織機の主軸の回転速度を大きく変更したとき、主軸の回転速度の切換わり付近で、緯糸密度むら(織段)が発生するという問題がある。その原因の1つとして、織機の主軸の回転に同期して筬打ち運動がなされるため、主軸の回転速度の高低によって筬の移動速度が変わる結果、筬打ち時における筬打ち力(筬の撓み量、つまり筬打ち点)が変化するためと考えられる。
例えば、主軸の回転速度が高い回転速度から低い回転速度に切り換わると、回転速度切り換わり時期付近において、織布では、織り込まれた部分の緯糸密度が通常の密度よりも粗になり、薄段が発生する。これは主軸の回転速度が低くなると、揺動駆動される筬の筬打ち力が変動し、筬の撓み量が小さくなって、筬打ち点が後方(織機の後側) に移動するためと考えられる。主軸の回転速度の切換について、逆に高い方向への切換もあり、その場合に、厚段が発生する。
機台再運転開始後の定常回転数に達した後の製織運転中において織機の回転速度の切り換わりによって生じる緯糸密度むらを解消する技術は、これまでのところ知られていない。
特許文献5および特許文献6のいずれの技術も、緯糸密度や織物組織の切換りにともなう織前位置の移動量を考慮したものにすぎない。このため、織物組織が緯入れピック番号により切換わる織物では、緯糸切換り目の前後にわたり緯糸密度むらが発生する。このような緯糸密度むらが発生する現象について、本願の発明者は、研究により織物の結束力(つまり経糸からの緯糸拘束力)が織物組織に切換りにより変化することに起因することを突き止めた。
織機の主軸の回転速度および緯糸拘束力に関連する要素の双方が切り換るとき、緯糸密度むらはより一層目立ちやすくなるが、それら双方の切換りを考慮して、経糸走行部材の速度を補正するという技術はこれまで存在しなかった。
〔発明の目的〕
本発明の目的は、織機の製織運転中に、緯糸拘束力に関連する要素あるいは織機の主軸の回転速度のうち少なくともいずれかを切換る織機において、上記切換りにともなって発生する緯糸密度むら(織段)をより目立たなくすることである。
上記の課題および目的のもとに、本発明は、速度指令信号により、経糸走行部材を駆動して、経糸を走行させる織機において、緯糸拘束力に関連する要素を切り換えるに際し、上記切換りにともなって発生する緯糸密度むらを解消する方向に、前記速度指令の信号を補正するようにしている。
経糸走行部材は、服巻ロール、経糸ビームのいずれか一方または双方を含む。なお、上記以外で経糸の走行(織前位置)に影響を与える部材として、開口装置、イージング装置なども考えられる。速度指令信号の補正開始時期は、切換り中、切換りの前後の近傍時期とする。切換りの前後の近傍時期の範囲は、具体的には十数ピック程度、実際には10ピック以下である。速度補正量に関係する値としては、補正開始時期、補正期間、速度補正量(割合)などのパラメータがあるが、そのうち少なくとも速度補正量については、予め設定される。
本発明は、請求項1に対応しており、緯糸拘束力に関連する要素の切換に関係する。具体的には、緯糸糸種のみによる切換を含む。なお、請求項2ないし請求項5は、上記の請求項1に従属する。
例えば、緯糸密度むらは、織機の製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材を駆動して経糸の走行を制御する経糸制御装置を備え、織機が定常回転速度に達した後の製織運転中に、更新される緯入れピック番号により織機の主軸の回転速度を一方の設定回転速度から他方の設定回転速度に切換える織機において、経糸制御装置には、前記速度指令に対する補正量が主軸の回転速度の切換りに対応して予め設定されており、前記回転速度の切換りにともない、経糸制御装置は、前記設定された補正量に従って、前記回転速度の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に前記速度指令を一時的に補正することによっても防止できる。また、前記速度指令の補正量は、前記2つの設定回転速度の差およびその回転速度の変更の方向のうち少なくともいずれかに対応して設定されることとしてもよい。回転速度の切換のときに、2つの設定回転速度の差が異なるとき、差の大きさに対応設定が考えられる。
織機の主軸の回転速度変更による緯糸密度むらの原因は、筬打ち速度の変化(筬の撓み量変化)によるものと考えられる。より詳しくは、筬の最終到達位置(筬打ち点)が主軸の回転速度により織布の前・後方向に変化するためである。主軸の回転速度の変更態様、これにより発生する緯糸密度むらは以下の通りである。すなわち、主軸の回転速度が低→高と変化すると、筬打ち時における筬の撓み量は小→大と変化する(換言すれば筬打ち時における筬打ち力は低→高と変化する)結果、緯糸密度むらの態様は密(厚段)となるため、速度補正態様は、速度を増大させて、送り量/巻取量を多くすることになる。また逆に、主軸の回転速度が高→低と変化すると、緯糸密度むらの態様は粗(薄段)となるため、速度補正態様は速度を減少させて、送り量/巻取量を少なくことになる。
ちなみに主軸の回転速度の切換の目的について、具体的には以下の積極的な変更の例が考えられる。その1は緯糸糸種により、緯入れ難易性を考慮して、主軸の回転速度を変更する。流体噴射式織機において、飛走しにくい緯糸で、緯入れが難しい緯糸の緯入れ時、主軸の回転速度を低くすることで、緯入れ時間(飛走期間)を長くする。例えばパイル織機における地織り部分とパイル織り部分とで緯糸の飛走特性の異なる緯糸に切換えのため、主軸の回転速度を異ならせる。その2は織物組織により主軸の回転速度を変更する。織物組織によっては、開口装置の負荷大きさがアンバランスになって振動が発生する場合、主軸の回転速度を低くすることで、振動を抑制あるいは織機装置の長命化を期待する。その3は織布工場の配台人員の多少により主軸の回転速度を変更する。配台人員の少ない時間シフト例えば深夜では、停台を避けるために主軸の回転速度を低くする。また、消極的な変更の例としては、緯糸飛走タイミングを一定にするために、緯糸飛走タイミングの遅速度合いに応じて主軸の回転速度変更する制御を実行することが想定される。
また、緯糸密度むらは、織機の製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材としての経糸ビームもしくは服巻ロールまたは経糸ビームおよび服巻ロールを駆動して経糸の走行を制御する経糸制御装置を備え、製織運転中に、更新される緯入れピック番号により、織布の緯糸拘束力に関連する要素としての織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度のうち2つ以上の要素を異なる条件に切換える織機において、経糸制御装置に、前記速度指令信号に対する補正量を前記2以上の要素の切換りに対応して予め設定しておき、製織運転中に、前記2以上の要素がともに切換る場合であって前記緯糸拘束力が変化する場合に、経糸制御装置22は、前記設定された補正量に従って前記速度指令を、前記2以上の要素の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正することによっても防止できる。
製織運転中に切換わる織布の緯糸拘束力に関連する要素は、織物組織のみ、または緯糸打込密度のみを除外する。製織条件としての緯糸拘束力に関連する要素について、例えば経糸の糸種、経糸密度も関係すると考えられるが、実際には製織運転中にはこれらの条件は切換できないため、それらは含まれない。
緯糸密度むらの発生原因は、緯糸拘束力の切換りにより、筬打ちによる衝撃を受け、緯糸拘束力が均一になる方向に緯糸自身が移動するためと考えられる。最初の筬打ちから数ピック間は、経糸からの拘束力が弱い状況にある。 しかし、その後の緯入れされた緯糸への筬打ち反動を受けて織布巻取側に徐々に移動して正規の緯糸密度になる。これに対し、織布(経糸)からの緯糸拘束力が切り換わると、その切換り点(境目)にある緯糸は、その後の緯入れ後の筬打ちの衝撃を受けて巻取側に移動する移動量が変わる。
この結果として、切換り点(境目)にある緯糸およびその前後にある緯糸は、織り込み直後の緯糸拘束力が弱い状況下において、緯糸拘束力に関連する要素の切換りにより、従来に比べ織口(織前)付近の張力関係が変わってしまい、さらにその後の緯入れの緯糸に対する筬打ちの衝撃を受ける結果、緯糸拘束力が均一になる方向に緯糸自身が移動する。
緯糸拘束力に関連する要素は、上記の通り、織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度である。織物組織に関して緯糸拘束力は、平織では高くなる傾向に、綾織(朱子織)では低くなる傾向になる。緯糸糸種に関して緯糸拘束力は、摩擦力が大きい綿糸などでは高くなる傾向となり、摩擦力が小さい化繊などでは低くなる傾向となる。さらに緯糸太さに関して緯糸拘束力は、太い糸では高くなる傾向に、細い糸では低くなる傾向になる。なお、2以上の要素の切換り態様は、同時切換に限らず、いずれか1以上の要素の切換り時期が残りの要素の切換り時期に対し数ピック程度の範囲でずれての切換も含まれる。
緯糸拘束力に関する要素の変更態様と発生する緯糸密度むらは次のようになる。緯糸拘束力が高い→低いに切換ったとき、切換り後の織込み部分で発生する緯糸密度むら状況は、密(厚段)となるから、速度補正態様は速度を増大させ、送り量/巻取量を多くすることになる。また、これとは逆に緯糸拘束力が低い→高いに切換ったとき、切換り後の織込み部分で発生する緯糸密度むら状況は、粗(薄段)となるから、速度補正態様は速度を減少させ、送り量/巻取量を少なくすることになる。
なお、切換り前の織込み部分にも密度むらが発生する場合、上記切換り前より速度補正を行うようにしてもよい。切換りの前後のうちいずれか一方の影響度合いが小さい(つまり無視できる)場合には、前記他方のみの設定も可能である。
これに対し、本願発明である織機の緯糸密度むら防止方法は、織機の製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材としての経糸ビームもしくは服巻ロール、または経糸ビームおよび服巻ロールを駆動して経糸の走行を制御する経糸制御装置を備え、製織運転中に、更新される緯入れピック番号により、織布の緯糸拘束力に関連する要素としての織物組織および緯糸打込密度をそのまま維持する一方、前記要素としての緯糸糸種を異なる条件に切換える織機において、経糸制御装置には、前記速度指令信号に対する補正量が、前記緯糸糸種の切換りに対応して予め設定されており、製織運転中に、前記緯糸糸種の切換りにともなって前記緯糸拘束力が変化する場合に、経糸制御装置は、前記設定された補正量に従って前記速度指令を、前記緯糸糸種の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正することを特徴とする。
ちなみに、緯糸密度むらは、織機の主軸の回転速度の切換えと緯糸拘束力に関連する要素の切換えとの組み合わせによっても防止できる。例えば、経糸制御装置は、前記設定された補正量に従って前記速度指令を、前記織機主軸の回転速度の切換りおよび緯糸拘束力が変化する場合にともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正する。
本発明によると、緯糸拘束力に関連する要素を切り換えにともなって発生する緯糸密度むらをより目立ちにくくでき、織物の品質が向上する。
ちなみに、経糸制御装置には、速度指令信号に対する補正量が、主軸の回転速度の切換りにともなう筬打ち速度の変化(筬撓み量の変化)を考慮して予め設定される。このため、製織運転中には、主軸の回転速度の切換りに対応して経糸走行部材に対する速度指令を、上記補正量にしたがって緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正するので、回転速度の変更時における筬打ち時の織前位置を上記考慮した位置に位置させることにより、従来生じていた筬打ち速度の変化による緯糸密度むらをより目立ちにくくできる。これによって、織物品質が向上する。
これに対し、本発明によれば、経糸制御装置には、速度指令信号に対する補正量が、緯糸拘束力に関連する要素の切換りによる緯糸の移動を考慮して予め設定される。このため、製織運転中には、緯糸拘束力に関連する要素の切換りに対応して経糸走行部材に対する速度指令を、上記補正量にしたがって緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正するので、従来生じていた緯糸密度むらすなわち一旦織り込まれた緯糸自身がその後の筬打ち時の衝撃を受けて緯糸拘束力が均一になる方向に移動する移動量を抑えることが可能になり、従来生じていた上記2つの要素の切換りにともなって変化する緯糸の拘束力ことに起因する緯糸密度むらをより目立たなくできる。したがって織物品質が向上する。
また、主軸の回転速度と緯糸拘束力に関連する要素との同時切換え時に、上記2つの切換りを考慮した経糸の速度補正量の設定により、緯糸密度むらをより目立ちにくくできる。したがって、織物品質が一層向上する。
〔従属項の効果〕
経糸制御装置における前記一時的な速度補正は、前記切換り開始の十数ピック前以降で、かつ前記変更終了の十数ピック後以前の範囲で開始されると、切換りの前後に波及する緯糸密度むらが有効に抑えられる。
経糸制御装置は、前記速度指令を、主軸の回転速度をパラメータとするべース速度をもとに発生させるとともに、前記速度指令の補正量に関するパラメータとして前記ベース速度に対する補正率ならびに速度補正期間が予め設定されており、前記経糸制御装置は、前記ベース速度に対し前記補正率による演算結果に基づく速度指令を発生することにより一時的に補正するから、速度補正量がベース速度に対する割合(数値)で入力されるため、作業者にとって、設定や調整が容易に行える。
経糸制御装置は、服巻ロールを駆動する巻取制御部および経糸ビームを駆動する送出制御部のうちいずれか一方とすることができ、例えば送出のみの速度補正の場合によると、巻取のみの速度補正の場合に比べ機能的にやや劣るものの同様効果を期待できる。また巻取および送出の双方を速度補正すれば、密度むら防止効果をより期待できる。
送出制御部は、前記一時的な補正に加えて、設定目標張力に対する張力偏差に基づく制御による前記速度指令補正成分を抑制または無効化する場合、さらに送出側の張力制御に基づく速度補正が抑制されるため、緯糸密度むら防止効果をより期待できる。
〔織機の概要〕
図1は、織機1の要部、特に経糸系の全体を示している。図1で、経糸2は、経糸ビーム3からシート状として送り出され、バックロール4を経て複数の綜絖5および筬6に通され、開口7を形成しながら織布8の織前9に達している。
一方、緯糸10は、上下の経糸2の開口7内に緯入れされた後、筬6により織前9に筬打ちされて織布8の組織となる。織布8はガイドロール11、プレスロール12、服巻ロール13、プレスロール14を経て、布巻ビーム15に巻き取られる。
綜絖5の開口運動、筬6の筬打ち運動は、織機1の主軸17の回転と連動している。主軸17は、主軸モータ16によって駆動される。主軸17の回転は、例えば電子ドビー式の開口装置18により各綜絖枠の往復運動(開口運動)に変換されて各綜絖5に伝達され、また筬打運動変換装置19によって筬打ち運動に変換され、筬6に伝達される。経糸ビーム3および服巻ロール13は、それぞれ送出モータ20、巻取モータ21により駆動される。
経糸ビーム3および服巻ロール13は、両方ともにまたは一方のみ回転することによって、経糸2を前後に移動させることから経糸走行部材を構成している。例えば服巻ロール13が本来の巻き取り制御の過程で、主軸17の回転速度の切り換わり時に、巻き取り方向に余計に回転すれば、経糸2は織布8とともに巻き取り方向(前方)に移動するから、織前9も同じ方向に余計に移動することになる。
次に図2は、織機1の一例として2色の流体噴射式織機の緯入れ系を示している。図2において、2つの緯糸10は、各緯糸ホルダ25により支持されているそれぞれの給糸体26から引き出され、ドラム緯糸巻き付け方式の緯糸測長貯留装置27の回転糸ガイド28に導かれ、静止状態のドラム29の外周の糸巻き付け面上で係止ピン30により係止されながら、回転糸ガイド28の回転運動によりドラム29の糸巻き付け面に巻き付けられることによって、測長されかつ緯入れ時まで貯留されている。なお、回転糸ガイド28は、駆動モータ31によって駆動されるようになっている。
緯入れ時点で緯入れ動作のために、係止ピン30がアクチュエータ32によって駆動されて、ドラム29の糸巻き付け面から後退および進出により、ドラム29の糸巻き付け面に巻き付けられていた緯糸10はドラム29上で1回の緯入れに必要な長さだけ解舒され、緯入れ用のメインノズル33に導かれる。メインノズル33は、緯入れ動作のために、噴射開始から噴射終了までの噴射期間で、圧力空気35を経糸2の開口7内に緯糸10とともに噴射することによって、1回の緯入れに必要な長さの緯糸10を開口7中に緯入れする。これにより、緯糸10は、開口7内の飛走経路に沿って飛走し、開口7中に緯入れされる。
なお、圧力空気35は、圧力空気源34から空気供給管路36、圧力調整弁37、電磁開閉弁38を経て、緯入れのための噴射期間中にメインノズル33に供給される。圧力調整弁37は、メインノズル33に対する圧力空気35の供給圧力を所定の圧力値に設定するために設けられている。
緯糸10の飛走過程で、1または2以上のグループのサブノズル39は、緯糸10の飛走方向に向けて、圧力空気35を緯糸10の飛走と調和しながらリレー噴射を行うことによって、開口7内で飛走中の緯糸10を緯入れ方向に付勢する。サブノズル39の圧力空気35は、圧力空気源34から圧力調整弁40、空気供給管路41、電磁開閉弁42を経て各グループのサブノズル39に供給される。圧力調整弁40はサブノズル39に対する圧力空気35を所定の圧力値に設定する。
メインノズル33および複数グループのサブノズル39の噴射動作により、正常に緯入れされた緯糸10は、筬6によって織前9に筬打ちされ、織布8に織り込まれた後、緯入れ側で給糸カッタ43によって切断される。これにより、織布8に織り込まれた緯糸10はメインノズル33内の緯糸10から切り離される。
緯入れ完了時に、緯入れの成否は、緯糸10の飛走経路(変形筬の筬溝)に向けられている緯糸フィーラ44によって検出される。緯糸フィーラ44は、緯糸到達側の織り端部分の近傍で緯糸10の飛走路に対向し、正常に緯入れされた緯糸10の到達し得る位置に設けられ、所定の検出期間内に緯糸4の到達を検出し、緯入れの成否を判断して、緯入れ不良時に緯止め信号を出力し、これを主制御部45に送る。
緯糸測長貯留装置27の駆動モータ31、緯糸測長貯留装置27のアクチュエータ32、メインノズル10に対応する電磁開閉弁38、サブノズル39に対応する電磁開閉弁42および圧力調整弁37、40は、いずれも緯入れ制御部46によって制御される。主制御部45および緯入れ制御部46に対する各種の設定データは設定器47により入力される。また織機1の主軸17に連結された角度検出器48は、主軸17の回転角度θの信号を発生し、主制御部45、緯入れ制御部46などに送る。
〔制御系の概要〕
図3は、経糸制御装置22(送出制御部23および巻取制御部24)に関連する設定器47、主制御部45、選択信号(切換信号)発生部49、主駆動部50、緯入れ制御部46などの接続例を示している。図3において、経糸制御装置22内部の送出制御部23、経糸制御装置22内部の巻取制御部24、主制御部45、緯入れ制御部46、選択信号(切換信号)発生部49および主駆動部50は、織機1の主軸17に連結されている角度検出器48から出力される回転角度θの信号を入力として、織機1の主運動と同期して動作する。
主制御部45は、設定器47からの設定値のデータや信号、緯糸フイーラ44からの緯止め信号のほかに、複数の織機操作ボタン55からの運転・停止・寸動・逆転などの指示を入力して、織機運転信号などを発生し、これを主駆動部50、緯入れ制御部46、経糸制御装置22(送出制御部23および巻取制御部24)に送り、その動作を制御する。主制御部45およびインバータ54は、織機1の運転時に主軸モータ16を制御する。
選択信号(切換信号)発生部49は、設定器47から入力された設定値のデータや信号、角度検出器48から出力される回転角度θの信号を入力とし、緯糸選択信号、開口枠選択信号、速度切換信号、打込密度選択信号および補正動作選択信号を発生し、緯糸選択信号を緯入れ制御部46に、開口枠選択信号を開口装置18の開口駆動部51に、速度切換信号を主駆動部50にそれぞれ送り、さらに打込密度選択信号および補正動作選択信号を送出制御部23および巻取制御部24に送る。
緯入れ制御部46は、緯糸選択信号を入力とし、緯糸10の糸種に応じて予め設定された回転角度θに達することにより電磁開閉弁38、42、係止ピン30のアクチュエータ32、圧力調整弁37、40を動作させる。開口装置18の開口駆動部51は、開口枠選択信号を入力として、織り組織に合った開口枠(綜絖5)を選択し、それに開口運動を与える。主駆動部50は、速度切換信号を入力したときに、現在の回転速度を新たに指定された回転速度に切り換えることによって、緯糸10の糸種や織り組織に適合する回転速度で主軸モータ16を駆動する。
さらに送出制御部23は、打込密度選択信号および補正動作選択信号を入力とし、駆動部52によって、緯糸10の打込密度に対応する回転速度(すなわち後述されるベース速度)に基づいて送出モータ20を駆動することにより、経糸2を送り出す。また、巻取制御部24も、打込密度選択信号および補正動作選択信号を入力とし、駆動部53によって、緯糸10の打込密度に対応する回転速度で巻取モータ21を駆動することにより織布8を巻き取る。補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換え時に、送出モータ20や巻取モータ21について、それぞれの回転速度の補正を必要とするときに出力される。
図4は巻取制御部24および駆動部53の具体例を示している。巻取制御部24は、ベース速度発生部56、補正信号発生部57およびパルス発生部58からなる。ベース速度発生部56には、設定器47から設定値として打込密度の複数のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号は、緯糸10の糸種や織組織に応じて打込密度の複数のデータから1つの打込密度を選択する。ベース速度発生部56は選択された打込密度に対応するベース速度の信号を発生し、それをパルス発生部58に送る。
一方、補正信号発生部57には、設定器47から設定値として補正開始時期、補正量としての補正割合、補正期間のデータが複数入力されて選択信号に対応して記憶されており、選択信号(切換信号)発生部49の出力としての補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換わりにともなって、巻取速度補正の必要時に適切な補正割合(補正率)、速度補正期間を選択し、補正率の信号をパルス発生部58に送る。
パルス発生部58は、上記のベース速度と補正率とにもとづいて速度補正期間にわたり速度指令に対応する駆動量(パルス数)の信号を発生し、この駆動量(パルス数)の信号を駆動部53に送る。そこで駆動部53は、速度補正期間にわたって駆動量(パルス数)の信号にもとづいて巻取モータ21を所定の回転速度(巻取速度)で駆動することになる。ここで巻取モータ21の巻取の回転速度は、ベース速度、補正率、係数を用いて、巻取の回転速度=ベース速度×{1+(補正率/100)}×係数として表される。
駆動部53は、正逆カウンタ59、電流発生器60、パルスジェネレータ61からなる。正逆カウンタ59は、入力されたパルス数すなわち速度指令に対応する信号を、電流発生器60に出力し、巻取モータ21を上記巻取の回転速度で回転させる。この巻取モータ21の回転はパルスジェネレータ61によって検出され、正逆カウンタ59に減算信号として送り返される。
図5は送出制御部23および駆動部52の具体例を示している。送出制御部23は、ベース速度発生部62、張力制御部63、補正信号発生部64、パルス発生部65からなる。ベース速度発生部62には、設定器47から設定値として打込密度の複数のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号は、緯糸10の糸種や織り組織に応じて打込密度の複数のデータから1つの打込密度を選択する。ベース速度発生部62は、選択された打込密度に対応するベース速度の信号を発生し、それをパルス発生部65に送る。
また、張力制御部63は、設定器47により設定値として設定されている目標張力のデータを入力とし、目標張力の値と張力センサ66により検出される実際の張力値とを比較して、それらの差(張力偏差)に応じた張力制御信号を発生し、それをパルス発生部65に送る。張力偏差がないときに、張力制御信号は0レベルの信号であるが、張力偏差があるときには、張力制御信号はその張力偏差に対応するレベルの信号となる。張力制御部63に補正動作選択信号が入力されているとき、張力制御部63の出力(張力制御信号)は無効となる。なお、張力センサ66は、図1で例えばバックロール4の支持位置に組み込まれ、そこに作用するすべての経糸2の合力から経糸2の張力値を検出する。
一方、補正信号発生部64には、設定器47から設定値として複数の補正割合、複数の速度補正期間のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49の出力としての補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換わりにともなって、補正の必要時に適切な補正割合(補正率)、速度補正期間を選択し、補正率の信号をパルス発生部65に送る。
パルス発生部65は、ベース速度発生部62からのベース速度、張力制御部63からの張力制御信号、補正信号発生部64からの補正率信号のほかに、巻径センサ67からの巻径の信号に基づいて、速度指令に対応する駆動量(パルス数)の信号を発生し、この駆動量(パルス数)の信号を駆動部52に送る。また、巻径センサ67は、図1のように、経糸ビーム3の近くに配置され、経糸2の巻径を検出し、その信号をパルス発生部65に送っている。なお、経糸ビームの巻径検出について、上記センサ67を用いて直接検出する代わりに、パルスジェネレータ70からの回転量信号をもとに間接検出する公知の方法を用いることも可能である。
したがって、駆動部52は、パルス発生部65から出力される速度指令としての上記駆動量(パルス数)の信号を入力として、所定の速度補正期間にわたって駆動量(パルス数)の信号にもとづいて送出モータ20を駆動することになる。ここで、送出モータ20の送出の回転速度は、ベース速度、補正率、張力偏差、係数、巻径を用いて、送出の回転速度=〔ベース速度×{1+(補正率/100)+(張力偏差/100)}×係数〕/巻径として表される。
駆動部52は、正逆カウンタ68、電流発生器69、パルスジェネレータ70からなる。正逆カウンタ68は、入力されたパルス数すなわち速度指令に対応する信号を、電流発生器69に出力し、送出モータ20を上記送出の回転速度で回転させる。この送出モータ20の回転はパルスジェネレータ70によって検出され、正逆カウンタ68に減算信号として送り返される。
〔入力画面の例〕
図6ないし図10は、設定器47をタッチパネル式入力表示器により構成したときの入力画面の例を示しており、より詳しくは、後述する第1の実施例に対する密度ムラ防止に関する設定データを入力する例を一例として示している。先ず、図6は、選択信号設定(開口設定・緯糸密度・緯糸選択・織物組織・回転数)の入力画面である。画面上で左側のn−5からn+6までの緯入れピックについて、電子ドビー装置における各開口枠の開口態様に関するデータ設定欄、および織機制御する際に用いられる各種選択信号の出力態様に関する信号データ設定欄がある。なお、開口枠は前記のように綜絖5の枠つまり綜絖枠のことである。より具体的には、画面下に記載したように、開口枠データ設定欄では、織機1の前側から後側に順に、開口枠NO.が割り当てられ、そのうちの2枠程度は耳組織に、残りの枠は地組織(経糸)に割り当てられる。さらに、画面下に記載したように、信号データ設定欄では、左から順にNO.1〜3緯糸選択信号(3bit・8色対応)、NO.4〜6緯糸密度選択信号(3bit・8密度対応)、NO.7〜8回転速度選択信号(2bit・4設定対応)、NO.7〜8回転速度選択信号(2bit・4設定対応)、NO.9〜10織物組織種類選択信号(2bit・4種類対応)、NO.11〜13補正動作選択信号(3bit・8設定対応)が割り当てられる。そして、このように表示されるタッチパネルの画面上に、編集に必要な各種のキーが操作可能な形で表示されている。なお、NO.7〜8、NO.11〜13は、後述の実施例1で使用され、NO.1〜3、NO.4〜6、NO.9〜10は後述の実施例2で使用される。
つぎに、図7および図8は、主軸17の回転速度の設定(回転速度の切換)に関する設定入力画面である。図7の画面上の左側で、速度切換工程1、2毎に変更開始ピック番号、回転数変更期間、変更前の回転数、変更後の回転数の入力欄があり、その入力欄に触れて入力項目を指定すると、画面上の右側にテンキーが表示され、テンキーの操作により、指定の入力欄に数値が入力できるようになっている。図8は、回転速度の設定(回転速度の切換)に関する入力後の画面を示す。画面上に編集やステップ進行に必要な各種のキーが配置されている。図8の回転速度の設定(回転速度の切換)の画面で、密度ムラ防止設定画面へのキーに触れると、図9の画面に切り換わる。
図9は、密度ムラ防止設定/巻取速度切換の画面を示している。この密度ムラ防止設定/巻取速度切換の画面では、設定1(速度切換工程1)、設定2(速度切換工程2)毎に、変更開始点としてピック番号および主軸クランク角度、変更終了点としてピック番号および主軸クランク角度、変更開始点の速度割合、変更終了点の速度割合が対応する入力欄で指定できる。主軸クランク角度は主軸17の回転角度θのことである。
ここでは図示しないが、図7と同様に、それぞれの入力欄に触れて入力項目を指定すると、画面上の右側にテンキーが表示され、テンキーの操作により、指定の入力欄に数値入力できるようになっている。図9は入力後の画面を示す。なお、画面上に編集やステップ進行に必要な各種のキーが配置されており、画面上の密度ムラ防止確認画面へのキーに触れると、図10の画面に切り換わる。
図9の画面で、密度ムラ防止確認画面へのキーに触れると、設定器47は、内蔵のアルゴリズムにより選択信号、速度補正パターンを自動的に決定するとともに、入力過程で設定されたデータを主制御部45、選択信号発生部49、主駆動部50、緯入れ制御部46、経糸制御装置22の送出制御部23および巻取制御部24に送ることになる。
図10は、密度ムラ防止確認画面を示している。図7から図9までの入力過程で設定されたデータは、図式化され、ピック番号の軸線上で主軸17の回転速度(主軸回転速度)、巻取速度のグラフとして表示され、作業者は、上記設定データから自動生成された、織機主軸および巻取モータ(つまりベース速度に対して速度補正された結果最終的に出力される速度)の各速度パターンを確認することができる。この例によると、主軸回転速度は速度切換工程1に従って100〜101ピックで主軸回転速度900rpmから200rpmへと所定の減少率で低下するのに対し、巻取速度は、設定1に従って99ピックから100の間では、基準となるベース速度(基準)に対して80%で出力するように所定のパターンで変化して(つまり、101ピックの直前では99ピック時におけるベース速度に対し44%程度の速度に)低いベース速度となるように、そして101ピック以降では、基準となるベース速度で再び出力するように設定されている。なお、この巻取速度のパターンについては、次に図11および図12で詳記する。この画面上で確認終了のキーに触れると、入力過程で設定されたデータは確定する。また、必要に応じ、設定過程に戻るための該当操作キーに触れることにより、密度ムラ防止設定画面あるいは織機主軸の回転速度の設定画面にもどる。
この実施例1の織機の緯糸密度むら防止方法は、前記のように、経糸制御装置22を備える織機1を前提としている。織機1は、起動してから定常回転速度に達した後の製織運転中に、更新される緯入れピック番号により主軸回転速度を、一方の設定回転速度から他方の設定回転速度に切換える例である。また、経糸制御装置22は、製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材としての服巻ロール13を一時的に減速駆動して経糸2の走行を制御する例でもある。この経糸制御装置22には、前記速度指令信号に対する補正開始時期、速度補正期間および補正量からなる補正パラメータが前記主軸回転速度の切換りに対応して、前記した図9に示す入力過程(設定画面に対する数値入力)を経て既に設定されている。
織機1の製織運転中、前記補正開始時期に達したときに、経糸制御装置22は、記設定された補正パラメータに従って、主軸17の回転速度の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に前記速度指令を補正する。前記速度指令の補正開始時期ならびに補正量に関する補正パラメータは、前記2つの設定回転速度の差およびその回転速度の変更の方向のうち少なくともいずれかに対応して設定される。
図11は、実施例1において、主軸17の回転速度の切換り前後における巻取モータ21の動作態様の説明図である。図11で、緯入れピック番号が100に達すると、主軸速度選択信号はr1からr2に変わる。すなわち、選択信号(切換信号)発生部49は、入力としての主軸17の回転角度θの0°(筬打ち点)信号の入力カウント数から緯入れピック番号を検出しており、緯入れピック番号100に達した時点で1パルスの速度切換信号を発生し、このとき主軸速度選択信号をr1からr2に変えて、主駆動部50に送る。
このため、主駆動部50は、緯入れピック番号100から101の速度切換工程1で、主軸17の回転速度を上記設定過程で入力された所定の速度変化勾配で低下させ、その回転速度を高い設定回転速度(900rpm)からこれよりも低い設定回転速度(200rpm)に切り換える。もちろん、高い設定回転速度(900rpm)および低い設定回転速度(200rpm)についても上記設定過程で、設定器47を介して予め入力されている。
一方、巻取モータ21は、緯入れピック番号98まで速度補正offとなっており、織機主軸の回転速度に対応するベース速度に基づき回転速度v1で一定であるが、緯入れピック番号99から100までの速度補正期間で速度補正onとなって、上記対応するベース速度に対しこの速度補正期間に対応して設定された速度補正率に基づいて、緯入れピック番号99では回転速度v1よりも低い回転速度v3で、その後の緯入れピック番号100では、速度v3からさらにやや低下させ、その後、速度補正期間を過ぎた緯入れピック番号101以降では、上記したように、再び織機主軸の回転速度に対応するベース速度に基づき主軸17の回転速度の速度変化勾配とほぼ等しい勾配で低下し、最終的に緯入れピック番号101を終える時点で回転速度v2となる。
このように織機主軸の回転速度の切換りにともなう経糸制御装置の速度補正動作は、選択信号(切換信号)発生部49と巻き取り制御部24との働きにより行われる。ベース速度に対しこれらの回転速度v1、v2を補正するための補正率も設定器47により予め入力されている。なお、速度補正期間に出力される速度指令値である回転速度v3は一例として、上記補正率の設定によりベース速度vbの0.8倍程度を出力するようにされている。
この巻取速度の制御によると、図11での速度補正期間のハッチング部分の面積は、織布8の織前9の位置の移動となって現れる。すなわち、本来、織布8の巻き取り量は、主軸17の回転量と比例すべきであるが、速度補正期間での織布8(経糸2)の巻き取り量は本来の巻き取り量よりもハンチングの面積に相当する分だけ少なくなる。このために、織布8の織前9の位置は、本来の移動すべき位置よりもハンチングの面積に相当する分だけ織機1上で後退つまり筬6側に寄っていることになる。
この結果、主軸17の回転速度が900rpmからこれよりも低い設定回転速度200rpmに切り換えられ、それによって筬6の撓み量が少なくなって、筬打ち力が弱くなったとしても、上記した一時的な速度補正にともない緯入れピック番号100以降の各筬打ち時点のおける織前9の位置が筬6側に寄っているから、弱い筬打ち力は織前9の位置補正によって補われる。織前9の位置補正が筬6の撓み量の変化に完全に対応する状態が理想であるが、完全に対応する状態にならなくとも、織前9の位置補正量に見合った効果が期待できるから、これによって緯糸密度むらは目立たなくできる。
上記のように実施例1によると、緯入れピック番号が100に達すると、主軸17の回転速度を高い設定回転速度からこれよりも低い設定回転速度に切り換える織機1において、緯入れピック番号が100以降の筬打ちに際し減少する筬打ち力に対し、巻取制御部24では、回転速度の低速への切換開始の1ピック手前より、減速方向に予め設定された補正率に従ってベース速度をもとに速度指令値を減少させることによって、織前位置の前方移動量を従来に比べ抑制させて織前9の位置を筬6側に移動させることにより、緯糸密度むら(薄段)をより目立たなくできる。
なお、速度指令に対する補正量を含む補正パラメータの設定について、以下の態様が考えられる。作業者が想定される織前位置に対する補正量を設定器47に入力すると、設定器47は、入力値をもとに所定のアルゴリズムによりベース速度に対する補正率、速度補正期間(時間)を自動的に決定する。これに代え必要に応じて、作業者は、ベース速度に対する補正率、速度補正時間を直接入力することもできる。
なお、図11の例では、巻取モータ21の速度指令の減速態様を示しているが、織物種類によっては、補正率のマイナス設定(逆転)も考えられる。また、主軸17の回転速度の切換について、減速例に限らず、増速例も想定でき主軸の回転速度が増速される例では、例えば厚段対策のために、巻取モータ21を一時的に増速駆動すべく補正率を大きく設定することも考えられる。
実施例1での速度補正期間は、図11の速度補正期間の設定例に見られるように、主軸の回転速度が変更される緯入れピック番号を前後として丸付き数字1〜6の期間のように選定することもできる。また巻取モータ21の速度変更と同時に、送出モータ20についても同様な制御が可能である。したがって、この速度制御は、巻取モータ21のみに限らず、送出モータ20のみについて実行できるほか、巻取モータ21および送出モータ20について同時に実行することもできる。
図12は他の速度補正態様例である。図12で、速度設定例丸付き数字1は、経糸(織前)への伝わりにくさを考慮した駆動として、例えば、織機回転数の減速により(薄段対策として)巻取モータ21への速度指令値を一時的に減少させる場合に、上記実施例1では速度補正期間では、減速駆動のみとしているが、織前位置に対する適切な補正量を超える減速駆動を行い、このあとに適正量に戻すための増速駆動としてから、下がり勾配の速度変化線にそって低下し、最終的に回転速度v2となる。また逆に、増速駆動後に適正量に戻すための減速駆動等も考えられる。
図12で、速度設定例丸付き数字2は、上記速度補正期間において、減速駆動を1回に限らず断続的に複数回に分けて行う例である。この丸付き数字2の例では、速度補正期間の初期と終期とで2回の減速駆動が行われる。1回および2回の減速駆動が終わると、巻取モータ21の回転速度は、基準となるベース速度である回転速度v1または下がり勾配の速度変化線にそって低下し、最終的に回転速度v2となる。ここでも、速度設定例丸付き数字1と同じように、2回の減速駆動が終わったとき、適正量に戻すために一時的に増速駆動としてから、下がり勾配の速度変化線にそって低下させることも考えられる。
速度指令に対する補正のしかたについて、上記したように、出力されるベース速度に対するパラメータにより補正する形態に限らない。例えば、後述する第2の実施例のように、予めベース速度に対し上記速度補正を考慮して速度パターンを作成しておき、速度補正期間になると、これまでのベース速度による駆動から上記作成した速度パターンによる駆動に切り換えて駆動することも可能である。また、このような方法の代わりに、ベース速度の算出のもとになるパラメータを補正パラメータとして代用し、例えば、補正期間における打込密度設定、緯糸密度について、正規の密度に対し織前位置の補正を考慮して段階的に変更する値を設定器を介して設定し、上記段階的に変更される緯糸密度設定値をもとにベース速度を発生させて上記速度補正を実現してもよい。
速度指令の補正態様について、経時的に一定値の速度補正、経時的に変化する(具体的には増加あるいは減少する)速度補正のいずれも含まれる。補正態様は、図11に示す連続的補正でなく、段階的(階段状)に補正してもよい。
本発明に対応される実施例2は、織布8の緯糸拘束力に関連する要素としての織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度のうち2つ以上の要素を異なる条件に切換える織機1において、その条件の切換えに応じて、前記2以上の要素の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に、設定された補正量に従って前記速度指令を一時的に補正する例である。
図13は、実施例2による緯糸拘束力に関連する要素の切換り前後における巻取モータ21の動作態様例の説明図である。以下実施例では、製織運転中に、織物組織および選択緯糸糸種の2つの要素が切り換わる例であり、また上記2つの要素切換りに際し、織機主軸の回転速度はそのまま維持するものを一例として示す。より具体的には、製織運転中に、緯入れピック番号が100に達すると、選択信号(切換信号)発生部49は、緯糸10の選択の切り換えのために、緯糸選択信号を緯入れ制御部46に出力すると同時に、織物組織の切り換えのために、織物組織切換信号を発生する例である。このとき、緯入れ制御部46は、緯入れすべき緯糸10を緯糸CL1(緯糸1−太番手)から緯糸CL2(緯糸CL2−中番手)に切り換える。
これと同時に、選択信号(切換信号)発生部49は、織物組織切換信号に基づいて、織物組織を平織W1から2/1綾織W2に切り換えるとともに、切り換え後の織物組織に適合する切換信号、開口枠選択信号を発生し、信号を開口駆動部51に与える。このため、また開口駆動部51は2/1綾織W2に対応した順序で複数の綜絖5を駆動することになる。
この緯糸拘束力に関連する要素は、緯糸10の太さと織物組織とであるが、これらの要素(緯糸の太さ・織物組織)は、ともに緯糸拘束力を低下する方向に作用する。一般に、織布内において経糸から受ける緯糸拘束力について、下記傾向があると考えられる。織物組織の場合、平織が最も強く、以下綾織、朱子織の順に弱くなっていき、また緯糸糸種を考えた場合、摩擦力の生じやすいもの(例えば綿糸など)が最も強く、摩擦力が小さいもの(例えば化繊など)が弱くなると考えられ、また同じ緯糸糸種を前提として緯糸の太さを考えた場合には、太い緯糸では、強くなり、逆に細い緯糸では弱くなると考えられる。本第2の実施例のケースでは、織物組織および緯糸の太さがともに緯糸の拘束力が弱くなる方向に切り換わる例であるため、この結果、緯糸密度むら対策を何ら行わないならば、上記2つの要素の切換りにともなって緯糸拘束力が大きく低下する結果、切換り直前(あるいはその近傍)の緯入れ緯糸に対しては、次回以降の緯入れ緯糸に対する筬打ちの反動を受けて、緯糸は緯糸拘束力の弱い方向(すなわち経糸側)に移動する結果、緯糸密度が粗くなる。また、切換り後(あるいはその近傍)の緯入れされた緯糸に対しては、緯糸拘束力の低下により次回以降緯入れされた緯糸への筬打ちにともなって緯糸がより巻取側に打ち込まれる結果、この間の緯糸密度は、切換り前に織り込まれた織布の緯糸密度に比べ密になる。つまり、上記切換りの前・後で織布8に粗→密の緯糸密度むらが発生するという問題が発生する。そこで本実施例では、上記2つの製織要素の切換りの2ピック前より、巻取速度を通常のベース速度よりも減少させ、その後上記2つの要素の切換りと同時に、織布の巻取量を通常のベース速度よりも大きく設定することにより、上記した一時的な速度補正を実現することで、上記反動による緯糸の移動が少なくなるようにし緯糸密度むらをより目立たなくする例である。
緯糸密度むらの発生対策のために、経糸制御装置22内の巻取制御部24および送出制御装置23は、実施例1と同様に、緯糸密度(打込密度)、織機1の回転速度に対応するベース速度に従って出力するか、予め定められる速度パターンに従って出力するかを補正動作選択信号により切換可能に構成されている。この補正動作選択信号は、選択信号(切換信号)発生部49から送られる。
そこで、一例として、選択信号(切換信号)発生部49が緯入れピック番号98の回転角度0°で巻取制御部24に対してのみ速度補正動作選択信号を出力したとすると、巻取制御部24は、上記要素の切換り2ピック前(緯入れピック番号98)〜切換り後の4ピック(緯入れピック番号104)にわたり、上記ベース速度への追従制御から設定器47を介して予め定められる速度パターンに追従する駆動に一時的に切換えて、巻取モータ21を回転させることにより、上記した緯糸密度むら(粗→密)をより目立たなくする。
具体的に記載すると、巻取モータ21の回転速度は、緯入れピック番号97まで回転速度v4(ベース速度vb)であったが、上記速度パターンに追従する駆動への駆動の切換えにより、緯入れピック番号98から緯入れピック番号99の区間で一定勾配で回転速度v5まで低下し、緯入れピック番号100の区間で回転速度v4(ベース速度vb)よりも高い回転速度v6まで急激に上昇した後、緯入れピック番号104を終える区間にわたり徐々に低下して、緯入れピック番号105に入るまでに回転速度v4(ベース速度vb)に落ちつく。
ここでの速度補正期間は、緯入れピック番号98の回転角度0°〜緯入れピック番号104の回転角度360°までの区間であるが、その設定例に丸付き数字により示すように、2つの要素である緯糸糸種および織物組織がともに切り換わる時期である緯入れピック番号99の回転角度360°を中心としてその前後あるいはそれを跨ぐように設定することもできる。
緯糸10の糸種、織物組織に対する選択信号に対応する糸種情報、織物組織情報も図示しないが、実施例1と同様に、設定画面により入力される。また、選択指令態様すなわち選択パターンは一方、図9に示す画面を介して入力される。これに対し、緯糸密度むら防止動作のための設定部47への数値入力画面は、図示省略するが、実施例1での図9と同様の画面により、緯糸拘束力に関連する要素の切換りに対応して入力される。
実施例2は、上記の例示ものに限らず、以下のように変形して実施できる。緯糸拘束力が低下する方向に限らず、逆に増大する方向への切換りに対応させることも考えられる。
巻取速度の速度補正は、図12のように切換りの前後を補正するようにしているが、切換りの前または後のいずれか一方が無視できる場合には、他方のみの設定も可能である。また巻取速度の補正量の設定態様は、図示の例に限らず、階段状、経時的に一定出力、あるいは複数回断続作動等実施例1と同様に考えられる。
緯糸拘束力に関連する要素について、緯糸10の糸種特にその太さ(番手)にのみ着目するようにしてもよい。また、緯糸拘束力に関連する要素の組合せは、織物組織、緯糸糸種に限らず、上記列記した織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度のうち2以上であればよい。
また巻取速度の補正量設定について、補正量は具体的には、作業者が適宜試し織を行って決定し、織付け後の試織段階で織物の状態を見て調節する、これまでの経験から得た値を利用する、緯糸拘束力に関連する要素を入力パラメータとするデータベースあるいは関数を用いて補正量(推奨値)を自動的に決定することが考えられる。
緯糸拘束力の目安となる数値として、例えば織布のカバーファクタがある。上記の補正量(推奨値)について、先ず織布のカバーファクタを算出し、次いで求めたカバーファクタの大小により上記補正値を決定することもできる。
織布のカバーファクタCFは、経のカバーファクタCFw、緯のカバーファクタCFpを用いて、下記の式により定義できる。
CF=CFw+CFp
経のカバーファクタCFwおよび緯のカバーファクタCFpは下記の式で与えられる。
CFw=A×2.4/√B、
CFp=C/√Dである。
ただし、上記式でパラメータA、B、C、Dはつぎのものを表す。
A:単位織幅長さ当たりの経糸本数
B:経糸の太さ(番手)
C:設定打込密度
D:緯糸太さ(番手)
具体的には、パラメータA=経糸総本数/筬通し幅で求める。
織物組織の数値化について、平織を基準値(100%)とする割合の形で決定される。例えば、2/1綾織では80%、3/1綾織では70%、4枚朱子では65%・・・など、組織の種類に対応する複数の係数の中から適宜選択する。従って上記式のカバーファクタに対し、さらに織物組織に対応する係数が加味された数式で計算した結果(例えば乗算結果)を、緯糸拘束力の目安となる数値として捉える。そして、切換り前・後の製織要素における数値をそれぞれ計算し、2つの値に基づいて補正量を決定することも可能である。なお、データベースや関数は、織機メーカ側より提供することが望ましい。
実施例3は、実施例1の要部と実施例2の要部とを組み合わせたものに相当し、織機1の主軸17の回転速度と緯糸拘束力に関連する2以上の要素の同時切換時に、緯糸密度むらを少なくする方向に経糸走行部材を移動させる。
すなわち実施例3の織機の緯糸密度むら防止方法は、製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材(経糸ビーム3、服巻ロール13)を駆動して経糸2の走行を制御する経糸制御装置22を備え、織機1が定常回転速度に達した後の製織運転中に、更新される緯入れピック番号により織機1の主軸17の回転速度を一方の設定回転速度から他方の設定回転速度に切換えると共に、製織運転中に、更新される緯入れピック番号により、織布8の緯糸拘束力に関連する要素としての織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度のうち2つ以上の要素を異なる条件に切換える織機1において、経糸制御装置22には、前記速度指令に対する補正量が主軸17の回転速度の切換りおよび前記2以上の要素がともに切換ることによって前記緯糸拘束力が変化する場合に対応して予め設定されており、製織運転中に、前記補正開始時期に達したときに、経糸制御装置22は、前記設定された補正量に従って前記速度指令を、前記回転速度の切換りおよび前記2以上の要素の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正することを特徴とする。
回転速度と緯糸拘束力に関連する要素との同時切換では、巻取速度の補正量(速度補正パターン)は、上記切換わる双方を考慮して決定される。
実施例3によると、2つの切換り(主軸17の回転速度と緯糸拘束力に関連する要素との切換り)を考慮した速度補正量の設定により、緯糸密度むらをより目立ちにくくできる。従って、織物品質が一層向上する。
〔他の実施態様〕
上記実施例1〜3において、それらは、具体的には次のように、変形して具体化される。経糸制御装置22における前記一時的な補正は、前記切換り開始の十数ピック前以降で、かつ前記変更終了の十数ピック後前の範囲にすることが望ましい。
巻取側に代えて、送出側(経糸ビーム3)を駆動するようにしてもよい。送出側(経糸ビーム3)を駆動する場合、図5の張力制御部63は、補正動作選択信号が入力されている間、張力制御にともなう速度補正を抑制すればより好ましい。それにより、速度補正が張力制御にともなう補正で打消されずに済むため有利となる。または、巻取側、送出側の双方を駆動するようにしてもよい。また、巻取側と送出側とで補正率(速度補正量、補正期間)を異ならせる設定も考えられる。いずれにしても、緯糸密度むらに対するより高い効果が期待できる。
経糸制御装置22は、服巻ロール13を駆動する巻取制御部24および経糸ビーム3を駆動する送出制御部23のうち、少なくともいずれか一方を含む。送出制御部23は、上記した一時的な補正に加え、設定目標張力に対する張力偏差に基づく制御(張力制御)による前記速度指令補正成分を抑制する。この抑制の過程で、張力制御を無効化することもある。これにより、送出側の張力制御に基づく速度補正が抑制されるため、いわゆる張力制御結果により上記した一時的な速度補正が打ち消されないから、緯糸密度むら防止効果をより期待できる。
また、経糸制御装置22は、前記速度指令を、主軸17の回転速度をパラメータとするべース速度をもとに発生させるとともに、速度指令の補正量に関するパラメータとして前記ベース速度に対する補正率ならびに速度補正期間が予め設定されており、製織運転中、前記補正開始時期に達したときに、前記経糸制御装置22は、前記ベース速度に対し前記補正率による演算結果に基づく速度指令を、前記補正期間にわたって発生することにより、前記速度指令を補正する。このようにすると、速度補正量がベース速度に対する割合(数値)で入力されるため、作業者にとって、設定や調整が容易に行える。
上記実施例は、上記切換りにともなう巻取速度の速度を主軸17の回転角度により制御する例であるが、主軸17の回転角度に代えて、時間を基準として制御する構成も可能である。時間を基準として制御するとき、速度補正の開始時点は角度で設定し、速度補正期間は時間で設定する。また、速度補正開始時点を所定角度からの経過時間で設定することもできる。
また上記した実施例について、経糸制御装置に対する速度補正の開始時期や速度補正期間を、作業者が設定器を介して任意設定可能にされているが、これら作業者が設定できない形態(言い換えれば、速度補正量のみを作業者が設定する形態)としてもよい。第1実施例、すなわち織機主軸の回転速度切換わりに対応する場合を一例とすれば、経糸制御装置に対する速度補正の開始時期、補正期間に関する設定パラメータを主軸回転速度変更に関する設定パラメータに兼用するように構成する事も考えられる。あるいは、速度指令に対する補正期間について、設定する形態ではなく、実機の状態、例えば織機回転速度が目的とする速度に到達したことにより速度補正期間が自動的に終了するように構成することも考えられ、本件発明には、そのような構成も含まれる。
経糸走行部材(服巻ロール13・経糸ビーム3)以外の経糸に接触する部材を駆動する構成も考えられる。一例として、バックロール4にイージング機構が付設され、そのイージング機構がアクチュエータ駆動される場合、例えば、織機1の主軸17の回転数の減速時には、薄段対策として上記した実施例における速度補正期間で、バックロール4の位置を一時的に後退駆動する。また、バックロール4以外について、各綜絖枠がアクチュエータ駆動される電動開口装置も考えられ、そのとき例えば織機回転数の減速時には、上記した実施例における速度補正期間で、開口量を一時的に増大させる駆動や、ドエル期間(停留角度)を変更するなどの駆動を行う。上記した経糸走行部材と組み合わせ駆動も考えられる。