、600℃の条件においては、ハイドロキシアパタイト(002)、ハイドロキシアパタイト(004)ピークだけが強く観測されており、C面で終端されたハイドロキシアパタイト膜が得られていることが示されている。
また、酸素雰囲気中900℃の条件は、十分に結晶化したはずであるが、ハイドロキシアパタイト(002)ピークはむしろ低くなっている。これは、高温加熱をすると、堆積した非晶質ハイドロキシアパタイト膜中に含有されたH2O分子が熱脱離し、ハイドロキシアパタイト結晶を構成するために十分な量のOH基が得られなくなったためと考えられる。900℃よりも高温で加熱すると、OH基が完全に抜けたCA3(PO4)2(TCP)が生成するため、加熱温度の上限は900℃と考えるのが妥当である。
また、真空中で900℃に1時間加熱した比較試料については、ハイドロキシアパタイト(002)ピークが全く見られず、OH基がなくなったことを示唆している。
以上の実験結果から、ハイドロキシアパタイト膜の加熱は、酸素ガス中において、600℃以上900℃以下の温度範囲にて行うのが適当であると言える。
次に、他の条件で成膜した結果について図4を用いて説明する。以下では、サファイア基板を加熱しながらスパッタによる堆積を行った場合について説明する。図4は、キセノンガスを用い、主表面をC面としたサファイア基板を420℃あるいは470℃に保ち、堆積するハイドロキシアパタイト膜を結晶化させながら成長した比較試料のX線回折パタンを示す特性図である。
400℃以下の温度では、ハイドロキシアパタイト膜は十分に結晶化しなかったので、420℃が事実上の結晶化下限温度である。図4に示すように、420℃において、ハイドロキシアパタイト(002)ピークが最大でc軸方向へ優先配向していることが分かる。これに対し、基板温度を470℃に上げると、ハイドロキシアパタイト(002)ピーク強度は低下し、ハイドロキシアパタイト(310)ピークが趨勢になった。
いかなる基板に成膜したハイドロキシアパタイト膜であっても、ハイドロキシアパタイト(310)ピークが最大となるX線回折パタンは、これまで全く報告されていない。従って、ハイドロキシアパタイト(310)面もサファイアC面と格子整合し、エピタキシャル成長が生じたと考えられる。これらの結果から、C面で終端された(表面がC面の)ハイドロキシアパタイト膜を形成するためには、過不足なく420℃になるように基板温度を設定しなくてはならず、許容されるプロセス温度の範囲が極めて狭いことが分かった。また、ハイドロキシアパタイト(002)ピークの強度は、500カウントと、図3の600℃の場合の1500カウントに比べて1/3に留まっている。
これらのことより、成膜中に加熱して結晶化をするプロセスでは、許容範囲が狭く結晶化もあまり高くないため、成膜した後に加熱を行う固相エピタキシャル成長を行った方が、良好な結晶性の膜が得られ、有利である。
次に、c軸配向しないハイドロキシアパタイト膜が生成する場合について説明する。図5は、c軸配向していない状態で形成されたハイドロキシアパタイト膜のX線回折パタンを示す特性図である。図5において、「C−phase」が、主表面をC面としたサファイア基板上にハイドロキシアパタイト膜を形成した試料の結果を示し、「A−phase」が、主表面をA面としたサファイア基板上にハイドロキシアパタイト膜を形成した比較試料の結果を示している。
例えば、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、主表面をC面としたサファイア基板上に室温でハイドロキシアパタイト膜を成膜し、この後、形成したハイドロキシアパタイト膜を酸素ガス中で600℃・2時間の条件で加熱する。この条件で形成した場合、ハイドロキシアパタイト(002)ピークが出現しないばかりか、結晶性が悪い。2θ=37.5°の位置にCaOに帰属されるピークも見られる。
このように、アルゴンでスパッタ成膜すると、Ca過剰な組成になることで、大きな結晶ドメインの生成が妨げられているものと考えられる。従って、スパッタガスとしてアルゴンを用いても、C面で終端されたハイドロキシアパタイト膜が得られない。
また、図5には、主表面をA面としたサファイア基板を用い、固相成長した場合の2例の結果も示している。主表面をA面としたサファイア基板を用いた場合、600℃において2時間、550℃において10時間アニールした比較試料では、ともにハイドロキシアパタイト(211)ピークが一番強く、ハイドロキシアパタイト(002)ピークが2番目に強いというハイドロキシアパタイト多結晶膜に特有なX線回折パタンになっている。この結果より明らかなように、主表面をA面としたサファイア基板を用いると、C面終端したハイドロキシアパタイト結晶膜が全く得られない。
次に、主表面をC面としたサファイア基板の上に成膜した後の加熱(第2工程)の条件と結晶性について、図6を用いて説明する。図6は、主表面をC面としたサファイア基板上にECRスパッタ成膜したハイドロキシアパタイト膜のラマンスペクトルの加熱温度依存性を示す特性図である。図6において、380−450cm-1、580cm-1、750cm-1のピークは、全てサファイア基板からのものである。
図6において、950cm-1のピークは、PO4 3-の結晶ユニットのP−O結合の対称伸縮モードに対応している。PO4 3-ユニットの振動モードのうちで、ラマン活性なものは、このν1=950cm-1だけである。成膜後の加熱を実施する前の成膜直後の試料(As-depo)、および450℃で加熱した試料に関しては、このピークがブロードであり、結晶化していないことに対応している。これらに対し、600℃で2時間加熱した試料では、950cm-1のピークは非常にシャープになっており、結晶化と同時にPO4 3-ユニットが完全な形に自己組織化したことを示唆している。
次に、主表面をA面としたサファイア基板の上に成膜した後の加熱の条件と結晶性について、図7を用いて説明する。図7は、主表面をA面としたサファイア基板上にECRスパッタ成膜したハイドロキシアパタイト膜のラマンスペクトルの加熱温度依存性を示す特性図である。
図7に示すX線回折パタンから、全ての比較試料が、ランダム配向の結晶であることが分かっている。550℃で10時間、600℃で2時間、700℃で1時間の加熱により、ν1=950cm-1のピークは、全てシャープになっている。図6に示したスペクトルとの主な相違点は、PO4 3-の変角振動モード(ν4)が、570−610cm-1に、非対称伸縮モード(ν3)が、1050−1100cm-1に観測されている点である。これらは本来、ラマン不活性のはずであるが、スペクトル上に現れているということは、PO4 3-ユニットの対称性が崩れていることを意味している。多結晶からなることがこのような禁制のラマンピークの出現に関与しているものと考えられる。
次に、上述した各条件で形成したハイドロキシアパタイト膜における水の接触角について図8を用いて説明する。図8は、主表面をC面としたサファイア基板および主表面をA面としたサファイア基板の各々で、成膜したハイドロキシアパタイト膜の加熱温度と水の接触角との関係を示した特性図である。温度は、ECRスパッタ成膜をした後に行った加熱のときの条件である。
主表面をC面としたサファイア基板の上に形成したハイドロキシアパタイト結晶膜の接触角は67°から88°の範囲にあり、疎水性である。一方、主表面をA面としたサファイア基板の上に形成したハイドロキシアパタイト結晶膜の接触角は、45°から65°と低い。これらの有為な差は、ハイドロキシアパタイト結晶のC面だけで終端されているハイドロキシアパタイト結晶膜と、主表面をA面としたサファイア基板の上に形成することでランダム配向しているハイドロキシアパタイト結晶膜との違いから生じていることは明らかである。
以上に説明したように、本発明によれば、H2Oガスを含むスパッタガスを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア基板の上にECRスパッタ法によりハイドロキシアパタイトの薄膜を形成し、この後、酸素が存在する雰囲気で形成した薄膜を加熱して結晶化するようにしたので、表面をC面としたハイドロキシアパタイトの薄膜が容易に形成できるようになる。
本発明を適用すると、成膜した後の結晶感度を600℃から900℃までの広い範囲にとしても、強くc軸配向した結晶子からなるハイドロキシアパタイト膜を形成することができる。得られたハイドロキシアパタイト膜は、骨類似の反応性を持つ表面を与えるため、本発明によるハイドロキシアパタイト膜表面を用いることで、生体材料と骨の相互作用の研究を展開することが可能である。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
101…サファイア基板、102…薄膜。
Claims (2)
- ハイドロキシアパタイトの焼結体からなるターゲットおよびH2Oガスを含むキセノンガスを用いた電子サイクロトロン共鳴スパッタ法で、主表面をC面としたサファイア基板の上に薄膜を形成する第1工程と、
酸素が存在する雰囲気で前記薄膜を加熱して結晶化する第2工程と
を備えることを特徴とするハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法。 - 請求項1記載のハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法において、
前記第2工程では、600℃〜900℃の範囲で加熱を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト薄膜の製造方法。
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