JP2014025101A - アルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プレス成形によってブランクにしわが発生するのを抑制できるアルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】常温時効や人工時効によって時効硬化したAl−Mg−Si系のアルミニウム合金板を用意し、前記アルミニウム合金板のうちの一部の領域を、強度を低下させる軟化領域と予め定めておき、該軟化領域を200℃以上580℃以下の加熱到達温度まで加熱して、その後に100℃以下まで冷却することによって、軟化領域のみの耐力値を低下させてブランク内に強度差を付与したプレス成形用のブランクを製造する。
【選択図】図2

Description

本発明は、プレス成形用のアルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法に関する。
従来、自動車のボディパネル材としては主として冷延鋼板が使用されることが多かった。しかしながら、最近では、地球温暖化抑制の視点からCO排出量の削減が求められ、そのために車体軽量化の重要性が広く認識されてきた。その結果、比重の軽いアルミニウム合金板の使用が多くなっている。
アルミニウム合金板のうち、自動車のフード、フェンダ、ドアなどのボディパネル類については、Al−Mg−Si系アルミニウム合金が使用されることが多い。Al−Mg−Si系アルミニウム合金では、熱処理合金の利点を生かして板を低耐力の状態で仕上げておくことで、プレス成形性を確保することができる。そして、その後の自動車製造工程での塗装焼付処理(例えば約170℃で約20分間)によって時効硬化(「塗装焼付硬化」或いは「ベークハード(BH)」と呼ばれる)させることで、耐力が上昇しパネルに高耐力を付与することができる。最終的にパネルが高耐力の状態になることでパネル板厚を薄くすることができ、軽量効果が向上する。
しかしながら、一般的にアルミニウム合金板は冷延鋼板に比べて破断やしわが発生し易く成形性が劣るため、その適用拡大の障害となっている。特に最近は自動車ボディパネルのデザイン性の向上が強く望まれており、パネル形状の成形可否を決定する最も重要な観点である破断が生じなくとも、しわの発生が抑えられないことを理由に、アルミニウム合金板の採用が見送られるケースもある。よって、プレス成形におけるしわの抑制がアルミニウム合金板の適用拡大への一つの鍵であり、アルミニウム合金板自体の改善と成形加工方法の工夫が強く求められている。
プレス成形では、通常、ダイとホルダでブランクを挟んで支持し、ダイとパンチを相対的に近づけ、パンチをダイに押し込むことによってブランクを所定の形状に成形する。ここで、ブランクは、パンチとダイに接触してプレスされることによって、弾性変形を経て塑性変形を伴いながら、その形状を変化させられて所定の形状に達する。
こうしたプレス成形には、主にインナーパネルの成形に用いられる絞り成形や、主にアウターパネルの成形に用いられる張り出し成形が含まれる。絞り成形では、ダイとホルダとの金型で挟持したブランクを周囲からダイ穴へ引き込んで成形する。このときには、成形中のブランクに型の周囲から中心方向に引張力が作用し、それとは垂直の周方向に圧縮力が作用する。絞り成形では、板の平面寸法に対して板厚寸法が著しく小さいので、圧縮力を受けた材料は容易に座屈変形を引き起こす。また、張り出し成形では、ダイ穴中の材料の伸び変形によって成形する。この張り出し成形においても、自動車ボディパネルのような複雑なパネル形状では、一般的にパンチ成形面に高低差があり、プレス方向と平行な鉛直断面で見た場合、しわ押さえ面からパンチ頭部を経由して反対側のしわ押さえ面までの線長を各断面で比較すると、線長差が必ず存在する。線長が短い部位では材料の肉余りが生じるとともに、不均一な引張力が作用することで圧縮力やせん断力が誘起され、座屈変形を引き起こす虞がある。また、しわ押え面が同一平面上になく、ダイとホルダでブランクを狭持した時にブランクが座屈する場合もある。これらの座屈変形がプレス成形の下死点まで消去されずに残存した面のゆがみをしわと呼んでいる。ここで、面のゆがみによる面形状不良の総称としてしわと称したが、以下、数十〜数百μmの微小なゆがみである面ひずみも、しわに含まれるものとする。
しわの抑制方法として、金型の成形形状およびダイフェース設計の観点では、形状の急激な変化を避けることや、余肉やビードによる張力のコントロール、パンチとダイスのクリアランスの調整、肉余りを吸収するための形状を設ける等の手法がある。しかし、これらの自由度には限りがあり、これらの手法をもってしても抑制できない場合がある。
また、材料特性の観点では、高n値(加工硬化指数)材、高r値(ランクフォード値)材、低耐力材の採用が有効とされている。しかし、高n値、高r値材については様々な研究が行われているものの、これらが劇的に向上したアルミニウム合金板を工業的に量産した例は未だ報告されていない。
一方、低耐力材を製造することは可能である。しかし、低耐力材を使用する場合、つまりブランク全体を低耐力とする場合には幾つか問題がある。材料特性の観点では、MgやSiの含有量を少なくすることで低耐力とすることができるが、引張強さも低下するため成形性が低下してしまう。また、Al−Mg−Si系合金は時効硬化性を有するため、常温保持中に耐力値が徐々に上昇してしまい低耐力を維持することが困難である。
また、成形加工方法の観点では、絞り成形の場合、ダイとホルダで狭持したブランクを周囲からダイ穴へ引き込んで成形するが、このダイとホルダで狭持した部分、つまりブランクのしわ押さえ部は金型との摺動により摩擦抵抗を受ける。絞り成形中のブランクに作用する力の釣り合いを考えると、パンチに加わる成形力は、ブランクの変形抵抗と摩擦抵抗とが釣り合うことになる。仮に低耐力材を使用した場合、変形抵抗が低下する一方、材料の引張強さも低下するため、最も発生応力が大きくなるパンチ肩部周辺の破断限界応力が低下し、相対的に摩擦抵抗の影響の割合が大きくなって破断し易くなる。
以上述べたような課題や問題に対して、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、素材をプレス成形するに先立ち、その素材に局部的に設定された予定圧縮部位を圧縮加工してその予定圧縮部位を加工硬化させることでプレス成形時に素材にしわが発生することを抑制する方法が記載されている。
この方法によれば、プレス成形時に素材にしわが発生し易いしわ危険部位またはその近傍の、そのしわを発生させる原因となる引張力の作用線上において互いに隔たった一対の部位を複数のディンプルが形成されるように圧縮加工して加工硬化させれば、プレス成形時におけるしわ発生が効果的に抑制されるとされている。
また、特許文献2には、プレス成形金型を加熱してしわ発生部を加熱することでしわの発生を抑制する方法が記載されている。
この方法によれば、アルミニウム板材のしわ発生部をプレス金型によって200〜300℃に加熱することで低強度と高延性が得られ、しわの発生が抑制されるとされている。
特開平11−319964号公報 特開2008−254001号公報
特許文献1に開示されている方法では板表面にディンプルが形成されるため、高い表面品位が要求されるアウターパネルには適用できない。また、加工硬化性の低いアルミニウム合金板においては十分な強度差を得ることが難しく、ディンプルが形成されることで逆に応力集中を招き、破断が生じやすくなる虞がある。さらに、ディンプル加工時にアルミ粉が発生して板表面に付着し、プレス成形時にそのアルミ粉が金型と板に挟まれることで、板表面が傷付く虞がある。
また、特許文献2に開示されている方法ではプレス金型にヒータ等の加熱機能と冷却機能を付与する必要があり、プレス金型毎にこの機能を付加するための手間とコストがかかってしまう。また、アルミニウム板材を加熱するのに時間を要するため、成形時間が長くなり、プレス成形の生産性が低下する。また、プレス金型に接触した部分しか加熱されないため、板材の金型に接触しない部分にしわが発生する場合には適用できない。
以上のように、従来提案されている技術では、アルミニウム合金板の表面品位や成形性、プレス成形の高い生産性を損なわず、また、過度なコスト増加を伴わずに、任意の部位のしわの発生を抑制することは困難であった。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、プレス成形に要する時間が短く且つプレス成形によってブランクにしわが発生するのを抑制できるアルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係るアルミニウム合金製ブランクの製造方法は、
プレス成形を施してプレス成形体を製造するためのアルミニウム合金製ブランクを製造する方法であって、
時効硬化したAl−Mg−Si系のアルミニウム合金板を用意する工程と、
前記アルミニウム合金板のうちの一部の領域を、強度を低下させる軟化領域と予め定めておき、該軟化領域を200℃以上580℃以下の加熱到達温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱した軟化領域を100℃以下まで冷却する冷却工程と、
を含むことを特徴とする。
また、前記軟化領域は、前記プレス成形の成形過程において前記アルミニウム合金板の板面内にしわの原因となる圧縮成分の主応力が発生する領域を内側に含むようにすることが好ましい。
また、前記軟化領域は、前記圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向について、該引張力が作用する領域よりも広い領域とすることが好ましい。
また、前記軟化領域は、前記圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向について、該引張力が作用する支点間の領域よりも狭い領域とすることが好ましい。
また、前記加熱工程では、到達温度を200℃以上300℃以下とし、100℃から加熱到達温度までの前記アルミニウム合金板の昇温速度を5℃/秒以上とし、
前記冷却工程では、100℃以下までの前記アルミニウム合金板の冷却速度を5℃/秒以上とし、
前記アルミニウム合金板の前記加熱工程による加熱到達温度での保持時間を20秒間以下とすることが好ましい。
また、前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板のうち、前記軟化領域でない領域を非軟化領域として定め、該非軟化領域を100℃以上200℃未満の加熱到達温度まで加熱し、前記軟化領域を200℃以上300℃以下の加熱到達温度まで加熱し、
前記加熱工程および前記冷却工程を通して前記アルミニウム合金板が100℃以上に滞留する時間を2分以内とすることが好ましい。
さらにこの場合、前記加熱工程では、前記軟化領域の加熱到達温度と前記非軟化領域の加熱到達温度の差を50℃以上200℃以下とすることが好ましい。
前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板全体に100℃以上200℃未満の到達温度までの予加熱を施した後に、前記軟化領域にのみ200℃以上300℃以下の加熱到達温度まで加熱を施してもよい。
また、前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板における軟化領域と非軟化領域を加熱する加熱体の温度をそれぞれ制御し、当該加熱体を接触させることによって前記アルミニウム合金板全体を加熱してもよい。
また、前記アルミニウム合金板を用意する工程では、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板を溶体化処理し、該溶体化処理したAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に対して常温時効と100℃以下の人工時効との少なくとも一方を行うことにより前記アルミニウム合金板を用意してもよい。
前記アルミニウム合金板は、Mg:0.2〜1.5mass%、Si:0.3〜2.0mass%を含有し、Fe:0.03〜1.0mass%、Zn:0.03〜2.5mass%、Cu:0.01〜1.5mass%、Mn:0.03〜0.6mass%、Zr0.01〜0.4mass%、Cr0.01〜0.4mass%、Ti0.005〜0.3mass%及びV:0.01〜0.4mass%のうち1種又は2種以上を更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものでもよい。
本発明の第2の観点に係るアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法は、
本発明の第1の観点に係るアルミニウム合金製ブランクの製造方法を用いてアルミニウム合金製ブランクを用意する工程と、
用意したアルミニウム合金製ブランクにプレス成形を施すプレス工程と、
を含み、
前記プレス工程では、前記アルミニウム合金製ブランクの内、プレス工程完了後に製品となる部分に2%以上のひずみが導入される、
ことを特徴とする。
前記プレス成形を施したアルミニウム合金製ブランクに対して、170〜185℃で20〜30分間の人工時効硬化処理を施す成形後時効工程を、
更に含んでもよい。
本発明によれば、部分的に強度差を付与したプレス成形用アルミニウム合金製ブランクを容易に製造することができ、このブランクを使用することで、プレス成形におけるしわの発生を効果的に抑制することができる。また、軟化処理はプレス成形前の前工程又は別工程で実施できるため、プレス成形自体に要する時間を短くすることができる。したがって、本発明によれば、プレス成形に要する時間が短く且つプレス成形によってブランクにしわが発生するのを抑制できるアルミニウム合金製ブランクの製造方法及びアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法を提供することができる。
線膨張における軟化領域と非軟化領域の温度差ΔTと熱応力σの関係と、比例限度σとの関係を示したグラフである。 軟化処理における予加熱方式の加熱処理に用いた加熱装置の正面図であり、(A)は、ブランク全体の予加熱を説明するための図であり、(B)は、軟化領域の加熱を説明するための図である。 軟化処理における同時加熱方式の加熱処理に用いた加熱装置の正面図である。 プレス金型のパンチの一例を示す斜視図である。 (A)は、図4のプレス金型の領域Aに発生するしわを示す図であり、(B)は、発生したしわの位置を示した模式図である。 (A)は、図4に示すプレス金型を使用した場合の数値解析から得た引張成分の主応力をベクトルで表示した図であり、(B)は圧縮成分の主応力をベクトルで表示した図である。 図4に示すプレス金型を使用して、成形ストローク30mm(下死点から10mmUP)の時点における領域Aのしわの軸方向に平行な鉛直断面を示す模式図である。 実施例2で使用した試験片の形状と寸法を示した図である。 実施例2の試験片をつかむつかみ部と標点距離Lとしわの凸部を示した模式図である。 実施例2において、3点式ダイヤルゲージを使用して試験片の凸部のしわ高さhbを測定する方法を示した模式図である。 実施例2の試験を模擬した数値解析から得た図であり、(A)は引張成分の主応力をベクトルで表示した図であり、(B)は圧縮成分の主応力をベクトルで表示した図である。 実施例2の軟化処理領域パターンの位置を示した模式図である。 (A)は、実施例2において使用した加熱冶具を示す平面図と正面図であり、(B)は、実施例2において使用した軟質断熱材を示す平面図と正面図である。 実施例2において、試験後の試験片の標点距離Lにおける伸びλとしわ高さhbの関係を示したグラフである。 実施例3において、ブランクに施した3種類の軟化領域パターンのパンチ形状に対する位置関係を示した平面図である。 実施例3において、プレス成形体に発生したしわを評価するために、輪郭形状を測定した位置を示した模式図である。 (A)は、実施例3においてプレス成形体について測定したしわ発生部の輪郭形状を示すグラフであり、(B)は、角度分布を示すグラフである。 実施例3におけるブランクの反り量の測定方法を示した模式図である。 本発明の実施形態に係る金型形状の例を示した模式図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
本発明者らは、前述の課題を解決するべく種々の実験・検討を重ねた結果、時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金板、すなわち、溶体化処理後に常温時効、或いは、溶体化処理後に人工時効又は常温時効と人工時効を組み合わせた時効処理により亜時効状態にあるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に対して、常温時効により徐々に生成した微細な析出物の溶融温度以上の温度で加熱した後、100℃以下まで冷却することで材料強度が低下する復元現象に着目した。
その結果、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板から成るブランクをプレス成形することによって得られるプレス成形体にしわが発生する場合、または、その可能性が高い場合、このしわが発生する部位に該当する領域を含む領域を予めプレス成形前に軟化領域と定め、該軟化領域に対して、常温時効により徐々に生成した微細な析出物の溶融温度以上の温度で加熱する加熱工程と、次いで100℃以下まで冷却する冷却工程からなる軟化処理を施すことで軟化領域のみの耐力値を低下させたブランクを用いれば、しわの発生を抑制できることを見出した。
ここで軟化手段である復元現象についてより詳しく説明すると、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板において、溶体化処理後に急冷して常温状態で合金元素を過飽和に固溶させた後に常温又はこれより若干高い温度で保持しておくと、マトリックス中にMgとSiよりなる微細析出物である低温クラスタが徐々に生成することによって強度が上昇する。これが、いわゆる「時効硬化」した状態である。この時効硬化した板について、前述の保持温度より高い温度に短時間加熱することにより、常温で生成した低温クラスタを再固溶させ、更にその直後に急冷することによって過飽和状態とすることで材料の強度を低下させる現象が復元である。そして、このような現象を生起させるための急速加熱とその後の急冷の一連の処理を「軟化処理」と称する。
本実施形態に係るプレス成形用のアルミニウム合金製ブランクは、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、高温で溶体化処理された後に常温時効により時効析出した状態にあるもの、或いは、高温で溶体化処理された後に人工時効又は常温時効と人工時効とを組み合わせた時効処理を施して亜時効状態にあるものであるものを用いる。以下に、主要な項目ごとに分けて詳細に説明する。
<アルミニウム合金板の成分組成>
アルミニウム合金製ブランクの製造に用いるアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金であれば良く、その具体的な成分組成は特に制約されるものではないが、以下に特に好ましい例を記載する。すなわち、Mg:0.2〜1.5mass%(以下、単に「%」と記す)、及び、Si:0.3〜2.0%を基本の合金元素として含有し、Fe:0.03〜1.0%、Zn:0.03〜2.5%、Cu:0.01〜1.5%、Mn:0.03〜0.6%、Zr:0.01〜0.4%、Cr:0.01〜0.4%、Ti:0.005〜0.3%、及び、V:0.01〜0.4%のうち1種又は2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を素材とするのが好ましい。各成分要素について以下に説明する。
Mg:
Mgは本実施形態におけるアルミニウム合金の基本となる合金元素であって、Siと共同して強度向上に寄与する。Mg含有量が0.2%未満では塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するβ”相の生成量が少なくなるため、十分な強度向上が得られない。一方、1.5%を超えると、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、成形性、特に曲げ加工性が低下する。従って、Mg含有量を0.2〜1.5%の範囲内とした。最終板の成形性、特に曲げ加工性をより良好にするためには、Mg含有量を0.3〜0.9%の範囲内とするのが好ましい。
Si:
Siも本実施形態におけるアルミニウム合金の基本となる合金元素であって、Mgと共同して強度向上に寄与する。また、Siは、鋳造時に金属Siの晶出物として生成され、その金属Si粒子の周囲が加工によって変形されて溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si含有量が0.3%未満では上記効果が十分に得られない。一方、2.0%を超えると粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属間化合物が生じて、成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。従って、Si含有量を0.3〜2.0%の範囲内とした。プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si含有量を0.5〜1.4%の範囲内とするのが好ましい。
Mg及びSiが、Al−Mg−Si系アルミニウム合金として基本となる合金元素であるが、それ以外にFe:0.03〜1.0%、Zn:0.03〜2.5%、Cu:0.01〜1.5%、Mn:0.03〜0.6%、Zr:0.01〜0.4%、Cr:0.01〜0.4%、Ti:0.005〜0.3%及びV:0.01〜0.4%から選択される1種又は2種以上を含有させることが好ましい。これらの添加理由と添加量について以下に説明する。
Fe:
Feは、一般のアルミニウム合金において、通常0.03%未満の不可避的不純物として含有される。一方、Feは強度向上と結晶粒微細化に有効な元素であり、これらの効果を発揮させるために、Feを0.03%以上積極的に添加しても良い。但し、その含有量が0.03%未満では上記効果が十分に得られず、一方、1.0%を超えると、成形性、特に曲げ加工性が低下する虞がある。したがって、Feを積極的に添加する場合のFe量は0.03〜1.0%の範囲内とすることが好ましい。
Zn:
Znは塗装焼付硬化性向上を通じて強度向上に寄与するとともに、表面処理性の向上に有効な元素である。Znの添加量が0.03%未満では上記の効果が十分に得られず、一方、2.5%を超えると成形性及び耐食性が低下する。従って、Zn含有量を0.03〜2.5%の範囲内とすることが好ましい。
Cu:
Cuは成形性向上及び強度向上のために添加される元素であり、このような成形性向上及び強度向上の目的から0.01%以上添加することが好ましい。しかしながら、Cu含有量が1.5%を超えると耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が劣化するので、Cu含有量は1.5%以下に規制することが好ましい。なお、強度向上を重視する場合は、Cu含有量を0.4%以上とするのが好ましく、また、より耐食性の改善を図る場合は、Cu含有量を1.0%以下とするのが好ましい。更に耐食性を重視する場合はCuを積極的に添加せず、Cu含有量を0.01%以下に規制することが好ましい。
Mn、Zr、Cr:
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、或いは、塗装焼付硬化性の向上に有効である。Mnの含有量が0.03%未満、或いは、Zr、Crの含有量がそれぞれ0.01%未満では、上記の効果が十分に得られない。一方、Mnの含有量が0.6%を超えるか、或いは、Zr、Crの含有量がそれぞれ0.4%を超えると、上記効果が飽和するばかりでなく多数の金属間化合物が生成して、成形性、特に曲げ加工性に悪影響を及ぼす虞がある。従って、Mn含有量を0.03〜0.6%の範囲内とし、Cr、Zrの含有量をそれぞれ0.01〜0.4%の範囲内とすることが好ましい。
Ti、V:
Tiは鋳塊組織の微細化による強度向上や防食に有効な元素であり、また、Vは強度向上や防食に有効な元素である。Tiの含有量が0.005%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.3%を超えるとTi添加による鋳塊組織微細化と防食効果が飽和する。また、Vの含有量が0.01%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.4%を超えるとV添加による防食効果が飽和する。これらTiやVの上限を超える場合には、粗大なTi系又はV系の金属間化合物が多くなり、成形性や曲げ加工性の低下を招く。従って、Ti含有量を0.005〜0.3%の範囲内とし、V含有量を0.01〜0.4%の範囲内とすることが好ましい。
また、一般のアルミニウム合金においては、鋳塊組織の微細化のために前述のTiと同時にBを添加することもあり、BをTiとともに添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となる。このため、Tiとともに500ppm以下のBを添加してもよい。
<Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造方法>
Al−Mg−Si系アルミニウム合金板は、従来知られている方法を用いて製造することができる。具体的には、所定の成分に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、周知の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造することでAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳塊を用意することができる。ここで溶解鋳造法としては、例えば半連続鋳造法(DC鋳造法)や薄板連続鋳造法(ロールキャスト法等)などを用いることができる。
次いで、アルミニウム合金鋳塊に480℃以上の温度で均質化処理を施す。均質化処理は溶湯凝固時の合金元素のミクロ偏析を緩和し、併せてMn、Crをはじめとする各種の遷移元素を含む場合には、これらを主成分とする金属間化合物の分散粒子をマトリクス中に均一かつ高密度に析出させるために必要な工程である。均質化処理の加熱時間は、一般に、1時間以上とし、経済的な理由から48時間以内に終了させる。但し、この均質化処理における加熱温度は、熱延前に熱延開始温度まで加熱する加熱処理温度に近いことから、熱延前加熱処理を兼ねて均質化処理を行なうことも可能である。この均質化処理工程の前又は後に適宜面削を施した後、300〜590℃の温度範囲で熱間圧延を開始し、その後冷間圧延を施すことにより所定の板厚のアルミニウム合金板を製造する。熱間圧延の途中、熱間圧延と冷間圧延の途中、或いは、冷間圧延の途中において、必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。
次に、冷間圧延後のアルミニウム合金板について溶体化処理を行う。この溶体化処理は、MgSi、単体Si等をマトリックス中に固溶させ、これにより塗装焼付硬化性を付与するものであり、プレス成形後に行われる塗装焼付処理後の強度向上を図るための重要な工程である。またこの工程は、MgSi、単体Si粒子等の固溶により第2相粒子の分布密度を低下させて、延性と曲げ加工性を向上させるのにも寄与し、さらには再結晶により良好な成形性を得るためにも重要な工程である。これらの効果を発揮するためには、溶体化処理温度を480℃以上とする必要がある。なお、溶体化処理温度が590℃を超えると共晶融解が生じる虞があるため、590℃以下とすることが好ましい。
溶体化処理は、例えば、コイル状に巻き取った冷間圧延板を、加熱帯と冷却帯を有する連続焼鈍炉に連続的に通過させることによって、効率的に行うことができる。連続焼鈍炉による処理では、アルミニウム合金板は加熱帯を通過する際に480℃以上590℃以下の高温に昇温され、その後冷却帯を通過する際に急冷される。このような一連の処理により、アルミニウム合金板の主要合金元素であるMgとSiは、昇温によってマトリックス中に固溶し、続いて急冷することによって常温において過飽和に固溶した状態となる。
Al−Mg−Si系アルミ合金板に高い塗装焼付硬化性を付与するために、溶体化処理における急冷後に、60〜100℃程度の温度で1〜24時間程度保持する予備時効処理を行ってもよい。これによって、前述した常温で生成する低温クラスタとは異なる高温クラスタを生成し、これを成長させることができる。高温クラスタは、MgとSiからなる微細析出物であり、常温よりもやや高い温度で生成される。この高温クラスタは、その後の塗装焼付処理(例えば、約170℃で約20分間の条件で行われる加熱)によって、析出強化相であるβ”相に遷移して時効硬化し、耐力値が190MPa以上に向上する。
<溶体化処理から軟化処理までの間の時効>
軟化処理によってアルミニウム合金製ブランクの軟化領域と非軟化領域とに強度差を付与するためには、溶体化処理後の常温放置期間中に常温時効(自然時効)によってある程度の量の低温クラスタが生成されている必要がある。低温クラスタが十分に生成されていなければ、その後の軟化処理において復元現象が生じず、耐力値の低下が実現されない。
そこで、溶体化処理後には、軟化処理を行なうまでの間に、1日以上にわたって常温で放置する必要がある。なお、溶体化処理からプレス成形までの間の常温放置期間は、10日以上が一般的である。また、この常温時効は溶体化処理後の初期において急速に進行するものの半年程度経過するとそれ以上は進行し難くなることから、軟化処理前の常温放置期間の上限は特に規定しない。ここで常温とは、具体的には0〜50℃の範囲内の温度を意味する。
以上の説明では、溶体化処理後の時効として常温時効について述べた。しかしながら、溶体化処理後の時効は、常温時効のみを行うものに限定されず、人工時効を行ったり、常温時効と人工時効を組み合わせて行ってもよい。人工時効を用いることで早期に低温クラスタを生成することができ、この場合にも、その後の軟化処理によってブランクに強度差を付与することができる。
但し、人工時効の温度は100℃以下が好ましく、人工時効処理後にAl−Mg−Si系アルミニウム合金板が亜時効状態となっていなければならない。人工時効の温度が100℃を超える場合、或いは、100℃以下の条件であっても長時間人工時効を行なってピーク時効又はこれを過ぎた過時効状態となる場合には、MgとSiからなる析出物が過度に析出しまう。このため、MgとSiの固溶量が減少して、塗装焼付硬化性が著しく低下してしまう。ここで、Al−Mg−Si系アルミ合金板に高い塗装焼付硬化性を付与する場合は、前述の予備時効処理後に人工時効を施す必要がある。高温クラスタは、溶体化処理によってMgとSiがマトリックス中に固溶することで生成する原子空孔が十分に存在している状態、つまり原子空孔密度が高い状態で生成でき、常温保持によって低温クラスタが生成した後では、高温クラスタは生成できないからである。
上述のような時効を行って次の軟化処理を行うときには、軟化処理直前におけるアルミニウム合金板の材料強度として、耐力値が110MPa以上であることが望ましい。耐力値が110MPa未満の場合には、引続いて行われる軟化処理において復元する部分の強度低下が不充分となって、充分な強度差を付与することができない虞があるからである。
<軟化処理>
軟化処理は、前述のように時効硬化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金板における任意に選択した領域を、所定の温度まで加熱し、次いで100℃以下まで冷却する処理である。軟化処理では、以下のメカニズムによってアルミニウム合金板の強度を低下させることができる。すなわち、溶体化処理後の常温放置中にマトリックス中ではMgとSiよりなる低温クラスタが生成・成長し、これにより材料強度が増大している。低温クラスタは熱的に不安定なため、この状態のアルミニウム合金板を所定の温度に短時間加熱すると、低温クラスタは容易に再固溶して消滅する(復元する)。このため、軟化処理によって100℃以下まで冷却した後の材料強度は、軟化処理前に比べて低下する。
<軟化領域の加熱条件>
軟化処理における加熱条件は、加熱到達温度を200℃以上580℃以下の範囲とした。加熱到達温度が200℃よりも低いと、低温クラスタが短時間で溶解する量が少ないため復元による強度低下が小さく、加熱到達温度が580℃を超えると局部溶融を生じてしまうからである。
また、特に、軟化領域の加熱到達温度を200℃以上300℃以下の範囲とすることによって、軟化処理後のブランクに高い塗装焼付硬化性を具備させることができる。加熱到達温度が200℃よりも低いと、低温クラスタが短時間で溶解する量が少ないため復元による強度低下が小さい。一方、加熱到達温度が300℃を超えると、短時間のうちにマトリックス中のMgとSiが粗大な析出相であるβ’相として析出してしまう。これにより、アルミニウム合金板におけるMgとSiの固溶量が低下し、その後の人工時効硬化処理での強度上昇が低下する。つまり、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の優れた特徴である塗装焼付硬化性が低下してしまう。
また、加熱到達温度200℃以上300℃以下の範囲においては、加熱到達温度が高いほど低温クラスタが効率的に再固溶するため強度低下量も大きくなる。しかしながら、時効硬化も同時に生じることで材料の延性が低下するため、強度差付与と延性低下のバランスを考慮し、成形形状に応じて、つまり、しわの発生状態および程度に応じて加熱到達温度を最適に選択すればよい。
ここで、加熱到達温度を200℃以上300℃以下の範囲とする場合のうち、加熱到達温度を250℃以上300℃以下にする場合には、数秒の短時間のうちにMgとSiからなる低温クラスタが十分に固溶して復元が完了し、所定の冷却速度で100℃以下まで冷却した直後においては、加熱部と非加熱部との間に大きな強度差を付与することができる。しかしながら、この温度域で加熱を行った場合は、冷却後に多くの原子空孔が常温で残存する。この原子空孔は軟化処理を行った部分における常温保持中のMgとSiの拡散を助長し、常温における低温クラスタの生成を早め、この部分で一旦低下した耐力値は、常温にて数日間の放置で急速に軟化処理前の状態に戻ってしまう。この原子空孔密度は加熱到達温度の増大につれて増加し、原子空孔密度の増大とともに常温での耐力値の増加が早まる。このような急速な耐力値の回復は、しわ抑制効果の早期低下を意味するため、安定した効果を得るためには、軟化処理後できるだけ短期間でプレス成形することが好ましい。具体的には3日以内が望ましい。
これに対して、加熱到達温度を200℃以上250℃未満として加熱処理を行った場合には、加熱到達温度を250℃以上300℃以下とした場合に比べて、耐力値の低下量が少なくなるが、冷却後常温における原子空孔密度が充分に低く、軟化処理後の常温保持期間での経時的な耐力値の増加が充分に小さくなる。そのため、加熱到達温度を200℃以上250℃未満の温度範囲内として軟化処理を行った場合には、数日間常温で保持した場合でも安定したしわ抑制効果を発揮することが可能となる。したがって、生産工程のスケジュールの融通性を重視する場合には、軟化処理後にブランクを常温で数日間保持してもプレス成形を行うことが可能となるように、軟化処理の加熱到達温度を200℃以上250℃未満とすることが好ましい。なお、この場合、軟化処理からプレス成形までの常温保持期間は10日以内が望ましい。
また、軟化処理後のブランクに高い塗装焼付硬化性を具備させる場合は、100℃から加熱到達温度までの昇温速度はできるだけ速い方が好ましく、具体的には5℃/秒以上が好ましい。昇温速度が5℃/秒未満になると、高温クラスタの生成、成長を経て、高温クラスタが析出強化相であるβ”相に遷移してしまうことで、本来の目的とは逆に強度が上昇してしまう可能性がある。また、延性も低下する可能性がある。また、生産性の観点からもできるだけ速い方が好ましく、10℃/秒以上が更に好ましい。また、同じ理由で、加熱到達温度に到達後の保持時間はできるだけ短い方が好ましく、具体的には20秒以下が好ましい。加熱領域を均一に加熱できれば、保持時間を0秒(滞留させずに所定温度に到達後、直ちに冷却する)としてもよい。
<非軟化領域の加熱条件>
非軟化領域を積極的に加熱する主な目的は、軟化領域と非軟化領域の加熱到達温度の差を極力小さくし、ブランクの過度な熱変形を抑制することにある。しかしながら、軟化処理の本来の目的であるブランクに強度差を付与するためには、非軟化領域は強度低下が無いか、強度低下が極力小さいことが求められる。そこで、非軟化領域の加熱到達温度は、100℃以上200℃未満が好ましい。200℃未満であれば、低温クラスタが短時間で殆ど溶解しないため強度低下も殆ど起こらない。また、100℃以上であれば、軟化処理を施す領域の加熱到達温度との差が過大にならないからである。しかしながら、上記の温度範囲内であっても、その温度で長時間保持すると低温クラスタの溶融が生じて軟化し、或いは、それを過ぎて時効硬化が生じ強度が上昇して伸びが低下する可能性があるため、軟化処理全体を通してブランクが100℃以上に滞留する時間は2分以内が好ましい。100℃未満であれば上記のβ”相への遷移は生じず、時効硬化の進行も極めて遅いため、その後に徐冷しても機械的性質に影響はないためである。
<軟化領域と非軟化領域の加熱到達温度の差>
軟化処理における軟化領域と非軟化領域の加熱到達温度の差は、50℃以上200℃以下とするのが好ましい。非軟化領域を加熱する目的は、軟化領域と非軟化領域の加熱到達温度の差を適切な範囲で選択することによって、ブランクの過度な熱変形を抑制することである。また、僅かな熱変形を積極的にブランクに与えることで、ブランクを積み重ねた時にブランク間に僅かな隙間ができる。これによって、プレス成形時に積載されているブランク同士の分離性を向上させることも可能である。ここで言う熱変形とは、加熱時の軟化領域と非軟化領域の温度差による熱膨張差によって、軟化領域と非軟化領域の境界に熱ひずみが生じ、ブランクに発生する反りやねじれ等の変形を指す。実際にプレス成形する成形品及びブランクの形状やサイズは様々であるため、ここでは単純化して1次元の線膨張として取り扱った考え方を以下に説明する。
長さLの棒を加熱して温度上昇がΔT℃である場合、材料の線膨張係数をαとすれば、棒の長さ増加量はΔL=αLΔTと表せる。例えば、この棒の両端が剛体壁に拘束されている場合、棒は伸びることができないため軸方向に圧縮ひずみε=αΔTを受けた状態になる。この圧縮ひずみが、熱ひずみである。弾性変形域では、この熱ひずみεと縦弾性係数Eからフックの法則σ=Eεによって、加熱後の熱応力σ=αEΔTを求めることができる。この熱応力σが弾性変形の限界、つまり、応力−ひずみ線図における比例限度(降伏応力)σを超えると、塑性変形し、いわゆる熱変形が残ることになる。
この実施の形態では、軟化領域はブランクの任意の部分であるため、場合によっては軟化領域の周囲は非軟化領域に囲われている場合がある。軟化領域を非軟化領域よりも高い温度に加熱することで軟化領域が熱膨張し、軟化領域と非軟化領域の境界に熱応力が発生する。軟化領域の熱膨張で非軟化領域が周囲に伸ばされることによって、軟化領域と非軟化領域の境界に発生する熱応力は、上記の剛体壁に拘束された棒の例の値よりも小さいものとなる。
そこで、最も熱応力が大きくなる条件である、軟化領域と非軟化領域の変位がない状態において、熱応力σによって塑性変形が開始する温度差ΔTを次のように求めた。材料の温度が増加すると強度や縦弾性係数Eが減少することが知られており、上記成分組成範囲のAl−Mg−Si系アルミニウム合金の縦弾性係数Eは、常温で約66.4GPa、軟化領域の最低温度である200℃で約56.8GPa、軟化領域の最高温度である300℃で約47.5GPaである。一方、比例限度σについては、各温度でJIS5号試験片を用いた引張試験を行い、得られた応力−ひずみ線図から求めたところ、常温で約90MPa、軟化領域の最低温度である200℃で約73MPa、軟化領域の最高温度である300℃で約70MPaであった。
これらの値を用いて軟化領域と非軟化領域の温度差ΔTと熱応力σの関係と、比例限度σとの関係を求めた結果を図1に示す。図示するように、200℃に加熱された軟化領域が受ける熱応力は、温度差が約50℃(非軟化領域が約150℃)で比例限度に達する。一方、300℃に加熱された軟化領域が受ける熱応力は、温度差が約58℃(非軟化領域が約242℃)で比例限度に達する。ただし、上述したように、非軟化領域の加熱到達温度は100℃以上200℃未満としているため、少なくとも温度差は100℃より大きくなる。よって、ブランクに僅かな熱変形を付与するために最低限必要な温度差は50℃以上となるから、軟化処理における軟化領域と非軟化領域の加熱到達温度の差は50℃以上とするのが好ましい。また、加熱到達温度の差の上限は、軟化領域の最高温度300℃と非軟化領域の最低温度100℃の差である200℃以下が好ましい。
<冷却条件>
軟化処理後のブランクに高い塗装焼付硬化性を具備させる場合、加熱後の冷却における100℃までの冷却速度はできるだけ速い方が好ましく、具体的には5℃/秒以上が好ましい。冷却温度が5℃/秒未満になると、高温クラスタの生成、成長を経て、高温クラスタが析出強化相であるβ”相に遷移してしまうことで、本来の目的とは逆に強度が上昇してしまう可能性がある。また、延性も低下する可能性がある。また、生産性の観点からもできるだけ速い方が好ましく、具体的には10℃/秒以上が更に好ましい。なお、冷却速度の上限は特に規定しないが、水槽に浸漬する方法であれば1000℃/秒程度の冷却速度が得られる。
<軟化処理の加熱方法>
本発明の加熱処理は、大きく分けて2つの方式が好適に用いられる。一つは、予めブランク全体に復元温度未満の予加熱を施した状態で、軟化領域にのみ更に復元温度で加熱する予加熱方式である。もう一つは、軟化領域と非軟化領域に相当する加熱体の温度を個別に制御して、該加熱体をブランクに押し付けることによって両領域を同時に加熱する同時加熱方式である。
予加熱方式の加熱方法としては、まずブランク全体を到達温度100℃以上200℃未満に加熱することが目的となる。これは短時間では復元しない温度での加熱のため、多少昇温速度が遅くても許容されるが、生産性の観点からはできるだけ昇温速度が速い方法を選択するのが望ましい。従って、ヒータ等で加熱した金属板や金属ブロックを接触・加圧して伝熱する方法や、誘導加熱、赤外線加熱、通電加熱等の方法を用いるのが好ましい。この他にも、100℃以上に昇温した時点から冷却開始までの時間を2分以下にできるならば、炉加熱や熱風加熱等の公知の加熱手段を適宜利用してもよい。
次に、軟化領域のみを加熱する方法としては、加熱したい部分の形状に合わせて加工された金属板や金属ブロック(アルミニウム合金や銅合金など)をヒータ等で加熱して、加熱したい部分に接触・加圧して伝熱させる方法が最も簡便である。この他に、アルミニウム合金板よりも熱放射率(熱吸収率)が高いカーボン等の黒体を加熱したい部分の形状に合わせて加工し、これを加熱したい部分に貼り付けて赤外線加熱することで、黒体を貼り付けた領域だけ瞬時のうちに高温に加熱することもできる。
ここで、予加熱方式の具体例を説明する。図2に示すように、加熱装置として、ヒータ26を内蔵した押付用下型25がボルスタ22上に取り付けられ、同じくヒータ26を内蔵した押付用上型24がスライドプレート21に取り付けられた油圧プレス機を使用する。押付用下型25は、クッションピン23によって支持され、プレスの際は図示しないクッション機構によって所定の押付け圧力を保てるようになっている。一方、押付用上型24は、硬質断熱材27を介してスライドプレート21に取り付けてある。この押付用上型24の下面には、軟化領域で凸(凸部28a)となり、非軟化領域で凹となるように加工した金属板からなる加熱冶具28が取り付けられている。また、加熱治具28の非軟化領域に対応する部位には、加熱冶具28の凸部28aの頂面よりも若干突出する(厚目の)軟質断熱材33が取り付けられている。ヒータ26は、不図示の温度制御装置によって、各々の設定温度を保つように制御され、押付用下型25と押付用上型24をそれぞれに所定の温度に加熱する。押付用上型24の下面に取り付けられた加熱冶具28は、押付用上型24が加熱されることに伴って伝熱によって加熱される。
この加熱装置を使用して加熱する方法としては、図2(A)に示すように、まず、押付用下型25の上にブランク1を置き、このブランク1の上に、ブランク1よりもプレス方向の投影面積が大きく、プレス機の加圧によって割れ等が生じない程度の厚みがある硬質断熱材27を置く。続いて、プレス機のプレス機構によってスライドプレート21を下降させることにより、加熱冶具28の凸部28aと、凸部28a以外の下面に取り付けた軟質断熱材33が、ブランク1上に置かれた硬質断熱材27に接触する。プレス機による加圧は、クッション機構によって一定荷重に保持され、一定時間ブランク1を加圧することで、押付用下型25の熱がブランク1に伝わり、ブランク1が100℃以上200℃未満の所定の温度に加熱される。一方、押付用上型24の熱は硬質断熱材27によってブランク1へは伝わらない。これで、予加熱が完了する。
次に、図2(B)に示すように、ブランク1の上に置いた硬質断熱材27を取り除く。続いて、プレス機のプレス機構によってスライドプレート21を下降させることにより、加熱冶具28の凸部28aと、凸部28a以外の下面に取り付けた軟質断熱材33が、ブランク1に接触する。プレス機による加圧は、クッション機構によって一定荷重に保持され、一定時間ブランク1を加圧することで、押付用上型24の熱が加熱治具28の凸部28aを介してブランク1に伝わり、軟化領域29のみが所定の温度に加熱される(図2(B)中、網掛部参照)。このときには、軟化領域以外の領域(非軟化領域)には、軟質断熱材33が接していることで押付用上型24の熱は伝わらない(図2(B)中、斜線部参照)。これで、軟化領域の加熱が完了する。
上記のように、加熱冶具28の凸部28a以外の下面には、軟質断熱材33を取り付けることが好ましい。この軟質断熱材33が無い場合や、軟質断熱材33が加熱冶具28の凸部28aの高さより薄い場合は、予加熱でブランク1の上に置かれた硬質断熱材27を加圧する範囲が加熱冶具28の凸部28aのみとなり、ブランク1全体が均一に加熱されない。また、軟化領域の加熱の際に、加熱冶具28の凸部28aのエッジでブランク1に押付跡が付きやすくなる。また、軟質断熱材33ではなく硬質断熱材を用いた場合、断熱材の厚みを厳密に管理する必要が生じ、仮に硬質断熱材の厚みが加熱冶具28の凸部28aの高さより厚いと、加熱冶具28の凸部28aがブランクに接触できず、軟化領域の加熱ができない可能性がある。加熱冶具28の凸部28aの高さより若干厚目の軟質断熱材33を使用することで、軟質断熱材33は、加圧時に圧縮されて加熱冶具28の凸部28aの頂面と面一となり、均一な加圧と断熱の効果が得られる。
また、同時加熱方式の具体例としては、図3に示すように、加熱装置として、ヒータ26を内蔵した複数の加熱体30A、30Bが押付用上型24に取り付けられた油圧プレス機を使用する。この加熱装置では、図2に示す油圧プレス機と同様に、押付用下型25がボルスタ22上に取り付けられ、押付用上型24がスライドプレート21に取り付けられている。押付用下型25は、クッションピン23によって支持され、プレスの際は図示しないクッション機構によって所定の押付け圧力を保てるようになっており、その上面には硬質断熱材27が取り付けてある。一方、押付用上型24は、硬質断熱材27を介して取り付けられ、この押付用上型24の下面には加熱領域に合わせて加工した金属ブロックからなる加熱体30A、30Bが取り付けられる。加熱体30A、30Bは、ヒータ26を内蔵し、不図示の温度制御装置によって、各々の加熱体30A、30Bの設定温度を保つようにヒータ26の制御が行われる。
この加熱装置を使用して加熱する方法としては、まず、押付用下型25の上の硬質断熱材27の上にブランク1を置く。続いて、プレス機のプレス機構によってスライドプレート21を下降させることにより、加熱体30A、30Bがブランク1に接触する。プレス機による加圧は、クッション機構によって一定荷重に保持され、一定時間ブランク1を加圧することで、加熱体30A、30Bの熱がブランク1に伝わり、ブランク1が所定の温度に加熱される。
なお、伝熱加熱の場合のブランク1への加熱冶具28又は加熱体30A、30Bの押付け圧力としては、効率良く熱伝達させるために0.1MPa以上が好ましく、0.5MPa以上では熱伝達効率はほぼ一定となるため、上限は特に設けない。これらの加熱は、板の状態で1枚1枚処理してもよいし、ブランキングプレスでコイル状のアルミ合金板素材を連続的に加熱処理および切断してもよい。
また、上記では非軟化領域を加熱することを前提に述べたが、ブランクの熱変形が問題にならない場合は、非軟化領域の加熱は行わずに軟化領域のみを加熱すればよい。
<軟化処理の冷却方法>
ブランクを所定の温度まで加熱した後に冷却する方法としては、ブランクよりも熱容量が大きく、更に水冷配管を内蔵した金属ブロックでブランクを挟んで冷却するダイクエンチ等の接触式の方法が冷却速度と生産性の観点から有効である。この他に、浸漬やシャワーなどの水冷方式、ファン等の空冷方式等、公知の冷却手段を適宜利用及び組み合わせてもよい。
<軟化領域>
本発明の目的は、プレス成形によってブランクにしわが発生するのを抑制することであるが、冒頭で述べた通り、プレス成形におけるしわは、プレス成形によってブランクに生じた座屈変形が下死点まで消去されずに残存した面のゆがみのことである。この座屈変形の原因は、成形中のブランクの板面に作用する不均一な引張力によって発生する圧縮成分の主応力である。
そこで、しわが発生する領域周辺の圧縮成分の主応力を小さくすることを考える。その方法が軟化つまり低耐力化であり、しわ発生部を含む領域を低耐力化することで、パンチ成形力つまり成形に要する加工力が小さくなり、座屈変形の原因である圧縮成分の主応力も小さくなる。また、しわが発生する領域は一般的にその周辺に比べて塑性変形量が少なく、不均一な応力分布となっている場合が多い。そこで、軟化領域をこの領域に限定することで、この領域の塑性変形量が増加し、この領域を含めた周辺の塑性変形量が均一化することで、不均一な応力分布も解消され、圧縮成分の主応力の発生も抑制される。また、軟化領域をこの領域に限定することによって、主に絞り成形において重要なパンチ肩部周辺の強度は高いまま保てるので、破断に対する成形性を損なうことがない。よって、この実施の形態では、プレス成形体のしわが発生する可能性が高い領域を軟化領域とした。
軟化領域は、圧縮成分の主応力が発生する領域を内側に含んで、それよりもやや大きい領域とすることが好ましい。数値解析などから得られる圧縮成分の主応力が発生する領域と、実際にしわが発生する領域は異なる場合があるため、しわの発生状態だけを観察して軟化領域を決めると、効果が小さい場合があるからである。
ここで、圧縮成分の主応力が発生する領域を求める方法について述べる。一つは、コンピュータを使用した有限要素法等の数値解析がある。近年のコンピュータの計算処理速度の劇的な向上によって、最近ではプレス成形金型を製作する前に数値解析によるプレス成形シミュレーションを実施することが一般的になっている。これを用いれば、プレス成形中のブランクに発生する応力やひずみの状態を知ることが容易にできる。金型形状データと材料特性値と摩擦係数等の境界条件を入力することで、実際にしわが発生した領域周辺の圧縮成分の主応力が発生する領域を求めることや、プレス成形前に予め圧縮成分の主応力が発生する領域を求めてしわが発生する可能性が高い危険部を特定することが可能である。
また、数値解析以外の方法としては、プレス成形によってアルミニウム合金製ブランクに発生した圧縮ひずみを計測することで、間接的に圧縮成分の主応力が発生した領域を求める方法が挙げられる。例えば、スクライブドサークルテストの名で知られている方法がある。つまり、一定の径(例えば10mm)のサークルが規則的に並んだパターンをプレス成形前のブランクの表面にインクやエッチング等で描いておき、成形後のサークル径の変化を長軸と短軸とで読み取ることで板面上の2方向のひずみを計測する方法である。ここで、プレス成形後のサークル径が元径よりも小さくなった場合は圧縮ひずみが生じたとみなすことができ、そこには圧縮成分の主応力が発生したとみなすことができる。
ただし、自動車ボディパネルのような複雑な形状の場合は、プレス成形中にブランクに発生する応力の大きさや方向は刻々と変化する。プレスの下死点まで成形したプレス成形体について上記のように計測されたひずみの値は、それまでに刻々と変形を受け続けて蓄積したひずみの積算値であるため、しわの原因となる圧縮成分の主応力が発生した領域を特定することが難しい。よって、成形ストローク中(プレス成形途中)のしわが発生する前後のストロークにおいて、ひずみの変化を計測することが好ましい。
図4は、絞り成形用プレス金型のパンチの一例を示す斜視図である。なお、ダイやブランクホルダは、図4に示すパンチ2に対応する形状のものを用いる。図4に示すパンチ2を使用してプレス成形したプレス成形体には、図4中の領域A(破線で囲んだ領域)に、図5に示すようなしわが発生する場合がある。
本発明者は、非線形有限要素法をベースとした数値解析ソフト「LS−DYNA」の動的陽解法を用いて、図4に示すパンチ2を使用したプレス成形についてシミュレートした。シミュレーションの条件として、ブランクは板厚1mmのAA6022合金板とし、物性値(密度、ヤング率、ポアソン比)と加工硬化特性(引張試験から得られる応力−ひずみ曲線)と異方性特性(圧延方向に対して0°、90°、45°の3方向のr値)を入力し、降伏関数はBarlat‘89(指数m=8)を用いた。金型の形状は、パンチ、ダイ、ブランクホルダの3部品のCADデータを入力し、ブランクと金型間の摩擦係数は0.15とした。また、下死点までの成形ストロークは40mmとした。
このシミュレーションによれば、ダイクッション荷重(DC荷重)を100kNとしてプレス成形を行ったところ、ストローク30mm(下死点から10mmUP)の時点で領域Aにしわが発生した。この時点のしわ発生部周辺の引張成分の主応力をベクトルで表示した図を図6(A)に、圧縮成分の主応力をベクトルで表示した図を図6(B)に示す。ここで、図中の矢印の向きと大きさが主応力の向きと大きさを表している。
この領域Aに発生するしわを対象とした場合、しわの軸方向と直交する方向について、しわの軸方向と平行な引張力が作用する領域は、おおよそ図6(A)に示すX−Xの範囲である。換言すれば、図6(A)中のX−Xの範囲は、しわの原因となる圧縮成分の主応力を発生させる引張力が作用する領域である。この引張力によって図6(B)に示すようにしわの原因となる圧縮成分の主応力が発生する。この金型形状においては、圧縮成分の主応力はX−Xの範囲内とこれを超えた外側まで発生していた。このように、一般的に圧縮成分の主応力は、しわの軸方向と平行な引張力が作用する領域内と、この領域の外側にも発生する場合がある。よって、軟化領域は、圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向について、引張力が作用する領域よりも広い領域であることが好ましい。
また、軟化領域が極端に狭いと、狭い領域に急激な強度差が存在することになるため、そこに応力集中が生じ、破断しやすくなってしまう。よって、上記のように軟化領域を広めに取ることで、破断回避の効果が得られると共にしわ抑制効果が大きくなる。但し、パンチ肩部やダイ肩部、縦壁部のような元々応力集中が生じやすい破断危険部は軟化領域に含めないようにすることが好ましい。
また、成形ストローク30mm(下死点から10mmUP)の時点における図4の領域Aのしわの軸方向に平行な鉛直断面図を図7に示す。しわの原因となる圧縮成分の主応力を発生させる引張力が作用する支点は、上段パンチ肩部6Aと下段ダイ肩部7Bであり、この支点間の領域はブランクにおけるY−Yの領域に当たる。つまり、しわが発生する時点の、ブランクのその領域を引っ張っているパンチ肩部6Aとダイ肩部7Bの間の領域である。この領域にしわの原因となる圧縮成分の主応力が発生する。仮に、この領域を超えて軟化領域とした場合、ブランクを引っ張っている部分であるパンチ肩部6Aおよびダイ肩部7B周辺の材料強度を低下させることになるので、この部分に破断が生じやすくなってしまう。よって、軟化領域は、板面内にしわの原因となる圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向について、引張力が作用する支点間の領域よりも狭い領域とすることが好ましい。
<ブランクの塗油>
通常、アルミニウム合金板は、輸送中に傷付きや腐食を防止するために防錆油などが塗布されている。このように塗油された状態の板を加熱すると、油の焼付きや発煙を生じ、プレス成形品の外観不良や作業環境の悪化を生じる可能性がある。そこで、軟化処理を施す板は、軟化処理を行う前に脱脂工程等によって予め防錆油を除去しておくか、或いは、輸送の際に傷付きが生じないように梱包した無塗油の状態のものを使用するのが好ましい。ただし、軟化処理の加熱温度においても発煙や発火等が生じない特性を有する油が板に塗布されている場合はこの限りではない。
また、軟化処理を無塗油の状態で行った場合、軟化処理後に行うプレス成形ではプレス潤滑油が必要であるため、軟化処理を施した板は、通常と同じくプレス成形用の潤滑油を表面に適量塗油した後にプレス成形を行うのが好ましい。
<プレス成形>
上記の軟化処理を施したブランクについて行うプレス成形は、通常のプレス成形と同様に冷間で行うことができる。但し、前述のように軟化処理を行ってから10日以内にプレス成形を行うのが好ましい。更に好ましくは、3日以内に行うのが好ましい。これは、軟化処理を行った後、しばらくは軟化したままの状態が持続されるが、再び常温時効により強度が上昇し、ブランクに付与した強度差が失われるためである。
また、上記ブランクには、プレス工程完了後に製品となる部分に2%以上のひずみが導入されることが好ましい。導入されるひずみが2%未満では、加工硬化による耐力値の上昇量が少なく、その後の人工時効硬化処理によって190MPa以上の高強度が得られない可能性があるためである。
<人工時効硬化処理>
自動車製造工程においては、ブランクにプレス成形を施すことによって得られる幾つかのプレス成形体を接合して車体を製作し、この車体に対して塗装焼付処理を行うが、このような加熱処理を溶体化処理後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に施すことで、強度を上昇させることができる。これを人工時効硬化処理と言う。上記塗装焼付処理では、車体に塗布した塗料を焼き付けることを主目的としており、生産性を考慮して、一般的には170〜185℃で20〜30分間の条件で行われる。
本実施形態に係る軟化処理を施したブランクにプレス成形を施して得られたプレス成形体では、前記軟化処理部の人工時効硬化処理後の耐力値が190MPa以上であることが好ましい。耐力値が190MPa未満の場合は、耐デント性や衝突強度が不足するため板厚を厚くしなくてはならず、車体の重量増や材料費増を招いてしまう。
前記プレス成形体に施す人工時効硬化処理の条件は、自動車製造工程における一般的な塗装焼付処理条件である170〜185℃で20〜30分間とするのが好ましい。本実施形態に係る製造方法で製造されたアルミニウム合金製ブランクは、このような比較的低温短時間の加熱処理でも、軟化領域を含むプレス成形体の耐力値が190MPa以上に向上させることができる。また、この処理条件より高温および長時間になれば、耐力値は更に上昇する。
上記した軟化領域では、加熱処理中に低温クラスタが固溶し、原子空孔密度が再び増加することで、低温クラスタに代わって高温クラスタが生成及び成長する。この高温クラスタは、人工時効硬化処理での加熱によって析出強化相であるβ”に遷移するため、プレス成形体に高耐力を付与することができる。よって、上記した軟化領域は、非軟化領域に対してより高い塗装焼付硬化性を得ることができるため、軟化処理によって耐力値が低下した後でも、加熱処理によって耐力値で190MPa以上の高強度が得られる。
(実施例)
以下に本発明例を比較例とともに記す。なお、以下の本発明例は、本発明の効果を説明するためのものであり、本発明例記載のプロセス及び条件が本発明の技術的範囲を制限するものではない。
アルミニウム合金を溶解して成分調整を行なった後、DC鋳造法により鋳造することにより、表1に示す5種類(I〜V)の合金成分のアルミニウム合金鋳塊を作製した。これらの鋳塊に530℃で10時間の均質化処理を行なった後、常法に従って熱間圧延、冷間圧延を行い、530℃で溶体化処理した後、常温まで急冷し、70℃で10時間の予備時効処理を施して、厚さ1.0mmのアルミニウム合金板を作製した。
その後、常温時効、或いは、100℃以下の人工時効又はこれらの組み合わせによる時効処理を施した。この時効処理条件を表2に示す。
[実施例1]
第1の試験として、軟化処理条件がアルミニウム合金板の機械的性質に及ぼす影響を調査するために、上記の時効処理したアルミニウム合金板からJIS5号引張試験片を作製し、条件を変更した軟化処理を次の手順で実施した。
試験片を加熱するための加熱装置として、図2に示す上記の装置を用いた。なお、加熱装置にはプレス能力50TONの油圧プレスを用いた。また、この試験では部分的な加熱は行わないので、図2中の加熱冶具28および軟質断熱材33は使用しない。
この加熱装置を使用して試験片の予加熱処理を行った。まず、図2(A)に示すように、押付用下型25の上に試験片1を置き、試験片1の上に厚さ約25mmの硬質断熱材27を置いた。プレス機のプレス機構によってスライドプレート21を下降させることにより、押付用上型24が試験片1の上の硬質断熱材27に接触する。そして、プレス機のクッション機構によって、所定時間にわたって試験片1に所定の押付け圧力を加えることで、試験片の予加熱を行った。
次いで、図2(B)に示すように、試験片1の上に置いた硬質断熱材27を取り除く。続いて、プレス機のプレス機構によってスライドプレート21を下降させることにより、押付用上型24が試験片1に接触する。そして、プレス機のクッション機構によって、所定時間にわたって試験片1に所定の押付け圧力を加えることで、軟化領域の復元加熱を行った。なお、この復元加熱の処理において、押付用上型24が試験片1に接触してから離れるまでの時間は、スライド速度とプレスストロークによって調整し、昇温速度はヒータの加熱温度と押付け圧力(=クッション圧)によって調整した。
続いて、加熱後の試験片の冷却は、水槽へ試験片を浸漬する方法と、常温の金属ブロックで試験片を挟む方法とファンで空冷する方法で行った。
供試材と軟化処理条件を変更した各条件について、予加熱のみを施した予加熱品と、予加熱後に復元加熱を施した復元加熱品をそれぞれ用意した。なお、上記では予加熱する場合の軟化処理方法について述べたが、予加熱しない条件では、未処理品と予加熱を施さずに復元加熱のみ施した復元加熱品を用意した。表3に、それぞれの軟化処理条件を示す。
<引張試験>
表3に示すように、試験番号1〜15の試験片について引張試験を実施し、未処理品あるいは予加熱品の耐力値σnと、復元加熱品の耐力値σrを測定し、両者の差である強度差(σn−σr)を算出した。
<人工時効硬化処理後の引張試験>
自動車製造工程における塗装焼付処理後の耐力値を測定するために、未処理品あるいは予加熱品と復元加熱品に2%の引張予ひずみを与えた後、170℃×20分間の人工時効硬化処理を行い、引張試験によって耐力値を測定した。なお、試験番号13、14は、予ひずみ量の条件を4%、0%に変更して測定をしており、試験番号15は、人工時効硬化処理条件を185℃×30分間として測定を行っている。
表3では、上記2つの引張試験を同一条件で3回ずつ行い、3回の平均値を採用して示している。
表3に示す試験番号1〜10は本発明例である。いずれも復元加熱品の耐力値が低下しており、未処理品あるいは予加熱品との強度差を得ることができている。更に、試験番号4〜10は復元加熱の加熱到達温度が200〜300℃の範囲であり、100℃以上の昇温速度や冷却速度を5℃/秒以上の昇温または冷却とし、試験片が100℃以上とされる時間を2分(120秒)以内としているため、高い塗装焼付硬化性を具備できており、人工時効硬化処理後の耐力値が190MPaを大きく上回る高強度を有している。
一方、供試材番号11と12は比較例であり、復元加熱の加熱到達温度が本発明の範囲よりも低いため十分に耐力が低下していない。
また、試験番号13および14は軟化処理後の予ひずみ量を変更した結果である。試験番号13は予ひずみ量を4%に増加させたため、人工時効硬化処理後の耐力が増大した。一方、試験番号14は予ひずみを加えなかったため、人工時効硬化処理後の耐力が低く、190MPaに満たなかった。また、試験番号15は人工時効硬化処理条件を185℃×30分間と高温長時間に変更した結果であり、人工時効硬化処理後の耐力が増大した。試験番号13、15は、本発明例に当たり、試験片14は、比較例に当たる。
[実施例2]
第2の試験として、軟化領域とプレス成形時のしわ抑制効果との関係を調査するためのしわモデル試験を実施した。
まず、この試験に使用する試験片について説明する。図8に示すように、試験片形状は、一辺の長さが100mmである正方形の一組の対角に幅40mmのつかみ部を付け加えた形状であり、つかみ部に沿った方向の全長が200mmである。図9に示すように、試験片表面には中心から長手方向の両側へ20mmずつ間隔をあけて評点距離L(=40mm)の一対のけがき線を施した。
次にこの試験片を使用したしわモデル試験の内容について説明する。試験片の両側のつかみ部を引張試験機のつかみ装置でつかみ、つかみ部間距離が約114mmになるように(つかみ部の端から約43mmまでの部分をつかむように)調整した。そして、試験片の長手方向に一軸引張荷重を加えると、試験片が幅方向および長手方向にたわんで座屈変形し、図9に示す破線部で囲んだ領域に凸部が形成された。この凸部をしわと見なし、試験機から取り外した試験片に対して、図10に示すように支点間距離l(=40mm)の脚を有した3点式ダイヤルゲージを使って、試験片の幅方向W−W断面におけるしわ高さhbを測定した。そして更に、試験後の評点距離L´を輪郭形状測定機で測定し、試験片の伸びλ(%)をλ=(L´−L)/L×100の式から求め、試験片の伸びλとしわ高さhbの関係を評価した。
次に、この試験片に定める軟化領域について説明する。軟化領域を定めるに先立ち、コンピュータを使用した数値解析でこのしわモデル試験をシミュレートした。板厚1mmのAl−Mg−Siアルミニウム合金板から成る試験片に長手方向へ3mmの引張変位を加えた時の引張成分の主応力をベクトルで表示した図を図11(A)に、圧縮成分の主応力をベクトルで表示した図を図11(B)に示す。図11(B)から試験片の面内に圧縮成分の主応力が発生する領域は、試験片中央部であることを確認した。また、試験片形状と引張力を加える位置の関係から明らかなように、しわの原因となる圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向について、引張力が作用する領域は、つかみ部幅40mmの領域である。また同様に、しわの原因となる圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向について、引張力が作用する支点間の領域は、つかみ部間距離114mmである。
軟化領域を試験片中央の矩形状の領域とし、図12に示す軟化領域の幅方向寸法xと軟化領域の長手方向寸法yとを変化させて試験を行った。表4に、つかみ部幅40mmをX、つかみ部間距離114mmをYとして、軟化領域の寸法x,yと、寸法比(x/X),(y/Y)とを示す。なお、軟化領域パターン番号9の軟化領域は、その一部が試験片をはみ出すように定められており、軟化領域パターン10の軟化領域は、試験片のうち、引張試験機のつかみ装置によってつかまれていない全ての領域として定められている。
上記試験片の軟化領域を復元軟化させるための軟化処理は、基本的には実施例1に記載した方法で行った。ただし、ここでは軟化領域の復元加熱のために、図13(A)に示すような200mm×200mmで板厚10mm(図には厚さは示していない)のアルミニウム合金板の中央部に、各軟化領域に相当する領域が5mm凸(図には凸高さは示していない)となるような凸部28aを削り出した加熱冶具28を10種類作製した。また、図13(B)に示すように、200mm×200mmで厚さ約5mmの軟質断熱材33の中央部を加熱冶具28の凸部28aに合わせて切り抜き、加熱冶具28の凸部28a側に合わせることで、加圧した時に試験片と接触する面が段差の無い面になるようにした。これらの加熱冶具28と軟質断熱材33には取り付け用穴32を空けておき、前述の押付用上型24の下面にねじで取り付けられるようにした。なお、上述したように、加熱冶具28は押付用上型24からの熱伝達によって加熱される。
実施例1の試験番号6の供試材と軟化処理条件の組合せによって軟化処理を施した10種類の試験片と軟化処理を施していない未処理の試験片を作製し、上記しわモデル試験に供した。試験には、5TON引張試験機を使用し、引張量を調整して各試験片の伸びλが同じになるようにした。試験結果を図14および表5に示す。なお、表5では、効果が特に好ましかった順に「◎」、「○」、「△」を付して示している。
図14において、同じ伸びλの時のしわ高さhbを比較すると、未処理に対して軟化領域パターン1〜10のいずれもしわ高さが低くなっており、しわが抑制されていることが確認できる。また、伸びが大きくなるほどこの傾向は顕著になる。
表5に軟化領域としわ抑制効果の関係を示す。板面内に圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向について、引張力が作用する領域であるつかみ部幅40mmのXに対し、軟化領域の幅方向寸法xがそれ以上の場合、つまり、両者の寸法比x/Xが100%以上の場合は、しわの抑制効果が大きい。
また、板面内に圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向について、引張力が作用する支点間の領域であるつかみ部間距離114mmのYに対し、軟化領域の長手方向寸法yはいずれも両者の寸法比y/Yが100%以下のため、破断は生じなかった。また、寸法比y/Yが30〜50%の条件では、しわの抑制効果が大きい。
[実施例3]
第3の試験として、前述の図4のパンチ形状の金型を使用したプレス成形試験にて、本発明のしわ抑制効果を検証した。
第3の試験では、金型は図4および図7に示すように、パンチ成形面5が二段形状となっているパンチ2と、この形状をオフセットさせた形状のダイ3と、パンチ2の周囲を取り囲むように配置され、ダイ3とブランクの周囲を挟むホルダ4からなる。パンチ2は、パンチ成形面5の平面視概寸法が、上段約170mm×約270mm、下段約200mm×約300mmであり、上段パンチ肩部6AがR16mm、下段パンチ肩部6BがR8mmであるものを用いた。また、ダイ3は、上段ダイ肩部7AがR10mm、下段ダイ肩部7BがR12mmであるものを用いた。第3の試験での成形高さは40mmとした。また、ダイ3およびホルダ4のしわ押さえ面8には、深さ3mmでホルダ4側に凸形状のビード9が形成されている。これら金型の材質はいずれもFCD550であり、表面に硬質クロムメッキを施してある。この金型をプレス能力300TONのプレス機にセットして試験を行った。
軟化領域は図15に示す3種類とした。軟化領域パターン1は、しわの軸方向(圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向)については、図7に示すY−Yの領域内になるように設定し、しわの幅方向(圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向)については、図6に示すX−Xの領域より大きくなるように設定した。また、軟化領域パターン2は、軟化領域パターン1よりもしわの軸方向および幅方向について狭い領域とした。さらに、軟化領域パターン3は、軟化領域を円形とし、しわの軸方向の寸法が図7に示すY−Yの領域より大きく、上段パンチ頭部の一部を含む領域とした。
続いて、プレス成形試験に供するブランクに施す軟化処理は、基本的には実施例1に記載した方法で行った。ただし、ここでは実施例2と同様に軟化領域の復元加熱のために、各軟化領域に相当する領域が凸部となった加熱冶具を作製し、前述の押付用上型の下面にねじ止めした。
プレス成形試験に使用するブランクの平面寸法は440mm×360mmであり、実施例1の試験番号6の供試材と軟化処理条件の組合せによって軟化処理を施した3種類のブランクと軟化処理を施していない未処理のブランクを作製した。
続いて、プレス成形試験の手順について述べる。ホルダ上に防錆油を適量塗ったブランクをセットした状態からダイを降下させることで、ダイとホルダでブランクの周囲を挟み、ブランクの周囲にはビードが形成される。この時、ホルダはプレス機のクッションピンによって支持されており、ホルダには設定したダイクッション荷重(DC荷重)が負荷される。次に、ブランクの周囲にDC荷重が負荷された状態でダイとホルダとブランクがパンチに向かって下降する。これによって、ブランクがパンチに接触して変形を受ける。そして、プレスのストロークが40mm下降した時点で成形終了となる。
DC荷重は、未処理のブランクにおいて領域Aにしわが発生する130kNとし、下死点までプレス成形した。全てのブランクは破断することなく成形できたが、パターン3では上段縦壁にくびれが発生した。
このようにして得られたプレス成形体のしわの状態を定量的に比較するために、成形体のしわ発生部である図4の領域Aの輪郭形状を測定した。具体的には、触針式CNC輪郭形状測定機を用いて図16に示すしわ測定ラインに沿って触針を走査し、輪郭形状をXY座標データとして測定した。そして、このXY座標データを水平面に対する角度分布に変換した。DC荷重130kNで成形した各成形体の輪郭形状を図17(A)に、角度分布を図17(B)に示す。また、角度分布において、図17(B)に示す評価区間における角度の最大値(θmax)と最小値(θmin)と差であるしわ角度レンジRを、R=|θmax|+|θmin|の式から算出してしわの程度を評価した。この結果を表6に示す。
軟化処理を施していない未処理のプレス成形体は、両側の角部付近が凸で中央が凹のうねった形状をしており、角度変化も大きい。一方、軟化処理をしたパターン1〜3のプレス成形体はうねりが押さえられており、角度変化も小さくなっている。しわ角度レンジRで比較した場合、パターン1〜3のいずれも値が小さくなっており、特にパターン1の効果が大きい。
また、非軟化処理領域も加熱することによるブランクの熱変形の抑制効果を確認するために、軟化処理における復元加熱前に全体を予加熱したブランクと、しなかったブランクの反り量を測定した。具体的には、図18に示すようにブランクの長手方向端部の片方に重石を乗せて固定し、もう一方の端部の反り量をハイトゲージで測定した。この結果を表7に示す。表7に示すように、軟化領域パターンによって軟化領域の形状や大きさが異なるため、各パターンによって反り量が異なるが、いずれも予加熱することで、つまり、非軟化処理領域も加熱することで反り量が大幅に低減している。
以上説明した本実施形態や実施例に係るアルミニウム合金製ブランクの製造方法により、破断に対する成形性を損なうことなく、プレス成形におけるしわの発生を効果的に抑制することができる。これによって、冷延鋼板に比べて劣っていたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の成形性が向上し、自動車ボディパネルの設計自由度が向上することで、アルミニウム合金板の自動車ボディパネルへの適用が容易になる。
また、軟化処理における加熱到達温度や昇温速度、保持時間、加熱終了後の冷却速度等の条件を適切に選択することで、Al−Mg−Si合金の優れた特徴である高い塗装焼付硬化性を具備することができる。その結果、前記ブランクをプレス成形することで得られるプレス成形体は、自動車製造工程における塗装焼付処理後に耐力値190MPa以上の高強度が得られ、材料の薄板化により軽量化とコストダウンが可能となる。更に軟化処理において、軟化領域以外の非軟化領域を復元温度未満に加熱することでブランクの熱変形を抑制することができ、プレス成形用ブランクとしての価値を損なうことが無い。
この発明は、上記実施形態や実施例に限定されず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、上述の実施形態および実施例では、パンチ形状が二つの段を有する金型について説明した。しかし、本発明はかかる形態に限定されるものではなく、様々な形状の金型に適用できる。例えば、図19(A)に示すようなパンチ形状が一段で縦壁が円弧状に湾曲したような形状の場合は、縦壁にしわが発生することがある。また、図19(B)に示すようなパンチ形状に急激な凹凸変化がある場合は、形状急変部のパンチ面上および縦壁にしわが発生することがある。また、図19(C)に示すようなパンチ頭頂面に凹部が存在する場合は、凹部隅部のパンチ頭頂面上にしわが発生することがある。このようなしわ発生部についても、本発明に記載した軟化処理によって部分的に低耐力とすることで、しわの発生を抑制することができる。
1……ブランク
2……パンチ
3……ダイ
4……ホルダ
5……パンチ成形面
6、6A、6B……パンチ肩部
7、7A、7B……ダイ肩部
8……しわ押さえ面
9……ビード
10……3点式ダイヤルゲージ
11……プレス成形体
21……スライドプレート
22……ボルスタ
23……クッションピン
24……押付用上型
25……押付用下型
26……ヒータ
27……硬質断熱材
28……加熱冶具
28a……凸部
29……軟化領域
30A、30B……加熱体
32……取り付け用穴
33……軟質断熱材

Claims (13)

  1. プレス成形を施してプレス成形体を製造するためのアルミニウム合金製ブランクを製造する方法であって、
    時効硬化したAl−Mg−Si系のアルミニウム合金板を用意する工程と、
    前記アルミニウム合金板のうちの一部の領域を、強度を低下させる軟化領域と予め定めておき、該軟化領域を200℃以上580℃以下の加熱到達温度まで加熱する加熱工程と、
    前記加熱した軟化領域を100℃以下まで冷却する冷却工程と、
    を含むことを特徴とするアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  2. 前記軟化領域は、前記プレス成形の成形過程において前記アルミニウム合金板の板面内にしわの原因となる圧縮成分の主応力が発生する領域を内側に含む、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  3. 前記軟化領域は、前記圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向に直交する方向について、該引張力が作用する領域よりも広い領域である、
    ことを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  4. 前記軟化領域は、前記圧縮成分の主応力を発生させる引張力の作用方向について、該引張力が作用する支点間の領域よりも狭い領域である、
    ことを特徴とする請求項2又は3に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  5. 前記加熱工程では、到達温度を200℃以上300℃以下とし、100℃から加熱到達温度までの前記アルミニウム合金板の昇温速度を5℃/秒以上とし、
    前記冷却工程では、100℃以下までの前記アルミニウム合金板の冷却速度を5℃/秒以上とし、
    前記アルミニウム合金板の前記加熱工程による加熱到達温度での保持時間を20秒間以下とする、
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  6. 前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板のうち、前記軟化領域でない領域を非軟化領域として定め、該非軟化領域を100℃以上200℃未満の加熱到達温度まで加熱し、前記軟化領域を200℃以上300℃以下の加熱到達温度まで加熱し、前記加熱工程および前記冷却工程を通して前記アルミニウム合金板が100℃以上に滞留する時間を2分以内とする、
    ことを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム合金板ブランクの製造方法。
  7. 前記加熱工程では、前記軟化領域の加熱到達温度と前記非軟化領域の加熱到達温度の差を50℃以上200℃以下とする、
    ことを特徴とする請求項6に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  8. 前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板全体に100℃以上200℃未満の到達温度までの予加熱を施した後に、前記軟化領域にのみ200℃以上300℃以下の加熱到達温度まで加熱を施す、
    ことを特徴とする請求項6又は7に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  9. 前記加熱工程では、前記アルミニウム合金板における軟化領域と非軟化領域を加熱する加熱体の温度をそれぞれ制御し、当該加熱体を接触させることによって前記アルミニウム合金板全体を加熱する、
    ことを特徴とする請求項6又は7に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  10. 前記アルミニウム合金板を用意する工程では、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板を溶体化処理し、該溶体化処理したAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に対して、常温時効と100℃以下の人工時効の少なくとも一方を行うことにより前記アルミニウム合金板を用意する、
    ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  11. 前記アルミニウム合金板は、Mg:0.2〜1.5mass%、Si:0.3〜2.0mass%を含有し、Fe:0.03〜1.0mass%、Zn:0.03〜2.5mass%、Cu:0.01〜1.5mass%、Mn:0.03〜0.6mass%、Zr0.01〜0.4mass%、Cr0.01〜0.4mass%、Ti0.005〜0.3mass%及びV:0.01〜0.4mass%のうち1種又は2種以上を更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる、
    ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法。
  12. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製ブランクの製造方法を用いてアルミニウム合金製ブランクを用意する工程と、
    用意したアルミニウム合金製ブランクにプレス成形を施すプレス工程と、
    を含み、
    前記プレス工程では、前記アルミニウム合金製ブランクの内、プレス工程完了後に製品となる部分に2%以上のひずみが導入される、
    ことを特徴とするアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法。
  13. 前記プレス成形を施したアルミニウム合金製ブランクに対して、170〜185℃で20〜30分間の人工時効硬化処理を施す成形後時効工程を、
    更に含むことを特徴とする請求項12に記載のアルミニウム合金製プレス成形体の製造方法。
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