図1は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶素子101の概略断面図である。
光偏向液晶素子101は、液晶層側の表面にミクロンからサブミクロンオーダーの微細形状(例えば、微細な凹凸形状)パターンが形成され、入射光線を一定の回折角で回折させることにより、該入射光線を曲げることが可能な液晶素子である。
光偏向液晶素子101は、一対のガラス基板11及び21、一対のガラス基板11及び21間に挟持される液晶層15、ガラス基板11上に形成された微細形状パターン4、一対のガラス基板11及び21にそれぞれ形成された透明電極12及び22、透明電極12及び22上にそれぞれ形成された配向膜13及び23、ギャップコントロール剤14、メインシール剤16を含んで構成される。
以下、光偏向液晶素子101の製造方法の一例を説明する。まず、片側のガラス基板(研磨ガラス)11の表面に微細形状パターン(例えば、回折格子となる凹凸パターン)4を形成する。
微細形状パターン4の形成には様々な方法が考えられるが、例えば、精密な形状を形成した金型を作製し、その形状を反転転写して基板11上に微細形状を形成することができる。この場合、まず基板11上に耐熱性、耐光性に優れたアクリル系紫外線硬化樹脂(UV硬化性樹脂)を所定量滴下し、その上に金型を配置し、厚手の石英部材などを基板11の裏側に配置して平面性を補強した状態でプレスを行う。プレス後、1分以上放置し、UV硬化性樹脂を十分広げた後、基板11の裏側(石英側)から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させる。紫外線の照射量は20J/cm2とした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。これにより、例えば、図2のSEM写真に示すようなライン状のグレーティング(回折格子)となる微細形状パターン4を基板11上に形成することができる。
なお、金型は電子線などによりパターンを形成したものを用いることができる。また、金型を用いずに直接基板11上に電子線を当ててパターンを形成することもできる。
また、上述のように、最後まで残る材料に微細形状パターン4を形成する以外にも、レジスト材料に微細形状パターンを転写し、そのレジストパターンを用いてガラス基板11をエッチングして微細形状パターン4を形成してもよい。この場合、エッチング材料(例えば、ドライエッチングの場合はプラズマ化したエッチングガス)がレジスト及びガラスなどの基板材料をエッチングする速度に注意が必要である。
レジストのエッチング速度がガラスよりも速い場合、レジストに形成された微細形状よりも凹凸の差が小さい微細形状パターンがガラス基板11上に形成される傾向がある。一方、レジストのエッチング速度がガラスよりも遅い場合、レジストに形成された微細形状よりも凹凸の差が大きい微細形状パターンがガラス基板11上に形成される傾向がある。
微細形状パターン4の光学設計は、上記金型を用いる場合及びレジストを用いる場合等のいずれにおいても、例えば、市販の回折光学設計ツール(ソフトウェア)を用いて計算することにより行うことができる。この計算には、光源の情報(ニアフィールド、ファーフィールド)と、結果として得たい光学像(出力形状分布、輝度分布)情報、微細形状パターン4周辺の条件(液晶の屈折率、微細形状パターン4の屈折率、透明電極12の厚さ等)を入力し、シミュレーションすることで最適な位相分布を得ることができる。それを元に、必要な微細形状を決定し、ミクロンオーダーもしくはサブミクロンオーダーの微細形状分布を形成し、光を照射したときの屈折率の分布を得る。
次に、形成した微細形状パターン4上に所定のパターンの透明電極12を形成する。本実施例では、インジウムスズ酸化物(ITO)を用いて透明電極12を形成するが、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の別の金属酸化膜や金などの薄膜金属等を用いることもできる。また、厚さは20nmのITOを用いるが、微細形状パターン4の深さや基板11の大きさなどを考慮して透明電極12の厚さを決めることが望ましい。透明電極12の厚さはなるべく薄いことが望ましく、厚くなる場合には予め透明電極12の厚さを考慮して微細形状パターン4の設計を行うことが望ましい。
なお、本実施例では、微細形状パターン4上に透明電極12を形成するが、基板11上に透明電極12を形成し、その上に微細形状パターン4を形成するようにしてもよい。微細形状パターン4の下に透明電極12を形成する場合、微細形状パターン4を耐熱性の樹脂で形成する必要がなくなる。
また、もう一方のガラス基板(対向基板)21上にも、ITOを用いて透明電極22を形成する。透明電極22は、例えば、厚さ150nmであり、所望の平面形状にパターニングされている。
次に、微細形状パターン4が形成された基板11及び対向基板21を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥を順に行うことで可能であるが、これに限るものではない。例えば、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
本実施例で用いた微細形状パターン4は、拡大すると図2のSEM写真に示すようなライン状のグレーティング形状をしており、その分布は一方向(写真では縦方向)に微小な溝が掘られている状態である。
従来、微小な溝構造により液晶分子が配向することが知られているが、その配向規制力は比較的弱い(アンカリングエネルギーが低い)こともわかっている。したがって、微細形状パターン4の溝の形状のみで均一配向を得ることは一般には難しいとされている。
本実施例では、微細形状パターン4が形成された基板11にポリイミド等からなる配向膜13を形成する。この時、なるべく配向膜13の膜厚を薄くして形成することが望ましく、微細パターン4の深さや基板11の大きさなどを考慮して配向膜13の膜厚を決めることが望ましい。また、配向膜13の膜厚が厚くなる場合には、当該膜厚を考慮して微細パターン4の設計を行うことが望ましい。配向膜13の形成方法は、例えば、ポリイミド配向膜をスピンコート法にて厚さ30nm形成し、180℃で1.5時間焼成を行う。また、対向基板21にも、ポリイミド配向膜からなる配向膜23を形成する。例えば、フレキソ印刷法で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行う。なお、ここで用いる配向膜は、特に限定されないが、アンカリング強度(液晶への吸着力を含む)が強い材料であることが望ましい。具体的には、ツイステッド・ネマチック(TN)やイン・プレーン・スイッチング(IPS)用に用いられているポリイミド系の材料の配向膜を用いることが望ましい。
配向膜13及び23の焼成後に、配向処理としてラビングを実施する。ラビング条件、ラビング方向については、特に規制はないが、ストロングアンカリング条件が望ましい。例えば、本実施例では、基板11の配向膜13に対しては、微細形状パターン4の微小溝の延在方向と直交する方向(図2における横方向)にラビング処理を行う。また、対向基板21の配向膜23に対しては、配向膜13に対するラビング方向と平行(アンチパラレル方向)になるようにラビング処理を行う。
次に、片側のガラス基板(例えば、微細形状パターン4が形成された基板11)上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜3wt%含んだメインシール剤16を形成する。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。例えば、ギャップコントロール剤として径が5μmのプラスチックファイバーを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に2wt%添加して、メインシール剤16とする。
もう一方のガラス基板(例えば、対向基板21)上には、ギャップコントロール剤14として径が5μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布する。
次に、両ガラス基板11、21の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行う。
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成する。本実施例では、液晶として、Δεが正でΔn=0.298のものを用いることができる。液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止する。封止後、120℃で30分程度の熱処理を行い、液晶の配向状態を整える。
再配向処理を行うには界面の液晶分子を界面吸着から解き放つためのエネルギー(ここでは熱エネルギー)が必要である。ここで必要なエネルギーは微細形状材料や配向膜材料等の界面膜、液晶材料によって異なるが、概ね液晶の等方相転移温度以上である。
なお、配向膜13に対しては、配向処理を行わないこともできるが、その場合には、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行う必要がある。なぜならば微細形状パターン4の配向規制力はそれほど強くなく、液晶注入時の液晶の流れの影響を受ける方向に配向(流動配向)する現象が見られる。これを解消するために、高温処理を行い、液晶を一旦等方相温度以上にすることで流動配向を消去して本来の光配向に起因した方向に再配向させることができる。しかし、この方法では液晶を注入してから時間がたってしまうと流動配向が安定してしまい、多少の熱処理では完全に消去できなくなる(これを配向のメモリー性と呼ぶ)。したがって、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行うことが望ましく、可能であれば3時間以内、遅くとも24時間以内に熱処理を行うことが望ましい。
なお、第1の実施例による光偏向液晶素子101では、微細形状パターン4を屈折率が1.5程度のUV硬化性樹脂で形成した。また、実施例では、異常光屈折率(ne)が1.8程度を示し、常光屈折率(no)が1.5程度を示す液晶を用いる。つまり、微細形状パターン4を構成するUV硬化性樹脂の屈折率は、液晶の常光屈折率(no)と同等である。なお、本明細書において、第1の材料の屈折率と第2の材料の屈折率との差が、第1の材料の屈折率または第2の材料の屈折率に対して3%以内(より好ましくは2%以内)であるとき、両材料の屈折率が同等であるとする。
すなわち、光偏向液晶素子101では、液晶に印加する電圧がONの場合には、液晶の屈折率と微細形状パターン4を構成する材料の屈折率とが同等となるので、液晶層15と微細形状パターン4との界面には光学的界面ができずに、該界面を通過する光は直進するが、液晶に印加する電圧がOFFの場合には、液晶の屈折率と微細形状パターン4を構成する材料の屈折率とに屈折率差が生じるので、液晶層15と微細形状パターン4との界面には光学的界面ができ、該界面を通過する光は曲げられる。つまり、微細形状パターン4を構成する材料の屈折率と印加電圧により変化する液晶の屈折率との屈折率差に応じて光偏向液晶素子101を通過する光の回折状態が変化し、配光(角度)が制御される。
なお、UV硬化性樹脂及び液晶の屈折率は上記以外のものでもよい。例えば、微細形状パターン4を構成するUV硬化性樹脂の屈折率を異常光屈折率(ne)と同等のものとしてもよいし、異常光屈折率(ne)と常光屈折率(no)との平均的な値(ne+no)/2)と同等のものとしてもよい。
本発明者は、第1の実施例による光偏向液晶素子101を実際に作製し、光源と組み合わせることにより、配光制御の実験を行った。
図3(A)は、光源51、光偏向液晶素子101及びスクリーン53の配置を表す模式図である。図3(B)は、図3(A)の配置で配光制御を行った結果の投影像の状態を表す概念図である。
図3(A)に示すように、光偏向液晶素子101の背面にLED等の光源51を配置し、電圧供給装置52により光偏向液晶素子101へ印加する電圧を制御することにより、光偏向液晶素子101を通過してスクリーン53に投影される光源51からの光を図中一点差線で示すように左右方向に曲げることができた。
図3(B)に示すように、電圧供給装置52から光偏向液晶素子101へ印加する電圧をON(10V程度)にした場合、投影像60Cは1つのスポットになった状態に制御できた。ここで、電圧供給装置52から光偏向液晶素子101へ印加する電圧をOFF(0V)にした場合、投影像が水平方向に、中心の投影像61C、左右の投影像62L及び62Rの3つに分かれた状態に制御できた。なお、この時左右の投影像62L及び62Rは、中心の投影像61Cに対して左右方向に5°程度曲げられていることが確認できた。
なお、中間電圧を印加した場合には、光が曲がる角度はほとんど変化せず、光量のみが変化した。これは、本実施例では、微細形状パターン4として微細な凹凸パターン(グレーティング)を形成したので、光偏向液晶素子101では回折角はグレーティングのピッチ等により一定値に決まってしまうためであると考えられる。
なお、電圧OFF時では、左右の投影像62L及び62Rにおいて色分離が確認された。この時、それぞれの投影像62L及び62Rにおいて、中心に近い部分は青色(回折角が小さい)、中心から離れている部分は赤色(回折角が大きい)であることが分かった。
また、電圧OFF時に3つのスポットに分かれた光(投影像61C、62L、62R)のそれぞれの偏光状態を確認すると、中心の投影像61Cと左右の投影像62L及び62Rとで偏光方向が直交していることが分かった。
そこで、図4(A)に示すように、光偏向液晶素子101と光源51との間に偏光板54を配置して、再度実験を行った。図4(B)に示すように、偏光板54の透過軸を縦にした(微細形状パターン4の微小溝の長手方向に平行にした)時は、電源OFF時にも、左右の投影像62L及び62Rが消えて中心の投影像61C(0次光)だけとなった。一方、偏光板54の透過軸を横にした(微細形状パターン4の微小溝の長手方向に直交させた)時は、電源OFF時に、中心の投影像61Cが消え、左右の投影像62L及び62R(1次光)だけとなった。
このように、偏光板54を光偏向液晶素子101と光源51との間に配置することにより、電気的に一定の偏光方向の光を曲げることが可能となる。なお、光偏向液晶素子101を2枚組み合わせることにより、全ての偏光方向の光を曲げることも可能となる。また、微細形状パターン4を適宜設計することにより、光源51の光を左右方向ではなく左又は右の一方向にだけ曲げるようにすることも可能である。さらに、光を曲げる方向は左右に限らず上下や斜め方向であってもよい。また、任意形状に光を曲げることも可能である。
なお、微細形状パターン4を有する光偏向液晶素子101のみで光を曲げる場合、上述したように、曲げられた光に色分離が観察される。本発明者は、マイクロプリズムを用いた屈折の場合の色分離の傾向を、微細形状パターン4を有する光偏向液晶素子101における色分離の傾向と逆に設定できることに着目し、第2の実施例として、微細形状パターン4を有する光偏向液晶素子101に、図5に示すマイクロプリズム3を有する光偏向液晶素子102を組み合わせて、色分離を打ち消すことが可能な光学系を作製することとした。
図5は、本発明の第2の実施例で用いるマイクロプリズム3を有する光偏向液晶素子102を概略的に示す厚さ方向断面図である。
光偏向液晶素子102は、液晶層側の表面に数ミクロンから数十ミクロンピッチの大きさのマイクロプリズム3が形成され、入射光線を屈折させることが可能な液晶素子である。
光偏向液晶素子102は、一対のガラス基板11及び21、一対のガラス基板11及び21間に挟持される液晶層15、ガラス基板11上に形成されたマイクロプリズム3、一対のガラス基板11及び21にそれぞれ形成された透明電極12及び22、透明電極12及び22上にそれぞれ形成された配向膜13及び23、ギャップコントロール剤14、メインシール剤16を含んで構成される。以下に、光偏向液晶素子102の製造方法を説明する。
まず、透明電極が形成された一対のガラス基板(透明電極12が形成されたガラス基板11、及び、透明電極22が形成されたガラス基板21)を用意した。ガラス基板11、21は、それぞれ、厚さ0.7mmtであり、材質は無アルカリガラスである。透明電極12、22は、それぞれ、厚さ150nmであり、材質はインジウムスズ酸化物(ITO)であり、所望の平面形状にパターニングされている。
片側のガラス基板11の透明電極12上に、マイクロプリズム3を形成した。マイクロプリズム3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば30μm〜40μm程度である。
図6は、マイクロプリズム3の概略斜視図であり、右上部分にプリズム3aの断面形状の拡大図を示す。各プリズム3aは、頂角約75°、底角が約15°及び約90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(この方向を、プリズム幅方向と呼ぶこととする)に並んでいる。プリズム3aの高さは約5.2μmであり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は約20μmである。
プリズム3aの方向は、中心部を境に図中左右両端に斜面が向くようになっている(本実施例では、マイクロプリズム3が中心部を境に左右対称形となっている)。これにより、マイクロプリズム3に入射した光を2方向に曲げることが可能となる。
次に、マイクロプリズム3の作製方法について説明する。マイクロプリズム3の型が形成され、離型剤もしくはコーティング剤付きのプリズム金型上に、所定量のアクリル系紫外線硬化樹脂(UV硬化性樹脂)を精密なディスペンサを用いて滴下し、その上の所定位置に、ガラス基板11(縦150mm×横150mm×厚さ0.7mmt)の透明電極12を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行う。ここで、すぐに基板11を金型に押し付けてしまうとマイクロプリズム3に気泡が残留してしまう(例えば、大きさ50〜200μmφ程度の気泡残留)ので、時間をかけて気泡を逃しながら少しずつ押し込むようにする。こうすることで、樹脂と金型パターンの間に気泡のない状態で樹脂を広げることが可能である。この時、周囲の気圧が低いことが望ましく、気圧が低いほど押し込む速度を早くすることができる。周囲の気圧を概ね20Torr以下にすれば、押し込み速度を気にせず重ね合わせることが可能である。
プレスして1分以上放置し、UV硬化性樹脂を十分広げた後、ガラス基板11の裏側から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させる。紫外線の照射量は2J/cm2とする。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、ITOは紫外線を吸収するため、透明電極の膜厚が変われば紫外線照射量も変える必要があろう。
UV硬化性樹脂の硬化後、石英、プレス治具などを取り外し、マイクロプリズム3が形成されたガラス基板11を押し上げることにより、プリズム金型から剥離する。なお、マイクロプリズム3の大きさは、UV硬化性樹脂の滴下量を調整することにより行う。滴下量を調整してプリズム形成領域全体のうちの必要な領域にマイクロプリズム3を形成する。
なお、本実施例では、透明電極12の上にマイクロプリズム3を形成するが、基板11上にマイクロプリズム3を形成し、その上に透明電極12を形成するようにしてもよい。その場合、絶縁膜であるマイクロプリズム3を介さずに液晶に電圧を印加することができるため望ましいともいえるが、マイクロプリズム3を介して電圧を印加する場合でも、数Vで光制御を行うことができるため、ITOがマイクロプリズム3の下に形成されていても実用上は問題がなく、マイクロプリズム3を耐熱性の樹脂で形成する必要がなくなるという利点がある。
図5に戻る。次に、マイクロプリズム3が形成された基板11及び対向基板21を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、IR乾燥を順に行うことで可能であるが、これに限るものではない。例えば、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
マイクロプリズム3上、及びもう一方のガラス基板21の透明電極22上に、ポリイミド等により配向膜13及び23を形成する。なお、マイクロプリズム3上の配向膜13は省略可能である。ここでは、日産化学製のSE−130をフレキソ印刷法で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行う。なお、ここで用いる配向膜は、特に限定されないが、アンカリング強度(液晶への吸着力を含む)が強い材料であることが望ましい。具体的には、TNやIPS用に用いられているポリイミド系の材料の配向膜を用いることが望ましい。
焼成後、配向膜23に配向処理としてラビングを行った。配向膜23のラビング方向は、マイクロプリズムパターンと平行(アンチパラレル配向)になるように、図6に示す方向xで、プリズムの山が延在する方向(以下、単にプリズム方向と呼ぶ)と平行に液晶分子の長軸方向が並ぶように行う。なお、本明細書では、プリズム方向と平行に液晶分子の長軸方向が並ぶような処理を行ったものをプリズム方向と定義する。なお、配向膜13に対してもラビングを行う場合には、配向膜23のラビング方向に対してアンチパラレル配向となるように行うことが望ましい。
次に、マイクロプリズム3を形成した側のガラス基板11上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜3wt%含んだメインシール剤16を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。例えば、ギャップコントロール剤として径が5μmのプラスチックファイバーを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に2wt%添加して、メインシール剤16とする。
もう一方のガラス基板(例えば、対向基板21)上には、ギャップコントロール剤14として径が5μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布する。
次に、両ガラス基板11、21の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行う。
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成する。本実施例では、液晶として、Δεが正でΔn=0.298のものを用いることができる。液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止する。封止後、150℃で1時間程度の熱処理を行い、液晶の配向状態を整える。なお、配向膜23に対して配向処理を施さない場合には、光偏向液晶素子101の場合と同様に、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行う必要がある。
実施例の光偏向液晶素子においては、電圧無印加状態で(電圧OFF時)、液晶分子の長軸がプリズム長さ方向に沿い、電圧印加により(電圧ON時)、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる。光偏向液晶素子102では、マイクロプリズム3を屈折率が1.5程度のUV硬化性樹脂で形成し、異常光屈折率(ne)が1.8程度を示し、常光屈折率(no)が1.5程度を示す液晶を用いる。つまり、マイクロプリズム3を構成するUV硬化性樹脂の屈折率は、液晶の常光屈折率(no)と同等である。
すなわち、光偏向液晶素子102では、液晶に印加する電圧がONの場合には、液晶の屈折率とマイクロプリズム3を構成する材料の屈折率とが同等となるので、液晶層15とマイクロプリズム3との界面には光学的界面ができずに、該界面を通過する光は直進するが、液晶に印加する電圧がOFFの場合には、液晶の屈折率とマイクロプリズム3を構成する材料の屈折率とに屈折率差が生じるので、液晶層15とマイクロプリズム3との界面には光学的界面ができ、該界面を通過する光は曲げられる。つまり、光偏向液晶素子102では、マイクロプリズム3を構成する材料の屈折率と印加電圧により変化する液晶の屈折率との屈折率差に応じて光偏向液晶素子102を通過する光の屈折状態が変化し、配光(角度)が制御される。
なお、UV硬化性樹脂及び液晶の屈折率はこれ以外のものでもよいが、光偏向液晶素子101と組み合わせて用いるため、光偏向液晶素子101において光が曲がる角度、方向等を考慮して設計する必要がある。
本発明者は、光偏向液晶素子102を実際に作製し、光偏向液晶素子101と同様に、まず光偏向液晶素子102単体で光源と組み合わせることにより、配光制御の実験を行った。
図7(A)は、光源51、光偏向液晶素子102及びスクリーン53の配置を表す模式図である。図7(B)は、図7(A)の配置で配光制御を行った結果の投影像の状態を表す概念図である。
図7(A)に示すように、光偏向液晶素子102の背面にLED等の光源51を配置し、電圧供給装置52により光偏向液晶素子101へ印加する電圧を制御することにより、光偏向液晶素子102を通過してスクリーン53に投影される光源51からの光を図中一点差線で示すように左右方向に曲げることができた。
図7(B)に示すように、電圧供給装置52から光偏向液晶素子102へ印加する電圧をON(10V程度)にした場合、投影像60Cは1つのスポットになった状態に制御できた。ここで、電圧供給装置52から光偏向液晶素子102へ印加する電圧をOFF(0V)にした場合、投影像が水平方向に、中心の投影像62C、左右の投影像61L及び61Rの3つに分かれた状態に制御できた。なお、この時左右の投影像61L及び61Rは、中心の投影像62Cに対して左右方向に5°程度曲げられていることが確認できた。なお、中間電圧を印加した場合には、中心の投影像62Cから左右に少し光の帯が伸びたような状態が確認できた。光偏向液晶素子102は、電圧により徐々に光を曲げる角度を変えることができることがわかる。
また、電圧OFF時では、左右の投影像61L及び61Rにおいて色分離が確認された。この時、それぞれの投影像61L及び61Rにおいて、中心に近い部分は赤色(屈折角が小さい)、中心から離れている部分は青色(屈折角が大きい)であることが分かった。
また、電圧OFF時に3つのスポットに分かれた光(投影像62C、61L、61R)のそれぞれの偏光状態を確認すると、中心の投影像62Cと左右の投影像61L及び61Rとで偏光方向が直交していることが分かった。
そこで、図8(A)に示すように、光偏向液晶素子102と光源51との間に偏光板54を配置して、再度実験を行った。図8(B)に示すように、偏光板54の透過軸を縦にした(マイクロプリズム3の長手方向に平行にした)時は、電源OFF時に、中心の投影像62Cが消え、左右の投影像61L及び61Rだけとなった。一方、偏光板54の透過軸を横にした(マイクロプリズム3の長手方向に直交させた)時は、電源OFF時にも、左右の投影像61L及び61Rが消えて中心の投影像62Cだけとなった。
この図8(B)に示す実験結果と、図4(B)に示す実験結果とをあわせて考察すると、光偏向液晶素子101と光偏向液晶素子102とでは、色分離の傾向が逆であり、曲げることが可能な偏光方向が直交していることが分かった。そこで、図9(A)に示すように、光偏向液晶素子101と光偏向液晶素子102とを重ね合わせることにより、色分離をなくすとともに、全ての偏光方向の光を曲げられる光学系200を作製した。
図9(A)は、本発明の第2の実施例による光学系200の配置を表す模式図である。
本実施例による光学系200は、光源51とその後段に配置される光偏向液晶素子101と光偏向液晶素子102との積層を含んで構成される。図9(A)は、光源51からの光が光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102を通過してスクリーン53に投射される様子を示している。なお、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102への印加電圧は電圧供給装置(駆動回路)52により制御される。また、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102の積層順に制限はなく、どちらを光源51に近い側としてもよい。なお、光源51に対して、微細形状パターン4やマイクロプリズム3を形成する位置は、光源51側でも逆側(照射面側)でもよい。
光学系200は、LEDなどの非偏光の光源51からの白色光(自然光)を、そのまま(曲げずに)通したり、左右の2つの光に分離したり(左右に曲げたり)することができる。なお、光源51としては、LEDのほか、例えば、HIDランプ、電界放射(FE)光源、蛍光灯等が考えられる。
光学系200は、例えば、一般照明、ストロボ、舞台照明等の一般照明、自動車用前照灯、テールランプ等のヘッドランプで用いられる光学系である。また、ディスプレイ用のバックライトや遊技機器の照明等にも使用可能である。
光学系200の光偏向液晶素子101の微細形状パターン4は、液晶の異常光屈折率と微細形状パターン4の構成材料の屈折率を考慮して回折角などを光学設計する。光偏向液晶素子102は、光偏向液晶素子101の回折角にマイクロプリズム3で屈折できる角度(屈折角)を一致させるように、液晶の異常光屈折率とマイクロプリズム3の構成材料の屈折率を考慮して設計する。なお、光偏向液晶素子102の屈折角に光偏向液晶素子101の回折角を一致させるようにしても良い。
光偏向液晶素子101の回折角と光偏向液晶素子102の屈折角とを一致させる設計において、光源51の波長が単一波長の場合はピーク波長での角度を一致させ、波長が幅広い場合はその中心波長に合わせて設計する。例えば、可視光の場合は、540〜560nm付近の波長に対し設計を行う。
図9(B)は、図9(A)の配置による光学系200で配光制御を行った結果の投影像の状態を表す概念図である。
図9(B)に示すように、電圧供給装置52から光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102へ印加する電圧をON(10V程度)にした場合、投影像60Cは1つのスポットになった状態に制御できた。ここで、電圧供給装置52から光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102へ印加する電圧をOFF(0V)にした場合、投影像が水平方向に、左右の投影像60L及び60Rの2つに分かれた状態に制御できた。なお、この時左右の投影像60L及び60Rは、中心の投影像60Cに対して左右方向に5°程度曲げられていることが確認できた。
なお、電圧OFF時でも、左右の投影像60L及び60Rにおいて色分離が確認されなかった。これは2つの液晶素子(光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102)それぞれにおいて波長に対する曲がる角度の関係が相殺される関係になっており、結果として色分離が目立たなくなるためであると考えられる。この構成によれば、光源51の光をほとんど損失することなく、また白色光という非常に波長範囲の広い光を色分離を発生させることなく、電気的に配向制御することが可能となる。
また、中間電圧を印加した場合には、光偏向液晶素子102は電圧により徐々に光を曲げる角度を変えることができる一方で、光偏向液晶素子101は電圧により光量は変化するものの光を曲げる角度はほとんど変化しないので、色分離が観察される。光の状態をそれぞれの液晶素子で特徴的に変化させることができるため、色分離が起こっても問題がない場面では使用可能であろう。
なお、光学系200に用いる光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102は同一方向に光を曲げられるように設定されており、図9(B)に示す例では、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102の両者とも左右に光を曲げるように設定されている。
また、光を曲げる角度は、光偏向液晶素子101で光を曲げることのできる角度をθ1とし、光偏向液晶素子102で光を曲げることのできる最大角度をθ2とした場合、θ1≦θ2となるように設定する必要がある。これは、光偏向液晶素子101で光を曲げることのできる角度θ1は原理上一定であるのに対して、光偏向液晶素子102で光を曲げることのできる角度は、印加電圧を制御することにより0°から最大角度θ2まで連続的に変化させることが可能であるからである。
また、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102は、光を曲げることのできる偏光方向が直交するように設計される。すなわち、光偏向液晶素子101の微細形状パターン4と液晶層15との界面における液晶配向方向と、光偏向液晶素子102のマイクロプリズム3と液晶層15との界面における液晶配向方向とが互いに直交するように、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102を積層する。
また、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102のセルギャップ(液晶層15の厚さ)は同一でもよいし、異なっていてもよい。但し、セルギャップが大きく異なると、それぞれの素子の応答速度が異なってしまうので、その観点からはセルギャップを同一又はほぼ同一とすることが好ましい。なお、応答速度以外の性能はセルギャップが変わってもほとんど変化しない。
また、光偏向液晶素子101及び光偏向液晶素子102で用いる液晶は同一のものでも別のものでもよい。特に屈折角や1次回折角を液晶材料により調整することができるため、それぞれの素子により曲げられる角度が変わる場合にはΔnの異なる液晶材料を注入して調整してもよい。なお、液晶の注入方法は真空注入に限らず、例えばOneDrop Fill(ODF)法を用いてもよい。ODFで作製した場合、注入口のない素子ができる。小型素子の場合には特に生産性に優れるという利点がある。
なお、上述の実施例では、微細形状パターン4又はマイクロプリズム3を形成する側のガラス基板11に配向膜13を形成し、配向処理を行ったが、配向膜13又は配向膜13に対する積極的な配向処理を省略することもできる。この場合にも均一配向が得られることが確認できた。この場合、対向基板21側の配向膜23に対しては、ラビングなどの積極的配向処理を行うことが望ましい。
微細形状パターン4及びマイクロプリズム3に方位角的な異方性がある場合には、その異方性により液晶分子が並びやすい方向を実験などにより確認し、対向基板21側の配向膜23に行う配向処理の方向は液晶中にカイラル材を添加しない場合は、微細形状パターン4及びマイクロプリズム3により液晶分子が並びやすい方向と重ね合わせたときに平行になるように実施することが望ましい。また、カイラル材を添加する場合は、添加するカイラル材の自然ピッチと液晶素子のセル厚との関係により得られる上下基板間のねじれ角を考慮し、微細形状パターン4及びマイクロプリズム3により液晶分子が並びやすい方向からねじれ角分だけずらした方向に配向処理を行うことが望ましい。なお、上述の実施例では、配向処理としてラビングを行ったが、光配向を用いてもよい。
なお、上述の実施例では、左右の投影像60L及び60Rは、中心の投影像60Cに対して左右方向に5°程度曲げられるようにしたが、この角度はこれに限るものではない。左右に光が曲がる角度を小さくして、例えば、図10に示すように、電圧OFF時には2つの投影像に分けるのではなく、1つの横長の投影像となるようにしてもよい。また、光の曲がる方向は左右に限らず上下や斜め方向でもよい。さらに、光源51の光を2つに分割するのではなく、左右又は上下等の1つの方向のみに光を曲げるようにしてもよい。この場合、例えば、図11に示すように、マイクロプリズム3の形状をプリズム3aの全てが一方向に向いて並ぶようにし、微細形状パターン4も1次光が一方向のみに回折するように光学設計する。
以上、本発明の実施例によれば、光源51の光を光偏光液晶素子101又は光学系200により、機械的な作動部なしに、電圧オフとオンとで曲げることができる。機械的な動作部がないので、小型軽量化が可能であり、信頼性も向上する。さらに、消費電力も極めて少なくすることが可能である。
また、光を回折させる光偏光液晶素子101と屈折させる光偏光液晶素子102とを組み合わせることにより、それぞれの素子で光を曲げたときに起こる色分離を打ち消すことが可能となる。したがって、白色LEDをはじめとする様々な光源に対し、色分離することなく配光制御可能な光学系を提供することができる。
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。