<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、互いに平行な一対のセル基板の間に液晶が封入され、該液晶が上記セル基板に平行に、かつほぼ同じ向きに配向している液晶セルと、
該液晶セルの視認側に配置された前面側偏光フィルムと、
その反対側に配置された背面側偏光フィルムと、
透明支持体、および、該透明支持体上に形成され該透明支持体と反対側に微細な凹凸を有する微細凹凸表面を備えた防眩層を含む防眩フィルムとを備え、
上記前面側偏光フィルムの上記液晶セルに向かい合う面と反対側に、防眩層が最も視認側となるように、配置されている。
本発明の液晶表示装置の具体例を図21、22に示す。本発明の液晶表示装置は、液晶セル110の視認側に前面側偏光フィルム120が配置され、その反対側には背面側偏光フィルム121が配置されている。
液晶セル110は、互いに平行な一対のセル基板111,112の間に液晶が封入され、液晶層113を形成している。液晶層113においては、電圧無印加状態で液晶分子114がセル基板111,112にほぼ平行に、かつほぼ同じ向きに配向している。そして、液晶セルに印加される電圧の変化によって液晶分子114の長軸の向きがセル基板に平行な面内で変化し、表示を行うようになっている。すなわち、本発明の液晶表示装置は、いわゆるインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置である。IPSモードの液晶表示装置は、液晶分子が基板面に平行に、かつ同一方向に配向しているため、他のモードと比べて視野角特性に優れている。
前面側偏光フィルム120について、図21には、偏光フィルム120の視認側表面に、透明支持体101および防眩層100からなる防眩フィルム1が設けられ、さらに、液晶セル側表面に透明保護フィルム103が設けられた例を示している。また、図22には、偏光フィルム120の視認側表面に、透明支持体101および防眩層100からなる防眩フィルム1が設けられ、液晶セル側表面には透明保護フィルムを設けず、偏光フィルム120が直接、液晶セル110のセル基板111に貼り合わされた例を示している。図21と図22とでは、この透明保護フィルム103の有無だけが異なっている。
ここで、図21のように偏光フィルム120とセル基板111との間に透明保護フィルム103が存在する場合、該透明保護フィルムの厚み方向位相差値Rthが−10nmから+40nmの範囲にあることが好ましい。また、偏光フィルム120とセル基板111との間に、さらに他の層が存在する場合でも、偏光フィルム120の液晶セル110側表面から液晶セルの前面側表面までの間の厚み方向位相差Rthが、−10nmから+40nmの範囲となるようにすることが好ましい。図22に示されるように、偏光フィルム120が直接、セル基板111に貼り合わされる場合には、偏光フィルム120の液晶セル側表面から上記液晶セル(セル基板111)の前面側表面との間の位相差はゼロになる。
ここで、複屈折層や位相差板の平面位相差R0および厚み方向位相差Rthは、各々のフィルムにおいて、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、そして膜厚をdとしたときに、それぞれ次の式(A)および(B):
R0 =(nx−ny)×d 式(A)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d 式(B)
で定義されるものである。
換言すれば、平面位相差R0は、面内の屈折率差に膜厚を乗じた値であり、厚み方向位相差Rthは、面内の平均屈折率と厚み方向屈折率との差に膜厚を乗じた値である。
前面側偏光フィルム120の表示面(視認)側の表面には、防眩フィルム1が配置される。該防眩フィルム1は、透明支持体101、および、該透明支持体上に形成され該透明支持体と反対側に微細な凹凸を有する微細凹凸表面を備えた防眩層100を含んでいる。この防眩フィルム1は、所定の光学特性を与え、所定の表面形状を有するものである。該防眩フィルム1は、前面側偏光フィルム120の液晶セル110に向かい合う面と反対側に、防眩層100が最も視認側となるように配置される。本発明の液晶表示装置は、この防眩フィルム1の微細凹凸表面の形状に特徴を有するものである。防眩フィルム1については、後で詳しく説明する。
背面側偏光フィルム121と液晶セル110の間には位相差フィルム130を配置してもよい。その場合、背面側偏光フィルム121の液晶セル側表面から液晶セル110の背面側のセル基板112の表面までの間に存在する、その位相差フィルム130を含む複屈折層の厚み方向位相差Rthの和が−40nmから+40nmの範囲となり、かつそれらの面内位相差R0の和が100nmから300nmの範囲となるようにすることが好ましい。
図21における前面側偏光フィルム120と防眩フィルム1および透明保護フィルム103とからなる前面側偏光板と液晶セル110との間(透明保護フィルム103と液晶セル110との間)、および、図22における前面側偏光フィルム120と防眩フィルム1とからなる前面側偏光板と液晶セル110との間(偏光フィルム120と液晶セル110との間)は、通常それぞれ、粘着剤で貼着される。また、図21および22において、背面側偏光フィルム121と透明保護フィルム102および104とからなる背面側偏光板と位相差フィルム130との間(透明保護フィルム104と位相差フィルム130との間)、または、位相差フィルム130と液晶セル110との間も、通常それぞれ、粘着剤で貼着される。これらの粘着剤としては、アクリル系などの透明性に優れるものが一般に用いられる。
背面側偏光フィルム121の透明保護フィルム102よりもさらに背面には、通常、液晶セル110へ光を供給するためのバックライト(図示せず)が設けられる。
(偏光フィルム)
前面側偏光フィルム120および背面側偏光フィルム121は、フィルム面内で直交する一方の向きに振動する直線偏光を透過し、他方の向きに振動する直線偏光を吸収するタイプの、一般に偏光フィルムとして知られるものでよい。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムに一軸延伸と高二色性色素による染色を施し、さらにホウ酸架橋を施したものを用いることができる。高二色性色素としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光フィルムや、高二色性色素として二色性有機染料を用いた染料系偏光フィルムがあるが、いずれも用いることができる。このような延伸と染色を施したポリビニルアルコール系偏光フィルムにおいては、延伸方向が吸収軸となり、面内でそれと直交する方向が透過軸となる。
本発明の液晶表示装置において、背面側偏光フィルム121の透過軸は、液晶セル110内にある液晶層113の電圧無印加状態における遅相軸、すなわち液晶分子の長軸方向に対し、ほぼ平行またはほぼ直行となるように配置されている。また、背面側偏光フィルム121の透過軸と前面側偏光フィルム120の透過軸とは、ほぼ直交となるように配置される。本明細書においてほぼ平行またはほぼ直交というときの「ほぼ」は、完全に平行または直交の状態が望ましいが、実用上は、その角度を中心に±5°程度までは許容されることを意味する。背面側偏光フィルム121の透過軸と、電圧無印加状態における液晶層113の遅相軸とが平行である場合には液晶表示装置はノーマリーブラックとなる。一方、背面側偏光フィルム121の透過軸と、電圧無印加状態における液晶層113の遅相軸とが直交である場合には液晶表示装置はノーマリーホワイトとなる。背面側偏光フィルム121の透過軸と電圧無印加状態における液晶層113の遅相軸は、どちらかというと、ほぼ平行となるように配置するほうが好ましい。
本発明ではさらに、前面側偏光フィルム120の液晶セル110に向かい合う面と反対側の面、すなわち、表示面(視認)側の表面に、所定の光学特性を備え所定の表面形状を有する防眩フィルム1が配置される。
(低位相差の透明保護フィルム)
図21に示す如く、前面側偏光フィルム120の液晶セル側にも透明保護フィルム103を配置する場合には、前面側偏光フィルム120の液晶セル側表面から液晶セル110の前面側表面までの間に存在する複屈折層は、前面側偏光フィルム120の液晶セル側に配置された透明保護フィルム103だけとなる。この場合は、該透明保護フィルム103の厚み方向位相差Rthを−10nmから+40nmの範囲とすればよいが、とりわけ−10nmから+10nmの範囲、さらには−5nmから+5nmの範囲とすることが好ましい。
例えば、環状オレフィン系樹脂フィルムであれば、実質的に無配向で厚み方向位相差Rthが10nm以下、さらには5nm以下であるフィルムが市場から入手できる。また、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂フィルムについても、実質的に無配向で厚み方向位相差Rthが10nm以下、さらには5nm以下であるフィルムが市場から入手できる。さらに、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂フィルムの溶剤キャストフィルムであっても、薄肉のものは、厚み方向位相差Rthが40nm以下となる。具体的な低位相差の透明保護フィルム市販品としては、無配向環状オレフィン系樹脂フィルム、無配向セルロースアセテート系樹脂フィルム(富士フイルム(株)製のZ−TAC(R0=2nm、Rth=0nm)、コニカミノルタオプト(株)製のKC4UE(厚さ40μm、R0=0.7nm、Rth=−0.1nm)など)、薄肉セルロースアセテート系樹脂フィルムが挙げられる。
また、前面側偏光フィルム120の液晶セル側には透明保護フィルムを設けず、偏光フィルム120を直接、粘着剤等を介して液晶セル110(セル基板111)の前面側表面に貼着することもできる。この場合は、前面側偏光フィルム120の液晶セル側表面から液晶セル110の前面側表面までの厚み方向位相差Rthはほぼゼロとなる。
ここで、フィルムの位相差値は、例えば、粘着剤を介して測定対象のフィルムをガラス板に貼合した状態で、市販の位相差測定装置、例えば、王子計測機器(株)製の“KOBRA−21ADH”などを用いて、直接測定することができる。上記のような位相差測定装置では、例えば、波長559nmの単色光で回転検光子法により、そのフィルムの面内位相差R0を測定し、一方で、そのフィルムの面内遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させたときの位相差値R40を測定し、フィルムの厚みdおよびフィルムの平均屈折率n0を用いて、以下の式(A)、(D)および(E)から数値計算によりnx、nyおよびnzを求め、これらを上記式(B)に代入して、厚み方向位相差Rthを算出するようになっている。なお、式(A)は先に示したものと同じである。
R0 =(nx−ny)×d 式(A)
R40=(nx−ny’)×d/cos(φ) 式(D)
(nx+ny+nz)/3=n0 式(E)
ここで、
φ=sin-1〔sin(40°)/n0〕
ny’=ny×nz/〔ny 2×sin2(φ)+nz 2×cos2(φ)〕1/2
である。
(透明保護フィルム、透明支持体)
背面側偏光フィルム121の両面に設けられる透明保護フィルム104,102や、防眩フィルム1の透明支持体101は、一般に透明な樹脂フィルムで構成され、例えば、トリアセチルセルロースをはじめとするセルロースアセテート系樹脂、ノルボルネンやジメタノオクタヒドロナフタレンの如き多環式の環状オレフィンを主要なモノマーとする環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが用いられる。これらのなかでも、セルロースアセテート系樹脂(特にトリアセチルセルロース)や環状オレフィン系樹脂が好ましく用いられる。環状オレフィン系樹脂の市販品には、JSR株式会社から販売されている“アートン”、日本ゼオン株式会社から販売されている“ゼオノア”や“ゼオネックス”(いずれも商品名)などがある。
(位相差フィルム)
図21および22に示すように、液晶セル110の背面側では、背面側偏光フィルム121と液晶セル110との間に、少なくとも1枚の位相差フィルム130を配置してもよい。なお、本発明の液晶表示装置において、位相差フィルムは必ずしも必要ではない。
背面側偏光フィルム121と液晶セル110の間に配置される位相差フィルム130は、その遅相軸が背面側偏光フィルム121の吸収軸とほぼ平行またはほぼ直交するように配置すればよいが、特にほぼ直交するように配置するのが好ましい。さらに、この位相差フィルム130は、液晶セル110内にある液晶層113の電圧無印加状態における遅相軸、すなわち液晶分子の長軸方向に対し、ほぼ平行になるよう配置するのが好ましい。
背面側偏光フィルム121と液晶セル110との間に、位相差フィルム130を配置する場合、背面側偏光フィルム121の液晶セル側表面から液晶セル110(セル基板112)の背面側表面までの間に存在するその位相差フィルム130を含む複屈折層の厚み方向位相差Rthの和が−40nmから+40nmの範囲となり、かつそれらの面内位相差R0の和が100nmから300nmの範囲となるようにすることが好ましい。Rthの和が±40nmを超えると、視野角による色シフトが大きくなるので好ましくなく、またR0の和がこの範囲を外れると、視野角による輝度および色シフトともに悪化するので好ましくない。
図21および22に示すように、背面側偏光フィルム121の液晶セル110側表面(背面側偏光フィルム121と位相差フィルム130の間)に透明保護フィルム104を有する場合、この透明保護フィルムとしては、面内の主屈折率nxおよびnyがほぼ同じで面内位相差がほとんどなく、厚み方向の屈折率nzが面内の主屈折率nxおよびnyよりもやや小さい、負の一軸性を有し、その光学軸がほぼ法線方向に現れる、いわゆるネガティブC−プレートを用いることが好ましい。ネガティブC−プレートでは、厚み方向位相差Rthが正の値をとる。ネガティブC−プレートを用いる場合は、背面側偏光フィルム121と液晶セル110の間に配置する位相差フィルム130として、nx≧nz>nyまたはnz>nx>nyなる屈折率構造を有し、厚み方向位相差Rthを、透明保護フィルム104の厚み方向位相差との組合せで上記条件を満足するよう、ほぼゼロまたは負の値にしたものを用いればよい。具体的には、特開平7−230007号公報に開示されるような、熱可塑性樹脂フィルムが一軸延伸されるとともに厚み方向にも配向されたものや、ポリスチレンなど、負の屈折率異方性を有する熱可塑性樹脂フィルムを一軸または二軸に延伸して得られるいわゆるネガティブA−プレート(二軸性でもよい)、正の一軸性を有し、光学軸がフィルム法線方向にあるいわゆるポジティブC−プレートに、負の一軸性を有し、光学軸がフィルム面に平行な方向にあるいわゆるネガティブA−プレートを積層したものなどを挙げることができる。
上の説明から明らかなように、位相差フィルム130を配置する場合は、背面側偏光フィルム121の液晶セル側表面から液晶セル110(セル基板112)の背面側表面までの間の位相差が所望とする位相差値になるよう、2枚またはそれ以上の位相差フィルムを組み合わせて用いてもよい。
また、背面側偏光フィルム121の液晶セル側の透明保護フィルム104を省略して、位相差フィルム130に背面側偏光フィルム121の保護層としての機能を兼ねさせることもできる。この場合は、位相差フィルム130自体の厚み方向位相差Rthが−40nmから+40nmの範囲で、かつ面内位相差R0が100nmから300nmの範囲となるようにすればよい。この場合も、上に示したような、熱可塑性樹脂フィルムが一軸延伸されるとともに厚み方向にも配向されたものや、二軸性でもよいネガティブA−プレート、ポジティブC−プレートにネガティブA−プレートを積層したものなどを用いることができる。
位相差フィルム130の材質について説明すると、熱可塑性樹脂フィルムが一軸延伸されるとともに厚み方向にも配向されたフィルムとしては、ポリカーボネート系樹脂が好適に用いられる。ネガティブA−プレートとしては、スチレン系の樹脂やN−フェニルマレイミド/α−オレフィン共重合樹脂などが好適に用いられる。また、ポジティブC−プレートは、垂直配向膜上に棒状液晶化合物の層を形成することで得られる。
また、背面側偏光フィルム121と液晶セル110の間に配置される位相差フィルム130は、nx、nyおよびnzを先の式(A)および(B)を導くときに定義したとおりの三方向屈折率として、次の式(C):
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) 式(C)
で定義されるNz係数が−0.5から+0.5の範囲にあるのが好ましい。
Nz係数は、面内屈折率差に対する面内最大屈折率(遅相軸方向屈折率)と厚み方向屈折率との差の比であって、厚み方向への配向の度合を表す指標である。例えば、正の一軸性で光学軸が面内にある、いわゆるポジティブA−プレート(nx>ny≒nz)では、Nz≒1となり、負の一軸性で光学軸が面内にある、いわゆるネガティブA−プレート(nx≒nz>ny)では、Nz≒0となる。なお、位相差フィルム130として複数枚からなる積層物を用いる場合は、その積層物全体としてのNz係数が上記範囲にあることが好ましい。
位相差フィルム130として複数枚からなる積層物を用いる場合であって、そのうちの少なくとも2枚が面内位相差を有する場合は、それら面内位相差を有する位相差フィルムそれぞれの遅相軸が同じ方向となるように積層することで、積層物全体としての面内位相差がそれぞれの面内位相差値の和となるようにされるのが通例である。背面側偏光フィルム121が液晶セル側に透明保護フィルム104を有する場合も同様であって、透明保護フィルム104が面内位相差を有する場合は、その遅相軸と位相差フィルム130の遅相軸とが同じ方向となるように積層するのが通例である。ただし、透明保護フィルム104の面内位相差が例えば5nm程度以下であれば、その値は事実上無視できるので、その遅相軸方向を特に気にしなくてもよい。なお、積層物全体としての厚み方向位相差は、積層されたそれぞれの位相差フィルムが示す厚み方向位相差の和となる。
また、液晶セル110の前面側においては、所望により前面側偏光フィルム120と液晶セル110の間に位相差フィルムを設けてもよいが、そのような場合でも、前面側偏光フィルム120の液晶セル側表面から液晶セル110(セル基板111)の前面側表面までの間の厚み方向位相差Rthが−10nmから+40nmの範囲となるようにすることが好ましい。前面側偏光フィルム120の液晶セル側表面から液晶セル110の前面側表面までの間の厚み方向位相差Rthがこの範囲外であるときには、背面側に配置する位相差フィルム130による色補償が適当でなくなるため、画面を斜めから見たときの色相に青みが増してくる傾向が強くなる。
<防眩フィルム>
以下、上述の防眩フィルム1について、詳細に説明する。
本発明に用いられる防眩フィルムは、透明支持体、および、該透明支持体上に形成され該透明支持体と反対側に微細な凹凸を有する微細凹凸表面を備えた防眩層を含む防眩フィルムであって、その内部ヘイズは1%以下であり、表面ヘイズは0.4%以上10%以下である。
さらに、当該防眩フィルムは、微細凹凸表面の平均面(上記微細凹凸表面の標高を測定した際の平均より求められる平均面)に垂直な主法線方向から照射され、上記透明支持体側から入射して防眩層側から出射する波長550nmの平面波について、
上記微細凹凸表面のうち標高が最も高い点を含み、上記微細凹凸表面の平均面に平行な仮想的な平面である最高標高面における複素振幅を、上記微細凹凸表面の標高と防眩層の屈折率から計算し、
該複素振幅の一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフが、空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下の範囲内において、2つの変曲点を有することを特徴とする。
これまでに防眩フィルムの微細凹凸表面の周期についてはJIS B 0601に記載される粗さ曲線要素の平均長さRSm、断面曲線要素の平均長さPSm、およびうねり曲線要素の平均長さWSmなどで評価されていた。しかしながら、このような従来の評価方法では、微細凹凸表面に含まれる複数の周期を正確に評価することができなかった。よって、ギラツキと微細凹凸表面との相関および防眩性と微細凹凸表面との相関についても正確に評価することができず、ギラツキの抑制と十分な防眩性能を兼備する防眩フィルムを作製することが困難であった。
本発明者らは、透明支持体および該透明支持体上に形成され該透明支持体と反対側に微細な凹凸を有する微細凹凸表面を有する防眩層を含む防眩フィルムにおいて、微細凹凸表面の標高と防眩層の屈折率から計算される上記最高標高面における上記平面波の複素振幅が特定の空間周波数分布を示すようにすれば、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキが十分に防止されることを見出した。すなわち、本発明によれば、液晶表示装置の表面に配置する防眩フィルムの微細凹凸表面の形状を、上記複素振幅の一次元パワースペクトルの変曲点が特定の範囲内に位置するような形状とすることで、優れた防眩性能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下が防止され、ギラツキを発生させずに高いコントラストと広い視野角特性を発現する液晶表示装置が提供される。
まず、防眩フィルム(防眩層)の微細凹凸表面の標高について説明する。図1は、防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図である。図1に示されるように、防眩フィルム1は、その表面に微細な凹凸2が形成された微細凹凸表面を有する防眩層を備える。
本発明でいう「微細凹凸表面の標高」とは、防眩フィルム1表面の任意の点Pと、微細凹凸表面の標高を測定した際に最低の標高を有する点を含む上記微細凹凸表面の平均面(微細凹凸表面の標高を測定した際の平均より求められる平均面)に平行な仮想的な平面である標高基準面(標高は基準として0μm)との間の、上記主法線方向(微細凹凸表面の平均面に垂直な方向)における直線距離を意味する。図1に示すように、微細凹凸表面の平均面内の直交座標を(x,y)で表示した場合、座標(x,y)における微細凹凸表面の標高をh(x,y)とする。図1には、防眩フィルム1全体の面を投影した平面である投影面3を表示している。
微細凹凸表面の標高は、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは2μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下である。この測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、New View 5000シリーズ(Zygo Corporation社製、日本ではザイゴ(株)から入手可能)、三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)などを挙げることができる。測定面積は、複素振幅の二次元パワースペクトルの分解能が0.008μm-1以下である必要があるため、少なくとも125μm×125μm以上とするのが好ましく、より好ましくは、500μm×500μm以上である。
図2に微細凹凸表面の標高h(x,y)と、標高基準面20(微細凹凸表面の標高を測定した際に最低の標高を有する点を含む微細凹凸表面の平均面に平行な仮想的な平面)および最高標高面21(上記微細凹凸表面のうち標高が最も高い点を含み、上記微細凹凸表面の平均面に平行な仮想的な平面)との関係を模式的に示した。ここで、最高標高面21の標高をhmax(μm)とする。
座標(x,y)における標高基準面20と最高標高面21との間の光路長d(x,y)は、標高に関する二次元関数h(x,y)を用いて式(1)で表すことが出来る。
ここでnAGは防眩層の屈折率であり、nairは空気の屈折率である。ここで空気の屈折率nairを1で近似すると、式(1)は式(2)で表すことが出来る。
次に、単一波長λの平面波が、フィルムの主法線方向5(微細凹凸表面の平均面に垂直な方向)から照射され、透明支持体側(標高基準面20側)から入射し、防眩層側(最高標高面21側)に出射する場合における、該平面波の複素振幅について説明する。複素振幅とは、波動の振幅を複素表示した場合において、時間の要素を含まない部分をいう。単一波長λの平面波の振幅は、一般的に以下の式(3)で複素表示することが出来る。
ここでAは平面波の最大振幅、πは円周率、iは虚数単位、zはz軸方向(主法線方向5)の座標(原点からの光路長)、ωは角周波数、tは時間、φ0は初期の位相である。
式(3)において時間に依存しない項が複素振幅である。したがって、式(3)で表される平面波についての最高標高面21の座標(x,y)における複素振幅ψ(x,y)は、式(3)の時間に依存しない項において、zに上記光路長d(x,y)を代入した以下の式(4)で表すことが出来る。
さらに、式(4)において平面波の最大振幅Aおよび初期の移送φ0は座標(x,y)に依存せず、座標(x,y)での微細凹凸表面の形状の分布を規定しようとする本発明において定数となるため、以下ではA=1およびφ0=0とする。また、上記式(2)を代入すると、複素振幅ψ(x,y)は、以下の式(5)で表すことが出来る。なお、本発明においてはλ=550nmを基準とする。
次に、複素振幅のパワースペクトルを求める方法について説明する。まず、式(5)で表される二次元関数ψ(x,y)より、式(6)で定義される二次元フーリエ変換によって二次元関数Ψ(fx,fy)を求める。
ここでfxおよびfyはそれぞれx方向およびy方向の空間周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。得られた二次元関数Ψ(fx,fy)を二乗することによって、複素振幅の二次元パワースペクトルΨ2(fx,fy)を求めることができる。この二次元パワースペクトルΨ2(fx,fy)は防眩フィルムの微細凹凸表面の標高から計算される複素振幅の空間周波数分布を表している。
以下、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高から計算される複素振幅の二次元パワースペクトルを求める方法をさらに具体的に説明する。上記の共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などによって実際に測定される表面形状の三次元情報は一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。図3は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。図3に示すように、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム投影面3上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では微細凹凸表面の標高はフィルム投影面3上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
得られる標高値の数は測定範囲とΔxおよびΔyによって決まり、図3に示すようにx軸方向の測定範囲をX=(M−1)Δxとし、y軸方向の測定範囲をY=(N−1)Δyとすると、得られる標高値の数はM×N個である。
図3に示すようにフィルム投影面3上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここでjは0以上M−1以下であり、kは0以上N−1以下である。)とすると、着目点Aに対応するフィルム面上の点Pの標高はh(jΔx,kΔy)と表すことができる。
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに125μm以上が好ましく、ともに500μm以上がより好ましい。
このように実際の測定では、微細凹凸表面の標高を表す関数は、M×N個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。測定によって得られた離散関数h(x,y)から式(5)で表される複素振幅ψ(x,y)が求まり、この複素振幅ψ(x,y)と式(7)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数Ψ(fx,fy)が求まり、離散関数Ψ(fx,fy)を二乗することによって二次元パワースペクトルの離散関数Ψ2(fx,fy)が求められる。式(7)中のlは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。また、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の周波数間隔であり、式(8)および式(9)で定義される。
ここで、図4に示したように、上記防眩フィルムの微細凹凸表面は凹凸がランダムに形成されているため、周波数空間(空間周波数領域)における二次元パワースペクトルΨ2(fx,fy)は原点(fx=0,fy=0)を中心に対称となる。よって、二次元関数Ψ2(fx,fy)は、周波数空間における原点からの距離f(単位:μm-1)を変数とする一次元関数Ψ2(f)に変換することが出来る。上記防眩フィルムは、この一次元関数Ψ2(f)から求められる一次元パワースペクトルが一定の特徴を有するものである。
具体的には、まず、図5に示すように周波数空間において、原点O(fx=0,fy=0)から(n−1/2)Δf以上(n+1/2)Δf未満の距離に位置する全ての点(図5中の黒丸の点)の個数Nnを計算する。図5に示した例ではNn=16個である。次に、原点Oから(n−1/2)Δf以上(n+1/2)Δf未満の距離に位置する全ての点のΨ2(fx,fy)の合計値Ψ2 n(図5中の黒丸の点におけるΨ2(fx,fy)の合計値)を計算し、式(10)に示すように、その合計値Ψ2 nを点の個数Nnで割ったものをΨ2(f)の値とした。
ここで、M≧Nの場合、nは0以上N/2以下の整数であり、M<Nの場合、nは0以上M/2以下の整数である。なお、MおよびNは、図3に示されるように、それぞれX軸方向の測定点の数およびY軸方向の測定点の数を意味する。また、Δfは(Δfx+Δfy)/2とした。
図6に、このようにして得られた複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)を示す。図6に示した一次元パワースペクトルは雑音を含んでおり、一次元パワースペクトルの変曲点を求めるのに際して、この雑音の影響を除くため、線形補間によって0.008μm-1毎の離散関数に変換し、雑音を低減する。図7に、線形補間によって一次元パワースペクトルΨ2(f)を0.008μm-1毎の離散関数に変換する状態を示した。図7の例では、空間周波数0.016μm-1の値を線形補間しており、空間周波数0.016μm-1より小さい空間周波数の中で最も大きい空間周波数である0.0153μm-1のΨ2(f)の値17.7915と、0.016μm-1より大きい空間周波数の中で最も小さい空間周波数である0.0164μm-1のΨ2(f)の値16.1581とから、空間周波数0.016μm-1の値16.8135を計算している。図6の一次元パワースペクトルΨ2(f)を空間周波数0.008μm-1毎の離散関数に変換した結果を図8に示した。空間周波数0.008μm-1毎の離散関数に変換した一次元パワースペクトルΨ2(f)は雑音が少ないことが分かる。
複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の変曲点は、この空間周波数0.008μm-1毎の離散関数に変換した一次元パワースペクトルΨ2(f)の二階導関数から計算することが出来る。具体的には、式(11)の差分法によって二階導関数を計算することが出来る。
図9に、図8の一次元パワースペクトルΨ2(f)の二階導関数を示した。図9から明らかなように、二階導関数d2Ψ2(f)/df2は空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下で二回、横軸(d2Ψ2(f)/df2=0)と交差しており、空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下の範囲内において、正から負への1つの変曲点を空間周波数の低い側に有し、負から正への1つの変曲点を空間周波数の高い側に有することが明らかである。なお、複素振幅の一次元パワースペクトルを空間周波数に対する強度として表したときのグラフにける「変曲点」とは、一般的用語と同じ意味であるが、一次元パワースペクトルΨ2(f)の二階導関数d2Ψ2(f)/df2が0となる空間周波数に対応した一次元パワースペクトルΨ2(f)のグラフ上の点である。
また、上記防眩フィルムにおいては、ギラツキを効果的に防止し、十分な防眩効果を得るために、複素振幅の一次元パワースペクトルの二階導関数d2Ψ2(f)/df2は空間周波数0.024μm-1において正であることが好ましい。すなわち、複素振幅の一次元パワースペクトルが空間周波数0.024μm-1において下に凸の形状を有していることが好ましい。
次に、微細凹凸表面の標高と防眩層の屈折率から計算される複素振幅の一次元パワースペクトルと、防眩フィルムの防眩効果およびギラツキとの関係について説明する。
(防眩効果の評価)
防眩フィルムの防眩効果は、JIS K 7105に規定される方法に準じて測定される反射鮮明度によって評価することが出来る。この規格では、反射鮮明度は、暗部と明部の幅の比が1:1で、その幅が0.125mm、0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類の光学くしを用いて、光の入射角45°で測定される像鮮明度(単位:%)の和として規定されている。ただし、幅0.125mmの光学くしを用いた場合、本発明で規定する防眩フィルムにおいては、その像鮮明度の測定誤差が大きくなることから、本発明における反射鮮明度には、幅0.125mmの光学くしを用いた場合の像鮮明度は加えないこととし、幅が0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである3種類の光学くしを用いて測定された像鮮明度の和をもって反射鮮明度と呼ぶことにする。したがって、このように定義された反射鮮明度の最大値は300%である。この反射鮮明度が小さいほど、防眩フィルムの防眩効果が高いことを示す。
色々な微細凹凸表面を有する防眩フィルムについて、空間周波数0.0024〜0.3μm-1の範囲における各空間周波数毎の複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度と、反射鮮明度との相関について解析した。その結果、空間周波数0.03μm-1におけるΨ2(f)の強度が増加することによって、反射鮮明度が効果的に減少し、防眩効果が高くなることが分かった。図10に、空間周波数0.03μm-1におけるΨ2(f)の強度と反射鮮明度との関係を示す。これより、防眩フィルムの防眩効果を高めるためには、空間周波数0.03μm-1における複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度を高める必要があることが分かった。
(ギラツキの評価)
一方、防眩フィルムのギラツキは次の方法で評価した。すなわち、まず図11に平面図で示すようなユニットセルのパターンを有するフォトマスクを用意した。この図において、ユニットセル40は、透明な基板上に、線幅10μmでカギ形のクロム遮光パターン41が形成され、そのクロム遮光パターン41の形成されていない部分が開口部42となっている。ここでは、ユニットセルの寸法が211μm×70μm(図の縦×横)、したがって開口部の寸法が201μm×60μm(図の縦×横)のものを用いた。図示するユニットセルが縦横に多数並んで、フォトマスクを形成する。
そして、図12に模式的な断面図で示すように、フォトマスク43のクロム遮光パターン41を上にして、ライトボックス45上の拡散板50の上に置き、ガラス板47に粘着剤で防眩フィルム1をその凹凸面が表面となるように貼合したサンプルをフォトマスク43上に置く。ライトボックス45の中には、光源46が配置されている。この状態で、サンプルから約30cm離れた位置49で目視観察することにより、ギラツキの程度を7段階で官能評価した。レベル1はギラツキが全く認められない状態、レベル7はひどくギラツキが観察される状態に該当し、レベル4はごくわずかにギラツキが観察される状態である。
色々な微細凹凸表面を有する防眩フィルムについて、空間周波数0.0024〜0.3μm-1の範囲における各空間周波数毎の複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度と、前述のギラツキの評価結果との相関について解析したところ、空間周波数0.02μm-1における強度が増加することによって、ギラツキの程度が増加することが分かった。図13に、空間周波数0.02μm-1におけるΨ2(f)の強度と反射鮮明度との関係を示す。これより、防眩フィルムのギラツキを防止するためには、空間周波数0.02μm-1における複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度を小さくする必要があることが分かった。
上述したように、本発明に用いられる防眩フィルムは、微細凹凸表面の標高から計算される複素振幅の一次元パワースペクトルが、空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下の範囲内において、2つの変曲点を有することを特徴とする。また、複素振幅の一次元パワースペクトルの空間周波数に関する二階導関数が空間周波数0.024μm-1において正であることが好ましい。このような周波数分布(一次元パワースペクトル)を示す防眩フィルムは、空間周波数0.02μm-1近傍では複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)が下に凸である形状を有し、空間周波数0.03μm-1以降では複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)が上に凸である形状を有し、かつ、空間周波数0.01μm-1近傍では複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)は下に凸である形状を有する。この結果、ギラツキ発生の原因となる空間周波数0.02μm-1における複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度を小さくするとともに、防眩効果に寄与する空間周波数0.03μm-1における複素振幅の一次元パワースペクトルΨ2(f)の強度を高めることが出来る。また、防眩性に効果的に寄与せず、微細凹凸表面に入射した光を散乱させて白ちゃけの原因となる0.1μm-1以上の高空間周波数成分も低減することが出来る。
また、本発明者らは、防眩フィルムにおいて、微細凹凸表面を構成する各微小面が特定の傾斜角度分布を示すようにすれば、優れた防眩性能を示しつつ、白ちゃけを効果的に防止するうえで一層有効であることを見出した。すなわち、上記防眩フィルムは、微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が10%未満であることが好ましい。微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が10%を上回ったりすると、凹凸表面の傾斜角度が急峻な微小面が多くなって、周囲からの光を集光し、表示面が全体的に白くなる白ちゃけが発生しやすくなる。このような集光効果を抑制し、白ちゃけを防止するためには、微細凹凸表面のうち、傾斜角度が5°以上である微小面の割合が小さければ小さいほどよく、5%未満であることが好ましく、2%未満であることがより好ましい。
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の微小面の傾斜角度」とは、図1に示す防眩フィルム1表面の任意の点Pにおいて、後述するような点Pを含む微小面の凹凸を加味した局所的な法線6とフィルムの主法線方向5とのなす角度θを意味する。微細凹凸表面の傾斜角度についても標高と同様に、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。
図14は、微細凹凸表面の微小面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。具体的な傾斜角度の決定方法を説明すると、図14に示すように、点線で示される仮想的な平面FGHI上の着目点Aを決定し、そこを通るx軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点BおよびDを、また点Aを通るy軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点CおよびEをとり、これらの点B,C,D,Eに対応するフィルム面上の点Q,R,S,Tを決定する。なお図14では、フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、フィルム厚み方向の座標をzで表示している。平面FGHIは、y軸上の点Cを通るx軸に平行な直線、および同じくy軸上の点Eを通るx軸に平行な直線と、x軸上の点Bを通るy軸に平行な直線、および同じくx軸上の点Dを通るy軸に平行な直線とのそれぞれの交点F,G,H,Iによって形成される面である。また図14では、平面FGHIに対して、実際のフィルム面の位置が上方にくるように描かれているが、着目点Aのとる位置によって当然ながら、実際のフィルム面の位置が平面FGHIの上方にくることもあるし、下方にくることもある。
そして、得られる表面形状データの傾斜角度は、着目点Aに対応する実際のフィルム面上の点Pと、その近傍にとられた4点B,C,D,Eに対応する実際のフィルム面上の点Q,R,S,Tの合計5点により張られるポリゴン4平面、すなわち、四つの三角形PQR,PRS,PST,PTQの各法線ベクトル6a,6b,6c,6dを平均して得られる局所的な法線(ベクトル)6の極角(図1において、フィルムの主法線方向5とのなす角度θ)を求めることにより、得ることができる。各測定点(微小面)について傾斜角度を求めた後、ヒストグラムが計算される。
図15は、防眩フィルムの微細凹凸表面の微小面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。図15に示すグラフにおいて、横軸は傾斜角度であって、0.5°刻みで分割してある。例えば、一番左の縦棒は、傾斜角度が0〜0.5°の範囲にある集合の分布を示し、以下、右へ行くにつれて角度が0.5°ずつ大きくなっている。図では、横軸の2目盛毎に値の上限値を表示しており、例えば、横軸で「1」とある部分は、傾斜角度が0.5〜1°の範囲にある微小面の集合の分布を示す。また、縦軸はその集合の全体に対する割合を表し、合計すれば1になる値である。この例では、傾斜角度が5°以上である微小面の割合は略0である。
また、上記防眩フィルムの表面ヘイズは0.4%以上10%以下であることが好ましく、内部ヘイズは1%以下であることが好ましい。ここで、防眩フィルムの表面ヘイズおよび内部ヘイズは、次のようにして測定される。すなわち、まず、防眩層を透明支持体上に形成した後、透明支持体の防眩層が形成されていない側が接合面となるように、該防眩フィルムとガラス基板とを、透明粘着剤を用いて貼合し、ガラス基板側から光を入射してJIS K 7136に準拠してヘイズを測定する。このようにして測定されるヘイズは、防眩フィルムの全ヘイズに相当する。次に、防眩層の微細な凹凸形状の表面に、ヘイズがほぼ0であるトリアセチルセルロースフィルムをグリセリンを用いて貼合し、再度JIS K 7136に準拠してヘイズを測定する。当該ヘイズは、この微細な凹凸形状に起因する表面ヘイズがこの表面凹凸上に貼合されたトリアセチルセルロースフィルムによってほぼ打ち消されていることから、防眩フィルムの「内部ヘイズ」とみなすことができる。したがって、防眩フィルムの「表面ヘイズ」は、下記式(12):
表面ヘイズ=全ヘイズ−内部ヘイズ 式(12)
より求められる。
防眩フィルムの表面ヘイズは、白ちゃけを抑制する観点から、10%以下とされ、より効果的に白ちゃけを抑えるためには5%以下であることが好ましい。一方、表面ヘイズは十分な防眩性を得るために0.4%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。また、内部ヘイズは上記防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置したときに、高いコントラストを効果的に発現し得る観点から、1%以下であることが好ましい。
従来の防眩フィルムは微粒子を分散させた樹脂溶液を透明支持体上に塗布し、塗布膜厚を調整して微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな凹凸をシート上に形成する方法などによって製造されている。このような微粒子を分散させることにより製造された防眩フィルムは、ギラツキを解消するために、バインダー樹脂と微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させて、意図的に内部ヘイズを付与していることが多い。そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下する。これに対して、上記防眩フィルムにおいては、上述したように微細凹凸表面の標高より計算される複素振幅の周波数分布(一次元パワースペクトル)を適切に設計しているため、光を散乱させてギラツキを解消する必要がない。従って、コントラストの低下の原因となる内部ヘイズは小さければ小さいほど好ましい。
<防眩フィルムの製造方法>
上記防眩フィルムは、上記した複素振幅の周波数分布(一次元パワースペクトル)を精度よく得るために、一次元パワースペクトルが、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲において極大値を持たず、かつ、空間周波数が0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下の範囲において極大値を持つパターンを用いて作製することが好ましい。ここで、「パターン」とは、上記防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するための画像データや透光部と遮光部を有するマスクなどを意味する。
パターンの二次元パワースペクトルは、たとえばパターンが画像データである場合、画像データを2階調の二値化画像データに変換した後、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは画像データ面内の直交座標を表し、fxおよびfyはx方向の周波数およびy方向の周波数を表している。
防眩層の微細凹凸表面の複素振幅の二次元パワースペクトルを求める場合と同様に、パターンの二次元パワースペクトルを求める場合についても、階調の二次元関数g(x,y)は離散関数として得られる場合が一般的である。その場合は、複素振幅の二次元パワースペクトルを求める場合と同様に、離散フーリエ変換によって、二次元パワースペクトルを計算すれば良い。パターンの一次元パワースペクトルは、パターンの二次元パワースペクトルから、複素振幅の一次元パワースペクトルと同様にして求められる。
図16は、防眩フィルムを作製するために用いたパターンである画像データの一部を表わした図である。図16に示したパターンである画像データは33mm×33mmの大きさで、12800dpiで作成した。
図17は、図16に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られた二次元パワースペクトルG2(fx,fy)を複素振幅の一次元パワースペクトルと同様に原点からの距離fの関数として表した図である。これより図16に示したパターンは空間周波数0.063μm-1に極大値を持つが、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲には極大値を持たないことが分かる。
防眩フィルム(防眩層)を作製するためのパターンの一次元パワースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持つ場合には、結果として得られる防眩フィルムの複素振幅の一次元パワースペクトルが空間周波数0.02μm-1付近において下に凸の形状を有さない虞がある。また、パターンの一次元パワースペクトルが0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下に極大値を持たない場合には、結果として得られる防眩フィルムの複素振幅の一次元パワースペクトルが空間周波数0.03μm-1以降において上に凸の形状を有さない虞がある。よって、ギラツキの解消と十分な防眩性を兼備することができない。
一次元パワースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下には極大値を持たず、かつ、0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下に極大値を持つパターンを作成するためには、10μm以上20μm未満の径を有するドットをランダムかつ均一に配置すればよい。ランダムに配置するドットの径は1種類でも良いし、複数種類でも良い。また、このようにドットをランダムに配置して作成したパターンから、より効果的に空間周波数0.04μm-1以下の成分を除去するために、0.04μm-1以下である特定の空間周波数以下の成分を除去するハイパスフィルターを通過させて得られたパターンを用いて、防眩フィルム作製用のパターンとしても良い。さらに、ドットをランダムに配置して作成したパターンから、より効果的に空間周波数0.04μm-1以下の成分を除去し、かつ、0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下に極大値を有するパターンを作成するために、0.04μm-1より大きい特定の空間周波数以下の成分と0.08μm-1以下である特定の空間周波数以上の成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて得られたパターンを用いて、防眩フィルム作製用のパターンとしても良い。ハイパスフィルターやバンドパスフィルターなどを通過させる手法を用いてパターンを作成する場合には、フィルターを通過させる前のパターンとして、乱数もしくは計算機によって生成された擬似乱数により濃淡を決定したランダムな明度分布を有するパターンを用いることも出来る。
上記防眩フィルムにおいては、上述したように防眩層の微細凹凸表面の空間周波数分布を適切に形成することが好ましい。よって、上記防眩フィルムは、上述したパターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を製造し、製造された金型の凹凸面を透明支持体上の光硬化性樹脂層等に転写し、次いで凹凸面が転写された防眩層と透明支持体とを金型から剥がすことによって、防眩フィルムを製造することを特徴とするエンボス法によって製造されることが好ましい。
ここで、エンボス法としては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
UVエンボス法は、透明支持体の表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明支持体上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明支持体側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明支持体を剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
UVエンボス法を用いる場合、透明支持体としては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
また、UVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されないが、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂で形成された透明支持体を加熱状態で金型に押し付け、金型の表面形状を透明支持体に転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明支持体としては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための透明支持体としても好適に用いることができる。
<防眩フィルム製造用の金型の製造方法>
以下では、上記防眩フィルムの製造に用いる金型を製造する方法について説明する。上記防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したパターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜塗布工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2エッチング工程と、〔9〕第2めっき工程とを基本的に含むことが好ましい。図18は、防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図18には各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、図18を参照しながら、防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
〔1〕第1めっき工程
防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や鬆などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や鬆に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行っても無電解めっきで行ってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどとのからみから、一般的には500μm程度までで十分である。
なお、本発明の金型の製造方法において、基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。さらに取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
また、基材の形状は、当分野において従来より採用されている適宜の形状であれば特に制限されず、平板状であってもよいし、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。本発明の金型の製造方法では、当該工程を経て、基材表面を、鏡面に近い状態に研磨することが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図18(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。また、研磨工程において切削工具を用いて鏡面切削することによって、金型用基材表面7を鏡面としてもよい。その際の切削工具の材質や形状などは特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することが出来るが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性があるので好ましくない。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
〔3〕感光性樹脂膜塗布工程
続く感光性樹脂膜塗布工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した基材7の表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図18(b)には、基材7の表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。たとえば、感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物などを用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としてはフェノール樹脂系やノボラック樹脂系などを用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤などの各種添加剤を配合してもよい。
これらの感光性樹脂を基材7の表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましく、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒などを使用することができる。
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、リングコートなどの公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
〔4〕露光工程
続く露光工程では、上記した一次元パワースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下には極大値を持ず、かつ、0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下に極大値を持つパターンを、上述した感光性樹脂膜塗布工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザ(波長:830nm、532nm、488nm、405nmなど)、YAGレーザ(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザ(波長:193nm)、F2エキシマーレーザ(波長:157nm)等を用いることができる。
本発明の金型の製造方法において表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましい。本発明の金型の製造方法においては、上述したパターンを感光性樹脂膜上に精度よく露光するために、コンピュータ上でパターンを画像データとして作成し、その画像データに基づいたパターンを、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザ光によって描画することが好ましい。レーザー描画を行うに際しては印刷版作成用のレーザー描画装置を使用することができる。このようなレーザー描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)などが挙げられる。
図18(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミンなどの第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミンなどの第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩、ピロール、ピヘリジンなどの環状アミン類などのアルカリ性水溶液、キシレン、トルエンなどの有機溶剤などを挙げることができる。
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
図18(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。図18(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図18(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行った状態を模式的に示している。図18(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングする。
図19は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
図19(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い領域13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い領域13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い領域13の境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い領域13の境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用いて、金属表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法などによって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは2〜10μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムが白ちゃけることとなるため好ましくない。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができて、pH、温度、濃度および浸漬時間などを変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像などの方法を用いることができる。
図19(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスクとして使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜によるマスク12とエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成される。
〔8〕第2エッチング工程
第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。
この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図19(c)には、第2エッチング処理によって、金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状16が形成された状態が示されている。
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行われるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行ってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行ってもよい。ここでエッチング処理を2回以上に分けて行う場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
〔9〕第2めっき工程
続いて、クロムめっきを施すことによって、第2の表面凹凸形状16を鈍らせるとともに、金型表面を保護する。図19(d)には、上述したように第2エッチング工程のエッチング処理によって形成された第2の表面凹凸形状16にクロムめっき層17を形成し、クロムめっき層の表面18を鈍らせた状態が示されている。
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用する。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行われ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
また、めっき後の表面を研磨することも、やはり本発明では好ましくない。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
このように本発明では、クロムめっきを施した後、表面を研磨せず、そのままクロムめっき面を金型の凹凸面として用いることが好ましい。微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られるためである。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御するうえで最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明フィルムに転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。また、以下の例における金型または防眩フィルムの評価方法は、次のとおりである。
〔1〕防眩フィルムの表面形状の測定
(表面の標高の測定)
三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)を用いて、防眩フィルムの表面の標高を測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。測定の際、対物レンズの倍率は10倍として測定を行った。水平分解能ΔxおよびΔyはともに1.66μmであり、測定面積は1270μm×950μmであった。
(複素振幅のパワースペクトル)
上で得られた測定データの中央部から512個×512個(測定面積で850μm×850μm)のデータをサンプリングし、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高を二次元関数h(x,y)として求めた。得られた二次元関数h(x,y)より複素振幅を二次元関数ψ(x,y)として計算した。複素振幅を計算する際の波長λは550nmとした。この二次元関数ψ(x,y)を離散フーリエ変換して二次元関数Ψ(fx,fy)を求めた。二次元関数Ψ(fx,fy)を二乗して二次元パワースペクトルの二次元関数Ψ2(fx,fy)を計算し、原点からの距離fの関数である一次元パワースペクトルの一次元関数Ψ2(f)を計算した。この一次元関数Ψ2(f)を線形補間することによって0.008μm-1毎の離散関数とした。この0.008μm-1毎の離散関数であるΨ2(f)の二階導関数より、複素振幅の一次元パワースペクトルの変曲点を計算した。
(微細凹凸表面の傾斜角度)
上で得られた測定データをもとに、前述のアルゴリズムに基づいて計算し、凹凸面の傾斜角度のヒストグラムを作成し、そこから傾斜角度毎の分布を求め、傾斜角度が5°以上である面の割合を計算した。
(微細凹凸表面の表面粗さパラメータ)
JIS B 0601に準拠した(株)ミツトヨ製の表面粗さ測定機サーフテストSJ−301を用いて、防眩フィルムの表面粗さパラメータを測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。
〔2〕防眩フィルムの光学特性の測定
(ヘイズ)
防眩フィルムの全ヘイズは、防眩フィルムを光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層形成面とは反対側の面でガラス基板に貼合し、該ガラス基板に貼合された防眩フィルムについて、ガラス基板側から光を入射させ、JIS K 7136に準拠した(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM−150」型を用いて測定した。また、内部ヘイズは防眩層の凹凸表面に、ヘイズがほぼ0であるトリアセチルセルロースフィルムをグリセリンを用いて貼合し、再度JIS K 7136に準拠して測定した。表面ヘイズは、上記式(12)に基づいて算出した。
(透過鮮明度)
JIS K 7105に準拠したスガ試験機(株)製の写像性測定器「ICM−1DP」を用いて、防眩フィルムの透過鮮明度を測定した。この場合も、サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層の微細な凹凸形状面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。この状態でガラス側から光を入射させ、測定を行なった。ここでの測定値は、暗部と明部との幅がそれぞれ0.125mm、0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類の光学くしを用いて測定された値の合計値である。この場合の透過鮮明度の最大値は400%となる。
(反射鮮明度)
JIS K 7105に準拠したスガ試験機(株)製の写像性測定器「ICM−1DP」を用いて、防眩フィルムの反射鮮明度を測定した。この場合も、サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて防眩層の微細な凹凸形状面が表面となるように黒色アクリル基板に貼合してから、測定に供した。この状態で凹凸形状面側から光を45°で入射させ、測定を行なった。ここでの測定値は、暗部と明部との幅がそれぞれ0.5mm、1.0mmおよび2.0mmである4種類の光学くしを用いて測定された値の合計値である。この場合の反射鮮明度の最大値は300%となる。
〔3〕防眩フィルムの機械特性の測定
(鉛筆硬度)
防眩フィルムの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠した電動鉛筆引っかき硬度試験機((株)安田精機製作所製)を用いて荷重500gで測定した。
〔4〕液晶表示装置の評価
(コントラスト)
暗室内で液晶表示装置のバックライトを点灯し、輝度計BM5A型((株)トプコン製)を使用して、黒表示状態および白表示状態における液晶表示装置の輝度を測定し、コントラストを算出した。ここでコントラストは、黒表示状態の輝度に対する白表示状態の輝度の比で表される。
(映り込み、白ちゃけ、ギラツキ)
上記コントラストの評価系を明室内に移し、黒表示状態として、映り込み状態、白ちゃけを目視観察した。次に、明室内で白表示状態とし、ギラツキに関しても目視観察した。映り込み状態、白ちゃけ、ギラツキに関しての評価基準は以下の通りである。
(a)映り込み
1:映り込みが観察されない。
2:映り込みが少し観察される。
3:映り込みが明瞭に観察される。
(b)白ちゃけ
1:白ちゃけが観察されない。
2:白ちゃけが少し観察される。
3:白ちゃけが明瞭に観察される。
(c)ギラツキ
1:ギラツキが認められない。
2:ごくわずかにギラツキが観察される。
3:ひどくギラツキが観察される。
〔5〕防眩フィルム製造用のパターンの評価
作成したパターンデータを2階調の二値化画像データとし、階調を二次元の離散関数g(x,y)で表した。離散関数g(x,y)の水平分解能ΔxおよびΔyはともに2μmとした。得られた二次元関数g(x,y)を離散フーリエ変換して、二次元関数G(fx,fy)を求めた。二次元関数G(fx,fy)を二乗して二次元パワースペクトルの二次元関数G2(fx,fy)を計算し、原点からの距離fの関数である一次元パワースペクトルの一次元関数G2(f)を計算した。
<実施例1>
(A)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の質量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き、8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
(B)防眩フィルム製造用の金型の作製
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、図16に示すパターン(ランダムな明度分布を有するパターンから、0.035μm-1以下の低空間周波数成分と0.15μm-1以上の高空間周波数成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて作成した)を繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、現像した。レーザ光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行った。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は3μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は10μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行い、金型Aを作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
(C)防眩フィルムの作製
以下の各成分が酢酸エチルに固形分濃度60%で溶解されており、硬化後に1.53の屈折率を示す紫外線硬化性樹脂組成物Aを入手した。
ペンタエリスリトールトリアクリレート 60部
多官能ウレタン化アクリレート 40部
(ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応性生物)
ジフェニル(2,4,6−トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド 5部
この紫外線硬化性樹脂組成物Aを厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、乾燥後の塗布厚みが7μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂(防眩層)とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
(D)防眩性偏光板の作製
水100重量部に対して、(株)クラレから販売されているカルボキシル基変性ポリビニルアルコール「クラレポバール KL318」(変性度2モル%)を1.8重量部溶解し、さらにそこに、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂である住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」(固形分30%の水溶液)を1.5重量部加えて溶解し、ポリビニルアルコール系接着剤を作製した。
防眩フィルムAの防眩層が形成された側とは反対側にケン化処理した後、上述のように調製したポリビニルアルコール系接着剤を10μmバーコータで塗工し、その上に先に得られたポリビニルアルコール−ヨウ素の偏光フィルムを貼合した。また、ポリビニルアルコール−ヨウ素の偏光フィルムの防眩フィルムを貼合した面とは反対側の面には、ケン化処理が施された厚さ40μmのトリアセチルセルロースからなる透明保護フィルム(コニカミノルタオプト(株)製のKC4UE、厚さ40μm、R0=0.7nm、Rth=−0.1nm)を、上述のように調製したポリビニルアルコール系接着剤を10μmバーコータで塗工後、貼合した。その後、80℃で5分間乾燥し、さらに、常温で1日間養生して防眩性偏光板Aを得た。
(E)背面側偏光板の作製
ポリカーボネートフィルムを特開平7−230007号公報に記載の方法に準じて厚み配向させ、R0=178nm、Rth=−34.2nmの三次元に配向している位相差フィルムを作製した。この位相差フィルムを、ポリビニルアルコール−ヨウ素の偏光フィルムの両面にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムが貼着されている偏光板(商品名“スミカラン SRW842A”、住友化学(株)製、片側保護フィルムのRth=55nm、R0=1nm)に、粘着剤を介して貼合し、背面側偏光板を作製した。このとき、位相差フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸が直交するように配置した。
(F)液晶表示装置の作製
IPSモードの液晶表示素子(すなわち画像表示素子)が搭載された市販のテレビ(W32L−H9000、(株)日立製作所製)の液晶セルから偏光板を剥離し、液晶セルの背面(バックライト側)側には、上記背面側偏光板を、液晶セル前面側(視認側)には、上記防眩性偏光板Aを、いずれも偏光板の吸収軸が、元々液晶テレビに貼付していた偏光板の吸収軸方向と一致するように、粘着剤層を介して貼り合わせて、液晶パネルを作製した。次に、この液晶パネルを、バックライト/光拡散板/液晶パネルの構成で組み立てて、液晶表示装置A(すなわち画像表示装置)を作製した。
<比較例1>
直径300mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面を鏡面研磨し、研磨されたアルミ面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.1MPa(ゲージ圧、以下同じ)、ビーズ使用量8g/cm2(ロールの表面積1cm2あたりの使用量、以下同じ)でブラストし、表面に凹凸をつけた。得られた凹凸つきアルミロールに対し、無電解ニッケルめっき加工を行い、金型Bを作製した。このとき、無電解ニッケルめっき厚みが15μmとなるように設定した。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製した。また、防眩フィルムBを使用したこと以外は、実施例1と同様にして防眩性偏光板Bおよび液晶表示装置Bを作製した。
図17に、防眩フィルムAの作製に使用したパターンより得られたパワースペクトルG2(f)を示した。防眩フィルムAの作製に使用したパターンのパワースペクトルは空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下に極大値を持たず、0.04μm-1より大きく0.08μm-1以下に極大値を持つことが分かる。
また、図20に、防眩フィルムAおよびBの標高より計算された複素振幅のパワースペクトルの二階導関数d2Ψ2(f)/df2を示した。図20より、防眩フィルムAの標高より計算される複素振幅の一次元パワースペクトルは、空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下の範囲内において、2つの変曲点を有するが、防眩フィルムBの標高より計算される複素振幅の一次元パワースペクトルは、空間周波数0.032μm-1以上0.064μm-1以下の範囲内において、2つの変曲点を有するものではないことが分かる。
実施例1および比較例1で作製した防眩フィルムAおよびBならびに液晶表示装置AおよびBについて、上記の各評価を行った結果を表1に示す。
表1に示す結果から、本発明の要件を全て満たす画像表示装置A(実施例1)は、ギラツキが全く発生せず、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生せず、高いコントラストと広い視野角特性を示した。一方、本発明の要件を満たさない防眩フィルムB(図20参照)を用いた画像表示装置B(比較例1)は、ギラツキが発生する傾向を示した。