図1は、この発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
図1において、符号10はエンジン(内燃機関(駆動源))を示す。エンジン10は駆動輪12を備えた車両14に搭載される(車両14は駆動輪12などで部分的に示す)。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席床面に配置されるアクセルペダル16との機械的な接続が絶たれ電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構18に接続され、DBW機構18で開閉される。
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルドを通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブが開弁されたとき、当該気筒の燃焼室に流入する。燃焼室において混合気は点火プラグで点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフトに接続される出力軸22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
出力軸22の回転はトルクコンバータ24を介して無段変速機(Continuously Variable Transmission。以下「CVT」という)26に入力される。即ち、DBW機構18で運転者のアクセルペダル16の操作に応じて調整されるスロットル開度で決定されるエンジン10の出力軸の回転はトルクコンバータ24を介してCVT26に入力される。
エンジン10の出力軸22はトルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(入力軸)MSに接続される。トルクコンバータ24はロックアップクラッチ24cを備える。
CVT26はメインシャフトMS、より正確にはその外周側シャフトに配置される入力プーリ(ドライブ(DR)プーリ)26aと、メインシャフトMSに平行であると共に、駆動輪12に連結されるカウンタシャフト(出力軸)CS、より正確にはその外周側シャフトに配置される出力プーリ(ドリブン(DN)プーリ)26bと、その間に掛け回される無端伝達要素、例えば金属製のベルト26cからなる。
図2はCVT26の出力プーリ26bが配置されるカウンタシャフト付近の実機の断面図である。図示の如く、ベルト26cは2本のリング26c1の間に多数のエレメント(ブロック)26c2を支持してなる。
入力プーリ26aは、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26a1と、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。
出力プーリ26bは、カウンタシャフトCSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26b1と、カウンタシャフトCSに相対回転不能で固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
CVT26は前後進切換機構28を介してエンジン10に接続される。前後進切換機構28は、車両14の前進方向への走行を可能にする前進クラッチ28aと、後進方向への走行を可能にする後進ブレーキクラッチ28bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構28cからなる。CVT26はエンジン10に前進クラッチ28aを介して接続される。
プラネタリギヤ機構28cにおいて、サンギヤ28c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ28c2は前進クラッチ28aを介して入力プーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
サンギヤ28c1とリングギヤ28c2の間には、ピニオン28c3が配置される。ピニオン28c3は、キャリア28c4でサンギヤ28c1に連結される。キャリア28c4は、後進ブレーキクラッチ28bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
カウンタシャフトCSの回転はギヤを介してセカンダリシャフト(中間軸)SSから駆動輪12に伝えられる。即ち、カウンタシャフトCSの回転はギヤ30a,30bを介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、その回転はギヤ30cを介してディファレンシャル32からドライブシャフト(駆動軸)34を介して左右の駆動輪(右側のみ示す)12に伝えられる。
駆動輪(前輪)12と従動輪(後輪。図示せず)からなる4個の車輪の付近にはディスクブレーキ36が配置されると共に、車両運転席床面にはブレーキペダル40が配置される。
前後進切換機構28において前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bの切換は、車両運転席に設けられたレンジセレクタ44を運転者が操作して例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで行われる。運転者のレンジセレクタ44の操作によるレンジ選択は油圧供給機構46のマニュアルバルブに伝えられる。
図示は省略するが、油圧供給機構46はエンジン10によって駆動されてリザーバから作動油を汲み上げて油路に吐出する油圧ポンプと、油路に配置される種々の制御バルブと電磁バルブを備え、吐出された作動油の圧力を調整して得た油圧をトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cに供給し、ロックアップクラッチ24cを係合・開放する。
また、油圧供給機構46はCVT26の可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室に油圧を供給し、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させる。その結果、プーリ26a,26b間のプーリ幅が変化してベルト26cの巻掛け半径が変化し、エンジン10の回転を駆動輪12に伝達する変速比(レシオ)が無段階に変化させられる。
さらに、油圧供給機構46は運転者によって操作されたレンジセレクタ44の位置に応じて動作するマニュアルバルブを介して油圧を前後進切換機構28の前進クラッチ28aまたは後進ブレーキクラッチ28bのピストン室に供給し、車両14を前進方向あるいは後進方向に走行可能にする。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ50が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ52が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
DBW機構18のアクチュエータにはスロットル開度センサ54が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットルバルブの開度THに比例した信号を出力する。
また、アクセルペダル16の付近にはアクセル開度センサ60が設けられてアクセルペダル16の運転者による踏み込み量(アクセルペダル操作量)に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力すると共に、ブレーキペダル40の付近にはブレーキスイッチ62が設けられて運転者のブレーキペダル40の操作に応じてオン信号を出力する。
上記したクランク角センサ50などの出力は、エンジンコントローラ66に送られる。エンジンコントローラ66はCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいてDBW機構18の動作を制御すると共に、インジェクタ20による燃料噴射と点火プラグなどによる点火時期を制御する。
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)70が設けられ、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数NT、より具体的には変速機入力軸回転数(と前進クラッチ28aの入力軸回転数)を示すパルス信号を出力する。
CVT26の入力プーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)72が設けられて入力プーリ26aの回転数NDR、換言すれば前進クラッチ28aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力する。
出力プーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)74が設けられて出力プーリ26bの回転数NDN、具体的にはカウンタシャフトCSの回転数、より具体的には変速機出力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
また、セカンダリシャフトSSのギヤ30bの付近には車速センサ(回転数センサ)76が設けられてセカンダリシャフトSSの回転数と回転方向を示すパルス信号(具体的には車速Vを示すパルス信号)を出力する。
また、前記したレンジセレクタ44の付近にはレンジセレクタスイッチ80が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
油圧供給機構46の油路には油圧センサ82が配置されて出力プーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に供給される油圧に応じた信号を出力する。リザーバには油温センサ84が配置されて油温に応じた信号を出力する。
図2に示す如く、カウンタシャフトCSに配置された出力プーリ26bの両側のベアリング86の付近、より具体的にはそのアウタケースとケースCとの間には円筒状の荷重センサ(軸間力検出手段)88が配置されてその部位に作用する荷重に比例する出力を生じる。その出力から両側のベアリング86への作用力と方向を求めることで、ベクトル計算によってメインシャフトMSとカウンタシャフトCSの相互に引き合う力を示す軸間力を検出することができる。
上記したNTセンサ70などの出力はシフトコントローラ90に送られる。シフトコントローラ90もCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ66と通信自在に構成される。
シフトコントローラ90は、それら検出値に基づき、油圧供給機構46の電磁バルブを励磁・非励磁して前後進切換機構28とCVT26とトルクコンバータ24を制御する。
図3はCVT26の実用レシオと実用トルク比におけるレシオと軸推力比の関係を示す説明図である。
同図から明らかな如く、軸推力が低く、ベルトスリップが発生し易いのは、ロー端側を除き、出力プーリ26bである。即ち、ロー端側以外は軸推力比(QDR/QDN)が1より大きいため、出力プーリ側の軸推力が低いことを示している。
従って、低軸推力プーリ、具体的には出力プーリ26bの軸推力を正確に制御することが、軸推力の低減による効率向上および必要軸推力不足によるスリップの確実な防止につながることになる。そのため、この実施例においては出力プーリ26bの軸推力の制御を主に説明する。
図4はこの装置の動作、即ち、シフトコントローラ90によるCVT26の制御、より具体的にはこの装置の安定判断とトルク比判定を示すメイン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S10において入力プーリ回転数NDR、入力トルク、レシオ(入力プーリ26aと出力プーリ26bの速度比に相当する実レシオ)、車速V、アクセル開度AP、入力プーリ26aと出力プーリ26bの軸推力QDR,QDNなどの運転状態を示すデータを検出する。入力プーリ26aと出力プーリ26bの軸推力は油圧供給機構46を介してそれらの可動半体26a2,26b2のピストン室に供給される油圧から検出する。
次いでS12に進み、CVT26の動力伝達状態が安定状態にあるか否か判定する。これは、S10で検出されたレシオと、入力トルクと、入力プーリ回転数NDRと、入力プーリ26aと出力プーリ26bの軸推力などが、所定時間、変動が少ないか否か判断することで判定し、変動が少ないとき、CVT26の動力伝達状態が安定状態にあると判定する。
S12で肯定されてCVT26の動力伝達状態が安定状態にあると判定されるとき、S14に進み、トルク比が所定値、例えば0.5以上か否か判断する。
トルク比はCVT26の伝達可能な最大トルクに対する現在の入力トルクの割合を示す。入力トルクは、エンジン10の出力トルク(エンジン回転数NEとPBAなどの負荷から所定の特性に従って検索されるエンジントルク)にトルクコンバータ24の効率を乗じて得られる値を意味する。
S14で肯定されるときはS16に進み、摩擦係数μなどの算出を含む安定時の制御を行う。一方、S10で否定されてCVT26の動力伝達状態が安定状態にないと判定されるとき、S18に進み、CVT26について過渡時の制御を行う。S14で否定されてトルク比が所定値未満と判断されるときもS18に進む。
図5は図4フロー・チャートのS16の安定時の制御を示すブロック図である。
以下説明すると、シフトコントローラ90は、運転状態検出ブロック(手段)90aと、軸推力検出ブロック(手段)90bと、軸間力検出ブロック(手段)90cと、摩擦係数算出ブロック(手段)90dと、軸推力制御ブロック(手段)90eを備える。
運転状態検出ブロック90aでは、上記した入力プーリ回転数NDRと入力トルクとレシオに加え、車速Vとアクセル開度APが検出される。
軸推力検出ブロック90bでは、前記した入力プーリ26aと出力プーリ26bをメインシャフトMSとカウンタシャフトCSの軸方向に押圧する軸推力が検出される。
軸間力検出ブロック90cでは、荷重センサ88の出力からメインシャフトMSとカウンタシャフトCSの相互に引き合う力を示す軸間力が検出される。
摩擦係数算出ブロック90dは平均摩擦係数算出ブロック90d1を備え、そこでは検出された運転状態と軸推力と軸間力とに基づき、所定の関係式に従って出力プーリ26bとベルト26cの間、より正確には出力プーリ26bとベルト26cのブロック26c2の間の少なくとも半径方向摩擦係数μRDNを含む摩擦係数が算出される。
即ち、摩擦係数算出ブロック90dは接線方向摩擦係数算出ブロック90d2と半径方向摩擦係数算出ブロック90d3を備え、そこでは所定の関係式に従って出力プーリ26bの接線方向摩擦係数μTDNと半径方向摩擦係数μRDNが算出される。
接線方向摩擦係数算出ブロック90d2と半径方向摩擦係数算出ブロック90d3で算出された出力プーリ26bの接線方向摩擦係数μTDNと半径方向摩擦係数μRDNは、平均摩擦係数算出ブロック90d1に入力される。
平均摩擦係数算出ブロック90d1では、入力(算出)された半径方向摩擦係数μRDNと接線方向摩擦係数μTDNとから、より正確には二乗した値を加算してその平方根を求めるベクトル和を算出することで出力プーリ26bの平均摩擦係数μDN(=√(μRDN2+μTDN2))が算出される。
尚、上記した所定の関係式に従った出力プーリ26bの半径方向摩擦係数μRDNと接線方向摩擦係数μTDNおよび平均摩擦係数μDNの算出は、特許文献2に詳細に記載されているため、ここでの説明は省略する。
半径方向摩擦係数μRDNは接線方向摩擦係数μTDNに比してフィードバックモードで利用されることもあるため、算出ブロック90d3における半径方向摩擦係数の算出頻度は算出ブロック90d2における接線方向摩擦係数の算出に比して多いように構成される。
具体的には、接線方向摩擦係数算出ブロック90d2は接線方向摩擦係数μTDNを所定走行距離(あるいは所定の週、月などの長い時間)ごとに算出し、半径方向摩擦係数算出ブロック90d3は半径方向摩擦係数μRDNをそれより遥かに短い頻度、例えば10msecごとに算出する。
また、摩擦係数算出ブロック90dは最大接線方向摩擦係数算出ブロック90d4を備え、そこでは算出された平均摩擦係数μDNから予め設定された特性90d41に基づいて出力プーリ26bがスリップする寸前の摩擦係数(一般にベルト・プーリ間の摩擦係数と呼ばれる値)を意味する最大接線方向摩擦係数MAXμTDNが算出(推定)される。
また、摩擦係数算出ブロック90dは学習ブロック90d5を備え、そこでは車両14が走行するとき、最大接線方向摩擦係数MAXμTDNが所定のパラメータ(具体的には入力プーリ回転数NDRとレシオ)について学習され、学習値に基づいて最大接線方向摩擦係数MAXμTDNが更新(学習補正)される。
図6は摩擦係数算出ブロック90dの摩擦係数算出メカニズムを示す説明する説明図、図7(a)(b)(c)はそれによって算出される、トルク比に対する半径方向摩擦係数μRDNと接線方向摩擦係数μTDNと平均摩擦係数μDNの特性を、レシオが中間(MID)とOD(ハイ)端の状態にあるときについて示す説明図である。
図6と図7(a)(b)に示す如く、半径方向摩擦係数μRDNは出力プーリ26bの入口で大きく、出口に近づくにつれて小さくなる一方、接線方向摩擦係数μTDNはそれと逆の特性を示す。即ち、トルク比が増加するにつれて接線方向摩擦係数μTDNの値が大きい領域が増加する一方、半径方向摩擦係数μRDNの値が大きい領域が減少する。尚、図でEはベルト押し力、即ち、エレメント26c2がベルト26cを押す力を意味する。
また、図7(a)に示す如く、半径方向摩擦係数μRDNはトルク比が増加すると、0.8付近から急激に低下する。また、図7(c)に示す如く、平均摩擦係数μDNはトルク比が0.5以上でほぼ一定の値をとる。
これら図6と図7で説明した特性により、トルク比0.5以上で、平均摩擦係数算出ブロック90d1で利用される平均摩擦係数μDN(=√(μRDN2+μTDN2))が一定となる傾向が表れる。
発明者は上記した知見に基づき、平均摩擦係数μDNが、トルク比0.5以上のスリップから十分離れた安定な運転状態において正確に算出できることを利用し、出力プーリ26bがスリップする寸前の摩擦係数MAXμTDNを算出できること、また半径方向摩擦係数μRDNから出力プーリ26cのスリップを精度良く予測できることを見出してこの発明をなしたものである。
図5の説明に戻ると、フィードバック制御部90e1においては、半径方向摩擦係数算出ブロック90d3で算出された半径方向摩擦係数μRDNが所定範囲となるように、算出された目標軸推力に基づいて出力プーリ26bの軸推力が制御される。尚、図4から明らかな如く、安定状態にあると判定されない場合、S16に進まないことから、当該フィードバック制御は中止される。
図8は、図7(a)の縦軸の半径方向摩擦係数μRDNの値を、増加方向を逆にして、示す説明図である。
図8に示す如く、半径方向摩擦係数μRDNの値は、出力プーリ26bの全体的なスリップの直前において急激に零に近づくことから、半径方向摩擦係数μRDNの値をモニタすれば、出力プーリ26bの全体的なスリップが近づいていることを予測することができる。
従って、フィードバック制御部90e1においては、安定状態にあると判定されるとき、算出された半径方向摩擦係数μRDNが所定範囲となるように、換言すれば零ではないが、零に近い所定範囲に入るように、出力プーリ26bの軸推力が制御される。
次いで図4フロー・チャートのS10で否定されてCVT26の動力伝達状態が安定状態にないと判定されるときのS18の過渡時の制御を説明する。
図9はそれを示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、まずS100において取り込まれたパラメータから図示の特性に基づいて目標レシオ(CVT26の目標とする変速比)を決定(検索)する。
次いでS102に進み、検索された目標レシオと取り込まれた入力プーリ回転数NDRとから、図5の学習ブロック90d5で入力プーリ回転数NDRとレシオについて学習補正(更新)された最大接線方向摩擦係数MAXμTDNと、出力プーリ26bのベルト巻き付半径と、入力トルクにより補正された出力プーリ26bの摩擦係数μがある値となるように出力(DN)プーリ26bの目標軸推力が算出する。
次いでS104に進み、検索された目標レシオとトルク比とから図示の特性に基づいて入力(DR)プーリ26aの目標軸推力を算出する。即ち、S102で算出された出力プーリ26bの目標軸推力に、図示の軸推力比(出力プーリ26bに対する入力プーリ26aの軸推力の割合(QDR/QDN))を乗じて入力プーリ26aの目標軸推力を算出する。
次いでS106に進み、算出された出力プーリ26bと入力プーリ26aの目標軸推力に基づいて出力プーリ26bと入力プーリ26aの軸推力を制御する。
上に述べた如く、この実施例では軸推力比と軸間力とから出力プーリ26bの半径方向摩擦係数μRDNあるいは平均摩擦係数μDN(=√(μRDN2+μTDN2))を算出し、その摩擦係数μRDNあるいはμDNに基づき、出力プーリ26bの軸推力を制御するようにしたので、出力プーリ26bの摩擦係数が明確ではないために加えなければならない余剰な軸推力を低減することができる。特に、半径方向摩擦係数μRDNの値をモニタしながら軸推力をフィードバック制御するように構成したことで余剰な軸推力を一層低減することができ、それによって伝達効率や燃費を向上できる。
また、平均摩擦係数μDN(=√(μRDN2+μTDN2))から予め設定された特性90d41に基づいて出力プーリ26bがスリップする寸前の摩擦係数を意味する最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを算出し、それに基づいて軸推力を制御するようにしたので、軸推力の基となるベルト・プーリ間の一層正確な値に基づいて必要かつ十分な軸推力を与えることができ、よって予期しない摩擦係数μの低下によるスリップを確実に回避することができる。尚、特性90d41は、最大接線方向摩擦係数MAXμTDNと平均摩擦係数μDNが非常に相関の強い比例関係にあることを見出して予め設定したものである。
さらに、特性90d41を予め設定しておき、それに基づいて平均摩擦係数μDNから最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを算出するようにしたので、特性90d41を予め設定しておけば、プーリ表面性状の違いなどによって平均摩擦係数μDNと最大接線方向摩擦係数MAXμTDNが一致しない場合でも、μDNからMAXμTDNを容易に算出することができる。従って、より広い範囲のプーリ表面性状において摩擦係数の値が明確ではないために加えざるを得ない余剰な軸推力を低減でき、伝達効率と燃費を向上でき、予期しない摩擦係数μの低下によるスリップも確実に回避できる。
また、摩擦係数、特に接線方向摩擦係数μTDNと、平均摩擦係数μDNを例えば所定走行距離ごとに算出して学習するように構成したことから、車両14の長距離走行後の摩擦係数の低下を考慮して余剰な軸推力を与える必要がないために上記した効果を一層良く得ることができると共に、新車の状態でも低い軸推力となることから、CVT26の入出力プーリ26a,26bやリング26cの寿命を延ばすことも可能となる。
また、この実施例においては、図3に示す如く、LOW(ロー)端側を除き、低軸推力となるのは出力プーリ26bであるため、CVT26のほぼ全ての運転状態で低軸推力プーリ(出力プーリ26b)の軸推力を適正な値とすることができる。
しかしながら、出力プーリ26bの軸推力よりも入力プーリ26aの軸推力が低い場合、出力プーリ26bの軸推力から入力プーリ26aに対する軸推力比(QDR/QDN)の関係を用いて入力プーリ26aの軸推力を推定しても良い。さらに、プーリ形状の角度によっては、全ての運転状態で出力プーリ26bが低軸推力プーリとなるため、低軸推力側のプーリの軸推力を適正な値とすることができる。
図10は荷重センサの配置の別の例を示す、図2と同様の実機の断面図である。同図(a)に示す如く、この例ではドライブ軸100を出力軸とし、その上に出力プーリ26bを配置するようにことから、荷重センサ88をドライブ軸100の上のベアリング861のアウターレースとケースの間に配置するようにした。ドライブ軸100には曲げモーメントを発生させるヘリカルギヤやスパーギヤがないため、軸間力の検出精度を向上させることができる。
同図(b)は荷重センサ88を含む、センサ配置部位の分解斜視図であり、同図(c)は荷重センサ88の検出部881の平面図である。荷重センサ88の検出部881にはスリット881aが放射状に複数個穿設されると共に、スリット881aの間に同様に放射状に複数個の検出素子881bが配置される。これにより、局所的に作用する力を一層精度良く検出することができる。
尚、軸間力は、入力プーリ26aと出力プーリ26bのどちらの側で計測しても反作用の関係から同値となるため、入力軸側に荷重センサ88を配置しても良い。
上記した如く、この実施例にあっては、車両14に搭載される駆動源(エンジン)10の駆動力によって回転する入力軸(メインシャフト)MS上に配置される入力プーリ(ドライブ(DR)プーリ)26aと、駆動輪12に連結される出力軸(カウンタシャフト)CS上に配置される出力プーリ(ドリブン(DN)プーリ)26bと、前記入力軸と出力軸に与えられる軸推力に応じて前記入力プーリと出力プーリの間に挟持される無端伝達要素(ベルト)26cとからなり、前記入力軸から入力される回転を無段階に変速して前記出力軸に伝達する無段変速機(CVT)26の制御装置(シフトコントローラ90)において、変速比(レシオ)と前記入力プーリの回転数NDRと入力トルクから運転状態を検出する運転状態検出手段(運転状態検出ブロック90a)と、前記入力軸と出力軸に与えられる前記軸推力を検出する軸推力検出手段(軸推力検出手段ブロック90b)と、前記入力軸と出力軸の相互に引き合う力を示す軸間力を検出する軸間力検出手段(軸間力検出手段ブロック90c、荷重センサ88)と、前記検出された運転状態と軸推力と軸間力とに基づき、所定の関係式に従って前記出力プーリ26bと前記無端伝達要素の間の少なくとも半径方向摩擦係数μRDNを含む摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段(摩擦係数算出ブロック90d)と、少なくとも前記算出された摩擦係数に基づいて前記出力プーリ26bの目標軸推力を算出する目標軸推力算出手段(S104)と、前記算出された目標軸推力に基づいて前記出力プーリ26bの軸推力を制御する軸推力制御手段(軸推力制御ブロック90e,S106)とを備える如く構成したので、これら多くのパラメータに基づいて算出することで出力プーリ26bの摩擦係数を精度良く算出できると共に、それに基づいて目標軸推力を算出することで安全率を必要最小限度考慮するのみで足りることとなり、よって余剰な軸推力を低減できると共に、スリップを確実に防止することができる。
さらに、出力プーリ26bの摩擦係数を精度良く算出し、算出された摩擦係数に基づいて目標軸推力を算出することで、目標軸推力を適切に算出でき、よって伝達効率と燃費を向上させることができる。
また、前記摩擦係数算出手段は、前記検出された運転状態と軸推力と軸間力とに基づき、前記所定の関係式に従って前記出力プーリ26bの前記半径方向摩擦係数μRDNと接線方向摩擦係数μTDNとを算出し(半径方向摩擦係数算出ブロック90d3,接線方向摩擦係数算出ブロック90d2)、前記算出された半径方向摩擦係数μRDNと接線方向摩擦係数μTDNとから前記出力プーリ26bの平均摩擦係数μDN(=√(μRDN2+μTDN2))を算出し(平均摩擦係数算出ブロック90d1)、前記算出された平均摩擦係数μDNから予め設定された特性90d41に基づいて前記出力プーリ26bがスリップする寸前の摩擦係数を意味する最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを算出する(最大接線方向摩擦係数算出ブロック90d4)と共に、前記目標軸推力算出手段は、少なくとも前記算出された最大接線方向摩擦係数MAXμTDNに基づいて前記目標軸推力を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、出力プーリ26bの摩擦係数を一層精度良く算出することができる。
また、算出された平均摩擦係数μDNから出力プーリ26bがスリップする寸前の摩擦係数を意味する最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを算出すると共に、それに基づいて目標軸推力を算出するようにしたので、余剰な軸推力を一層低減できると共に、出力プーリ26bに予期しないスリップを一層確実に防止することができる。
また、平均摩擦係数μDNの値を算出することにより、予定される摩擦係数μと著しく異なる特性の作動油が使用された場合、摩擦係数μの値からそれを検知して運転者に報知させることも可能となる。
また、前記摩擦係数算出手段は、前記車両14が走行するとき、前記最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを所定のパラメータについて学習して前記最大接線方向摩擦係数MAXμTDNを更新する学習手段(学習ブロック90d5)を備え、前記目標軸推力算出手段は、少なくとも前記更新された最大摩擦係数MAXμTDNに基づいて前記目標軸推力を算出する(S102,S104)如く構成したので、上記した効果に加え、走行距離が伸びるときも、走行距離に応じて目標軸推力を適正に算出することができ、余剰な軸推力を一層低減して伝達効率と燃費を向上させることができる。
また、前記摩擦係数算出手段は、伝達可能な最大トルクに対する前記入力トルクの割合を示すトルク比を算出するトルク比算出手段(S14)を備え、前記算出されたトルク比が所定値以上のとき、前記摩擦係数を算出する如く構成したので、トルクの影響を受けることなく、出力プーリ26bの摩擦係数を算出することができ、出力プーリ26bの摩擦係数をより高精度に算出することができる。
また、前記軸推力制御手段は、無段変速機(CVT)26の動力伝達状態が安定状態にあるか否か判定する安定状態判定手段(S12)を備え、前記安定状態にあると判定されるとき、前記算出された半径方向摩擦係数μRDNが所定範囲となるように、前記算出された目標軸推力に基づいて前記出力プーリ26bの軸推力を制御する(S16、フィードバック制御部90e1)如く構成したので、上記した効果に加え、算出された半径方向摩擦係数μRDNを例えば、零ではないが、零に近い所定範囲に入るように制御することで、目標軸推力を一層適正に算出できて余剰な軸推力を一層低減できると共に、予期しないスリップを一層確実に防止することができる。
また、前記軸推力制御手段は、前記出力プーリの軸推力よりも前記入力プーリの軸推力が低い場合、予め定められた前記入力プーリの軸推力と前記出力プーリの軸推力の比(QDR/QDN)に基づいて前記入力プーリの軸推力を制御する(S104,S106)如く構成したので、上記した効果に加え、出力プーリ26bの軸推力よりも入力プーリ26aの軸推力が低い場合でも、出力プーリ26bの軸推力が分かれば、予め定められた入力プーリ26bの軸推力と出力プーリの軸推力の比(QDR/QDN)に基づいて入力プーリ26aの軸推力の目標値を容易に求めて制御することができるので、よって余剰な軸推力を一層低減できると共に、スリップを一層確実に防止することができる。
また、前記軸間力検出手段(荷重センサ88)は、前記入力軸(メインシャフト)MSと前記出力軸(カウンタシャフト)CSとのベアリングBの付近に設置される如く構成したので、上記した効果に加え、荷重センサ88を簡易に設置できると共に、その検出精度を向上させることができる。
尚、上記においてCVTの無端伝達要素として金属製のベルト26cを開示したが、それに限られるものではなく、チェーンあるいはゴム製のベルトなどであっても良い。