[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の画像形成装置100の構成を示すブロック図である。画像形成装置100は、画像データに応じた画像を形成する装置である。画像形成装置100は、制御部110と、表示部120と、操作部130と、通信部140と、記憶部150と、画像形成部160とを備える。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含む演算装置やメモリを備えたコンピュータである。制御部110の演算装置は、メモリに記憶されたプログラムを実行して、画像形成装置100の各部を制御したり、データを処理したりする。また、制御部110は、時刻を測定する機能を有し、これらの制御や処理を行ったときの時刻を取得したり、決められた時刻にこれらの制御や処理を行ったりする。
表示部120は、液晶表示画面及び液晶駆動回路を備えており、制御部110から供給されてくる情報に基づいて処理の進行状況やユーザに操作を案内する情報などを表示する。操作部130は、ボタン等の操作子を備え、ユーザの操作に応じてその操作内容を表す操作情報を制御部110に供給する。通信部140は、LAN(Local Area Network)などの通信回線と接続し、その通信回線に接続する外部装置と通信する。この外部装置からは、例えば、画像を形成するための画像データとともに、その画像を用紙に形成するように要求することを示す要求データが送信されてくる。通信部140は、送信されてきたそれらのデータを制御部110に供給する。記憶部150は、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置を備え、例えば、上記の画像データを記憶する。画像形成部160は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のトナーを用いて電子写真方式で記録媒体である用紙に画像を形成する。
図2は、画像形成部160の構成を示す図である。図2に示す画像形成部160の各符号のうち、その末尾に付されたアルファベットは画像形成装置が扱うトナーの色に対応する。符号の末尾のアルファベットが異なる構成は、扱うトナーの色が異なるが、その構成は互いに共通している。以下の説明において、これら各構成を特に区別する必要がない場合には、符号の末尾のアルファベットを省いて説明する。画像形成部160は、画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kと、露光装置2と、中間転写ベルト3と、給紙部4と、複数の搬送ロール5と、二次転写ロール6と、定着部7と、排出部8と、用紙検知部21とを有する。
露光装置2は、各画像形成ユニット1に各色の画像データに応じた光(露光光)をそれぞれ出力し、各色の画像の元となる静電潜像をそれぞれ形成する。画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kは、トナーを用いて静電潜像を現像し、各色の画像をそれぞれ形成する。これらの画像形成ユニット1の構成について、画像形成ユニット1Kの構成を例に挙げて説明する。画像形成ユニット1Kは、感光体11Kと、帯電装置12Kと、露光部13Kと、現像装置14Kと、一次転写ロール15Kと、クリーニング装置16Kとを有する。感光体11Kは、表面に光導電膜を積層して軸を中心に回転する円筒状の部材であり、表面に形成された静電潜像を保持する。
帯電装置12Kは、感光体11Kを決められた帯電電位に帯電させる。露光部13Kは、露光装置2から出力された露光光が感光体11Kに至るまでの経路を形成する。帯電装置12Kにより帯電された感光体11Kの表面には、露光装置2が出力した露光光が露光部13Kを通って到達し、画像データに応じた静電潜像が形成される。現像装置14Kは、非磁性体であるトナーと磁性体であるキャリアとを有する現像剤を収容する。現像装置14Kは、この現像剤に含まれるトナーを上記の静電潜像に供給し、この静電潜像を現像して感光体11Kの表面に画像を形成する。一次転写ロール15Kは、この画像を感光体11Kから中間転写ベルト3に一次転写する。クリーニング装置16Kは、一次転写がされた後の感光体11Kの表面に残留するトナーを除去する。
中間転写ベルト3は、駆動ロール31を含む複数のロールに掛け渡されており、これらのロールにより回転可能に支持されている。駆動ロール31は、制御部110により制御される図示せぬ駆動機構により駆動されて、制御部110が定めた回転速度(回転する速度のこと)で回転する。中間転写ベルト3は、駆動ロール31が回転することにより、矢印で示す回転方向A1に回転する。中間転写ベルト3の外周面には、各画像形成ユニットによって形成された画像が重ね合わされるようにして一次転写される。給紙部4には、用紙が複数枚収容されている。
複数の搬送ロール5は、給紙部4から二次転写ロール6、定着部7を経由して排出部8にまで至る破線の矢印で示す搬送路B1を形成し、この搬送路B1を矢印で示す搬送方向A2に用紙を搬送する搬送手段である。これらの搬送ロール5は、制御部110により制御される図示せぬ駆動機構により駆動されて、制御部110が定めた回転速度で回転する。二次転写ロール6は、中間転写ベルト3と接触し、画像の転写のための領域である転写領域を形成する。二次転写ロール6は、複数の搬送ロール5によってこの転写領域に搬送されてきた用紙に、中間転写ベルト3に一次転写された画像を二次転写する。このように画像が二次転写されることで、用紙に画像が形成されることになる。上述した画像形成ユニット1、露光装置2、中間転写ベルト3及び二次転写ロール6は、用紙に画像を形成する手段であり、本発明に係る「画像形成手段」の一例である。二次転写ロール6は、制御部110により制御される図示せぬ駆動機構により駆動されて、制御部110が定めた回転速度で回転する。転写領域を通過した用紙は、搬送路B1を通って定着部7に搬送される。
定着部7は、搬送されてきた用紙に二次転写された画像に対し加熱及び加圧を行うことによって、その画像を用紙に定着させる。定着部7は、この加熱を行うタイミング等が図1に示す制御部110によって制御されている。定着部7及び制御部110が協働することで、本発明に係る「定着装置」として機能する。画像が形成された用紙は複数の搬送ロール5により搬送されて排出部8に排出させられる。
用紙の搬送速度は、複数の搬送ロール5、中間転写ベルト3及び二次転写ロール6の回転速度によって決まる。これらの回転速度は、上記のとおり、制御部110が決めるようになっている。つまり、制御部110は、これらの回転速度を決めることで、用紙の搬送速度を、例えば、150mm/毎秒以上200mm/毎秒以下の範囲で制御している。詳細には、制御部110は、上述した各駆動機構に対して搬送速度に応じた制御信号を供給することで、その搬送速度で用紙が搬送されるようにこれらの駆動機構を制御している。
用紙検知部21は、搬送路B1上の或る位置に用紙があるか否か(用紙の有無)を検知するためのものである。以下では、用紙検知部21が用紙の有無を検知する位置を「用紙検知位置」という。用紙検知部21は、この用紙検知位置が搬送路B1における転写領域の上流にくるように配置されている。用紙検知部21は、例えば光センサであり、用紙検知位置に対して光を発信し、その用紙検知位置からの光を受信する。用紙検知部21が受信する光の強度は、用紙検知位置に用紙があるときとないときとで異なる。例えば、この強度が或る閾値以上であるときには用紙検知位置に用紙があることが示され、その閾値未満であるときには用紙がないことが示される。用紙検知部21は、検知した結果を示す検知データを制御部110に供給する。この検知データは、例えば受信した光の強度を示すデータである。制御部110は、検知データが示す強度が上記の閾値以上である場合に、用紙検知位置に用紙があることを検知し、閾値未満である場合に、用紙がないことを検知する。
図3は、定着部7の構成を示す図である。図3では用紙の搬入側から見た定着部7を示している。定着部7は、支持体71を有し、その支持体71の内部に、IH(Induction Heating)ヒータ72と、定着部材73と、加圧ロール74と、回転機構76とを備えている。加圧ロール74は、一点鎖線の矢印で示す軸C1を中心に回転するロールであり、支持体71に回転可能に支持されている。軸C1は、矢印で示す軸方向A3に沿っている。加圧ロール74は、図示せぬ接離機構により、定着部材73と接触または離間するようになっている。図3では、加圧ロール74が定着部材73に接触した状態を示している。この状態において、定着部材73及び加圧ロール74は、ニップ領域R1を形成している。ニップ領域R1は、定着部材73及び加圧ロール74が互いに接触する領域であり、且つ、用紙が通過する領域である。
IHヒータ72は、電力が供給されると定着部材73を含む空間に交流磁界を生成するものである。定着部材73は、ニップ領域R1において画像を用紙に定着させる部材である。定着部材73は、定着ベルト731と、ベルト支持部材732と、ホルダ733とを有する。定着ベルト731は、円筒状に形成された無端のベルトであり、外周面を加圧ロール74と接触させて上記のニップ領域R1を形成している部材である。定着ベルト731は、IHヒータ72が生成した交流磁界によって引き起こされる電磁誘導により熱を発生する。定着ベルト731は、このように発生させた熱により、ニップ領域R1を通過する用紙に熱を加え、その用紙に形成されている画像を定着させる。定着部7においては、このように画像を定着させるときの定着ベルト731の温度が予め設定されており、この温度を「定着設定温度」という。ホルダ733は、上記の軸方向A3に延伸する棒状の部材であり、軸方向A3の両端が支持体71に固定されている。
ベルト支持部材732は、定着ベルト731の上記の軸方向A3の両端部を、定着ベルト731の断面の形状を円形に維持しながら支持する部材である。ベルト支持部材732は、図示せぬ軸受け用の部材(いわゆるベアリング)を介して、定着ベルト731の軸を中心に回転可能な状態でホルダ733に支持されている。これにより、定着ベルト731は、一点鎖線で示した軸C2を中心に回転する。軸C2も、軸C1のように、軸方向A3に沿っている。軸C1は、本発明に係る「第1の軸」の一例であり、軸C2は、本発明に係る「第2の軸」の一例である。
回転機構76は、周波数変換回路761と、モータ部762と、駆動力伝達部材763とを有する。周波数変換回路761は、図示せぬ電源から供給される電流の周波数を変換する回路である。周波数変換回路761に電源が電流を供給するか否かと、そのときの変換先の周波数とは、制御部110により指示される。周波数変換回路761は、周波数を変換した電流をモータ部762に供給する。モータ部762は、モータ、シャフト及びギアを有する。モータは、周波数変換回路761により供給された電流の周波数に応じた回転数でシャフトを回転させる。具体的には、この周波数が多く(または少なく)なると、それに比例して、回転数も多く(または少なく)なる。このシャフトには、ギアが固定されている。ギアは、シャフトとともに回転する歯車である。このように、モータ部762は、周波数変換回路761により供給された電力を変換して、ギアを回転させる駆動力を発生させる。
駆動力伝達部材763は、モータ部762が発生させた駆動力を、ベルト支持部材732に伝達する部材である。駆動力伝達部材763は、モータ部762のギアとかみ合うように配置された第1ギアと、各ベルト支持部材732のそれぞれと接触する第2ギアと、それらのギアを固定するシャフトとを有する。モータ部762のギアが回転すると、このギアとかみ合っている第1ギアが回転し、それに伴いシャフト及び各第2ギアが回転する。各第2ギアが回転すると、これらと接触する各ベルト支持部材732が回転し、それに伴い定着ベルト731が回転する。このようにして、定着ベルト731の単位時間当たりの回転数(以下単に「回転数」という。)は、モータの回転数に比例して決まるようになっている。このときの係数は、モータ部762のギア及び第1ギアのギア比と、第2ギア及びベルト支持部材732のそれぞれの外周の長さの関係とによって決まる。モータの回転数は、上述したとおり、周波数変換回路761により供給される電流の周波数に比例しており、この周波数は、制御部110により指示されるようになっている。つまり、定着ベルト731は、この周波数に比例した回転数で回転し、その回転数が制御部110により制御されるようになっている。
図4は、図3の矢視IV-IV方向に見た定着部7の断面を示す図である。この図では、支持体71を省いている。IHヒータ72は、励磁回路721と、励磁コイル722と、磁心723と、シールド724とを有する。励磁回路721は、定められた周波数の交流電流を励磁コイル722に供給する。この周波数は、例えば、一般的な汎用電源により生成される交流電流の周波数であり、例えば20kHz以上100kHz以下の周波数である。この交流電流の電流量(電流の値のこと)は、制御部110によって制御される。励磁コイル722は、相互に絶縁された銅線材を束ねたリッツ線が、楕円形状または長方形状等の中空きの閉ループ状に巻かれて形成されているコイルである。励磁コイル722に励磁回路721から上記の交流電流が供給されることにより、励磁コイル722の周囲には、上記のリッツ線を中心とする交流磁界が生成される。上記の電流量が大きいほど、生成される交流磁界の強度が大きくなる。
磁心723は、例えば焼成フェライト、フェライト樹脂、パーマロイや感温磁性合金等を材料に形成された円弧形状の強磁性体である。これらの材料は、透磁率が比較的高い酸化物や合金材質である。磁心723は、励磁コイル722の周囲に生成された交流磁界の磁力線(磁束)を内部に誘導し、磁心723から定着部材73を透過して磁心723と同様の強磁性体からなる誘導部材735から磁心723に戻る磁力線の通路(磁路)を形成する。磁心723と誘導部材735の強磁性体で挟み込む磁路を形成することにより、上記の交流磁界の磁力線が、定着部材73のうち磁心723と対向する部分に集中し、高磁束密度の磁界を形成して高効率な誘導加熱が実現される。シールド724は、交流磁界を遮蔽して外部への漏洩を抑制する。
定着部材73は、上述した定着ベルト731及びホルダ733に加え、パッド734と、誘導部材735とを有する。定着ベルト731は、上記のとおり、加圧ロール74と接触してニップ領域R1を形成している。ニップ領域R1には、図2に示す複数の搬送ロール5により用紙P1が搬送路B1を通って搬送されてくる。複数の搬送ロール5は、画像が形成された用紙をニップ領域R1に搬送する手段であり、本発明に係る「搬送手段」の一例である。定着ベルト731は、上述したとおり、図3に示す回転機構76により、矢印で示す回転方向A5に回転する。加圧ロール74は、回転する定着ベルト731により駆動力を与えられて、矢印で示す回転方向A4に回転する。加圧ロール74及び定着ベルト731がこれらの方向に回転することで、ニップ領域R1まで搬送された用紙P1は、この領域を通過して、再び搬送路B1を搬送される。加圧ロール74は、本発明に係る「第1の回転部材」の一例であり、定着ベルト731は、本発明に係る「第2の回転部材」の一例である。定着ベルト731の詳細な構成について、図5を参照しながら説明する。
図5は、定着ベルト731のX部を拡大して示す図である。定着ベルト731は、基材層731aと、導電発熱層731bと、弾性層731cと、表面離型層731dとを有する。基材層731aは、耐熱性のシート状部材で形成され、導電発熱層731bを支持するとともに、定着ベルト731全体としての機械的強度を形成する。また、基材層731aは、磁界を通過させる物性(比透磁率、固有抵抗)を持った材質及び厚さで形成されている。基材層731aは、交流磁界の作用により発熱しない、または導電発熱層731bよりも発熱しにくくなっている。基材層731aは、例えば、厚さ30μm以上200μm以下の非磁性ステンレススチール等の非磁性金属や、厚さ60μm以上200μm以下の樹脂材料等を用いて形成されている。
導電発熱層731bは、例えば、Au、AgまたはCu等の非磁性金属やこれらの金属合金を材料に用いて、厚さが2μm以上20μm以下となるように形成されている。これらの材料は、比透磁率が概ね1の常磁性体であり、固有抵抗が2.7×10−8Ω・m以下のものである。導電発熱層731bの厚さ方向にIHヒータ72が生成した交流磁界が通過すると、電磁誘導が生じて導電発熱層731bの内部に渦電流が流れる。導電発熱層731bは、この渦電流が流れることにより、熱を発生する。このように、導電発熱層731bは、IHヒータ72が生成する交流磁界によって加熱される。以下では、このように交流磁界における電磁誘導により導電発熱層731bを有する定着ベルト731が熱を発する、すなわち加熱されることを、「電磁誘導加熱」という。
弾性層731cは、例えばシリコーンゴムなど、圧力を加えられると変形し、加えられた圧力がなくなると元の形状に戻る材料を用いて形成されている。例えば、弾性層731cは、硬度が10°以上30°以下(JIS−A)のシリコーンゴムを材料に用いて、厚みが100μm以上600μm以下となるように形成されている。上記二次転写ロール6により用紙に二次転写された画像は、粉体である各色トナーが積層して形成されているため、微細な出っ張りや窪みがある。弾性層731cは、この画像の出っ張りや窪みに合わせて変形するようになっている。定着部材73がこのように変形しなければ、画像において定着部材73と接触する部分としない部分とで供給される熱量にばらつきが生じてしまい、その画像が定着される度合いにムラが生じてしまう。弾性層731cが上記のとおり変形することで、このムラが低減される。
表面離型層731dは、用紙に形成された画像(トナー)と直接接触するため、トナーに対する離型性が高いほど望ましい。表面離型層731dは、トナーに対する離型性が比較的高いものとして、例えば、PFA(Tetrafluoroetylene- Perfluoroalkylvinylether Copolymer:テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PTFE(polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等を材料に用いて形成されている。また、表面離型層731dの厚みが小さいほど、摩耗により層が薄くなって離型層としての機能を果たせなくなるまでに要する期間が短くなる、すなわち定着ベルト731の寿命が短くなる。一方、この厚みが大きいほど、定着ベルト731の熱容量が大きくなり、定着ベルト731が決められた温度となるまで電磁誘導加熱を行うために要する時間が長くなる。表面離型層731dは、これらの寿命及び時間が定められた範囲に収まるものとして、厚みが1μm以上50μm以下となるように形成されている。
図4に戻る。パッド734は、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどの圧力により変形するものを材料に形成され、定着ベルト731の内側で加圧ロール74と対向する位置に配置されている。パッド734は、ニップ領域R1において加圧ロール74から押圧される定着ベルト731を支持する。ホルダ733は、例えば、ガラス混入PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂や、Au、Ag、Cu等の非磁性金属等を材料に用いて形成されている。これにより、ホルダ733は、他の材料を用いる場合に比べて比較的、誘導磁界に影響を与えにくくなっており、且つ、誘導磁界から影響を受けにくくなっている。
誘導部材735は、定着ベルト731の内周面に沿って円弧を描く形状で形成された強磁性体からなる部材であり、本実施の形態では感温磁性合金を用いており、ホルダ733に支持されて定着ベルト731の内側に配置されている。誘導部材735は、IHヒータ72が生成して定着ベルト731の一部を透過した磁力線を内部に誘導し、IHヒータ72に戻る磁路を形成する。こうして形成された磁路により、定着ベルト731のうち、二点鎖線の矢印で示す範囲に位置する部分において電磁誘導が生じて、この部分に熱が発生する。以下では、この領域を加熱範囲Yという。このように、定着ベルト731の一部、すなわち加熱範囲Yにある部分を含む空間には、IHヒータ72によって交流磁界が生成される。また、誘導部材735は、定着ベルト731の内周面とは予め定められた大きさの隙間(例えば、0.5mm以上1.5mm以下)を開けて配置されている。これにより、定着ベルト731が加熱されるときには、この隙間が開いていない場合に比べて、定着ベルト731の熱が誘導部材735に流入することが抑制されてウォームアップタイムが高速化され、極めて迅速な立上げが実現されるようになっている。
誘導部材735と定着ベルト731との隙間には、2つの温度センサ75が設けられている。これらの温度センサ75は、図3に示すように、上記の軸方向A3の位置が異なる2つの場所に設けられている。これらの温度センサ75は、図4に示すように、上記の加熱範囲Yにおける回転方向A5の下流側の端部、すなわち定着ベルト731への電磁誘導加熱が終わるところに、定着ベルト731の内周に接触するようにして固定されている。これにより、温度センサ75は、定着ベルト731において、IHヒータ72による電磁誘導加熱が概ね終了した部分の温度を測定する。温度センサ75は、測定した温度を示すデータを、図1に示す制御部110に供給する。
画像形成装置100に対して複数の用紙に画像を形成するという要求があった場合、定着部7に対して搬送されてくるそれらの用紙が、上記のニップ領域R1を断続して通過することになる。このように用紙がニップ領域R1を断続して通過する期間に、画像形成装置100においては、制御部110が各部を制御することで、用紙に画像を定着させる定着処理が行われる。
図6は、制御部110が行う定着処理における処理の手順を示すフローチャートである。この定着処理は、画像形成装置100に電源が投入されることを契機に開始される。まず、制御部110は、外部装置から画像形成の要求があるか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、制御部110は、上述した要求データ及び画像データが通信部140を介して供給されている場合は、要求がある(YES)と判断し、供給されていない場合は、要求がない(NO)と判断する。以下では、この画像データが複数の画像を示すものであり、これらの画像を複数の用紙にそれぞれ形成する場合を例にとって説明する。制御部110は、この要求がない(NO)と判断した場合は、ステップS11の処理を再び行い、要求があるまでこの処理を繰り返す。制御部110は、この要求がある(YES)と判断した場合、画像形成部160の各部を制御して、送信されてきた画像データが示す画像を中間転写ベルト3に形成し、給紙部4から転写領域まで用紙を搬送し、その用紙に画像を二次転写する(ステップS12)。この処理は、画像データが示す複数の画像に対して順次行われる。これにより、ニップ領域R1には、画像が形成された用紙が、上記の画像データが示す複数の画像の数だけ、断続して搬送されてくることになる。
次に、制御部110は、ニップ領域R1を用紙が通過している状態(以下「通過状態」という。)であるか否かを判断する(ステップS13)。制御部110は、用紙検知部21から供給される検知データに基づいてこの判断を行う。この判断のため、記憶部150は、用紙検知部21が用紙の有無を検知する用紙検知位置からニップ領域R1までの搬送路B1に沿った第1距離と、第1距離にニップ領域R1の搬送路B1に沿った距離を加えた第2距離とを記憶しておく。まず、制御部110は、用紙検知位置に用紙があるか否かを、上述したとおり検知データが示す光の強度が閾値以上か否かによって、決められた間隔(例えば1msec毎)で繰り返し検知する。そして、制御部110は、検知した結果が用紙がないというものから用紙があるというものに変化したときに、用紙の先端、すなわち用紙の搬送方向A2の前側の縁の部分が用紙検知位置に到達したことを検知し、検知した結果が用紙があるというものから用紙がないというものに変化したときに、用紙の後端、すなわち用紙の搬送方向A2の後側の縁の部分が用紙検知位置に到達したことを検知する。
制御部110は、用紙の先端及び後端の検知を行ったときに、それぞれの検知を行ったときの時刻(それぞれ先端検知時刻及び後端検知時刻という)を取得する。制御部110は、取得した先端検知時刻に、現在制御している搬送速度で上記の第1距離を除した結果得られる時間を加えた時刻を、用紙がニップ領域R1に到達する時刻(到達時刻という)として算出する。ここで加えた時間は、この搬送速度で搬送された用紙の先端がニップ領域R1に到達するまでに要する時間を示している。また、制御部110は、取得した後端検知時刻に、現在制御している搬送速度で上記の第2距離を除した結果得られる時間を加えた時刻を、用紙がニップ領域R1から離脱する時刻(離脱時刻という)として算出する。ここで加えた時間は、この搬送速度で搬送された用紙の後端がニップ領域R1を離脱するまでに要する時間を示している。制御部110は、現在の時刻が、上記のとおり算出した到達時刻から離脱時刻までの範囲に含まれている場合に、通過状態である(ステップS13:YES)と判断し、含まれていない場合に、通過状態ではない(ステップS13:NO)と判断する。
制御部110は、ステップS13においてYESと判断した場合、励磁回路721を制御して、励磁コイル722に定められた電流量またはそれよりも大きい電流量の電流を供給させる(ステップS14)。制御部110は、この電流を供給することにより、IHヒータ72に予め定められた強度の交流磁界を生成させる。この強度は、定着ベルト731が図4に示す加熱範囲Yを通過するまでに上記の定着設定温度まで電磁誘導加熱が行われるように、定着ベルト731の回転速度に応じて定められている。以下では、この強度を「定着強度」という。この定着強度の交流磁界をIHヒータ72が生成するときに、励磁回路721が励磁コイル722に供給する電流量を「定着電流量」という。つまり、ステップS14における電流量は、定着電流量となるように定められている。また、定着ベルト731の温度が定着設定温度よりも低い状態となっている場合、定着ベルト731の全体が定着設定温度となるまでに時間を要することになる。この時間は、定着ベルト731の温度が低い状態であるほど、長くなり、励磁コイル722に供給される電流量が多いほど、短くなる。制御部110は、定着ベルト731の温度によっては、定着電流量よりも大きい電流量の電流を供給する。その詳細については、後述する。
次に、制御部110は、定着ベルト731を決められた速度で回転させる(ステップS15)。ここでいう速度は、ステップS13において判断されたように通過状態となっている期間、すなわちニップ領域R1を通過中の用紙に画像の定着が行われている期間に定着ベルト731を回転させる速度である。以下では、この期間のことを「通過中期間」といい、この速度のことを「通過中速度」という。図1に示す記憶部150には、この通過中速度で定着ベルト731を回転させるときの周波数が記憶されている。制御部110は、ステップS15において、記憶部150のこの周波数を参照し、図3に示す周波数変換回路761にこの周波数への変換を指示することで、定着ベルト731を通過中速度で回転させる。ステップS15の処理の後、制御部110は、ステップS13の処理を再び行い、ステップS13においてNOと判断するまで、これらの処理を繰り返す。
制御部110は、ステップS13においてNOと判断した場合、励磁コイル722に電流を供給しないように励磁回路721を制御する(ステップS16)。続いて、制御部110は、定着ベルト731を通過中速度とは異なるように決められた速度で回転させる(ステップS17)。ここでいう速度は、ステップS13において判断されたように通過状態となっていない期間、すなわちニップ領域R1を用紙が通過しておらず、用紙に画像の定着が行われていない期間に定着ベルト731を回転させる速度である。以下では、この期間のことを「非通過中期間」といい、この速度のことを「非通過中速度」という。記憶部150には、この非通過中速度で定着ベルト731を回転させるときの周波数が記憶されている。制御部110は、ステップS17において、記憶部150のこの周波数を参照し、周波数変換回路761にこの周波数への変換を指示することで、定着ベルト731を非通過中速度で回転させる。
次に、制御部110は、ステップS11において画像形成の要求があると判断したとき以降のニップ領域R1を通過した用紙の枚数を計数する(ステップS18)。例えば、制御部110は、ステップS11において、「0」という値を示すデータを記憶部150に記憶させておき、ステップS13において、判断した結果が「YES」であるか「NO」であるかを示すフラグを、今回の処理におけるものと前回の処理のときのものと2回分、記憶部150に記憶させておく。そして、制御部110は、ステップS18の処理を行うときに、記憶部150を参照して、前回のフラグが「YES」で、今回のフラグが「NO」を示している場合、すなわち、前回のステップS13の処理が行われた後に用紙が通過し終わったことが示されている場合に、上記のデータが示す数に1を加算して上書きする。このように上書きされたデータは、用紙が通過し終わる度に1ずつ加算された値を示すことになり、すなわち通過した用紙の枚数を示すことになる。制御部110は、こうして通過した用紙の枚数を計数する。
続いて、制御部110は、ステップS11において要求された画像形成が終了したか否かを判断する(ステップS19)。具体的には、制御部110は、ステップS18において計数した枚数が、ステップS11において供給された画像データが示す複数の画像の数に達している場合に、画像形成が終了した(YES)と判断し、達していない場合に、終了していない(NO)と判断する。制御部110は、ステップS19においてNOと判断した場合、ステップS13の処理を再び行う。これにより、ステップS11において要求された画像形成が終了するまで用紙への定着が繰り返される。一方、制御部110は、ステップS19においてYESと判断した場合、ステップS11の処理を再び行う。これにより、その前のステップS11において要求された画像形成が終了する。
以上のとおり、制御部110がステップS13、S14及びS15の各処理を行うことで、画像が形成された複数の用紙がニップ領域R1を断続して通過する場合に、上記の通過中期間、すなわち通過状態であることが検知されている期間は、IHヒータ72により交流磁界が生成され、且つ、定着ベルト731が通過中速度で回転することになる。一方、この場合に、制御部110がステップS13、S16及びS17の各処理を行うことで、上記の非通過中期間、すなわち通過状態でないことが検知されている期間は、IHヒータ72により交流磁界が生成されず、且つ、定着ベルト731が非通過中速度で回転することになる。これにより、定着ベルト731の温度(以下「ベルト温度」という。)は、図7に示すように変化することになる。
図7は、ベルト温度の変化を説明するための図である。図7(a)のグラフでは、縦軸に用紙が通過状態であるのか、通過状態ではないのかが示され、横軸に時刻が示されている。この例では、時刻t1、t3、t5が用紙がニップ領域R1を離脱し、時刻t2、t4、t6が用紙がニップ領域R1に到達したことが示されている。つまり、この例に示す期間においては、時刻t1以前、t2からt3まで、t4からt5まで、t6以降が通過中期間であり、時刻t1からt2まで、t3からt4まで、t5からt6までが非通過中期間であることが示されている。
図7(b)のグラフでは、上記の供給電流量と時刻との関係が示されている。このグラフの縦軸は供給電流量を示し、横軸は時刻を示している。図7(c)のグラフでは、周波数変換回路761によりモータに供給される電流の周波数と時刻との関係が示されている。このグラフの縦軸は周波数を示し、横軸は時刻を示している。図7(d)のグラフでは、図3等に示す温度センサ75により測定される温度と時刻との関係が示されている。このグラフの縦軸は定着ベルト731の温度(ベルト温度という)を示し、横軸は時刻を示している。以下、これらのグラフを参照しながら、制御部110が行った処理の結果について説明する。
まず、時刻t1まで、すなわち通過状態においては、制御部110によって図6に示したステップS14及びS15の処理が行われた結果、定着電流量e1の電流が励磁コイル722に供給され、周波数c1の電流がモータに供給される。周波数c1は、定着ベルト731が上述した通過中速度で回転するときにモータに供給される周波数である。このとき、定着ベルト731の温度であるベルト温度は、定着設定温度d1となっている。
次に、時刻t1、すなわち、用紙が通過し終わったときに、制御部110は、ニップ領域R1を用紙が通過している通過状態ではないと図6に示すステップS13において判断して、続けてステップS16及びS17の処理を行う。これにより、励磁コイル722への供給電流量が0になり、交流磁界が生成されないようになる。また、モータに供給される電流の周波数がc1よりも小さい(この例では2分の1)周波数であるc2になっている。これにより、定着ベルト731の非通過中速度は、通過中速度の2分の1となるようになっている。続いて、時刻t1から時刻t2にかけては、上記のとおり交流磁界が生成されていないため、ベルト温度が、定着設定温度d1から、それよりも低い温度であるd2まで徐々に下降している。このとき、定着ベルト731の熱は、ニップ領域R1において定着ベルト731と接触している加圧ロール74に移動している。
そして、時刻t2において、再び通過状態に戻ると、制御部110は、ステップS15において、周波数をc2からc1に戻して、定着ベルト731が通過中速度で回転するように制御する。一方、制御部110は、ステップS14においては、定着電流量e1の電流ではなく、それよりも大きい電流量e2の電流が励磁コイル722に供給されるように制御する。これにより、時刻t2において励磁コイル722への供給電流量を定着電流量e1に戻す場合に比べて、一度下降したベルト温度がより早く定着設定温度d1まで上昇するようになっている。その結果、ベルト温度は、時刻t7において定着設定温度d1に達する。その後、制御部110は、供給電流量をe2から定着電流量e1まで徐々に減少させていく。これにより、ベルト温度は、時刻t7以降もしばらく上昇を続けるが、定着設定温度d1よりも高い温度d4まで上昇した後に、下降を開始し、定着設定温度d1に収束していく。
ここで、非通過中期間であっても、モータに供給する周波数をc1のままとして、定着ベルト731が通過中速度のまま速度を変えずに回転するように制御部110が制御する構成(構成1という)におけるベルト温度について説明する。構成1では、図7で示す本実施形態の例に比べて、定着ベルト731がより多く回転し、この非通過中期間において定着ベルト731が加圧ロール74と接触する面積が大きくなる。このため、構成1では、本実施形態の例に比べて、上記のように定着ベルト731から加圧ロール74に移動する熱の量も多くなり、その結果、ベルト温度がより低くなる。図7(d)では、構成1におけるベルト温度の一例を二点鎖線で示している。この構成1の例では、例えば、時刻t2におけるベルト温度がd2よりも低いd3となっている。また、図7(b)では、構成1における供給電流量の一例を二点鎖線で示している。この構成1の例では、本実施形態の例のように、時刻t2には電流量e2の電流を供給し、ベルト温度が定着設定温度d1に達した時刻(この場合は時刻t8)から供給電流量を減少させていくように制御部110が制御している。
図7(d)に示すように、本実施形態の例では、構成1の例に比べて、非通過中期間におけるベルト温度の下降量が少ない。このため、これらの例のいずれにおいても、電流量e2の電流が励磁コイル722に供給されて電磁誘導加熱が行われた場合に、ベルト温度が定着設定温度d1に到達する時刻t7が、構成1の例におけるその時刻t8よりも早くなる。これにより、本実施形態の例では、電流量e2の電流を供給している時間(t7−t2)が構成1の例におけるその時間(t8−t2)よりも短くなる。その結果、本実施形態の例では、消費される電力が、図7(b)に示すW部の部分だけ構成1の例に比べて少なくなる。このように、本実施形態によれば、ニップ領域R1を複数の用紙が断続して通過する場合に、構成1に比べて、定着が行われていない期間(すなわち非通過中期間)に交流磁界の強度を小さくすることで下降したベルト温度を上昇させるときに消費される電力が小さくなる。
本実施形態においては、画像形成装置100の制御部110は、プログラムを実行することで、以下に示す機能を実現する。
図12は、制御部110が実現する機能を示す機能ブロック図である。制御部110は、検知部111と、磁界制御部112と、回転制御部113とを備える。検知部111は、用紙検知部21と協働して図6で示したステップS13の処理を実行することで、通過状態か否かを検知する検知手段として機能する検知部111は、検知した結果を示すデータを磁界制御部112及び回転制御部113に供給する。
磁界制御部112は、IHヒータ72と協働して図6に示すステップS14及びS16の処理を実行することで、検知部111よって通過状態であることが検知されている期間(すなわち通過中期間)に比べて、検知部111によって通過状態でないことが検知されている期間(すなわち非通過中期間)には、交流磁界の強度を小さくする磁界生成手段として機能する。回転制御部113は、周波数変換回路761を介してモータ部762に電流を供給することで、定着ベルト731を回転させ、それに伴い加圧ロール74も回転させる。このように、回転制御部113は、回転機構76と協働することで、加圧ロール74及び定着ベルト731を回転させる回転手段として機能する。この回転手段は、回転制御部113がステップS15及びS17の処理を実行することで、非通過中期間には、通過中期間に比べて遅い速度で加圧ロール74及び定着ベルト731を回転させる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る画像形成装置は、上述した第1実施形態の画像形成装置100と共通する構成を有する。その構成については共通の符号を付して説明を省き、以下では、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。制御部110は、第1実施形態では、非通過中速度、すなわち非通過中期間における定着ベルト731が回転する速度が、通過中期間における速度(通過中速度)の2分の1となるように各部を制御した。本実施形態では、制御部110が非通過中速度を非通過中期間の長さに応じて決定する。制御部110は、図6に示すステップS17において、例えば以下のようにして非通過中速度を決定する。
まず、記憶部150に、定着ベルト731が1秒間に1回転するときにモータ部762に供給される電流の周波数(以下「基本周波数」という。)を記憶させておく。上述したとおり定着ベルト731の回転速度は、モータ部762に供給される電流の周波数に比例する。例えば、基本周波数の3倍の周波数の電流がモータ部762に供給されると、定着ベルト731は、1秒間に3回転することになる。
次に、図6に示すステップS13において、制御部110は、上述したとおり、到達時刻(用紙がニップ領域R1に到達する時刻)と離脱時刻(用紙がニップ領域R1から離脱する時刻)とを算出する。続いて、制御部110は、離脱時刻から次の到達時刻までの時間Xを、非通過中期間の長さを表す時間として算出する。そして、制御部110は、算出した時間Xに定着ベルト731が1回転する場合の周波数Yを算出する。周波数Yは、次式(1)で算出される。
Y=基本周波数÷X ・・・(1)
制御部110は、ステップS17において、式(1)で算出した周波数Yをモータ部762に供給させることで、非通過中期間に定着ベルト731を1回転させる。これにより、定着ベルト731の外周面においては、周方向におけるどの箇所であっても、非通過中期間に加圧ロール74と接触する時間が共通することになる。このため、この期間に定着ベルト731から加圧ロール74に移動する熱の量も、それらの箇所において共通するようになる。非通過中期間に定着ベルト731を1回転させない構成(構成2という)、例えば2分の1回しか回転させない構成の場合、定着ベルト731の外周面の概ね半分では加圧ロール74に熱が移動して、残りの半分ではその移動がされないことになる。すると、熱が移動した箇所と移動していない箇所との境でベルト温度の差が生じ、特にベルト温度が定着設定温度まで上昇していない通過中期間の初期において、用紙の搬送方向A2における定着率にムラが発生することがある。この定着率は、例えば、テープ剥離試験を行うことにより算出される。具体的には、媒体に定着された画像に粘着テープを貼り付けてから引き剥がし、その前後における画像の光学濃度の比率が定着率として算出される。この比率が1に近いほど、光学濃度の変化が小さく、定着率がよいことが示される。本実施形態では、定着ベルト731の周方向で加圧ロール74に移動する熱量が共通するため、構成2に比べて、定着ベルト731の周方向における温度のムラが少なくなる。このように、本実施形態によれば、構成2に比べて、搬送方向A2における定着率のムラの発生が抑制される。
なお、制御部110は、時間Xに定着ベルト731が2回転するように制御してもよいし、3回以上回転するように制御してもよい。いずれの場合も、制御部110は、定着ベルト731を整数倍だけ回転させればよい。制御部110がこのように制御を行うことで、定着ベルト731の外周面の周方向におけるどの箇所であっても、非通過中期間に加圧ロール74と接触する時間が共通することになる。これにより、非通過中期間に定着ベルト731を上記のように整数倍だけ回転させる構成を有しない場合に比べて、搬送方向A2における定着率のムラの発生が抑制される。
[変形例]
上述した各実施形態は、本発明の実施の一例に過ぎず、次のように様々に変形させてもよい。また、上述した各実施形態及び以下の各変形例は、必要に応じて組み合わせてもよい。
(変形例1)
モータ部762が有するモータは、上述した各実施形態では、供給された電流の周波数に応じた回転数でシャフトを回転させるものであったが、これに限らず、例えば、供給される電流量または電圧に応じた回転数でシャフトを回転させるものであってもよい。この場合、制御部110は、モータ部762に電源から供給される電流の電流量または電圧を変化させることで、それらの電流量または電圧に応じた回転数でモータ及び定着ベルト731を回転させる。
(変形例2)
制御部110は、図6に示す定着処理において、ステップS14及びS15を処理する順番を逆にしてもよく、これらの処理を並行して行ってもよい。また、制御部110は、ステップS16及びS17も、逆の順番で処理してもよく、並行して処理してもよい。要するに、制御部110は、ステップS13において通過状態であるか否かを判断する前に、これらの処理を行えばよい。
(変形例3)
制御部110は、上述した各実施形態では、非通過中期間には励磁コイル722に供給される電流量(供給電流量)が0となるように、すなわち励磁コイル722に電流を供給しないように励磁回路721を制御したが、この期間にも励磁コイル722に電流を供給するようにしてもよい。その場合、制御部110は、非通過中期間における上記の供給電流量が、定着電流量よりも小さくなるように励磁回路721を制御する。これにより、非通過中期間において消費される電力が、非通過中期間にも定着電流量の電流を供給し続ける場合に比べて、減少する。また、この場合、非通過中期間にベルト温度が下降することになるが、制御部110が定着ベルト731の回転速度を上述した各実施形態のように制御することで、非通過中期間でも回転速度を変えない構成(構成3という)に比べて、ベルト温度が下降する度合いが少なくなる。従って、本変形例においても、第1実施形態において述べたように、構成3に比べて、ベルト温度を上昇させるときに消費される電力が小さくなる。
(変形例4)
制御部110は、上述した各実施形態では、図6に示すステップS13において、用紙検知部21から供給される検知データを用いて通過状態であるか否かを判断したが、この検知データを用いないで判断してもよい。例えば、記憶部150に給紙部4からニップ領域R1までの搬送路B1に沿った距離Zを記憶させておく。そして、制御部110は、搬送ロール5を制御して給紙部4からの用紙の搬送を開始した時刻から、距離Zを制御中の搬送速度で除した値、すなわち給紙部4からニップ領域R1まで用紙が移動するときに要する時間が経過したときの時刻を上記の到達時刻として算出する。また、制御部110は、算出した到達時刻から、その用紙の搬送方向B1の寸法とニップ領域R1の搬送方向B1に沿った距離とを加算した長さを搬送速度で除した値、すなわち用紙の先端がニップ領域R1に到達してから用紙の後端がニップ領域R1を離脱するまでに要する時間が経過したときの時刻を上記の離脱時刻として算出する。本変形例によれば、用紙検知部21が設けられていない場合であっても、制御部110により通過状態であるか否かが判断される。
(変形例5)
画像形成装置100は、上述した各実施形態では、用紙に画像を形成したが、これに限らず、OHPシートなどのプラスチックや、その他の材質のシートなどに画像を形成してもよい。要するに、画像形成装置100は、表面に画像を記録し得る媒体に画像を形成すればよい。
(変形例6)
定着部は、高生産性を実現するために蓄熱板を有していてもよい。ここにおいて、蓄熱板とは、感温磁性合金部材を材料に用いて形成された、定着ベルト731の内周面に沿うように接触配置された部材である。蓄熱板は、加熱範囲Yに配置され、IHヒータ72が生成する交流磁界における電磁誘導により熱を発生するように厚さや材質が調整されている。蓄熱板で発生した熱は、定着ベルト731に供給される。このように、蓄熱板が設けられることで、定着ベルト731が発生した熱に加えて蓄熱板が発生した熱で定着ベルト731を暖めるため、IHヒータ72による電磁誘導加熱の効率を高めながら定着ベルトの温度低下を抑制し、高生産性が実現される。
(変形例7)
本発明は、制御部110及び定着部7が協働して実現する定着装置の他、その定着装置を具備する画像形成装置や、定着装置を制御するコンピュータ、すなわち制御部110に図6で示した処理を実行させるためのプログラムとしても把握されるものである。かかるプログラムは、これを記憶させた光ディスク等の記録媒体の形態で提供されたり、インターネット等の通信回線を介して、コンピュータにダウンロードさせ、これをインストールして利用可能にするなどの形態でも提供されたりするものであってもよい。なお、上述した各実施形態では、画像形成装置100の各部を制御する制御部110が定着部7も制御したが、これとは別に定着部7を制御する制御部が設けられていてもよい。この制御部は、CPUを含む演算装置やメモリを備えたコンピュータであり、用紙検知部21から上記の検知データが供給され、例えば図6で示した処理を実行する。