今日、いわゆるモスアイ型の反射防止構造体のように、光学作用を及ぼされることを意図された光の波長域未満のピッチで単位要素が配列された反射防止構造体が、反射防止シートの表面に形成されて、種々の分野及び種々の用途で、利用に供されている。一典型例として、反射防止シートは、表示装置の表示面をなす部材として、使用されている。このような反射防止シートは、基材シート上に、電離放射線硬化型樹脂を賦型することによって、作製され得る。
しかしながら、電離放射線硬化型樹脂を用いた製造方法は、賦型性の面で優れているが、製造コストの点からは、反射防止シートの製造方法として普及している他の方法と比較して不利である。また、電離放射線硬化型樹脂を用いて作製された反射防止シートは、必然的に、電離放射線硬化型樹脂より形成された反射防止構造体を含む層とは別途に、基材を含むことになる。そして、反射防止シートの一部をなす基材は、製造条件の面や製造コストの面での制約から、反射防止構造体を含む層との間に好ましくない界面を形成してしまうこともある。結果として、反射防止シートの内部で反射が生じてしまい、反射防止シートの反射率を十分に低下させることができない。
一方、特許文献1に開示されているように、射出成型により、反射防止構造体を作製することも検討されている。特許文献1に開示された製造方法によれば、反射防止構造体を含む単層の反射防止シートを作製することができる。
しかしながら、一般的に、射出成型で作製された反射防止構造体を含む反射防止シートでは、射出時の樹脂の流動に起因して、複屈折率が当該反射防止シートの面内でばらついてしまう。また、反射防止シートの厚みや使用される樹脂等によっては、複屈折率の値が大きくなってしまう。複屈折率が面内でばらついている反射防止シートや複屈折率が大きい反射防止シートは、特定の条件下で使用することができない。一例として、このような反射防止シートを偏光板との組み合わせにおいて用いると、例えば虹模様のような、干渉色が視認されるようになる。
また、一般的に、射出成型で形成された反射防止構造体を含む反射防止シートは、電離放射線硬化型樹脂により形成された反射防止構造体を含む反射防止シートと比較して、コスト面で顕著な優位性を示すことはない。
その一方で、本発明者らは、以上のような点を考慮しながら鋭意研究を重ねた結果、反射防止構造体を含む反射防止シートについて、基材を不要としながら、複屈折率の値および複屈折の面内バラツキを低減することができた。すなわち、本発明は、反射防止構造体を含んだ反射防止シートの複屈折率の値および複屈折率の面内バラツキを効果的に低減することを目的とする。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図9〜図14の写真を除き、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「シート」、「フィルム」、「板」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「フィルム」はシートや板と呼ばれ得るような部材も含む概念であり、したがって、「反射防止シート」は、「反射防止フィルム」や「反射防止板」と呼ばれる部材と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
また、「シート面(フィルム面、板面、パネル面)」とは、対象となるシート状(フィルム状、板状、パネル状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(フィルム状部材、板状部材、パネル状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
さらに、本件明細書において用いる形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、「平行」、「直交」等の用語は、厳密な意味に縛られることなく、同様の光学的機能を期待し得る程度の誤差範囲を含めて解釈することとする。
図1〜図4に示すように、反射防止シート10は、少なくとも一方の表面10aに反射防止構造体20を有している。反射防止構造体20は、凸部や凹部等の単位要素21が、反射防止対象となる光の波長未満のピッチで配列されることによって形成された部位である。この光学シート10は、後に詳述するように、溶融押し出し成型法によって熱可塑性樹脂を用いて形成され得る。
図1及び図2に示された反射防止シート10では、反射防止構造体20が一方の表面10aのみに形成されている。一方、図3及び図4に示された反射防止シート10では、反射防止構造体20が一方の表面10aに形成されるとともに、第2反射防止構造体25が他方の表面10bに形成されている。なお、図1及び図2に点線で示すように、図1及び図2に示された反射防止シート10では、当該反射防止シートの用途に応じて、他方の表面10bに構造体29が設けられるようにしてもよい。溶融押し出し成型法によれば、反射防止シート10をなすようになる押し出し材の両表面に、構造体20,25,29を並行して形成することができる。一具体例として、反射防止構造体20が形成された一方の表面10aに対向する他方の表面10bに、凹凸構造体29、具体例として、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズム、集光レンズ、として構成されたレンズ構造体29を形成することができる。
また、図1に示された反射防止シート10は、反射防止構造体20を一方の表面10aに含む熱可塑性樹脂からなる単一の層からなっている。図3に示された反射防止シート10は、反射防止構造体20を一方の表面10aに含むとともに第2反射防止構造体25を他方の表面10bに含む単一の層からなっている。
一方、図2及び図4に示された反射防止シート10は、例えば共押し出しにより、一方の表面10aをなす反射防止構造体20を含む第1層11と、第1層11と隣接し且つ他方の表面10bを形成する第2層12と、を有している。共押し出しによって形成された第1層11及び第2層12によれば、第1層11及び第2層12の界面をぼやかすことができ、反射防止シート10を透過する光が、第1層11及び第2層12の界面から意図しない光学作用を顕著に受けてしまうことを効果的に防止することができる。
次に、反射防止構造体20,25についてさらに説明する。反射防止構造体20,25は、シート状のシート本体部15上に形成され、シート本体部15とともに反射防止シート10を構成する。反射防止構造体20,25は、凸部21aまたは凹部21bからなる単位要素21が、反射防止対象となる光の波長未満のピッチで、規則的または不規則的に配列されることによって形成された部位である。この反射防止シート10での反射防止対象となる光を可視光波長域のいずれかの光とするならば、凸部21aまたは凹部21bからなる単位要素21のピッチを、JISZ8120での定義に従って可視光波長域の最長波長である830nm未満に設定することになる。さらに、この反射防止シート10での反射防止対象となる光を可視光波長域全域の光とするならば、凸部21aまたは凹部21bからなる単位要素21のピッチを、JISZ8120での定義に従って可視光波長域の最短波長である360nm未満に設定すればよい。この反射防止シート10は、後に詳述するように、溶融押し出し成型法によって熱可塑性樹脂を用いて形成され得る。
反射防止シート10のシート面と平行な断面における凸部21aまたは凹部21bの断面形状は、反射防止シート10の厚み方向の中心となる位置に最も近い基端部22aから(言い換えるとシート本体部15に最も近い基端部22aから)、反射防止シート10の厚み方向の中心となる位置から最も離間した先端部22bまで(言い換えるとシート本体部15から最も離間した先端部22bまで)、しだいに変化している(図5参照)。理想的には、凸部21aまたは凹部21bを含む反射防止構造体20の断面形状は、単位要素21の基端部22aの側から先端部22bの側へ向けて、しだいに減少していく。このため、反射防止構造体20は、入射光に対して屈折率が大きく変化する界面を形成しない。単位要素21のピッチよりも長い波長の光は、屈折率が徐々に変化していく部位として、反射防止構造体20,25を通過するようになる。すなわち、反射防止シート10の反射防止構造体20は、いわゆるモスアイ型の反射防止構造体を形成している。
図9〜図14に示された写真には、反射防止シート10の反射防止構造体20が示されている。図9〜図14に示された反射防止構造体20を含む反射防止シート10は、後述の製造方法により、図1の構成を有するように、すなわち、一方の表面10aのみに反射防止構造体20を含む熱可塑性樹脂の単層として、作製されている。また、熱可塑性樹脂として、屈折率1.49のアクリル樹脂を用いている。
図9および図10に示された反射防止シート10の反射防止構造体20は、150nm〜300nm程度のピッチで不規則的に二次元配列された多数の単位要素21によって形成されている。図11及び図12に示された反射防止シート10の反射防止構造体20は、150nm〜200nm程度のピッチで不規則的に二次元配列された多数の単位要素21によって形成されている。図9および図10に示された反射防止シート10並びに図11及び図12に示された反射防止シート10では、単位要素21は凸部21aとして形成されている。図11及び図12に示された反射防止構造体は、図9及び図10に示された反射防止構造体よりも、凸部21aが短ピッチで配列されている。また、図11及び図12に示された反射防止構造体では、図9及び図10に示された反射防止構造体よりも、反射防止構造体をなす凸部のアスペクト比が大きくなっている。具体的には、図11及び図12に示された反射防止構造体20では、反射防止シート10のシート面への法線方向に沿った凸部21aの高さh〔μm〕((図5参照)、反射防止シート10のシート面に沿って凸部21aのピッチp〔μm〕(図5参照)および反射防止シート10のシート面への法線方向に沿った反射防止シートの厚みt〔mm〕(図5参照)が、次の式(1)および式(2)を満たすようになっていた。
0.5 ≦ h/p ≦ 3 ・・・式(1)
0.6 ≦ h/p+0.47t ≦ 5.5 ・・・式(2)
一方、図13及び図14に示された反射防止シート10の反射防止構造体20は、150nm〜300nm程度のピッチで不規則的に二次元配列された設けられた多数の単位要素21によって形成されている。ただし、図13及び図14に示された反射防止構造体20では、単位要素21は凹部21bとして形成されている。したがって、図13及び図14に示された第2反射防止構造体20によれば、モスアイ型の反射防止構造体における固有の問題と考えられていた耐擦傷性を大幅に改善することができる。
本件発明者らは、図9及び図10の反射防止シート、図11及び図12の反射防止シート、並びに、図13及び図14の反射防止シートについて、反射率を実際に測定した。反射率の測定は、コニカミノルタ製のCM−2600dを用いてISO7724に準拠して行い、反射防止シートのシート面への法線方向に沿って当該反射防止シートへ入射する光のうちの反射光の割合を求めた。図9及び図10の反射防止シートについての反射率は0.36%であった。図11及び図12の反射防止シートについての反射率は0.43%であった。図13及び図14の反射防止シートについての反射率は0.45%であった。
なお、反射防止シート10に反射防止機能が期待される場合、当然、反射防止シート10の内部での反射を防止すべく、反射防止シート10の内部に屈折率界面が存在しないことが好ましい。この点において、図1や図3に示されているように、反射防止シート10が単一の層からなることは有利である。また、図2や図4に示されている反射防止シート10において、第1層11及び第2層12が共押し出しにより形成されている場合には、第1層11及び第2層12の界面がぼやけるので、この界面での正反射を抑制することができる。
また、反射防止シート10の他方の表面10bにも、反射防止構造体20と同様の構成を有する第2反射防止構造体25を設けるようにしてもよい。この場合、反射防止シート10の他方の表面10bでの反射を効果的に防止することができる。さらに、反射防止シート10の他方の表面10bに、所定の光学作用を入射光に対して及ぼし得る構造体29を設けることも可能である。例えば、レンズ機能を発揮し得る構造体29を、反射防止シート10の他方の表面10bに設けることにより、入射光の反射を防止しながら当該入射光の配光特性を調整することができる。
ところで、ここで説明する反射防止シート10は、複屈折率の平均値Δnaveおよび複屈折率の標準偏差σΔnが、次の条件(a)および(b)を満たすようになる。
Δnave≦50×10−6 ・・・条件(a)
(σΔn/Δnave)≦0.10 ・・・条件(b)
ここで、複屈折率とは、反射防止シート10のシート面に沿って延びる方向のうち最も屈折率が大きくなる遅相軸方向での屈折率nsと、反射防止シート10のシート面に沿って延びる方向のうち最も屈折率が小さくなる進相軸方向での屈折率nfと、の差(Δn=ns−nf)である。
複屈折率は、まずリタデーション値を求め、得られたリタデーション値から算出することができる。ここで、リタデーション値とは、面内の複屈折性の程度、言い換えると、反射防止シートを通過する際に光の偏光状態に依存して生じる光路差や位相差を表す指標である。具体的には、リタデーション値は、「複屈折率の測定対象となる反射防止シートの厚み×当該反射防止シートの複屈折率」の値である。したがって、複屈折率は、測定対象となる反射防止シートの厚みでリタデーション値を除することにより、算出される。リタデーション値は、例えば、王子計測機器製KOBRA−WRを用いて、測定角0°かつ測定波長548.2nmに設定して、測定された値とすることができる。一方、反射防止シートの厚みは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定され得る。
他の方法として、反射防止シート10のシート面に沿った各方向の屈折率を実際に測定して、複屈折率を求めることもできる。具体的にはまず、吸収軸が互いに直交するようにして配置された二枚の偏光板、すなわちクロスニコルで配置された二枚の偏光板の間で、反射防止シート10を回転させた際の明るさの変化から、反射防止シート10の遅相軸方向および進相軸方向を特定する。次に、特定された遅相軸方向および進相軸方向の屈折率を、アッベ屈折率計(アタゴ社製 NAR−4T)によって測定し、測定値から複屈折率を求めることができる。
また、条件(a)および条件(b)の充足を判断する際における複屈折率の平均値Δnaveおよび複屈折率の標準偏差σΔnは、略矩形形状(略長方形または略正方形)からなる測定対象(反射防止シート)40に対し九つの測定箇所にて測定された複屈折率Δnの平均値または標準偏差を用いる。図6に示すように、サンプル40の九つの測定箇所は、次のように決定される。まず、平面視において矩形形状からなるサンプルについて、一方の一対の対向する縁部44,42と平行に延び且つ他方の一対の縁部41,43を二等分する第1線分46と、他方の一対の対向する縁部41,43と平行に延び且つ一方の一対の縁部42,44を二等分する第2線分47と、を特定する。なお、サンプルの平面視形状が矩形形状から大きくずれている場合には、サンプル40の平面視での外輪郭に内接する最も大面積となる矩形形状を特定し、当該矩形形状について、上述の第1線分46及び第2線分47を特定する。
ここまでの手順により、図6に示すように、特定された二つの二等分線46,47により、サンプル40が面方向において四つの区域に分割され、四つの区域の各中心部を第1〜第4の測定箇所とする。また、第1線分46および第2線分47の交点周辺を第5測定箇所とする。さらに、第1線分46と他方の一対の縁部41,43の各々との交点周辺を第6測定箇所、第7測定箇所とする。さらに、第2線分47と一方の一対の縁部44,43の各々との交点を第8測定箇所、第9測定箇所とする。
複屈折率が大きくなって条件(a)が満たされない場合、入射光の偏光状態に応じて、当該入射光が、予定していなかった不要な光学作用を受けることになる。この場合、当該不要な光学作用が不具合を引き起こしてしまう。また、複屈折率が面内でばらついて条件(b)が満たされない場合、当該予定していなかった不要な光学作用を受ける程度が、面内においてばらつき、上記の不具合が目立ちやすくなってしまう。
不具合としては、以下のことが例示される。今般使用されている多くの機器、とりわけ光学機器には、偏光板が組み込まれている。偏光板から出射する偏光した光が、複屈折率が大きい又は複屈折率が面内でばらついている反射防止シート10へ入射すると、反射防止シート10上に虹模様のような干渉色が生じてしまう。反射防止シート10に干渉色が視認されるようになると、多くの場合、反射防止シート10が組み込まれた機器の品位を大きく低下させてしまうことになる。典型的には、偏光板を含んだ液晶表示装置の表示面に、複屈折率が大きい又は複屈折率が面内でばらついている反射防止シートを積層した場合、表示画質を著しく劣化させることになり、表示装置の品位を大幅に下げることになる。
一方、上述した条件(a)及び条件(b)が満たされる場合、以上の不具合が生じず、反射防止構造体20,25が反射防止機能を有効に発揮することができる。
次に、反射防止シート10の製造方法について説明する。以下の説明において、反射防止シート10は、押し出し成型装置50を用いた溶融押し出し成型法により、熱可塑性樹脂から形成される。
押し出し成型装置50は、熱可塑性樹脂をシート状に押し出す押し出し機55と、押し出し機55からの押し出し材49を、誘導するロール群61,62,63,64,66,67と、押し出し材49を成型する際の型として機能する賦型シート74を供給する賦型シート供給機構70と、を含んでいる。押し出し機55は、原料となるペレット状の熱可塑性樹脂を加熱し、シート状の押し出し材49をダイ56から押し出す。押し出し材49は、第1主ロール61及び第2主ロール62の間に進み、その後、第2主ロール62及び第3主ロール63の間と第3主ロール63及び第4主ロール64の間とを通過するようにして、第2主ロール62、第3主ロール63及び第4主ロール64の外周面に支持されて移動する。その後、押し出し材49は、第1案内ロール66及び第2案内ロール67の間を通過する。
一方、賦型シート供給機構70は、長尺の賦型シート74を巻き取った状態で保持する供給ロール71と、供給ロール71から繰り出される賦型シート74を巻き取り回収する回収ロール72と、を有している。賦型シート74は、供給ロール71から繰り出されると、第1主ロール61と第2主ロール62との間に進む。次に、賦型シート74は、第2主ロール62及び第3主ロール63の間と第3主ロール63及び第4主ロール64の間とを通過するようにして、第2主ロール62、第3主ロール63及び第4主ロール64の外周面に支持されて移動する。その後、賦型シート74は、第1案内ロール66及び第2案内ロール67の間を通過して、回収ロール72に巻き取られて回収される。
図7に示すように、押し出し成型装置50から押し出された高温の押し出し材49は、第1主ロール61及び第2主ロール62の間を賦型シート74に接触して通過し、その後、第1案内ロール66及び第2案内ロール67の間を通過するまで賦型シート74と接触した状態で同期して移動する。押し出し材49と賦型シート74とが重ね合わされて移動する間、とりわけ、第2主ロール62、第3主ロール63及び第4主ロール64の外周面に支持されて移動している間、押し出し材49と賦型シート74は互いに向けて押圧された状態となっている。そして、賦型シート74は、押し出し材49に形状を転写するための型として機能し、押し出し材49と対面する側の面に、押し出し材49に転写すべき凹凸に対応した凹凸が形成されている。この結果、反射防止構造体20をなす凹凸パターンが押し出し材49に賦型され、反射防止シート10が作製される。
ここで、賦型シート74は、少なくとも押し出し材49と接触するようになる面を樹脂によって作製されている。例えば、賦型シート74は、樹脂製の基材上に電離放射線硬化型樹脂を賦型することによって、予め準備される。基材上に電離放射線硬化型樹脂を賦型することによれば、賦型シート74に所望の形状を精度良く付与することができる。
すなわち、以上の反射防止シート10の製造方法では、比較的に熱容量が小さく且つ比較的に熱伝導性に劣る樹脂によって、押し出し材49を成型するための型面が形成されている。このため、押し出し成型装置50から押し出された高温の押し出し材49の熱が、賦型シート74に接触することによって、押し出し材49から賦型シート74に急速に奪われてしまうことはない。この結果、高温の押し出し材49が、賦型シート74の表面に形成された凹凸に精度よく追従して変形することができる。
また、主ロール61,62から案内ロール66,67を通過するまでの間の長期間に亘って、押し出し材49が賦型シート74と接触し続ける。このため、押し出し材49が案内ロール66,67へ到達する際には、押し出し材49の温度は、賦型シート74からの離型に適した温度にまで十分に低下することができる。この結果、押し出し材49は賦型シート74から円滑に離型することができる。さらに、賦型シート74から離れたとき、押し出し材49の温度が既に十分低下しているので、押し出し材49に賦型された形状が、賦型シート74から離れた後に平坦化してしまうことが効果的に抑制される。
これらのことから、押し出し材49に対して、単位要素21の緻密パターンを有した反射防止構造体20,25を、高精度に成型することが可能となる。本件発明者らが実験したところ、上述した式(1)または式(2)、さらには式(1)および式(2)の両方を満たす、高アスペクト比(h/p)且つ微細な単位要素21を配列してなる反射防止構造体20,25を賦型することができた。とりわけ、式(1)および式(2)の両方を満たすようにして、厚みtが0.250mm以上5mm以下となる反射防止シート10を作製することもできた。
0.5 ≦ h/p ≦ 3 ・・・式(1)
0.6 ≦ h/p+0.47t ≦ 5.5 ・・・式(2)
加えて、賦型シート74を用いた場合には、以上のように成型精度(転写精度、賦型精度)が向上するため、主ロール61〜64から押し出し材49および賦型シート74へ向けた加圧力を、著しく高める必要は無い。この点から、押し出し材49に強い剪断力が加えられることを回避することができ、上述した条件(a)および条件(b)が満たされるようになる。すなわち、得られた反射防止シート10の複屈折率を、低い値にて、反射防止シート10のシート面に沿った面内で安定させることができる。
また、主ロール61〜64からの加圧力を低下させることにより、賦型シート74の損傷を緩和することができ、賦型シート74を繰り返し利用することが可能となる。これにより、反射防止シート10の製造原価を直接的に低下させることができる。
以上のようにして、比較的に安価な溶融押し出し成型法によって、高精細な凹凸パターンを有した反射防止構造体20,25を含む反射防止シート10を製造することができる。
なお、図9及び図10に示された反射防止構造体20を有した反射防止シート10、図11及び図12に示された反射防止構造体20を有した反射防止シート10、並びに、図13及び図14に示された反射防止構造体20を有した反射防止シート10は、図7の押し出し成型装置50を用いて上述の溶融押し出し成型法によって、アクリル樹脂からなる単層押し出し材として、実際に作製したものである。この際、図13及び図14に示された反射防止構造体20を有した反射防止シート10は、図11及び図12に示された反射防止構造体20を有した反射防止シート10を賦型シートとして用いた。すなわち、図13及び図14に示された反射防止シート10を作製するための賦型シート74は、押し出し材であった。図11〜図14の写真を比較することにより、極めて高い成型精度(賦型精度、転写精度)で成型が行われていることを視覚的に確認することができる。
なお、図7に示された製造方法によれば、図1に示された熱可塑性樹脂の単層からなる反射防止シート10が得られる。このような製造方法によれば、基材上に電離放射線硬化型樹脂を賦型することによって得られる反射防止シートと比較して、厚みの厚い、例えば250μmを超える厚みの反射防止シート10を単層で作製することができる。このように厚みを250μm程度まで厚くすると、反射防止構造体20を支持するための支持体を不要とすることができ、反射防止シート10内に反射を誘発する界面が形成されることを防止することができる。
また、押し出し成型装置50において、第2主ロール62の外周面に凹凸を形成しておくことにより、図1及び図2に点線で示すように、当該凹凸に対応する構造体29を反射防止シート10の他方の表面10bに形成することができる。
さらに、押し出し成型装置50の押し出し機55が共押し出しを行うことにより、製造される反射防止シート10が、反射防止構造体20を含む第1層11と、第1層11に隣接する第2層12と、を含むようにすることができる。共押し出しによれば、第1層11及び第2層12が、異なる材料を含むようになる。例えば、図2に示すように、反射防止構造体20を含む第1層11をアクリル樹脂で作製することによって、微細構造を有した反射防止構造体20に優れた耐擦傷性を付与することができ、同時に、第2層12をポリカーボネイト樹脂で作製することによって、反射防止シート10に柔軟性を付与することができる。
共押し出しで反射防止シート10を作製する場合、第1層11及び第2層12のうちの少なくとも一方が、熱可塑性樹脂からなる母材と、母材中に分散した拡散成分と、を有するようにしてもよい。この際、第1層11および第2層12のうちの一方の母材をなす熱可塑性樹脂と、第1層11および第2層12のうちの他方をなす母材の熱可塑性樹脂が同一の屈折率を有するようにしてもよい。例えば、第1層11の材料および第2層12の材料が、拡散成分の有無の点のみにおいて、異なるようにしてもよい。このような例によれば、第1層11および第2層12の間に、透過光に光学作用を及ぼし得る光学界面が、実質的に存在しないことになる。
またさらに、共押し出しで反射防止シート10を作製する場合、各層11,12を、厚みの厚い、例えば250μmを超える層として作製することができる。
加えて、図8に示すように、押し出し成型装置50に、第2賦型シート供給機構75をさらに設けるようにしてもよい。第2賦型シート供給機構75は、賦型シート供給機構70と同様に、長尺の第2賦型シート79を巻き取った状態で保持する第2供給ロール76と、第2供給ロール76から繰り出される第2賦型シート79を巻き取り回収する第2回収ロール77と、を有している。第2賦型シート79は、第2供給ロール76から繰り出されると、第1主ロール61と第2主ロール62との間に進む。次に、賦型シート74は、第2主ロール62及び第3主ロール63の間と第3主ロール63及び第4主ロール64の間とを通過するようにして、第2主ロール62、第3主ロール63及び第4主ロール64の外周面に支持されて移動する。その後、第2賦型シート79は、第1案内ロール66及び第2案内ロール67の間を通過して、第2回収ロール77に巻き取られて回収される。
第2賦型シート79は、第1主ロール61と第2主ロール62との間から第1案内ロール66と第2案内ロール67との間を通過するまで、賦型シート74とは逆側から押し出し材49に接触する。この結果、図3に示すように、反射防止シート10は、賦型シート74によって賦型された一方の表面10aの反射防止構造体20と、第2賦型シート79によって賦型された他方の表面10bの第2反射防止構造体25と、を有するようになる。
なお、第2回収ロール77に回収された第2賦型シート79は、賦型シート74と同様に、再利用され得る。また、図8に示された押し出し成型装置50にて、押し出し機55が共押し出しを行うことにより、図4に示された反射防止シート10のように、一方の表面10aに形成された反射防止構造体20と、他方の表面10bに形成された第2反射防止構造体25とを、異なる材料を含む層11,12として形成することができる。
ところで、反射防止シート10が上述した条件(a)および条件(b)を満たすようになるのは、反射防止シート10が上述した溶融押し出し成型法により製造されることに起因している。射出成型で作製された反射防止シートは、作製されるべき反射防止シートの厚み等に依存して条件(a)を安定して満たすことができず、さらに、条件(b)をほぼ満たすことは不可能である。また、電離放射線硬化型樹脂を基材上に賦型する方法で作製された反射防止シートも、主として基材に起因して、条件(a)および条件(b)が満たされないことが多い。
ここで、表1は、本件発明者らが、溶融押し出し成型法により作製された樹脂フィルム(サンプル1,2)と、射出成型により作製された樹脂フィルム(サンプル3,4)とに対して、複屈折率の平均値Δnaveおよび複屈折率の標準偏差σΔnを調査した結果の一例を示している。複屈折率の平均値Δnaveおよび複屈折率の標準偏差σΔnを正確に測定するため、サンプル1〜4は、反射防止構造体を含まない単なる板状材とし、その平面視のおける形状は、10cm×10cmの正方形形状とした。サンプル1及びサンプル2は、アクリル樹脂の押し出し材とした。サンプル1は、溶融押し出し時の線圧(上述した第1主ロール61および第2主ロール62の間での圧力を押し出し材の幅で除した値)を30kg/cmとして作製し、その厚みを922μmとした。サンプル2は、溶融押し出し時の線圧を90kg/cmとして作製し、その厚みは900μmとした。サンプル3及びサンプル4は、アクリル樹脂の射出成型品とした。サンプル3の厚みは3070μmであり、サンプル4の厚みは3040μmであった。
複屈折率は、まず、各サンプルのリタデーション値(Re)および厚み(t)を測定し、その後、リタデーション値(Re)を厚み(t)で割ることによって求めた。各サンプルに対する複屈折率の測定箇所は、上述した第1〜第9測定箇所とした(図6参照)。リタデーション値(Re)の測定は、王子計測機器製KOBRA−WRを用いて、測定角0°かつ測定波長548.2nmに設定して、行った。一方、厚みの測定は、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて行った。リタデーション値(Re)の測定結果および厚み(t)の測定結果を、複屈折率の値とともに、表1に示す。
サンプル1及びサンプル2は、上述の条件(a)及び条件(b)を十分に満たしていた。一方、サンプル3及びサンプル4は、上述の条件(a)を満たしたが、条件(b)を満たしていなかった。
また、互いの吸収軸が直交するようにして配置された一対の偏光板、すなわち、クロスニコル配置された一対の偏光板の間に、各サンプルを配置した状態で、一方の偏光板の側から照明しながら他方の偏光板上に、虹模様等の干渉色が観察されるか否かを確認した。サンプル1及びサンプル2については、注意深く観察したが、虹模様等の干渉色の存在が確認されなかった。一方、サンプル3及びサンプル4については、他の測定箇所よりも複屈折率の測定値が相対的に高くなった第6測定箇所に対応する部分に、局所的に模様が確認された。サンプル3及びサンプル4の第6測定箇所は、射出成型時のゲートに最も近い部位であり、確認された模様はゲートから射出される樹脂の流れに沿っていると考えられた。
以上のように本実施の形態によれば、反射防止シート10が、反射防止対象となる光の波長未満のピッチで凸部または凹部が配列された反射防止構造体20,25を、少なくとも一方の面10aに、備えており、且つ、複屈折率の平均値Δnaveおよび複屈折率の標準偏差σΔnが、次の条件(a)および(b)を満たす。
Δnave≦50×10−6 ・・・条件(a)
(σΔn/Δnave)≦0.10 ・・・条件(b)
このような反射防止シート10は、樹脂で形成された型面を有する型(賦型シート)74,79を用いた溶融押し出し成型法により、作製され得る。樹脂で形成された型面を有する型74,79を用いた溶融押し出し成型法によれば、次の条件(1)または条件(2)を満たす、さらには式(1)および式(2)の両方を満たすアスクペクト(h/p)が高く且つ微小な単位要素21を緻密に配置してなる反射防止構造体20,25を、極めて安価に製造することができる。
0.5 ≦ h/p ≦ 3 ・・・式(1)
0.6 ≦ h/p+0.47t ≦ 5.5 ・・・式(2)
また、熱可塑性樹脂の押し出し材からなる反射防止シート10によれば、条件(a)及び条件(b)を十分に満たすことができ、入射光の偏光状態に応じて意図しない光学機能が発現されること、例えば虹模様のような干渉色が視認されるようになることを効果的に防止することができる。
なお、上述した一実施の形態は、例示であって、様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。以下の説明では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
例えば、図9〜図14を参照しながら、反射防止構造体20を説明したが、図9〜図14の反射防止構造体は一例に過ぎない。したがって、例えば、図9〜図14に示された反射防止構造体20の単位要素21の形状および寸法等を適宜変更してもよい。