JP2012219342A - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材鋼板が、質量%で、C: 0.03〜0.35%、Si: 0.005〜2.0%、Mn: 1.0〜4.0%、P: 0.0004〜0.1%、S: 0.02%以下、sol.Al: 0.0002〜2.0%、およびN: 0.01%以下を含有する化学組成を有し、鋼板の表面から50μmの深さの位置における圧延方向に展伸したMnおよびSiが濃化した濃化部の圧延直角方向の平均間隔である濃化部平均間隔が1000μm以下であり、鋼板の表面における深さ3μm以上10μm以下のクラックの数密度が3個/mm以上1000個/mm以下であり、面積%で、ベイナイト:60%以上、残留オーステナイト:1%以上、マルテンサイト:1%以上、およびフェライト:2%以上20%未満を含有するとともに、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの最近接距離の平均値である超硬質相平均間隔が20μm以下である鋼組織を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【選択図】 なし
Description
例えば、特許文献1に記載された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、Si、Mn、Cr、Moを多量に添加し、さらに冷却速度を制御することによって、フェライト・ベイナイト・マルテンサイト混合組織を得て、TS≧780MPaを達成している。
これらの技術によれば、フェライトと硬質相との混合組織とすることにより、比較的容易に高強度化が図ることができる。
しかし、Tiを添加してフェライトの微細化や析出強化を利用すると、フェライト自体が非常に硬くなってしまい、延性が著しく劣化する傾向がある。
その結果、めっき基材となる鋼板の表面近傍の成分偏析や表面形状(表面クラックの密度)を適正化するとともに、鋼組織を適正化することによって、必ずしもTiまたはNbを含有させなくても、780MPa以上の高い引張強度を有しながら、優れた曲げ性、伸びフランジ性および曲げ性をも有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができるという新たな知見を得た。
(1)鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板は、
質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.005%以上2.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.0004%以上0.1%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0002%以上2.0%以下、およびN:0.01%以下を含有する化学組成を有し、
鋼板の表面から50μmの深さの位置における、圧延方向に展伸したMnおよび/またはSiが濃化した濃化部の圧延直角方向の平均間隔である濃化部平均間隔が1000μm以下であり、
鋼板の表面における深さ3μm以上10μm以下のクラックの数密度が3個/mm以上1000個/mm以下であり、
面積%で、ベイナイト:60%以上、残留オーステナイト:1%以上、マルテンサイト:1%以上、およびフェライト:2%以上20%未満を含有するとともに、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの最近接距離の平均値である超硬質相平均間隔が20μm以下である鋼組織を有し、
前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、引張強さ(TS)が780MPa以上である機械特性を有することを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下、W:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有する前記(1)または(2)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
下記工程(A)〜(E)を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(A)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度域で熱間圧延を完了し、10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して、300℃以上580℃未満の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に20%以上の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(E)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を750℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、2℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以上580℃以下の温度域まで冷却してこの温度域に2秒間以上保持し、次いで溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、700℃以下の温度域に120秒間以下保持する合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする連続溶融亜鉛めっき工程。
下記工程(a)〜(f)を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(a)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(b)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度域で熱間圧延を完了し、10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して、300℃以上580℃未満の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(c)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に上記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(d)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に20%以上の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(e)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、750℃以上の温度域に5秒間以上保持したのち、2℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上580℃以下の温度域まで冷却する前焼鈍を施す前焼鈍工程;および
(f)前記前焼鈍工程により得られた冷延鋼板を750℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、2℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以上580℃以下の温度域まで冷却してこの温度域に2秒間以上保持し、次いで溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、700℃以下の温度域に120秒間以下保持する合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする連続溶融亜鉛めっき工程。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の化学組成について説明する。化学組成についての「%」は「質量%」を意味する。
Cは、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトなどの硬質相を生成させ、鋼板の強度を向上させる作用を有する。特に本発明では、鋼組織においてベイナイトの面積率を60%以上とする必要がある。C含有量が0.03%未満ではベイナイトの面積率を60%以上とすることが困難である。したがって、C含有量は0.03%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、C含有量が0.35%超では、溶接性の低下が著しくなる。したがって、C含有量は0.35%以下とする。好ましくは0.25%以下である。
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を高める作用を有する。Si含有量が0.005%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.01%以上である。一方、Si含有量が2.0%超では、溶融亜鉛めっきとのぬれ性が悪化して不めっき部が多く存在するようになり耐食性の劣化が著しくなる。したがって、Siの含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下である。
Mnは、鋼の焼入性を高めることにより鋼板の強度を高める作用を有する。Mn含有量が1.0%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Mn含有量は1.0%以上とする。好ましくは1.2%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、焼入性が過剰に高まってマルテンサイトの面積率が過大となり、伸びフランジ加工性や曲げ性の低下が著しくなる。したがって、Mn含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、固溶強化により鋼板の強度を高める作用を有する。P含有量が0.0004%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、P含有量は0.0004%以上とする。好ましくは0.006%以上である。一方、Pは偏析し易い元素であるため多量に含有すると溶接性の低下を招く。P含有量が0.1%超では偏析による溶接性の低下が著しくなる。したがって、P含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
Sは、不純物として含有され、鋼中に硫化物を形成して伸びフランジ加工性や曲げ性を低下させる作用を有する。S含有量が0.02%超では伸びフランジ加工性や曲げ性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。S含有量は低ければ低いほど好ましいので、S含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。
Alは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有する。sol.Al含有量が0.0002%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、sol.Al含有量は0.0002%以上とする。好ましくは0.0005%以上である。一方、sol.Al含有量が2.0%超では、粗大なアルミナ系介在物が増加して、伸びフランジ加工性や曲げ性およびの低下が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下である。
Nは、不純物として含有され、鋼中に窒化物を形成して伸びフランジ加工性や曲げ性を低下させる作用を有する。N含有量が0.01%超では曲げ性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。N含有量は低ければ低いほど好ましいので、N含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。
(8)Bi:0.5%以下
Biは、凝固の接種核となり、凝固時のデンドライトアーム間隔を小さくし、凝固組織を細かくする作用を有する。その結果、MnやSi等の偏析が生じ易い元素の偏析を抑制し、鋼板の局所的な強度差を低減し、曲げ性を向上させる作用を有する。したがって、Biを含有させることが好ましい。しかし、Biは鋼中に曲げ加工時の割れの起点となる酸化物を形成するため、Biの含有量が0.5%を超えると曲げ性の劣化が著しくなる。したがって、Biを含有させる場合のBi含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.03%以下である。上記作用による効果をより確実に得るにはBi含有量を0.0002%以上とすることが好ましく、このようにすることで、溶融亜鉛めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置における圧延方向に展伸したMnおよび/またはSiが濃化した濃化部の圧延直角方向の平均間隔(詳細は後述する。)を500μm以下とすることをより確実に行うことができる。
Ti、Nb、V、W、Cr、Mo、Cu、NiおよびBは、Mnと同様に鋼の焼入性を高めることによって鋼板の強度を高める作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、Ti、Nb、V、W、Cr、Mo、CuおよびNiについてはそれぞれ含有量が1.0%を超えると、Bについては含有量が0.01%を超えると、焼入性が過剰に高まってマルテンサイトの面積率が過大となり、伸びフランジ加工性や曲げ性の低下が著しくなる。したがって、含有させる場合のTi、Nb、V、W、Cr、Mo、Cu、NiおよびBの含有量はそれぞれ上記のとおりとする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ti、Nb、V、W、Cr、Mo、CuおよびNiのいずれかの元素を0.005%以上とするか、Bの含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Bについては含有量を0.0004%以上とすることがさらに好ましい。
REM(希土類元素)、Mg、CaおよびZrは、鋼中に形成される酸化物や硫化物を微細に球状化させて、伸びフランジ加工性や曲げ性を向上させる作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、REMについては含有量が0.1%超えると、Mg、CaおよびZrについてはそれぞれ含有量が0.05%を超えると、鋼中に形成される酸化物や硫化物の数が過剰となり、却って伸びフランジ加工性や曲げ性を劣化させる。したがって、含有させる場合のREM(希土類元素)、Mg、CaおよびZrの含有量はそれぞれ上記のとおりとする。上記作用による効果をより確実に得るには、REM、Mg、CaおよびZrのいずれかの含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき基材である鋼板の濃化部、表面形状および鋼組織について説明する。
鋼板の表面から50μmの深さの位置(以下、「深さ位置A」ともいう。)における、圧延方向に展伸した、Mnおよび/またはSiが濃化した濃化部(以下、「Mn・Si濃化部」ともいう。)の、圧延方向と直交する方向、すなわち鋼板の幅方向(本発明においては「圧延直角方向」という。)の平均間隔(本発明においては「濃化部平均間隔」ともいう。)を1000μm以下とすることで、良好な曲げ性を得ることができる。
鋼板表面における深さ3μm以上10μm以下のクラックの数密度(以下、「表面クラック数密度」と略記する。)を3個/mm以上1000個/mm以下とすることにより、良好な曲げ性を得ることができる。
なお、表面クラック数密度の測定は、次のようにして行えばよい。すなわち、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面観察を行い、深さが3μm以上10μm以下であるクラックを特定する。観察視野において特定されたこれらのクラックの本数を計数する。観察像で線状に観察される界面を直線近似し、その直線の観察視野における長さで、計数されたクラック本数を除して、クラック数密度とする。
ベイナイト:60面積%以上
ベイナイトは、硬質な組織であり、かつ、硬度分布が均一な組織である。このため、高い強度と良好な強度−伸びフランジ性バランスを確保するのに最も有効な組織である。ベイナイトの面積率が60%未満では、TS:780MPa以上かつTS×HER値:28000MPa・%以上という、高い強度と優れた強度−伸びフランジ性バランスとを確保することが困難である。したがって、ベイナイトの面積率は60%以上とする。好ましくは65%以上である。
残留オーステナイトは、変態誘起塑性(TRIP)効果により、鋼板の延性を飛躍的に向上させる相である。上述したように、ベイナイトは高い強度と良好な強度−伸びフランジ性バランスを確保するのに最も有効な組織であるが、延性に劣る組織である。このように延性に劣る組織であるベイナイトを60面積%以上も含有させるため、優れた強度−延性バランスを確保するには、残留オーステナイトの変態誘起塑性(TRIP)効果により、鋼板の延性を向上させる必要がある。残留オーステナイトの面積率が1%未満では、十分な変態誘起塑性(TRIP)効果を得ることができず、TS×El値で10000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスを確保することが困難となる。したがって、残留オーステナイトの面積率は1%以上とする。好ましくは2%以上である。
マルテンサイトは、非常に硬質な相であり、鋼板の強度を飛躍的に向上させる相である。上述したように、ベイナイトは硬質な組織であるので高い強度を確保するのに有効な組織ではあるが、マルテンサイトに比べれば軟質である。このため、ベイナイトのみによって非常に高い強度を確保することは困難であり、非常に高い強度を確保するには、マルテンサイトを含有させることによって鋼板の強度を向上させる必要がある。マルテンサイトの面積率が1%未満では、TS:780MPa以上という高い強度を確保することが困難である。したがって、マルテンサイトの面積率は1%以上とする。好ましくは2%以上である。
フェライトは、最も軟質な相であり、鋼板の延性を向上させる相である。上述したように、ベイナイトは高い強度と良好な強度−伸びフランジ性バランスを確保するのに最も有効な組織であるが、延性に劣る組織である。このように延性に劣る組織であるベイナイトを60面積%以上も含有させるため、優れた強度−延性バランスを確保するには、フェライトを含有させて、鋼板の延性を向上させる必要がある。フェライトの面積率が1%未満では、フェライトによる延性向上作用を十分に得ることができず、TS×El値で10000MPa・%以上という優れた強度−延性バランスを確保することが困難となる。したがって、フェライトの面積率は1%以上とする。好ましくは3%以上である。
上述したように、マルテンサイトは鋼板の強度を向上させる作用を有し、残留オーステナイトは鋼板の延性を向上させる作用を有することから、高い強度と優れた強度−延性バランスとを確保するために、いずれも1面積%以上含有させる。
そこで、マルテンサイトおよび残留オーステナイト(以下、総称して「超硬質相」という場合がある。)を緻密に分散させることにより、伸びフランジ変形時の応力を効果的に分散させ、上記硬度差に起因する応力集中を抑制することで、優れた強度−伸びフランジ性バランスを確保する。
鋼板の表面に形成される合金化溶融亜鉛めっき層については特に規定しないが、以下のようにすることが好ましい。合金化溶融亜鉛めっき層は、一般にめっき基材である鋼板の両面に形成される。しかし、本発明は片面のみに形成される場合を包含する。
次に、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について工程ごとに説明する。
(1)鋳造工程
上記化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する。
上記平均冷却速度が10℃/秒未満では、凝固速度が低すぎるため、鋳片におけるデンドライトアーム間隔が拡がり、鋼板の表面から50μmの深さの位置(深さ位置A)における圧延方向にMnおよび/またはSiが展伸したMn・Si濃化部の圧延直角方向の平均間隔(濃化部平均間隔)を1000μm以下とすることが困難となる。したがって、上記平均冷却速度は10℃/秒以上とする。好ましくは12℃/秒以上である。
(2)熱間圧延工程
上記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度域で熱間圧延を完了し、10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して、300℃以上580℃未満の温度域で巻取って熱延鋼板とする。
すなわち、熱延鋼板におけるベイナイトは、その後、冷間圧延されることによりフェライトとセメンタイトに分断される。このため、熱延鋼板におけるベイナイトに由来するセメンタイトは、冷間圧延後において緻密に分散した形態を呈する。この緻密に分散したセメンタイトは、その後、後述する連続溶融亜鉛めっき工程の均熱処理においてオーステナイト化の核となりオーステナイト化が進行し、その後の冷却により、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト等になる。ここで、冷却後のマルテンサイトと残留オーステナイトの分布状態はオーステナイト化の核の分布状態の影響を引き摺るため、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの最近接距離の平均値である超硬質相平均間隔が20μm以下である鋼組織を得ることができるのである。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする。
冷延鋼板の表面クラックは、熱間圧延後の酸洗処理によりフェライトの粒界部が選択的に酸化されることによって形成される。酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)の値が5000未満では、フェライトの粒界部の選択的酸化が不十分となり、鋼板の表面(めっき層との界面)における深さ3μm以上10μm以下の表面クラックの数密度を3個/mm以上とすることが困難となる。一方、酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)の値が2000000超になると、フェライトの粒界部の選択的酸化が過剰に進行してしまい、鋼板の表面における深さ3μm以上10μm以下の表面クラックの数密度を1000個/mm以下とすることが困難となる。酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)の値は好ましくは10000以上1900000未満である。
(4)冷間圧延工程
上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に20%以上の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を、そのまま次に述べる連続溶融亜鉛めっき工程において溶融亜鉛めっきと合金化熱処理を施すこともできるが、連続溶融亜鉛めっき工程の前工程として、上記冷延鋼板を750℃以上の温度域に5秒間以上保持したのち、2℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上580℃以下の温度域まで冷却する前焼鈍を施すことが好ましい。
上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板または好ましくは上記前焼鈍工程で得られた冷延鋼板を、750℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、2℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以上580℃以下の温度域まで冷却し、この温度域で2秒間以上保持し、次いで溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、700℃以下の温度域に120秒間以下保持する合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。
ここで、合金化処理における保持温度が700℃超では、残留オーステナイトがセメンタイトに分解してしまい、残留オーステナイトの面積率を1.0%以上とすることが困難となる。したがって、合金化処理における保持温度は700℃以下とする。合金化処理における保持温度の下限は特に規定しないが、450℃未満では、Feと亜鉛の拡散が遅く、合金化が速やかに進行しないため、生産性を阻害する。したがって、合金化処理における保持温度は450℃以上とすることが好ましい。
表1に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造試験機を用いて連続鋳造を実施し、1000mm幅で250mm厚のスラブとした。この際、鋳片の表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度の変更は、鋳型の冷却水量を変更することによって行った。
(1)液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度
スラブの液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度は、得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、スラブ表面から深さ方向に10mm位置を鋳込み方向に5mmピッチでデンドライト2次アーム間隔λ(μm)を100点測定し、その値から、次式に基づいてスラブの液相線温度から固相線温度までの温度域内の冷却速度A(℃/秒)を算出し、100点のAの値を算術平均した平均値として、平均冷却速度を求めた。
(2)溶融めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置(深さ位置A)における圧延方向に展伸したMnおよび/またはSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔(濃化部平均間隔)
上記の濃化部平均間隔の測定はEPMAの線分析にて実施した。すなわち、上記界面から50μmの深さの位置まで研削して、EPMAの線分析を実施した。MnおよびSi濃化は、線分析から得られたSiとMnの濃度の波形を読み取り、SiとMnの少なくとも一方の濃度平均値が1.1倍以上である濃度極大値の間隔から求めた。
鋼板の圧延方向に平行な断面を観察するための試料を常法に従って研磨とナイタル液を用いたエッチングにより調製し、走査型電子顕微鏡を用いて、フェライト、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの面積率を、画像処理にて求めた。
クラック数密度は、鋼組織の評価において用いた鋼板の圧延方向に平行な断面の観察試料を用い、この試料の断面について、走査型電子顕微鏡を用いて、2000倍の倍率にて100視野を観察することにより求めた、鋼板表面からの深さが3μm以上10μm以下の表面クラックの本数を、単位長さ当たりの個数に換算して求めた。具体的には次のとおりであった。
得られた鋼板に対して、引張試験および限界曲げ試験を実施した。
A)引張試験
各鋼板の圧延直角方向からJIS 5号引張試験を採取した。試験方法はJIS Z2241に準じた。降伏点(YP)、引張強さ(TS)、全伸び(El)を測定した。
各鋼板の圧延直角方向から、幅40mm長さ200mmの試験片を採取した。試験形状および試験方法はJIS Z2248に準じた。内側半径を、密着、板厚の0.5倍、1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍として180°曲げ試験を実施し、割れが発生しない内側半径の最小値を限界曲げ半径とした。
日本鉄鋼連盟規格の「JFS T 1001−1996穴拡げ試験方法」に従い、穴拡げ率(HER%)を測定し、伸びフランジ加工性の指標とした。
また、連続溶融亜鉛めっき工程の前に、750℃以上の温度域に5秒間以上保持したのち、2℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上580℃以下の温度域まで冷却する前焼鈍を施したNo.27〜29は、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの最近接距離の平均値である超硬質相平均間隔が10μm以内となり、TS×HER値が55000MPa・%以上であり、特に伸びフランジ性に優れていた。
Claims (7)
- 鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板は、
質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.005%以上2.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.0004%以上0.1%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0002%以上2.0%以下、およびN:0.01%以下を含有する化学組成を有し、
鋼板の表面から50μmの深さの位置における、圧延方向に展伸したMnおよび/またはSiが濃化した濃化部の圧延直角方向の平均間隔である濃化部平均間隔が1000μm以下であり、
鋼板の表面における深さ3μm以上10μm以下のクラックの数密度が3個/mm以上1000個/mm以下であり、
面積%で、ベイナイト:60%以上、残留オーステナイト:1%以上、マルテンサイト:1%以上、およびフェライト:2%以上20%未満を含有するとともに、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの最近接距離の平均値である超硬質相平均間隔が20μm以下である鋼組織を有し、
前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、引張強さ(TS)が780MPa以上である機械特性を有することを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 前記化学組成がBi:0.5質量%以下をさらに含有し、前記濃化部平均間隔が500μm以下である、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下、W:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有する、請求項1または請求項2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、REM:0.1%以下、Mg:0.05%以下、Ca:0.05%以下、およびZr:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記超硬質相平均間隔が10μm以下である、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 下記工程(A)〜(E)を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(A)請求項1〜請求項4のいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度域で熱間圧延を完了し、10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して、300℃以上580℃未満の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に20%以上の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(E)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を750℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、2℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以上580℃以下の温度域まで冷却してこの温度域に2秒間以上保持し、次いで溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、700℃以下の温度域に120秒間以下保持する合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする連続溶融亜鉛めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000 (1) - 下記工程(a)〜(f)を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(a)請求項1〜請求項4のいずれかに記載の化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(b)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、800℃以上の温度域で熱間圧延を完了し、10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して、300℃以上580℃未満の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(c)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(d)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に20%以上の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(e)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、750℃以上の温度域に5秒間以上保持したのち、2℃/秒以上200℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上580℃以下の温度域まで冷却する前焼鈍を施す前焼鈍工程;および
(f)前記前焼鈍工程により得られた冷延鋼板を750℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、2℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で300℃以上580℃以下の温度域まで冷却してこの温度域に2秒間以上保持し、次いで溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板とし、700℃以下の温度域に120秒間以下保持する合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする連続溶融亜鉛めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000 (1)
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