スピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサは、例えば遊技機に設置され、磁石を用いた不正行為などの検出に用いられている。遊技機において磁石を用いた不正行為を検出する場合、近接センサには、検出対象領域への磁石の接近を精度よく検出することが必要とされる。また、不正行為以外の磁性体の接近による近接センサの誤動作を防止及び遊技領域内の視認性の確保のため、近接センサは、設置場所及び設置方向が制限される。
従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサは、検出方向の指向性が大きいため、遊技機に設置した場合不感領域が生じる。このため、不感領域を削減するべく、複数の近接センサを使用し、それぞれの近接センサの不感領域をカバーするように設置する必要がある。このように、スピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサを遊技台へ設置して不正行為を検出する場合、複数の近接センサを用いる必要があることに加え、近接センサの設置場所及び設置方向が制限されるため、近接センサの削減及び取り付けの自由度の改善が望まれている。
本発明者らは、固定磁性層を有しない多層膜GMR素子に着眼した。この多層膜GMR素子は、特定方向に磁化方向が固定された固定磁性層を持たないので、固定磁性層とフリー磁性層との間の静磁結合の影響がなく、フリー磁性層の磁化方向が容易に変化する。このため、検出方向に指向性がなく検出範囲が拡大された近接センサを実現できる。本発明者らは、多層膜GMR素子を用いた近接センサを遊技機に適用することにより、検出方向の指向性が小さく広範囲を検出できることを見出した。そして、この多層膜GMR素子の磁化容易軸方向と外部磁界印加方向とを略一致させることにより、近接センサの検出範囲を拡大できることを見出し本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、多層膜GMR素子を用いた近接センサにより、近接センサの検出方向の指向性を小さくして検出範囲を拡大すると共に、検出感度を向上するものである。
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態においては、本実施の形態に係る近接センサを設置した磁気検出装置としての遊技機について説明するが、本実施の形態に係る近接センサは遊技機以外にも適用可能である。
図1は、本実施の形態に係る近接センサを設置した磁気検出装置としての遊技機の斜視図である。この遊技機は、正面に円形の凹状部が設けられる筺体11と、筺体11の凹状部を覆うように設けられるガラス板12と、筺体11内に配置される近接センサ13とを備える。近接センサ13は、被検出対象である磁石14が存在する領域に対してガラス板12の板面で仕切られた領域に配置されており、後述する磁気抵抗効果素子の磁化容易軸が、板面に対して略垂直に配向している。筺体11の凹状部底部には、正面視において円形の遊技盤が固定され、この遊技盤とガラス板12との間には、各種表示器や各種飾りが施され、遊技球の移動範囲となる遊技領域が形成されている。近接センサ13は、この筺体11内の遊技領域の中央に対応する位置に配置され、ガラス板12の板面を介して磁石14を検出できるようにその検出範囲が設定される。
次に、図2(a)、図2(b)を参照して、本実施の形態に係る近接センサ13の検出範囲について説明する。図2(a)は、本実施の形態に係る近接センサ13と磁石14との位置関係を示す模式的な上面図であり、図2(b)は、図1のガラス板12を拡大した模式的な正面図である。
本実施の形態においては、近接センサ13の検出範囲は、近接センサ13を中心に近接センサ13の検出方向に拡大した略球形形状に形成される。図2(a)に示すように、この近接センサ13の検出範囲は、上面視において真円形状から検出方向となるガラス板12側に拡大した楕円形状となり、ガラス板12によってガラス板12内側の検出範囲R1とガラス板12外側の検出範囲R2とに仕切られる。ガラス板12外側の検出範囲R2は、ガラス板12外側に膨出したドーム形状となっている。本実施の形態においては、磁石14の検出範囲は検出範囲R2となる。
図2(b)に示すように、近接センサ13のガラス板12外側の検出範囲R2は、筺体11の正面視において図中の一点鎖線に示す略円形形状となる。この検出範囲R2は、ガラス板12外面上において、上下方向の長さL1及び左右方向の長さL2が共に130mm以上の略円形形状となる。本実施の形態においては、1つの近接センサ13によってガラス板12外面上に直径130mm以上の検出範囲が形成され、広範な範囲に印加される磁界を検出することができる。
次に、図2(a)を参照して本実施の形態に係る近接センサ13の配置について説明する。本実施の形態に係る近接センサ13は、検出範囲を拡大するため、後述する多層膜GMR素子の製造工程において形成される磁化容易軸方向D1を検出方向に向けて配置する。
まず、磁界印加方向D2について説明する。図2(a)に示すように、磁石14の周囲には、磁石14を中心として磁力線Mが形成される。この磁力線Mの磁束が最大となる方向が磁界印加方向D2となる。本実施の形態においては、磁石14は、ガラス板12外面上より、ガラス板12内側の遊技領域に対してガラス板12より垂直に磁界を印加する。したがって、磁界印加方向D2は、ガラス板12の主面に対する略垂直方向となる。
次に、近接センサ13の配置について説明する。本実施の形態においては、ガラス板12外側から遊技領域内に印加される磁界の検出により磁石14を検出する。このため、近接センサ13の検出方向は、ガラス板12に対する略垂直方向となる。したがって、本実施の形態においては、磁化容易軸方向D1をガラス板12の主面に対して略垂直方向に配置する。
以上のように、本実施の形態においては、磁界印加方向D2がガラス板12の主面に対する略垂直方向になると共に、近接センサ13の検出方向がガラス板12の主面に対して略垂直方向となる。このため、本実施の形態においては、近接センサ13の磁化容易軸方向D1をガラス板の略垂直方向に向けて配置することにより、磁化容易軸方向D1と磁界印加方向D2とが略平行となるので、検出感度が向上し、検出範囲を拡大させることができる。
なお、ガラス板12が傾斜面である場合など、磁界印加方向D2及び/又は検出方向がガラス板12の主面に対する略垂直方向でない場合においては、近接センサ13の磁化容易軸方向D1をガラス板12の主面に対して略垂直方向になるように配置してもよい。この場合、近接センサ13の検出感度がガラス板12の主面に対する略垂直方向に拡大するので、ガラス板12外面上に形成される検出範囲R2を拡大させることができる。
また、近接センサ13を筺体11内の遊技領域の中央に対応する位置から離れた場所に配置する場合、近接センサ13の磁化容易軸方向D1は、ガラス板12の主面上において、遊技領域の略中央となる方向に向けて設置してもよい。この場合、近接センサ13の検出範囲が遊技領域の略中央に向けて拡大するので、近接センサ13を遊技領域から離れた場所に設置した場合においても、検出範囲R2を拡大させることができる。
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る近接センサ13に用いられる多層膜GMR素子の積層構造及び磁化容易軸方向D1について説明する。なお、以下の説明においては、CIP(Current In Plane)−GMR素子を例に説明するが、本実施の形態に係る近接センサ13は、CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子を用いてもよい。
図3に示すように、本実施の形態に係る近接センサ13に用いられる多層膜GMR素子40においては、下から第1フリー磁性層41、非磁性層42及び第2フリー磁性層43の順に積層されている。
第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43は、NiFe合金、Co、CoFe合金、CoNi合金及びCoFeNi合金のいずれかで形成することができ、同一の磁性材料によって形成されることが好ましい。第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43を同一の磁性材料によって形成する場合は、両層の単位面積あたりの磁気モーメントがほぼ等しくなるように、第1フリー磁性層41の膜厚と第2フリー磁性層43の膜厚とをほぼ等しくする。また、第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43をそれぞれ単層で形成する場合は、第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43のうち少なくとも一方がCoFeNi合金で形成されていることが好ましい。第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43をそれぞれ多層で形成する場合は、第1フリー磁性層41がNiFe合金層とCoFe合金層とからなる積層体で形成され、第2フリー磁性層43がCoFe合金層とNiFe合金層とからなる積層体で形成されることが好ましい。
非磁性層42は、Cu、Cr、Au、Agなどの導電性を有する非磁性材料により形成される。特にCuによって形成されることが好ましい。
次に、本実施の形態に係る多層膜GMR素子の製造工程について説明する。まず、スパッタリングや蒸着などにより、第1フリー磁性層41、非磁性層42及び第2フリー磁性層43の順に連続成膜して積層する。なお、スパッタリングや蒸着の条件については、従来公知の条件を適用可能である。
本実施の形態においては、成膜工程で磁場を印加し、第1フリー磁性層41の磁化方向を図3の矢印A方向に固定し、第2フリー磁性層43の磁化方向を第1フリー磁性層41の磁化方向の反平行方向(矢印B)に固定する。このように磁化方向を固定することにより、第1フリー磁性層41と第2フリー磁性層43との間に反平行方向の交換磁界結合が形成されて磁化容易軸方向D1が形成される。この磁化容易軸方向D1が形成されることにより、外部磁界が印加された場合において、第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43の磁化方向の変化の検出が容易となるので、近接センサ13の検出感度が向上する。なお、磁化容易軸方向D1は、多層膜GMR素子製造工程において磁化方向を調整することにより、任意に調整することができる。以上の工程により、本実施の形態に係る多層膜GMR素子を得ることができる。
本実施の形態においては、多層膜GMR素子のスパッタリング工程において、プラズマ処理後、純Arガスに加えて微量の酸素を流入する酸素フロー処理により多層膜GMR素子の検出感度が変化する。この酸素フロー処理においては、プラズマ処理後、活性化された各層の表面に酸素が吸着される。この表面に吸着された酸素が各層の積層時に媒介することにより、各層の界面平坦性及び組成急峻性が改善し、検出感度が変化する。なお、本実施の形態においては、酸素フロー処理の時間は、例えば230秒〜260秒である。
次に、図4を参照して、本実施の形態に係る近接センサ13の素子形状について説明する。図4は、本実施の形態に係る近接センサの多層膜GMR素子の素子形状を示す図である。
図4に示すように、本実施の形態においては、図3で説明した多層膜GMR素子40をミアンダ形状に形成して用いる。このミアンダ形状は、棒状に形成された多層膜GMR素子40が延在する延在方向D3と多層膜GMR素子40が蛇行する幅方向D4とを有する。本実施の形態においては、多層膜GMR素子40をミアンダ形状に形成して用いることにより、棒状多層膜GMR素子40に対して外部磁界が印加された場合と比較して、検出感度を増大させることができる。また、多層膜GMR素子40をミアンダ形状に形成した場合、延在方向D3に対して検出感度を増大させることができる。
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る近接センサ13の検出範囲及び従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサの検出範囲について詳細に調べた。その結果について図5(a)、図5(b)を参照して説明する。図5(a)は、近接センサの検出範囲の測定条件を示す図であり、図5(b)は、図5(a)に示す条件で測定した検出範囲を示す図である。
図5(a)に示すように、本発明者らは、磁化容易軸方向D1を磁石14に向けて近接センサ13を設置し、磁石14をXZ平面内で移動させて近接センサ13の検出範囲を調べた。なお、図5(a)に示す条件においては、多層膜GMR素子のミアンダ形状の延在方向D3がY軸方向になるように近接センサ13を配置した。また、従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサについても同様に検出範囲を調べた。その結果を図5(b)に示す。
図5(b)に示すように、本発明者らが調べた結果、本実施の形態に係る近接センサ13の検出範囲R3は、平面視において点線に示す真円形状からX軸方向に拡大した楕円形状となることが分かった。ここで、検出範囲R3がX軸方向に拡大したのは、多層膜GMR素子のミアンダ形状の延在方向D3がX軸方向に向けられているので、特に、X軸方向に対して多層膜GMR素子が磁石からの磁界をロスなく拾えるためと考えられる。
一方、従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサの検出範囲R4は、真円形状からX軸方向に縮小した楕円形状となる。ここで、検出範囲R4がX軸方向に縮小したのは、近接センサに用いられるスピンバルブ型GMR素子の固定磁性層の磁化方向がX軸方向であったため、磁界に対する感度が悪くなったためと考えられる。
以上のように、本実施の形態に係る近接センサ13は、検出方向の指向性が小さく、広範な検出領域を有するのに対し、従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサは、検出方向の指向性が大きいことが分かる。
次に、図6(a)〜図6(c)を参照して、図5(a)で測定した本実施の形態に係る近接センサ13の検出範囲の実測値について説明する。図6(a)〜図6(c)は、本発明の実施例に係る近接センサ13の磁界印加方向と抵抗変化率の相関を示す図である。
図6(a)〜図6(c)に示すように、本実施例に係る近接センサ13においては、磁石14をXZ平面内においてZ軸方向に移動させた場合(図6(a))、斜め45度に移動させた場合(図6(b))、X軸方向に移動させた場合(図6(c))、の何れの場合においても良好な検出感度を示すことが分かる。このように、本実施の形態に係る近接センサ13は、検出方向の指向性が小さく、検出感度が高いことが分かる。
次に、図7(a)〜図7(c)を参照して、図5(a)で測定した従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサの検出範囲の実測値について説明する。図7(a)〜図7(c)は、スピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサの磁界印加方向と抵抗変化率の相関を示す図である。
図7(a)〜図7(c)に示すように、従来のスピンバルブ型GMR素子においては、磁石14をXZ平面内においてZ軸方向に移動させた場合(図7(a))は、良好な検出感度を示すが、斜め45度に移動させた場合(図7(b))は、検出感度が低下することが分かる。また、X軸方向に移動させた場合(図7(c))は、検出感度が著しく低下することが分かる(図7(c))。このように、従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサは、検出方向の指向性が大きいことが分かる。
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る近接センサ13の多層膜GMR素子のミアンダ形状の幅、磁化印加方向及び磁化容易軸方向D1と検出感度との相関について詳細に調べた。その結果、ミアンダ形状の延在方向D3及び/又は磁化容易軸方向D1が磁界印加方向と一致する場合に検出感度が向上し、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向が一致する場合、特に検出感度が向上することが判明した。以下、本発明者らが調べた内容について説明する。
まず、図8(a)〜図8(f)及び図9(a)、図9(b)を参照して、ミアンダ形状の延在方向D3と磁化容易軸方向D1とが直交する場合の検出感度について説明する。図8(a)〜図8(f)は、多層膜GMR素子をミアンダ形状の延在方向D3が磁化容易軸方向D1に対して直交するように形成し、幅を幅方向D4に向けて大きくした例を示す図である。図9(a)は、図8(a)〜図8(f)に例示する多層膜GMR素子を用い、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが直交する条件(磁界印加方向が磁化容易軸方向D1と同一)の検出感度を示している。図9(b)は、図8(a)〜図8(f)に例示する多層膜GMR素子を用い、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致する条件(磁界印加方向が磁化容易軸方向D1と直交)の検出感度を示す図である。なお、図9(a)、図9(b)は、平膜形状の多層膜GMR素子に対するミアンダ形状の多層膜GMR素子の相対感度を示し、値が小さいほど検出感度が高いことを示している。
図8(a)〜図8(f)に示すように、多層膜GMR素子のミアンダ形状は、ミアンダ形状の幅が幅方向D4に向けて大きくなるにつれてミアンダ形状の素子自体の幅が大きくなるように形成されると共に、素子の折り返し数を増やして形成される。
図9(a)に示すように、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが直交する条件においては、多層膜GMR素子のミアンダ形状の幅が小さいと検出感度が低く、ミアンダ形状の幅が大きくなるにつれて検出感度が向上することが分かる。また、ミアンダ形状の幅を10μm以上にすることにより、十分な検出感度が得られることが分かる。一方、図9(b)に示すように、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致する条件においては、ミアンダ形状の幅が2μmで十分に高い検出感度を示し、3μm以上では特に高い検出感度を示すことが分かる。
以上のように、本実施の形態においては、ミアンダ形状の延在方向D3と磁化容易軸方向D1とが直交する場合、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致した条件で高い検出感度を示すことが分かる。また、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが直交する条件においても、ミアンダ形状の幅が10μm以上にすることにより、良好な検出感度が得られることが分かる。
次に、図10(a)〜図10(f)及び図11(a)、図11(b)を参照して、ミアンダ形状の延在方向D3と磁化容易軸方向D1とが一致する場合の検出感度について説明する。図10(a)〜図10(f)は、多層膜GMR素子をミアンダ形状の延在方向D3と磁化容易軸方向D1とが一致するように形成し、幅を幅方向D4に向けて大きくした例を示す図である。図11(a)は、図10(a)〜図10(f)に例示する多層膜GMR素子を用い、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致する条件(磁界印加方向と延在方向D3とが同一)の検出感度を示す図である。図11(b)は、図10(a)〜図10(f)に例示する多層膜GMR素子を用い、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが直交する条件(磁界印加方向と磁化容易軸方向D1とが直交)の検出感度を示す図である。なお、図11(a)、図11(b)は、平膜形状の多層膜GMR素子に対するミアンダ形状の多層膜GMR素子の相対感度を示し、値が小さいほど検出感度が高いことを示している。
図10(a)〜図10(f)に示すように、多層膜GMR素子のミアンダ形状は、ミアンダ形状の幅が幅方向D4に向けて大きくなるにつれてミアンダ形状の素子自体が幅が大きくなるように形成されると共に、素子の折り返しの数を増やして形成される。
図11(a)に示すように、多層膜GMR素子のミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致する条件においては、ミアンダ形状の幅が2μmで十分に高い検出感度を示し、3μm以上では特に高い検出感度を示すことが分かる。一方、図11(b)に示すように、ミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが直交する条件においては、ミアンダ形状の幅が小さいと検出感度が低く、ミアンダ形状の幅が大きくなるにつれて検出感度が向上することが分かる。また、ミアンダ形状の幅を10μm以上となることにより、十分な検出感度が得られることが分かる。
以上のように、本実施の形態においては、ミアンダ形状の延在方向D3と磁化容易軸方向D1とが一致する場合、多層膜GMR素子のミアンダ形状の延在方向D3と磁界印加方向とが一致する条件で、特に高い検出感度を示すことが分かる。また、ミアンダ形状と磁界印加方向とが直交する条件においても、ミアンダ形状の幅が10μm以上にすることにより、良好な検出感度が得られることが分かる。
また、図9(a)、図9(b)及び図11(a)、図11(b)に示すように、磁化容易軸方向D1と磁界印加方向とが一致する場合(図9(a)、図11(b))、に対し、直交する場合(図9(b)、図11(b))は、検出感度が低下することが分かる。
また、本実施の形態においては、ミアンダ形状の幅方向D4の大きさは、3μmから20μmの範囲であることが好ましい。ミアンダ形状の幅が10μm以上であれば、良好な検出感度を得ることができる。また、近接センサ13の小型化の観点からミアンダ形状の幅が20μm以下であることが好ましい。ミアンダ形状の幅は、10μmから20μmの範囲であることが好ましく、15μmから20μmの範囲であることがより好ましい。
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る近接センサ13に用いる多層膜GMR素子の第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43の膜厚と検出感度及び抵抗変化率との相関について調べた。図12(a)、図12(b)を参照して、本発明者らが調べた内容について説明する。図12(a)は、近接センサ13に対して、一定の磁界を印加した場合における第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚と検出感度との相関を示す図である。図12(b)は、近接センサ13の第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43の膜厚と抵抗変化率との相関を示す図である。尚、図12(a)、図12(b)においては、図9(a)、図9(b)と同様に、値が低いほど検出感度が高いことを示している。
図12(a)に示すように、本発明者らは、近接センサ13に一定の磁界を印加し、第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚が3.5nm〜5.0nmの範囲で検出感度を測定した。その結果、近接センサ13に一定の磁場を印加した場合には、第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚が3.5nm〜5.0nmの範囲で大きくなるほど検出感度が向上することが分かった。
また、図12(b)に示すように、本発明者らは、近接センサ13の抵抗変化率を測定した。その結果、第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚が4.0nmまでは抵抗変化率が低下するが、4.0nm以上の範囲では、抵抗変化率が向上することが分かった。以上の結果から、本実施の形態に係る近接センサ13においては、第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚が3.5nm〜5.0nmの範囲で良好な感度が得られることが分かる。
尚、本実施の形態においては、第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43の膜厚は、検出感度の観点から3.5nmから5.0nmの範囲であることが好ましい。第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚が4.0nm以上であれば、近接センサ13は、良好な検出感度を得ることができる。また、第1フリー磁性層41及び第2フリー磁性層43の膜厚が4.5以下であれば、近接センサ13は、抵抗変化率が損なわれることなく微弱な磁界の変化を検出することができる。第1フリー磁性層41または第2フリー磁性層43の膜厚は、4.0nm〜4.5nmの範囲が好ましく、4.0nm〜4.3nmの範囲であることがより好ましい。
次に、本発明者らは、本実施の形態に係る近接センサ13の非磁性層42の膜厚及び非磁性層42の成膜条件と検出感度との相関について調べた。図13を参照して、本発明者らが調べた内容について説明する。図13は、非磁性層42の膜厚と検出感度との相関を示す図である。また、同図においては、図9(a)、図9(b)と同様に、値が低いほど検出感度が高いことを示している。尚、図13では、近接センサ13の検出感度の下限値を約790A/mに設定しているが、これは、従来の近接センサを用いた場合における検出範囲の値を示す指標としてのものである。この検出下限値を上回ることにより、従来の近接センサより確実に検出範囲を拡大することができる。
図13に示すように、本発明者らは、非磁性層42の膜厚を1.9nmから2.1nmの範囲で変化させ、非磁性層42の成膜時の酸素フロー処理条件を230sから280sの範囲で変化させた場合における近接センサ13の検出感度を測定した。その結果、本実施の形態においては、非磁性層42の膜厚が厚くなるにつれて検出感度が増大することが分かり、また、成膜時の酸素フロー処理時間が長くなるほど、検出感度が増大する傾向があることが分かった。特に、非磁性層42の膜厚が1.9nm〜2.1nmであり、成膜時の酸素フロー処理条件が250sから270sの範囲である場合に従来のスピンバルブ型GMR素子を用いたセンサより検出感度が向上することが分かった。但し、膜厚が1.95nm〜2.05nmであり、酸素フロー処理条件が230s、240秒である場合及び膜厚が2.05nm以上であり、酸素フロー処理が280s以上である場合には、従来のスピンバルブ型GMR素子を用いた近接センサより検出感度が低下することが分かった。
本実施の形態においては、非磁性層42の膜厚は、近接センサ13の検出感度の観点から、1.9nmから2.1nmの範囲で用いることが好ましい。また、非磁性層42の膜厚は、1.95nmから2.05nmの範囲であることがより好ましい。
また、非磁性層42の成膜時における酸素フロー処理の条件は、近接センサの検出感度の観点から、230m/sから280m/sの範囲であることが好ましい。より好ましくは、250m/sから260m/sの範囲であり、さらに好ましくは、250m/sから255m/sの範囲である。
また、本発明者らは、近接センサ13のセンサ面上の多層膜GMR素子に対し、所定の形状の軟磁性体膜を磁気ヨークとして配置することにより、更に近接センサ13の検出感度を向上できることを見出した。以下、本発明者らが調べた内容について説明する。
図14は、本実施の形態に係る近接センサにおいて、軟磁性体膜を磁気ヨーク(以下、軟磁性体膜を磁気ヨークという)として配置した場合における近接センサの模式的な平面図である。図14に示すように、本例においては、近接センサのセンサ面101上の中央部に形成されるセンサ感度部102と、このセンサ感度部102を挟むようにセンサ面101上に形成される一対の磁気ヨーク103、104とを備える。
センサ感度部102は、ミアンダ形状に形成された多層膜GMR素子によって構成される。また、センサ感度部102は、ミアンダ形状に形成された多層膜GMR素子の長手方向がガラス板12に対する略平行方向D5と一致するように形成される。磁気ヨーク103、104は、ガラス板12に対する略垂直方向D6において、センサ感度部102の多層膜GMR素子を挟むように、センサ面101上のセンサ感度部102の両側に形成される。
すなわち、本例においては、近接センサの検出方向となるガラス板12に対する略垂直方向D6に対し、ミアンダ形状に形成された多層膜GMR素子の長手方向がセンサ面101上で直交するようにセンサ感度部102が形成されている。また、近接センサの検出方向であるガラス板12に対する略垂直方向D6に対して、磁気ヨーク103、104がセンサ感度部102を前後から挟むように形成されている。このように、本例においては、センサ感度部102の前後に磁気ヨーク103、104を形成することにより、磁石14からセンサ感度部102に到達する磁力を増幅できるので、検出範囲を拡大することができる。
なお、センサ感度部102の多層膜GMR素子のミアンダ幅の長さは、3μm以上が好ましい。また、センサ感度部102のミアンダ形状のアスペクト比(延在方向の長さ/ミアンダ幅の長さ)は、2.0以上であることが好ましい。
磁気ヨーク103、104の材質としては、CoZrNb、CoZrTi、NiFe、並びにCo、Fe、及びNiからなる群から選ばれた少なくとも1つが含まれた合金などの各種軟磁性材料を用いることができる。これらの中でも、適度な保磁力と透磁性の観点からCoZrNbが好ましい。また、磁気ヨーク103、104の膜厚としては、300nmから1000nmの範囲であることが好ましい。磁気ヨーク103、104の膜厚が300nm以上であれば、ヨーク効果が増大し、良好な検出感度が得られる。また、磁気ヨーク103、104の膜厚が1000nm以下であれば、指向性が少なく安定した検出感度を確保できる。このように、磁気ヨーク103、104を形成することにより、検出の上限感度を例えば、0.7mTから0.25mTに向上させることができる。
図15(a)、(b)は、磁気ヨーク103、104を配置した場合における検出感度変化の原理を模式的に示した図である。図15(a)に示すように、ガラス板12上の磁石14を検出する場合には、センサ面101内において、ガラス板12との略垂直方向D6から磁力線Mが作用する。ここで、磁気ヨーク103、104は、軟磁性体で形成されているので、所定の検出方向に対し、適度な保磁力と高い透磁性を有する。この保磁力と透磁性により、ガラス板12との略垂直方向D6側から作用する磁力線Mが集束されるので、センサ感度部102に到達する磁力線Mが増大するヨーク効果が発現し、近接センサの検出感度を向上させることができる。一方、図15(b)に示すように、センサ面101内において、ガラス板12と略平行方向D5に対しては、磁気ヨーク103、104の保磁力と透磁性により、ガラス板12と略平行方向D5から作用する磁力線Mが遮蔽される。このため、センサ感度部102に到達する磁力線Mが減少するシールド効果が発現し、近接センサに対するノイズなどの影響を低減することができる。
このようにして、本例においては、検出対象方向となるガラス板12に対する略垂直方向D6に対する検出感度を向上させることができ、検出対象方向以外の方向からのノイズの影響を低減することができる。
ここで、本発明者らは、センサ面101に磁気ヨーク103、104を形成した近接センサ、及び磁気ヨーク103、104未形成の近接センサを作製し、検出範囲の変化について詳細に調べた。図16を参照して、本発明者らが調べた内容について、詳細に説明する。
図16は、磁気ヨーク103、104を形成した近接センサ及び磁気ヨーク103、104未形成の近接センサの検出範囲を示す図である。図16に示すように、磁気ヨーク103、104を形成した近接センサの検出範囲R5は、X軸方向及びY軸方向の何れの方向に対しても215mmに拡大することが分かる。これに対し、磁気ヨーク103、104未形成の近接センサの検出範囲R3は、X軸方向に対しては180mmとなり、Y軸方向に対しては140mmとなる。このように、磁気ヨーク103、104を形成することにより、近接センサの検出範囲R5が拡大すると共に、検出方向の指向性が低減することが分かる。このため、近接センサの検出範囲の指向性をさらに低減することができ、真円形状に近い検出範囲R5を実現することができる。
なお、図16においては、磁気ヨーク103、104を形成した近接センサの検出範囲R5の下限値を、X軸方向及びY軸方向のそれぞれの方向に対して140mmとしているが、検出範囲R5の下限値は、任意に設定することができる。
さらに、本発明者らは、磁気ヨーク103、104を形成した近接センサについて、磁気ヨーク103、104形成前後における検出感度の変化について詳細に調べた。その結果、同一の近接センサに対して磁気ヨーク103、104を形成する場合において、磁気ヨーク103、104形成前後の近接センサの検出感度と磁気ヨーク103、104の幅の大きさとの相関関係が直線関係になることを見出した。以下、図17(a)、(b)を参照して本発明者らが調べた内容について説明する。
図17(a)は、磁気ヨーク103、104形成前後の近接センサにおける検出感度(抵抗変化率)の相関を示す図である。図17(a)においては、種々の検出感度を有する近接センサに対し、幅150μmの磁気ヨークを形成した場合における検出感度を測定してプロットした例を示し、検出感度の数値が小さいほど検出感度が高いことを示している。図17(a)に示すように、磁気ヨーク103、104形成前後における検出感度は、下記式(1)で表わされる直線関係となり、高い直線性を有することが分かる。
y=0.2499x−0.4041…式(1)
図17(b)は、形成する磁気ヨーク103、104の幅を変更した場合における磁気ヨーク103、104の幅と近接センサの検出感度(抵抗変化率)との相関を示す図である。なお、図17(b)に示す例において、磁気ヨーク103、104の幅とは、図14におけるガラス板12に対する略垂直方向D6の磁気ヨーク103、104の大きさである。図17(b)に示すように、形成する磁気ヨーク103、104の幅が大きいほど検出感度が増大することが分かる。また、磁気ヨーク103、104の幅と検出感度との相関関係は、下記式(2)で表わされる直線関係となり、高い直線性を有することが分かる。
y=−0.0247x+7.0806…式(2)
このように、本実施の形態では、磁気ヨーク103、104の形成前後における検出感度と、形成する磁気ヨーク103、104の幅との間に高い直線性を有する。これにより、磁気ヨーク103、104の形成後に所望の検出感度が得られるように近接センサを設計することが可能となる。以下、形成する磁気ヨーク103、104の幅を150μmとした場合における近接センサの検出感度調整について説明する。
まず、磁気ヨーク103、104形成前の近接センサの検出感度を測定し、上記式(1)より磁気ヨーク103、104形成後の予想感度を算出する。算出された磁気ヨーク103、104形成後の予想感度が3.5(×79A/m)である場合には、上記式(2)より、3.5=−0.0247×150+bよりb=7.205を算出する。次いで、磁気ヨーク103、104形成後の所望の感度が4.0(×79A/m)である場合には、4.0=−0.0247x+7.205より、形成する磁気ヨーク103、104幅x=129.7571を算出する。このようにして磁気ヨーク103、104幅を調整することにより、所望の検出感度を有する近接センサを得ることができる。
次に、近接センサの磁気ヨーク103、104幅の調整方法について説明する。上述したように、本実施の形態においては、磁気ヨーク103、104幅を調整することにより、検出感度の調整が可能となる。これを用いて近接センサの検出感度のばらつきを調整することができる。以下、図18(a)〜図18(d)を参照して、磁気ヨーク103、104の幅の調整方法の一例について説明する。
図18(a)〜図18(d)は、露光によって磁気ヨーク103、104幅の調整方法を示す概念図である。まず、図18(a)に示すように、磁気ヨーク103、104形成前の検出感度から、上述したように所望の検出感度が得られる磁気ヨーク幅L3を算出して磁気ヨーク103、104を形成する。次に、図18(b)に示すように、所定の露光パターンを有するマスク105をセンサ面101に設置し、磁気ヨーク調整幅に応じた部分の磁気ヨーク103を露光する。次いで、図18(c)に示すように、マスク105の露光パターンを移動し、同様にして磁気ヨーク104を露光する。最後に図18(d)に示すように、マスク105を除去することにより、磁気ヨーク幅L3を所望の検出感度が得られる磁気ヨーク幅L4に調整することができる。
このように、本実施の形態においては、露光によりセンサ部の磁気ヨーク幅L3を調整することにより、近接センサの検出感度を所望の値に調整することができる。このため、所望の検出感度に対し、多段階に検出感度を合わせることができると共に、容易に検出感度を調整することが可能となる。このようにして、検出感度を多段階にかつ容易に調整することができるので、特に検出感度の調整が困難となる高い検出感度を有する近接センサにおいても容易に所望の検出感度に調整することができる。なお、本実施の形態においては、同様にして磁気ヨークのギャップ幅L5の幅を調整しても近接センサの検出感度を調整することができる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、検出方向に指向性が少ない多層膜GMR素子を用いることにより、広範な範囲を検出でき、検出感度が高い近接センサ13を実現できる。また、本実施の形態に係る近接センサおいては、検出方向に指向性がないので、遊技機などに設置した場合に近接センサの設置方向及び設置場所の自由度が向上する。
特に、本実施の形態においては、遊技機などへの不正行為を検出する場合において、磁石14は、ガラス板12に対して密着して使用される。この場合において、磁界印加方向は、ガラス板12の主面に対して垂直方向となるので、近接センサ13を設置する際に磁化容易軸方向D1をガラス板12の主面に対する略垂直方向とすることにより、効果的に磁石14を検出することができる。
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。