JP2010219065A - 正極活物質及びリチウム二次電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能であり、塗布性が良好な正極活物質を提供すること。
【解決手段】リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有し、そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である正極活物質。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
【選択図】図1
【解決手段】リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有し、そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である正極活物質。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
【選択図】図1
Description
本発明は正極活物質及びリチウム二次電池に関する。更に詳しくは、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能であり、塗布性が良好な正極活物質、及び高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れ、生産性の高いリチウム二次電池に関する。
近年の携帯電話、VTR、ノート型パソコン等の携帯型電子機器の小型軽量化が加速度的に進行しており、その電源用電池として、リチウム二次電池が使用されている。リチウム二次電池は、一般に、エネルギー密度が大きく、単電池電圧も約4V程度と高いため、携帯型電子機器の電源用電池のみならず、電気自動車、ハイブリッド電気自動車のモータ駆動電源としても使用されている。
リチウム二次電池の正極活物質として、層状岩塩構造のコバルト酸リチウム、層状岩塩構造のニッケル酸リチウムやスピネル構造のマンガン酸リチウム等が知られている。層状岩塩構造のコバルト酸リチウムは、コバルトの埋蔵量が少なく生産地が偏在しているため、供給面において不安定であるといえる。また、層状岩塩構造のニッケル酸リチウムにおいては、充電状態における構造の不安定化という問題がある。
スピネル構造のマンガン酸リチウムは、層状岩塩構造のコバルト酸リチウムや層状岩塩構造のニッケル酸リチウムに比べて、安全性及びレート特性が高く、低コストであるが、高温サイクル特性に劣るという問題がある。この原因として、充放電中にMnイオンが電解液に溶出することにより、結晶構造が変化することが知られている。高温サイクル特性を改善する方法は種々検討されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
特許文献1には、平均一次粒子径が3〜20μmであって、平均二次粒子径が2.5〜40μmであり、平均一次粒子径と平均二次粒子径の比(平均一次粒子径/平均二次粒子径)が0.5〜1.2であるマンガン酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質が開示されている。また、特許文献2には、平均一次粒子径が3〜15μmであり、Na含有量が0.02重量%以下、S含有量が0.01重量%以下であって、三角状、四角状又は六角状の面をもつ多面体形状の四酸化三マンガン粒子粉末を用いた正極活物質が開示されている。
更に、特許文献3には、LixMn2−yMeyO4−z(式中、MeはAl、Zr又はZnであり、xは0<x<2、yは0≦y<0.6、zは0≦z≦2の値をとる。)で表されるリチウムマンガン複合酸化物の粉砕物を300〜800℃で加熱処理して得られ、平均粒子径が0.1〜50μm、且つ、BET比表面積が0.1〜2m2/gであるリチウムマンガン複合酸化物を用いた正極活物質が開示されている。また、特許文献4には、LixMn2−yMeyO4−z(式中、MeはMn以外の原子番号11以上の金属元素又は遷移金属元素であり、xは0<x<2、yは0≦y<0.6、zは0≦z<2の値をとる。)で表され、平均粒子径が0.1〜50μm、ロジン・ラムラーによるn値が3.5以上、且つ、BET比表面積が0.1〜1.5m2/gであるリチウムマンガン複合酸化物を用いた正極活物質が開示されている。
特許文献1〜4に開示された正極活物質を用いた場合、高温サイクル特性の向上は達成されている。しかしながら、Mnイオンの電解液への溶出を抑制するために、粒子径が大きく、比表面積が小さい粒子を使用している。粒子の比表面積を小さくする場合、Liの脱挿入できる面積が小さくなる。また、粒子の粒子径が大きい場合や粒子を凝集させた場合、Liイオンの固体内拡散距離が長くなる。そのため、十分な容量を維持できなくなる(即ち、レート特性が低下する)ことが懸念される。
本発明は上記の観点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能であり、塗布性が良好な正極活物質を提供することにある。
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、スピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、結晶性が良い多数の結晶粒子を含有させ、メディアン径D50と所定の数式から算出するDBETとの比D50/DBETを1〜4とすることで、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能であり、塗布性が良好な正極活物質が得られることを見出した。
即ち、本発明によれば、以下に示す正極活物質及びリチウム二次電池が提供される。
[1]リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有し、そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から下記一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である正極活物質。
DBET=6/(d×S) :(1)
(前記一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
DBET=6/(d×S) :(1)
(前記一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
[2]前記結晶粒子が、単一粒子を40面積%以上含むものである前記[1]に記載の正極活物質。
[3]前記結晶粒子が、非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものである前記[1]又は[2]に記載の正極活物質。
[4]ビスマスを含むビスマス化合物を更に含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の正極活物質。
[5]ジルコニウムを含むジルコニウム化合物を更に含有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の正極活物質。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、を有する電極体を備えたリチウム二次電池。
本発明の正極活物質は、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能であり、塗布性が良好であるという効果を奏するものである。
また、本発明のリチウム二次電池は、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れ、生産性が高いという効果を奏するものである。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれることが理解されるべきである。
本明細書中、「結晶粒子」とは、多結晶粒子、凝集粒子や単一粒子等の構成粒子全体をいう(即ち、粉末全体を構成する全粒子)。また、「一次粒子」とは、粉末を構成している粒子のうち、他の粒子と明確に分離できる最小単位の粒子をいい、具体的には、単一粒子を構成する粒子に加えて、多結晶粒子や凝集粒子を構成する粒子をもいう。更に、「単一粒子」とは、多数の結晶粒子に含有される結晶粒子のうち、1個の結晶粒子が単独で存在している結晶粒子のことをいう。即ち、多結晶粒子や凝集粒子を形成していない結晶粒子のことをいう。
I.正極活物質:
本発明の正極活物質は、リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有するものである。また、そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
本発明の正極活物質は、リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有するものである。また、そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
本発明の正極活物質を用いることで、リチウム二次電池の高温サイクル特性を向上しつつ、レート特性が優れる原因は定かではないが、次のように推測される。スピネル構造のマンガン酸リチウムの結晶粒子は結晶性が高い、即ち、結晶子径が大きく、格子歪の小さいものほど高温サイクル特性に優れるものである。しかしながら、このような結晶粒子は一般的に安定な結晶面で構成された略八面体形状の一次粒子であったり、それらが凝集、或いは結合した二次粒子であったりする。一次粒子である場合、この八面体を形成する安定な結晶面は(111)面であり、酸素原子最密面である。この結晶面は、充放電サイクルにおけるMn溶出を抑制するには効果的であるが、その一方で、充放電時のLiの脱挿入を抑制してしまうことも考えられる。また、二次粒子である場合、粒子内に粒界があることで、Liイオンの拡散が阻害される。そのため、高温サイクル特性が向上する一方で、レート特性が低下してしまう場合がある。
本発明の正極活物質は、結晶粒子の平均一次粒子径が1μm以上5μm未満と小さいのでLiイオンの固体内拡散距離が短い。また、D50/DBET比が1〜4なので、凝集が少なく、Liイオンの固体内拡散距離が更に短い。更に、結晶性が良い(結晶粒子内の格子欠陥が少ない)ので、Liイオンの拡散が格子欠陥によって妨げられることが少ない。また、単一粒子が多く含まれるので、Liイオンの拡散が粒界に阻害されることが少ない。更に、粒子表面に(111)面を有する結晶性の高い粒子なので電解液へのMnイオンの溶出を抑制し、且つ非八面体形状を有する一次粒子を有するのでLiの脱挿入のし易い結晶面も表面にでている。そのため、本発明の正極活物質は、高温サイクル特性を向上しつつ、レート特性に優れるリチウム二次電池を製造することができると推測される。
また、本発明の正極活物質は、結晶粒子の平均一次粒子径が1μm以上5μm未満と小さく、D50/DBET比が1〜4であるため、上記の効果に加えて塗布性が良好であるという効果がある。これは、結晶粒子の単一粒子の面積割合が40面積%以上と多い場合、特に顕著になる。塗布性が良好であるため、リチウム二次電池を製造する際のシート状の正極が調製し易く、生産性が高くなるという効果もある。
1.結晶粒子:
結晶粒子は、リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である。また、結晶粒子は、単一粒子を40面積%以上含むものであることが好ましい。更に、結晶粒子は非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものであることが更に好ましい。
結晶粒子は、リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である。また、結晶粒子は、単一粒子を40面積%以上含むものであることが好ましい。更に、結晶粒子は非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものであることが更に好ましい。
(マンガン酸リチウム)
結晶粒子は、リチウムとマンガンを構成元素として含み、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムからなるものである。マンガン酸リチウムの化学式は、通常、LiMn2O4で表される。結晶粒子は、このような化学式のマンガン酸リチウムに限定されて構成されるものではなく、例えば、下記一般式(3)で表される化学式を有するマンガン酸リチウムを、スピネル構造を有する限り用いて構成されるものでもよい。
LiMxMn2−xO4 (3)
結晶粒子は、リチウムとマンガンを構成元素として含み、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムからなるものである。マンガン酸リチウムの化学式は、通常、LiMn2O4で表される。結晶粒子は、このような化学式のマンガン酸リチウムに限定されて構成されるものではなく、例えば、下記一般式(3)で表される化学式を有するマンガン酸リチウムを、スピネル構造を有する限り用いて構成されるものでもよい。
LiMxMn2−xO4 (3)
一般式(3)中、Mは、Li、Fe、Ni、Cu、Mg、Zn、Al、Co、Cr、Si、Sn、P、V、Sb、Nb、Ta、Mo、及びWからなる群より選択される一種以上の元素、並びにTi、Zr、Ceを含む二種以上の置換元素を示し、Xは、置換元素Mの置換数を示す。Liは+1価、Fe、Mn、Ni、Cu、Mg、Znは+2価、B、Al、Co、Crは+3価、Si、Ti、Sn、Zr、Ceは+4価、P、V、Sb、Nb、Taは+5価、Mo、Wは+6価のイオンとなり、いずれの元素も、理論上はLiMn2O4中に固溶するものである。なお、Co、Snについては+2価の場合、Fe、Sb及びTiについては+3価の場合、Mnについては+3価、+4価の場合、Crについては+4価、+6価の場合もあり得る。従って、置換元素Mは混合原子価を有する状態で存在する場合がある。また、酸素については、必ずしも上記の化学式で表されることを必須とせず、結晶構造を維持するための範囲内で欠損して、又は過剰に存在していてもよい。
MnをLiで置換した場合(Li過剰の場合)には、マンガン酸リチウムの化学式は、Li(1+x)Mn(2−x)O4となる。なお、xの値は、0.05〜0.15であることが好ましい。xの値が0.05未満であると、MnをLiで置換したことによる高温サイクル特性の向上の効果が十分に得られない場合がある。
また、MnをLi以外の置換元素Mで置換した場合には、Li/Mn比は、1/(2−X)(即ち、Li/Mn比>0.5)となる。Li/Mn>0.5の関係を満たすマンガン酸リチウムを用いると、LiMn2O4で表される化学式のマンガン酸リチウムを用いた場合に比して結晶構造が更に安定化されるため、より高温でのサイクル特性に優れたリチウム二次電池を製造することができる。
結晶粒子は、全Mnの25〜55mol%が、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等で置換されたマンガン酸リチウム(例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)からなる粒子であってもよい。このような置換型マンガン酸リチウムを用いた正極活物質は、高温サイクル特性を向上しつつ、かつレート特性にも優れるリチウム二次電池を製造可能なことに加えて、充放電電位を高くして、エネルギー密度を増加させることができる。そのため、いわゆる5V級の起電力を有するリチウム二次電池を製造することができる。
(平均一次粒子径)
結晶粒子の平均一次粒子径は、1μm以上5μm未満であり、1〜4.5μmであることが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲にない場合、塗布性が劣ることに加え、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。高温サイクル特性が低下する理由は定かではないが、平均一次粒子径が1μm未満の場合、電解液へMnイオンが溶出しやすくなるためと考えられる。一方、平均一次粒子径が5μm以上の場合、レート特性が低下する場合がある。なお、平均一次粒子径は、以下のようにして規定される値である。
結晶粒子の平均一次粒子径は、1μm以上5μm未満であり、1〜4.5μmであることが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲にない場合、塗布性が劣ることに加え、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。高温サイクル特性が低下する理由は定かではないが、平均一次粒子径が1μm未満の場合、電解液へMnイオンが溶出しやすくなるためと考えられる。一方、平均一次粒子径が5μm以上の場合、レート特性が低下する場合がある。なお、平均一次粒子径は、以下のようにして規定される値である。
先ず、正極活物質粉末を、粒子同士が重ならないようにカーボンテープ上に載置し、イオンスパッタリング装置(商品名「JFC−1500」、日本電子社製)にてAuを厚さ10nm程度となるようにスパッタする。次いで、一次粒子が視野内に20〜50個、観察される倍率(例えば、倍率1000〜10000倍)にて、二次電子像を走査型電子顕微鏡(商品名「JSM−6390」、日本電子社製)を用いて撮影する。ここで、他の粒子で隠されていない部分における最大径と、この最大径に直交する径のうち最も長い径との平均値を一次粒子の粒子径(μm)とする。電子顕微鏡の画像の中から他の粒子で隠されて算出できない粒子を除いた全ての一次粒子の粒子径の平均値で平均一次粒子径を算出する。なお、一次粒子の粒子径は、単一粒子を構成する一次粒子のみならず、多結晶粒子や凝集粒子を構成する一次粒子についても、粒子径を測定して平均一次粒子径の算出に用いる。図1に、本発明の正極活物質の一例を示す電子顕微鏡写真を示す。
(結晶子径)
結晶粒子の粉末X線回折パターンにおける結晶子径は、500〜1500nmであり、500〜1300nmであることが更に好ましい。結晶子径がこの範囲にない場合、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。
結晶粒子の粉末X線回折パターンにおける結晶子径は、500〜1500nmであり、500〜1300nmであることが更に好ましい。結晶子径がこの範囲にない場合、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。
(格子歪(η))
また、結晶粒子の粉末X線回折パターンにおける格子歪(η)の値は、0.05×10−3〜0.9×10−3であることが好ましく、0.05×10−3〜0.85×10−3であることが更に好ましい。格子歪(η)の値がこの範囲にない場合、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。格子歪(η)の値が0.9×10−3超であると、高温サイクル特性が低下する場合がある。なお、結晶子径及び格子歪(η)の値は、下記数式(2)により算出することができる。
βcosθ=λ/D+2ηsinθ (2)
(式(2)中、βは積分半値幅(rad)を示し、θは回折角(°)を示し、λはX線の波長(Å)を示し、Dは結晶子サイズ(Å)を示す。)
また、結晶粒子の粉末X線回折パターンにおける格子歪(η)の値は、0.05×10−3〜0.9×10−3であることが好ましく、0.05×10−3〜0.85×10−3であることが更に好ましい。格子歪(η)の値がこの範囲にない場合、レート特性や高温サイクル特性が低下する場合がある。格子歪(η)の値が0.9×10−3超であると、高温サイクル特性が低下する場合がある。なお、結晶子径及び格子歪(η)の値は、下記数式(2)により算出することができる。
βcosθ=λ/D+2ηsinθ (2)
(式(2)中、βは積分半値幅(rad)を示し、θは回折角(°)を示し、λはX線の波長(Å)を示し、Dは結晶子サイズ(Å)を示す。)
より具体的には、粉末X線回折パターンによる回折像を、解析ソフト「TOPAS」を用いて、WPPD法(Whole Powder Pattern Decomposition)により解析して算出することができる。なお、粉末X線回折パターンは、例えば、ブルカーAXS社製、「D8ADVANCE」を用いて測定することができる。
(単一粒子)
本発明の正極活物質に含有される多数の結晶粒子は、単一粒子を40面積%以上含むものであることが好ましい。即ち、多数の結晶粒子に含まれる単一粒子の面積割合が、40面積%以上であることが好ましい。単一粒子の面積割合が40面積%未満であると、多結晶粒子又は凝集粒子等の二次粒子が相対的に多くなるため、二次粒子の粒界部でLiイオンの拡散が阻害され、レート特性が低下する場合がある。
本発明の正極活物質に含有される多数の結晶粒子は、単一粒子を40面積%以上含むものであることが好ましい。即ち、多数の結晶粒子に含まれる単一粒子の面積割合が、40面積%以上であることが好ましい。単一粒子の面積割合が40面積%未満であると、多結晶粒子又は凝集粒子等の二次粒子が相対的に多くなるため、二次粒子の粒界部でLiイオンの拡散が阻害され、レート特性が低下する場合がある。
多数の結晶粒子に含まれる単一粒子の面積割合は、以下の方法で求めることができる。先ず、正極活物質を導電性樹脂(商品名「テクノビット5000」、クルツァー社製)と混合し、硬化する。次に、機械研磨し、クロスセクションポリッシャー(商品名「SM−09010」、日本電子社製)を使用してイオン研磨する。その後、一次粒子が20〜50個、観察される倍率(例えば、倍率1000〜10000倍)にて、反射電子像を走査型電子顕微鏡(商品名「ULTRA55」、ZEISS社製)で正極活物質の断面を観察する。
反射電子像では、結晶方位が異なる場合、チャネリング効果によりコントラストが異なる。そのため、観察している結晶粒子の中に粒界部が含まれる場合、試料の観察方位(試料の傾き)を僅かに変えると、粒界部が明瞭になったり、不明瞭になったりする。この性質を利用して、粒界部の存在を確認することができるため、結晶粒子が単一粒子であるのか、結晶方位が異なる一次粒子が連なった多結晶粒子又は凝集粒子であるのかを識別することができる。
なお、図4に示すように微粒子51が粒子表面に付着している粒子も観察される。粒子の粒子径よりも大幅に小さい(例えば、0.01〜0.5μm程度)微粒子51が粒子の表面に付着している場合であっても、微粒子が粒子の表面に付着している部分は僅かであるため、レート特性や耐久性に影響を与えない。そのため、このような微粒子51が付着している粒子は、実質的に単一粒子と見なすことができる。
具体的には、反射電子像から画像編集ソフト(商品名「Image−Pro」、Media Cybernetics社製)を用いて見積られる粒子の周回の長さに対して、全ての付着部の長さを足した付着部長さが1/5以下である場合、その微粒子が付着している粒子は、単一粒子とみなす。単一粒子の面積割合は、判別可能である全ての結晶粒子が占有する面積(B)、及び単一粒子と判別された全ての単一粒子が占有する面積(b)を、前記画像編集ソフトを用いて測定し、式(b/B)×100に代入することで算出する。ここで、図5に示す白色粒子61は、前記導電性樹脂に含まれるCu粉末である為、評価の対象とはしない。Cu粉末かどうかは、前記走査型電子顕微鏡に付属しているEDS(商品名「Ultra Dry」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)による元素分析で判別できる。
(非八面体形状を有する一次粒子)
結晶粒子は、非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものであることが好ましく、80〜90面積%有するものであることが更に好ましい。非八面体形状を有する一次粒子の割合が70面積%未満であると、レート特性が低下する場合がある。以下、非八面体形状を有する一次粒子の割合の測定方法について記載する。
結晶粒子は、非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものであることが好ましく、80〜90面積%有するものであることが更に好ましい。非八面体形状を有する一次粒子の割合が70面積%未満であると、レート特性が低下する場合がある。以下、非八面体形状を有する一次粒子の割合の測定方法について記載する。
先ず、「非八面体形状を有する一次粒子」について説明する。図2A〜2Eに八面体形状を有する一次粒子の一例を示す電子顕微鏡写真を示す。八面体形状を有する一次粒子には、八面体形状を有する一次粒子31(図2A〜2C参照)のみならず、その一部が欠けている一次粒子32(図2D〜2E参照)も含まれる。一方、図3A〜3Fに非八面体形状を有する一次粒子の一例を示す電子顕微鏡写真を示す。非八面体形状を有する一次粒子には、明らかに八面体形状を有していない一次粒子41(図3A〜3B参照)のみならず、頂点が欠けている単一粒子42(図3C〜3D参照)や、丸みを帯びている一次粒子43(図3E〜3F参照)も含まれる。ここで、頂点が欠けている一次粒子42については、以下の判別方法で頂点を認定し、頂点が認定された場合に八面体形状を有する一次粒子に属するものとする。
先ず、その頂点を構成する4本の稜線のうち、見えている稜線を延長し、仮想の頂点(必要に応じて新たな稜線)を描く。次に、稜線(新たに追加した仮想の稜線を除く)の中で最も長い稜線を1本選ぶ。最後に、最も長い稜線について、実際の稜線の長さに対して、仮想部分の長さが5分の1以下のとき、その部分を頂点として認める。
次に、「非八面体形状を有する一次粒子の割合」の測定方法について説明する。粒子径、及び形状の評価が可能な全ての一次粒子が占有する面積(A)、及び非八面体形状を有する一次粒子が占有する面積(a)を、画像編集ソフト(商品名「photoshop」、Adobe社製)を用いて測定し、式(a)/(A)×100に代入することで算出することができる。
2.正極活物質:
本発明の正極活物質は、ビスマスを含むビスマス化合物を更に含有するものであることが好ましい。ビスマス化合物を更に含有することで、結晶粒子の表面からのMnの溶出を抑制し、高温サイクル特性を向上させる効果があると推察される。なお、ビスマス化合物は、例えば、電子顕微鏡(商品名「JSM−6390」、日本電子社製)を用いてその存在を確認することができる。
本発明の正極活物質は、ビスマスを含むビスマス化合物を更に含有するものであることが好ましい。ビスマス化合物を更に含有することで、結晶粒子の表面からのMnの溶出を抑制し、高温サイクル特性を向上させる効果があると推察される。なお、ビスマス化合物は、例えば、電子顕微鏡(商品名「JSM−6390」、日本電子社製)を用いてその存在を確認することができる。
ビスマス化合物は、例えば、酸化ビスマスやビスマスとマンガンの化合物等があるが、ビスマスとマンガンの化合物であることが好ましい。ビスマスとマンガンの化合物として、具体的には、Bi2Mn4O10やBi12MnO20の化学式で表される化合物を挙げることができる。これらの中でも、Bi2Mn4O10の化学式で表される化合物が特に好ましい。なお、ビスマス化合物は、X線回折測定(以下、「XRD測定」ともいう)又は電子線マイクロアナリシス(以下、「EPMA測定」ともいう)により同定することができる。
ビスマス化合物に含まれるビスマスの含有割合は、マンガン酸リチウムに含まれるマンガンに対して、10ppm〜5質量%であることが好ましく、10ppm〜1質量%であることが更に好ましい。10ppm未満であると、高温でのサイクル特性が低下する場合がある。一方、5質量%超であると、初期容量が低下する場合がある。なお、ビスマスの含有割合は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置(商品名「ULTIMA2」、堀場製作所社製)を用いて、リチウム、マンガン、ビスマスを定量し、その定量結果に基づいて算出することができる。
また、本発明の正極活物質は、ジルコニウムを含むジルコニウム化合物を更に含有するものであることが好ましい。ジルコニウム化合物を更に含有することで、結晶粒子の表面からのMnの溶出を抑制し、高温サイクル特性を向上させる効果があると推察される。なお、ジルコニウム化合物は、EPMA測定等によりその存在を確認することができる。
ジルコニウム化合物は、例えば、酸化ジルコニウム等がある。具体的には、ZrO2の化学式で表されるジルコニウム化合物を挙げることができる。なお、ジルコニウム化合物は、例えば、EPMA測定等を用いて同定することができる。
ジルコニウム化合物に含まれるジルコニウムの含有割合は、マンガン酸リチウムに含まれるマンガンに対して、10〜300ppmであることが好ましく、100〜300ppmであることが更に好ましい。10ppm未満であると、高温でのサイクル特性が低下する場合がある。一方、300ppm超であると、初期容量が低下する場合がある。なお、ジルコニウムの含有割合は、ICP発光分光分析装置を用いて、リチウム、マンガン、ジルコニウムを定量し、その定量結果に基づいて算出することができる。
(製造方法)
本発明の正極活物質を製造する方法に関しては、特に限定されるものではなく、例えば以下の方法がある。先ず、リチウム化合物と、マンガン化合物と、を含む混合粉末を調製する。
本発明の正極活物質を製造する方法に関しては、特に限定されるものではなく、例えば以下の方法がある。先ず、リチウム化合物と、マンガン化合物と、を含む混合粉末を調製する。
リチウム化合物としては、例えば、Li2CO3、LiNO3、LiOH、Li2O2、Li2O、CH3COOLi等を挙げることができる。マンガン化合物としては、MnO2、MnO、Mn2O3、Mn3O4、MnCO3、MnOOH等を挙げることができる。また、MnをLi以外の置換元素で置換する場合には、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、セリウム化合物等を混合粉末中に含ませてもよい。アルミニウム化合物としては、例えば、α−Al2O3、γ−Al2O3、AlOOH、Al(OH)3等を挙げることができる。マグネシウム化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)2、MgCO3等を挙げることができる。ニッケル化合物としては、例えば、NiO、Ni(OH)2、NiNO3等を挙げることができる。コバルト化合物としては、例えば、Co3O4、CoO、Co(OH)3等を挙げることができる。チタン化合物としては、例えば、TiO、TiO2、Ti2O3を挙げることができる。ジルコニウム化合物としては、例えば、ZrO2、Zr(OH)4、ZrO(NO3)2を挙げることができる。セリウム化合物としては、例えば、CeO2、Ce(OH)4、Ce(NO3)3を挙げることができる。
混合粉末には、必要に応じて粒成長促進助剤を更に含ませてもよい。粒成長促進助剤としては、NaCl、KCl等のフラックス助剤、Bi2O3、PbO、Sb2O3、ガラス等の低融点助剤等を挙げることができる。これらの中でも、Bi2O3が好ましい。また、混合粉末には、粒成長を促進させるために、スピネル構造のマンガン酸リチウムからなる種結晶を粒成長の核として含ませても良い。更に、種結晶と粒成長促進助剤を複合添加しても良い。この時、粒成長促進助剤は、種結晶に付着させた状態で添加しても良い。
なお、混合粉末は必要に応じて粉砕しても良い。混合粉末の粒径は10μm以下が好適なので、10μmより大きい場合、乾式・湿式の粉砕により10μm以下にすることが好ましい。粉砕方法はとくに限定されないが、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
次に、調製した混合粉末を成形して成形体を作製する。成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば、シート状、中空の粒子状、薄片状、ハニカム状、棒状、ロール状(捲回状)等を挙げることができる。より効率的に平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、非八面体形状を有する一次粒子を含む結晶粒子を形成するための成形体としては、例えば、厚さ1.5〜20μmのシート状の成形体、殻厚が1.5〜20μmの中空状の造粒体、径が1.5〜20μm程度の粒状の成形体、厚さ1.5〜20μmで50μm〜10mmサイズの薄片状の成形体、隔壁厚さ1.5〜20μmのハニカム状の成形体、厚さ1.5〜20μmのロール状(捲回状)の成形体、太さ1.5〜20μmの棒状の成形体等とすることができる。これらの中でも、厚さ1.5〜20μmのシート状の成形体とすることが好ましい。
シート状や薄片状の成形体を作製する方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドクターブレード法、混合粉末のスラリーを熱したドラム上に塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻き取るドラムドライヤー法、混合粉末のスラリーを熱した円板面上に塗布し、乾燥させたものをスクレイパーで掻き取るディスクドライヤー法、スリットを設けた口金に混合粉末を含む粘土を押し出す押出成形法等の方法で行うことができる。これらの成形方法の中でも、均一なシート状や薄片状の成形体が得られるドクターブレード法やドラムドライヤー法が好ましい。
上述の成形方法で得られた成形体の密度は、更にローラー等で加圧することにより、高めてもよい。また、中空状の造粒体は、スプレードライヤーの条件を適宜設定することで作製することができる。径が1.5〜20μmの粒状の成形体(バルク成形体)を作製する方法としては、例えば、スプレードライ法、混合粉末をローラー等で加圧する方法、押出成形された棒状やシート状の成形体を切断する方法等を挙げることができる。また、ハニカム状や棒状の成形体を作製する方法としては、例えば、押出成形法等を挙げることができる。また、ロール状の成形体を作製する方法としては、例えば、ドラムドライヤー法等を挙げることができる。
シート状や薄片状の成形体の厚さは1.5〜20μmであることが好ましく、2〜10μmであることが更に好ましく、3〜6μmであることが特に好ましい。成形体の厚さが20μm超であると、焼成して得た焼結体が厚み方向に粒子が多数連なる場合があり、解砕により単一粒子を得ることが困難になる場合がある。一方、1.5μm未満であると、作業上の問題が生じ、生産性が悪くなる場合がある。
次いで、得られた成形体を焼成して焼結体とする。焼成方法としては特に制限はない。シート状の成形体を焼成する場合、シート間での重なりが小さくなるように、1枚ごとにセッターに載せて焼成する方法や、シートをくしゃくしゃに丸めて、ふたの開いた鞘に入れた状態で焼成する方法が好ましい。焼成条件としては、粒成長促進助剤や種結晶の配合量や焼成雰囲気に応じて種々選択可能である。但し、高温で焼成を行う場合、コスト増となるため、効果とのバランスを調整する必要がある。また、組成によっては電池特性を悪化させる原因である酸素欠損が容易に生成する(例えば、Li1.02Mn1.91Al0.07O4)ことがある。この場合、粒成長促進助剤や種結晶を多めに配合し、低温で焼成を行う必要がある。
具体的な焼成条件として、Li1.1Mn1.9O4の組成の正極活物質を製造する場合、粒成長促進助剤の配合量は0〜0.5質量%、酸素雰囲気下では860〜1050℃、大気雰囲気下では860〜950℃であることが好ましい。また、Li1.08Mn1.83Al0.09O4の組成の正極活物質を製造する場合、粒成長促進助剤の配合量は0.01〜1.0質量%、酸素雰囲気下では860〜1050℃、大気雰囲気下では860〜950℃であることが好ましい。更に、Li1.02Mn1.91Al0.07O4の組成の正極活物質を製造する場合、粒成長促進助剤の配合量は0.01〜1.0質量%、酸素雰囲気下では800〜1050℃、大気雰囲気下では800〜950℃であることが好ましい。酸素雰囲気における酸素分圧は高い程好ましく、例えば、雰囲気の気圧の50%以上であることが好ましい。
焼成する際、昇温速度を調節することにより、焼成後の平均一次粒子径を均一化することができる。この際、昇温速度としては、例えば、50〜500℃/時とすることができる。また、低温度域で温度を保ち(キープ工程)、その後焼成温度で焼成することにより、一次粒子を均一に粒成長させることができる。この際、低温度域としては、例えば、焼成温度が900℃の材料の場合、400〜800℃程度である。また、焼成温度よりも高い温度(950〜1050℃)で結晶の核を形成した後、焼成温度(750〜900℃)で焼成することでも、一次粒子を均一に粒成長させることができる。
焼成は2段階に分けて行うこともできる。例えば、酸化マンガン及びアルミナの混合粉末をシート状に成形し、焼成した後、リチウム化合物を添加して更に焼成することによりマンガン酸リチウムを形成することができる。また、Li含有率が高いマンガン酸リチウム結晶を形成した後、酸化マンガンやアルミナを添加して更に焼成することにより、欠陥の少ない高容量のマンガン酸リチウムを形成することもできる。
焼成において、粒成長促進助剤や種結晶が存在することで、比較的低温(800〜1050℃)でも一次粒子の粒成長を促進し、結晶性を高める効果があると推察される。スピネル構造のマンガン酸リチウムは、このように焼成を行うことで、平均一次粒子径が比較的揃った一次粒子からなる多結晶体を調製することができる。なお、シート状の成形体の焼成において、厚み方向に粒子が1〜10個になるまで十分粒成長させることで、平均一次粒子径がおよそシートの厚さ以下で規定された値である一次粒子が概ね平面的に連結したシート状焼結体を調製することができる。更にこの場合、シートの厚さ方向の粒成長が限られ、二次元的な粒成長が促進されるため、非八面体形状となり易く、好ましい。更に、隣り合う一次粒子同士が二次元的に密に連結しており、その粒界部で解砕して単一粒子を得る場合、粒界をなしていた界面が表面に現れるため、非八面体形状となり易く、好ましい。また、バルク成形体を焼成する場合、一次粒子の粒成長は、バルク成形体を構成する粒子の径(1.5〜20μm)によって制限されるため、非八面体形状となりやすい。上述したようにして調製することにより、非八面体形状を有する一次粒子の割合が70面積%以上である焼結体を形成することが可能となる。
次いで、調製した焼結体を解砕処理する。解砕処理は、特に限定されるものではなく、例えば、メッシュやスクリーンを通すことや、ボールミルや振動ミル、ポットミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、パルベライザー、その他気流粉砕機等を用いて行うことができる。これらの中でも、ナイロン、ZrO2、Al2O3、ガラス、Si3N4、ナイロン被覆鉄等の玉石を用いて、ポットミルを行うことが好ましい。
焼結体の解砕方法及び解砕条件を適宜設定することで、結晶性を損なうことなく、粒界部が外れる程度に解砕することができる。それゆえ、簡単に平均一次粒子径を揃えるとともに、単一粒子の面積割合を40面積%以上とした結晶粒子が得られる上に、解砕時のエネルギーが小さくてすむため、格子歪や結晶子径等を損なわない。ここでいう、解砕方法としては、湿式であっても良く、乾式であっても良い。また、解砕条件は、玉石径、回転数、ポット径、時間、粉末量と玉石量の比等の条件をいう。
解砕処理後、平均一次粒子径が比較的揃った結晶粒子の平均一次粒子径を更に揃える為、湿式又は乾式の分級処理を行うこともある。分級処理は、特に限定されないが、メッシュや水簸、気流分級機、篩分級機、エルボージェット分級機等を用いて行うことができる。
得られた所望の粉末を600〜750℃の温度で、3〜48時間、大気雰囲気又は酸化雰囲気で再度熱処理する。再熱処理により、酸素欠損を修復し、所望の平均一次粒子径を有し、単一粒子の面積割合が40面積%以上であり、非八面体形状の一次粒子の割合が70面積%以上である多数の結晶粒子を含有する正極活物質を製造することができる。再熱処理は、解砕処理の前、即ち第一の焼成における降温時に、所望の温度で一定時間保持することでも、降温速度を遅くすることでも、酸素欠損の修復においては効果があり、行うことが可能である。この場合、一次粒子が概ね平面的に連結したシート状や薄片状の焼結体である場合は、三次元的に連結した焼結体に比べて、酸素の拡散距離が短くなるため、短時間で酸素欠損が修復される点で好適である。解砕処理後(若しくは分級処理後)に再熱処理をする場合、再熱処理した粉末を再度解砕・分級しても良い。解砕・分級方法は、上述した方法等で行うことができる。
本発明の正極活物質は、上述の製造方法により製造することができる。このような製造方法によれば、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、単一粒子の面積割合が40面積%以上であり、非八面体形状を有する一次粒子の割合が70面積%以上である多数の結晶粒子(即ち、正極活物質粉末)を調製することができる。なお、調製した多数の結晶粒子は、解砕時のエネルギーが小さいので、格子歪や結晶子径等を損なわず所望の範囲に設定する、即ち、結晶性が良いものである。
(物性)
メディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETは1〜4である。D50/DBET比が4より大きい場合、凝集粒子が多くなる為、レート特性が悪くなる場合がある。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
メディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETは1〜4である。D50/DBET比が4より大きい場合、凝集粒子が多くなる為、レート特性が悪くなる場合がある。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
具体的に次のように算出する。先ず、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA−750」、HORIBA製)を用い、水を分散媒として、正極活物質粉末の粒子径分布を測定する。粒子径分布において、質量積算値が50%となる粒子径D50(即ち、メディアン径(μm))を求める。次いで、比表面積測定装置(商品名「フローソーブII 2300」、島津製作所製)を用い、窒素を吸着ガスとして、正極活物質粉末の単位質量辺りの表面積(即ち、BET比表面積(m2/g))を求める。正極活物質粉末の単位質量辺りの表面積を一般式(1)に代入してDBET(μm)を求める。D50とDBETからD50/DBETを求めることができる。
II.リチウム二次電池:
本発明のリチウム二次電池は、「I.正極活物質」に記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、を有する電極体を備えるものである。本発明のリチウム二次電池は、高温におけるサイクル特性に優れるものである。このような特性は、大量の電極活物質を用いて製造された大容量の二次電池において特に顕著に現れることとなる。このため、本発明のリチウム二次電池は、例えば、電気自動車やハイブリッド電気自動車のモータ駆動用の電源として好適に利用することができる。但し、本発明のリチウム二次電池は、コイン電池等の小容量電池としても好適に利用することができる。
本発明のリチウム二次電池は、「I.正極活物質」に記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、を有する電極体を備えるものである。本発明のリチウム二次電池は、高温におけるサイクル特性に優れるものである。このような特性は、大量の電極活物質を用いて製造された大容量の二次電池において特に顕著に現れることとなる。このため、本発明のリチウム二次電池は、例えば、電気自動車やハイブリッド電気自動車のモータ駆動用の電源として好適に利用することができる。但し、本発明のリチウム二次電池は、コイン電池等の小容量電池としても好適に利用することができる。
正極は、例えば、正極活物質を、導電剤としてのアセチレンブラック、及び結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等と所定の割合で混合することで、正極材を調製し、金属箔の表面等に塗工して得られる。正極活物質としては、スピネル構造のマンガン酸リチウムのみを用いてもよいし、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム(いわゆる3元系)、リン酸鉄リチウム等の異なる活物質を混合して用いてもよい。ニッケル酸リチウムは、マンガン酸リチウムの耐久劣化の主要因であるマンガン溶出の原因となる電解液中で発生するフッ酸を消費し、マンガンの溶出を抑制するという効果がある。
本発明のリチウム二次電池を構成するための、正極活物質以外の材料としては、従来公知の種々の材料を用いることができる。例えば、負極活物質としては、ソフトカーボンやハードカーボンといったアモルファス系炭素質材料や、人造黒鉛、天然黒鉛等の高黒鉛化炭素材料、アセチレンブラック等を用いることができる。これらの中でも、リチウム容量の大きい高黒鉛化炭素材料を用いることが好ましい。これらの負極活物質から、負極材を調製し、金属箔等に塗工することで負極が得られる。
非水電解液に用いられる有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)等の炭酸エステル系溶媒の他、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の単独溶媒、又はこれらの混合溶媒が好適に用いられる。
電解質の具体例としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)やホウフッ化リチウム(LiBF4)等のリチウム錯体フッ素化合物;過塩素酸リチウム(LiClO4)等のリチウムハロゲン化物を挙げることができる。なお、通常、これらの電解質の一種以上を前述の有機溶媒に溶解して用いる。これらの中でも、酸化分解が起こり難く、非水電解液の導電性の高いLiPF6を用いることが好ましい。
電池構造の具体例としては、図6に示すように正極板12と負極板13の間にセパレータ6を配して電解液を充填させたコイン型のリチウム二次電池(コインセル)11や、図7に示すような金属箔の表面に正極活物質を塗工してなる正極板12と、金属箔の表面に負極活物質を塗工してなる負極板13とを、セパレータ6を介して捲回又は積層してなる電極体21を用いた円筒型のリチウム二次電池を挙げることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
[平均一次粒子径(μm)]:先ず、正極活物質粉末を、粒子同士が重ならないようにカーボンテープ上に載置し、イオンスパッタリング装置(商品名「JFC−1500」、日本電子社製)にてAuを厚さ10nm程度となるようにスパッタした。次いで、一次粒子が視野内に20〜50個、観察される倍率(例えば、倍率1000〜10000倍)にて、二次電子像を走査型電子顕微鏡(商品名「JSM−6390」、日本電子社製)を用いて撮影した。ここで、他の粒子で隠されていない部分における最大径と、この最大径に直交する径のうち最も長い径との平均値を一次粒子の粒子径(μm)とした。電子顕微鏡の画像の中から他の粒子で隠されて算出できない粒子を除いた全ての一次粒子の粒子径の平均値で平均一次粒子径を算出した。なお、一次粒子の粒子径は、単一粒子を構成する一次粒子のみならず、多結晶粒子や凝集粒子を構成する一次粒子についても、粒子径を測定して平均一次粒子径の算出に用いた。図1に、本発明の正極活物質の一例を示す電子顕微鏡写真を示す。
[単一粒子の面積割合(面積%)]:先ず、正極活物質を導電性樹脂(商品名「テクノビット5000」、クルツァー社製)と混合し、硬化した。次に、機械研磨し、クロスセクションポリッシャー(商品名「SM−09010」、日本電子社製)を使用してイオン研磨した。その後、一次粒子が20〜50個、観察される倍率(例えば、倍率1000〜10000倍)にて、反射電子像を走査型電子顕微鏡(商品名「ULTRA55」、ZEISS社製)で正極活物質の断面を観察した。
反射電子像から画像編集ソフト(商品名「Image−Pro」、Media Cybernetics社製)を用いて見積られた粒子の周回の長さに対して、全ての付着部の長さを足した付着部長さが1/5以下である場合、その粒子は単一粒子とみなした。単一粒子の面積割合は、判別可能であった全ての結晶粒子が占有する面積(B)、及び単一粒子と判別された全ての単一粒子が占有する面積(b)を、前記画像編集ソフトを用いて測定し、式(b/B)×100に代入することで算出した。
[非八面体形状を有する一次粒子の割合(面積%)]:粒子径、及び形状の評価が可能な全ての一次粒子が占有する面積(A)、及び非八面体形状を有する一次粒子が占有する面積(a)を、画像編集ソフト(商品名「photoshop」、Adobe社製)を用いて測定し、式(a)/(A)×100に代入することで算出した。
[結晶子径(nm)及び格子歪(η)の値]:粉末X線回折パターンを、ブルカーAXS社製、「D8ADVANCE」を用いて下記の条件により測定し、WPPD法により解析して算出した。
X線出力:40kV×40mA
ゴニオメーター半径:250mm
発散スリット:0.6°
散乱スリット:0.6°
受光スリット:0.1mm
ソーラースリット:2.5°(入射側、受光側)
測定法:試料水平型の集中光学系による2θ/θ法(2θ=15〜140°を測定、ステップ幅0.01°)
走査時間:メインピーク((111)面)の強度が10000counts程度になるように設定
ゴニオメーター半径:250mm
発散スリット:0.6°
散乱スリット:0.6°
受光スリット:0.1mm
ソーラースリット:2.5°(入射側、受光側)
測定法:試料水平型の集中光学系による2θ/θ法(2θ=15〜140°を測定、ステップ幅0.01°)
走査時間:メインピーク((111)面)の強度が10000counts程度になるように設定
なお、具体的な解析手順を以下に説明する。他の解析手順により得られる結晶子径(nm)及び格子歪(η)の値は、本解析手順により得られる結晶子径(nm)及び格子歪(η)の値と異なる場合もあるが、これらは本発明の範囲から除外されるものではない。本発明においては、本解析手順により得られる結晶子径(nm)及び格子歪(η)の値をもって、判断すべきである。
1.ソフト(TOPAS)起動、測定データ読み込み
2.Emission Profile設定(Cu管球、Bragg Brentano集中光学系を選択)
3.バックグラウンド設定(プロファイル関数としてルジャンドルの多項式を使用、項数は8〜20に設定)
4.Instrument設定(Fundamental Parameterを使用、スリット条件、フィラメント長、サンプル長を入力)
5.Corrections設定(Sample displacementを使用。試料ホルダーへの試料充填密度が低い場合、Absorptionも使用する。この場合、Absorptionは試料の線吸収係数で固定)
6.結晶構造設定(空間群F−d3mに設定。格子定数・結晶子径・格子歪を使用。結晶子径と格子歪によるプロファイルの広がりをローレンツ関数に設定)
7.計算(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、結晶子径、格子歪を精密化)
8.結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、手順9へ
9.格子歪によるプロファイルの広がりをガウス関数に設定(結晶子径はローレンツ関数のまま)
10.計算(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、結晶子径、格子歪を精密化)
11.結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、解析不可。
12.得られた格子歪の値にπ/180を乗じることで、ηとする。
1.ソフト(TOPAS)起動、測定データ読み込み
2.Emission Profile設定(Cu管球、Bragg Brentano集中光学系を選択)
3.バックグラウンド設定(プロファイル関数としてルジャンドルの多項式を使用、項数は8〜20に設定)
4.Instrument設定(Fundamental Parameterを使用、スリット条件、フィラメント長、サンプル長を入力)
5.Corrections設定(Sample displacementを使用。試料ホルダーへの試料充填密度が低い場合、Absorptionも使用する。この場合、Absorptionは試料の線吸収係数で固定)
6.結晶構造設定(空間群F−d3mに設定。格子定数・結晶子径・格子歪を使用。結晶子径と格子歪によるプロファイルの広がりをローレンツ関数に設定)
7.計算(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、結晶子径、格子歪を精密化)
8.結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、手順9へ
9.格子歪によるプロファイルの広がりをガウス関数に設定(結晶子径はローレンツ関数のまま)
10.計算(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、結晶子径、格子歪を精密化)
11.結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、解析不可。
12.得られた格子歪の値にπ/180を乗じることで、ηとする。
[D50/DBET]:メディアン径D50(μm)とBET比表面積から一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)から算出した。
[メディアン径D50(μm)]:先ず、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA−750」、HORIBA製)を用い、水を分散媒として、正極活物質粉末の粒子径分布を測定した。粒子径分布において、質量積算値が50%となる粒子径D50(即ち、メディアン径(μm))を求めた。
[DBET(μm)]:比表面積測定装置(商品名「フローソーブII 2300」、島津製作所製)を用い、窒素を吸着ガスとして、正極活物質粉末の単位質量辺りの表面積(即ち、BET比表面積(m2/g))を求めた。正極活物質粉末の単位質量辺りの表面積を一般式(1)に代入してDBET(μm)を求めた。
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
DBET=6/(d×S) :(1)
(一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。)
[レート特性(%)]:試験温度を20℃とし、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電した。電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて1Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を測定し、放電容量C(1C)とした。次いで、試験温度を20℃とし、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電した。電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した後、10分間休止し、続いて10Cレートの電流値で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した後、10分間休止する、という充放電操作を1サイクルとする。20℃の条件下で合計3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を測定し、放電容量C(10C)とした。10Cレートでの放電容量C(10C)の、1Cレートでの放電容量C(1C)に対する容量維持率(%)をレート特性として算出した。
[サイクル特性(%)]:試験温度を60℃とし、1Cレートの定電流−定電圧で4.3Vまで充電、及び1Cレートの定電流で3.0Vまでの放電を繰り返すサイクル充放電を行った。100回のサイクル充放電終了後の電池の放電容量を初期容量で除した値を百分率で表した値をサイクル特性とした。
[Bi含有割合]:ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置を用いて測定した。具体的には、結晶粒子に塩酸を加えて加圧分解することで調製した溶液試料を、ICP発光分光分析装置(商品名「ULTIMA2」、堀場製作所社製)に投入して、Li、Mn、及びBiの定量分析をし、この定量分析に基づいて、マンガン酸リチウムに含まれるマンガンに対する、ビスマス化合物に含まれるビスマスの含有割合を算出した。
[Zr含有割合]:ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置を用いて測定した。具体的には、結晶粒子に塩酸を加えて加圧分解することで調製した溶液試料を、ICP発光分光分析装置(商品名「ULTIMA2」、堀場製作所社製)に投入して、Li、Mn、及びZrの定量分析をし、この定量分析に基づいて、マンガン酸リチウムに含まれるマンガンに対する、ジルコニウム化合物に含まれるジルコニウムの含有割合を算出した。
(実施例1〜4:正極活物質の製造)
原料調製工程:Li1.1Mn1.9O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、及びMnO2に対する質量割合(%)が、表1に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
原料調製工程:Li1.1Mn1.9O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、及びMnO2に対する質量割合(%)が、表1に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
シート成形工程:この混合粉末に対して、バインダーとしてのポリビニルブチラール(商品名「エスレックBM−2」、積水化学社製)10部と、可塑剤(商品名「DOP」、黒金化成社製)4部と、分散剤(商品名「レオドールSP−O30」、花王社製)2部と、を添加し、混合することで、スラリー状成形原料を得た。得られたスラリー状成形原料を減圧下で撹拌して脱泡することで、スラリーの粘度を500〜4000mPa・sに調整した。粘度を調整したスラリー状成形原料を、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に成形してシート状成形体を得た。なお、シートの生厚さを表1に記載する。
焼成工程:PETフィルムから剥離したシート状成形体をカッターで300mm角に切り、アルミナ製の鞘(寸法:90mm×90mm×高さ60mm)に、くしゃくしゃに丸めた状態で入れた。その後、フタをあけた状態(即ち、大気雰囲気中)又は酸素雰囲気中で、600℃で2時間脱脂した後、表1に記載した温度で表1に記載した時間焼成した。
解砕工程:焼成後のシート状成形体を、表1に示す条件でポットミルにより解砕を行った。
再熱処理工程:解砕した後の粉末を、更に、大気中、600〜750℃で3〜48時間、大気雰囲気中又は酸素雰囲気中、再熱処理することにより、正極活物質を製造した。
(比較例1〜3:正極活物質の製造)
原料調製工程において、表1に示す条件としたこと以外は実施例1〜4と同様にして正極活物質を製造した。
原料調製工程において、表1に示す条件としたこと以外は実施例1〜4と同様にして正極活物質を製造した。
実施例1〜4及び比較例1〜3における、ビスマス化合物の添加量、シートの生厚さ、焼成工程の条件、解砕工程の条件、粉末(正極活物質)の物性を表1に記す。
(実施例5〜8及び比較例4〜6:正極活物質の製造)
原料調製工程:Li1.08Mn1.83Al0.09O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、MnO2に対する質量割合(%)が、表2に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)、及びAl(OH)3粉末(昭和電工社製、商品名H−43M、平均粒子径0.8μm)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
原料調製工程:Li1.08Mn1.83Al0.09O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、MnO2に対する質量割合(%)が、表2に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)、及びAl(OH)3粉末(昭和電工社製、商品名H−43M、平均粒子径0.8μm)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
シート成形工程〜再熱処理工程は、実施例1〜4と同様にして正極活物質を製造した。実施例5〜8及び比較例4〜6における、ビスマス化合物の添加量、シートの生厚さ、焼成工程の条件、解砕工程の条件、粉末(正極活物質)の物性を表2に記す。
(実施例9〜12及び比較例7〜9:正極活物質の製造)
原料調製工程:Li1.02Mn1.91Al0.07O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、MnO2に対する質量割合(%)が、表3に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)、及びAl(OH)3粉末(昭和電工社製、商品名H−43M、平均粒子径0.8μm)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
原料調製工程:Li1.02Mn1.91Al0.07O4の化学式となるように、Li2CO3粉末(本荘ケミカル社製、ファイングレード、平均粒子径3μm)、MnO2粉末(東ソー社製、電解二酸化マンガン、FMグレード、平均粒子径5μm、純度95%)、MnO2に対する質量割合(%)が、表3に記載した割合となる量のBi2O3粉末(粒径0.3μm、太陽鉱工社製)、及びAl(OH)3粉末(昭和電工社製、商品名H−43M、平均粒子径0.8μm)を秤量した。この秤量物100部と、分散媒としての有機溶媒(トルエン及びイソプロピルアルコールを等量混合した混合液)100部とを、合成樹脂製の円筒型広口瓶に入れ、ボールミル(φ(直径)5mmのジルコニアボール)で16時間、湿式混合及び粉砕を行って混合粉末を得た。
シート成形工程〜再熱処理工程は、実施例1〜4と同様にして正極活物質を製造した。実施例9〜12及び比較例7〜9における、ビスマス化合物の添加量、シートの生厚さ、焼成工程の条件、解砕工程の条件、粉末(正極活物質)の物性を表3に記す。
(実施例13〜16及び比較例10〜12:リチウム二次電池の製造)
図6は、本発明のリチウム二次電池の一実施形態を示す模式的な断面図である。図6において、リチウム二次電池(コインセル)11は、正極集電体15と、正極層14と、セパレータ6と、負極層16と、負極集電体17と、を、この順に積層し、この積層体と電解質とを電池ケース4(正極側容器18と、負極側容器19と、絶縁ガスケット5と、を含む)内に液密的に封入することによって製造されたものである。
図6は、本発明のリチウム二次電池の一実施形態を示す模式的な断面図である。図6において、リチウム二次電池(コインセル)11は、正極集電体15と、正極層14と、セパレータ6と、負極層16と、負極集電体17と、を、この順に積層し、この積層体と電解質とを電池ケース4(正極側容器18と、負極側容器19と、絶縁ガスケット5と、を含む)内に液密的に封入することによって製造されたものである。
具体的には、実施例1〜4及び比較例1〜3で製造した正極活物質5mgと、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、質量比で5:5:1となるように混合することで、正極材を調製した。調製した正極材を、直径(φ)15mmのアルミメッシュ上に載せ、プレス機により10kNの力で円板状にプレス成形することで、正極層14を作製した。
そして、作製した正極層14と、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度となるように溶解して調製した電解液と、Li金属板からなる負極層16と、ステンレス板からなる負極集電体17と、リチウムイオン透過性を有するポリエチレンフィルムからなるセパレータ6と、を用いて、リチウム二次電池(コインセル)11を製造した。製造したリチウム二次電池(コインセル)11を用いてレート特性及びサイクル特性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
表4からわかるように、実施例1〜4の正極活物質を用いると、サイクル特性を向上しつつ、レート特性に優れるリチウム二次電池を製造可能であることがわかる(実施例13〜16)。単一粒子の面積割合が40面積%以上である正極活物質(実施例2)、単一粒子の面積割合が40面積%以上で、かつ非八面体形状を有する一次粒子の割合が70%以上である正極活物質(実施例3〜4)を用いた場合、レート特性及びサイクル特性が特に優れることがわかる(実施例14〜16)。一方、平均一次粒子径が1μm未満である正極活物質(比較例1)、D50/DBET比が4超である正極活物質(比較例2)、結晶子径が500nm未満であり、格子歪(η)の値が0.9×10−3超である正極活物質(比較例3)を用いると、レート特性及びサイクル特性の少なくともいずれかが低下することがわかる(比較例10〜12)。
(実施例17〜20及び比較例13〜15:リチウム二次電池の製造)
実施例5〜8及び比較例4〜6で製造した正極活物質を用いたこと以外は実施例13〜16及び比較例10〜12と同様にして、リチウム二次電池を製造した。製造したリチウム二次電池を用いてレート特性及びサイクル特性の評価を行った。評価結果を表5に示す。
実施例5〜8及び比較例4〜6で製造した正極活物質を用いたこと以外は実施例13〜16及び比較例10〜12と同様にして、リチウム二次電池を製造した。製造したリチウム二次電池を用いてレート特性及びサイクル特性の評価を行った。評価結果を表5に示す。
表5からわかるように、実施例5〜8の正極活物質を用いると、サイクル特性を向上しつつ、レート特性に優れるリチウム二次電池を製造可能であることがわかる(実施例17〜20)。単一粒子の面積割合が40面積%以上である正極活物質(実施例6)、単一粒子の面積割合が40面積%以上で、かつ非八面体形状を有する一次粒子の割合が70%以上である正極活物質(実施例7〜8)を用いた場合、レート特性及びサイクル特性が特に優れることがわかる(実施例18〜20)。一方、平均一次粒子径が1μm未満である正極活物質(比較例4)、D50/DBET比が4超である正極活物質(比較例5)、結晶子径が500nm未満であり、格子歪(η)の値が0.9×10−3超である正極活物質(比較例6)を用いると、レート特性及びサイクル特性の少なくともいずれかが低下することがわかる(比較例13〜15)。
(実施例21〜24及び比較例16〜18:リチウム二次電池の製造)
実施例9〜12及び比較例7〜9で製造した正極活物質を用いたこと以外は実施例13〜16及び比較例10〜12と同様にして、リチウム二次電池を製造した。製造したリチウム二次電池を用いてレート特性及びサイクル特性の評価を行った。評価結果を表6に示す。
実施例9〜12及び比較例7〜9で製造した正極活物質を用いたこと以外は実施例13〜16及び比較例10〜12と同様にして、リチウム二次電池を製造した。製造したリチウム二次電池を用いてレート特性及びサイクル特性の評価を行った。評価結果を表6に示す。
表6からわかるように、実施例9〜12の正極活物質を用いると、サイクル特性を向上しつつ、レート特性に優れるリチウム二次電池を製造可能であることがわかる(実施例21〜24)。単一粒子の面積割合が40面積%以上である正極活物質(実施例10)、単一粒子の面積割合が40面積%以上で、かつ非八面体形状を有する一次粒子の割合が70%以上である正極活物質(実施例11〜12)を用いた場合、レート特性及びサイクル特性が特に優れることがわかる(実施例22〜24)。一方、平均一次粒子径が1μm未満である正極活物質(比較例7)、D50/DBET比が4超である正極活物質(比較例8)、結晶子径が500nm未満であり、格子歪(η)の値が0.9×10−3超である正極活物質(比較例9)を用いると、レート特性及びサイクル特性の少なくともいずれかが低下することがわかる(比較例16〜18)。
本発明の正極活物質は、高温でのサイクル特性に優れたリチウム二次電池を製造可能である。そのため、ハイブリッド電気自動車、電気機器、通信機器等の駆動用電池に利用が期待できる。
4:電池ケース、5:絶縁ガスケット、6:セパレータ、7:巻芯、11:リチウム二次電池、12:正極板、13:負極板、14:正極層、15:正極集電体、16:負極層、17:負極集電体、18:正極側容器、19:負極側容器、21:電極体、22:正極用タブ、23:負極用タブ、31,32,41,42,43:一次粒子、51:微粒子、61:Cu粉末。
Claims (6)
- リチウムとマンガンを構成元素として含むスピネル構造のマンガン酸リチウムからなり、平均一次粒子径が1μm以上5μm未満であり、粉末X線回折パターンにおける結晶子径が500〜1500nmであり、格子歪(η)の値が0.05×10−3〜0.9×10−3である多数の結晶粒子を含有し、
そのメディアン径D50(μm)とBET比表面積から下記一般式(1)を用いて算出したDBET(μm)との比D50/DBETが1〜4である正極活物質。
DBET=6/(d×S) :(1)
(前記一般式(1)中、dは、正極活物質粉末の真密度(g/cm3)を示す。Sは、BET比表面積(m2/g)を示す。) - 前記結晶粒子が、単一粒子を40面積%以上含むものである請求項1に記載の正極活物質。
- 前記結晶粒子が、非八面体形状を有する一次粒子を70面積%以上有するものである請求項1又は2に正極活物質。
- ビスマスを含むビスマス化合物を更に含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の正極活物質。
- ジルコニウムを含むジルコニウム化合物を更に含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の正極活物質。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、を有する電極体を備えたリチウム二次電池。
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