JP2013193143A - 無端金属リングの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板Zの端部を溶接して形成した筒状体1を、所定幅のリング体5に切断して製造する無端金属リング9の製造方法であって、
前記筒状体1の溶接部21のみを局部加熱してから前記リング体5に切断することを特徴とする。
【選択図】図1
Description
無端金属リング9の素材となる合金鋼板は、スキンパス圧延等されることによって、母材硬度が圧延前に比べて上昇している。ところが、筒状体の溶接部には、溶接時の凝固段階において融点の高いオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))が優先的に固まり偏析されている。この偏析部ではオーステナイト量が約1.3〜1.5倍程度増加するため、柔らかいオーステナイト組織が増加した溶接部の内部硬度は、溶接部以外の母材部の内部硬度よりもビッカース硬度で約5〜10%程度、低下してしまう(図12参照)。
そのため、所定厚さに圧延した圧延リング体の周長調整工程で、硬度の低い溶接部やその周辺が局部的に伸びて、溶接部やその周辺にくびれ部が発生しやすい。無端金属リング9において、溶接部91やその周辺にくびれ部92があると、動力伝達時の引張応力が集中して作用するため、破断の原因となるばかりか、無段変速機の変速部を通過するとき、図10、11に示すように、くびれ部92にエレメント8の首部81が入り込み、無端金属リング9とエレメント8との間で摩擦力が上昇する。摩擦力の上昇は、無端金属リング9及びエレメント8間の摩擦損失の増加となり、更なる燃費性能の向上を図る上で、障害となっている。
特許文献2の技術は、主に鉄―クロムからなるマルテンサイト系ステンレス鋼の薄鋼板を溶接後に、筒状体又はリング体をマルテンサイト系ステンレス鋼のMs点からMf点までの範囲の温度に保持して冷却する熱処理を、リング体の塑性変形前に行う方法である。熱処理によって溶接部のオーステナイト相が針状のマルテンサイト組織となり、溶接部の硬度が母材並みに上昇するからである。
(1)オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、
前記筒状体の溶接部のみを局部加熱してから前記リング体に切断することを特徴とする。
前記局部加熱は、前記溶接部の全長について同時に行うことを特徴とする。
前記局部加熱によって前記溶接部を略900℃以上に昇温させることを特徴とする。
(1)オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、筒状体の溶接部のみを局部加熱してからリング体に切断することを特徴とするので、簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減することができる。
なお、溶接部のみを局部加熱するとき、局部加熱部を再溶融しない程度に加熱する。再溶融しては、その凝固過程でオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))がふたたび偏析するからである。
以上の結果、(1)の発明によれば、簡単な方法で溶接部に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部及びその周辺にくびれ部が発生するのを低減することができる。
図1に示すように、無端金属ベルトの製造工程は、(a)帯鋼切断・曲げ工程、(b)溶接工程、(c)局部加熱工程、(d)溶体化1(焼鈍)工程、(e)リング切断・研磨工程、(f)圧延工程、(g)溶体化2工程、(h)周長調整工程、(i)時効・窒化処理工程を備えている。
従来の製造工程との相違点は、(c)局部加熱工程の有無である。ここでは、本発明の特徴である(c)局部加熱工程を中心に説明し、その他の工程は、必要な範囲に絞って説明する。
図2に示すように、スポット加熱法は、溶接部21の上方に対峙させた局部加熱装置3を筒状体1の前端から後端まで軸方向に所定の移動速度Vで移動させて局部加熱して、局部加熱部31を形成する方法である。筒状体1は、保持装置7によって水平に保持されている。スポット加熱方法に用いる局部加熱装置3には、溶接装置2に用いるレーザ溶接装置又はプラズマ溶接装置が好ましい。設備の共通化によるコスト低減のほか、溶接幅と略同じ幅で局部加熱部31を形成できるからである。そのため、局部加熱のスポット径は、原則として溶接部21の幅と略同一とする。ただし、局部加熱のスポット径をあまり大きくすると、溶接熱の残っている筒状体1の形状が崩れやすくなるので、連続して局部加熱して形状崩れを起こさない程度のスポット径を選定する。
なお、長尺加熱方法は、図4に示すように外長尺加熱装置4Aのみ、又は内長尺加熱装置4Bのみ(図示せず)によって、加熱してもよい。
上記くびれ部92の低減メカニズムについて、以下に説明する。
まず、溶接部21で偏析したモリブデンが局部加熱部31、41において拡散する様子を、図5によって説明する。図5に、図1に示す局部加熱工程によって局部加熱部のモリブデンが拡散する様子を表す模式的断面図を示す。
図5に示すように、局部加熱前の溶接部21には、溶接工程で溶融・凝固されるときに融点の高いオーステナイト安定化元素であるモリブデン(融点:2620℃)が所々に固まって集合して偏析部が形成されている。これは、融点の高い元素から先に凝固が始まるからである。
この所々に偏析部が形成された溶接部21のみを局部加熱して、局部加熱部31、41に含まれるマトリックス元素である鉄(融点:1538℃)の結晶構造が体心立方格子から面心立方格子に変化する温度(約910℃)に昇温させると、鉄の元素は体積的に小さくなり、マトリックス元素の隙間が増加する。一方、合金元素であるモリブデンは、熱エネルギーを受けて大きく熱振動(格子振動)を行う。そのため、マトリックス元素の拘束が少なくなって動きやすくなった融点の高いモリブデンの元素は、固相状態のマトリックス元素の間を拡散移動する。したがって、溶接部21で偏析していたモリブデンの元素は、局部加熱部31、41において分離して全体に均一化するよう拡散することができる。モリブデンの元素は、固相状態のマトリックス元素の間に拡散したのであるから、冷却されても局部加熱前のように偏析することはない。
以下の成分のマルエージング鋼で、上述した製造工程によって製造した筒状体1の溶接部21のみを局部加熱装置3によって、局部加熱したときの母材部及び局部加熱部31におけるオーステナイト量を測定した。図6に、局部加熱前後における溶接部(局部加熱部)のオーステナイト量と母材部のオーステナイト量を比較したグラフを示す。オーステナイト量は、X線回析装置を用いて金属結晶構造を分析して測定した。
図6における縦軸は、母材部のオーステナイト量(体積%)を基準にして換算した指数値である。なお、マルエージング鋼の合金成分比率(重量%)は、ニッケル(Ni)が18%程度、コバルト(Co)が9%程度、モリブデン(Mo)が5%程度、チタン(Ti)が0.45%程度、アルミ(Al)が0.1%程度である。
図6に示すように、溶接部(局加熱部)におけるオーステナイト量は、局部加熱前では母材部のオーステナイト量に比較して約1.4倍程度になっていたが、局部加熱後では母材部のオーステナイト量と略等しくなっている。このように、溶接部21のみを局部加熱することでオーステナイト量を母材部と略同等にすることができた。これは、局部加熱することによって、偏析していたモリブデンの元素が、母材部と略同じ状態に拡散したからであると推定している。
次に、(c)局部加熱工程における処理温度に対する溶接部くびれ量を測定した。図7に、局部加熱工程の処理温度に対する溶接部くびれ量を比較したグラフを示す。横軸の処理温度は、局部加熱直後に測定した局部加熱部31、41の温度である。縦軸の溶接部くびれ量は、圧延リング体6を周長調整工程で伸ばした後に、溶接部91中央の幅と母材部の幅との差を測定し、その差を1/2倍した値を指数換算した。測定は、圧延リング体6を5個用意して行い、それぞれグラフ上にプロットした。
図7に示すように、処理温度が840〜870℃の範囲では、溶接部くびれ量は、指数値で4〜5程度であったが、処理温度が900〜950℃の範囲では、溶接部くびれ量は、指数値で1.5〜−1程度になっている。この結果、溶接部21の局部加熱による処理温度を、約900℃以上に昇温することによって、溶接部くびれ量を大幅(約1/3以下)に低減できたと認められる。
以上の結果から、溶接部くびれ量の低減メカニズムを整理すると、以下のようになる。
すなわち、溶接部21のみを局部加熱すると、局部加熱部31、41では偏析するオーステナイト安定化元素(主に、モリブデン)がマトリックス中に拡散して、オーステナイト安定化元素の分布状態が母材並みに均一化される。そのため、オーステナイト量が局部加熱部31、41と母材部とで略等しくなる。硬度及び伸びに影響を与えるオーステナイト量が局部加熱部31、41と母材部とで略等しくなったため、圧延リング体6の周長を拡大したとき、溶接部91のみが局部伸びすることはなく、溶接部91と母材部の伸び量が略均一となって、溶接部くびれ量が大幅に低減した。特に、オーステナイト安定化元素(主に、モリブデン)がマトリックス中に拡散しやすくする処理温度は、マトリックス元素である鉄の結晶構造が変化する約900℃以上であることが確認できた。
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る無端金属リングの製造方法によれば、オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板Zの端部を溶接して形成した筒状体1を、所定幅のリング体5に切断して製造する無端金属リング9の製造方法であって、筒状体1の溶接部21のみを局部加熱してからリング体5に切断することを特徴とするので、簡単な方法で溶接部21に偏析するオーステナイト安定化元素を拡散させて、周長調整後の溶接部91及びその周辺にくびれ部92が発生するのを低減することができる。
なお、溶接部21のみを局部加熱するとき、局部加熱部31を再溶融しない程度に加熱する。再溶融しては、その凝固過程でオーステナイト安定化元素(例えば、モリブデン(Mo))がふたたび偏析するからである。
2 溶接装置
3、4 局部加熱装置
5 リング体
6 圧延リング体
8 エレメント
9 無端金属リング
10 無端金属ベルト
21 筒状体の溶接部
31、41 局部加熱部
91 無端金属リングの溶接部
92 無端金属リングのくびれ部
Claims (3)
- オーステナイト安定化元素を含む合金鋼板の端部を溶接して形成した筒状体を、所定幅のリング体に切断して製造する無端金属リングの製造方法であって、
前記筒状体の溶接部のみを局部加熱してから前記リング体に切断することを特徴とする無端金属リングの製造方法。 - 請求項1に記載された無端金属リングの製造方法において、
前記局部加熱は、前記溶接部の全長について同時に行うことを特徴とする無端金属リングの製造方法。 - 請求項1又は請求項2に記載された無端金属リングの製造方法において、
前記局部加熱によって前記溶接部を略900℃以上に昇温させることを特徴とする無端金属リングの製造方法。
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