JP2013253315A - 二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、C:0.10質量%以下、Si:0.1〜2.0質量%、Mn:0.1〜2.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.03質量%以下、Al:0.005〜0.050質量%、Cr:18.0〜29.0質量%、Ni:1.0〜10.0質量%、Mo:2.5〜6.0質量%、Sn:0.001〜0.30質量%、N:0.16〜0.50質量%、かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が1〜400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
前記のように、二相ステンレス鋼管は、鋼管を二相ステンレス鋼材で構成することによって、鋼管表面に形成される不働態皮膜の安定性が高まるため、局部腐食を大幅に抑制できる。
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施形態について詳細に説明する。
本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、C、Si、Mn、P、S、Al、Cr、Ni、Mo、Sn、Nを所定量含有し、かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が所定範囲であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。以下、各構成について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相の二相からなるものである。フェライト相とオーステナイト相からなる二相ステンレス鋼材においては、CrやMoなどのフェライト相安定化元素はフェライト相に濃縮し、NiやNなどのオーステナイト相安定化元素はオーステナイト相に濃縮する傾向にある。このとき、フェライト相のオーステナイト相に対する面積率が30%未満または70%を超える場合には、Cr、Mo、Ni、Nなどの耐食性に寄与する元素のフェライト相とオーステナイト相における濃度差異が大きくなりすぎて、フェライト相とオーステナイト相のいずれか耐食性に劣る側が選択腐食されて耐食性が劣化する傾向が大きくなる。したがって、フェライト相とオーステナイト相との面積率も最適化することが推奨され、フェライト相の面積率は、耐食性の観点から30〜70%が好ましく、40〜60%がさらに好ましい。このようなフェライト相とオーステナイト相の面積率は、フェライト相安定化元素とオーステナイト相安定化元素の含有量を調整することによって適正化することが可能である。
(C:0.10質量%以下)
Cは、鋼材中でCrなどとの炭化物を形成して耐食性を低下させるため、有害な元素である。Cの含有量はできる限り少なくする必要があり、C含有量の上限値は0.10質量%である。C含有量の好ましい上限値は0.08質量%であり、より好ましくは0.06質量%以下とするのが良い。なお、Cは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
Siは、脱酸とフェライト相の安定化のために必要な元素である。このような効果を得るためには、Siは0.1質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にSiを含有させると加工性が劣化することからSi含有量は2.0質量%以下とすることが必要である。Si含有量の好ましい下限値は0.15質量%であり、さらに好ましい下限値は0.2質量%である。また、Si含有量の好ましい上限値は1.9質量%であり、さらに好ましい上限値は1.8質量%である。
Mnは、Siと同様に脱酸効果があり、さらに強度確保のために必要な元素である。このような効果を得るためには、Mnは0.1質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にMnを含有させると粗大なMnSを形成して耐食性が劣化することからMn含有量は2.0質量%以下とすることが必要である。Mn含有量の好ましい下限値は0.15質量%であり、さらに好ましい下限値は0.2質量%である。また、Mn含有量の好ましい上限値は1.9質量%であり、さらに好ましい上限値は1.8質量%である。
Pは、耐食性に有害な元素であり、溶接性や加工性も劣化させる元素であり、Pの許容される含有量は0.05質量%までである。P含有量はできる限り少ない方が好ましく、好ましい上限値は0.04質量%であり、さらに好ましくは0.03質量%以下とするのが良い。なお、Pは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であって良い。
Sは、MnSを形成して耐食性を低下させるため、有害な元素である。また、Sが過剰に含有されると加工性も劣化する。よって、許容されるS含有量は0.03質量%までである。S含有量はできる限り少ない方が好ましく、好ましい上限値は0.025質量%であり、さらに好ましくは0.02質量%以下とするのが良い。なお、Sは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
Alは、Si、Mnと同様に脱酸の効果がある元素である。このような効果を得るためには、Alは0.005質量%以上含有することが必要である。しかし、過剰にAlを含有させるとSnの耐食効果を害することに加えて、靭性も低下させることからAl含有量は0.050質量%以下とすることが必要である。Al含有量の好ましい下限値は0.006質量%であり、さらに好ましい下限値は0.007質量%である。また、Al含有量の好ましい上限値は0.045質量%であり、さらに好ましい上限値は0.040質量%である。
Crは、不働態皮膜の主要成分であり、ステンレス鋼材の耐食性発現の基本元素である。このような耐食性を得るためには、Crは18.0質量%以上含有することが必要である。しかし、過剰にCrを含有させると加工性を劣化させることからCr含有量は29.0質量%以下とすることが必要である。Cr含有量の好ましい下限値は18.5質量%であり、さらに好ましい下限値は19.0質量%である。また、Cr含有量の好ましい上限値は28.5質量%であり、さらに好ましい上限値は28.0質量%である。
Niは、耐食性向上に必要な元素であり、特に、塩化物環境における局部腐食抑制に効果が大きい。また、Niは低温靱性を向上させるのにも有効であり、オーステナイト相を安定化させるためにも必要な元素である。こうした効果を得るためには、Niは1.0質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にNiを含有させるとオーステナイト相が多くなりすぎて、強度が低下することからNi含有量は10.0質量%以下とすることが必要である。Ni含有量の好ましい下限値は1.2質量%であり、さらに好ましい下限値は1.5質量%である。また、Ni含有量の好ましい上限値は9.5質量%であり、さらに好ましい上限値は9.0質量%である。
Moは、溶解時にモリブデン酸を生成して、インヒビター作用により耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、耐食性を向上させる元素である。本発明の所定量のSnの効果はこのようなモリブデン酸生成時に得られるため、Moは、本発明に必要な元素である。また、Moはフェライト相を安定化させるためにも必要な元素である。このような効果を得るためには、Moは2.5質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にMoを含有させると加工性を劣化させることからMo含有量は6.0質量%以下とすることが必要である。Mo含有量の好ましい下限値は2.6質量%であり、さらに好ましい下限値は2.7質量%である。また、Mo含有量の好ましい上限値は5.9質量%であり、さらに好ましい上限値は5.8質量%である。
Snは、所定量含有させることにより、塩化物環境における不働態皮膜を強化・安定化し、NのpH緩和作用を極大化させて、耐食性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、Snは0.001質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にSnを含有させると熱間加工性が劣化することからSn含有量は0.30質量%以下とする必要がある。Snの含有量の好ましい下限値は0.010質量%であり、さらに好ましい下限値は0.015質量%である。また、Snの含有量の好ましい上限値は0.28質量%であり、さらに好ましい上限値は0.25質量%である。
Nは、塩化物環境におけるpH緩和作用による耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、オーステナイト相を安定化させるために必要な元素である。このような効果を得るためには、Nは0.16質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にNを含有させると加工性を劣化させることからN含有量は0.50質量%以下とする必要がある。N含有量の好ましい下限値は0.17質量%であり、さらに好ましい下限値は0.18質量%である。また、N含有量の好ましい上限値は0.49質量%であり、さらに好ましい上限値は0.48質量%である。
N/Snは、本発明の二相ステンレス鋼材の耐食性を発現させるのに重要な比である。N/Snが1に満たない場合には、Snが過剰となるためにNの溶解が促進されすぎて、二相ステンレス鋼材中のNが早期に消費され、NのpH緩和効果が持続しないため、効果的な耐食性向上が得られない。また、N/Snが400を超える場合には、Snが不足するためにNの溶解が促進されず、H+消費作用は向上しないため、pH緩和効果が向上しない。このような理由から、N/Snは1〜400に調整する必要がある。N/Snの好ましい下限値は20であり、さらに好ましい下限値は25である。また、N/Snの好ましい上限値は380であり、さらに好ましい上限値は350である。
不可避的不純物は、二相ステンレス鋼材の諸特性を害さない程度に含有することができ、その含有量は合計で0.1質量%以下であり、好ましくは0.09質量%以下におさえることによって、本発明の耐食性発現効果を極大化することができる。
Cu、Co、Wは、いずれも本発明の二相ステンレス鋼材において耐食性を向上させる元素である。また、CuおよびCoはオーステナイト相を安定化させ、Wはフェライト相を安定化させる作用もあり、強度および靭性の向上に有効である。しかし、Cu、Co、Wは過剰に含有させると熱間加工性を劣化させる元素であり、必要に応じて適量含有させることが好ましい。
MgおよびCaは、局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、これらの元素は、腐食溶解時に表面近傍のpHを上昇させて環境の腐食性を緩和する作用があるため、耐食性向上に有効な元素である。しかし、MgおよびCaは過剰に含有させると加工性や靭性を劣化させる元素であり、適量含有することが好ましい。
Ti、Zr、V、NbおよびBは、耐食性を初め、強度特性や加工性を向上させるのに有効な元素である。しかし、Ti、Zr、V、NbおよびBは過剰に含有させると粗大な炭化物もしくは窒化物などの介在物を形成して靭性を低下させる元素であり、適量含有することが好ましい。
本発明の二相ステンレス鋼材は、通常のステンレス鋼材の量産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、転炉あるいは電気炉にて溶解した溶鋼に対して、AOD法やVOD法などによる精錬を行って成分調整した後、連続鋳造法や造塊法などの鋳造方法で鋼塊とする。得られた鋼塊を1100℃〜1300℃程度の温度域にて熱間加工を行い、次いで冷間加工を行って所望の寸法形状にすることができる。
本発明に係る二相ステンレス鋼管の実施形態について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼管は、前記二相ステンレス鋼材からなるもので、通常のステンレス鋼管の量産に用いられる製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、丸棒を素材とした押出製管やマンネスマン製管、板材を素材として成形後に継ぎ目を溶接する溶接製管などによって、所望の寸法にすることができる。また、二相ステンレス鋼管の寸法は、鋼管が使用されるアンビリカル、海水淡水化プラント、LNG気化器、油井管、各種化学プラントなどに応じて適宜設定することができる。
<第1の実施例>
[供試材の作製]
25Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。表1および表2に示す種々の成分組成のステンレス鋼材を約50kg真空溶解炉により溶解し、鋳造により鋳塊とした。得られた鋳塊を熱間鍛造により、断面が50×120mm(長さ適宜)のステンレス鋼塊を得た。次いで、1150℃に加熱した後、熱間圧延を行って、板厚6mmのステンレス鋼素材とした。次いで、1050℃に加熱し、30分保持後に水冷する条件の固溶化熱処理を行った。
塩化物環境における耐食性評価試験として、80℃の20%塩化ナトリウム水溶液中での孔食電位(Epit)および腐食すきま再不働態化電位(Ercrev)の電気化学測定を実施した。これらの特性値はそれぞれ、孔食およびすきま腐食発生の臨界電位と考えられ、ステンレス鋼材の耐食性を示す指標である。
なお、本実施例においては、耐孔食性についてはEpitが0.400V(vs.SCE)以上である場合を良好と判断し、耐すきま腐食性についてはErcrevが−0.300V(vs.SCE)以上である場合を良好と判断した。
応力負荷したテストピースを腐食環境に暴露し、H2SおよびCO2を含有する塩化物環境における応力腐食割れ(SCC)の有無を調査した。75×10×2(mm)のテストピースには、各材料の降伏応力と等しい応力を4点曲げによって負荷した。応力負荷したテストピースを、H2S+CO2ガスを封入したオートクレーブ中に20%NaCl水溶液中に14日間浸漬した。このとき、H2S分圧は0.1MPa、CO2分圧は0.9MPaとして、温度は200℃とした。14日間浸漬後に目視によりテストピースの割れ発生の有無を観察し、割れが認められないテストピースについては長手方向の断面を100倍の光学顕微鏡により割れ発生の有無を観察した。
すきまを付与したテストピースを塩化鉄(FeCl3)の溶液に浸漬し、すきま腐食発生確率を調査した。30×20×2(mm)のテストピースをPTFE製のマルチクレビスではさんで固定し、JISG0578(1981)に規定された測定手順に準じて0.05NHCl+6質量%FeCl3水溶液に24時間浸漬した。この時温度は60℃とした。浸漬後、テストピースを目視で観察し腐食が発生したすきまの数から腐食発生確率を算出した。
[供試材の作製および試験方法]
18〜30Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。用いたステンレス鋼材の成分組成は表6に示す通りであり、溶製方法は第1の実施例と同様である。第1の実施例と同様のテストピースを用いて、第1の実施例と同様の電気化学試験およびSCC試験を行い、これらのステンレス鋼材の耐食性評価を行った。また、PRE値、α面積率についても第1の実施例1と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
Claims (5)
- フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、
C :0.10質量%以下、
Si:0.1〜2.0質量%、
Mn:0.1〜2.0質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.03質量%以下、
Al:0.005〜0.050質量%、
Cr:18.0〜29.0質量%、
Ni:1.0〜10.0質量%、
Mo:2.5〜6.0質量%、
Sn:0.001〜0.30質量%、
N :0.16〜0.50質量%、かつ、
前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が1〜400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする二相ステンレス鋼材。 - 前記成分組成は、さらに、
Cu:0.1〜2.0質量%、
Co:0.1〜2.0質量%、
W :0.1〜6.0質量%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記成分組成は、さらに、
Mg:0.0005〜0.020質量%、
Ca:0.0005〜0.020質量%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記成分組成は、さらに、
Ti:0.01〜0.50質量%、
Zr:0.01〜0.50質量%、
V :0.01〜0.50質量%、
Nb:0.01〜0.50質量%、
B :0.0005〜0.010質量%
よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。
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