JP2013223446A - 細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高濃度のIGFBPを必要とせずに、多能性幹細胞を、心筋細胞へ分化させることのできる細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法を提供する。
【解決手段】インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質の全部または一部の領域からなるポリペプチド、または、該インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質を、表面に固定またはコーティングしたことを特徴とする細胞培養基材。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法に関し、詳しくは、多能性幹細胞を培養することができ、多能性幹細胞を、特定の細胞に分化させることの可能な細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法に関する。
成人において心筋細胞は増殖しない為、損傷した心臓組織はそのままでは再生しない。心臓の病に対する治療法の確立のために、ES細胞やiPS細胞を用いた再生治療法は有望である。ES細胞やiPS細胞は分化全能性を有する為、ES細胞やiPS細胞が分化してなる心筋細胞は、移植用の細胞供給源となりうる。これまで、ES細胞やiPS細胞からの心筋細胞への分化誘導において、骨形成タンパク質(BMPs, bone morphogenetic proteins)、BMPインヒビター、Wnts、Wntsインヒビターを使用する方法が提案されている(非特許文献1〜3)。
これらの因子は、Wnt/β−カテニンシグナリング経路を制御することにより、心臓発生をもたらす。Wnt/β−カテニンシグナリングは、ES細胞の心筋細胞への分化誘導促進に重要であると考えられている。最近、insulin−like growth factor protein 4 (IGFBP4)が、Wnt/β−カテニンシグナリングを阻害することによって、胚様体(EB, embryoid body)形成後の後期において、ES細胞の心筋細胞への分化誘導を強く促進することが報告された(非特許文献4)。
IGFBP4は、Wnt受容体であるFrizzled 8(Frz8)およびWnt共受容体であるlow−density lipoprotein receptor−related protein 6 (LRP6)に対するWnt3aの結合を、これら受容体に結合することを通じて阻害することが明らかになった。さらに、ニワトリおよびカエル胚において、IGFBP4は、Wntβ−Cateninシグナリングの阻害を通じての心臓発生に必要であることが分かった(非特許文献4)。そこで、IGFBP4を用いたES細胞の心筋細胞分化の促進は、有望である。
Yuasa S. et al., Nat. Biotechnol. 2005;23:607-11. Kami D. et al., Plos One 2008;3:e2407. Monzen K. et al., Mol.Cell Biol. 1999;19:7096-105. Zhu W. et al., Nature 2008;454:345-9. Nadanaka et al., J. Biol.Chem. 2008;283:27333-43.
しかしながら、IGFBP4は培地中で不安定であるため、心筋細胞分化には高濃度のIGFBP4が必要である。加えて、Wntsは、自己自律的に制御されており、細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合する(非特許文献5)。Wnt分子は細胞表面に結合するため、Wntの受容体への結合を阻害するには、高濃度のIGFBP4が必要となる。
そこで本発明の目的は、高濃度のIGFBPを必要とせずに、多能性幹細胞を、心筋細胞へ分化させることのできる細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法を提供することにある。
本発明者等は鋭意検討した結果、IGFBPファミリーに属するタンパク質、または該タンパク質の一部を含む融合タンパク質を固定化した基層を用いることで上記課題を解決し、心筋細胞分化を誘導しうることを見出した。
即ち、本発明の細胞培養基材は、インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質の全部または一部の領域からなるポリペプチド、または、該インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質を、表面に固定またはコーティングしたことを特徴とするものである。
本発明の細胞培養基材において、前記インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質がIGFBP4、または、IGFBP4と相同性を有するタンパク質であることが好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、前記インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質の全部または一部の領域からなるポリペプチド、または、該インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、IGFBP4のThyドメイン、または、IGFBP4のThyドメインと相同なアミノ酸配列を含むものであることが好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、前記インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、エラスチン様ポリペプチドの全部または一部を含むことが好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、前記インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、(GVGVP)n(nは2以上の数である。)で表される繰り返し配列を含むことが好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、前記繰り返し配列が、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)で表されることが好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、前記融合タンパク質が、N末側に、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)を含み、C末側にIGFBP4の全部または一部を含むタンパク質であることが好ましい。。
また、本発明の細胞培養基材において、前記融合タンパク質が、N末側に、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)を含み、C末側にIGFBP4のThyドメインまたはIGFBP4のThyドメインと相同なアミノ酸配列を含むタンパク質であることが好ましい。
本発明の細胞培養方法は、上記いずれかの細胞培養基材と、液体培地とを用いて、未分化性および分化多能性を維持しながら多能性幹細胞を増殖させることを特徴とするものである。
本発明の心筋細胞の製造方法は、上記いずれかの細胞培養基材と、液体培地とを用いて、多能性幹細胞を心筋細胞へ分化させることを特徴とするものである。
本発明の心筋細胞の製造方法は、Wnt/βカテニンシグナリング経路を阻害することにより多能性幹細胞を心筋細胞へ分化させることが好ましい。
本発明により、高濃度のIGFBPを必要とせずに、多能性幹細胞を、心筋細胞へ分化させることのできる細胞培養基材、およびそれを用いた細胞培養方法並びに多能性幹細胞の分化誘導方法を提供することが可能となる。
図1Aは、IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4タンパク質のウェスタンブロットである。図1Aの上部はSDS−PAGEのゲルをCBB染色したものの写真図であり、下部は、抗IGFBP4抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。図1Bは、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4タンパク質の温度依存的凝集プロファイルを示すグラフ図である。結果は、平均±標準偏差として示す。縦軸が濁度(%)、横軸が温度である。 図2Aは、37℃1日(左)、4℃1日(右)における、IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4の、ポリスチレンディッシュに対する吸着安定性試験(ELISAアッセイ)の結果を示すグラフ図である。縦軸はOD450nm、横軸は各タンパク質の濃度である。図2Bは、37℃1週間における、IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4の、ポリスチレンディッシュに対する吸着安定性試験(ELISAアッセイ)の結果を示すグラフ図である。縦軸はOD450nm、横軸は各タンパク質の濃度である。図2Cは、10μg/mL IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4のポリスチレンディッシュに対する、37℃1日または1週間の吸着安定性試験(ELISAアッセイ)の結果を示すグラフ図である。 図3は、LRP5/6と、IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4との相互作用の有無を確認する免疫沈降試験の結果を示すウェスタンブロット写真図である。P19CL6細胞を各組換えタンパク質を固定したディッシュ上で3時間培養し、破砕して、免疫沈降を行った。上部が抗IGFBP4抗体、下部が抗LRP5/6抗体を用いてのウェスタンブロットの結果を示す写真図である。 図4Aは、ゼラチンコートディッシュ(コントロール)、1μg/mL IGFBP4(Thy)を添加したゼラチンコートディッシュ、1μg/mL(GVGVP)67−IGFBP4を添加したゼラチンコートディッシュ、(GVGVP)67−IGFBP4を固定化したディッシュ上で培養したES細胞の顕微鏡写真図(phase contrast)である。上部が0日後、下部が24日培養後の写真図である。図4Bは、24日培養後のES細胞を用いたRT−PCRの結果を示す写真図である。図4Cは、抗αMHC抗体(MF20)を用いた免疫染色の結果を示す共焦点顕微鏡写真図である(左)。右は、24日培養後のES細胞における、DAPI陽性領域に対するMF20陽性領域の割合を示すグラフ図である。 図5Aは、懸滴培養開始1日、3日、5日目の胚様体の顕微鏡写真図である。図5Bは、各培養日数における胚様体(EB)のRT−PCRの結果を示す写真図である。 図6Aは、ゼラチンコートディッシュ(コントロール)、(GVGVP)67−IGFBP4を固定化したディッシュ上で培養した胚様体(EB)の1日目、7日目、20日目の顕微鏡写真図(phase contrast)である。図6Bは、ゼラチンコートディッシュ(コントロール)、(GVGVP)67−IGFBP4を固定化したディッシュ上で20日間培養し、心筋細胞分化したES細胞の微分干渉顕微鏡写真図である。線で囲った領域は、自律拍動した領域を表す。図6Cは、20日培養後の胚様体を用いたRT−PCRの結果を示す写真図である。図6Dは、抗αMHC抗体(MF20)を使用した免疫染色の結果を示す共焦点顕微鏡写真図である(左)。右は、20日培養後の胚様体における、DAPI陽性領域に対するMF20陽性領域の割合を示すグラフ図である。 10μg/mL (GVGVP)n−IGFBP4固定化ディッシュ上で20日間培養した胚様体(EB)のMF20陽性領域の共焦点顕微鏡写真図である。 可溶性因子として、IGFBP4を加えた場合(左)と、IGFBP4を基層に固定したものを用いた場合(右)の、Wnt/βcateninシグナリング経路の阻害の予想メカニズムを表す模式図である。
[IGFBPファミリータンパク質]
IGFBP(Insulin−like Growth Factor Binding Protein)ファミリータンパク質は、高等生物において、インスリン様成長因子(IGF、Insulin−like growth factors)IおよびIIと特異的に結合するタンパク質として、IGFBP1〜6の6種類が報告されている。インスリン様成長因子の活性制御や分解阻害といった機能を有することが示唆されている。中でも、IGFBP4が好ましい。
IGFBP4は、インスリン様成長因子結合ドメインと、タイプ1チログロブリン(Thy)ドメインからなる。IGFBP4のC末にあるThyドメインがWnt受容体結合ドメインである(非特許文献4)。IGFBP4のアミノ酸配列は、例えば、ヒトについては、GenBankにおいて、アクセッション番号:AAH16041.1で登録されている。また、マウスについては、GenBankにおいて、アクセッション番号::AAH19836.1で登録されている。本発明に用いるIGFBP4のペプチド配列としては、これらに限定されず、1〜9個のアミノ酸の欠失、挿入、置換がなされたものであってもよく、他の生物におけるIGFBP4であってもよい。また、上記のタンパク質分子と、アミノ酸レベルで80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を示し、かつ、インシュリン様成長因子結合活性を有するタンパク質も使用することができる。
IGFBPファミリーに属するタンパク質を作製する方法としては、特にこれを限定しないが、分子生物学的手法を用いてリコンビナント・タンパク質を作製・精製し、これを使用することが望ましい。その他にも、同様の効果を示す方法であれば、いずれをも用いることができ、例えば、多能性幹細胞のIGFBPファミリーに属するタンパク質を、生体組織・細胞から抽出、精製して使用すること、又は当該ペプチドを化学的に合成して使用することも可能である。
エラスチンは大動脈をはじめ、項靭帯、黄色靭帯、肺、皮膚、子宮、弾性軟骨などの弾性線維の主要蛋白質である。エラスチンは生体内ではコラーゲンに次いで多量に存在し、そのもっとも重要な機能は弾性である。エラスチンは組織では不溶性である。エラスチン中の主要な繰り返しペプチド配列としてペンタペプチドGly−Val−Gly−Val−Pro(以下GVGVP)及びヘキサペプチドVal− Gly−Val−Ala−Pro−Gly(以下VGVAPG)の繰り返し配列がある。この2種類のペプチド繰り返し配列はヒト、ウシ、ブタ等の哺乳動物に共通して存在するが、性質は全く異なり、GVGVP繰り返し配列は弾性機能を有し、コアセルベーションを示すが、細胞には全く認識されない。一方、VGVAPG繰り返し配列は弾性及びコアセルベーションを示さないが、種々の細胞の遊走、増殖などを惹起する。不溶性エラスチンを可溶化して得られる水溶性エラスチン、前駆蛋白質であるトロポエラスチン(可溶性)及びエラスチン由来ポリペンタペプチドは、コアセルベーションと呼ばれるユニークな現象を示す。水溶性エラスチン及びトロポエラスチンの水溶液は、低温では透明な均一溶液であるが、体温(37℃)付近まで加熱すると、相分離を起こして白濁しコアセルベート液滴を形成し、そのまま放置するとコアセルベート層からなる下層と平衡溶液からなる上層の2層に分離する。このプロセスは可逆的で、温度を室温以下に冷却するとまた元の均一溶液に戻る。
本発明においては、基層に固定する融合タンパク質が、エラスチン様ポリペプチド中の主要な繰り返しペプチド配列を含むことが好ましく、Gly−Val−Gly−Val−Pro(以下GVGVP)の繰り返し配列を含むことが好ましい。GVGVPの繰り返し数は、65以上が好ましく、70以上がより好ましい。
本発明において、培養基材表面に固定化されるタンパク質の好適な態様としてはIGFBP4のWnt受容体結合ドメインと、エラスチン様ポリペプチドから構成される、キメラタンパク質(融合タンパク質)が挙げられる。IGFBP4は、インスリン様成長因子結合ドメインと、タイプ1チログロブリン(Thy)ドメインからなる。IGFBP4のC末にあるThyドメインがWnt受容体結合ドメインである(非特許文献4)。エラスチン様ポリペプチドは、グリシン−バリン−グリシン−バリン−プロリン(GVGVP)の繰り返し配列を有し、熱を感受して疎水性が変化するという性質を持っている(McPherson DT et al., Biotechnol. Prog. 1992;8:347−52. McPherson DT et al., Protein Expr. Purif. 1996;7:51−7. Mie M et al., J. Biomed. Mater. Res. B Appl. Biomater. 2008;86:283−90.)。相転移温度(Tg(t))以上では、これらのポリペプチドは、疎水相互作用を通してポリスチレンディッシュといった基層に安定して吸着させることができる。
低温下では、親水性が強まることにより、これらのポリペプチドは基層から遊離する。エラスチン様ポリペプチドのTg(t)は、GVGVPリピートの数に依存する(非特許文献13)。従って、エラスチン様ポリペプチド、(GVGVP)nは、様々な因子の固定化に有用である。本発明においては、ThyのN末と(GVGVP)nが結合するようにして、(GVGVP)n−IGFBP4とした融合タンパク質が特に好ましい。
細胞培養用の培養基材としては、例えば、ディッシュ(培養皿とも称する)、シャーレやプレート(6穴、24穴、48穴、96穴、384穴、9600穴などのマイクロタイタープレート、マイクロプレート、ディープウェルプレート等)、フラスコ、チャンバースライド、チューブ、セルファクトリー、ローラーボトル、スピンナーフラスコ、フォロファイバー、マイクロキャリア、ビーズ等が挙げられる。これらの培養基材は、ガラス等の無機材料又はポリスチレン等の有機材料のいずれからなっていてもよいが、蛋白質やペプチド等に対する吸着性が高いポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の材料や、又は吸着性を高める処理、例えば親水処理や疎水処理等を施した材料の使用が好適である。また、滅菌可能な耐熱性及び耐水性を有している材料からなるのが好ましい。そのための好適な器材の一例としては、主に大腸菌等の培養に頻用される、細胞培養用の処理を特にしていないポリスチレン製ディッシュ及び/又はプレート(以下、無処理ポリスチレン製プレートと称する)を挙げることができ、当該培養基材は一般に市販されている。
本発明で開示される方法の実施において、IGFBPファミリーに属するタンパク質や融合タンパク質を、上記の培養基材固相表面に固定又はコーティングする方法としては、吸着等の物理学的方法や共有結合等の化学的方法を適用することができるが、操作の容易さから吸着による方法が好ましい。例えば、プレート等の培養基材固相表面に当該分子の溶液を接触させ、一定時間後に溶媒を除去することにより、簡便に当該分子を吸着させることができる。さらに具体的には、例えば、蒸留水やPBS等を溶媒とするタンパク質分子の溶液を、ろ過、滅菌した後、プレート等の培養基材に接触させ、例えば数時間から1週間、好ましくは一昼夜放置するだけで、当該接着性分子が固定又はコーティングされた細胞培養用基材が得られる。好ましくは、蒸留水やPBS等で数回洗浄し、PBS等の平衡塩溶液等で置換してから使用する。
また、固定したいタンパク質に前もって人為的に抗原性分子が付加・融合させている場合は、当該タンパク質に対する特異抗体との結合を利用することもでき、タンパク質を効率的に基材表面に修飾することができる。この場合、特異抗体を前もって培養基材表面に、吸着等の物理学的方法や共有結合等の化学的方法によって固定又はコーティングしておく必要がある。例えば、培養基材に前もって修飾しておく抗体としては、IGFBPまたは(GVGVP)nを特異的に認識するものを使用することができる。目的のタンパク質分子に各種タンパク質やタグ配列ペプチドを融合させたリコンビナント・タンパク質の場合、融合させた分子に特異的な抗体を、培養基材に前もって修飾することにより、使用することができる。
本発明の実施において、細胞培養基材の固相表面に固定又はコーティングされるIGFBPファミリーに属するタンパク質や融合タンパク質は少なくとも1種であるが、2種以上のIGFBPファミリーに属するタンパク質や融合タンパク質を組み合わせて用いてもよい。その場合、各々のタンパク質の溶液を混合し、その混合溶液を上述の方法に基づき、修飾すればよい。
上記のIGFBPファミリーに属するタンパク質や融合タンパク質溶液の濃度は、当該タンパク質の吸着量及び/又は親和性、さらには当該タンパク質の物理学的性質によって適宜、検討する必要があるが、例えば、0.01〜1000μg/mL程度までの濃度範囲とし、好ましくは、0.1〜200μg/mL程度、さらに好ましくは1〜50μg/mL、そして最も好ましくは5〜20μg/mLである。
本発明の細胞培養基材は、後述するように、種々の多能性幹細胞の未分化性を維持したままの培養や、多能性幹細胞を分化させる培養や、多能性幹細胞を分化させた細胞群から、所望の細胞を選抜、濃縮する培養方法に好適に用いることができる。
[細胞培養方法]
本発明の細胞培養方法は、上記細胞培養基材と、液体培地とを用いて、未分化性および分化多能性を維持しながら多能性幹細胞を増殖させることを特徴とするものである。
本発明の実施において、分子生物学や組換えDNA技術等の遺伝子工学の方法及び一般的な細胞生物学の方法及び従来技術について、実施者は、特に示されなければ、当該分野の標準的な参考書籍を参照し得る。これらには、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual第3版(Sambrook & Russell、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001);Current Protocols in Molecular biology(Ausubel et al.編、John Wiley & Sons、1987);Methods in Enzymologyシリーズ(Academic Press);PCR Protocols:Methods in Molecular Biology(Bartlett & Striling編、Humana Press、2003);Animal Cell Culture:A Practical Approach第3版(Masters編、Oxford University Press、2000);Antiboides:A Laboratory Manual(Harlow et al.& Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1987)等を参照のこと。また、本明細書において参照される細胞培養、細胞生物学実験のための試薬及びキット類はSigma社やAldrich社、Invitrogen/GIBCO社、Clontech社、Stratagene社等の市販業者から入手可能である。
また、多能性幹細胞を用いた細胞培養、及び発生・細胞生物学実験の一般的方法について、実施者は、当該分野の標準的な参考書籍を参照し得る。これらには、Guide to Techniques in Mouse Development(Wasserman et al.編、Academic Press,1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(M.V.Wiles、Meth.Enzymol.225:900,1993);Manipulating the Mouse Embryo:A laboratory manual(Hogan et al.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1994);Embryonic Stem Cells(Turksen編、Humana Press,2002)が含まれる。本明細書において参照される細胞培養、発生・細胞生物学実験のための試薬及びキット類はInvitrogen/GIBCO社やSigma社等の市販業者から入手可能である。
マウス及びヒトの多能性幹細胞の作製、継代、保存法については、すでに標準的なプロトコールが確立されており、実施者は、前項で挙げた参考書籍に加えて、複数の参考文献(Matsui et al.,Cell 70:841,1992;Thomson et al.,米国特許第5,843,780号;Thomson et al.,Science 282:114,1998;Shamblott et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998;Shamblott et al.,米国特許第6,090,622号;Reubinoff et al.,Nat.Biotech.18:399,2000;国際公開番号第00/27995号)等を参照することにより、これらの多能性幹細胞を使用し得る。また、その他の動物種に関しても、例えばサル(Thomson et al.,米国特許第5,843,780号;Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,7844,1996)やラット(Iannaccone et al.,Dev.Biol.163:288,1994;Loring et al.,国際公開番号第99/27076号)、ニワトリ(Pain et al.,Development 122:2339,1996;米国特許第5,340,740号;米国特許第5,656,479号)、ブタ(Wheeler et al.,Reprod.Fertil.Dev.6:563,1994;Shim et al.,Biol.Reprod.57:1089,1997)等に関してES細胞又はES細胞様細胞の樹立方法が知られており、各記載の方法に従って、本発明に用いられるES細胞を作製することができる。
ES細胞とは、胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、細胞塊の解離と継代を繰り返すことにより、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。マウス由来ES細胞としては、E14、D3、CCE、R1、J1、EB3等、様々なものが知られており、一部はAmerican Type Culture Collection社やCell & Molecular Technologies社、Thromb−X社等から購入することも可能である。ヒト由来ES細胞は、現在、全世界で50種以上が樹立されており、米国・国立衛生研究所(NIH)のリスト(http://stemcells.nih.gov/registry/index.asp)には20種以上の株が登録されている。その一部はES Cell International社やWisconsin Alumni Research Foundationから購入することが可能である。
ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である(Munsie et al.,Curr.Biol.10:989,2000;Wakayama et al.,Science 292:740,2001;Hwang et al.,Science 303:1669,2004)。また、異種動物の卵細胞、又は脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplastsやooplastoidsと称される)に、所望する動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法も考案されている(国際公開番号第99/45100号;第01/46401号;01/96532号;米国特許公開第02/90722号;02/194637号)。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試み(米国特許公開第02/168763号;Vrana K et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:11911−6)や、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている(国際公開番号第00/49137号;Tada et al.,Curr.Biol.11:1553,2001)。本発明で使用されるES細胞は、この様な方法により作製されたES細胞又はES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。
EG細胞は、始原生殖細胞と呼ばれる胎児期の生殖細胞を、ES細胞の場合と同様、MEF細胞やSTO細胞、Sl/Sl−m220細胞等のフィーダー上で、LIF及びbFGF/FGF−2、又はフォルスコリン等の薬剤で刺激することにより作製されたものであり(Matsui et al.,Cell 70:841,1992;Koshimizu et al.,Development 122:1235,1996)、ES細胞ときわめて類似した性質を有している(Thomson & Odorico、Trends Biotechnol.18:53,2000)。ES細胞の場合と同様、EG細胞と体細胞を融合させて作製したEG細胞(Tada et al.,EMBO J.16:6510,1997;Andrewら)やEG細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学的手法により改変したものも、本発明の方法に使用することができる。
iPS細胞(人工多能性幹細胞:induced pluripotent stem cell)とは、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。上記特許文献3,4,5に記載された方法により作製することができる。また、iPS細胞は、上記特許文献記載の方法以外にも多数の変法による作製方法が知られている。国際公開WO2007/069666号公報には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。この他に、上記初期化因子の一つないし複数を使用せずに、他の因子を用いたり、初期化因子に変えて、または、加えて、別の物質や遺伝子を使用する方法が知られているが、iPS細胞の定義に入るものであればいずれの方法により作製されたものであっても使用することができる。
本発明で用いるiPS細胞は、体細胞を初期化することにより製造することができる。ここで用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。体細胞は、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、またはヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。
また、多能性幹細胞は、ES細胞やEG細胞、iPS細胞のみに限らず、哺乳動物の胚や胎児、臍帯血、又は成体臓器や骨髄等の成体組織、血液等に由来する、ES/EG細胞に類似した形質を有するすべての多能性幹細胞が含まれる。例えば生殖細胞を特殊な培養条件下で培養することにより得られるES様細胞は、ES/EG細胞ときわめて良く似た形質を呈しており(Kanatsu−Shinohara et al.,Cell 119:1001,2004)、多能性幹細胞として使用することができる。その他の例としては、骨髄細胞から単離され、三胚葉すべての系譜の細胞に分化能を有する多能性成体幹細胞(multipotent adult progenitor/stem cells:MAPC)を挙げることができる。また、毛根鞘細胞やケラチノサイト(国際公開番号第02/51980号)、腸管上皮細胞(国際公開番号第02/57430号)、内耳細胞(Li et al.,Nature Med.9:1293,2003)等を特別な培養条件下で培養することにより得られた多能性幹細胞や、血液中の単核球細胞(又はその細胞核分に含まれる幹細胞)をM−CSF(Macrophage−Colony Stimulating Factor;マクロファージコロニー刺激因子)+PMA(phorbol 12−myristate 13−acetate)処理(Zhao et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:2426,2003)、又はCR3/43抗体処理(Abuljadayel、Curr.Med.Res.Opinion 19:355,2003)することにより作製される多能性幹細胞等に関しても、ES/EG細胞と類似の形質を有する幹細胞であればすべて含まれる。この場合、ES/EG細胞と類似の形質とは、当該細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在や当該細胞特異的な遺伝子の発現、さらにはテラトーマ形成能やキメラマウス形成能といった、ES/EG細胞に特異的な細胞生物学的性質をもって定義することができる。
本発明の実施において、多能性幹細胞は、上記本発明の細胞培養基材に播種される。多能性幹細胞の培養方法や培養条件は、当該培養基材を使用することを除き、多能性幹細胞の通常の培養方法や培養条件をそのまま使用することができる。多能性幹細胞の通常の培養方法や培養条件は、上記の参考書籍、すなわち、Guide to Techniques in Mouse Development(Wasserman et al.編、Academic Press,1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(M.V.Wiles、Meth.Enzymol.225:900,1993);Manipulating the Mouse Embryo:A laboratory manual(Hogan et al.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1994);Embryonic Stem Cells(Turksen編、Humana Press,2002)や、参考文献(Matsui et al.,Cell 70:841,1992;Thomsonら、米国特許第5,843,780号;Thomson et al.,Science 282:114,1998;Shamblott et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998;Shamblott et al.米国特許第6,090,622号;Reubinoff et al.,Nat.Biotech.18:399,2000;国際公開番号第00/27995号)等を参照することができるが、特にこれらに限定されない。
多能性幹細胞を培養するための液体培地としては、多能性幹細胞を継代培養する従来の方法に適用することができるものであれば、すべて使用可能である。その具体例としては、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)、Glasgow Minimum Essential Medium(GMEM)、RPMI1640培地等が挙げられ、通常、2mM程度のグルタミン及び/又は100μM程度の2−メルカプトエタノールを添加して使用する。また、ES細胞培養用培地として市販されているKnockOut DMEM(Invitrogen社)や、ES cell−qualified DMEM(Cell & Molecular Technologies社)、TX−WES(Thromb−X社)等も用いることができる。これらの培地にはFBSを5〜25%程度添加することが好ましいが、無血清培養することも可能で、例えば、15〜20%のKnockOut Serum Replacement(Invitrogen社)を代用することができる。また、MEF細胞の培養上清やbFGF/FGF−2、SCF等を添加した培地を使用してもよく、その詳細な方法は公知である(Xu et al.,Nature Biotech.19:971,2001;国際公開番号第01/51616号;国際公開番号第03/020920号;Amit et al.,Biol.Reprod.,70:837,2004)。
上記の多能性幹細胞を培養するための液体培地には、多能性幹細胞の未分化状態を維持する作用を有する物質・因子を添加することができる。具体的な物質・因子としては、特にこれを限定しないが、マウスES/EG細胞の場合、LIFが好適である。LIFは既報告論文(Smith & Hooper、Dev.Biol.121:1,1987;Smith et al.,Nature 336:688,1988;Rathjen et al.,Genes Dev.4:2308,1990)や、NCBIの公的なDNAデータベースにアクセス番号X13967(ヒトLIF)、X06381(マウスLIF)、NM_022196(ラットLIF)等で公知のタンパク質性因子であり、そのリコンビナント・タンパク質は、例えばESGRO(Chemicon社)の商品名で購入することができる。また、GSK−3阻害剤を培養液に添加することにより、特に他の成長因子・生理活性因子等の添加をしなくても、マウス及びヒトES細胞の未分化性を効率的に維持することができる(Sato et al.,Nature Med.10:55,2004)。この場合、GSK−3の活性を阻害できる作用を有した物質であれば、すべて使用可能であり、例えばWntファミリー分子(Manoukian & Woodgett、Adv.Cancer Res.84:203,2002;Doble & Woodgett、J.Cell Sci.116:1175,2003)等を挙げることができる。
本発明の実施において、従来の方法に基づき継代維持した多能性幹細胞を、上記の方法により作製された培養基材に播種し、かつ、上記の培養条件・方法に基いて培養することにより、当該細胞を分散した状態で、しかも当該細胞が本来有する未分化な状態を保持したまま継代培養することが可能である。この様な状態で培養した多能性幹細胞は、細胞***の際に物理的な抑制がかからないため、及び/又は細胞間接触に起因する細胞増殖抑制機構が作用しないため、及び/又は細胞の生存性が高まり、死細胞数が減少するため、細胞の著しい増加や増殖が認められる。一つの事例として、本発明の方法によりマウスES細胞を培養した場合、従来の方法で培養した場合と比較して、少なくとも1.25倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上の増殖能を呈することが可能である。また、当該条件で4代ほど継代すると、従来法と比べて少なくとも3倍、好ましくは10倍以上の細胞を回収することが可能である。増殖能は、単位時間における細胞数の増加率や倍化速度等の指標で表すことができ、その計測・算出方法としては、一般の細胞を用いた実験で使用され、公知となっている方法であれば、いずれも用いることができる。
上述のように、多能性幹細胞における未分化な状態とは、多能性幹細胞が、ほぼ永続的または長期間の細胞増殖が可能であり、正常な核(染色体)型を呈し、適当な条件下において三胚葉すべての系譜の細胞に分化する能力をもった状態を意味する。また、好ましくは、多能性幹細胞のその他の特性、例えば、テロメアーゼ活性の維持やテラトーマ形成能、又はキメラ形成能等の性質のうち、少なくとも1つを有していることが望ましい。これらの性質・特性を調べる方法は、既に標準的なプロトコールが確立されており、例えば、上記の参考書籍、即ち、Guide to Techniques in Mouse Development(Wassermanら編、Academic Press,1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(M.V.Wiles、Meth.Enzymol.225:900,1993);Manipulating the Mouse Embryo:A laboratory manual(Hogan et al.編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1994);Embryonic Stem Cells(Turksen編、Humana Press,2002)等を参照することにより、容易に実施することができるが、特にこれらに記載の方法には限定されない。
また、未分化状態の多能性幹細胞は、以下に記載する少なくとも1つ、好ましくは複数の方法により、少なくとも1つ、好ましくは複数のマーカー分子の存在が確認できる細胞と定義することもできる。未分化状態の多能性幹細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、従来の生化学的又は免疫化学的手法により検出される。その方法は特に限定されないが、好ましくは、免疫組織化学的染色法や免疫電気泳動法の様な、免疫化学的手法が使用される。これらの方法では、未分化状態の多能性幹細胞に結合する、マーカー特異的ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができる。個々の特異的マーカーを標的とする抗体は市販されており、容易に使用することができる。未分化状態の多能性幹細胞に特異的なマーカーとしては、例えばALP活性や、Oct−3/4またはRex−1/Zfp42等の遺伝子産物の発現が利用できる。また、各種抗原分子も用いることができ、マウスES細胞ではSSEA−1、ヒトES細胞ではSSEA−3やSSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、GCTM−2等が未分化マーカーとして挙げられる。これらの未分化マーカーの発現は、ES細胞が分化することにより低減、消失する。
あるいは、未分化状態の多能性幹細胞マーカーの発現は、特にその手法は問わないが、逆転写酵素介在性ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)やハイブリダイゼーション分析といった、任意のマーカー・タンパク質をコードするmRNAを増幅、検出、解析するための従来から頻用される分子生物学的方法により確認できる。未分化状態の多能性幹細胞に特異的なマーカー・タンパク質(例えば、Oct−3/4やRex−1/Zfp42、Nanog等)をコードする遺伝子の核酸配列は既知であり、NCBIの公共データベース等において利用可能であり、プライマー又はプローブとして使用するために必要とされるマーカー特異的配列を容易に決定することができる。
[分化誘導による心筋細胞の製造方法]
本発明の心筋細胞の製造方法は、上記本発明の細胞培養基材と、液体培地とを用いて、多能性幹細胞を分化させることを特徴とする。
多能性幹細胞の分化誘導のための培養方法や培養条件は、上記本発明の細胞培養基材を使用することを除き、多能性幹細胞の通常の分化誘導培養方法や培養条件をそのまま使用することができる。また、液体培地については上記したものと同様のものを使用することができる。
分化誘導因子(Growth Factorとも称される)は、多能性幹細胞の分化を誘導する為に、培地に添加されるペプチド、ホルモン、サイトカイン、タンパク質、糖タンパク質などの化合物であり、分化させたい細胞のタイプや、分化のステージに応じて様々な種類の分化誘導因子が用いられる。本発明においては、既知の方法やプロトコルに従い、目的の細胞に応じて公知の分化誘導因子を液体培地に添加することができる。本発明の分化誘導方法においては、IGFBPファミリータンパク質が、多能性幹細胞の心筋細胞への分化を促進するため、特に分化誘導因子を外から加えなくとも、心筋細胞への分化を起こすことが期待できる。
本発明により調製された多能性幹細胞、及び/又は当該細胞から作製した分化細胞は、各種生理活性物質(例えば、薬物)や機能未知の新規遺伝子産物などの薬理評価や活性評価に有用である。例えば、多能性幹細胞や種々の分化細胞の機能調節に関する物質や薬剤、及び/又は多能性幹細胞や種々の分化細胞に対して毒性や障害性を有する物質や薬剤のスクリーニングに利用することができる。特に現状では、ヒト細胞を用いたスクリーニング法はほとんど確立しておらず、本発明により調製された多能性幹細胞に由来する各種分化細胞は、当該スクリーニング法を実施するための有用な細胞ソースとなる。また、本発明の方法により分化させた心筋細胞を心筋細胞シートとして分離できれば、心臓移植によらない心臓の再生医療法として有用である。
[実験方法]
<(GVGVP)nプラスミドの作製>
プラスミドは、非特許文献(McPherson DT et al., Biotechnol. Prog. 1992;8:347−52. McPherson DT et al., Protein Expr. Purif. 1996;7:51−7.)の記載に準拠して作製した。Xho I、PflMI、Not I、Bam HIサイトをコードするオリゴヌクレオチドと、PflMI−(GVGVP)11−PflMI配列をOperon バイオテクノロジー社から購入した。これらのオリゴヌクレオチドを、Mighty TA−cloning キットfor PrimeSTAR(タカラバイオ社製)を用いて、pMD20−T(タカラバイオ社製)にサブクローンした。このベクターをPflMIで消化し、(GVGVP)11のPflMI断片と、Xho I、PflMI、Not I、Bam HIサイトを有するpMD20−TのPFlMI断片を得た。セルフライゲーションの防止のためpMD20−TのPFlMI断片を脱リン酸化した。上記酵素処理断片とベクターをT4リガーゼを用いてライゲーションした。同様にして、(GVGVP)12、(GVGVP)23、(GVGVP)45、(GVGVP)67、をそれぞれ含むpMD20ベクターを得た。上記断片とベクターが共に、両側にPflMIサイトを有しており、ベクターを脱リン酸化したため、上記断片のコンカテマーを得ることができた。得られたプラスミドをXho IおよびBam HIで処理した。(GVGVP)nのXho I/Bam HI処理断片と、pET14bのXho I/Bam HI処理断片をライゲーションして、Hisタグ−(GVGVP)12、(GVGVP)23、(GVGVP)45、(GVGVP)67を発現する組換えプラスミドを作製した。
<(GVGVP)n−IGFBP4の作製>
IGFBP4のThyドメインをコードするcDNA断片をP19CL6細胞のcDNAライブラリーからPCRにより増幅した。Thyドメイン(アミノ酸の位置:167−245)をコードするDNA断片のPCRは、Not I、Xho I、Bam HIサイトを有するプライマーを用いて行われた。用いたプライマーは、IGFBPのセンスプライマーとして、5’−ATAAGAATGCGGCCGCTAAACTATCAGGGTTCCTGCCAGAGCGAGCTG−3’、および、5’−CGCTCGAGCGGCAGGGTTCCTGCCAGAGCGA−3’を用いた。アンチセンスプライマーとして、5’−CGGGATCCCGTCACTCTTGGAAGCTGTCAGCCAG−3’を用いた。
cDNA断片をMighty TA−cloning キットfor PrimeSTAR(タカラバイオ社製)を用いて、pMD20−Tベクターにサブクローンした。得られたプラスミドをNot IまたはXho Iと、Bam HIで処理した。Thyドメイン配列を含むNot I/Bam HI処理断片を、(GVGVP)nを含むpMD20のNot I/Bam HI断片に挿入した。(GVGVP)n−IGFBP4を含むプラスミドをXho IとBam HIで処理し、(GVGVP)n−IGFBP4断片を得た。(GVGVP)n−IGFBP4のXho I/Bam HI処理断片、または、IGFBP4(Thy) のXho I/Bam HI処理断片と、pET14bベクターのXho I/Bam HI処理断片とをライゲーションすることにより、6−Hisタグのついた、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4、または、IGFBP4(Thy)を発現する組換えプラスミドを構築した。
<組換えタンパク質の発現および精製>
組換えタンパク質は、E. coli KRX細胞(プロメガ社製)を用いて発現させた。E coli内での凝集、不溶化を防止する為に、タンパク質の発現は、相転移温度以下である20℃で行った。発現させたタンパク質は、COSMOGEL His Accept purification system(ナカライテスク社製)を用いて精製した。タンパク質は、リン酸バッファー(PBS)に溶解した。
<精製した(GVGVP)nタンパク質のTg(t)と、温度依存性凝集プロファイルの決定>
(GVGVP)nタンパク質が、疎水性が温度依存的に変化するという挙動を示すタンパク質であるため、Tg(t)を超えた温度における凝集挙動を調べた。Tg(t)はGVGVPリピートの繰り返し数に依存する。(GVGVP)12、(GVGVP)23、(GVGVP)45、(GVGVP)67のTgを濁度アッセイ(turbidity assay)により決定した。Tg(t)値の決定に用いられる、凝集の温度プロファイルは、島津社製の分光光度計を用いて測定した。波長は、350nmに固定した。それぞれのタンパク質(1mg/mL)の濁度は、15℃〜60℃の間で、1℃/minで温度を上昇または下降させながら測定した。Tg(t)値は、50%の濁度が測定された温度として定義した。
<(GVGVP)n−IGFBP4、IGFBP4(Thy)のポリスチレンディッシュ上への固定化と、ELISAを用いた組換えタンパク質の吸着安定性の評価>
(GVGVP)n−IGFBP4およびIGFBP4(Thy)溶液(0〜50μg/mL)をポリスチレンディッシュ上でTg(t)より高い温度、37℃、4℃のそれぞれの温度のもとで3時間インキュベートした。各タンパク質の最適濃度および吸着安定性を評価するために、抗IGFBP4抗体(ミリポア社製)を用いたELISAアッセイを行った。インキュベーション後、ディッシュを1%牛血清アルブミン含有PBSで1時間ブロックし、ラビットポリクローナル抗IGFBP4抗体(1:20000希釈)で2時間、室温でインキュベーションした。ULTRA−SENSITIVE TMB LIQUID HORSERADISH SUBSTRATE SYSTEM(ミリポア社製)を用いて検出を行った。マイクロプレートリーダー(GEヘルスケア社製)により450nmの吸収を測定した。
<細胞培養>
P19CL6細胞を10%の牛血清(FBS)、100U/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシンを含有するDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM)上で、37℃、95%空気/5% CO下、培養した。ES細胞を未分化で維持するため、ES細胞(1x10細胞/35mmディッシュ)をフィーダー層上で培養した。フィーダー層は、COMPLETE ES CELL MEDIA W/15% ウシ血清、LIFを培地としたマウス胎仔繊維芽細胞により形成した。
<ES細胞の心筋細胞への分化>
(GVGVP)n−IGFBP4固定化ディッシュ上での、初期および後期におけるES細胞の心筋細胞分化を調べた。初期は、ES細胞(1x10細胞/35mmディッシュ)を、(GVGVP)n−IGFBP4固定化ディッシュ、または、0.1%ゼラチンコートディッシュ上で培養した。後期は、胚様体(EB、embryoid body)形成後(懸滴標本検査法、5日間)、胚様体を、(GVGVP)n−IGFBP4固定化ディッシュ、または、0.1%ゼラチンコートディッシュ上で、培養した。20%FBS、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM MEM非必須アミノ酸(ギブコ社製)および0.05mM 2−メルカプトエタノール(シグマ社製)を含有するIscove’s Modified Dulbecco’s Medium (IMDM、ギブコ社製)を、ES細胞の心筋細胞分化用培地として使用した。
<免疫沈降およびウェスタンブロット>
P19CL6細胞を、(GVGVP)n−IGFBP4上で3時間培養した後、細胞をlysisバッファー(25mM Tris−HCl 2.5mM EDTA、137mM NaCl、2.7mM KCl、1% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、1% Triton X−100およびプロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク社製))を用いて破砕した。破砕液を4℃、20000×gで30分間遠心した。上清を取り出し、PureProteome protein G−conjugated 磁気ビーズ(ミリポア社製)とインキュベートし、抗LRP5/6抗体(Acris antibody GmbH製)に結合させた。インキュベーション後、ビーズに結合したタンパク質を5〜20%のSDS−PAGEグラジエントゲル(DRC CO.Ltd製)により分離した。分離したタンパク質をPVDFメンブレンにトランスファーした。メンブレンをラビットポリクローナル抗IGFBP4抗体(1:10000希釈)でインキュベーションし、その後、HRP結合抗ラビットIgG抗体(ジャクソンイムノリサーチラボラトリー社製)でインキュベーションした。メンブレンに、Immobilon Western detection reagents(ミリポア社製)を使用して、検出を行った。
<RT−PCR>
全RNA抽出を、Tripure Isolation Reagent(ロシュダイアグノスティクス社製)を用いて行った。Transcriptor High Fidelity cDNA Synthesis kit (ロシュ社製)を用いて、cDNA合成を行った。RT―PCRは、以下のタンパク質検出用プライマーを用いて行った。マウスβアクチン、マウスGATA 4、マウス αミオシン重鎖(αMHC)、マウスE−カドヘリン、マウス N−カドヘリン、マウスOct−3、マウス Sox1、マウス Sox17、マウス BrachyuryT、マウス Wnt3a、マウスIGFBP4、マウスFrizzled8。PCRは、Ex−Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を使用して行った。
<免役染色および共焦点顕微鏡>
細胞を24×24mm カバーグラス上で培養した。細胞を4%パラホルムアルデヒド/PBSで15分間固定し、50mM グリシン−PBSで洗浄し、0.1% Triton X−100/PBSで5分間透過処理を行って、1% BSA/PBSで1時間ブロッキングをした。固定化および透過処理後、細胞を室温で1時間、抗ヒトαMHCモノクローナル抗体(MF20、R&D systems社製。1:100希釈。)、または、抗IGFBP4抗体(1:100希釈)を用いて、インキュベーションした。細胞をPBSで洗浄し、FITC結合第2抗体またはCy3結合第2抗体(ジャクソンイムノリサーチラボラトリー社製)を用いて室温で1時間インキュベーションした。細胞核を0.1μg/mL DAPIで染色した。細胞は全て、共焦点顕微鏡(A1/A1Rシステム。ニコン社製)を使用して観察した。蛍光イメージは、NIS−Elements Imaging Software(ニコン社製)を用いて処理した。MF20陽性領域の割合は、それぞれのサンプルのランダムな20箇所におけるMF20染色領域/DAPI染色領域の割合の平均から求めた。
<統計分析>
細胞実験は3回行い、結果は、平均±標準偏差で示した。
[実験結果]
<(GVGVP)n−IGFBP4のTg(t)および温度依存的凝集プロファイルの決定>
IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4、(GVGVP)45、(GVGVP)67の産生を、SDS−PAGEおよびウェスタンブロットにて確認した(図1 A)。
(GVGVP)n−IGFBP4のTg(t)を決定するために、濁度アッセイを行って、(GVGVP)12、(GVGVP)23、(GVGVP)45、(GVGVP)67、の凝集の温度依存的態様を調べた。(GVGVP)45、(GVGVP)67の温度依存的凝集は、50℃以上で観察されたが、(GVGVP)12、(GVGVP)23はそうではなかった(図1 B)。GVGVPの23回繰り返しでは凝集を引き起こすのに短すぎるものと考えられる。(GVGVP)45、(GVGVP)67の温度プロファイルから、(GVGVP)45、(GVGVP)67のTgはそれぞれ32℃、42℃であると算出した。
<IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4のポリスチレンディッシュに対する吸着安定性>
IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、(GVGVP)67−IGFBP4のポリスチレンディッシュに対する吸着安定性を調べるために、それぞれのタンパク質でコートされたディッシュを1日または1週間、4℃または37℃でインキュベートした。吸着タンパク質量はELISAにより測定した。(GVGVP)67−IGFBP4の吸着量が最も多かった。1日インキュベート後において、(GVGVP)12−、(GVGVP)23−、(GVGVP)45−IGFBP4は、IGFBP4(Thy)と同等であった(図2 A)。これら全てのタンパク質は、4℃および37℃の双方で、10μg/mLを超えると吸着が飽和した(図1 AおよびB)。(GVGVP)67−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4の、Tgより低い温度、4℃での吸着量が小さいこと、および、37℃において、(GVGVP)67−IGFBP4の吸着量が(GVGVP)45−IGFBP4よりも少ないことが明らかになった(図2 A)。IGFBP4(Thy)単独では1週間にわたる安定的な吸着は起きないことがわかった。一方、(GVGVP)67−IGFBP4は、37℃において1週間ディッシュに安定的に吸着した(図2 BおよびC)。上記結果より、IGFBP4(Thy)は、(GVGVP)67を介して安定してポリスチレンディッシュ上に固定化できることがわかった。
<IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、または、(GVGVP)67−IGFBP4と、LRP5/6との相互作用>
IGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、 (GVGVP)67−IGFBP4がWnt受容体であるLRP5/6と結合するかどうかを調べる為、抗LRP5/6抗体を用いた免疫沈降を行った。免疫沈降は、10μg/mLのIGFBP4(Thy)、(GVGVP)12−IGFBP4、(GVGVP)23−IGFBP4、(GVGVP)45−IGFBP4、または、(GVGVP)67−IGFBP4でコートされたディッシュ上で培養されたP19CL6細胞を用いて行った。P19CL6細胞は、Wnt受容体であるLRP5/6およびFrizzled 8を発現しており、これらの受容体はIGFBP4に結合しうることが報告されている(文献4)。P19CL6細胞が、(GVGVP)n−IGFBP4コートされたディッシュに、IGFBP4とWnt受容体との相互作用を通じて吸着するかどうかを調べた。P19CL6細胞は、これらのタンパク質でコートされたディッシュに吸着したが、IGFBP4(Thy)ドメインが無い(GVGVP)67単独でコートされたディッシュには吸着しなかった(データ無し)。これらディッシュ上で培養されたP19Cl6細胞において、抗LRP5/6抗体結合ビーズと共に沈降した(GVGVP)12,23,45,67−IGFBP4、IGFBP4(Thy)は、抗IGFBP4抗体を用いたウェスタンブロットで検出した(図3)。これらの結果により、P19CL6細胞は、IGFBP4(Thy)とWnt受容体との相互作用を通じて、(GVGVP)n−IGFBP4コートされたディッシュに吸着すると考えられることが明らかになった。
<マウスES細胞を(GVGVP)67−IGFBP4コートされたディッシュ上で培養することによる、心筋細胞への分化>
(GVGVP)67−IGFBP4コートされたディッシュを使用したマウスES細胞の心筋細胞への分化を調べるため、マウスES細胞を、0.1%ゼラチンコートディッシュ(コントロール)、10μg/mL (GVGVP)67−IGFBP4コートされたディッシュ、1μg/mL IGFBP4(Thy)コートされたディッシュ、または、1μg/mL (GVGVP)67−IGFBP4が可溶性因子として添加されたゼラチンコートディッシュを用いて、24日間培養した。培地は、1日おきに交換した。マウスES細胞は、全ての条件において同様に吸着、増殖した(図4 A)。心臓系の遺伝子発現を、GATA4およびαMHCのRT−PCRにより調べた。(GVGVP)67−IGFBP4コートされたディッシュ上で培養したマウスES細胞では、24日培養後のGATA4およびαMHCの発現量が多かった(図4 B)。また、抗αMHC抗体(MF20)による免疫染色で陽性となった(図4 C)。MF20陽性領域の、DAPI陽性領域に対する割合は、コントロール、IGFBP4(Thy)添加、(GVGVP)67−IGFBP4添加、(GVGVP)67−IGFBP4固定化、の順で、それぞれ5%、7%、7%、18%であった(図4 C)。これらの結果から、(GVGVP)67−IGFBP4の固定化は、マウスES細胞の心筋細胞への分化を促進することが明らかになった。
<胚様体形成後の後期段階における、(GVGVP)67−IGFBP4コートされたディッシュ上で培養したマウスES細胞の心筋細胞への分化>
IGFBP4は、胚様体形成後の後期段階におけるマウスES細胞の心筋細胞への分化を促進することが報告されている(文献4)。胚様体を形成したマウスES細胞の心筋細胞への分化が、(GVGVP)67−IGFBP4固定化ディッシュにより促進されるかを調べた。懸滴標本検査法における胚様体形成過程のES細胞の遺伝子発現プロファイルをRT−PCRにより調べた。3日目の懸滴培地において、胚様体が形成された。胚様体は、N−カドヘリン、Sox17、BrachyuryT、GATA4、Wnt3a、およびIGFBP4を発現した(図5)。この結果より、ES細胞は、懸滴培地において、胚様体の形成を通して、内胚葉系中胚葉の細胞に分化することが明らかになった。また、5日目の培地において、IGFBP4が強く発現していた一方、Wnt3aの発現は弱まっていた(図5 B)。これは、5日目において、心臓発生が開始したことを示唆している。そこで、懸滴培養法5日後において、胚様体を、10μg/mL (GVGVP) 67−IGFBP4固定化ディッシュまたは、0.1%ゼラチンコートディッシュ(コントロール)上で培養した。1μg/mL IGFBP4(Thy)、10μg/mL (GVGVP)67−IGFBP4を、溶解性因子として、ゼラチンコートディッシュに20日間添加した(図6 A)。培地は一日おきに交換した。GATA4、αMHCの遺伝子発現をRT−PCRを用いて確認した。(GVGVP) 67−IGFBP4上で20日間培養した胚様体で、GATA4およびαMHCの双方の高い発現が見られた(図6 C)。20日後において、心筋分化したES細胞の自律拍動が見られた。(GVGVP) 67−IGFBP4上で培養した胚様体の拍動領域を図6Bに示す。MF20を用いた免疫染色において、DAPI陽性領域に対するMF20陽性領域の割合は、コントロール、IGFBP4(Thy)添加、(GVGVP) 67−IGFBP4添加、(GVGVP) 67−IGFBP4固定化ディッシュの順で、それぞれ約30%、40%、40%、65%であった。図7は、(GVGVP) 67−IGFBP4固定化ディッシュ上で培養したES細胞のMF20陽性領域の共焦点顕微鏡による観察結果を示す。

Claims (11)

  1. インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質の全部または一部の領域からなるポリペプチド、または、該インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質を、表面に固定またはコーティングしたことを特徴とする細胞培養基材。
  2. 前記インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質がIGFBP4、または、IGFBP4と相同性を有するタンパク質である請求項1記載の細胞培養基材。
  3. 前記インシュリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)ファミリーに属するタンパク質の全部または一部の領域からなるポリペプチド、または、該インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、IGFBP4のThyドメインまたはIGFBP4のThyドメインと相同なアミノ酸配列を含むものである請求項1または2記載の細胞培養基材。
  4. 前記インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、エラスチン様ポリペプチドの全部または一部を含む請求項1〜3のいずれか一項記載の細胞培養基材。
  5. 前記インシュリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質が、(GVGVP)n(nは2以上の数である。)で表される繰り返し配列を含む請求項1〜4のいずれか一項記載の細胞培養基材。
  6. 前記繰り返し配列が、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)で表される請求項5記載の細胞培養基材。
  7. 前記融合タンパク質が、N末側に、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)を含み、C末側にIGFBP4の全部または一部を含むタンパク質である請求項1〜6のいずれか一項記載の細胞培養基材。
  8. 前記融合タンパク質が、N末側に、(GVGVP)n(nは65以上の数である。)を含み、C末側にIGFBP4のThyドメインまたはIGFBP4のThyドメインと相同なアミノ酸配列を含むタンパク質である請求項7記載の細胞培養基材。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞培養基材と、液体培地とを用いて、未分化性および分化多能性を維持しながら多能性幹細胞を増殖させることを特徴とする細胞培養方法。
  10. 請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞培養基材と、液体培地とを用いて、多能性幹細胞を心筋細胞へ分化させることを特徴とする心筋細胞の製造方法。
  11. Wnt/βカテニンシグナリング経路を阻害することにより多能性幹細胞を心筋細胞へ分化させる請求項10記載の心筋細胞の製造方法。
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