発明の詳細な説明
分子標的化薬は、悪性細胞に対して特異的が高いこと、およびその明確に規定された作用機序のために副作用が少ないことが期待される。本発明者らは、そのような薬物の開発に適した分子標的を同定するための有望な戦略として、癌細胞において過剰発現される遺伝子を選別可能なゲノム規模の発現分析を、RNAi技術による機能喪失効果のハイスループットスクリーニングと組み合わせた。さらに、標的タンパク質となる可能性を確認するため、組織マイクロアレイ法を適用して何百もの保管臨床試料を解析した。この種の系統的アプローチを用いて、KIF4A、MAPJD、NPTX1、およびFGFR1OPが肺癌臨床試料および肺癌細胞株において高頻度で過剰発現していること、ならびにそれらの遺伝子産物が肺癌細胞の増殖および進行において不可欠な役割を果たしていることが、本明細書において実証される。
KIF4Aなどのキネシンスーパーファミリータンパク質(KIF)は、微小管ベースのモータータンパク質であり、微小管に沿った指向性運動を生じる。KIFは、細胞***を含む細胞の機能および形態にとって不可欠である細胞内輸送系において重要な存在すなわち中心的なタンパク質である(Zhu C and Jiang W. Proc Nat Acad Sci U S A. 102: 343-8, 2005)。またKIFスーパーファミリーは、その構成要素がインシリコおよびインビボの両方で完全に同定され確認された、哺乳類における最初の大きなタンパク質ファミリーである(Miki H, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Jun 19;98(13):7004-11)。ヒトKIF4Aの大部分は中間期の間、核マトリクスに結合しているが、ごく一部が細胞質内で見いだされる。有糸***の際には、全過程を通じて染色体に結合している(Lee YM, et al. Biochem J. 2003 Sep 1;374(Pt 2):497-503)。しかしながら、発癌の際のKIF4Aの役割は明らかにされていない。
肺癌の発癌および進行における幾つかのタンパク質との相互作用を通じたKIF4Aタンパク質の分子的役割の分析から、この分子が肺癌の新規の治療薬および予後マーカーの開発に有用な標的であることが示されている。以下に示すように、同じく肺癌において活性化される二つのジンクフィンガータンパク質であるZNF549(GenBankアクセッション番号NM_153263)およびZNF553(GenBankアクセッション番号NM_152652)が、KIF4A相互作用タンパク質として同定された。
MAPJDは、DNA結合ドメインまたはクロマチン結合ドメインに共通して見られるJmjC保存ドメインを持った核タンパク質として既に報告されている(Eilbracht J, et al. Mol Biol Cell. 2004 Apr;15(4):1816-32)。JmjCドメインを含むタンパク質は、クロマチン再構築および遺伝子発現を調節する酵素活性を有すると考えられている。しかしながら、JmjCを含むファミリーに属するメンバーが発癌の際に果たす役割は明らかにされていない。
MYC(c-Myc)癌遺伝子は、ヒト癌において最も高い頻度で過剰発現される遺伝子の一つである(Nesbit CE, et al. 1999, Oncogene 18:3004-16)。MYCの発現レベルは、一部には、細胞周期制御に関与する遺伝子を調節することによって細胞増殖と密に関係している。MYCは、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックスロイシンジッパーファミリーに属する配列特異的な転写因子として機能する。MYCは、MYC関連X因子(MAX)と二量体化されると、ゲノム中のCACGTG(CANNTG)モチーフ(Eボックス)に結合し、さまざまな標的遺伝子の転写を活性化する(Blackwell TK. et al. Science 250: 1149-51;Blackwood EM and Eisenman RN. 1991. Science. 251:1211-7)。最近では、MYC/MAXヘテロ二量体の転写活性は、p300/CBP関連因子(PCAF、別名GCN5) (McMahon SB, et al. Mol. Cell. 20, 556-62 (2000))またはTIP60ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)(Frank SR, et al. EMBO Rep. 4, 575-80 (2003))と一緒に形質転換/転写ドメイン関連タンパク質(TRRAP)を含む補因子複合体を動員するその能力と関連付けられている。
本発明者は、MYCとの相互作用を通じてさまざまな下流標的遺伝子を活性化することにより、MAPJDが肺の発癌において重要な役割を果たすことを明らかにしている(Mol Cancer Ther. 2007 Feb;6(2):542-51)。すなわち、MAPJDは肺癌に対する新規治療薬の開発に有用な標的である。
FGFR1OPは当初、骨髄増殖性疾患(MSD)を引き起こすt(6;8)(q27;p11)染色体転座におけるFGFR1の融合パートナーとして同定された(Popovici C, et al. Blood 1999;93:1381-9;Guasch G, et al. Mol Cell Biol 2001;21:8129-42, Blood 2004;103:309-12)。ある種のキメラキナーゼ融合タンパク質を有する白血病患者での発癌に関してチロシンキナーゼ活性の構成的活性化が重要であることは十分に確立されているものの、肺発癌の際のFGFR1OPの役割は明らかにされていない。
一方、ウェルナーヘリカーゼ相互作用タンパク質1(WRNIP1、別名WHIP) (GenBankアクセッション番号NM_020135)は、DNAおよびRNAヘリカーゼのRecQサブファミリーおよびDEAH(Asp-Glu-Ala-His)サブファミリーのメンバーをコードするWRN(ウェルナー症候群タンパク質)と物理的に相互作用することが知られている(Kawabe Yi, et al. J Biol Chem 2001;276:20364-9)。WRNIP1は複製因子Cファミリータンパク質に対する相同性を示し、かつこれは大腸菌(E. coli)からヒトまで保存されている(Kawabe Yi, et al. J Biol Chem 2001;276:20364-9)。酵母およびヒト細胞での研究から、この遺伝子は老化過程に影響を及ぼす可能性があること、およびDNA複製機構と相互作用してDNA複製または複製に関連する修復の際のDNAポリメラーゼδ(POLD)の機能を調節する可能性があることが示されている(Kawabe Yi, et al., J Biol Chem. 2001 Jun 8;276(23):20364-9. Epub 2001 Apr 11; Hishida T, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Jul 17;98(15):8283-9; Branzei D, et al., Mol Genet Genomics. 2002 Nov;268(3):371-86. Epub 2002 Oct 8; Tsurimoto T, et al., Genes Cells. 2005 Jan;10(1):13-22)。これまでの報告から、WRNが腫瘍抑制遺伝子としてはたらくことが示されているが(Nakayama H. Oncogene 2002;21:9008-21;Agrelo R, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2006;103:8822-7)、腫瘍発生におけるWRNIP1の役割は明らかにされていない。
一方、遍在的に発現されるABL1は、核および細胞質に分布する非受容体型チロシンキナーゼである(Wen ST, et al., EMBO J. 1996 Apr 1;15(7):1583-95;Taagepera S, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jun 23;95(13):7457-62)。核ABL1は、DNA二本鎖切断および架橋を含む遺伝毒性ストレスによって活性化され、アポトーシスを誘導する(Kharbanda S, et al., Nature. 1995 Aug 31;376(6543):785-8;Yuan ZM, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Feb 18;94(4): 1437-40)。DNA損傷による核ABL1の活性化は、p53、p73およびRad9に部分的に依存する機構によってアポトーシスに寄与する(Agami R, et al., Nature. 1999 Jun 24;399(6738):809-13; Gong JG, et al., Nature. 1999 Jun 24;399(6738):806-9; Yoshida K, et al., Mol Cell Biol. 2002 May;22(10):3292-300; Yuan ZM, et al., J Biol Chem. 1996 Oct 25;271(43):26457-60; Yuan ZM, et al., Nature. 1999 Jun 24;399(6738):814-7)。さらに、DNA損傷に対する細胞応答は、ABL1と、Rad51、Rad52、BRCA1、およびUV損傷DNA結合タンパク質を含むDNA修復タンパク質との相互作用を伴う(Cong F, et al., J Biol Chem. 2002 Sep 20;277(38):34870-8. Epub 2002 Jul 9; Foray N, et al., Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32; Kitao H & Yuan ZM., J Biol Chem. 2002 Dec 13;277(50):48944-8. Epub 2002 Oct 11; Yuan ZM, et al., J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7):3799-802)。また、ABL1によるチロシンリン酸化はDNA損傷応答における重要な調節的役割を果たしており、これまでの報告から、ABL1によるRad51のリン酸化がその鎖交換活性を阻害すること(Yuan ZM, et al., J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7): 3799-802)、およびBRCA1がATM依存的様式でABL1によってリン酸化されること(Foray N, et al., Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32)が示されている。このようにABL1は、組換えDNA修復をアポトーシスの誘導と協調させる際に機能するようである。また最近の研究から、WRNがABL1によってリン酸化されること、つまりWRNエキソヌクレアーゼ活性およびヘリカーゼ活性両方のそのチロシンリン酸化阻害も確認されている。これまでの報告から、複製フォーク複合体がDNA損傷または構造ストレスによって引き止められると、WRN、WRNIP1、およびPOLDは三元複合体を形成し、POLDを介したDNA合成を調節するように機能する可能性が示されている(Kawabe Yi, et al., J Biol Chem. 2001 Jun 8;276(23):20364-9. Epub 2001 Apr 11;Tsurimoto T, et al., Genes Cells. 2005 Jan;10(1):13-22)。WRNIP1はセリンリン酸化およびチロシンリン酸化されうるが(Beausoleil SA, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Aug 17;101(33):12130-5. Epub 2004 Aug 9; Foray N, et al., Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32; Kitao H & Yuan ZM., J Biol Chem. 2002 Dec 13;277(50):48944-8. Epub 2002 Oct 11; Yuan ZM, et al., J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7):3799-802)、WRNIP1を直接リン酸化するキナーゼは報告されていない。本発明において、WRNIP1のチロシンがインビボおよびインビトロにおいてABL1によりリン酸化されるという初めての根拠を提供する。
本発明において、FGFR1OPは肺癌に対する新規の治療薬または予後マーカーの開発のための標的として同定される。特に本発明は、FGFR1OPの過剰発現が肺癌細胞の増殖を促進するという根拠を提供する。さらに本発明は、細胞増殖および分化において重要な役割を果たすWRNIP1またはABL1とFGFR1OPが相互作用することを示す。本研究では、FGFR1OPの過剰発現が肺癌細胞の悪性に寄与しうること、およびFGFR1OPがABL1依存的なWRNIP1リン酸化を有意に低減し、かつ癌細胞周期の進行を促進するようであることについて記載する。さらに、過剰発現されたFGFR1OPが細胞移動/運動およびゲノム監視経路にとって、ならびに肺癌の侵襲性にとって不可欠な寄与因子であることを示す。これらのデータはヒト肺の発癌におけるFGFR1OPの分子的役割の可能性を暗示しているので、本発明者らは、FGFR1OP分子の標的化が肺癌の臨床管理のための新規の診断・治療戦略の開発に有望でありうることを示唆する。
本発明において、NPTX1は、新たに確認された「長いペントラキシン」サブファミリーのメンバーである(Goodman AR, et al. Cytokine Growth Factor Rev. 1996 Aug;7(2): 191-202)。NPTX1遺伝子は、N末端シグナル配列およびC末端ペントラキシン(pentaxin)ドメインを有する430アミノ酸の分泌タンパク質をコードする。新たに確認されたタンパク質サブファミリーである「長いペントラキシン」は、興奮性シナプス形成およびシナプス再構築の促進における役割を有しうる幾つかの構造的および機能的な特徴を有する(Schlimgen AK, et al. Neuron. 1995 Mar;14(3):519-26;Kirkpatrick LL, et al. J Biol Chem. 2000 Jun 9;275(23):17786-92)。このサブファミリーのメンバーには神経細胞のペントラキシン1(NPTX1)、神経細胞のペントラキシン2(NPTX2)、および神経細胞のペントラキシン受容体(NPTXR)が含まれる(Schlimgen AK, et al. Neuron. 1995 Mar;14(3):519-26; Kirkpatrick LL, et al. J Biol Chem. 2000 Jun 9;275(23):17786-92; Goodman AR, et al. Cytokine Growth Factor Rev. 1996 Aug;7(2): 191-202, Dodds, J Biol Chem. 1997 Aug 22;272(34):21488-94)。NPTX1およびNPTX2はともに超付加的(super-additive)なシナプス形成活性を有する。しかしながら、発癌の際の「長いペントラキシン」の役割およびその機能は明らかにされていない。
本明細書で報告する研究において、本発明者らは、新規の治療薬および診断マーカーの開発のための潜在的標的としてNPTX1を同定し、ヒト肺の発癌におけるこの分子の役割の可能性を明らかにした。
定義:
本明細書で用いる「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」という用語は、特に明記しない限り、「少なくとも一つの」を意味する。
「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、特記しない限り、本明細書において互換的に用いられ、それらの一般に認識されている1文字コードを指す。これらの用語は、1つまたは複数の核酸がエステル結合によって連結されている核酸(ヌクレオチド)ポリマーに適用される。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせからなり得る。
本明細書で用いる「二本鎖分子」という用語は、例えば低分子干渉RNA(siRNA;例えば二本鎖リボ核酸(dsRNA)または短いヘアピンRNA(shRNA))および低分子干渉DNA/RNA(siD/R-NA;例えばDNAおよびRNAの二本鎖キメラ(dsD/R-NA)またはDNAおよびRNAの短いヘアピンキメラ(shD/R-NA))を含む標的遺伝子の発現を阻害する、核酸分子を指す。
本発明の文脈において、「KIF4Aポリペプチド」または「KIF4A」とは、キネシンファミリーメンバー4Aを指す。例えば、その全文が参照により本明細書に組み入れられる、Zhu C and Jiang W. Proc Nat Acad Sci U S A. 102: 343-8, 2005を参照されたい。KIF4Aポリペプチドのアミノ酸配列はSEQ ID NO: 53とも呼ばれ、これはSEQ ID NO: 52のヌクレオチド配列によってコードされている。本明細書において、「ZNF549ポリペプチド」または「ZNF549」および「ZNF553ポリペプチド」または「ZNF553」は、それぞれzincフィンガータンパク質549および553を指す。ZNF549ポリペプチドおよびZNF553ポリペプチドの例には、例えばそれぞれ、SEQ ID NO: 86およびSEQ ID NO: 88のヌクレオチド配列によりコードされている、SEQ ID NO: 87およびSEQ ID NO: 89と実質的に同一なタンパク質が含まれる。
本発明の文脈において、「MAPJDポリペプチド」または「MAPJD」とは、JmjCドメインを有するMyc関連タンパク質を指す。例えば、その全文が参照により本明細書に組み入れられる、Eilbracht J, et al. Mol Biol Cell. 2004 Apr; 15(4):1816-32を参照されたい。MAPJDポリペプチドのアミノ酸配列はSEQ ID NO: 55とも呼ばれ、これはSEQ ID NO: 54のヌクレオチド配列によってコードされている。
本明細書において「HAT複合体」とは、MYC、TRRAP、およびTIP60を含む複合体を指す。本発明の文脈において、「MYC」とは、ヒト癌において最も高頻度に過剰発現する遺伝子の1つである、c-Myc癌遺伝子を指す。例えば、その全文が参照により本明細書に組み入れられる、Nesbit C.E., et al. 1999, Oncogene 18:3004-16を参照されたい。さらに、「TRRAP」とは、形質転換/転写ドメイン関連タンパク質(transformation/transcription domain-associated protein)を指す。例えば、McMahon SB., et al. Mol. Cell. 20, 556-62 (2000)を参照されたい。さらに、「TIP60」とは、当初はHIV TATタンパク質の活性化補助因子として同定された、TAT相互作用タンパク質60を指す。例えば、Brady ME., et al., 1999. J. Biol. Chem. 274: 17599-604を参照されたい。MYC、TRRAP、およびTIP60ポリペプチドのアミノ酸配列、ならびにそれらをコードするヌクレオチド配列は、例えば、MYCについてはGenBankアクセッション番号NM_002467、TRRAPについてはNM_003496、およびTIP60についてはNM_182710、NM_006388、またはNM_182709より入手可能である。
本発明の文脈において、「FGFR1OPポリペプチド」または「FGFR1OP」とは、線維芽細胞増殖因子受容体1癌遺伝子パートナーを指す。FGFR1OPは、LisHドメインを伴う399アミノ酸からなる。LisHモチーフは、二量体化を仲介することによって、またはさもなくば細胞質ダイニン重鎖へもしくは直接微小管へ結合することによって、微小管動態の調節に寄与することが示唆されている。例えば、その全文が参照により本明細書に組み入れられる、Sapir T, et al. Eur J Biochem 1999;265:181-8.; およびCahana A, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2001;98: 6429-34を参照されたい。「FGFR1OPポリペプチド」の例には、例えばSEQ ID NO: 59と実質的に同一なタンパク質が含まれ、これは、SEQ ID NO: 58のヌクレオチド配列によりコードされており、かつGenBankアクセッション番号NM_007045より入手可能である。
本明細書において、「WRNIP1ポリペプチド」または「WRNIP1」とは、ウェルナーヘリカーゼ相互作用タンパク質1を指す。「WRNIP1ポリペプチド」の例には、例えばSEQ ID NO: 91と実質的に同一なタンパク質が含まれ、これは、SEQ ID NO: 90のヌクレオチド配列によりコードされており、かつGenBankアクセッション番号NM_020135より入手可能である。
本明細書において、「ABL1ポリペプチド」または「ABL1」とは、v-ablアベルソンマウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1を指す。「ABL1ポリペプチド」の例には、例えばSEQ ID NO: 92と実質的に同一なタンパク質が含まれ、これは、SEQ ID NO: 93のヌクレオチド配列によりコードされており、かつGenBankアクセッション番号NM_007313より入手可能である。
本発明の文脈において、「標的分子」とは、KIF4A、MAPJD、NPTX1、およびFGFR1OPからなる群より選択される任意の1分子、またはその機能的同等物を指す。さらに本発明の文脈において、「パートナー分子」とは、ZNF549、ZNF553、MYC、WRNIP1、およびABL1のいずれか1分子、またはその機能的同等物を指す。さらに、本発明において、標的分子とそのパートナー分子の組合せは、KIF4A/ZNF549、KIF4A/ZNF553、MAPJD/MYC、FGFR1OP/WRNIP1、FGFR1OP/ABL1、およびFGFR1OP/WRNIP1/ABL1からなる群より選択される。
本発明の文脈において、2つのタンパク質間の「結合の阻害」とは、タンパク質間の結合を少なくとも減少させることを指す。従って、場合によっては、試料中の結合対のパーセンテージは、適切な(例えば、試験化合物で処置されていない、または非癌試料由来の、または癌試料由来の)対照と比較して低下する。結合したタンパク質の量における減少は、例えば、対照試料中で結合した対よりも、90%、80%、70%、60%、50%、40%、25%、10%、5%、1%よりも少ない、またはそれより少なく(例えば0%)なりうる。
「試験化合物」という用語は、本明細書において詳しく述べられるような、標的分子とそのパートナー分子との間のタンパク質-タンパク質相互作用を阻害しうる任意の(例えば化学的または組換え的に産生された)分子を指す。一部の態様において、試験化合物は1,500ダルトン未満の分子量を有し、場合によっては、1,000、800、600、500、または400ダルトン未満の分子量を有する。
化合物の「薬学的有効量」とは、個体において標的分子を介した疾患を治療および/または改善するのに十分な量である。薬学的有効量の一例は、動物に投与したときに、標的分子とパートナー分子との間の相互作用を低下させるのに必要な量でありうる。相互作用における低下とは、例えば、結合における少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%の変化でありうる。または、この量は、標的分子の野生型について本明細書に記載されているように、投与したときに核局在を検出可能に低下させる量を含みうる。
「薬学的に許容される担体」という表現は、薬物の希釈剤または賦形剤として用いられる不活性な物質を指す。
本発明の文脈において、「機能的に同等」という用語は、対象ポリペプチドが参照ポリペプチドの生物学的活性を有することを意味する。例えば、KIF4Aの機能的同等物は、野生型KIF4Aと同様に微小管に沿った指向性運動を生じる、微小管ベースのモータータンパク質を有するであろう。モータータンパク質の活性を決定するためのアッセイ法は当技術分野において周知である。
あるいは、例えば、HAT複合体に結合したMAPJDの機能的同等物は、HAT複合体が結合した野生型MAPJDと同様に、ヒストンH4のアセチル化活性を有するであろう。このような活性を決定するためのアッセイ法は当技術分野において周知である。
さらに、例えば、FGFR1OPの機能的同等物は、野生型FGFR1OPと同様に、WRNIPおよび/またはABL1への結合活性を有するであろう。結合活性を決定するためのアッセイ法は当技術分野において周知である。
「単離」および「生物学的に純粋」という用語は、自然の状態で見られる通常はそれに付随する成分を実質的または本質的に含まない材料を指す。しかしながら、「単離」という用語は、電気泳動ゲルまたは他の分離媒体中に存在する成分を指すことを意図しない。単離された成分はそのような分離媒体を含まず、別の用途にすぐに使用可能な形態であるか、あるいは既に新しい適用/環境で使用されている。
「保存的に改変された変異体」という表現は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重により、機能的に同一の核酸の多数が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUは全て、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって指定される全ての位置で、そのコドンは、コードするポリペプチドを変化させることなく任意の上記対応コドンに変えることができる。このような核酸変異は「サイレント変異」、つまり保存的に改変された変異の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列は、その核酸の全ての可能なサイレント変異も表す。当業者は、核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUGと、通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して機能的に同一の分子を得ることができることを認識するであろう。よって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、各開示配列に暗黙のうちに記載されている。
アミノ酸配列に関し、コードされた配列中の1個のアミノ酸を、または少ないパーセンテージのアミノ酸を変化、付加、または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する置換、欠失、または付加それぞれが、その変化がアミノ酸を化学的に類似のアミノ酸と置換する「保存的に改変された変異体」であることを当業者は認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は当技術分野において周知である。このような保存的に改変された変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子に加えられるものであって、これらを排除するものではない。
以下の8群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984) を参照されたい)。
本発明の文脈において、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適に整列された配列を比較ウィンドウにわたって比較することにより決定され、このとき比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列部分は、2つの配列の最適な整列について、付加または欠失を含まない参照配列(例えば本発明のポリペプチド)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでもよい。このパーセンテージは、同一核酸塩基またはアミノ酸残基が両配列に現れる位置の数を決定してマッチする位置の数を出し、マッチする位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを出すことによって計算される。
2つもしくはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、「同一」またはパーセント「同一性」という用語は、同じ配列である2つまたはそれ以上の配列または部分配列を指す。2つの配列が、下記の配列比較アルゴリズムの1つを用いてまたはマニュアル整列と目視検査によって測定された比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大一致するように比較整列された際に、同じアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定のパーセンテージで有する(すなわち、特定領域にわたって、あるいは特定されていない場合は全配列にわたって、60%同一性、任意で65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%同一性)場合、2つの配列は「実質的に同一」である。任意で、同一性は長さが少なくとも約50ヌクレオチドである領域にわたって存在し、またはより好ましくは長さが100〜500または1000ヌクレオチド以上である領域にわたって存在する。
配列比較には、典型的には1つの配列を参照配列とし、これに対して試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば部分配列座標を指定して、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトプログラムパラメータを用いてもよく、また、代替的なパラメータを指定してもよい。そして配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて、試験配列について参照配列に対するパーセント配列同一性を計算する。
本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、20〜600、一般的には約50〜約200、より一般的には約100〜約150からなる群より選択される連続位置の数のいずれか1つのセグメントに対する参照を含み、この内部において、ある配列が同じ数の連続位置の参照配列と最適に整列された後、これら2つの配列が比較されうる。比較するために配列を整列する方法は当技術分野において周知である。例えば、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-9の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-53の相同性整列アルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444-8の類似性検索法、これらアルゴリズムのコンピュータによる実施(GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)、またはマニュアル整列と目視検査(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement) を参照されたい)によって比較用に配列を最適に整列できる。
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するために適したアルゴリズムの2つの例がBLASTアルゴリズムおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschul et al. (1997) Nuc. Acids Res. 25:3389-402、およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワード(word)と整列させた場合にいくつかの正の値の閾値スコアTにマッチするかまたはそれを満たす、クエリー(query)配列中の長さの短いワードWを同定することによって、高スコア配列対(HSP)をまず同定することを含む。Tは近傍ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)(Altschul et al.、上記)と呼ばれる。これら初期近傍ワードヒットが、これらを含むさらに長いHSPを見つけるための検索を開始するためのシード(seed)となる。ワードヒットは、累積整列スコアを増加できる限り、各配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列に関しては、パラメータM(マッチする残基対に対するリワード(reward)スコア;常に>0)およびパラメータN(ミスマッチ残基に対するペナルティ(penalty)スコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列に関しては、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算する。各方向におけるワードヒットの延長は以下の場合に停止される:累積整列スコアが最大達成値から量X分減少する場合;累積スコアが、1つまたは複数の負のスコアの残基整列の蓄積によってゼロ以下になる場合;あるいは、いずれかの配列の終わりに達する場合。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXは、整列の感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)はデフォルトとして、word length(ワード長)(W)11、expectation(期待値)(E)10、M=5、N=-4、およびcomparison of both strands(両鎖の比較)を用いる。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムはデフォルトとして、word length 3、expectation(E)10、BLOSUM62 scoring matrix(スコアリング マトリックス)(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915-9を参照されたい)alignment(アライメント)(B)50、expectation(E)10、M=5、N=-4、およびcomparison of both strandsを用いる。
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計学的解析を行う(例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度が最小合計確率(smallest sum probability, P(N))であり、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間のマッチが偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸の参照核酸との比較における最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は参照配列に類似すると見なされる。
「有機低分子」という用語は、薬剤に一般的に用いられる有機分子に相当するサイズの分子を指す。この用語は生物学的高分子(例えば、タンパク質、核酸など)は除外する。好ましい有機低分子はサイズが約5000Daまで、例えば、2000Daまで、あるいは約1000Daまでの範囲である。
「標識」および「検出可能な標識」という用語は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、または化学的手段によって検出可能な任意の組成物を指すために本明細書において用いられる。このような標識としては、標識されたストレプトアビジン結合体での染色のためのビオチン、磁気ビーズ(例えばDYNABEADS(商標))、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射標識(例えば、3H、125I、.35S、14C、または32P)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびELISAで一般的に用いられる他のもの)、および金コロイドまたは着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなどの)ビーズなどの熱量測定標識が挙げられる。このような標識の使用を教示する特許としては、米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;および第4,366,241号が挙げられる。このような標識を検出する手段は当業者に周知である。したがって、例えば、放射標識は感光フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出することができ、蛍光マーカーは放出された光を検出する光検出器を用いて検出しうる。酵素標識は典型的には、酵素に基質を提供して酵素の基質に対する作用によって産生された反応産物を検出することによって検出され、熱量測定標識は着色された標識を単純に視覚化することによって検出される。
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、天然抗体および非天然抗体を包含し、例えば、単鎖抗体、キメラ、二機能性、およびヒト化抗体、ならびにそれらの抗原結合断片(例えば、Fab'、F(ab')2、Fab、Fv、およびrIgG)を含む。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995 (Pierce Chemical Co., Rockford, IL) も参照されたい。例えば、Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998) も参照されたい。このような非天然抗体は固相ペプチド合成を用いて構築することができ、組換え的に産生することも、あるいは例えば、参照として本明細書に組み入れられる、Huse et al., Science 246:1275-81 (1989) に記載されているように、可変重鎖と可変軽鎖とからなるコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって得ることもできる。例えば、キメラ、ヒト化、CDR移植、単鎖、および二機能性抗体を作成するこれらおよび他の方法は当業者に周知である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-6 (1993); Ward et al., Nature 341:544-6 (1989); Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, 1988 511-52; Hilyard et al., Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992); Borrebaeck, Antibody Engineering, 2d ed. (Oxford University Press 1995);これらは各々参照として本明細書に組み入れられる)。
「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を含む。この用語はまた、キメラ抗体(例えばヒト化マウス抗体)およびヘテロ結合抗体(heteroconjugate antibody)(例えば二重特異性抗体)などの遺伝的に操作された形態を含む。この用語はまた、組換え単鎖Fv断片(scFv)も指す。抗体という用語はまた、二価の分子または二重特異性分子、二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)、および四重特異性抗体(tetrabody)を含む。二価の分子および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148:1547-53, Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31:1579-84, Holliger et al. (1993) Proc Natl Acad Sci U S A. 90:6444-8, Gruber et al. (1994) J Immunol 152:5368-74, Zhu et al. (1997) Protein Sci 6:781-8, Hu et al. (1996) Cancer Res. 56:3055-61, Adams et al. (1993) Cancer Res. 53:4026-34、および McCartney, et al. (1995) Protein Eng. 8:301-14に記載されている。
典型的には、抗体は重鎖および軽鎖を有する。重鎖および軽鎖はそれぞれ定常領域および可変領域(これら領域は「ドメイン」としても知られる)を含む。軽鎖および重鎖可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる、3つの超可変領域によって中断される4つの「フレームワーク」領域を含む。フレームワーク領域およびCDRの範囲は規定されている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成軽鎖と重鎖のフレームワーク領域を合わせたものは、CDRを3次元空間に位置付け、整列させる。
CDRは主として抗原エピトープへの結合を担っている。各鎖のCDRは、典型的にはN末端から順に番号がつけられてCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれ、また典型的には、その特定のCDRが位置する鎖によって同定される。したがって、VH CDR3はそれが見出される抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、VL CDR1はそれが見出される抗体の軽鎖の可変ドメインのCDR1である。
「VH」への言及は抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域を指し、Fv、scFv、またはFabの重鎖を含む。「VL」への言及は免疫グロブリン軽鎖の可変領域を指し、Fv、scFv、dsFv、またはFabの軽鎖を含む。
「単鎖Fv」または「scFv」という表現は、通常の2鎖抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインが連結して1つの鎖を形成した抗体を指す。典型的にはリンカーペプチドが2つの鎖の間に挿入されており、適正なフォールディングと活性な結合部位の形成とを可能にする。
「キメラ抗体」は、(a)異なるまたは変えられた、クラス、エフェクター機能、および/または種の定常領域に、あるいはキメラ抗体に新しい特性を付与する全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに、抗原結合部位(可変領域)が結合するように、定常領域またはその一部分が変えられた、置き換えられた、または交換された;あるいは(b)可変領域またはその一部分が、異なるまたは変えられた抗原特異性を有する可変領域に変えられた、置き換えられた、または交換された、免疫グロブリン分子である。
「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリン分子である。ヒト化抗体には、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)の相補性決定領域(CDR)に由来する残基でヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)のCDR由来の残基が置き換えられているヒト免疫グロブリンが含まれる。一部の例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置き換えられる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、導入されたCDRもしくはフレームワーク配列にも見られない残基を含みうる。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、これらCDR領域の全てまたは実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域の全てまたは実質的に全てはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体は最適にはまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部分を含む(Jones et al., Nature 321:522-5 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988)、 および Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-6 (1992))。ヒト化は本質的には、Winterと共同研究者(Jones et al., Nature 321:522-5 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988); Verhoeyen et al., Science 239:1534-6 (1988))の方法に従って、齧歯類のCDRまたはCDR配列でヒト抗体の対応配列を置換することによって行うことができる。従って、このようなヒト化抗体はキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、実質的に完全でないヒト可変ドメインが非ヒト種由来の対応配列によって置換されている。
「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは連続アミノ酸から、またはタンパク質の三次フォールディングによって近接して並べられた非連続アミノ酸から形成されうる。連続アミノ酸から形成されたエピトープは典型的には変性溶媒にさらされても保持され、三次フォールディングによって形成されたエピトープは典型的には変性溶媒による処理で失われる。エピトープは典型的には、独自の空間的高次構造中に少なくとも3、より一般的には少なくとも5または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的高次構造を決定する方法には、例えばx線結晶解析および2次元核磁気共鳴が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996) を参照されたい。
抗体と同様の様式で標的を標的化してそれに結合する、その他の化合物が開発されてきた。これらの「抗体模倣体」のいくつかは、抗体の可変領域に対する代替的なタンパク質フレームワークとして、非免疫グロブリンタンパク質骨格を使用する。したがって、以下でより詳細に考察するように、「抗体模倣体」という用語は、アドネクチン(adnectin)、アビマー(avimer)、一本鎖ポリペプチド結合分子、および抗体様結合ペプチド模倣体を含む非免疫グロブリンタンパク質骨格を用いる、非抗体結合タンパク質を指す。当業者は、本書類に記載された抗体を用いる全ての方法が、抗体模倣体を用いても実施可能であることを認識するであろう。
Kuら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(14):6552-6556 (1995))は、チトクロームb562に基づく抗体の代替物を開示している。Kuら(1995)は、チトクロームb562のループの2つがランダム化されたライブラリーを作製し、ウシ血清アルブミンに対する結合について選択した。個々の変異体は、抗BSA抗体と同様にBSAに選択的に結合することが見出された。
Lipovsekら(米国特許第6,818,418号および第7,115,396号)は、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン様タンパク質骨格および少なくとも1つの可変ループを特徴とする、抗体模倣体を開示している。アドネクチンとして公知である、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体は、任意の標的リガンドに対する高い親和性および特異性を含む、天然抗体または改変抗体と同じ特徴の多くを示す。新規のまたは改善された結合タンパク質を進化させるための任意の技術を、これらの抗体模倣体と共に用いることができる。
これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体の構造は、IgG重鎖の可変領域の構造と類似している。したがって、これらの模倣体は、本来の性質と同様の抗原結合特性および天然抗体のものと同様の親和性を示す。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体は、抗体および抗体断片に対して一定の利点を示す。例えば、これらの抗体模倣体は、天然の折り畳み安定性のためのジスルフィド結合に依るものではなく、かつしたがって、通常は抗体が壊れるような条件下で安定である。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体の構造がIgG重鎖の構造と類似していることから、インビボにおける抗体の親和性成熟プロセスと類似したループランダム化およびシャッフリングのプロセスを、インビトロで用いることができる。
Besteら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96(5):1898-1903 (1999))は、リポカリン骨格に基づく抗体模倣体を開示している(Anticalin(登録商標))。リポカリンは、タンパク質の末端に4つの超可変ループを有するβバレルからなる。Beste(1999)は、ループをランダム変異誘発に供し、例えばフルオレセインとの結合について選択した。3つの変種がフルオレセインとの特異的結合を示し、そのうち1つの変種は抗フルオレセイン抗体と同様の結合を示した。ランダム化された位置の全てが可変であることが、さらなる分析によって明らかとなり、このことは、Anticalin(登録商標)が抗体の代替物としての使用に適していることを示す。
Anticalin(登録商標)は、典型的には160〜180残基の小さな一本鎖ペプチドであり、生産コストの低さ、保存安定性の高さ、および免疫反応の低さを含む、抗体に対するいくつかの利点を提供する。
Hamiltonら(米国特許第5,770,380号)は、結合部位として用いられる複数の可変ペプチドループに結合したカリックスアレーンの強固な非ペプチド有機骨格を用いる合成抗体模倣体を開示している。全てのペプチドループは、互いに対して、カリックスアレーンから幾何的に同じ側から突出している。この幾何的なコンホメーションのために、全てのループを結合のために利用することができ、これによってリガンドへの結合親和性が増大する。しかしながら、他の抗体模倣体と比較すると、カリックスアレーンに基づく抗体模倣体はペプチドのみから成っているわけではなく、したがってこれは、プロテアーゼ酵素による攻撃に強い。骨格が、ペプチド、DNA、またはRNAのいずれからも純粋に構成されていないことは、この抗体模倣体が、極端な環境条件でも比較的安定でありかつ長い寿命を有することを意味している。さらに、カリックスアレーンに基づく抗体模倣体は比較的小さいので、免疫原性反応を生じる可能性が低い。
Muraliら(Cell. Mol. Biol. 49(2):209-216 (2003))は抗体をより小さなペプチド模倣体へと縮小するための方法論を考察しており、これは、抗体の代替物としても有用であり得る「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)と呼ばれる。
Silvermanら(Nat. Biotechnol. 23: 1556-1561 (2005))は、「アビマー」と呼ばれる複数のドメインを含む一本鎖ポリペプチドである融合タンパク質を開示している。インビトロエキソンシャッフリングおよびファージディスプレイによってヒト細胞外受容体ドメインから開発されたアビマーは、様々な標的分子に対するそれらの親和性および特異性に関してある程度抗体に類似した結合タンパク質のクラスである。得られるマルチドメインタンパク質は、単一エピトープ結合タンパク質と比較して向上した親和性(場合によってはナノモル以下)および特異性を示しうる、複数の独立した結合ドメインを含むことができる。アビマーの構築法および使用法に関するさらなる詳細は、例えば米国特許出願公開第20040175756号、同第20050048512号、同第20050053973号、同第20050089932号、および同第20050221384号に開示されている。
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークに加え、抗体特性はまた、RNA分子および非天然オリゴマー(例えば、プロテアーゼインヒビター、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体、およびβターン模倣体)(これら全てが本発明での使用に適している)を含む化合物中でも模倣されている。
当技術分野で知られるように、アプタマーとは核酸からなる巨大分子であり、特定の分子標的と堅く結合する。TuerkおよびGold(Science. 249:505-510 (1990))は、アプタマー選択のためのSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開示している。SELEX法においては、標的分子を用いて、核酸分子の大きなライブラリー(例えば1015個の異なる分子)を作成および/またはスクリーニングする。その後、単離されたアプタマーをさらに精錬して、標的結合および/またはアプタマー構造に寄与しないヌクレオチドを全て除く(すなわち、コア結合ドメインまで切り詰められたアプタマー)。アプタマー技術の概説については、例えばJayasena, 1999, Clin. Chem. 45:1628-1650を参照されたい。
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指して本明細書において相互に交換可能に用いられる。これらの用語は、天然アミノ酸ポリマー、修飾残基を含む天然アミノ酸ポリマー、および非天然アミノ酸ポリマーに適用されるのに加え、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
「アミノ酸」という用語は、天然および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝コードによってコードされるもの、ならびに、後に修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸アナログとは、天然アミノ酸と同じ基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合されたα炭素、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム、を有する化合物を指す。このようなアナログは改変されたR基(例えばノルロイシン)または改変されたペプチド骨格を有しうるが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが天然アミノ酸と同様に機能する化学的な化合物を指す。
アミノ酸は本明細書において、一般的に知られる3文字表記で表されることもあり、またIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission推奨の1文字表記で表されることもある。ヌクレオチドは同様に、一般的に認められた1文字コードで表されうる。
「組換え」という用語は、例えば細胞、あるいは核酸、タンパク質、またはベクターなどへの言及と共に用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核酸またはタンパク質の導入、あるいは元来の核酸またはタンパク質の変化によって改変されていること、あるいは細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。したがって例えば、組換え細胞は元来の(非組換え)形態の細胞では見られない遺伝子を発現するか、または元来の遺伝子を異常に発現する、より少なく発現する、または全く発現しない。本明細書における「組換え核酸」という用語とは、一般に核酸の操作によって、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いて、最初からインビトロで形成された、天然に普通では見られない形態にある核酸を意味する。このようにして異なる配列の機能的な連結が達成される。このように、通常は繋がっていないDNA分子を連結してインビトロで形成した線状形態の単離核酸または発現ベクターは両方とも、本発明の目的に関して組換え型と見なされる。組換え核酸を作製して宿主細胞または生物体に再び導入すると、これは非組換え的に、すなわちインビトロ操作ではなく宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて、複製する;しかし、このような核酸は組換え的に産生されると続いて非組換え的に複製されるが、それでも本発明の目的に関して組換え型と見なされることが理解される。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上記のような組換え核酸の発現を通じて作製されたタンパク質である。
特に定義しない限り、本明細書において用いられる技術的および科学的用語は全て本発明の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、本明細書が定義を含めて統御する。
I. 癌の診断:
I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法
KIF4A遺伝子の発現は、癌患者において特異的に増大していることが分かった。それゆえ、本明細書において同定された遺伝子ならびにその転写産物および翻訳産物には癌マーカーとしての診断的有用性が認められ、細胞試料におけるKIF4A遺伝子の発現を測定することにより癌を診断することができる。特に本発明は、対象におけるKIF4A遺伝子の発現レベルを決定することにより、対象において癌または癌を発症する素因を診断するための方法を提供する。
本方法によって診断可能な癌には、肺癌が含まれる。本方法は、SCLCおよびNSCLCの両方または一方を診断するのに特に適している。
本発明の文脈において、「診断する」という用語は、予測および可能性分析を包含するよう意図される。本方法は、治療的介入を含む治療様式、病期などの診断基準、ならびに癌に対する疾患モニタリングおよび監視に関する判断を下すうえで臨床的に用いられることが意図される。本発明によると、対象の状態を調べるための中間結果を提供することができる。そのような中間結果をさらなる情報と組み合わせて、対象は疾患に罹患していると医師、看護師、またはその他の医療従事者が診断することを補助することができる。あるいは、本発明を用いて対象由来の組織中の癌性細胞を検出し、対象が疾患に罹患していると診断するのに有用な情報を医師に提供することもできる。
本方法によって診断されるべき対象は、好ましくは哺乳類である。例示的な哺乳類としては、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが挙げられるが、これらに限定されることはない。
診断されるべき対象から生体試料を採取して診断を行うことが好ましい。KIF4A遺伝子の目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、判定のための生体試料として任意の生体材料を用いることができる。生体試料には、体組織および血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されることはない。好ましくは、生体試料は、上皮細胞、より好ましくは、癌性上皮細胞または癌性であることが疑われる組織由来の上皮細胞を含む細胞集団を含有する。さらに、必要ならば、得られた体組織および体液から細胞を精製し、その後生体試料として使用してもよい。
本発明によると、KIF4A遺伝子の発現レベルは対象由来の生体試料において決定される。当技術分野において公知の方法を用いて、転写(核酸)産物のレベルで発現レベルを決定することができる。例えば、プローブを用いて、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)法により、KIF4A遺伝子のmRNAを定量化することができる。検出はチップ上またはアレイ上で行うことができる。アレイの使用は、本発明のKIF4A遺伝子を含む複数の遺伝子(例えば、種々の癌特異的遺伝子)の発現レベルを検出するには好ましい。当業者は、KIF4A遺伝子の配列情報(SEQ ID NO: 52;GenBankアクセッション番号NM_012310)を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、KIF4A遺伝子のcDNAをプローブとして用いることができる。必要ならば、色素および同位体などの適切な標識でプローブを標識してもよく、ハイブリダイズした標識の強度として遺伝子の発現レベルを検出してもよい。
さらに、プライマーを用いて、増幅に基づく検出法(例えば、RT-PCR)によって、KIF4A遺伝子の転写産物を定量化することができる。そのようなプライマーも、入手可能な遺伝子配列情報に基づいて調製することができる。例えば、実施例において用いられるプライマー(SEQ ID NO: 1および2)をRT-PCRによる検出に利用してもよいが、本発明はこれらに限定されることはない。
具体的には、本方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな、中程度にストリンジェントな、または低ストリンジェントな条件下でKIF4A遺伝子のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で用いる「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、異なる状況下では異なりうる。比較的短い配列よりも高い温度で、比較的長い配列の特異的ハイブリダイゼーションが観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列に対する熱融解点(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度において)標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度である。標的配列は通常、過剰に存在するため、Tmにおいては、プローブの50%が平衡状態である。典型的には、ストリンジェントな条件とは、塩濃度がナトリウムイオン約1.0 M未満、典型的にはpH 7.0〜8.3でナトリウムイオン(または他の塩)約0.01〜1.0 Mであり、温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)の場合には少なくとも約30℃、長いプローブまたはプライマーの場合には少なくとも約60℃である条件であろう。ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によってストリンジェントな条件を達成することもできる。
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、KIF4Aタンパク質の量を決定することができる。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体または抗体模倣体を用いる免疫測定法が含まれる。抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってよい。さらに、断片がKIF4Aタンパク質への結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または修飾体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を検出のために用いることができる。タンパク質検出用のこれらの種類の抗体を調製するための方法は当技術分野において周知であり、そのような抗体およびその同等物を調製するために任意の方法を本発明において利用することができる。
KIF4A遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出するための別の方法として、KIF4Aタンパク質に対する抗体または抗体模倣体を用いた免疫組織化学的分析を介して染色の強度を観察することができる。すなわち、強い染色が観察されることは、タンパク質の存在量の増加および同時にKIF4A遺伝子の発現レベル上昇を示す。
さらに、翻訳産物をその生物学的活性に基づいて検出することができる。具体的には、本明細書において、KIF4Aタンパク質がキナーゼ活性を有すること、および癌細胞の移動に関与していることが実証された。したがって、生体試料中に存在しているKIF4Aタンパク質の指標としてKIF4Aタンパク質のキナーゼ活性を用いることができる。
さらに、KIF4A遺伝子の発現レベルに加えて、他の癌関連遺伝子、例えばSCLCおよびNSCLCにおいて差次的に発現されることが既知である遺伝子の発現レベルを決定して、診断の精度を向上させることもできる。
生体試料におけるKIF4A遺伝子を含む癌マーカー遺伝子の発現レベルは、対応する癌マーカー遺伝子の対照レベルから、例えば、10%、25%、もしくは50%増大しているか、または1.1倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍を上回る、もしくはそれ以上まで増大しているならば、増大していると見なすことができる。
疾患状態(癌性または非癌性)が既知である対象から以前に回収され保存された試料を用いることにより、対照レベルを試験生体試料と同時に決定することができる。あるいは、疾患状態が既知である対象由来の試料におけるKIF4A遺伝子の以前に決定された発現レベルを分析することによって得られた結果に基づく統計学的方法により、対照レベルを決定することもできる。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースであってもよい。また、本発明の一局面によれば、生体試料におけるKIF4A遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から決定される複数の対照レベルと比較することができる。患者由来の生体試料の組織型に類似した組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が分かっている集団におけるKIF4A遺伝子の発現レベルの標準値を用いることが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値±2 S.D.または平均値±3 S.D.の範囲を標準値として用いることができる。
本発明の文脈において、癌性でないことが分かっている生体試料から決定された対照レベルを「正常対照レベル」と称する。一方、対照レベルが癌性の生体試料から決定されている場合、これを「癌性対照レベル」と称する。
KIF4A遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して増大しているか、または癌性対照レベルに類似している場合、対象は癌に罹患しているかまたは癌の発症リスクを有すると診断することができる。さらに、複数の癌関連遺伝子の発現レベルを比較する場合、試料と癌性である参照との間の遺伝子発現パターンの類似性から、対象は癌に罹患しているかまたは癌の発症リスクを有することが示される。
試験生体試料の発現レベルと対照レベルとの間の違いは、その発現レベルが細胞の癌性状態または非癌性状態に応じて変化しないことが分かっている対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化することができる。例示的な対照遺伝子としては、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が挙げられるが、これらに限定されることはない。
I-2. 癌治療の有効性の評価
正常細胞と癌性細胞との間で差次的に発現されるKIF4A遺伝子によって癌治療の経過をモニターすることも可能であり、癌を診断するための上記の方法を癌に対する治療の有効性の評価または試験に適用することができる。具体的には、癌に対する治療の有効性を、治療を受けている対象に由来する細胞におけるKIF4A遺伝子の発現レベルを決定することにより評価または試験することができる。必要ならば、治療前、治療中、および/または治療後の各種時点で、対象から試験細胞集団を得る。KIF4A遺伝子の発現レベルを、例えば、上記「I-1. 癌または癌を発症する素因を診断するための方法」の項で記載した方法にしたがって決定することができる。例えば、抗KIF4抗体または抗体模倣体を用いた免疫測定法により、KIF4A遺伝子の発現レベルを決定することができる。具体的には、KIF4A遺伝子の発現レベルを検出するのに好ましい方法は、免疫組織化学的分析である。本発明の文脈において、検出された発現レベルと比較される対照レベルは、関心対象の治療に供されていない細胞におけるKIF4A遺伝子発現から決定することが好ましい。
KIF4A遺伝子の発現レベルを、正常細胞からまたは癌細胞を含有していない細胞集団から決定された対照レベルと比較する場合、発現レベルが類似していることによって関心対象の治療が有効であることが示され、発現レベルが異なることによってその治療の臨床転帰または予後があまり良くないことが示される。一方、癌細胞からまたは癌細胞を含有する細胞集団から決定された対照レベルに対して比較を行う場合、発現レベルが異なることによって治療が有効であることが示され、発現レベルが類似していることによって臨床転帰または予後があまり良くないことが示される。
さらに、治療前後のKIF4A遺伝子の発現レベルを本方法によって比較して、治療の有効性を評価することができる。具体的には、治療後の対象由来の生体試料中で検出された発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、同じ対象から治療開始の前に得た生体試料中で検出された発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較する。治療前レベルと比較して治療後レベルが低下していることは、関心対象の治療が有効であることを示が、治療前レベルと比較して治療後レベルが増大または類似していることは、あまり良くない臨床転帰または予後を示す。
本明細書で用いる「有効な」という用語は、治療により、対象において、病理学的に上方制御された遺伝子の発現の低下、病理学的に下方制御された遺伝子の発現の増加、または、癌腫のサイズ、有病率(prevalence)、もしくは転移能の減少がもたらされることを示す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療によって、腫瘍形成が遅延もしくは妨害されるか、または癌の少なくとも一つの臨床症状が遅延、妨害、もしくは軽減されることを意味する。対象における腫瘍の状態の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。
さらに、治療の有効性は、任意の公知の癌診断法に関連して判定することができる。例えば、症候性の異常、例えば体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、ならびに黄疸を特定することによって、癌を診断することができる。
II. 癌の血清診断
対象由来の生体試料におけるNPTX1のレベルを測定することにより、対象における癌の発生または癌を発症する素因を判定することができる。好ましくは、癌は肺癌である。したがって本発明は、生体試料におけるNPTX1のレベルを決定する(例えば、測定する)ことを含む。あるいは、本発明によると、対象の状態を調べるための中間結果を提供することもできる。そのような中間結果をさらなる情報と組み合わせて、対象は疾患に罹患していると医師、看護師、またはその他の医療従事者が診断することを補助することができる。あるいは、本発明を用いて対象由来の組織中の癌性細胞を検出し、対象が疾患に罹患していると診断するのに有用な情報を医師に提供することもできる。さらに、肺癌が疑われる対象を本発明によってスクリーニングすることができる。すなわち本発明は、
(a) スクリーニングされるべき対象から血液試料を採取する段階;
(b) 血液試料におけるNPTX1レベルを決定する段階;
(c) 段階(b)において決定されたNPTX1レベルを正常対照のNPTX1レベルと比較する段階;および
(d) 正常対照と比較して血液試料におけるNPTX1レベルが高いことにより対象は肺癌の疑いありと示されると判断する段階
を含む、肺癌が疑われる対象をスクリーニングするための方法を提供する。
NPTX1遺伝子またはNPTX1タンパク質のいずれかを試料中で検出することができる限り、NPTX1レベルを決定するための生体試料として、任意の生体材料を用いることができる。好ましくは、生体試料は、血液、血清、または他の体液、例えば痰などを含む。好ましい生体試料は血液または血液由来の試料である。血液由来の試料には血清、血漿、または全血が含まれる。
本方法によって癌と診断されるべき対象は、好ましくは哺乳類であり、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む。
本発明の一つの態様において、NPTX1レベルを決定するために、NPTX1遺伝子の遺伝子転写物(例えば、NPTX1タンパク質)を検出する。NPTX1遺伝子は当業者に周知の技術を用いて検出および測定することができる。本方法により検出される遺伝子転写物は、mRNAおよびタンパク質などの転写産物および翻訳産物の両方を含む。例えば、NPTX1遺伝子に対応する配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析によりNPTX1 mRNAを検出するためのプローブを構築することができる。対象の生体試料における遺伝子転写物とプローブとのハイブリダイゼーションは、DNAアレイ上で行うこともできる。別の例としては、例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの増幅に基づく検出法においてNPTX1ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーを構築するために、NPTX1配列を用いることができる。
代替的態様において、生体試料におけるNPTX1タンパク質の量を測定することによりNPTX1レベルを決定する。生体試料におけるNPTX1タンパク質の量を決定するための方法には、免疫測定法が含まれる。好ましい態様において、免疫測定法はELISAを含む。
次に生体試料におけるNPTX1レベルを、正常対照試料などの参照試料に関連するNPTX1レベルと比較する。「正常対照レベル」という語句は、癌に罹患していない集団の生体試料において通常見出されるNPTX1レベルを指す。参照試料は試験試料の性質に類似の性質をもつことが好ましい。例えば、試験試料が患者血清を含むならば、参照試料も血清であるべきである。対照および試験対象由来の生体試料におけるNPTX1レベルを同時に決定してもよく、またあるいは、正常群から以前に採取された試料におけるNPTX1レベルを解析することによって得られた結果に基づく統計学的方法により、正常対照レベルを決定してもよい。
NPTX1レベルを用いて、癌の治療経過をモニターすることもできる。この方法では、試験生体試料は、癌の治療を受けている対象から提供される。好ましくは、癌は肺癌である。治療前、治療中、または治療後の様々な時点で対象から複数の試験生体試料を得ることが好ましい。次に治療後の試料におけるNPTX1レベルを、治療前の試料におけるNPTX1レベルと、またはあるいは、参照試料(例えば、正常対照レベル)と比較することができる。例えば、治療後のNPTX1レベルが治療前のNPTX1レベルよりも低いならば、治療が有効であったと結論付けることができる。同様に、治療後のNPTX1レベルが正常対照NPTX1レベルと類似しているならば、同じく治療が有効であったと結論付けることができる。
「有効な」治療とは、対象において、NPTX1レベルの低下または、癌のサイズ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療によって癌の発生が遅延もしくは妨害されるか、または癌の臨床症状が軽減されることを意味する。癌の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。さらに、治療の有効性は、癌の診断または治療のための公知の任意の方法に関連して判定することができる。例えば、病理組織学的に、または、慢性咳、嗄声、喀血、体重減少、食欲不振、息切れ、喘鳴、繰り返し起こる気管支炎、もしくは肺炎の発作、および胸痛などの症候性の異常を特定することにより、癌を日常的に診断する。
さらに、患者由来の生体試料におけるNPTX1レベルと参照試料のNPTX1レベルとの比較によって癌患者の予後を評価するために、本発明の癌診断法を適用することもできる。好ましくは、癌は肺癌である。あるいは、生体試料におけるNPTX1レベルを一連の疾患状態にわたって測定し、患者の予後を評価することもできる。正常対照レベルと比較してNPTX1レベルが増大していることは、予後があまり良くないことを示す。正常対照レベルと比較してNPTX1レベルが類似していることは、患者の予後がより良いことを示す。
本発明の診断方法において、肺癌を検出するために、NPTX1の血中濃度に加えてCEAまたはproGRPの一方または両方の血中濃度を参照してもよい。それゆえ本発明は、NPTX1の血中濃度に加えてCEAの血中濃度が健常者よりも高い場合にNSCLCが検出される、肺癌を診断するための方法を提供する。あるいは本発明は、NPTX1の血中濃度に加えてproGRPの血中濃度が健常者よりも高い場合にSCLCが検出される、肺癌を診断するための方法を提供する。
癌胎児性抗原(CEA)は、臨床的に適用される腫瘍胎児性抗原の一つであった。これは、腫瘍細胞の原形質膜に結合した分子量20,000の複合糖タンパク質であり、そこから血中に放出されうる。
CEAは結腸癌において最初に同定されたが、異常な血中CEAレベルは結腸癌特異的でも悪性腫瘍全般特異的でもない。CEAレベルの増大は、肺癌、膵癌、胃癌、および乳癌を含む、結腸癌以外の種々の癌において見出される。上記のように、CEAは肺癌を診断または検出するための血清学的マーカーとして既に用いられている。しかしながら、肺癌、特にNSCLCに対するマーカーとしてのCEAの感度は、肺癌を完全に検出するにはいささか不十分である。また、ガストリン放出ペプチド前駆体(proGRP)がSCLCに対する血清学的腫瘍マーカーであることも周知である。上記のように、proGRPはSCLCを診断または検出するための血清学的マーカーとして既に用いられている。しかしながら、SCLCに対するマーカーとしてのproGRPの感度は、SCLCを完全に検出するにはいささか不十分である。したがって、肺癌、例えばNSCLCおよびSCLCの診断感度を向上させることが必要である。
本発明において、肺癌の新規血清学的マーカーであるNPTX1を提供する。本発明により、肺癌の診断法または検出法の感度の向上が達成され得る。すなわち、本発明は、
(a) 診断されるべき対象から血液試料を採取する段階;
(b) 血液試料中のNPTX1レベルを定量する段階;
(c) 段階(b)で定量したNPTX1レベルを正常対照のレベルと比較する段階;および
(d) 正常対照と比較して血液試料中のNPTX1レベルが高いことによって、対象が肺癌に罹患していることが示されることを判定する段階
を含む、対象における肺癌を診断するための方法を提供する。
好ましい態様において、本発明の診断または検出の方法は以下の段階をさらに含みうる:
(e) 血液試料中のCEAとproGRPのどちらかまたは両方のレベルを定量する段階;
(f) 段階(e)で定量したCEAとproGRPのどちらかまたは両方のレベルを正常対照のレベルと比較する段階;および
(g) 正常対照と比較して血液試料中のNPTX1とCEAのどちらかのレベルが高いことによって、対象がNSCLCに罹患していると示されること、あるいは、正常対照と比較して血液試料中のNPTX1とproGRPのどちらかのレベルが高いことによって、対象がSCLCに罹患していると示されることを判断する段階。
NPTX1、CEA、および/またはproGRPのあいだでの組み合わせにより、肺癌、すなわちNSCLCおよび/またはSCLCの検出感度が有意に向上し得る。例えば、後述の実施例において解析した群では、NSCLCに対するCEAの感度は約41%である。一方、CEAとNPTX1の組み合わせの感度は64%まで増大する。本発明において、「CEAとNPTX1の組み合わせ」とは、CEAレベルおよびNPTX1レベルのいずれか一方または両方をマーカーとして用いることを指す。好ましい態様において、CEAとNPTX1のどちらかが陽性である患者は、NSCLCに罹患していると判断できる。NSCLCに対する血清学的マーカーとしてのNPTX1とCEAの組み合わせの使用は新規である。
同様に、例えば、後述の実施例において解析した群では、SCLCに対するproGRPの感度は約38.5%である。一方、proGRPとNPTX1の組み合わせの感度は76.9%まで増大する。本発明において、「proGRPとNPTX1の組み合わせ」とは、proGRPレベルおよびNPTX1レベルのいずれか一方または両方をマーカーとして用いることを指す。好ましい態様において、proGRPとNPTX1のどちらかが陽性である患者は、SCLCに罹患していると判断できる。SCLCに対する血清学的マーカーとしてのNPTX1とproGRPの組み合わせの使用は新規である。
したがって、本発明により、CEAまたはproGRPのみの測定結果に基づく定量と比較して、NSCLCまたはSCLCの患者の検出感度を大きく向上させることができる。この向上の背後には、CEA陽性またはproGRP陽性の患者群とNPTX1陽性患者の群が完全に一致するわけではないという事実が存在する。この事実について、さらに具体的に記載する。
第一に、CEAまたはproGRPの測定結果として基準値よりも低い値を有する(すなわち、肺癌を有さない)と判定された患者の中には、肺癌(すなわちNSCLCまたはSCLC)を有する患者が実際にはある程度の割合で存在する。そのような患者は、CEA偽陰性またはproGRP偽陰性の患者と称される。CEAまたはproGRPに基づく判定とNPTX1に基づく判定を組み合わせることにより、基準値よりも高いNPTX1値を有する患者を、CEA偽陰性またはproGRP偽陰性の患者の中から見つけることができる。すなわち、本発明は、CEAまたはproGRPの血中濃度が低いために「陰性」であると誤って判定された患者の中から、実際には肺癌を有する患者を見つけ出すことを可能にする。したがって、肺癌患者の検出感度が本発明によって向上した。一般に、複数のマーカーを使用した判定の結果を単に組み合わせることによって検出感度は増大され得るが、その一方で特異度が減少する場合が多い。しかし、本発明は、感度と特異度の間の最良のバランスを決定することによって、特異度を損なうことなく検出感度を増加させ得る特徴的な組み合わせを決定した。
本発明においては、CEAまたはproGRPの測定結果を同時に考慮するために、例えば、上記のNPTX1の測定値と基準値との比較と同様の様式で、CEAまたはproGRPの血中濃度を測定して、これを基準値と比較できる。例えば、CEAまたはproGRPの血中濃度を測定しそれを基準値と比較する方法は、既知である。さらにまた、CEAまたはproGRPに関するELISAキットも市販されている。公知の報告に記載されているこれらの方法を、肺癌を診断または検出するための本発明の方法において用いることができる。
本発明において、NPTX1の血中濃度の基準値を統計学的に決定することができる。例えば、健常個体におけるNPTX1の血中濃度を測定して、NPTX1の標準的な血中濃度を統計学的に決定することができる。統計学的に十分な集団を集めることができる場合、平均値から標準偏差(S.D.)の2倍または3倍の範囲内にある値を基準値として用いる場合が多い。したがって、平均値 + 2 x S.D.または平均値 + 3 x S.D.に対応する値を基準値として使用することができる。記載したように設定された基準値は理論的に、それぞれ健常個体の90%および99.7%を含む。
または、肺癌患者におけるNPTX1の実際の血中濃度に基づいて、基準値を設定することもできる。一般に、このように設定した基準値は、偽陽性の割合を最小化し、かつ、検出感度を最大にし得る条件を満たす値の範囲から選択される。本明細書において、偽陽性の割合とは、健常個体の中で、NPTX1の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。一方、健常個体の中で、NPTX1の血中濃度が基準値よりも低いと判断される患者の割合とは、特異度を示す。すなわち、偽陽性の割合と特異度の合計は常に1である。検出感度とは、肺癌が存在すると判定されている個体集団における全肺癌患者の中で、NPTX1の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。
さらに、本発明において、NPTX1濃度が基準値よりも高いと判断された患者の中の肺癌患者の割合は、陽性予測値を表す。一方、NPTX1濃度が基準値よりも低いと判断された患者の中の健常個体の割合は、陰性予測値を表す。これらの値の間の関係を表1に要約する。以下に示した関係から示されるように、肺癌診断の精度を評価するための指標である感度、特異度、陽性予測値、および陰性予測値の値はそれぞれ、NPTX1の血中濃度レベルを判断するための基準値に応じて変動する。
既に言及した通り、基準値は通常、偽陽性率が低くかつ感度が高くなるように設定される。しかし、上で示した関係からも明らかなように、偽陽性率と感度とは二律背反する関係である。すなわち、基準値を低下させると検出感度が増大する。しかし、偽陽性率もまた増大するため、「低い偽陽性率」を有するための条件を満たすことは困難である。この状況を考慮して、例えば、以下の予測結果を与える値を、本発明における好ましい基準値として選択することができる:
偽陽性率が50%以下である基準値(すなわち、特異度が50%以上である基準値);
感度が20%以上である基準値。
本発明において、ROC曲線を用いて基準値を設定することができる。受信者動作特性(ROC)曲線とは、縦軸に検出感度を示し、横軸に偽陽性率(すなわち、「1−特異度」)を示すグラフである。本発明において、NPTX1の血中濃度の程度の高さ/低さを判定するための基準値を連続して変更的に変動させた後に感度および偽陽性率の変化をプロットすることによってROC曲線を得ることができる。
ROC曲線を得るための「基準値」とは、統計解析のため一時的に用いられる値である。ROC曲線を得るための「基準値」は一般に、選択可能な全基準値を網羅し得る範囲内で連続的に変動させることができる。例えば、基準値を、解析集団内の最小および最大のNPTX1測定値の間で変動させることができる。
得られたROC曲線に基づいて、本発明において使用するべき好ましい基準値を、上記の条件を満たす範囲から選択することができる。あるいは、基準値を、基準値を変動させることによって作成されたROC曲線に基づいて、NPTX1測定値の大部分を含む範囲から選択することができる。
血液中のNPTX1は、タンパク質を定量し得る任意の方法により測定することができる。タンパク質定量法としては、例えば免疫測定法、液体クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(SPR)、質量分析などを適用することができる。質量分析では、適切な内部標準を使用することによりタンパク質を定量できる。同位体標識したNPTX1などを内部標準として使用することができる。血液中のNPTX1の濃度は、血液中のNPTX1のピーク強度および内部標準のピーク強度から定量することができる。一般に、タンパク質の質量分析のために、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法が用いられる。質量分析または液体クロマトグラフィーを使用する解析法により、NPTX1を他の腫瘍マーカー(例えば、CEAおよび/またはproGRP)と同時に解析することも可能である。
本発明における好ましいNPTX1測定法は免疫測定法である。NPTX1のアミノ酸配列は公知である(GenBankアクセッション番号NM_002522)。NPTX1のアミノ酸配列をSEQ ID NO: 57に示し、これをコードするcDNAのヌクレオチド配列をSEQ ID NO: 56に示す。したがって、当業者は、NPTX1のアミノ酸配列に基づいて必要な免疫原を合成することによって抗体を調製することができる。免疫原として用いるペプチドは、ペプチド合成装置を使用して容易に合成可能である。合成ペプチドを担体タンパク質に連結することによって、免疫原として使用することができる。
キーホールリンペットヘモシアニン、ミオグロビン、アルブミンなどを担体タンパク質として使用することができる。好ましい担体タンパク質は、KLH、ウシ血清アルブミンなどである。合成ペプチドを担体タンパク質に連結するためには、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル法(以下、MBS法と略称する)などが一般に用いられる。
具体的には、システインを合成ペプチド中に導入し、システインのSH基を用いてMBSにより該ペプチドをKLHに架橋させる。システイン残基は、合成ペプチドのN末端またはC末端に導入されうる。
あるいは、NPTX1は、NPTX1(GenBankアクセッション番号NM_002522)のヌクレオチド配列に基づく遺伝子組換え体として得ることができる。必要なヌクレオチド配列を含むDNAは、NPTX1発現組織から調製されたmRNAを用いてクローニングすることができる。または、市販のcDNAライブラリーをクローニング源として使用することができる。得られたNPTX1の遺伝子組換え体またはその断片もまた、免疫原として使用することができる。このように発現されたNPTX1組換え体は、本発明において使用される抗体を得るための免疫原として好ましい。市販のNPTX1組換え体もまた、免疫原として使用できる。
このようにして得られた免疫原を適切なアジュバントと混合して、動物を免疫するために用いる。公知のアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(FCA)および不完全アジュバントが含まれる。抗体価の上昇が確認されるまで、免疫手順を適切な間隔で繰り返す。本発明において、免疫する動物は特に制限されない。具体的には、マウス、ラット、またはウサギなど、免疫化のために通常用いられる動物を使用することができる。
モノクローナル抗体として抗体を入手する場合には、その産生に有利な動物を使用できる。例えばマウスでは、細胞融合のための多くの骨髄腫細胞系が公知であり、高い確率でハイブリドーマを樹立することを可能にする技法が既に確立されている。したがって、マウスは、モノクローナル抗体を得るための望ましい免疫動物である。
さらに、免疫処理はインビトロ処理に限定されない。培養した免疫担当細胞をインビトロで免疫学的に感作するための方法もまた使用できる。これらの方法によって得られた抗体産生細胞を形質転換し、クローニングする。モノクローナル抗体を得るために抗体産生細胞を形質転換するための方法は、細胞融合に限定されない。例えば、ウイルス感染によりクローニング可能な形質転換体を得るための方法が知られている。
本発明において使用されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、NPTX1に対するその反応性に基づいてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、免疫原として使用したNPTX1またはそのドメインペプチドに対する結合活性を指標として用いて、抗体産生細胞を選択する。このスクリーニングにより選択された陽性クローンを、必要に応じてサブクローニングする。
樹立されたハイブリドーマを適切な条件下で培養し、産生された抗体を回収することによって、本発明において使用するモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマがホモハイブリドーマである場合には、これを同種同系動物に腹腔内接種することによってインビボで培養することができる。この場合、モノクローナル抗体は腹水として回収される。ヘテロハイブリドーマを使用する場合には、宿主としてヌードマウスを用いて、これらをインビボで培養することができる。
インビボ培養に加えて、ハイブリドーマはまた一般に、適切な培養環境においてエクスビボでも培養される。例えば、RPMI 1640およびDMEMなどの基本培地が、ハイブリドーマの培地として通常用いられる。抗体産生能を高レベルに維持するために、動物血清などの添加剤をこれらの培地に添加することができる。ハイブリドーマをエクスビボで培養する場合、モノクローナル抗体は培養上清として回収することができる。培養後に細胞から分離することによって、または、中空糸を使用する培養装置を用いて培養しながら連続的に回収することによって、培養上清を回収することができる。
本発明において使用するモノクローナル抗体は、飽和硫安沈殿により免疫グロブリン画分を分離し、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーなどによってさらに精製することにより、腹水または培養上清として回収したモノクローナル抗体から調製する。加えて、モノクローナル抗体がIgGである場合には、プロテインAまたはプロテインGカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーに基づく精製法が有効である。
一方、本発明で使用する抗体をポリクローナル抗体として得るために、免疫後に抗体価が上昇した動物から血液を採取し、血清を分離して抗血清を得る。本発明において使用する抗体を調製するために、公知の方法により抗血清から免疫グロブリンを精製する。NPTX1をリガンドとして使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーを免疫グロブリン精製と組み合わせることにより、NPTX1特異的抗体を調製することができる。
NPTX1に対する抗体をNPTX1と接触させると、抗体は、抗原-抗体反応を介して抗体が認識する抗原決定基(エピトープ)に結合する。抗原に対する抗体の結合は、種々の免疫測定原理により検出することができる。免疫測定法は、異種解析法と同種解析法に大別され得る。免疫測定法の感度および特異性を高レベルに維持するためには、モノクローナル抗体を使用することが望ましい。種々の免疫測定形式によりNPTX1を測定するための本発明の方法を、具体的に説明する。
最初に、異種免疫測定法を使用してNPTX1を測定する方法について記載する。異種免疫測定法では、NPTX1に結合した抗体を、NPTX1に結合しなかった抗体から分離した後に検出するための機構が必要である。
分離を容易にするため、固定化試薬が一般に用いられる。例えば、NPTX1を認識する抗体が表面に固定化されている固相を、最初に調製する(固定化抗体)。NPTX1をこれに結合させ、二次抗体をさらにこれと反応させる。
固相を液相から分離して、必要に応じてさらに洗浄すると、二次抗体はNPTX1の濃度に比例して固相上に残存する。二次抗体を標識することによって、標識に由来するシグナルの測定によりNPTX1を定量することができる。
抗体を固相に結合させるために、任意の方法を用いることができる。例えば、抗体を、ポリスチレンなどの疎水性材料に物理的に吸着させることができる。または、抗体を、その表面上に官能基を有する種々の材料に対して化学的に結合させることができる。さらに、結合リガンドで標識した抗体を、リガンドの結合パートナーを用いて捕捉することによって固相に結合させることもできる。結合リガンドとその結合パートナーの組み合わせには、アビジン-ビオチンなどが含まれる。一次抗体とNPTX1の反応と同時に、またはその前に、固相と抗体を結合させることができる。
同様に、二次抗体を直接標識する必要もない。すなわち、二次抗体を、抗体に対する抗体を用いて、またはアビジン-ビオチンなどの結合反応を用いて、間接的に標識することができる。
試料中のNPTX1の濃度は、既知のNPTX1濃度を有する標準試料を用いて得られたシグナル強度に基づいて定量される。
NPTX1を認識する抗体またはその抗原結合部位を含む断片である限り、任意の抗体を、上記の異種免疫測定法用の固定化抗体および二次抗体として使用することができる。したがって、これはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または両者の混合物もしくは組み合わせであってよい。例えば、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組み合わせは、本発明における好ましい組み合わせである。または、両抗体がモノクローナル抗体である場合には、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を組み合わせることが好ましい。
測定されるべき抗原を抗体によって挟み込むため、このような異種免疫測定法はサンドイッチ法と称される。サンドイッチ法は測定感度および再現性に優れているため、本発明において好ましい測定原理である。
競合阻害反応の原理を、異種免疫測定法に適用することもできる。具体的には、これは、試料中のNPTX1が既知濃度のNPTX1と抗体の結合を競合的に阻害する現象に基づく免疫測定法である。既知濃度のNPTX1を標識し、抗体と反応した(または反応しなかった)NPTX1の量を測定することにより、試料中のNPTX1の濃度を定量することができる。
既知濃度の抗原と試料中の抗原とを同時に抗体と反応させる場合に、競合反応系が確立される。さらに、抗体を試料中の抗原と反応させ、その後既知濃度の抗原を反応させる場合に、阻害反応系による解析が可能である。いずれの種類の反応系においても、試薬成分として用いられる既知濃度の抗原、または抗体のいずれか一方を標識成分として設定し、他方を固定化試薬として設定することにより、操作性に優れた反応系を構築することができる。
放射性同位体、蛍光物質、発光物質、酵素活性を有する物質、肉眼で観察可能な物質、磁気的に観察可能な物質などが、これらの異種免疫測定法において用いられる。これらの標識物質の具体例を以下に示す。
酵素活性を有する物質:
ペルオキシダーゼ、
アルカリホスファターゼ、
ウレアーゼ、カタラーゼ
グルコースオキシダーゼ、
乳酸デヒドロゲナーゼ、または
アミラーゼなど。
蛍光物質:
フルオレセインイソチオシアネート、
テトラメチルローダミンイソチオシアネート、
置換ローダミンイソチオシアネート、または
ジクロロトリアジンイソチオシアネートなど。
放射性同位体:
トリチウム、
125I、または
131Iなど。
これらのうち、酵素などの非放射性標識は、安全性、操作性、感度などの点で有利な標識である。酵素標識は、過ヨウ素酸法またはマレイミド法などの公知の方法によって、抗体またはNPTX1に連結することができる。
固相としては、ビーズ、容器の内壁、微粒子、多孔質担体、磁性粒子などが用いられる。ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリル酸、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、セラミックなどの材料を用いて形成された固相を使用することができる。上記固体材料の表面上に、抗体などを化学的に結合させるための官能基が導入された固体材料もまた公知である。ポリ-L-リジンまたはグルタルアルデヒド処理などの化学的結合、および物理的吸着を含む公知の結合法を、固相および抗体(または抗原)に適用することができる。
本明細書において例示するすべての異種免疫測定法において、液相から固相を分離する段階および洗浄段階が必要であるが、これらの段階は、サンドイッチ法の変形である免疫クロマトグラフィー法を用いて容易に実施可能である。
具体的には、固定化されるべき抗体を、毛管現象によって試料溶液の移送が可能な多孔質担体上に固定化し、次に、NPTX1を含む試料と標識抗体との混合物をこの毛管現象により内部に展開させる。展開中に、NPTX1は標識抗体と反応し、また、これがさらに固定化抗体と接触した場合その位置で捕捉される。NPTX1と反応しなかった標識抗体は、固定化抗体に捕捉されることなく通過する。
結果として、固定化抗体の位置に残存する標識抗体のシグナルを指標として用いて、NPTX1の存在を検出することができる。標識抗体が多孔質担体内の上流で予め維持されている場合、試料溶液の滴下だけによってすべての反応を開始し完了することができ、よって極めて簡便な反応系が構築され得る。免疫クロマトグラフィー法では、着色粒子のような肉眼で識別できる標識成分を組み合わせて、特殊な読取装置さえ不要な分析装置を構築することができる。
さらに、免疫クロマトグラフィー法において、NPTX1の検出感度を調整することができる。例えば、後述するカットオフ値の近傍に検出感度を調整することによって、上記の標識成分は、カットオフ値を超えた場合に検出され得る。このような装置を使用することで、対象が陽性であるか陰性であるかを非常に簡便に判断することができる。肉眼による標識の識別を可能にする構成を採用することにより、単に血液試料を免疫クロマトグラフィーの装置に加えるだけで、必要な試験結果を得ることができる。
免疫クロマトグラフィーの検出感度を調整するための種々の方法が知られている。例えば、検出感度を調整するための第2固定化抗体を、試料を加える位置と固定化抗体の間に配置することができる(特開平6-341989)。試料中のNPTX1は、試料が添加された位置から標識検出のための第1固定化抗体の位置へと展開しながら、第2固定化抗体に捕捉される。第2固定化抗体が飽和した後、NPTX1は、下流に位置する第1固定化抗体の位置へと到達できる。結果として、試料中に含まれるNPTX1の濃度が所定の濃度を超える場合、標識抗体に結合したNPTX1が、第1固定化抗体の位置で検出される。
次に、同種免疫測定法について説明する。上記のように反応液の分離を必要とする異種免疫学的アッセイ法とは対照的に、同種解析法を用いてNPTX1を測定することもできる。同種解析法では、抗原-抗体反応産物を反応液から分離することなく検出することができる。
代表的な同種解析法は、抗原-抗体反応後に生成された沈殿物を調べることにより抗原性物質を定量的に解析する、免疫沈降反応である。免疫沈降反応には一般的に、ポリクローナル抗体が用いられる。モノクローナル抗体を適用する場合には、NPTX1の様々なエピトープに結合する複数種のモノクローナル抗体を使用することが好ましい。免疫反応後の沈降反応の産物は、肉眼で観察することができるか、または、数値データへの変換のために光学的に測定することができる。
抗体を感作した微粒子の抗原による凝集を指標として用いる免疫学的粒子凝集反応は、一般的な同種解析法である。この方法においても、上記の免疫沈降反応と同様に、ポリクローナル抗体または複数種のモノクローナル抗体の組み合わせを使用することができる。微粒子を、抗体混合物による感作により抗体を用いて感作することができ、または、各抗体で個別に感作された粒子を混合することによって調製することができる。このようにして得られた微粒子は、NPTX1との接触に際してマトリクス様の反応産物を生じる。反応産物は、粒子の凝集として検出することができる。粒子の凝集は、肉眼で観察してもよく、または、数値データへの変換のために光学的に測定することができる。
同種免疫測定法として、エネルギー移動および酵素チャネリング(enzyme channeling)に基づく免疫学的解析法が知られている。エネルギー移動を利用する方法では、ドナー/アクセプター関係を持つ様々な光学標識を、抗原上の隣接したエピトープを認識する複数の抗体に結合させる。免疫反応が起こると、2つの部分が接近してエネルギー移動現象が起こり、これによって、失活または蛍光波長の変化といったシグナルが生じる。一方、酵素チャネリングでは、隣接したエピトープに結合する複数の抗体に対する標識を利用するが、該標識は、ある酵素の反応産物が別の酵素の基質となるような関係にある酵素の組み合わせである。免疫反応により2つの部分が接近すると、酵素反応が促進され、よって、酵素反応速度の変化としてそれらの結合を検出することができる。
本発明において、NPTX1を測定するための血液は、患者から採取した血液から調製できる。好ましい血液試料は血清または血漿である。血清または血漿試料は、測定前に希釈することができる。または、全血を試料として測定してもよく、得られた測定値を補正して血清濃度を定量することができる。例えば、同じ血液試料中の血球体積の割合を決定することにより、全血中の濃度を血清濃度へと補正することができる。
好ましい態様において、免疫測定法はELISAを含む。本発明者らは、相当な肺癌を有する患者における血清NPTX1を検出するためのサンドイッチELISAを確立した。
次に、血液試料中のNPTX1レベルを、正常対照試料などの参照試料に関連するNPTX1レベルと比較する。「正常対照レベル」という用語は、肺癌に罹患していない集団の血液試料において典型的に認められるNPTX1レベルを指す。参照試料は、試験試料と同じ種類であることが好ましい。例えば、試験試料が患者血清を含む場合、参照試料もまた血清であるべきである。対照および試験対象に由来する血液試料中のNPTX1レベルを同時に定量してもよく、あるいは、予め対照群から回収された試料中のNPTX1レベルを解析することによって得られた結果に基づき、統計法により正常対照レベルを定量してもよい。
またNPTX1レベルは、肺癌の治療経過をモニターするために使用することもできる。この方法において、試験血液試料は、肺癌の治療中の対象から提供される。治療前、治療中、または治療後の様々な時点で、対象から複数の試験血液試料を得ることが好ましい。次に、治療後試料のNPTX1レベルを、治療前試料のNPTX1レベルまたは参照試料(例えば、正常対照レベル)と比較できる。例えば、治療後NPTX1レベルが治療前NPTX1レベルよりも低ければ、治療が有効であったと結論づけることができる。同様に、治療後NPTX1レベルが正常対照NPTX1レベルと同様であれば、やはり治療が有効であったと結論づけることができる。
「有効な」治療とは、対象において、NPTX1レベルの低下、または、肺癌の大きさ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効」とは、治療によって、肺癌の発生が遅延されるかもしくは妨げられる、または肺癌の臨床症状が軽減されることを意味する。肺癌の評価は、標準的な臨床手順を用いて行うことができる。さらに、肺癌を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して治療の有効性を判定することができる。例えば、肺癌は、病理組織学的に、または症候性異常を同定することによって、日常的に診断される。
肺癌の診断および検出は大きな困難に直面している。本発明は血清NPTX1に関するELISAを提供し、これは、その他の血清マーカー、例えばCEAおよび/またはproGRPと組み合わせることによって肺癌をスクリーニングするための有望なツールである。
本発明に従って肺癌の診断を行うために使用する成分を予め組み合わせて、試験キットとして提供することができる。したがって、本発明は、以下を含む、肺癌を検出するためのキットを提供する:
(i) 血液試料中のNPTX1レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(ii) NPTX1の陽性対照試料。
好ましい態様において、本発明のキットは、以下をさらに含み得る:
(iii) 血液試料中のCEAとproGRPのどちらかまたは両方のレベルを定量するための免疫測定試薬;および
(iv) CEAおよび/またはproGRPの陽性対照試料。
本発明のキットを構成する免疫測定法のための試薬は、上記の種々の免疫測定法に必要な試薬を含み得る。具体的には、免疫測定法のための試薬は、測定されるべき物質を認識する抗体を含む。抗体は、免疫測定法のアッセイ形式に応じて修飾することができる。本発明の好ましいアッセイ形式として、ELISAを用いることができる。ELISAでは、例えば、固相上に固定化された一次抗体および標識を有する二次抗体が一般に用いられる。
したがって、ELISA用の免疫測定試薬は、固相担体上に固定化された一次抗体を含み得る。微粒子または反応容器の内壁を固相担体として用いることができる。磁性粒子を微粒子として使用することができる。または、96ウェルマイクロプレートなどのマルチウェルプレートを反応容器として用いることが多い。96ウェルマイクロプレートよりも容量の小さなウェルを高密度で備えた、多数の試料を処理するための容器もまた知られている。本発明では、これらの反応容器の内壁を固相担体として使用できる。
ELISA用の免疫測定試薬は、標識を有する二次抗体をさらに含み得る。ELISA用の二次抗体は、酵素が直接または間接的に連結している抗体であってよい。酵素を抗体に化学的に連結する方法は公知である。例えば、免疫グロブリンを酵素的に切断して、可変領域を含む断片を得ることができる。これらの断片中に含まれる-SS-結合を-SH基に還元して、二官能性リンカーを結合させることができる。酵素を予め二官能性リンカーに連結しておくことにより、酵素を抗体断片に連結することができる。
または、酵素を間接的に連結するために、例えばアビジン-ビオチン結合を使用することができる。すなわち、ビオチン化抗体と、アビジンが結合している酵素とを接触させることにより、酵素を抗体へと間接的に連結することができる。加えて、二次抗体を認識する酵素標識抗体である三次抗体を用いて、酵素を二次抗体へと間接的に連結することができる。例えば、上記で例示したような酵素を、抗体を標識するための酵素として使用することができる。
本発明のキットはNPTX1の陽性対照を含む。NPTX1の陽性対照は、濃度が予め定量されたNPTX1を含む。好ましい濃度とは、例えば、本発明の試験法において基準値として設定される濃度である。または、より高い濃度を有する陽性対照を組み合わせることもできる。本発明におけるNPTX1の陽性対照は、濃度が予め決定されたCEAおよび/またはproGRPをさらに含み得る。CEAとproGRPのどちらかまたは両方、およびNPTX1を含む陽性対照は、本発明の陽性対照として好ましい。
したがって、本発明は、正常値よりも高い濃度のCEAとproGRPのどちらかまたは両方に加えてNPTX1を含む、肺癌検出のための陽性対照を提供する。または、本発明は、肺癌検出のための陽性対照の作製における、正常値よりも高い濃度のCEAおよび/またはproGRPならびにNPTX1を含む血液試料の使用に関する。CEAおよびproGRPが肺癌の指標として役立ち得ることは知られているが、NPTX1が肺癌の指標として役立ち得ることは、本発明によって得られた新規知見である。したがって、CEAまたはproGRPに加えてNPTX1を含む陽性対照は新規である。本発明の陽性対照は、基準値よりも高い濃度のCEAおよび/またはproGRPならびにNPTX1を血液試料に添加することによって調製できる。例えば、基準値よりも高い濃度のCEAおよび/またはproGRPならびにNPTX1を含む血清は、本発明の陽性対照として好ましい。
本発明における陽性対照は、好ましくは液状形態である。本発明において、試料として血液試料が用いられる。したがって、対照として使用される試料もまた液体形態である必要がある。または、使用時に乾燥陽性試料を所定量の液体で溶解することにより、試験濃度を付与する対照を調製することができる。乾燥陽性対照と共に、それを溶解するのに必要な一定量の液体を封入することによって、使用者はそれらを混合するだけで必要な陽性対照を得ることができる。陽性対照として用いるNPTX1は天然由来のタンパク質であってよく、または組換えタンパク質であってもよい。CEAに関しても同様に、天然由来のタンパク質を用いることができる。陽性対照だけでなく陰性対照もまた、本発明のキットにおいて組み合わせることができる。陽性対照または陰性対照は、免疫測定によって示された結果が正しいことを実証するために用いられる。
III. 抗体
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、指定されたタンパク質またはその部分ペプチドに対する特異的反応性を有する免疫グロブリンおよびその断片を含むことが意図される。本発明は、FGFR1OP(SEQ ID NO: 59)またはNPTX1(SEQ ID NO: 57)のポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。本発明において、「特異的に」という用語は、FGFR1OPまたはNPTX1を識別する抗体を指す。好ましい態様において、本発明は、SEQ ID NO: 59の7位〜173位のFGFR1OP特異的アミノ酸配列(SEQ ID NO: 98)に結合する抗体、またはSEQ ID NO: 57の20位〜145位(SEQ ID NO: 99)もしくは297位〜430位(SEQ ID NO: 100)のNPTX1特異的アミノ酸配列に結合する抗体を提供する。抗体は、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合した抗体、および抗体断片を含むことができる。さらに、本明細書において抗体は最も広い意味で使用されており、具体的には、所望の生物学的活性を示す限り、無傷のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも二つの無傷の抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を網羅する。「抗体」とは全てのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)を指す。「抗体断片」とは無傷の抗体の一部分、一般的には無傷の抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片;直鎖状抗体;ならびに一本鎖抗体分子が挙げられる。
抗体の産生
本発明では、FGFR1OPまたはNPTX1に対する抗体を用いる。抗原ポリペプチドがSEQ ID NO: 98(FGGR1OPの場合)、SEQ ID NO: 99(NPTX1の場合)、およびSEQ ID NO: 100(NPTX1の場合)からなる群より選択される配列である限り、これらの抗体は公知の方法によって提供される(実施例の抗体の調製を参照のこと)。
本発明によって用いられる例示的な抗体産生技術について記載する。
III-1. ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、関連抗原およびアジュバントの複数回の皮下(sc)注射または腹腔内(ip)注射により動物中で産生されることが好ましい。二官能性物質または誘導体化物質、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を通じた結合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を通じ)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、またはR'N=C=NR(RおよびR'は異なるアルキル基である)を用いて、免疫されるべき種における免疫原性を有するタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、またはダイズトリプシン阻害因子に関連抗原を結合させることが有用でありうる。
例えば、100μgまたは5μgのタンパク質または結合体(それぞれ、ウサギまたはマウスの場合)を3倍容量のフロイント完全アジュバントと混合し、複数の部位に溶液を皮内注射することによって、抗原、免疫原性結合体、または誘導体に対して動物を免疫する。1ヶ月後、フロイント完全アジュバント中のペプチドまたは結合体を当初量の1/5〜1/10用いて、複数部位での皮下注射により、動物を追加免疫する。7〜14日後、動物の採血を行い、抗体力価について血清を分析する。力価がプラトーに達するまで動物を追加免疫する。同一抗原の結合体であるが別のタンパク質におよび/または別の架橋試薬を通じて結合されている結合体を用いて、動物を追加免疫することが好ましい。
結合体を、タンパク質融合体として組換え細胞培養物中で作製してもよい。同様に、免疫反応を増加するためにアラムなどの凝集剤が適切に用いられる。
III-2. モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在しうる可能性のある天然の変異体を除き同一である。このように、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体との混合物ではないという抗体の特徴を示す。
例えばモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて産生されうり、または組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって産生されうる。
ハイブリドーマ法において、マウスまたは他の適切な宿主動物、例えばハムスターなどを上記のように免疫して、免疫に使用したタンパク質に特異的に結合する抗体を産生するまたは産生できるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球をインビトロにおいて免疫してもよい。その後、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いてリンパ球を骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))。
このように調製したハイブリドーマ細胞を、融合していない親骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一つまたは複数の物質を含有することが好ましい適切な培養培地中に播種し、その培地中で増殖させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠損しているならば、ハイブリドーマ用の培養培地には典型的に、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含め(HAT培地)、これらの物質によってHGPRT欠損細胞の増殖を妨害する。
好ましい骨髄腫細胞とは、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高レベルの抗体産生を補助し、かつHAT培地などの培地に感受性を有するものである。中でも好ましい骨髄腫細胞系は、マウス骨髄腫系統、例えばSalk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手可能なMOPC-21およびMPC-11マウス腫瘍に由来するもの、ならびに、American Type Culture Collection, Manassas, Virginia, USAから入手可能なSP-2細胞またはX63-Ag8-653細胞である。ヒトモノクローナル抗体の産生に関して、ヒト骨髄腫細胞系およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞系も記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133: 300 1 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について分析する。ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法によって、または、放射免疫測定法(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの、インビトロ結合アッセイによって決定されることが好ましい。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)の30スキャッチャード分析によって判定することができる。
所望の特異性、親和性、および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後に、このクローンを限界希釈法によってサブクローニングし、標準的な方法によって増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies : Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に適した培養培地の例として、D-MEM培地またはRPML-1640培地が挙げられる。さらに、動物において腹水腫瘍としてハイブリドーマ細胞をインビボで増殖させることもできる。
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地、腹水、または血清から適切に分離される。
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として役立つ。DNAを単離したら、発現ベクターの中に配し、これを次に、免疫グロブリンタンパク質を他の方法では産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクションして、組換え宿主細胞中でのモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌中での組換え発現に関する総説には、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5: 256-262 (1993)およびPluckthun, Immunol. Revs., 130: 151-188 (1992)がある。
FGFR1OPまたはNPTX1に対して反応性を示す特異的抗体または抗体断片を産生するための別の方法とは、細菌中で発現される免疫グロブリン遺伝子またはその一部分をコードする発現ライブラリーを、FGFR1OPもしくはNPTX1タンパク質またはその部分ペプチドを用いてスクリーニングすることである。例えば、完全なFab断片、VH領域、およびFv領域をファージ発現ライブラリーにより細菌中で発現させることができる。例えば、Ward et al., Nature 341: 544-546 (1989);Huse et al., Science 246: 1275-1281 (1989);およびMcCafferty et al., Nature 348: 552-554 (1990)を参照されたい。例えばFGFR1OPまたはNPTX1ペプチドを用いてそのようなライブラリーをスクリーニングすることによって、FGFR1OPまたはNPTX1の部分ペプチドに対して反応性を有する免疫グロブリン断片を同定することができる。あるいは、抗体またはその断片を産生するためにSCID-huマウス(Genpharmから入手できる)を用いてもよい。
さらなる態様において、抗体または抗体断片は、McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990)に記載されている技術を用いて作製された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)およびMarks et al., J MoL BioL, 222: 581-597 (1991)では、ファージライブラリーを用いたマウス抗体およびヒト抗体の単離についてそれぞれ記載している。その後の刊行物では、鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)ヒト抗体の産生(Marks et al., BiolTechnology, 10: 779-783 (1992))、ならびに非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としての組み合わせ感染およびインビボ組換え(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21: 2265-2266 (1993))について記載されている。このようにこれらの技術は、モノクローナル抗体単離のための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代わる実行可能な手段である。
また、例えば、ヒトの重鎖および軽鎖定常ドメインをコードする配列を相同的なマウス配列と置き換えることにより(米国特許第4,816,567号;Morrison, et al., Proc. Natl Acad. ScL USA, 81: 6851 (1984))、または免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列の全部もしくは一部を共有結合的に連結することにより、DNAを改変することができる。
典型的には、そのような非免疫グロブリンポリペプチドを抗体の定常ドメインの代わりに用いるか、またはそれらを抗体の一方の抗原結合部位の可変ドメインの代わりに用いて、ある抗原に対して特異性を有する一つの抗原結合部位および別の抗原に対して特異性を有するもう一つの抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作製する。
III-3. ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化抗体には、非ヒト供給源由来の一つまたは複数のアミノ酸残基が導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基は「移入」残基と呼ばれることが多く、これらは典型的に「移入」可変ドメインから取り出されている。ヒト化は本質的に、Winterおよび共同研究者の方法(Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986);Reichmann et al., Nature, 332: 323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536 (1988))にしたがい、超可変領域配列をヒト抗体の対応配列の代わりに用いることによって実施可能である。したがって、そのような「ヒト化」抗体はキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、ここで、無傷のヒト可変ドメインには実質的に満たないものが非ヒト種由来の対応配列によって置換されている。実際に、ヒト化抗体は通常、一部の超可変領域残基および場合により一部のFR残基が、げっ歯類抗体中の類似部位に由来する残基で置換されている、ヒト抗体である。
ヒト化抗体を作製する際に用いる、軽鎖および重鎖両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低下させるのに非常に重要である。いわゆる「最良適合(best-fit)」法によれば、げっ歯類抗体の可変ドメインの配列を、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に、げっ歯類の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として承認する(Suns et al., J. Immunol., 151: 2296 (1993);Chothia et al., J. Mol. Biol, 196: 901 (1987))。別の方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループにおける全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク領域を用いる。同じフレームワークを、幾つかの異なるヒト化抗体に用いることができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992);Presta et al., J. Immunol., 151: 2623 (1993))。
抗原に対する高い親和性および他の好ましい生物学的特性を保持しながら抗体をヒト化することがさらに重要である。この目的を達成するために、好ましい方法により、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いた親配列および種々の概念的ヒト化産物の分析の過程によってヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルが一般的に利用可能であり、当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推定三次元高次構造を例示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検討によって、候補免疫グロブリン配列の機能において残基が果たす可能性の高い役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、標的抗原に対する親和性増大などの所望の抗体の特徴が達成されるように、FR残基をレシピエント配列および移入配列から選択して組み合わせることができる。一般に、超可変領域の残基は、抗原結合に直接的かつ最も実質的に影響を及ぼす。
III-4. ヒト抗体
ヒト化の代わりに、ヒト抗体を作製することができる。例えば現在、免疫の際に、内因性免疫グロブリンを産生することなくヒト抗体の完全なレパートリーを産生できるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することがでは可能である。例えば、キメラおよび生殖系列変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性の欠失によって内因性抗体の産生が完全に阻害されることが記載されている。そのような生殖系列変異体マウスの中にヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを移入することで、抗原投与時にヒト抗体の産生が起こる。例えば、Jakobovits et al., Proc. Mad. Acad. Sci. USA, 90: 255 1 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362: 255-258 (1993);Bruggermann et al., Year in immuno., 7: 33 (1993);ならびに米国特許第5,591,669号、同第5,589,369号、および同第5,545,807号を参照されたい。
あるいは、ファージディスプレイ技術(McCafferty et al., Nature 348: 552-553 (1990))を用いて、非免疫ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロにおいてヒト抗体および抗体断片を産生することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、M13またはfdなどの糸状バクテリオファージの主要なまたは主要ではない外被タンパク質遺伝子の中にインフレームでクローニングされ、機能的抗体断片としてファージ粒子の表面上に提示される。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するので、抗体の機能的特性に基づく選択によって、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択も行われる。すなわち、ファージはB細胞の特性の一部を模倣する。ファージディスプレイは種々の形式で行うことができる;その総説については、例えば、Johnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3: 564-57 1 (1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントの幾つかの供給源をファージディスプレイに用いることができる。
Clackson et al., Nature, 352 : 624-628 (1991)では、免疫マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模な無作為コンビナトリアルライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離している。非免疫ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、抗原の多様なアレイ(自己抗原を含む)に対する抗体をMarks et al., J. Mol. Biol, 222: 581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J. 12: 725-734 (1993)により記載されている技術に本質的にしたがって単離することができる。同様に、米国特許第5,565,332号および同第5,573,905号を参照されたい。
インビトロ活性化B細胞によってヒト抗体を作製することもできる(米国特許第5,567,610号および同第5,229,275号参照)。SCIDマウスを用いてヒト抗体を作製する好ましい手段は、共同所有される同時係属中の出願に開示されている。
III-5. 抗体断片
さまざまな技術が抗体断片の産生のために開発されている。本発明において、抗体断片は抗体の可変領域または抗原結合領域を含むことができる。従来は、無傷の抗体のタンパク質分解消化を介してこれらの断片が得られていた(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992)およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照のこと)。しかしながら、これらの断片は現在、組換え宿主細胞によって直接産生することができる。例えば、抗体断片を上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab'-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的にカップリングして、F(ab')2断片を形成させてもよい(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。別のアプローチによれば、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片の産生のための他の技術は、当業者には明らかであろう。他の態様において、最適な抗体とは一本鎖Fv断片(scFv)である。国際公開公報第93/16185号;米国特許第5,571,894号;および米国特許第5,587,458号を参照されたい。また抗体断片は、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているように、「直鎖状抗体」であってもよい。そのような直鎖状抗体断片は単一特異性または二重特異性を有しうる。
III-6. 二重特異性抗体
二重特異性抗体とは、少なくとも二つの異なる抗原決定基に対する結合特異性を有する抗体である。例示として、癌細胞に対する細胞防御機構に焦点が合うように、抗癌細胞マーカー(例えばB9838)結合アームと、T細胞受容体分子(例えばCD2またはCD3)のような白血球上の誘発(triggering)分子またはFcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、およびFcyRIH(CD16)のようなIgGに対するFc受容体(FcyR)に結合するアームとを組み合わせることができる。また二重特異性抗体を用いて、細胞毒を癌細胞に局在化させることもできる。これらの抗体は、癌細胞マーカー結合アームおよび細胞毒(例えばサポリン、抗インターフェロン-a、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、または放射性同位体ハプテン)に結合するアームを包含する。二重特異性抗体は、完全長の抗体または抗体断片(例えばF(ab)2二重特異性抗体)として調製することができる。
二重特異性抗体を作製するための方法は当技術分野において公知である。完全長の二重特異性抗体の従来的な産生は、二本の鎖が別々の特異性を有する、二対の免疫グロブリン重鎖-軽鎖の同時発現に基づいている(Millstein et al., Nature, 305: 537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の無作為の組み合わせのために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうちの1種だけが的確な二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー段階によって通常行われる、的確な分子の精製は、かなり煩雑であり、産物の収量は低い。類似の手順が国際公開公報第93/08829号に、およびTraunecker et al., EMBO J., 10: 3655-3659 (1991)に開示されている。
別のアプローチによると、所望の結合特異性(抗体-抗原の組み合わせ部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。ヒンジ領域、CH2領域、およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインと融合させることが好ましい。融合体の少なくとも一つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含有する第一の重鎖定常領域(CHI)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体および必要に応じて免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別個の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に同時トランスフェクションする。これにより、構築に用いる、比率が同等でないポリペプチド鎖三本によって最適な収量が得られる態様において、三つのポリペプチド断片の相互の比率を調整する際の高い柔軟性が得られる。しかしながら、等しい比率のポリペプチド鎖少なくとも二本の発現が高収量で起こる場合または比率が特に重要ではない場合には、一つの発現ベクターの中に二つまたは三つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
このアプローチの好ましい態様において、二重特異性抗体は、一方のアームにおける第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、およびもう一方のアームにおけるハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性をもたらす)から構成される。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖が存在しないことにより簡便な分離方法が得られるため、この非対称構造によって、望ましくない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離が容易になることが分かった。このアプローチは国際公開公報第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を作製するさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121: 210 (1986)を参照されたい。
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチによれば、抗体分子対の間の境界面を遺伝子操作して、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好ましい境界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第一の抗体分子の境界面由来の一つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)と置き換える。大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えばアラニンまたはトレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖とサイズが同一であるか類似している補完的な「空洞」を、第二の抗体分子の境界面に作製する。これによって、ホモ二量体などのその他の望ましくない最終産物よりもヘテロ二量体の収量を増大させるための機構が得られる。
二重特異性抗体は架橋抗体または「ヘテロ結合」抗体を含む。例えば、ヘテロ結合体中の抗体の一方をアビジンとカップリングさせ、もう一方をビオチンとカップリングさせることができる。そのような抗体は例えば、望ましくない細胞に対して免疫系細胞を標的化することが提唱されており(米国特許第4,676,980号)、HIV感染症の治療について提唱されている(国際公開公報第91/00360号、国際公開公報第92/200373号、およびEP 03089)。ヘテロ結合体抗体は、任意の好都合な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は当技術分野において周知であり、米国特許第4,676,980号に、いくつかの架橋技術とともに開示されている。
抗体断片から二重特異性抗体を作製するための技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学的結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)では、無傷の抗体をタンパク質分解的に切断して、F(ab')2断片を作製する手順について記載している。これらの断片を、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元して、隣接ジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を妨害する。次に、作製されたFab'断片を、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換する。その後、Fab'-TNB誘導体の一つを、メルカプトエチルアミンでの還元によってFab'-チオールに再変換し、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成させる。作製された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として用いることができる。
最近の進歩によって大腸菌からFab'-SH断片を直接回収することが容易になっており、それを化学的にカップリングして二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 2 17-225 (1992)では、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の産生について記載している。各Fab'断片を大腸菌から別々に分泌させ、インビトロにおいて指向性の化学的カップリングに供して、二重特異性抗体を形成させる。
組換え細胞培養物から直接的に二重特異性抗体断片を作製および単離するための種々の技術も記載されている。例えば、ロイシンジッパーを用いて二重特異性抗体が産生されている(Kostelny et al., J. Immunol. 148 (5): 1547-1553 (1992))。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合によって二つの異なる抗体のFab'部分に連結した。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して単量体を形成し、次に再び酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法を抗体ホモ二量体の産生に利用することもできる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)により記載されている「ダイアボディ」技術によって、二重特異性抗体断片を作製するための代替的な機構が提供されている。この断片は、同一鎖上の二つのドメイン間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、ある断片のVHおよびVLドメインを別の断片の相補的なVLおよびVHドメインと対形成させ、それにより二つの抗原結合部位を形成させる。一本鎖Fv(sFv)二量体の使用により二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152: 5368 (1994)を参照されたい。
結合価が2を上回る抗体が意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)。
III-7. 抗体結合体およびその他の修飾
本明細書の方法において使用されるか本明細書中の製品に含まれる抗体を、任意で、細胞毒または治療剤と結合させる。
本明細書の治療剤には、癌の治療に有用な化学物質である化学療法剤が含まれる。化学療法剤の例には、以下のもの、およびこれらのいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
チオテパおよびシクロスホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含む、エチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine);クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノべムビエヒン(novembiehin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素;アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6ージアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポフィロマイシン(poffiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸アナログ;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FUなどのピリミジンアナログ;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤(anti-adrenal);フロリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグルコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトレキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エフロルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK&commat;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOLO, Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTEW, Rh6ne-Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金アナログ;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;ならびにカペシタビン。この定義にはまた、腫瘍に対するホルモンの作用を調節または阻害するよう作用する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、オナプリストン、およびトレミフェン(Fareston)を含む);および抗アンドロゲン剤(例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリン);ならびに上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も含まれる。
カリチアマイシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテセン(trichothene)、およびCC 1065などの低分子毒素の1つまたは複数と抗体との結合体もまた、本明細書において意図される。本発明の好ましい一態様において、1個または複数のメイタンシン分子(例えば、抗体分子あたり約1〜約10個のメイタンシン分子)に抗体を結合させる。例えばメイタンシンをMay SS-Meに変換してもよく、メイタンシノイド-抗体結合体を作製するためにこれを還元してMay-SH3とし、修飾抗体と反応させることができる(Chari et al. Cancer Res 52: 127-131 (1992))。
あるいは、抗体を一つまたは複数のカリケアマイシン分子と結合させることもできる。カリケアマイシンファミリーの抗生物質は、ピコモル以下の濃度で二本鎖DNAを切断することができる。使用できるカリケアマイシンの構造的類似体にはγ1I、α2I、α3I、N-アセチル-γ1I、PSAG、およびθ1Iが含まれるが、これらに限定されることはない(Hinman et al. Cancer Res 53: 3336-3342 (1993) and Lode et al, Cancer Research 58: 2925-2928 (1998))。
使用できる酵素活性をもつ毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性の活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudo7nonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害因子、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害因子、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、ならびにトリコテセン(tricothecene)が含まれる。例えば、1993年10月28日付で公開された国際公開公報第93/21232号を参照されたい。
本発明はさらに、種々の放射性同位体と結合した抗体を意図する。例としては2llAt、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、2l2Bi、32P、およびLuの放射性同位体が挙げられる。
抗体と細胞毒との結合体は、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリイルジトリオール)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばアジピミド酸ジメチルHCL)、活性エステル(例えばスベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、およびビス-活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)などの、種々の二官能性タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン免疫毒素はVitetta et al. Science 238: 1098 (1987)に記載のように調製することができる。炭素14で標識した1イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドを抗体に結合させるための例示的なキレート剤である。国際公開公報第94/11026号を参照されたい。リンカーは、細胞中での細胞毒の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Charm et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992))を用いることができる。
あるいは、抗体および細胞毒を含む融合タンパク質を、例えば組換え技術またはペプチド合成により作製することができる。
さらに別の態様において、腫瘍の前標的化における利用のため、抗体を(ストレプトアビジンのような)「受容体」と結合させることができ、ここで、抗体-受容体の結合体を患者に投与し、次に、除去剤(clearing agent)を用いて循環系から未結合の結合体を取り除き、その後、細胞毒(例えば放射性ヌクレオチド)と結合させた「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
本発明の抗体を、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法剤、国際公開公報第81/01145号参照)を活性な抗癌薬へと変換するプロドラッグ活性化酵素と結合させてもよい。例えば、国際公開公報第88/07378号および米国特許第4,975,278号を参照されたい。
そのような結合体の酵素成分には、プロドラッグをより活性なその細胞毒性形態へと変換させる様式でプロドラッグに対して作用できる、任意の酵素が含まれる。
本発明の方法において有用である酵素には、リン酸含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアルカリホスファターゼ;硫酸含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアリールスルファターゼ;非毒性5-フルオロシトシンを抗癌薬フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチド含有プロドラッグを遊離薬物に変換するために有用である、セラチアプロテアーゼ、サーモライシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼ、およびカテプシン(例えばカテプシンBおよびL)などのプロテアーゼ;D-アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用な、D-アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用な、13-ガラクトシダーゼおよびノイラミニラーゼなどの糖質分解酵素;13-ラクタムで誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用な13-ラクタマーゼ;ならびに、アミン窒素の位置でそれぞれフェノキシアセチル基またはフェニルアセチル基により誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用な、ペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼなどのペニシリンアミダーゼが含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、当技術分野において「アブザイム」としても公知である酵素活性を有する抗体を用いて、本発明のプロドラッグを遊離活性薬物に変換することもできる(例えば、Massey, Nature 328: 457-458 (1987)を参照のこと)。腫瘍細胞集団へのアブザイムの送達のため、本明細書に記載されているように抗体-アブザイム結合体を調製することができる。
本発明の酵素を、上記のヘテロ二官能性架橋試薬の使用などの当技術分野において周知の技術によって、抗体に共有結合させることができる。あるいは、本発明の酵素の少なくとも機能的に活性な部分に連結されている、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域を含む融合タンパク質を、当技術分野において周知の組換えDNA技術によって構築することもできる(例えば、Neuberger et al., Nature, 312: 604-608 (1984)を参照のこと)。
抗体の他の修飾が本明細書において意図される。例えば抗体を、さまざまな非タンパク性重合体、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体のうち一つと連結することができる。
本明細書において開示する抗体はリポソームとして製剤化することもできる。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82 : 3688 (1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77: 4030 (1980);米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号;ならびに1997年10月23日付で公開された国際公開公報第97/38731号に記載されているような当技術分野において公知の方法によって、調製される。循環時間が増大したリポソームが、米国特許第5,013,556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いる逆相蒸発法によって作製することができる。リポソームを規定の孔径をもつフィルタから押し出して、所望の直径を有するリポソームを得る。本発明の抗体のFab'断片を、ジスルフィド交換反応を介して、Martin et al. J. Biol. Chem. 257: 286-288 (1982)に記載のリポソームと結合させることができる。任意で、化学療法剤をリポソームに含めてもよい。Gabizon et al. ANational Cancer Inst. 81 (19) 1484 (1989)を参照されたい。
本明細書において記載する抗体のアミノ酸配列の修飾が意図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい可能性がある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードする核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって、またはペプチド合成によって調製される。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/または残基への挿入および/または残基の置換を含む。最終構築物が所望の特徴を保有しているという条件で、最終構築物を得るために欠失、挿入および置換の任意の組み合わせが行われる。アミノ酸の変化により、グリコシル化部位の数または位置の変更のような抗体の翻訳後過程を変化させることもできる。
抗体の突然変異誘発のために好ましい位置である特定の残基または領域を同定するために有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244 : 1081-1085 (1989)によって記載されているように「アラニン走査突然変異誘発法」と呼ばれる。ここでは、標的残基または残基群を同定し(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)、抗原とアミノ酸との相互作用に影響を与えるために、中性のまたは負の電荷をもつアミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)で置換する。次に、さらなるまたは他の変異体を置換部位においてまたはその代わりに導入することにより、置換に対し機能的な感受性を示すこれらのアミノ酸位置を正確化する。このように、アミノ酸配列の変化を導入するための部位は予め判定するが、突然変異それ自体の性質を予め判定する必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を解析するため、ala走査法または無作為変異導入法を標的のコドンまたは領域で行い、発現された抗体変異体を所望の活性に関してスクリーニングする。
アミノ酸配列の挿入には、1残基長から、100またはそれ以上の残基長を含有するポリペプチドまで及ぶアミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合、ならびに、単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体または細胞毒性ポリペプチドと融合した抗体が挙げられる。抗体分子のその他の挿入変異体は、酵素、または抗体の血清中半減期を増大させるポリペプチドの抗体N末端またはC末端との融合を含む。
別のタイプの変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体では、抗体分子中の少なくとも一つのアミノ酸残基が異なる残基で置換されている。抗体の置換型変異誘発のために最大の関心対象となる部位には超可変領域が含まれるが、FRの修飾も意図されている。
抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、
(a) 例えば、シートもしくはへリックス立体構造のような、置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、
(b) 標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または
(c) 側鎖のかさ高さ
を維持することに対するその影響が有意に異なる置換を選択することによって、達成される。
天然に存在する残基は、以下の共通した側鎖の特性に基づく群に分類される:
(1) 疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2) 中性親水性:cys、ser、thr;
(3) 酸性:asp、glu;
(4) 塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5) 鎖方向性に影響を与える残基:gly、pro;および
(6) 芳香族:trp、tyr、phe。
非保存的置換は、これらのクラスのうち一つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
抗体の適切な立体構造の維持に関与していない任意のシステイン残基を、一般的にはセリンと置換し、分子の酸化安定性を向上させかつ異常な架橋結合を妨害することができる。逆に、システイン結合を抗体に付加して、その安定性を向上させることができる(とりわけ抗体がFv断片のような断片である場合)。
特に好ましいタイプの置換変異体では、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の一つまたは複数の超可変領域残基の置換を伴う。さらなる開発のために選択される得られた変異体では通常、それらが作製された親抗体と比較して生物学的特性が改善しているであろう。そのような置換変異体を作製するのに簡便な方法は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟である。簡単に言えば、幾つかの超可変領域部位(例えば、6〜7部位)を突然変異させて、各部位における全ての可能なアミノ置換を得る。このようにして作製された抗体変異体を、糸状ファージ粒子から各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として一価の形で提示させる。ファージに提示された変異体を次に、本明細書において開示するようにその生物学的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。修飾の候補となる超可変領域部位を同定するために、アラニン走査突然変異誘発法を行って、抗原結合に有意に寄与している超可変領域残基を同定することができる。あるいはまたはさらに、抗原-抗体複合体の結晶構造を解析して抗体と抗原との間の接触点を同定することも有利でありうる。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書において説明する技術による置換の候補である。そのような変異体が作製されたら、変異体のパネルを本明細書において記載するようにスクリーニングに供し、さらなる開発のために、一つまたは複数の関連アッセイ法において優れた特性を有する抗体を選択することができる。
抗体の別のタイプのアミノ酸変異体は、抗体の元のグリコシル化パターンを変化させる。変化させるとは、抗体に見られる一つまたは複数の糖質部分を欠失させること、および/または抗体に存在しない一つまたは複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。
ポリぺプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合またはO結合のいずれかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への糖質部分の付着を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニン(Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への糖質部分の酵素的付着のための認識配列である。
このように、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在することで、潜在的なグリコシル化部位が作製される。O結合グリコシル化とは、糖類であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうち一つが、ヒドロキシアミノ酸に、最も一般的にはセリンまたはトレオニン(5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンを使用することもできる)に付着することを指す。
抗体へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列の一つまたは複数を含有するようにアミノ酸配列を変化させることによって好都合に達成される。この変化は、元の抗体の配列への一つまたは複数のセリン(N結合グリコシル化部位の場合)またはトレオニン残基の付加、またはその残基による置換によって起こすこともできる(O結合グリコシル化部位の場合)。
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野において公知のさまざまな方法によって調製される。これらの方法は、天然供給源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)、または、オリゴヌクレオチドを介した(もしくは部位特異的な)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および以前に調製された変異体もしくは非変異体型の抗体のカセット突然変異誘発による調製を含むが、これらに限定されることはない。
本発明において用いられる抗体を修飾して、例えば抗体の抗原依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)および/または補体依存性細胞障害(CDC)を増大させるようにエフェクタ機能を改善することが望ましい場合がある。これは、抗体のFc領域に一つまたは複数のアミノ酸置換を導入することによって達成することができる。あるいはまたはさらに、システイン残基をFc領域に導入し、それによってこの領域での鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にすることができる。このようにして作製されたホモ二量体抗体では、内部移行能力が向上し、かつ/または補体媒介性細胞殺滅および抗体依存性細胞障害(ADCC)が増大しうる。Caron et al., J. Exp Med. 176: 1191-1195 (1992)およびShopes, B. J linmunol 148 : 2918-2922 (1992)を参照されたい。
Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているようにヘテロ二官能性架橋剤を用いて、抗腫瘍活性が増大したホモ二量体抗体を調製することもできる。あるいは、二重Fc領域を有しかつそれによって補体溶解およびADCC能が増大されうる抗体を設計することもできる。Stevenson et al. Anti-CancerDrugDesign 3: 2 19-230 (1989)を参照されたい。
抗体の血清中半減期を増大させるため、例えば米国特許第5,739,277号に記載されているようにサルベージ受容体結合性の抗原決定基を抗体(とりわけ抗体断片)に組み入れることができる。本明細書で用いる「サルベージ受容体結合性の抗原決定基」という用語は、IgG分子のインビボ血清中半減期の増大の原因となるIgG分子(例えば、IgGI、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc領域の抗原決定基を指す。
インビボにおける腫瘍細胞への抗体の蓄積能
インビボにおける腫瘍細胞への高い蓄積能を有する抗体もあるが、この能力を持たない抗体もある。この能力の一因は、体内での抗体の安定性でありうる。腫瘍細胞への蓄積能は、抗体を薬学的組成物として利用するのに重要である。そのため、機関の指針にしたがい動物施設にてインビボでの抗体蓄積を行う。一つの態様において、マウス(例えばBALB/cA Jcl-nuマウス)の側腹部に、適切な緩衝液中の癌マーカー(例えばB9838)を発現する腫瘍細胞を皮下(s.c.)注射する。生体内分布の研究の場合、十分に確立された腫瘍を有するマウスに、尾静脈を介して放射標識抗体を投与する。マウス組織の放射能を測定する。
時間の経過とともに血液、肝臓、腎臓、腸、脾臓、膵臓、肺、心臓、胃、および筋肉のような組織の放射能が減少するにもかかわらず腫瘍細胞の放射能が増大する場合、抗体は高い蓄積活性を有している。
IV. siRNAを含む薬学的組成物
KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子に対するsiRNA(以下、「KIF4A siRNA」、「NPTX1 siRNA」、「FGFR1OP siRNA」、および「WRNIP1 siRNA」とも称する)を用いて、該遺伝子の発現レベルを低下させることができる。本明細書において、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を阻害する二本鎖RNA分子を指す。本発明の文脈においてsiRNAは、上方制御されたマーカー遺伝子KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、標的遺伝子のセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を、すなわちヘアピン構造を含むヌクレオチドを含むように構築される。siRNAは、dsRNAまたはshRNAのいずれであってもよい。
本明細書で用いる「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列を含み、かつ相補配列を介して共にアニーリングされて二本鎖RNA分子を形成する、2つのRNA分子の構築物を指す。ヌクレオチド配列の二本の鎖は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含みうる。
本明細書で用いる「shRNA」という用語は、互いに相補的な第一領域と第二領域(すなわちセンス鎖とアンチセンス鎖)を含む、ステムループ構造を有するsiRNAを指す。領域の相補性および配向性の程度は、領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、第一領域と第二領域はループ領域で連結され、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチドアナログ)間の塩基対形成の欠如に起因する。shRNAのループ領域とは、センス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも称される。
本明細書で用いる「siD/R-NA」という用語は、RNAおよびDNAの両方からなり、RNAとDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、かつ標的mRNAの翻訳を妨害する、二本鎖ポリヌクレオチド分子を指す。本明細書において、ハイブリッドとは、DNAからなるポリヌクレオチドとRNAからなるポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成している分子を指し;キメラとは、二本鎖分子を構成する鎖の一方または両方がRNAおよびDNAを含み得ることを示す。siD/R-NAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siD/R-NAは、CXセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、CXアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、または両方を含む。siD/R-NAは、標的遺伝子に由来するセンス核酸配列および相補的アンチセンス核酸配列の両方を単一の転写物が有するように、構築されてもよい(例えば、ヘアピン)。siD/R-NAは、dsD/R-NAまたはshD/R-NAのどちらかであってもよい。
本明細書で用いる「dsD/R-NA」という用語は、互いに相補的な配列を含みかつ、相補配列を介して共にアニーリングして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成する、2分子の構築物を指す。ヌクレオチド配列の二本の鎖は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含んでよい。dsD/R-NAを構築する2分子の一方または両方がRNAとDNAの両方からなる(キメラ分子)か、または代替的に、分子の一方がRNAからなり、他方がDNAからなる(ハイブリッド二本鎖)。
本明細書で用いる「shD/R-NA」という用語は、互いに相補的な第一領域と第二領域(すなわちセンス鎖とアンチセンス鎖)を含む、ステムループ構造を有するsiD/R-NAを指す。領域の相補性および配向性の程度は、領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、第一領域と第二領域はループ領域で連結され、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチドアナログ)間の塩基対形成の欠如に起因する。shD/R-NAのループ領域とはセンス鎖とアンチセンス鎖の間に介在する一本鎖領域であり、「介在性一本鎖」とも称される。
KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP遺伝子のsiRNAは、標的mRNAとハイブリダイズし、すなわち正常な一本鎖mRNA転写物と結合し、それによってmRNAの翻訳を妨げ、このことが最終的には、該遺伝子にコードされるポリペプチドの産生(発現)を低下させるか阻害する。したがって本発明のsiRNA分子は、ストリンジェントな条件下でKIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズする能力によって定義されうる。
本発明の文脈において、siRNAは好ましくは、500、200、100、50、または25ヌクレオチド長未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。KIF4A siRNAの例示的な標的核酸配列には、SEQ ID NO: 32または33のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」と置き換えられるべきである。したがって、本発明は例えば、以下のヌクレオチド配列を含む二本鎖RNA分子を提供する:
5'-GGAAGAATTGGTTCTTGAA-3’ (SEQ ID NO: 32);または
5'-GATGTGGCTCAACTCAAAG-3’ (SEQ ID NO: 33)。
NPTX1 siRNAの例示的な標的核酸配列には、SEQ ID NO: 36のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」と置き換えられるべきである。したがって、本発明は例えば、以下のヌクレオチド配列を含む二本鎖RNA分子を提供する:
5'-GGTGAAGAAGAGCCTGCCA-3’ (SEQ ID NO: 36)。
FGFR1OP siRNAの例示的な標的核酸配列には、SEQ ID NO: 37のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」と置き換えられるべきである。したがって、本発明は例えば、以下のヌクレオチド配列を含む二本鎖RNA分子を提供する:
5'-CCTGAAACTAGCACACTGC-3’ (SEQ ID NO: 37)。
WRNIP1 siRNAの例示的な標的核酸配列には、SEQ ID NO: 90のヌクレオチド配列が含まれる。配列中のヌクレオチド「t」は、RNAまたはその誘導体においては「u」と置き換えられるべきである。したがって、本発明は例えば、以下のヌクレオチド配列を含む二本鎖RNA分子を提供する:
5'-CUAGGAAGAUGUUCUGUAAUU-3’ (SEQ ID NO: 96);または
5'-CCACUAGGCUGAUGAAGGAUU-3’ (SEQ ID NO: 97)。
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含んでもよい。当技術分野で周知の化学的修飾によって、二本鎖分子の安定性、利用可能性、および/または細胞取り込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子に組み込むことができるその他の種類の化学的修飾を認識しているであろう(国際公開公報第03/070744号;同第2005/045037号)。一態様において、分解に対する耐性向上または取り込み増加を提供するために、修飾を用いることができる。そのような修飾の例には、ホスホロチオエート結合、(特に二本鎖分子のセンス鎖上での)2’-O-メチルリボヌクレオチド、2’-デオキシ-フルオロリボヌクレオチド、2’-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5’-C-メチルヌクレオチド、および逆方向デオキシ塩基性残基組み込みが含まれる(US20060122137)。
別の態様において、二本鎖分子の安定性を増大させるためまたは標的化効率を増大させるために、修飾を用いることができる。修飾には、二本鎖分子の2本の相補鎖の間での化学的架橋、二本鎖分子の1本の鎖の3’または5’末端の化学的修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2-フルオロ修飾リボヌクレオチド、ならびに2’-デオキシリボヌクレオチドが含まれる(国際公開公報第2004/029212号)。別の態様において、標的mRNAおよび/または相補的二本鎖分子鎖における相補的ヌクレオチドに対する親和性を増大または低下させるために、修飾を用いることができる(国際公開公報第2005/044976号)。例えば、未修飾ピリミジンヌクレオチドを2-チオ、5-アルキル、5-メチル、または5-プロピニルピリミジンと置換することができる。さらに、未修飾プリンを7-デザ(deza)、7-アルキル、または7-アルケニルプリンに置換することができる。別の態様において、二本鎖分子が3’突出を有する二本鎖分子である場合、3’末端ヌクレオチドが突出するヌクレオチドを、デオキシリボヌクレオチドで置換してもよい(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。さらなる詳細に関しては、US20060234970などの公開公報が入手可能である。本発明はこれらの例に限定されるものではなく、得られる分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持している限り、本発明の二本鎖分子に対して任意の既知の化学的修飾を用いることができる。
さらに、本発明の二本鎖分子は、DNAおよびRNAの両方を、例えばdsD/R-NAまたはshD/R-NAを含んでもよい。特に、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA-RNAキメラポリヌクレオチドは、安定性の増大を示す。二本鎖分子の安定性を増大させるために、DNAとRNAの混合、すなわち、DNA鎖(ポリヌクレオチド)とRNA鎖(ポリヌクレオチド)からなるハイブリッドタイプの二本鎖分子、一本鎖(ポリヌクレオチド)の一方または両方においてDNAとRNAの両方を含むキメラタイプの二本鎖分子などを形成してもよい。DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、標的遺伝子を発現する細胞に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害する活性を有する限り、センス鎖がDNAでありアンチセンス鎖がRNAであるかまたはその反対であるハイブリッドであってもよい。好ましくは、センス鎖ポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖ポリヌクレオチドがRNAである。同様に、キメラタイプの二本鎖分子は、標的遺伝子を発現する細胞に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害する活性を有する限り、センス鎖とアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAからなってもよく、または、センス鎖とアンチセンス鎖のどちらか一方がDNAおよびRNAからなってもよい。
二本鎖分子の安定性を増大させるためには、分子ができる限り多くのDNAを含むことが好ましく、一方、標的遺伝子発現の阻害を誘発するためには、十分に発現阻害を誘発する範囲内で分子がRNAであることが必要である。キメラタイプの二本鎖分子の好ましい例としては、二本鎖分子の上流部分領域(すなわち、センス鎖またはアンチセンス鎖における、標的配列またはその相補配列に隣接する領域)がRNAである。好ましくは、上流部分領域とは、センス鎖の5’側(5’末端)およびアンチセンス鎖の3’側(3’末端)を示す。すなわち、好ましい態様において、アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域が、または、センス鎖の5’末端に隣接する領域とアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方が、RNAからなる。例えば、本発明のキメラタイプまたはハイブリッドタイプの二本鎖分子は、以下の組合せを含む:
(a) センス鎖: 5’-[DNA]-3’、および
アンチセンス鎖: 3’-(RNA)-[DNA]-5’;
(b) センス鎖: 5’-(RNA)-[DNA]-3’、および
アンチセンス鎖: 3’-(RNA)-[DNA]-5’;または
(c) センス鎖: 5’-(RNA)-[DNA]-3、および
アンチセンス鎖: 3’-(RNA)-5’。
上流部分領域は、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖における標的配列またはその相補配列の末端から数えて9〜13ヌクレオチドからなるドメインであることが好ましい。さらに、そのようなキメラタイプの二本鎖分子の好ましい例には、ポリヌクレオチドの上流領域の少なくとも半分(センス鎖では5’側領域およびアンチセンス鎖では3’側領域)がRNAであり残りの半分がRNAである、19〜21ヌクレオチド鎖長を有する分子が含まれる。そのようなキメラタイプの二本鎖分子においては、アンチセンス鎖全体がRNAである場合に、標的遺伝子の発現を阻害する効果が非常に高い(US20050004064)。
本発明においては、二本鎖分子はヘアピン、例えば低分子ヘアピンRNA(shRNA)および、DNAとRNAからなる低分子ヘアピン(shD/R-NA)を形成してもよい。shRNAまたはshD/R-NAとは、密なヘアピンターンを形成しているRNAまたはRNAとDNAの混合物の配列であり、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするためにこれを用いることができる。shRNAまたはshD/R-NAは、一本鎖上にセンス標的配列およびアンチセンス標的配列を含み、これらの配列はループ配列によって分離されている。一般に、ヘアピン構造は細胞機構によって開裂されてdsRNAまたはdsD/R-NAとなり、これは次に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R-NAの標的配列に一致するmRNAに結合してこれを切断する。
siRNAの阻害活性を高めるために、ヌクレオチド「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することができる。付加される「u」の数は、少なくとも2個、一般に2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列の間に配置することができる。したがって本発明はまた、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'を有するsiRNAも提供し、式中、[A]は、KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、[A]はKIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP遺伝子の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり;[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり;かつ[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。領域[A]は[A']にハイブリダイズし、次に、領域[B]からなるループが形成される。好ましくはループ配列は、3〜23ヌクレオチド長であってよい。例えばループ配列は、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002, 418: 435-8
UUCG:Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20:500-5; Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003, 100(4):1639-44
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology 2003, 4:457-67
「UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)」は、特に適したループ配列である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque JM et al., Nature 2002, 418:435-8)。
KIF4A-siRNAに関して、本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる:
5’-GGAAGAATTGGTTCTTGAA-[b]-TTCAAGAACCAATTCTTCC-3’(SEQ ID NO: 32の標的配列に対する);および
5’-GATGTGGCTCAACTCAAAG-[b]-CTTTGAGTTGAGCCACATC-3’(SEQ ID NO: 33の標的配列に対する)。
FGFR1OP-siRNAに関して、本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる:
5’-GGTGAAGAAGAGCCTGCCA-[b]-TGGCAGGCTCTTCTTCACC-3’(SEQ ID NO: 36の標的配列に対する)。
NPTX1-siRNAに関して、本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる:
5’-CCTGAAACTAGCACACTGC-[b]-GCAGTGTGCTAGTTTCAGG-3’(SEQ ID NO: 37の標的配列に対する)。
WRNIP1-siRNAに関して、本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる:
5’-CTAGGAAGATGTTCTGTAA-[b]-TTACAGAACATCTTCCTAG-3’(SEQ ID NO: 96の標的配列に対する);および
5’-CCACTAGGCTGATGAAGGA-[b]-TCCTTCATCAGCCTAGTGG-3’(SEQ ID NO: 97の標的配列に対する)。
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/ misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。このコンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
siRNA標的部位の選択:
1. 対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。可能性のあるsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschl et al. Genes Cev 1999, 13(24):3191-7は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75ヌクレオチド以内)の領域は調節タンパク質結合部位においてより豊富でありうることから、これらに対してsiRNAを設計することを推奨していない。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2. 可能性のある標的部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列に対して有意な相同性をもつ全ての標的配列を検討対象から除く。相同性検索は、NCBIサーバ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)上で見出されるBLAST(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997, 25:3389-402; J Mol Biol 1990, 215:403-10)を用いて実行することができる。
3. 合成用の適格な標的配列を選択する。Ambionでは、好ましくは、評価用の遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
siRNAを細胞に導入するための標準的な技術が使用可能である。例えば、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1のsiRNAを、mRNA転写物に結合可能な形態で細胞に直接導入することができる。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は通常、アンチセンス分子に関して上述したように修飾される。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロールと結合したsiRNAは、薬理学的特性の改善を示す(Song et al., Nature Med 2003, 9:347-51)。
あるいは、siRNAをコードするDNAをベクター(以下、「siRNAベクター」とも称する)で運んでもよい。そのようなベクターは、例えば、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1標的遺伝子の配列を、両方の鎖の(DNA分子の転写による)発現を可能にする様式で該配列に隣接する機能的に連結された調節配列(例えば、核内低分子RNA(snRNA)U6またはヒトH1 RNAプロモーターに由来するRNAポリメラーゼIII転写ユニット)を有する発現ベクター中にクローニングすることによって作製できる(Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20: 500-5)。例えば、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子のmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子が第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側のプロモーター配列)によって転写され、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子のmRNAに対してセンス鎖であるRNA分子が第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側のプロモーター配列)によって転写される。センス鎖およびアンチセンス鎖はインビボにおいてハイブリダイズし、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子の発現をサイレンシングするためのsiRNA構築物を生じる。または、2つの構築物を利用して、一本鎖siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。この場合には、二次構造、例えばヘアピンを有する構築物を、標的遺伝子のセンス配列と相補的アンチセンス配列の両方を含む単一の転写物として作製する。
このように、癌を治療または予防するための本発明の薬学的組成物は、siRNAまたはインビボでsiRNAを発現するベクターのいずれかを含む。
siRNAベクターを細胞内に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE6(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション促進剤として有用である。したがって本発明の薬学的組成物は、そのようなトランスフェクション促進剤をさらに含んでもよい。
V. 癌の治療または予防のための方法:
癌細胞中で起こる特定の分子変化に向けた癌治療法は、進行癌治療用のトラスツズマブ(Herceptin)、慢性骨髄性白血病に対するメシル酸イマチニブ(Gleevec)、非小細胞肺癌(NSCLC)に対するゲフィチニブ(Iressa)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫に対するリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗腫瘍薬の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F et al., Clin Cancer Res 2001, 7:2958-70, Review; Slamon DJ et al., N Engl J Med 2001, 344:783-92; Rehwald U et al., Blood 2003, 101:420-4; Fang G et al., Blood 2000, 96:2246-53)。これらの薬物は形質転換された細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤よりも耐容性が高い。したがってそのような薬物は、癌患者の生存および生活の質を向上させるのみならず、分子標的癌治療法の考え方を実証するものでもある。さらに、標的化された薬物は、併用した場合に標準的化学療法の効果を増大させる(Gianni L, Oncology 2002, 63 Suppl 1:47-56; Klejman A et al., Oncogene 2002, 21:5868-76)。したがって、おそらく将来の癌治療は、従来の薬物と、血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬剤との併用を伴うであろう。
したがって、本発明の文脈において使用されうる療法には、低分子干渉RNA(siRNA)が含まれる。
ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、(例えば生検組織から)患者の組織試料を入手し、これを、RNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(または発現が変化した遺伝子のmRNA)に関してインビトロで分析することによって、レベルの増大を容易に検出することができる。当技術分野において周知の方法には、(例えば、ウエスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学などによる)免疫学的分析、および/または、mRNAの発現を検出するためのハイブリダイゼーション分析(例えば、ノーザン分析、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーションなど)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
予防的投与は、疾患または障害が予防されるかまたはその進行が遅延するように、疾患の明らかな臨床症状が現れる前に行う。
したがって本発明は、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子の発現または遺伝子産物の活性を低下させることによって、対象における癌の症状を治療もしくは緩和するための方法または癌を予防するための方法を提供する。本方法は特に、NSCLCおよびSCLCの治療または予防に適している。
癌に罹患しているかまたは癌の発症リスク(または癌に対する感受性)を有する対象に対して、適切な治療剤を予防的または治療的に投与することができる。標準の臨床的方法を用いることにより、または、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1遺伝子の異常な発現レベル(「上方制御」または「過剰発現」)もしくは遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、そのような対象を同定することができる。
投与量および投与のための方法は、治療対象の患者の体重、年齢、性別、症状、状態、ならびに投与法によって異なる;しかしながら当業者は、適切な投与量および投与法を日常的に選択することができる。
例えば、KIF4A、NPTX1、FGFR1OP、およびWRNIP1ポリペプチドに結合して該ポリペプチドの活性を調節する作用物質の用量は前述の様々な要素に左右されるが、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、用量は通常、1日あたり約0.1 mg〜約100 mg、好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約50 mg、より好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約20 mgである。
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で作用物質を非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状、および投与法によって多少の差はあるが、1日あたり約0.01 mg〜約30 mg、好ましくは1日あたり約0.1〜約20 mg、より好ましくは1日あたり約0.1〜約10 mgの用量を静脈内注射することが好都合である。他の動物の場合にも、適切な投与量は、体重60 kgに変換することにより日常的に算出可能である。
同様に、本発明の薬学的組成物を癌の治療または予防のために使用することができる。当業者に周知の方法を用いて、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮注射として、または、鼻腔内、気管支内、筋肉内、もしくは経口投与として、本組成物を患者に投与することができる。
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で経口的にまたは注射によって投与可能である。成人の用量範囲は通常、1日あたり約5 mg〜約17.5 gであり、好ましくは1日あたり約5 mg〜約10 gであり、最も好ましくは1日あたり約100 mg〜約3 gである。個別の単位で提供される錠剤または他の単位投与剤形は、便宜上、その投与量でまたはその複数回投与量として有効である量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む単位量を含む。
使用される用量は、対象の年齢、体重、および性別、治療される正確な疾患、およびその重篤度を含むいくつかの要素に左右される。投与経路もまた、状態およびその重篤度によって変化しうる。いずれにしても、適切かつ最適な投与量は、上述の要素を考慮した上で、当業者により日常的に算出可能である。
本発明のアンチセンス核酸誘導体の投与量を、患者の状態に応じて適切に調節し、所望の量で使用することができる。例えば0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
VI. 癌の予後を評価するための方法;
本発明により、KIF4A、NPTX1、およびGFR1OPの発現が患者の予後不良と有意に関連することが新規に発見された。したがって本発明は、以下の段階によって、癌、特に肺癌の患者の予後を判定または評価するための方法を提供する:患者の生体試料におけるKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルを検出する段階;検出された発現レベルと対照レベルを比較する段階;および予後不良(低い生存率)の指標として、対照レベルに対する発現レベル増加を判定する段階。
本明細書において「予後」という用語は、症例の性質および症状によって示される、疾患の推定される転帰および該疾患からの回復見込みに関しての予測を指す。したがって、あまり良くない、陰性の、不良予後とは、短い治療後生存期間または低い生存率によって定義される。逆に、陽性の、より良い、または良好な予後とは、長い治療後生存期間または高い生存率によって定義される。
「予後の評価」という用語は、患者の癌の将来の転帰(例えば、悪性度、癌治癒の可能性、生存率など)を予想できる、予測できる、または所与の検出または測定と関連づけることができる能力を指す。例えば、経時的なKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPの発現レベルの決定により、患者の転帰(例えば、悪性度の増大または低下、癌のグレードの増大または低下、癌治癒の可能性、生存率など)の予想が可能になる。
本発明の文脈において、「予後を評価(または判定)する」という句は、癌、進行、特に癌再発、転移拡散、および疾患再発の予測および尤度解析を包含することが意図される。予後を評価するための本方法は、治療的介入を含む治療様式、疾患進行度分類などの診断基準、ならびに新生物疾患の転移または再発に対する疾患モニタリングおよび監視に関して決定を行う際に、臨床的に使用されることを意図している。
本方法で使用する患者由来の生体試料は、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子が試料中で検出可能である限り、評価されるべき対象に由来する任意の試料であってよい。生体試料は肺細胞(肺から得られた細胞)を含むことが好ましい。さらに、生体試料には、痰、血液、血清、または血漿などの体液が含まれる。さらに試料は、組織から精製された細胞であってもよい。生体試料は、治療前、治療中、および/または治療後を含む様々な時点で患者から得ることができる。
本発明によると、患者由来の生体試料中で測定されたKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルが高ければ高いほど、治療後寛解、回復、および/または生存に関する予後が不良であり、かつ臨床転帰が不良となる可能性が高いことが示された。したがって本方法によると、比較のために使用される「対照レベル」とは、例えば、何らかの治療後に癌の良好なまたは陽性の予後を示した個体または個体群において該治療の前に検出された、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルである(本明細書においてこれを「予後良好の対照レベル」と称する)。あるいは、「対照レベル」とは、例えば、何らかの治療後に癌の不良なまたは陰性の予後を示した個体または個体群において該治療の前に検出されたKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルである(本明細書においてこれを「予後不良の対照レベル」と称する)。「対照レベル」とは、単一の参照集団にまたは複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンである。したがって対照レベルは、疾患状態(予後良好または予後不良)が分かっている癌の患者または患者群において何らかの治療の前に検出されたKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルに基づいて決定されうる。好ましくは、癌は肺癌である。疾患状態が分かっている患者群におけるKIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP遺伝子の発現レベルの基準値を用いることが好ましい。基準値は、当技術分野で既知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値±2 S.D.または平均値±3 S.D.の範囲を、基準値として使用することができる。
疾患状態(予後良好または予後不良)が分かっている癌患者(対照または対照群)から以前に採取し何らかの治療を行うまで保存した試料を用いることによって、試験生体試料と同時に対照レベルを決定することができる。
あるいは、対照群から以前に採取して保存した試料中のKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルの解析により得られた結果に基づく統計学的方法によって、対照レベルを決定することができる。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースであってもよい。さらに、本発明の一局面により、生体試料中のKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料より決定された複数の対照レベルと比較することができる。患者由来の生体試料の組織型と類似した組織型に由来する参照試料より決定された対照レベルを使用することが好ましい。
本発明によると、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルと、予後良好の対照レベルとが類似していることは、患者のより良い予後を示し、かつ予後良好の対照レベルよりも発現レベルが高いことは、治療後寛解、回復、生存、および/または臨床転帰に関してあまり良くない不良予後を示す。一方、予後不良の対照レベルよりもKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルが低いことは、患者のより良い予後を示し、予後不良の対照レベルと発現レベルとが類似していることは、治療後寛解、回復、生存、および/または臨床転帰に関してあまり良くない不良予後を示す。
生体試料におけるKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルが、1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍、またはそれ以上を上回る倍率で対照レベルと異なる場合、該発現レベルが変化したと見なすことができる。
試験生体試料と対照レベルとのあいだの発現レベルの違いは、対照遺伝子、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、癌性細胞と非癌性細胞の間で発現レベルが異ならないことが分かっているポリヌクレオチド(βアクチン、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1をコードするポリヌクレオチドを含む)を用いて、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルを標準化することができる。
当技術分野で周知の技術を用いて患者由来の生体試料中の遺伝子転写物を検出することによって、発現レベルを決定することができる。本方法によって検出される遺伝子転写物には、mRNAおよびタンパク質などの転写産物および翻訳産物の両方が含まれる。
例えば、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の転写産物は、該遺伝子転写物に対するKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子のプローブを用いるハイブリダイゼーション、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって検出することができる。検出は、チップまたはアレイ上で実施可能である。KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子を含む複数の遺伝子の発現レベルの検出に関しては、アレイの使用が好ましい。別の例として、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子に特異的なプライマーを用いる、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの、増幅に基づく検出法を検出のために使用してもよい(実施例を参照されたい)。KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子(それぞれSEQ ID NO: 52、56、および58)の配列全体を参照することにより、従来技術を用いて、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子に特異的なプローブまたはプライマーを設計および調製することができる。例えば実施例において使用したプライマー(SEQ ID NO: 1および2(KIF4A)、19および20(NPTX1)、17および18(FGFR1OP))はRT-PCRによる検出用に使用可能であるが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
具体的には、本発明の方法に使用されるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな、中程度にストリンジェントな、または低ストリンジェントな条件下でKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本明細書で用いる「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とはハイブリダイズするが他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、異なる環境下では異なると考えられる。長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHでの特定配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度の下で)標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度である。標的配列は通常、過剰に存在するため、Tmにおいては、プローブの50%が平衡状態である。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH 7.0〜8.3において塩濃度がナトリウムイオンで約1.0 M未満、典型的にはナトリウムイオン(または他の塩)で約0.01〜1.0 Mであり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーについては少なくとも約60℃である条件である。また、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によってストリンジェントな条件を達成することもできる。
あるいは、本発明の評価のために翻訳産物を検出することができる。例えば、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質の量を決定してもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質を特異的に認識する抗体を使用する免疫測定法が含まれる。抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。さらに、断片がKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質への結合能を保持している限り、検出のために抗体の任意の断片または修飾体(例えばキメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fvなど)を使用することができる。タンパク質検出用のこれらの種類の抗体を調製する方法は当技術分野で周知であり、そのような抗体およびその同等物を調製するために、本発明において任意の方法を使用することができる。
KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出するための別の方法として、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質に対する抗体を使用した免疫組織化学解析により染色強度を観察することができる。すなわち、強力な染色が観察されることはKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質の存在量増加を示し、同時に、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の高い発現レベルも示す。
さらにKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質は、細胞増殖活性を有することが知られている。したがって、そのような細胞増殖活性を指標として用いて、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルを決定することができる。例えば、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPを発現する細胞を調製して生体試料の存在下で培養し、次に、増殖速度を検出することによってまたは細胞周期もしくはコロニー形成能力を測定することによって、生体試料の細胞増殖活性を決定することができる。
さらに、評価の正確性を向上させるために、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現レベルに加え、その他の肺細胞関連遺伝子、例えば肺癌中で差次的に発現されることが知られている遺伝子の発現レベルを決定してもよい。そのような他の肺細胞関連遺伝子には、国際公開公報第2004/031413号および同第2005/090603号に記載のものが含まれる。
本方法により癌の予後について評価される患者は哺乳類であることが好ましく、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む。
VII. 癌の予後を評価するためのキット;
本発明は、癌の予後を評価するためのキットを提供する。好ましくは、癌は肺癌である。具体的には、本キットは、患者由来の生体試料中のKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子の発現を検出するための少なくとも1種類の試薬を含み、該試薬は以下の群より選択されうる:
(a) KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b) KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質を検出するための試薬;および
(c) KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP遺伝子のmRNAを検出するための適切な試薬には、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAの一部に対する相補配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAに特異的に結合するか同定する核酸が含まれる。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAに特異的なプライマーおよびプローブによって例示される。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野で周知の方法に基づいて調製されうる。必要ならば、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAを検出するための試薬を固体マトリクス上に固定化してもよい。さらに、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAを検出するための2種類以上の試薬を本キットに含めてもよい。
一方、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質を検出するための適切な試薬は、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質に対する抗体を含む。抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。さらに、断片がKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質への結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または修飾体(例えばキメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fvなど)を試薬として使用することができる。タンパク質検出用のこれらの種類の抗体を調製する方法は当技術分野で周知であり、そのような抗体およびその同等物を調製するために、本発明において任意の方法を使用することができる。さらに、直接結合または間接的標識技術によって、シグナル産生分子を用いて抗体を標識してもよい。標識ならびに、抗体を標識する方法およびその標的に対する抗体の結合を検出する方法は当技術分野で周知であり、本発明のために任意の標識および方法を使用することができる。さらに、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質を検出するための2種類以上の試薬を本キットに含めてもよい。
さらに、例えば生体試料中で発現されたKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質による細胞増殖活性を測定することによって、生物学的活性を決定することができる。例えば、患者由来の生体試料の存在下で細胞を培養し、次に、増殖速度を検出することによってまたは細胞周期もしくはコロニー形成能力を測定することによって、生体試料の細胞増殖活性を決定することができる。必要ならば、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OP mRNAを検出するための試薬を固体マトリクス上に固定化してもよい。さらに、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質の生物学的活性を検出するための2種類以上の試薬を本キットに含めてもよい。
本キットは、前述の試薬を2種類以上含んでもよい。さらに本キットは、KIF4A、NPTX1、もしくはFGFR1OP遺伝子に対するプローブまたはKIF4A、NPTX1、もしくはFGFR1OPタンパク質に対する抗体を結合させるための固体マトリクスおよび試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性対照試薬および陰性対照試薬、ならびにKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPタンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含んでもよい。例えば、予後良好または予後不良の患者より得られる組織試料は、有用な対照試薬となりうる。本発明のキットは、使用説明書と共に、緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、およびパッケージ挿入物(例えば、書面、テープ、CD-ROMなど)を含む、商業的なおよびユーザーの観点から望ましいその他の物質をさらに含みうる。これらの試薬などを、ラベル付けした容器中に含めてもよい。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。
本発明の一態様として、試薬がKIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP mRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位を形成するために、多孔性ストリップなどの固体マトリクス上に該試薬を固定化してもよい。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが1つの核酸(プローブ)を含む複数の部位を含んでもよい。試験ストリップは、陰性対照および/または陽性対照に対する部位も含みうる。あるいは、対照部位を試験ストリップとは分離されたストリップ上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位は異なる量の、すなわち第1の検出部位ではより多い量の、以降の部位ではより少ない量の固定化された核酸を含んでもよい。試験試料添加の際に検出可能なシグナルを示す部位の数が、試料中に存在するKIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP mRNAの量の定量的指標を提供する。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には試験ストリップの幅全体にわたる棒状またはドット状の形状である。
本発明のキットは、陽性対照試料または、KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OPの標準試料をさらに含みうる。本発明の陽性対照試料は、KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OP陽性の血液試料を採取することによって調製することができ、その後KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OPのレベルを分析する。あるいは、精製したKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPのタンパク質またはポリヌクレオチドを、KIF4A、NPTX1、およびFGFR1OPを含まない血清に添加して、陽性試料あるいは、KIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPの標準を形成する。本発明において、精製KDD1は組換えタンパク質であってもよい。陽性対照試料のKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPのレベルは、例えばカットオフ値を上回る。
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、および実施例は、本発明の局面を単に例示するものであって、本発明の範囲を限定する意図は全くない。このように、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を本発明の実践または試験において用いることができる。
VIII. 疾患を仲介する分子を標的とするための化合物の産生および同定;
VIII-1 スクリーニング原理;
いくつかの標的分子がパートナー分子と相互作用し、かつその一部の発現レベルが癌患者における予後不良に関連するという本明細書に提供される事項を考慮して、本発明の一局面は、標的分子とパートナー分子の間の結合を減少させるか阻害する試験化合物の同定を含む。本発明において、標的分子はKIF4A、MAPJD、およびFGFR1OPからなる群より選択される。一方、本発明のパートナー分子は、ZNF549、ZNF553、MYC、WRNIP1、およびABL1からなる群より選択される。さらに、標的分子とそのパートナー分子の組合せを以下に示す:
KIF4A/ZNF549;
KIF4A/ZNF553;
MAPJD/MYC;および
FGFR1OP/WRNIP1、FGFR1OP/ABL1、またはFGFR1OP/WRNIP1/ABL1。
標的分子/パートナー分子結合を決定するための方法には、2つのタンパク質の相互作用を決定するための任意の方法が含まれる。このようなアッセイとしては、従来のアプローチ、例えば、架橋、共免疫沈降、および勾配またはクロマトグラフィーカラムを通した同時精製が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、タンパク質-タンパク質相互作用は、Fieldsと共同研究者によって述べられている酵母ベースの遺伝学的システム(Fields and Song, Nature 340:245-6 (1989); Chien et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9578-82 (1991))を用い、Chevray and Nathans (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5789-93 (1992))に開示されているようにモニターすることができる。酵母GALAなどの多くの転写アクチベーターは2個の物理的に別個のモジュラードメインからなり、片方がDNA結合ドメインとして働き、もう片方が転写活性化ドメインとして機能する。上記刊行物に記載の酵母発現システム(一般に「ツーハイブリッドシステム」と呼ばれる)はこの特性を利用して2つのハイブリッドタンパク質を使用しており、片方は標的タンパク質がGAL4のDNA結合ドメインに融合しており、もう片方は候補活性化タンパク質が活性化ドメインに融合している。GALA活性化プロモーターの制御下にあるGAL1-lacZレポーター遺伝子の発現は、タンパク質-タンパク質相互作用を介したGAL4活性の再構成に依存する。相互作用するポリペプチドを含むコロニーは、β-ガラクトシダーゼに対する色素産生性基質で検出される。ツーハイブリッド技術を用いて2つの特異的なタンパク質間のタンパク質-タンパク質相互作用を同定するための完全なキット(MATCHMAKER(商標))がClontechから市販されている。このシステムを拡張して、特異的タンパク質相互作用に関わるタンパク質ドメインをマッピングすることもできるし、これら相互作用に非常に重要なアミノ酸残基を正確に特定することもできる。
本出願では「標的分子」および「パートナー分子」と言及しているが、両者の相互作用が解析または操作される場合、これらタンパク質の片方または両方の結合部分を、これらタンパク質の全長コピーのかわりに用いることができることが理解される。パートナー分子に結合する標的分子の断片は、標的分子の標準的な欠失解析および/または突然変異誘発を用いてパートナー分子に結合する断片を同定することによって容易に同定しうる。類似の解析を用いてパートナー分子の標的分子結合断片を同定しうる。
HAT複合体に結合したMAPJDはヒストンH4をアセチル化する活性を有しかつEボックスに結合するという本明細書に提供される事項を考慮して、本発明の一局面は、そのような活性を低下させるか阻害する試験化合物の同定を含む。したがって本発明は、HAT複合体に結合したMAPJDのアセチル化活性または結合活性を調節する作用物質をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、HAT複合体に結合したMAPJDポリペプチドまたはその機能的同等物を、アセチル化の対象となる基質と、該基質のアセチル化に適した条件下で接触させ、該基質のアセチル化レベルを分析することによって実施される。これにより、HAT複合体に結合したMAPJDのアセチル化活性を調節する作用物質が同定される。
本発明において、基質のアセチル化に適した条件はインビボまたはインビトロで提供可能である。例えば、HAT複合体を形成するための要素を発現させるためのベクターの同時トランスフェクションによって、アセチル化のための条件を提供することができる。あるいは、インビボにおける基質のアセチル化のための条件に関して、MAPJD発現ベクターでトランスフェクションしたMYC発現細胞を用いることもできる。さらに、インビトロにおける基質のアセチル化のための条件に関して、HAT複合体を形成するための要素と混合したMAPJDペプチドを用いることができる。
本発明において、アセチル化の対象となる好ましい基質はヒストンH4である。本明細書で用いる「ヒストンH4」という用語は、全長ヒストンH4タンパク質(例えばGenBankアクセッション番号:NM_175054)ならびにその変異体および断片を指す。例えば、ヒストンH4のアセチル化部位を含む断片ペプチドも、基質として使用可能である。
本発明において、「HAT複合体」という用語は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する複合体を指す。本発明において、好ましい「HAT複合体」には、MYCとMAX(NM_002467)とTRRAP(図11C)、またはMYCとMAXとTIP60(Frank SR, et al. EMBO Rep. 2003 Jun;4(6):575-80)が含まれる。そのようなHAT複合体を調製するための方法は周知である(McMahon SB, et al. Mol. Cell. 20, 556-62 (2000).; Frank SR. et al. EMBO Rep. 4, 575-80 (2003))。
代替的に、本発明は、以下の段階を含む、本発明のタンパク質の間の結合を阻害するために、肺癌細胞の増殖を阻害するために、および肺癌を治療または予防するために有用な化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(1) 試験化合物を、HAT複合体またはMYCに結合したMAPJDポリペプチドまたはその機能的同等物およびEボックスモチーフを含むポリヌクレオチドと接触させる段階;
(2) ポリペプチドとポリヌクレオチドの間の結合を検出する段階;ならびに
(3) 結合を阻害する試験化合物を選択する段階。
これにより、HAT複合体に結合したMAPJDの結合活性を妨害する作用物質が同定される。本発明において好ましいポリヌクレオチドは、SBNO1、TGFBRAP1、RIOK1、およびRASGEF1Aからなる群より選択される遺伝子の5’隣接領域であるEボックスモチーフ(CANNTG)を含む。概して、本ポリヌクレオチドには少なくとも2個以上のEボックスモチーフが含まれる。一部の態様において、Eボックスモチーフの数は3個以上、好ましくは4〜20個、あるいは5〜15個、より好ましくは6〜10個である。本発明において、タンパク質-DNA結合を検出するための任意の周知の方法を本発明に適用することができる。例えば、HAT複合体またはMYCに結合したMAPJDポリペプチドまたはその機能的同等物と、Eボックスモチーフを含むポリヌクレオチドとの間の結合は、レポーター遺伝子分析により検出することができる。具体的には、この方法は以下の段階を含む:
(a) 候補化合物を、標的遺伝子の転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 候補化合物の非存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現レベルまたは活性レベルと比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性レベルを低下させる候補化合物を選択する段階。
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。本発明のスクリーニング法に適したレポーター構築物は、標的遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製可能である。本発明において、「標的遺伝子」とは、HAT複合体に結合したMAPJDにより調節される遺伝子を指す。標的遺伝子の転写調節領域が当業者に公知である場合には、公知の配列情報を用いることによってレポーター構築物を調製することができる。標的遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、標的遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
本発明において、HAT複合体(またはMYC)に結合したMAPJDと、Eボックスを含むポリヌクレオチドとの間の結合を、インビトロで検出することができる。例えば、Eボックスを含むオリゴヌクレオチドをMAPJDおよびHAT複合体(またはMYCタンパク質)と接触させた後、結合産物を検出する。このように本発明は、以下の段階を含む、肺癌を治療または予防するために有用な化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(1) 試験化合物を、HAT複合体またはMYCに結合したMAPJDポリペプチドおよびEボックスモチーフを含むオリゴヌクレオチドと接触させる段階;
(2) ポリペプチドとオリゴヌクレオチドの間の結合を検出する段階;ならびに
(3) 結合を阻害する試験化合物を選択する段階。
本発明において、結合産物の検出のために、例えばゲルシフト法または電気泳動移動度シフト解析(EMSA)を適用することができる。本発明において、Eボックスを含む標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、Eボックスを含むポリヌクレオチドとして使用されうる。オリゴヌクレオチドがEボックスモチーフを含むように、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列を設計することができる。具体的には、EMSAのためのオリゴヌクレオチドプローブとして、以下からなる二本鎖DNAを用いる:
5’-CCCGTCGCACGTGGTGGCCA-3’ (SEQ ID NO: 50) および
5’-TGGCCACCACGTGCGACGGG-3’ (SEQ ID NO: 51)。
このヌクレオチド配列は、MAPJDの標的配列の1つであるRIOK1遺伝子の5’隣接領域より選択したものである。
本発明において、「機能的に同等」という用語は、対象タンパク質またはポリペプチドが、HAT複合体に結合したMAPJDと同じかまたは実質的に同じアセチル化活性または結合活性を有することを意味する。特に該タンパク質は、ヒストンH4タンパク質またはアセチル化部位を含むその断片のアセチル化を触媒する。対象タンパク質が標的活性を有するか否かは、本発明によって日常的に判定することができる。すなわちアセチル化活性は、(a) HAT複合体に結合したポリペプチドと基質(例えばヒストンH4)とを該基質のアセチル化に適した条件下で接触させる段階、および (b) 該基質のアセチル化レベルを検出する段階によって決定可能である。
所与のタンパク質の機能的同等物であるタンパク質を調製するための方法は当業者に周知であり、これには、タンパク質に変異を導入する従来の方法が含まれる。例えば当業者は、例えば部位特異的変異誘発法を用いてヒトMAPJDタンパク質のアミノ酸配列中に適切な変異を導入することにより、ヒトMAPJDタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる(Hashimoto-Gotoh T. et al. (1995), Gene 152, 271-5; Zoller MJ, and Smith M. (1983), Methods Enzymol. 100, 4687-500; Kramer W. et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12, 9441-56; Kramer W, and Fritz HJ. (1987) Methods. Enzymol. 154, 350-67; Kunkel, TA (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-92)。アミノ酸の変異は天然の状態で生じる場合もある。本発明の文脈において有用なMAPJDポリペプチドには、得られる変異タンパク質がヒトMAPJDタンパク質の機能的同等物であるという条件、より詳細にはヒトMAPJDタンパク質のメチルトランスフェラーゼ活性を保持しているという条件で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトMAPJDタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。そのような変異体において変異を導入するアミノ酸の数は概して、20アミノ酸以下、通常は10アミノ酸以下、好ましくは6アミノ酸以下、より好ましくは3アミノ酸以下である。アセチル化活性を維持するために、変異タンパク質のアミノ酸配列中でMYC結合ドメインが保存されていることが好ましい。
変異タンパク質または修飾タンパク質、すなわち特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基を欠失、付加、および/または置換することによって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、元のタンパク質の生物学的活性を保持することが知られている(Mark DF et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-6, Zoller MJ. & Smith, M., Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-500, Wang A. et al., Science 224, 1431-3, Dalbadie-McFarland G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-13)。
変異を導入するアミノ酸残基は、該アミノ酸側鎖の特性を保存することが可能な別のアミノ酸へと変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖などが含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);ならびに芳香族基を含む側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字が、アミノ酸の1文字コードを意味することに留意されたい。
ヒトMAPJDタンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 55)に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されているタンパク質の一例は、ヒトMAPJDタンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質にはヒトMAPJDタンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合体が含まれ、これらは本発明に用いられる。融合タンパク質は、当業者に周知の技法によって、例えば、本発明のヒトMAPJDタンパク質をコードするDNAと他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとをフレームが合致するように連結させ、融合DNAを発現ベクターに挿入し、これを宿主中で発現させることによって、作製可能である。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関する制限はない。
MAPJDタンパク質に融合させるペプチドとして使用可能な公知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp TP. et al., Biotechnology (1988) 6, 1204-10)、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質に融合されうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
融合タンパク質は、上述の融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと本発明のタンパク質をコードするDNAとを融合させ、調製された融合DNAを発現させることにより、調製可能である。
機能的に同等なタンパク質を単離するための当技術分野で公知の代替法では、相同配列を同定するためのハイブリダイゼーション技術を用いる(Sambrook J. et al., Molecular Cloning 2nd ed. 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)。当業者は、ヒトMAPJDタンパク質をコードするMAPJD DNA配列(例えばSEQ ID NO: 54)の全体または一部と高い相同性を有するDNAを容易に単離することができ、かつ、単離されたDNAからヒトMAPJDタンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することができる。本発明に使用されるタンパク質には、ヒトMAPJDタンパク質をコードするDNA配列の全体または一部とハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質、およびヒトMAPJDタンパク質の機能的同等物であるタンパク質が含まれる。これらのタンパク質には、ヒトまたはマウスに由来するタンパク質に対応する哺乳類ホモログ(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子にコードされるタンパク質)が含まれる。ヒトMAPJDタンパク質をコードするDNAに対して高い相同性を有するcDNAを動物から単離する際には、肺癌由来の組織を用いることが特に好ましい。
ヒトMAPJDタンパク質の機能的同等物をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって日常的に選択することができる。例えば、「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加して、68℃で1時間以上加温することにより、ハイブリダイゼーションを実施することができる。その後の洗浄段階は、例えば低ストリンジェントな条件で行うことができる。低ストリンジェントな条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1% SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSである。高ストリンジェントな条件を用いることがより好ましい。本発明の文脈において、高ストリンジェントな条件とは、例えば、室温で、2×SSC、0.01% SDSでの20分間の洗浄3回、次に37℃で、1×SSC、0.1% SDSでの20分間の洗浄3回、および、50℃で、1×SSC、0.1% SDSでの20分間の洗浄2回を含む。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要素がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす場合があり、当業者であれば、必要なストリンジェンシーを達成するための要素を適切に選択することができる。
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、ヒトMAPJDタンパク質(SEQ ID NO: 55)をコードするDNA(SEQ ID NO: 54)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを用いて、ヒトMAPJDタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することができる。
上記のハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術を通じて単離されたDNAによってコードされる、ヒトMAPJDタンパク質の機能的同等物であるタンパク質は、通常、ヒトMAPJDタンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」(「高い同一性」とも称する)とは通常、最適に整列化された2つの配列(ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列のいずれか)間の同一性の程度を指す。典型的には、高い相同性または同一性とは、40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を指す。2つのポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の相同性または同一性の程度は、「Wilbur WJ. and Lipman DJ. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-30」におけるアルゴリズムに従って決定することができる。
本発明の文脈において有用なタンパク質は、それを産生するために用いた細胞もしくは宿主、または利用した精製法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形状が変化してもよい。言うまでもなく、ヒトMAPJDタンパク質(SEQ ID NO: 55)の機能的同等物である限り、これは本発明において有用である。
本発明の文脈において有用なタンパク質は、当業者に周知の方法によって、組換えタンパク質または天然タンパク質として調製することができる。組換えタンパク質は、以下の段階により調製可能である:本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、SEQ ID NO: 55のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入する段階;ベクターを適切な宿主細胞に導入する段階;抽出物を入手する段階;および、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは、本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを利用したアフィニティークロマトグラフィーに供することにより、または上述のカラムを2つ以上組み合わせることにより、タンパク質を精製する段階。
さらに、本発明の文脈において有用なタンパク質が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または複数のヒスチジンを加えた組換えタンパク質として、宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)中で発現される場合、発現された組換えタンパク質を、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。
融合タンパク質の精製後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子を用いて切断することにより、目的のタンパク質以外の領域を除くこともできる。
天然タンパク質は、当業者に公知の方法により、例えば後述のMAPJDタンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムに、本発明のタンパク質を発現する組織または細胞の抽出物を接触させることにより、単離可能である。抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体でありうる。
本発明において、MAPJDポリペプチドのアセチル化活性は、当技術分野で公知の方法によって決定可能である。例えば、HAT複合体に結合したMAPJDポリペプチドと基質としてのヒストンH4とを、標識されたアセチル供与体と共に、適切なアッセイ条件下でインキュベーションすることができる。ヒストンのアセチル化レベルは、当技術分野で公知の任意の方法によって決定可能である。例えば、ヒストンおよび検出可能に標識されたアセチルCoAをインキュベーションし、その後、ヒストンが標識されたかどうかを定性的または定量的に検出することによって、ヒストンのアセチル化レベルを決定することができる。アセチルCoAのアセチル基は、3Hで標識することができる。ヒストンへの標識の移行は、例えばSDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出可能である。あるいは、反応後、濾過によってヒストンをアセチル供与体から分離し、フィルター上に保持された標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。アセチル供与体に結合可能なその他の適切な標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにヒストンへのこれらの標識の移行を検出する方法は、当技術分野で公知である。
あるいは、アセチル化されたヒストンH4を選択的に認識する試薬および非標識アセチル供与体(例えばアセチルCoA)を用いて、HAT複合体に結合したMAPJDのアセチル化活性を決定することができる。アセチル化されたヒストンH4を認識する抗体は市販されている。例えばAbcom社は、Lys 91、Lys 16、Lys 12、Lys 8、またはLys 5でアセチル化されたヒストンH4を特異的に認識するいくつかの抗体を提供している。例えば、HAT複合体に結合したMAPJD、アセチル化の対象となる基質、およびアセチル供与体を、基質のアセチル化に適した条件下でインキュベーションした後、従来の免疫学的方法を用いて、アセチル化基質を検出することができる。アセチル化基質を認識する抗体を用いる任意の免疫学的技術を、検出のために用いることができる。
さまざまなロースループットおよびハイスループットな酵素アッセイ形式が当技術分野において知られており、HAT複合体に結合したMAPJDのアセチル化活性の検出または測定のためにこれらを容易に適合化させることができる。ハイスループットアッセイ法に関しては、マルチウェルプレート、スライドガラス、またはチップなどの固体支持体上に、ヒストンH4基質を好都合に固定化することができる。反応後に、上記の方法によって、アセチル化産物を固体支持体上で検出することができる。あるいは、アセチル化反応を溶液中で行い、その後ヒストンH4を固体支持体上に固定化して、アセチル化産物を検出することができる。そのようなアッセイ法を容易にするため、固体支持体をストレプトアビジンでコーティングしてヒストンH4をビオチンで標識することができ、または固体支持体を抗ヒストンH4抗体でコーティングすることができる。当業者は、スクリーニングの所望のスループット能力に基づいて、適切なアッセイ形式を決定することができる。
本発明はまた、本発明のタンパク質の部分ペプチドの使用も含む。部分ペプチドはMAPJDタンパク質に特異的なアミノ酸配列を有し、約400アミノ酸未満、通常は約200アミノ酸未満、多くの場合は約100アミノ酸未満からなり、かつ、少なくとも約7アミノ酸、好ましくは約8アミノ酸以上、より好ましくは約9アミノ酸以上からなる。例えば、MAPJDタンパク質に結合する作用物質または化合物のスクリーニングにおいて、および、MAPJDとその補因子、例えばMYCとの間の結合の阻害物質のスクリーニングにおいて、部分ペプチドを使用することができる。好ましくは、MYC結合ドメイン(すなわちJmjCドメイン)を含む部分ペプチドが、そのようなスクリーニングに使用される。
遺伝子操作により、公知のペプチド合成法により、または本発明のタンパク質を適切なペプチダーゼで消化することにより、本発明の文脈において有用な部分ペプチドを作製することができる。ペプチド合成に関しては、例えば固相合成法または液相合成法を使用することができる。
FGFR1OPはWRNIP1のABL1依存的リン酸化を有意に減少させるという本明細書に提供される事項を考慮して、本発明の一局面は、FGFR1OPのそのような活性を調節する、例えば低下させるか阻害する、試験化合物の同定を含む。本発明はしたがって、ABL1によるFGFR1OPを介したWRNIP1リン酸化の阻害を調節する作用物質をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、FGFR1OPまたはその機能的同等物に結合したABL1ポリペプチドまたはその機能的同等物とWRNIP1またはその機能的同等物とをそれらの相互作用に適した条件下で接触させ、WRNIP1のリン酸化レベルを分析することによって、実践される。これにより、WRNIP1のリン酸化を調節する作用物質が同定される。
本発明において、FGFR1OP、ABL1、およびWRNIP1の相互作用に適した条件は、インビボまたはインビトロで提供される。例えば、FGFR1OP、ABL1、およびWRNIP1を発現させるためのベクターの同時トランスフェクションによって、相互作用の条件が提供されうる。あるいは、ABL1発現ベクターおよびWRNIP1でトランスフェクションしたFGFR1OP発現細胞を、インビボにおけるそれらの相互作用の条件のために用いることができる。さらに、FGFR1OPポリペプチドと混合したABL1ポリペプチドを基質および適切なリン酸供与体としてのWNRIP1と混合し、インビトロにおける相互作用のための適切な条件下および適切な時間でインキュベーションすることができる。
本明細書で用いる「WRNIP1」という用語は、全長ウェルナーヘリカーゼ相互作用タンパク質1(WRNIP1別名WHIP)(例えば、GenBankアクセッション番号NM_020135;SEQ ID NO: 92によりコードされるSEQ ID NO: 93)、ならびにその変異体および断片を指す。例えば、WRNIP1のリン酸化部位を含む断片ペプチドも、基質として使用可能である。
さらに本発明は、FGFR1OPがWRNIP1のABL1依存的リン酸化を有意に減少させかつ癌細胞周期進行を促進するようであるという発見にも基づく。したがって本発明は、FGFR1OPによるWRNIP1のABL1依存的リン酸化の減少を阻害する化合物を同定することによって、肺癌を予防または治療するための化合物を同定する方法を提供する。よって本発明は、FGFR1OPに結合したABL1によるWRNIP1のリン酸化を増大させる化合物を同定することによって、肺癌を予防または治療するための化合物を同定する方法を提供する。したがって本発明は、以下の段階を含む、本発明のタンパク質間の結合を阻害するために、ABL1を介したWRNIP1リン酸化を増大させるために、肺癌細胞の増殖を阻害するために、および肺癌を治療または予防するために有用な化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(a) WRNIP1ポリペプチドまたはその機能的同等物のリン酸化に適した条件下で、試験化合物を、FGFR1OPポリペプチドまたはその機能的同等物、WRNIP1ポリペプチドまたはその機能的同等物、およびABL1ポリペプチドまたはその機能的同等物と接触させる段階;
(b) WRNIP1ポリペプチドまたはその機能的同等物のリン酸化レベルを検出する段階;ならびに
(c) 試験化合物の非存在下で検出された対照リン酸化レベルと比較して段階(b) においてリン酸化されていると検出された、リン酸化レベルを増大させる試験化合物を促進物質として選択する段階;試験化合物の非存在下で検出された対照リン酸化レベルと比較して段階(b) においてリン酸化されていると検出された、リン酸化レベルを低下させる試験化合物を阻害物質として選択する段階。
本発明において、「機能的に同等」という用語は、対象タンパク質またはポリペプチドが、ABL1と同じかまたは実質的に同じリン酸化活性または結合活性を有することを意味する。特に該タンパク質は、WRNIP1またはリン酸化部位を含むその断片のリン酸化を触媒する。対象タンパク質が標的活性を有するか否かは、本発明によって日常的に判定することができる。すなわち、(a) ABL1と対象タンパク質とを該対象タンパク質のリン酸化に適した条件下で接触させる段階、および (b) 該対象タンパク質のリン酸化レベルを検出する段階によって、リン酸化活性を決定することができる。さらに、対象タンパク質がリン酸化活性を有するか否かは、本発明によって日常的に判定可能である。すなわち、(a) 対象タンパク質とWRNIP1とをWRNIP1のリン酸化に適した条件下で接触させる段階、および (b) WRNIP1のリン酸化レベルを検出する段階によって、キナーゼ活性を決定することができる。さらにABL1を介したWRNIP1リン酸化の阻害活性は、(a) 対象タンパク質の存在下または非存在下でABL1とWRNIP1とをWRNIP1のリン酸化に適した条件下で接触させる段階、および (b) WRNIP1のリン酸化レベルを検出する段階によって決定可能である。さらに、対象タンパク質がリン酸化活性を有するか否かは、本発明によって日常的に判定可能である。すなわち、(a) 対象タンパク質とWRNIP1とをWRNIP1のリン酸化に適した条件下で接触させる段階、および (b) WRNIP1のリン酸化レベルを検出する段階によって、キナーゼ活性を決定することができる。対象タンパク質の存在下で検出されたWRNIP1のリン酸化レベルが、対象タンパク質の非存在下で検出されたリン酸化レベルよりも高い場合、対象タンパク質は、ABL1を介したWRNIP1リン酸化の阻害活性を有する。
所与のタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための方法は当業者に周知であり、これには、タンパク質に変異を導入する従来法が含まれる。例えば当業者は、例えば部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh T. et al. (1995), Gene 152, 271-5; Zoller MJ and Smith M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500; Kramer W, et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12, 9441-56; Kramer W and Fritz HJ. (1987) Methods. Enzymol. 154, 350-67; Kunkel TA (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-92)を用いてヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質のアミノ酸配列に適切な変異を導入することにより、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。アミノ酸の変異は天然の状態で生じる場合もある。本発明の文脈において有用なABL1ポリペプチドまたはWRNIP1ポリペプチドには、結果として生じる変異タンパク質がヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質の機能的同等物であるという条件、より詳細にはABL1タンパク質によるWRNIP1タンパク質のリン酸化活性を保持しているという条件で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。そのような変異体において変異が導入されるアミノ酸の数は一般に、20アミノ酸以下、通常は10アミノ酸以下、好ましくは6アミノ酸以下、より好ましくは3アミノ酸以下である。リン酸化活性を維持するために、変異タンパク質のアミノ酸配列中でFGFR1OP結合ドメインが保存されていることが好ましい。
変異タンパク質または修飾タンパク質、すなわち特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基を欠失、付加、および/または置換することによって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、元のタンパク質の生物学的活性を保持することが知られている(Mark DF. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-6, Zoller MJ. & Smith M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-500, Wang A. et al., Science 224, 1431-3, Dalbadie-McFarland G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-13)。
変異を導入するアミノ酸残基は、該アミノ酸側鎖の特性を保存することが可能な別のアミノ酸へと変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖などが含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);ならびに芳香族基を含む側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字が、アミノ酸の1文字コードを意味することに留意されたい。
一つまたは複数のアミノ酸残基がヒトのABL1タンパク質(SEQ ID NO: 93)またはWRNIP1タンパク質(SEQ ID NO: 91)のアミノ酸配列に付加されているタンパク質の例は、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質には、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合体が含まれ、これらは本発明に用いられる。当業者に周知の技術によって、例えば本発明のヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質をコードするDNAと他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとをフレームが合致するように連結し、融合DNAを発現ベクターに挿入して、これを宿主中で発現させることによって、融合タンパク質を作製することができる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関する制限はない。
ABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質と融合させるペプチドとして使用可能な公知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp T. P. et al., Biotechnology (1988) 6, 1204-10)、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトのc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合できるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
融合タンパク質は、上述の融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAを、本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させて、調製された融合DNAを発現させることによって調製可能である。
機能的に同等なタンパク質を単離するための当技術分野で公知の代替法では、相同配列を同定するためのハイブリダイゼーション技術を用いる(Sambrook J. et al., Molecular Cloning 2nd ed. 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)。当業者は、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質をコードするABL1 DNA配列またはWRNIP1 DNA配列(例えば、SEQ ID NO: 92またはSEQ ID NO: 90)の全体または一部に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離することができ、単離されたDNAからヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することができる。本発明で使用されるタンパク質には、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質をコードするDNA配列の全体または一部とハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質、およびヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質の機能的同等物であるタンパク質が含まれる。これらのタンパク質には、ヒトまたはマウスに由来するタンパク質に対応する哺乳類ホモログ(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子にコードされるタンパク質)が含まれる。ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質をコードするDNAに対して高い相同性を有するcDNAを動物から単離する際には、肺癌由来の組織を用いることが特に好ましい。
ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質の機能的同等物をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって日常的に選択可能である。例えば、「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加して、68℃で1時間以上加温することにより、ハイブリダイゼーションを実施することができる。その後の洗浄段階は、例えば低ストリンジェントな条件で行うことができる。低ストリンジェントな条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1% SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSである。高ストリンジェント条件を用いることがより好ましい。本発明の文脈において、高ストリンジェントな条件とは、例えば、室温で、2×SSC、0.01% SDSでの20分間の洗浄3回、次に37℃で、1×SSC、0.1% SDSでの20分間の洗浄3回、および、50℃で、1×SSC、0.1% SDSでの20分間の洗浄2回を含む。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要素はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす場合があり、当業者であれば、必要なストリンジェンシーを達成するための要素を適切に選択することができる。
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用し、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質(SEQ ID NO: 93またはSEQ ID NO: 91)をコードするDNA(SEQ ID NO: 92またはSEQ ID NO: 90)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを用いて、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することができる。
上記のハイブリダイゼーション技術または遺伝子増幅技術を通じて単離されたDNAによってコードされる、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質の機能的同等物であるタンパク質は、通常、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」(「高い同一性」とも称する)とは通常、最適に整列化された2つの配列(ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列)間の同一性の程度を指す。典型的には、高い相同性または同一性とは、40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%、90%、95%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を指す。2つのポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の相同性または同一性の程度は、「Wilbur WJ. and Lipman, DJ. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-30」におけるアルゴリズムに従って決定することができる。
本発明の文脈において有用なタンパク質は、それを産生するために用いた細胞もしくは宿主、または利用した精製法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形状に変化を有してもよい。言うまでもなく、ヒトのABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質(SEQ ID NO: 93またはSEQ ID NO: 91)の機能的同等物である限り、これは本発明において有用である。
本発明の文脈において有用なタンパク質は、当業者に周知の方法によって組換えタンパク質または天然タンパク質として調製することができる。組換えタンパク質は、以下の段階により調製可能である:本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、SEQ ID NO: 92またはSEQ ID NO: 90のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入する段階;ベクターを適切な宿主細胞に導入する段階;抽出物を入手する段階;および、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを利用するアフィニティークロマトグラフィーに供することにより、または上述のカラムを2つ以上組み合わせることにより、タンパク質を精製する段階。
さらに、本発明の文脈において有用なタンパク質が、宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)中で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または複数のヒスチジンを加えた組換えタンパク質として発現される場合、発現された組換えタンパク質を、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。
融合タンパク質の精製後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のタンパク質以外の領域を除くこともできる。
天然タンパク質は、当業者に公知の方法により、例えば後述のABL1タンパク質またはWRNIP1タンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムに、本発明のタンパク質を発現する組織または細胞の抽出物を接触させることにより、単離可能である。抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体でありうる。
本発明において、ABL1ポリペプチドのキナーゼ活性またはWRNIP1ポリペプチドのリン酸化は、当技術分野において公知の方法によって決定可能である。例えば、適切なアッセイ条件下で、ABL1ポリペプチドと基質としてのWRNIP1ポリペプチドとを、標識されたリン酸供与体と共にインキュベーションすることができる。WRNIP1のリン酸化レベルは、当技術分野において公知の任意の方法によって決定可能である。例えば、WRNIP1および検出可能に標識されたリン酸、例えばγ-32Pをインキュベーションし、その後、WRNIP1が標識されたかどうかを定性的または定量的に検出することによって、WRNIP1のリン酸化レベルを決定することができる。標識がWRNIP1へと移行したことは、例えばSDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出可能である。あるいは、反応後、濾過によってWRNIP1タンパク質をリン酸供与体から分離し、フィルター上に保持された標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。リン酸供与体に結合可能なその他の適切な標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識がWRNIP1へと移行したことを検出する方法は、当技術分野で公知である。
あるいは、非標識リン酸供与体およびリン酸化WRNIP1を選択的に認識する試薬を用いて、ABL1のキナーゼ活性を決定することができる。または、リン酸化WRNIPを認識する抗体を使用することができる。例えば、ABL1、リン酸化対象となるWRNIP1、およびリン酸供与体を、WRNIP1のリン酸化に適した条件下でインキュベーションした後、従来の免疫学的方法を用いて、リン酸化WRNIP1を検出することができる。リン酸化WRNIP1を認識する抗体を用いる任意の免疫学的技術を、検出のために用いることができる。
さらに、ABL1ポリペプチドのキナーゼ活性またはWRNIP1ポリペプチドのリン酸化に対するFGFR1OPの阻害活性を、上述の方法によって決定することができる。例えば、適切なアッセイ条件下で、FGFR1OPに結合したABL1ポリペプチドと基質としてのWRNIP1ポリペプチドとを、標識されたリン酸供与体と共にインキュベーションすることができる。WRNIP1のリン酸化レベルは、当技術分野において公知の任意の方法によって決定可能である。例えば、WRNIP1および検出可能に標識されたリン酸、例えばγ-32Pをインキュベーションし、その後、WRNIP1が標識されたかどうかを定性的または定量的に検出することによって、WRNIP1のリン酸化レベルを決定することができる。標識がWRNIP1へと移行したことは、例えばSDS-PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出可能である。あるいは、反応後、濾過によってWRNIP1タンパク質をリン酸供与体から分離し、フィルター上に保持された標識の量をシンチレーション計数法によって定量することができる。リン酸供与体に結合可能なその他の適切な標識、例えば発色性標識および蛍光標識、ならびにこれらの標識がWRNIP1へと移行したことを検出する方法は、当技術分野で公知である。
さまざまなロースループットおよびハイスループットの酵素アッセイ形式が当技術分野で公知であり、これらを、ABL1を介したWRNIP1リン酸化活性の検出または測定のために容易に適合させることができる。ハイスループットアッセイ法に関しては、マルチウェルプレート、スライドガラス、またはチップなどの固体支持体上に、WRNIP1を好都合に固定化することができる。反応後に、上記の方法によってリン酸化産物を固体支持体上で検出することができる。あるいは、リン酸化反応を溶液中で行い、その後WRINP1を固体支持体上に固定化して、リン酸化産物を検出することができる。そのようなアッセイ法を容易にするため、固体支持体をストレプトアビジンでコーティングしてWRNIP1をビオチンで標識することができ、または固体支持体を抗WRNIP1抗体でコーティングすることができる。当業者は、スクリーニングの所望のスループット能力に基づいて、適切なアッセイ形式を決定することができる。
本発明はまた、本発明のタンパク質の部分ペプチドの使用も含む。部分ペプチドはABL1タンパク質に特異的なアミノ酸配列を有し、約400アミノ酸未満、通常は約200アミノ酸未満、多くの場合は約100アミノ酸未満からなり、かつ、少なくとも約7アミノ酸、好ましくは約8アミノ酸以上、より好ましくは約9アミノ酸以上からなる。例えば、ABL1タンパク質に結合する作用物質または化合物のスクリーニングにおいて、および、ABL1とその補因子、例えばFGFR1OPとの間の結合の阻害物質のスクリーニングにおいて、部分ペプチドを使用することができる。そのようなスクリーニングのために、FGFR1OP結合ドメインを含む部分ペプチドを使用することが好ましい。
遺伝子操作により、公知のペプチド合成法により、または本発明のタンパク質を適切なペプチダーゼで消化することにより、本発明の文脈において有用な部分ペプチドを作製することができる。ペプチド合成に関しては、例えば固相合成法または液相合成法を使用することができる。
任意の試験作用物質を使用することができる。例としては、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の生成物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
本明細書に開示されるように、例えば、タンパク質(抗体を含む)、ムテイン(mutein)、ポリヌクレオチド、核酸アプタマー、ならびにペプチドおよび非ペプチド有機低分子を含む任意の試験化合物が、本発明の試験化合物となりうる。試験化合物は、天然の供給源から単離されてもよく、合成的もしくは組換え的に、またはこれらの任意の組み合わせで調製されてもよい。
例えばペプチドは、"Solid Phase Peptide Synthesis" by G. Barany and R. B. Merrifield in Peptides, Vol. 2, edited by E. Gross and J. Meienhoffer, Academic Press, New York, N.Y., pp. 100-118 (1980) に記載されているような固相技術を用いて合成的に産生しうる。同様に核酸も、Beaucage SL., & Iyer R.P. (1992) Tetrahedron, 48, 2223-311; および Matthes et al., EMBO J., 3:801-5 (1984) に記載されているように固相技術を用いて合成することができる。
調節性の(modulatory)ペプチドが同定されれば、インビボでのペプチドの安定性を増加させるために、様々なアミノ酸模倣体または非天然アミノ酸で本発明のペプチドを修飾することが特に有用である。安定性は数々の方法でアッセイできる。例えば、ペプチダーゼおよび様々な生物学的媒体、例えばヒト血漿および血清などを用いて安定性が試験されている。例えば、Verhoef et al., Eur. J. Drug Metab Pharmacokin. 11:291-302 (1986) を参照されたい。当技術分野で公知の他の有用なペプチド修飾にはグリコシル化およびアセチル化が含まれる。
組換えおよび化学的合成技術は両方とも、本発明の試験化合物を産生するために用いうる。例えば、核酸の試験化合物は適切なベクターへ挿入して産生することができ、これをコンピテント細胞にトランスフェクトして増やすことができる。または、核酸はPCR技術または適した宿主中での発現を用いて増幅しうる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USA参照)。
ペプチドおよびタンパク質も、当技術分野において周知の組換え技術を用いて、例えば、Morrison DA, J. Bact., 132:349-51 (1977)および Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology, 101:347-62 (1983) に記載されているように適した宿主細胞を組換えDNAコンストラクトで形質転換することによって、発現しうる。
VIII-2 抗標的分子抗体および抗パートナー分子抗体;
本発明の一部の局面において、試験化合物は抗標的分子抗体または抗パートナー分子抗体である。一部の態様において、これら抗体は、ヒト化抗体を含むがこれに限定されないキメラである。場合によっては、本発明の抗体の態様は、これらタンパク質の片方がもう一方に結合する境界面で標的分子またはパートナー分子のいずれかに結合する。
一部の態様において、これら抗体は、生理的条件下で少なくとも約105 mol-1、106 mol-1以上、107 mol-1以上、108 mol-1以上、または109 mol-1以上のKaで標的分子またはパートナー分子に結合する。このような抗体は、例えばChemicon, Inc. (Temecula CA) などの商業的供給元から購入することができ、あるいは実質的に精製された標的分子またはパートナー分子タンパク質、例えばヒトタンパク質またはその抗原性断片などを、免疫原として用いて作製することができる。提供された免疫原からモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方を調製する方法は、当技術分野において周知である。精製技術、および特定の免疫原に対する抗体を同定するための方法については、例えば、その全体が参照として本明細書に組み入れられるPCT/US02/07144(国際公開公報第/03/077838号)を参照されたい。
例えば親和性カラムを形成するために抗体親和性マトリックスを用いる抗体精製法も当技術分野において周知で、市販されている(AntibodyShop, Copenhagen, Denmark)。標的/パートナーの結合を阻害しうる抗体の同定は、試験化合物について全般的に以下に詳述するものと同じ試験アッセイを用いて行われる。
VIII-3 変換酵素;
変換酵素は本発明の試験化合物となりうる。本発明の文脈において、変換酵素とは、標的分子とパートナー分子のどちらかまたは両方に対して共有結合性翻訳後修飾を行う分子触媒である。本発明の変換酵素は、標的分子および/またはパートナー分子の1つまたは複数のアミノ酸残基を、修飾タンパク質の構造中のアロステリック変化を引き起こすように、あるいは標的分子とパートナー分子との間の結合を妨害するように標的/パートナー分子結合部位の化学的性質もしくは修飾タンパク質の構造を変えて、共有結合的に修飾する。
本明細書において、これら2分子間の結合の妨害とは、結合のKaにおいて、30℃、イオン強度0.1、界面活性剤の非存在下で測定したこれらタンパク質間の結合のKaと比べて、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%またはそれ以上低下させることを指す。本発明の例示的な変換酵素には、キナーゼ、ホスファターゼ、アミダーゼ、アセチラーゼ、グリコシダーゼなどが含まれる。
VIII-4 試験化合物ライブラリーの構築;
試験化合物ライブラリーの構築は当技術分野において周知であるが、本セクションでは、試験化合物の同定と、標的/パートナー相互作用および/または、アセチル化もしくは転写活性などの、標的分子を介した活性の有効な阻害剤のスクリーニングのためのこのような化合物のライブラリーの構築とにおけるさらなるガイダンスを提供する。
VIII-5 分子モデリング;
試験化合物ライブラリーの構築は、求められる特性を有することが知られている化合物の分子構造、ならびに/または阻害する標的分子、すなわち標的分子およびパートナー分子の分子構造の知識によって促進される。さらなる評価に適した試験化合物の予備スクリーニングに対する1つのアプローチが、試験化合物とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングである。本発明において、標的分子および/またはパートナー分子の間の相互作用をモデリングすることにより、相互作用自体の詳細への洞察が提供され、また、可能性のある、相互作用の分子阻害剤を含む、相互作用を阻害するために可能な方法が示唆される。
コンピュータモデリングテクノロジーにより、選択した分子の3次元原子構造の視覚化と、その分子と相互作用するであろう新しい化合物の合理的設計とが可能である。3次元構築物は典型的には、選択した分子のx線結晶構造解析またはNMRイメージングのデータに依存する。分子動態は力場データを必要とする。コンピュータグラフィックシステムは、新しい化合物がどのように標的分子と関連するかを予測することができ、結合特異性を完全にするように化合物および標的分子の構造を実験操作することが可能である。片方または両方に小さな変化を起こしたときに分子-化合物間相互作用がどうなるかの予測には、通常ユーザーが使いやすい、分子設計プログラムとユーザーとの間のメニュー駆動型インターフェースと連係した、分子力学ソフトウェアおよび計算集約型コンピュータが必要である。
一般的に述べた上記の分子モデリングシステムの一例は、CHARMmおよびQUANTAプログラム(Polygen Corporation, Waltham, Mass)からなる。CHARMmはエネルギー最小化および分子動態機能を行う。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、および解析を行う。QUANTAによって、分子の互いの挙動の相互的な構築、修飾、視覚化、および解析が可能である。
特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングはいくつかの論文に概説されている。例えば、Rouvinen, et al. Acta Pharmaceutica Fennica 97, 159-166 (1988); Ripka, New Scientist 54-58 (Jun. 16, 1988); McKinlay and Rossmann, Annu. Rev. Pharmacol. Toxiciol. 29, 111-22 (1989); Perry and Davies, Prog Clin Biol Res.291:189-93(1989); Lewis and Dean, Proc. R. Soc. Lond. 236, 125-40 and 141-62 (1989);および、核酸成分に対するモデル受容体に関し、Askew, et al., J. Am. Chem. Soc. 111, 1082-90 (1989)。
化学物質をスクリーニングし、画像として描写する他のコンピュータプログラムが、BioDesign, Inc., Pasadena, Calif.、Allelix, Inc, Mississauga, Ontario, Canada、およびHypercube, Inc., Cambridge, Ontarioなどの会社から利用可能である。例えば、DesJarlais et al. (1988) J. Med. Chem. 31:722-9; Meng et al. (1992) J. Computer Chem. 13:505-24; Meng et al. (1993) Proteins 17:266-78; Shoichet et al. (1993) Science 259:1445-50を参照されたい。
標的分子/パートナー分子相互作用の推定阻害剤が同定されれば、以下に詳述するように、同定された推定阻害剤の化学的構造に基づき、コンビナトリアルケミカル技術を使用して任意の数の変異体を構築することができる。こうして得られる推定阻害剤または「試験化合物」のライブラリーを本発明の方法を用いてスクリーニングし、標的分子/パートナー分子の結合を阻害するライブラリーの試験化合物を同定することができる。
VIII-6 コンビナトリアルケミカル合成;
試験化合物のコンビナトリアルライブラリーは、標的分子/パートナー分子相互作用の公知の阻害剤に存在するコア構造の知識を含む合理的薬物設計プログラムの一部として産生しうる。このアプローチは、ライブラリーを妥当なサイズに維持することが可能であり、ハイスループットスクリーニングを促進する。または、単純な、特に短いポリマー分子ライブラリーは、ライブラリーを構成する分子ファミリーの全ての並べ換えを単純に合成することによって構築しうる。この後者のアプローチの一例は、すべてのペプチドが6アミノ酸長のライブラリーであろう。このようなペプチドライブラリーは、全ての6アミノ酸配列の並べ換えを含みうる。このタイプのライブラリーは直線的コンビナトリアルケミカルライブラリーと呼ばれる。
コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製は当業者に周知であり、化学的または生物学的合成によって生成されうる。コンビナトリアルケミカルライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号, Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-93 (1991) および Houghten et al., Nature 354:84-6 (1991) を参照されたい)が挙げられるが、これに限定されない。化学的多様性ライブラリーを生成するための他の化学も用いることができる。このような化学としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ペプチド(例えば国際公開公報第91/19735号)、コードされるペプチド(例えば国際公開公報第93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば国際公開公報第92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのディバーソマー(diversomer)(DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13 (1993))、ビニル性(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568-70 (1992))、グルコース骨格を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-8 (1992))、低分子化合物ライブラリーの類似の有機合成(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261:1303-5 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel、およびSambrook(全て上記)を参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリー(例えばVaughan et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-14 (1996) およびPCT/US96/10287を参照されたい)、炭水化物ライブラリー(例えばLiang et al., Science, 274:1520-2 (1996) および米国特許第5,593,853号を参照されたい)、有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1;6(6):624-31; イソプレノイド、米国特許第5,569,588号; チアゾリジノン(thiazolidinone)およびメタチアザノン(metathiazanone)、米国特許第5,549,974号; ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号; モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号; ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照されたい)。
VIII-7 ファージディスプレイ;
別のアプローチは、組換えバクテリオファージを用いてライブラリーを産生する。この「ファージ法」(Scott and Smith, Science 249:386-90, 1990; Cwirla, et al, Proc. Natl. Acad. Sci., 87:6378-82, 1990; Devlin et al., Science, 249:404-6, 1990)を用いて、非常に大きなライブラリーを構築することができる(例えば106〜108化学単位)。第二のアプローチは主に化学的方法を用いるものであり、Geysen法(Geysen et al., Mol Immunol. 23:709-15, 1986; Geysen et al. J Immunol Methods. 1987 Sep 24;102(2):259-74)およびFodorらの方法(Science 251:767-73, 1991)がその例である。Furka et al. (14th International Congress of Biochemistry, Volume #5, Abstract FR:013, 1988; Furka, Int. J. Peptide Protein Res. 37:487-93, 1991)、(米国特許第4,631,211号) 、および (米国特許第5,010,175号)が、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験されうるペプチドの混合物を産生するための方法を記載している。
コンビナトリアルライブラリー調製用の装置が市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced ChemTech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照されたい)。また、多数のコンビナトリアルライブラリー自体が市販されている(例えばComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照されたい)。
VIII-8 試験化合物ライブラリーのスクリーニング;
本発明のスクリーニング方法は、標的分子/パートナー分子の結合または標的分子を介した活性を妨害する確率が高い試験化合物の効率的で迅速な同定を提供する。一般に、標的分子/パートナー分子の結合または標的分子を介した活性を妨害する試験化合物の能力を決定する方法はいずれも本発明と共に使用するのに適する。例えば、ELISA形式の競合および非競合阻害アッセイを利用しうる。対照実験を行ってシステムの最大結合能を決定すべきである(例えば、下記の例においては、結合させた標的分子をパートナー分子と接触させ、標的分子に結合するパートナー分子の量を決定する)。
VIII-9 競合アッセイ形式;
本発明の試験化合物をスクリーニングするために競合アッセイを用いうる。例として、競合ELISA形式は、固体支持体に結合された標的分子(またはパートナー分子)を含みうる。この結合された標的分子(またはパートナー分子)は、パートナー分子(または標的分子)および試験化合物とインキュベートされる。試験化合物および/またはパートナー分子(もしくは標的分子)を標的分子(またはパートナー分子)に結合させるのに十分な時間の後、基質を洗浄して非結合物質を除く。そして標的分子(またはパートナー分子)に結合したパートナー分子(または標的分子)の量を決定する。
これは、当技術分野で公知の様々な方法のいずれか、例えば、検出可能な標識でタグ付されたパートナー分子(または標的分子)種を用いて、あるいは洗浄した基質を標識化抗パートナー分子(または標的分子)抗体と接触させて、遂行しうる。標的分子(またはパートナー分子)に結合したパートナー分子(または標的分子)の量は、パートナー分子/標的分子の結合を妨害する試験化合物の能力に反比例するであろう。抗体を含むがそれに限定されないタンパク質の標識は、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988) に記載されている。
あるバリエーションでは、標的分子(またはパートナー分子)は親和性タグで標識される。標識された標的分子(またはパートナー分子)を次に、試験化合物およびパートナー分子(または標的分子)とインキュベートし、免疫沈降する。そして免疫沈降物を抗パートナー分子(または標的分子)抗体を用いたウェスタンブロッティングに供する。前記の競合アッセイ形式のように、標的分子(またはパートナー分子)と結合することが見出されたパートナー分子(または標的分子)の量は、標的/パートナーの結合を妨害する試験化合物の能力と反比例する。
VIII-10 非競合アッセイ形式;
非競合結合アッセイも、本明細書に記載されるもののような競合アッセイを用いたスクリーニングに容易に適用できない形式で構築された試験化合物ライブラリーの初期スクリーニングとして有用でありうる。このようなライブラリーの一例は、ファージディスプレイライブラリーである(例えば、Barrett, et al. (1992) Anal. Biochem 204, 357-64を参照されたい)。
ファージライブラリーは、数多くの異なる組換えペプチドの作業量(working quantity)を素速く産生しうる点において有用である。ファージライブラリーはそれ自体は本発明の競合アッセイに向いてはいないが、非競合形式で効率的にスクリーニングされ、どの組換えペプチド試験化合物が標的分子またはパートナー分子に結合するかを決定することができる。次に、結合すると同定された試験化合物を産生し、競合アッセイ形式を用いてスクリーニングすることができる。ファージおよび細胞ディスプレイライブラリーの産生およびスクリーニングは当技術分野において周知であり、例えば、Ladner et al., 国際公開公報第88/06630号; Fuchs et al. (1991) Biotechnology 9:1369-72; Goward et al. (1993) TIBS 18:136-40; Charbit et al. (1986) EMBO J 5, 3029-37.; Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:1865-9; Cwirla, et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87, 6378-82に考察されている。
例示的な非競合アッセイは、成分の1つ(標的分子またはパートナー分子)の添加なしで、競合アッセイに関して記載したものと類似の手順に従う。しかしながら、非競合形式は標的分子またはパートナー分子に対する試験化合物の結合を決定するので、標的分子およびパートナー分子の両方に対する試験化合物の能力を各候補について決定する必要がある。したがって、例として、固定化された標的分子への試験化合物の結合は、結合していない試験化合物を洗い流し、結合した試験化合物を支持体から溶出させた後に、例えば、質量分析、タンパク質決定(BradfordもしくはLowryアッセイ法、または280nmの吸光度決定)によって溶出物を解析することによって、決定しうる。
または、溶出工程を省いて、支持体表面での有機層の分光学的特性における変化をモニターすることによって試験化合物の結合を決定してもよい。表面の分光学的特性をモニターするための方法としては以下のものが含まれるが、これらに限定されない:吸光度、反射率、透過率、複屈折、屈折率、回折、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共鳴ミラー法、格子共役導波管(grating coupled waveguide)技術、および多極共鳴分光法(これらは全て当業者に公知である)。溶出工程の必要を省くために、標識された試験化合物もアッセイに用いうる。この場合、非結合物質を洗い流した後に支持体に結合している標識の量が試験化合物の結合に直接比例する。
いくつかの周知のロボットシステムが液相化学用に開発されてきた。これらシステムとしては、Takeda Chemical Industries, LTD.(Osaka, Japan)によって開発された自動合成器のような自動ワークステーションが挙げられ、多くのロボットシステムがロボットアーム(Zymate II, Zymark Corporation, Hopkinton, Mass.; Orca, Hewlett Packard, Palo Alto, Calif.)を利用しており、化学者によって行われるマニュアル合成操作を模倣する。上記装置はいずれも、本発明と共に使用するのに適している。本明細書において述べられているように操作可能になるようなこれら装置に対する改変(もしあれば)の性質および実施は、関連技術分野の当業者には明らかであろう。加えて、多数のコンビナトリアルライブラリーはそれ自体が市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Asinex, Moscow, Ru, Tripos, Inc., St. Louis, MO, ChemStar, Ltd, Moscow, RU, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照されたい)。
VIII-11 変換酵素のスクリーニング;
変換酵素である試験化合物は、アッセイする変換酵素に特異的な補因子および補助基質を用いて非競合形式でアッセイしうる。このような補因子および補助基質は、調べる変換酵素のタイプが与えられれば、当業者に公知である。
変換酵素の1つの例示的なスクリーニング手順は、まず、変換酵素に特徴的なタンパク質の共有結合性修飾を行うのに必要な補因子および補助基質の存在下、好ましくは生理的条件下で、標的分子および/またはパートナー分子を変換酵素と接触させることを含む。修飾されたタンパク質を次に、結合パートナーに結合する能力(すなわち標的分子のパートナー分子に対する結合)について試験する。次に、修飾されたタンパク質の結合パートナーに対する結合を、未修飾の対照対の結合と比較し、上記のKaにおいて要求される変化が達成されたかどうかを決定する。
アッセイを行う上でタンパク質の検出を促進するために、当業者に周知の技術を用いて、1つまたは複数のタンパク質を上記のような検出可能な標識で標識してもよい。
VIII-12 スクリーニング方法;
上記のスクリーニングの態様は、さらなる調査に適する試験化合物のハイスループットな決定に適している。
または、調査中の試験化合物を増殖中の細胞に加えて、試験化合物を与えていない対照集団の増殖を基準として処置細胞の増殖をモニターしてもよい。試験化合物のスクリーニングに適した細胞株は、本明細書に提供される教示から当業者には明らかであろう。インビボ試験に関しては、認められた動物モデルに試験化合物を投与すればよい。
VIII-13 同定された試験化合物からの薬剤の製剤化;
よって、本発明は、癌、特に非小細胞肺癌および/または小細胞肺癌などの肺癌の予防または治療に有用な薬剤および方法を含む。これら薬剤および方法は、標的分子/パートナー分子相互作用または標的分子を介した活性を阻害するとして同定された本発明の少なくとも1つの試験化合物を、異常な細胞増殖の減衰または停止を達成するのに有効な量で含む。より具体的には、治療的に有効な量とは、治療を受ける対象の発症を防ぐのに、あるいはその既存の症状を緩和するのに、有効な量を意味する。
本発明の方法で治療されるべき個体は、例えば非小細胞肺癌および小細胞肺癌を含む肺癌に罹患した任意の個体でありうる。このような個体は、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、もしくはヤギを含む哺乳類などの脊椎動物、あるいは任意の他の動物、特に商業的に重要な動物または家畜化された動物でありうる。
VIII-14 治療用量範囲の決定;
本発明の薬剤のための有効な用量範囲の決定は、特に本明細書に提供される詳述された開示を鑑みれば、十分に当業者の能力の範囲内である。試験化合物の治療的に有効な用量は、まず細胞培養アッセイおよび/または動物モデルから推定できる。例えば、動物モデルにおいて用量を定め、細胞培養で決定されるIC50(50%の細胞が所望の効果を示す用量)を含む循環濃度範囲を達成することができる。また、試験化合物の毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療有効量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が、治療指数(すなわちLD50とED50の比)である。高い治療指数を示す化合物を用いることができる。これら細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを、ヒトに用いる用量範囲を定める際に用いうる。このような化合物の用量は、毒性がほとんどないかまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内に収まるであろう。用量は、使用される用量形態および利用される投与経路に従い、この範囲内で変わりうる。厳密な処方、投与経路、および用量は、患者の状態を考慮して個別の医師によって選択されうる。例えばFingl et al., (1975), in "The Pharmacological Basis of Therapeutics", Ch. 1 p1を参照されたい。用量および間隔は、所望の効果を維持するのに十分な活性試験化合物の血漿レベルを提供するように個別に調整しうる。
VIII-15 薬学的に許容される添加剤;
哺乳類(例えばヒト)に投与する薬剤は、薬学的に許容される添加剤、または担体を含みうる。適した添加剤およびそれらの製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed., (1980), Mack Publishing Co., edited by Oslo et al.に記載されている。水溶性の調製物には、製剤を等張にするために、適切な量の薬学的に許容される塩が製剤中に典型的に用いられる。薬学的に許容される等張添加剤の例としては、生理的食塩水、リンゲル液、ハンクス液、およびデキストロース溶液などの液体が含まれる。等張添加剤は、注射用製剤に特に重要である。
経粘膜投与には、透過させる障壁に適切な浸透剤を製剤に用いる。このような浸透剤は当技術分野において一般的に知られている。
添加剤は製剤の適正なpHを維持するために用いうる。最適な有効期間のためには、試験化合物を含む溶液のpHは好ましくは約5〜約8、より好ましくは約7〜約7.5の範囲にわたる。製剤はまた、凍結乾燥粉末、または、マトリックスが成形品、例えば、フィルム、リポソーム、もしくは微粒子の形態にある、固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性調製物を含む本発明に適した他の選択的な添加剤を含みうる。例えば、投与経路によって、投与される試験化合物の濃度によって、または治療がタンパク質、試験化合物をコードする核酸、もしくは試験化合物を分泌することができる細胞を有効成分として含む薬剤を用いるかどうかによって、特定の添加剤がより好ましい場合があることが当業者には明らかであろう。
本発明の薬学的組成物は、それ自体公知の様式で、例えば、通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣丸形成、研和、乳化、カプセル化、閉じ込め(entrapping)、または凍結乾燥プロセスによって、製造しうる。適正な製剤は、選択された投与経路に依存する。
経口投与には、担体によって、治療されるべき患者による本発明の化合物の経口摂取のために、錠剤、丸剤、糖衣丸、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化することが可能である。経口用の薬学的調製物は、試験化合物を固体の拡散性添加剤と共に製剤化し、得られた混合物を任意ですりつぶして、所望であれば適した補助剤を加えた後に顆粒の混合物を加工して錠剤または糖衣丸コアを得ることによって得ることができる。適した添加剤は特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖類などの増量剤;例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、イネデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物である。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのそれらの塩などの崩壊剤を加えてもよい。
本発明の化合物の多くは薬学的に適合性の対イオンとの塩として提供してもよい。薬学的に適合性の塩は、用途によって、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含むがこれらに限定されない多くの酸と共に形成しうる。塩は、水性または対応する遊離塩基形態である他のプロトン性溶媒に、より可溶性である傾向がある。
許容可能な添加剤に加えて、本発明の製剤は、同定された試験化合物以外の治療剤を含みうる。例えば、製剤は、抗炎症剤、鎮痛剤、化学療法剤、粘液溶解薬(例えばn-アセチル-システイン)などを含みうる。薬剤自体に他の治療剤を含むことに加え、本発明の薬剤はまた、1つまたは複数の他の薬理的物質に連続的にまたは同時に投与しうる。薬剤および薬理的物質の量は、例えば、どのタイプの薬理的物質を用いるか、また、治療される疾患、ならびにスケジュールおよび投与経路に依存する。
本発明の薬剤の投与に続いて、熟練した施術者に周知の様々な方法で哺乳類の生理的状態をモニターすることができる。
VIII-16 遺伝子療法;
標的分子/パートナー分子の結合または標的分子を介した活性の阻害物質(disruptor)として同定されたタンパク質およびペプチド試験化合物は、肺癌、例えば非小細胞肺癌および/または小細胞肺癌を患う患者に遺伝子療法を用いて治療的に送達しうる。遺伝子療法技術に適用できる例示的試験化合物としては、変換酵素や、立体またはアロステリック阻害によって標的分子/パートナー分子の結合を直接変化させるペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
一部の局面において、遺伝子療法の態様は、本発明の適した同定された試験化合物をコードする核酸配列を含む。一部の態様において、核酸配列は、標的細胞における試験化合物の発現に必要なそれらの調節エレメントを含む。核酸は、標的細胞のゲノムに安定に挿入されるように準備されうる(例えば、相同組換えカセットベクターの記載について、Thomas KR. and Capecchi MR. (1987) Cell 51:503-12を参照されたい)。
患者への核酸の送達は直接的でもよいし(この場合、患者は核酸または核酸を含むベクターに直接さらされる)、間接的でもよい(この場合、細胞がまずインビトロで核酸によって形質転換されてから患者に移植される)。これら2つのアプローチはそれぞれインビボまたはエクスビボ遺伝子療法として知られている。
遺伝子療法の方法の全般的概説については、Goldspiel et al., 1993 Clinical Pharmacy 12:488-505; Wu and Wu, 1991 Biotherapy 3:87-95; Tolstoshev, 1993 Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 33:573-96; Mulligan, 1993 Science 260:926-32; および Morgan and Anderson, 1993 Ann. Rev. Biochem. 62:191-217を参照されたい。用いうる組換えDNA技術の分野で一般的に知られる方法は、Ausubel et al. (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY; および Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NYに記載されている。
IX. スクリーニングおよび治療キット;
本発明はまた、肺癌の治療または予防に有用な化合物をスクリーニングするための材料を含む製品またはキットも提供する。このような製品は、本明細書に記載される材料の、1つまたは複数のラベルされた容器を、使用説明と共に含みうる。適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。
一つの態様において、スクリーニングキットは以下のものを含む:(a)標的分子ポリペプチドのパ―トナー分子結合ドメインを含む第一のポリペプチド;(b)パートナー分子ポリペプチドの標的分子結合ドメインを含む第二のポリペプチド、および(c)第一のポリペプチドと第二のポリペプチドとの間の相互作用を検出する手段(例えば試薬)。
一部の態様において、第一のポリペプチド、すなわちパ―トナー分子結合ドメインを含むポリペプチドは、標的分子ポリペプチドを含む。同様に、他の態様において、第二のポリペプチド、すなわち標的分子結合ドメインを含むポリペプチドは、パ―トナー分子ポリペプチドを含む。
別の態様において、スクリーニングキットは以下のものを含みうる:
(a)標的分子ポリペプチドまたはその機能的同等物を発現する細胞;および
(b)ヒストンH4のアセチル化レベルまたはWRNIP1タンパク質のリン酸化レベルを検出する手段(例えば試薬)。
本発明はさらに、本明細書に記載の病理学的状態を治療するのに有用な物質を含む製品およびキットを提供する。このような製品は、本明細書に記載されるような薬剤の容器をラベルと共に含みうる。上記のように、適した容器には、例えば、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。本発明の文脈において、容器とは、肺癌を治療するために有効な活性物質を有する組成物を保持するものである。組成物中の活性物質は、インビボで標的分子/パートナー分子の結合を阻害しうる同定された試験化合物(例えば、抗体、低分子など)であるかもしれない。容器上のラベルは、異常な細胞増殖を特徴とする1つまたは複数の状態を治療するために組成物が用いられることが示されうる。ラベルはまた、本明細書に記載するもののような投与およびモニタリング技術に関する指示を示しうる。
上記の容器に加え、本発明の治療キットは、任意で薬学的に許容される希釈剤を収容する第二の容器を含んでもよい。さらに、使用説明書と共に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、およびパッケージ挿入物を含む、商業的およびユーザーの観点から望ましい他の材料を含みうる。
所望であれば、組成物は、有効成分を含む1つまたは複数の単位用量形態を含みうるパックまたはディスペンサー装置で提供されうる。パックは、例えば、ブリスターパック(blister pack)などの金属またはプラスチックのフォイルを含みうる。パックまたはディスペンサー装置は投与のための説明書を伴いうる。また、適合性の薬学的担体中に製剤化された本発明の化合物を含む組成物は、指示された状態の治療のために調製し、適切な容器に入れてラベルされうる。
実施例
材料および方法
肺癌細胞系および組織試料
本実施例において用いたヒト肺癌細胞系は以下の通りである:非小細胞肺癌(NSCLC)A427、A549、LC74、LC319、PC-3、PC-9、PC-14、NCI-H1666、NCI-H1781、NCI-H596、NCI-H647、NCI-H1373、NCI-1703、SW1573、NCI-H1373、EBC-1,、RERF-LC-AI、SK-LU-1、SK-MES-1、LU61、NCI-H226、NCI-H520、LX-1、およびNCI-H2170、ならびに小細胞肺癌(SCLC)DMS-114、DMS-273、SBC-3、およびSBC-5。細胞は全て、10%ウシ胎児血清(FCS)を加えた適切な培地中で単層で増殖させ、37℃、5%CO2の加湿空気雰囲気下で維持した。ヒト小気道上皮細胞(SAEC)を、Cambrex Bio Science Inc.(Walkersville, MD)から購入した最適培地(SAGM)で生育させた。以前に記載されたとおり、インフォームドコンセントを得て原発性肺癌組織試料を入手した(Kikuchi T, et al. Oncogene 22:2192-205, 2003)。
同様にKIF4Aについては、埼玉県立がんセンター(埼玉、日本)で手術を受けた患者から、組織マイクロアレイでの免疫染色用に合計357例のNSCLCおよび隣接する正常肺組織試料を得た。広島大学(広島、日本)および埼玉県立がんセンターから入手した29例のSCLC試料も、実施例において使用した。
MAPJDについては、原発性NSCLCの試料を、先に患者37例からインフォームドコンセントを得て入手した。そのうち22例は腺癌(ADC)、14例は扁平上皮癌(SCC)、1例は腺扁平上皮癌(ASC)に分類された。先に、組織マイクロアレイの免疫染色に用いる合計300例の原発性NSCLCおよび隣接する正常肺組織のホルマリン固定試料を、手術を受けた患者からインフォームドコンセントを得て入手した。この言及される全臨床材料の試験および使用は、個別の機関内倫理委員会より承認を受けた。
NPTX1については、先に、ADC 238例、SCC 95例、LCC 28例、ASC 13例、およびLCNEC 3例を含む原発性NSCLCならびに隣接する正常肺組織の合計374例のホルマリン固定試料を、埼玉県立がんセンター(埼玉、日本)で手術を受けた患者から、臨床病理学的データとともに入手した。SCLC 13例は、検視解剖を受けた個人から入手した。腫瘍検体の組織学的分類はWHO基準に基づいた(Travis WD)。次の基準に基づいて、外科的試料を試験用に選抜した:(1) 患者は新規に診断されかつ以前に治療を受けたことがなかったか;(2) 腫瘍は病理学的に肺癌と診断されたか;(3) 手術後3ヵ月を超えて生存したか;(4) 手術後5年以内に、肺癌以外の原因で死亡しなかったか;および (5) 手術後3年を超えて追跡調査されたか(患者が生存し続けた場合)。
FGFROP1については、先に、ADC 263例、SCC 115例、LCC 28例、腺扁平上皮癌(ASC)13例を含む原発性NSCLCおよび隣接する正常肺組織の合計419例のホルマリン固定試料を、手術を受けた患者から臨床病理学的データとともに入手した。先に剖検材料(NSCLC患者2例)からのNSCLC検体および5種の組織(心臓、肝臓、肺、腎臓、および精巣)を、インフォームドコンセントを得て入手した。腫瘍検体の組織学的分類はWHO基準に基づいて実施した(Travis WD, et al. Berlin: Springer, 1999)。
対照として健常者90例から、インフォームドコンセントを得て血清試料を入手した(男性79例、女性11例;年齢の中央値48.39 ± 7.34 SD、41.1〜55.73歳)。健常者は、全血球計算値、C反応性タンパク質(CRP)、赤血球沈降速度、肝機能検査、腎機能検査、尿検査、便検査、胸部X線、または心電図に異常を認めなかった。さらに肺癌患者152例からも、インフォームドコンセントを得て血清試料を入手した(男性116例、女性36例;年齢の中央値64.15 ± 10.98 SD、53.17〜75.13歳)。次の基準に基づいて試料を試験用に選抜した:(1) 患者は新規に診断されかつ以前に治療を受けたことがなかったか、(2) 腫瘍は病理学的に肺癌(I〜IV期)であると診断されたか。これらの152症例の内訳は、ADC 70例、SCC 30例、およびSCLC 52例であった。臨床病理的記録は完全に文書化した。血清は診断時に入手し、-80℃で保存した。全152症例の病期分類は、胸部および腹部のコンピュータ断層撮影(CT)スキャン、骨シンチグラフィー、ならびに頭部の磁気共鳴映像法(MRI)によって裏付けられた。
全ての臨床材料の試験および使用は、個別の機関内倫理委員会より承認を受けた。
半定量的RT-PCR
製造元のプロトコールにしたがってTrizol試薬(Life Technologies)を用い、総RNAを培養細胞から抽出した。抽出したRNAをDNase I(Nippon Gene)で処理し、オリゴ(dT)プライマーおよびSuperScript IIを用いて逆転写した。半定量的RT-PCR実験は、合成した以下のKIF4A特異的プライマー、ZNF549特異的プライマー、ZNF553特異的プライマーを用いるかまたは内部対照としてβ-アクチン(ACTB)特異的プライマーを用いて行った:
KIF4A、 5’-CAAAAACCAGCTTCTTCTCTGG-3’(SEQ ID NO: 1)および
5’-CAGGAAAGATCACAACCTCATTC-3’(SEQ ID NO: 2);
ZNF549、 5’-GCCCAGTTAATGGGTTTTGA-3’(SEQ ID NO: 3)および
5’-CACGCCTGGCTAATTTTTGT-3’(SEQ ID NO: 4);
ZNF553、 5’-GAGGGAGAAGGAAGGGAAGA-3’(SEQ ID NO: 5)および
5’-AATGCCTACTGTGTGCTAGGC-3’(SEQ ID NO: 6);
MAPJD、 5’-AGGAGAAGTTGGAGGTGGAAA-3’(SEQ ID NO: 7)および
5’-CAGATGAAAGATCCAAATTCCAA-3’(SEQ ID NO: 8);
SBNO1、 5’-CTGACAGTGCATGTCTTTGG-3’(SEQ ID NO: 9)および
5’-TTCTGCAGCACACATTAGGA-3’(SEQ ID NO: 10);
TGFBRAP1(トランスフォーミング増殖因子、β受容体関連タンパク質1)、
5’-AGAGTATCACACCCACTTAGCTG-3’(SEQ ID NO: 11)および
5’-GACAGGTGAACTCTTGTATGTTTCTG-3’(SEQ ID NO: 12);
RIOK1(RIOキナーゼ1(酵母))、
5’-GAAGACAGCCAAGACGAAAA-3’(SEQ ID NO: 13)および
5’-TCCTCTGTCAACACCAGACA-3’(SEQ ID NO: 14);
RASGEF1A(RasGEFドメインファミリーメンバー1A)、
5’-TTTCCCATGTCTGACTTCGT-3’(SEQ ID NO: 15)および
5’-CAATGTCTTCAGGCTCTTCC-3’(SEQ ID NO: 16);
FGFR1OP、5’-CTGCTGGTACGTGTGATCTTTG-3’(SEQ ID NO: 17)および
5’-ACCTTAATGGTCTAACAAACCTTCC-3’(SEQ ID NO: 18);
NPTX1、 5’-TAACCTTGATAGAAGAACCTTGG-3’(SEQ ID NO: 19)および
5’-GCAAATGAGACAAAATTGGGAC-3’(SEQ ID NO: 20);
ACTB、 5’-GAGGTGATAGCATTGCTTTCG-3’(SEQ ID NO: 21)および
5’-CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC-3’(SEQ ID NO: 22)。
PCR反応をサイクル数について最適化し、産物の強度が対数増幅期にあることを確実にした。
RT-PCRによる融合転写物の検出
23種のヒト肺癌細胞株について、既報のように(Popovici C, et al. Blood 1999;93:1381-9)、FGFR1-FGFR1OP融合転写物を検出した。野生型FGFR1OPおよびFGFR1をそれぞれ、
FGFR1OP特異的センス5’-CATTCTCCACCAAAGTCACCA-3’(SEQ ID NO: 23)プライマーおよびFGFR1OP特異的アンチセンス5’-CCCGCTTGTCTTCTTCT-3’(SEQ ID NO: 24)プライマー(PCR産物のサイズは101 bp)、
FGFR1特異的センス5’-ATCATCTATTGCACAGGGGCC-3’(SEQ ID NO: 25)プライマーおよびFGFR1特異的アンチセンス5’-CATACTCAGAGACCCCTGCTAGC-3’(SEQ ID NO: 26)プライマー(PCR産物のサイズは258 bp)
を用いて増幅した。FGFR1OP-FGFR1融合転写物は、FGFR1OP特異的センスプライマーおよびFGFR1特異的アンチセンスプライマーを用いて増幅した(PCR産物のサイズは162 bp)。FGFR1-FGFR1OP融合転写物は、FGFR1特異的センスプライマーおよびFGFR1OP特異的アンチセンスプライマーを用いて増幅した(PCR産物のサイズは197 bp)。
ノーザンブロット分析
ヒトマルチティッシュブロット(心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、末梢血白血球、胃、甲状腺、脊髄、リンパ節、気管、副腎、および骨髄を含む23種の正常組織;BD Biosciences Clontech)をKIF4A、MAPJD、NPTX1、およびFGFROP1の32P標識PCR産物とハイブリダイズさせた。上記のプライマーを用いるRT-PCRによりKIF4AまたはNPTX1のcDNAプローブを調製し、以下のプライマーを用いるRT-PCRによりMAPJDまたはFGFR1OPの部分長cDNAを調製した:
MAPJDについては、
5’-CTGGAAACAAGGCAGTAGTGATT-3’(SEQ ID NO: 27)および
5’-GTACACTGAAGCCTGAAGGTGAT-3’(SEQ ID NO: 28);
FGFR1OPについては、
5’-TAATAGTACCAGCCATCGCTCAG-3’(SEQ ID NO: 94)および
5’-ATCCTACGGCTTTATTGACACCT-3’(SEQ ID NO: 95)。
プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、供給元の推奨にしたがって行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感BASスクリーン(BIO-RAD)を用いて室温で30時間行った。
抗体の調製
MAPJDの検出のため、MAPJDに特異的なウサギ抗体を、組換えヒトMAPJDタンパク質でウサギを免疫することによって作製し、標準的なプロトコールを用いて精製した。
FGFR1OPの検出のため、FGFR1OPの細胞外部分に特異的なウサギ抗体を、6-ヒスチジン融合ヒトFGFR1OPタンパク質(コドン番号7〜173(SEQ ID NO: 98);GenBankアクセッション番号NM_007045)でウサギを免疫することによって作製し、6-ヒスチジン融合タンパク質を結合させたアフィニティーカラム(Affi-gel 10;Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いる標準的なプロトコールにより精製した。ウエスタンブロットにて、本発明者らはNSCLCの組織および細胞株ならびに正常肺組織に由来する溶解物を用い、抗体がFGFR1OPに特異的であることを確認した。
NPTX1の検出のため、NPTX1に特異的なウサギ抗体(BB017)を、GST融合ヒトNPTX1タンパク質(コドン番号20〜145(SEQ ID NO: 99)および297〜430(SEQ ID NO: 100))でウサギを免疫することによって作製し、標準的なプロトコールにより精製した。ヒトNPTX1に特異的なマウスモノクローナル抗体(mAb-75-1)は、ヒトNPTX1タンパク質を発現するプラスミドでマウス皮膚細胞をトランスフェクションするため遺伝子銃を用いるDNA免疫法によって作製した。ウエスタンブロットにて、NSCLC組織および正常肺組織に由来する溶解物を用い、これらの抗体がNPTX1に特異的であることが確認された。
ウエスタンブロッティング
細胞を、溶解用緩衝液(50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、150 mM NaCl, 0.5% NP-40、0.5%デオキシコール酸Na、0.1% SDS+プロテアーゼ阻害剤(Protease Inhibitor Cocktail Set III;Calbiochem Darmstadt))中で溶解させた。本発明者らは、既述のように(Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46;Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005;65(16):7102-10)、ECLウエスタンブロッティング分析システム(GE Healthcare Bio-sciences)を用いた。
KIF4Aの検出のため、市販のヤギ抗KIF4Aポリクローナル抗体をabcam Inc.(カタログ番号ab3815)から購入し、肺癌細胞株の溶解物を用いたウエスタンブロット分析によりこれがヒトKIF4Aに特異的であることを証明した(図1B参照)。
MAPJDの検出のため、ブロットを、ウサギ抗MAPJDポリクローナル抗体、抗myc抗体(9E10;Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、および抗Flag抗体(M2;Santa Cruz Biotechnology, Inc.)とともにインキュベーションした。ヒツジ抗マウスIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)抗体(GE Healthcare Bio-sciences)またはヤギ抗ウサギIgG-HRP抗体(GE Healthcare Bio-sciences)を実験用の二次抗体とした。
NPTX1の検出のため、ブロットを、マウス抗ヒトNPTX1モノクローナル抗体(mAb-75-1)とともにインキュベーションした。ヤギ抗マウスIgG-HRP抗体(Amersham Biosciences)をこれらの実験用の二次抗体とした。
検出のため、ブロットを、ウサギ抗FGFR1OPポリクローナル抗体、ウサギWRNIP1ポリクローナル抗体(abcam)、ウサギABL1ポリクローナル抗体(Santa Cruz)、マウスβ-アクチン(ACTB)モノクローナル抗体(SIGMA)、またはマウス抗c-Mycモノクローナル抗体(Santa Cruz)とともにインキュベーションした。西洋ワサビペルオキシダーゼに結合された二次抗体(GE Healthcare Bio-sciences)を用いて、抗原-抗体複合体を検出した。既述のように(Kato T, et al. 前記;Suzuki C, et al. 前記)、タンパク質のバンドをECL Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare Bio-sciences)によって可視化した。
免疫細胞化学
培養細胞をPBS(-)で二回洗浄し、37℃で30分間4%ホルムアルデヒド溶液中で固定し、0.1% Triton X-100含有PBS(-)による3分間の処理によって透過性にした。一次抗体反応の前に非特異的結合を防止するため細胞をCAS-BLOCK(ZYMED)で7分間覆った。その後、細胞を、ヒトKIF4Aタンパク質に対するポリクローナル抗体(abcam)、ヒトMAPJDに対するウサギ抗体、マウス抗ヒトNPTX1モノクローナル抗体(mAb-75-1)、ウサギ抗FGFR1OPポリクローナル抗体、ウサギ抗WRNIP1ポリクローナル抗体(abcam)、ウサギABL1ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)、またはウサギ抗α-チューブリン(TUBA)ポリクローナル抗体(SIGMA)とともにインキュベーションした。
免疫複合体を、Alexa488に結合させたロバ抗ヤギ二次抗体(Molecular Probes)、FITCに結合させたヤギ抗ウサギ二次抗体(Cappel, Durham, NC)もしくはローダミンに結合させたヤギ抗ウサギ二次抗体(Cappel)、Alexa Fluor 488に結合させた抗マウス二次抗体(Molecular Probes)、またはAlexa Fluor 594に結合させた抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes)でそれぞれ染色し、レーザー共焦点顕微鏡(TCS SP2 AOBS:Leica Microsystems)で観察した。DNAを4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色した。488 nm、594 nmの波長で共焦点顕微鏡(TCS SP2 AOBS:Leica Microsystems)を用いて画像を観察し、評価した。
免疫組織化学および組織マイクロアレイ分析
臨床的肺癌におけるKIF4A、MAPJD、NPTX1、またはFGFROP1の過剰発現の有意性を調べるため、本発明者らは、ENVISION+ Kit/HRP(DakoCytomation, Glostrup, Denmark)を用いて組織切片を染色した。内因性のペルオキシダーゼおよびタンパク質のブロッキング後に抗KIF4A抗体(abcam)、ヒトMAPJDに対するウサギ抗体、マウス抗ヒトNPTX1モノクローナル抗体(mAb-75-1)、またはウサギ抗ヒトFGFR1OPポリクローナル抗体を加え、各切片を、二次抗体としてのHRP標識抗ヤギIgG、HRP標識抗ウサギIgG、またはHRP標識抗マウスIgGとともにインキュベーションした。基質-色素原を加え、検体をヘマトキシリンで対比染色した。ホルマリン固定したNSCLCを用いて、以前に公開されたように腫瘍組織マイクロアレイを構築した(Chin SF, et al. Mol Pathol 2003;56(5): 275-9, Callagy G, et al. Diagn. Mol. Pathol 2003;12(1): 27-34, J Pathol 2005;205:388-96)。サンプリングのための組織領域は、スライドガラス上の対応するHE染色切片との視覚的な整合に基づいて選択した。ドナーの腫瘍塊から採取した3つ、4つ、または5つの組織コア(直径0.6 mm;高さ3〜4 mm)を、組織マイクロアレイヤ(Beecher Instruments)を用いてレシピエントパラフィンブロック中に配置した。正常組織のコアを各症例から打ち抜いた。得られたマイクロアレイブロックの5μm切片を免疫組織化学的分析に用いた。
臨床病理学的データに関する予備的知識のない無関係の研究者3名によってKIF4Aの染色パターンを半定量的に評価した。各研究者は染色強度を、なし(スコア0)または陽性(1+)と記録した。検査者全員が陽性と定義した場合にのみ、肺癌を陽性と記録した。
臨床経過観察データに関する予備的知識のない無関係の研究者3名によってMAPJDの染色パターンを半定量的に、なしまたは陽性と評価した。核がMAPJD染色された腫瘍細胞が20%を下回る症例は、MAPJD陰性と判断した。検査者が別々に陽性と定義した場合にのみ、症例を陽性と確定した。
臨床病理学的データに関する予備的知識のない無関係の研究者3名によってNPTX1の染色パターンを半定量的に評価した。NPTX1染色の強度を、以下の基準によって評価した:臨床病理学的データに関する予備的知識を伴わず、なし(スコア0)、弱陽性(スコア1)、または強陽性(スコア2)。
臨床病理学的データに関する予備的知識のない無関係の研究者3名によってFGFR1OPの染色パターンを半定量的に評価した。FGFR1OP染色の強度を、以下の基準によって評価した:強陽性(2+)、腫瘍細胞の50%超における、細胞質を完全に覆い隠す暗褐色の染色;弱陽性(1+)、腫瘍細胞の細胞質において感知できる弱い程度の褐色の染色;なし(スコア0)、腫瘍細胞における染色が感知できない。検査者が別々に強陽性と定義した場合にのみ、症例を強陽性と確定した。
統計学的解析
統計学的解析は、StatView統計プログラムを用いて実施した(SaS, Cary, NC, USA)。本発明者らは分割表を用いて、NSCLC患者におけるKIF4A、NPTX1、またはFGFROP1の発現と臨床病理学的変数の関係を解析した。腫瘍特異的生存曲線は、手術の実施日からNSCLCに関連した死亡時まで、または最後の追跡観察まで算出した。カプラン・マイヤー曲線を、それぞれの関連変数およびKIF4A、NPTX1、またはFGFR1OPの発現について算出した。患者サブグループ内での生存期間の差を、対数順位検定を用いて解析した。Coxの比例ハザード回帰モデルを用いて単変量解析および多変量解析を実施し、臨床病理学的変数と癌関連死亡率との関連性を判定した。本発明者らはまず、死亡と、年齢、性別、組織型、pT分類、およびpN分類などの考えられる予後因子との関連性を、一度に一因子を考慮して解析した。次に、後退(段階)法に多変量Cox解析を適用し、P値0.05未満のエントリレベル(entry level)を満たした任意かつ全ての変数と一緒に、KIF4A、NPTX1、またはFGFROP1の発現を常にモデルに強制投入した。モデルに因子を追加し続けため、独立因子はP < 0.05のイグジットレベル(exit level)を超えなかった。
ELISA
ELISAプレート(Nunc Maxisorp Bioscience, Inc., Naperville, IL)を室温で2時間、4μg/mlのマウス抗NPTX1抗体(mAb-75-1)100μl/ウェルとともにインキュベーションし、室温にて0.05% Tween含有PBS(PBST)中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)の中で3回洗浄を行った。PBS中の5%BSAで2時間4℃で一晩ブロッキングした後に、プレートを3回洗浄した。プレートをさらに、PBS中の1%BSA(試薬希釈液)により希釈した血清(5倍希釈)100μl/ウェルとともに4℃で一晩インキュベーションした。プレートを次に、ビオチン標識用キット-NH2(Dojindo Labolatories, Kumamoto, Japan)0.01μg/mlによってビオチン化された、ビオチン結合ウサギ抗NPTX1ポリクローナル抗体(BB017)とともに、室温で2時間インキュベーションし、その後にPBST中で3回洗浄を行った。ウェルをストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(SAv-HRP)結合体により室温で20分間反応(develop)させた。3回の洗浄後、1ウェルあたり100μlの着色液をウェルに加え、室温で20分間放置した。2N硫酸100μlを加えることによって反応を停止させた。波長450 nmの光度計により、参照波長570 nmとして着色強度を決定した。
SCLC患者の胸水より精製された標準NPTX1タンパク質を各プレートに加えた。次式によりインデックス値を定義した:インデックス値=[(OD試料−ODNC)/(ODPC−ODNC)]×100。陰性対照によって系の非特異的なバックグラウンドノイズが明らかになり、これをプレートでの全ての数値から差し引いた。proGRPまたはCEAの血清中レベルを、上記と同じプロトコールにしたがい、市販の酵素試験キットを用いてELISAにより測定した。腫瘍群と健常対照群との間のNPTX1およびproGRP/CEAのレベルの違いを、マン・ホイットニーU検定により解析した。NPTX1およびproGRP/CEAのレベルを受診者動作特性曲線解析によりさらに評価して、最適な診断精度および尤度比のカットオフレベルを判定した。これらの二つのマーカーの相関係数をピアソン相関係数により算出した。有意性はP < 0.05と定義した。
RNA干渉アッセイ法
本発明者らは以前に、哺乳類細胞中でsiRNAを合成するよう設計された、ベクターに基づくRMA干渉(RNAi)系であるpsiH1BX3.0を確立した(Suzuki C et al, Cancer Res 2003;63:7038-41, Cancer Res. 2005;65, 11314-25;Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46, Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005;65(16):7102-10)。Lipofectamine 2000(Invitrogen)30μlを用いて、siRNA発現ベクター10μgで、肺癌細胞株、つまり(MAPJDおよびNPTX1については)A549、(MAPJD、およびFGFROP1については)LC319(NSCLC細胞株);(KIF4A、NPTX1、およびFGFROP1については)SBC-5(SCLC細胞株)をトランスフェクションした。
トランスフェクションした細胞を適切な濃度のジェネティシン(G418)の存在下で7日間培養し、コロニーの数をギムザ染色によって計数し、処理後7日目の時点でMTTアッセイ法によって細胞生存率を評価した。簡単に言えば、セルカウンティングキット-8溶液(DOJINDO)を1/10容量の濃度で各ディッシュに加え、プレートを37℃でさらに2時間インキュベーションした。その後、マイクロプレートリーダー550(BIO-RAD)を用いて、490 nmで、および参照として630 nmで吸光度を測定した。KIF4A、MAPJD、NPTX1、またはFGFROP1のmRNA発現の抑制を確認するため、合成した以下のKIF4A特異的プライマー、MAPJD特異的プライマー、NPTX1特異的プライマー、またはFGFROP1特異的プライマーを用い、標準的なプロトコールにしたがって半定量的RT-PCR実験を行った。
RNAiの合成オリゴヌクレオチドの標的配列は以下の通りである:
対照1(ルシフェラーゼ/LUC:フォチナス・ピラリス(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ遺伝子)、5’-CGTACGCGGAATACTTCGA-3’ (SEQ ID NO: 29);
対照2(スクランブル/SCR:5Sおよび16S rRNAをコードするユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)葉緑体遺伝子)、5’-GCGCGCTTTGTAGGATTCG-3’ (SEQ ID NO: 30);
(EGFP:高感度緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、オワンクラゲ(Aequorea victoria)GFPの変異体)、5’-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3’ (SEQ ID NO: 31);
siRNA-KIF4A-#1、5’-GGAAGAATTGGTTCTTGAA-3’ (SEQ ID NO: 32);
siRNA-KIF4A-#2、5’-GATGTGGCTCAACTCAAAG-3’ (SEQ ID NO: 33);
siRNA-MAPJD-1 (si-MAPJD-1)、5’-GCAGCTGCGAAGTGTTGTA-3’ (SEQ ID NO: 34);
siRNA-MAPJD-2 (si-MAPJD-2)、5’-GATACGAAAGCAGCTGCGA-3’ (SEQ ID NO: 35);
NPTX1 siRNA-2 (NPTX1 si-2)、5’-GGTGAAGAAGAGCCTGCCA-3’ (SEQ ID NO: 36);
siRNA-FGFR1OP-1 (si-1)、5’-CCTGAAACTAGCACACTGC-3’ (SEQ ID NO: 37);
WRNIP1-si#1、5’-CUAGGAAGAUGUUCUGUAAUU-3’ (SEQ ID NO: 96) (Dermaconカタログ番号D-010072-02);
WRNIP1-si#2、5’-CCACUAGGCUGAUGAAGGAUU-3’ (SEQ ID NO: 97) (Darmaconカタログ番号D-010072-03)。
RNAiシステムを実証するため、個々の対照siRNAを半定量的RT-PCRによって試験し、COS-7細胞に一過的にトランスフェクトした対応標的遺伝子の発現の低下を確認した。また、このアッセイに用いた細胞株において、対照ではなく機能的siRNAによるFGFR1OP発現の下方制御が確認された。
フローサイトメトリー
細胞を5×105細胞/100mmディッシュの密度でプレーティングし、siRNA発現ベクターでトランスフェクトして、適切な濃度のジェネテシンの存在下で培養した。トランスフェクション5日後、細胞をトリプシン処理し、PBS中に収集して、70%冷エタノール中で30分間固定した。100μg/ml RNase(Sigma-Aldrich Co., St. Louis, MO)で処置した後、細胞をPBS中50μg/mlヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich Co.)で染色した。フローサイトメトリーをBecton Dickinson FACScanで行い、ModFitソフトウェア(Verity Software House, Inc., Topsham, ME)によって解析した。少なくとも20,000個の非ゲート化(ungated)細胞から選択した細胞をDNA含量について解析した。また、製造元のプロトコールに従い、Annexin V結合アッセイ用のAnnexin V-FITC Apoptosis Detection Kit(Bio Vision, Inc., Mountain View, CA)を用いて、細胞を調製した。
KIF4A、MAPJD、またはFGFR1OPを発現するNIH3T3トランスフェクタント
KIF4Aを発現する安定的トランスフェクタントおよびMAPJDを発現する安定的トランスフェクタントを、標準的なプロトコールにしたがって樹立した。KIF4A、MAPJD、またはFGFR1OPのコード領域全体をRT-PCRによって増幅した。産物をpcDNA3.1-myc/His A(+)ベクター(Invitrogen)の適切な部位にクローニングし、KIF4Aタンパク質、MAPJDタンパク質、またはFGF1OPタンパク質のC末端の位置にc-myc-Hisエピトープ配列(LDEESILKQE-HHHHHH)を含めた。製造元の使用説明書にしたがってFuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を用い、本発明者らは、内因性のKIF4A、MAPJD、もしくはFGF1OPを発現しないCOS-7細胞および/またはNIH3T3細胞を、MAPJD発現プラスミド(pcDNA3.1-MAPJD-myc/His)、KIF4A発現プラスミド(pcDNA3.1-KIF4A-myc/His)、FGF1OP発現プラスミド(pCDNA3.1/myc-His-FGFR1OP)、またはモックプラスミド(pcDNA3.1)のいずれかでトランスフェクションした。トランスフェクト細胞を10% FCSおよびジェネティシン(0.4 mg/ml)を含むDMEMまたはRPMIの中で14日間培養し、その後、個別のコロニー50個をトリプシン処理し、限界希釈法によって安定的トランスフェクタントをスクリーニングした。MAPJD、KIF4A、またはFGFR1OPの発現をRT-PCR、ウエスタンブロッティングおよび免疫染色により各クローンにおいて決定した。
細胞増殖アッセイ法
MAPJD、KIF4A、またはモックを安定的に発現したNIH3T3またはCOS-7のトランスフェクタントを6ウェルプレートに播種し(細胞5×104個/ウェル)、10% FCSおよび0.4 mg/mlジェネティシンを含む適切な培地中で24、48、72、および96時間維持した。各時点で、MTTアッセイ法によって細胞増殖を評価した。実験は全て三つ組で行った。その後、マイクロプレートリーダー550(BIO-RAD)により490 nmで、および参照として630 nmで吸光度を測定した。
マトリゲル浸潤アッセイ法
FLAGタグ付KIF4Aを得るため、本発明者らは、コード配列全体をp3xFLAG-CMV-10プラスミドベクター(SIGMA)の適切な部位にクローニングした。KIF4A発現プラスミドまたはモックプラスミドのいずれかでトランスフェクションしたCOS-7細胞およびNIH3T3細胞を10% FCS含有DMEM中でコンフルエンス近くまで増殖させた。細胞をトリプシン処理によって回収し、血清もプロテイナーゼ阻害剤も添加していないDMEM中で洗浄し、DMEM中に細胞5×105個/mlで懸濁した。細胞懸濁液を調製する前に、マトリゲルマトリックス(Becton Dickinson Labware)の乾燥層を室温で2時間DMEMにより再水和させた。24ウェルマトリゲル浸潤チャンバの各下方チャンバに10% FCS含有DMEM(0.75 ml)を添加し、上方チャンバの各挿入物に細胞懸濁液0.5 ml(細胞2.5×105個)を添加した。挿入物のプレートを37℃で22時間インキュベーションした。インキュベーション後、チャンバを処理し;供給元(Becton Dickinson Labware)によって指示されたように、マトリゲルを通じて浸潤している細胞を固定し、ギムザによって染色した。
FGFR1OPを発現するプラスミド(pCDNA3.1/myc-His-FGFR1OP)またはモックプラスミドのいずれかでトランスフェクションしたCOS-7細胞を、10% FCS含有DMEM中でコンフルエンス近くまで増殖させた。細胞をトリプシン処理によって回収し、血清もプロテイナーゼ阻害剤も添加していないDMEM中で洗浄し、DMEM中に細胞1×105個/mlの濃度で懸濁した。細胞懸濁液を調製する前に、マトリゲルマトリックス(Becton Dickinson Labware)の乾燥層を室温で2時間、DMEMにより再水和させた。24ウェルマトリゲル浸潤チャンバの各下方チャンバに10% FCS含有DMEM(0.75 ml)を添加し、上方チャンバの各挿入物に細胞懸濁液0.5 ml(細胞5×104個)を添加した。挿入物のプレートを37℃で22時間インキュベーションした。インキュベーション後、チャンバを処理し;供給元(Becton Dickinson Labware)によって指示されたように、マトリゲルを通じて浸潤している細胞を固定し、ギムザによって染色した。
KIF4A関連タンパク質の同定
プロテイナーゼ阻害剤の存在下において終容量2 mlの免疫沈降用緩衝液(0.5% NP40、50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl)中、プロテインGアガロースビーズ40 μlとともに4℃で1時間インキュベーションすることによって、SCLC細胞系DMS273由来の細胞抽出物をプレクリアした。4℃で1分間10,000 rpmで遠心分離した後、上清をそれぞれヤギ抗KIF4Aポリクローナル抗体(abcam)および正常ヤギIgG(R&D)とともに、4℃で3時間インキュベーションした。その後、上清をプロテインGアガロースビーズとともに4℃で1時間インキュベーションした。ビーズを5,000 rpmで2分間の遠心分離によって各試料から回収し、免疫沈降用緩衝液1 mlで6回洗浄した後に、Laemmli試料用緩衝液30 μl中に再懸濁して5分間煮沸し、次にタンパク質を7.5% SDS-PAGEゲル(Bio-Rad)に流した。電気泳動後、ゲルを銀染色した。抗KIF4A抗体で処理した抽出物中で特異的に見られたタンパク質のバンドを切り出して、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS; AXIMA-CFR plus, SHIMADZU BIOTECH, Kyoto, Japan)による分析に用いた。
cDNAマイクロアレイによるMAPJDの下流遺伝子の同定
MAPJDに対するsiRNA(si-MAPJD-2)またはルシフェラーゼに対するsiRNA(対照siRNA)のいずれかでLC319細胞をトランスフェクションした。トランスフェクションから12、18、および24時間後にmRNAを抽出し、Cy5色素またはCy3色素で標識し、23,040種の遺伝子を含有するcDNAマイクロアレイスライド上での同時ハイブリダイゼーションに供した。データの標準化の後にカットオフレベルよりも高いシグナルを有した遺伝子を、さらに分析した。SOMクラスタ分析(Kohonen T. Proceedings of the IEEE 78, 1464-80 (1990))を用いて、MAPJD発現の低下にしたがって強度が有意に低下した遺伝子を最初に選択した。MAPJDの候補下流遺伝子の妥当性確認は、前述の遺伝子特異的プライマーを用い、マイクロアレイハイブリダイゼーションに使用したのと同じLC319細胞由来mRNAの半定量的RT-PCR実験で実施した。
レポーター遺伝子アッセイ法
各下流遺伝子の断片を以下のプライマーを用いたPCRによって増幅し、pGL3基本ベクターにクローニングした:
SBNO1については
5’-CGACGCGTCGCTCTAACCATTCATCAGCTC-3’(SEQ ID NO: 38)および
5’-CCGCTCGAGCGGACTAATTCCACTCTCAC-3’(SEQ ID NO: 39)、
TGFBRAP1については
5’-CGACGCGTCGAGACATTCTGACCATAGCACC-3’(SEQ ID NO: 40)および
5’-CCGCTCGAGCGGATCATGTCTACTGGCTGATC-3’(SEQ ID NO: 41)、
RIOK1については
5’-CGACGCGTCGTTCCTACAATGTCTTCAGTC-3’(SEQ ID NO: 42)および
5’-CCGCTCGAGCGGTTCAGAAGCCAACAGTGGC-3’(SEQ ID NO: 43)、
RASGEF1Aについては
5’-CGACGCGTCGCAAGACCTTCACCATGTGG-3’(SEQ ID NO: 44)および
5’-CCGCTCGAGCGGAGACAACGGACGTCTGCG-3’(SEQ ID NO: 45)。製造元の使用説明書にしたがってDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega, Madison, WI)を用い、ルシフェラーゼアッセイ法を実施した。
免疫沈降アッセイ法
MAPJDもしくはc-MYCを発現するプラスミド(p3xFLAG-MAPJDもしくはMYC)またはモックベクター(対照)でトランスフェクションした肺癌細胞系LC319由来の細胞抽出物を、プロテイナーゼ阻害剤の存在下において終容量2 mlの免疫沈降用緩衝液(0.5% NP-40、50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl)中、プロテインGアガロースビーズ100 μlとともに4℃で1時間インキュベーションすることによってプレクリアした。免疫沈降およびさらなるウエスタンブロッティングは、既報のように行った(Kato T, et al. Cancer Res. 2005; 65: 5638-46)。
肺癌細胞系LC319由来の細胞抽出物を、プロテイナーゼ阻害剤の存在下において終容量2 mlの免疫沈降用緩衝液(0.5% NP-40、50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl)中、プロテインGアガロースビーズ100 μlとともに4℃で1時間インキュベーションすることによってプレクリアした。4℃、1000 rpmで5分間遠心分離した後、上清を、抗FGFR1OPポリクローナル抗体または正常ウサギIgGとともに4℃で2時間インキュベーションした。その後、ビーズを5000 rpmで2分間の遠心分離によって回収し、それぞれ免疫沈降用緩衝液1 mlで6回洗浄した。洗浄したビーズをLaemmli試料用緩衝液50 μl中に再懸濁し、5分間煮沸し、タンパク質を5〜20% SDS PAGEゲル(BIO RAD)により分離した。電気泳動後、ゲルを銀染色した。抗FGFR1OPポリクローナル抗体で免疫沈降した抽出物において特異的に見られたタンパク質のバンドを切り出し、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)法(AXIMA-CFR plus, SHIMADZU BIOTECH)に用いた。
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ法
細胞を1%ホルムアルデヒド中で10分間架橋させた。固定化されたクロマチン試料を、製造元の使用説明書にしたがって、ChIPアッセイキット(UPSTATE, Charlottesville, VA)を用いる免疫沈降に供した。ChIPアッセイ法に用いたプライマーのセットは、
SBNO1については
5’-CGACGCGTCGTCTGTTCTGAGCTTCCATAC-3’(SEQ ID NO: 46)および
5’-CCGCTCGAGCGGACTAATTCCACTCTCAC-3’(SEQ ID NO: 39)、
TGFBRAP1については
5’-CGACGCGTCGGAAAGTCTCACTTCCAATGG-3’(SEQ ID NO: 47)および
5’-CCGCTCGAGCGGATCATGTCTACTGGCTGATC-3’(SEQ ID NO: 41)、
RIOK1については
5’-CGACGCGTCGATAGATGTTCCAGAGACATTC-3’(SEQ ID NO: 48)および
5’-CCGCTCGAGCGGTTCAGAAGCCAACAGTGGC-3’(SEQ ID NO: 43)、
RASGEF1Aについては
5’-CGACGCGTCGCACTGAAGTAATCATGGCAAC-3’(SEQ ID NO: 49)および
5’-CCGCTCGAGCGGAGACAACGGACGTCTGCG-3’(SEQ ID NO: 45)
である。
電気泳動移動度シフトアッセイ法(EMSA)
mycタグ付のMAPJDまたはMYCタンパク質を発現するプラスミドでトランスフェクションしたLC319細胞に由来する細胞抽出物の免疫沈降によって、MAPJDおよびMYCタンパク質を精製した。標準的なプロトコールを用いて32P標識オリゴヌクレオチドとともにMAPJDまたはMYCをインキュベーションすることにより、EMSAを実施した。二本鎖DNAプローブに対するオリゴヌクレオチドの配列は
5’-CCCGTCGCACGTGGTGGCCA-3’(SEQ ID NO: 50)および
5’-TGGCCACCACGTGCGACGGG-3’(SEQ ID NO: 51)
であった。
インビトロキナーゼアッセイ法およびインビボリン酸化
インビトロキナーゼアッセイ法については、完全長のヒト組換えHisタグ付ABL1(Invitrogen)を、c-mycタグ付FGFR1OP用の発現プラスミド(pCDNA3.1/myc-His-FGFR1OP)またはc-mycタグ付WRNIP1用の発現プラスミド(pCDNA3.1/myc-His-WRNIP1)でトランスフェクションしたCOS-7細胞由来の抗c-myc免疫沈降物とともに、キナーゼアッセイ用緩衝液(50 mM Tris、pH7.4、10 mM MgCl2、2 mMジチオスレイトール、1 mM NaF、0.2 mM ATP)中、30℃で60分間インキュベーションした。Laemmli試料用緩衝液の添加および95℃で5分間の加熱によって反応を停止した。SDS-PAGEおよびその後のウエスタンブロットまたは[γ-32P]ATP取り込み分析によってタンパク質を決定した。インビボリン酸化については、COS-7細胞を、c-mycタグ付WRNIP1用の発現プラスミドおよびFlagタグ付ABL1用の発現プラスミド(pCAGGS/Flag-ABL1)で同時トランスフェクションした。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(1 mMフッ化ナトリウム、1 mMオルトバナジン酸ナトリウム、2 mMイミダゾール、4 mM酒石酸ナトリウム)を含むRIPA緩衝液で細胞を溶解し、続いてSDS-PAGEおよびイムノブロッティングを行って、ホスホチロシンを検出した。
BrdU取り込みアッセイ法
ABL1(pCDNA3.1/myc-His-ABL1)、FGFR1OP(pCDNA3.1/myc-His-FGFR1OP)、もしくはWRNIP1(pCDNA3.1/myc-His-WRNIP1)を発現するように設計したプラスミド、またはモックプラスミド(pCDNA3.1/myc-His)でトランスフェクションした肺癌A549細胞を48時間培養した。その後、BrdU(5-ブロモデオキシウリジン)溶液を培養培地中に加え、細胞を8時間インキュベーションし、固定した;取り込まれたBrdUを、市販のキット(Cell Proliferation ELISA, BrdU; Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を用いて測定した。
結果
肺癌組織および正常組織における発現
KIF4A
大部分の肺癌において高度にトランス活性化されていた成分をスクリーニングするためのcDNAマイクロアレイを用い、本発明者らは、KIF4A遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_012310;SEQ ID NO: 52によってコードされるSEQ ID NO: 53)を優良な候補として同定した。この遺伝子は、本発明者らが試験したSCLC症例の大部分およびNSCLCの約40%で5倍またはそれ以上高い発現レベルを示した。その後本発明者らは、半定量的RT-PCR実験によりSCLC 8症例中8例ならびにNSCLC 10症例中5例(ADC 5例中2例およびSCC 5例中3例;図1A)でそのトランス活性化を確認した。本発明者らは、抗KIF4A抗体を用いたウエスタンブロットにてKIF4Aタンパク質の過剰発現を肺癌細胞系12種中10種で確認した(図1B)。プローブとしてKIF4A cDNAを用いるノーザンブロット分析により、試験した23種の正常ヒト組織のうち精巣において独占的かつ多量に見られる5.0 kbの転写物を同定した(図1C)。肺癌細胞における内因性KIF4Aの細胞内局在を決定するため、本発明者らは、抗KIF4Aポリクローナル抗体を用いて免疫細胞化学的分析を実施し;KIF4Aタンパク質はDMS273細胞の細胞質および核に局在していた(図1D)。さらに本発明者らは、抗KIF4Aポリクローナル抗体を用い免疫組織化学によって正常組織と肺癌でのKIF4Aタンパク質の発現レベルを比較した。KIF4Aは、精巣および肺癌中で多量に発現していたが、4種の正常臓器組織(肝臓、心臓、腎臓、肺)では発現していなかった(図1E)。精巣または肺癌において、KIF4Aは主に***細胞または癌細胞の細胞質および/または核の位置で染色された。
MAPJD
本発明者らは以前、cDNAマイクロアレイにて23,040種の遺伝子をスクリーニングし、分析を行ったNSCLC 37例の半分以上で、正常対照細胞におけるよりも癌細胞において5倍またはそれ以上高い発現を示す転写物を検出した。本発明者らは、上方制御された遺伝子のなかでも、C14orf169(以下に示す根拠により、JmjCドメインを含むmyc関連タンパク質MAPJD(GenBankアクセッション番号NM_024644;SEQ ID NO: 54によってコードされるSEQ ID NO: 55)と後に名付けられた)転写物を同定し、半定量的RT-PCR実験により代表的なNSCLC 11症例中9例でその過剰発現を確認した(図1A)。本発明者らはまた、本発明者らが試験した肺癌細胞系26種中25種でも高レベルのMAPJD発現を認めたが、正常気道上皮(SAECおよびBEAS2B)に由来する細胞では非常に弱いPCR産物しか検出することができなかった(図1A)。本発明者らはその後、抗MAPJD抗体を用いて免疫細胞化学的分析を実施し、肺癌細胞におけるMAPJDの細胞内局在を調べた。内因性MAPJDは核小体中で、およびびまん性に核質中で検出された(LC319の代表的なデータを図1Dに示した)。NSCLC 300例からなる組織マイクロアレイを用いた抗MAPJDポリクローナル抗体による免疫組織化学的分析によって、ADCの80%(試験した164症例中132例)、SCCの81%(105症例中85例)、大細胞癌(LCC)の62%(21症例中13例)、および細気管支肺胞上皮癌(BAC)の90%(10症例中9例)において核の陽性染色が示されたのに対し、それらの隣接する正常肺組織のいずれにおいても染色は認められなかった(図1E)。プローブとしてMAPJD cDNAを用いたノーザンブロッティングにより、試験した23種の正常ヒト組織に遍在する非常に弱い2.5 kbのバンドが同定され、同じプライマーを用いたさらなる半定量的RT-PCR実験により、試験した正常組織(心臓、肝臓、肺、骨髄、精巣、卵巣、および胎盤;データは示さず)よりもずっと多量に、肺癌細胞でMAPJD転写物が検出された。
NPTX1
NSCLCに対する治療剤および/または診断マーカーの開発のための新規の標的分子を探索するため、本発明者らはまず、正常細胞におけるよりも癌細胞において5倍を超える高い発現レベルを示した遺伝子を、cDNAマイクロアレイにより分析した特定の組織型の肺癌試料の半分またはそれ以上においてスクリーニングした(Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205)。本発明者らは、スクリーニングした27,648種の遺伝子のなかでも、正常肺細胞(対照)におけるよりも癌細胞において5倍またはそれ以上高い発現を示すNPTX1転写物(GenBankアクセッション番号NM_002522、SEQ ID NO: 56によってコードされるSEQ ID NO: 57)を、試験した肺ADC試料の68%およびSCLCの80%において同定し、半定量的RT-PCR実験によって、さらなる肺癌組織15例中7例および肺癌細胞系23種中17種でそのトランス活性化を確認した(図1A)。本発明者らは免疫蛍光分析を実施して、肺癌細胞系A549およびSBC-5における内因性NPTX1の細胞内局在を調べた。NPTX1は腫瘍細胞の細胞質で顆粒状を呈して検出された(図1D)。NPTX1は分泌されていると考えられるので(Schlimgen AK, et al. Neuron. 1995 Mar;14(3):519-26)、本発明者らはELISA法を適用して、肺癌細胞系の培養培地中でのその存在について調べた。高レベルのNPTX1タンパク質が、NPTX1発現ベクターで一過性トランスフェクションしたCOS-7細胞、および、A549細胞培養物の培地中で検出されたが、SBC-5細胞の培地中では検出されなかった(図1D)。培養培地中の検出可能なNPTX1の量は、RT-PCRで検出したNPTX1の発現レベルと十分に一致した。プローブとしてヒトcDNAを用いたノーザンブロット分析により、脳および副腎において高発現される5.1 kbの転写物を検出したが;肺、心臓、肝臓、および腎臓を含む、その他いずれの重要臓器においても発現は認められなかった(図1C)。本発明者らはまた、4種の正常組織(肝臓、心臓、腎臓、および肺)ならびにSCLC組織について抗NPTX1抗体を用いてNPTX1タンパク質の発現を調べ、肺腫瘍組織ではNPTX1陽性染色が見られるのに対し、試験した4種の正常組織ではNPTX1がほとんど検出不能であることを見出した(図1E)。
FGFR1OP
NSCLCに対する治療剤および/または診断マーカーの開発のための新規の標的分子を探索するため、本発明者らはまず、正常細胞におけるよりも癌細胞において5倍を超える高い発現レベルを示した遺伝子を、cDNAマイクロアレイにより分析した肺癌の半分またはそれ以上においてスクリーニングした(Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205)。次に本発明者らは、NSCLCにおける発現プロファイルデータを、本発明者らのグループが以前に入手した31種の正常ヒト組織(成人臓器27例および胎児臓器4例)における発現プロファイルデータ(Ochi K, et al. J Hum Genet 2003;48:177-82; Saito-Hisaminato A, et al. DNA Res 2002;9:35-45)と比較して、NSCLC中で特異的に発現されるが正常組織では高発現されない、治療標的としての候補遺伝子を選抜した。本発明者らは、正常肺細胞(対照)におけるよりも癌細胞において5倍またはそれ以上高い発現を示すFGFR1OP転写物(GenBankアクセッション番号NM_007045、SEQ ID NO: 58によってコードされるSEQ ID NO: 59)を、試験したNSCLC試料の84%で見出し、そのトランス活性化を半定量的RT-PCR実験によってさらなる肺癌組織14例中9例で確認した。さらに本発明者らは、肺癌細胞系(NSCLCおよびSCLC試料)19種中17種においてFGFR1OPの上方制御を認めた(図1A)。プローブとしてFGFR1OP cDNA断片を用いたノーザンブロット分析により、試験した23種の正常ヒト組織のうち精巣において高度かつ独占的に発現される約1.8 kbの転写物を同定した(図1C)。ブレークポイントを越えたキメラ転写物の発現を予測して、本発明者らはまた、既報(Popovici C, et al. Blood 1999;93:1381-9; Guasch G, et al. Mol Cell Biol 2001;21:8129-42, Blood 2004;103:309-12)のFGFR1OPおよびFGFR1に特異的なプライマーを用い、種々の肺癌細胞株においてRT-PCR分析を実施した。FGFR1OP転写物およびFGFR1転写物のどちらも、試験した全ての肺癌細胞株において検出されたが、FGFR1OP-FGFR1およびFGFR1-FGFR1OPの相互転写物は全く検出されなかった(データは示さず)。本発明者らは続いて、ヒトFGFR1OPに特異的なウサギポリクローナル抗体を作製し、FGFR1OP転写物が高レベルで検出された9種の肺癌細胞株および肺癌組織におけるFGFR1OPタンパク質の発現を、ウエスタンブロット分析により確認した(図1B)。本発明者らは免疫蛍光分析を実施して、肺癌細胞株NCI-H520、SBC5、およびLC319における内因性FGFR1OPの細胞内局在を調べ、FGFR1OPが顆粒状を呈して腫瘍細胞の細胞質および/または核、ならびに中心体に位置することを見出した(図1D)。細胞周期停止から解除された後の様々な時点でのフローサイトメトリー分析および免疫蛍光分析のために、アフィジコリンによって同調させたLC319細胞を回収した。アフィジコリンの除去前(0時間)には、FGFR1OPは核および細胞質中に顆粒状を呈して観察された。ほとんどの細胞がS期にあった解除後1.5時間の時点で、FGFR1OPは核および細胞質ならびに中心体において染色された。興味深いことに、細胞がG2/M期に入り始めた4時間後の時点で、FGFR1OPは主に核周囲および核において検出された。ほとんどの細胞がG2/M期にあった9時間の時点で、FGFR1OPは主に中心体および細胞質に局在していた(図1D)。FGFR1OPタンパク質レベルは、ウエスタンブロット分析によって検出したとおり、細胞周期の進行中には変化しなかった(データは示さず)。次に本発明者らは、5種の正常組織(心臓、肝臓、肺、腎臓、および精巣)ならびにNSCLC組織について抗FGFR1OP抗体によりFGFR1OPタンパク質の発現を調べ、原発性肺癌および精巣の細胞質および/または核においてのみ陽性染色が認められることを見出した(図1E)。
過剰発現と予後不良との関連
KIF4A
本発明者らはNSCLC 357例およびSCLC 29例から調製した組織マイクロアレイを用いて、抗KIF4Aポリクローナル抗体による免疫組織化学的分析を実施し、NSCLC症例中127例(36%)およびSCLC症例の66%(19/29)に陽性染色を認めたが(図2A)、試験した全ての正常肺組織では染色が認められなかった。これらのKIF4A陽性NSCLC症例中、68例はADC(223症例中30%)、37例はSCC(94症例中39%)、14例はLCC(27症例中52%)、8例は腺扁平上皮癌(ASC;13症例中62%)であった。
次に本発明者らは、外科的処置を受けたNSCLCにおけるこのタンパク質の発現とさまざまな臨床病理学的変数の相関を試みた。同一プロトコールによって処置したSCLCは試料サイズが小さすぎたため、それ以上の評価はできなかった。統計学的解析では、性別(男性においてより高い;カイ二乗検定によりP = 0.0287)および組織構造(非ADCにおいてより高い;カイ二乗検定によりP = 0.0097)が、KIF4A 陽性と有意に関連していることが明らかになった(詳細を表2に示す)。
カプラン・マイヤー法により、NSCLCにおける陽性染色と生存率との間に有意な関連性が示された(対数順位検定によりP = 0.0005;図2B)。単変量解析により、組織構造(ADC vs 非ADC)、pT(T1 vs T2〜4)、pN(N0 vs N1〜2)、年齢(≦65 vs > 65)、性別(女性 vs 男性)、およびKIF4A発現(なし vs 陽性)はすべて、NSCLC患者における腫瘍特異的生存率の低さと有意に関連していた(表3)。さらに、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析により、pTステージ、pNステージ、年齢、およびKIF4A染色はNSCLCの独立予後因子であることが示された(表3)。
ADC=腺癌
非ADC=扁平上皮癌+大細胞癌+腺扁平上皮癌
NS=有意でない
NPTX1
本発明者らはまた、NPTX1の生物学的および臨床病理的な有意性を確認するために、外科的切除を受けた任意抽出の患者374例の原発性肺癌組織を含む組織マイクロアレイによって、NPTX1タンパク質の発現を調べた。NPTX1は腫瘍細胞の原形質膜および細胞質に局在化したが、周囲の正常組織においてほとんど検出できなかった(図2C)。試験したADC 238例中93例(39.1%)、SCC 95例中26例(27.4%)、LCC 28例中12例(42.9%)、ASC 13例中8例(61.5%)、およびSCLC 13例中9例(69.2%)に陽性染色が認められたが、同一組織の正常部分でのいずれにおいても染色は認められなかった。次に本発明者らは、外科的に切除したNSCLCにおけるNPTX1の状態と臨床病理学的変数との関連性を評価した。本試験では、pT分類(pT2〜4 vs pT1;フィッシャーの直接確率検定によりP < 0.0001)およびpN分類(pN1〜2 vs pN0;フィッシャーの直接確率検定によりP = 0.0040)は、NPTX1の状態と有意に関連していた(表4)。
NPTX1染色がない/弱い(スコア0、1+)患者の生存期間中央値は、NPTX1染色が強い(スコア2+)NSCLC患者に比べ有意に長かった(対数順位検定によりP < 0.0001;図2D)。本発明者らはまた単変量解析を用いて、患者の予後と、年齢(65 ≧ vs <65)、性別(男性 vs 女性)、組織学的分類(非ADC vs ADC)、pT分類(pT2〜4 vs pT1)、pN分類(pN1〜2 vs pN0)、およびNPTX1の状態(スコア2+ vs スコア0、1+)を含むその他の因子との関連性を評価した(表5)。それらのパラメータの中では、強いNPTX1陽性(P < 0.0001)、男性であること(P = 0.0010)、非腺癌組織型(P = 0.0081)、pTステージの進行(P < 0.0001)、およびpNステージの進行(P < 0.0001)は、予後不良に有意に関連していた。予後因子の多変量解析では、NPTX1の強発現(P < 0.0001)に加えてpT因子(P = 0.0008)およびpN因子(P < 0.0001)も、有意かつ独立した好ましくない予後因子であった(表5)。
ADC=腺癌;SCC=扁平上皮癌
その他=大細胞癌(LCC)+腺扁平上皮癌(ASC)
*ADC vs 非ADC
**P < 0.05(フィッシャーの直接確率検定)
NS=有意でない
1 ADC=腺癌
*P < 0.05
NS=有意でない
FGFR1OP
本発明者らはまた、FGFR1OPの生物学的および臨床病理的な有意性を確認するために、根治的切除術を受けた患者由来の原発性肺癌組織を含む組織マイクロアレイによって、FGFR1OPタンパク質の発現を調べた(図2E)。試験したADC 263例中229例(87%)、SCC 115例中114例(99%)、LCC 28例中24例(86%)、およびASC 13例中12例(92%)に陽性染色(スコア2+、1+)が認められたが、同一組織の正常部分のいずれにおいても染色は認められなかった。本発明者らは、組織アレイ上のFGFR1OPの発現パターンを、なし(スコア0)から弱/強陽性(スコア1+〜2+)まで分類した。試験したADC 263例中127例(49%)、SCC 115例中62例(54%)、LCC 28例中12例(43%)、およびASC 13例中10例(77%)に、強いFGFR1OP発現(スコア2+)が認められた。
次に本発明者らは、外科的に切除した肺癌におけるFGFR1OPの状態と臨床病理学的変数との関連性を評価し、リンパ節転移がFGFR1OPの状態と有意に関連していることを見出した(pN1〜2 vs pN0;フィッシャーの直接確率検定によりP = 0.0048)(表6)。
NSCLC患者において、FGFR1OP染色がない/弱い(スコア0、1+)患者の生存期間中央値は、FGFR1OP染色が中等度/強い(スコア2+)患者に比べ有意に長かった(対数順位検定によりP < 0.0001;図2F)。本発明者らはまた単変量解析を用いて、患者の予後と、以下を含むその他の因子との関連性を評価した(表7):
年齢(65 ≧ vs <65)、
性別(男性 vs 女性)、
組織学的分類(その他の組織型 vs 腺癌)、
pT分類(pT3+4 vs pT1+2)とpN分類(pN1-2 vs pN0)、
喫煙歴(現喫煙者および前喫煙者vs喫煙未経験者)、および
FGFR1OPの状態(スコア2+ vs スコア0、1+)。
それらのパラメータの中で、FGFR1OPの強発現(P < 0.0001)、高齢(P = 0.0018)、男性であること(P = 0.0021)、非腺癌組織型(P = 0.011)、pTステージの進行(P < 0.0001)、およびpNステージの進行(P < 0.0001)は、予後不良に有意に関連していた。予後因子の多変量解析では、FGFR1OPの強発現に加えて、高齢(P < 0.0001)、pTステージの進行(P = 0.001)、およびpNステージの進行(P < 0.0001)も、有意かつ独立した、あまりよくない予後の因子であった(表7)。
ADC=腺癌;SCC=扁平上皮癌
その他=大細胞癌(LCC)+腺扁平上皮癌(ASC)
*ADC vs 非ADC(SCCおよびその他)
**P < 0.05(フィッシャーの直接確率検定)
NS=有意でない
肺癌患者におけるNPTX1の血清中レベル
インビトロでの知見から新規の肺癌腫瘍マーカー開発の可能性が示唆されていたので、本発明者らは、肺癌を有する患者の血清中にNPTX1が分泌されているかどうかを調べた。ELISA実験によって、肺癌患者由来の、および同じく健常者由来の血清学的試料中でNPTX1が検出され;肺癌患者における血清中NPTX1レベルは135.0 ± 104.0 U/ml(平均±1SD)であり、健常者におけるレベルは67.9 ± 48.6 U/mlであった(差異は、マン・ホイットニーU検定によりP値 < 0.001で有意であった;図3)。組織型にしたがって分類した場合、NPTX1の血清中レベルは、肺ADC患者において142.1 ± 85.8 U/ml、肺SCC患者において113.1 ± 92.5 U/ml、およびSCLC患者において138.0 ± 131.9 U/mlであり;3つの組織型の間の差異は有意でなかった。
腫瘍マーカーとしてのNPTX1とproGRP/CEAとの併用
血清中NPTX1レベルを腫瘍検出バイオマーカーとして用いることが実現可能かどうか評価するために、本発明者らはまた、NSCLC患者ではCEAおよびSCLC患者ではproGRPの血清中レベルを、つまり、これらの組織型の肺癌に対する2つの従来型の腫瘍マーカーを、同一の患者および対照においてELISAにより測定した。ROC解析により決定した本アッセイ法でのカットオフレベルは、NPTX1、CEA、およびproGRPに対する最適な診断精度および尤度比をもたらすように、すなわち、NPTX1については140 U/ml(NSCLCの感度37%およびSCLCの感度38.5%、ならびに特異度93.3%)、CEAについては2.5 ng/ml(NSCLCの感度41%および特異度93.3%)、およびproGRPについては46 pg/ml(SCLCの感度69.2%および特異度98.9%)に設定した。血清中のNPTX1とCEAの両方を測定することで、NSCLCの全検出感度を64%まで向上させることができる。健常ボランティア(対照群)の中での2種類の腫瘍マーカーのいずれかに対する偽陽性率は12.2%であった。一方、血清中のNPTX1とproGRPの両方を測定することで、SCLCの全検出感度を76.9%まで向上させることができる。健常ボランティア(対照群)の中での2種類の腫瘍マーカーのいずれかに対する偽陽性結果は7.7%であった。
低分子干渉RNAによる肺癌細胞の増殖阻害
KIF4A
KIF4Aが肺癌細胞の増殖または生存に不可欠であるかどうかを評価するために、本発明者らは、KIF4Aに対するsiRNA(si-KIF4A)および対照プラスミド(ルシフェラーゼおよびスクランブルに対するsiRNA)を発現するプラスミドを構築し、それらでSBC-5細胞をトランスフェクションした。si-KIF4A-#1または-#2でトランスフェクションした細胞におけるmRNAレベルは、いずれかの対照siRNAでトランスフェクションした細胞と比べて有意に低下した。本発明者らは、形成されたコロニー数の有意な減少、およびMTTアッセイ法によって測定した生存細胞数の有意な減少を認めた(SBC-5の代表的なデータを図4A〜Cに示した)。
MAPJD
MAPJDが肺癌細胞の増殖または生存に不可欠であるかどうかを評価するために、本発明者らは、MAPJDに対するsiRNA(si-MAPJD-1および-2)および2つの対照siRNA(ルシフェラーゼ(LUC)またはスクランブル(SCR)に対する)を発現するためのプラスミドを設計して構築し、そのそれぞれでLC319細胞およびA549細胞をトランスフェクションした。si-MAPJD-1または-2でトランスフェクションした肺癌細胞におけるMAPJD転写物の量は、2つの対照siRNAのいずれかでトランスフェクションした細胞と比べて有意に減少した(図5A、左上方パネル);同じくsi-MAPJD-1または-2のトランスフェクションによってもコロニー数および細胞生存度の有意な減少がもたらされ、これはコロニー形成アッセイ法およびMTTアッセイ法により測定された(P = 1.1×10-7(si-2);独立t検定)(図5A、左下方および右パネル)。この表現型の機構をさらに明らかにするために、本発明者らは、si-MAPJD-2でトランスフェクションしたLC319細胞を用いてフローサイトメトリー分析を実施し、si-MAPJD-2で処理した細胞のサブG1の比率が対照siRNA(LUC)で処理したものよりも有意に高いことを見出した(図5B)。さらに本発明者らは、si-MAPJD-2でトランスフェクションしたアポトーシス細胞の数がLUCでトランスフェクションしたものと比べて増加していることを、アネキシンV結合アッセイ法を用いて確認した(図5C)。
NPTX1
NPTX1の上方制御が肺癌細胞の増殖または生存に関与するかどうかを評価するために、本発明者らは、NPTX1に対するsiRNA(si-NPTX1-2)を発現するプラスミドを、異なる2つの対照プラスミド(ルシフェラーゼ(LUC)およびスクランブル(SCR)に対するsiRNA)とともに設計して構築し、それらでA549細胞およびSBC-5細胞をトランスフェクションして、内因性NPTX1の発現を抑制した。si-NPTX1-2でトランスフェクションした細胞におけるNPTX1の量は、2つの対照siRNAのいずれかでトランスフェクションした細胞におけるよりも有意に少なかった(図6、上方パネル)。トランスフェクションされたsi-NPTX1-2はタンパク質レベルに対するその抑制効果と一致して、コロニー形成アッセイ法およびMTTアッセイ法により測定したコロニー数および細胞生存度の有意な減少をもたらしたが、2つの対照によってはこのような効果は認められなかった(図6、中央パネルおよび下方パネル)。
FGFR1OP
FGFR1OPの上方制御が肺癌細胞の増殖または生存に関与するかどうかを評価するために、本発明者らは、FGFR1OPに対するsiRNA(si-1)を発現するプラスミドを、異なる3つの対照プラスミド(ルシフェラーゼ(LUC)およびスクランブル(SC)に対するsiRNA)とともに設計して構築し、それらでLC319およびSBC-5細胞をトランスフェクションして、内因性FGFR1OPの発現を抑制した(図7A、B)。si-1でトランスフェクションした細胞におけるFGFR1OP転写物の量は、3つの対照siRNAのいずれかでトランスフェクションした細胞におけるよりもかなり少なかった(図7A、B、上方パネル)。MTTアッセイ法およびコロニー形成アッセイ法により測定した細胞生存度およびコロニー数は、3つの対照siRNAまたは無効なsiRNA(si-1)でトランスフェクションした細胞と比べてsi-1でトランスフェクションした細胞において有意に減少した(図7A、B、中央パネルおよび下方パネル)。
WRNIP1
WRNIP1の発現が肺癌細胞の増殖に関与するかどうかをさらに評価するために、次に本発明者らは、WRNIP1に対するsiRNA(si-WRNIP1-#1および-#2)を用いて、肺の発癌におけるWRNIP1機能の生物学的な有意性を調べた。WRNIP1に対するsiRNAオリゴヌクレオチド(si-WRNIP1-#1または-#2)でLC319細胞を処理することにより、対照siRNAと比べて、内因性WRNIP1の発現が抑制された(図15、上方パネル)。LC319細胞は、WRNIP1発現の低下と一致して、細胞生存度およびコロニー数の有意な減少を示した(図15、中央パネルおよび下方パネル)。これらの結果から、WRNIP1が肺癌細胞の増殖/生存においても重要な役割を果たしうるという可能性が強く支持された。
哺乳類細胞における細胞増殖および浸潤効果
KIF4A
哺乳類細胞の増殖および悪性転換(transformation)に及ぼすKIF4Aの効果を判定するために、本発明者らは、KIF4Aを一過性に発現するCOS-7細胞(COS-7-KIF4A)を用いてインビトロアッセイ法を行った。MTTアッセイ法によって測定すると、空ベクター対照と比べてCOS-7-KIF4A細胞の増殖が促進された(図4D)。またCOS-7-KIF4A細胞は、空ベクタークローンが形成したよりも大きなコロニーを形成する傾向も有意であった。
組織マイクロアレイ上での免疫組織化学的分析によって、KIF4A陽性腫瘍を有する肺癌患者は、KIF4A陰性の腫瘍を有する患者よりも癌特異的生存期間が短いことが示唆されていたので、本発明者らは、マトリゲル浸潤アッセイ法を実施して、KIF4Aが細胞浸潤能に関与しうるかどうかを判定した。モックプラスミドでトランスフェクションした対照細胞と比べて、マトリゲルを通ったCOS-7-KIF4A細胞またはNIH3T3-KIF4A細胞の浸潤は有意に増大し、これはしたがってKIF4Aが肺癌細胞の悪性度の高い表現型にも寄与しうることを個別に示唆するものである(図4E〜G)。
MAPJD
腫瘍発生におけるMAPJDの潜在的役割をさらに検証するために、本発明者らは、外因性MAPJDを安定的に発現するNIH3T3細胞を樹立した。MAPJDを安定的に発現するNIH3T3派生細胞の増殖速度は、MAPJD用量依存的様式で、モックプラスミドでトランスフェクションした細胞の増殖速度よりもずっと高かった(図5D)。
FGFROP1
哺乳類細胞の増殖に対するFGFR1OPの効果をさらに確認するために、本発明者らはFGFR1OPを一過性発現するCOS-7細胞(FGFR1OP/COS-7)を用いてインビトロアッセイ法を行った。MTTアッセイ法によって測定されたように、FGFR1OP/COS-7細胞の増殖は空のベクター対照と比べて促進され(図7C)、このことはしたがって、FGFR1OPが哺乳類細胞の増殖に不可欠であることを個別に示唆するものである。
組織マイクロアレイ上での免疫組織化学的分析によって、FGFR1OP陽性腫瘍を有する肺癌患者がFGFR1OP陰性腫瘍を有する患者よりも癌特異的生存期間が短いことが示唆されていたので、本発明者らは、COS-7細胞を用い、細胞移動・マトリゲル浸潤アッセイ法によって、細胞の移動および浸潤におけるFGFR1OPの関与の可能性を調べた。図7に示すように、細胞株へのFGFR1OP cDNAのトランスフェクションにより、モックベクターでトランスフェクションした細胞と比べて、その移動(図7D)およびマトリゲルを通じた浸潤活性(図7E)が有意に増大した。
KIF4Aと相互作用するタンパク質の同定
肺癌細胞におけるKIF4Aの機能を解明するために、本発明者らは、KIF4Aと相互作用するタンパク質を探索した。DMS273細胞の溶解物を抽出し、抗KIF4Aポリクローナル抗体で免疫沈降した。タンパク質複合体をSilverQuest(Invitrogen)によりSDS-PAGEゲル上で染色した。抗KIF4A抗体による細胞溶解物の免疫沈降物中に見られた約75 kDaの二本のバンドを抽出し、そのペプチド配列をMALDI-TOF質量分析によって決定した(図8A)。この手順により、肺癌細胞においてKIF4Aと相互作用する候補としてZNF549(GenBankアクセッション番号NM_153263、SEQ ID NO: 86によってコードされるSEQ ID NO: 87)およびZNF553(GenBankアクセッション番号NM_152652、SEQ ID NO: 88によってコードされるSEQ ID NO: 89)を同定した。
半定量的RT-PCR分析により、これらの2つの遺伝子が、正常肺と比べて肺癌試料において過剰発現されることが明らかになった(データは示さず)。Flag/HAタグ付ZNF549(pCAGGSn 3FH-ZNF549)またはFlag/HAタグ付ZNF553(pCAGGSn 3FH-ZNF553)でトランスフェクションしたDMS273細胞またはSBC-5細胞を用いた免疫細胞化学的分析によって、主に核の位置での内因性KIF4Aとこれらの2つのタンパク質との共局在が明らかになり(SBC-5の代表的なデータを図8B、Cに示した)、このことは、KIF4A-ZNF549および/またはKIF4A-ZNF553複合体が肺発癌において重要な役割を果たす可能性を示唆するものである。
MAPJD標的遺伝子の同定
MAPJDは、核小体および核質に局在し、かつ転写調節に関与することが示唆されているJmjCドメインを含むので、本発明者らはまず、癌細胞においてMAPJDにより特異的に調節される下流遺伝子の同定を試みた。MAPJDを高レベルで発現したLC319細胞をsiRNA-MAPJD-2またはsiRNA-LUC(対照siRNA)でトランスフェクションし、23,040種の遺伝子からなるcDNAマイクロアレイを用いて様々な時点での遺伝子発現の変化をモニターした。このアプローチによって下方制御された数百もの遺伝子のうち、本発明者らは、自己組織化マップ(SOM)クラスタリング分析(Kohonen T. Proceeding of the IEEE 78, 1464-80 (1990))を実施することにより、MAPJD発現の低下に一致してその発現が有意に減少した53種の遺伝子を選抜した。
半定量的RT-PCR分析により、si-MAPJD-2でトランスフェクションしたLC319細胞においてこれら53種の候補転写物の経時的な減少が確認されたが、LUCに対する対照siRNAの場合はこれが確認されなかった(データは示さず)。本発明者らはまた、肺癌細胞株における外因性MAPJD発現の導入に合わせてこれらの遺伝子のトランス活性化を評価し(データは示さず)、最終的に、外因性MAPJD発現によって最も有意に誘導されたMAPJD標的遺伝子の主要な4候補であるSBNO1(GenBankアクセッション番号: AK001563、SEQ ID NO: 60によってコードされるSEQ ID NO: 61)、TGFBRAP1(GenBankアクセッション番号: NM_004257、SEQ ID NO: 62によってコードされるSEQ ID NO: 63)、RIOK1(GenBankアクセッション番号: NM_031480、SEQ ID NO: 64によってコードされるSEQ ID NO: 65)、およびRASGEF1A(GenBankアクセッション番号: NM_145313、SEQ ID NO: 66によってコードされるSEQ ID NO: 67)を選抜した。
MAPJDによるこれらの標的遺伝子のプロモーター特異的トランス活性化の可能性を調べるために、本発明者らは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子と融合させた4遺伝子それぞれの推定転写開始部位の1 kb上流領域を含む、レポータープラスミド、およびMAPJD発現プラスミドで、LC319細胞を同時トランスフェクションした。MAPJDでトランスフェクションした細胞はモックでトランスフェクションした細胞よりも高いルシフェラーゼ活性を示した(図9A)。
MAPJDとMYCとの相互作用およびその転写調節
レポーター遺伝子アッセイ法により、MAPJDが転写因子として作用できるか、またはいくつかの転写因子とともに遺伝子発現を調節できることが示唆された。このため、本発明者らは、これら4つのMAPJD標的遺伝子候補の調節領域に共通している転写因子のコンセンサス結合モチーフ候補を探索して、4候補遺伝子の全てが、その予想転写調節領域の中にEボックス(CANNTG)の複数のコピーを含むことを見出した。MYC(GenBankアクセッション番号NM_002467)は、Eボックスに結合するタンパク質の一つであることが知られているので、次に本発明者らは、免疫沈降アッセイ法により、LC319細胞において外因的に発現されたMAPJDまたはMYCと内因性のものとの結合を調べた(図9B)。MAPJDおよび/またはMYCと4遺伝子のプロモーター部位との結合を調べるために、本発明者らは、LC319細胞の抽出物を用いて抗MAPJD抗体または抗MYC抗体によるChIPアッセイ法を実施した。推定転写開始部位を含む1 kb上流領域に対応するゲノムセグメントは、MAPJDタンパク質およびMYCタンパク質の両方と結合することが確認された(図9C)。MAPJD標的遺伝子に対するMAPJDおよびMYCの転写活性を調べるために、本発明者らは、ルシフェラーゼアッセイ法を実施した。MYCまたはMAPJDでトランスフェクションしたLC319細胞は、モックでトランスフェクションした細胞よりも高いルシフェラーゼ活性を誘導し、このことは、MAPJDおよびMYCが4遺伝子のトランス活性化に関与することを示唆するものである(図9D)。さらに、MAPJD発現プラスミドおよびMYC発現プラスミド両方の同時トランスフェクションによって、レポータープラスミドのルシフェラーゼ活性がさらに増加した(図9D)。これらのデータは、MAPJDおよびMYCが複合体を形成でき、かつ候補MAPJD標的遺伝子の転写活性を相乗的に調節できることを示唆している。
続いて本発明者らは、-1504〜+35に8個のEボックスモチーフを有する、RIOK1遺伝子の予想プロモーター領域中のEボックスモチーフに注目した(図10A)。LC319細胞の核抽出物を用いた、抗MAPJD抗体および抗MYC抗体でのChIPアッセイ法により、Eボックスモチーフを含有するゲノムセグメント7だけが内因性MAPJDと最も有意に結合するようであること、一方でMYCは7つのセグメント全てにほぼ等しく結合することが、検出された(データは示さず)。これらのデータは、MAPJDがRIOK1遺伝子中のセグメント7のEボックスと結合した可能性があることを示唆するものである。
本発明者らはまた、予想結合配列に対応する二本鎖オリゴヌクレオチドプローブおよび免疫沈降により精製したmycタグ付MAPJDタンパク質を用いてEMSAを実施した。MAPJDの存在下ではバンドシフトを検出したが、非放射性の競合オリゴヌクレオチドを添加した後ではバンドシフトは認められなかったことから、オリゴヌクレオチドプローブとMAPJDとの間の特異的な相互作用が支持された(図10B、左パネル)。正常ウサギIgGの添加後ではなく抗MAPJD抗体の添加後にバンドがスーパーシフトしたので、特異的な相互作用が独立して確認された(図10C、左パネル)。MYCもこのプローブと特異的に相互作用した(図10B、C、右パネル)。
これらのデータならびに、LC319細胞が内因性MYCおよびMAPJDを高発現するという事実から、MAPJD-MYC複合体とEボックス部位との間の相互作用に関する以下の仮説が提起される。1) MAPJDはまず、このEボックス部位を認識して結合し、その後、多くの他の転写因子やエンハンサータンパク質のように、この部位のヌクレオソーム構造を、ヒストンH4アセチル化によるトランス活性化の際に実証されているような機構で変化させうる。続いてMAPJDはMYCをこの部位まで動員し、標的遺伝子の転写を増大させる。あるいは、2) MAPJDはMAXの場合のようにMYCとヘテロ二量体を形成しうる。MYC-MAPJDヘテロ二量体はDNAに結合し、クロマチン修飾因子を動員しうる。正確な機構は不明であるが、MAPJDは、Eボックスモチーフへの結合および/またはこの部位へのクロマチン修飾因子の動員によって、MYCを介したトランス活性化系を効果的に補助しうる。
MAPJDによる標的遺伝子へのMYC関連HAT複合体の動員およびヒストンH4アセチル化の増強
MYCは、その標的遺伝子の調節領域中のEボックスに結合することによって、ならびに、ヒストンH3およびH4を選択的にアセチル化するGCN5/PCAFまたはTIP60ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)と共にTRRAPタンパク質を含むタンパク質複合体を動員することによって、遺伝子転写を活性化することが公知である(Nesbit CE, et al. 1999. Oncogene 18:3004-16; Blackwell TK, et al. 1999. Science 250: 1149-51; Blackwood EM, and RN Eisenman 1991. Science. 251:1211-7; McMahon SB, et al. Mol. Cell. Viol. 20, 556-62 (2000); Frank SR et al. EMBO Rep. 4, 575-80 (2003))。それゆえ本発明者らは、MAPJDが、4つのMAPJD標的遺伝子へのMYC調節性HAT複合体の動員および/またはそのHAT活性に対する機能的効果を有するかどうかを調べた。
本発明者らはまず、FLAG-MAPJDと内因性MYCとのおよびMYC-HAT複合体中に含まれる他のタンパク質との相互作用の可能性を調べた。内因性のMYC(sc-764;Santa Cruz Biotechnology, Inc)、TRRAP(sc-11411)、またはTIP60(sc-5725)に特異的な抗体による免疫沈降の後、抗FLAG抗体によりイムノブロッティングを行うことにより、LC319細胞における外因性MAPJDタンパク質と内因性のMYC、TRRAP、およびTIP60との相互作用を検出した(図11A)。次に、4つのMAPJD標的遺伝子のプロモーター領域へのHAT複合体の動員のレベル、およびそのヒストンアセチル化のレベルを調べるため、本発明者らは、MAPJD発現ベクターでトランスフェクションしたLC319細胞を用いてMYC補因子TRRAPに対する抗体およびトリアセチル化ヒストンH4によるChIPアッセイ法を実施した。本発明者らは、MAPJD発現プラスミドでトランスフェクションした細胞において、TRRAPと個々の遺伝子調節領域との結合の増大、およびトリアセチル化ヒストンH4(AcH4)レベルの増加を認めた(図11B)。これらのデータは、MAPJDがクロマチンへのHAT複合体の動員を誘導しかつヒストンアセチル化を増大させうり、その結果、MAPJD標的遺伝子の発現を促進しうることを示唆するものである。
FGFR1OPと相互作用する新規の分子としてのWRNIP1およびABL1の同定
発癌におけるFGFR1OPの機能を解明するために、本発明者らは、肺癌細胞においてFGFR1OPと相互作用しうるタンパク質の同定を試みた。LC319細胞由来の細胞抽出物を、抗FGFR1OP抗体またはウサギIgG(陰性対照)で免疫沈降した。SDS-PAGEによる分離の後、タンパク質複合体を銀染色した。抗FGFR1OP抗体による免疫沈降物中では見られたがウサギIgGによる免疫沈降物中では見られなかったタンパク質バンドを切り出し、トリプシン消化し、質量分析に供した。タンパク質バンド由来のペプチドは、ウェルナーヘリカーゼ相互作用タンパク質1(WRNIP1、別名WHIP)およびアベルソンマウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1(ABL1、別名c-Abl)中の配列に一致した(図12A 右パネル)。本発明者らは、LC319細胞における免疫沈降実験により、FGFR1OPとWRNIP1(GenBankアクセッション番号NM_020135、SEQ ID NO: 90によってコードされるSEQ ID NO: 91)またはABL1(GenBankアクセッション番号NM_007313、SEQ ID NO: 92によってコードされるSEQ ID NO: 93)との間の同族相互作用を確認した(図12A 左パネル)。内因性のFGFR1OPおよびWRNIP1の細胞内局在を調べるため、本発明者らは、抗FGFR1OPポリクローナル抗体または抗WRNIP1ポリクローナル抗体を用いて免疫細胞化学的分析を実施した。FGFR1OPおよびWRNIP1の両方が、核全体にわたるびまん性の斑点状シグナルとして検出された(図12B)。
FGFR1OP、WRNIP1、およびABL1のDNA損傷応答
本発明者らは、FGFR1OPと相互作用するDNA損傷応答タンパク質WRNIP1およびABL1を同定した。DNAが細胞中で損傷を受けると、多くのDNA損傷シグナル伝達タンパク質が損傷した遺伝子座に動員され、不連続な核焦点を形成する。これらの事象の順序およびタイミングは、チェックポイント応答およびDNA修復にとって重要であると考えられる。それゆえ本発明者らは、UV照射への曝露後の表記の時点で、肺癌細胞系A549細胞におけるFGFR1OP、WRNIP1、およびABL1タンパク質レベルの蓄積を分析した(図12C)。A549細胞において、DNA損傷によるWRNIP1量の増加は検出可能であったが、FGFR1OPおよびABL1の発現レベルはDNA損傷にかかわらず変化のないままであった(図12C)。次に本発明者らは、UV照射への曝露後24時間の時点での内因性のFGFR1OP(図12D)、WRNIP1(図12E)、およびABL1(図12F)の位置を調べた。DNA損傷に応答してFGFR1OPおよびWRNIP1による核焦点の形成が認められた(図12)。ABL1はUV照射で処理していないA549細胞の細胞質に局在していたが、UV照射への曝露後の有意なABL1転座によって、ABL1の集団が核内に認められた(図12)。これらの結果は、FGFR1OPがABL1とWRNIP1との相互作用によりDNA損傷関連タンパク質である可能性の高いことを示唆しており、当然ながらそれらの関連性はさらに解明されねばならない。ABL1はDNA損傷に応答して核内のFGFR1OPまたはWRNIP1に標的化される。
インビトロおよびインビボにおいてABL1によりチロシンリン酸化されるWRNIP1(FGFR1OPと相互作用する新規の分子)
FGFR1OPまたはWRNIP1がABL1の基質としての可能性があるかどうかを判定するために、c-mycタグ付FGFR1OP(免疫沈降物)またはc-mycタグ付WRNIP1(免疫沈降物)を組換えABL1とともにインキュベーションした(図13Aおよび13B)。ウエスタンブロット分析の結果により、WRNIP1はインビトロにおいてABL1チロシンキナーゼによりチロシンリン酸化されること(図13A、右パネル)、および総WRNIP1タンパク質レベルは処理によって影響を受けないことが示されたのに対し、検出可能なFGFR1OPのリン酸化は認められなかった(図13A、左パネル)。WRNIP1のリン酸化を確認するために、本発明者らは、[γ-32P]ATPの存在下においてc-mycタグ付FGFR1OP(免疫沈降物)を組換えABL1とともにインキュベーションすることによりキナーゼアッセイ法を実施した。ウエスタンブロットと同じ結果で、オートラジオグラフィーによる産物の分析から、ABL1がWRNIP1をリン酸化することが示された(図13B)。WRNIP1がインビボにおいてABL1によりリン酸化されるかどうかを調べるため、COS-7細胞にc-mycタグ付WRNIP1の発現プラスミドおよびFlagタグ付ABL1の発現プラスミドで同時トランスフェクションした。ウエスタンブロットの結果から、異なる同時トランスフェクション細胞においてWRNIP1タンパク質の量が類似していることが示された(図13C、下方パネル)。抗ホスホチロシン抗体を用いた抗c-myc免疫沈降物(WRNIP1)の分析から、ABL1によるWRNIP1のチロシンリン酸化が示された(図13C、上方パネル)。それゆえ、WRNIP1はABL1のインビボでの基質である。
FGFR1OPによるABL1依存的なWRNIP1リン酸化の阻害
肺発癌におけるFGFR1OPとWRNIP1/ABL1との間の相互作用の機能を解明するために、本発明者らは、肺癌細胞A549においてこれらのタンパク質の細胞内局在を調べた。抗FGFR1OP抗体および抗WRNIP1/ABL1抗体を用いた免疫細胞化学的分析により、内因性FGFR1OPが、S-G2/M期に、主に核周囲および核において、内因性WRNIP1およびABL1と共局在することが示された(図14A)。
FGFR1OPがABL1によるWRNIP1のリン酸化に影響を及ぼしうるかどうかを判定するために、組換えGSTタグ付FGFR1OPの非存在下または存在下でc-mycタグ付WRNIP1をHisタグ付ABL1とともにインキュベーションすることにより、インビトロキナーゼアッセイ法を実施した。図14Bに示すように、FGFR1OPは用量依存的様式でWRNIP1に対するABL1のキナーゼ活性を有意に阻害した。ABL1誘発性の細胞周期停止に対するFGFR1OPの過剰発現の効果を調べた。本発明者らは、ABL1またはABL1とFGFR1OP両方のいずれかを過剰発現するA549細胞のBrdU取り込み能を測定し、ABL1誘発性の細胞周期停止がFGFR1OPの過剰発現によって回復することを見出した(図14C)。これらの結果から、FGFR1OPがABL1によるWRNIP1のリン酸化を遮断し、かつ肺の発癌において重要な役割を果たす可能性が示唆された。
考察
KIF4A
幾つかの分子標的薬が開発され、癌治療におけるその有効性が証明されているが、良好な反応を示す患者は非常に限られている(Ranson M, et al. J Clin Oncol 2002;20:2240-50)。したがって、癌に対する分子標的薬のさらなる開発が早急に望まれている。
本発明者らは、以下の戦略によって治療標的分子をスクリーニングした:(I) ゲノム規模のcDNAマイクロアレイシステムによる、肺癌における上方制御遺伝子の同定(Kikuchi T, et al. Oncogene 22: 2192-205, 2003; Kakiuchi S, et al. Mol Cancer Res 1: 485-99, 2003)、(II) ノーザンブロッティングによる、正常組織における候補遺伝子の発現がないまたは発現レベルが低いことの検証(Saito-Hisaminato A, et al. DNA Res. 2002 Apr 30;9(2):35-45; Ochi K, et al. J Hum Genet 2003;48(4):177-82)、(III) 何百もの保管肺癌試料を含む組織マイクロアレイによる、その過剰発現の臨床病理的な有意性の確認(Suzuki C, et al. Cancer Res. 2005; 65, 11314-25; Ishikawa N, et al. Clin Cancer Res. 2004;10(24):8363-70., Cancer Res. 2005; 65, 9176-84; Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005;65(16):7102-10)、(IV) RNAiアッセイ法による、癌細胞の増殖または生存に標的遺伝子が不可欠であるかどうかの検証(Suzuki C, et al. Cancer Res. 2005; 65, 11314-25., Cancer Res 2003;63:7038-41; Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005;65(16):7102-10)。このアプローチを用いて本発明者らは、KIF4Aが臨床肺癌試料および細胞株において高頻度で過剰発現されること、ならびにその遺伝子産物が肺癌細胞の増殖および進行において不可欠な役割を果たすことを本明細書で明らかにした。
キネシンは、マウスおよびヒトにおいて45種のメンバーを有する微小管ベースのモータータンパク質のスーパーファミリーを構成しており、小胞、細胞小器官、染色体、タンパク質複合体、およびmRNAの輸送を含む多様な機能を示す(Lawrence CJ, et al. J Cell Biol. 2004 Oct 11;167(1):19-22; Miki H, et al. Trends Cell Biol. 2005 Sep;15(9):467-76; Hirokawa N. et al. Science. 1998 Jan 23;279(5350):519-26)。モナストロールなどの小分子による有糸***キネシンEg5の阻害は、悪性腫瘍治療用の新しいクラスの抗増殖薬を開発するためのアプローチとして評価されている(Muller C, et al. Cancer Chemother Pharmacol. 2006 May 16; [Epub ahead of print]; Koller E, et al. Cancer Res. 2006 Feb 15;66(4):2059-66)。
KIF4サブファミリーはKIF4A、KIF4B、KIF21A、およびKIF21Bからなる(Lawrence CJ, et al. J Cell Biol. 2004 Oct 11;167(1):19-22)。KIF4Aは後期の紡錘体の動態および細胞質***の完了の調節において不可欠な役割を果たす(Zhu C and Jiang W. et al. Proc Nat Acad Sci U S A. 102: 343-8, 2005)。KIF4Aは、有糸***の多段階において機能する染色体凝縮・分離機構の新規成分である。MRC-5ヒト胎児肺線維芽細胞において、***間期の間KIF4Aは核に顕著に局在していたが、***前期〜***終期までKIF4Aは染色体腕上に存在していた。さらに、このタンパク質は中間帯に蓄積し、細胞質***まで細胞質***リングを形成していた(Mazumdar M, et al. J Cell Biol. 2004 Aug 30;166(5):613-20. Epub 2004 Aug 23)。KIF4はニューロンの生存に関連することも報告されている(Midorikawa R, et al. Cell. 2006 Apr 21;125(2):371-83)。
特異的siRNAでNSCLC細胞を処置してKIF4Aの発現を低下させることにより、増殖抑制が起こった。本発明者らはまた、発癌におけるこの経路の重要性を支持する他の根拠を見つけた。例えば、KIF4Aの発現は同様に、インビトロアッセイ法において細胞増殖および浸潤の有意な促進ももたらした。さらに、組織マイクロアレイ実験を通じて得られた臨床病理学的根拠により、KIF4Aを発現する腫瘍を有するNSCLC患者の癌特異的生存期間はKIF4A発現陰性の患者よりも短いことが実証された。インビトロおよびインビボにおけるアッセイ法により得られた結果から、過剰発現されたKIF4Aは重要な増殖因子であり、かつ癌細胞増殖および浸潤に関連し、これにより肺癌細胞の悪性度の高い表現型が誘発されることが明らかである。本研究において、本発明者らはまた、癌細胞におけるKIF4Aと二つのジンクフィンガータンパク質ZNF549およびZNF553との相互作用、ならびに細胞質および核でのそれらの共局在も立証した。根拠を組み合わせることにより、KIF4Aは、転写因子を含むいくつかの重要な核タンパク質を細胞質から核へと輸送して、ヒト癌細胞における特異的な遺伝子転写を促進し、その後、癌細胞における増殖および/または生存の過程を増強しうることが示唆される。
MAPJD
分子標的薬は、悪性細胞に対する特異性が高く、かつその明確な作用機序によって副作用が少ないことが期待される。そのような薬物の開発に適した分子標的の同定に向けて、本発明者らは、肺癌細胞において過剰発現された遺伝子を選別するためのゲノム規模の発現分析を、RNAi技術による機能喪失効果のハイスループットスクリーニングと組み合わせた(Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205., Int J Oncol 2006;28,799-805; Kakiuchi S, et al. Mol Cancer Res 2003;1:485-99., Hum Mol Genet 2004;13:3029-43; Suzuki C, et al. Cancer Res 2003;63:7038-41., Cancer Res. 2005; 65: 11314-25; Ishikawa N, et al. Clin Cancer Res 2004;10:8363-70., Cancer Res. 2005;65(20):9176-84; Kato T, et al. Cancer Res. 2005; 65: 5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005;65(16):7102-10)。
この系統的アプローチを用いて、本発明者らは、MAPJDが臨床NSCLC試料および細胞株において高頻度で過剰発現されていることを見出し、この遺伝子産物の過剰発現が肺癌細胞の増殖において不可欠な役割を果たすことを示した。ヒトMAPJDは、アミノ酸配列209位〜465位の位置にJmjCドメインを含む641アミノ酸のタンパク質をコードする。JmjCドメインはDNA結合ドメインまたはクロマチン結合ドメインと共に見られる可能性が高かったので、JmjCドメインを含むタンパク質は、クロマチン再構築および/または遺伝子発現を調節する酵素成分の優良な候補であるものと考えられる(Eilbracht J, et al. Mol Biol Cell. 2004 Apr; 15(4):1816-32)。
細胞周期の進行速度はMYCレベルと密接に関係していることが、多くの研究で実証されている(Nesbit CE, et al. 1999. Oncogene 18:3004-16)。MYCレベルの軽度の増加は、さまざまな形態のヒト癌における開始事象であるものと考えられている(Nesbit CE, et al. 前記)。MYCは、アセチルトランスフェラーゼ複合体を標的遺伝子に動員することによって、下流の標的遺伝子の転写を調節する。この系において、他のクロマチン再構築酵素(その一部は未だ同定されていない可能性がある)と協調して、HAT活性の変更を通じてMYCが作用する可能性があること、および、さまざまな状況に応じてHATとクロマチン再構築因子との異なる組み合わせが適用されうることが示唆された(Nesbit CE, et al. supra; Blackwell TK, et al. 1999. Science 250: 1149-51; Blackwood EM, and RN. Eisenman. 1991. Science. 251:1211-7; McMahon SB, et al. Mol Cell Biol. 20, 556-62 (2000); Frank SR, et al. EMBO Rep. 4, 575-80 (2003))。
本発明者らは、MAPJDが、MYC-TRRAP-TIP60転写複合体と相互作用しかつヒストンアセチル化を誘導することにより、肺癌細胞増殖に関連する可能性のある一連の遺伝子をトランス活性化することを本明細書で実証した(図11C)。本発明者らは、MAPJDの4つの下流標的遺伝子を同定したが、これら全てが発癌シグナル伝達に関与するものと考えられた。SBNO1は、発癌過程において機能することが公知のNotchシグナル伝達経路の下流成分であり、ショウジョウバエ(Drosophila)における胚発生および発癌の際に必要とされる(Coyle-Thompson CA, et al. Development 1993;119:377-95; Radtke F, et al. Nat Rev Cancer 2003;10: 756-67)。TGFBRAP1は、腫瘍発生に関連すると報告されているTGFB受容体に結合する(Charng MJ, et al. J Biol Chem 1998;273:9365-8; Wurthner JU, et al. J Biol Chem 2001;276:19495-502)。RIOK1は結腸癌において過剰発現されると報告されている(Line A, et al. Can Immunol Immunotherapy 2002;51:574-82)。RASGEF1AはRasGEFドメインを含んでおり、これはRasシグナル伝達経路において重要な役割を担っている可能性がある。本明細書で示したデータは、MAPJDがMYC癌遺伝子とともに幾つかの遺伝子の転写を選択的に活性化するための重要な調節因子の一つであることを示す。
MAPJDは核小体中のおよび特殊型の同調的複製クロマチン中の二重位置タンパク質(dual location protein)として以前に報告されたが、その生理学的機能は不明なままである(Eilbracht J, et al. Mol Biol Cell. 2004 Apr;15(4):1816-32)。本発明者らは、癌細胞においてMAPJDが核小体および核質に局在することを確認した。核小体は、リボソーム生合成において、すなわちrRNA遺伝子の転写、これらの転写物のプロセシングおよび修飾、ならびにリボソームタンパク質と非リボソームタンパク質の両方とのそのアセンブリを含む複雑な過程において機能して、プレリボソーム粒子の形成を導くことが知られている(Scheer U, et al. Curr Opin Cell Biol 1999; 11:385-90; Zhao J, et al. Mol Cell 2003;11:405-13)。
しかしながら、核小体は、さまざまな他のリボヌクレオタンパク質粒子のアセンブリ、低分子RNAの修飾、細胞周期の制御、調節分子の隔離、および核輸送過程を伴う多様な機能も持つことが最近になって報告された(Olson MO, et al. Int Rev Cytol 2002;219:199-266; Gerbi SA, et al. Curr Opin Cell Biol 2003;15:318-25)。MAPJDは、MYCのほかにも幾つかの核タンパク質と相互作用することにより、発癌において重要な役割を果たしている。
NPTX1
本発明者らは以下の戦略によって治療標的分子をスクリーニングした:(I) ゲノム規模のcDNAマイクロアレイシステムによる、肺癌における上方制御遺伝子の同定(Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205; Kakiuchi S, et al. Mol Cancer Res 2003;1:485-99, Hum Mol Genet. 2004;13:3029-43)、(II) ノーザンブロッティングによる、正常組織における候補遺伝子の発現がないまたは発現レベルが低いことの検証(Saito-Hisaminato A, et al. DNA Res. 2002 Apr 30;9(2):35-45; Ochi K, et al. J Hum Genet 2003;48(4):177-82)、(III) 何百もの保管肺癌試料を含む組織マイクロアレイによる、その過剰発現の臨床病理的な有意性の確認(Suzuki C, et al. Cancer Res. 2005; 65, 11314-25; Ishikawa N, et al. 2004 Dec 15;10(24):8363-70., Cancer Res. 2005; 65, 9176-84; Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005; 65, 7102-10)、(IV) RNAiアッセイ法による、癌細胞の増殖または生存に標的遺伝子が不可欠であるかどうかの検証(Suzuki C, et al. Cancer Res 2003;63:7038-41., Cancer Res. 2005; 65, 11314-25; Kato T, et al. Cancer Res. 2005;65(13):5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res. 2005; 65, 7102-10)。
このアプローチを用いて、本発明者らは、NPTX1が臨床肺癌試料および細胞株において高頻度で過剰発現されること、ならびにその遺伝子産物が肺癌細胞の増殖および進行において不可欠な役割を果たすことを本明細書で明らかにした。
NPTX1は、アミノ末端のコイルドコイルドメインおよびカルボキシ末端のペントラキシンドメインを含む、「長いペントラキシン」サブファミリーの430アミノ酸のタンパク質をコードする(Goodman AR, et al. Cytokine Growth Factor Rev. 1996 Aug;7(2):191-202; Dodds DC, et al. 1997 Aug 22;272(34):21488-94)。神経細胞のペントラキシン上のペントラキシンドメインは、哺乳類C反応性タンパク質および血清アミロイドタンパク質に似ている(Goodman et al. 前記)。NPTX1のこれらの構造的特徴はNPTX2と共通しており、NPTX1とNPTX2のどちらも、CNSにおいて独占的に発現される分泌性糖タンパク質である(Schlimgen AK, et al. Neuron. 1995 Mar;14(3):519-26; Goodman AR, et al. 前記; Dodds DC, et al. 1 前記)。
NPTX1およびNPTX2は、ヘテロ複合体を形成し、かつ活性依存性のシナプス可塑性において何らかの役割を果たすと報告されている(Xu DS)。複合体形成はそれらの異なるN末端コイルドコイルドメインに依存するが、密接な相同性を示すそれらのC末端ペントラキシンドメインは、AMPA型グルタミン酸受容体との結合を仲介する(O'Brien RJ et al, Neuron. 1999 Jun;23(2):309-23, O'Brien R, et al. J Neurosci. 2002 Jun 1;22(11):4487-98)。いくつかの知見によって、アポトーシスを受けた小脳顆粒ニューロンにおけるNPTX1の過剰発現が示唆されている(DeGregorio-Rocasolano N)、(Enguita M)。c-Jun NH2末端キナーゼ(JNK)およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)のシグナル伝達経路はどちらも、カルシウム欠乏によりアポトーシス細胞死が活性化される主な経路である。
実際、NPTX1は低酸素性虚血性脳障害において誘導され、NPTX1 mRNAに対して作製された該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、低酸素誘導性およびAMPA誘導性の神経細胞死を阻止する(Hossain MA)。NPTX1がAMPAグルタミン酸受容体サブユニット(GluR1)クラスタと共局在すること、および低酸素状態がNPTX1-GluR1相互作用の経時的な増加を誘導することも分かった。これらの結果は、NPTX1がGluR1とのおよび潜在的に他のグルタミン酸受容体サブタイプとの相互作用を通じて興奮毒性(excitoxicity)を増強しうる、新規の機構を示唆している。ニューロンの恒常性にはその機能的相互関係を踏まえてNPTX1がが不可欠であるという公知の根拠にもかかわらず、半定量的RT-PCR分析によるとNPTX1の発現パターンはNPTX2、NPTXR、およびAMPA型受容体(GluR1-4)の発現パターンと必ずしも調和しておらず(データは示さず)、このことは、肺発癌においてNPTX1が関与する別の経路が存在しうることを示唆している。肺発癌において寄与しうるNPTX1の分子機構を同定するためのさらなる研究によって、NPTX1発現を介するシグナル伝達経路についての新たな理解が得られるはずである。
本発明者らは、NSCLC患者由来の外科切除検体の37.2%においてNPTX1タンパク質が過剰発現され、一方でSCLC患者由来の外科切除検体の69.2%においてNPTX1タンパク質が過剰発現されていたことを示した。特異的siRNAでNSCLC細胞を処置したNPTX1の発現を低下させることによって、増殖抑制が起こった。さらに、組織マイクロアレイ実験を通じて得られた臨床病理学的根拠により、NPTX1を発現する腫瘍を有するNSCLC患者はNPTX1発現陰性の患者よりも癌特異的生存期間が短いことが実証された。インビトロおよびインビボにおけるアッセイ法により得られた結果から、過剰発現されたNPTX1は重要な増殖因子であり、かつ癌細胞増殖に関連し、肺癌細胞の悪性度の高い表現型を誘発することが示されている。
NPTX1を診断手段として適用することが実現可能かどうか実証するために、本発明者らはNPTX1の血清中レベルを、NSCLCおよびSCLCに対する従来型の診断マーカーであるCEAまたはProGRPの血清中レベルとを、診断の感度および特異性という点で比較した。両方のマーカーを組み合わせたアッセイ法(NPTX1+CEAまたはNPTX1+ProGRP)によって感度が増大し、その結果、肺癌を有する患者の約69.2〜76.9%が陽性と診断され、一方で健常ボランティアの7.7〜12.2%が陽性と誤診断された。本明細書で示したデータは、肺癌に対する血清学的/組織化学的マーカーとしてのNPTX1それ自体の臨床的応用性を十分に実証するものである。
FGFROP1
分子標的療法は、悪性細胞に対する特異性が高いことおよびその明確な作用機序によって有害反応が少ないことが期待される。同じく、臨床の場に容易に適応しうる、低侵襲性、高感度、高特異性をもつ新たな診断方法が有力候補となる。その目標へのアプローチとして、本発明者らは、ゲノム規模の発現分析による候補分子のスクリーニングと、RNAi技術による機能喪失効果のハイスループットスクリーニングとを組み合わせる戦略をとった(Suzuki C, et al. Cancer Res 2003;63:7038-41., Cancer Res 2005;65:11314-25; Ishikawa N, et al. Clin Cancer Res 2004;10:8363-70., 2005 Cancer Res 2005;65:9176-9184; Kato T, et al. Cancer Res 2005;65:5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res 2005;65:7102-10)。
さらに本発明者らは、組織マイクロアレイ法を用いて、潜在的な標的タンパク質の妥当性確認のために何百もの保管臨床試料を解析した(Suzuki C, et al. Cancer Res 2005;65:11314-25; Ishikawa N, et al. Clin Cancer Res 2004;10:8363-70., 2005 Cancer Res 2005;65:9176-9184; Kato T, et al. Cancer Res 2005;65:5638-46; Furukawa C, et al. Cancer Res 2005;65:7102-10)。この複合アプローチを用いて、本発明者らは、FGFR1OPが臨床の肺癌試料および細胞株において高頻度で過剰発現していること、ならびに遺伝子産物が肺癌細胞の増殖および進行において不可欠な役割を果たすことを、本明細書において示した。
FGFR1OPタンパク質は、LisHドメインを含む399アミノ酸をコードする。LisHモチーフは、二量体化を仲介するかまたはさもなくば細胞質ダイニン重鎖もしくは微小管に直接結合するかのいずれかにより、微小管動態の調節に寄与することが示唆されている(Sapir T, et al. Eur J Biochem 1999;265:181-8; Cahana A, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2001;98:6429-34)。FGFR1OP遺伝子とFGFR1遺伝子とを融合させるt(6;8)(q27;p11)染色体転座が、骨髄増殖性疾患の症例で見つかっている(Popovici C, et al. Blood 1999;93:1381-9; Guasch G, et al. Mol Cell Biol 2001;21:8129-42, Blood 2004;103:309-12)。得られるキメラタンパク質は、FGFR1の触媒ドメインに融合されたこのコードタンパク質のN末端ロイシンリッチ領域を含む。LisHドメインFGFR1OP-FGFR1融合キナーゼは中心体を標的にし、この細胞小器官でのシグナル伝達経路を活性化して、細胞周期における持続的な進入を維持する(Delaval B, et al. Cancer Res 2005;65:7231-40)。
しかしながら、FGFR1OPは、活性化した二量体化ドメインをFGF受容体キナーゼに与えているにすぎない可能性がある。本発明において、キメラFGFR1OP-FGFR1の発現は検出できず(データは示さず)、FGFRの発現パターンはFGFR1OPの発現パターンと一致していなかった(データは示さず)。このことから、FGFR1OP-FGFR1融合キナーゼは肺発癌において大きな役割を果たしえないことが示唆された。
しかしながら、FGFR1OP融合キナーゼタンパク質の細胞内局在が、多くの場合には高レベルの発現を有するトランスフェクション細胞においてまたはMPDマウスモデルの造血細胞において研究されている;FGFR1OPタンパク質は主として中心体で見られる(Andersen JS, et al. Nature 2003;426:570-4; Yan X, et al. Mol Biol Cell 2006;17:634-44; Delaval B, et al. Cancer Res 2005;65:7231-40)。実験のなかで、FGFR1OPは肺癌細胞の中心体だけでなく(図1D)、核および細胞質にも局在していた。本研究において、本発明者らは、外科的に切除したNSCLC検体の大部分(90%)においてFGFR1OPが高発現されていることを示した。FGFR1OPの発現を低下させるために特異的siRNAでNSCLC細胞を処置することにより、増殖抑制が起こった。本発明者らはまた、発癌におけるこの経路の重要性を支持する他の根拠を見出した;例えば、FGFR1OPの発現は、インビトロアッセイ法において細胞増殖の有意な促進ももたらした。LisHドメインを含むLIS1タンパク質およびFGFR1OPは、ダイニンとダイナクチンとを結合させた。これらのタンパク質は、傷ついたNIH3T3細胞単層の回復およびその後の細胞移動の間に細胞前縁で濃縮される。これらのタンパク質の阻害によって、微小管ネットワークの再配列が阻止されるばかりか、持続的な定方向細胞移動も阻止される(Dujardin DL, et al. J Cell Biol. 2003 Dec 22;163(6):1205-11)。同様に、本発明者らがFGFR1OPの発現を低下させるために特異的siRNAでNSCLC細胞を処置することにより、微小管ネットワークの再配列が阻止された(データは示さず)。
さらに、組織マイクロアレイ実験を通じて得られた臨床病理学的根拠により、FGFR1OPを強発現する腫瘍を有するNSCLC患者は、FGFR1OP陰性発現/弱発現の患者よりも癌特異的生存期間が短いことが実証された。これは、ヒト癌においてFGFR1OP発現の予後的価値を示す最初の研究である。肺発癌におけるFGFR1OPの正確な機構は不明であるが、インビトロおよびインビボにおけるアッセイ法により得られた結果から、過剰発現されたFGFR1OPは重要な増殖因子である可能性が高く、肺癌細胞の悪性度の高い表現型を誘発することが強く示唆された。先の出願において、本発明者らは、膀胱癌、子宮頸癌、前立腺癌、腎細胞癌、および骨肉腫の半分以上においてFGFr1OPの過剰発現を認めた(データは示さず)。このことから、FGFR1OPの過剰発現が各種の癌の進行においても重要な役割を果たす可能性が示唆される。
本発明者らは、FGFR1OPと相互作用する新規の分子としてWRNIP1およびABL1をさらに見出した。興味深いことに、免疫細胞化学的分析により、FGFR1OPがその相互作用タンパク質WRNIP1およびABL1と、S-G2/M期にNSCLC細胞の主に核周囲および核において共局在することが明らかになった(図1D)。この結果は、癌細胞周期の進行の間にこの段階でWRNIP1/ABL1と相互作用することによるFGFR1OPの重要な役割を示唆しうる。WRNIP1はWRNのN末端部分と相互作用することが知られている。WRNおよびWRNIP1のホモログであるSgs1およびMgs1が、それぞれ出芽酵母において同定されている(Gangloff S, et al. Mol Cell Biol 1994;14:8391-8; Hishida T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2001;98:8283-9)。
以前にSgs1破壊株は老化促進の表現型を示しており、野生型細胞およびSgs1破壊株におけるMgs1の破壊は、それぞれ、わずかな老化促進およびSgs1破壊株の早期老化表現型の増強を生じた(Kawabe Yi, et al. J Biol Chem 2001;276: 20364-9)。酵母において、Mgs1はDNAポリメラーゼδとの密接な機能的相互作用を有する。ヌルMgs1変異は、DNAポリメラーゼδの第二サブユニットに変異をもつpol31変異酵母の増殖欠陥を部分的に軽減する(Branzei D, et al. Mol Genet Genomics 2002;268:371-86)。これらの報告から、Mgs1はDNA複製機構と相互作用して、DNA複製または複製関連修復の際のDNAポリメラーゼδ(POLD)の機能を調節することが示唆される。
最近になって、ヒトWRNIP1が、POLDと物理的に相互作用して、主に開始頻度を増加させることによりそのDNA合成活性を刺激する、ホモオリゴマー複合体を形成することが示された(Tsurimoto T, et al. Genes Cells 2005 Jan;10:13-22)。本発明者らは、FGFR1OPとWRNIP1との結合がDNAポリメラーゼを調節し、DNAシンテターゼの活性化を調節し、かつその後の腫瘍細胞増殖の上方制御を調節しうると推定している。
一方、遍在的に発現されるABL1は、核および細胞質中に分布する非受容体型チロシンキナーゼである(Wen ST, et al. EMBO J. 1996 Apr 1;15(7):1583-95; Taagepera S, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jun 23;95(13):7457-62)。核ABL1は、DNA二本鎖切断および架橋を含む遺伝毒性ストレスによって活性化され、アポトーシスを誘導する(Kharbanda et al, 1995; Yuan et al, 1997)。DNA損傷による核ABL1の活性化は、p53、p73、およびRad9に部分的に依存する機構によってアポトーシスに寄与する(Kharbanda S, et al. Nature. 1995 Aug 31;376(6543):785-8; Gong JG, et al. Nature. 1999 Jun 24;399(6738):806-9; Yoshida K, et al. Mol Cell Biol. 2002 May;22(10):3292-300; Yuan ZM, et al. Nature. 1999 Jun 24;399(6738):814-7., Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Feb 18;94(4):1437-40)。さらに、DNA損傷に対する細胞応答は、ABL1と、Rad51、Rad52、BRCA1、およびUV損傷DNA結合タンパク質を含むDNA修復タンパク質との相互作用を伴う(Cong F, et al. J Biol Chem. 2002 Sep 20;277(38):34870-8. Epub 2002 Jul 9; Foray N, et al. Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32; Kitao H & Yuan ZM. J Biol Chem. 2002 Dec 13;277(50):48944-8. Epub 2002 Oct 11; Yuan ZM, et al. J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7):3799-802)。また、ABL1によるチロシンリン酸化はDNA損傷応答において重要な調節的役割を果たしており、これまでの報告から、ABL1によるRad51のリン酸化がその鎖交換活性を阻害すること(Yuan ZM, et al. J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7): 3799-802)、およびBRCA1がATM依存的様式でABL1によってリン酸化されること(Foray N, et al. Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32)が示されている。このようにABL1は、組換えDNA修復とアポトーシス誘導との協調の際に機能するようである。また最近の研究から、WRNがABL1によってリン酸化されること、つまりWRNエキソヌクレアーゼ活性およびヘリカーゼ活性両方のそのチロシンリン酸化阻害も確認されている。これまでの報告から、複製フォーク複合体がDNA損傷または構造ストレスによって引き止められると、WRN、WRNIP1、およびPOLDは三元複合体を形成し、POLD仲介性のDNA合成を調節するように機能する可能性が示されている(Kawabe Yi, et al. J Biol Chem. 2001 Jun 8;276(23):20364-9. Epub 2001 Apr 11; Tsurimoto T, et al. Genes Cells. 2005 Jan;10(1):13-22)。WRNIP1はセリンリン酸化およびチロシンリン酸化されうるが(Beausoleil SA, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Aug 17;101(33):12130-5. Epub 2004 Aug 9; Foray N, et al. Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(12):4020-32; Kitao H & Yuan ZM. J Biol Chem. 2002 Dec 13;277(50):48944-8. Epub 2002 Oct 11; Yuan ZM, et al. J Biol Chem. 1998 Feb 13;273(7):3799-802)、WRNIP1を直接リン酸化するキナーゼは報告されていない。本発明において、WRNIP1のチロシンがインビボおよびインビトロにおいてABL1によりリン酸化されるという最初の根拠を提供する。
要約すると、KIF4Aの活性化は、癌細胞の増殖および/または悪性表現型に関する特有の機能的役割をもつ。これらのデータによって、KIF4Aの発癌活性および/または癌細胞増殖に不可欠なKIF4A相互作用タンパク質複合体を特異的に標的とするための新たな抗癌薬の設計が可能になる。したがって本発明は、肺癌患者の治療のための新たな治療・診断戦略を提供する。
要約すると、本発明者らは、MAPJDがMYC転写複合体のメンバーとして遺伝子転写に関与していることを実証した。MAPJDは肺癌増殖の促進に不可欠であるため、これは抗癌薬の開発のための新規の治療標的となる。
結論として、本発明者らは、肺癌に対する診断・予後マーカーならびに新規の治療薬の開発のための標的としてNPTX1を同定した。
要約すると、本発明者らは、過剰発現されたFGFR1OPがNSCLCの増殖促進経路およびその攻撃的な特徴に不可欠な寄与因子であることを明らかにした。本明細書で報告したデータによって、FGFR1OP分子を標的にする、肺癌に特異的なバイオマーカーおよび抗癌薬の設計が可能になる。さらに、過剰発現されたFGFR1OPがABL1依存的なWRNIP1リン酸化を有意に低減しかつ肺腫瘍の細胞周期進行を引き起こすこと、およびFGFR1OPが肺癌の攻撃的特徴に不可欠な寄与因子でありうることが示された。
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャー・ダイセクションとゲノム全体にわたるcDNAマイクロアレイとの組み合わせを通して得られた、本明細書記載の小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)の遺伝子発現解析により、肺癌の予防および治療の標的としての特定の遺伝子が同定された。差次的に発現するこれらの遺伝子サブセットの発現に基づいて、本発明は、肺癌を同定および検出するための分子診断マーカーを提供する。
本明細書に記載の方法はまた、肺癌の予防、診断、および治療のためのさらなる分子標的の同定にも有用である。本明細書において報告したデータは、肺癌の包括的な理解を高め、新規診断戦略の開発を促進し、かつ治療薬および予防剤の分子標的の同定のための手がかりを提供する。そのような情報は、肺腫瘍形成のより深い理解に寄与し、かつ、肺癌を診断、治療、および究極的には予防するための新規戦略を開発するための指標を提供する。
さらに、本明細書に記載の方法は、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)を含む肺癌の診断においても、ならびにそれらの疾患を有する患者の予後不良の予測においても有用である。本発明はまた、肺癌を含む癌に対する治療的アプローチを開発するための有用な候補も提供する。
本明細書において実証されたように、KIF4A、MAPJD、およびFGFR1OPはそれぞれZNF553、MYC、およびWRNIP1と相互作用し、相互作用の阻害は、肺癌細胞の細胞増殖の阻害につながる。したがって、KIF4A/ZNF549、KIF4A/ZNF553、MAPJD/MYC、FGFR1OP/WRNIP1、またはFGFR1OP/ABL1の結合を阻害しかつその活性を妨害する作用物質には、抗癌剤としての、特に肺癌治療用の抗癌剤としての治療上の有用性が認められる。さらに本発明は、HAT複合体に結合したMAPJDがヒストンH4をアセチル化する活性を有することを示している。HAT複合体に結合したMAPJDは、SBNO1、TGFBRAP1、RIOK1、およびRASGEF1A遺伝子の5’隣接領域で見出されるEボックスにも結合する。したがって、HAT複合体に結合したMAPJDのアセチル化活性または結合を阻害しかつその活性を妨害する作用物質には、抗癌剤としての、特に肺癌治療用の抗癌剤としての治療上の有用性が認められる。さらに本発明は、FGFR1OPに結合したABL1がWRNIP1をリン酸化する活性を有することを示している。したがって、FGFR1OPに結合したABL1のリン酸化活性またはFGFR1OP/ABL1もしくはFGFR1OP/WRNIP1の結合を阻害しかつその活性を妨害する作用物質には、抗癌剤としての、特に肺癌治療用の抗癌剤としての治療上の有用性が認められる。
特記する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書を優先する。
本明細書で言及されたすべての刊行物、データベース、Genbank配列、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照により組み入れられる。
本発明を、その具体的な態様を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、それに対してさまざまな変更および修正を行いうることは、当業者には明らかであると考えられる。