JP2009127123A - 板ばね材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高周波加熱を利用し、機械特性に優れた板ばね材及びこれを安定して得ることのできる板ばね材の製造方法を提供する。
【解決手段】略短冊状鋼板10の第1面11にその長手方向に沿って引張応力を与えるとともに第2面12にその長手方向に沿って圧縮応力を与えて、第1面11を高周波焼入れする板ばね材の製造方法である。この高周波焼入れにより、第2面近傍の母材組織12aよりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと均一に微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を第1面近傍の表面層11aに与えることを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】略短冊状鋼板10の第1面11にその長手方向に沿って引張応力を与えるとともに第2面12にその長手方向に沿って圧縮応力を与えて、第1面11を高周波焼入れする板ばね材の製造方法である。この高周波焼入れにより、第2面近傍の母材組織12aよりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと均一に微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を第1面近傍の表面層11aに与えることを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、板ばね材及びその製造方法に関し、高周波焼入れによる熱処理を利用してばね寿命を向上せしめた板ばね材及びその製造方法に関する。
「ばね」に用いられるばね材は、ばね鋼からなる金属素材を冷間又は熱間成形して「ばね」としての形状を与えた後に、焼入れ焼戻しの熱処理を行って提供される。また、疲れ強さを向上させるべく、ばね材の表面にショットピーニングを施して圧縮残留応力を与えることも広く行われている。近年、焼入れを高周波加熱装置によって行って疲れ強さを向上させたばね材が知られている。
例えば、特許文献1では、冷間成形したコイルに高周波加熱装置によって熱処理を行って、疲れ強さを向上させたコイルばね材が開示されている。ところで、一般的に、ばね材の焼入れ焼戻し後にオーステナイトが残留すると、「ばね」としての疲れ強さが低下して好ましくないとされている。ここで、特許文献1では、高周波加熱装置によれば、精度良くしかも高速にコイルを加熱して焼入れを行うことができる故に、コイルの金属材料成分を十分に考慮した熱処理を実現できて、残留オーステナイト量を3%以下に抑えることができると述べている。つまり、熱処理条件を残留オーステナイトの低減のために最適化して、ばねの疲れ強さを向上させることができると述べている。
また、高周波加熱装置によってばね材の一部分に熱処理を行って疲れ強さを向上させたばね材も知られている。
例えば、特許文献2では、板ばね材の一方の表面のみに高周波焼入れを施した板ばねの製造方法が開示されている。詳細には、ばね鋼からなる略短冊状の板ばね材を冷間又は熱間成形して焼入れ焼戻しを行う。すなわち通常の板ばね材を得る。その後、板ばねの使用状態と同じ方向に向けて荷重を付加すると、板ばね材は厚さを有しているから、その第1面には引張応力が、第2面には圧縮応力が生起する。引張応力が作用する第1面近傍を高周波加熱装置で加熱すると、その表面近傍で応力緩和が生じて引張応力が緩和される。これを冷却した後に荷重を除荷すると、第1面には圧縮応力が与えられるので、高い疲れ強さのばね材を得ることができるのである。
特開2004−323912号公報
特開2006−71082号公報
特許文献1に開示の如く、高周波加熱装置によれば精度良くばね材を熱処理することができて、高い疲れ強さの金属組織を安定してばね材に与え得るのである。また特許文献2に開示の如く、ばね材の一部に熱処理を行うことで複合組織を得ることができて、「ばね」としての機械特性に優れたばね材を得ることが期待できるのである。しかし、最近ではさらに高い疲労強度が求められている。
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、高周波加熱を利用し、機械特性に優れた板ばね材及びこれを安定して得ることのできる板ばね材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明による板ばね材の製造方法は、略短冊状鋼板の第1面にその長手方向に沿って引張応力を与えるとともに第2面にその長手方向に沿って圧縮応力を与えて、前記第1面を高周波焼入れする板ばね材の製造方法である。前記高周波焼入れは、前記第2面近傍の母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を前記第1面近傍に与えることを特徴とする。
本発明の板ばね材の製造方法によれば、母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を得ることが出来るのである。この高周波焼入れ組織はオーステナイトを含むのであるが、均一に微細に分散しているため焼入れ硬さを大きく低下させないのである。故に、得られる高い平均硬度は、ばねの耐久強度を向上せしめ、ばね寿命を向上させるのである。
また、本高周波焼入れ組織の均一に微細分散したオーステナイトは、板ばねとしての使用時に応力誘起変態を生じて微細なマルテンサイトに分解するのである。故に、「ばね」としての使用とともに、第1面近傍の圧縮応力がより高められるので、板ばね材に高い疲れ強さを与えるのである。つまり、ばね寿命を向上させることができるのである。
かかる高いばね寿命を有する板ばね材は、引張応力を与えながら高周波焼入れを行う、いわゆるストレス高周波焼入れによって、焼入れ条件を最適化することで得られる。本高周波焼入れ特有の組織は、安定した温度管理の容易な高周波加熱を利用して実現できるので、安定して高いばね寿命を有する板ばね材を提供することが可能となるのである。
さらに、本発明による板ばね材は、第1面及び第2面を有する略短冊状の鋼板からなる板ばね材であって、前記第2面近傍の母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと均一に微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を前記第1面近傍に有することを特徴とする。
本発明の板ばね材は、母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと均一に微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を有する。かかる高周波焼入れ組織はオーステナイトを含む。しかしながら、オーステナイトが均一に微細分散した特有の高周波焼入れ組織であるため、焼入れ硬さを大きく低下させないのである。つまり、高周波焼入れ組織による高い硬度はばねの耐久強度を向上せしめ、ばね寿命を向上させることができるのである。
また、本高周波焼入れ組織の均一に微細分散したオーステナイトは、板ばねとしての使用時に応力誘起変態を生じて微細なマルテンサイトに分解するのである。故に、「ばね」としての使用とともに、第1面近傍の圧縮応力がより高められるので、板ばね材に高い疲れ強さを与えるのである。つまり、ばね寿命を向上させることができるのである。
本発明の1つの実施例としての板ばね材及びその製造方法について説明する。
ばね鋼などからなる金属素材を冷間又は熱間成形して「板ばね」としての形状を与えた板ばね材を用意する。すなわち、通常の板ばね材を用意する。このような略短冊状の湾曲した鋼板からなる板ばね材に、常温で「ばね」としての使用時と同じ方向に荷重を付加する。すなわち、湾曲して撓んだ形状の板ばね材を伸ばして略平板として固定するのである。このとき、板ばね材は厚さを有しているから、その第1面には長手方向に沿って引張応力が生じ、反対側の第2面には長手方向に沿って圧縮応力が生じるのである。後述する典型的な高周波焼入れ組織を得るには、第1面の引張応力がより高いことが好ましく、常温において1000MPa以上である。この引張応力は、板ばね材の形状、厚さ、固定形状等によって変化せしめることができる。
板ばね材を伸ばして略平板として固定した状態で、第1面を高周波焼入れするとその表面の引張応力が熱によって速やかに緩和される。冷却後、固定を解除して荷重を除荷すると、板ばね材の第1面には圧縮残留応力が与えられるのである。その後、好ましくは、80℃〜160℃の熱処理を行う。高周波加熱源の出力、冷却条件によって、後述する高周波焼入れ組織の組織及び厚さ等を制御することができる。
ところで、上記したストレス高周波焼入れ及び任意に施される低温焼戻しなどの熱処理後に得られる板ばね材において、高周波焼入れされた第1面と反対側にある第2面近傍は母材組織を有する。つまり第2面近傍は、最初に用意した板ばね材の組織と同じであって、マルテンサイト、マルテンサイトを焼戻した組織、トルースタイト、ソルバイト、ベイナイト、フェライト及びパーライトの1種以上からなる母材組織である。なお、高周波焼入れ前において、第1面近傍も母材組織と同じ組織である。しかしながら、ストレス高周波焼入れを行って、第1面近傍には650HV以上の母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと均一に微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を得る。かかる高い硬度は、「ばね」としての耐久強度を向上せしめ、ばね寿命を向上せしめるのである。ここで高周波焼入れ組織の厚さは、板ばね材の厚さの5〜10パーセントであることが好ましい。
また、ストレス高周波焼入れは、オーステナイトの体積含有率を高めるように施され、この体積含有率は15%以上であることが好ましい。かかるオーステナイトは、高い引張応力を与えながらのストレス高周波焼入れにより、平均粒径500nm以下、好ましくは100nm以下の均等均一に分散した微細粒となるのである。このような高周波焼入れ組織特有のオーステナイトは、板ばねとしての使用時に応力誘起変態を生じて、微細なマルテンサイトに分解し、「ばね」としての使用とともに、第1面近傍の圧縮応力をより高める。故に、板ばね材により高い疲れ強さを与え、ばね寿命を向上させることができるのである。
なお、第1面に上記したような大なる引張応力を与えながら高周波焼入れを行うと、高周波焼入れ組織の結晶粒径は母材組織よりも微細化できて、ばね寿命を大幅に向上できる。好ましくは、母材組織の結晶粒度は8〜10、高周波焼入れ組織の結晶粒度は11〜13である。
更に、高周波焼入れ組織において650MPa以上の圧縮残留応力をばね板に付与することで、ばね寿命を大幅に向上できて好ましい。
このような高周波焼入れ組織について、CrKα線のディフラクトメータ法によるFeの(200)α回折ピークの半価幅を測定すると、高周波焼入れ組織のひずみ状態が測定できて、簡易にばね寿命を予測できる。この半価幅が8°以上であると、ばね寿命を大幅に向上できて好ましい。
以上述べてきたように、本発明の製造方法による本発明の板ばね材によれば、従来の典型的な改良オースフォーミング材からなる板ばね材に比べて、例えばワイブル統計確率に基づく疲労寿命であるB10寿命で評価して、安定して3倍以上の寿命を得られるのである。
更に本発明による板ばね材及びその製造方法の実施例について図1及び図2を参照しつつ、詳細に説明する。
以下ではJIS SUP11A鋼材を使用した実施例について詳細を述べるが、鋼種はこれに限定されない。特に一般的なばね鋼(JIS4801)及び同等材に関して同様の実施が可能である。
図1に示すように、フェライト+パーライト二相組織のばね鋼からなる鋼板を所定寸法の短冊状に切断する。これを加熱しながら形状を整えて焼入れ焼戻しの熱処理を行うと、湾曲して撓んだ形状の本発明の処理前の板ばね材10−1を得ることができる。なお、この工程は公知である故に詳述しない。かかる処理前板ばね材10−1は、マルテンサイトを焼戻した組織である。なお、焼入れを行わずにフェライト+パーライト二相組織のままの板ばね材、ベイナイト組織を有する板ばね材なども適宜用いることもできる。
図1(a)に示すように、処理前板ばね材10−1の反り上がった両端部が上に、また中央部が下になるようにしてこれを固定台1上に配置する。
図1(b)に示すように、処理前板ばね材10−1の両端部を固定台1上に押さえつけて略平板となるようにクランプ2で固定する。このとき、処理前板ばね材10−1の厚さにより、第1面(上面)11には引張応力TMPaが生じ、第2面(下面)12には圧縮応力が生じる。
図1(c)に示すように、高周波加熱手段3を処理前板ばね材10−1の長手方向Aに沿って移動させながら、所定出力で第1面11を加熱する。これにより第1面11の引張応力が緩和される。これとともに、第1面11近傍の表面層11aは、マルテンサイトを焼戻した組織(若しくは、フェライト+パーライト二相組織、若しくはベイナイト組織など)から高温相であるオーステナイトのほぼ単相組織に相変化する。
一方、冷却手段4を高周波加熱手段3の後を追うようにA方向に移動させながら、第1面11の加熱部分を順次、冷却していく。これにより、上記した加熱工程でオーステナイト相に変化した第1面11近傍の表面層11aをマルテンサイト+微細分散したオーステナイト二相組織に焼入れるのである。
なお、引張応力T、高周波加熱条件(出力及び移動速度等)及び冷却条件(冷却能及び移動速度等)の調整(以後、焼入れ条件と称する。)により、処理前板ばね材10−1の第1面近傍の温度分布及び焼入れ組織などを調整することができる。すなわち、表面層11aの厚さ、表面層11aのオーステナイト量、及び、第1面11近傍の残留応力などが調整できるのである。
図1(d)に示すように、上記した高周波加熱及び焼入れを処理前板ばね材10−1の所定部分、例えば、中央部分だけ、若しくは一端部から他端部まで適宜必要に応じて行うのである。
図1(e)に示すように、クランプ2をはずすと、第2面の圧縮応力が開放されて板ばね材10は再び両端部を上方にそり上げた形状に戻る。このとき、第1面11の近傍には圧縮応力が生じようとするのである。
図2に示すように、本実施例による板ばね材10(厚さをDとする。)は、マルテンサイトを焼戻した組織(若しくは、フェライト+パーライト二相組織、若しくはベイナイト組織など)からなる母材組織を有する母材層12aと、厚さdのマルテンサイト+微細分散したオーステナイト二相組織(焼入れ組織)を有する表面層11aとの二層からなる。ここで母材組織は、炭化物を均等に分布させる処理を行っておくことが好ましい。
ところで、後述する実施例及び比較例の試料の作製にあたって、いくつかの前実験を行っている。
図3に、 SUP11A鋼板からなる板厚18mmの略短冊状のばね材10−1に上記したようなストレス高周波焼入れを行った板ばね材10の深さ方向の硬度分布31及び残留応力分布34の測定結果を示す。硬度分布31は、第1面11から深さ方向にほぼ一定で約750HV程度であり、深さ1.5mmの位置で急激に低下していた。また、圧縮残留応力分布34は、第1面11(深さ0mm)では750MPaであるが、その絶対値を上昇させながら、深さ1.5mmの位置で最高1200MPa以上に達し、急激に低下していた。
次に、図3に、上記した板ばね材10を150℃で1時間の熱処理を行った板ばね材(以下、この板ばね材を10’と称する。)の硬度分布32及び圧縮残留応力分布35を示す。熱処理の効果により、硬度分布32は、硬度分布31よりも約100近く低くなっており、約650HV程度であった。また、圧縮残留応力分布35は、第1面11(深さ0mm)では650MPaであるが、わずかにその絶対値を上昇させながら、深さ1.5mmの位置で最高1000MPa以上に達していた。その後、急激に低下していた。
更に、図3に、上記した板ばね材10を250℃で1時間の熱処理を行った板ばね材の硬度分布33及び圧縮残留応力36を示す。熱処理の効果により、硬度分布33は、硬度分布31及び32よりも低くなっており、約500HV程度であった。また、圧縮残留応力分布36は、第1面11では400MPaであり、圧縮残留応力分布34及び35よりも絶対値が低かった。圧縮残留応力分布36は、わずかにその絶対値を上昇させながら、深さ1.5mmの位置で最高750MPaに達するが、急激に低下していた。
最後に、図3に、ストレスを負荷しないで高周波焼入れしたままで焼戻しを行っていない板ばね材10−1の圧縮残留応力分布37を示す。これによると、圧縮残留応力分布36とほぼ同じ分布を示すことから、250℃で1時間の熱処理を行うと、ストレスを負荷した効果が失われることがわかった。
また、上記した板ばね材10を150℃で1時間熱処理を行った板ばね材10’の断面組織の観察を行った。
図4に示すように、板ばね材10’の表面層11aの典型的な高周波焼入れ組織は、結晶粒度12以上の旧オーステナイト粒界を有する微細なマルテンサイトの焼戻し組織と残留オーステナイトとの二相混合組織であって、残留オーステナイトはあたかも旧オーステナイト粒界に均一に分散しているようにサブミクロンオーダーで粒状に微細均等に存在していた。またEBSP分析(TSL社製OIMのEBSP検出器を用い、加速電圧25kVで測定)によると、残留オーステナイトは、面積から換算した体積含有率で約15vol.%であり、サブミクロンオーダーで粒状に微細均等に分散していた。これは後述するように、X線回折から求めた残留オーステナイト量とも一致していた。一方、図5に示すように、母材組織は、典型的にはマルテンサイトを焼戻した組織であって残留オーステナイトはほとんど検出されなかった。
次に、SUP11A鋼板からなる板厚18mmの略短冊状のばね材10−1にストレス高周波焼入れを行って1.5mmの表面層11aを与えた板ばね材10の耐久試験前後の高周波焼入れ組織における残留オーステナイト分布について調べた。なお、残留オーステナイト量は、X線解析において、Co管球を用い、管電圧40kV、管電流200mAで(200)αと(211)α、(200)γと(220)γの回折強度(積分値)比から算出している。
図6の曲線41に示すように、板ばね材10の表面11(深さ0mm)での残留オーステナイト量は、約25vol.%程度であって、表面11から約1mm程度の深さで急激に減少し、約1.2mmの深さで約15vol.%以上、約1.5mmの深さでほぼ0となっていた。この板ばね材10について耐久試験を行うと、表面11の残留オーステナイト量は、曲線42に示すように、13vol.%程度に減少し、約0.5mmよりも深い位置ではほとんど変化がなかった。すなわち、本高周波焼入れ組織特有の均一に微細分散したオーステナイトは、応力誘起変態により微細なマルテンサイトに変化するのである。このとき変態誘起塑性によりばね材表面の靱性が向上するため、「ばね」としての耐久性も向上するのである。かかる効果を得るためには、更に後述するように、所定量よりも多くのオーステナイト量を必要としており、好ましくは、15vol.%以上である。一方で、応力誘起変態後の未変態のオーステナイトは強度の抑制を生じせしめる。すなわち、650HV以上の硬度となるような強度を与えるためには、オーステナイト量は好ましくは30vol.%以下である。
次に、SUP11A鋼板からなる板厚18mmの略短冊状のばね材10−1にストレス高周波焼入れを行って1.5mmの表面層11aを与えた板ばね材10の熱処理温度と残留オーステナイトの量について測定を行った。
図7の曲線51に示すように、熱処理温度が高くなると、残留オーステナイトが低炭素マルテンサイトとε炭化物に分解し減少してしまう。また、この分解過程で収縮が起こり、引張応力が作用するようになるため疲労強度を低下させる。従って、変態誘起塑性によるばね材の耐久性向上のためには、熱処理温度を所定温度までにすることが必要である。
なお、図8に示すように、Feの(200)αにおける半価幅Δ2θは、熱処理温度の上昇とともに収束する。つまり、熱処理によりマルテンサイトも低炭素マルテンサイトとε炭化物に分解し、平均硬さや残留応力が減少するため、所定以上の硬度を維持するためには熱処理温度が高すぎないようにすべきである。この実験については更に後述する。(なお、X線回折における(200)αの半価幅の測定は、Cr管球、管電圧30kV、管電流10mAの条件で行った。)
次に、SUP11A鋼板からなる板厚18mmの略短冊状のばね材10−1に異なる引張応力を与えてストレス高周波焼入れを行って、1.5mmの表面層11aを与えた板ばね材10の引張応力Tと残留オーステナイトの深さ方向分布の関係についての測定を行った。
図9に示すように、引張応力T=1000MPaの板ばね材10の残留オーステナイト量71に比べて、引張応力を負荷しない板ばね材10の残留オーステナイト量72は表面近傍で低くなっている。つまり、引張応力を高くすることで残留オーステナイト量を高めることができるのである。これは、高周波焼入れ時に引張応力Tが作用することで変態核を多く生成し、隣接核との干渉によって各成長が抑制されるために、変態が完了せずにオーステナイトとして残留する量が多くなると考えられる。
以上の実験結果をふまえて、SUP11A鋼板からなる板厚18mmの略短冊状の処理前板ばね材10−1に焼入れ条件を変化させて表1の如き、実施例1乃至5、及び、比較例1乃至13の18の試料を作製した。
まず、図10に、引張応力Tを1000MPaとした試料、すなわち表1の実施例2(参照記号81)、実施例4(参照記号82)、実施例5(参照記号83)、及び、比較例3(参照記号84)、比較例4(参照記号85)、比較例9(参照記号86)の各試料について、耐久試験を行って、その耐久回数を示した。なお、応力振幅は、図10の縦軸に示した平均応力、すなわち650,700及び750MPaのそれぞれ0.8倍である。また、図中の一点破線Mは、公知の典型的な改良オースフォーミング材のB10寿命の3倍の寿命を表している。
実施例2(参照記号81)、実施例4(参照記号82)、実施例5(参照記号83)において、一点破線Mよりも大なる耐久回数側にある。一方、比較例3(参照記号84)、比較例4(参照記号85)、比較例9(参照記号86)では、一点破線Mよりも小なる耐久回数側にある。つまり、高周波焼入れ深さが10%以下であり、且つ、熱処理温度が150℃以下のばね材において公知の典型的な改良オースフォーミング材のB10寿命の3倍以上の耐久性を安定して示すのである。
次に、図11に、上記した板ばね材10について、Cr管球、管電圧30kV、管電流10mAの条件でX線回折した際のFeの(200)αでの半価幅と、耐久試験による耐久回数の関係を示す。半価幅Δ2θと耐久回数との関係において、半価幅が8°以上では板ばね材の耐久回数は4×105以上であるが、8°未満では2×105以下のものもある。なお、参照符111、112及び113は、それぞれ平均応力650MPa、700MPa及び750MPaでの結果を示している。翻って、図8では、160℃よりも高い熱処理温度では、半価幅Δ2θが8°よりも小さくなっていた。つまり、図11と併せてみると、熱処理温度が160℃よりも高温になると、耐久性が低下してしまうのである。これは160℃近傍で焼入れマルテンサイトが低炭素マルテンサイトとε炭化物(Fe2.4C)への分解が進行したことと対応している。
更に、図12に、上記した板ばね材10について、高い硬度を有する表面層11aの深さを変化させたときの板ばね材の耐久試験による耐久回数(k)を示した。これによると、熱処理温度が低いほど、好ましくは160℃よりも低い温度の熱処理において所定の耐久性を得られる。このような好ましい熱処理温度では、表面層11aの厚さ(深さ)dが大であるほど耐久性が高いのである。一方で、表面層11aの厚さdが大となると、母材層12aから与えられる応力(復元力)が相対的に減少して表面11における圧縮残留応力が減じられてしまう。よって好ましくは、表面層11aの厚さdは、ばね材10の厚さDの10%以下である。一方で、表面層11aの厚さdが小さすぎると、表面層11aの上記したような効果が減じられてしまう。よって好ましくは、表面層11aの厚さdは、ばね材10の厚さDの5%以上である。
以上、本実施例のばね材によれば、公知の典型的な改良オースフォーミング材のB10寿命の3倍以上の耐久性を安定して示すのである。
1 固定台
2 クランプ
3 高周波加熱手段
4 冷却手段
10 板ばね材
10−1 処理前板ばね材
11a 表面層
12a 母材層
2 クランプ
3 高周波加熱手段
4 冷却手段
10 板ばね材
10−1 処理前板ばね材
11a 表面層
12a 母材層
Claims (23)
- 略短冊状鋼板の第1面にその長手方向に沿って引張応力を与えるとともに第2面にその長手方向に沿って圧縮応力を与えて、前記第1面を高周波焼入れする板ばね材の製造方法であって、
前記高周波焼入れは、前記第2面近傍の母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を前記第1面近傍に与えることを特徴とする板ばね材の製造方法。 - 前記母材組織は、マルテンサイト、マルテンサイトを焼戻した組織、トルースタイト、ソルバイト、ベイナイト、フェライト及びパーライトの1種以上からなることを特徴とする請求項1記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織は、前記母材組織よりも小なる結晶粒径を有することを特徴とする請求項2記載の板ばね材の製造方法。
- 前記母材組織の結晶粒度が8〜10であるとともに、前記高周波焼入れ組織の結晶粒度が11〜13であることを特徴とする請求項3記載の板ばね材の製造方法。
- 前記引張応力は常温において1000MPa以上であり、前記高周波焼入れ後に、前記引張応力を除荷する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 前記引張応力を除荷する工程の後に、低温焼戻し工程を含むことを特徴とする請求項5記載の板ばね材の製造方法。
- 前記低温焼戻し工程の熱処理温度は、80℃〜160℃であることを特徴とする請求項6記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織は、650HV以上の硬度を有することを特徴とする請求項1乃至7のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織の前記オーステナイトの体積含有率が15パーセント以上であることを特徴とする請求項8に記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織の前記オーステナイトは、平均粒径500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織は、前記鋼板の厚さの5〜10パーセントの厚さで分布することを特徴とする請求項1乃至10のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織は、650MPa以上の圧縮残留応力を有することを特徴とする請求項1乃至11のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 前記高周波焼入れ組織について、CrKα線のディフラクトメータ法によるFeの(200)α回折ピークの半価幅が8°以上であることを特徴とする請求項1乃至12のうちの1つに記載の板ばね材の製造方法。
- 第1面及び第2面を有する略短冊状の鋼板からなる板ばね材であって、前記第2面近傍の母材組織よりも高い平均硬度を有する、マルテンサイトと微細分散したオーステナイトとからなる高周波焼入れ組織を前記第1面近傍に有することを特徴とする板ばね材。
- 前記母材組織は、マルテンサイト、マルテンサイトを焼戻した組織、トルースタイト、ソルバイト、ベイナイト、フェライト及びパーライトの1種以上からなることを特徴とする請求項14記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織は、前記母材組織よりも小なる結晶粒径を有することを特徴とする請求項15記載の板ばね材。
- 前記母材組織の結晶粒度が8〜10であるとともに、前記高周波焼入れ組織の結晶粒度が11〜13であることを特徴とする請求項16記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織は、650HV以上の硬度を有することを特徴とする請求項14乃至17のうちの1つに記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織の前記オーステナイトの体積含有率が15パーセント以上であることを特徴とする請求項18記載の板ばね材。
- 前記オーステナイトは、平均粒径500nm以下であることを特徴とする請求項14乃至19のうちの1つに記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織は、前記鋼板の厚さの5〜10パーセントの厚さで分布することを特徴とする請求項14乃至20のうちの1つに記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織は、650MPa以上の圧縮残留応力を有することを特徴とする請求項14乃至21のうちの1つに記載の板ばね材。
- 前記高周波焼入れ組織について、CrKα線のディフラクトメータ法によるFeの(200)α回折ピークの半価幅が8°以上であることを特徴とする請求項14乃至22のうちの1つに記載の板ばね材。
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