以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
(液晶ポリエステル)
まず、液晶ポリエステル粉末を構成する液晶ポリエステルについて説明する。
本実施形態における液晶ポリエステルとは、光学的異方性を有する溶融相を形成する(すなわち、液晶特性を示す)ポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルとしては、芳香環がエステル結合(−CO−O−又は−O−CO−)により連結してなる全芳香族ポリエステルや、この全芳香族ポリエステルのエステル結合の一部がアミド結合(−CO−NH−又は−NH−CO−)に置き換わった全芳香族ポリ(エステル−アミド)が好ましい。このような全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリ(エステル−アミド)は、液晶ポリエステル粒子から得られる成形体(成形板)の機械強度や耐熱性を向上させる観点から、特に有利である。
好適な液晶ポリエステルとしては、例えば、以下の(I)〜(VI)で示される構造を有するものが挙げられる。
(I):芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位及び芳香族ジオール由来の構造単位の組み合わせからなるもの。
(II):複数種類の芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位からなるもの。
(III):芳香族ジカルボン酸由来の構造単位と芳香族ジオール由来の構造単位との組み合わせからなるもの。
(IV):ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの。
(V):(I)の芳香族ジオール由来の構造単位の一部又は全部を、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位又は芳香族ジアミン由来の構造単位に置き換えたもの。
(VI):(I)又は(V)の芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位の一部を、芳香族アミノカルボン酸由来の構造単位に置き換えたもの。
なお、上述した各構造単位に誘導される化合物である、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジアミン又はフェノール性水酸基を有する芳香族アミンは、液晶ポリエステルを製造する際には、それらのエステル形成性誘導体やアミド形成性誘導体であってもよい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−パラヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−パラヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族アミノカルボン酸としては、パラアミノ安息香酸、メタアミノ安息香酸、2−アミノ−6−ナフトエ酸、2−アミノ−3−ナフトエ酸、1−アミノ−4−ナフトエ酸、2−クロロ−パラアミノ安息香酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フェノール性水酸基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、3−アミノフェノール、N−メチル−p−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、2−クロロ−4−アミノフェノール等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、芳香族ジアミンとしては1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
各構造単位に誘導される化合物としては、それぞれ上述したもののなかでも、耐熱性に優れる成形体が得られる点や、経済性に優れる点から、以下の化合物が好適である。すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、パラヒドロキシ安息香酸及び/又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好ましい。芳香族ジオールとしては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン及び2,6−ジヒドロキシナフタレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジオールが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸が好ましい。また、芳香族アミノカルボン酸としては、パラアミノ安息香酸及び/又は2−アミノ−6−ナフトエ酸が好ましい。
液晶ポリエステルとしては、特に、下記の(1)〜(9)の構造を有するものが好ましい。これらの液晶ポリエステルを用いることで、最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の耐熱性が特に良好となる傾向にある。
(1):パラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位及びイソフタル酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(2):パラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(3):パラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(4):2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位、パラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位及びテレフタル酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(5):2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(6):2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(7):2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位、2,6−ジヒドロキシナフタレン由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(8)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位、2,6−ジヒドロキシナフタレン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位及び2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
(9)パラヒドロキシ安息香酸由来の構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位からなる全芳香族液晶ポリエステル。
上述した全芳香族液晶ポリエステルのうち、その構造中に芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を有するものは、本実施形態の製造方法により一層優れた耐熱性を有する液晶ポリエステル粉末が得られるという観点から、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を、次のような割合で含むことが好ましい。すなわち、全芳香族液晶ポリエステルを構成する全ての構造単位に対し、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を30〜70モル%の範囲で含むことが好ましく、40〜65モル%の範囲で含むことがより好ましく、50〜60モル%の範囲で含むことが更に好ましい。
また、上述した構造を有する液晶ポリエステルにおいて、その液晶性は、芳香族ジオール由来の構造単位、芳香族アミノカルボン酸由来の構造単位及び芳香族ジアミン由来の構造単位の合計と、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位と、の共重合比率に応じて発現される。確実に液晶性を発現するポリエステルを得る観点からは、[芳香族ジオール由来の構造単位、芳香族アミノカルボン酸由来の構造単位及び芳香族ジアミン由来の構造単位の合計]/[芳香族ジカルボン酸由来の構造単位]で表される比率が、モル分率で、85/100〜100/85の範囲であることが好ましい。
(液晶ポリエステル粉末の製造方法)
次に、上述したような液晶ポリエステルからなる液晶ポリエステル粉末の製造方法について説明する。
図1は、好適な実施形態に係る液晶ポリエステル粉末の製造工程を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態においては、まず、液晶ポリエステル粉末を得るための液晶ポリエステルを製造する(ステップS1)。
液晶ポリエステルは、例えば、上述した液晶ポリエステルが有している各構造単位に誘導される化合物、或いはそれらのエステル形成性誘導体又はアミド形成性誘導体(以下、これらの化合物又は誘導体をまとめて「原料化合物」という)を、液晶ポリエステルを構成する構造単位の組み合わせやそれらのモル比率に応じて適宜準備し、それらを反応させることによって得ることができる。
この液晶ポリエステルを合成する反応においては、例えば、まず、原料化合物(芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジアミン及び芳香族アミノカルボン酸等)が有しているアミノ基又はフェノール性水酸基を脂肪酸無水物によりアシル化する。次いで、この反応により得られたアシル基と、原料化合物のうちのカルボキシル基を有している化合物におけるカルボキシル基との間で、エステル交換又はアミド交換反応を生じさせて重縮合反応を進行させる。
ここで、原料化合物のうちのエステル形成性誘導体又はアミド形成性誘導体は、次のような化合物である。すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸等のカルボキシル基を有する化合物の場合、そのエステル形成性又はアミド形成性誘導体としては、例えば、これらのカルボキシル基が、エステル生成反応又はアミド生成反応を促進するような酸塩化物又は酸無水物になっている化合物や、これらのカルボキシル基が、エステル交換又はアミド交換反応によりポリエステル又はポリアミドを生成できるように、アルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成した化合物が挙げられる。
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のフェノール性水酸基を有する化合物の場合、エステル形成性又はアミド形成性誘導体としては、例えば、それらのフェノール性水酸基が、エステル交換又はアミド交換反応によりポリエステル又はポリアミドを生成できるように、カルボン酸類とエステルを形成した化合物が挙げられる。また、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン等のアミノ基を有する化合物の場合、エステル形成性又はアミド形成性誘導体としては、例えば、それらのアミノ基が、エステル交換又はアミド交換反応によりポリエステル又はポリアミドを生成できるように、カルボン酸類とアミドを形成した化合物が挙げられる。
液晶ポリエステルを得るための反応において、アシル化を生じさせるための脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸等の低級脂肪酸無水物が挙げられる。なかでも、経済性や取扱い性の観点からは、無水酢酸が好ましい。フェノール性水酸基やアミノ基をアシル化する際の脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基及びアミノ基の合計当量に対して、1.05〜1.1倍当量とすることが好ましい。また、アシル化反応の条件は、130〜180℃で30分〜20時間とすることが好ましく、140〜160℃で1〜5時間とすることがより好ましい。
また、エステル交換又はアミド交換による重縮合反応は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させることにより生じさせることが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温させながら生じさせることがより好ましい。
液晶ポリエステル粉末を得るための液晶ポリエステルは、その流動開始温度が270℃以下であるものであり、260℃以下であるものが好ましい。このような液晶ポリエステルは、上述した液晶ポリエステルの製造において、エステル交換又はアミド交換反応による重縮合反応の温度、時間等の条件を、所望とする流動開始温度が得られるように調整することによって得ることができる。なお、この液晶ポリエステルは、上述したような液晶性を良好に発現する観点から、流動開始温度が200℃以上であると好ましく、230℃以上であるとより好ましい。
液晶ポリエステル粉末を得るための出発原料である液晶ポリエステルの流動開始温度が上記の範囲であると、後述する第1工程で調製する所定の平均粒径を有する液晶ポリエステル粉末が、機械粉砕等によって得られ易くなる。また、上述した重縮合反応後に、反応釜から液晶ポリエステルを抜き出す際の作業性が良好となる傾向がある。
ここで、「流動開始温度」とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度である。かかる流動開始温度は、液晶ポリエステルの分子量を表す指標とされる(例えば、小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
次に、このようにして得られた液晶ポリエステルを用い、0.5〜30μmの平均粒径を有する液晶ポリエステル粉末を製造する(ステップS2;第1工程)。この第1工程後に得られた液晶ポリエステル粉末を、液晶ポリエステル粉末1とする。上述した製造方法によって得られた液晶ポリエステルは、通常、塊状を有している。そこで、第1工程においては、この塊状の液晶ポリエステルに対し、例えば機械粉砕等による粉砕を行うことにより、上記の範囲の平均粒径を有する液晶ポリエステル粉末1を得る。
液晶ポリエステル粉末1の平均粒径は、0.5〜30μmであり、3.0〜25μmであると好ましく、5.0〜20μmであるとより好ましい。液晶ポリエステル粉末1の平均粒径がこの範囲である場合、本実施形態の製造方法によって最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の平均粒径も、これと同程度、例えば0.5〜35μm程度となり、微細な液晶ポリエステル粉末が得られる。
液晶ポリエステル粉末1の平均粒径が0.5μmより小さいと、後述する第2工程や第4工程での熱処理において、液晶ポリエステル粉末を構成する粒子同士の熱による融着が冗長され、微細な液晶ポリエステル粉末が得られ難くなる。一方、液晶ポリエステル粉末1の平均粒径が30μmを超えると、最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の平均粒径も30μmを大きく超えるものとなり易く、微細な液晶ポリエステル粉末を得ることが困難となる。このような液晶ポリエステル粉末は、例えば、成形体を得ることが困難となる等の不都合を生じ易い。
液晶ポリエステルの粉砕においては、具体的には、塊状の液晶ポリエステルに対して粗粉砕を行い、平均粒径0.5〜5mm程度の粗粉砕粒子とした後、微粉砕を複数回行って、最終的に平均粒径0.5〜30μm程度の液晶ポリエステル粉末1を得るといった3段階以上の粉砕を行い、これにより液晶ポリエステル粉末1を得ることが好ましい。これらの粗粉砕及び微粉砕は、ともに機械粉砕で実施することが好ましい。
なお、液晶ポリエステル粉末の平均粒径は、例えば、次のようにして求められる値である。まず、粗粉砕後の粒子の平均粒径は、水を測定溶媒とするレーザー回折散乱法を用いて求められる体積平均粒径としてもよく、篩いによる平均粒径測定により求められた値としてもよい。一方、微粉砕後の液晶ポリエステル粉末の平均粒径は、水を測定溶媒とするレーザー回折散乱法を用いて求められる体積平均粒径とすることが好ましい。このレーザー回折散乱法に用いる測定溶媒(水)には、適当な分散剤を添加してもよい。
粗粉砕の方法としては、例えば、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、ロールクラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、粗砕カッター等を用いる方法が適用できる。なかでも粗砕カッター型粉砕機を用いた方法が好ましい。
また、微粉砕の方法としては、ロッドミル、ボールミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、パンミル、ローラミル、インパクトミル、円盤形ミル、攪拌摩砕ミル、流体エネルギーミル、ジェットミル等を用いる方法が挙げられる。なかでもジェットミルを用いた方法が好適である。
ジェットミルを用いた微粉砕における粉砕においては、ノズル圧を0.5〜0.8MPa程度の範囲とすることが好ましい。また、粉砕処理速度は、ジェットミルとして、例えば(株)セイシン企業製STJ−200ジェットミルを用いた場合、2.5kg/Hr以上とすることが好ましい。このようにして微粉砕を行うことにより、上述した好適な範囲の平均粒径を有する液晶ポリエステル粉末を構成する微粉砕粒子が得られ易くなる。
微粉砕においては、微粉砕粒子を分級処理することで、所望の粒径範囲よりも過度に小さい微粉を除去してもよい。この分級処理は、例えば、コアンダ効果利用型分級機等の慣性分級機、自由渦又は半自由渦利用型分級機、強制渦利用型分級機、自由渦及び強制渦利用型分級機等の遠心分級機等を用いて好適に行うことができる。これらのなかでも、比較的多量の微粉砕粒子を分級できるといった点で、遠心分級機が好ましい。
なお、第1工程において液晶ポリエステル粉末1を準備する方法は、所定の平均粒径が得られる限り、上記の方法に限定されず種々の粉砕方法等を適用できる。また、上述した合成方法によって得られた液晶ポリエステルが、はじめから所定範囲の平均粒径を有する粉末状であった場合は、第1工程においては特段の粉砕処理等を行わなくてもよい。
液晶ポリエステル粉末の製造においては、第1工程で得られた液晶ポリエステル粉末1に対し、250〜290℃の温度範囲で熱処理を施す(ステップS3;第2工程)。この第2工程における1度目の熱処理では、粉末状態の液晶ポリエステルにおいて重合反応(固相重合)が進行し、液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度が高められる。なお、液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度をより効率的に高めるために、1度目の熱処理は、260〜290℃の温度で行うとより好ましい。
第2工程における熱処理は、例えば、液晶ポリエステル粉末1を、不活性気体の雰囲気下又は減圧下で加熱処理する方法や、液晶ポリエステル粉末1を、ビフェニルとジフェニルエーテルの混合物やジフェニルスルホンなどの高沸点溶媒中で加熱しながら攪拌した後、使用した高沸点溶媒を除去する方法等によって行うことができる。
熱処理を不活性気体の雰囲気下で行う場合、不活性気体としては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス等を用いることができる。また、かかる熱処理に使用する装置としては、例えば、乾燥機、反応機、イナートオーブン、混合機、電気炉等が挙げられる。
第2工程における1度目の熱処理では、液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度を300〜332℃の範囲とすることが好ましく、310〜330℃とすることがより好ましい。すなわち、第2工程では、第1工程後に得られた低い流動開始温度(好ましくは200〜270℃)を有する液晶ポリエステル粉末1を、このような流動開始温度が得られるように熱処理することが好ましい。
液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度が上記範囲であると、後述する第4工程での熱処理において、微細な液晶ポリエステル粉末を構成する粒子同士の融着が抑制される傾向にある。液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度が上記範囲よりも小さいと、第4工程における熱処理での融着が生じ易くなるほか、最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の流動開始温度を十分に高くすることが困難となるおそれがある。一方、液晶ポリエステル粉末1の流動開始温度が上記範囲よりも高くしようとすると、高温の熱処理が必要となるため、この第2工程において液晶ポリエステル粉末1の融着が生じ易くなる傾向にある。熱処理において融着が多く生じてしまうと、粗大な粒子が含まれ易くなるほか、流動開始温度を高くすること自体が困難となる場合もある。
第2工程では、液晶ポリエステル粉末1に対する熱処理の際の温度、昇温速度や処理時間等の条件を、液晶ポリエステル粉末1を構成する粒子同士の融着が生じ難く、しかも、上述した好適な範囲の流動開始温度が得られるように適宜設定することが好ましい。例えば、熱処理温度は、150〜350℃の範囲内で設定され、熱処理時間は1〜20時間の範囲で設定される。熱処理の温度が150℃未満であると、流動開始温度の向上効果が十分に得られない傾向にあり、350℃を超えると、液晶ポリエステルの分解反応が生じるおそれがある。
特に、第2工程では、熱処理温度を上記の範囲とし、さらに熱処理時間を2〜15時間の範囲とすることが好ましい。このような条件で熱処理を行うことによって、上述した好適な流動開始温度を有する液晶ポリエステル粉末1が得られ易くなる。
第2工程後、このような熱処理後の液晶ポリエステル粉末1に対して、第1工程と同等以下の平均粒径を有するように処理する工程を行う(ステップS4;第3工程)。この工程後に得られた液晶ポリエステル粉末を、液晶ポリエステル粉末2とする。ここで、第1工程の「同等以下」の平均粒径とは、例えば、第1工程後の液晶ポリエステル粉末1の平均粒径の値と比べて、好ましくは10%以上、より好ましくは5%以上大きくならない値が挙げられる。具体的には、液晶ポリエステル粉末2は、その平均粒径が0.5〜33μmであると好ましく、3.0〜25μmであるとより好ましい。
上述した第2工程の熱処理では、液晶ポリエステル粉末1を構成している粒子同士が付着したり、また熱による融着が一部で生じたりして、液晶ポリエステル粉末の平均粒径が大きくなってしまう場合がある。その場合、そのままでは、最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の平均粒径も大きくなってしまい、微細な液晶ポリエステル粉末を得ることが困難となるおそれがある。
これに対し、本実施形態では、第3工程(ステップS4)において、このような熱処理後の液晶ポリエステル粉末1に対し、粒子同士の付着や融着を解く解砕処理を行い、第1工程と同等以下の平均粒径を有するように処理することにより、微細な液晶ポリエステル粉末2を得ることができる。これにより、微細な液晶ポリエステル粉末を得ることが容易となる。
第3工程における解砕処理は、第1工程における液晶ポリエステル粉末1の調製と同様にして行うことができる。例えば、液晶ポリエステル粉末1に対して機械粉砕を行うことが好ましく、この粉砕処理にかかるコストや生産性の観点から、ジエットミルを用いた粉砕方法が好適である。
なお、第2工程後の液晶ポリエステル粉末1を構成している粒子は、熱処理によって粒度開始温度が高められているため、高い剛性を有するものとなっている。そのため、第3工程においては、機械粉砕等を行っても、熱処理後の液晶ポリエステル粉末1を構成している粒子が粉砕されることは少なく、互いに付着又は融着した粒子の解砕が主に生じることとなる。したがって、第3工程では、第1工程の場合とほぼ同等の平均粒径を有する液晶ポリエステル粉末2が得られることが多いが、一部で粒子の粉砕が生じ、それによって第1工程よりも平均粒径が低下している場合もある。
本実施形態では、第3工程に次いで、液晶ポリエステル粉末2に対し、熱処理を施すことで、この熱処理前よりも高い流動開始温度を有する液晶ポリエステル粉末を得る(ステップS5;第4工程)。この第4工程における熱処理においては、液晶ポリエステル粉末2において更に固相重合が進行して、液晶ポリエステル粉末2の流動開始温度が高められる。第4工程における熱処理は、上述した第2工程における熱処理と同様の方法により行うことができるが、熱処理の条件(温度、昇温速度、処理時間等)は、少なくともこの熱処理前の液晶ポリエステル粉末1よりも高い流動開始温度が得られるように設定する。
その後、第4工程後の液晶ポリエステル粉末2に対して、第1工程と同等以下の平均粒径を有するように処理する工程を更に行うことが好ましい(ステップS6;第5工程)。これにより、第3工程と同様に、第4工程の熱処理によって粒子同士の付着や融着が生じていた場合、これらが解砕され、再び微細な液晶ポリエステル粉末を得ることができる。この第3工程における解砕処理は、第3工程と同様にして行うことができる。
そして、本実施形態では、第5工程における解砕処理によって、目的とする液晶ポリエステル粉末が得られる。このようにして最終的に得られる液晶ポリエステル粉末は、その流動開始温度が335℃以上であると好ましく、338〜420℃であるとより好ましく、340〜400℃であるとさらに好ましい。液晶ポリエステル粉末の流動開始温度がこのような範囲であると、高い耐熱性が得られ、この液晶ポリエステル粉末を用いて得られる成形体も、耐熱性及び機械強度がともに優れるものとなる。特に、この成形体を電気・電子用部品等に使用する場合、成形体がはんだリフロー等のプロセスに曝露されたとしても、ブリスター等の膨れ状欠陥が生じ難いという利点が得られる。
最終的に得られる液晶ポリエステル粉末の流動開始温度を上記の好適な範囲とするためには、第4工程の熱処理の条件を、このような好適な流動開始温度が得られるように設定すればよい。この場合、第4工程の熱処理は、150〜350℃の熱処理温度、及び1〜20時間の熱処理時間の範囲で、第2工程とは異なる条件(より高温又は長時間)に設定することが好ましく、特に、熱処理温度を280〜350℃の範囲とし、熱処理時間を0.5〜5時間の範囲とすることが好ましい。
本実施形態では、第1工程において0.5〜30μmの平均粒径を有する微細な液晶ポリエステル粉末1を調製した後に、熱処理(第2及び第4工程)及び解砕処理(第3工程及び第5工程)を繰り返して得られたものであることから、最終的に得られる液晶ポリエステル粉末も、第1工程後の平均粒径が殆ど維持された微細なものとなる。具体的には、第5工程後の液晶ポリエステル粉末は、好ましくは0.5〜36μmの平均粒径を有し、より好ましくは3.0〜25μmの平均粒径を有するものとなる。
以上のように、本実施形態の液晶ポリエステル粉末の製造方法では、第1工程において、熱処理前であるため剛性が低い液晶ポリエステルから微細な粉末を形成することができ、その後、第2工程及び第4工程において熱処理を段階的に行うことにより、第1工程で得た微細な液晶ポリエステル粉末の熱による融着を抑制しながら徐々に流動開始温度を高めることができる。したがって、このような製造方法によれば、高温での熱処理によって剛性が高くなってしまい、微細な粉末の製造が困難となったり、微細な粉末に対する高温の熱処理によって融着が多く生じたりといった従来の製造方法による不都合を回避することができ、高い流動開始温度を有し、しかも微細な粒径を有する液晶ポリエステル粉末を高効率で得ることが可能となる。
なお、本発明の液晶ポリエステル粉末の製造方法は、必ずしも上述した実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、まず、上記の実施形態では、第2工程及び第4工程において2度の熱処理を実施したが、熱処理の回数はこれに限定されず、3度以上の熱処理を行ってもよい。例えば、上述した第3工程までを実施した後、第4工程と同様の熱処理及び第5工程と同様の解砕処理を複数回繰り返し実施する方法が挙げられる。
すなわち、本発明の液晶ポリエステル粉末の製造方法は、0.5〜30μmの平均粒径を有し、流動開始温度が270℃以下の液晶ポリエステル粉末を準備した後に、この液晶ポリエステル粉末に対し、熱処理を行いこの熱処理前よりも高い流動開始温度を有する液晶ポリエステル粉末を得る熱処理工程と、熱処理後の液晶ポリエステル粉末に対して解砕処理を行う解砕工程とをそれぞれ複数回ずつ交互に繰り返して実施する方法であってもよい。この場合、熱処理のたびに流動開始温度が上昇するように各熱処理の条件を設定し、最終的に上述したような好ましい流動開始温度が得られるようにすればよい。
また、上述した実施形態では、第3工程及び第5工程では、いずれも第2工程や第4工程における熱処理後の液晶ポリエステル粉末について、熱処理で生じた粒子同士の付着や融着を解砕する処理を行ったが、熱処理によってこのような付着や融着が生じていないか、或いは熱処理後の粉末の平均粒径が不都合に大きくなっていない場合は、これらの工程では粉砕等の処理を行わずに平均粒径を確認し、得られた液晶ポリエステル粉末をそのまま次の熱処理を行ったり、目的とする液晶ポリエステル粉末としたりしてもよい。
(液晶ポリエステル粉末の使用)
上述したような製造方法によって得られた液晶ポリエステル粉末は、種々の用途に適用することができる。例えば、液晶ポリエステル粉末は、そのまま成形体の製造に用いることもでき、また、静電塗装用の粉体塗料、絶縁用有機フィラー、摺動材の原料としても用いることができる。
液晶ポリエステル粉末から成形体を形成する場合、適切な充填剤と併用してもよい。充填剤としては、無機充填剤及び有機充填剤の両方が適用可能であり、その形状も繊維状、粒子状、板状のいずれであってもよい。このような液晶ポリエステル粉末と充填剤とを併用して得た成形体は、とりわけ電気・電子部品に用いる部材として好適である。
繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、炭素繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸炭素繊維、ウォラストナイト等の珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維のほか、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属からなる繊維状物質といった無機質の繊維状物質が挙げられる。
粒子状充填剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、ポーラスシリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイト等の硅酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、誘電体セラミック粉末や、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル酸化物、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化珪素、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素のほか、鉄、ニッケル等の各種金属やそれらの金属を含有する合金の粉末等が挙げられる。
さらに、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、タルク、板状アルミナや、各種の金属箔等が挙げられる。
また、有機充填剤としては、芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリマー繊維、芳香族ポリアミド、ポリイミド繊維等の耐熱性高強度合成繊維が挙げられる。さらに、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[体積平均粒径の測定方法]
以下の実施例又は比較例で製造する各種の粉末の体積平均粒径は、分散剤(花王(株)製ノニオン界面活性剤エマルゲン)を数十ppm程度溶解させた水を測定溶媒として用いて、レーザー回折散乱粒径測定を行うことにより求めた。なお、レーザー回折散乱粒度分布測定機としては、(株)セイシン企業製LMS−30を使用した。
[製造例1;液晶ポリエステルの粗粉砕粉末の製造]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)、それぞれ仕込んだ。
この反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、溶融状態のまま反応器内の内容物をバットに取り出し、冷却した。得られた液晶ポリエステルの収量は1430gであった。
その後、室温程度まで冷却した液晶ポリエステルを、セイシン企業製・オリエントVM−16竪型粉砕機を用いて、その体積平均粒径が1mm以下になるまで粗粉砕した。粗粉砕後の粗粉砕粉末の流動開始温度を島津製作所製毛細管型レオメーターCFT−500Dにより測定したところ、253℃であり、280℃以上の温度において光学異方性を呈する溶融状態を示した。この液晶ポリエステルの粗粉砕粉末の体積平均粒径は249μmであった。
[実施例1]
製造例1で得られた液晶ポリエステルの粗粉砕粉末(平均粒径249μm)を、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて微粉砕して、体積平均粒径が7.9μmである液晶ポリエステル粉末A1を得た。
得られた液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から284℃まで5時間かけて昇温し、さらに284℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が325℃である液晶ポリエステル粉末B1が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B1に対し、窒素雰囲気下、室温から290℃まで2時間かけて昇温し、さらに290℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。この熱処理後の液晶ポリエステル粉末B1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が340℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
上記の液晶ポリエステル粉末の製造方法において、1度目及び2度目の解砕処理では、その前の熱処理によって融着が生じた粒子のうち、解砕できなかったものは取り出すことが著しく困難であった(以下の実施例及び比較例でも同様)。そこで、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた。その結果、収率は78%であった。得られた結果を表1に示す。
[実施例2]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から257℃まで5時間かけて昇温し、さらに257℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用い、1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が305℃である液晶ポリエステル粉末B2が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B2に対し、窒素雰囲気下、室温から297℃まで2時間かけて昇温し、さらに297℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末B2を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が338℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、74%であった。得られた結果を表1に示す。
[実施例3]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、さらに285℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用い、1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が331℃である液晶ポリエステル粒子B3が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B3に対し、窒素雰囲気下、室温から290℃まで2時間かけて昇温し、さらに290℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。熱処理後の改質液晶ポリエステル粉末B3を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて、2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が341℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、81%であった。得られた結果を表1に示す。
[実施例4]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から276℃まで5時間かけて昇温し、さらに276℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用い、1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が314℃である液晶ポリエステル粉末B4が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B4に対し、窒素雰囲気下、室温から295℃まで2時間かけて昇温し、さらに295℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末B4を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて、2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が343℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、77%であった。得られた結果を表1に示す。
[比較例1]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から298℃まで5時間かけて昇温し、さらに298℃に到達した後、同温度で3時間加熱する熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が50.2μmであり、流動開始温度が343℃である液晶ポリエステル粉末B5が得られた。
そして、得られた液晶ポリエステル粉末B5の収量と、熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、58%であった。得られた結果を表1に示す。
[比較例2]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この得られた液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から240℃まで1時間かけて昇温し、次いで240℃から246℃まで5時間かけて昇温し、さらに246℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が275℃である液晶ポリエステル粉末B6が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B6に対し、窒素雰囲気下、室温から295℃まで5時間かけて昇温し、さらに295℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。この熱処理後の液晶ポリエステル粉末B6を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が38.6μmであり、流動開始温度が342℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、62%であった。得られた結果を表1に示す。
[比較例3]
まず、実施例1で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A1(平均粒径7.9μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A1に対し、窒素雰囲気下、室温から245℃まで1時間かけて昇温し、次いで245℃から246℃まで5時間かけて昇温し、さらに246℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A1を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が291℃である液晶ポリエステル粉末B7が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B7に対し、窒素雰囲気下、室温から290℃まで5時間かけて昇温し、さらに290℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。この熱処理後の液晶ポリエステル粉末B7を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が7.9μmであり、流動開始温度が340℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A1の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、39%であった。得られた結果を表1に示す。
[実施例5]
製造例1で得られた液晶ポリエステルの粗粉砕粉末(平均粒径249μm)を、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて微粉砕して、体積平均粒径が13.0μmである液晶ポリエステル粉末A2を得た。
この液晶ポリエステル粉末A2に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から287℃まで5時間かけて昇温し、さらに287℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A2を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が13.0μmであり、流動開始温度が329℃である液晶ポリエステル粉末B8が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B8に対し、窒素雰囲気下、室温から290℃まで2時間かけて昇温し、さらに290℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。この熱処理後の液晶ポリエステル粉末B8を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が13.0μmであり、流動開始温度が341℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A2の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、86%であった。得られた結果を表1に示す。
[比較例4]
まず、実施例5で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A2(平均粒径13.0μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A2に対し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、次いで250℃から298℃まで5時間かけて昇温し、さらに298℃に到達した後、同温度で3時間加熱する熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A2を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が32.3μmであり、流動開始温度が342℃である液晶ポリエステル粉末B9が得られた。
そして、得られた液晶ポリエステル粉末B9の収量と、熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A2の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、51%であった。得られた結果を表1に示す。
[比較例5]
まず、実施例5で用いたものと同じ液晶ポリエステル粉末A2(平均粒径13.0μm)を準備した。
この液晶ポリエステル粉末A2に対し、窒素雰囲気下、室温から245℃まで1時間かけて昇温し、次いで245℃から246℃まで5時間かけて昇温し、さらに246℃に到達した後、同温度で3時間加熱する1度目の熱処理を行った。熱処理後の液晶ポリエステル粉末A2を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて1度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が13.0μmであり、流動開始温度が286℃である液晶ポリエステル粉末B10が得られた。
次いで、得られた液晶ポリエステル粉末B10に対し、窒素雰囲気下、室温から293℃まで5時間かけて昇温し、さらに293℃に到達した後、同温度で3時間加熱する2度目の熱処理を行った。この熱処理後の液晶ポリエステル粉末B10を冷却して取り出した後、セイシン企業(株)製STJ−200ジェットミルを用いて2度目の解砕処理(粉砕処理)を行った。その結果、平均粒径が13.0μmであり、流動開始温度が342℃である液晶ポリエステル粉末が得られた。
そして、最終的に得られた液晶ポリエステル粉末の収量と、1度目の熱処理に用いた液晶ポリエステル粉末A2の使用量とから、本製造方法による液晶ポリエステル粉末の収率を求めた結果、45%であった。得られた結果を表1に示す。
表1に示されるように、液晶ポリエステルの粗粉砕粉末を微粉砕した後、2度の熱処理を行い、流動開始温度を段階的に上昇させた実施例1〜5では、高い流動開始温度を有することから高耐熱性であり、しかも微細な粒子により構成される液晶ポリエステル粉末が高効率で得られることが確認された。
これに対し、1度の熱処理で高い流動開始温度を得た比較例1及び4では、粗大な粒子により構成される液晶ポリエステル粉末しか得られず、また、液晶ポリエステル粉末の収率も低くなった。さらに、1度目の熱処理での温度が低かった比較例2、3及び5では収率が低かったことから、微細な粒子により構成される液晶ポリエステル粉末が効率よく得られないことが判明した。