上記液滴吐出ヘッドを実際に製造する際には、別々のウェハ状のシリコン基板に封止基板やアクチュエータ基板をそれぞれ複数区画形成し、これらのシリコン基板を接着接合することによって複数個分の液滴吐出ヘッドを同時に製造している。このような複数の液滴吐出ヘッドが区画形成された積層構造体基板から1つの液滴吐出ヘッドを取り出す方法としては、ダイシング法などの湿式切断法は形成された素子への水分の影響があり好ましくないため、シリコン基板にレーザ光を照射してスクライブする乾式切断法が考えられる。
しかしながら、各シリコン基板は、有機材料を主体とする接着層を介して接合されており、接着層の部分にレーザ光の集光点を位置させて照射しても、当該部分に内部改質層は形成されない。すなわち外部応力を加えても容易に分割することができないという課題があった。
本発明は、上記課題を考慮してなされたものであり、区画形成された積層構造体を接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な積層構造体基板および液滴吐出ヘッド基板、この積層構造体の製造方法および液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の積層構造体基板は、第1の構造体が複数区画形成された基板の表面に、複数の第1の構造体に対応して複数の第2の構造体が接着層を介して接合された積層構造体基板であって、少なくとも基板は、レーザ光を透過する部材からなり、第1の構造体と第2の構造体とが積層されてなる積層構造体を区画する領域において、基板の接合面側には、レーザ光を照射して分割するための切断予定ライン上に沿って凹部が設けられ、少なくとも凹部の切断予定ライン上には接着層が介在しない状態で基板と第2の構造体とが接着接合されていることを特徴とする。
この構成によれば、積層構造体を区画する領域において、基板の接合面側に設けられた凹部の切断予定ライン上には、接着層が介在しない状態で基板と第2の構造体とが接着接合されている。したがって、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射し、基板の厚み方向に内部改質層を形成すれば、接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として基板を分割することができる。すなわち、基板に区画形成された積層構造体を接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な積層構造体基板を提供することができる。また、基板に複数区画形成された第1の構造体に第2の構造体を接合する際に、基板の接合面側に凹部が設けられているので、転写法により接着層を基板の接合面側に形成すれば、少なくとも凹部の切断予定ライン上には接着層が介在しない状態を容易に構成した積層構造体基板を提供することができる。
本発明の他の積層構造体基板は、第1の構造体が複数区画形成された第1の基板と、第2の構造体が複数区画形成された第2の基板とを、接着層を介して接合された積層構造体基板であって、第1の基板および第2の基板は、レーザ光を透過する部材からなり、第1の構造体と第2の構造体とが積層されてなる積層構造体を区画する領域において、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側には、レーザ光を照射して分割するための切断予定ライン上に沿って凹部が設けられ、接合面の少なくとも切断予定ライン上には接着層が介在しない状態で第1の基板と第2の基板とが接着接合されていることを特徴とする。
この構成によれば、積層構造体を区画する領域において、接合面の少なくとも切断予定ライン上には接着層が介在しない状態で第1の基板と第2の基板とが接着接合されている。したがって、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射し、各基板の厚み方向に内部改質層を形成すれば、接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として各基板を分割することができる。すなわち、区画形成された積層構造体を接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な積層構造体基板を提供することができる。また、第1の基板と第2の基板とを接合する際に、いずれか一方の接合面に凹部が設けられているので、転写法により接着層を凹部が設けられた接合面側に形成すれば、接合面の少なくとも切断予定ライン上には接着層が介在しない状態を容易に構成した積層構造体基板を提供することができる。
これらの発明の積層構造体基板において、上記凹部の深さは、接着層の厚みよりも大きいことが好ましい。これによれば、転写法により接着層を凹部が設けられた接合面側に形成すると、凹部の深さは、接着層の厚みよりも大きいので接着層が凹部の内底面部まで届かず、ほぼ凹部の幅方向に渡って接着層が転写されない状態を構成することができる。よって、レーザ光を照射してスクライブする際に、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、接着層が介在しない部分でスクライブが可能となり、より接着層に影響されずに積層構造体を容易に取り出すことが可能な積層構造体基板を提供することができる。
本発明の液滴吐出ヘッド基板は、複数のアクチュエータと複数のアクチュエータに対応する複数の圧力発生室とを有するアクチュエータ基板が複数区画形成された第2の基板と、封止室を有する封止基板が複数区画形成された第1の基板とを、封止室により複数のアクチュエータを封止するように第1の接着層を介して接合させ、複数のノズルが形成されたノズルプレートを複数の圧力発生室に連通するように第2の接着層を介して接合させた液滴吐出ヘッド基板であって、第1の基板および第2の基板は、レーザ光を透過する部材からなり、接合された封止基板とアクチュエータ基板とを有する液滴吐出ヘッドを区画する領域において、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側には、レーザ光を照射して分割するための切断予定ライン上に凹部が設けられ、接合面の少なくとも切断予定ライン上には第1の接着層が介在しない状態で第1の基板と第2の基板とが接着接合されていることを特徴とする。
この構成によれば、接合された封止基板とアクチュエータ基板とを有する液滴吐出ヘッドを区画する領域において、接合面の少なくとも切断予定ライン上には第1の接着層が介在しない状態で第1の基板と第2の基板とが接着接合されている。したがって、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射し、各基板の厚み方向に内部改質層を形成すれば、第1の接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として各基板を分割することができる。すなわち、区画形成された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッド基板を提供することができる。また、第1の基板と第2の基板とを接合する際に、いずれか一方の接合面に凹部が設けられているので、転写法により第1の接着層を凹部が設けられた接合面側に形成すれば、接合面の少なくとも切断予定ライン上には第1の接着層が介在しない状態を容易に構成した液滴吐出ヘッド基板を提供することができる。
上記凹部の深さは、接合面において第1の接着層の厚みよりも大きいことが好ましい。これによれば、転写法により第1の接着層を凹部が設けられた接合面側に形成すると、凹部の深さは、第1の接着層の厚みよりも大きいので第1の接着層が凹部の内底面部まで届かず、ほぼ凹部の幅方向に渡って第1の接着層が転写されない状態を構成することができる。よって、レーザ光を照射してスクライブする際に、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、第1の接着層が介在しない部分でスクライブが可能となり、より第1の接着層に影響されずに液滴吐出ヘッドを容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッド基板を提供することができる。
また、上記凹部が、第1の基板の接合面側に設けられ、凹部の深さは、接合面における封止室の深さに対して略同等であることを特徴とする。これによれば、第1の基板に封止室を形成すると同時に凹部を形成すれば、封止室の深さに対して略同等な凹部を設けることができる。すなわち、新たな加工工程を必要とせずに、より効率的に第1の接着層の厚みよりも深い凹部を設けて、区画形成された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッド基板を提供することができる。
本発明の積層構造体の製造方法は、第1の構造体と第2の構造体とが接着層を介して積層された積層構造体の製造方法であって、レーザ光を透過可能な基板に第1の構造体を複数区画形成する工程と、基板の接合面側に、第1の構造体を区画する領域において分割するための切断予定ライン上に沿って凹部を形成する凹部形成工程と、基板の接合面側に凹部を避けて接着層を形成し、基板と複数の第2の構造体とを接合する接合工程と、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射して基板の厚み方向に内部改質層を形成するレーザ照射工程とを備えたことを特徴とする。
この方法によれば、接合工程では、基板の接合面側に切断予定ライン上に沿って形成された凹部を避けて接着層を形成し、基板と複数の第2の構造体とが接合される。よって、レーザ照射工程では、接着層が介在しない凹部の切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射して基板の厚み方向に内部改質層が形成される。したがって、接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として基板を分割することができる。すなわち、区画形成された積層構造体を接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
上記凹部形成工程では、凹部の深さが接着層の厚みよりも大きくなるように凹部を形成し、接合工程では、基板の接合面側に接着層を転写して形成することが好ましい。これによれば、凹部は、その深さが接着層の厚みよりも大きくなるように形成される。したがって、接合工程で、基板の接合面側に接着層を転写すれば、接着層は、凹部の内底面まで届かないので、凹部のほぼ幅方向に渡って接着層が介在しない状態で、基板と複数の第2の構造体とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程で、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、接着層が介在しない部分でスクライブが可能となり、より接着層に影響されずに積層構造体を容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、基板の接合面に対して反対側の表面から切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射することが好ましい。基板の厚み方向に内部改質層を形成するには、基板内部にレーザ光の集光点が位置するようにレーザ光を照射する必要がある。レーザ光の入射面が平坦な状態(望ましくは鏡面)でないと基板に入射したレーザ光の屈折状態が安定せずに、集光点を結びにくい状態となる。これによれば、レーザ照射工程では、基板の接合面に対して反対側の表面から切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射する。接合面に形成された凹部の内底面を平坦な状態にすることは加工が複雑となり困難である。よって、基板の接合面に対して反対側の表面からレーザ光を照射することにより、切断予定ライン上に沿った基板内部に安定的に集光点を結ばせることができる。すなわち、基板の厚み方向に内部改質層を安定的に形成して、積層構造体を容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、レーザ光の集光点を基板の厚み方向に順次ずらして切断予定ライン上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続した内部改質層を形成することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、基板の厚み方向に連続した内部改質層が形成されるため、基板が厚い状態であっても外部応力を加えれば内部改質層を境にして分割することができる。すなわち切断予定ラインを外れた外形不良の発生を低減して、積層構造体を容易に且つ歩留まりよく取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
本発明の他の積層構造体の製造方法は、第1の構造体と第2の構造体とが接着層を介して積層された積層構造体の製造方法であって、第1の基板に第1の構造体を複数区画形成する工程と、第2の基板に第2の構造体を複数区画形成する工程と、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、第1の構造体と第2の構造体とが積層されてなる積層構造体を区画する領域において分割するための切断予定ライン上に沿って凹部を形成する凹部形成工程と、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、凹部を避けて接着層を形成して、第1の基板と第2の基板とを接合する接合工程と、第1の基板および第2の基板は、レーザ光を透過する部材からなり、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射して、第1の基板と第2の基板の厚み方向に内部改質層を形成するレーザ照射工程とを備えたことを特徴とする。
この方法によれば、接合工程では、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に切断予定ライン上に沿って形成された凹部を避けて接着層を形成し、第1の基板と第2の基板とが接合される。よって、レーザ照射工程では、接着層が介在しない凹部の切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射して第1の基板と第2の基板の厚み方向に内部改質層が形成される。したがって、接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として各基板を分割することができる。すなわち、接合された第1の基板と第2の基板とに区画形成された積層構造体を接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
上記凹部形成工程では、凹部の深さが接着層の厚みよりも大きくなるように凹部を形成し、接合工程では、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、接着層を転写して形成することが好ましい。これによれば、凹部は、その深さが接着層の厚みよりも大きくなるように形成される。したがって、接合工程で、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に接着層を転写すれば、接着層は、凹部の内底面まで届かないので、凹部のほぼ幅方向に渡って接着層が介在しない状態で、第1の基板と第2の基板とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程で、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、接着層がない部分でスクライブが可能となり、より接着層に影響されずに区画形成された積層構造体を容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、第1の基板と第2の基板のそれぞれにおいて、接合面に対して反対側の表面から切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、接合面側に形成された凹部をレーザ光が通過することなく、第1の基板と第2の基板の内部に集光点を安定的に結ぶことができる。したがって、第1の基板と第2の基板のそれぞれの厚み方向に内部改質層を安定的に形成して、区画形成された積層構造体を容易に取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、第1の基板と第2の基板のそれぞれにおいて、レーザ光の集光点を厚み方向に順次ずらして切断予定ライン上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続した内部改質層を形成することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、各基板の厚み方向に連続した内部改質層が形成されるため、各基板が厚い状態であっても外部応力を加えれば内部改質層を境にして分割することができる。すなわち切断予定ラインを外れた外形不良の発生を低減して、区画形成された積層構造体を容易に且つ歩留まりよく取り出すことが可能な積層構造体の製造方法を提供することができる。
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、封止室を有する封止基板と、複数のアクチュエータを有するアクチュエータ部と複数のアクチュエータに対応する複数の圧力発生室とを有するアクチュエータ基板と、複数のノズルを有するノズルプレートとを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、第1の基板に封止室を複数区画形成する工程と、第2の基板にアクチュエータ部を複数区画形成する工程と、第1の基板の接合面側に、封止基板を区画する領域において分割する切断予定ライン上に沿って凹部を形成する凹部形成工程と、第1の基板の接合面側に凹部を避けて第1の接着層を形成し、第1の基板と第2の基板とを封止室により複数のアクチュエータを封止するように第1の接着層を介して接合する接合工程と、第1の基板が接合された第2の基板に複数の圧力発生室を形成すると共に、アクチュエータ基板を区画する領域をエッチングにより除去する工程と、第2の基板とノズルプレートとを圧力発生室にノズルが連通するように第2の接着層を介して接合する工程とを有し、第1の基板および第2の基板は、レーザ光を透過する部材からなり、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射して、第1の基板の厚み方向に内部改質層を形成するレーザ照射工程とを備えたことを特徴とする。
この方法によれば、接合工程では、第1の基板の接合面側に切断予定ライン上に沿って形成された凹部を避けて第1の接着層を形成し、第1の基板と第2の基板とが接合される。よって、レーザ照射工程では、第1の接着層が介在しない凹部の切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射して第1の基板の厚み方向に内部改質層が形成される。したがって、第1の接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として第1の基板を分割することができる。また、第2の基板に複数区画形成されたアクチュエータ基板は、エッチングにより区画された領域が除去される。すなわち、アクチュエータ基板とノズルプレートとが接着接合された第1の基板をレーザ光の照射によりスクライブして、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
上記凹部形成工程では、凹部の深さが第1の接着層の厚みよりも大きくなるように凹部を形成し、接合工程では、第1の基板の接合面側に第1の接着層を転写して形成することが好ましい。これによれば、凹部は、その深さが第1の接着層の厚みよりも大きくなるように形成される。したがって、接合工程で、凹部が形成された第1の基板の接合面側に第1の接着層を転写すれば、第1の接着層は、凹部の内底面まで届かないので、凹部のほぼ幅方向に渡って第1の接着層が介在しない状態で、第1の基板と第2の基板とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程で、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、第1の接着層が介在しない部分でスクライブが可能となり、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、第1の基板の接合面に対して反対側の表面から切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、接合面側に形成された凹部をレーザ光が通過することなく、第1の基板の内部に集光点を安定的に結ぶことができる。したがって、第1の基板の厚み方向に内部改質層を安定的に形成して、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、レーザ光の集光点を第1の基板の厚み方向に順次ずらして切断予定ラインに沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続した内部改質層を形成することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、第1の基板の厚み方向に連続した内部改質層が形成されるため、第1の基板が厚い状態であっても外部応力を加えれば内部改質層を境にして分割することができる。すなわち切断予定ラインを外れた外形不良の発生を低減して、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に且つ歩留まりよく取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
本発明の他の液滴吐出ヘッドの製造方法は、封止室を有する封止基板と、複数のアクチュエータを有するアクチュエータ部と複数のアクチュエータに対応する複数の圧力発生室とを有するアクチュエータ基板と、複数のノズルを有するノズルプレートとを備えた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、第1の基板に封止室を複数区画形成する工程と、第2の基板にアクチュエータ部を複数区画形成する工程と、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、封止基板とアクチュエータ基板とが積層される液滴吐出ヘッドを区画する領域において分割する切断予定ライン上に沿って凹部を形成する凹部形成工程と、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、凹部を避けて第1の接着層を形成して、第1の基板と第2の基板とを封止室により複数のアクチュエータを封止するように第1の接着層を介して接合する接合工程と、第1の基板が接合された第2の基板に複数の圧力発生室を形成する工程と、第2の基板とノズルプレートとを圧力発生室にノズルが連通するように第2の接着層を介して接合する工程とを有し、第1の基板および第2の基板は、レーザ光を透過する部材からなり、レーザ光を切断予定ライン上に沿って照射して、第1の基板と第2の基板の厚み方向に内部改質層を形成するレーザ照射工程とを備えたことを特徴とする。
この方法によれば、接合工程では、第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に切断予定ライン上に沿って形成された凹部を避けて第1の接着層を形成し、第1の基板と第2の基板とが接合される。よって、レーザ照射工程では、第1の接着層が介在しない凹部の切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射して第1の基板と第2の基板の厚み方向にそれぞれ内部改質層が形成される。したがって、第1の接着層が介在しない部分で該内部改質層を起点として各基板を分割することができる。すなわち、接着接合された第1の基板と第2の基板をレーザ光の照射によりスクライブして、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
上記凹部形成工程では、凹部の深さが第1の接着層の厚みよりも大きくなるように凹部を形成し、接合工程では、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に、第1の接着層を転写して形成することが好ましい。これによれば、凹部は、その深さが第1の接着層の厚みよりも大きくなるように形成される。したがって、接合工程で、凹部が形成された第1の基板と第2の基板のうちいずれか一方の接合面側に第1の接着層を転写すれば、第1の接着層は、凹部の内底面まで届かないので、凹部のほぼ幅方向に渡って第1の接着層が介在しない状態で、第1の基板と第2の基板とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程で、切断予定ラインを多少外れてレーザ光が照射されても、第1の接着層が介在しない部分でスクライブが可能となり、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、第1の基板と第2の基板のそれぞれにおいて、接合面に対して反対側の表面から切断予定ライン上に沿ってレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、接合面側に形成された凹部をレーザ光が通過することなく、第1の基板と第2の基板の内部に集光点を安定的に結ぶことができる。したがって、第1の基板と第2の基板の厚み方向にそれぞれ内部改質層を安定的に形成して、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
また、上記レーザ照射工程では、第1の基板と第2の基板のそれぞれにおいて、レーザ光の集光点を厚み方向に順次ずらして切断予定ライン上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続した内部改質層を形成することが好ましい。これによれば、レーザ照射工程では、第1の基板と第2の基板の厚み方向に連続した内部改質層が形成されるため、第1の基板や第2の基板が厚い状態であっても外部応力を加えれば内部改質層を境にして分割することができる。すなわち切断予定ラインを外れた外形不良の発生を低減して、封止基板とアクチュエータ基板とノズルプレートとが積層された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずに容易に且つ歩留まりよく取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
これらの発明の液滴吐出ヘッドの製造方法では、上記凹部形成工程において第1の基板の接合面側に凹部を形成する場合、第1の基板に封止室を複数区画形成する工程にて、封止室と同時に凹部をエッチングによって形成することが好ましい。これによれば、第1の基板に封止室を複数区画形成する工程で同時に凹部を形成すれば、封止室の深さに対して略同等な凹部を形成することができる。すなわち、新たな加工工程を必要とせずに、より効率的に凹部を形成して、区画形成された液滴吐出ヘッドを第1の接着層に影響されずにレーザ光の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
本発明の実施形態は、レーザ光を透過する基板を含む積層構造体基板としての液滴吐出ヘッド基板、積層構造体としての液滴吐出ヘッドの製造方法を例に説明する。
(実施形態1)
(液滴吐出ヘッド)
図1は、液滴吐出ヘッドの構造を示す要部分解斜視図である。図1に示すように積層構造体としての液滴吐出ヘッド10は、第1の構造体としての封止基板1と、アクチュエータとしての圧電体能動部6が複数並設されたアクチュエータ部としての薄膜ピエゾ2と、複数の圧電体能動部6に対応して形成された複数の圧力発生室3aを有する第2の構造体としてのアクチュエータ基板3と、複数のノズル4aを有するノズルプレート4とを備えている。
封止基板1は、厚みおよそ400μmの面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、一方の表面側に窪む封止室1aと厚み方向に貫通する共通液体室1bとを有している。
封止基板1の他方の表面(図中上側)には、可撓性材料からなる封止膜5aと共通液体室1bに対応した開口部5cを有する固定板5bとにより構成されたコンプライアンス基板5が接合されている。
薄膜ピエゾ2は、アクチュエータ基板3の一方の表面に形成されるものであり、まず熱酸化により厚さおよそ1〜2μmのシリコン酸化膜からなる弾性膜2aを形成する。その上に、蒸着法あるいはスパッタ法により、厚さおよそ0.2μmの白金からなる下電極膜2bと、厚さおよそ1μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層6aと、厚さ0.1μmの白金からなる上電極膜6bとが順に積層されている。
下電極膜2bは、薄膜ピエゾ2の共通電極の機能を果たしている。その上に積層される圧電体層6aと上電極膜6bは、アクチュエータ基板3に形成される複数の圧力発生室3aに対応してパターニング形成され、圧電体能動部6を構成している。また、封止基板1の共通液体室1bに連通する連通部2cがパターニング形成され開口している。そして、上電極膜6bには、金等からなるリード電極6cがアクチュエータ基板3の端部まで延設されている。
アクチュエータ基板3は、厚みおよそ70μmの面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、隔壁3bによって複数区画形成された圧力発生室3aと、各圧力発生室3aに液体を送り込むための流路となるオリフィス3eと、封止基板1の共通液体室1bに繋がる連通口3cを備えた連通部3dとを有している。また、ノズルプレート4に面する表面3gには、熱酸化により絶縁膜3fが形成されている。絶縁膜3fは、これをエッチングしてパターニングすることにより、後に圧力発生室3a、連通部3d、オリフィス3eをエッチング形成する際のマスクとして用いられる。
ノズルプレート4は、ステンレス等の金属薄板であり、アクチュエータ基板3の複数の圧力発生室3aに対応した複数のノズル4aが開口している。
図2は、液滴吐出ヘッドの構造を示す概略断面図である。図2に示すように、実際の液滴吐出ヘッド10は、図1に示した積層構造体が2つ配列した状態のものであり、ノズルプレート4に複数のノズル4aが2列に設けられた、所謂2連のものである。
封止基板1は、薄膜ピエゾ2の複数の圧電体能動部6を封止室1aにより封止するようにアクチュエータ基板3に第1の接着層としての接着層9を介して接合されている。また、ノズルプレート4は、複数のノズル4aが各圧力発生室3aに連通するようにアクチュエータ基板3に第2の接着層としての接着層11を介して接合されている。
封止基板1の表面1cには、圧電体能動部6を駆動するための駆動用IC(図示省略)が能動面を上方に向けて平面実装される。そして、中央側に露出したリード電極6cと駆動用ICとがワイヤーボンディングにより接続される構造となっている。
このような液滴吐出ヘッド10は、封止膜5aと固定板5bとからなるコンプライアンス基板5の一部に配管(図示省略)が接続され、共通液体室1bに配管を通じて液体が導入される。導入された液体は、薄膜ピエゾ2の連通部2cとアクチュエータ基板3の連通部3dおよびオリフィス3eを通じて各圧力発生室3aに充填される。駆動用ICから圧電体能動部6に電圧が印加されると、圧電体能動部6が撓むことにより圧力発生室3aの体積が変化し、充填された液体に圧力が加わってノズル4aから液体が液滴として吐出される。
(積層構造体基板としての液滴吐出ヘッド基板)
次に積層構造体基板としての液滴吐出ヘッド基板について説明する。図3は、液滴吐出ヘッド基板を示す概略平面図である。図3に示すように、本実施形態の液滴吐出ヘッド基板100は、封止基板1が複数区画形成された第1の基板101と、アクチュエータ基板3が複数区画形成された第2の基板103と、アクチュエータ基板3に対応した2連のノズル列4bを備えるノズルプレート4とが順次積層され接合されている。また、図示しないが図3の背面側には、同様にそれぞれコンプライアンス基板5が接合されている。すなわち、液滴吐出ヘッド基板100には、複数の液滴吐出ヘッド10が区画形成された状態となっている。図3の斜線部は、個々の液滴吐出ヘッド10を区画する領域102を示している。
図3に示すように液滴吐出ヘッド10は、XおよびY方向に並列して区画形成されていると共に、液滴吐出ヘッド基板100の形成領域を有効に利用するために部分的に千鳥状に区画形成されている。このような液滴吐出ヘッド基板100から液滴吐出ヘッド10を取り出すには、領域102を通過する切断予定ライン40に沿ってスクライブ(分割)する必要がある。したがって、回転するブレードを用いて切断予定ライン40に沿って切り込むダイシング法では、複数区画形成されたすべての液滴吐出ヘッド10を分割して取り出すことができない。
この場合、第1の基板101と第2の基板103は、いずれもシリコン単結晶基板からなり、YAGなどのレーザ光を透過する。
そして、接着層9を介して第2の基板103と接合された第1の基板101の接合面には、第1の基板101を区画する領域102において、切断予定ライン40上に沿って凹部7(図5参照)が設けられている。凹部7の切断予定ライン40上には、接着層9が介在しない状態で、第1の基板101と第2の基板103とが接合されている。第2の基板103に複数区画形成されたアクチュエータ基板3は、エッチングによって領域102に対応する部分が取り除かれている。凹部7の切断予定ライン40上に接着層9が介在していると、接着層9自体をレーザ光の照射により分割することができない。本実施形態の液滴吐出ヘッド基板100は、切断予定ライン40上に沿ってレーザ光を照射して、第1の基板101の厚み方向に内部改質層を形成し、これを起点として分割することにより、接着層9の影響を受けずに液滴吐出ヘッド10を容易に取り出すことを可能としたものである。
(液滴吐出ヘッドの製造方法)
次に積層構造体としての液滴吐出ヘッドの製造方法について、図4から図6に基づいて説明する。図4は、液滴吐出ヘッドの製造方法を示すフローチャートである。図5(a)〜(f)は、液滴吐出ヘッドの製造方法を示す概略断面図である。図6は、分割された基板の断面を示す斜視図である。
図4に示すように液滴吐出ヘッド10の製造方法は、第1の基板101の接合面側に、封止室1aを複数区画形成すると同時に、封止基板1を区画する領域102において分割する切断予定ライン40上に沿って凹部7を形成する凹部形成工程(ステップS1)とを備えている。また、第1の基板101の接合面側に凹部7を避けて接着層9を形成し、第1の基板101と第2の基板103とを接着層9を介して接合する接合工程(ステップS2)を備えている。そして、第1の基板101が接合された第2の基板103に複数の圧力発生室3aを形成すると共に、アクチュエータ基板3を区画する領域102をエッチングにより除去する工程(ステップS3)を備えている。さらに、第2の基板103とノズルプレート4とを接着層11を介して接合する工程(ステップS4)と、レーザ光を切断予定ライン40上に沿って照射して、第1の基板101の厚み方向に内部改質層を形成するレーザ照射工程(ステップS6)とを備えている。尚、第2の基板103に薄膜ピエゾ2を複数区画形成する工程は、説明上省略している。
図4のステップS1は、封止室1aと凹部7とをほぼ同時に形成する工程である。ステップS1では、図5(a)に示すように、第1の基板101の接合面1dをマスキングして異方性エッチングあるいはドライエッチングすることにより、封止室1aと凹部7とを形成する。これにより、封止室1aの深さとほぼ同等な深さを有する凹部7が形成される。この場合の封止室1aの深さは、接合に用いられる接着層9の厚みよりも大きく(深く)、後に封止室1aにより封止される圧電体能動部6の撓み運動を阻害しないおよそ60〜80μmである。次にこれらの形成面をマスキングしてドライエッチングすることにより封止基板1を貫通する共通液体室1bを形成する。尚、この場合、凹部7の幅は、封止基板1を区画する領域102の幅とほぼ同等であり、およそ160μmである。そして、ステップS2へ進む。
図4のステップS2は、第1の基板101と第2の基板103とを接合する工程である。ステップS2では、図5(b)に示すように、封止基板1が複数区画形成された第1の基板101と薄膜ピエゾ2が複数区画形成された第2の基板103とを封止室1aにより複数の圧電体能動部6を封止するように接合する。接合の方法としては、常温硬化型エポキシ樹脂を厚みおよそ2μmとなるようにコーティングした支持体を第1の基板101の接合面1dに貼り付けて剥がすことにより常温硬化型エポキシ樹脂からなる接着層9を転写する方法を用いる。これにより、接着層9は、接着層9の厚みよりも深く窪んでいる封止室1aや凹部7の内壁部に付着せず、第2の基板103との接合面1dのみに転写される。そして、所定の位置で第1の基板101と第2の基板103とを貼り合わせて常温放置することにより接着接合する。
第2の基板103は、あらかじめ厚みおよそ200μmのシリコン単結晶基板を用いて、その表面に薄膜ピエゾ2を形成しておく。そして、厚みおよそ400μmの第1の基板101と接合した後に、厚みがおよそ70μmとなるようにCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により研磨する。尚、凹部7の切断予定ライン40上に接着層9が付着しないように、第1の基板101の接合面1dに常温硬化型エポキシ樹脂からなる接着剤を定量吐出法あるいは印刷法などにより塗布してから接着する方法を用いてもよい。そして、ステップS3へ進む。
図4のステップS3は、圧力発生室3aを形成する工程である。ステップS3では、図5(c)に示すように、第2の基板103の一方の表面3gに形成された絶縁膜3fをパターニングしてマスクとすることにより、異方性エッチングして圧力発生室3a、連通部3d、オリフィス3eを形成する。また、同時にアクチュエータ基板3を区画する領域102をエッチングして分割しておく。そして、ステップS4へ進む。
図4のステップS4は、ノズルプレート4を接合する工程である。ステップS4では、図5(d)に示すように、ノズルプレート4を第2の基板103に区画形成された圧力発生室3aにノズル4aが連通するように接着層11を介して接合する。接合方法は、ステップS2と同様にして第2の基板103の表面3gに常温硬化型エポキシ樹脂からなる接着剤を転写することにより接着層11を形成してノズルプレート4と接着接合する。そして、ステップS5へ進む。
図4のステップS5は、コンプライアンス基板5を接合する工程である。ステップS5では、図5(d)に示すように、第1の基板101に区画形成された封止基板1の共通液体室1bの開口部に合わせて封止膜5aを接着する。そして固定板5bを貼り付けることにより封止膜5aを額縁状に押える。これにより、最も厚みが厚い第1の基板101を支持基板として、アクチュエータ基板3と、ノズルプレート4と、コンプライアンス基板5とが順次積層された積層構造体基板としての液滴吐出ヘッド基板100が出来上がる。そして、ステップS6へ進む。
図4のステップS6は、レーザ光を照射する工程である。ステップS6では、第1の基板101に形成された封止基板1を区画する領域102において、接合面1dに対して反対側の表面1cから切断予定ライン40上に沿ってレーザ光30を照射する。第1の基板101に入射したレーザ光30は、屈折して内部に集光点31を結ぶ。レーザ光30の集光点31では、多光子吸収が起きて内部改質層が形成される。
ここで多光子吸収による改質領域の形成について説明する。加工対象物が透明な材料であっても、材料の吸収のバンドギャップEgよりも光子のエネルギーhνが非常に大きいと吸収が生じる。これを多光子吸収と言い、レーザ光のパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収により局所的に加熱された溶融処理領域が形成される。あるいは、多光子吸収のエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、イオン価数変化、結晶化または分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。本実施形態では、この溶融処理領域や屈折率変化領域を改質領域と呼ぶ。
レーザ光30の照射方法は、第1の基板101がシリコン単結晶基板であるため、例えば特開2002−192367号公報に開示されているように、レーザ光源として波長1064nm、パルス幅30nsのYAGレーザを用い、出力を20μJ/パルスに設定する。そして、倍率50倍、N.A(開口数)0.55の集光レンズを用いて集光して照射する。このようにすれば、集光点31における電界強度が1×108W/cm2以上となり、シリコン単結晶基板に内部改質領域(溶融処理領域)を形成することができる。
このような内部改質領域を安定的に形成するには、第1の基板101の内部でレーザ光30が安定して集光点31を結ぶ必要がある。そのためには、レーザ光30を第1の基板101の表面1cから照射するのが好ましい。第1の基板101の表面1cは鏡面状態となっており、入射したレーザ光30がほぼ一定した角度で屈折して内部に安定的に集光点31を結ぶ。仮に凹部7を通過するようにレーザ光30を入射させると、凹部7の内壁面は、鏡面状態ではないので、集光点31が不安定となる。
また、より確実に切断予定ライン40に沿って第1の基板101を分割するには、レーザ光30の集光点31を第1の基板101の厚み方向に順次ずらして切断予定ライン40上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続した内部改質層を形成することが好ましい。これにより、第1の基板101が厚い状態であっても外部応力を加えれば内部改質層を境にして容易に分割することが可能となる。すなわち切断予定ライン40を外れた外形不良の発生を低減して、液滴吐出ヘッド10を容易に且つ歩留まりよく取り出すことが可能である。そして、ステップS7へ進む。
図4のステップS7は、分割工程である。ステップS7では、図5(f)に示すように、切断予定ライン40をほぼ中心にして、図面上左右に第1の基板101を分割する応力を加える。これにより、図6に示すように領域102で区画された液滴吐出ヘッド10が厚み方向に連続して形成された内部改質層50を境にして分割される。すなわち、液滴吐出ヘッド基板100から複数の液滴吐出ヘッド10を接着層9に影響されず分割して取り出すことができる。
尚、本実施形態では、液滴吐出ヘッド基板100の第1の基板101と第2の基板103は、いずれもレーザ光30を透過可能なシリコン単結晶基板を用いたが、透明なホウ珪酸ガラスを用いることも可能である。その場合、レーザ光の照射方法としては、レーザ光源として波長1064nm、パルス幅30nsのYAGレーザを用い、出力を1mJ/パルス程度とする。あるいは、例えばチタンサファイアを固体光源とするレーザ光をフェムト秒のパルス幅で照射するフェムト秒レーザを用いてもよい。これによりガラス基板に内部改質層(屈折率変化領域)を形成することが可能である。
また、この場合、第2の基板103に区画形成されたアクチュエータ基板3は、ステップS3の圧力発生室3aを形成する工程で、アクチュエータ基板3を区画する領域102をエッチングして分割される。したがって、少なくとも第1の基板101がレーザ光30を透過可能であればよい。よって、第2の基板103の材料選択の幅が広い。
上記実施形態1の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド基板100は、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102において、第1の基板101の接合面1d側に設けられた凹部7の切断予定ライン40上には接着層9が介在しない状態で第1の基板101と複数のアクチュエータ基板3とが接着接合されている。したがって、レーザ光30を切断予定ライン40上に沿って照射し、第1の基板101の厚み方向に内部改質層50を形成すれば、接着層9が介在しない部分で該内部改質層50を起点として第1の基板101を分割することができる。すなわち、区画形成された液滴吐出ヘッド10を接着層9に影響されずにレーザ光30の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッド基板100を提供することができる。また、接合面1dに凹部7が設けられ、第1の基板101と第2の基板103とを接合する際に、転写法により接着層9が形成すれば、凹部7の少なくとも切断予定ライン40上に接着層9が介在しない構成を容易に実現した液滴吐出ヘッド基板100を提供することができる。
(2)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド基板100において、凹部7は、接着層9の厚み(およそ2μm)よりも深く、封止室1aと同等な深さ(およそ60〜80μm)を有している。したがって、第1の基板101と第2の基板103とを接合する際に、転写法により接着層9を形成すれば、凹部7の幅方向においてほぼ接着層9が介在しない状態を実現し、レーザ光30の集光点31の位置が切断予定ライン40に対して多少ずれたとしても、接着層9に影響されずに液滴吐出ヘッド10を取り出すことができる。
(3)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド10の製造方法において、封止室および凹部形成工程(ステップS1)では、第1の基板101の接合面側に封止室1aと凹部7とを同時にエッチング形成する。接合工程(ステップS2)では、第1の基板101の接合面側に接着層9を転写して形成する。これによれば、凹部7は、その深さが接着層9の厚みよりも大きく、封止室1aと同等となるように形成される。したがって、接合工程で、転写された接着層9は凹部7の内底面まで届かないので、凹部7のほぼ幅方向に渡って接着層9が介在しない状態で、第1の基板101と第2の基板103とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程(ステップS6)で、切断予定ライン40を多少外れてレーザ光30が照射されても、接着層9が介在しない部分でスクライブ(分割)が可能となり、封止基板1とアクチュエータ基板3とノズルプレート4とが積層された液滴吐出ヘッド10を接着層9に影響されずに容易に取り出すことができる。
(4)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド10の製造方法において、レーザ照射工程(ステップS6)では、第1の基板101の表面1cからレーザ光30を照射する。また、第1の基板101の厚み方向に集光点31の位置を順次ずらして、切断予定ライン40上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、厚み方向に連続する内部改質層を形成する。したがって、エッチング形成された凹部7側からレーザ光30を照射しないので、表面の凹凸に影響されず集光点31を安定的に結び、厚み方向に連続形成された内部改質層を境にして第1の基板101を分割することができる。すなわち、外形不良の発生を低減して液滴吐出ヘッド基板100から歩留まりよく液滴吐出ヘッド10を取り出すことができる。
(実施形態2)
(他の液滴吐出ヘッド基板)
次に他の実施形態の液滴吐出ヘッド基板について説明する。実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200(図8参照)は、実施形態1の液滴吐出ヘッド10が複数区画形成されている点では同一であるが、凹部の形成状態が異なる。実施形態1と同一な構成の部分は、同一の符号を付して説明する。
本実施形態の液滴吐出ヘッド基板200は、複数の圧電体能動部6と複数の圧電体能動部6に対応する複数の圧力発生室3aとを有するアクチュエータ基板3が複数区画形成された第2の基板103と、封止室1aを有する封止基板1が複数区画形成された第1の基板101とを備えている。そして、封止室1aにより複数の圧電体能動部6を封止するように接着層9を介して第1の基板101と第2の基板103とを接合させている。さらに、複数のノズル4aが形成されたノズルプレート4を備え、複数の圧力発生室3aに連通するように接着層11を介して第2の基板103とノズルプレート4とを接合させている。接合された封止基板1とアクチュエータ基板3とを有する液滴吐出ヘッド10を区画する領域102において、第1の基板101と第2の基板103の接合面側には、レーザ光30を照射して分割するための切断予定ライン40上に凹部7,8が設けられ、凹部7,8の少なくとも切断予定ライン40上には接着層9が介在しない状態で第1の基板101と第2の基板103とが接着接合されている。凹部7,8は、接合面に対して向かい合うように設けられている。
すなわち本実施形態の液滴吐出ヘッド基板200は、切断予定ライン40上に沿って第1の基板101の表面1cと第2の基板103の表面3gの方向からそれぞれレーザ光30を照射して、第1の基板101と第2の基板103の厚み方向にそれぞれ内部改質層50を形成し、これを起点として分割することにより、接着層9の影響を受けずに液滴吐出ヘッド10を容易に取り出すことを可能としたものである。
(他の液滴吐出ヘッドの製造方法)
次に本実施形態の他の液滴吐出ヘッドの製造方法について、図7および図8を基に説明する。図7は、実施形態2の液滴吐出ヘッドの製造方法を示すフローチャートである。図8(a)〜(f)は、実施形態2の液滴吐出ヘッドの製造方法を示す概略断面図である。
本実施形態の他の液滴吐出ヘッド10の製造方法は、図7に示すように、第1の基板101の接合面側に封止室1aを複数区画形成すると同時に、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102において分割する切断予定ライン40上に沿って凹部7を形成する凹部形成工程(ステップS11)を備えている。そして、第2の基板103の接合面側に、同じく切断予定ライン40上に沿って凹部8を形成する凹部形成工程(ステップS12)とを備えている。また、凹部7が形成された第1の基板101の接合面側に、凹部7を避けて接着層9を形成して、第1の基板101と第2の基板103とを接着層9を介して接合する接合工程(ステップS13)を備えている。さらに、第1の基板101が接合された第2の基板103に複数の圧力発生室3aを形成する工程(ステップS14)と、第2の基板103とノズルプレート4とを接着層11を介して接合する工程(ステップS15)とを備えている。第1の基板101および第2の基板103は、レーザ光30を透過する部材からなり、レーザ光30を切断予定ライン40上に沿って照射して、第1の基板101と第2の基板103の厚み方向にそれぞれ内部改質層を形成するレーザ照射工程(ステップS17)を備えている。尚、第2の基板103に薄膜ピエゾ2を複数区画形成する工程は省略している。実施形態1と同じ工程は説明を簡略化し、異なる工程につき詳細に説明する。
図7のステップS11は、封止室1aと凹部7とをほぼ同時に形成する工程である。ステップS11では、図5(a)に示した実施形態1のステップS1と同様に、第1の基板101の接合面1dに封止室1aと凹部7とを形成する。これにより、封止室1aの深さとほぼ同等な深さを有する凹部7が形成される。次に封止基板1を貫通する共通液体室1bを形成する。そして、ステップS12へ進む。
図7のステップS12は、アクチュエータ基板3側(第2の基板103側)に凹部8を形成する工程である。ステップS12では、図8(a)に示すように、複数の圧電体能動部6を有する薄膜ピエゾ2が複数区画形成された第2の基板103の接合面3hにおいて、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102の切断予定ライン40上に沿って凹部8を形成する。形成方法としては、第2の基板103の接合面3hをマスキングして異方性エッチングまたはドライエッチングする方法が挙げられる。この場合の凹部8の深さは、30〜40μmである。幅は、領域102の幅とほぼ同等な160μmである。そして、ステップS13へ進む。
図7のステップS13は、第1の基板101と第2の基板103とを接合する工程である。ステップS13では、図8(b)に示すように、封止基板1が複数区画形成された第1の基板101と薄膜ピエゾ2が複数区画形成された第2の基板103とを封止室1aにより複数の圧電体能動部6を封止するように接合する。接合の方法としては、実施形態1のステップS2と同様に常温硬化型エポキシ樹脂からなる厚みおよそ2μmの接着層9を第1の基板101の接合面に転写する方法を用いる。これにより、接着層9は、接着層9の厚みよりも深く窪んでいる封止室1aや凹部7の内壁部に付着せず、第2の基板103との接合面1dにのみに転写される。これにより、対向する凹部7と凹部8との間には接着層9が介在しない状態で第1の基板101と第2の基板103とが接着接合される。さらに第2の基板103の厚みがおよそ70μmとなるようにCMP法により研磨する。尚、この場合も、凹部7の切断予定ライン40上に接着層9が付着しないように、第1の基板101の接合面に常温硬化型エポキシ樹脂からなる接着剤を定量吐出法あるいは印刷法などにより塗布してから接着する方法を用いてもよい。そして、ステップS14へ進む。
図7のステップS14は、圧力発生室3aを形成する工程である。ステップS14では、図8(c)に示すように、実施形態1のステップS3と同様に第2の基板103の一方の表面を異方性エッチングして圧力発生室3a、連通部3d、オリフィス3eを形成する。この場合、実施形態1のステップS3と異なり、アクチュエータ基板3を領域102においてエッチング分割しない。したがって、厚みおよそ400μmの支持基板としての第1の基板101に厚みおよそ70μmの第2の基板103が接合された状態となり、実施形態1に比べて取り扱い上の強度を高い状態とすることができる。そして、ステップS15へ進む。
図7のステップS15は、ノズルプレート4を接合する工程である。ステップS15では、図8(d)に示すように、実施形態1のステップS4と同様にして、ノズルプレート4を第2の基板103に区画形成された圧力発生室3aにノズル4aが連通するように接着層11を介して接合する。そして、ステップS16へ進む。
図7のステップS16は、コンプライアンス基板5を接合する工程である。ステップS16では、図8(d)に示すように、実施形態1のステップS5と同様にして、第1の基板101の表面1cに開口した共通液体室1bに合わせて、封止膜5aと固定板5bとからなるコンプライアンス基板5を接合する。これにより、最も厚みが厚い第1の基板101を支持基板として、第2の基板103と、ノズルプレート4と、コンプライアンス基板5とが順次積層された積層構造体基板としての液滴吐出ヘッド基板200が出来上がる。この状態では、アクチュエータ基板3はまだ分割されていないので、取り扱い上の強度が確保され、実施形態1の液滴吐出ヘッド基板100に比べて取り扱いで破損不良が生ずることを低減した。そして、ステップS17へ進む。
図7のステップS17は、レーザ照射工程である。ステップS17では、図8(e)に示すように、まず、第2の基板103の表面3gからレーザ光30を入射させ、厚み方向に集光点31の位置を順次ずらしながら切断予定ライン40に沿って走査を繰り返すレーザ照射を行う。これにより、第2の基板103の厚み方向に連続する内部改質層を形成する。次に、第1の基板101の表面1cからレーザ光30を入射させ、厚み方向に集光点31の位置を順次ずらしながら切断予定ライン40に沿って走査を繰り返すレーザ照射を行う。これにより、第1の基板101の厚み方向に連続する内部改質層を形成する。レーザ光30の照射方法は、実施形態1のステップS6と同様である。そして、ステップS18へ進む。
図7のステップS18は、分割工程である。ステップS18では、図8(f)に示すように、実施形態1のステップS7と同様にして、切断予定ライン40をほぼ中心にして図面上左右に液滴吐出ヘッド基板200を分割する応力を加える。これにより、第1の基板101と第2の基板103の厚み方向に連続して形成されたそれぞれの内部改質層50を境にして液滴吐出ヘッド10が分割される。すなわち、液滴吐出ヘッド基板200から複数の液滴吐出ヘッド10を接着層9の影響を受けず分割して取り出すことが可能である。
尚、本実施形態では、第1の基板101と第2の基板103の接合面において対向するように凹部7,8を形成したが、これに限定されない。例えば、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102において、第1の基板101と第2の基板103のうちいずれか一方の接合面に切断予定ライン40上に沿って凹部を形成してもよい。
第1の基板101の接合面1dに凹部7を形成する場合は、封止室1aを形成すると同時に形成するのが好ましいので、凹部7の深さは、封止室1aとほぼ同等なおよそ60〜80μmとなり、十分に接着層9の厚み2μmよりも大きくなる。また、第1の基板101に接合された複数のコンプライアンス基板5の間隔はおよそ160μmであり、集光されたレーザ光30は、コンプライアンス基板5によって遮光されずに入射し屈折して、第1の基板101の厚み方向に集光点31を結ぶことができる。すなわち、厚み方向に連続した内部改質層50の形成が可能である。
第2の基板103の接合面3hに凹部8を形成する場合は、凹部8の深さが接着層9の厚み2μmよりも大きく、少なくとも5μm程度の深さとなるように形成することが好ましい。また、第2の基板103に接合された複数のノズルプレート4の間隔はおよそ160μmであり、集光されたレーザ光30は、ノズルプレート4によって遮光されずに入射し屈折して、第2の基板103の厚み方向に集光点31を結ぶことができる。すなわち、厚み方向に連続した内部改質層50の形成が可能である。
本実施形態では、第1の基板101と第2の基板103はいずれもレーザ光30を透過可能なシリコン単結晶基板を用いたが、実施形態1で説明したように透明なホウ珪酸ガラスを用いることも可能である。したがって、照射するレーザ光源の波長や入射角度、各基板101,103に用いられる材料のレーザ光30に対する屈折率によって、集光点31を結ぶ位置が異なる。また、レーザ光30を遮光するノズルプレート4やコンプライアンス基板5等の積層体の位置関係(この場合は、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102の幅)によって入射角度が制限される。よって、これらを考慮して凹部7,8の深さを決めることが好ましい。例えば、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102の幅が狭くて、レーザ光30が各基板の厚み方向に届かないときは、凹部7,8をレーザ光30が届く深さとなるように形成する。
上記実施形態2の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200は、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102において、第1の基板101と第2の基板103の接合面側に設けられた凹部7,8の少なくとも切断予定ライン40上には接着層9が介在しない状態で第1の基板101と第2の基板103とが接着接合されている。したがって、レーザ光30を切断予定ライン上に沿って照射し、各基板101,103の厚み方向に内部改質層を形成すれば、接着層9が介在しない部分で該内部改質層を起点として各基板101,103を分割することができる。すなわち、区画形成された液滴吐出ヘッド10を接着層9に影響されずにレーザ光30の照射によりスクライブして容易に取り出すことが可能な液滴吐出ヘッド基板200を提供することができる。また、第1の基板101と第2の基板103とを接合する際に、接合面に対向するように凹部7,8が設けられているので、転写法により接着層9を第1の基板101の接合面側に形成すれば、対向する凹部7,8の少なくとも切断予定ライン40上には接着層9が介在しない状態を容易に構成した液滴吐出ヘッド基板200を提供することができる。
(2)上記実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200において、凹部7,8は、接着層9の厚み(およそ2μm)よりも大きい深さ(少なくとも5μm)を有している。したがって、第1の基板101と第2の基板103とを接合する際に、転写法により接着層9を形成すれば、凹部7の幅方向においてほぼ接着層9が介在しない状態を実現し、レーザ光30の集光点31の位置が切断予定ライン40に対して多少ずれたとしても、接着層9に影響されずに液滴吐出ヘッド10を取り出すことができる。
(3)上記実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200において、第2の基板103は、アクチュエータ基板3を区画する領域102が除去されない状態で第1の基板101に接合されている。したがって、上記実施形態1のアクチュエータ基板3が分割積層された液滴吐出ヘッド基板100に比べて、該領域102に凹部7,8を形成しても取り扱い上の強度が低下することを抑えることができる。
(4)上記実施形態2の液滴吐出ヘッド10の製造方法において、封止室および凹部形成工程(ステップS11)では、第1の基板101の接合面側に封止室1aと凹部7とを同時にエッチング形成する。接合工程(ステップS13)では、第1の基板101の接合面側に接着層9を転写して形成する。これによれば、凹部7は、その深さが接着層9の厚みよりも大きく、封止室1aと同等となるように形成される。したがって、接合工程で、第1の基板101の接合面側に接着層9を転写すれば、接着層9は凹部7の内底面まで届かないので、対向する凹部7,8のほぼ幅方向に渡って接着層9が介在しない状態で、第1の基板101と第2の基板103とが接合される。ゆえに、レーザ照射工程(ステップS17)で、切断予定ライン40を多少外れてレーザ光30が照射されても、接着層9が介在しない部分でスクライブ(分割)が可能となり、液滴吐出ヘッド10を接着層9に影響されずに容易に取り出すことができる液滴吐出ヘッド10の製造方法を提供することができる。
(5)上記実施形態2の液滴吐出ヘッド10の製造方法において、レーザ照射工程(ステップS17)では、第1の基板101の表面1cと第2の基板103の表面3gからそれぞれレーザ光30を照射する。また、第1の基板101と第2の基板103の厚み方向に集光点31の位置を順次ずらして、切断予定ライン40上に沿って走査するレーザ照射を繰り返すことにより、それぞれの厚み方向に連続する内部改質層を形成する。したがって、エッチング形成された凹部7,8をレーザ光30が通過しないので、表面の凹凸に影響されず集光点31を安定的に結び、厚み方向に連続形成された内部改質層を境にして第1の基板101および第2の基板103を分割することができる。すなわち、外形不良の発生を低減して液滴吐出ヘッド基板200から歩留まりよく液滴吐出ヘッド10を取り出すことができる。
上記実施形態1および実施形態2以外の変形例は、以下の通りである。
(変形例1)上記実施形態1および上記実施形態2の液滴吐出ヘッド10の基本的な構造は、2つのノズル列4bを有する2連のものに限定されない。例えば、1連のものにおいても適用することができる。
(変形例2)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド基板100、液滴吐出ヘッド10の製造方法および上記実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200、液滴吐出ヘッド10の製造方法において、接合面側に形成される凹部7あるいは凹部8の形状は、内底面が平坦な溝形状に限定されない。例えば、内底面が円弧状であってもよい。
(変形例3)上記実施形態1の液滴吐出ヘッド基板100、液滴吐出ヘッド10の製造方法および上記実施形態2の液滴吐出ヘッド基板200、液滴吐出ヘッド10の製造方法において、接合面側に形成される凹部7あるいは凹部8の幅は、液滴吐出ヘッド10を区画する領域102の幅と同等でなくてもよい。例えば、レーザ光30を照射する照射装置の走査方向における位置精度(公差)を考慮した幅とすればよい。また、切断予定ライン40に対して線対称となるように凹部7あるいは凹部8を設けなくてもよい。
(変形例4)上記実施形態1および実施形態2の液滴吐出ヘッド10の製造方法は、静電アクチュエータを用いたミラーデバイス等のMEMS(Micro Electro Mechanical System;微小電子機械システム)デバイスの製造にも適用することができる。