JP2012251245A - 高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、高温環境下において耐蝕性とともに耐摩耗性が要求される部品、特に内燃機関に付設されるターボチャージャーの各種構成部品や、内燃機関のバルブシート等に好適な高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法に関する。
ターボチャージャーの構成部品や内燃機関のバルブシートは、高温の腐食性ガスである排気ガスと接触することから耐熱性及び耐蝕・耐摩耗性が要求される。また、ターボチャージャーの構成部品はノズルベーンと摺接し、内燃機関のバルブシートはバルブと摺接する。このため、これらの部品には高温下での耐摩耗性が要求される。そこで、ターボチャージャーの構成部品においては、従来より、例えば高Cr鋳鋼やJIS規格で規定されているSCH22種に耐蝕・耐摩耗性向上の目的でCr表面処理を施した材料等が使用されている。近年では、焼結材料(特許文献1、2等)の適用も行われている。また、内燃機関のバルブシートにおいては、従来より各種焼結材料(特許文献3等)が使用されている。
特許文献1では、金属炭化物が分散したニッケル・クロム系ステンレス鋼基地中にSi、Cr、Moを含有するコバルト合金粒子と遊離炭素が分散する焼結合金が提案されている。基地をオーステナイト系ステンレス鋼として耐熱性を付与し、その基地中にクロムを主とする金属炭化物を分散させて基地の強度を上げている。さらに、硬質のコバルト系金属間化合物粒子を分散させて、凝着摩耗に対する抵抗を増加させ、遊離黒鉛の固体潤滑作用によって耐摩耗性の強度を図っている。
特許文献2では、質量比で、Cr:25〜45%、Mo:1〜3%、Si:1〜3%、C:0.5〜1.5%、残部Feおよび不可避不純物よりなる組成のFe合金粉末に、P:10〜30質量%のFe−P粉末を1.0〜3.3質量%、黒鉛粉末を0.5〜1.5質量%を添加して混合した混合粉末が用いられている。この混合粉末を成形した後、焼結することにより、質量比でCr:23.8〜44.3%、Mo:1.0〜3.0%、Si:1.0〜3.0%、P:0.1〜1.0%、C:1.0〜3.0%、残部Feおよび不可避不純物からなる組成が得られる。これは、Fe−Cr系の基地中にMo炭化物およびCr炭化物が分散するターボチャージャー用ターボ部品として用いることができる。
近年、環境問題、省エネルギー問題等により、従来以上の内燃機関の高効率化が求められている。これに対応するため、内燃機関の超希薄燃焼化が進んでおり、それにともなって、排気ガスがより高温になってきている。このため、ターボチャージャーの構成部品や内燃機関のバルブシートについても、より一層の高温環境下における耐蝕性および耐摩耗性の向上が要求されている。このような状況の下、特許文献1に記載のターボチャージャーの構成部品は、基地中にクロム炭化物が析出分散したものである。しかし、この場合、クロム炭化物は粒界に沿って析出するため、強度が低下する。さらに、クロム炭化物が析出することによって粒界付近のCr量が低下し、粒界腐食が生じ易くなる。また、特許文献2に記載のターボチャージャーの構成部品は、液相焼結により作製されている。これは、比較的大きなCr炭化物やMo炭化物が多量に分散するもので、機械加工し難い。さらに、特許文献3に記載のバルブシート用焼結合金は、基地が高速度工具鋼系であるため、上記の特許文献1、2に比して耐蝕性が低いと考えられる。そこで、本発明は、高温環境下における耐蝕性および耐摩耗性をより一層向上させるとともに、機械加工が容易な高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためには、高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の金属組織を、高温においても耐食性が良好なステンレス鋼組成の基地と、該基地中に高温でも軟化しない金属炭化物を分散させたものとすることが好ましい。しかしながら、金属炭化物としてクロム炭化物を用いると、クロム炭化物の形成時に炭化物周囲の基地から耐食性の向上に必要なCrが吸収される。その結果、クロム炭化物周囲の基地のCr濃度が低下し、その部分の耐食性が低下することとなる。一方、クロム炭化物周囲の基地のCr濃度が低下しても耐食性に対して十分なCr量となるよう基地に過多のCrを与えると、過剰のCrにより、原料粉末の圧縮性が低下するとともに高価なものとなる。
本発明者等は、ステンレス鋼組成の基地中に金属炭化物を分散させるにあたって、基地中のCr量の低下を抑制する手法について、鋭意研究を重ねた。その結果、高温耐蝕耐摩耗性焼結部品にCrよりも炭化物形成能が高い金属元素を与えることにより、焼結時に基地の耐食性を担うCrの替わりに、Crよりも炭化物形成能が高い金属元素の炭化物を積極的に形成させて、炭化物周囲のCr濃度の低下を抑制し、基地の耐食性の低下を抑制することができることを見出した。
本発明の製造方法により得られる高温耐蝕耐摩耗性焼結部品は、ステンレス鋼組成の基地中に炭化物が析出分散することで優れた耐摩耗性を示す。また、ステンレス鋼粉末に添加したMoおよびNbのうち少なくともNbが積極的に炭化物を形成するため、炭化物形成に使用されるCr量が低減し、基地に含有されるCr量が低下しにくく、部品の各部で良好な耐蝕性を示す。さらに上記炭化物は基地中に微細に析出するため機械加工も容易である。
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法の骨子は以下の通りである。まず、ステンレス鋼粉末にCrより炭化物の形成能が高いMoおよびNbのうちの少なくともNbを固溶させて与える。さらに、このMo、Nbと結合する量のCを黒鉛粉末の形態で添加し、金属炭化物としてモリブデン炭化物やニオブ炭化物を焼結後の基地中に析出分散させる。これによって、Cr炭化物の析出を抑制することが出来る。
焼結後の焼結部品の基地に耐食性を付与する観点より、硝酸のような酸化性の酸に対して有効な元素であるCrと、塩酸や硫酸のような非酸化性の酸に対して有効な元素であるNiの両者を併用する。また、上記のCrおよびNiの作用を基地全体に均一に与える必要があることから、CrとNiの両者を鉄粉末に固溶させて与えたステンレス鋼粉末を用いる。
焼結後の焼結体の基地は、Cr量を12質量%以上とすることで良好な酸化性の酸に対する耐蝕性を示す。このことから、上記のステンレス鋼粉末に含有されるCrのごく一部が焼結時に炭化物として析出しても焼結後の焼結体の基地に十分なCr量が残留するように、本発明においては基地のCr量を15質量%以上とする。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が35質量%を超えると脆いσ相が形成されるようになり、ステンレス鋼粉末の圧縮性を著しく損なう。これらのことから、本発明においては、主原料粉末として用いるステンレス鋼粉末のCr量を15〜35質量%とする。
焼結後の焼結体の基地は、Ni量を3.5質量%以上とすることで非酸化性の酸に対する耐蝕性を改善でき、10質量%以上でCr量とは無関係に非酸化性の酸に対する良好な耐蝕性が得られる。一方、焼結体の基地にNiを22質量%を超えて含有させても耐蝕性向上の効果は変わらないこと、およびNiは高価な元素であることからステンレス鋼粉末に含有させるNi量の上限を22質量%とした。これらのことから本発明においては、ステンレス鋼粉末のNi量を3.5〜22質量%、好ましくは10〜22質量%とする。
なお、鋼の耐蝕性はオーステナイト組織の方が結晶学的に原子密度が高いため、フェライト組織よりも優れる。このため、焼結後に得られる焼結体の基地組織をオーステナイト組織となるよう、Cr量とNi量を調整してステンレス鋼粉末に含有させることがより好ましい。例えば、Fe−Cr−Ni系合金の焼鈍し組織図において、横軸をCr量、縦軸をNi量、A点:Cr量が15質量%でNi量が7.5質量%、B点:Cr量が18質量%でNi量が6.5質量%、C点:Cr量が24質量%でNi量が18質量%とする。このA点−B点−C点を結ぶ折れ線よりNi量が多い領域でオーステナイト組織が得られるから、Cr量とNi量がこの領域に含まれるよう調整すればよい。
本発明においては、上記の基地組織中に金属炭化物を分散させることで耐摩耗性の向上を図る。この時、金属炭化物としてクロム炭化物が多量に析出すると、基地の耐蝕性が低下する。このため、ステンレス鋼粉末にCrより炭化物形成能が高いMoやNbを固溶させて与える。そして、焼結時にこのMoやNbと、黒鉛粉末の形態で原料粉末に添加されたCを選択的に結合させる。これによって、焼結部品のステンレス鋼組成の基地中にクロム炭化物が形成されることを抑制出来る。またMoやNbの炭化物はクロム炭化物と異なり粒界に沿って析出せず、粒内に析出するため強度の低下も抑制できる。このようなMo,Nbによる炭化物形成の効果を焼結部品全体に均一に及ぼすためには、Mo,Nbを上記のステンレス鋼粉末に固溶させて与える必要がある。またCをステンレス鋼粉末に固溶して与えると粉末がかたくなって圧縮性が損なわれるため、Cは黒鉛粉末の形態で与え、上記のステンレス鋼粉末と黒鉛粉を混合して原料粉末とする必要がある。
上記のMo,Nbについて、MoはMoC,Mo2C等、NbはNbC,Nb4C3等の形態の炭化物を析出すると考えられる。また、それらの一部は、(Fe,Mo)6C等のM6C型,(Fe,Mo)23C6等のM23C6型等の形態で析出すると考えられる。これらの炭化物の比率については制御が困難であるため、添加するC量すなわち黒鉛粉末の添加量についてはある程度幅を持たせて設定する必要がある。このような観点から、Mo量に対する黒鉛粉末の添加量を(0.05〜0.25)×Mo量、Nb量に対する黒鉛粉末の添加量を(0.12〜0.25)×Nb量として設定した。ここで、黒鉛粉末の添加量が各々の元素に対する上記設定量より下回ると、析出する金属炭化物の量が少なくなり、耐摩耗性向上の効果が乏しくなる。一方、黒鉛粉末の添加量が各々の元素に対する上記設定量より上回ると、余剰のCが基地のCrと炭化物を形成し、局所的なCr濃度低下部分が形成される。これは、耐食性の低下を招くこととなる。
なおステンレス鋼粉末への黒鉛粉末の添加量については、上記の金属炭化物形成に費やされる量よりも、余分に加える必要がある。焼結中、ステンレス鋼粉末表面の酸化被膜や、粉末表面に吸着する水分等をCOガスとして還元するために、黒鉛粉末が消費されるからである。この追加分のC量としては0.3質量%以下とすればよい。このため、ステンレス鋼粉末に添加する黒鉛粉末の量は、以下のように表すことが出来る。
なお、Mo,Nbに対するC量(黒鉛粉末の添加量)を上記のようにある程度幅を持たせて設定したため、基地のCrのごく一部は炭化物として析出する場合がある。しかし、基地のCr量を上記のように15質量%以上と設定しているため、ごく一部にCr炭化物もしくはMoまたはNbとの複合炭化物が析出しても基地のCr量が12質量%を下回ることはなく、良好な耐蝕性を維持できる。
上記の金属炭化物は、基地中に分散することで基地の塑性流動を抑制し、耐摩耗性を向上させる。この金属炭化物を形成するため、Moは1.5質量%以上、Nbは0.1質量%以上が必要となる。ところで、金属炭化物形成のためのMo,Nbはその効果を基地全体に均一に及ぼす必要からステンレス鋼粉末に固溶させて与えることとしたが、Mo,Nbを多量にステンレス鋼粉末に固溶させるとステンレス鋼粉末の硬さが増加して圧縮性の低下が著しくなり、成形体密度が上がらない。その結果、焼結後の焼結体密度が低下して、強度、耐摩耗性が著しく低下する。このため、ステンレス鋼粉末に固溶させて与えるMo量の上限を5質量%、Nbの上限を1質量%とする。これらの金属炭化物は微細な形態(φ10μm以下)で基地中に分散するため、切削加工等の機械加工性にも優れる。
上記のステンレス鋼組成の基地としては従来より行われているように、Cu,Al,Mn,Si,Se,P,S,N等の元素を追加して含有させても良い。すなわち、上記のステンレス鋼組成の基地には、耐酸性、耐食性、耐点食性向上もしくは析出硬化性付与の目的でCuを1〜4%含有することができる。また、溶接性向上、耐熱性向上、もしくは析出硬化性付与の目的でAlを0.1〜5%含有することができる。さらに、結晶粒調整、Ni量低減の目的でNを0.3%以下含有することができ、Ni量低減の目的でMnを5.5〜10%含有することができる。耐酸化性、耐熱性、耐硫酸性向上の目的でSiを0.15〜5%、耐粒界腐食性の向上、快削性向上の目的でSe、P、Sを含有することができる。
上記のMoとNbのうち少なくともNbを0.1〜1.0%含有するステンレス鋼粉末と、硬質相形成粉末及び黒鉛粉末からなる原料粉末を用いる。従来と同じく、この原料粉末は、所望の形状の型孔を有する金型の型孔に充填され、上下パンチにより圧粉成形されて所望の形状の成形体とされる。得られた成形体は、焼結されて高温耐蝕耐摩耗性焼結部品となる。得られた成形体の組織の一例として、図1のように表すことが出来る。成形体の組織においては、硬質相を含んだステンレス鋼基地中に金属炭化物が析出分散しており、気孔が含まれている。ここで、焼結温度が1000℃に満たないと、焼結による粉末どうしの結合が不充分となり強度が乏しくなるとともに、十分な量の金属炭化物が形成されず耐摩耗性も乏しくなる。一方、焼結温度が1300℃を超えると、焼結による収縮量が大きくなるとともに変形し易くなって寸法精度が低下する。このため焼結温度は1000〜1300℃の範囲が適当である。
上記の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品においては、被削性改善のため、従来の被削性改善物質添加法を併用して製造することができる。その方法としては、上記の耐摩耗性焼結部品の気孔中または粉末粒界に、珪酸マグネシウム系鉱物、窒化硼素、硫化マンガン、カルシウム弗化物、硫化クロムのうち少なくとも1種を分散させる方法である。これらの被削性改善物質は高温でも安定であり、粉末の形態で原料粉末に添加しても焼結過程で分解せず、被削性改善物質として上記の箇所に分散して被削性を改善できる。この被削性改善物質添加法の併用により、より一層の耐摩耗性焼結部材の被削性改善を行うことができる。また、被削性改善物質粉末は、過剰に添加すると耐摩耗性焼結部材の強度を損ない、耐摩耗性の低下を招く。このため、被削性改善物質添加法を併用する場合、その添加量の上限を5.0質量%に止めるべきである。
[第1実施例]
表1に示す組成のステンレス鋼粉末に対し、表1に示す量の黒鉛粉末を添加、混合した原料粉末を用意した。これらの原料粉末について、成形圧力1.2GPaで直径:30mm、厚さ10mmの円板形状に圧粉成形を行った。こうして得られた圧粉体を、分解アンモニアガス雰囲気中1200℃×1Hrで焼結し、試料番号01〜13の試料を作製した。これらの試料につき、炭素分析装置(株式会社堀場製作所製)を用いて試料と結合した炭素量(結合C量)の測定を行った。そして、黒鉛粉末の添加量から上記結合C量を引いて、焼結によって失われた炭素量(損失C量)を求めた。また、ステンレス鋼粉末中のMo量またはNb量に対する上記結合C量の比(C比率)を算出した。これらの試料について、酸化試験と往復摺動摩擦試験を行い試験後の摩耗量を測定した。これらの結果を表1、2及び図1、2に併せて示す。
表1に示す組成のステンレス鋼粉末に対し、表1に示す量の黒鉛粉末を添加、混合した原料粉末を用意した。これらの原料粉末について、成形圧力1.2GPaで直径:30mm、厚さ10mmの円板形状に圧粉成形を行った。こうして得られた圧粉体を、分解アンモニアガス雰囲気中1200℃×1Hrで焼結し、試料番号01〜13の試料を作製した。これらの試料につき、炭素分析装置(株式会社堀場製作所製)を用いて試料と結合した炭素量(結合C量)の測定を行った。そして、黒鉛粉末の添加量から上記結合C量を引いて、焼結によって失われた炭素量(損失C量)を求めた。また、ステンレス鋼粉末中のMo量またはNb量に対する上記結合C量の比(C比率)を算出した。これらの試料について、酸化試験と往復摺動摩擦試験を行い試験後の摩耗量を測定した。これらの結果を表1、2及び図1、2に併せて示す。
酸化試験は、各試験片毎にアルミナ製るつぼに配置して、これをマッフル炉に入れて大気雰囲気中900℃の温度で100時間加熱して行った。そして、試験前後の重量差を測定し、これを幾何表面積で除した値を酸化増量(g/m2)として評価を行った。
往復摺動摩擦試験は、上記の円板形状試験片に、直径:15mm、厚さ22mmのロール(相手材)の側面を所定の荷重で押圧しながら往復摺動させる摩擦試験である。本試験においては、ロール材としてJIS規格SUS316相当の溶製鋼の表面にクロマイズ処理(表面にクロムを被覆するとともに硬質な鉄クロム金属間化合物層を形成して耐摩耗性、耐焼き付き性および耐食性等を向上させる処理)を施したものを用いた。そして、荷重:40N、往復摺動の周波数:20Hz、往復摺動の振幅:1.5mm、試験時間:20min、試験温度:室温の試験条件の下で往復摺動摩擦試験を行った。
表1及び2より、各試料の炭素分析結果の数値(結合C量)は、添加した黒鉛粉末の量に対して0.3質量%程度低い値を示す。これは、焼結時、ステンレス鋼粉末表面の酸化被膜の除去等によって失われたものと考えられる。
表1及び2の試料番号01〜07の試料より、ステンレス鋼粉末中のMo量に対する結合C量の比(C比率)の影響を調べることができる。黒鉛粉末添加量が0.3質量%の試料番号01は、添加した黒鉛がほとんど失われて試料に炭素がほとんど検出されず、金属炭化物が形成されなかった。この試料においては、酸化増量は低く抑制され良好な耐食性を示すものの、金属炭化物が存在しないため摩耗量が大きく、耐摩耗性は低いことがわかる。一方、ステンレス鋼中のMo量に対するC比率が0.05となる試料番号02では、金属炭化物が生成して、酸化増量が若干増加して耐食性の低下の傾向が見られる。しかし、摩耗量は小さくなっており、耐摩耗性が向上することがわかる。また、ステンレス鋼中のMo量に対するC比率が0.25となる試料番号06までは、C比率の増加につれて酸化増量が緩やかに増加して耐食性が低下する傾向を示す。同時に、摩耗量が低下して耐摩耗性の向上の傾向を示している。しかし、ステンレス鋼中のMo量に対するC比率が0.25を超える試料番号07の試料では、Mo量に対して黒鉛粉末添加量が過多となり、基地中のCrが金属炭化物として多量に析出するようになるため、基地の耐食性が非常に低下して、酸化増量が増大している。また、ステンレス鋼中のMo量に対するC比率が0.25の試料番号06の試料では、耐摩耗性の向上に十分な金属炭化物が形成されており、黒鉛粉末の添加量がさらに多い試料番号07の試料では、それ以上の耐摩耗性の向上が見られなくなっている。以上のことから、ステンレス鋼中のMo量に対するC比率が0.05となる量の黒鉛粉末を添加すると耐摩耗性は向上するが、C比率が0.25を超える量の黒鉛粉末を添加しても耐摩耗性は向上せず、耐食性が非常に低下することが確認された。これらのことから、ステンレス鋼粉末中のMo量に対するC比率が0.05〜0.25の範囲において良好な耐食性及び耐摩耗性が得られるとわかる。
表1及び2の試料番号08〜13の試料より、ステンレス鋼粉末中のNb量に対する結合C量の比(C比率)の影響を調べることができる。Nb量に対するC比率の影響は、上記Mo量に対するC比率の影響と同様な傾向を示し、ステンレス鋼粉末中のNb量に対するC比率が0.12〜0.25の範囲において良好な耐食性及び耐摩耗性が得られることがわかる。
[第2実施例]
Mo量およびNb量が一定であり、Cr量とNi量が表3のように異なるステンレス鋼粉末を用いた。これに0.8質量%の黒鉛粉末を添加、混合し、原料粉末を得た。原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結して、表3に示す試料番号14〜27の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験及び耐摩耗性試験を行った。その結果について表3及び図3、4に併せて示す。
Mo量およびNb量が一定であり、Cr量とNi量が表3のように異なるステンレス鋼粉末を用いた。これに0.8質量%の黒鉛粉末を添加、混合し、原料粉末を得た。原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結して、表3に示す試料番号14〜27の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験及び耐摩耗性試験を行った。その結果について表3及び図3、4に併せて示す。
表3の試料番号14〜20により、ステンレス鋼粉末中のCr量の影響を調べることができる。ステンレス鋼粉末中のCr量が15質量%に満たない試料番号14の試料では、Cr量が少ないため、酸化増量が大きい値となっている。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が15質量%の試料番号15の試料では試料番号14に比して酸化増量が著しく抑制されており、Crによる耐食性向上の効果が認められる。ステンレス鋼粉末中のCr量を増加に従い、酸化増量は低下し耐食性の向上が認められる。また、ステンレス鋼粉末中のCr量の増加にともない、摩耗量も低下傾向にあり、耐摩耗性向上の効果も認められる。これは基地中のCr量が増加することにより、ごく一部の基地中のCrがクロム炭化物として析出したためと考えられる。ただし、耐食性試験の結果より、このごく一部のクロム炭化物の析出は、基地中のCr量を大幅に低減するものではないとわかる。一方、ステンレス鋼粉末中のCr量が35質量%を超える試料番号20の試料では耐食性が低下している。この理由として、ステンレス鋼粉末中に硬いσ相が生じて、原料粉末の圧縮性が低下したことが挙げられる。その結果、成形体の密度及び焼結体の密度が低下して気孔量が増加し、耐食性が低下したと考えられる。これらのことから、ステンレス鋼粉末中のCr量は15〜35質量%の範囲が良好な耐食性と耐摩耗性を示すことが確認された。
表3の試料番号17および21〜27により、ステンレス鋼粉末中のNi量の影響を調べることができる。試料番号21はNiを含有しないフェライト系ステンレスの例であり、酸化増量は小さく、耐食性も良い。一方、3.5質量%のNiを含有する試料番号22では、さらに酸化増量が抑制され、Niを含有することによる耐食性向上の効果が認められる。しかし、Ni含有量が22質量%を超えてもそれ以上の耐食性向上の効果は見られない。そのため、コストの観点から、Ni含有量は22質量%までで十分である。この場合、Niの含有により基地組織はフェライトではなくオーステナイトとなるため、Cの固溶限が大きくなる。このため、オーステナイト基地である試料番号22では、金属炭化物の析出量が減少し、摩耗量が若干増加している。ただし、この耐摩耗性の低下はごく僅かであり、問題のない程度である。これらのことから、3.5〜22質量%のNiの含有は、耐食性の向上に有効であることが確認された。
[第3実施例]
Cr量およびNi量が一定であり、Mo量とNb量が表4のように異なるステンレス鋼粉末を用意した。これにステンレス鋼中のMo量またはNb量に対する結合C量の比(C比率)が0.2となる量の黒鉛粉末を添加、混合し、原料粉末を得た。この原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結して、表4に示す試料番号28〜40の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験と耐摩耗性試験を行った。その結果について表4、5及び図5、6に併せて示す。なお、表4、5には、第1実施例の試料番号05と11の値を併記した。また、図5には第1実施例の試料番号05、図6には試料番号11の値も併記した。
Cr量およびNi量が一定であり、Mo量とNb量が表4のように異なるステンレス鋼粉末を用意した。これにステンレス鋼中のMo量またはNb量に対する結合C量の比(C比率)が0.2となる量の黒鉛粉末を添加、混合し、原料粉末を得た。この原料粉末を第1実施例と同様の条件で成形、焼結して、表4に示す試料番号28〜40の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様の条件で耐食性試験と耐摩耗性試験を行った。その結果について表4、5及び図5、6に併せて示す。なお、表4、5には、第1実施例の試料番号05と11の値を併記した。また、図5には第1実施例の試料番号05、図6には試料番号11の値も併記した。
表4、5の試料番号05および28〜34により、ステンレス鋼粉末中のMo量の影響を調べることができる。これらより、ステンレス鋼粉末中にNbを含まず、Mo量の少ない、結合C量がほとんどない試料番号28の試料は耐食性は良好であるが、金属炭化物が析出していないため摩耗量が多く、耐摩耗性は低い。一方、ステンレス鋼粉末中に1〜5質量%のMoを含有するとともにMo量に対するC比率が0.2となる量の黒鉛粉末を添加した試料番号05、29〜33では、モリブデン炭化物が析出して良好な耐食性とともに良好な耐摩耗性を示す。しかし、Mo量が5質量%を超える試料番号34の試料では、耐食性、耐摩耗性ともに低下している。これは、ステンレス鋼粉末中に固溶するMo量が過多となって原料粉末の圧縮性が低下し、成形体密度が低下するとともに焼結体密度が低下したためと考えられる。
表4、5の試料番号11、35〜40により、ステンレス鋼粉末中のNbの影響を調べることができる。ステンレス鋼粉末中のNbの影響は、上記のMoの影響と同様な傾向を示し、ステンレス鋼粉末中のNb量が0.1〜1質量%の範囲で良好な耐食性及び耐摩耗性が得られることがわかる。Nb量が1質量%を超える場合は、原料粉末の圧縮性が低下し、耐食性と耐摩耗性がともに低下した。
本発明の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法により得られる高温耐蝕耐摩耗性焼結部品は、優れた耐摩耗性と耐食性を示すとともに機械加工も容易である。従って、ターボチャージャーの構成部品や、内燃機関のバルブシート等の、高温環境下において耐蝕性とともに耐摩耗性が要求される部品に好適なものである。
Claims (3)
- 前記ステンレス鋼粉末中のMo量が1.5〜5質量%であり、前記ステンレス鋼粉末中のNb量が0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。
- 前記原料粉末に、さらに、5質量%以下の硫化マンガン粉末、硫化クロム粉末、弗化カルシウム粉末、珪酸マグネシウム系鉱物粉末のうち少なくとも1種を添加し混合したことを特徴とする請求項1または2に記載の高温耐蝕耐摩耗性焼結部品の製造方法。
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