[第1の形態]
図1は、本発明に係る燃料噴射装置を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下、エンジンと略称する。)に適用した第1の形態を示している。エンジン1は、車両に走行用の動力源として搭載されるもので、図中の左右方向に一列に並べられた複数(図では4つ)のシリンダ2と、シリンダ2内に吸気を導く吸気通路3と、シリンダ2からの排気が導かれる排気通路4と、吸気通路3と排気通路4との間に設けられたターボチャージャ5とを備えている。吸気通路3のコンプレッサ5aよりも上流側には、吸入空気を濾過するためのエアクリーナ6及び吸入空気量を検出するためのエアフローメータ7が設けられている。コンプレッサ5aの下流側には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁8が設けられている。一方、排気通路4のタービン5bの下流側には、少なくとも一つの排気浄化触媒9が設けられている。排気通路4のエキゾーストマニホールド4aにはEGR通路10が接続されている。シリンダ2からエキゾーストマニホールド4aに排出された排気の一部はEGR通路10のEGRクーラ11及びEGR弁12を順次通過して吸気通路3の吸気絞り弁8とインテークマニホールド3aとの間に還流する。
エンジン1が搭載されるべき車両には燃料タンク14が設けられている。その燃料タンク14には、第1の燃料としてのGTL燃料を蓄える第1貯留室15と、第2の燃料としての軽油を蓄える第2貯留室16とが設けられている。燃料タンク14のそれぞれの燃料は燃料噴射装置20によってエンジン1のシリンダ2内に噴射される。燃料噴射装置20は、第1貯留室15のGTL燃料をセジメンタ17を介して吸い込んで昇圧する第1昇圧手段としての第1燃料ポンプ21と、第2貯留室16の軽油をセジメンタ17を介して吸い込んで昇圧する第2昇圧手段としての第2燃料ポンプ22と、第1燃料ポンプ21から送り出される高圧のGTL燃料を蓄える第1コモンレール23と、第2燃料ポンプ22から送り出される高圧の軽油を蓄える第2コモンレール24と、これらのコモンレール23、24と接続されてGTL燃料及び軽油をシリンダ2内に噴射する燃料噴射弁25とを備えている。燃料噴射弁25はシリンダ2毎に設けられている。各燃料噴射弁25は、GTL燃料及び軽油をそれぞれ独立してシリンダ2内に噴射する機能を有している。燃料噴射弁25と燃料タンク14の貯留室15、16との間には、余剰の燃料を戻すためのリターン配管18、19がそれぞれ設けられている。
次に、燃料噴射弁25の詳細を説明する。図2に示すように、燃料噴射弁25は、燃料噴射弁25の全体のケーシングとして機能するバルブ本体31と、そのバルブ本体31に内蔵された第1弁体としての第1ニードル32及び第2弁体としての第2ニードル33と、第1ニードル32を駆動する第1駆動機構34と、第2ニードル33を駆動する第2駆動機構35とを備えている。第1ニードル32は中実の軸状であり、第2ニードル33は中空筒状である。バルブ本体31の先端部(図2において下端部)31aの中心側には第1弁室36が設けられ、外周側には第2弁室37が設けられている。これらの弁室36、37は、隔壁38により燃料の流通が不可能となるように仕切られている。バルブ本体31の先端部31aは先細りのコーン状に形成され、その先端部31aには第1弁室36に通じる第1噴孔39と、第2弁室37に通じる第2噴孔40とがそれぞれ設けられている。第1ニードル32は、その後端のピストンフランジ32aが隔壁38の内周面38aに嵌め合わされることにより、燃料噴射弁25の中心線CLの方向に移動自在な状態で第1弁室36に配置されている。第2ニードル33は、隔壁38の外周面38bに嵌め合わされることにより、中心線CLの方向に移動自在な状態で第2弁室37に配置されている。第1ニードル32がバルブ本体31の先端側に移動すると、その第1ニードル32の先端のテーパ面32bによって第1噴孔39が閉じられ、第1ニードル32がバルブ本体31の後端側(図2において上端側)に移動すると第1噴孔39が開口する。一方、第2ニードル33がバルブ本体31の先端側に移動すると、その第2ニードル33の先端のテーパ面33bによって第2噴孔40が閉じられ、第2ニードル33がバルブ本体31の後端側(図2において上端側)に移動すると第2噴孔40が開口する。
第1駆動機構34は、第1ニードル32をバルブ本体31の先端部31aに向かって押し付ける第1ニードルリターンスプリング42と、バルブ本体31の第1シリンダ43に摺動自在に嵌め合わされた第1コマンドピストン44と、バルブ本体31の第1ソレノイド室45に配置された第1アウタバルブ46と、第1アウタバルブ46を第1シリンダ43側に押し付ける第1アウタバルブリターンスプリング47と、その第1アウタバルブリターンスプリング47の外周に配置された第1ソレノイドコイル48とを備えている。第1コマンドピストン44により第1シリンダ43の内部は先端側の第1スプリング室43aと後端側の第1コマンド室43bとに区分されている。第1コマンドピストン44の先端側には小径のニードル保持軸44aが設けられている。そのニードル保持軸44aは、第1ニードル32が第1噴孔39を閉じているときに第1ニードル32の後端と当接可能である。第1コマンド室43bには第1高圧燃料通路50が第1オリフィス51を介して接続されている。第1高圧燃料通路50はバルブ本体31に形成されており、その一部は第1弁室36にも通じている。第1コマンド室43bは第2オリフィス52を介して第1ソレノイド室45と通じている。第2オリフィス52の内径は第1オリフィス51の内径よりも小さく設定されている。さらに、第1スプリング室43a及び第1ソレノイド室45のそれぞれは、バルブ本体31に形成された第1低圧燃料通路53と接続されている。
第1アウタバルブ46は磁性材料にて構成されている。第1ソレノイドコイル48が非励磁状態にあるとき、第1アウタバルブ46は第1アウタバルブリターンスプリング47のばね力で第2オリフィス52を閉じる位置に保持される。この場合、第1コマンド室43bと第1低圧燃料通路53との間は閉鎖される。一方、第1ソレノイドコイル48が励磁されると第1アウタバルブ46が開かれ、それにより、第1コマンド室43bが第2オリフィス52及び第1ソレノイド室45を介して第1低圧燃料通路53に接続される。
次に、第2駆動機構35は、第2ニードル33をバルブ本体31の先端部31aに向かって押し付ける第2ニードルリターンスプリング62と、バルブ本体31の第2シリンダ63に摺動自在に嵌め合わされた第2コマンドピストン64と、バルブ本体31の第2ソレノイド室65に配置された第2アウタバルブ66と、第2アウタバルブ66を第2シリンダ63側に押し付ける第2アウタバルブリターンスプリング67と、第2アウタバルブリターンスプリング67の外周に配置された第2ソレノイドコイル68とを備えている。第2コマンドピストン64により第2シリンダ63の内部は先端側の第2スプリング室63aと後端側の第2コマンド室63bとに区分されている。第2コマンドピストン64の先端側には中空のニードル保持軸64aが設けられている。そのニードル保持軸64aは、第2ニードル33が第2噴孔40を閉じているときに第2ニードル33の後端と当接可能である。第2コマンド室63bには第2高圧燃料通路70が第1オリフィス71を介して接続されている。第2高圧燃料通路70はバルブ本体31に形成されており、その一部は第2弁室37にも通じている。第2コマンド室63bは第2オリフィス72を介して第2ソレノイド室65と通じている。第2オリフィス62の内径は第1オリフィス61の内径よりも小さく設定されている。さらに、第2スプリング室63a及び第2ソレノイド室65のそれぞれは、バルブ本体31に形成された第2低圧燃料通路73と接続されている。
第2アウタバルブ66は磁性材料にて構成されている。第2ソレノイドコイル68が非励磁状態にあるとき、第2アウタバルブ66は、第2アウタバルブリターンスプリング67のばね力で第2オリフィス72を閉じる位置に保持される。この場合、第2コマンド室63bと第2低圧燃料通路73との間は閉鎖される。一方、第2ソレノイドコイル68が励磁されると第2アウタバルブ66が開かれ、それにより、第2コマンド室63bが第2オリフィス72及び第2ソレノイド室65を介して第2低圧燃料通路73と接続される。
以上の構成を備えた燃料噴射弁25において、第1高圧燃料通路50及び第2高圧燃料通路70は互いに異なるコモンレール23、24とそれぞれ接続される。高圧燃料通路50、70とコモンレール23、24との対応関係は種々の観点から定めることができるが、ここでは、第1高圧燃料通路50と第1コモンレール23とが接続され、第2高圧燃料通路70と第2コモンレール24とが接続されるものとして説明を続ける。この場合、第1低圧燃料通路53は第1リターン配管18と接続され、第2低圧燃料通路73は第2リターン配管19と接続される。
上記のように第1高圧燃料通路50及び第2高圧燃料通路70とコモンレール23、24とを接続した場合、燃料噴射弁25の第1弁室36及び第1コマンド室43bには第1コモンレール23に蓄えられた高圧のGTL燃料が導入され、第2弁室37及び第2コマンド室63bには第2コモンレール24に蓄えられた高圧の軽油が導入される。図2に示したように、ソレノイドコイル48、68がそれぞれ非励磁の状態では、第2オリフィス52、72がアウタバルブ46、66によってそれぞれ閉じられているので、各コマンド室43b、63bに燃料圧力が閉じ込められる。それにより、コマンドピストン44、64が燃料噴射弁25の先端側に押し出され、それに伴って、ニードル保持軸44a、64aがニードル32、33を押し込んで噴孔39、40が閉じられる。これらの状態ではいずれの燃料も噴射されない。
一方、ソレノイドコイル48、68が励磁された場合には、図3に示すようにアウタバルブ46、66がソレノイドコイル48、68に引き寄せられ、第2オリフィス52、72が開いてコマンド室43b、63bの燃料が低圧燃料通路53、73にそれぞれ流出する。これにより、コマンド室43b、63bの圧力が低下してニードル32、33を燃料噴射弁25の先端側に押し付ける力が低下する。その結果、ニードル32、33がそれらのピストンフランジ32a、33aに作用する燃料の圧力で燃料噴射弁25の後端部へと押し込まれて噴孔39、40が開口する。これにより、第1噴孔39からはGTL燃料が、第2噴孔40からは軽油がそれぞれ噴射される。噴孔39、40からの燃料の噴射量はソレノイドコイル48、68に励磁電流を供給する時間長(PWM制御の場合はオンデューティー比)を変化させることにより適宜に調整することができる。しかも、第1ソレノイドコイル48及び第2ソレノイドコイル68への励磁電流の供給を互いに独立して変化させることにより、噴孔39、40のそれぞれからの燃料の噴射時期を独立して設定することができ、さらには燃料の噴射量の比率(以下、噴射比率と呼ぶ。)も変化させることができる。
次に、燃料噴射弁25の制御について説明する。図1に示すように、エンジン1が搭載された車両には、エンジン1の運転状態を制御するためのコンピュータユニットとして、エンジンコントロールユニット(ECU)80が設けられている。ECU80は、エアフローメータ7から出力される吸入空気量に対応した信号、クランク角センサ81から出力されるクランク角及びエンジン回転数(回転速度)に対応した信号、アクセル開度センサ82から出力されるアクセルペダルの開度に対応した信号等を参照して各種の演算を実行し、その演算結果に従って吸気絞り弁8、EGR弁12、燃料噴射弁25といった制御対象装置を操作することによりエンジン1の運転状態を目標とする状態に制御する。
燃料噴射弁25の燃料噴射動作を制御するため、ECU80には、第1コイル駆動回路83及び第2コイル駆動回路84が接続されている。なお、図1では一組のコイル駆動回路83、84のみを示したが、コイル駆動回路83、84は燃料噴射弁25毎に1組ずつ設けられている。第1コイル駆動回路83は、ECU80からの指示に従って、不図示の電源から燃料噴射弁25の第1ソレノイドコイル48への励磁電流の供給及び供給停止を切り替え、第2コイル駆動回路84は、ECU80からの指示に従って、電源から燃料噴射弁25の第2ソレノイドコイル68への励磁電流の供給及び供給停止を切り替える。
燃料の噴射比率を制御するため、ECU80の記憶装置(例えばROM)には、図4に示すマップがデータ化されて書き込まれている。図4のマップは、GTL燃料と軽油との間の噴射比率をエンジン1の回転数とエンジン1の負荷とに対応付けてプロットしたものである。図中の太線Ltqはエンジン1の最大トルクを示している。また、図中の曲線は、噴射比率が等しい点を結んで得られる等噴射比率線である。図4のマップにおいては、高負荷低回転の領域Zaにおいて軽油の噴射比率が最大となり、その領域Zaから離れるほどGTL燃料の噴射比率が大きくなる。図4のマップにおいて、エンジン1の運転状態を高負荷高回転領域、高負荷低回転領域、低負荷高回転領域、低負荷低回転領域で区分してGTL燃料の噴射比率の傾向を示せば次表の通りである。
上記のように噴射比率を変化させる理由は、GTL燃料の高セタン価でかつアロマ分を含まない特徴を反映したことにある。高負荷高回転領域では、燃料量が増加して筒内温度(シリンダ2内の温度)が相対的に高くなるため、GTL燃料の高セタン価が原因となる過早着火の懸念が低下し、その一方、燃料量が増加するために、GTL燃料が多いほどアロマ分が含まれないことによる煤の抑制効果が増大する。よって、高負荷高回転領域ではGTL燃料の噴射比率が大きく設定される。一方、高負荷低回転領域では、低回転であるために筒内温度が高回転時と比較して低下する。そのため、GTL燃料の高セタン価の影響で過早着火が生じ、低回転で吸入空気量が少ないことからディーゼルスモークの悪化が懸念される。よって、高負荷低回領域ではGTL燃料の噴射比率が小さく設定される。次に、低負荷高回転領域では、着火が比較的早くなるが、高回転であるために吸入空気量が多くディーゼルスモークが悪化するおそれが低い。そして、GTL燃料の高セタン価の影響で燃焼騒音が低下する効果が相対的に大きくなる。よって、低負荷高回転領域では、高負荷低回転領域と比較してGTL燃料の噴射比率を増加させる。さらに、低負荷低回転領域では、低負荷高回転領域と同様にGTL燃料の高セタン価の影響で燃焼騒音の低減効果がさらに増大する。よって、低負荷低回転領域では、低負荷高回転領域よりもさらにGTL燃料の噴射比率が大きく設定される。
なお、図4に示したマップにおいて、いずれか一方の燃料の噴射比率が100%、すなわち、いずれか一方の燃料のみを噴射し、他方の燃料については噴射しない状態があってもよい。例えば、高負荷高回転領域においてGTL燃料のみを噴射する場合があってもよい。エンジン負荷に代えて、これと相関するパラメータを利用してマップが作成されてもよい。
図5は、ECU80が図4のマップを利用して燃料噴射弁25のGTL燃料及び軽油のそれぞれの噴射を制御するために実行する燃料噴射制御ルーチンを示している。図5のルーチンは、燃料噴射弁25からの燃料噴射に同期して繰り返し実行される。図5のルーチンにおいて、ECU80はまずステップS1でアクセル開度センサ82が検出するアクセル開度に基づいて燃料の要求噴射量を算出する。要求噴射量の算出は公知の手法と同様でよい。続くステップS2において、ECU80はGTL燃料と軽油との間の噴射比率を決定する。すなわち、ECU80は、クランク角センサ81の出力を参照してエンジン1の回転数を取得し、アクセル開度センサ82の出力を参照してエンジン1の負荷を取得し、それらの回転数及び負荷に対応する噴射比率を図4のマップに対応したデータを参照して決定する。次のステップS3において、ECU80は、今回のルーチンで決定した要求噴射量に各燃料の噴射比率を乗算してGTL燃料及び軽油のそれぞれの噴射量を決定する。これにより、ECU80は噴射比率決定手段として機能する。このとき、各燃料の噴射時期及び噴射回数も併せて決定される。噴射時期及び噴射回数は公知の手法と同様に決定すればよい。GTL燃料及び軽油の少なくとも一方の燃料を複数回に分けて噴射するいわゆる多段噴射が行われてもよい。
ステップS3の処理を完了した後、ECU80は、次のステップS4へ進んで燃料噴射を実行する。すなわち、ECU80は、クランク角センサ81の信号に基づいて燃料の噴射を開始すべきタイミングを判別し、その噴射開始のタイミングが到来すると、第1コイル駆動回路83及び第2コイル駆動回路84のそれぞれに対して、ステップS3で決定した噴射量に対応した時間長の開弁信号を出力する。これにより、ECU80は噴射制御手段として機能する。ECU80からの開弁信号に従った時間長でコイル駆動回路83、84から燃料噴射弁25のソレノイドコイル48、68に励磁電流が供給されることにより、エンジン1の運転状態に応じた噴射比率及び噴射量の燃料が燃料噴射弁25からシリンダ2内に噴射される。ステップS4にて燃料噴射を実行した後、ECU80は今回のルーチンを終了し、次回の燃料噴射時期に先行して再び図5のルーチンを開始する。なお、ソレノイドコイル48、68のそれぞれの励磁の開始時期は同期している必要はなく、第1ソレノイドコイル48の励磁はGTL燃料の噴射開始に適したタイミングで開始し、第2ソレノイドコイル68の励磁は軽油の噴射開始に適したタイミングで開始すればよい。
次に、燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50及び第2高圧燃料通路70とコモンレール23、24との対応関係について説明する。これらの高圧燃料通路50、70をいずれの燃料に割り当てるべきかを検討する場合の一つの基準として、シリンダヘッド下面から噴孔39、40までの距離を考慮することができる。
図2に示したように、噴孔39、40のそれぞれの中心線La、Lbが燃料噴射弁25の中心線CLと交差する点を第1噴孔中心Pa、第2噴孔Pbとそれぞれ定義したとき、燃料噴射弁25が取り付けられるシリンダヘッドの下面Aからの噴孔中心Pa、Pbのそれぞれの突出量Xa、Xbには差が生じる。すなわち、中心側の第1噴孔39に関する突出量Xaは外周側の第2噴孔40に関する突出量Xbよりも大きい。一方、図4のマップに示したように、軽油の噴射比率は高負荷低回転領域で大きく設定される。低回転領域では燃料の噴射期間中におけるピストンの移動量が小さいため、燃料噴射弁25から噴射される燃料のほとんどは、ピストン燃焼室(すなわち、図6に示したように、ピストン26の頂面に形成された凹部26a)内に噴射される。その傾向は噴孔中心の突出量が大きいほど顕著になる。このため、高負荷低回転領域では、噴孔中心の突出量が小さい第2噴孔40から軽油を噴射させた方が、ピストン燃焼室から軽油が適度に溢れ出して混合気の均一化が促進され、それにより、煤の生成が抑制される。
一方、GTL燃料の噴射比率が大きくなる高負荷高回転領域では、燃料の噴射期間中におけるピストンの移動量が大きいため、ピストン燃焼室内に燃料を噴射することが相対的に困難となる。この場合は、噴孔中心の突出量が大きい方がシリンダ2内の空気の利用が促進され、煤の生成の抑制及び性能向上を計る上で有利である。従って、噴孔中心の突出量に着目すれば、第1高圧燃料通路50をGTL燃料用の第1コモンレール23に、第2高圧燃料通路70を軽油用の第2コモンレール24にそれぞれ接続し、第1噴孔39からGTL燃料を、第2噴孔40から軽油をそれぞれ噴射させた方が好ましいと考えられる。なお、図6に示したように、第1噴孔39の中心線Laと、第2噴孔40の中心線Lbとがピストン26に設けられたピストン燃焼室26aの壁面26bに至るまで互いに交差しないように各噴孔39、40を形成することが望ましい。これにより、両燃料の噴霧の衝突を抑えてシリンダ2内の混合気の均一化をさらに促進することができる。
高圧燃料通路50、70と燃料との対応関係に関する他の基準として、噴孔39、40のそれぞの噴孔面積を考慮してもよい。なお、第1噴孔39及び第2噴孔40はそれぞれ複数設けられるため、ここでいう噴孔面積は第1噴孔39の断面積の合計値、及び第2噴孔40の断面積の合計値をそれぞれ意味する。図4のマップのように、高負荷高回転領域ではGTL燃料の噴射比率が大きく設定され、それに伴ってGTL燃料の噴射量も増加する。特に、GTL燃料の噴射比率が100%に設定された場合にはGTL燃料を大流量で噴射する必要がある。そして、高負荷高回転領域で要求されるGTL燃料の噴射量は、高負荷低回転領域で要求される軽油の噴射量よりも大きい。一方、第1噴孔39及び第2噴孔40のそれぞれの噴孔面積は、弁室36、37の周方向の長さに大小関係が存在するために、中心側に位置する第1噴孔39よりも外周側に位置する第2噴孔40の方がより大きく確保し易い。そこで、第1高圧燃料通路50を軽油用の第2コモンレール24と接続し、第2高圧燃料通路70をGTL燃料用の第1コモンレール23と接続することにより、大流量が要求されるGTL燃料は第2噴孔40から噴射させ、軽油は第1噴孔39から噴射させることが適当と考えることもできる。この場合、第1低圧燃料通路53は第2リターン配管19と接続され、第2低圧燃料通路73は第1リターン配管18と接続される。
なお、噴孔面積を考慮して燃料と噴孔との対応関係を定める場合であっても、燃料噴射弁25の中心側の第1ニードルをピントル弁形式にて構成することにより、第1噴孔39をGTL燃料の噴孔として割り当てることもできる。例えば、図7に示したように、第1ニードル32の先端をバルブ本体31の先端から突出させ、その突出部分にフランジ32cを設けることにより、第1ニードル32を全周に亘って取り囲むように第1噴孔39を形成することができる。図7の構成によれば、第1噴孔39の周方向長さを拡大して噴孔面積を増加させ、第2噴孔40よりも第1噴孔39の噴孔面積を拡大することが可能となる。図7の例によれば、噴孔中心の突出量と燃料との対応関係が図2と同様に設定できるので、さらに好都合である。なお、図7の構成では、第1ニードル32が図中に実線で示すように燃料噴射弁25の後端側に移動したときにフランジ32cが第1噴孔39を塞ぎ、第1ニードル32が燃料噴射弁25の先端側に移動したときにフランジ32cがバルブ本体31から離れて第1噴孔39が開くように第1駆動機構34の構成を変更する必要がある。そのような駆動機構は、公知のピントル弁形式の燃料噴射弁の駆動機構と同様でよい。
次に、コモンレールの変形例を説明する。図1においては、第1コモンレール23及び第2コモンレール24を互いに独立した部材として描いているが、図8に示すように、単一のチューブ27の内部を、その長手方向全長に亘って延びる隔壁27aにて第1圧力室27bと第2圧力室27cとに区分してそれらの圧力室27b、27cの両端部を閉鎖し、高圧のGTL燃料を第1圧力室27bに、高圧の軽油を第2圧力室27cにそれぞれ蓄えることにより、チューブ27を第1及び第2のコモンレールが一体化された共用コモンレールとして機能させてもよい。圧力室27b、27cのそれぞれに蓄えられるGTL燃料及び軽油の間の圧力差を小さく設定すれば、隔壁27aの肉厚を低減することができる。
[第2の形態]
図9は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第2の形態を示している。なお、図9において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Aでは、GTL燃料用の第1燃料ポンプ21と、軽油用の第2燃料ポンプ22とのそれぞれの吐出側の間にバイパス燃料通路100が設けられている。さらに、図10に示すように、バイパス燃料通路100には、第1開閉弁として電磁駆動式の第1制御弁101が、また、第2燃料ポンプ22と第2コモンレール24との間には、第2開閉弁として電磁駆動式の第2制御弁102がそれぞれ設けられている。これらの制御弁101、102はECU80から電磁弁駆動回路103を介して開閉制御される。なお、第1制御弁101は、例えば図11に示すように、第1燃料ポンプ21から吐出される燃料圧力とリターンスプリング101aのばね力を利用してポペットタイプの弁体101bを弁座101cに押し付ける一方で、弁ステム101dに対して逆方向に電磁力Fsを付加して弁体101bを弁座101cから離間させることにより、第1燃料ポンプ21と第2コモンレール24との間を開通させるように構成される。第2制御弁102に関しても同様の構成でよい。
上記の構成によれば、第1制御弁101を閉じ、第2制御弁102を開いた場合には第1の形態と同様に第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか一方にGTL燃料が、他方に軽油がそれぞれ供給される(第1の状態)。第2制御弁102を閉じ、かつ第1制御弁101を開くことにより、燃料噴射弁25の高圧燃料通路50、70の両者に高圧のGTL燃料を供給することができる(第2の状態)。つまり、本形態では、バイパス通路100、第1制御弁101及び第2制御弁102の組み合わせによって燃料供給切替手段が実現される。なお、以下では、GTL燃料用の第1コモンレール23が第1高圧燃料通路50に接続され、軽油用の第2コモンレール24が第2高圧燃料通路70に接続されているものとして説明を続ける。
図12は、ECU80が図5のルーチンに代えて実行する燃料噴射制御ルーチンを示している。但し、図5と同一の処理については同一の参照符号を付してある。図12の燃料噴射制御ルーチンでは、ステップS1でアクセル開度に対応した燃料の要求噴射量が算出され、ステップS2で図4のマップに従ってGTL燃料及び軽油の噴射比率が決定され、ステップS3で各燃料の噴射量等が決定される。ステップS2では、高負荷高回転領域にてGTL燃料の噴射比率が100%に設定されることがある。ステップS3にて各燃料の噴射量等が決定された後、ECU80はステップS5に進んでGTL燃料のみを噴射する状態、つまりGTL燃料の噴射比率が100%の状態で、かつ、要求噴射量が所定の閾値以上か否か判断する。閾値は、第1噴孔39から噴射可能なGTL燃料の量の最大値又はそれよりも幾らか余裕を見て小さい値に設定される。GTL燃料用の第1コモンレール23が第2高圧燃料通路70に接続されている場合には、第2噴孔40から噴射可能なGTL燃料の最大量又はそれよりも小さい値を閾値に設定すればよい。
ステップS5の条件が満たされない場合、ECU80はステップS6に進み、第1制御弁101を閉じ、第2制御弁102を開く。この場合、第1燃料ポンプ21から吐出されたGTL燃料は第1コモンレール23のみに蓄えられる。その後、ECU80はステップS7へ進み、燃料別の噴射を実行する。すなわち、ECU80は、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第1コイル駆動回路83から第1ソレノイドコイル48に供給させる一方、軽油の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、軽油の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第2コイル駆動回路84から第2ソレノイドコイル68に供給させることにより、第1噴孔39からはGTL燃料を、第2噴孔40からは軽油をそれぞれ噴射させる。但し、GTL燃料の噴射比率が100%の場合には第2ソレノイドコイル68を励磁せず、第1噴孔39からのGTL燃料の噴射のみを実行する。仮に、軽油の噴射比率が100%に設定される運転領域が存在するならば、その領域では第1ソレノイドコイル48を励磁せず、第2噴孔40からの軽油の噴射のみを実行すればよい。
一方、ステップS5の条件が満たされた場合、ECU80はステップS8に進み、第1制御弁101を開き、第2制御弁102を閉じる。この場合、第1燃料ポンプ21から吐出されたGTL燃料が第1コモンレール23及び第2コモンレール24の両者に蓄えられる。なお、ステップS8にて第2制御弁102を閉じた場合、これに同期して軽油用の第2燃料ポンプ22の運転を停止させてもよい。この場合、ECU80は昇圧停止手段として機能する。これにより、軽油の昇圧に必要なエネルギの消費を減らし、エンジン1の燃料消費率の改善を図ることができる。その後、ECU80は、ステップS9に進み、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、第1ソレノイドコイル48及び第2ソレノイドコイル68の両者に、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を供給する。これにより、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者からGTL燃料が噴射される。このような処理を実行することにより、高負荷高回転領域でGTL燃料の噴射比率が100%に設定され、かつGTL燃料の要求噴射量が第1噴孔39の最大噴射可能量を超える運転領域において、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者から必要な量のGTL燃料が確実に噴射される。ステップS7又はステップS9にて燃料の噴射を実行した後、ECU80は今回のルーチンを終了し、次回の燃料噴射時期に先行して再び図12のルーチンを開始する。
なお、上記の形態においては、第1制御弁101を開状態に、第2制御弁102を閉状態にそれぞれ切り替えた直後は第2コモンレール24に軽油が残っており、第2噴孔40から噴射される燃料には軽油が混ざる。しかしながら、ステップS5の条件が一旦満たされた場合には、その後、燃料噴射周期に比して十分に長い期間に亘ってステップS5の条件が連続して満たされることが通例である。よって、ステップS9の燃料噴射が1、2回実行されたならば、以降はGTL燃料のみを両噴孔39、40から確実に噴射することができ、実用上、特に問題は生じない。第1制御弁101を閉状態に、第2制御弁102を開状態にそれぞれ切り替えた直後に関しても、第2コモンレール24にGTL燃料が残されて軽油の噴射比率が実質的に低下することになるが、上記と同様の理由で特に問題は生じない。また、第2コモンレール24にGTL燃料が一時的に導入される結果、第2貯留室16の軽油にGTL燃料が混入することもあり得るが、それにより燃料性状が明確に悪化する訳ではなく、この点も特に実用上の問題は生じない。
[第3の形態]
図13は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第3の形態を示している。なお、図13において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Bでは、上述した第2の形態の燃料噴射装置20Aと同様にGTL燃料の噴射比率が100%に設定されたときの噴射量を確保するために、両噴孔39、40からのGTL燃料の噴射が可能となるように第1の形態の燃料噴射装置20の一部が変更されているが、その機能を実現するための手段が第2の形態とは相違する。すなわち、本形態の燃料噴射装置20Bは、図1の燃料噴射弁25に代えて燃料噴射弁25Aが用いられ、かつ、燃料噴射弁25Aを駆動するための第3コイル駆動回路85が追加されている点で第1の形態の燃料噴射装置20と相違する。第3コイル駆動回路85は、第1及び第2コイル駆動回路83、84と同様に、燃料噴射弁25A毎に1つずつ設けられている。
図14は、本形態の燃料噴射装置20Bにて使用される燃料噴射弁25Aの断面図である。但し、図14において図2と共通する部分には同一符号を付してある。燃料噴射弁25Aは、図2の隔壁38に代えて、案内壁38Aが設けられ、その案内壁38Aの内周側に第1弁室36及び第2弁室37を仕切る可動隔壁110が設けられている。案内壁38Aは、その先端部(下端部)38cとバルブ本体31との間に隙間111が生じるように設けられている点において図2の隔壁38と相違する。第1ニードル32のピストンフランジ32aは案内壁38Aの内周面38aに摺動自在に嵌め合わされ、第2ニードル33は案内壁38Aの外周面38bに摺動自在に嵌め合わされている。可動隔壁110は、案内壁38Aの内周面38aに摺動自在に嵌め合わされて燃料噴射弁25Aの中心線CLの方向に移動自在である。可動隔壁110の後端部には隔壁リターンスプリング112が設けられ、その隔壁リターンスプリング112のさらに後方には第3ソレノイドコイル113が設けられている。第3ソレノイドコイル113は案内壁38Aに固定されて定位置に保持されている。図13に示した第3コイル駆動回路85は、不図示の電源から第3ソレノイドコイル113への励磁電流の供給及び供給停止をECU80からの指示に従って切り替える。
図14に戻って、第3ソレノイドコイル113が非励磁の状態では、隔壁リターンスプリング112のばね力で可動隔壁110はその先端のテーパ面110aがバルブ本体31の先端部31aの内面に押し付けられる。これにより、第1弁室36と第2弁室37とは、燃料の流通が不可能となるように仕切られ、かつ、第1高圧燃料通路50は可動隔壁110によって閉じられることなく、第1弁室36と通じている。一方、図15に示したように、第3ソレノイドコイル113が励磁された場合には、隔壁リターンスプリング112に抗して可動隔壁110が燃料噴射弁25Aの後端側(図において上端側)に引き寄せられる。そのため、可動隔壁110の先端のテーパ面110aがバルブ本体31の先端部31aから離れて第1弁室36と第2弁室37との間が隙間111を介して相互に開通する。これにより、両弁室36、37間における燃料の流通が可能となる。しかも、図14の状態では、第1高圧燃料通路50の第1弁室36に対する導入口(開口部)が可動隔壁110によって閉じられて、第1高圧燃料通路50から第1弁室36への高圧燃料の導入が阻止される。これらの隔壁リターンスプリング112と第3ソレノイドコイル113とによって隔壁駆動機構が実現され、その隔壁駆動機構と可動隔壁110との組み合わせによって燃料供給切替手段が実現される。
本形態の燃料噴射弁25Aにおいては、GTL燃料の燃料噴射比率が100%に設定されたときの要求噴射量を確保するため、第1高圧燃料通路50が軽油用の第2コモンレール24と接続され、第2高圧燃料通路70がGTL燃料用の第1コモンレール23と接続される。よって、第1低圧燃料通路53は第2リターン配管19を介して軽油用の第2貯留室16と接続され、第2低圧燃料通路73は第1リターン配管18を介してGTL燃料用の第1貯留室15と接続される。
図16は、ECU80が図12のルーチンに代えて実行する燃料噴射制御ルーチンを示している。但し、図12と同一の処理については同一の参照符号を付してある。図16の燃料噴射制御ルーチンでは、ステップS1〜S3及びS5において図12のルーチンと共通の処理が行われる。そして、ステップS5の条件が満たされない場合、ECU80はステップS11に進み、第3ソレノイドコイル113を非励磁状態に設定して可動隔壁110を閉鎖位置、すなわち第1弁室36と第2弁室37との間を閉鎖する位置に保持する。この場合、第1弁室36には第2コモンレール24に蓄えられた高圧の軽油が、第2弁室37には第1コモンレール23に蓄えられた高圧のGTL燃料がそれぞれ導入される。その後、ECU80はステップS7へ進み、燃料別の噴射を実行する。すなわち、ECU80は、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第2コイル駆動回路84から第2ソレノイドコイル68に供給させる一方、軽油の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、軽油の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第1コイル駆動回路83から第1ソレノイドコイル48に供給させることにより、第2噴孔40からはGTL燃料を、第1噴孔39からは軽油をそれぞれ噴射させる。但し、GTL燃料の噴射比率が100%の場合には第1ソレノイドコイル48を励磁せず、第2噴孔40からのGTL燃料の噴射のみを実行する。仮に、軽油の噴射比率が100%に設定される運転領域が存在するならば、その領域では第2ソレノイドコイル68を励磁せず、第1噴孔39からの軽油の噴射のみを実行すればよい。
一方、ステップS5の条件が満たされた場合、ECU80はステップS12に進み、第3ソレノイドコイル113を励磁して可動隔壁110を開放位置、すなわち第1弁室36と第2弁室37との間が隙間111を介して相互に通じる位置に保持する。この場合、第1高圧燃料通路50と第1弁室36との間が遮断され、両弁室36、37には、第2高圧燃料通路70からの高圧のGTL燃料が導入される。その後、ECU80は、ステップS9に進み、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、第1ソレノイドコイル48及び第2ソレノイドコイル68の両者に、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を供給する。これにより、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者からGTL燃料が噴射される。このような処理を実行することにより、高負荷高回転領域でGTL燃料の噴射比率が100%に設定され、かつGTL燃料の要求噴射量が第2噴孔40の最大噴射可能量を超える運転領域において、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者から必要な量のGTL燃料が確実に噴射される。ステップS7又はステップS9にて燃料の噴射を実行した後、ECU80は今回のルーチンを終了し、次回の燃料噴射時期に先行して再び図12のルーチンを開始する。
なお、上記の形態においては、可動隔壁110の位置を閉鎖位置から開放位置に切り替えた直後は第1弁室36に軽油が残っており、第1噴孔39から噴射される燃料には軽油が混ざる。しかしながら、第2の形態の場合と同様に、ステップS5の条件が一旦満たされた場合には、その後、燃料噴射周期に比して十分に長い期間に亘ってステップS5の条件が連続して満たされることが通例である。よって、ステップS9の燃料噴射が1、2回実行されたならば、以降はGTL燃料のみを両噴孔39、40から確実に噴射することができ、実用上、特に問題は生じない。可動隔壁110を開放位置から閉鎖位置に切り替えた直後に関しても、第1弁室36にGTL燃料が残されて軽油の噴射比率が実質的に低下することになるが、上記と同様の理由で特に問題は生じない。また、燃料のリターン配管18、19に他の燃料が混ざるおそれはない。さらに、本形態では、燃料噴射弁25Aの内部の可動隔壁110を駆動して両噴孔39、40からのGTL燃料の噴射と、各噴孔39、40からの軽油及びGTL燃料の噴き分けとを切り替えているので、第2の形態と比較して応答性に優れる利点がある。
なお、ステップS12にて可動隔壁110を開放位置に保持した場合でも、第1コマンド室43bに圧力を導入して第1ニードル32を駆動する必要があることから軽油用の第2燃料ポンプ22の運転は継続しておくことが望ましい。但し、軽油の圧力を利用せずに第1ニードル32を駆動する場合には第2燃料ポンプ22を停止させてもよいことは勿論である。
[第4の形態]
図17は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第4の形態を示している。なお、図17において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Cは、第1コモンレール23及び第2コモンレール24と、各燃料噴射弁25の間に流路切替弁120が設けられている点で第1の形態の燃料噴射装置20と相違する。流路切替弁120は、両噴孔39、40からのGTL燃料又は軽油の噴射が可能となるようにコモンレール23、24と燃料噴射弁25との間の接続関係を切り替える燃料供給切替手段として設けられている。
図18は流路切替弁120の概略構成を示している。流路切替弁120は、シリンダ状のバルブ本体121と、そのバルブ本体121の内部に挿入されたプランジャ122と、バルブ本体121の左右に設けられた第1プランジャ駆動機構123a及び第2プランジャ駆動機構123bとを備えている。バルブ本体121の一方の側には第1流入ポート124a及び第2流入ポート124bが設けられ、他方の側には第1流出ポート125a及び第2流出ポート125bが設けられている。第1流入ポート124aは第1コモンレール23に、第1流出ポート125aは燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70にそれぞれ接続される。一方、第2流入ポート124bは第2コモンレール24に、第2流出ポート125bは燃料噴射弁25の第2高圧燃料通路70又は第1高圧燃料通路50にそれぞれ接続される。
プランジャ122は、ピストン部126と、そのピストン部126の左右に同軸に設けられた駆動軸127a、127bとを備えている。ピストン部126はバルブ本体121の軸線方向(左右方向)に移動可能な状態でバルブ本体121の内部に嵌め合わされている。ピストン部126の外周とバルブ本体121の内周との間には適宜のシール手段(不図示)が設けられており、それにより、バルブ本体121の内部は、ピストン部126を挟んで第1液体室128aと第2液体室128bとに区分されている。両液体室128a、128bの間における液体の流通は不可能である。
プランジャ駆動機構123a、123bは、例えば、ばね力で駆動軸127a、127bを軸線方向中心側に押し出す一方で、ソレノイドコイルの電磁力を利用して駆動軸127a、127bを軸線方向外側に引き寄せるように構成される。プランジャ駆動機構123a、123bにより、プランジャ122は、図中に実線で示す中立位置Pnと、その中立位置よりも左方に変位した第1作動位置P1と、中立位置よりも右方に変位した第2作動位置P2との間で駆動される。なお、図18では、作動位置P1、P2のときのピストン部126を想像線で示している。プランジャ122が中立位置Pnにあるとき、第1流入ポート124a及び第1流出ポート125aは第1液体室128aに開口し、第2流入ポート124b及び第2流出ポート125bは第2液体室128bに開口する。この場合、第1流入ポート124aから第1液体室128aにGTL燃料が流入し、第2流入ポート124bから第2液体室128bに軽油が流入する。そして、第1流出ポート125aから燃料噴射弁25にGTL燃料が、第2流出ポート125bから燃料噴射弁25に軽油がそれぞれ供給される。
プランジャ122が第1作動位置P1にあるときは第1液体室128aが拡大し、ピストン部126にて第2流入ポート124bが閉じられて第1流入ポート124a、第1流出ポート125a及び第2流出ポート125bが第1液体室128aに開口する。この場合には、第1流入ポート124aから第1液体室128aに流入したGTL燃料が、両流出ポート125a、125bから燃料噴射弁25に供給される。一方、プランジャ122が第2作動位置P2にあるときは第2液体室128bが拡大し、ピストン部126にて第1流入ポート124aが閉じられて第2流入ポート124b、第1流出ポート125a及び第2流出ポート125bが第1液体室128aに開口する。この場合には、第2流入ポート124bから第2液体室128bに流入した軽油が、両流出ポート125a、125bから燃料噴射弁25に供給される。つまり、プランジャ122が中立位置Pnにあるときは、燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか一方の高圧燃料通路にGTL燃料が、他方の高圧燃料通路に軽油がそれぞれ供給され、プランジャ122が第1作動位置P1にあるときは両高圧燃料通路にGTL燃料が供給され、プランジャ122が第2作動位置P2にあるときは両高圧燃料通路に軽油が供給される。なお、燃料噴射弁25は第1の形態と同様である。燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50及び第2高圧燃料通路70と燃料種別との対応関係は第1の形態と同様に適宜に選択してよい。以下では、第1流出ポート125aが第1高圧燃料通路50に、第2流出ポート125bが第2高圧燃料通路70にそれぞれ接続されるものとみなして説明を続ける。
図18に示したように、プランジャ駆動機構123a、123bによるプランジャ122の駆動はECU80によって制御される。図19は、そのECU80が図12のルーチンに代えて実行する燃料噴射制御ルーチンを示している。但し、図12と同一の処理については同一の参照符号を付してある。図19の燃料噴射制御ルーチンでは、ステップS1〜S3及びS5において図12のルーチンと共通の処理が行われる。そして、ステップS5の条件が満たされない場合、ECU80はステップS21に進み、軽油のみを噴射する状態、つまり軽油の噴射比率が100%の状態で、かつ、要求噴射量が所定の閾値以上か否か判断する。閾値は、第2噴孔40から噴射可能な軽油の量の最大値又はそれよりも幾らか余裕を見て小さい値に設定される。第2流出ポート125bが第1高圧燃料通路50に接続されている場合には、第1噴孔39から噴射可能な軽油の最大量又はそれよりも小さい値を閾値に設定すればよい。なお、この場合の閾値はステップS5で使用される閾値と同一でもよいし、異なっていてもよい。
ステップS21の条件が満たされない場合、ECU80はステップS22に進み、プランジャ122が中立位置Pnに保持されるようにプランジャ駆動機構123a、123bを制御する。この場合には、上記の通り、第1燃料ポンプ21から吐出されたGTL燃料が第1高圧燃料通路50に、第2燃料ポンプ22から吐出された軽油が第2高圧燃料通路70にそれぞれきょうきゅうされる。その後、ECU80はステップS7へ進み、燃料別の噴射を実行する。すなわち、ECU80は、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第1コイル駆動回路83から第1ソレノイドコイル48に供給させる一方、軽油の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、軽油の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を第2コイル駆動回路84から第2ソレノイドコイル68に供給させることにより、第1噴孔39からはGTL燃料を、第2噴孔40からは軽油をそれぞれ噴射させる。但し、GTL燃料の噴射比率が100%の場合には第2ソレノイドコイル68を励磁せず、第1噴孔39からのGTL燃料の噴射のみを実行する。軽油の噴射比率が100%の場合には第1ソレノイドコイル48を励磁せず、第2噴孔40からの軽油の噴射のみを実行する。
一方、ステップS5の条件が満たされた場合、ECU80はステップS23に進み、プランジャ122が第1作動位置P1に保持されるようにプランジャ駆動機構123a、123bを制御する。この場合、第1燃料ポンプ21から吐出されたGTL燃料が燃料噴射弁25の両高圧燃料通路50、70に供給される。なお、ステップS23にてプランジャ122を第1作動位置P1に保持した場合、これに同期して、軽油用の第2燃料ポンプ22の運転を停止させることにより、ECU80を昇圧停止手段として機能させてもよい。これにより、軽油の昇圧に必要なエネルギの消費を減らし、エンジン1の燃料消費率の改善を図ることができる。その後、ECU80は、ステップS9に進み、GTL燃料の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、第1ソレノイドコイル48及び第2ソレノイドコイル68の両者に、GTL燃料の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を供給する。これにより、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者からGTL燃料が噴射される。このような処理を実行することにより、高負荷高回転領域でGTL燃料の噴射比率が100%に設定され、かつGTL燃料の要求噴射量が第1噴孔39の最大噴射可能量を超える運転領域において、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者から必要な量のGTL燃料が確実に噴射される。
また、ステップS21の条件が満たされた場合、ECU80はステップS24に進み、プランジャ122が第2作動位置P2に保持されるようにプランジャ駆動機構123a、123bを制御する。この場合、第2燃料ポンプ22から吐出された軽油が燃料噴射弁25の両高圧燃料通路50、70に供給される。なお、ステップS24にてプランジャ122を第2作動位置P2に保持した場合、これに同期してGTL燃料用の第1燃料ポンプ21の運転を停止させることにより、ECU80を昇圧停止手段として機能させてもよい。これにより、GTL燃料の昇圧に必要なエネルギの消費を減らし、エンジン1の燃料消費率の改善を図ることができる。その後、ECU80は、ステップS25に進み、軽油の噴射を開始すべきタイミングに合わせて、第1ソレノイドコイル48及び第2ソレノイドコイル68の両者に、軽油の噴射量及び噴射回数に応じた励磁電流を供給する。これにより、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者から軽油が噴射される。このような処理を実行することにより、高負荷低回転領域等で軽油の噴射比率が100%に設定され、かつ軽油の要求噴射量が第2噴孔40の最大噴射可能量を超える場合において、第1噴孔39及び第2噴孔40の両者から必要な量の軽油が確実に噴射される。ステップS7、ステップS9又はS25にて燃料の噴射を実行した後、ECU80は今回のルーチンを終了し、次回の燃料噴射時期に先行して再び図19のルーチンを開始する。
なお、上記の形態においては、流路切替弁120のプランジャ122を第1作動位置P1に切り替えた直後は第2流出ポート125bの下流に軽油が残り、第2作動位置P2に切り替えた直後は第1流出ポート125aの下流にGTL燃料が残っている。そのため、それらの切替直後では、GTL燃料又は軽油の噴射比率が厳密には100%にならない。しかしながら、ステップS5又はS21の条件が一旦満たされた場合には、その後、燃料噴射周期に比して十分に長い期間に亘って同一条件が連続して満たされることが通例である。よって、ステップS9又はS25の燃料噴射が1、2回実行されたならば、以降はGTL燃料又は軽油のみを両噴孔39、40から確実に噴射することができ、実用上、特に問題は生じない。また、燃料噴射弁25の両高圧燃料通路50、70に同一燃料が一時的に導入される結果、第2貯留室16の軽油にGTL燃料が混入し、あるいは第1貯留室15のGTL燃料に軽油が混入することもあり得るが、それにより燃料性状が明確に悪化する訳ではなく、この点も特に実用上の問題は生じない。
[第5の形態]
図20は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第5の形態を示している。なお、図20において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Dは、図1の燃料噴射装置20から軽油用の第2コモンレール24が省略され、軽油用の第2燃料ポンプ22に代えて低圧のフィードポンプ22Aが設けられ、さらに、第1コモンレール23及びフィードポンプ22Aと燃料噴射弁25との間に増圧機構130が設けられている点で第1の形態の燃料噴射装置20と相違する。フィードポンプ22Aは第2貯留室16に蓄えられた軽油をセジメンタ17を介して汲み上げて増圧機構130に送り込む。フィードポンプ22Aの吐出圧は第1燃料ポンプ21のそれと比して低い。例えば、第1燃料ポンプ21の吐出圧が100MPa程度あるいはそれを超える高圧であるのに対して、フィードポンプ22Aの吐出圧は0.5MPa程度である。
図21は増圧機構130の構成を示している。増圧機構130は、第1コモンレール23から供給されるGTL燃料の圧力を利用して、フィードポンプ22Aから送られる軽油の圧力を昇圧する。昇圧機能を実現するため、増圧機構130は、増圧シリンダ131と、その増圧シリンダ131の内部に摺動自在に収容された増圧ピストン132と、三方弁133と、電磁駆動式の制御弁134とを備えている。増圧ピストン132は、第1ピストン部132aと、その第1ピストン部132aの一端側に同軸に配置されかつ第1ピストン部132aよりも幾らか直径が小さい第2ピストン部132bと、第1ピストン部132aの他端側に同軸に配置された加圧プランジャ132cとを備えている。増圧シリンダ131は、増圧ピストン132のピストン部132a、132bにより、第1圧力室131a、第2圧力室131b及び第3圧力室131cに区分されている。さらに、第1圧力室131aには増圧室131dが接続され、その増圧室131dに加圧プランジャ132cが嵌め合わされている。増圧室131dの内径は第2圧力室131bのそれよりも十分に小さい。よって、増圧ピストン132のピストン部132aの面積と比較して加圧プランジャ132cの面積も十分に小さい。
三方弁133の内部には、ピストン133aが摺動自在に設けられている。ピストン133aの両側には第1圧力室133bと第2圧力室133cとが設けられている。第2圧力室133cは中間路133dを介して第3圧力室133eに通じている。第2圧力室133cには第1弁体133fが、第3圧力室133eには第2弁体133gがそれぞれ設けられている。弁体133f、133gは中間路133dを貫通する弁軸133hにより互いに同軸に連結されている。これらの弁体133f、133gが上方に変位したときは第2弁体133gにて第3圧力室133eと中間路133dとの間が閉鎖され、第2圧力室133cと中間路133dとの間が開く。弁体133f、133gが下方に変位したときは第1弁体133fにて第2圧力室133cと中間路133dとの間が閉鎖され、第3圧力室133eと中間路133dとの間が開く。つまり、中間路133dは弁体133f、133gの位置に応じて第2圧力室133c又は第3圧力室133eのいずれか一方と選択的に接続される。なお、第1弁体133f及び第2弁体133gの直径はピストン133aの直径よりも十分に小さい。制御弁134は、ソレノイドコイル134aの励磁及び非励磁の切り替えに応じて開閉される2ポート2位置切替弁である。
増圧機構130には、第1流入ポート135a、第2流入ポート135b及びリターンポート135cが設けられている。第1流入ポート135aには第1コモンレール23に蓄えられた高圧のGTL燃料が供給され、第2流入ポート135bにはフィードポンプ22Aから送られた低圧の軽油が供給される。第1流入ポート135aに供給された高圧のGTL燃料は第1高圧燃料通路141を介して第2圧力室131bに導かれる。第1高圧燃料通路141は途中で分岐され、その分岐路141aが燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか一方の通路に接続される。一方、第2流入ポート135bに供給された低圧の軽油は逆止弁136を介して増圧室131dに導かれる。逆止弁136は、増圧室131dから第2流入ポート135bへの軽油の逆流を阻止できる向きで設けられている。増圧室131dの先端(図において下端)には第2高圧燃料通路142が接続され、その第2高圧燃料通路142は燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか他方の通路に接続される。なお、第2高圧燃料通路142には、増圧室131dへの軽油の逆流を阻止する逆止弁が設けられてもよい。
増圧シリンダ131の第2圧力室131bに供給されたGTL燃料は、第1オリフィス137で減圧されつつ三方弁133の第1圧力室133bにも導かれる。第1圧力室133bに供給されたGTL燃料はさらに第2オリフィス138にて減圧されて制御弁134の流入側に導かれる。なお、第2オリフィス138の内径は第1オリフィス137のそれよりも小さい。制御弁134の流出側は低圧リターン通路143を介してリターンポート135cに接続される。三方弁133の第2圧力室133c、及び増圧シリンダ131の第3圧力室131cも低圧リターン通路143を介してリターンポート135cにそれぞれ接続される。さらに、三方弁133の第3圧力室133eは圧力導入路144を介して増圧シリンダ131の第2圧力室131bと接続され、三方弁133の中間路133dは連絡路145を介して増圧シリンダ131の第1圧力室131aに接続される。
以上の構成の増圧機構130は、制御弁134の位置を切り替えることにより次のように動作する。まず、制御弁134を閉じた場合には、三方弁133の第1圧力室131aと低圧リターン通路143との間が制御弁134で遮断されるので、第1流入ポート135aから第1高圧燃料通路141、増圧シリンダ131の第2圧力室131b及び第1オリフィス137を介して導かれたGTL燃料の圧力が三方弁133の第1圧力室133aに閉じ込められる。その圧力で三方弁133のピストン133bに下方への押し込み力が作用する。このとき、増圧シリンダ131の第2圧力室131bから圧力導入路144を介して三方弁133の第3圧力室133eにも高圧のGTL燃料が導かれ、その圧力で第2弁体133gには上方への押し込み力が作用する。しかし、ピストン133aの面積が第2弁体133gのそれよりも十分に大きいため、第1圧力室133bから受ける力の方が大きくなり、ピストン133aは下方に移動する。これに伴って第1弁体133fが第2圧力室133cと中間路133dとの間を閉鎖し、第3圧力室133eと中間路133dとの間が開通する。これにより、第3圧力室133eに導かれた高圧のGTL燃料が中間路133dから連絡路145を介して増圧シリンダ131の第1圧力室131aに導入される。この場合、第1圧力室131a及び第2圧力室131bにはいずれも第1流入ポート135aに供給されたGTL燃料の圧力が作用するが、第1ピストン部132aの面積が第2ピストン部132bのそれよりも大きいことから、増圧ピストン132は上方に移動する。その結果、加圧プランジャ132cが増圧室131dから後退して増圧室131dの容積が拡大し、逆止弁136から増圧室131dに低圧の軽油が取り込まれる。このとき、増圧シリンダ131の第3圧力室131cのGTL燃料は低圧リターン通路143に押し出される。
一方、制御弁134を開いた場合には、三方弁133の第1圧力室133bが制御弁134を介して低圧リターン通路143と接続される。これにより、三方弁133のピストン133bを下方に押し込む力が低下する。よって、三方弁133の第3圧力室133eに導入されたGTL燃料の圧力で第2弁体133gが上方に押し出され、それにより第2弁体133gが第3圧力室133eと中間路133dとの間を閉鎖する。この場合、第1弁体133fも上方に移動して中間路134dと第2圧力室134cとの間が開通する。これにより、増圧シリンダ131の第1圧力室131aの圧力が連絡路145、三方弁133の中間路133d及び第2圧力室133cを介して低圧リターン通路143に逃がされ、これに伴って、増圧ピストン132が増圧シリンダ131の第2圧力室131bのGTL燃料の圧力で下方に押し出されて加圧プランジャ132cが増圧室131dに押し込まれる。その結果、増圧室131dの容積が縮小してその内部の軽油が圧縮される。これにより、増圧室131dの軽油が昇圧され、第2高圧燃料通路142に高圧の軽油が吐出される。このとき、増圧シリンダ131の第3圧力室131cには、低圧リターン通路143から低圧のGTL燃料が補給される。
増圧室131dにて軽油が昇圧された状態から再度制御弁134を閉じると、加圧プランジャ132cが増圧室131dから再び後退して増圧室131dに低圧の軽油が取り込まれる。このように、制御弁134の開閉を繰り返すことにより、増圧室131dへの軽油の取り込みと、その軽油の昇圧とを繰り返して第2高圧燃料通路142から燃料噴射弁25に高圧の軽油を送り出すことができる。増圧シリンダ131の第2圧力室131bに導入されるGTL燃料は第1燃料ポンプ21にて昇圧された高い圧力を有しているので、増圧ピストン132の第2ピストン部132bの面積と、加圧プランジャ132cの面積との比を十分に大きく設定することにより、増圧室131dから第2高圧燃料通路142に吐出される軽油をGTL燃料と同等又はそれよりも高い圧力まで昇圧することができる。なお、制御弁134の切り替え動作はECU80にて制御すればよい。GTL燃料の噴射比率が100%に設定される運転領域においては制御弁134の切り替え動作を停止して、軽油の昇圧を中断してもよい。
以上に説明したように、本形態の増圧機構130によれば、第1コモンレール23に蓄えられた高圧のGTL燃料を第1高圧燃料通路141(詳しくはその分岐路141a)から、増圧室131dにて昇圧された軽油を第2高圧燃料通路142からそれぞれ取り出すことができる。このため、図2及び図3に示した燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか一方の通路と第1高圧燃料通路141とを接続し、他方の通路を第2高圧燃料通路142と接続することにより、第1の形態と同様に燃料噴射弁25からGTL燃料及び軽油をそれぞれ噴射させることができる。燃料噴射弁25の内部構造及びその動作制御については第1の形態と同様でよい。
図22は本形態の増圧機構130の変形例を示している。図22の変形例では、増圧シリンダ131と加圧プランジャ132cとの嵌め合い部分の内周に、第1回収溝146a及び第2回収溝146bが増圧ピストン132の軸線方向(移動方向)に間隔を空けて設けられている。これらの回収溝146a、146bはいずれも増圧室131dを一周するように設けられている。また、これらの回収溝146a、146bは加圧プランジャ132cの往復範囲において常に加圧プランジャ132cの先端から増圧室131dに露出しないようにそれぞれの位置が設定されている。さらに、第1回収溝146aはGTL燃料のリターンライン、例えば低圧リターン通路143に、第2回収溝146bは軽油のリターンライン、例えば第2リターン配管19にそれぞれ接続されている。
このように第1回収溝146a、146bを設けた場合、増圧シリンダ131の第1圧力室131aから漏れたGTL燃料が第1回収溝146aで回収されてGTL燃料のリターンラインに排出され、増圧室131dから漏れた軽油が第2回収溝146bで回収されて軽油のリターンラインに排出される。よって、増圧シリンダ131の内部でGTL燃料と軽油とが混ざり合うおそれを低減し、あるいは排除することができる。
図20では、燃料噴射弁25と増圧機構130とを別々の構成要素として描いているが、増圧機構130は燃料噴射弁25の一部として設けられてもよい。すなわち、燃料噴射弁25の内部に増圧機構130が組み込まれることにより、増圧機構130を燃料噴射弁25の内部機構として構成してもよい。増圧機構130の第2高圧燃料通路142から取り出される軽油は、図1の第2コモンレール24から供給される高圧の軽油と同様に扱うことができる。よって、本形態の増圧機構130は、図7に示したピントル弁形式の燃料噴射弁と組み合わせることも可能であり、図14及び図15に示した燃料噴射弁25Aと組み合わせることも可能である。
本形態では、GTL燃料を第1燃料ポンプ21にて昇圧し、その圧力を利用して増圧機構130により軽油を昇圧したが、これとは逆の構成を採用してもよい。すなわち、図1の第1燃料ポンプ21を低圧のフィードポンプに変更して第1コモンレール23を廃止し、軽油を第2燃料ポンプ22で昇圧して第2コモンレール24に送り込み、その第2コモンレール24から増圧機構130の第1流入ポート135aに高圧の軽油を導く一方で、フィードポンプから送り出された低圧のGTL燃料を第2流入ポート135bに導入し、軽油の圧力を利用してGTL燃料を昇圧してもよい。
なお、GTL燃料と軽油とを比較した場合、GTL燃料の方が煤の抑制効果が高く、言い換えれば軽油の方が煤が生成され易い。そこで軽油による煤の発生を抑えるためには、GTL燃料よりも軽油の噴射圧を高く設定することが望ましい。一方、増圧機構130の増圧室131dにて得られる燃料の圧力は、増圧ピストン132の第2ピストン部132bの面積よりも加圧プランジャ132cの面積が十分に小さいため、増圧シリンダ131の第2圧力室131bに導入される燃料の圧力よりも高い圧力まで増圧室131dにて燃料を昇圧させることができる。このように、2種類の燃料間において適正圧力(適正な噴射圧)に差が存在する場合には、適正圧力が低い第1の燃料(上記の例ではGTL燃料)を第1流入ポート135aに、適正圧力が高い第2の燃料(上記の例では軽油)を第2流入ポート135bにそれぞれ導入することにより、第2の燃料を適正圧力まで昇圧して機関性能、燃料消費率、エミッションを改善することができる。その一方、第1の燃料を昇圧するための燃料ポンプ、昇圧後の第1の燃料が導かれる高圧配管、あるいはコモンレールといった構成要素は、第1の燃料の適正圧力に合わせて設計すれば足り、それらの構成要素のコスト、重量、大きさを削減することができる。
[第6の形態]
図23は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第6の形態を示している。本形態は第5の形態の一部を変更したものである。よって、図23において、図20と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Eは、フィードポンプ22Aから送り出される低圧の軽油が、全ての燃料噴射弁25間で共用される増圧機構150に導かれ、その増圧機構150で軽油が昇圧されて各燃料噴射弁25に分配される点で第5の形態の燃料噴射装置20Dと相違する。
図24は増圧機構150の構成を示している。増圧機構150は、増圧シリンダ151と、その増圧シリンダ151の内部に摺動自在に収容された増圧ピストン152と、増圧ピストン152の動作方向を切り替えるための第1三方弁153、第2三方弁154と、それらの三方弁153、154を切り替えるための電磁駆動式の第1制御弁155及び第2制御弁156と、増圧シリンダ151にて昇圧された軽油が導かれる集合管157とを備えている。
増圧ピストン152は増圧シリンダ151の内部を第1圧力室151a及び第2圧力室151bに区分するようにして増圧シリンダ151に嵌め合わされたピストン部152aと、そのピストン部152aの両端に同軸に配置された第1加圧プランジャ152b及び第2加圧プランジャ152cとを備えている。増圧シリンダ151の両端には第1増圧室151c及び第2増圧室151dが設けられ、それらの増圧室151c、151dに加圧プランジャ152b、152cが摺動自在に嵌め合わされている。増圧室151c、151dの内径は圧力室151a、151bの内径よりも十分に小さい。
三方弁153、154は互いに等しい構成を有しており、それらの内部にはピストン153a、154aが摺動自在に設けられている。ピストン153a、154aの両側には第1圧力室153b、154bと第2圧力室153c、154cとが設けられている。第2圧力室153c、154cは中間路153d、154dを介して第3圧力室153e、154eにそれぞれ通じている。第2圧力室153c、154には第1弁体153f、154fが、第3圧力室153e、154eには第2弁体153g、154gがそれぞれ設けられている。第1三方弁153の弁体153f、153gは中間路153dを貫通する弁軸153hにより互いに同軸に連結され、第2三方弁154の弁体154f、154gは中間路154dを貫通する弁軸154hにより互いに同軸に連結されている。第1弁体153f、154f及び第2弁体153g、154gの直径はピストン153a、154aの直径よりも十分に小さい。第1制御弁155及び第2制御弁156は、それぞれソレノイドコイル155a、156aの励磁及び非励磁の切り替えに応じて開閉される2ポート2位置切替弁である。
増圧機構150には、第1流入ポート160a、第2流入ポート160b及び一対のリターンポート160cが設けられている。第1流入ポート160aには第1コモンレール23に蓄えられた高圧のGTL燃料が供給され、第2流入ポート160bにはフィードポンプ22Aから送られた低圧の軽油が供給される。第1流入ポート160aに供給された高圧のGTL燃料は、第1高圧燃料通路161から三方弁153、154の第3圧力室153e、154eに導かれるとともに、第1オリフィス162又は第2オリフィス163にて減圧されて三方弁153、154の第1圧力室153b、154bにも導かれる。第1圧力室153b、154bに供給されたGTL燃料はさらに第3オリフィス164又は第4オリフィス165にて減圧されて第1制御弁155又は第2制御弁156の流入側にも導かれる。第1オリフィス162及び第2オリフィス163は互いに等しく、第3オリフィス164及び第4オリフィス165は互いに等しく、かつそれらの内径は第1オリフィス162及び第2オリフィス163の内径よりも小さい。
制御弁155、156の流出側は低圧リターン通路166を介してリターンポート160cに接続される。また、三方弁153、154の第2圧力室153c、154cも低圧リターン通路166を介してリターンポート160cに接続される。さらに、第1三方弁153の中間路153dは連絡路167を介して増圧シリンダ151の第1圧力室151aに、第2三方弁154の中間路154dは連絡路168を介して増圧シリンダ151の第2圧力室151bにそれぞれ接続される。
一方、第2流入ポート160bに供給された低圧の軽油は、第1逆止弁171又は第2172を介して増圧室151c、151dに導かれる。第1逆止弁171及び第2逆止弁172は、増圧室151c、151dからの軽油の流出を阻止する向きで設けられている。増圧室151c、151dは第3逆止弁173、第4逆止弁174を介して集合管157にそれぞれ接続される。これらの逆止弁173、174は、いずれも集合管157から増圧室151c、151dへの軽油の逆流を阻止する向きで設けられている。集合管157には、各燃料噴射弁25に軽油を供給するための分配管175が接続されている。分配管175は、燃料噴射弁25の第2噴孔40から軽油を噴射する場合には第2高圧燃料通路70(図2参照)と、第1噴孔39から軽油を噴射する場合には第1高圧燃料通路50と接続される。なお、図23から明らかなように、高圧のGTL燃料は第1コモンレール23から各燃料噴射弁25に供給され、増圧機構150から燃料噴射弁25へのGTL燃料の供給経路は存在しない。増圧機構150の第1流入ポート160aへは、第1コモンレール23から燃料噴射弁25へGTL燃料を供給するための配管路とは別の配管路にてGTL燃料が供給される。増圧機構150のリターンポート160cは各燃料噴射弁25と第1貯留室15とを結ぶ第1リターン配管18に接続される。
以上の構成の増圧機構150は、制御弁155、156の位置を切り替えることにより次のように動作する。まず、第1制御弁155を閉じ、第2制御弁156を開いた場合について説明する。この場合、第1三方弁153に着目すると、その第1圧力室153bと低圧リターン通路166との間が第1制御弁155で遮断されるので、第1圧力室153bには第1オリフィス162を通過したGTL燃料の圧力が閉じ込められ、その圧力でピストン153aに下方への押し込み力が作用する。このとき、第3圧力室153eにも高圧のGTL燃料が導かれ、その圧力で第2弁体153gには上方への押し込み力が作用する。しかし、ピストン153aの面積が第2弁体153gのそれよりも十分に大きいため、第1圧力室153bから受ける力の方が大きくなり、ピストン153aは下方に移動する。これに伴って第1弁体153fが第2圧力室153cと中間路153dとの間を閉鎖する。この場合、第2弁体153gも下方に移動し、第3圧力室153eと中間路153dとの間が開通する。これにより、第3圧力室153eに導かれた高圧のGTL燃料が中間路153dから連絡路167を介して増圧シリンダ151の第1圧力室151aに導入される。第2三方弁154に関しては、第2制御弁156が開いて第1圧力室154bが低圧リターン通路166と接続されることにより、第1圧力室154bに導かれたGTL燃料が低圧リターン通路166に逃げる。このため、ピストン154を下方に押し込む力が低下する。よって、第3圧力室154eに導入されたGTL燃料の圧力で第2弁体154gが上方に押し出され、それにより第2弁体154gが第3圧力室154eと中間路154dとの間を閉鎖する。この場合、第1弁体154fも上方に移動して中間路154dと第2圧力室154cとの間が開通する。これにより、増圧シリンダ151の第1圧力室151aの圧力が連絡路168、中間路154d及び第2圧力室154cを介して低圧リターン通路166に逃がされる。この結果、増圧シリンダ151は図24の右方に駆動され、第1増圧室151cから加圧プランジャ152bが後退する一方で第2増圧室151dには加圧プランジャ152cが押し込まれる。よって、第1増圧室151cの容積が拡大して第1逆止弁171から第1増圧室151cに低圧の軽油が取り込まれ、その一方で第2増圧室151dの容積が縮小してその内部の軽油が圧縮される。これにより、第2増圧室151dの軽油が昇圧され、第4逆止弁174から集合管157へと高圧の軽油が吐出される。
上記の状態から、第1制御弁155を開き、第2制御弁156を閉じた場合には、第1三方弁153と第2三方弁154の動作が逆となり、増圧シリンダ151の第1圧力室151aの圧力が連絡路167、中間路153d及び第2圧力室153cを介して低圧リターン通路166に逃がされ、その一方で、第2三方弁154の第3圧力室154eに導かれた高圧のGTL燃料が中間路154dから連絡路168を介して増圧シリンダ151の第2圧力室151bに導入される。この結果、増圧シリンダ151は図24の左方に駆動され、第2増圧室151dから加圧プランジャ152cが後退する一方で第1増圧室151cには加圧プランジャ152bが押し込まれる。よって、第2増圧室151dの容積が拡大して第2逆止弁172から第2増圧室151dに低圧の軽油が取り込まれ、その一方で第1増圧室151cの容積が縮小してその内部の軽油が圧縮される。これにより、第1増圧室151cの軽油が昇圧され、第3逆止弁173から集合管157へと高圧の軽油が吐出される。
このように、本形態の増圧機構150によれば、第1制御弁155及び第2制御弁156の開閉状態を交互に反転させることにより、増圧室151c、151dから集合管157に高圧の軽油を送り込むことができる。なお、制御弁155、156の切り替え動作はECU80にて制御すればよい。例えば、燃料の噴射周期に同期して制御弁155、156の開閉を切り替えることにより、毎回の燃料噴射に合わせて高圧の軽油を集合管157から燃料噴射弁25に供給するような制御をECU80にて実行してもよい。GTL燃料の噴射比率が100%に設定される運転領域においては制御弁155、156の切り替え動作を停止して、軽油の昇圧を中断してもよい。
以上に説明したように、本形態の増圧機構150によれば、第1コモンレール23に蓄えられたGTL燃料の圧力を利用して軽油を昇圧することができる。このため、図2及び図3に示した燃料噴射弁25の第1高圧燃料通路50又は第2高圧燃料通路70のいずれか一方の通路と第1コモンレール23とを接続し、他方の通路を分配管175と接続することにより、第1の形態と同様に燃料噴射弁25からGTL燃料及び軽油をそれぞれ噴射させることができる。燃料噴射弁25の内部構造及びその動作制御については第1の形態と同様でよい。
なお、本形態の増圧機構150においても、図22の例と同様に加圧プランジャと増圧室との嵌め合い部分にGTL燃料及び軽油を回収するための第1回収溝及び第2回収溝が設けられてもよい。本形態の増圧機構150は、図7に示したピントル弁形式の燃料噴射弁と組み合わせることも可能であり、図14及び図15に示した燃料噴射弁25Aと組み合わせることも可能である。本形態では、GTL燃料を第1燃料ポンプ21にて昇圧し、その圧力を利用して増圧機構150により軽油を昇圧したが、これとは逆の構成を採用してもよい。本形態でも、増圧ピストン152のピストン部152aの面積よりも加圧プランジャ152c、152dの面積が十分に小さいため、増圧ピストン152を駆動する燃料の圧力よりも増圧室151c、151dから吐出される燃料の圧力を高めることができる。よって、燃料ポンプで昇圧する燃料と、増圧機構150にて昇圧する燃料との選択は第5の形態と同様に考えることができる。
[第7の形態]
図25は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第7の形態を示している。なお、図25において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Fでは、燃料噴射弁25から低圧の軽油を戻すための第2リターン配管19Aが、セジメンタ17と第2燃料ポンプ22の吸込口側との間に接続されている。これにより、第2燃料ポンプ22、第2コモンレール24、燃料噴射弁25、第2リターン配管19Aを含むように軽油の循環路が形成されている。また、ECU80は、燃料噴射弁25からのGTL燃料と軽油との噴射比率を図5に示した燃料噴射制御ルーチンに従って制御するが、特にエンジン1の低温始動時にはステップS2にて図4のマップに関わりなく、GTL燃料の噴射比率を100%に設定する。GTL燃料は軽油よりもセタン価が高く、低温始動時にはGTL燃料を噴射する方が白煙の抑制、あるいは燃焼の安定化の点で有利なためである。しかし、GTL燃料は軽油と比較して流動点が高く、低温始動時には十分に流動しないおそれがある。そこで、本形態では、ECU80が、低温始動時におけるGTL燃料の流動性を高めることを目的として、図26に示す燃料昇温制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行する。
図26の燃料昇温制御ルーチンにおいて、ECU80はまずステップS31でエンジン1が低温始動の状態にあるか否かを判別する。その判別は、例えば、エンジン1の冷却水の水温に基づいて行うことができる。低温始動の場合、ECU80はステップS32に進み、GTL燃料のみを噴射するように噴射比率が設定されているか否か、つまりGTL燃料の噴射比率が100%に設定されているか否かを判別する。GTL燃料のみを噴射する場合、ECU80はステップS33に進み、軽油の微量循環制御を実行する。軽油の微量循環制御は、燃料噴射弁のソレノイドコイルの励磁に対するニードルの応答遅れを利用して、軽油が噴射されない範囲で燃料噴射弁25の高圧側から低圧側へと軽油を微量リークさせる処理である。例えば、燃料噴射弁25の第2噴孔40が軽油用の噴孔として割り当てられている場合には、第2噴孔40に対応した第2駆動機構35の第2ソレノイドコイル68とする。)を微小時間励磁する処理を繰り返すことにより、第2ニードル33が動作しない範囲で、第2コマンド室63bから第2ソレノイド室65を介して第2低圧燃料通路73へと軽油をリークさせる処理がステップS33にて実行される。そのステップS33の処理を実行することにより、ECU80は燃料循環制御手段として機能する。一方、ステップS31又はS32の条件が否定された場合、ECU80は軽油の微量循環制御を中止する。そして、ステップS33又はS34の処理後、ECU80は今回のルーチンを終える。
上述した軽油の微量循環制御を実行した場合、第2コマンド室63bに導入された軽油が第2低圧燃料通路73に微量ずつ繰り返し流出し、その流出した軽油が第2リターン配管19Aから第2燃料ポンプ22、第2コモンレール24を経て第2コマンド室63bへ戻される。このような循環により軽油が昇温され、その結果として燃料噴射弁25が加熱されてGTL燃料の温度が早期に上昇する。この結果、低温始動時のGTL燃料の流動性を高めることができる。
なお、燃料噴射弁25の第1噴孔39から軽油を噴射する場合には、ステップS33で第2ソレノイドコイル68に代えて第1ソレノイドコイル48を第1ニードル32が動作しない範囲で繰り返し励磁すればよい。本形態は、第1の形態の燃料噴射弁25に限らず、図7に示したピントル弁形式の燃料噴射弁、あるいは図14及び図15に示した燃料噴射弁25Aとも組み合わせることができる。さらに、本形態を第5又は第6の形態と本形態と組み合わせて、燃料噴射弁の低圧リターン通路から戻される低圧の軽油を増圧機構に導くようにしてもよい。
[第8の形態]
図27は本発明に係る燃料噴射装置をエンジンに適用した第8の形態を示している。なお、図27において、図1と共通する部分には同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明する。本形態の燃料噴射装置20Gでは、燃料噴射弁25から低圧のGTL燃料を戻すための第1リターン配管18Aが、セジメンタ17と第1燃料ポンプ21の吸込口との間に接続されている。これにより、第1燃料ポンプ21、第1コモンレール23、燃料噴射弁25、第1リターン配管18Aを含むようにGTL燃料の循環路が形成されている。また、ECU80は、燃料噴射弁25からのGTL燃料と軽油との噴射比率を図5に示した燃料噴射制御ルーチンに従って制御するが、特にエンジン1の低温始動時にはステップS2にて図4のマップに関わりなく、GTL燃料の噴射比率を100%に設定する。その理由は第7の形態で説明した通りである。さらに、ECU80は、低温始動時におけるGTL燃料の流動性を高めることを目的として、図28に示す燃料昇温制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行する。
図28の燃料昇温制御ルーチンにおいて、ECU80はまずステップS41でエンジン1が低温始動の状態にあるか否かを判別する。その判別は図26のステップS31と同様でよい。低温始動の場合、ECU80はステップS42に進み、GTL燃料の噴射開始前の期間であるか否かを判別する。すなわち、GTL燃料を噴射するためには、第1燃料ポンプ21にてGTL燃料を昇圧して第1コモンレール23に所定圧のGTL燃料を蓄える必要があり、その準備が整うまではGTL燃料の噴射が開始されない。ステップS42ではそのGTL燃料の噴射準備が整う前の期間において肯定判断され、準備が整った後は否定判断される。ステップS42で噴射開始前と判断された場合、ECU80はステップS43に進み、GTL燃料の微量循環制御を実行する。その微量循環制御は、燃料噴射弁のソレノイドコイルの励磁に対するニードルの応答遅れを利用して、GTL燃料が噴射されない範囲で燃料噴射弁25の高圧側から低圧側へとGTL燃料を微量リークさせる処理である。例えば、燃料噴射弁25の第1噴孔39がGTL燃料用の噴孔として割り当てられている場合には、第1噴孔39に対応した第1駆動機構34の第1ソレノイドコイル48とする。)を微小時間励磁する処理を繰り返すことにより、第1ニードル32が動作しない範囲で、第1コマンド室43bから第1ソレノイド室45を介して第1低圧燃料通路53へとGTL燃料をリークさせる処理がステップS43にて実行される。そのステップS43の処理を実行することにより、ECU80は燃料循環制御手段として機能する。一方、ステップS41又はS42の条件が否定された場合、ECU80はGTL燃料の微量循環制御を中止する。そして、ステップS43又はS44の処理後、ECU80は今回のルーチンを終える。
上述したGTL燃料の微量循環制御を実行した場合、第1コマンド室43bに導入されたGTL燃料が第1低圧燃料通路53に微量ずつ繰り返し流出し、その流出したGTL燃料が第1リターン配管18Aから第1燃料ポンプ21、第1コモンレール23を経て第1コマンド室43bへ戻される。このような循環によりGTL燃料の温度が早期に上昇する。この結果、低温始動時のGTL燃料の流動性を高めることができる。
なお、燃料噴射弁25の第2噴孔40からGTL燃料を噴射する場合には、ステップS43で第1ソレノイドコイル48に代えて第2ソレノイドコイル68を第2ニードル33が動作しない範囲で繰り返し励磁すればよい。本形態は、第1の形態の燃料噴射弁25に限らず、図7に示したピントル弁形式の燃料噴射弁、あるいは図14及び図15に示した燃料噴射弁25Aとも組み合わせることができる。さらに、本形態を第5又は第6の形態と本形態と組み合わせて、燃料噴射弁の低圧リターン通路から戻される低圧の軽油を増圧機構に導くようにしてもよい。また、本形態を第7の形態と組み合わせて、GTL燃料及び軽油の両者を微量循環させてもよい。
本発明は上述した形態に限ることなく、適宜の形態にて実施することができる。例えば、燃料噴射弁の第1駆動機構及び第2駆動機構は、ニードルを開閉駆動できる限りにおいて適宜に変更してよい。本発明は、GTL燃料と軽油とを利用する例に限らず、2種類の燃料を利用する限りにおいて適宜の燃料噴射装置に適用することができる。また、高負荷低回転領域で軽油の噴射比率を大きく設定し、高負荷高回転領域でGTL燃料の噴射比率を大きく設定する制御に関しては、共通の燃料噴射弁からこれらの燃料を噴射する構成に限らず、GTL燃料及び軽油を互いに異なる燃料噴射弁から噴射する構成に対しても適用してよい。