石綿繊維飛散防止処理の対象となる石綿含有層は、微視的に微細で長繊維の石綿が三次元的に複雑に絡み合った集合体に、比較的粗粒のセメントが添加され、水の添加により混合スラリー化された資材を、専用機を用いて吹付け塗工されることで、吹付け層として形成されることが多い。形成された吹付け層は、石綿繊維特有の抗張力により空隙率が極めて高い組織を形成している。また、石綿繊維飛散防止処理の対象となるものとしては、上記した混合スラリーを抄造成形されたボード類などもあげられるが、これらの成形体についても石綿含有層と同様の組織を形成している。石綿含有層も形成体も、上記のような組成で構成されるため、何れも機械的強度の発現の軸となる骨材が存在しておらず、嵩比重が際立って低く、機械的強度は至って低い。そのため、石綿含有層も形成体も、石綿繊維相互の接合力は極めて弱く、石綿繊維は、微弱な外力や刺激によって容易に遊離性の単繊維状となり、飛散しやすい。
石綿繊維を主要資材として形成された石綿含有層は、微視的に特徴のある微細な構造と広大な比表面積を有することより疎水性的傾向を示す。また、石綿含有層を形成された既設の建築物には、建築物の様々な使用状況によって、或いは、石綿含有層形成後の様々な加工によって、強い疎水性を示す部位もある。このため、多くの石綿含有層は処理液に対して浸透或いは、濡れ性が悪く、石綿繊維飛散防止処理に用いられる多くの処理剤は石綿含有層内へ浸透し難く、石綿繊維飛散防止効果を十分に達成することが困難であるという問題がある。
特許文献1,2の方法において用いられる高い粘性を特徴とする天然系または合成樹脂系の高分子系処理剤や、特許文献3の方法において用いられる酸化チタンや水酸化アルミナなどのセラミック粒子などミクロンオーダーの無機物を含有する無機―有機複合系処理剤では、石綿含有層の表層部でのフィルター作用により石綿含有層内への浸透させることが困難であり、石綿繊維飛散防止処理の際に塗布されるこれらの処理剤は、石綿含有層の表面で塗膜を形成するに留まることになる。そして、上記したように石綿含有層は極めて脆弱な構造である。このため、石綿含有層の表面の塗膜は剥がれ易く、長期に亘って石綿繊維飛散防止を達成することが困難であるという問題がある。
また、特許文献4で開示された方法により処理空間内に噴霧する水溶性無機質バインダーは清水に比較して粘度が高く更に、表面張力の調整もなされていないため飛散性石綿繊維または石綿層へは浸透し難く、飛散性の石綿繊維または石綿含有層の層内においてバインダーにより接合されない石綿繊維部が存在し、石綿繊維飛散防止を十分には達成し得ないという欠点がある。
ところで、石綿含有層は、なんらかの機能を有する部材として建築物に設けられることが多い。例えば、石綿含有層は、気温が氷点下以下となるような寒冷地に建築される建築物において、保温機能を有する層として形成されることがある。このような既存の建築物に設けられた石綿に対して石綿繊維飛散防止処理を行おうとする場合、石綿繊維飛散防止処理剤の保存及び施工時に於いて、気温が氷点下以下(0℃以下)となることがおこりうる。このような場合、処理液が凍結してしまう事態が生じうる。処理液が凍結した場合、処理液の液性が変化する虞がある。そこで、どのような低温雰囲気下であっても石綿繊維飛散防止処理を実施できるようにするべく、寒冷地でも使用可能な綿繊維飛散防止処理剤の開発が要請される。
また、石綿含有層の処理対象部は、天井裏またはエレベーターシャフト等の狭所や特殊な閉所、或いは工場、倉庫等の高所など、石綿繊維飛散防止処理の実施にあたり難度の高い部位が多い。併せて、従来の石綿繊維飛散防止処理方法では、処理対象部における処理の進捗状況の確認或いは、処理の達成(完了)の確認を行う方法として、含水率測定器等の携帯型測定器などを用いた接触法が採用される。従って、処理対象部の細部までの確認は極めて困難であり、このことが、処理対象部の確認の実施にも危険が伴うことと併さって、従来の石綿繊維飛散防止処理方法の作業効率の低さとコスト高の要因となっていた。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、長期に亘って石綿繊維飛散防止を効果的に達成することが可能な石綿繊維飛散防止処理剤、及び寒冷地でも適用可能な処理剤ならびに、処理対象部の確認を容易に可能とする処理剤の提供を目的とする。さらには、本発明はそれらの処理剤を用いた石綿繊維飛散防止方法の提供をも目的とする。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、シリカゾルのコロイド分散液からなり、石綿繊維に付着するとともにアルカリ土類金属イオンと反応し、石綿繊維相互を接合する繊維結束能を有する。この処理剤は、石綿含有層へ吹付けにより供給することで層内の細部へ浸透し、石綿含有層が含有するアルカリ土類金属イオン(Ca2+、Mg2+)との反応により、粘性質のゲルに変化する。この現象は、石綿含有層に含まれていた石綿繊維の表面とその周囲に粘着層が形成されることを示し、石綿繊維が個々に浮遊する状態から石綿繊維が相互に粘着接合される状態への改質(第1次改質)が達成されたことを示す。
石綿含有層内のゲルは、石綿繊維の表面とその周囲に存在し、石綿含有層を形成した対象物においてアルカリ土類金属イオンの濃度が低い部分では脱水反応を経て乾燥ゲルを形成する。また、石綿含有層を形成した対象物においてアルカリ土類金属イオンの濃度が高い部分ではポゾラン反応により結合能力を有する化合物(C−S−H;ケイ酸カルシウム水和物)が生成される。この脱水反応やポゾラン反応を生じる反応系では、これらの反応、或いは、乾燥の進行により石綿繊維上に不溶性の被覆層が形成され、被覆層相互の接合により石綿繊維相互が結束された形態をとり、石綿繊維が相互に粘着接合される状態から石綿繊維が相互に不溶性の被膜を介して結束した状態への改質(第2次改質)が達成される。このように、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、第1次改質と第2次改質を達成して繊維結束能を有する。
なお、上記ポゾラン反応により生成される生成物は、断熱性、耐熱性、耐水性、耐候性に優れ更に、乾燥ゲルによる被覆層は耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐候性に優れた特性を有する。
また、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、工業界で最も微細な物質に属するシリカゾルのコロイド分散液からなるところ、シリカゾルの粒子径は5nm〜100nmであることが好ましい。
また、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤をなすコロイド分散液におけるシリカゾルの含有量は、1.0重量%〜20.0重量%であることが好ましい。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、JIS K 5600―2―2のフローカップ法による3mmカップでの流下時間が30秒以下である粘度を有することが好ましい。
更に、石綿繊維飛散防止処理剤には、界面活性剤を添加されることが好ましい。石綿繊維飛散防止処理剤に添加される界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、エタノールが添加されることが好ましい。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、蛍光顔料が添加されることが好ましい。
また、本発明は、石綿繊維飛散防止方法であり、石綿繊維飛散防止処理剤を石綿施工面に吹き付けて、前記処理剤により石綿繊維を湿潤させるとともに、石綿含有層内に前記処理剤を浸透させて石綿繊維相互を接合するようにしたことを特徴とする。
石綿繊維飛散防止方法では、石綿施工面に石綿繊維飛散防止処理剤を吹き付けるにあたり、予め作業空間内に前記処理剤を濃霧状に噴霧し、飛散している石綿繊維を湿潤させて石綿繊維を非飛散状態とさせることが好ましい。
石綿繊維の飛散の危険性を孕む石綿施工面を有する石綿含有層を、長期に亘って安全で有益な機能面を有する石綿含有層へと改質するには、石綿繊維飛散防止処理にあたり、噴霧により供給された石綿繊維飛散防止処理液が、浸透性に優れること、および、浸透した部位で安定した物質に変化する機能を有することを要請される。この点、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤によれば、その処理剤を石綿含有層へ吹付けにより供給することで石綿含有層内の細部へ処理剤が浸透し、石綿含有層内ではその石綿含有層に含有されるアルカリ土類金属イオンと処理剤との反応により、石綿繊維の表面やその周囲でゲル化反応が生じ、また、ポゾラン反応に伴う反応生成物(C−S−H;ケイ酸カルシウム水和物)の形成により石綿繊維相互を接合させることができる。これにより、本発明によれば、長期に亘る石綿繊維飛散防止を効果的に達成することが可能となる。そして、このように、本発明の処理剤によれば、石綿含有層の細部まで処理剤が浸透し、石綿含有層全域で上記各反応が生じることにより、石綿繊維の結束群が石綿含有層全域で形成され、その結果、石綿繊維の飛散防止が安定的に効果的に達成され、石綿含有層の処理施工に従事する作業員の曝露や周囲環境の汚染は防止される。
また、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、シリカゾルの粒子径は5nm〜100nmであることで、石綿含有層に含まれる石綿繊維の表面まで処理剤の浸透を効果的に達成することができる。
また、本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、シリカゾルの含有量が1.0重量%〜20.0重量%であることで、コロイド分散液の低粘性と浸透力の機能性を保ち更には、石綿繊維相互の結束力を達成することができる。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、フローカップ法による流下時間が30秒以下である粘度を有することにより、清水と同等の液性を有することとなり、従来の処理剤に比して石綿含有層に対する浸透力に優れる。
また、石綿繊維飛散防止処理剤に界面活性剤が添加されることで、表面張力を調整することで石綿繊維への濡れ性の向上により浸透性が改良される。このとき、界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤、あるいは、アニオン系界面活性剤であると、シリカゾルのコロイド分散液の安定性を良好に保持することができる。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤にエタノールが添加される場合、添加されるエタノールが、石綿繊維飛散防止処理剤において凍結調整剤としての機能を発揮し、石綿繊維飛散防止処理剤の液性の変化の虞を抑制することができる。したがって、寒冷地での保存または施工時に於いてコロイド分散液が凍結することによる処理剤の液性や性能の低下の虞が抑制できる。
環境保護を目的とした石綿維飛散防止処理剤に耐凍結機能を付与するエタノールは、有機溶剤中毒予防規則やPRTR法に非該当品であり、エタノール含有量60%未満の溶液は消防法・危険物第4類からも除外された溶剤であり、その希釈液は何れの場所で使用した場合でも高い安全性が確保される。
具体的に、寒冷地用に好適に使用可能とするべく処理剤(耐凍結性処理剤)に添加されるエタノールは、30%の水溶液の場合、凍結温度は零下21.0℃であり、50%水溶液の場合、零下38.0℃であり、極めて低い凍結温度を示す。そこで、寒冷地用石綿処理剤が上記したような低い凍結温度を特性として有するエタノールを混合されることで、凍結の虞が効果的に抑制される。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤が、蛍光顔料を添加されたもの(発光性処理剤ということがある)であることで、処理剤の吹付け処理の進捗状況或いは達成(完了)の確認を容易に実施できるようになる。蛍光顔料には、石綿含有層へ処理剤を塗布された部分たる施工部の領域にブラックライト(波長300nm〜450nmの光線)を照射されることにより発光機能を有する発光処理剤が用いられる。
すなわち、本発明の発光性処理剤は、各種スプレー等を用いた石綿含有層への吹付け施工中或いは、施工の終了時に、吹き付け施工を行った領域とその周囲にブラックライトを照射することで、発光性処理剤に含まれる蛍光顔料による発光輝度を観察することにより、吹付け施工の実施済みの領域と未実施の領域との境界が明確化し、石綿繊維飛散防止処理の進捗状況の確認或いは達成の確認が容易に実現できるようになる。また、更に、発光処理剤とブラックライトによる照射方法と従来の含水率測定機器など管理用機材との組み合わせで、上記進捗状況の確認或いは達成の確認が、より高い精度で達成されるようになる。
また、本発明の処理剤による処理対象面たる石綿施工面に対する石綿繊維の封じ込め処理(石綿繊維飛散防止処理)を施した前と後とを比較すると、処理後は物性的にも、石綿飛散防止をより安定して実現した処理対象面が形成される。本発明の処理剤による処理対象面たる石綿施工面を有する石綿繊維層の除去処理(石綿含有層除去処理)を施すにあたり、処理対象面に処理液の吹付け施工を実施した前と後とを比較した場合についてみても、実施後は物性的にも安定化を実現した処理対象面が形成される。
更に、本発明の石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法は、処理剤として浸透性及び処理能力に優れているものを使用されるため、処理施工コストを低減できる効果がある。
石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法において、飛散状態の石綿繊維の処理にあたり、石綿繊維が飛散している部屋の天井部や壁面或いは空間または、その周辺に石綿処理剤を噴霧し、時間を掛けて霧状の液滴を沈降させることで、飛散している石綿繊維は濡れ性の高い液滴に接触することで水滴に吸収され更に、液滴の降下に伴う作用により石綿繊維の沈塵化が図られる。このことは、上記した第1次改質に由来する。
更に、石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法において、噴霧された処理液の液滴が石綿含有層に付着することによる石綿の湿潤、更には、乾燥による繊維結束能の発現により石綿含有層の表層部を改質することで、石綿繊維を安定的に非飛散状態と成す。このことは、有効な曝露防止対策を実現化することを示す。このことは、上記した第2次改質に由来する。
そして、石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法の実施に当たり、上記したような石綿繊維を沈塵化することや石綿繊維を非飛散状態に成すことにより、長期に亘り作業空間の安全性が確保される。
石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法の実施に当たり、処理液として、エタノールを添加した石綿繊維飛散防止処理剤を用いる場合には、寒冷地での保存または施工時に処理剤が凍結してしまうことに起因する処理液の石綿飛散防止処理性能が低下する虞が抑制される。具体的に、エタノールを添加した石綿繊維飛散防止処理剤を用いた石綿繊維飛散防止処理により、気温が零下10.0℃でも室温状況下と同様の石綿繊維飛散防止効果が確保されるようになる。
石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法の実施に当たり、処理液として、蛍光処理剤を用いる場合には、石綿含有層に対して発光処理剤の吹付け施工後、吹き付け施工された部位にブラックライトを照射すると、その部位が蛍光色に発光することから、発光処理剤の含有濃度とその分布が確認できる。このように、ブラックライトの照射により吹き付け施工の進捗状況を確認できることで、石綿繊維飛散防止方法や石綿含有層除去方法を施そうとする部位が、狭所や高所など、施工の進捗状況を確認することが困難な部位にある場合であっても、石綿繊維飛散防止処理作業等の進捗状況或いは、そうした処理作業の達成の確認が効率よく実施できる。また、ブラックライトの照射により吹き付け施工の進捗状況を視覚的に確認できるので、必要に応じてビデオなどの画像によるデジタルデータとしての送受信或いは、保存も可能である。したがって、処理液として蛍光処理剤を用いることは、石綿繊維飛散防止処理作業等の進捗状況の確認方法として安全性の高い確認の方法を提供し、あわせて、その作業の信頼度を向上させることにも寄与し、さらには、総合的な処理施工のコストを低減できる効果を奏する。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤は、シリカゾルのコロイド分散液からなる。シリカゾルは、二酸化珪素からなるもの、あるいは、二酸化珪素を主成分として含むととともにアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムの)の酸化物を含有するものである。
本発明の石綿繊維飛散防止処理剤の石綿含有層内における反応の概要を下記に示す。粘度と表面張力が調整された本発明の処理剤を吹付け施工により石綿含有層へ供給することで、石綿含有層内の細部へ処理剤が速やかに浸透する。浸透した処理剤は、石綿含有層が含有する石綿およびセメント由来のアルカリ土類金属イオンの作用で石綿繊維の表面やその周囲で速やかに粘性質のゲルに変化し、石綿含有層には、石綿繊維相互を接合した非飛散状態が形成され、石綿含有層の状態が改質される(第1次改質)。
また、シリカゾルは微細で高活性であり、石綿含有層においてアルカリ土類金属イオンが高濃度に含有される部分(高濃度部)に本発明の処理剤を吹付け施工した場合では、その高濃度部においてアルカリ土類金属イオンと高活性のシリカゾルとがポゾラン反応をおこし、接合能を有する化合物(C−S−H;ケイ酸カルシウム水和物)の前駆体が生成される。ポゾラン反応の進行に伴い、ポゾラン反応化合物の結晶化が進み、高濃度部に接合層が形成される。その一方で、上記粘性質のゲルは脱水が進行することによる縮重合反応が進展し、石綿含有層においてゲルの脱水が進行した部分に、石綿繊維を結束させる被覆層が形成される。これら2種の層(接合層と被覆層)の少なくともいずれかが形成されることにより、石綿含有層の状態が更に改質される(第2次改質)。
本発明の処理剤に用いられるシリカゾルの粒子径は、5nm〜100nmであることが好ましい。処理剤において、シリカゾルの粒子径が100nm以下であることで、石綿含有層の石綿繊維の微細な構造に均質に浸透する機能を達成できるものとなる。シリカゾルの粒子径が100nmを超えると、石綿含有層の石綿繊維の微細部までの浸透が達成されず石綿繊維相互を接合する繊維結束能が得られない虞がある。また、粒子径が5nmに満たないシリカゾルは、高価であるため、コストや使用量を考慮すると、処理剤に添加されるシリカゾルとしての実用性に欠ける虞がある。こうして、本発明において、石綿含有層内に浸透し、石綿繊維相互を接合する繊維結束能を得るために、シリカゾルとして、その粒子径が5nm〜100nmのものが用いられることが好ましい。
処理剤をなすコロイド分散液に含まれるシリカゾルの含有量が1重量%〜20重量%となるように、シリカゾルは溶媒に分散される。シリカゾルの含有量が1重量%未満では、繊維結束能が不十分な処理剤となる虞がある。シリカゾルの含有量が20重量%を超えると、粘度が高くなる虞がある。そして、シリカゾルの含有量の増加に伴い粘度が徐々に高まりやがてシリカゾルの含有量が25重量%を超える、石綿繊維層に対する浸透性の低下が顕著になる。このように、石綿繊維層に対する処理剤の浸透性を最適なものとするため、シリカゾルの含有量は3重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましく、また、処理剤の浸透性を維持し処理剤に十分な繊維結束能を発揮させることを考慮すると、シリカゾルの含有量は4重量%〜15重量%であることが更に好ましい。
本発明における繊維結束能とは、石綿繊維に付着した処理剤が、石綿繊維の飛散を防止できる程度に石綿繊維相互を接合し、結束することができる能力をいう。
本発明の処理剤の粘度は、フローカップ法3mmカップによる流下時間が30秒以下であるような粘度である。ここに、フローカップ法とは、JIS K 5600−2−2に規定された粘度測定法を示すものとする。この粘度測定法は、試験液の温度を23℃に設定し、フローカップの下に受け容器を置き、フローカップのオリフィスを指で押さえて試験液をフローカップに注ぎ、指をオリフィスから離して試験液を流下せしめ、試験液がオリフィスから流下し始めた瞬間から、流れが最初に切れる瞬間までの時間を流下時間として測定する。
本発明の処理剤は、フローカップ法による流下時間が10秒〜30秒となる粘度、あるいは、それ以下の数値となる粘度内に属する。この流下時間が10秒〜30秒となる粘度は、清水と同等の粘度を示す。
本発明の処理剤は、界面活性剤を添加されていてもよい。処理剤に界面活性剤が添加されることにより、本発明の処理剤の粘度の調整と併せてその表面張力即ち濡れ性を調整することができる。
処理剤に添加される界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤をあげることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。
処理剤に添加される界面活性剤の添加量は、界面活性剤の添加量は、0.01重量%〜0.10重量%であり、0.01重量%〜0.05重量%であることが好ましく、0.01〜0.03重量%であることがより好ましい。0.10重量%を超えると吹付け施工に支障を来たすほどに起泡現象が顕著となる
本発明の処理剤に界面活性剤が0.01重量%〜0.10重量%添加された場合、処理剤は、フローカップ法による流下時間が8秒〜22秒という粘度を示すものとなる。この粘度は、清水の粘度(23℃におけるフローカップ法による流下時間が20.4秒)と略同等域から半分以下の低粘度を示す。本発明の処理剤の特性を活用するにはフローカップ法による流下時間が5秒〜30秒という粘度を示す溶液が好ましい。
本発明の石綿繊維飛散防止方法は、本発明の処理剤を用いた石綿含有層の封じ込め処理である。すなわち、石綿繊維飛散防止方法は、本発明の処理剤を石綿施工面に吹き付けて、前記処理剤により石綿繊維を湿潤させるとともに、石綿含有層内に前記処理剤を浸透させて石綿繊維相互を接合するようにしたものである。
本発明の石綿繊維飛散防止方法を実施するにあたっては、作業現場から外部に石綿が飛散することを防止するため、石綿施工面を除いて作業空間をシートで養生する。作業現場の出入り口にはクリーンルームが設置され、クリーンルームを通過して作業現場の出入りがなされる。こうした作業空間をシートで養生することやクリーンルームの設置は、後述の石綿含有層の除去処理の場合も、同様に実施される。
処理剤を用いた石綿含有層の封じ込め処理の施工の際に、石綿施工面に処理剤を吹き付けるにあたり、予め作業空間内に前記処理剤を濃霧状に噴霧し、飛散している石綿繊維を湿潤させて石綿繊維を非飛散状態とさせることが好ましい。
本発明の処理剤を用いた石綿含有層の封じ込め或いは除去処理の施工にあたり、作業空間に噴霧される処理剤の粘度や表面張力の条件や、噴霧条件として、石綿含有層或いは、作業空間の状況に適した条件が適宜幅広く選択される。
噴霧条件についてみると、処理液を濃霧状の液滴にして噴霧、滞留させる作業を行う場合には、その作業の実現のためスプレーガン及びコンプレッサーが好適に用いられる。その場合、スプレーガンのノズル口径は0.7mmφ〜1.2mmφが好ましく、また、コンプレッサーの圧力は0.1Mpa〜1.0Mpaと低圧で実施されることが好ましい。
前記条件により、作業空間に処理液が噴霧されると、噴霧によって粒子径が10〜100μmの濃霧状の液滴が形成され、液滴は作業空間中を浮遊しやがて沈降する。浮遊或いは沈降状態にある液滴は、浮遊する石綿繊維に接触し、このとき石綿繊維は濡れ性が改善された液滴に吸収され、液滴の自然沈降によって沈塵化が達成される。液滴に石綿繊維が吸収された際、これと同時に液滴の質量が重くなり、このことからしてみても沈塵化が確実に達成される。そして、沈塵化した液滴に含まれる石綿繊維は、乾燥後には繊維結束体を形成し、安定的に非飛散性の状態に改質される。なお、噴霧された液滴が石綿含有層に付着すると、付着した部分の石綿は湿潤化され、石綿含有層の表面も、安定的に非飛散性の状態に改質される。
本発明の石綿繊維飛散防止方法においては、処理剤を石綿施工面に高圧噴射により吹き付ける作業が実施される。この作業の実現のためには、スプレーガン及びコンプレッサーが好適に用いられる。その場合、スプレーガンのノズル口径は1.2mmφ〜2mmφが好ましく、また、コンプレッサーの圧力は0.4Mpa〜4.0Mpaで実施されることが好ましい。ノズルの吐出量は、0.4L/分〜4.0L/分であることが好ましい。なお、この作業の実施のためには、一般塗装用のエアレススプレーが用いられてもよい。
本発明の石綿繊維飛散防止方法によれば、石綿含有層内に前記処理剤を浸透させて石綿繊維相互を接合するため、石綿含有層は固定化され、石綿繊維の飛散を確実に防止することができる。従って、この石綿繊維飛散防止方法によって、石綿繊維の曝露を防止し、安全な環境整備を実現でき、石綿による健康被害の問題を解消できる。
本発明の石綿繊維飛散防止剤は石綿含有層除去方法の実施のために用いることができる。ここに石綿含有層除去方法は、この処理剤を用いた石綿含有層の除去処理である。すなわち、本発明の処理剤を石綿施工面に高圧噴射により吹き付けて、前記処理剤により石綿繊維を湿潤させ、石綿含有層内に前記処理剤を浸透させて石綿繊維相互を接合することにより石綿含有層を石綿施工面より剥離除去するようにしたものである。
処理剤を用いた石綿含有層の除去処理の施工の際に、石綿施工面に処理剤を吹き付けるにあたり、予め作業空間内に前記処理剤を濃霧状に噴霧し、飛散している石綿繊維を湿潤させて石綿繊維を非飛散状態とさせることが好ましい。噴霧作業に用いるスプレーガンのノズル口径や、コンプレッサーの圧力は、前述の石綿繊維飛散防止方法の説明で示した噴霧処理の場合と同様である。
上記石綿含有層除去方法によれば、石綿含有層は、湿潤状態及び繊維結束状態において剥離されるので、剥離の際、石綿繊維の飛散は起こらず、作業者が石綿繊維により曝露される危険はない。また、剥離した石綿繊維の塊が床面に落下したときも同様に、石綿繊維の飛散は起こらず、作業上、安全である。そして、石綿施工面より剥離して落下し床に堆積した石綿繊維塊は、湿潤状態において撤去されるので、撤去作業中も石綿繊維の飛散は起こらず、安全である。処理剤の乾燥後は、石綿は硬質被膜により三次元的に被覆されて固定化されるので、廃棄処理作業を安全に行うことができる。
なお、石綿繊維飛散防止方法と石綿含有層除去方法を実施するにあたり、本発明の処理剤は、pH9〜11に調整される。
また、石綿繊維飛散防止方法と石綿含有層除去方法において、石綿施工面は、所定の対象物に形成された石綿含有層の面や、所定の対象物に取り付けられた石綿を含有するボード類の面を挙げることができる。ここに、所定の対象物は、建築躯体を挙げることができるほか、電気製品、自動車など石綿を含む層構造を形成される可能性のあるものを挙げることができる。なお、対象物が建築躯体である場合、石綿含有層は、石綿を含有する材料組成物を建物躯体の所定部位(天井や壁面など)に吹き付け塗装することにより形成される。また、石綿を含有するボード類は、石綿を含有する材料組成物を成形することで得られるものである。
次に、本発明の処理剤により石綿含有層に含まれる石綿繊維が結束する機構(繊維結束機構)を説明する。
図1(A)〜図1(C)は、石綿含有層の繊維結束機構を説明する模式図である。模式図は、石綿含有層がセメントに石綿繊維を含有してなる層である場合を例としたものである。
図1(A)において、1a、1bは石綿繊維を示す。石綿繊維1a、1bの長さは一般に5μm〜20μmである。この石綿繊維1a、1bに本発明の処理剤2が供給されると、図1(B)に示すように、石綿繊維1a、1bの表面とその周辺は、処理剤2をなすコロイド分散液が浸透力に優れているため、容易に湿潤される。同時期に、石綿繊維1a、1bが含有するセメント由来のアルカリ土類金属イオンとの反応により粘着性のゲルが生成され、石綿繊維1a、1bを被覆した状態となり、石綿繊維相互の接合と併せて、質量が増大し第1次改質が達成される。
処理剤2がアルカリ土類金属イオンと反応してゲルに変化した後、ゲルは風乾によって乾燥ゲルに向かって変化する。そして、図1(C)に示すように、乾燥ゲルに向かう変化に伴い、ガラス質薄膜或いは、ポゾラン反応生成物による被膜層3が形成される。こうして、第2次改質が達成される。このとき、被膜層3において石綿繊維は結束した状態となっている。
このように、石綿繊維1a、1bは処理剤2によって相互に接合されるので、石綿繊維が単独で遊離できなくなり、石綿繊維が周囲へ飛散してしまうことが防止される。
図2(A)、図2(B)は、処理剤による処理前後の石綿繊維の状態を示す位相差顕微鏡写真(倍率5000倍)を示すもので、図2(A)は処理前の石綿繊維の状態を示し、図2(B)は処理後の石綿繊維の状態を示す。図2(B)によれば、処理剤によって複数の石綿繊維が結束され、その表面に均質な被覆層が形成されている状態が観察される。
なお、図1(A)〜図1(C)の模式図を用いた説明からも理解されるように、石綿含有層は、石綿繊維群で構成された層構造をなし、石綿繊維の表面にまで浸透した(石綿繊維同士の間隙まで浸透した)処理剤により石綿繊維同士が接合されて、三次元的なフィルター状に形成された繊維結束体を形成する。
この繊維結束体の様子は図3(B)に示されている。図3(A)、図3(B)は、処理剤による処理前後の石綿繊維層の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率500倍)を示すもので、図3(A)は処理前の状態を示し、図3(B)は処理後の状態を示す。図3(B)によれば、石綿繊維の表面に浸透した処理剤が石綿繊維を被覆し、処理剤の乾燥によって形成された被膜によって石綿含有層をなす石綿繊維全体が結束されている状態を示す。
上記の如く、石綿含有層は表面及び内部の全体に亘って、本発明の処理剤によって湿潤或いは、被覆され、処理剤の乾燥によって石綿繊維全体に被膜が形成され結束化される。しかも、本発明の処理剤は粘度が低く(清水の粘度と同等程度若しくはそれ以下)、浸透性に優れる。
具体的に、例えば、セメントを用いて形成された建築躯体の面上に石綿含有層が形成された場合を例とすると、本発明の石綿繊維飛散防止処理方法や石綿含有層除去処理方法を実施するにあたって、石綿含有層の表面である石綿施工面に対して処理剤の吹き付け施工を行った場合、本発明の処理剤は石綿施工面における建物躯体まで到達し(浸透し)、それにより石綿含有層と建築躯体との接合の強化が図られる。従って、本発明の処理剤により、石綿繊維相互の結束及び石綿含有層と建築躯体との接合の強化が達成される。
このように、本発明の処理剤を用いて石綿含有層に向けて吹付け施工を施すことにより、石綿含有層は結束化されるので、石綿繊維の飛散を確実に防止することができる。従って、本発明の処理剤を用いた封じ込め処理や除去処理の際に、飛散する石綿繊維に作業員が曝露してしまうことが防止できるようになり、安全な作業環境の整備を実現でき、石綿による健康被害の発生の問題を解消できるようになる。
本発明の処理剤には、エタノールが添加されていてもよい。また、エタノールが添加された処理剤は、石綿繊維飛散防止方法にも石綿含有層除去方法にも用いられてよい。
このような処理剤は、シリカゾルを水に分散させたコロイド分散液にエタノールを更に添加されてなるコロイド分散液のエタノール希釈液として得ることができる。
処理剤において、エタノールは凍結温度調整剤としての機能を有し、特に、凍結抑制剤としての機能を発揮する。処理剤が、コロイド分散液にエタノールを加えてエタノールを30重量%含むように調整してなる分散液(30%希釈液)である場合では、処理剤の凍結温度は零下21.0℃である。処理剤が、コロイド分散液にエタノールを加えてエタノールを50重量%含むように調整してなる分散液(50%希釈液)である場合では、処理剤の凍結温度は零下38.0℃である。いずれの場合も、エタノールを添加された処理剤は、極めて低い凍結温度を示す。また、エタノールの添加量は、必要とされる凍結温度の低さに応じて適宜選択されるが、安全性、コスト及び実務的な観点からエタノールの添加量は、50重量%以下であることが好ましく、10重量%〜20重量%であることがより好ましい。なお、エタノール希釈液は人体に対しても安全性の高い液体である点、本発明の処理剤と自由な範囲での混合が可能である点、処理剤の石綿繊維飛散防止機能にも支障を及ぼす可能性が低い点などからしてみても、本発明の処理剤の凍結温度調整剤としてエタノールは好適である。
本発明の処理剤は、蛍光顔料を添加されているもの(発光性処理剤)でもよい。
発光性処理剤は、処理剤をなすコロイド分散液に蛍光顔料を添加されて混合することによりことで形成される。蛍光顔料には、無機系蛍光顔料と有機系蛍光顔料の2種がある。更に、それぞれの種類において水性顔料と溶剤系顔料に分類することができる。本発明の発光処理剤には、無機系顔料、有機系顔料のいずれも適用可能である。発光処理剤には、顔料分散系の蛍光顔料が好適に使用される。発光処理剤における蛍光顔料の添加量は、ブラックライトの照射による発光輝度を十分に得る観点から、蛍光顔料以外の処理剤の重量に対して0.01重量%〜1.00重量%の範囲であり、0.20重量%〜1.00重量%が好ましく、0.30重量%〜0.80重量%であることがより好ましい。
石綿含有層に対して本発明の発光処理剤を用いて吹付け施工を実施した後、施工を実施した部位にブラックライトを照射することにより、発光処理剤の蛍光顔料に由来する特異な蛍光色を発光する。施工を実施した部位の周囲にあたる施工未実施の部位には、ブラックライトを照射しても発光処理剤の蛍光顔料に由来する蛍光色が生じない。これにより、吹付け施工がどの範囲で実施されたかを視覚的に確認することができ、石綿繊維飛散防止処理や石綿含有層除去処理の作業の進捗状況、或いは、それらの作業の達成率を、発光輝度の観察により容易に確認することができる。
ブラックライトとしては、UV−LED14灯を使用した高輝度型の携帯型UV14LEDブラックライト類が、比較的遠隔地からも鮮明に発光を確認できる点で、好適に用いられる。
実施例1
シリカゾル(平均粒子径が10〜20nm)(日産化学工業株式会社製、スノーテックス−30)を溶媒(水)に分散させることで、シリカゾルの含有量を30重量%に調整したコロイド分散液(以下、分散液Aという)を調製した。
コロイド分散液(分散液A)について粘度を測定した。粘度は、JIS K 5600−2−2に規定されたフローカップ法により試験液の温度を23℃に設定しオリフィス径3mmのフローカップを用いた流下時間の値として測定された。結果を表1に示す。
実施例2
シリカゾルの含有量を15重量%としたほかは、実施例1と同様にして、コロイド分散液(以下、分散液Bという)を調製した。コロイド分散液(分散液B)について、実施例1と同様にして粘度を測定した。結果を表1に示す。
比較例1
コロイド分散液に変えて清水を用いたほかは、実施例1と同様にして、粘度を測定した。結果を表1に示す。
実施例1,2、比較例1における粘度測定の結果、分散液A、分散液B、清水の流下時間はそれぞれ35.2秒、20.8秒、20.4秒であった。これらの粘度測定の結果により、分散液Aは清水より高い粘度を示すが、分散液Bは清水と同等の粘度を示し、実施例2のほうが、極めて低粘度の処理液であり、本発明の処理剤としてより好ましい。
実施例3,4
実施例3,4では、それぞれシリカゾルの含有量を1重量%、5重量%としたほかは、実施例1と同様にして、コロイド分散液(以下、それぞれ液B−01、液B−05という)が調製された。
それぞれのコロイド分散液(液B−01(実施例3)、液B−05(実施例4))について、実施例1と同様にして粘度を測定した。結果を表1に示す。
実施例5
(試験体の調整)
国土交通省告示第1168号に基づき石綿含有層に疑似する層(疑似石綿層)を有する建築資材(以下、疑似石綿層形成材という)を作成し、この疑似石綿層形成材を試験体とした。
なお、疑似石綿層の組成は、ロックウール35重量%、ポルトランドセメント15重量%及び水50重量%からなる。
(浸透実験)
実施例2で調整した本発明の処理剤(分散液B)を試験体の疑似石綿層へ吹付けて浸透実験を行った。浸透実験では、試験体に対する処理剤の吹付けは、2回に分けて実施された。処理剤の吹付け施工には、エアレススプレーが用いられた。
(処理剤の吹付け施工)
初回の吹付けと、2回目の吹付けは、15分間の間隔をあけて実施された。1回目の吹付けにおける処理剤の吹付け量は1.0Kg/m2とし、2回の吹付けで合計2.8Kg/m2相当の処理剤が吹き付られた。疑似石綿層への処理剤の浸透実験で、処理剤は1回目の吹付け処理、2回目の吹付け処理共に、吹付け処理の終了と同時に、試験体をなす疑似石綿層の表面が、僅かに灰色が濃くなった程度で、処理剤の速やかな浸透性が確認された。
実施例6〜8
本発明処理剤の分散液Bにかえて分散液A(実施例6)、液B―01(実施例7)、液B―05(実施例8)、を用いたほかは、実施例5と同様にして、浸透実験を実施した。
処理液として分散液Aを用いた実施例6における浸透実験では、1回目の吹付け処理で吹付け面に液溜りによる光沢が短時間観察され、2回目の吹付け処理では液溜りによる光沢が約3分程度観察され、分散液Bに比較すれば、緩慢な浸透性が観察された。
処理液として液B―01、液B―05を用いた実施例7,8における浸透実験では、液B―01、液B―05の両方ともに、分散液Bと同様に、1回目の吹付け処理、2回目の吹付け処理とともに疑似石綿層へ速やかに処理液が吸収され好適な浸透性が確認された。
実施例9〜12
実施例9〜12では、それぞれ、実施例番号の昇順に、分散液A(実施例9)、分散液B(実施例10)、液B−01(実施例11)、液B−05(実施例12)を処理剤として用い、試験体に対してそれぞれ処理剤の吹付け施工を施した。試験体の調整および処理剤の吹付け施工は、実施例5と同様に実施した。
実施例9〜12のそれぞれで得られた吹付け施工後の試験体を用い、国土交通省告示第1168号の建築資材の測定方法に準拠して試験体の付着強度及び破断深さの測定を行った。結果を表2に示す。
付着強度試験(国土交通省告示第1168号に準拠):
試験体の中央付近に10cm四方の鋼板を無溶剤型の2液形エポキシ接着剤で接着させ、重量1kgのおもりを載せて24時間静置する。その後、鋼板の周囲に沿ってカッターで20mmまで切り込みを入れ、これを試験面の鉛直方向に毎分1mmの速度で引張力を加え試験体の疑似石綿層が破断したときの破断応力を測定し、付着強度(N/cm2)を求めた。また、破断深さとしては、その付着強度測定時に疑似石綿層が破断したときの破断深さが測定された。
比較例2
吹付け施工後の試験体にかえて、未吹付け処理を施さなかった試験体を用いたほかは、実施例9〜12と同様にして、試験体の付着強度及び破断深さの測定を行った。結果を表2に記す。
表2に示す結果より、分散液Bを処理剤とした試験体では疑似石綿層の付着強度が向上していた。また、液B―05、分散液Bを処理剤とした試験体では破断深さが向上しており、処理剤のシリカゾルの濃度の上昇に伴って破断深さが向上することが確認された。本発明においては、処理剤が分散液Bをなす組成である場合に、疑似石綿層の固化処理がより好適に達成されることが確認された。
実施例13
処理剤の表面張力の変化を測定した。その測定方法には、自動ビューレットに試料液を注入し、その先端から定量の試料液の液滴を時計皿に滴下し、その重量を化学天秤で精秤する方法(ペンダントドロップ法)が用いられた。試料液としては、実施例2で調整した処理剤(分散液B)が用いられた。測定の結果、分散液Bを試料液とした場合の液滴重量は、6.0gであった。
比較例3
分散液Bにかえて清水を試料液として用いたほかは、実施例13と同様にして、試料液の表面張力の変化を測定した。測定の結果、液滴重量は、5.80gであった。
このように実施例13、比較例3における測定の結果、清水、分散液Bの液滴重量は、それぞれ5.80g、6.0gであり、分散液Bは、清水に比べて、3%程度多い液滴重量を示した。これは、分散液Bが清水よりも表面張力が若干高いことを示している。
実施例14
コロイド分散液に界面活性剤を添加して処理剤を構成した場合における、処理剤の表面張力の変化を測定した。コロイド分散液としては、実施例2で調整した分散液Bが用いられた
分散液Bに対して界面活性剤(花王株式会社製、エマルゲン707)を0.01重量%、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06重量%添加した処理剤(界面活性剤の添加量の少ないものから順に液B14−1、液B14−2、液B14−3、液B14−4、液B14−5、液B14−6とする)を調整し、その各処理剤を試料液として用い、上記実施例13と同様のペンダントドロップ法により、表面張力の変化が測定され、界面活性剤の添加効果が液滴重量にて評価された。測定結果を図4に示す。なお、便宜上、図4中のグラフ内に示す添加量の数値について、実際の添加量に100倍を乗じた正数を記した。また、図4のグラフ中、N%の位置のプロットにて示すデータは、処理剤が液B14−Nである場合のデータに対応する(Nは、1から6の整数)。
分散液Bに対して界面活性剤を0.01重量%添加した場合(液B14−1)、液滴重量は、4.6gであり、清水よりも若干低い表面張力を示した。更に、界面活性剤の添加量の増加につれて液滴重量も次第に低下し、分散液Bに対して界面活性剤を0.03重量%添加した場合(液B14−3)では、液滴重量は、清水の液滴重量に対して約44%少ない、3.2gとなった。このことは、分散液Bに対して界面活性剤を0.03重量%添加した場合に清水に比べ表面張力が50%程度減少することを意味しており、界面活性剤の添加量の条件により処理剤の液性の調整幅が広い事を示している。尚、界面活性剤の添加量が0.03重量%以上(液B14−3、液B14−4、液B14−5、液B14−6)では界面活性剤の添加量の増加に伴い泡立ちがあり0.05重量%以上では顕著になった。以上の結果を考慮して、0.01〜0.03重量%程度がより好適な界面活性剤の添加範囲である。
実施例15
分散液Bを処理剤として用い、試験体に対してそれぞれ処理剤の吹付け施工を施した。試験体の調整および処理剤の吹付け施工は、実施例5と同様に実施した。ただし、試験体は、3つ準備され、それぞれについて処理剤の吹付け施工が行われた。
吹付け施工後の試験体を用い、エアーエロージョン試験を行った。エアーエロージョン試験は、国土交通省告示第1168号に基づく建築資材の測定方法で行われた。結果を表3に示す。
エアーエロージョン試験(国土交通省告示第1168号に準拠):
(乾湿繰返し処理)
試験体を60℃±3℃、相対湿度95%±5%の環境下に16時間放置し、その後直ちに60℃±3℃の環境下で乾燥を8時間行う過程を10回繰り返した。このような、乾湿繰返し処理を行ったものと、それを行わないものとについて、エアーエロージョン試験を行った。
(エアーエロージョン試験)
エアーエロージョン試験は次の方法により行った。すなわち、拡散角度90度のノズルを備えた空気噴出し装置内に試験体を設置し、ノズルから圧力差98Kpaの空気を吹き出し、空気を15cm離れた位置から試験体に均一に吹き付け、装置内の空気を径25mmのメンブランフィルターで、毎分1.5リットルずつ、60分間採取し、採取された空気中の繊維の本数を、位相差顕微鏡を用いてJIS K 3850−1の測定方法により測定した。結果を表3に示す。
上記エアーエロージョン試験の結果において、採取された繊維の本数が10以下であれば、石綿繊維を封じ込める飛散防止の機能が確認された処理液であるものと判断される。表3に示す結果によれば、本発明の処理剤をなす分散液Bを吹付けた試験体1,2,3は、いずれも採取繊維の本数が10以下であり、この分散液Bは、石綿繊維飛散防止処理剤としての機能を果たしていると判断される。
また、表2に示すように、本発明の処理剤たる分散液Bを吹き付けた試験体は付着強度が大きい。このことは、分散液Bにより試験体の繊維相互が接合し、結束されることを意味している。また、分散液Bを吹き付けた試験体は破断深さの数値も大きい。破断深さの数値が大きいことは、繊維層の表層部から奥深くまで繊維が結束されていることが裏付けられている。このようなエアーエロージョン試験及び付着強度試験により、分散液Bが本発明の石綿飛散防止剤に好適な品質性能を備えていることが証明される。
実施例16
ポルトランドセメント粉末10gを清水50mLに攪拌した混合液を10分間静置し、混合液の上澄水5mLを得て、この上澄水を分散液B100mLに添加し攪拌して攪拌液を得た。
攪拌により攪拌液の均質化が進むに従って、攪拌液全体が濃く白濁し同時に急激に粘度が上昇した。攪拌液の攪拌を静止した後、ビーカーの側面から攪拌液を観察した。攪拌液には、無数の半透明粒状物の生成が観察され、上澄水に含まれる成分と分散液Bの成分とが反応して反応性生物を生じることが確認された。当該液を、試料液として実施例1記載のフローカップ法に準拠した粘度測定の実施を試みたが、試料液はオリフィスから流下しなかった。また、当該液を、試料液として実施例3記載のペンダントドロップ法の実施によって表面張力の測定を試みたが自動ビューレットからも流下しなかった。これらの実験の結果により、上澄水と分散液Bとが混合することで反応し、反応生成物として高粘性の含水物が形成されることが確認された。
ところで、ポルトランドセメント粉末10gを清水50mLに攪拌した混合液には、通常、石綿含有層や石綿を含有するボード類を形成するためのセメントを構成する材料組成物に由来するアルカリ土類金属イオン、及び、石綿に由来するアルカリ土類金属イオンを含む。また、混合液の上澄液にもアルカリ土類金属イオンが含まれる。したがって、この実施例の結果は、分散液Bが石綿含有層に含まれるセメント及び石綿由来のアルカリ土類金属イオンと反応し、反応生成物として高粘性の含水物を形成することを示している。
実施例17
石綿含有層を吹付け形成された既設のコンクリート構造物の石綿含有層から試片(石綿小塊)を20個採取(分取)し、これらを試料となした。これらの試料に対して処理剤を付着させて試験片となし、試験片を用いて保湿機能試験(石綿含有層湿潤化維持機能試験)を行った。処理剤には、実施例2で得られた分散液Bが用いられた。
(保湿機能試験)
分取された20個の試片のち、10個を選択して試料1とし、残り10個を試料2とした。料1、試料2のそれぞれを10日間室内に放置して風乾した後、それぞれの重量を測定し、平均重量を求めた。その結果は次の通りである。
試料1の平均重量(石綿小塊10個の平均重量):5.3g
試料2の平均重量(石綿小塊10個の平均重量):6.2g
分散液B(1000ml)を注いだビーカー(液温23℃)中に試料1を投入し一昼夜放置後、完全に飽水したことを確認した後、試料1を取り出し、静置状態で滴下する水滴を除去した後、濾紙上に5時間放置して余剰水を除去し、化学天秤で個々の重量を計測し、平均重量を求めた。
このときの平均重量を基準値として風乾による重量の経時変化を測定した。すなわち、このときの平均重量を「100重量%」としたとき、その後の経時的な乾燥により、どのような重量減少を示すかを測定した。この測定方法として、試料を室内に放置し、毎日10時に試料の重量を測定して平均重量を求め、経時的な重量減少の程度を特定した。重量減少の程度は、「減量%」として算出した。減量%は、測定開始時の試料の平均重量から風乾時の平均重量を差し引いた値(W1)を100重量%とした場合における、各重量測定時点における平均重量から風乾時の平均重量を差し引いた値(Wt)の相対値(Wt/W1×100)として得られる。結果を図5に示す。
また、比較のため、分散液Bにかえて23℃に調整した清水(1000ml)を用い、清水中に試料2を浸漬し、試料1を用いた場合と同様に、飽水させ、その後さらに乾燥させ、しかる後、試料2をなす個々の試料の重量を計測し、平均重量を求めた。そして、このときの平均重量を「100重量%」とし、その後の経時的な乾燥による重量減少を上記試料1の場合と同様な方法により測定した。重量減少は、減量%で表した。結果を図5に示す。
図5に示すように、清水で湿潤処理した試料2は乾燥による重量減少速度が大きく、測定開始後4日で風乾重量に達した。これに対し、分散液Bで湿潤処理した試料1は乾燥による重量減少速度が遅く、重量減の傾向が安定するまで14日以上が必要であり結果として重量が5.5%増加した。このことは、分散液Bで湿潤処理した試料1は、長期間湿潤状態が維持され石綿繊維飛散防止機能を有することを裏付けている。試料1では、分散液Bとアルカリ土類金属イオンの反応による生成物が石綿繊維の表層部へ付着し、石綿繊維を被覆する被膜が形成されていると推考される。
実施例18
処理剤の噴霧による飛散性石綿の曝露防止の確認試験を実施した。
確認試験は、既存の建築物の天井部に設置された耐火被覆材に施されている石綿含有層の封じ込め施工を実施する際の前処理として実施され、石綿含有層の周囲に飛散している石綿繊維によって曝露されることが防止されるか否かを計測することで実施された。
処理剤を噴霧するにあたり、噴霧機としては、株式会社いけうち製AKIMist“D”が使用された。処理剤としては、分散液Bが用いられた。噴霧は、天井部に向けて分散液Bを30分間の操作で2.5Lを噴霧することで実施された。なお、噴霧対象とした天井部を有する部屋は、床面積が7.2m×5.4m、高さが2.7mの空間である。公定の作業環境測定法に従って、処理剤を噴霧する前に、室内の石綿粉じん濃度を測定したところ、空間1L中15本であった。処理剤を噴霧して2時間経過した後に、室内の石綿粉じん濃度を測定したところ、空間1L中0.3本未満の測定結果が得られた。室内の石綿粉じん濃度の測定は、封じ込め工事中及び、工事終了後についても実施された。封じ込め工事中及び、工事終了後になされた室内の石綿粉じん濃度の測定でも、測定結果は、空間1L中0.3本未満であった。このことは分散液Bの噴霧による沈塵化が達成されており、作業者の曝露被害或いは、環境汚染へ安全性が確保される結果が得られていることを示す。
実施例19〜20
(耐凍結性処理剤の調整)
実施例2で調整された分散液Bに凍結温度調整剤としてエタノールを添加して処理剤(耐凍結性処理剤)を調整した。
実施例19〜20の耐凍結性処理剤は、耐凍結性処理剤中のエタノール濃度が10重量%(実施例19)、20重量%(実施例20)となるように調整されたものである。
得られた各耐凍結性処理剤を用い、それぞれ、凍結性試験を実施した。
(凍結性試験)
耐凍結性処理剤を試験液として用い、試験液100mLを入れたビーカーを凍結融解試験機の庫内に入れ、所定の温度に冷却してその状態で5時間保持した。その後、凍結融解試験機から取り出し、取り出し直後の試験液(状態1の試験液)および取り出した後に室温度(23℃)にした試験液(状態2の試験液)の両者について、試験液の状態を観察し、さらに、状態1,2の試験液について粘度を測定した。粘度測定には、実施例1に記載したフローカップによる粘度測定が用いられた。
試験液の冷却温度は、凍結融解試験機の庫内温度を零下4.0℃から零下20.0℃までの範囲で設定することで、この範囲の温度とされた。
(試験液の状態観察)
実施例19の耐凍結性処理剤(エタノール添加量10.0重量%)では、零下4.0℃以上では未凍結状態であることが調整されること確認された。エタノールを10.0重量%添加した試験液では庫内温度が零下10.0℃では凍結し、室内での解凍後の液に僅かな浮遊物が確認された。したがって、実施例19の耐凍結性処理剤(エタノール添加量10.0重量%)は、零下10.0℃よりも高い温度で有効な耐凍結性処理剤であることが確認された。
実施例20の耐凍結性処理剤(エタノール添加量20.0重量%)では、零下10.0℃以上では未凍結状態であることが調整されること確認された。したがって、実施例20の耐凍結性処理剤(エタノール添加量10.0重量%)は、零下10.0℃でも有効な耐凍結性処理剤であることが確認された。
実施例19、実施例20の凍結性処理剤を用いて粘度を測定した。粘度は、実施例1と同様にフローカップ法を用いた流下時間の値として測定された。
実施例19では、流下時間が20.6秒、実施例20では流下時間が20.3秒であり、耐凍結性処理剤に含まれるエタノール添加量の増加とともに処理剤の低粘度化の傾向が示された。これは、エタノールが処理剤に添加される物質として好適であることを支持する。
実施例21
(発光性処理剤の調整)
実施例2で調整された分散液Bに蛍光顔料を添加して処理剤(発光性処理剤)を調整した。発光性を有する蛍光顔料には、粉末系と分散系の2種存在する顔料のうち分散系の蛍光顔料(シンロイヒ株式会社製、シンロイヒカラーSW―10)が準備された。発光性処理剤(発光性処理剤1〜5)は、準備された上記蛍光顔料を分散液Bに添加することで調整された。発光性処理剤1〜5のそれぞれについて、蛍光顔料の添加量は、発光処理剤全重量に対して0.01重量%(発光性処理剤1)、0.05重量%(発光性処理剤2)、0.2重量%(発光性処理剤3)、0.5重量%(発光性処理剤4)、1.00重量%(発光性処理剤5)とされた。
発光性処理剤1から5を用いて、発光機能確認試験を行った。
(発光機能確認試験)
実施例5と同様にして疑似石綿層を有する試験体を調整し、その疑似石綿層に向けて発光性処理剤1から5のそれぞれを吹付けて(吹付け処理)、それぞれについての被処理体(被処理体1〜5)を調整した。そして、被処理体における吹付け処理を施された領域(吹付け領域)にブラックライトを照射して、各被処理体について吹付け領域の発光輝度を比較した。これにより発光性処理剤の発光機能の存否と優劣を確認した。
処理剤の吹付けには、エアレススプレーが用いられた。また、吹付け処理は、試験体面に対する発光性処理剤の吹付け量を0.05Kg/m2、とする場合(第1パターン)、試験体面に対する発光性処理剤の吹付け量を2.0Kg/m2とする場合(第2パターン)の2パターンについて実施された。なお、第1パターンにおける吹付け量は、「石綿繊維飛散防止処理などの施工処理の実施前処理」として「浮遊する石綿繊維による曝露防止を想定して行われる処理」を想定した場合に、石綿含有層に向けて吹き付けられる処理剤の吹付け量を想定したものである。第2パターンにおける吹付け量は、石綿繊維の封じ込め処理を想定した場合に、石綿含有層を湿潤させるために石綿含有層に吹き付けられる処理剤の吹付け量を想定したものである。
発光機能確認試験の結果、発光性処理剤1〜5のいずれも、発光輝度が認められるが、発効処理剤1が輝度はやや不鮮明さがのこり、発光処理剤2から5は添加量に伴って輝度は高くなり、輝度も鮮明であった(特に発光処理剤3から5)。
第1パターン、第2パターンのいずれについても、発光性処理剤1〜5による発光輝度の存在が認められた。また、同じ発光処理剤1〜5を用いた場合において第1パターンで測定された輝度と第2パターンで測定された輝度を比較したところ、目視上、輝度差が認められなかった。
実施例26
シリカゾルが、平均粒子径80〜120nmのもの(日産化学工業株式会社製 スノーテックスーPS−M)であるほかは、実施例2の分散液Bと同様にしてコロイド分散液(分散液C)(15.0重量%)を調整した。なお、分散液Bに含まれるシリカゾルは平均粒子径10〜20nm(一次粒子)である。
調整された分散液Cを用いて、浸透試験を実施した。浸透試験は、実施例5と同様に実施された。分散液Cは疑似石綿層への吹付け面が1回目から分散液Cによる光沢が疑似石綿層表面に確認され、光沢が無くなるまで約5分間を要した。2回目の吹付けでは疑似石綿層表面に液溜りが見られ、分散液Bと比較した場合では、浸透性が遅かった。
実施例27,28
シリカゾルが、平均粒子径が40〜60nmのもの(日産化学工業株式会社製 シリカゾル―スノーテックスXL)であるほかは、実施例2の分散液Bと同様にしてコロイド分散液(分散液D)(15.0重量%)を調整した(実施例27)。また、シリカゾルが、平均粒子径が100nmのもの(日産化学工業株式会社製 大粒子径シリカゾル―スノーテックスPS−S)あるほかは、実施例2の分散液Bと同様にしてコロイド分散液(分散液E)(15.0重量%)を調整した(実施例28)。実施例27の分散液D、実施例28の分散液Eを用い、浸透試験を行って浸透性の観察を行い、また、粘度の測定を実施した。浸透試験は、実施例5と同様に実施され、粘度の測定は実施例1と同様にフローカップ法によって実施され、た。実施例27,28についての結果を表4に示す。測定の結果より実施例2の分散液Bは、実施例27の分散液D、実施例28の分散液Eよりも低粘度であり、分散液Bがより好ましいコロイド分散液となっていることが確認される。
実施例27の分散液Dでは1回目の塗布では塗布面の一部ではあるが光沢が発生し、2回目では石綿層の一部にゲルコート状が確認された。実施例28の分散液Eでは1回目、2回目の塗布ともに塗布面の一部に光沢が発生し緩慢な浸透作用が観察された。したがって、分散液DEよりも分散液Bが浸透性に優れていた。シリカゾルの粒子径は、実施例2の分散液Bのシリカゾル程度であることが浸透特性上より好ましいことが確認された。
実施例29〜30
実施例29〜30では、それぞれ、実施例番号の昇順に、分散液D、分散液Eを処理剤として用いたほかは、実施例5と同様に、試験体に対してそれぞれ処理剤の吹付け施工を施し、さらに、実施例9と同様にして、試験体の付着強度及び破断深さの測定を行った。結果を表5に示す。
比較例4
処理剤として、分散液Bに変えて、市場に流通している水溶性ケイ酸アルカリ系飛散防止処理剤(WG)を用い、試験体に対する吹付け量を2回の吹付け量の合計が11.0Kg/m2となるようにしたほかは、実施例10と同様にして付着強度(N/cm2)(X1)及び破断深さ(mm)(Y1)を測定した。これにあわせて、WGの塗布を行わなかった試験体についても、それぞれ付着強度(X0)及び破断深さ(Y0)を測定した。そして、WGの塗布による付着強度及び破断深さの向上度(それぞれ、X1/X0、Y1/Y0)を算出した。結果を表6に示す。なお、表6には、実施例10、比較例2の結果に基づき、比較例4と同様に算出された分散液Bについての付着強度及び破断深さの向上度をあわせてしめす。
分散液BとWGとの比較では塗布下限の設定値に約4倍の差が有るものの付着強度試験では分散液B、WG共に120%と同等の強度増が確認された。破断深さの項では分散液Bでは「塗布なし」に対して「塗布あり」では200%強を示しているのに対してWGは110%程度を示している。この差異は分散液Bが塗布時に疑似石綿層のより深部まで浸透し、更に均質な繊維の結束或いは、固化層を形成する好適な機能を証明している。
上述したところは、この発明の実施形態の例を示したのにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。