JP2011109283A - デジタルフィルタ - Google Patents
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Abstract
【課題】IIRフィルタを用いるとき、サンプリング周波数を変化するとフィルタ特性が大きく変化してしまう問題を低減することができる「デジタルフィルタ」とする。
【解決手段】少なくともサンプリング周波数(FS)と、変更されない中心周波数(Fc)と、変更されないゲイン(Gain)と、フィルタ特性尖鋭度(Q)とを入力してIIRフィルタの係数を演算し、入力データ自体、及び入力データと出力データをそれぞれ所定時間づつ順に遅延したデータに対して、それぞれ前記演算した所定の係数を乗算したデータを全て加算することにより出力データを演算する出力演算手段とを備えたデジタルフィルタにおいて、サンプリング周波数が変更されたときは、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比の値、及び変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値にそれぞれ関連した値によってフィルタ特性尖鋭度を変更する。
【選択図】図1
【解決手段】少なくともサンプリング周波数(FS)と、変更されない中心周波数(Fc)と、変更されないゲイン(Gain)と、フィルタ特性尖鋭度(Q)とを入力してIIRフィルタの係数を演算し、入力データ自体、及び入力データと出力データをそれぞれ所定時間づつ順に遅延したデータに対して、それぞれ前記演算した所定の係数を乗算したデータを全て加算することにより出力データを演算する出力演算手段とを備えたデジタルフィルタにおいて、サンプリング周波数が変更されたときは、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比の値、及び変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値にそれぞれ関連した値によってフィルタ特性尖鋭度を変更する。
【選択図】図1
Description
本発明はオーディオ装置のイコライザ等に使用するデジタルフィルタに関し、特にIIRフィルタを用いるときサンプリング周波数を変更した際に生じるフィルタ特性の変化を減少させることができるデジタルフィルタに関する。
近年のオーディオ装置においては、音質調整用のフィルタ等について、デジタルフィルタを用いて構成することが多くなっている。このデジタルフィルタは、集積回路化が容易であり、オーディオ装置における各種の信号処理をデジタルで行うDSP(Digital Signal Processor)に組み込むことによって小型化、低価格化、高信頼化を実現することができる。また、フィルタ特性をソフトウェア処理によって容易に調整することができる等、アナログフィルタと比較して多くの利点を有しているため、広く用いられるようになっている。
前記のようなデジタルフィルタとしても種々のものが開発され、また提案されているが、現在は図4(a)に示すようなIIRフィルタ(Infinite Impulse Response )が広く用いられている。図4(a)に示すIIRフィルタは2次のIIRフィルタを示しており、更に高次のフィルタを形成することができるが、ここにはより一般的な2次のIIRフィルタを例示している。
図4(a)に示す2次のIIRフィルタにおいては、4つの遅延部32、34、36、38と、5つの乗算部31、33、35、37、39と、加算部40によって構成されている。遅延部32は、所定周期で入力される例えば24ビットの音声データx(n)を、その周期と合わせた時間t1だけ遅延する。同様に遅延部34は、遅延部32から出力されるデータを所定時間t1だけ遅延する。乗算部31は入力されるデータx(n)に所定の係数(a0)を乗算し、乗算部33は、遅延部32から出力されるデータに所定の係数(a1)を乗算し、乗算部35は遅延部34から出力されるデータに所定の係数(a2)を乗算する。
一方遅延部36は、加算部40から出力されるデータを所定時間t1だけ遅延し、遅延部38は、遅延部36から出力されるデータを所定時間t1だけ遅延する。また、乗算部37は、遅延部36から出力されるデータに所定の係数(b1)を乗算し、乗算部39は遅延部38から出力されるデータに所定の係数(b2)を乗算する。更に加算部40は、各乗算部31、33、35、37、39から出力されるデータを加算する。この回路構成によって、乗算部31、33、35と、遅延部32、34によってフィードフォワード部が構成され、乗算部37、39と、遅延部36、38によってフィードバック部が構成される。
図4(a)に示すような2次のIIRフィルタは、この回路構成によって入力x(n)は同図(b)に示す計算式により出力y(n)となる。即ち式(1)では、乗算部31で入力x(n)に係数(a0)を乗算したa0×x(n)と、乗算部33において遅延部32で遅延することにより前記所定時間前の入力であるx(n−1)に係数(a1)を乗算したa1×x(n−1)と、乗算部35において遅延部34で遅延することにより更に所定時間前の入力であるx(n−2)に係数(a2)を乗算したa2×x(n−2)とを足すことによってフードフォワード分を加算する。更に、加算部40からの出力y(n)に遅延部36で遅延することにより所定時間前の出力であるy(n−1)に係数(b1)を乗算したb1×y(n−1)と、遅延部38で遅延することにより更に所定時間前の出力であるy(n−2)と係数b2とを乗算したb2×y(n−2)とを足すことによってフィードバック分を加算して、図4(b)の式(1)が計算され、最終的な出力y(n)が得られる。
ここで用いる各係数a0、a1、a2、b1、b2は図4(b)に示すような式によって計算することができる。図4(b)に示す例においては、各係数の計算に用いる(T)と(α)を式2及び式3のようにして求めている。即ち(T)については式2に示すように、中心周波数(Fc)とそのときのサンプリング周波数(FS)との比である(Fc/FS)をラジアン化してπを乗算し、これの正接値(tan)を得ることにより、tan(Fc/FS×π)を得て、更にこれを逆数にすることにより求めている。また、(α)については式3に示すようにゲイン(Gain)に関した値として、10のべき数としてGain/20を用いている。
上記のような(T)の値と(α)の値と、更に、例えば図5に示すようなこのフィルタの特性曲線において、立ち上がる山の急な程度である特性曲線の尖鋭度、即ち特性尖鋭度(Q)を用いて、ゲインがプラスの時は図4(b)の式(4)〜(8)によって、またゲインがマイナスの時は同図の式(9)〜(13)によって係数a0、a1,a2、b1、b2を計算する。これらの係数を用いて式(1)を計算し、図4(a)の出力y(n)を得ることとなる。
なお、例えば中心周波数(Fc)、特性尖鋭度(Q)、ゲイン(Gain)、サンプリング周波数(FS)等のフィルタパラメータに手を加えることなく、フィルタ係数を計算して、その後に適、不適を判断し、適の場合にはフィルタ係数を補正することにより、フィルタ係数を調整する技術は、特開平10−256857号公報(特許文献1)に開示されている。
前記のように、イコライザ等に用いるデジタルフィルタとしてのIIRフィルタは、図4(a)に示すような構成により、同図(b)に示す各式を演算することにより、入力x(n)は最終的に式(1)によって出力y(n)が得られる。この計算によって得られるIIRフィルタの特性曲線を図5に示している。
図5に示すIIRフィルタの特性曲線の例においては、サンプリング周波数をFS1と、このFS1よりも周波数が高いFS2とについて、中心周波数Fcとゲイン(Gain)、及び特性尖鋭度(Q)を変更しない時の曲線の例を示している。この図から明らかなように、例えばこのIIRフィルタをイコライザに用いるとき、フィルタとして特に重要な値である中心周波数(Fc)とゲイン(Gain)、及び特性尖鋭度(Q)を変えることなく、サンプリング周波数を変更しても、フィルタ特性は大きく変化することがわかる。即ち、サンプリング周波数を高くすると、曲線の山のカーブが次第に緩やかになる。このことはこの特性曲線の尖鋭度、即ち特性尖鋭度(Q)の値を例えば「1」に固定しているにも関わらず、実際の曲線は変化し、サンプリング周波数が高くなるほど特性曲線は緩やかになることがわかる。
そのため、このIIRフィルタをオーディオ装置のイコライザに用いるとき、音質調整を行うサンプリング周波数(FS)を例えば最初44.1kHzから48kHzに高めると、計算式の上では特性の尖鋭度(Q)を変化させていないにもかかわらず、実質的に特性が緩やかになり、音質が変化してしまうため、利用者は違和感を感じることがある。
なお、前記特許文献1に開示された技術では、所望の特性を作成したフィルタ係数の特性を比較し、適の場合にはフィルタ係数を補正するという動作により、問題を解決しようとしているが、この方法では適切なフィルタ係数を作成するまでに、比較処理、補正処理を繰り返す必要があり、処理負担が大きくなる問題がある。
したがって本発明は、デジタルフィルタとしてIIRフィルタを用いるとき、そのフィルタの中心周波数(Fc)、ゲイン(Gain)、特性の尖鋭度(Q)を変化させないときでも、サンプリング周波数(FS)を変化するとフィルタ特性が変化してしまう問題を、演算の処理負担をできる限る掛けない手法により低減することができるデジタルフィルタを提供することを主たる目的とする。
本発明に係るデジタルフィルタは、前記課題を解決するため、少なくともサンプリング周波数と、変更されない中心周波数と、変更されないゲインと、フィルタ特性尖鋭度とを入力してIIRフィルタの係数を演算するフィルタ係数演算手段と、入力データ自体、及び入力データと出力データをそれぞれ所定時間づつ順に遅延したデータに対して、それぞれ前記フィルタ係数演算手段で演算した所定の係数を乗算したデータを全て加算することにより出力データを演算する出力演算手段とを備えたデジタルフィルタにおいて、サンプリング周波数を変更する入力を行ったとき、フィルタ特性尖鋭度を変更するフィルタ特性尖鋭度変更演算手段を備え、前記フィルタ特性尖鋭度変更演算手段では、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比、及び変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値にそれぞれ関連した値によってフィルタ特性尖鋭度を変更し、前記フィルタ係数演算手段では、前記フィルタ特性尖鋭度変更手段で変更したフィルタ特性尖鋭度のデータを、変更前のフィルタ特性尖鋭度のデータに替えて演算に用いることを特徴とする。
また、本発明に係る他のデジタルフィルタは、前記デジタルフィルタにおいて、前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比の値の正接値に関連した値を用いることを特徴とする。
また、本発明に係る他のデジタルフィルタは、前記デジタルフィルタにおいて、前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、中心周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値の正接値に関連した値に所定のべき乗を行った値を用いることを特徴とする。
また、本発明に係る他のデジタルフィルタは、前記デジタルフィルタにおいて、前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数との比の値に所定数を乗じた値を用いることを特徴とする。
本発明は上記のように構成したので、デジタルフィルタとしてIIRフィルタを用いるとき、そのフィルタの中心周波数(Fc)、ゲイン(Gain)、特性の尖鋭度(Q)を変化させないときでも、サンプリング周波数(FS)を変化するとフィルタ特性が変化してしまう問題を、簡単な手段で、且つ演算処理負担を大きく増大することなく、解決することができる。
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明を適用したIIRフィルタの機能ブロック図であり、同図(a)に示す前記図4(a)で説明した従来のIIRフィルタにおいて、同図(b)に示す実際の演算を行うIIRフィルタ演算部2を中心に説明する機能ブロック図を示している。なお、同図における各機能部は、それぞれの機能を行う手段ということもできる。
図1(b)に示す機能ブロック図においては、オーディオデータ入力部1から入力した信号のデータx(n)を、IIRフィルタ演算部2で後述するような演算を行い、オーディオデータ出力部17から出力しており、各入力信号のデータx(n)と出力信号のデータy(n)はそれぞれ、同図(a)に示す入力信号x(n)と出力信号y(n)に対応している。IIRフィルタ演算部2には後述する各種のデータを用いて最終的に演算を行う出力演算部3を備え、前記図4(b)に示したIIRフィルタ計算式(1)の計算を行う。
この出力演算部3で最終的な演算を行うため、図1の例においては演算基準データ設定部4において、最終的に式(1)で演算を行うために必要となる各種の基準データを設定している。その中のサンプリング周波数設定部5ではサンプリング周波数(FS)を設定するものであり、少なくとも現在のサンプリング周波数(FSOriginal)を設定している。したがってここでは、例えば「44.1kHz」等の、現在このIIRフィルタでサンプリングを行う周波数を設定することとなる。
中心周波数設定部6では、前記図5に示すような、設定した所定のゲイン(Gain)を得る周波数である中心周波数(Fc)を、例えば「18kHz」のように設定する。ゲイン設定部7では、前記のような中心周波数(Fc)で得るゲイン(Gain)を設定し、ここでは例えば「10」のような値を設定する。フィルタ特性尖鋭度設定部8では、図5に示すようなフィルタ特性曲線でのピークを形成する曲線、即ち山形の曲線における傾斜の程度を示すフィルタ特性尖鋭度(Q)を設定する。したがって、ここでは現在の値である(QOriginal)を設定し、例えば「1」のような値を設定することとなる。
フィルタ係数演算部13では、前記のような演算基準データ設定部4で設定した各種の基準データにより、フィルタ係数を演算するものであり、その演算に際しては前記図4(b)におけるゲインがプラスの時の式(4)〜(8)、或いはゲインがマイナスの時の式(9)〜(13)によって係数a0、a1,a2、b1、b2を演算するものであるが、その際には最初同図に式(2)により(T)の値を、式(3)によって(α)の値を求め、これらの値と特性尖鋭度(Q)を用いて各係数を演算することとなる。フィルタ係数演算部13の演算結果は出力演算部3に出力し、同図に示す演算式における各係数として用いる。
データ遅延部14は出力演算部3で入力したx(n)、及び演算結果であるy(n)を所定時間遅延して出力するものであり、同図に示す例においては2次のIIRフィルタであるので、1次遅延部15と、それよりも更に所定時間遅延する2次遅延部16とを備え、入力データx(n)及び出力データy(n)について遅延し、入力についてはx(n−1)、x(n−2)を、出力についてはy(n−1)、y(n−2)の各データを得ることができるようにしている。
出力演算部3では、演算基準データ設定部4で設定した設定値で演算している、フィルタ係数演算部13の係数a0、a1,a2、b1、b2のデータと、オーディオデータ入力部で入力した現在のx(n)のデータ、更にデータ遅延部で遅延したx(n−1)、x(n−2)、y(n−1)、y(n−2)の各データによって出力y(n)を求め、これをオーディオデータ出力部17を介して外部に出力する、という定常的な処理を行う。
それに対して、サンプリング周波数変更入力部11においては、このIIRフィルタの外部のサンプリング周波数変更指示部10から、例えば44.1kHzのサンプリング周波数を48kHzに変更する指示を入力し、前記演算基準データ設定部4におけるサンプリング周波数設定部5に、変更するサンプリング周波数(FSModified)も設定する。この変更値はフィルタ係数演算部13に出力してその演算に直ちに適用する。また、演算基準データ設定部4のサンプリング周波数設定部5に入力して、変更したサンプリング周波数(FSModified)として設定したデータは、以降演算に用いることとなる。
フィルタ特性尖鋭度変更演算部12では、特に本発明特有の作動を行うものであり、前記のようにサンプリング周波数変更入力部11で、サンプリング周波数を(FSOriginal)から(FSModified)に変更する入力があったとき、予め設定している特性尖鋭度(QOriginal)を、後述する手法によって変更した新たな特性尖鋭度(QModified)とする。ここで変更した特性尖鋭度(QModified)は直ちにフィルタ係数演算部13で、新たな係数を演算するために使用される。また、この変更した特性尖鋭度(QModified)は、以降はサンプリング周波数が変更されるまで使用されることになるので、演算基準データ設定部4のフィルタ特性尖鋭度設定部8に、現在の特性尖鋭度(QModified)として記憶しておく。なお、サンプリング周波数変更前の特性尖鋭度(QOriginal)は、これ以降において例えばサンプリング周波数を更に88.2kHに変更するときも、サンプリング周波数が44.1kHの時の特性カーブに近似させるため、特性尖鋭度(QOriginal)は変更させないことが好ましい。このことは、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)の値も同様である。但し、サンプリング周波数を変更してから特性尖鋭度(Q)を直接変更操作したときには、この変更した特性尖鋭度を変更前の特性尖鋭度(QOriginal)として記憶しておき、以降はこれを使用することもできる。
上記のような機能ブロックからなる本発明のデジタルフィルタとしてのIIRフィルタにおいては、特にこのフィルタを用いて作動を行っているとき、サンプリング周波数を変更した際に、例えば図2に示す作動フローによって順に作動させることによって、本発明を実施することができる。即ち図2に示すIIRフィルタのFS値変更時処理においては、最初サンプリング周波数(FS)を変更したか否かを判別し(ステップS1)、変更しないときには従来と同様にステップS5においてIIRフィルタの計算式により出力y(n)を演算する。
この作動は図1のサンプリング周波数変更入力部11でサンプリング周波数を変更する指示入力がないことを検出しているとき、フィルタ係数演算部13が演算基準データ設定部4に設定している各種データを用いてフィルタ係数を演算し、テータ遅延部14のデータ等により出力演算部3が出力y(n)を演算することにより行っている。
ステップS1においてサンプリング周波数を変更したと判別したときには、変更したサンプリング周波数の値である(FSModified)により、T=1/tan(Fc×π/FSModified)の計算を行い、新たな「T」値を算出する(ステップS2)。
その後今回のサンプリング周波数の変更以前に用いていたフィルタ特性の尖鋭度(QOriginal)を、中心周波数(Fc)と変更前のサンプリング周波数である(FSOriginal)の比と、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)の比を用いた所定の式により変更する(ステップS3)。したがってこの時には、変更後の特性尖鋭度(QModified)を求める所定の式を必要とするが、その際には例えば図3(b)に示すような、本発明によるフィルタ特性尖鋭度計算式の例に示すような計算式を用いることができる。
但し、フィルタ特性尖鋭度計算式は、図3(a)に本発明の基本態様として示すように、中心周波数(Fc)と変更前のサンプリング周波数である(FSOriginal)の比と、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)の比を用いた所定の式であれば良く、同図(b)のような式に限らない。
前記図5に示す従来の例においては、中心周波数(Fc)とゲイン(Gain)、及び特性の尖鋭度(Q)を変えることがなくても、サンプリング周波数を例えば44.1kHzから48kHzに変更すると、特性曲線の山のカーブが次第に緩やかになってしまう。このような変化を更に検討すると、その変化の程度は、サンプリング周波数を変更する程度が大きいほど、また、中心周波数(Fc)がサンプリング周波数の1/2に近づく程大きくなることがわかった。
この事実と、図4(b)に示すIIRフィルタの計算式、更に図5の特性曲線から、中心周波数(Fc)及びゲイン(Gain)を変えることなく、IIRフィルタの特性を変化させて、できる限りサンプリング周波数変更前の特性曲線に近づけるには、特性尖鋭度(Q)を変化させると可能である、ということを見い出し、次にこの特性尖鋭度(Q)をどのように調整すればよいかを各種演算手法の検討や実証実験、及び図4(b)の計算式の更なる検討、及びサンプリング周波数を変更する程度が大きいほど、また、中心周波数(Fc)がサンプリング周波数の1/2に近づく程大きくなるという現象の検討から、特性尖鋭度(Q)を、中心周波数(Fc)と変更前のサンプリング周波数である(FSOriginal)の比と、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)の比を調整すれば可能であることがわかり、本発明に至ったものである。
その際の中心周波数(Fc)と変更前のサンプリング周波数である(FSOriginal)の比は、図4(b)において、各係数を計算する際に用いる「T」の値が、FcとFSOriginalの比(Fc/FSOriginal)の正接値(tan)により直接影響されることから、tan(Fc/FSOriginal)を何らかの調整値として用いることが考えられた。そのときには必ずしも正接値(tan)に限らず、三角関数であるならば他の手法によってもこれに代替することが可能であることも明らかである。
更に、サンプリング周波数を変更する程度が大きいほど特性曲線のずれが大きくなる、という事実から、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)の比、即ち(FSOriginal/FSModified)により特性曲線が影響を受けることが考えられることから、この比の値を何らかの調整値として用いることが検討された。
上記検討の結果、例えば図3(b)に示すような計算式を用いると、少なくとも中心周波数より周波数の低い範囲ではほとんど特性の変化は見られず、中心周波数より高い範囲でも大きな改善が見られることがわかった。図3(b)の計算式では、変更前の特性尖鋭度(QOriginal)に掛ける値として、(Fc/FSOriginal)の値の正接値(tan)に取り込むに際してラジアン化するためにπを掛け、tan(π×Fc/FSOriginal)とした値に、重み付けとして1.2のべき乗を用いている。
また、変更前後のサンプリング周波数の変化の程度をその比として用い、(FSOriginal/FSModified)の値を、両者が同一、即ち変化しないときとの値である1との差に何らかの重み付けの定数を乗じることを考え、0.8をこれに乗じている。最終的に両比の値を乗じると共に、その値は1以下の小数であり、これに1を足した値を変更前の特性尖鋭度(QOriginal)に乗じることとしたものである。
上記のことからも明らかなように、本発明はサンプリング周波数を変更する程度が大きいほど、また、中心周波数(Fc)がサンプリング周波数の1/2に近づく程、特性の変化が大きくなることに鑑み、FcとFSOriginalの比の値と、FSOriginalとFSModifiedの比の値を用い、これを特性曲線の変更で使用可能な値として特性尖鋭度Qを選択し、QOriginalを前記両比の値で調整するものであり、その技術思想の元であるならば前記のような計算式に限らないことは明らかである。
図2のステップS3においては、このようにして今回のサンプリング周波数の変更以前に用いていたフィルタ特性尖鋭度(QOriginal)を、中心周波数(Fc)と変更前のサンプリング周波数である(FSOriginal)の比と、変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)の比を用いた所定の式により変更する処理を行っている。この時の変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)は、それ以降に更にサンプリング周波数を変更するときでも、この値を変更前のサンプリング周波数(FSOriginal)として用いることが好ましいこと等は前記のとおりである。
次いでIIRフィルタ入出力計算式中の係数であるa0、a1,a2、b1、b2を計算して変更する(ステップS4)。これらの処理は図1におけるサンプリング周波数変更入力部11でサンプリング周波数を変更した入力があったとき、フィルタ特性尖鋭度変更演算部12で前記のような計算式を用いて変更後の特性尖鋭度(QModified)を演算し、フィルタ係数演算部14でこの変更後の特性尖鋭度(QModified)と変更後のサンプリング周波数(FSModified)を用い、他の中心周波数(Fc)やゲイン(Gain)は変更することなくフィルタ係数を計算することによって行っている。
その後ステップS5で前記のように従来と同様にしてIIRフィルタの計算式により出力y(n)を演算し、ステップS1に戻って前記作動を繰り返す。それによりステップS1で再びサンプリング周波数を変更したか否かを判別し、変更していないときはそのままステップS5で同じ手法により出力y(n)を演算すると共に、ステップS2でサンプリング周波数を変更したと判別したときにはステップS2以降の前記作動を行うこととなる。但し、特別にQ値の変更操作をしない限り、(QOriginal)及び(FSOriginal)は変更しないことが好ましいことは前記のとおりである。
上記のような作動を行う本発明においては、図3(c)に示すよう結果が得られた。同図に示す例においては、中心周波数Fcを18kHz、ゲインGを10として変えずに、サンプリング周波数を44.1kHzから48kHzに変更し、同図(b)に示す計算式の例によって特性尖鋭度Qを変更した例を示している。同図から明らかなように、従来は細線で示す44.1kHzの特性曲線から、太線で示す48kHzの特性曲線に変化するのに対して、このIIRフィルタをイコライザに用いるときには利用者が特性の変化を感じやすい範囲である、中心周波数18kHzよりも周波数の低い範囲では、実質的にサンプリング周波数44.1kHzの特性曲線に重なり、同図に拡大図で示すような破線の特性曲線が得られる。この特性曲線は、中心周波数(Fc)よりも周波数が高い範囲においても、従来のものよりもその特性が改善されることがわかる。
また、本発明による上記演算は、従来技術として示した技術のように複雑な演算を行う必要が無く、簡単な手法によって処理負担が少なくて済み、しかもより確実に特性曲線の変化を減少させることが可能となる。しかも、本発明の手法は更に各種の態様に対応して、本発明の前記基本的な技術思想に基づき、前記計算式を容易に変更して対応可能となるため、広範囲のデジタルフィルタに適用可能となる。
1 オーディオデータ入力部
2 IIRフィルタ演算部
3 出力演算部
4 演算基準データ設定部
5 サンプリング周波数設定部
6 中心周波数設定部
7 ゲイン設定部
8 フィルタ特性尖鋭度設定部
10 サンプリング周波数変更指示部
11 サンプリング周波数変更入力部
12 フィルタ特性尖鋭度変更演算部
13 フィルタ係数演算部
14 データ遅延部
15 1次遅延部
16 2次遅延部
17 オーディオデータ出力部
2 IIRフィルタ演算部
3 出力演算部
4 演算基準データ設定部
5 サンプリング周波数設定部
6 中心周波数設定部
7 ゲイン設定部
8 フィルタ特性尖鋭度設定部
10 サンプリング周波数変更指示部
11 サンプリング周波数変更入力部
12 フィルタ特性尖鋭度変更演算部
13 フィルタ係数演算部
14 データ遅延部
15 1次遅延部
16 2次遅延部
17 オーディオデータ出力部
Claims (4)
- 少なくともサンプリング周波数と、変更されない中心周波数と、変更されないゲインと、フィルタ特性尖鋭度とを入力してIIRフィルタの係数を演算するフィルタ係数演算手段と、
入力データ自体、及び入力データと出力データをそれぞれ所定時間づつ順に遅延したデータに対して、それぞれ前記フィルタ係数演算手段で演算した所定の係数を乗算したデータを全て加算することにより出力データを演算する出力演算手段とを備えたデジタルフィルタにおいて、
サンプリング周波数を変更する入力を行ったとき、フィルタ特性尖鋭度を変更するフィルタ特性尖鋭度変更演算手段を備え、
前記フィルタ特性尖鋭度変更演算手段では、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比、及び変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値にそれぞれ関連した値によってフィルタ特性尖鋭度を変更し、
前記フィルタ係数演算手段では、前記フィルタ特性尖鋭度変更手段で変更したフィルタ特性尖鋭度のデータを、変更前のフィルタ特性尖鋭度のデータに替えて演算に用いることを特徴とするデジタルフィルタ。 - 前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、中心周波数と変更前のサンプリング周波数の比の値の正接値に関連した値を用いることを特徴とする請求項1記載のデジタルフィルタ。
- 前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、中心周波数と変更後のサンプリング周波数の比の値の正接値に関連した値に所定のべき乗を行った値を用いることを特徴とする請求項2記載のデジタルフィルタ。
- 前記フィルタ特性尖鋭度変更手段では、変更前のサンプリング周波数と変更後のサンプリング周波数との比の値に所定数を乗じた値を用いることを特徴とする請求項1記載のデジタルフィルタ。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2009260539A JP2011109283A (ja) | 2009-11-14 | 2009-11-14 | デジタルフィルタ |
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2009260539A JP2011109283A (ja) | 2009-11-14 | 2009-11-14 | デジタルフィルタ |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN102891662A (zh) * | 2011-07-22 | 2013-01-23 | 中兴通讯股份有限公司 | 一种通用的速率下变换、上变换装置及方法 |
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2009
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