JP2013010139A - 継手強度に優れたアークスポット溶接継手およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼板成分中の炭素量が0.07質量%以上とされた高張力鋼板1が2枚重ね合わせられ、アークスポット溶接によって平面視略円形状の溶接ビード3が形成されてなり、第2鋼板1Bの裏面1d側まで溶融して形成され、且つ、第1鋼板Aおよび第2鋼板Bの各表面から突出するように形成された溶接ビード3の、第1鋼板1Aの表面1aにおけるビード径をW1(mm)、第2鋼板1Bの裏面1dにおけるビード径をW2(mm)、高張力鋼板1(1A、1B)の板厚をt(mm)とした際、ビード径W1、W2および板厚tの各々の関係を適正範囲に規定し、さらに、母材硬度Hv(BM)と溶接ビードの溶接金属硬度Hv(WM)との関係を適正範囲に規定する。
【選択図】図1
Description
スポット溶接部の品質指標としては、引張強さ(静的強度)と疲労強度等が挙げられる。このような溶接継手の引張強さには、せん断方向に引張荷重を負荷して測定する引張せん断強さ(TSS)と、剥離方向に引張荷重を負荷して測定する十字引張強さ(CTS)がある。ここで、従来、鋼板強度が980MPaクラス以上である高張力鋼板をスポット溶接した場合、母材の焼き入れ性向上に伴ってスポット溶接部(溶接金属)の靱性や延性の低下が生じ、また高張力鋼板は加工硬化係数が小さい故に応力集中しやすいことが知られている。また、スポット溶接法は、重ね合わされた鋼板を両面側から電極で挟み込む方法のため、溶接金属を挟んで鋼板が、周囲に比べて、薄くなる。このように、周囲に比べて部分的に薄い形状が顕著になると、荷重負荷に対して応力レベルが上昇してしまう。これらが重畳するため、高張力鋼板をスポット溶接によって接合した場合には、溶接部の十字引張強さが低下するという問題がある。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
2t(mm)≦W2(mm) ・・・・・(1)
W2(mm)<W1(mm)≦12t(mm){但し、W2>5tの場合} ・・・・・(2)
5t(mm)≦W1(mm)≦12t(mm){但し、2t≦W2≦5tの場合} ・・・・・(3)
0.7≦Hv(WM)/Hv(BM)≦1.2 ・・・・・(4)
{但し、上記(1)〜(4)式において、W1:第1鋼板の表面におけるビード径(mm)、W2:第2鋼板の表面におけるビード径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚、Hv(BM):高張力鋼板の母材硬度(ビッカース硬さ)、Hv(WM):溶接ビード(溶接金属)の硬度(ビッカース硬さ)を示す。}
[2] 前記高張力鋼板の板厚tが、0.5〜3.0mmの範囲であることを特徴とする、上記[1]に記載の継手強度に優れたアークスポット溶接継手。
d(mm)/t(mm)=3〜12 ・・・・・(5)
{但し、上記(5)式中において、d:第1鋼板に形成する貫通孔の直径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。}
[4] 前記高張力鋼板として、前記第1鋼板および前記第2鋼板の内の少なくとも何れか一方または両方に、表面に溶融または合金化の亜鉛めっき処理、あるいは、アルミニウムめっき処理を施した鋼板を用い、溶接時に重ね合わせる前記第1鋼板と前記第2鋼板との隙間Cを、下記(6)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とする、上記[3]に記載の継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
0.1(mm)≦C(mm)≦0.5t(mm) ・・・・・(6)
{但し、上記(6)式において、C:第1鋼板と第2鋼板との隙間、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。}
[5] 上記[1]または[2]に記載のアークスポット溶接継手を製造する方法であって、前記高張力鋼板として、前記第1鋼板および前記第2鋼板の内の少なくとも何れか一方または両方に、表面に溶融または合金化の亜鉛めっき処理を施した鋼板を用い、鋼板成分中の炭素量が0.07質量%以上である高張力鋼板を2枚重ね合わせ、アークスポット溶接によって平面視略円形状の溶接ビードを形成する際、前記高張力鋼板の内、アークが照射される側を第1鋼板、他方を第2鋼板とし、これら高張力鋼板の板厚をt(mm)、溶接前に前記第1鋼板に予め形成する貫通孔の直径をd(mm)とした際、前記板厚tと前記貫通孔の直径dとの関係を下記(5)式の範囲とし、さらに、溶接時のシールドガスとして、O2の体積濃度が2〜20%、O2+CO2の体積濃度が35%以下の範囲である、Ar、CO2、およびO2の混合ガスを用いるとともに、溶接時のワイヤ狙い位置を、前記貫通孔の中心とするか、あるいは、前記貫通孔の中心から孔端の間で揺動させることを特徴とする、継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
d(mm)/t(mm)=3〜12 ・・・・・(5)
{但し、上記(5)式中において、d:第1鋼板に形成する貫通孔の直径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。}
[6] さらに、溶接時に重ね合わせる前記第1鋼板と前記第2鋼板との隙間Cを、下記(6)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とする、上記[5]に記載の継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
0.1(mm)≦C(mm)≦0.5t(mm) ・・・・・(6)
{但し、上記(6)式において、C:第1鋼板と第2鋼板との隙間、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。}
2t(mm)≦W2(mm) ・・・(1)
W2(mm)<W1(mm)≦12t(mm){但し、W2>5tの場合} ・・・(2)
5t(mm)≦W1(mm)≦12t(mm){但し、2t≦W2≦5tの場合} ・・・(3)
0.7≦Hv(WM)/Hv(BM)≦1.2 ・・・(4)
但し、上記(1)〜(4)式において、W1:第1鋼板1Aの表面1aにおけるビード径(mm)、W2:第2鋼板1Bの表面1dにおけるビード径(mm)、t:高張力鋼板1(1A、1B)の板厚(mm);第1鋼板1Aと第2鋼板1Bの板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚、Hv(BM):高張力鋼板1(1A、1B)の母材硬度(ビッカース硬さ)、Hv(WM):溶接ビード(溶接金属)の硬度(ビッカース硬さ)を示す。
図2(a)〜(c)は、本発明において高張力鋼板1を溶接するのに用いられるアークスポット溶接法を説明するための模式図である。
本発明で用いられるアークスポット溶接法とは、JIS Z 3001で規定されるアーク溶接法の一種であり、被溶接物である重ね合わせた鋼板の一方から、溶接ワイヤを供給しながら加熱することで、重ね合わせた鋼板を点状に融着させる溶接方法である。このようなアークスポット溶接法としては、例えば、被覆アークスポット溶接、TIG(Tungsten Inert Gas)スポット溶接、MIG(Metal Inert Gas)スポット溶接等が挙げられる。
本発明のアークスポット溶接継手10に用いられる、被溶接物である高張力鋼板1(第1鋼板1A、第2鋼板1B)は、特に、鋼板組成が炭素を0.07質量%以上含み、母材の引張強さが980級以上の高い強度を備えるものである。
また、鋼板の成分についても、上記した炭素以外の含有成分については特に限定されず、アークスポット溶接後の特性等を勘案しながら、適宜、設定すれば良い。
本発明では、アークスポット溶接によって形成される溶接ビード3について、溶融範囲や高張力鋼板1の板厚tと溶接ビード3のビード径W1、W2との関係、高張力鋼板1の母材硬度と溶接金属硬度との関係を、以下に詳述する範囲に規定している。ここで、本発明で規定するビード径とは、平面視において概略最大である方向のビード径であり、例えば、平面視で楕円形のビードが形成された場合には、その径が最も大きくなる長円方向のビード径を言う。
本発明において、アークスポット溶接によって形成されてなる溶接ビード3は、図1(a)、(b)に示すように、平面視略円形状とされるともに、第2鋼板1Bの裏面1d側まで溶融して形成されている。本発明では、上記形状の溶接ビード3の寸法に関し、第1鋼板1Aの表面1aにおけるビード径をW1(mm)、第2鋼板1Bの裏面1dにおけるビード径をW2(mm)、高張力鋼板1の板厚をt(mm)とした際、平均ビード幅W1、W2および板厚tの関係が、下記(1)〜(3)で表される関係を満たす構成を採用している。
2t(mm)≦W2(mm) ・・・(1)
W2(mm)<W1(mm)≦12t(mm){但し、W2>5tの場合} ・・・(2)
5t(mm)≦W1(mm)≦12t(mm){但し、2t≦W2≦5tの場合} ・・・(3)
但し、上記(1)〜(3)式において、W1:第1鋼板1Aの表面1aにおけるビード径(mm)、W2:第2鋼板1Bの表面1dにおけるビード径(mm)、t:高張力鋼板1の板厚(mm)を示す。なお、第1鋼板1Aと第2鋼板1Bの板厚が異なる場合には、何れか薄い側の板厚tを用いる。
上述のような効果が得られるメカニズムとしては、以下に説明するような作用が考えられる。
本発明においては、アークスポット溶接継手10をなす高張力鋼板1(第1鋼板1A、第2鋼板1B)の母材硬度Hv(BM)と、溶接ビード3(溶接金属)の硬度Hv(WM)が、下記(4)式で表される関係を満たす構成とされている。
0.7≦Hv(WM)/Hv(BM)≦1.2 ・・・(4)
但し、上記(4)式において、Hv(BM):高張力鋼板1(1A、1B)の母材硬度(ビッカース硬さ)、Hv(WM):溶接ビード3(溶接金属)の硬度(ビッカース硬さ)を示す。
ここで、Hv(WM)/Hv(BM)が0.7未満だと、溶接金属の強度が不足することから、この溶接金属での破断が生じ、継手強度が低下してしまう。また、Hv(WM)/Hv(BM)が1.2超だと、溶接金属の靱性や延性が乏しくなり、十分なビード径を確保して溶接ビードを形成させた場合であっても、十分な継手強度が得られない場合がある。なお、溶接ビード3(溶接金属)の硬度Hv(WM)の絶対値としては、特に規定するものではないが、ビッカース硬さが、Hv420以下であることが望ましい。
上述のような、本発明に係るアークスポット溶接継手10を製造する際の各条件および手順について、主に図1、2を参照しながら以下に詳述する。
d(mm)/t(mm)=3〜12 ・・・・・(5)
但し、上記(5)式中において、d:第1鋼板1Aに形成する貫通孔11の直径(mm)、t:高張力鋼板1の板厚(mm);第1鋼板1Aと第2鋼板1Bの板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。
アークは、レーザ等に比較してエネルギー密度の低い熱源であることから、従来の条件でアークスポット溶接を行った場合、鋼板の板厚方向における溶融(鋼板の板厚方向での貫通)が困難となるおそれがある。この際、溶接電流・電圧を増加させることで溶接入熱を増大させれば、鋼板の板厚方向での溶融・貫通能力を向上させることができる。しかしながら、例えば、自動車車体等に用いられる、板厚が0.5mmから3.0mm程度の薄い高張力鋼板をアークスポット溶接する際に溶接電流・電圧を増加させた場合、過大な溶接入熱によって溶け落ちが発生するという問題がある。
そこで、本発明においては、アークスポット溶接を行う前に、予め、アークを照射する側の第1鋼板1Aに貫通孔11を形成する。これにより、溶接電流・電圧の増加による貫通能力の増大が不要となり、低入熱化できることから、溶接時の溶け落ちを防止することが可能となる。
一方、上記(5)式中におけるd/tが12を超えると、貫通孔の孔端を十分に溶融させるためには、トーチを大きな振れ幅で揺動させる必要が生じる。このため、工程時間が長くなって生産性が低下する場合がある他、アーク照射範囲の増大および溶接入熱の合計量が増大することから、上述した溶接変形が顕著になるおそれがある。
本発明の製造方法においては、アークスポット溶接時のシールドガスとして、Arガス、あるいは、Ar体積濃度が70%以上100%未満のArとCO2の混合ガスを用いる。シールドガスの組成を上記範囲として高張力鋼板1をアークスポット溶接することにより、溶接部に過度な酸化や欠陥が生じるのが抑制され、継手特性に優れたアークスポット溶接継手10を製造することが可能となる。ここで、シールドガスとして、Ar体積濃度が70%未満であるArとCO2の混合ガスを用いた場合には、溶接部における欠陥抑制の効果が得られにくくなる。
本発明の製造方法では、図2(a)中における、溶接時のワイヤ狙い位置、即ち、溶接ワイヤ55の先端55aの狙い位置を、貫通孔11の中心11aとするか、あるいは、貫通孔11の中心11aから孔端11bの間で、回転や往復など揺動させる方法とする。
上述のように、溶接ワイヤ55の先端55aの狙い位置を、貫通孔11の中心11aに設定することにより、形状が均一な溶接ビード3を安定して形成させることが可能となる。
本発明においては、上述したように、特にめっき等の表面処理を施していない高張力鋼板に加え、さらに、表面1a、1b、1c、1dの少なくとも何れか、即ち、第1鋼板1Aおよび第2鋼板1Bの内の少なくとも何れか一方または両方に、溶融または合金化の亜鉛めっき処理を施した高張力鋼板1を採用することも可能である。このような亜鉛めっき処理としては、例えば、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系等、何れのめっき層であっても良い。また、例えば、Al-Si系等のアルミニウムめっき処理が表面に施された高張力鋼板を用いても良い。
通常、アークスポット溶接を行う場合、第1鋼板1Aと第2鋼板1Bとは、重ね合わされて溶接される。ここで、亜鉛めっき鋼板を用いると、溶接部の沸点以上に達しためっき中の亜鉛が蒸発して溶融金属中に侵入し、その後の凝固過程で大気中に散逸できなかった場合に溶接金属中に残存する、いわゆる気孔欠陥が生じる。このため、溶融または合金化の亜鉛めっき処理を施した高張力鋼板を用いた場合には、シールドガス中にO2を混合することが、気孔欠陥を低減する観点から好ましい。ここで、シールドガス中におけるO2の体積濃度が2%未満では、上記効果が得られない。一方、O2の体積濃度が30%超だと、むしろ上記効果が低減されてしまうとともに、ビード形状の乱れやブローホールの発生、スラグの過度な形成等を誘発してしまうという問題がある。
0.1(mm)≦C(mm)≦0.5t(mm) ・・・・・(6)
但し、上記(6)式において、C:第1鋼板と第2鋼板との隙間、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。
本発明において、アークスポット溶接に用いる溶接ワイヤ55について、その成分や直径等は特に限定されるものではなく、例えば、JIS Z 3312やJIS Z 3313等で規定される溶接ワイヤ等、従来公知のものを何ら制限無く用いることができる。
また、上述したように、本発明で用いる溶接ワイヤ55は、溶接ビード(溶接金属)3の硬度Hv(WM)を所望の特性に制御することを考慮し、その成分や溶接時の希釈条件を勘案しながら採用を決定することが望ましい。
溶接ワイヤの直径が上記範囲よりも細いと、ワイヤの剛性が小さくなるので座屈が生じ易くなり、ワイヤ先端の溶接狙い位置が不安定となり、アークの照射範囲から外れるか、溶融状態が不均一となるので、溶接ビードが均一な形状・寸法にならないおそれがある。一方、溶接ワイヤ55の直径が上記範囲を超えると、ワイヤが太すぎるため、電流密度が低下してアークが不安定となり、完全には溶融しないおそれがある。
本発明の製造方法においては、アークスポット溶接の通電条件についても、特に限定されるものではなく、鋼板をアークスポット溶接する際に用いられる従来公知の通電パターンや溶接電流・電圧条件を、何ら制限なく採用することが可能である。また、溶接装置としても、図2(a)〜(c)に示すようなトーチ5が備えられたアークスポット溶接装置を何ら制限なく採用することが可能である。また、トーチ5に供給する溶接電源についても、その制御方式等、特に制限されるものではなく、直流あるいは交流の何れの電源を用いても良い。
本発明のアークスポット溶接では、図2(a)に示すように、まず、2枚の高張力鋼板1、即ち、第1鋼板1Aと第2鋼板1Bとを重ね合わせる。この際、予め、図示例のように、第1鋼板1Aに、アークスポット溶接後に内部に溶接金属が形成される貫通孔11形成する。
次いで、図2(b)に示すように、第1鋼板1Aに形成された貫通孔1を狙い位置として、トーチ5を用いてアークスポット溶接を行う。この際、トーチ5から貫通孔1に向けて溶接ワイヤ55を供給し、アーク放電を行うことで母材(高張力鋼板1)と溶接ワイヤ55を溶融させる。
本実施例では、まず、下記表1に示すような、板厚:1.0〜2.3mm、引張強さ:1410〜1520MPaの高張力鋼板(日本鉄鋼連盟規格:CR1470、GI−HP)を用いた。これらの内、鋼板記号A1、A2としては、溶融亜鉛めっき高張力鋼板を用い、鋼板記号A3としては、アルミニウムめっき高張力鋼板を用いた。
また、余盛部の平均厚み(平均高さ)については、まず、平面視において概略最大である方向のビード径の部位を切断し、図6に示すような断面写真を撮影した後、画像解析装置によって余盛部の面積を求め、この値をビード径で割ることで求めた。そして、この、余盛部の平均厚みの鋼板の板厚tに対する割合を、下記表3に示した。
上記手順で得られたアークスポット溶接後の各試験片について、まず、表面側(第1鋼板)および裏面側(第2鋼板)における溶接ビード形状を目視にて確認するとともに、ビード形状不良ならびに溶接変形の有無を目視確認し、これらの結果を下記表3に示した。なお、下記表3においては、溶接ビード形状については「凸」、「凹」で結果を示し、また、ビード形状不良ならびに溶接変形の有無については、「OK」、「NG」で結果を示した。ここで、溶接ビード形状の「凸」とは、表裏ともに余盛が溶接部断面の全域で鋼板表面の位置と同等、または鋼板表面位置よりも高くなっている状態を指し、「凹」とは、表裏の余盛の少なくとも一部が、鋼板表面の位置よりも薄くなっている状態を指す。そして、溶接部断面において、表裏の余盛の内、薄い方の余盛の平均厚み(=余盛部の面積/ビード径)と、板厚の比を評価した結果を下記表3に示した。
また、同様に、得られたせん断引張試験片について、スポット溶接継手のせん断引張試験方法(JIS Z3136)に基づき、せん断引張試験を実施した。この際、せん断方向、即ち、図4中の符号7で示すように、それぞれの試験片を左右方向に、相互にせん断方向で荷重を負荷することでせん断引張試験を実施し、せん断引張強さ(TSS)を測定し、結果を下記表3に示した。
表3に示す結果の内、試験番号2、3、5、9、10、17、20、21は本発明例であり、試験番号1、4、6〜8、11〜16、18、19、22は比較例である。これらの内、試験番号1〜14は、鋼種番号Bの表面にめっき処理を施していない高張力鋼板(CR1470)と、鋼種番号A1の表面に溶融亜鉛めっき処理が施された高張力鋼板(GI−HP)とを接合した例である。また、試験番号15〜18は、鋼種番号A2の表面に溶融亜鉛めっき処理が施された高張力鋼板(GI−HP)同士を接合した例である。また、試験番号19〜22は、鋼種番号A2の表面に溶融亜鉛めっき処理が施された高張力鋼板(GI−HP)と、鋼板記号A3の表面にアルミニウムめっき高張力鋼板(GI−HP)とを接合した例である。また、試験番号23〜25は、鋼種番号Bの表面に溶融亜鉛めっき処理が施されていない高張力鋼板(CR−1470)同士を接合した例である。また、試験番号1、7、15、19は、それぞれ、従来公知のスポット溶接法を用いて接合した例である。
試験番号15の比較例は、従来の抵抗スポット溶接法で高張力鋼板を溶接したものであり、板厚が厚いために十字引張強さは確保されているものの、自動車車体等の溶接において実用的でない大型の電極を用いて大きなナゲットを形成する必要があった例である。
試験番号4、14の比較例では、シールドガスが本発明で規定する範囲外の成分となっていることから、表面側の溶接ビード形状が乱れた状態、具体的には、形状が円形状でなく、また、ピットも見られる状態となったため、ビード径の測定を実施しなかった。さらには、試験番号4、14は、裏面側にはビードが形成されず、何れも十字引張強さが劣る結果となった。
試験番号11、18の比較例では、第1鋼板に形成する貫通孔が大きすぎたため、表面側のビード径W1が大きくなりすぎ、溶接変形が発生した。
試験番号12の比較例では、溶接ワイヤの選定等の条件が適切でなかったために、溶接金属硬さ(Hv)が高くなりすぎ、十字引張強さが劣る結果となった。
試験番号16の比較例では、第1鋼板に形成した貫通孔の直径が小さすぎるため、表面側のビード径が小さくなりすぎ、十字引張強さおよびせん断引張強さの何れもが劣る結果となった。
1A…第1鋼板(高張力鋼板)、
11…貫通孔
11a…中心(貫通孔)、
11b…孔端(貫通孔)、
1B…第2鋼板(高張力鋼板)
3…溶接ビード(溶接金属)、
5…トーチ、
55…溶接ワイヤ、
10…アークスポット溶接継手、
t…板厚(高張力鋼板)、
W1…ビード径(第1鋼板)、
W2…ビード径(第2鋼板)、
d…直径(貫通孔)、
Claims (6)
- 鋼板成分中の炭素量が0.07質量%以上とされた高張力鋼板が2枚重ね合わせられ、アークスポット溶接によって平面視略円形状の溶接ビードが形成されてなるアークスポット溶接継手であって、前記高張力鋼板の内、アークが照射される側を第1鋼板、他方を第2鋼板とし、該第2鋼板の裏面側まで溶融して形成され、且つ、前記第1鋼板および前記第2鋼板の各表面から突出するように形成された溶接ビードの、前記第1鋼板の表面におけるビード径をW1(mm)、前記第2鋼板の裏面におけるビード径をW2(mm)、前記高張力鋼板の板厚をt(mm)とした際、ビード径W1、W2および板厚tの各々の関係が、下記(1)〜(3)を満たし、さらに、前記高張力鋼板の母材硬度Hv(BM)と前記溶接ビード(溶接金属)の硬度Hv(WM)との関係が、下記(4)式を満たすことを特徴とする、継手強度に優れたアークスポット溶接継手。
2t(mm)≦W2(mm) ・・・・・(1)
W2(mm)<W1(mm)≦12t(mm){但し、W2>5tの場合} ・・・・・(2)
5t(mm)≦W1(mm)≦12t(mm){但し、2t≦W2≦5tの場合} ・・・・・(3)
0.7≦Hv(WM)/Hv(BM)≦1.2 ・・・・・(4)
{但し、上記(1)〜(4)式において、W1:第1鋼板の表面におけるビード径(mm)、W2:第2鋼板の表面におけるビード径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚、Hv(BM):高張力鋼板の母材硬度(ビッカース硬さ)、Hv(WM):溶接ビード(溶接金属)の硬度(ビッカース硬さ)を示す。} - 前記高張力鋼板の板厚tが、0.5〜3.0mmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の継手強度に優れたアークスポット溶接継手。
- 請求項1または請求項2に記載のアークスポット溶接継手を製造する方法であって、
鋼板成分中の炭素量が0.07質量%以上である高張力鋼板を2枚重ね合わせ、アークスポット溶接によって平面視略円形状の溶接ビードを形成する際、前記高張力鋼板の内、アークが照射される側を第1鋼板、他方を第2鋼板とし、これら高張力鋼板の板厚をt(mm)、溶接前に前記第1鋼板に予め形成する貫通孔の直径をd(mm)とした際、前記板厚tと前記貫通孔の直径dとの関係を下記(5)式の範囲とし、
さらに、溶接時のシールドガスとして、Arガス、あるいは、Ar体積濃度が70%以上100%未満のArとCO2の混合ガスを用いるとともに、溶接時のワイヤ狙い位置を、前記貫通孔の中心とするか、あるいは、前記貫通孔の中心から孔端の間で揺動させることを特徴とする、継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
d(mm)/t(mm)=3〜12 ・・・・・(5)
{但し、上記(5)式中において、d:第1鋼板に形成する貫通孔の直径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。} - 前記高張力鋼板として、前記第1鋼板および前記第2鋼板の内の少なくとも何れか一方または両方に、表面に溶融または合金化の亜鉛めっき処理、あるいは、アルミニウムめっき処理を施した鋼板を用い、溶接時に重ね合わせる前記第1鋼板と前記第2鋼板との隙間Cを、下記(6)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とする、請求項3に記載の継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
0.1(mm)≦C(mm)≦0.5t(mm) ・・・・・(6)
{但し、上記(6)式において、C:第1鋼板と第2鋼板との隙間、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。} - 請求項1または請求項2に記載のアークスポット溶接継手を製造する方法であって、
前記高張力鋼板として、前記第1鋼板および前記第2鋼板の内の少なくとも何れか一方または両方に、表面に溶融または合金化の亜鉛めっき処理を施した鋼板を用い、
鋼板成分中の炭素量が0.07質量%以上である高張力鋼板を2枚重ね合わせ、アークスポット溶接によって平面視略円形状の溶接ビードを形成する際、前記高張力鋼板の内、アークが照射される側を第1鋼板、他方を第2鋼板とし、これら高張力鋼板の板厚をt(mm)、溶接前に前記第1鋼板に予め形成する貫通孔の直径をd(mm)とした際、前記板厚tと前記貫通孔の直径dとの関係を下記(5)式の範囲とし、
さらに、溶接時のシールドガスとして、O2の体積濃度が2〜20%、O2+CO2の体積濃度が35%以下の範囲である、Ar、CO2、およびO2の混合ガスを用いるとともに、溶接時のワイヤ狙い位置を、前記貫通孔の中心とするか、あるいは、前記貫通孔の中心から孔端の間で揺動させることを特徴とする、継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
d(mm)/t(mm)=3〜12 ・・・・・(5)
{但し、上記(5)式中において、d:第1鋼板に形成する貫通孔の直径(mm)、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。} - さらに、溶接時に重ね合わせる前記第1鋼板と前記第2鋼板との隙間Cを、下記(6)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とする、請求項5に記載の継手強度に優れるアークスポット溶接継手の製造方法。
0.1(mm)≦C(mm)≦0.5t(mm) ・・・・・(6)
{但し、上記(6)式において、C:第1鋼板と第2鋼板との隙間、t:高張力鋼板の板厚(mm);第1鋼板と第2鋼板の板厚が異なる場合は何れか薄い側の板厚を示す。}
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