JP2010214283A - 複層塗膜形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】水性カチオン電着塗料組成物を用いて、二段階で電圧を印加してリン酸亜鉛前処理が不要な複層塗膜形成方法において、防錆性をさらに改善する方法の提供。
【解決手段】(A)電解析出性防錆金属塩、(B)カチオン基を有する基体樹脂、および(C)硬化剤を含む水性カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する、浸漬工程、
該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50V未満の電圧を印加する、電解析出工程、および該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50〜450Vの電圧を印加する、電着塗装工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、該水性カチオン電着塗料組成物に含まれる(A)電解析出性防錆金属塩が(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種を特定量で含むことを特徴とする複層塗膜形成方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、同一水性カチオン電着塗料組成物の使用によって、金属素材、とりわけ未処理冷延鋼板に施される電着塗装前の前処理(下地処理)工程と、電着塗装工程とを統合することができる複層塗膜形成方法に関する。
自動車車体は、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板等の金属素材を成形し、この金属成形物を被塗物として塗装し、次いで組み立て等を行うことにより製造される。このような金属成形物は一般に、電着塗膜に対する密着性等を付与するために、電着塗装前にリン酸亜鉛化成処理等の防錆処理(前処理とも呼ばれている。)が行われている。
カチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装は、耐食性、つきまわり性に優れており、均一な塗膜を形成させることができるため、自動車車体、部品用プライマーを中心に広く使用されている。しかしながら、従来のカチオン電着塗料組成物においては、被塗物にリン酸亜鉛などの前処理がなされている素材に対しては、電着塗装により十分な耐食性を発現させることができるものの、被塗物の前処理(化成処理など)が不十分である場合は、耐食性確保が困難であるという問題があった。
特許3168381号公報(特許文献1)には、カチオン基を有する親水性フィルム形成性樹脂および硬化剤を、中和剤を含む水性媒体中に分散してなる陰極電着塗料組成物において、塗料固形分を基準にして、アルミニウム塩、カルシウム塩および亜鉛塩より選ばれた少なくとも1種のリンモリブデン酸塩を0.1〜20重量%、およびセリウム化合物を金属として0.01〜2.0重量%含むことを特徴とする陰極電着塗料組成物が記載されている。これにより、表面未処理冷延鋼板に対する耐食性を改良可能することができると記載されている。
特許3368399号公報(特許文献2)には、カチオン基を有する親水性フィルム形成性樹脂および硬化剤を、中和剤を含む水性媒体中に分散してなる陰極電着塗料組成物において、塗料固形分を基準にして、銅化合物およびセリウム化合物を金属として合計0.01〜2.0重量%含み、金属として銅/セリウム重量比が1/20〜20/1であることを特徴とする陰極電着塗料組成物が記載されている。これも同様に、表面未処理冷延鋼板に対する耐食性を改良可能することができると記載されている。
しかしながら、上記電着塗料組成物を用いる塗装はいずれも、印加電圧100〜450V条件の一段階電着塗装による一段階電着塗装が行われている。このような電解、電着条件においては、セリウムあるいはセリウム―銅による皮膜形成が不充分となる。そのため、これらの発明による耐食性の改良レベルは、何れも、従来のリン酸塩による従来化成処理に匹敵する下地密着性を発現し、かつ電着塗装後における耐食性を発現する程には至っていない。
WO2006−109862号(特許文献3)には、上述の前処理工程と電着塗装工程とを統合した新しい複層塗膜形成方法が提案されている。この複層塗膜形成方法では、希土類金属化合物を配合したカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬して第1段階として50V未満の電圧を印可して希土類金属の電解反応生成物の析出層を形成し、その後同じカチオン電着塗料組成物中で印加電圧を50〜450Vに上げて通常の電着塗装を行うものである。この方法は、前処理(電解析出)工程と電着塗装工程が1つのカチオン電着塗料組成物中で行われるので、これまで別々の工程で行っていた前処理と電着塗装を一段階で行うことができ、塗装工程の短縮効果は極めて大きい。
しかしながら、特許文献3の方法では、工程は短縮することができ、腐食試験(塩水噴霧試験および塩水浸漬試験)でも良好な防錆性が示されるので、優れた方法であるが、防錆性に更なる改善が要求されている。
特許第3168381号公報 特許第3368399号公報 WO2006−109862号
本発明は、上記特許文献3の複層塗膜形成方法において、防錆性をさらに改善することを目的とする。
本発明は、
(A)電解析出性防錆金属塩、(B)カチオン基を有する基体樹脂、および(C)硬化剤を含む水性カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する、浸漬工程、
該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50V未満の電圧を印加する、電解析出工程、および
該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50〜450Vの電圧を印加する、電着塗装工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
該水性カチオン電着塗料組成物に含まれる電解析出性防錆金属塩(A)が(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種よりなり、
該電解析出性防錆金属塩(A)の総量が、塗料中に、金属に換算して、100〜20,000ppmの量であり、
該電解析出性防錆金属塩(A)中の各成分(a1)、(a2)および(a3)の金属量が、金属量の合計を100質量%とした場合、成分(a1)5〜40質量%、成分(a2)40〜90質量%および成分(a3)5〜40質量%である、
ことを特徴とする、複層塗膜形成方法を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
上記の亜鉛より沈殿pHの低い希土類金属塩(a1)の希土類金属は、好ましくは、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)およびそれらの混合物から成る群から選択されるものである。
また、上記の亜鉛より沈殿pHの高い金属塩(a3)の金属は、好ましくは、ニッケル(Ni)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびそれらの混合物から成る群から選択されるものである。
前記電解析出工程において析出する、亜鉛より沈殿pHの低い希土類金属塩(a1)、(B)亜鉛塩(a2)および亜鉛より沈殿pHの高い金属塩(a3)の電解反応生成物の量は、好ましくは、計5mg/m以上である。
前記電解析出工程における通電時間は10〜300秒であるのが好ましい。
前記電着塗装工程における通電時間は10〜300秒であるのが好ましい。
本発明は、また、上記の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜も提供する。
本発明者等は、WO2006−109862号の複層塗膜形成方法で形成された塗膜が、塩水噴霧試験は塩水浸漬試験では高い防錆性を発揮するにも拘わらず、複合環境腐食促進試験と呼ばれる複合サイクル腐食試験(CCT)においては必ずしも良い結果が得られないことを認識した。その原因は、本来、被塗物の表面近傍は、最初の低い電圧による電解析出で形成される希土類金属の電解反応生成物が多く存在する層でなければならないはずであるが、実際には電着塗料の樹脂が入り混ざった層であることが判明した。本発明者等はこの被塗物の表面近傍の層を電解析出性の防錆金属を多く含むようにするために実験を行い、亜鉛を中心としてそれから沈澱pHの高い金属と、亜鉛と、亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属とを所定濃度で共存させた場合に被塗物の表面近傍に防錆性金属を多く含む層が形成されることを見いだした。そのように形成された被塗物は、塩水噴霧試験および塩水浸漬試験で高い性能を示すばかりでなく、複合環境腐食促進試験でも高い防食性を示すことが判明した。本発明は、この様な検討から完成された。
従って、本発明の複層塗膜形成方法で得られた複層塗膜(即ち、低い電圧で電解析出した層と電着塗装により析出した樹脂層)は、防錆性が塩水噴霧試験および塩水浸漬試験のみならず複合環境腐食促進試験と呼ばれる複合サイクル腐食試験においても高い防錆性を有する。また、本発明の複層塗膜形成方法では、1つのカチオン電着塗料組成物で電圧を変化させるだけで防錆性の高い防錆金属層と、電着塗装により形成される電着塗膜とが形成され、従来法では前処理として形成されていた被塗物の防錆前処理が不必要となる。従って、本発明によれば、通常、脱脂と水洗をした被塗物を、従来では必須の工程であった前処理工程(通常、リン酸亜鉛処理工程)を経ないで、そのまま本発明によるカチオン電着塗料組成物中に浸漬して、印加する電圧を変化するだけで電着塗膜の形成までが完結する。通常の工程では、前処理(リン酸亜鉛処理)をしたあとにも、水洗工程が必要であるが、その工程も必要が無くなる。従って、工程数の大幅な削減と、処理時間の短縮、および不要な工程に使用していた場所の削減が達成される。
カチオン電着塗料組成物
本発明の複層塗膜形成方法は、(A)電解析出性防錆金属塩、(B)カチオン基を有する基体樹脂、および(C)硬化剤を含む水性カチオン電着塗料組成物を用いて実施される。以下、本発明に用いるカチオン電着塗料組成物について詳述する。
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物に含まれる電解析出性防錆金属塩(A)は、(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種よりなる。沈澱pHを測定するには、金属塩の溶液をまず作製する。その金属塩の溶液中に0.1規定のKOH溶液を滴下するとpHが変化する。その際に滴定曲線を作成しpHが上昇し一度安定するまでに生じる変曲点のpHを沈澱pHとする。
亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩(a1)の希土類金属は、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)およびそれらの混合物から成る群から選択される。亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩(a1)としては、水溶性であるか又は水に難溶性である塩を使用することができる。なかでも、水に対する溶解度が1g/dm3 以上である水可溶性塩を用いる場合は、少量の使用で高い耐食効果が得られるため、好ましい。亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩(a1)の例としては、蟻酸イッテルビウム、酢酸イッテルビウム、乳酸イッテルビウム、シュウ酸イッテルビウム、蟻酸イットリウム、酢酸イットリウム、乳酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、蟻酸ジスプロシウム、酢酸ジスプロシウム、乳酸ジスプロシウム、シュウ酸ジスプロシウム、蟻酸ホルミウム、酢酸ホルミウム、乳酸ホルミウム、シュウ酸ホルミウム、蟻酸エルビウム、酢酸エルビウム、乳酸エルビウム、シュウ酸エルビウム、蟻酸ツリウム、酢酸ツリウム、乳酸ツリウム、シュウ酸ツリウム、蟻酸ルテチウム、酢酸ルテチウム、乳酸ルテチウム、シュウ酸ルテチウム等の有機酸塩;硝酸イッテルビウム、タングステン酸イッテルビウム、モリブデン酸イッテルビウム、アミド硫酸イッテルビウム、酸化イッテルビウム、水酸化イッテルビウム、硝酸イットリウム、タングステン酸イットリウム、モリブデン酸イットリウム、アミド硫酸イットリウム、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、硝酸ジスプロシウム、タングステン酸ジスプロシウム、モリブデン酸ジスプロシウム、アミド硫酸ジスプロシウム、酸化ジスプロシウム、水酸化ジスプロシウム、硝酸ホルミウム、タングステン酸ホルミウム、モリブデン酸ホルミウム、アミド硫酸ホルミウム、酸化ホルミウム、水酸化ホルミウム、硝酸エルビウム、タングステン酸エルビウム、モリブデン酸エルビウム、アミド硫酸エルビウム、酸化エルビウム、水酸化エルビウム、硝酸ツリウム、タングステン酸ツリウム、モリブデン酸ツリウム、アミド硫酸ツリウム、酸化ツリウム、水酸化ツリウム、硝酸ルテチウム、タングステン酸ルテチウム、モリブデン酸ルテチウム、アミド硫酸ルテチウム、酸化ルテチウム、水酸化ルテチウム等の無機酸塩又は無機化合物等を挙げることができる。これらの中で、より好ましい希土類金属塩(a1)は、電解析出性の高いイッテルビウム(Yb)の各塩である。
亜鉛塩(a2)は、水溶性であるか又は水に難溶性である塩かを問わず使用することができる。特に、水に対する溶解度が1g/dm3 以上である水可溶性塩が、少量の使用で高い耐食効果が得られるため、好ましい。使用しうる亜鉛塩(a2)は、カルボン酸塩、硝酸亜鉛あるいは硫酸亜鉛などの水溶性塩が挙げられる。さらに、カチオン電着塗料組成物中で亜鉛イオンを生じる酸化亜鉛と縮合リン酸亜鉛との複合化合物、および(ポリ)リン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛などを用いることもできる。これらの亜鉛化合物は、一般に顔料として用いることができるものである。
亜鉛より沈澱pHの高い金属塩(a3)の金属は、ニッケル(Ni)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびそれらの混合物から成る群から選択される。亜鉛より沈澱pHの高い金属塩(a3)としては、水溶性であるか又は水に難溶性である塩の両方ともを使用することができる。特に、水に対する溶解度が1g/dm3 以上である水可溶性塩を用いる場合は、少量の使用で高い耐食効果が得られるため、好ましい。亜鉛より沈澱pHの高い金属塩(a3)の例としては、例えば、蟻酸ネオジム、酢酸ネオジム、乳酸ネオジム、シュウ酸ネオジム、蟻酸ニッケル、酢酸ニッケル、乳酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、蟻酸セリウム、酢酸セリウム、乳酸セリウム、シュウ酸セリウム、蟻酸プラセオジム、酢酸プラセオジム、乳酸プラセオジム、シュウ酸プラセオジム、蟻酸ランタン、酢酸ランタン、乳酸ランタン、シュウ酸ランタン、蟻酸サマリウム、酢酸サマリウム、乳酸サマリウム、シュウ酸サマリウム等の有機酸塩;硝酸ネオジム、タングステン酸ネオジム、モリブデン酸ネオジム、アミド硫酸ネオジム、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、硝酸ニッケル、タングステン酸ニッケル、モリブデン酸ニッケル、アミド硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸セリウム、タングステン酸セリウム、モリブデン酸セリウム、アミド硫酸セリウム、酸化セリウム、水酸化セリウム、硝酸プラセオジム、タングステン酸プラセオジム、モリブデン酸プラセオジム、アミド硫酸プラセオジム、酸化プラセオジム、水酸化プラセオジム、硝酸ランタン、タングステン酸ランタン、モリブデン酸ランタン、アミド硫酸ランタン、酸化ランタン、水酸化ランタン、硝酸サマリウム、タングステン酸サマリウム、モリブデン酸サマリウム、アミド硫酸サマリウム、酸化サマリウム、水酸化サマリウム等の無機酸塩又は無機化合物等を挙げることができる。これらの中で、より好ましい希土類金属化合物は、電解析出性の高いネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)の各化合物である。
本発明の電解析出性防錆金属塩(A)は、カチオン電着塗料組成物中に、金属に換算して、100〜20,000ppm、好ましくは100〜5000ppm、より好ましくは200〜3000ppmの量で配合される。100ppmより少ない場合は、防錆性全体が十分でなくなる。20,000ppmを超える量では、防錆性の向上が認められなくなり、逆に弊害が生じる可能性がある。
本発明の電解析出性防錆金属塩(A)中の各成分(a1)、(a2)および(a3)の金属量が、金属量の合計を100質量%とした場合、成分(a1)は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%であり、成分(a2)は40〜90質量%、好ましくは40〜70質量%であり、かつ成分(a3)は5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%である。成分(a1)の希土類金属が5質量%より少ないと、防錆性の中でも塩水噴霧や塩水浸漬に対する防錆性が不足する。成分(a1)が40質量%より多くても、防錆性の向上がみられなくなる。成分(a2)および成分(a3)の量が下限より少ないと、複合サイクル腐食に対する防錆性が不足するが、逆に成分(a2)および(a3)の量が上限より多いと、配合量の上昇にみあった防錆性の向上がみられなくなる。
上記電解析出性防錆金属塩(A)の水性カチオン電着塗料組成物への導入は、特に制限されるものではなく、通常の顔料分散法と同様にして行うことができる。例えば、分散用樹脂中に予め電解析出性防錆金属塩(A)を分散させて分散ペーストを作製し、この分散ペーストを水性カチオン電着塗料組成物へ配合することができる。また、電解析出性防錆金属塩(A)として、水溶性金属化合物を用いる場合には、塗料用樹脂エマルジョン作製後にそのまま加えてもよい。なお、顔料分散用樹脂としては、カチオン電着塗料用の一般的なもの(エポキシ系スルホニウム塩型樹脂、エポキシ系4級アンモニウム塩型樹脂、エポキシ系3級アミン型樹脂、アクリル系4級アンモニウム塩型樹脂など)を用いることができる。
本発明の水性カチオン電着塗料組成物に用いられる(B)カチオン基を有する基体樹脂は、樹脂骨格中のオキシラン環に対して有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂である。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。
また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載される、下記式
Figure 2010214283
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン変性エポキシ樹脂として用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のエポキシ環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミン・メチルイソブチルケチミン、ジエチレントリアミン・メチルイソブチルジケチミンの様なケチミンブロック第1級アミノ基含有第2級アミンも使用することができる。これらは樹脂に変性することによって、樹脂を用いて水性カチオン電着塗料組成物を調製する際に容易に加水分解し、第1級アミノ基を生成する。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
上記カチオン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は1,000〜5,000、好ましくは1,500〜3,000の範囲である。数平均分子量が1,000未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。反対に5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱・硬化時のフロー性が悪く塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価(KOH換算mg/g樹脂固形分)が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
また上記カチオン変性エポキシ樹脂は、アミン価(KOH換算mg/g樹脂固形分)が40〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が40未満では前記酸中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150を超えると硬化後塗膜中に過剰のアミノ基が残存する結果、耐水性が低下することがある。より好ましいアミン価は、50〜120である。
また樹脂中の第1級アミノ基に基づくアミン価は15〜50であることが、陰極電解(前処理)工程における希土類金属化合物の選択的析出性を向上させる上でより好ましい。
また上記の式〔化1〕の分子鎖中に複数のオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂に、(b)1価の活性水素化合物と(c)2価の活性水素化合物を出発樹脂(a)のエポキシ基に対して1未満の当量比で反応させた後、(d)没食子酸および(e)第2級モノアミン化合物を(a)、(b)および(c)の反応生成物中に残っているエポキシ基を開環するように該反応生成物に反応させることを特徴とする水性塗料用樹脂を用いてもよい。
エポキシ基体樹脂へのオキサゾリドン環の含有に加えて、没食子酸変性によるキレート化作用、及びアルカリ雰囲気下における被塗物の金属素材への還元作用による非常に高い耐食性、耐熱性が複合できるからである。
本発明における(C)硬化剤としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、その中でも電着樹脂の硬化剤として好適なブロックポリイソシアネートが推奨される。
上記ブロックポリイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックポリイソシアネートを得ることができる。
上記封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類とシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール;パラーt−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。とくにオキシム類およびラクタム類の封止剤は低温で解離するため、後工程にて中塗り塗膜と同時焼付けを行う際に、樹脂硬化性の観点からみて好適である。
上記ブロックポリイソシアネートは封止剤の単独あるいは複数種の使用によってあらかじめブロック化しておくことが望まれる。ブロック化率については、前記の各樹脂成分と変性反応する目的がなければ、塗料の貯蔵安定性確保のためにも100%にしておくことが好ましい。
上記ブロックポリイソシアネートの前記(B)カチオン基を有する基体樹脂に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や中塗り塗装適合性を考慮すると固形分量として、15〜40質量%の範囲が好ましい。この配合比が15質量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、中塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40質量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックポリイソシアネートは、塗膜物性、硬化度および硬化温度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用してもよい。
(B)カチオン基を有する基体樹脂は、該樹脂中のアミノ基を適当量の塩酸、硝酸、次亜リン酸等の無機酸、または蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルションとして水中に乳化分散させることによって調製される。また乳化分散する際には、通常、(C)硬化剤をコアとし、(B)基体樹脂をシェル(殻)として含むエマルション粒子を形成させる。
該エマルション粒子の平均粒子径は、0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤が過量となり、一定電気量あたりの電着塗着効率が低下する。また平均粒子径0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、電着塗料の貯蔵安定性が低くなるので好ましくない。
本発明の塗装方法において用いられる水性カチオン電着塗料組成物においては、必ずしも必要成分ではないが、目的に応じて、さらに顔料を配合してもよい。但しここでいう顔料には、電解析出性防錆金属塩は含まれない。顔料としては、通常塗料に使用されるものならばとくに制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、珪酸アルミ(クレー)、タルク、炭酸カルシウム、また無機コロイド(シリカゾル、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルなど)等の体質顔料、リン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、(ポリ)リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)やモリブデン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛など)、等の重金属フリー型防錆顔料が挙げられる。
さらにビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤も合わせて使用できる。これら無機コロイドおよびシランカップリング剤を併用すると、下地塗膜密着性の向上などに作用し、結果として耐食性が向上する効果がもたらされる利点がある。
これらの中でも、本発明の水性カチオン電着塗料組成物に使用する顔料としてとくに重要なものは、二酸化チタン、カーボンブラック、珪酸アルミ(クレー)、シリカ、リンモリブデン酸アルミ、ポリリン酸亜鉛である。とくに二酸化チタン、カーボンブラックは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。
なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数種を使用するのが一般的である。
前記水性カチオン電着塗料組成物中に含有される前記顔料(P)および樹脂固形分(V)の合計質量(P+V)に対する前記顔料の質量比{P/(P+V)}(以後、PWCと称する)が、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。但し、ここでいう顔料には、電解析出性防錆金属塩(A)は含まないものと定義する。
上記質量比が5質量%未満では、顔料不足により塗膜に対する水、酸素などの腐食要因の遮断性が過度に低下し、実用レベルでの耐候性や耐食性を発現できないことがある。
ただし、そのような不都合を生じない場合は、顔料濃度を極力ゼロとし、クリア、もしくはクリアに近い水性カチオン電着塗料組成物を調製して、本発明に用いてもよい。
また、上記質量比が30質量%を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがあるので注意を要する。
上記樹脂固形分(V)は、水性カチオン電着塗料の主樹脂である前記(B)カチオン基を有する基体樹脂、および(C)硬化剤の他、顔料分散樹脂をも含めた電着塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
上記水性カチオン電着塗料組成物は、全固形分濃度が5〜40質量%、好ましくは、10〜25質量%の範囲となるように調整する。全固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を用いる。
さらに塗料組成物中には少量の添加剤を導入しても良い。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化触媒(ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエートあるいはジオクチル錫ジベンゾエートなどの有機スズ化合物)、硬化促進剤(酢酸亜鉛)などを挙げることができる。
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、上記水性カチオン電着塗料組成物に、被塗物を浸漬させて塗装が行われる。そして、本発明の複層塗膜形成方法は、
上記水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として、50V未満の電圧を印加する電解析出工程、および
上記水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50〜450Vの電圧を印加する、電着塗装工程、を包含する。
被塗物として、未処理の金属素材、例えば冷延鋼板、高強度鋼、高張力鋼、鋳鉄、亜鉛及び亜鉛めっき鋼、アルミニウム及びアルミニウム合金等が挙げられる。これらの中でも、本発明の方法によって特に優れた耐食効果を得ることができる素材は、冷延鋼板である。
上記方法により調製された水性カチオン電着塗料組成物に、被塗物を陰極として浸漬する。そして電解析出工程において、50V未満の電圧を印加して、被塗物に対して陰極電解を行うことによって、主に電解析出性防錆金属塩(A)の電解反応生成物を、極めて優先的に析出させることが可能であることが、本発明によって見いだされた。
印加電圧が50V以上であると、上記複合金属水酸化物の析出よりも、むしろ塗料ビヒクルである(B)カチオン基を有する基体樹脂および(C)硬化剤の析出が顕著化するので、前処理皮膜形成の目的に反するために好ましくない。
電解析出性防錆金属塩(A)の電解反応生成物の選択的析出を可能とする電解析出工程の印加電圧として、好ましい範囲は1〜40V、より好ましい範囲は1〜20Vである。
電解析出工程では、水性カチオン電着塗料組成物を含む浴槽の浴温を15〜35℃に調整した上で行うのが好ましい。電解析出工程に続いて行われる電着塗装において通常用いられる浴温と同程度の温度で電解析出工程を行うのが、電解析出工程後に連続して行われる電着塗装工程との関係上好ましいからである。
電解析出工程における通電時間は、通常10〜300秒、好ましくは30〜180秒である。処理時間が短すぎる場合は皮膜生成しないか、生成しても厚みが不足することとなり、耐食性が劣る恐れがある。また通電時間が長すぎる場合は、時として無光沢のヤケあるいはコゲと呼ばれる外観不良が発生する。また、過剰の処理時間は生産性を極端に低下させる恐れがあり好ましくない。
電解析出工程における、電解析出性防錆金属塩(A)の電解反応生成物の析出量を、5mg/m以上にすることによって、特異的に高い防錆皮膜を形成することができる。好ましい析出量は、10〜1000mg/m、好ましくは10〜500mg/mである。
5mg/m未満においては、形成皮膜による下地密着性が低下するために、必要な防錆性が発現しない。逆に、1000mg/mを超えると、皮膜の表面平滑性が損なわれるので、電着塗膜形成後の外観が低下する場合があるので好ましくない。
本発明の電解析出工程によって、電解生成物が析出する機構は以下のように考えられる。電解析出工程における上記電解条件によって、陰極の金属表面では溶存酸素や水素イオン、水等の浴中化学種が還元を受け、水酸化物イオン(OH)が生成する。この被処理金属表面で生成した水酸化物イオンが、まず該金属表面近傍の電解析出性防錆金属イオンと反応することで、電解析出性防錆金属の水酸化物の沈殿が生成し、皮膜として金属表面に析出する。こうして析出した電解生成物である、希土類金属の水酸化物からなる皮膜は、下地の基材および電着塗膜との密着性に特に優れており、電着塗装後の焼付け乾燥過程において、少なくとも一部が、希土類の水酸化物より脱水生成した酸化物からなる被膜に変化し、高い耐食性を示すようになると考えられる。
しかも本発明の電解析出工程の上記電解条件においては、主に上記電解析出金属被膜が優先的に形成し、(B)カチオン基を有する基体樹脂および(C)硬化剤の析出による電着塗膜の形成は抑制される傾向にあるので、極めて好都合である。
本発明の電着塗装工程では、印加電圧を50〜450V、好ましくは100〜400Vまで昇圧することで、塗料ビヒクルである(B)カチオン基を有する基体樹脂および(C)硬化剤、そして必要に応じた顔料を、優先的に析出させることができる。印加電圧が50V未満では、上記電着塗料のビヒクル成分の析出性が不足する恐れがある。また印加電圧が450Vを超えると、上記ビヒクル成分が適正量を超えて析出する結果、実用に耐えない膜外観を呈する恐れがあるので好ましくない。
通電時間は30〜300秒、好ましくは30〜180秒である。処理時間が30秒より短い場合は、電着塗膜が生成しないか、生成しても厚みが不足しているために耐食性が劣る恐れがある。また過剰の処理時間は生産性を極端に低下させる恐れがあり好ましくない。
こうして得られる未硬化複層塗膜を、120〜200℃、好ましくは140〜180℃にて硬化反応を行うことによって、高い架橋度の電着硬化塗膜を得ることができる。ただし、200℃を超えると、塗膜が過度に堅く、かつ脆くなり、一方120℃未満では硬化が充分でなく、耐溶剤性や膜強度等の膜物性が低くなる恐れがあり好ましくない。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
製造例1((B)アミノ基を有する基体樹脂の製造)
攪拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で攪拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20質量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が232になるまで120℃で3時間反応を続けた。さらに、メチルイソブチルケトン644部、ビスフェノールA341部、2−エチルヘキサン酸413部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が840になるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)288部とN−メチルエタノールアミン300部及びジ(2−エチルヘキシル)アミン314部の混合物を添加し120℃で1時間反応させた。その後、メチルイソブチルケトン194部で不揮発分80質量%になるまで希釈し、固形分80質量%のカチオン変性エポキシ樹脂ワニスを得た。この樹脂の数平均分子量は1800、アミン価は100、その中で第1級アミノ基の基づくアミン価は20、水酸基価は160であった。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
製造例2((C)硬化剤の製造)
攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n−ブタノール43部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート硬化剤溶液(固形分70%)を得た。
製造例3(顔料分散樹脂の製造)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル1584.1部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
上記反応物の製造と平行して、別の反応容器に2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間攪拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、さらにエチレングリコールモノn−ブチルエーテル47.0部を混合、30分攪拌し、4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.46部を先の反応物に加え酸価1になるまで混合物を85〜95℃に保持し、顔料分散樹脂(平均分子量2200)の樹脂溶液(樹脂固形分56%)を得た。
製造例4(顔料分散ペーストの製造)
サンドミルを用いて、製造例3で得られた顔料分散樹脂を含む下記配合の顔料ペースト(固形分59%)を40℃において、粒度5μm以下となるまで分散し調製した。
配合 部
製造例3の顔料分散樹脂ワニス 53.6
二酸化チタン 54.0
カーボンブラック 1.0
リンモリブデン酸アルミ 4.0
クレー 11.0
イオン交換水 46.4
製造例5(水性カチオン電着塗料組成物の製造)
製造例1で得た基体樹脂350g(固形分)と、製造例2で得た硬化剤150g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。
次に氷酢酸を中和率40.5%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去した。
このようにして得られたエマルジョン2000gへ、製造例4で得られた種々の顔料ペースト460.0g、イオン交換水2252g、樹脂固形分に対して1wt%のジブチルスズオキサイドを加えて混合し、固形分が20.0wt%の水性カチオン電着塗料を調製した。
電解析出性防錆金属塩は、水溶性塩の場合は、直接塗料へ加え、それ以外の場合は顔料ペースト中の二酸化チタンの一部を置き換えて、表1〜4に示す金属としての添加量(質量%)に調節することによって、各水性カチオン電着塗料組成物を調製した。
実施例1〜10及び比較例1〜10
製造例5記載の各水性カチオン電着塗料組成物の調製において、表1〜4に示すように、各電解析出性防錆金属塩を金属量に換算して88〜21,000ppmの量で含めた。こうして得られた水性カチオン電着塗料組成物を浴槽に注ぎ、陰極として表面未処理冷延鋼板を浸漬した。次いで、表1〜4に示すように、印加電圧を少なくとも2段階にて昇圧することによって、電解析出工程(印加電圧5V、通電時間60秒)及び陰極電着塗装工程(印加電圧180V、通電時間150秒)を連続的に実施した。電着塗装工程における電着塗膜の乾燥膜厚が20μになるように塗装した後、170℃×20分で硬化し、塗膜評価を行った。表1〜4に、塗膜試験項目における実施例および比較例の結果を示した。
評価試験の手順について以下に示す。
複合腐食試験(複合環境腐食促進試験)
加熱硬化させた塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行なった。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生及び平面部のブリスターを観察した。観察評価結果を表1〜4に示す。
評価
◎:錆またはフクレの最大幅がカット部より3mm未満(両側)。
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より3mm以上5mm未満(両側)。
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7mm未満(両側)でかつ平面部にブリスターの発生が幾分認められる。
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より7mm以上か、全面にブリスターの発生がみられる。
塩水浸漬試験
・塩水浸漬試験:加熱硬化させた塗膜を、5%食塩水、50℃X840時間にて塩水浸漬試験を行った。試験後の評価板を水洗、乾燥した後テープを剥離し、その評価面に対する剥離面積を%で示した。
○:剥離面積10%以下、△:剥離面積30%未満、×:剥離面積30%以上
Figure 2010214283
Figure 2010214283
Figure 2010214283
Figure 2010214283
実施例1〜10では、塩水浸漬試験と複合サイクル腐食試験(複合環境腐食促進試験の一例)の両方で高い防錆性が確認できる。比較例1は、電解析出防錆金属が亜鉛のみ例で防錆性が悪い。比較例2〜8は、(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種ではなく、二種を使用した場合の例で、希土類金属を含むときは、塩水浸漬試験で好結果出ているが、複合サイクル腐食試験(CCT)では必ずしも高い防錆性は出ていない。比較例9と10は、(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種を含む例であるが、比較例9はその全体の配合量が少なく、比較例10ではその全体の配合量が高い場合の例である。比較例9では、塩水浸漬試験および複合サイクル腐食試験の両方とも悪く、比較例10では外観不良が著しいので、塩水浸漬試験および複合サイクル腐食試験の両方とも評価ができなかった。
本発明の複層塗膜形成方法は、WO2006−109862号で提案された同一の水性カチオン電着塗料組成物を用いて50V未満電圧を加える電解析出工程と、それを超える電圧を加えるカチオン電着塗装工程の2段階電着を行うことによる被塗物のリン酸亜鉛などによる前処理工程を不要とする方法において、防錆性の更なる改善が達成される。特に、WO2006−109862号の技術では塩水噴霧試験と塩水浸漬試験で優れた防錆性を示すものの、複合環境腐食促進試験では必ずしも優れた性能を示さなかったが、本発明により複合環境腐食促進試験でも高い防錆性を示すようになった。
また、本発明の複層塗膜形成方法は、同一の水性カチオン電着塗料組成物を用いて、少なくとも2段階の印加電圧にて通電することによって、陰極電解処理(電解析出工程)及び電着塗装工程を実用的に区分かつ連続的に実施することができる。本発明の方法により、電解析出工程および電着塗装工程を効率的に統合しつつ、かつ優れた塗膜密着性および耐食性を有する複層塗膜を得ることができる。本発明の方法は、従来行われていた前処理および電着塗装を、同一の水性カチオン電着塗料組成物を用いて行うことができる。そのため、本発明の方法は、少なくとも前処理工程後の洗浄工程を完全に省略することができる。本発明の方法は、廃液処理などに由来する環境問題に対しても有用な方法である。

Claims (7)

  1. (A)電解析出性防錆金属塩、(B)カチオン基を有する基体樹脂、および(C)硬化剤を含む水性カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する、浸漬工程、
    該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50V未満の電圧を印加する、電解析出工程、および
    該水性カチオン電着塗料組成物中において、被塗物を陰極として50〜450Vの電圧を印加する、電着塗装工程、
    を包含する、複層塗膜形成方法であって、
    該水性カチオン電着塗料組成物に含まれる電解析出性防錆金属塩(A)が(a1)亜鉛より沈澱pHの低い希土類金属塩、(a2)亜鉛塩および(a3)亜鉛より沈澱pHの高い金属塩の三種よりなり、
    該電解析出性防錆金属塩(A)の総量が、塗料中に、金属に換算して、100〜20,000ppmの量であり、
    該電解析出性防錆金属塩(A)中の各成分(a1)、(a2)および(a3)の金属量が、金属量の合計を100質量%とした場合、成分(a1)5〜40質量%、成分(a2)40〜90質量%および成分(a3)5〜40質量%である、
    ことを特徴とする、複層塗膜形成方法。
  2. 亜鉛より沈殿pHの低い希土類金属塩(a1)の希土類金属が、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)およびそれらの混合物から成る群から選択される請求項1記載の複層塗膜形成方法。
  3. 亜鉛より沈殿pHの高い金属塩(a3)の金属が、ニッケル(Ni)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびそれらの混合物から成る群から選択される請求項1記載の複層塗膜形成方法。
  4. 前記電解析出工程において析出する、亜鉛より沈殿pHの低い希土類金属塩(a1)、(B)亜鉛塩(a2)および亜鉛より沈殿pHの高い金属塩(a3)の電解反応生成物の量が計5mg/m以上である請求項1記載の複層塗膜形成方法。
  5. 前記電解析出工程における通電時間が10〜300秒である、請求項1記載の複層塗膜形成方法。
  6. 前記電着塗装工程における通電時間が10〜300秒である、請求項1記載の複層塗膜形成方法。
  7. 請求項1〜6いずれかに記載の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜。
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