JP2009210552A - 接触部品および時計 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複合メッキ160はニッケルメッキNから露出するグラファイト粒子Gを有し、相手部品との摺動によってグラファイト粒子GがニッケルメッキNの表面に沿って圧延されることにより、略層状のグラファイト露出部162が形成される。これにより、グラファイトの潤滑性が十分に発揮される。また、圧延によってグラファイト露出部162が皮膜部161に密着するため、略層状のグラファイト露出部162を長期に亘り維持できる。そのうえ、複合メッキ160は、メッキ浴にグラファイト粒子Gを混入してメッキ処理を行うだけで容易に製造可能である。以上により、オシドリおよびカンヌキなどにおける切替部や、ロータなどにおける摺動部の耐摩耗性を安価なコストで大幅に向上させることができる。
【選択図】図5
Description
このような摺動部や切替部には通常、動作精度および長期信頼性を確保するために注油が行われるが、長期に亘る使用や、低温環境下での使用によって油の劣化が進み、摩擦抵抗が増大する。また、切替部や、低速高トルクで回転する歯車のホゾなどでは、相手部品との点接触により部品の削れが発生し、その削れカスにより摩擦抵抗が増すこともある。
なお、特許文献1では、時計部品の外観を良好にするため、時計部品全体を一旦ニッケルメッキにより被覆した後、摺動部のみ磨いてニッケルメッキを削り落とし、部品素地が露出した部分に化成処理膜および塗膜を形成する。
以上に加えて、特許文献1では、部品表面に化成処理膜と塗膜との両方をそれぞれ形成する必要があるため、製造工程が複雑となり、コスト高となる。
また、本発明では、メッキ浴にグラファイト粒子を混入してメッキ処理を行うだけでよく、複雑な製造工程は不要となる。
以上により、接触部品の耐摩耗性を安価なコストで大幅に向上させることができる。
そのうえ、皮膜部の表面に、部品の基材表面の凹凸などに起因する微細な凹凸がある場合に、圧延されたグラファイト粒子がこの凹凸を埋めるので、接触面が平滑化される。この点でも、耐摩耗性を向上させることができる。
なお、以下では、略層状のグラファイト露出部をグラファイト層ということがある。
ここで、粒径が100nm未満の場合には、相手部品との接触時にグラファイト粒子が削れて転がり接触状態となり易いので、グラファイトの潤滑性が十分に発揮される滑り接触の場合ほどの耐摩耗性は得られない。一方、粒径が500nm超の場合には、耐摩耗性を向上させることは可能であるが、グラファイトの使用量に見合うだけの耐磨耗性を得ることはできない。従って、グラファイトの粒径は100nm以上、500nm以下が好適である。
また、前記粒径によって分散性が良好となるため、メッキ処理時における金属メッキへのグラファイト粒子の取り込み量、すなわち金属メッキに対するグラファイトの含有量が多くなる。これによって複合メッキの皮膜表面に露出するグラファイトの量が増え、潤滑性が向上する。すなわち、グラファイト粒子が削れずにグラファイト層が形成されることと、良好な分散性による含有量増加とによって、耐摩耗性をより一層向上させることができる。
ここで、複合メッキの厚みが0.1μm未満の場合には、金属メッキにグラファイト粒子が十分に取り込まれないため、耐摩耗性の向上に繋げることが難しい。
一方、複合メッキの厚みが10μmを超える場合には、厚みのばらつきが大きくなるため、精密部品に必要な寸法精度を維持することが難しくなるうえ、グラファイト粒子の取り込み量に見合うだけの耐摩耗性が得られず、摩擦低減効果が飽和する。従って、複合メッキの厚みは、0.1μm以上、10μm以下が好適である。
ここで、グラファイトの含有量が0.1質量%未満の場合には、複合メッキの皮膜表面に露出するグラファイト量が少ないため、耐磨耗性の向上に繋げることが難しい。一方、グラファイトの含有量が5質量%を超える場合には、分散剤の含有量も増えメッキ付き不良やメッキ割れが生じ易いうえ、摩擦低減効果が飽和する。従って、金属メッキに対するグラファイトの含有量は、0.1質量%以上、5質量%以下が好適である。
また、複合メッキが相手部品との接触部分のみに形成された場合には、グラファイトや分散剤の使用量を節約できる。
この発明によれば、加圧された状態で接触状態が切り替わるため、大きな負荷が掛かって磨耗し易い切替部に前記複合メッキが形成されることにより、耐磨耗性向上の本発明の意義を大きくできる。
この発明によれば、前述した接触部品を備えるため、前述の作用および効果と同様の作用および効果を享受できる。
第1実施形態は発電機を備えた電子時計であり、本実施形態では、摺動部を有する接触部品として、発電機が有するロータを示す。
図1は、本実施形態に係る腕時計のムーブメント10の平面図であり、図2は、ムーブメント10の断面図である。
ムーブメント10は、回転錘11と、回転錘11の回転を増速して伝達する増速輪列111と、回転錘11の回転力によって発電する発電機12と、発電機12により発生した電力を蓄える二次電池13と、発電機12により発生した電力または二次電池13の電力によって駆動される回路基板14と、時針や分針などの指針を駆動する図示しないステップモータ等とを備える。
増速輪列111は、回転錘11に固定された歯車112と、この歯車112に噛合する中間歯車113と、この中間歯車113に噛合するロータカナ114とを有する。
ロータ121は、図2に示すように、地板100と輪列受101との間に軸支されており、下ホゾ124と上ホゾ125とを有する。
図3は、ロータ121の下部を示す。ロータ121の下ホゾ124は、中央にホゾ穴150Aが形成されたルビー等の受石150に挿入される。
ここで、ロータ121において受石150との接触部分、および受石151(図2)との接触部分が摺動部であり、ロータ121における少なくともこれらの摺動部を含む部分に、複合メッキ160が形成される。本実施形態に示す複合メッキ160はロータ121の体表面全体に形成されるが、摺動部のみに複合メッキ160が形成されていてもよい。
図4は、図3の要部拡大模式図である。複合メッキ160は、金属メッキとしてのニッケルメッキNに、グラファイト粒子Gが混入されることで形成される。複合メッキにおける金属メッキは、本実施形態では防錆のためにニッケルメッキであるが、亜鉛メッキや、その他の金属メッキ、合金メッキ等であってもよい。
なお、図4や、後述する図5では、構造を理解し易くするために、ニッケルメッキNの膜厚に対してグラファイト粒子Gの大きさを誇張して大きく示している。
なお、図4は、ロータ121が相手部品としての受石150に対して未だ摺動していない状態を示す。
このため、複合メッキ160は、膜厚が0.1μm以上、10μm以下となるような成膜条件で形成され、その結果、ニッケルメッキNに対するグラファイト粒子Gの含有量は、0.1質量%以上、5質量%以下となる。
グラファイト露出部162は、受石150との摩擦摺動により、皮膜部161に沿って圧延される。このように圧延されることでグラファイト粒子Gが連続的となるため、グラファイト露出部162は略層状となる。このような略層状のグラファイト露出部162を介して、ロータ121と受石150とが滑り接触状態で摺動するため、グラファイトの優れた潤滑性が十分に作用する。
また、圧延によってグラファイト粒子GがニッケルメッキNに密着するため、グラファイト層(略層状のグラファイト露出部162)が長期に亘り維持される。
なお、グラファイト粒子Gの圧延後の状態において、ニッケルメッキNの全体がグラファイト粒子Gによって被覆されていなくてもよく、グラファイト粒子Gとグラファイト粒子Gとの間からニッケルメッキNが見えていてもよい。
図6は、複合メッキ160に関する磨耗試験の結果を示す。本試験では、ボールオンプレート往復揺動式の摩擦摩耗試験機により、次に示す試料1〜4について、鋼板とアルミナ(Al2O3)球との摩擦係数を測定した。ここでは、鋼板(高炭素鋼材、Hv硬さ700、表面粗さ(Ra)5nm)と、アルミナ球(Hv硬さ1500)とを用いる。また、本試験では、グラファイト粒子の粒径を約200nmとした。
試料2:膜厚5μmの複合メッキが形成された鋼板
(比較用)試料3:メッキなしの鋼板
(比較用)試料4:膜厚5μmの電気ニッケルメッキのみが形成された鋼板
なお、試料3、4は本実施形態との比較用に使用した。試料3のメッキ皮膜には、グラファイト粒子が含まれていない。
なお、鋼板とアルミナ球との接触面には注油しない。
なお、複合メッキの膜厚を10μm超とした場合、膜厚のばらつきが大きくなるので、接触部品として必要な寸法精度を確保することが難しい。また、複合メッキの膜厚を10μm超としてグラファイトの含有量を増加させても、摩擦係数が大幅に減少することはなく、そのグラファイトの含有量に見合うだけの摩擦低減効果が得られない。つまり、摩擦低減が飽和状態となる。
以上により、複合メッキの膜厚は、耐摩耗性の向上に寄与するグラファイト取り込み量を実現可能な0.1μm以上で、かつ10μm以下であることが好ましい。
一方、メッキ焼けを防止するため、電流密度は低い方が良い。具体的に、0.1A/dm2以上、30A/dm2以下が好ましい。
また、グラファイト含有量が多いほど、皮膜部から露出するグラファイト量も多くなって潤滑性が向上するので良い。但し、前述したように摩擦係数の低減が飽和し、かつ分散剤の必要量が増えてメッキ不良となりやすいため、ニッケルメッキに対するグラファイトの含有量は、耐摩耗性の向上に寄与する0.1質量%以上で、かつ5質量%以下であることが好ましい。
そして、メッキ浴の液温は、分散剤を変質させないように低い方が良く、10℃以上、40℃以下が好ましい。
図8は、上記と同様の摩擦磨耗試験を行った後における試料2の摩擦痕の40倍拡大写真を示す。前述したように、試料1のグラファイト粒径は約200nmであり、複合メッキの膜厚は5μmである。この図8に示すように、アルミナ球と摺動した部分でグラファイト粒子が圧延されることにより、黒っぽく筋状に見えるグラファイト層(略層状のグラファイト露出部)162が形成されている。このグラファイト層162はニッケルメッキNに密着しており、削れカスが無い。このため、相手部品との摺動状態が滑り接触となり、グラファイトの潤滑作用が十分に発揮される。
なお、アルミナ球が摺動した部分以外では、グラファイト粒子Gが皮膜部161から部分的に露出するため、ニッケルメッキの装飾性が維持される。
以上から、グラファイト層が確実に形成される程度にグラファイトの粒径が大きい場合に、耐摩耗性を大幅に向上させることができる。グラファイトの粒径は、分散し易さなどを考慮すると、100nm以上、500nm以下が好適である。
ここで試料2について、メッキ後および摩擦摩耗試験後の表面の拡大写真(1000倍)を図10および図11に示す。図10より、メッキ後の表面には、グラファイト粒子Gが分散しており、さらにその一部が皮膜部から露出して存在していることもわかる。また、図11より、前記した摩擦摩耗試験を行った後には、グラファイト粒子Gがつぶされて引き延ばされ、試料表面全体に広がっていることがわかる。
また、図12の左側には、前記した摩擦摩耗試験後の試料2の表面について、摩耗部分(摩耗痕)とそれ以外の部分とがわかるように撮影した写真を示す。そして、摩耗痕の方向と垂直方向に表面粗さを測定した結果を、図12の右側に示す。摩擦摩耗試験により、試料2の表面に突き出たグラファイト粒子Gがつぶされて引き延ばされ、表面が滑らかになっていることが理解できる。ここで磨耗痕部のRaは0.06μmであり、磨耗痕部以外のRaは0.17μmであった(レーザーテック株式会社製 広視野コンフォーカル顕微鏡 HD100D型使用)。
本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)ロータ121に形成された複合メッキ160はニッケルメッキNから露出するグラファイト粒子Gを有し、ロータ121と受石150との摺動によってグラファイト粒子GがニッケルメッキNの表面に沿って圧延されることにより、略層状のグラファイト露出部162が形成されるので、グラファイトの潤滑性が滑り接触状態下で十分に発揮される。
また、圧延によってグラファイト露出部162が皮膜部161に密着するため、略層状のグラファイト露出部162を長期に亘り維持できる。
そのうえ、複合メッキ160は、メッキ浴にグラファイト粒子Gを混入して電気メッキ処理を行うだけで容易に製造可能である。以上から、高速摺動することで特に磨耗し易いロータ121の耐摩耗性を安価なコストで大幅に向上させることができる。
次に、本発明の第2実施形態について図13〜図15を参照して説明する。本実施形態では、複合メッキが形成された接触部品として、切替部を有するオシドリおよびカンヌキを示す。
針合わせ機構20は、リュウズ21と、巻真22と、巻真22を操作する動作に応じて互いの接触状態が切り替わるオシドリ23およびカンヌキ24と、巻真22に角穴で挿通されたツヅミ車25と、図示しない日の裏車に噛合する小鉄車26とを有する。なお、キチ車27は、それぞれゼンマイを有する機械時計および電子制御式機械時計の場合に設けられていればよく、ツヅミ車25がキチ車27に噛合する図13の状態で巻真22を回すことにより、ゼンマイが巻上げられる。
ここで、図13は、巻真22がムーブメントの内側に向かって押し込まれた状態を示し、図14は、巻真22がムーブメントの外側に引き出された状態を示す。
複合メッキ160のグラファイト露出部162は、オシドリ23とカンヌキ24との接触状態が切り替わることによって図5のように圧延される。このように圧延されて略層状となったグラファイト露出部162を介してオシドリ23とカンヌキ24とが滑り接触するため、オシドリ23とカンヌキ24との耐摩耗性を大幅に向上させることができる。
なお、本実施形態ではオシドリ23とカンヌキ24との両方に複合メッキ160が形成されるため、いずれか一方に複合メッキ160が形成された場合よりも耐磨耗性を向上させることができる。
なお、本発明は前記各実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、摺動部を有する接触部品として、指針を駆動するステップモータのロータに複合メッキを形成してもよい。なお、ロータに限らず、ロータカナや、二番車、三番車等の時計用輪列部品のホゾやカナなどに複合メッキを形成してもよい。さらには、オシドリピンや、レバーの回動軸部や、長孔によって摺動案内されるピンや、押しボタンの操作軸および案内筒などに複合メッキが形成されていてもよい。
なお、針合わせ機構は、第2実施形態に示した針合わせ機構20に限らず種々のものがあり、ツヅミ車に係合するカンヌキ押さえや、巻真の引き出し操作を検知して運針を停止するためのリセットレバーなどを備えて構成される場合がある。このような針合わせ機構を構成する部品同士が摺動する部分や、接触状態が切り替わる部分に複合メッキを形成することが可能である。
このほか、相手部品に接触して摺動する摺動部、または相手部品との接触状態が切り替わる切替部に適宜、本発明の複合メッキは形成される。
Claims (13)
- 相手部品と接触して摺動する摺動部、または相手部品との接触状態が切り替わる切替部を有する接触部品であって、
前記摺動部または前記切替部には、金属メッキに少なくともグラファイト粒子が混入された複合メッキが形成される
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1に記載の接触部品において、
前記複合メッキは、金属メッキ、および前記グラファイト粒子における前記金属メッキに埋設された部分を含む皮膜部と、前記グラファイト粒子における前記皮膜部から露出した部分を含むグラファイト露出部とを有し、
前記グラファイト露出部は、前記皮膜部に沿って圧延されている
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1に記載の接触部品において、
前記複合メッキは、金属メッキ、および前記グラファイト粒子における前記金属メッキに埋設された部分を含む皮膜部と、前記グラファイト粒子における前記皮膜部から露出した部分を含むグラファイト露出部とを有し、
前記グラファイト露出部は、相手部品との接触時に前記皮膜部に沿って圧延される
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から3のいずれかに記載の接触部品において、
前記グラファイト粒子の粒径は、100nm以上、500nm以下である
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から4のいずれかに記載の接触部品において、
前記複合メッキの厚みは、0.1μm以上、10μm以下である
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から5のいずれかに記載の接触部品であって、
前記金属メッキに対する前記グラファイト粒子の含有量は、0.1質量%以上、5質量%以下である
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から6のいずれかに記載の接触部品において、
前記複合メッキは、当該接触部品の体表面部全体または相手部品との接触部分に形成される
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から7のいずれかに記載の接触部品において、
前記金属メッキは、ニッケルメッキである
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から8のいずれかに記載の接触部品において、
前記複合メッキは、電気メッキ処理により形成される
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から9のいずれかに記載の接触部品において、
前記複合メッキは、無電解メッキ処理により形成される
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から10のいずれかに記載の接触部品において、
前記摺動部は、時計用輪列部品のホゾ、または時計用輪列部品のカナである
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から10のいずれかに記載の接触部品において、
前記切替部は、バネ力によって加圧された状態で相手部品と接触する
ことを特徴とする接触部品。 - 請求項1から12のいずれかに記載の接触部品を備える
ことを特徴とする時計。
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