本発明は、冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器、及び熱交換器を有する冷凍装置に関し、特に熱交換器の伝熱促進対策に係るものである。
従来より、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置が知られており、空気調和装置や給湯器等に広く適用されている。
例えば特許文献1に開示されている空気調和装置は、圧縮機、室外熱交換器、膨張機、及び室内熱交換器が接続された冷媒回路を有している。この冷媒回路には、冷媒として二酸化炭素が充填されている。
この空気調和装置の冷房運転では、圧縮機で臨界圧力以上まで圧縮された冷媒が、室外熱交換器を流れる。室外熱交換器では、冷媒と室外空気とが熱交換し、冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器で放熱した冷媒は、膨張機で減圧された後、室内熱交換器を流れる。室内熱交換器では、冷媒と室内空気とが熱交換し、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器で蒸発した冷媒は、圧縮機に吸入されて再び圧縮される。
ところで、上述のような冷凍装置では、圧縮機の各摺動部を潤滑するために潤滑油(冷凍機油)が用いられており、この油は冷媒回路を流れる冷媒中に含まれることになる。このため、冷媒が蒸発器や放熱器等の熱交換器を流れる際には、冷媒に溶けきれなかった油が伝熱管の内壁に付着し、この伝熱管の内壁の全周に亘って油膜が形成されることがある。その結果、この油膜によって冷媒と空気との伝熱が阻害されて、熱交換器の伝熱性能が低下してしまうという問題があった。
特に、特許文献1に開示されていような、二酸化炭素を冷媒として冷凍サイクルを行う冷凍装置では、冷凍機油として、PAG(ポリアルキレングリコール)を用いるのが一般的である。ところが、この種の油は、二酸化炭素に対する相溶性が低いため、熱交換器の伝熱管内には、上述したような油膜が形成され易い。従って、二酸化炭素を冷媒とする冷凍装置に適用される熱交換器では、油膜の形成に起因する伝熱性能の低下が顕著となっていた。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器において、その伝熱管の内壁面に油膜が形成されることに起因して、熱交換器の伝熱性能が低下しまうのを防止することである。
第1の発明は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用され、冷媒が流れる伝熱管(22)を有する熱交換器を前提としている。そして、この熱交換器の伝熱管(22)には、その内壁面に、冷媒中の油を捕捉して流通させるための油溝(25)が形成されていることを特徴とするものである。
第1の発明では、冷凍装置の冷媒回路に接続される熱交換器について、この熱交換器の伝熱管(22)の内壁面に油溝(25)が形成される。このように伝熱管(22)に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)内を流れる冷媒中に含まれる油が油溝(25)内に捕捉され、この油溝(25)内を流通することになる。
具体的には、冷媒が伝熱管(22)内を流れる際には、粘性や比重の違いに起因して、冷媒が伝熱管(22)内の中心寄りを流れる一方、冷媒に溶けきれなかった油は、伝熱管(22)内の外側寄りを流れる。つまり、油は、伝熱管(22)の内壁を沿うように流れるので、伝熱管(22)の内壁面には、その全域に亘って油膜が形成されていく。ここで、本発明では、伝熱管(22)の内壁面に油溝(25)を形成している。このため、伝熱管(22)の内壁を覆っていた油は、表面張力によって油溝(25)内に引き込まれていき、この油溝(25)内を流れることになる。その結果、本発明では、伝熱管(22)の内壁に油膜が形成されてしまうことが回避される。
第2の発明は、第1の発明の熱交換器において、上記油溝(25)は、上記伝熱管(22)の軸方向に延びていることを特徴とするものである。
第2の発明では、伝熱管(22)の内壁面において、伝熱管(22)の軸方向に延びるように油溝(25)が形成される。つまり、本発明では、油溝(25)が冷媒の流れと同一方向に延びて形成される。このため、上述のようにして油溝(25)内に油が捕捉されると、この油は油溝(25)の外側を流れる冷媒と同一方向に、油溝(25)内を円滑に流れる。その結果、本発明では、油溝(25)内に捕捉された油が、油溝(25)の外側へ流出してしまうことが抑制される。
第3の発明は、第2の発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内壁面には、複数の上記油溝(25)が周方向に等間隔で配列されていることを特徴とするものである。
第3の発明では、伝熱管(22)の軸方向に延びる複数の油溝(25)が、伝熱管(22)の内周面の周方向に等間隔おきで配列される。このため、伝熱管(22)の内周面全域に形成されていく油膜が、各油溝(25)に捕捉され易くなる。また、各油溝(25)に捕捉される油の量が均一化され、各油溝(25)による油の捕捉効果が向上する。
第4の発明は、第1の発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内壁面には、V字形状に延びる複数の上記油溝(25)が伝熱管(22)の軸方向に配列されていることを特徴とするものである。
第4の発明では、伝熱管(22)の内壁面に、複数のV字形状の油溝(25)が形成される。各油溝(25)は、全ての油溝(25)が軸方向の片側を向くように、伝熱管(22)の軸方向に配列される。このように油溝(25)を形成した熱交換器について、油溝(25)のV字先端の指向方向と同一方向に冷媒を流通させるようにすると、油溝(25)に捕捉された冷媒は、V字先端側に集まった後、油溝(25)から流出して冷媒と同一方向に流れる。各油溝(25)について油がこのような流れとなると、最終的には、油が各油溝(25)のV字先端を結ぶようにして、伝熱管(22)の内壁面を流れる。つまり、本発明の伝熱管(22)内では、各油溝(25)のV字先端を結ぶような油の流路が形成されることにより、この油が伝熱管(22)内を円滑に流れることになる。
第5の発明は、第1乃至第4のいずれか1つの発明の熱交換器において、上記油溝(25)の内側の壁面には、親油性材料からなる親油層(27)が形成されていることを特徴とするものである。
第5の発明では、油溝(25)の内壁に親油性を有する親油層(27)が形成される。このため、伝熱管(22)内の油が油溝(25)内に引き込まれやすくなるので、油は油溝(25)内に効率良く捕捉される。
第6の発明は、第1乃至第5のいずれか1つの発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内側の内壁面のうち上記油溝(25)以外の部分には、撥油性材料からなる撥油層(28)が形成されていることを特徴とするものである。
第6の発明では、伝熱管(22)についての油溝(25)の外側の内壁面に撥油層(28)が形成される。このため、本発明では、油溝(25)の外側の油が撥油層(28)によって弾かれて、油溝(25)内に入り易くなる。その結果、油は油溝(25)内に更に効率良く捕捉される。
第7の発明は、第1の発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内壁面には、該伝熱管(22)の周方向に旋回する螺旋状に形成されて、伝熱を促進させるための複数の伝熱促進溝(50)が設けられていることを特徴とするものである。
第7の発明では、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)が形成される。このように伝熱促進溝(50)を形成すると、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大されるので、熱交換器の伝熱性能が向上する。
第8の発明は、第7の発明の熱交換器において、上記油溝(25)は、上記伝熱促進溝(50)と交わるようにしながら上記伝熱管(22)の軸方向に延びていることを特徴とするものである。
第8の発明では、伝熱管(22)の内壁面において、油溝(25)が螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるように軸方向に延びて形成される。つまり、油溝(25)は、複数の伝熱促進溝(50)と繋がるように形成される。このため、各伝熱促進溝(50)に油が溜まっても、この油を伝熱促進溝(50)を通じて油溝(25)内に流入させることができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことが回避される。
第9の発明は、第8の発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内壁面には、複数の上記油溝(25)が周方向に等間隔で配列されていることを特徴とするものである。
第9の発明では、伝熱管(22)の軸方向に延びる複数の油溝(25)が、伝熱管(22)の内周面の周方向に等間隔おきで配列される。このため、伝熱管(22)の内周面全域に形成されていく油膜が、各油溝(25)に捕捉され易くなる。また、各油溝(25)に捕捉される油の量が均一化され、各油溝(25)による油の捕捉効果が向上する。更に、各伝熱促進溝(50)に溜まった油を速やかに油溝(25)へ流出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを一層回避し易くなる。
第10の発明は、第7乃至第9のいずれか1つの発明の熱交換器において、上記油溝(25)の開口幅が、上記伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くなっていることを特徴とするものである。
第10の発明では、油溝(25)の開口幅を伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くしている。このため、伝熱促進溝(50)内に油が入り込み難くなる一方、油溝(25)内に油が入り込みやすくなり、油溝(25)による油の捕捉効果が向上する。
第11の発明は、第7乃至第10のいずれか1つの発明において、上記油溝(25)の溝深さが、上記伝熱促進溝(50)の溝深さ以上となっていることを特徴とするものである。
第11の発明では、油溝(25)の溝深さを伝熱促進溝(50)の溝深さ以上としているので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を油溝(25)内へ流下させ易くなる。
第12の発明は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備える冷凍装置を前提としている。そして、この冷凍装置の冷媒回路(10)では、冷媒としての二酸化炭素と、冷凍機油としてのポリアルキレングリコールが循環すると共に、第1乃至第11のいずれか1つの熱交換器(12,13)が設けられていることを特徴とするものである。
第12の発明の冷凍装置では、冷媒として二酸化炭素が用いられる一方、圧縮機構等の潤滑を行うための冷凍機油としてポリアルキレングリコール(PAG)が用いられる。このPAGは、二酸化炭素に対する相溶性が低い。従って、熱交換器(12,13)内では、冷媒と油とが分離し易く、伝熱管(22)の内壁に全域に亘って油膜が形成され易い。しかしながら、本発明では、伝熱管(22)の内周壁に、油を捕捉して流通させるための油溝(25)を形成している。従って、この冷凍装置では、このような油膜の発生を未然に回避でき、熱交換器(12,13)の伝熱性能の低下を防止できる。
本発明では、伝熱管(22)の内壁面に、油を捕捉するための油溝(25)を形成するようにしている。このため、従来の熱交換器であれば、伝熱管の内壁面の全域に油膜が形成されて伝熱性能が低下してしまっていたのに対し、本発明によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油を油溝(25)内に捕捉させることで、上記油膜の形成を抑制することができる。その結果、この伝熱管(22)では、その内壁面と冷媒とが接触する面積を広くとることができるので、冷媒と熱媒体との間の伝熱を促進させることができる。また、このようにして油膜の形成を防止すると、油膜の形成に起因して伝熱管(22)の圧力損失が増大してしまうのを防止できる。
更に、本発明では、油溝(25)内に捕捉した油が、油溝(25)を流通して速やかに熱交換器から流出する。このため、本発明によれば、熱交換器内に油が滞ってしまうことを防止でき、圧縮機構等への返油量を充分確保できる。
特に、上記第2の発明では、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に形成しているので、油溝(25)内に捕捉された油が、油溝(25)内を円滑に流れることになる。従って、一旦油溝(25)内に捕捉された油が再び油溝(25)から流出して伝熱管(22)の内壁面を覆ってしまうのを回避できる。また、油溝(25)内に溜まった油を、この油溝(25)を通じて速やかに熱交換器から流出させることができる。
更に、第3の発明では、複数の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に等間隔で形成するようにしている。このため、本発明によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油が油溝(25)内に入り易くなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、上述した油膜の形成を一層確実に防止することができる。
また、第4の発明によれば、V字形状の油溝(25)を複数設けることで、伝熱管(22)内に油の流路を確実に形成することができ、この油を熱交換器から速やかに排出することができる。従って、本発明によれば、圧縮機構等への返油量を充分確保することができる。
また、第5の発明によれば、油溝(25)の内壁に親油層(27)を形成したので、油溝(25)による油の捕捉効果を向上させることができる。従って、上記油膜の形成を一層確実に防止できる。また、捕捉した油を確実に油溝(25)内に流通させて、熱交換器から流出させることができる。
また、第6の発明によれば、伝熱管(22)の内壁面に撥油層(28)を形成しているので、伝熱管(22)の内壁面を覆おうとする油を、油溝(25)内に向かって弾くことができ、油溝(25)による油の捕捉効果を更に向上できる。
第7の発明によれば、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)を形成したので、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大され、伝熱管(22)の伝熱性能を更に向上させることができる。
第8の発明によれば、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に延ばして螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるようにしたので、伝熱促進溝(50)に溜まった油を油溝(25)へ排出することができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを回避できるので、伝熱管(22)の伝熱性能の低下を防止できる。
第9の発明によれば、複数の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に等間隔で形成するようにしている。このため、本発明によれば、伝熱管(22)の内壁面の油が油溝(25)内に入り易くなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、伝熱管(22)の内壁面における油膜の形成を一層確実に防止することができる。また、各伝熱促進溝(50)内に溜まった油を速やかに各油溝(25)へ排出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことも確実に防止できる。
第10の発明によれば、油溝(25)の開口幅を伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くしたので、伝熱管(22)内の油を積極的に油溝(25)へ流入させることができる。また、第11の発明によれば、油溝(25)の溝深さを伝熱促進溝(50)の溝深さ以上としたので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を確実に油溝(25)内へ流下させることができる。従って、これらの発明によれば、伝熱促進溝(50)による伝熱促進効果を充分発揮させることができ、伝熱管(22)の伝熱性能の更なる向上を図ることができる。
第12の発明によれば、二酸化炭素を冷媒とする冷凍装置において、二酸化炭素に対する相溶性が低いPAGを油溝(25)内に捕捉することができる。つまり、本発明によれば、従来のものであれば、伝熱管の内壁面に油膜が形成され易い冷凍装置について、このような油膜の形成を確実に防止することができ、熱交換器(12,13)の伝熱性能を充分確保することができる。
図1は、実施形態1に係る冷凍装置の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図である。
図2は、実施形態1に係る熱交換器の概略構成を示す斜視図である。
図3は、実施形態1に係る熱交換器の概略構成を示す立面図である。
図4は、実施形態1に係る熱交換器の伝熱管の内部を示す斜視図である。
図5は、実施形態1に係る熱交換器の伝熱管の縦断面図である。
図6は、実施形態1に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図7は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管の一部の縦断面図である。
図8は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図9は、実施形態3に係る熱交換器の伝熱管の内部を示す斜視図である。
図10は、実施形態3に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図11は、実施形態4に係る熱交換器の伝熱管を破断して内部を表した斜視図である。
図12は、実施形態4に係る熱交換器の伝熱管の縦断面図である。
図13は、実施形態4に係る熱交換器の伝熱管の内壁面を拡大した斜視図である。
図14は、実施形態4に係る熱交換器の伝熱管の内壁面を拡大して、油溝及び伝熱促進溝の寸法の関係を表した説明図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1に係る熱交換器は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置(1)に適用されるものである。実施形態1の冷凍装置は、室内の冷房と暖房とを切り換えて行う空気調和装置(1)を構成している。
〈冷媒回路の概略構成〉
図1に示すように、空気調和装置(1)は、冷媒が充填される冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)には、冷媒として二酸化炭素が充填されている。また、この空気調和装置(1)では、圧縮機(11)の各摺動部を潤滑するための潤滑油(冷凍機油)として、有極性の油であるポリアルキレングリコール(PAG)が用いられている。そして、このPAGは、圧縮機(11)から吐出された冷媒と共に冷媒回路(10)へ流出することになる。従って、冷媒回路(10)では、冷媒としての二酸化炭素と、冷凍機油としてのPAGが循環する。また、冷媒回路では、二酸化炭素を臨界圧力以上まで圧縮する冷凍サイクル(いわゆる超臨界サイクル)が行われる。
冷媒回路(10)には、圧縮機(11)と室外熱交換器(12)と室内熱交換器(13)と膨張弁(14)とが設けられている。
上記圧縮機(11)は、例えばスクロール型の圧縮機で構成されている。圧縮機(11)には、圧縮機構の吐出冷媒が流出する吐出管(11a)と、圧縮機構の吸入冷媒が流入する吸入管(11b)とが接続されている。上記室外熱交換器(12)は、室外空間に配置されている。室外熱交換器(12)では、その内部を流れる冷媒と室外空気とが熱交換する。上記室内熱交換器(13)は、室内空間に配置されている。室内熱交換器(13)では、その内部を流れる冷媒と室内空気とが熱交換する。室外熱交換器(12)及び室内熱交換器(13)は、本発明に係る熱交換器であって、クロスフィン式の熱交換器を構成している。
上記膨張弁(14)は、室外熱交換器(12)と室内熱交換器(13)との間に接続されている。膨張弁(14)は、例えば電子膨張弁で構成されている。また、冷媒回路(10)には、四路切換弁(15)が設けられている。四路切換弁(15)は、第1から第4までの4つのポートを備えている。四路切換弁(15)では、第1ポートが室外熱交換器(12)と繋がり、第2ポートが圧縮機(11)の吸入側と繋がり、第3ポートが圧縮機(11)の吐出側と繋がり、第4ポートが室内熱交換器(13)と繋がっている。四路切換弁(15)は、第1ポートと第3ポートとを連通させると同時に第2ポートと第4ポートとを連通させる第1状態(図1の実線の状態)と、第1ポートと第2ポートとを連通させると同時に第3ポートと第4ポートとを連通させる第2状態(図1の破線の状態)とに切換可能となっている。
〈熱交換器の構成〉
図2及び図3に示すように、各熱交換器(12,13)は、複数のフィン(21)と伝熱管(22)とを備えている。複数のフィン(21)は、アルミニウム製であって、長方形板状に形成されている。各フィン(21)は、互いに所定の間隔を介して平行に配列されている。
上記伝熱管(22)は、銅管によって構成されている。伝熱管(22)は、複数の直管部(22a)と、各直管部(22a)を繋ぐ湾曲部(22b)とを有している。各直管部(22a)は、各フィン(21)の配列方向に真っ直ぐ延びており、各フィン(21)を貫通している。湾曲部(22b)は、複数のフィン(21,21,…)のうち、最前列及び最後列のフィン(21)に取り付けられており、2本の直管部(22a)の端部同士を接続するように湾曲している。
図4及び図5に示すように、各熱交換器(12,13)の伝熱管(22)の内周壁には、冷媒中の油を捕捉して流通させるための複数の油溝(25)が形成されている。実施形態1では、伝熱管(22)の内周壁に4つの油溝(25)が形成されている。なお、本実施形態では、各油溝(25)が、直管部(22a)と湾曲部(22b)との双方に形成されているが、直管部(22a)のみに各油溝(25)を形成しても良い。各油溝(25)は、径方向内側に向かって広がる一対の傾斜面(25a,25a)と、両傾斜面(25a,25a)の間に形成される底面(25b)とが構成されている。つまり、各油溝(25)は、伝熱管(22)の径方向内側に向かって開口面積が広がるような台形状の縦断面を有している。
また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に延びて形成されている。つまり、各油溝(25)は、伝熱管(22)を流れる冷媒の流れ方向に沿うように形成されている。また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の周方向において、互いに等間隔となるように配列されている。具体的には、各油溝(25)は、伝熱管(22)の周方向に90度おきに配列されている。なお、伝熱管(22)の縦断面における断面積S1に対する油溝(25)の縦断面の総断面積S2の割合(S2/S1)は、0.01以上0.2以下であることが好ましい。
−運転動作−
次に、実施形態1に係る空気調和装置(1)の運転動作について説明する。空気調和装置(1)の冷媒回路(10)では、上記四路切換弁(15)の設定に応じて、冷媒の循環方向が切り換わる。具体的には、四路切換弁(15)は、冷房運転において図1の実線で示す状態となる。その結果、冷房運転では、室外熱交換器(12)が放熱器となり、室内熱交換器(13)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。一方、四路切換弁(15)は、暖房運転において図1の破線で示す状態となる。その結果、暖房運転では、室外熱交換器(12)が蒸発器となり、室内熱交換器(13)が放熱器となる冷凍サイクルが行われる。以下には、このような空気調和装置(1)の冷房運転を代表に説明する。
図1に示す冷媒回路(10)において、圧縮機(11)で臨界圧力以上まで圧縮された冷媒は、吐出管(11a)より吐出される。なお、圧縮機(11)からは、各摺動部の潤滑に利用された油が、高圧冷媒とともに吐出される。その後、冷媒は室外熱交換器(12)を流れる。室外熱交換器(12)では、高圧冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器(12)で放熱した後の高圧冷媒は、膨張弁(14)を通過する際に減圧されて、低圧冷媒となる。その後、冷媒は室内熱交換器(13)を流れる。室内熱交換器(13)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器(13)で蒸発した冷媒は、吸入管(11b)を流れて圧縮機(11)に吸入され、再び圧縮される。
〈油溝の作用〉
ところで、上述した冷房運転や暖房運転において、室外熱交換器(12)や室内熱交換器(13)内を冷媒が流通する際には、冷媒に溶けきれない油が、冷媒と分離して伝熱管(22)の内周壁を覆うことがある。このため、従来の熱交換器では、伝熱管の内周壁の全域に油膜が形成され、冷媒と空気との伝熱性能が低下してしまうという問題が生じていた。特に、本実施形態のように、冷媒として二酸化炭素を用い、冷凍機油としてPAGを用いる場合、二酸化炭素に対してPAGの相溶性が低いため、冷媒と油とが分離し易く、上述のような油膜が形成され易い。その結果、各熱交換器の伝熱性能が著しく低下し、空気調和装置の冷房能力や暖房能力も低下してしまうという問題があった。そこで、本実施形態の熱交換器(12,13)では、このような油膜の形成に起因する伝熱性能の低下を防止するために、伝熱管(22)の内周壁に油溝(25)を形成し、この油溝(25)内に油を捕捉するようにしている。
具体的には、例えば上述した冷房運転において油を含む冷媒が室内熱交換器(13)を流れると、図6に示すように、伝熱管(22)内では、蒸発したガス冷媒(40)が中心側を流れ、液冷媒(41)がガス冷媒(40)の外側を流れる。更に、比較的粘度が高く、高密度の油(42)は、伝熱管(22)の内周壁に沿うようにしながら液冷媒(41)の外側を流れる。ここで、伝熱管(22)の内周壁には、上述の油溝(25)が形成されている。このため、油(42)は、表面張力によって油溝(25)内に引き込まれ、油溝(25)内に捕捉される。その結果、伝熱管(22)の内周壁には、上述したような油膜がほとんど形成されず、液冷媒(41)と伝熱管(22)の内周壁とが直接接触することになる。従って、室内熱交換器(13)では、室内空気と液冷媒との伝熱が促進され、液冷媒が効率良く蒸発する。一方、各油溝(25)内に捕捉された油は、ガス冷媒(40)や液冷媒と同一方向に、各油溝(25)を流れる。そして、この油は、冷媒と共に室内熱交換器(13)を速やかに流出する。
−実施形態1の効果−
上記実施形態1では、伝熱管(22)の内壁面に、油を捕捉するための油溝(25)を形成するようにしている。このため、従来の熱交換器であれば、伝熱管の内壁面の全域に油膜が形成され、熱交換器の伝熱性能が低下してしまっていたのに対し、上記実施形態1によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油を油溝(25)内に捕捉させることで、上記油膜の形成を抑制でき、この油膜の形成に伴う伝熱性能の低下を防止することができる。また、このようにして油膜の形成を防止すると、油膜の形成に起因して伝熱管(22)の圧力損失が増大してしまうのも防止できる。
また、上記実施形態1では、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に形成しているので、油溝(25)内に捕捉された油が、油溝(25)内を円滑に流れることになる。従って、一旦油溝(25)内に捕捉された油が再び油溝(25)から流出して伝熱管(22)の内壁面を覆ってしまうのを回避できる。また、油溝(25)内に溜まった油を、この油溝(25)を通じて速やかに熱交換器から流出させることができる。このため、熱交換器(12,13)内に油が滞ってしまうのを回避でき、圧縮機(11)における返油量不足を回避できる。
更に、上記実施形態1では、複数の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に90度おきに形成するようにしている。このため、上記実施形態1によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油が油溝(25)内に入りやすくなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、上述した油膜の形成を一層確実に防止することができる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2に係る熱交換器(12,13)は、上記実施形態1と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図7に示すように、実施形態2の伝熱管(22)には、上記実施形態1よりも多数の油溝(25)が形成されている。この油溝(25)は、上記実施形態1と同様、伝熱管(22)の軸方向に延びて形成されている。
また、実施形態2では、油溝(25)の底面(25b)に親油性材料から成る親油層(27)がコーティングされている。なお、親油層(27)を構成する親油性材料としては、水ガラス、アクリル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。一方、この伝熱管(22)における油溝(25)の外側の内壁面には、撥油性材料から成る撥油層(28)が全域に亘ってコーティングされている。なお、撥油層(28)を構成する撥油性材料としては、テフロン系、フッ素系、パラフィン系、シリコン系の材料が挙げられる。
図8に示すように、実施形態2の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)の内壁面付近の油(42)は、撥油層(28)によって弾かれて油溝(25)内に入り込んでいく。更に、油溝(25)の内側には、親油層(27)が形成されているため、この油が油溝(25)内に効率良く捕捉されていく。その結果、実施形態2では、伝熱管(22)の内壁面に油膜がほとんど形成されず、油溝(25)内に捕捉された油は、油溝(25)を介して速やかに熱交換器(12,13)から流出する。
−実施形態2の効果−
上記実施形態2においても、伝熱管(22)内に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)の内壁面に油膜が形成されてしまうのを防止できる。更に、油溝(25)の内側の壁面に親油層(27)を形成する一方、伝熱管(22)の内壁面における油溝(25)以外の部分に撥油層(28)を形成するようにしている。このため、実施形態2によれば、油溝(25)による油の捕捉効果を向上させることができ、上記油膜の形成を一層確実に防止できる。また、上記実施形態2によれば、捕捉した油を確実に油溝(25)内に流通させて、熱交換器から流出させることができる。
−実施形態2の変形例−
上記実施形態2の親油層(27)と撥油層(28)のいずれか一方のみを伝熱管(22)に設けるようにしても良い。また、親油層(27)を油溝(25)の傾斜面(25a)に形成するようにしても良い。また、上述した実施形態1の熱交換器(12,13)について、実施形態2と同様の親油層(27)や撥油層(28)を適用するようにしても良い。
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3に係る熱交換器(12,13)は、上記実施形態1や2と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図9に示すように、実施形態3の伝熱管(22)の内壁面には、V字形状に延びる複数の油溝(25)が形成されている。このV字形状の油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向から斜めに傾いた一対の溝(25c,25c)の先端部が繋がるように形成されている。また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に所定の間隔を介して配列されている。また、各油溝(25)において、一対の溝(25c,25c)が繋がるV字先端部(25d)は、伝熱管(22)における冷媒の流出側を向くように形成されている。つまり、各油溝(25)は、各々のV字先端部(25d)が伝熱管(22)の軸方向の片側を指向している。更に、各油溝(25)の列群は、周方向に隣り合う他の油溝(25)の列群と連続するように繋がっており、伝熱管(22)内には、いわゆる複数のW溝が形成されることになる。
図10に示すように、実施形態3の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)の内壁面付近の油(42)が、各溝(25c,25c)に入り込み、V字先端部(25d)側へ流れる。このように、各油溝(25)では、捕捉された油がV字先端部(25d)へそれぞれ流れるので、伝熱管(22)内には、各油溝(25)のV字先端部(25d)を結ぶような油の流路が形成される。以上のようにして捕捉された油は、この各油溝(25)及び、各油溝(25)を結ぶ油の流路を介して、熱交換器(12,13)から流出する。
−実施形態3の効果−
上記実施形態3においても、伝熱管(22)内に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)の内壁面に油膜が形成されてしまうのを防止できる。更に、実施形態3では、V字形状の油溝(25)を複数設けることで、捕捉された油の流路を確実に形成することができ、この油を熱交換器(12,13)から速やかに排出することができる。従って、実施形態3によれば、圧縮機(11)の返油量不足を確実に回避することができる。
《発明の実施形態4》
本発明の実施形態4に係る熱交換器(12,13)は、上記各実施形態と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図11〜図14に示すように、実施形態4の伝熱管(22)の内壁面には、伝熱を促進させるための複数の伝熱促進溝(50)が形成されている。各伝熱促進溝(50)は、伝熱管(22)の周方向に旋回する螺旋状に形成されており、互いに平行となっている。伝熱促進溝(50)の縦断面の形状は、開放部側に向かって開口面積が拡がるような略台形状ないし略三角形状をしている。
実施形態4の伝熱管(22)の内壁面には、上記各実施形態と同様にして4本の油溝(25)が形成されている。各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に延びており、伝熱管(22)の周方向に90度おきに配列されている。なお、油溝(25)は、必ずしも一直線に伸びていなくても良く、その捩れ角が0度〜5度の範囲であれば良い。また、油溝(25)の縦断面の形状は、開放部側に向かって開口面積が拡がるような略台形状をしている。
各油溝(25)は、複数の伝熱促進溝(50)を横断するようにしてこれらの伝熱促進溝(50)と交わっている。即ち、図13(伝熱管の内壁面を拡大した斜視図)に示すように、螺旋状の伝熱促進溝(50)は、その長手方向の両端がそれぞれ各油溝(25)と繋がっている。
また、図14に示すように、各油溝(25)の開口幅W1は、各伝熱促進溝(50)の開口幅W2よりも広くなっている。また、各油溝(25)の溝深さD1は、各伝熱促進溝(50)の溝深さD2と同じ深さとなっている。なお、この溝深さD1を溝深さD2より大きくしても良く、溝深さD1が溝深さD2以上であれば良い。また、油溝(25)の開口幅W1は、0.2mm〜1.0mmの範囲が好適である。
実施形態4の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)内の油(42)が、油溝(25)に入り込む。また、実施形態4では、各伝熱促進溝(50)内にも油(42)が入り込むことがあるが、この油(42)は各伝熱促進溝(50)を通じて油溝(25)へ排出される(図13参照)。従って、各伝熱促進溝(50)内における油膜の形成が防止される。以上のようにして、油溝(25)に捕捉された油(42)は、該油溝(25)を通じて熱交換器(12,13)から流出する。
−実施形態4の効果−
実施形態4によれば、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)を形成したので、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大され、伝熱管(22)の伝熱性能を更に向上させることができる。また、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に延ばして螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるようにしたので、伝熱促進溝(50)に溜まった油を油溝(25)へ排出することができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを回避できるので、伝熱管(22)の伝熱性能の低下を防止できる。
また、上記実施形態4では、4本の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に等間隔で形成するようにしている。これにより、伝熱管(22)の内壁面の油が油溝(25)内に入り易くなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、伝熱管(22)の内壁面における油膜の形成を一層確実に防止することができる。また、各伝熱促進溝(50)内に溜まった油を速やかに各油溝(25)へ排出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことも確実に防止できる。
更に、上記実施形態4では、油溝(25)の開口幅W1を伝熱促進溝(50)の開口幅W2よりも広くしたので、伝熱管(22)内の油を積極的に油溝(25)へ流入させることができる。更に、油溝(25)の溝深さD1を伝熱促進溝(50)の溝深さD2以上としたので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を確実に油溝(25)内へ流下させることができる。従って、伝熱促進溝(50)による伝熱促進効果を充分発揮させることができ、伝熱管(22)の伝熱性能の更なる向上を図ることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
伝熱管(22)の内周壁に形成される油溝(25)の形状は、上記各実施形態で述べたもの以外であっても良い。つまり、油溝(25)を螺旋状としたり、蛇行させたりしても良いし、その縦断面を三角形や楕円形や半円形としても良い。
上記油溝(25)の本数は4本に限られるものではなく、例えば1本であっても良いし、それより多い本数であっても良い。
更に、上記各実施形態では、冷媒として二酸化炭素を用い、冷凍機油としてPAGを用いる冷凍装置について、本発明に係る熱交換器(12,13)を適用しているが、これ以外の種類の冷媒や冷凍機油を用いる冷凍装置について、この熱交換器(12,13)を適用しても良い。具体的には、冷媒としては、R134a、R410a、R407c、R32等が挙げられる一方、冷凍機油としては、ポリ−α−オレフィン、P06、フッ素系の油等が挙げられる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
以上説明したように、本発明は、冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器について有用である。
1 空気調和装置(冷凍装置)
10 冷媒回路
12 室内熱交換器(熱交換器)
13 室外熱交換器(熱交換器)
22 伝熱管
25 油溝
27 親油層(親油性材料)
28 撥油層(撥油性材料)
50 伝熱促進溝
本発明は、冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器の伝熱促進対策に係るものである。
従来より、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置が知られており、空気調和装置や給湯器等に広く適用されている。
例えば特許文献1に開示されている空気調和装置は、圧縮機、室外熱交換器、膨張機、及び室内熱交換器が接続された冷媒回路を有している。この冷媒回路には、冷媒として二酸化炭素が充填されている。
この空気調和装置の冷房運転では、圧縮機で臨界圧力以上まで圧縮された冷媒が、室外熱交換器を流れる。室外熱交換器では、冷媒と室外空気とが熱交換し、冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器で放熱した冷媒は、膨張機で減圧された後、室内熱交換器を流れる。室内熱交換器では、冷媒と室内空気とが熱交換し、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器で蒸発した冷媒は、圧縮機に吸入されて再び圧縮される。
ところで、上述のような冷凍装置では、圧縮機の各摺動部を潤滑するために潤滑油(冷凍機油)が用いられており、この油は冷媒回路を流れる冷媒中に含まれることになる。このため、冷媒が蒸発器や放熱器等の熱交換器を流れる際には、冷媒に溶けきれなかった油が伝熱管の内壁に付着し、この伝熱管の内壁の全周に亘って油膜が形成されることがある。その結果、この油膜によって冷媒と空気との伝熱が阻害されて、熱交換器の伝熱性能が低下してしまうという問題があった。
特に、特許文献1に開示されていような、二酸化炭素を冷媒として冷凍サイクルを行う冷凍装置では、冷凍機油として、PAG(ポリアルキレングリコール)を用いるのが一般的である。ところが、この種の油は、二酸化炭素に対する相溶性が低いため、熱交換器の伝熱管内には、上述したような油膜が形成され易い。従って、二酸化炭素を冷媒とする冷凍装置に適用される熱交換器では、油膜の形成に起因する伝熱性能の低下が顕著となっていた。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器において、その伝熱管の内壁面に油膜が形成されることに起因して、熱交換器の伝熱性能が低下しまうのを防止することである。
第1の発明は、冷媒としての二酸化炭素を臨界圧力以上まで圧縮する冷凍サイクルが行われるとともに、冷凍機油が含まれる冷媒回路(10)に接続され、冷媒が流れる伝熱管(22)を有する熱交換器を前提としている。そして、上記伝熱管(22)の内壁面には、V字の先端部(25d)が冷媒の流出側を指向するように軸方向に配列されるV字形の溝(25)の列群が形成され、該V字形の溝(25)の列群は、軸方向に隣り合う各V字先端部(25d)を結ぶような油の流路を形成することを特徴とするものである。
第1の発明では、冷凍装置の冷媒回路に接続される熱交換器について、この熱交換器の伝熱管(22)の内壁面に油溝(25)が形成される。このように伝熱管(22)に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)内を流れる冷媒中に含まれる油が油溝(25)内に捕捉され、この油溝(25)内を流通することになる。
具体的には、冷媒が伝熱管(22)内を流れる際には、粘性や比重の違いに起因して、冷媒が伝熱管(22)内の中心寄りを流れる一方、冷媒に溶けきれなかった油は、伝熱管(22)内の外側寄りを流れる。つまり、油は、伝熱管(22)の内壁を沿うように流れるので、伝熱管(22)の内壁面には、その全域に亘って油膜が形成されていく。ここで、本発明では、伝熱管(22)の内壁面に油溝(25)を形成している。このため、伝熱管(22)の内壁を覆っていた油は、表面張力によって油溝(25)内に引き込まれていき、この油溝(25)内を流れることになる。その結果、本発明では、伝熱管(22)の内壁に油膜が形成されてしまうことが回避される。
第1の発明では、伝熱管(22)の内壁面に、複数のV字形状の油溝(25)が形成される。各油溝(25)は、全ての油溝(25)が軸方向の片側を向くように、伝熱管(22)の軸方向に配列される。このように油溝(25)を形成した熱交換器について、油溝(25)のV字先端の指向方向と同一方向に冷媒を流通させるようにすると、油溝(25)に捕捉された冷媒は、V字先端側に集まった後、油溝(25)から流出して冷媒と同一方向に流れる。各油溝(25)について油がこのような流れとなると、最終的には、油が各油溝(25)のV字先端を結ぶようにして、伝熱管(22)の内壁面を流れる。つまり、本発明の伝熱管(22)内では、各油溝(25)のV字先端を結ぶような油の流路が形成されることにより、この油が伝熱管(22)内を円滑に流れることになる。
第2の発明は、冷媒としての二酸化炭素を臨界圧力以上まで圧縮する冷凍サイクルが行われるとともに、冷凍機油が含まれる冷媒回路(10)に接続され、冷媒が流れる伝熱管(22)を有する熱交換器を前提としている。そして、この熱交換器の伝熱管(22)には、その内壁面に、冷媒中の油を捕捉して流通させるための油溝(25)が形成され、上記伝熱管(22)の内壁面には、該伝熱管(22)の周方向に旋回する螺旋状に形成されて、伝熱を促進させるための複数の伝熱促進溝(50)が設けられていることを特徴とするものである。
第2の発明では、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)が形成される。このように伝熱促進溝(50)を形成すると、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大されるので、熱交換器の伝熱性能が向上する。
第3の発明は、第2の発明の熱交換器において、上記油溝(25)は、上記伝熱促進溝(50)と交わるようにしながら上記伝熱管(22)の軸方向に延びていることを特徴とするものである。
第3の発明では、伝熱管(22)の内壁面において、油溝(25)が螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるように軸方向に延びて形成される。つまり、油溝(25)は、複数の伝熱促進溝(50)と繋がるように形成される。このため、各伝熱促進溝(50)に油が溜まっても、この油を伝熱促進溝(50)を通じて油溝(25)内に流入させることができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことが回避される。
第4の発明は、第3の発明の熱交換器において、上記伝熱管(22)の内壁面には、複数の上記油溝(25)が周方向に等間隔で配列されていることを特徴とするものである。
第4の発明では、伝熱管(22)の軸方向に延びる複数の油溝(25)が、伝熱管(22)の内周面の周方向に等間隔おきで配列される。このため、伝熱管(22)の内周面全域に形成されていく油膜が、各油溝(25)に捕捉され易くなる。また、各油溝(25)に捕捉される油の量が均一化され、各油溝(25)による油の捕捉効果が向上する。更に、各伝熱促進溝(50)に溜まった油を速やかに油溝(25)へ流出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを一層回避し易くなる。
第5の発明は、第2乃至第4のいずれか1つの発明の熱交換器において、上記油溝(25)の開口幅が、上記伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くなっていることを特徴とするものである。
第5の発明では、油溝(25)の開口幅を伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くしている。このため、伝熱促進溝(50)内に油が入り込み難くなる一方、油溝(25)内に油が入り込みやすくなり、油溝(25)による油の捕捉効果が向上する。
第6の発明は、第2乃至第5のいずれか1つの発明において、上記油溝(25)の溝深さが、上記伝熱促進溝(50)の溝深さ以上となっていることを特徴とするものである。
第6の発明では、油溝(25)の溝深さを伝熱促進溝(50)の溝深さ以上としているので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を油溝(25)内へ流下させ易くなる。
第7の発明は、第1乃至第6のいずれか1つの発明において、上記冷媒回路(10)に含まれる冷凍機油は、ポリアルキレングリコールであることを特徴とするものである。
第7の発明の冷凍装置では、冷媒として二酸化炭素が用いられる一方、圧縮機構等の潤滑を行うための冷凍機油としてポリアルキレングリコール(PAG)が用いられる。このPAGは、二酸化炭素に対する相溶性が低い。従って、熱交換器(12,13)内では、冷媒と油とが分離し易く、伝熱管(22)の内壁に全域に亘って油膜が形成され易い。しかしながら、本発明では、伝熱管(22)の内周壁に、油を捕捉して流通させるための油溝(25)を形成している。従って、この冷凍装置では、このような油膜の発生を未然に回避でき、熱交換器(12,13)の伝熱性能の低下を防止できる。
本発明では、伝熱管(22)の内壁面に、油を捕捉するための油溝(25)を形成するようにしている。このため、従来の熱交換器であれば、伝熱管の内壁面の全域に油膜が形成されて伝熱性能が低下してしまっていたのに対し、本発明によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油を油溝(25)内に捕捉させることで、上記油膜の形成を抑制することができる。その結果、この伝熱管(22)では、その内壁面と冷媒とが接触する面積を広くとることができるので、冷媒と熱媒体との間の伝熱を促進させることができる。また、このようにして油膜の形成を防止すると、油膜の形成に起因して伝熱管(22)の圧力損失が増大してしまうのを防止できる。
更に、本発明では、油溝(25)内に捕捉した油が、油溝(25)を流通して速やかに熱交換器から流出する。このため、本発明によれば、熱交換器内に油が滞ってしまうことを防止でき、圧縮機構等への返油量を充分確保できる。
また、第1の発明によれば、V字形状の油溝(25)を複数設けることで、伝熱管(22)内に油の流路を確実に形成することができ、この油を熱交換器から速やかに排出することができる。従って、本発明によれば、圧縮機構等への返油量を充分確保することができる。
第2の発明によれば、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)を形成したので、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大され、伝熱管(22)の伝熱性能を更に向上させることができる。
第3の発明によれば、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に延ばして螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるようにしたので、伝熱促進溝(50)に溜まった油を油溝(25)へ排出することができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを回避できるので、伝熱管(22)の伝熱性能の低下を防止できる。
第4の発明によれば、複数の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に等間隔で形成するようにしている。このため、本発明によれば、伝熱管(22)の内壁面の油が油溝(25)内に入り易くなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、伝熱管(22)の内壁面における油膜の形成を一層確実に防止することができる。また、各伝熱促進溝(50)内に溜まった油を速やかに各油溝(25)へ排出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことも確実に防止できる。
第5の発明によれば、油溝(25)の開口幅を伝熱促進溝(50)の開口幅よりも広くしたので、伝熱管(22)内の油を積極的に油溝(25)へ流入させることができる。また、第6の発明によれば、油溝(25)の溝深さを伝熱促進溝(50)の溝深さ以上としたので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を確実に油溝(25)内へ流下させることができる。従って、これらの発明によれば、伝熱促進溝(50)による伝熱促進効果を充分発揮させることができ、伝熱管(22)の伝熱性能の更なる向上を図ることができる。
第7の発明によれば、二酸化炭素を冷媒とする冷凍装置において、二酸化炭素に対する相溶性が低いPAGを油溝(25)内に捕捉することができる。つまり、本発明によれば、従来のものであれば、伝熱管の内壁面に油膜が形成され易い冷凍装置について、このような油膜の形成を確実に防止することができ、熱交換器(12,13)の伝熱性能を充分確保することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の参考形態1》
本発明の参考形態1に係る熱交換器は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置(1)に適用されるものである。参考形態1の冷凍装置は、室内の冷房と暖房とを切り換えて行う空気調和装置(1)を構成している。
〈冷媒回路の概略構成〉
図1に示すように、空気調和装置(1)は、冷媒が充填される冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)には、冷媒として二酸化炭素が充填されている。また、この空気調和装置(1)では、圧縮機(11)の各摺動部を潤滑するための潤滑油(冷凍機油)として、有極性の油であるポリアルキレングリコール(PAG)が用いられている。そして、このPAGは、圧縮機(11)から吐出された冷媒と共に冷媒回路(10)へ流出することになる。従って、冷媒回路(10)では、冷媒としての二酸化炭素と、冷凍機油としてのPAGが循環する。また、冷媒回路では、二酸化炭素を臨界圧力以上まで圧縮する冷凍サイクル(いわゆる超臨界サイクル)が行われる。
冷媒回路(10)には、圧縮機(11)と室外熱交換器(12)と室内熱交換器(13)と膨張弁(14)とが設けられている。
上記圧縮機(11)は、例えばスクロール型の圧縮機で構成されている。圧縮機(11)には、圧縮機構の吐出冷媒が流出する吐出管(11a)と、圧縮機構の吸入冷媒が流入する吸入管(11b)とが接続されている。上記室外熱交換器(12)は、室外空間に配置されている。室外熱交換器(12)では、その内部を流れる冷媒と室外空気とが熱交換する。上記室内熱交換器(13)は、室内空間に配置されている。室内熱交換器(13)では、その内部を流れる冷媒と室内空気とが熱交換する。室外熱交換器(12)及び室内熱交換器(13)は、本発明に係る熱交換器であって、クロスフィン式の熱交換器を構成している。
上記膨張弁(14)は、室外熱交換器(12)と室内熱交換器(13)との間に接続されている。膨張弁(14)は、例えば電子膨張弁で構成されている。また、冷媒回路(10)には、四路切換弁(15)が設けられている。四路切換弁(15)は、第1から第4までの4つのポートを備えている。四路切換弁(15)では、第1ポートが室外熱交換器(12)と繋がり、第2ポートが圧縮機(11)の吸入側と繋がり、第3ポートが圧縮機(11)の吐出側と繋がり、第4ポートが室内熱交換器(13)と繋がっている。四路切換弁(15)は、第1ポートと第3ポートとを連通させると同時に第2ポートと第4ポートとを連通させる第1状態(図1の実線の状態)と、第1ポートと第2ポートとを連通させると同時に第3ポートと第4ポートとを連通させる第2状態(図1の破線の状態)とに切換可能となっている。
〈熱交換器の構成〉
図2及び図3に示すように、各熱交換器(12,13)は、複数のフィン(21)と伝熱管(22)とを備えている。複数のフィン(21)は、アルミニウム製であって、長方形板状に形成されている。各フィン(21)は、互いに所定の間隔を介して平行に配列されている。
上記伝熱管(22)は、銅管によって構成されている。伝熱管(22)は、複数の直管部(22a)と、各直管部(22a)を繋ぐ湾曲部(22b)とを有している。各直管部(22a)は、各フィン(21)の配列方向に真っ直ぐ延びており、各フィン(21)を貫通している。湾曲部(22b)は、複数のフィン(21,21,…)のうち、最前列及び最後列のフィン(21)に取り付けられており、2本の直管部(22a)の端部同士を接続するように湾曲している。
図4及び図5に示すように、各熱交換器(12,13)の伝熱管(22)の内周壁には、冷媒中の油を捕捉して流通させるための複数の油溝(25)が形成されている。参考形態1では、伝熱管(22)の内周壁に4つの油溝(25)が形成されている。なお、本参考形態では、各油溝(25)が、直管部(22a)と湾曲部(22b)との双方に形成されているが、直管部(22a)のみに各油溝(25)を形成しても良い。各油溝(25)は、径方向内側に向かって広がる一対の傾斜面(25a,25a)と、両傾斜面(25a,25a)の間に形成される底面(25b)とが構成されている。つまり、各油溝(25)は、伝熱管(22)の径方向内側に向かって開口面積が広がるような台形状の縦断面を有している。
また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に延びて形成されている。つまり、各油溝(25)は、伝熱管(22)を流れる冷媒の流れ方向に沿うように形成されている。また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の周方向において、互いに等間隔となるように配列されている。具体的には、各油溝(25)は、伝熱管(22)の周方向に90度おきに配列されている。なお、伝熱管(22)の縦断面における断面積S1に対する油溝(25)の縦断面の総断面積S2の割合(S2/S1)は、0.01以上0.2以下であることが好ましい。
−運転動作−
次に、参考形態1に係る空気調和装置(1)の運転動作について説明する。空気調和装置(1)の冷媒回路(10)では、上記四路切換弁(15)の設定に応じて、冷媒の循環方向が切り換わる。具体的には、四路切換弁(15)は、冷房運転において図1の実線で示す状態となる。その結果、冷房運転では、室外熱交換器(12)が放熱器となり、室内熱交換器(13)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。一方、四路切換弁(15)は、暖房運転において図1の破線で示す状態となる。その結果、暖房運転では、室外熱交換器(12)が蒸発器となり、室内熱交換器(13)が放熱器となる冷凍サイクルが行われる。以下には、このような空気調和装置(1)の冷房運転を代表に説明する。
図1に示す冷媒回路(10)において、圧縮機(11)で臨界圧力以上まで圧縮された冷媒は、吐出管(11a)より吐出される。なお、圧縮機(11)からは、各摺動部の潤滑に利用された油が、高圧冷媒とともに吐出される。その後、冷媒は室外熱交換器(12)を流れる。室外熱交換器(12)では、高圧冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器(12)で放熱した後の高圧冷媒は、膨張弁(14)を通過する際に減圧されて、低圧冷媒となる。その後、冷媒は室内熱交換器(13)を流れる。室内熱交換器(13)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器(13)で蒸発した冷媒は、吸入管(11b)を流れて圧縮機(11)に吸入され、再び圧縮される。
〈油溝の作用〉
ところで、上述した冷房運転や暖房運転において、室外熱交換器(12)や室内熱交換器(13)内を冷媒が流通する際には、冷媒に溶けきれない油が、冷媒と分離して伝熱管(22)の内周壁を覆うことがある。このため、従来の熱交換器では、伝熱管の内周壁の全域に油膜が形成され、冷媒と空気との伝熱性能が低下してしまうという問題が生じていた。特に、本参考形態のように、冷媒として二酸化炭素を用い、冷凍機油としてPAGを用いる場合、二酸化炭素に対してPAGの相溶性が低いため、冷媒と油とが分離し易く、上述のような油膜が形成され易い。その結果、各熱交換器の伝熱性能が著しく低下し、空気調和装置の冷房能力や暖房能力も低下してしまうという問題があった。そこで、本参考形態の熱交換器(12,13)では、このような油膜の形成に起因する伝熱性能の低下を防止するために、伝熱管(22)の内周壁に油溝(25)を形成し、この油溝(25)内に油を捕捉するようにしている。
具体的には、例えば上述した冷房運転において油を含む冷媒が室内熱交換器(13)を流れると、図6に示すように、伝熱管(22)内では、蒸発したガス冷媒(40)が中心側を流れ、液冷媒(41)がガス冷媒(40)の外側を流れる。更に、比較的粘度が高く、高密度の油(42)は、伝熱管(22)の内周壁に沿うようにしながら液冷媒(41)の外側を流れる。ここで、伝熱管(22)の内周壁には、上述の油溝(25)が形成されている。このため、油(42)は、表面張力によって油溝(25)内に引き込まれ、油溝(25)内に捕捉される。その結果、伝熱管(22)の内周壁には、上述したような油膜がほとんど形成されず、液冷媒(41)と伝熱管(22)の内周壁とが直接接触することになる。従って、室内熱交換器(13)では、室内空気と液冷媒との伝熱が促進され、液冷媒が効率良く蒸発する。一方、各油溝(25)内に捕捉された油は、ガス冷媒(40)や液冷媒と同一方向に、各油溝(25)を流れる。そして、この油は、冷媒と共に室内熱交換器(13)を速やかに流出する。
−参考形態1の効果−
上記参考形態1では、伝熱管(22)の内壁面に、油を捕捉するための油溝(25)を形成するようにしている。このため、従来の熱交換器であれば、伝熱管の内壁面の全域に油膜が形成され、熱交換器の伝熱性能が低下してしまっていたのに対し、上記参考形態1によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油を油溝(25)内に捕捉させることで、上記油膜の形成を抑制でき、この油膜の形成に伴う伝熱性能の低下を防止することができる。また、このようにして油膜の形成を防止すると、油膜の形成に起因して伝熱管(22)の圧力損失が増大してしまうのも防止できる。
また、上記参考形態1では、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に形成しているので、油溝(25)内に捕捉された油が、油溝(25)内を円滑に流れることになる。従って、一旦油溝(25)内に捕捉された油が再び油溝(25)から流出して伝熱管(22)の内壁面を覆ってしまうのを回避できる。また、油溝(25)内に溜まった油を、この油溝(25)を通じて速やかに熱交換器から流出させることができる。このため、熱交換器(12,13)内に油が滞ってしまうのを回避でき、圧縮機(11)における返油量不足を回避できる。
更に、上記参考形態1では、複数の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に90度おきに形成するようにしている。このため、上記参考形態1によれば、伝熱管(22)の内壁面側の油が油溝(25)内に入りやすくなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、上述した油膜の形成を一層確実に防止することができる。
《発明の参考形態2》
本発明の参考形態2に係る熱交換器(12,13)は、上記参考形態1と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図7に示すように、参考形態2の伝熱管(22)には、上記参考形態1よりも多数の油溝(25)が形成されている。この油溝(25)は、上記参考形態1と同様、伝熱管(22)の軸方向に延びて形成されている。
また、参考形態2では、油溝(25)の底面(25b)に親油性材料から成る親油層(27)がコーティングされている。なお、親油層(27)を構成する親油性材料としては、水ガラス、アクリル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。一方、この伝熱管(22)における油溝(25)の外側の内壁面には、撥油性材料から成る撥油層(28)が全域に亘ってコーティングされている。なお、撥油層(28)を構成する撥油性材料としては、テフロン(登録商標)系、フッ素系、パラフィン系、シリコン系の材料が挙げられる。
図8に示すように、参考形態2の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)の内壁面付近の油(42)は、撥油層(28)によって弾かれて油溝(25)内に入り込んでいく。更に、油溝(25)の内側には、親油層(27)が形成されているため、この油が油溝(25)内に効率良く捕捉されていく。その結果、参考形態2では、伝熱管(22)の内壁面に油膜がほとんど形成されず、油溝(25)内に捕捉された油は、油溝(25)を介して速やかに熱交換器(12,13)から流出する。
−参考形態2の効果−
上記参考形態2においても、伝熱管(22)内に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)の内壁面に油膜が形成されてしまうのを防止できる。更に、油溝(25)の内側の壁面に親油層(27)を形成する一方、伝熱管(22)の内壁面における油溝(25)以外の部分に撥油層(28)を形成するようにしている。このため、参考形態2によれば、油溝(25)による油の捕捉効果を向上させることができ、上記油膜の形成を一層確実に防止できる。また、上記参考形態2によれば、捕捉した油を確実に油溝(25)内に流通させて、熱交換器から流出させることができる。
−参考形態2の変形例−
上記参考形態2の親油層(27)と撥油層(28)のいずれか一方のみを伝熱管(22)に設けるようにしても良い。また、親油層(27)を油溝(25)の傾斜面(25a)に形成するようにしても良い。また、上述した参考形態1の熱交換器(12,13)について、参考形態2と同様の親油層(27)や撥油層(28)を適用するようにしても良い。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1に係る熱交換器(12,13)は、上記参考形態1や2と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図9に示すように、実施形態1の伝熱管(22)の内壁面には、V字形状に延びる複数の油溝(25)が形成されている。このV字形状の油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向から斜めに傾いた一対の溝(25c,25c)の先端部が繋がるように形成されている。また、各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に所定の間隔を介して配列されている。また、各油溝(25)において、一対の溝(25c,25c)が繋がるV字先端部(25d)は、伝熱管(22)における冷媒の流出側を向くように形成されている。つまり、各油溝(25)は、各々のV字先端部(25d)が伝熱管(22)の軸方向の片側を指向している。更に、各油溝(25)の列群は、周方向に隣り合う他の油溝(25)の列群と連続するように繋がっており、伝熱管(22)内には、いわゆる複数のW溝が形成されることになる。
図10に示すように、実施形態1の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)の内壁面付近の油(42)が、各溝(25c,25c)に入り込み、V字先端部(25d)側へ流れる。このように、各油溝(25)では、捕捉された油がV字先端部(25d)へそれぞれ流れるので、伝熱管(22)内には、各油溝(25)のV字先端部(25d)を結ぶような油の流路が形成される。以上のようにして捕捉された油は、この各油溝(25)及び、各油溝(25)を結ぶ油の流路を介して、熱交換器(12,13)から流出する。
−実施形態1の効果−
上記実施形態1においても、伝熱管(22)内に油溝(25)を形成することで、伝熱管(22)の内壁面に油膜が形成されてしまうのを防止できる。更に、実施形態1では、V字形状の油溝(25)を複数設けることで、捕捉された油の流路を確実に形成することができ、この油を熱交換器(12,13)から速やかに排出することができる。従って、実施形態1によれば、圧縮機(11)の返油量不足を確実に回避することができる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2に係る熱交換器(12,13)は、上記各実施形態と伝熱管(22)の構成が異なるものである。具体的には、図11〜図14に示すように、実施形態2の伝熱管(22)の内壁面には、伝熱を促進させるための複数の伝熱促進溝(50)が形成されている。各伝熱促進溝(50)は、伝熱管(22)の周方向に旋回する螺旋状に形成されており、互いに平行となっている。伝熱促進溝(50)の縦断面の形状は、開放部側に向かって開口面積が拡がるような略台形状ないし略三角形状をしている。
実施形態2の伝熱管(22)の内壁面には、上記参考形態と同様にして4本の油溝(25)が形成されている。各油溝(25)は、伝熱管(22)の軸方向に延びており、伝熱管(22)の周方向に90度おきに配列されている。なお、油溝(25)は、必ずしも一直線に伸びていなくても良く、その捩れ角が0度〜5度の範囲であれば良い。また、油溝(25)の縦断面の形状は、開放部側に向かって開口面積が拡がるような略台形状をしている。
各油溝(25)は、複数の伝熱促進溝(50)を横断するようにしてこれらの伝熱促進溝(50)と交わっている。即ち、図13(伝熱管の内壁面を拡大した斜視図)に示すように、螺旋状の伝熱促進溝(50)は、その長手方向の両端がそれぞれ各油溝(25)と繋がっている。
また、図14に示すように、各油溝(25)の開口幅W1は、各伝熱促進溝(50)の開口幅W2よりも広くなっている。また、各油溝(25)の溝深さD1は、各伝熱促進溝(50)の溝深さD2と同じ深さとなっている。なお、この溝深さD1を溝深さD2より大きくしても良く、溝深さD1が溝深さD2以上であれば良い。また、油溝(25)の開口幅W1は、0.2mm〜1.0mmの範囲が好適である。
実施形態2の熱交換器(12,13)において、伝熱管(22)内を冷媒が流れる際には、伝熱管(22)内の油(42)が、油溝(25)に入り込む。また、実施形態2では、各伝熱促進溝(50)内にも油(42)が入り込むことがあるが、この油(42)は各伝熱促進溝(50)を通じて油溝(25)へ排出される(図13参照)。従って、各伝熱促進溝(50)内における油膜の形成が防止される。以上のようにして、油溝(25)に捕捉された油(42)は、該油溝(25)を通じて熱交換器(12,13)から流出する。
−実施形態2の効果−
実施形態2によれば、伝熱管(22)の内壁面に螺旋状の伝熱促進溝(50)を形成したので、伝熱管(22)の内壁面の表面積が拡大され、伝熱管(22)の伝熱性能を更に向上させることができる。また、油溝(25)を伝熱管(22)の軸方向に延ばして螺旋状の伝熱促進溝(50)と交わるようにしたので、伝熱促進溝(50)に溜まった油を油溝(25)へ排出することができる。従って、伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことを回避できるので、伝熱管(22)の伝熱性能の低下を防止できる。
また、上記実施形態2では、4本の油溝(25)を伝熱管(22)の周方向に等間隔で形成するようにしている。これにより、伝熱管(22)の内壁面の油が油溝(25)内に入り易くなると共に、各油溝(25)内に捕捉される油の量を均一化できる。従って、伝熱管(22)の内壁面における油膜の形成を一層確実に防止することができる。また、各伝熱促進溝(50)内に溜まった油を速やかに各油溝(25)へ排出させることができるので、各伝熱促進溝(50)内に油膜が形成されてしまうことも確実に防止できる。
更に、上記実施形態2では、油溝(25)の開口幅W1を伝熱促進溝(50)の開口幅W2よりも広くしたので、伝熱管(22)内の油を積極的に油溝(25)へ流入させることができる。更に、油溝(25)の溝深さD1を伝熱促進溝(50)の溝深さD2以上としたので、伝熱促進溝(50)内に溜まった油を確実に油溝(25)内へ流下させることができる。従って、伝熱促進溝(50)による伝熱促進効果を充分発揮させることができ、伝熱管(22)の伝熱性能の更なる向上を図ることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
伝熱管(22)の内周壁に形成される油溝(25)の形状は、上記各実施形態で述べたもの以外であっても良い。つまり、油溝(25)を螺旋状としたり、蛇行させたりしても良いし、その縦断面を三角形や楕円形や半円形としても良い。
上記油溝(25)の本数は4本に限られるものではなく、例えば1本であっても良いし、それより多い本数であっても良い。
更に、上記各実施形態では、冷媒として二酸化炭素を用い、冷凍機油としてPAGを用いる冷凍装置について、本発明に係る熱交換器(12,13)を適用しているが、これ以外の種類の冷媒や冷凍機油を用いる冷凍装置について、この熱交換器(12,13)を適用しても良い。具体的には、冷媒としては、R134a、R410a、R407c、R32等が挙げられる一方、冷凍機油としては、ポリ−α−オレフィン、P06、フッ素系の油等が挙げられる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
以上説明したように、本発明は、冷凍サイクルを行う冷凍装置に適用される熱交換器について有用である。
図1は、参考形態1に係る冷凍装置の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図である。
図2は、参考形態1に係る熱交換器の概略構成を示す斜視図である。
図3は、参考形態1に係る熱交換器の概略構成を示す立面図である。
図4は、参考形態1に係る熱交換器の伝熱管の内部を示す斜視図である。
図5は、参考形態1に係る熱交換器の伝熱管の縦断面図である。
図6は、参考形態1に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図7は、参考形態2に係る熱交換器の伝熱管の一部の縦断面図である。
図8は、参考形態2に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図9は、実施形態1に係る熱交換器の伝熱管の内部を示す斜視図である。
図10は、実施形態1に係る熱交換器の伝熱管における油捕捉作用の説明図である。
図11は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管を破断して内部を表した斜視図である。
図12は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管の縦断面図である。
図13は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管の内壁面を拡大した斜視図である。
図14は、実施形態2に係る熱交換器の伝熱管の内壁面を拡大して、油溝及び伝熱促進溝の寸法の関係を表した説明図である。
1 空気調和装置(冷凍装置)
10 冷媒回路
12 室内熱交換器(熱交換器)
13 室外熱交換器(熱交換器)
22 伝熱管
25 油溝
50 伝熱促進溝