JP2009215643A - 疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】少なくとも心材アルミニウム合金板2とアルミニウム合金犠牲防食材3とをクラッドし、ろう付けあるいは溶接によって熱交換器とされるアルミニウム合金積層板あるいはろう付け相当加熱後の積層板であって、前記心材アルミニウム合金板2が3000系の特定成分組成からなり、更に、この心材アルミニウム合金板2の特定サイズの分散粒子の平均数密度を規制して、亀裂発生が支配的な疲労特性を優れさせる。
【選択図】図1
Description
本発明の積層板は、熱交換器に組み立てられる前に、先ず、図1に示すアルミニウム合金積層板1として、予め製造される。この積層板1は、ろう付けされる場合には、心材アルミニウム合金板2の一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。
このブレージングシートなどのアルミニウム合金積層板1を、成形ロールなどにより幅方向に曲折して、管内面側に皮材3が配置されるように偏平管状に形成した後、これを電縫溶接等により、偏平管状のチューブを形成する。即ち、図2に示す、流体通路が形成された偏平管状のチューブ(積層部材)11とする。
ここで、積層板あるいはろう付け相当加熱(熱履歴)後の積層板における心材アルミニウム合金板は、3000系アルミニウム合金組成からなる。本発明では、この心材アルミニウム合金板の疲労破壊による亀裂の発生が支配的な場合の疲労における耐疲労破壊性を高めるために、このアルミニウム合金板の圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径(ろう付け相当加熱後の積層板のみ規定)と、上記した1μm以上の分散粒子の平均数密度(積層板およびろう付け相当加熱後の積層板)とを規定する。
ろう付け相当加熱後の積層板、あるいは組み立て(熱履歴)前の素材積層板としての、心材アルミニウム合金板の前記平均結晶粒径が粗大化した場合には、疲労破壊による亀裂の発生が支配的な疲労に対する耐疲労破壊性が低下する。したがって、ろう付け相当加熱後の積層板における心材アルミニウム合金板の、圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径は200μm以下、好ましくは150μm以下に微細化させる。なお、ろう付け相当加熱後の積層板における心材アルミニウム合金板をこのように微細化させるためには、当然、素材積層板の心材アルミニウム合金板の平均結晶粒径を200μm以下、好ましくは150μm以下に予めしておくことが必要となる。但し、素材積層板の心材アルミニウム合金板の前記平均結晶粒径を規定しても、ろう付け相当加熱後の積層板は、熱交換器製作時のろう付け処理などの加熱条件によって、平均結晶粒径が変化(粗大化)する。このため、素材積層板の段階で心材アルミニウム合金板の前記平均結晶粒径を規定しても、前記加熱条件によっては、上記規定を外れて粗大化する可能性もあり、素材積層板の段階では特に規定しないこととした。
心材アルミニウム合金板は、ブレージングシートにせよ、ろう付け相当加熱後の積層板に組み立てられる(組み込まれる)際には、ろう付けの際に、600℃付近の温度に必然的に加熱される。このような加熱履歴を受けても、本発明で規定する上記した化学成分組成などは変化しない。しかし、本発明で規定する上記した1μm以上の分散粒子の数密度の方は、固溶や粗大化などによって、前記ろう付け相当加熱後の積層板では、前記素材積層板よりも少ない方に変化する。
これら規定した分散粒子の平均数密度の制御は、均熱処理(均質化熱処理)において、均熱処理の加熱過程で析出する分散粒子の数密度を必要以上に増やさないことによって行う。これらのサイズの析出物の数密度を、素材としての心材アルミニウム合金板(鋳塊)の段階で、上記分散粒子の平均数密度を7000個/mm2 を超えて増やさないようにするためには、均熱温度に到達後に一定時間保持後に熱延を開始するに際して、均熱処理が終了後から熱延を開始するまでの時間を30分以下とする。均熱温度は450℃以上で、かつバーニングが生じないような、比較的高温とする。この均熱温度が450℃未満では、均質化(均熱)の効果がない。但し、この心材アルミニウム合金板(鋳塊)に対する均熱処理は比較的高温なので、犠牲防食材(板)やろう材(板)の融点によっては、心材に、これら犠牲防食材(板)やろう材(板)を重ね合わせた状態では行えない場合がある。このような場合には、心材アルミニウム合金鋳塊のみに対して、上記比較的高温の均熱処理を行ない、その後、重ね合わせた状態の積層板に対して、比較的低温の均熱処理や、熱延のための再加熱処理を行なうことが好ましい。
以下、本発明に係る積層板を構成する各部材のアルミニウム合金組成を説明する。先ず、心材アルミニウム合金板2は、前記した通り、3000系アルミニウム合金組成からなる。ただ、心材アルミニウム合金板2はチューブ材およびヘッダー材などの熱交換器用部材として、後述する本発明組織とするためだけでなく、それ以外にも、成形性、ろう付け性あるいは溶接性、強度、耐食性などの諸特性が要求される。
SiはFeと金属間化合物を形成して心材アルミニウム合金板の強度を高める。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.2%以上含有させる。一方、Si含有量が多過ぎると、心材中に粗大な化合物を形成して、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての耐食性が低下するため、上限は1.5%以下とする。したがって、Siの含有量範囲は0.2〜1.5%の範囲とする。
Cuは固溶状態にてアルミニウム合金板中に存在し、心材アルミニウム合金板の強度を向上させる。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.2%以上含有させる。一方、Cu含有量が多過ぎると、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての耐食性が低下するため、上限は1.2%以下とする。したがって、Cuの含有量範囲は0.2〜1.2%の範囲とする。
Mnは、規定している分散粒子などの金属間化合物をアルミニウム合金板中に分布させ、心材アルミニウム合金板の、耐食性を低下させることなく、強度を向上させるための元素である。また、結晶粒径を微細化させ、耐振動疲労特性や、疲労破壊による亀裂の発生が支配的な疲労に対する耐疲労破壊性を高める効果もある。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保し、耐疲労破壊性を高めるためには、下限0.2%以上含有させる。
Tiは、アルミニウム合金板中で微細な金属間化合物を形成し、心材アルミニウム合金板の耐食性を向上させる働きを有する。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な耐食性を確保するためには、下限0.03%以上含有させる。一方、Ti含有量が多過ぎると、アルミニウム合金積層板の成形性が低下し、部品形状への組付け等の加工時にアルミニウム合金積層板が割れてしまう恐れがある。このため、Ti含有量の上限は0.3%以下とする。したがって、Tiの含有量範囲は0.03〜0.3%の範囲とする。
Feは、不純物としてスクラップをアルミニウム合金溶解原料として使用する限り、心材アルミニウム合金板に必然的に含まれる。Feには、前述のようにSiと金属間化合物を形成して心材アルミニウム合金板の強度を高めるとともに、結晶粒径を微細化し、さらに心材のろう付け性を高める効果がある。しかし、その含有量が多すぎると、心材アルミニウム合金板の耐食性が著しく低下する。このためFe含有量は1.0%以下に規制する。
Mgは心材アルミニウム合金板の強度を高めるが、その含有量が多いとフッ化物系フラックスを用いるノコロックろう付け法などにおいてろう付け性が低下する。このため、Mgによってろう付け性が低下するようなろう付け条件による熱交換器向けには、Mg含有量は0.5%以下に規制することが好ましい。
Cr、Zn、Zrは、心材アルミニウム合金板の耐振動疲労特性や、疲労破壊による亀裂の発生が支配的な疲労特性を高める効果がある。この効果を発揮させたい場合には、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%の範囲で、1種または2種以上を含有させる。
次に、心材アルミニウム合金板2にクラッドされるろう材合金4は、従来から汎用されているJIS4043、4045、4047などの4000系のAl−Si系合金ろう材など公知のろう材アルミニウム合金が使用できる。ろう材合金は、一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。
更に、心材アルミニウム合金板2にクラッドされる犠牲防食材合金3は、従来から汎用されているAl−1質量%Zn組成のJIS7072などの7000系アルミニウム合金等、Znを含む公知の犠牲防食材アルミニウム合金が使用できる。このような犠牲防食材は、冷却水がチューブ内面側に存在する自動車用熱交換器では必須となる。即ち、前記した冷却水が存在するチューブ内面側の腐食性に対する防食、耐蝕性確保のためには必須となる。
積層板の製造は以下の通りとした。表1に示すA〜Jの組成の3000系アルミニウム合金組成を溶解、鋳造してアルミニウム合金心材鋳塊を製造とした。この心材鋳塊の一方の面に、Al−1質量%Zn組成からなるJIS7072アルミニウム合金板を犠牲防食材として、他面にAl−10質量%Si組成からなるJIS4045アルミニウム合金板をろう付け材として、各々クラッドした。そして、このクラッド板を、表2に示すように、各例とも均熱温度、均熱終了後から熱延を開始するまでの時間を種々変えて、前記した分散粒子の数密度を制御した上で、クラッド板を熱間圧延した。そして更に、適宜中間焼鈍を施しながら冷間圧延し、H14調質材の積層板(ブレージングシート)とした。
前記した測定方法を各々用いて、上記冷延クラッド板である積層板の心材部分と、上記加熱後の各積層板の心材部分との組織を観察して、圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径(μm)、圧延面表層部における500倍のSEMにより観察される重心直径の平均値が1μm以上の分散粒子の平均数密度(個/mm2 )を測定した。これらの結果を表2に示す。ここで、素材であるろう付け相当加熱前の積層板の心材アルミニウム合金板の平均結晶粒径は、表2に示していないが、上記短時間のろう付け相当加熱では殆ど変化しないために、表2に示す、ろう付け相当加熱後の積層板における心材アルミニウム合金板の平均結晶粒径と概ね同じであった。
上記加熱後の各積層板の引張り試験を行い、引張強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、伸び(%)、絞り(%)、n値を各々測定した。これらの結果を表3に示す。試験条件は、各積層板から圧延方向に対し垂直方向のJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、引張り試験を行った。引張り試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。また、クロスヘッド速度は、5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。n値は、降伏伸びの終点から真応力と真歪みを計算し、横軸を歪み、縦軸を応力とした対数目盛上にプロットし、測定点が表す直線の勾配を測定してn値とした。
上記加熱後の各積層板の疲労特性の評価は、図3に示す、前記特許文献5にも記載された、公知の片振り型平面曲げ疲労試験機によって、常温にて行った。即ち、上記加熱後の各積層板から、圧延方向と平行となるように、10mm×60mm×板厚の試験片を切り出して試験片を作製した。この試験片の一端を、図3の右側に示すように、片振り平面曲げ疲労試験機の固定側に取り付けた。そして、この試験片の他端を、図3の左側に示すように、駆動側のナイフエッジで挟持した。
更に、曲げ疲労試験後の各積層板(上記ろう付け相当加熱後)の疲労破壊近傍の圧延面を、100倍のSEMで観察し、亀裂の発生の程度から疲労破壊の機構を調査した。この亀裂の発生程度が比較的多い場合には、本発明が課題とする亀裂発生が支配的な疲労であり、亀裂の発生程度が比較的少ない場合には、亀裂伝搬が支配的な疲労である。したがって、同種のアルミニウム合金板につき、意図的(典型的に)に亀裂発生が支配的な疲労と、亀裂伝搬が支配的な疲労とを作り分けた、基準となる試料から、亀裂発生程度の違いを予め調べておく。そして、この基準となる試料と比較して、亀裂の発生程度が比較的多い場合には亀裂伝搬が支配的な疲労であり、亀裂の発生程度が比較的少ない場合には亀裂伝搬が支配的な疲労であると判定した。これらの結果を表3に示す。
Claims (10)
- 少なくとも心材アルミニウム合金板とアルミニウム合金犠牲防食材とをクラッドし、ろう付けによって熱交換器とされるアルミニウム合金積層板であって、前記心材アルミニウム合金板が、質量%で、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.2 〜1.2%、Mn:0.2〜1.4%、Ti:0.03〜0.3%を各々含有するとともに、Fe:1.0 %以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金組成を有し、更に、この心材アルミニウム合金板の圧延面表層部での500倍のSEMにより観察される重心直径の平均値が1μm以上の分散粒子の平均数密度を7000個/mm2 以下とした組織を有することを特徴とする、疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Mgを0.5 質量%以下に規制した、請求項1または2に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板の板厚が0.25mm未満の薄肉である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板の板厚が0.3mm未満の薄肉である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 少なくとも心材アルミニウム合金板とアルミニウム合金犠牲防食材とがクラッドされ、前記心材アルミニウム合金板が、質量%で、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.2 〜1.2%、Mn:0.2〜1.4%、Ti:0.03〜0.3%を各々含有するとともに、Fe:1.0 %以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金組成を有し、更に、ろう付け相当の加熱後の組織として、この心材アルミニウム合金板の圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径を200μm以下であるとともに、この心材アルミニウム合金板の圧延面表層部での500倍のSEMにより観察される重心直径の平均値が1μm以上の分散粒子の平均数密度を6000個/mm2 以下である組織を有することを特徴とする、疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有する、請求項6に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Mgを0.5 質量%以下に規制した、請求項6または7に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板の板厚が0.25mm未満の薄肉である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板の板厚が0.3mm未満の薄肉である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
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