JP2013193143A - 無端金属リングの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減する無端金属リングの製造方法を提供する。
【解決手段】オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板Zの端部を溶接して形成した筒状体1を、所定幅のリング体5に切断して製造する無端金属リング9の製造方法であって、
前記筒状体1の溶接部21のみを局部加熱してから前記リング体5に切断することを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、車両の無段変速機の動力伝達に用いられる無端金属リングの製造方法に関する。
車両に搭載される無段変速機には、図8、9に示すように、ドライブ軸プーリC1とドリブン軸プーリC2との間で、複数個のエレメント8が係合された無端金属ベルト10が周回動作するベルト式の無段変速機が用いられている。この無端金属ベルト10は、マルエージング鋼板などのオーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を突き合わせ溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断し、圧延及び周長調整してから、時効処理、窒化処理して製造される無端金属リングを複数枚積層して製造されている(例えば、特許文献1)。
無端金属リング9の素材となる合金鋼板は、スキンパス圧延等されることによって、母材硬度が圧延前に比べて上昇している。ところが、筒状体の溶接部には、溶接時の凝固段階において融点の高いオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))が優先的に固まり偏析されている。この偏析部ではオーステナイト量が約1.3〜1.5倍程度増加するため、柔らかいオーステナイト組織が増加した溶接部の内部硬度は、溶接部以外の母材部の内部硬度よりもビッカース硬度で約5〜10%程度、低下してしまう(図12参照)。
そのため、所定厚さに圧延した圧延リング体の周長調整工程で、硬度の低い溶接部やその周辺が局部的に伸びて、溶接部やその周辺にくびれ部が発生しやすい。無端金属リング9において、溶接部91やその周辺にくびれ部92があると、動力伝達時の引張応力が集中して作用するため、破断の原因となるばかりか、無段変速機の変速部を通過するとき、図10、11に示すように、くびれ部92にエレメント8の首部81が入り込み、無端金属リング9とエレメント8との間で摩擦力が上昇する。摩擦力の上昇は、無端金属リング9及びエレメント8間の摩擦損失の増加となり、更なる燃費性能の向上を図る上で、障害となっている。
そこで、無段変速機用の無端金属リングにおいて、溶接部におけるくびれ部の発生を防止する技術が開発されている(例えば、特許文献2)。
特許文献2の技術は、主に鉄―クロムからなるマルテンサイト系ステンレス鋼の薄鋼板を溶接後に、筒状体又はリング体をマルテンサイト系ステンレス鋼のMs点からMf点までの範囲の温度に保持して冷却する熱処理を、リング体の塑性変形前に行う方法である。熱処理によって溶接部のオーステナイト相が針状のマルテンサイト組織となり、溶接部の硬度が母材並みに上昇するからである。
特開2006−124757号公報 特開2006−183078号公報
しかしながら、特許文献2の技術のように、溶接後に、筒状体又はリング体をマルテンサイト系ステンレス鋼のMs点からMf点までの範囲の温度に保持して冷却する熱処理を行う方法では、所定の温度管理が必要な冷却装置(例えば、30℃(Ms点)から−60℃(Mf点)まで保持する装置)が必要となり、設備費や熱処理に要する工数が増大して、コスト面から好ましくない。また、この方法は、マルテンサイト系ステンレス鋼に限られるので、一般的に多く使用されるマルエージング鋼には、必ずしも適したものではない。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減する無端金属リングの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る無端金属リングの製造方法は、次のような構成を有している。
(1)オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、
前記筒状体の溶接部のみを局部加熱してから前記リング体に切断することを特徴とする。
(2)(1)に記載された無端金属リングの製造方法において、
前記局部加熱は、前記溶接部の全長について同時に行うことを特徴とする。
(3)(1)又は(2)に記載された無端金属リングの製造方法において、
前記局部加熱によって前記溶接部を略900℃以上に昇温させることを特徴とする。
次に、本発明に係る無端金属リングの製造方法の作用及び効果について説明する。
(1)オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、筒状体の溶接部のみを局部加熱してからリング体に切断することを特徴とするので、簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減することができる。
すなわち、筒状体の溶接部には、凝固過程で融点の高いオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))が優先的に固まり偏析している。偏析したオーステナイト安定化元素は、溶接部のみを局部的に加熱されることによって、熱エネルギーを受けて動きやすくなる。動きやすくなったオーステナイト安定化元素は、鉄(Fe)のマトリックス中に均一に拡散していく。オーステナイト安定化元素がマトリックス中に均一に拡散するので、局部加熱部におけるオーステナイト安定化元素の分布状態は、母材部におけるオーステナイト安定化元素の分布状態と近似する。そのため、局部加熱部におけるオーステナイト量と、母材部におけるオーステナイト量とが略等しくなる。よって、局部加熱部の硬度は母材部の硬度と略等しくなって、周長調整工程で圧延リング体の周長を伸ばしても、周長調整後の無端金属リングにおける溶接部と母材部での伸びが略等しくなる。その結果、周長調整後の無端金属リングにおける溶接部及びその周辺でくびれ部が発生するのを低減することができる。
また、溶接部のみを局部加熱する方法であるため、特許文献2の技術のように、所定の温度管理を要する冷却装置を必要としない。さらに、筒状体の端部を溶接する溶接装置を、そのまま局部加熱装置として使用することも可能である。溶接装置を局部加熱装置に兼用することによって、設備費を大幅に低減できる。この場合、例えば、溶接装置の出力を局部加熱時に溶接時より低下させるか、溶接装置のトーチ移動速度を局部加熱時に溶接時より速くさせるだけでよい。
なお、溶接部のみを局部加熱するとき、局部加熱部を再溶融しない程度に加熱する。再溶融しては、その凝固過程でオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))がふたたび偏析するからである。
以上の結果、(1)の発明によれば、簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減することができる。
(2)(1)に記載された無端金属リングの製造方法において、局部加熱は、溶接部の全長について同時に行うことを特徴とするので、局部加熱を均一かつ短時間に行うことができる。筒状体の全長に亘って、同程度の局部加熱をすることによって、オーステナイト安定化元素をより均一に分散させることができる。この場合、局部加熱装置は、突起部を有する加熱部材であって、筒状体の全長をカバーできる長尺状の部材であることが好ましい。例えば、突起部を有する加熱部材で溶接部を狭持することによって、溶接部の外周側と内周側とを同時に加熱することもできる。また、溶接部の外周側又は内周側のみを加熱することもできる。
(3)(1)又は(2)に記載された無端金属リングの製造方法において、局部加熱によって溶接部を約900℃以上に昇温させることを特徴とするので、周長調整後の無端金属リングにおける溶接部及びその周辺のくびれ部を大幅に低減できる。本発明者らは、約840℃から870℃の範囲で昇温させる場合に比べて、約900℃から950℃の範囲で昇温させることによって、周長調整後の無端金属リングにおける溶接部及びその周辺のくびれ部の大きさを約1/3以下に低減できることを、実験によって確認している。
その理由は、上記温度で局部加熱した場合、熱エネルギーを受けて動きやすくなったモリブデン等のオーステナイト安定化元素が、鉄のマトリックス中に、より均一に拡散移動させることができたからであると推定される。また、約900℃付近に閾値が認められる理由は、マトリックス元素である鉄の結晶構造が、約910℃を境に体心立方格子から面心立方格子に変化して体積的に小さくなるため、マトリックス中の隙間が広くなって、モリブデン等のオーステナイト安定化元素の拡散移動が促進されたからであると考えられる。
本発明に係る実施形態である無端金属リングの製造工程である。 図1に示す製造工程のうち、局部加熱工程の詳細図である。 図1に示す製造工程のうち、局部加熱工程の詳細図である。 図1に示す製造工程のうち、局部加熱工程の詳細図である。 図1に示す局部加熱工程によって局部加熱部のモリブデンが拡散する様子を表す模式的断面図である。 局部加熱前後における溶接部(局部加熱部)のオーステナイト量と母材部のオーステナイト量を比較したグラフである。 局部加熱工程の処理温度に対する溶接部のくびれ量を比較したグラフである。 無段変速機に使用される無端金属ベルトの全体図である。 図8に示す無端金属ベルトの上面図である。 図9における無端金属ベルトのA部詳細図である。 図10における無端金属ベルトの正面図である。 溶接部の内部硬さと溶接中心からの距離の関係を示すグラフである。
次に、本発明に係る無端金属リングの製造方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に、本発明に係る実施形態である無端金属リングの製造工程を示す。図2〜図4に、図1に示す製造工程のうち、局部加熱工程の詳細図を示す。
<無端金属リングの製造工程>
図1に示すように、無端金属ベルトの製造工程は、(a)帯鋼切断・曲げ工程、(b)溶接工程、(c)局部加熱工程、(d)溶体化1(焼鈍)工程、(e)リング切断・研磨工程、(f)圧延工程、(g)溶体化2工程、(h)周長調整工程、(i)時効・窒化処理工程を備えている。
従来の製造工程との相違点は、(c)局部加熱工程の有無である。ここでは、本発明の特徴である(c)局部加熱工程を中心に説明し、その他の工程は、必要な範囲に絞って説明する。
(a)帯鋼切断・曲げ工程は、帯状の合金鋼板Zをコイルから巻き戻して、所定サイズのシート材ZSに切断してから、筒状体1に曲げ成形する工程である。筒状体1への曲げ成形は、ロール又は金型を用いて行う。合金鋼板の厚さは、0.4〜0.5mm程度である。筒状体1は、シート材ZSの端部を突き合わせて円筒状に曲げ成形されている。筒状体1の直径は、約100〜200mm程度である。
(b)溶接工程は、溶接装置2を筒状体1の突き合わせ部13に対峙させ、筒状体1又は溶接装置2のトーチを軸方向(矢印Fの方向)に移動させて、突き合わせ溶接する工程である。溶接装置2には、例えば、局部的に溶融させることができるレーザ溶接装置又はプラズマ溶接装置が適している。溶接部21は、筒状体1の外周面から内周面まで貫通して形成する。溶接部21と母材部との境界にひけが発生すると、強度低下の原因となるので、ひけが生じない溶接条件(スポット径、焦点距離、溶接速度等)を選定する。
(c)局部加熱工程は、局部加熱装置3を筒状体1における溶接部21の外周上方に対峙させ、筒状体1の外周面側から溶接部21のみを局部加熱して、溶接部21に偏析したオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))を、偏析状態から略均一に分布する状態に拡散移動させる工程である。局部加熱方法には、スポット加熱方法(図2)と長尺加熱方法(図3、4)がある。
図2に示すように、スポット加熱法は、溶接部21の上方に対峙させた局部加熱装置3を筒状体1の前端から後端まで軸方向に所定の移動速度Vで移動させて局部加熱して、局部加熱部31を形成する方法である。筒状体1は、保持装置7によって水平に保持されている。スポット加熱方法に用いる局部加熱装置3には、溶接装置2に用いるレーザ溶接装置又はプラズマ溶接装置が好ましい。設備の共通化によるコスト低減のほか、溶接幅と略同じ幅で局部加熱部31を形成できるからである。そのため、局部加熱のスポット径は、原則として溶接部21の幅と略同一とする。ただし、局部加熱のスポット径をあまり大きくすると、溶接熱の残っている筒状体1の形状が崩れやすくなるので、連続して局部加熱して形状崩れを起こさない程度のスポット径を選定する。
図3に示すように、長尺加熱方法は、筒状体1の外周11側と内周12側とに溶接部21の全長を挟んで対峙させた外長尺加熱装置4Aと内長尺加熱装置4Bとによって、内外から同時に加熱して局部加熱部41を形成する方法である。外長尺加熱装置4A及び内長尺加熱装置4Bには、それぞれ蓄熱材である本体部4AB、4BBと局部加熱材である突起部4AT、4BTとを備えている。本体部4AB、4BBは矩形状にし、また突起部4AT、4BTは略三角状にして、それぞれ一定の横断面で形成されている。
なお、長尺加熱方法は、図4に示すように外長尺加熱装置4Aのみ、又は内長尺加熱装置4Bのみ(図示せず)によって、加熱してもよい。
図1に示す(d)溶体化1(焼鈍)工程は、筒状体1に対する溶接や局部加熱の過程で部分的に硬くなった硬度を均質化する工程である。また、(e)リング切断・研磨工程は、無端金属ベルトとして使用する幅に、次の圧延工程での伸びを考慮して切断し、切断部を研磨してバリ等を除去する工程である。また、(f)圧延工程は、所定幅に切断したリング体5を、圧延リング体6として必要な所定長、所定厚となるように圧延する工程である。圧延されることで、硬度も上昇する。また、(g)溶体化2工程は、圧延リング体6の圧延組織を再結晶させて圧延により変形された金属結晶粒形状を復元する工程である。また、(h)周長調整工程は、圧延リング体6を複数枚積層して無端金属ベルト10にする上で、必要な周長補正をする工程である。また、(i)時効・窒化処理工程は、圧延リング体6に時効処理による所定の硬度確保と、窒化処理による均一な窒化層の形成を行う工程である。(d)溶体化1(焼鈍)工程から(i)時効・窒化処理工程までの工程は、従来公知であるので、詳細な説明は割愛する。
図8、9に、上述した製造工程で製造した無端金属リング9を備える無端金属ベルト10を示す。図10に示すように、無端金属ベルト10には、複数個のエレメント8が係合され、駆動側のドライブ軸プーリC1と従動側のドリブン軸プーリC2との間で、駆動力を伝達する役割を果たしている。無端金属ベルト10は、各プーリC1、C2を通過するとき、ベルト送り方向が僅かに変化する。そのとき、溶接部91及びその周辺にくびれ部92があると、くびれ部92にエレメント8の首部81が当たり、摩擦力が増大する。本実施形態では、溶接部21のみを局部加熱する方法によって、上記くびれ部92を大幅に低減した。
上記くびれ部92の低減メカニズムについて、以下に説明する。
<局部加熱部におけるモリブデンの拡散>
まず、溶接部21で偏析したモリブデンが局部加熱部31、41において拡散する様子を、図5によって説明する。図5に、図1に示す局部加熱工程によって局部加熱部のモリブデンが拡散する様子を表す模式的断面図を示す。
図5に示すように、局部加熱前の溶接部21には、溶接工程で溶融・凝固されるときに融点の高いオーステナイト安定化元素であるモリブデン(融点:2620℃)が所々に固まって集合して偏析部が形成されている。これは、融点の高い元素から先に凝固が始まるからである。
この所々に偏析部が形成された溶接部21のみを局部加熱して、局部加熱部31、41に含まれるマトリックス元素である鉄(融点:1538℃)の結晶構造が体心立方格子から面心立方格子に変化する温度(約910℃)に昇温させると、鉄の元素は体積的に小さくなり、マトリックス元素の隙間が増加する。一方、合金元素であるモリブデンは、熱エネルギーを受けて大きく熱振動(格子振動)を行う。そのため、マトリックス元素の拘束が少なくなって動きやすくなった融点の高いモリブデンの元素は、固相状態のマトリックス元素の間を拡散移動する。したがって、溶接部21で偏析していたモリブデンの元素は、局部加熱部31、41において分離して全体に均一化するよう拡散することができる。モリブデンの元素は、固相状態のマトリックス元素の間に拡散したのであるから、冷却されても局部加熱前のように偏析することはない。
<局部加熱部におけるオーステナイト量の低減>
以下の成分のマルエージング鋼で、上述した製造工程によって製造した筒状体1の溶接部21のみを局部加熱装置3によって、局部加熱したときの母材部及び局部加熱部31におけるオーステナイト量を測定した。図6に、局部加熱前後における溶接部(局部加熱部)のオーステナイト量と母材部のオーステナイト量を比較したグラフを示す。オーステナイト量は、X線回析装置を用いて金属結晶構造を分析して測定した。
図6における縦軸は、母材部のオーステナイト量(体積%)を基準にして換算した指数値である。なお、マルエージング鋼の合金成分比率(重量%)は、ニッケル(Ni)が18%程度、コバルト(Co)が9%程度、モリブデン(Mo)が5%程度、チタン(Ti)が0.45%程度、アルミ(Al)が0.1%程度である。
図6に示すように、溶接部(局加熱部)におけるオーステナイト量は、局部加熱前では母材部のオーステナイト量に比較して約1.4倍程度になっていたが、局部加熱後では母材部のオーステナイト量と略等しくなっている。このように、溶接部21のみを局部加熱することでオーステナイト量を母材部と略同等にすることができた。これは、局部加熱することによって、偏析していたモリブデンの元素が、母材部と略同じ状態に拡散したからであると推定している。
<溶接部くびれ量の低減>
次に、(c)局部加熱工程における処理温度に対する溶接部くびれ量を測定した。図7に、局部加熱工程の処理温度に対する溶接部くびれ量を比較したグラフを示す。横軸の処理温度は、局部加熱直後に測定した局部加熱部31、41の温度である。縦軸の溶接部くびれ量は、圧延リング体6を周長調整工程で伸ばした後に、溶接部91中央の幅と母材部の幅との差を測定し、その差を1/2倍した値を指数換算した。測定は、圧延リング体6を5個用意して行い、それぞれグラフ上にプロットした。
図7に示すように、処理温度が840〜870℃の範囲では、溶接部くびれ量は、指数値で4〜5程度であったが、処理温度が900〜950℃の範囲では、溶接部くびれ量は、指数値で1.5〜−1程度になっている。この結果、溶接部21の局部加熱による処理温度を、約900℃以上に昇温することによって、溶接部くびれ量を大幅(約1/3以下)に低減できたと認められる。
<溶接部くびれ量の低減メカニズム>
以上の結果から、溶接部くびれ量の低減メカニズムを整理すると、以下のようになる。
すなわち、溶接部21のみを局部加熱すると、局部加熱部31、41では偏析するオーステナイト安定化元素(主に、モリブデン)がマトリックス中に拡散して、オーステナイト安定化元素の分布状態が母材並みに均一化される。そのため、オーステナイト量が局部加熱部31、41と母材部とで略等しくなる。硬度及び伸びに影響を与えるオーステナイト量が局部加熱部31、41と母材部とで略等しくなったため、圧延リング体6の周長を拡大したとき、溶接部91のみが局部伸びすることはなく、溶接部91と母材部の伸び量が略均一となって、溶接部くびれ量が大幅に低減した。特に、オーステナイト安定化元素(主に、モリブデン)がマトリックス中に拡散しやすくする処理温度は、マトリックス元素である鉄の結晶構造が変化する約900℃以上であることが確認できた。
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る無端金属リングの製造方法によれば、オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板Zの端部を溶接して形成した筒状体1を、所定幅のリング体5に切断して製造する無端金属リング9の製造方法であって、筒状体1の溶接部21のみを局部加熱してからリング体5に切断することを特徴とするので、簡単な方法で溶接部21に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部91及びその周辺にくびれ部92が発生するのを低減することができる。
すなわち、筒状体1の溶接部21には、凝固過程で融点の高いオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))が優先的に固まり偏析している。偏析したオーステナイト安定化元素は、溶接部21のみを局部的に加熱されることによって、熱エネルギーを受けて動きやすくなる。動きやすくなったオーステナイト安定化元素は、鉄(Fe)のマトリックス中に均一に拡散していく。オーステナイト安定化元素がマトリックス中に均一に拡散するので、局部加熱部31、41におけるオーステナイト安定化元素の分布状態は、母材部におけるオーステナイト安定化元素の分布状態と近似する。そのため、局部加熱部31、41におけるオーステナイト量と、母材部におけるオーステナイト量とが略等しくなる。よって、局部加熱部31、41の硬度は母材部の硬度と略等しくなって、圧延リング体6の周長を伸ばしても、周長調整後の無端金属リング9における溶接部91と母材部での伸びが略等しくなる。その結果、周長調整後の無端金属リング9における溶接部91及びその周辺でくびれ部92が発生するのを低減することができる。
また、筒状体1の溶接部21のみを局部加熱する方法であるため、特許文献2の技術のように、所定の温度管理を要する冷却装置を必要としない。さらに、筒状体1の端部を溶接する溶接装置2を、そのまま局部加熱装置3として使用することも可能である。溶接装置2を局部加熱装置3に兼用することによって、設備費を大幅に低減できる。この場合、例えば、溶接装置2の出力を局部加熱時に溶接時より低下させるか、溶接装置2のトーチ移動速度を局部加熱時に溶接時より速くさせるだけでよい。溶接装置2を兼用する局部加熱装置3には、レーザ溶接装置又はプラズマ溶接装置が好ましい。
なお、溶接部21のみを局部加熱するとき、局部加熱部31を再溶融しない程度に加熱する。再溶融しては、その凝固過程でオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))がふたたび偏析するからである。
また、本実施形態によれば、局部加熱は、溶接部21の全長について同時に行うことを特徴とするので、局部加熱を均一かつ短時間に行うことができる。筒状体1の全長に亘って、同程度の局部加熱をすることによって、オーステナイト安定化元素をより均一に分散させることができる。この場合、局部加熱装置4は、突起部4AT、4BTを有する加熱部材であって、筒状体1の全長をカバーできる長尺状の部材であることが好ましい。例えば、突起部4AT、4BTを有する加熱部材で溶接部21を狭持することによって、溶接部21の外周側と内周側とを同時に加熱することもできる。また、溶接部21の外周側又は内周側のみを加熱することもできる。
また、本実施形態によれば、局部加熱によって溶接部21を約900℃以上に昇温させることを特徴とするので、周長調整後の溶接部91及びその周辺のくびれ部92を大幅に低減できる。本発明者らは、約840℃から870℃の範囲で昇温させる場合に比べて、約900℃から950℃の範囲で昇温させることによって、周長調整後の溶接部91及びその周辺のくびれ部92の大きさを約1/3以下に低減できることを、実験によって確認している。その理由は、上記温度で局部加熱した熱エネルギーを受けて動きやすくなったモリブデン等のオーステナイト安定化元素が、鉄のマトリックス中に、より均一に拡散移動させることができたからであると推定される。また、約900℃付近に閾値が認められる理由は、マトリックス元素である鉄の結晶構造が、約910℃を境に体心立方格子から面心立方格子に変化して体積的に小さくなるため、マトリックス中の隙間が広くなって、モリブデン等のオーステナイト安定化元素の拡散移動が促進されたからであると考えられる。
本発明は、車両のドライブ軸プーリとドリブン軸プーリとの間で周回動作する駆動ベルトを構成する無端金属リングの製造方法として利用できる。
1 筒状体
2 溶接装置
3、4 局部加熱装置
5 リング体
6 圧延リング体
8 エレメント
9 無端金属リング
10 無端金属ベルト
21 筒状体の溶接部
31、41 局部加熱部
91 無端金属リングの溶接部
92 無端金属リングのくびれ部

Claims (3)

  1. オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、
    前記筒状体の溶接部のみを局部加熱してから前記リング体に切断することを特徴とする無端金属リングの製造方法。
  2. 請求項1に記載された無端金属リングの製造方法において、
    前記局部加熱は、前記溶接部の全長について同時に行うことを特徴とする無端金属リングの製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載された無端金属リングの製造方法において、
    前記局部加熱によって前記溶接部を略900℃以上に昇温させることを特徴とする無端金属リングの製造方法。
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