JP2008308407A - 細胞遊走阻害方法および細胞遊走阻害剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】MAST205と相互作用する蛋白質を見出し、MAST205の作用調節手段・MAST205の異常に起因する疾患の防止や治療に有用な手段を提供する。
【解決手段】MAST205が、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3/4/6/7、p38 MAPKと結合すること、DCTN1をリン酸化すること、MKK3/4/6、p38 MAPK、JNKのリン酸化に関与すること、細胞の遊走や浸潤に関与することを見出し、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法・阻害剤、癌転移の抑制方法・抑制剤、血管新生の抑制方法・抑制剤、細胞遊走抑制活性を有する化合物・MAST205とDCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3/4/6/7、またはp38 MAPKとの結合を阻害する化合物・MAST205によるDCTN1、TIAM1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法、試薬キットを提供。
【選択図】なし

Description

本発明は細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤、該遊走阻害方法または該遊走阻害剤を用いる癌の転移抑制方法、該遊走阻害剤を含む癌の転移抑制剤、並びに血管新生抑制方法および血管新生抑制剤に関する。
より詳しくは、本発明はMAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤、並びに血管新生抑制方法および血管新生抑制剤に関する。さらに、本発明は、該遊走阻害方法または該遊走阻害剤を用いる癌の転移抑制方法、並びに該遊走阻害剤を含む癌の転移抑制剤に関する。
本発明はまた、前記方法および前記阻害剤に用いる化合物の同定方法、並びに試薬キットに関する。
MAST205は、キナーゼドメインおよびPDZドメインを保持するセリンスレオニンキナーゼである。MAST205には、スプライシングバリアントと考えられる数種の変異体が知られている。具体的には、NCBIデータベースにアクセッションナンバーAAH65499(1797アミノ酸残基)、CAH73244(1798アミノ酸残基)、およびBAB40778(1734アミノ酸残基)として開示されている各蛋白質が、MAST205として知られている。CAH73244(1798アミノ酸残基)は、AAH65499(1797アミノ酸残基)のアミノ酸配列と比較して、第1224番目と第1225番目のアミノ酸残基の間にセリン残基が挿入されていることを除いて同一のアミノ酸配列を有する。BAB40778(1734アミノ酸残基)は、CAH73244(1798アミノ酸残基)のアミノ酸配列と比較して、第388番目、第659番目および第1550番目のアミノ酸残基がそれぞれグルタミン酸残基、メチオニン残基およびグリシン残基に置換し、かつ第1688番目以降の領域がフレームシフトしていることを除いて同一のアミノ酸配列を有する。
MAST205は1993年、ワルデン(Walden)らによって、微小管結合蛋白質(microtubule−associated proteins)と複合体を形成するリン酸化酵素として最初にクローニングされ、精巣に分布することが報告された(非特許文献1)。また、MAST205の発現がほとんどすべての正常組織で普遍的に認められるという報告がある(非特許文献2)。一方で、MAST205の発現は、***で、それも発達分化中の***で最も高いという報告(非特許文献3)や、心臓で高い発現が認められるという報告(非特許文献2)がある。
MAST205と相互作用する蛋白質が現在までにいくつか報告されている。例えば、神経筋接合部ではMAST205はPDZドメインを介してβ2−シントロフィンと結合することが知られている(非特許文献2)。このようなPDZドメインを介したMAST205と他の蛋白質との結合は他にも知られており、プロトカドヘリン LKCやPTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome ten)がMAST205と結合すると報告されている(それぞれ非特許文献4並びに非特許文献5および6)。PTENは腫瘍抑制ホスファターゼとして知られており、細胞増殖やアポトーシスに関連すると考えられている。PTENについては、MAST205によるリン酸化も報告されており、MAST205による機能的制御の可能性も示唆される(非特許文献6)。また、腎臓のIIa型ナトリウム/リン コトランスポーター(type IIa Na/Pi cotranspoter)とMAST205の結合が報告されており(非特許文献7)、このトランスポーターもPDZドメインを保持していることから、該結合はPDZドメインを介した結合であると考えられる。
MAST205の機能については、MAST205の不活性体をトランスフェクションした細胞でリポポリサッカライド(lipopolysaccharide:以下、LPSと略称する)刺激に対するインターロイキン12(以下、IL−12と略称する)産生が抑制されていることが報告(非特許文献8)されている。また、MAST205は、マクロファージをペプチドグリカンによるTLR−2(toll−like receptor−2)刺激やLPSによるTLR−4刺激により活性化したときのIL−12産生において必須の蛋白質であること(非特許文献8)、マクロファージにおけるFcγ受容体IIA(FcγR IIA)刺激によってユビキチン化を受けプロテアソーム媒介型の分解を受けることが報告されている(非特許文献8)。さらに、MAST205は、ユビキチンリガーゼとして機能するTRAF2(tumor necrosis factor receptor−associated factor 2)やTRAF6と結合すること等も報告されている(非特許文献9)。
さらに、MAST205に対するsiRNA(small interfering RNA)を用いてMAST205の発現をノックダウンすることにより癌細胞の増殖が阻害されたことが開示されている(特許文献1)。
国際公報第2004/058153号パンフレット。 ワルデン(Walden P.D.)ら、「モレキュラー アンド セルラー バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)」、1993年、第13巻、第12号、p.7625−7635。 ルーメング(Lumeng C.)ら、「ネイチャー ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」、1999年、第2巻、第7号、p.611−617。 ワルデン(Walden P.D.)ら、「バイオロジー オブ リプロダクション(Biology of Reproduction)」、1996年、第55巻、第5巻、p.1039−1044。 オカザキ(Okazaki N.)ら、「カルシノジェネシス(Carcinogenesis)」、2002年、第23巻、第7号、p.1139−1148。 アデイ(Adey N.B.)ら、「キャンサーリサーチ(Cancer Research)」、2000年、第60巻、第1号、p.35−37。 ヴァリエンテ(Valiente M.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2005年、第280巻、第32号、p.28936−28943。 ギスラー(Gisler S.M.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2001年、第276巻、第12号、p.9206−9213。 ゾウ(Zhou H.)ら、「ザ ジャーナル オブ イムノロジー(The Journal of Immunology)」、2004年、第172巻、第4号、p.2559−2568。 ション(Xiong H.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2004年、第279巻、第42号、p.43675−43683。
MAST205はセリンスレオニンキナーゼであり、様々な蛋白質と結合すること、また、刺激を受けたマクロファージにおけるIL−12産生や癌細胞の増殖に関与することが知られている。MAST205と結合する新たな蛋白質を見出し、MAST205の機能を明らかにすることにより、MAST205の発現や機能の異常に起因する疾患を防止および/または治療できる。
本発明の課題は、MAST205と相互作用してその作用を調節する蛋白質を見出して提供することである。また、本発明の課題には、MAST205の作用を調節する手段を提供することが含まれる。さらに、本発明の課題には、MAST205の異常に起因する疾患の防止および/または治療に有用な手段を提供することが含まれる。
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意努力し、MAST205が、DCTN1(dynactin 1)およびTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)それぞれと結合すること、さらにDCTN1をリン酸化することを見出した。また、MAST205に対するsiRNAをトランスフェクションした細胞で、p38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)、MKK6(MAPK kinase 6)/MKK3(MAPK kinase 3)、およびJNK(c−Jun N−terminal kinase)のリン酸化が阻害されることを見出した。
さらに本発明者らは、MAST205が、MLK3(mixed liniage kinase 3)、MKK3、MKK4(MAPK kinase 4)、MKK6、MKK7(MAPK kinase 7)、およびp38 MAPKそれぞれと結合することを見出した。また、MAST205に対するsiRNAをトランスフェクションした細胞で、MKK4のリン酸化が阻害されることを見出した。
DCTN1およびTIAM1は、p38 MAPKあるいはその上流のMKK6/MKK3を介した情報伝達経路への関与が示唆されている。
p38 MAPKは、癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答に関与していることが知られている。また、p38 MAPKは、MAPKキナーゼキナーゼやMAPKキナーゼを介したキナーゼカスケードにより活性化される。p38 MAPKの活性化には、MKK3、MKK4およびMKK6が関与することが知られている。また、p38 MAPKの活性化を、MLK3がMKK3を介して促進することが知られている。
JNKは、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与することが知られており、MKK7/MKK4によりリン酸化されることによりその機能が調節されている。
これらから発明者らは、MAST205は、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、およびMKK6等の蛋白質とそれぞれ結合し、これら蛋白質が関与する情報伝達を促進することにより、p38 MAPKのリン酸化を促進し、その結果、癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答に促進的に関与していると考えている。またMAST205は、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK4、およびMKK7等の蛋白質とそれぞれ結合し、これら蛋白質が関与する情報伝達を促進することにより、JNKのリン酸化にも関与し、その結果、癌の転移、血管新生、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与すると発明者らは考えている。
本発明においてはさらに、MAST205の発現を阻害することにより、細胞の遊走および浸潤が顕著に抑制されることを見出した。細胞の遊走および浸潤は癌の転移能の指標であることから、MAST205は癌の転移に関与すると発明者らは考えている。
上記のようにMAST205が、細胞の遊走および浸潤、癌の転移、血管新生、細胞増殖や細胞死、並びに免疫炎症応答に関与すると考えられることから、MAST205の発現および/または機能を阻害することにより癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答を抑制できると発明者らは考えている。
本発明は、これら知見により完成した。
すなわち本発明は、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法に関する。
また本発明は、MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である前記細胞遊走阻害方法に関する:
(1)MAST205とDCTN1の結合、
(2)MAST205とTIAM1の結合、
(3)MAST205とMLK3の結合、
(4)MAST205とMKK3の結合、
(5)MAST205とMKK4の結合、
(6)MAST205とMKK6の結合、
(7)MAST205とMKK7の結合、
(8)MAST205とp38 MAPKの結合、
および
(9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
さらに本発明は、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である前記細胞遊走阻害方法に関する。
さらにまた本発明は、細胞が癌細胞である前記細胞遊走阻害方法に関する。
また本発明は、細胞が内皮細胞である前記細胞遊走阻害方法に関する。
さらに本発明は、MAST205に対するRNA干渉によりMAST205の発現および/または機能を阻害する前記細胞遊走阻害方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205に対するRNA干渉がMAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを用いて行うRNA干渉である前記細胞遊走阻害方法に関する。
また本発明は、MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記細胞遊走阻害方法に関する。
さらに本発明は、MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記細胞遊走阻害方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害剤に関する。
また本発明は、MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である前記細胞遊走阻害剤に関する:
(1)MAST205とDCTN1の結合、
(2)MAST205とTIAM1の結合、
(3)MAST205とMLK3の結合、
(4)MAST205とMKK3の結合、
(5)MAST205とMKK4の結合、
(6)MAST205とMKK6の結合、
(7)MAST205とMKK7の結合、
(8)MAST205とp38 MAPKの結合、
および
(9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
さらに本発明は、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である前記細胞遊走阻害剤に関する。
さらに本発明は、細胞が癌細胞である前記細胞遊走阻害剤に関する。
さらにまた本発明は、細胞が内皮細胞である前記細胞遊走阻害剤に関する。
また本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを有効成分として含む前記細胞遊走阻害剤に関する。
さらにまた本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記細胞遊走阻害剤に関する。
また本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記細胞遊走阻害剤に関する。
さらに本発明は、前記いずれかの細胞遊走阻害方法を用いることを特徴とする癌の転移抑制方法に関する。
さらにまた本発明は、前記いずれかの細胞遊走阻害剤を用いることを特徴とする癌の転移抑制方法に関する。
また本発明は、前記いずれかの細胞の遊走阻害剤を含んでなる癌の転移抑制剤に関する。
さらに本発明は、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする血管新生の抑制方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である前記血管新生の抑制方法に関する:
(1)MAST205とDCTN1の結合、
(2)MAST205とTIAM1の結合、
(3)MAST205とMLK3の結合、
(4)MAST205とMKK3の結合、
(5)MAST205とMKK4の結合、
(6)MAST205とMKK6の結合、
(7)MAST205とMKK7の結合、
(8)MAST205とp38 MAPKの結合、
および
(9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
また本発明は、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である前記血管新生の抑制方法に関する。
さらに本発明は、MAST205に対するRNA干渉によりMAST205の発現および/または機能を阻害する前記血管新生の抑制方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205に対するRNA干渉がMAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを用いて行うRNA干渉である前記血管新生の抑制方法に関する。
また本発明は、MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記血管新生の抑制方法に関する。
さらに本発明は、MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドである前記血管新生の抑制方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする血管新生の抑制剤に関する。
また本発明は、MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である前記血管新生の抑制剤に関する:
(1)MAST205とDCTN1の結合、
(2)MAST205とTIAM1の結合、
(3)MAST205とMLK3の結合、
(4)MAST205とMKK3の結合、
(5)MAST205とMKK4の結合、
(6)MAST205とMKK6の結合、
(7)MAST205とMKK7の結合、
(8)MAST205とp38 MAPKの結合、
および
(9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
さらに本発明は、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である前記血管新生の抑制剤に関する。
さらにまた本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを有効成分として含む前記血管新生の抑制剤に関する。
また本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記血管新生の抑制剤に関する。
さらに本発明は、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである前記血管新生の抑制剤に関する。
さらにまた本発明は、細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法であって、MAST205および/または下記の群から選択される1つ以上の蛋白質とある化合物(以下、被検化合物と称する)とを接触させ、MAST205と該蛋白質との結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205と該蛋白質との結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する:
(i)DCTN1、
(ii)TIAM1、
(iii)MLK3、
(iv)MKK3、
(v)MKK4、
(vi)MKK6、
(vii)MKK7、
および
(viii)p38 MAPK。
また本発明は、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはDCTN1と被検化合物とを接触させ、MAST205とDCTN1の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とDCTN1の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらに本発明は、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはTIAM1と被検化合物とを接触させ、MAST205とTIAM1の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とTIAM1の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205とMLK3の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMLK3と被検化合物とを接触させ、MAST205とMLK3の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMLK3の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
また本発明は、MAST205とMKK3の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK3と被検化合物とを接触させ、MAST205とMKK3の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK3の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらに本発明は、MAST205とMKK4の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK4と被検化合物とを接触させ、MAST205とMKK4の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK4の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらにまた本発明は、MAST205とMKK6の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK6と被検化合物とを接触させ、MAST205とMKK6の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK6の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
また本発明は、MAST205とMKK7の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK7と被検化合物とを接触させ、MAST205とMKK7の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK7の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらに本発明は、MAST205とp38 MAPKの結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはp38 MAPKと被検化合物とを接触させ、MAST205とp38 MAPKの結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とp38 MAPKの結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらにまた本発明は、細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法であって、MAST205と被検化合物とを接触させ、MAST205のリン酸化活性を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205のリン酸化活性を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
また本発明は、MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはDCTN1と被検化合物とを接触させ、MAST205によるDCTN1のリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらに本発明は、MAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはTIAM1と被検化合物とを接触させ、MAST205によるTIAM1のリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらにまた本発明は、下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キットに関する:
ここで、A群は、
(a)MAST205、
(b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
(c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなり、
B群は、
(e)DCTN1およびTIAM1から選ばれるいずれか1の蛋白質、
(f)上記(e)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(g)上記(f)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(h)上記(g)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなる。
また本発明は、下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キットに関する:
ここで、A群は、
(a)MAST205、
(b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
(c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなり、
B群は、
(i)MLK3、MKK3、MKK4、MKK6およびp38 MAPKから選ばれるいずれか1の蛋白質、
(j)上記(i)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(k)上記(j)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(l)上記(k)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなる。
さらに本発明は、下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キットに関する:
ここで、A群は、
(a)MAST205、
(b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
(c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなり、
B群は、
(m)MLK3、MKK4、MKK7およびJNKから選ばれるいずれか1の蛋白質、
(n)上記(m)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(o)上記(n)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
(p)上記(o)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
からなる。
本発明により、MAST205の発現および/または機能を阻害する細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤を提供できる。具体的には本発明により、MAST205の発現、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、およびMAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性から選ばれる少なくとも1を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤を提供できる。
MAST205は、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、およびp38 MAPK等の蛋白質とそれぞれ結合し、これら蛋白質が関与する情報伝達を促進することにより、p38 MAPKのリン酸化を促進し、その結果、癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答に促進的に関与していると発明者らは考えている。またMAST205は、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK4、およびMKK7等の蛋白質とそれぞれ結合し、これら蛋白質が関与する情報伝達を促進することにより、JNKのリン酸化にも関与し、その結果、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与すると発明者らは考えている。
実際に、MAST205の発現を阻害することにより、細胞の遊走および浸潤が顕著に抑制されることを本発明において見出した。したがって、MAST205の発現および/または機能を阻害することにより、癌の転移や免疫炎症応答を抑制できると発明者らは考えている。
このように本発明により、MAST205の発現および/または機能を阻害する癌の転移抑制方法および転移抑制剤を提供できる。
MAST205がp38 MAPKのリン酸化の促進に関与することを本発明において見出し、また、p38 MAPKが血管新生に関与することが知られていることから、本発明によりMAST205の発現および/または機能を阻害する血管新生抑制用法および血管新生抑制剤を提供できる。
さらに本発明により、前記阻害方法、前記阻害剤、前記抑制方法および前記抑制剤に用いる化合物の同定方法を提供できる。具体的には例えば、細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法を提供できる。また、MAST205の発現、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、MAST205によるDCTN1のリン酸化、およびMAST205によるTIAM1のリン酸化から選ばれる少なくとも1を阻害する化合物の同定方法を提供できる。
また本発明により、(A)MAST205、MAST205をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれるいずれか1つの成分と、(B)DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKから選ばれるいずれか1つの蛋白質、該蛋白質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれるいずれか1つの成分とを有してなる試薬キットを提供できる。
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
本明細書においては単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用することがある。ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドはペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個以上のアミノ酸を含むものである。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
(細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤、癌の転移抑制方法および転移抑制剤、並びに血管新生の抑制方法および抑制剤)
本発明の一態様は、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤に関する。
本発明の一態様はまた、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする癌の転移抑制方法および転移抑制剤に関する。
本発明の一態様はまた、MAST205の発現および/または機能を阻害することを特徴とする血管新生の抑制方法および抑制剤に関する。
「MAST205」は、セリンスレオニンキナーゼであり、ほとんどすべての正常組織において普遍的に発現が認められている(非特許文献2)。一方、***に、それも発達分化中の***において最も発現が高いという報告(非特許文献3)や、心臓において高い発現が認められるという報告(非特許文献2)がある。
MAST205として、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質を好ましく例示できる。配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質は、本発明において汎用の遺伝子工学的手法により取得した遺伝子によりコードされる1797アミノ酸残基からなる蛋白質であり、キナーゼドメインおよびPDZドメインを保持する。本蛋白質は、NCBIデータベースにアクセッションナンバーAAH65499(1797アミノ酸残基)として開示されているMAST205のアミノ酸配列と比較して、第388番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基に置換していることを除いて同一のアミノ酸配列を有する。本蛋白質が、公知MAST205と著しく高い相同性を有し、公知MAST205が有するキナーゼドメインおよびPDZドメインと同一のアミノ酸配列からなるキナーゼドメインおよびPDZドメインを保持することから、本蛋白質は、MAST205であると考えることができる。後述するように、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質が、DCTN1をリン酸化したこと(実施例2参照)から、機能の観点からも、本蛋白質はセリンスレオニンキナーゼであるMAST205であると考えることができる。
MAST205は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質に制限されず、該蛋白質と配列相同性を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質も包含される。また、MAST205をコードする遺伝子は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドに制限されず、該ポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴や生物学的機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限りにおいていずれのポリヌクレオチドも包含される。
配列相同性は、通常、アミノ酸配列または塩基配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と配列相同性を有する蛋白質には、該アミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表される蛋白質が含まれる。また、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、該ポリヌクレオチドの塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質あるいは該変異を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。変異を有する蛋白質およびポリヌクレオチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質の構造的特徴は、酵素活性に関与するキナーゼドメイン、および同種または別種の蛋白質との結合に関与するPDZドメインを例示できる。配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質は、そのアミノ酸配列の第512番目から785番目のアミノ酸領域にキナーゼドメインを、第1105番目から1186番目のアミノ酸領域にPDZドメインを保持する。配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と同様の構造的特徴とは、該蛋白質に存在する上記ドメインと配列相同性を有しかつ同様の機能を有するドメインを意味する。ドメインの配列相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質の生物学的機能として、セリンスレオニンキナーゼ活性を例示できる。「セリンスレオニンキナーゼ活性」とは、本蛋白質が、基質となる他の蛋白質(以下、基質蛋白質と称することがある)と結合し、該基質蛋白質のあるセリン残基および/またはスレオニン残基のヒドロキシル基にアデノシン三リン酸(ATP)のγ−リン酸基を転移させる反応を触媒することにより、該基質蛋白質をリン酸化する機能を意味する。「基質」とは、酵素によって触媒作用を受ける化合物または分子を意味する。本蛋白質のセリンスレオニンキナーゼ活性によりリン酸化される基質蛋白質として、DCTN1、TIAM1、およびPTENを好ましく例示できる。本蛋白質の基質蛋白質は、これら例示した蛋白質に限定されず、本蛋白質のセリンスレオニンキナーゼ活性によりリン酸化される蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質でもあり得る。
本蛋白質のセリンスレオニンキナーゼ活性の測定は、基質蛋白質のリン酸化を指標にして実施できる。本蛋白質による基質蛋白質のリン酸化は、自体公知の蛋白質リン酸化測定方法を用いて、本蛋白質と基質蛋白質とを共存させてリン酸化反応を行った後にリン酸化基質蛋白質を測定することにより実施できる。このような方法として、本蛋白質と基質蛋白質とをインビトロ(in vitro)で共存させる方法、および本蛋白質と基質蛋白質とを細胞で発現させて両蛋白質をインビボ(in vivo)で共存させる方法のいずれも利用できる。リン酸化された基質蛋白質の検出は、例えば、リン酸化基質蛋白質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングにより実施できる。また、リン酸化された基質蛋白質の検出は、リン酸化反応に放射性同位体標識したATP、例えば[γ−32P]ATPを用いて、リン酸化反応により基質蛋白質に転移された[γ−32P]の放射活性を測定することにより実施できる。具体的には、本実施例2を参照して本蛋白質のセリンスレオニンキナーゼ活性の測定を実施できる。
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質の生物学的機能としてまた、他の蛋白質との結合を例示できる。本蛋白質と結合する蛋白質として、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、PTEN、TRAF2、TRAF6、β2−シントロフィン、プロトカドヘリン LKC、および腎臓のIIa型ナトリウム/リン コトランスポーターを例示できる。本蛋白質と結合する蛋白質は、これら例示した蛋白質に限定されず、本蛋白質と結合する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質でもあり得る。「本蛋白質と他の蛋白質の結合」とは、本蛋白質と他の蛋白質とが、複合体を形成するように、水素結合、疎水結合または静電的相互作用等の非共有結合により相互作用することを意味する。ここでの結合とは、本蛋白質と他の蛋白質がその一部分において結合すれば足りる。例えば、本蛋白質または他の蛋白質を構成するアミノ酸の中に、両蛋白質の結合に関与しないアミノ酸が含まれていてもよい。また、本蛋白質と他の蛋白質により形成される複合体には、これら蛋白質とは別種の蛋白質が含まれていてもよい。本蛋白質と他の蛋白質との結合の測定は、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法および蛍光共鳴エネルギー転移法等の自体公知の方法またはこれらの方法を組合わせることにより実施できる。
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と配列相同性を有する蛋白質として、NCBIデータベースにアクセッションナンバーAAH65499、CAH73244、BAB40778、およびBAA34527として開示されている各蛋白質を例示できる。これら蛋白質は配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と比較して、PDZドメインのアミノ酸配列が同一であること、さらに、キナーゼドメインのアミノ酸配列が同一または1塩基置換の他は同一であることから、いずれも本蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有すると考えることができる。
「MAST205の発現」とは、MAST205をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質(MAST205)のアミノ酸配列として翻訳されることをいう。
「MAST205の発現を阻害する」とは、MAST205をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写される過程、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質(MAST205)のアミノ酸配列として翻訳される過程で生じる様々な反応の少なくとも1つを妨げることにより、MAST205遺伝子の転写・翻訳によるMAST205の生成を妨げることを意味する。
MAST205の発現の阻害は、MAST205の発現を阻害する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはMAST205の発現を特異的に阻害する化合物、より好ましくはMAST205の発現を特異的に阻害する低分子量化合物を挙げることができる。MAST205の発現を特異的に阻害するとは、当該発現を強く阻害するが、他の蛋白質の発現は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。低分子量化合物とは、ペプチド、ペプチド様物質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機化合物、および無機化合物が含まれ、その分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは1000以下、さらにより好ましくは500以下の化合物を意味する。MAST205の発現を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。
MAST205の発現を阻害する化合物として、MAST205の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNA(small interfering RNA)を例示できる(エルバシ(Elbashir S.M.)ら、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.494−498;およびパディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。
MAST205に対するsiRNAは、MAST205 mRNAの部分配列からなるRNA(センスRNA)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンスRNA)とを、MAST205 mRNAの配列に基づいて設計し、自体公知の化学合成法により合成し、得られた両RNAをハイブリダイゼーションさせることにより製造できる。siRNAを構成するセンスRNAおよびアンチセンスRNAは、それぞれ数個ないし10数個程度のヌクレオチドからなることが好ましい。また、それぞれ、その3´末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、該RNAのRNA干渉効果を阻害しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(例えばTT)、ウリジル酸からなる配列(例えばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(例えばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えることおよびヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として用いる。オーバーハング配列は、センスRNAおよびアンチセンスRNAのそれぞれの3´末端のリボース3´水酸基部位にジエステル結合により結合させる。
MAST205に対するsiRNAとして、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを例示できる。配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドとして、具体的には、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが例示できる。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。MAST205に対するsiRNAは上記例示したものに制限されず、MAST205の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るものであればいずれを用いることもできる。
蛋白質の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNAとしてまた、shRNA(short hairpin RNA)を例示できる。shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばオリゴヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を呈する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結しかつループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むRNAを、MAST205 mRNAの塩基配列に基づいて設計して、自体公知の方法により製造することができる。好ましくは、センスRNAの3´末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5´末端とが結合し、さらにループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3´末端とアンチセンスRNAの5´末端とが結合したオリゴヌクレオチドであることが望ましい。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。このようなオリゴヌクレオチドの設計は、文献(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)の記載を参考にして実施できる。好ましくは4個ないし23個、より好ましくは4個ないし8個のヌクレオチドからなるものが望ましい。例えば、TTCAAGAGA(Ambion社製またはOligoengine社製)、AACGTT、TTAA、CAAGCTTC等の配列を挙げることができる。ヘアピン構造を有する二重鎖の形成は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とを慣用の方法でアニーリングすることにより実施できる。
また、MAST205の発現を阻害する化合物として、MAST205遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを例示できる。
MAST205の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスポリヌクレオチドの選択は、適当な細胞にMAST205遺伝子とsiRNA、shRNA、およびアンチセンスポリヌクレオチドのいずれか1つとをコトランスフェクション(共遺伝子導入)し、MAST205の発現をウエスタンブロッティング等の自体公知の方法により検出し、MAST205の発現が阻害されるか否かを確認することにより実施できる。
内在性のMAST205の発現の阻害は、MAST205の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスポリヌクレオチドを、適当な遺伝子工学的手法、例えばリポフェクションにより細胞内に導入することにより達成できる。
ここでは、阻害効果を有する化合物(例えば競合阻害効果を有する低分子化合物等)を阻害剤と称する。
「MAST205の機能」とは、MAST205が備えている働きを意味する。MAST205の機能として、上述したように、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性、およびMAST205と他の蛋白質との結合を例示できる。MAST205が結合する蛋白質として、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、PTEN、TRAF2、TRAF6、β2−シントロフィン、プロトカドヘリン LKC、および腎臓のIIa型ナトリウム/リン コトランスポーターを好ましく例示できる。
MAST205の機能としてより具体的には、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、MAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性を例示できる。MAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性とは、MAST205がDCTN1および/またはTIAM1のセリン残基および/またはスレオニン残基をリン酸化する活性を意味する。
「MAST205の機能を阻害する」とは、MAST205が備えている働きを低減させるまたは消失させることを意味する。MAST205の機能を阻害することとして、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性、およびMAST205と他の蛋白質との結合のうちの少なくとも1を阻害することを例示できる。より具体的には、MAST205の機能を阻害することとして、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、MAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害することを例示できる。
MAST205の機能の阻害は、MAST205の機能を阻害する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはMAST205の機能を特異的に阻害する化合物、より好ましくはMAST205の機能を特異的に阻害する低分子量化合物を挙げることができる。MAST205の機能を特異的に阻害するとは、当該機能を強く阻害するが、他の蛋白質の機能は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。MAST205の機能を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。
MAST205の機能の阻害は、具体的には、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性、およびMAST205と他の蛋白質との結合のうちの少なくとも1を阻害する化合物により実施できる。より具体的には、MAST205の機能の阻害は、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、MAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害する化合物を用いて実施できる。
MAST205と他の蛋白質との結合を阻害する化合物のうち、MAST205と基質蛋白質の結合を阻害する化合物は、該結合を阻害する結果、MAST205の該基質蛋白質への作用を阻害するため、例えば、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性による該基質蛋白質のリン酸化を阻害する。具体的には、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物は、MAST205のDCTN1への作用を阻害するため、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性によるDCTN1のリン酸化を阻害する。また、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物は、MAST205のTIAM1への作用を阻害するため、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性によるTIAM1のリン酸化を阻害する。
MAST205と他の蛋白質との結合を阻害する化合物として、MAST205の不活性変異体(以下、不活性型MAST205と称することがある)を例示できる。「MAST205の不活性変異体」とは、MAST205の変異体であって、セリンスレオニンキナーゼ活性がMAST205と比較して減弱したまたは消失したMAST205変異体を意味する。好ましい不活性型MAST205として、MAST205にアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異が導入されたMAST205変異体であって、MAST205が結合する他の蛋白質との結合能を有するが、セリンスレオニンキナーゼ活性を有さないMAST205変異体を例示できる。このような不活性型MAST205は、野生型のMAST205と拮抗して他の蛋白質と結合することにより、該蛋白質に対するMAST205の作用を阻害できる。不活性型MAST205は、天然に存在するものであってもよく、人工的に変異を導入したものであってもよい。不活性型MAST205における変異部位として、MAST205のアミノ酸配列においてMAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性に必要な部位を例示できる。不活性型MAST205は、MAST205のアミノ酸配列に基づいて所望の蛋白質を設計して公知の方法で製造し、取得した蛋白質の中からMAST205と他の蛋白質との結合を阻害するものを、後述する化合物の同定方法に記載の方法を用いて選別することにより取得できる。
MAST205と他の蛋白質の結合を阻害する化合物としてまた、MAST205と他の蛋白質とが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、蛋白質間の結合を競合的に阻害することができる。このようなポリペプチドは、MAST205またはMAST205と結合する蛋白質のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、MAST205と該他の蛋白質の結合を阻害するものを選択することにより取得できる。このように特定されたポリペプチドに、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異を導入したものも本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したポリペプチドは、MAST205と該他の蛋白質の結合を阻害するものが好ましい。変異を有するポリペプチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。これらポリペプチドは、後述する一般的な製造方法により取得できる。
MAST205と他の蛋白質の結合を阻害する化合物としてまた、MAST205またはMAST205と結合する蛋白質を認識する抗体であって、MAST205と該他の蛋白質の結合を阻害する抗体およびそのフラグメントを例示できる。かかる抗体は、MAST205またはMAST205と結合する蛋白質自体、またはこれらの断片、好ましくはMAST205と該他の蛋白質が結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として自体公知の抗体作製法により取得できる。
MAST205と他の蛋白質の結合を阻害する化合物としてさらにまた、MAST205またはMAST205と結合する蛋白質を特異的に認識するアプタマーであって、MAST205と該他の蛋白質の結合を阻害するアプタマーを例示できる。アプタマーは、核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーのいずれであってもよい。かかるアプタマーは、公知の方法(例えば、ハーマン(Hermann T.)ら、「サイエンス(Science)」、2000年、第287巻、第5454号、p.820−825;バーグスタラー(Burgstaller P.)ら、「カレント オピニオン イン ドラッグ ディスカバリー アンド ディベロプメント(Current Opinion in Drug Discovery and Development)」、2002年、第5巻、第5号、p.690−700;およびホップ−セイラー(Hoppe−Seyler F.)ら、2002年、「カレント モレキュラー メディシン(Current Molecular Medicine)」、2004年、第4巻、第5号、p.529−538)に記載された方法)を用いて取得することができる。
MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物は、MAST205が、基質蛋白質と結合し、該基質蛋白質のあるセリン残基および/またはスレオニン残基のヒドロキシル基にアデノシン三リン酸(ATP)のγ−リン酸基を転移させる反応を触媒することにより、該基質蛋白質をリン酸化する一連の反応において生じる様々な反応のうち少なくともいずれか1を阻害する化合物であり得る。例えば、MAST205のDCTN1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物は、MAST205が、DCTN1と結合し、DCTN1をリン酸化する一連の反応において生じる様々な反応のうち少なくともいずれか1を阻害する化合物であり得る。また、MAST205のTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物は、MAST205が、TIAM1と結合し、TIAM1をリン酸化する一連の反応において生じる様々な反応のうち少なくともいずれか1を阻害する化合物であり得る。
MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物として、MAST205に特異的に結合しそのセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する抗体またはそのフラグメントを例示できる。また、MAST205に特異的に結合しそのセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する活性を有するアプタマーを例示できる。抗体あるいはアプタマーは上述の方法で取得でき、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性に対するこれらの阻害活性を後述する化合物の同定方法に記載の方法で測定することにより、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する活性を有する抗体あるいはアプタマーを取得できる。
本発明においては、MAST205として配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質を用い、該蛋白質が、DCTN1およびTIAM1それぞれと結合すること、さらにDCTN1をリン酸化することを見出した(実施例1および2参照)。また、該蛋白質に対するsiRNAをトランスフェクションした細胞で、p38 MAPK、MKK6/MKK3、およびJNKのリン酸化が阻害されることを見出した(実施例3参照)。
さらに本発明において、MAST205が、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、およびp38 MAPKそれぞれと結合することを見出した(実施例6参照)。また、MAST205に対するsiRNAをトランスフェクションした細胞で、MKK4のリン酸化が阻害されることを見出した(実施例7参照)。
DCTN1は、10〜11個のサブユニット(それぞれ22〜150kDのサイズ)からなる巨大分子であるダイナクチンの最大サブユニットであり、1278アミノ酸残基からなる。本蛋白質は、ストレス刺激、例えばソルビトール刺激によるp38 MAPKのリン酸化にMKK3あるいはMKK6の活性化を介して関与している(チェウン(Cheung P.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2004年、第279巻、第44号、p.45308−45311)。
TIAM1は、1591アミノ酸残基からなる蛋白質であり、PDZドメインを有し、グアニン二リン酸−グアニン三リン酸(GDP−GTP)交換因子活性を示す。本蛋白質は、T細胞腫の浸潤、転移に関与することが知られている。その他、本蛋白質は神経細胞分化にも関与することが知られている。本蛋白質は急性骨髄性白血病を発症したダウン症の子供の骨髄で過剰発現している。本蛋白質はMKK3を介してp38 MAPKのリン酸化に関与している(バックスバウム(Buchsbaum R.J.)ら、「モレキュラー アンド セルラー バイオロジー(Molecuar and Cellular Biology)」、2002年、第22巻、第12号、p.4073−4085)。
DCTN1およびTIAM1は、p38 MAPKあるいはその上流のMKK6/MKK3を介した情報伝達経路への関与が示唆されている。
p38 MAPKおよびJNKは、MAPキナーゼ(以下、MAPKと略称することがある)ファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼである。
MAPキナーゼは細胞内情報伝達系において重要な役割を果たすプロテインキナーゼの一つであり、関連する一連のプロテインキナーゼとともに連鎖的に活性化することによって、細胞膜表面のシグナルを核内に伝達する働きをしている。MAPKが関与する細胞内情報伝達経路(以下、MAPキナーゼ経路と称することがある)には、キナーゼカスケードが存在し、該キナーゼカスケードにおいて、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(以下、MAPKKKまたはMAP3Kと略称することがある)によりMAPキナーゼキナーゼ(以下、MAPKKまたはMAP2Kと略称することがある)がリン酸化されて活性化され、次いでMAPKKによりMAPKがリン酸化されて活性化する。MAPキナーゼカスケードにおいて活性化されたMAPKは数々の転写因子をリン酸化し、その結果、該転写因子により様々な遺伝子の転写が開始される。このMAPキナーゼカスケードは、細胞増殖刺激やストレス刺激等の様々な刺激によって発生する様々な細胞内シグナル伝達系で働いている。
MAP3K、MAP2K、およびMAPKには多くのファミリー蛋白質が知られている。例えば、MAP3Kファミリー蛋白質として、MLK、MEKK(MAPK/ERK kinase kinase)、およびASK1(Apoptosis signal−regulating kinase 1)等の蛋白質が知られている。また、MAPKKファミリー蛋白質として、MKK3、MKK4、MKK6、およびMKK7等の蛋白質が知られている。MAPKファミリー蛋白質として、p38 MAPK(α/β/γ/δ)、JNK(JNK1、JNK2、およびJNK3等)、およびERK(Extracellular signal−regulated kinase:ERK2、ERK3等)等が知られている。
MLK3は、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ 11とも呼称され、MAP3Kファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼである。MLK3は、847アミノ酸残基からなる蛋白質であり、分子内にSH3ドメインやロイシンジッパーモチーフを有する。活性ループ内のセリン・スレオニン残基、特にアミノ酸配列中第277番目のスレオニン残基(Thr277)は自己リン酸化する。また、アミノ酸配列中第555番目および第556番目のセリン残基(Ser555およびSer556)のリン酸化はCDC42により誘導される。MLK3はMAPK8/JNK1を活性化し、JNKシグナル伝達経路の促進的調節因子として機能することや、MKK3を介してp38の活性化を促進することなどが知られている。またMLK3は、IκBキナーゼαとβを直接リン酸化することができ、RhoファミリーGTPアーゼやCDC42を介したNF−κBの活性への関与も示唆されている。
MKK3は、MAP2Kファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼであり、347アミノ酸残基からなる。MKK3はサイトカインや環境ストレスにより活性化され、p38 MAPKのスレオニンやチロシン残基をリン酸化することが知られている。
MKK4は、SEK1とも称され、MAP2Kファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼであり、399アミノ酸残基からなる。MKK4はサイトカインや環境ストレスにより活性化される。また、MAPキナーゼ経路においてJNK1/MAPK8、JNK2/MAPK9およびp38 MAPKを活性化するが、ERK2/MAPK1やERK3/MAPK3は活性化しないことが知られている。
MKK6は、MAP2Kファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼであり、334アミノ酸残基からなる。MKK6は、サイトカインや環境ストレスにより活性化され、p38 MAPKのスレオニンやチロシン残基をリン酸化することが知られている。また、MKK6は、ストレスにより誘発される細胞周期停止、転写の活性化およびアポトーシスに関与している。
MKK7は、MAP2Kファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼであり、419アミノ酸残基からなる。MKK7はサイトカインや環境ストレスにより活性化され、JNK1やJNK2を活性化することが知られている。また、MKK7は、MAP3K1/MEKK1、MAP3K2/MEKK2、MAP3K3/MEKK5等のMAPキナーゼキナーゼキナーゼやMAP4K2/GCKによりリン酸化され活性化する。
p38 MAPKは、MAPKファミリーに属するセリンスレオニンキナーゼであり、360アミノ酸残基からなる。p38 MAPKは、細胞内でのシグナル伝達経路で重要な働きをしており、環境ストレス、炎症性サイトカインおよびLPSにより活性化され、インターロイキン6(IL−6)等のサイトカイン産生や細胞増殖、分化、転写調節等に関与し、ストレス応答やアポトーシスといった様々な細胞の応答を制御している。p38 MAPKは、MAPKKKファミリーやMAPKKファミリーに属するキナーゼを介したキナーゼカスケードによって活性化される。p38 MAPKは、基質としてELK1やATF2のような多くの転写因子をリン酸化して転写を促進する。また、MAPキナーゼ経路において下流に位置するMAPKAPK2やMAPKAPK5のようなキナーゼのリン酸化を介してシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)やサイトカインのmRNAを安定化させてプロスタグランジン産生やサイトカインを介した炎症反応を誘導したり、サイクリンD1をリン酸化して分解を促進し、細胞周期を停止させる等、転写因子以外の経路を制御する例も報告されている。
p38 MAPKは、癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答に関与していることが知られている(ラフェリエール(Laferriere J.)ら、「アナルズ オブ ザ ニューヨーク アカデミー オブ サイエンシズ(Annals of the New York Academy of Sciences)」、2002年、第973巻、p.562−572;ドン(Dong C.)ら、「アニュアル レビュー オブ イムノロジー(Annual Review of Immunology)」、2002年、第20巻、p.55−72)。また、p38 MAPKが、血管内皮増殖因子(以下、VEGFと略称する)により誘導される内皮細胞の遊走や増殖並びに血管新生において重要な役割を果たしていることが報告されている(ルソー(Rousseau S.)ら、「トレンズ イン カルディオバスキュラー メディシン(Trends in Cardiovascular Medicine)」、2000年、第10巻、第8号、p.321−327)。
JNKは、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与することが知られており、MKK7/MKK4によりリン酸化されることによりその機能が調節されている(ドン(Dong C.)ら、「アニュアル レビュー オブ イムノロジー(Annual Review of Immunology)」、2002年、第20巻、p.55−72)。
MAST205が結合する蛋白質のうちDCTN1およびTIAM1は、MAST205の基質蛋白質であり、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性によりリン酸化される。PTENについても、MAST205によりリン酸化されると報告されている。DCTN1およびTIAM1は、p38 MAPKあるいはその上流のMKK6/MKK3を介した情報伝達経路への関与が示唆されている。
これらから、MAST205は、直接的および/または間接的にDCTN1および/またはTIAM1と結合してリン酸化し、その結果、p38 MAPKあるいはその上流のMKK6/MKK3を介した情報伝達経路に促進的に作用すると考えることができる。
p38 MAPKが癌の転移、血管新生、および免疫炎症応答に関与していることから、MAST205はDCTN1および/またはTIAM1と結合することによりMKK6/MKK3を介してp38 MAPKをリン酸化し、その結果、癌の転移および免疫炎症応答に促進的に関与していると発明者らは考えている。また、p38 MAPKがVEGFにより誘導される内皮細胞の遊走や増殖並びに血管新生に重要な役割を果たすことから、MAST205はDCTN1および/またはTIAM1と結合することによりMKK6/MKK3を介したp38 MAPKをリン酸化し、その結果、内皮細胞の遊走や増殖並びに血管新生を促進すると考えることができる。
またMAST205は、JNKのリン酸化にも関与し、その結果、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与すると発明者らは考えている。MAST205がDCTN1および/またはTIAM1と結合したこと、MAST205の発現阻害によりJNKのリン酸化が阻害されたこと、並びにJNKの機能はMKK7/MKK4によるリン酸化により調節されていること(ドン(Dong C.)ら、「アニュアル レビュー オブ イムノロジー(Annual Review of Immunology)」、2002年、第20巻、p.55−72)から、MAST205は、DCTN1および/またはTIAM1との結合によりMKK7/MKK4を介してJNKのリン酸化に関与していると発明者らは考えている。
MAST205が結合する蛋白質のうちMLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7およびp38 MAPKはMAPキナーゼカスケードを構成する蛋白質である。また、MAST205の発現阻害により、ストレス刺激によるMKK3、MKK4、MKK6、p38MAPK、およびJNKのリン酸化が阻害された(実施例3および7参照)。したがって、MAST205はこれら蛋白質と結合することにより、該蛋白質のリン酸化に関与し、ひいては該蛋白質が関与する情報伝達を促進すると考えることができる。
MAPキナーゼ経路の機構として、足場蛋白質(scaffold protein)によるMAPK、MAP2K、MAP3Kの集積が示唆されている(モリソン(Morrison D.K.)ら、「アニュアル レビュー オブ セル アンド ディベロプメンタル バイオロジー(Annual Review of Cell and Developmental Biology)」、2003年、第19巻、p.91−118;ホイットマーシュ(Whitmarsh A.J.)ら、「トレンズ イン バイオケミカル サイエンシズ(Trends in Biochemical Sciences)」、1998年、第23巻、p.481−485)。
「足場蛋白質」とは、特定の同一の情報伝達経路に寄与する複数の特定分子を結合して会合させる機能を有する蛋白質を意味する。より詳しくは、足場蛋白質は情報伝達経路に寄与する複数の特定分子と結合することにより複合体を形成し、該分子間の選択的な反応を促進する機能を有する蛋白質を意味する。足場蛋白質との複合体形成により、情報伝達経路に寄与する特定の分子間の反応が促進されるため、該情報伝達経路が関与する特定の情報伝達が促進される。
MAPキナーゼ経路において、足場蛋白質にMAPK、MAP2KおよびMAP3Kが集積することにより、MAP3KによるMAP2Kのリン酸化および活性化、リン酸化MAP2KによるMAPKのリン酸化および活性化が促進され、その結果、MAPキナーゼが関与する情報伝達が促進される。MAPキナーゼ経路に関与する足場蛋白質として、いくつかの蛋白質が報告されている(モリソン(Morrison D.K.)ら、「アニュアル レビュー オブ セル アンド ディベロプメンタル バイオロジー(Annual Review of Cell and Developmental Biology)」、2003年、第19巻、p.91−118)。足場蛋白質の種類により結合する蛋白質が異なることから、足場蛋白質の種類とMAPK、MAP2KおよびMAP3Kそれぞれのファミリーに属する蛋白質の種類との間に、組み合わせが存在すると考えられる。MAPキナーゼ経路は、MAPK、MAP2KおよびMAP3Kそれぞれのファミリーに属する蛋白質や足場蛋白質の多様性、およびそれらの組み合わせにより、細胞増殖刺激やストレス刺激等の様々な刺激によって発生する様々な細胞内シグナル伝達を担っていると考えられる。
一方、MKK3、MKK4およびMKK6により、p38 MAPKが活性化されること、およびMKK4およびMKK7によりJNKが活性化することが報告されている(モリソン(Morrison D.K.)ら、「アニュアル レビュー オブ セル アンド ディベロプメンタル バイオロジー(Annual Review of Cell and Developmental Biology)」、2003年、第19巻、p.91−118)。
また、MLK3がMKK4をリン酸化すること(デイビス(Davis R.J.)、「セル(Cell)」、2000年、第103巻、p.239−252;ティブルス(Tibbles L.A.)ら、「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」、1996年、第15巻、第24巻p.7026−7035)、およびMLK3がMKK7をリン酸化すること(メリット(Merritt S.E.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1999年、第274巻、第15号、p.10195−10202)が報告されている。
さらに、MLK3とMKK3の共発現がMKK3のリン酸化を誘導すること、およびMLK3とMKK6が共沈降することが実証され、それにより、哺乳動物や酵母におけるMAPキナーゼ経路の機構の一部として、MLK3によるMKK3/MKK6の活性化とそれに続くp38 MAPKの活性化(MLK3→MKK3/MKK6→p38 MAPK)という機構が提唱されている(ティブルス(Tibbles L.A.)ら、「ザ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)」、1996年、第15巻、第24巻p.7026−7035)。
本発明における実証データおよび上記知見から本発明者らは、p38 MAPKが関与する情報伝達経路にはMLK3によるMKK3/MKK4/MKK6の活性化とそれに続くp38 MAPKの活性化(MLK3→MKK3/MKK4/MKK6→p38 MAPK)という機構が存在し、MAST205は本機構に足場蛋白質として作用していると考えている。すなわち、MAST205は、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、およびp38 MAPKと結合することにより複合体を形成して蛋白質間相互作用を促進し、その結果、p38 MAPKが関与する情報伝達経路を促進すると考えることができる。
さらに本発明者らは、JNKが関与する情報伝達経路にはMLK3によるMKK4/MKK7の活性化とそれに続くJNKの活性化(MLK3→MKK4/MKK7→JNK)という機構が存在し、MAST205は本機構に足場蛋白質として作用していると考えている。すなわち、MAST205は、MLK3、MKK4、MKK7、およびJNKと結合することにより複合体を形成して蛋白質間相互作用を促進し、その結果、JNKが関与する情報伝達経路を促進すると考えることができる。
MAST205はMLK3、MKK3、MKK4、MKK6、およびp38 MAPKと結合して足場を提供することによりp38 MAPKが関与する情報伝達経路を促進し、その結果、p38 MAPKが関与する細胞や生体の機能や応答、例えば癌の転移および免疫炎症応答、並びにVEGFにより誘導される内皮細胞の遊走や増殖並びに血管新生(フワン(Huang C.)ら、「ジャーナル オブ セル サイエンス(Journal of Cell Science)」、2004年、第117巻、p.4619−4628)に促進的に関与すると発明者らは考えている。
JNKはMKK7/MKK4によりリン酸化されることによりその機能が調節されていることが知られており、さらに、JNK活性化は、細胞や生体の機能や応答、例えば癌の転移、血管新生との関連が示唆されている。具体的には、JNKの作用を阻害し得る化合物が、血管新生抑制を誘導することが報告されている。
このことから、MAST205はMLK3、MKK4、およびMKK7と結合して足場を提供することにより、MLK3によるMKK4/MKK7のリン酸化および活性化を促進し、さらにはJNKが関与する情報伝達経路を促進し、その結果、JNKが関与する細胞や生体の機能や応答、例えば癌の転移および免疫応答、内皮細胞の遊走や増殖、並びに血管新生に促進的に関与すると発明者らは考えている。
MAST205が、このように、細胞の遊走および浸潤、血管新生、癌の転移、細胞増殖や細胞死、並びに免疫炎症応答に関与すると考えられることから、MAST205の発現および/または機能を阻害することにより、細胞の遊走および/または浸潤を阻害でき、その結果、癌の転移、細胞増殖や細胞死、血管新生および免疫炎症応答を抑制できると発明者らは考えている。例えば、MAST205の発現、MAST205と他の蛋白質、例えば基質蛋白質との結合、およびMAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害することにより、細胞の遊走および/または浸潤を阻害でき、その結果、癌の転移、細胞増殖や細胞死、血管新生および免疫炎症応答を抑制できると考えることができる。より具体的には、MAST205の発現、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、並びにMAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害することにより、細胞の遊走および/または浸潤を阻害でき、その結果、癌の転移、細胞増殖や細胞死、血管新生および免疫炎症応答を抑制できると考えることができる。
実際、本発明において、MAST205の発現を阻害することにより、細胞の遊走および浸潤が顕著に抑制されることを見出した(実施例4および5参照)。
「細胞の遊走」とは、細胞がその運動能により元の位置から別の位置へと動くことを意味する。一般的に細胞の遊走は、遊走因子に対し濃度依存的な方向性を示す。細胞の方向性を持った遊走は、炎症性細胞の炎症部位への移動、癌細胞の浸潤および転移、血管新生のみならず、個体発生や器官の形成にも必須で重要な生理現象である。
「細胞の遊走阻害」とは、細胞の元の位置から別の位置への移動を低減すること、または移動させないことを意味する。具体的には、移動する細胞の数および/または細胞の移動距離を低減させることを意味する。
「細胞の浸潤」とは、細胞が細胞外マトリックス(ECM)を破壊し、ECMが形成するバリアーを通過して、ECM自体や周囲の組織に侵入することを意味する。例えば、癌細胞の浸潤とは、癌細胞が基底膜を破壊し、上皮下組織や周囲の他臓器に侵入することを意味する。「細胞外マトリックス(ECM)」とは、動物組織中の細胞の外側に存在する安定な生体構造物である。ECMは細胞により合成され、細胞外に分泌・蓄積された生体高分子の複雑な会合体であり、細胞膜成分は含まない。その主要な構成成分は、繊維状蛋白質(コラーゲン、エラスチン、フィブリリン等)、ムコ多糖類(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン等)、および糖蛋白質(フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン等)である。ECMは、細胞接着、細胞移動、細胞の分化・増殖、細胞骨格の配向、細胞形態形成、および細胞代謝等に重要な役割を果たしている。
「癌の転移」とは、癌が原発巣から分離して、別の組織や臓器に移行し、そこで増殖することを意味する。
「癌の転移抑制」とは、癌の原発巣からの分離、別の組織や臓器への移行、移行先における増殖を低減させることを意味する。
「細胞増殖」とは、***により細胞の数が増すことを意味し、炎症性刺激に対する反応としての細胞増殖並びに腫瘍性増殖等を含む。
「細胞死」とは、in vivoおよびin vitroにおける細胞の死を意味する。
「血管新生」とは、新たな血管の形成を意味する。癌、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチのような疾患には過剰に血管が形成されるという特徴がある。癌においては、癌細胞が産生する血管新生誘導物質により活性化された血管内皮細胞が誘導物質に向かって遊走し、かつ組織内に浸潤して増殖し、新たな血管を形成する。新生血管は癌細胞の増殖を促進し、さらに新しい転移巣の形成に関与する。
「血管新生の抑制」とは、新たな血管の形成を低減させることを意味する。
「免疫炎症応答」とは、生体組織の傷害において、生体組織に対して何らかの有害な刺激を起こす物質(起炎物質)が作用したときに生体が示す局所の反応を意味する。組織傷害の原因として、細菌感染、外傷、熱・放射線・電気等の物理的刺激、および化学物質を例示できる。炎症部位では血管内皮細胞表面の接着分子の発現、血管内皮へのリンパ球・好中球・単球の接着と血管外への遊走、血管透過性の亢進が認められる。炎症のメディエーターとして、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン、ロイコトリエンや、各種サイトカイン等の生理活性物質が関与している。免疫炎症応答に関与するサイトカインとして、単球やマクロファージ等から産生されるインターロイキン1(以下、IL−1と略称する)、細胞性免疫に関与するヘルパーT1細胞の分化や活性化に関与するIL−12・インターフェロンγ・腫瘍壊死因子α(TNF−α)、また、液性免疫に関与するヘルパーT2細胞の分化や活性化に関与するIL−4・IL−5・IL−10を例示できる。
細胞の遊走および浸潤の検出は、例えば、市販の細胞遊走測定システムまたは細胞浸潤測定システムを用いて実施できる。
細胞遊走測定システムとして、具体的には、セルカルチャーインサートとコンパニオンプレートから構成される細胞遊走測定チャンバー(BD Falcon社製)を例示できる。セルカルチャーインサートは、細孔を有するPETメンブレン(polyethylene phthalate membrane)をその底に保持する。セルカルチャーインサートはコンパニオンプレートの上部にセットして用いる。セルカルチャーインサートに添加された遊走性細胞は、PETメンブレンに存在する細孔を通過してメンブレンの裏面(コンパニオンプレート側)に移動する。しかし、非遊走性細胞は、PETメンブレンの表面(セルカルチャーインサート側)に残る。したがって、メンブレンの裏面に存在する細胞を測定することにより、細胞遊走を検出できる。移動した細胞および移動しない細胞の定量は、簡便には、それぞれの細胞を計数することにより実施できる。細胞の計数は、細胞を回収して、その数を実際に計数することにより実施できる。または、上記のようなシステムを用いたときには、移動しない細胞を除去した後に、メンブレンの裏面の細胞を適当な細胞染色剤で染色し、数箇所の領域の顕微鏡写真を撮影して細胞数を算定することができる。また、予め細胞を蛍光標識して用い、移動した細胞のみを回収してその蛍光を測定することにより細胞の定量を実施できる。細胞染色剤として蛍光色素を用いる場合、また、予め細胞を蛍光標識して用いる場合は、セルカルチャーインサートとして、フルオロブロック セルカルチャーインサート(Fluoroblock cell culture insert,BD Falcon社製)を用いることにより、より簡便にメンブレンの裏面に移動した細胞の定量を実施できる。
細胞浸潤測定システムとして、具体的には、上記セルカルチャーインサートにECMを塗布したものとコンパニオンプレートから構成される細胞浸潤測定チャンバーを例示できる。ECMとして、マトリゲル(GROWTH FACTOR REDUCED BD MATRIGEL MATRIX、BD Biosciences社製)を例示できる。また、細胞浸潤測定システムとして、BD Falcon社製のバイオコートTMマトリゲルTM(BioCoatTMmatrigelTM) インベージョンチャンバーを例示できる。バイオコートTMマトリゲルTM インベージョンチャンバーは細胞の浸潤特性試験用インビトロシステムであり、再構成したECMが予め塗布された細孔を有するPETメンブレンを保持するセルカルチャーインサートとコンパニオンプレートから構成されている。ECMが塗布されたセルカルチャーインサートはコンパニオンプレートの上部にセットして用いる。該セルカルチャーインサートに添加された浸潤性細胞は、ECMが塗布されたPETメンブレンに存在する細孔を通過してメンブレンの裏面(コンパニオンプレート側)に移動する。しかし、非浸潤性細胞はECMが形成するバリアーを通過できないため、メンブレンの表面(セルカルチャーインサート側)に残る。したがって、メンブレンの裏面に存在する細胞を測定することにより、細胞浸潤を検出できる。移動した細胞および移動しない細胞の定量は、上記した方法と同じ方法により実施できる。
本発明に係る細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤により遊走が阻害される細胞として、MAST205の発現が亢進しており、MAST205による遊走や浸潤が認められる細胞を挙げることができる。具体的には、癌細胞や内皮細胞を例示できる。
MAST205の発現は、ほとんどすべての正常組織において普遍的に認められるという報告がある(非特許文献2)。一方、***に、それも発達分化中の***において最も発現が高いという報告(非特許文献3)や、心臓において高い発現が認められるという報告(非特許文献2)がある。
MAST205の発現は、癌組織において正常組織と比較して亢進が認められる。例えば、肺平滑筋肉腫(lung leiomyosarcoma)や小細胞肺癌(lung small cell carcinoma)、脳髄芽腫(medulloblastoma)、および骨肉腫(osteosarcoma)等の癌組織において、MAST205の発現亢進が認められる。これらの腫瘍はいずれも転移能が高いことが知られている。これらの腫瘍ではMAST205の発現が亢進しているため、腫瘍細胞の遊走や浸潤が促進され、その結果、転移能が高くなると考えられる。
本発明に係る細胞の遊走阻害剤および血管新生抑制剤は、MAST205の発現および/または機能を阻害する化合物を有効成分として含む。例えば、MAST205の発現、MAST205と他の蛋白質、例えば基質蛋白質との結合、およびMAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害する化合物を有効成分として含む。より具体的には、MAST205の発現、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、並びにMAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性のうちの少なくとも1を阻害する化合物を有効成分として含む。
MAST205の発現および/または機能を阻害する化合物を有効成分として、具体的には、MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを例示できる。MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドは、MAST205の発現を阻害することにより、MAST205の発現量を減少させるまたは消失させることができるため、MAST205と他の蛋白質、例えば基質蛋白質との結合を低減または消失させることができ、その結果、MAST205の該蛋白質への作用、例えばセリンスレオニンキナーゼ活性を低減または消失させることができる。
MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドとして、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを好ましく例示できる。配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドとして、具体的には、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが例示できる。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドは上記例示したものに制限されず、MAST205の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るものであればいずれを用いることもできる。
本発明に係る細胞の遊走阻害剤は、細胞の遊走阻害方法の実施に用いることができる。
細胞の遊走および浸潤は癌の転移能の指標であることから、細胞の遊走および浸潤を阻害することにより、癌の転移を抑制することができると考えることができる。したがって、本発明に係る細胞の遊走阻害剤および遊走阻害方法を用いることにより、癌の転移抑制方法を実施できる。また、本発明に係る細胞の遊走阻害剤を含む癌の転移抑制剤を提供することができる。
本発明に係る血管新生阻害剤は、血管新生の阻害方法の実施に用いることができる。
本発明に係る細胞の遊走阻害剤、癌の転移抑制剤、および血管新生の抑制剤は、医薬組成物として調製することができる。この場合、通常、有効成分に加えて1種または2種以上の医薬用担体を含む医薬組成物として製造することが好ましい。
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて使用される。
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜使用することもできる。
安定化剤は、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤等と組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。
キレート剤は、エデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
医薬および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
本発明の医薬組成物を投与するときは、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは目的の疾患の防止および/または治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。例えば、他の抗腫瘍用医薬や抗炎症用医薬の有効成分等を配合してもよい。
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。癌疾患に用いる場合は、腫瘍に注射等により直接投与することができる。
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものは、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
(化合物の同定方法)
本発明の一態様は、細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法、およびMAST205の機能を阻害する化合物の同定方法に関する。
本発明においては、細胞の遊走および/または浸潤の阻害を、MAST205の発現および/または機能を阻害することにより達成できることを見出した(実施例4および5参照)。例えば、MAST205の発現および/または機能を阻害する化合物を用いることにより、細胞の遊走および/または浸潤の阻害を達成できる。すなわち、MAST205の発現および/または機能を阻害する化合物は、細胞の遊走および/または浸潤を抑制する活性を有する化合物であるということができる。したがって、細胞の遊走および/または浸潤を抑制する活性を有する化合物を、MAST205の発現および/または機能を阻害する活性を指標にして同定することができる。
MAST205の機能として、上述したように、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性、およびMAST205と他の蛋白質、例えば基質蛋白質との結合を例示できる。より具体的には、MAST205の機能として、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、MAST205のDCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性を例示できる。MAST205のDCTN1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性によりDCTN1がリン酸化され、MAST205のTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性により、TIAM1がリン酸化される。ただし、MAST205の機能であるセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1およびTIAM1に対するリン酸化活性に留まらないことはいうまでもない。例えば、当該同定方法を実施する場合、セリンスレオニンキナーゼの一般的な基質として当業者に知られている適当な基質を用いたり、市販のキットを使用したりして実施することができる。
この知見に基づき、本発明において、細胞の遊走および/または浸潤を阻害する活性を有する化合物の同定方法、並びにMAST205の発現および/または機能を阻害する化合物の同定方法を提供できる。より具体的には、細胞の遊走を阻害する活性を有する化合物の同定方法、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMLK3の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK3の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK4の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK6の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK7の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とp38 MAPKの結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法を阻害する化合物の同定方法、またはMAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法を提供できる。
細胞の遊走および/または浸潤を抑制する活性を有する化合物は、MAST205の発現および/または機能を阻害する活性を指標にして同定することができることから、該化合物の同定方法は、MAST205の発現および/または機能を阻害する化合物の同定方法により実施することができる。
細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法は、例えば、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMLK3の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK3の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK4の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK6の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とMKK7の結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205とp38 MAPKの結合を阻害する化合物の同定方法、MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法を阻害する化合物の同定方法、またはMAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法により実施することができる。
細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法は、具体的には次に示す実験系を用いて実施できる:DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7およびp38 MAPKからなる群より選択された1つ以上の蛋白質とMAST205とを共存させて、MAST205と該蛋白質を結合させる実験系を用いて実施できる。このような実験系において、ある化合物(以下、被検化合物と称する)と該蛋白質および/またはMAST205を接触させ、MAST205と該蛋白質との結合を検出することができるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がMAST205と該蛋白質との結合を阻害するか否かを決定することにより、細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物を同定できる。
被検化合物はDCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7およびp38 MAPKからなる群より選択された1つ以上の蛋白質とMAST205との結合反応に共存させることもできるし、被検化合物を予め該蛋白質および/またはMAST205と接触させ、その後にMAST205と該蛋白質の結合反応を行うこともできる。MAST205と該蛋白質の結合により生じるシグナルまたは結合のマーカーが、被検化合物をMAST205と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はMAST205と該蛋白質との結合を阻害し、その結果、細胞の遊走を抑制すると判定できる。
細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法はまた、MAST205とDCTN1および/またはTIAM1とを共存させて、MAST205によりDCTN1および/またはTIAM1をリン酸化させる実験系を用いて実施できる。このような実験系において、被検化合物とMAST205を接触させ、MAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化を検出することができるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がMAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化を阻害するか否かを決定することにより、MAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化を阻害し、その結果、細胞の遊走を抑制する化合物を同定できる。
被検化合物はMAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めMAST205と接触させ、その後にMAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化反応を行うこともできる。MAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化により生じるシグナルまたはリン酸化のマーカーが、被検化合物をMAST205と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はMAST205によるDCTN1および/またはTIAM1のリン酸化を阻害し、その結果、細胞の遊走を抑制すると判定できる。
MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法は、MAST205とDCTN1とを共存させて、MAST205とDCTN1を結合させる実験系を用いて実施できる。このような実験系において、被検化合物とMAST205および/またはDCTN1とを接触させ、MAST205とDCTN1の結合を検出することができるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がMAST205とDCTN1の結合を阻害するか否かを決定することにより、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物を同定できる。
被検化合物はMAST205とDCTN1の結合反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めMAST205および/またはDCTN1と接触させ、その後にMAST205とDCTN1の結合反応を行うこともできる。MAST205とDCTN1の結合により生じるシグナルまたは結合のマーカーが、被検化合物をMAST205および/またはDCTN1と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はMAST205とDCTN1の結合を阻害すると判定できる。
このような実験系は、in vivoおよびin vitroのいずれの条件においても実施できる。
in vitroの実験系は、蛋白質の結合阻害剤のスクリーニングにおいて一般的に用いられている同定方法を参考にして実施できる。in vitroの実験系として、MAST205とDCTN1とをin vitroで反応させて、ウエスタンブロッティングやプルダウン法により両蛋白質の結合を検出する実験系を例示できる。
in vivoの実験系として、MAST205とDCTN1とを共に発現している真核細胞または培養細胞株を用いた実験系が好ましく例示できる。また、MAST205やDCTN1を発現させた真核細胞または培養細胞株を用いることができる。細胞におけるこれら蛋白質の発現は、MAST205をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターおよび/またはDCTN1をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。
MAST205とDCTN1の結合の検出は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えば免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法、ウェスタンブロッティングおよび蛍光共鳴エネルギー転移法等の方法またはこれらの方法を組合わせて、MAST205とDCTN1により形成される複合体を検出することにより実施できる。MAST205とDCTN1により形成される複合体の検出を容易にするために、MAST205および/またはDCTN1は、適当な標識物質により標識されたものを用いることが好ましい。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
具体的には、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法は、例えば、Myc−tagが付加されたMAST205をコードする遺伝子を含む適当なベクターおよびFLAG−tagが付加されたDCTN1をコードする遺伝子を含む適当なベクターをトランスフェクションした細胞(実施例1参照)を用いて実施できる。該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれるMAST205とDCTN1により形成された複合体を検出する。細胞溶解物中に含まれる該複合体の測定は、一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いた免疫沈降の後に、もう一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことにより実施できる。被検化合物で処理したときに検出されるMAST205とDCTN1により形成された複合体の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される複合体の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物はMAST205とDCTN1の結合を阻害すると判定できる。
MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物の同定方法はまた、公知のツーハイブリッド(two−hybrid)法を用いて実施できる。例えば、MAST205とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、DCTN1と転写活性化蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、および適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母や真核細胞等の細胞に導入し、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物はMAST205とDCTN1の結合を阻害すると判定できる。
上記同定方法により同定される化合物は、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物である。
上記同定方法において、DCTN1の代わりにTIAM1を用いることにより、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにMLK3を用いることにより、MAST205とMLK3の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とMLK3の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにMKK3を用いることにより、MAST205とMKK3の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とMKK3の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにMKK4を用いることにより、MAST205とMKK4の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とMKK4の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにMKK6を用いることにより、MAST205とMKK6の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とMKK6の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにMKK7を用いることにより、MAST205とMKK7の結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とMKK7の結合を阻害する化合物である。DCTN1の代わりにp38 MAPKを用いることにより、MAST205とp38 MAPKの結合を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とp38 MAPKの結合を阻害する化合物である。
MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法は、MAST205とDCTN1とを共存させて、MAST205によりDCTN1をリン酸化させる実験系を用いて実施できる。このような実験系において、被検化合物とMAST205および/またはDCTN1とを接触させ、MAST205によるDCTN1のリン酸化を検出することができるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がMAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害するか否かを決定することにより、MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物を同定できる。
被検化合物はMAST205によるDCTN1のリン酸化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めMAST205および/またはDCTN1と接触させ、その後にMAST205によるDCTN1のリン酸化反応を行うこともできる。MAST205によるDCTN1のリン酸化により生じるシグナルまたはリン酸化のマーカーが、被検化合物をMAST205および/またはDCTN1と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はMAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害すると判定できる。
このような実験系は、in vivoおよびin vitroのいずれの条件においても実施できる。好ましくはin vitroの実験系を用いることが適当である。
リン酸化された蛋白質の検出は、例えば、リン酸化された蛋白質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングにより実施できる。また、リン酸化された蛋白質の検出は、リン酸化反応に放射性同位体標識したATP、例えば[γ−32P]ATPを用いて、リン酸化された蛋白質に転移された[γ−32P]の放射活性を測定することにより実施できる(実施例2を参照)。あるいは、ペプチドアレイを用いた表面プラズモン共鳴イメージング法により蛋白質のリン酸化を検出できる。
上記同定方法により同定される化合物は、MAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害する化合物である。このような化合物には、MAST205とDCTN1の結合を阻害する化合物や、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物が含まれる。
上記同定方法において、DCTN1の代わりにTIAM1を用いることにより、MAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。該同定方法により同定される化合物は、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物である。このような化合物には、MAST205とTIAM1の結合を阻害する化合物や、MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性を阻害する化合物が含まれる。
本発明においてはまた、MAST205の発現を阻害する化合物の同定方法を実施することができる。MAST205の発現を阻害する化合物の同定方法は、MAST205の発現を測定できる実験系を用いて実施できる。このような実験系において、MAST205をコードする遺伝子と被検化合物とを共存させてその発現を測定し、ついで、被検化合物の非存在下での測定結果との比較における発現の変化(低減または消失)を検出することにより、MAST205の発現を阻害する化合物を同定できる。
MAST205の発現を測定できる実験系として、具体的には、MAST205をコードする遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションした細胞を用いてMAST205を発現させる実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれるMAST205を検出する。細胞を被検化合物で処理したときに検出されるMAST205の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出されるMAST205の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物はMAST205の発現を阻害すると判定できる。
MAST205の発現の測定は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えばウェスタンブロッティング等の方法により、MAST205を直接的に検出することにより実施できる。また、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより、MAST205の測定を容易に実施できる。発現の指標となるシグナルとして、例えば、標識物質を例示できる。標識物質でMAST205を標識し、該標識物質を測定することにより、MAST205の測定を容易に実施できる。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
MAST205の発現を測定できる実験系としてまた、MAST205をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞等を用いた実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物はMAST205の発現を阻害すると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素をコードする遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
被検化合物は、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはMAST205、DCTN1およびTIAM1の一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を挙げることができる。あるいは、MAST205とDCTN1の結合部位またはMAT205とTIAM1の結合部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等も被検化合物として好適である。
本発明に係る細胞遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法は、上記同定方法によりMAST205の発現および/または機能を阻害することが明らかになった被検化合物が、細胞遊走を抑制し得るか否かを測定する工程をさらに含む同定方法であり得る。
細胞遊走の抑制を測定できる実験系として、例えば上記細胞遊走測定システムまたは上記細胞浸潤測定システムを使用できる。このようなシステムを用いて、細胞の遊走または浸潤を被検化合物で処理した細胞と被検化合物で処理していない細胞の間で比較検討し、前者の遊走または浸潤が、後者のものと比較して抑制された場合には、被検化合物は細胞遊走を抑制する活性を有すると判定できる。
(試薬キット)
本発明の一態様は、試薬キットに関する。本試薬キットは、次の成分を有してなる試薬キットであり得る:(A)MAST205、MAST205をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分;および(B)DCTN1、DCTN1をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分、または、TIAM1、TIAM1をコードするポリヌクレオチド、TIAM1をコードするポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、およびTIAM1をコードするポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分。
また、本試薬キットは、次の成分を有してなる試薬キットであり得る:(A)MAST205、MAST205をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分;および(B)MLK3、MKK3、MKK4、MKK6およびp38 MAPKから選ばれるいずれか1の蛋白質、該蛋白質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドをコードする組み換えベクター、該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分。
また、本試薬キットは、次の成分を有してなる試薬キットであり得る:(A)MAST205、MAST205をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分;および(B)MLK3、MKK4、MKK7およびJNKから選ばれるいずれか1の蛋白質、該蛋白質をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドをコードする組み換えベクター、該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれる1つ以上の成分。
本発明に係る試薬キットは、上記同定方法において用いるシグナルおよび/またはマーカー、緩衝液、並びに塩等、必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
本発明に係る試薬キットは、例えば本発明に係る化合物の同定方法に使用できる。
(MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKの取得)
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKはヒト由来の蛋白質であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、ラットまたはウサギ等に由来する蛋白質であることができる。また、MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子は、ヒト由来の遺伝子であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有しかつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質をコードする遺伝子であれば、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、ラットまたはウサギ等に由来する遺伝子であることができる。MAST205の性質や機能として、例えば、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、およびp38 MAPKそれぞれとの結合や、DCTN1およびTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性を挙げることができる。DCTN1の性質や機能として、例えば、ストレス刺激、例えばソルビトール刺激によるp38 MAPKのリン酸化へのMKK3あるいはMKK6の活性化を介した関与を挙げることができる。TIAM1の性質や機能として、例えば、GDP−GTP交換因子活性や、MKK3を介したp38 MAPKのリン酸化を挙げることができる。MLK3の性質や機能として、例えば、IκBキナーゼαとβの直接的なリン酸化とそれによる活性化を挙げることができる。MKK3の性質や機能として、例えば、p38 MAPKのスレオニンやチロシン残基のリン酸化を挙げることができる。MKK4の性質や機能として、例えば、JNK1/MAPK8やJNK2/MAPK9およびp38 MAPKの活性化が挙げられる。MKK6の性質や機能として、例えば、p38 MAPKのスレオニンやチロシン残基のリン酸化を挙げることができる。MKK7の性質や機能として、例えば、JNK1やJNK2の活性化を挙げることができる。p38 MAPKの性質や機能として、例えば、ELK1やATF2のような転写因子のリン酸化を挙げることができる。JNKの性質や機能として、例えば、c−Junのリン酸化を挙げることができる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKは、これらを遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKのうち少なくとも1を遺伝子工学的手法で発現させた細胞を使用することもできる。MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKは、その性質や機能に影響がない限りにおいて、N末端側やC末端側に別種の蛋白質やポリペプチドを、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に、遺伝子工学的手法等を用いて付加してもよい。別種の蛋白質やポリペプチドとして、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類を例示できる。
遺伝子工学的手法として、公知の方法がいずれも使用できる。公知の方法として、成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス等を参照)を例示できる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子は、例えば、各遺伝子の発現が認められる適当な起源から、自体公知のクローニング方法等を用いて容易に取得できる。これら遺伝子の起源として、該遺伝子の発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞を例示できる。MAST205遺伝子は様々な組織で普遍的に発現しているが、高発現が認められる組織として、例えば、ヒトの癌組織、具体的には肺平滑筋肉腫や小細胞肺癌、脳髄芽腫、および骨肉腫を挙げることができる。DCTN1遺伝子の起源として、脳組織を例示できる。TIAM1遺伝子の起源として、小脳組織、ヒト白血病細胞を例示できる。MLK3遺伝子、MKK3遺伝子、MKK4遺伝子、MKK6遺伝子、MKK7遺伝子、p38 MAPK遺伝子、およびJNK遺伝子は、様々な組織や細胞で普遍的に発現している。MLK3遺伝子が発現している組織として脾臓、リンパ節が例示できる。MKK3遺伝子が発現している組織として、脾臓、前立腺、卵巣、小腸、白血球、骨格筋等が例示できる。MKK4遺伝子が発現している組織として脳組織が例示できる。MKK6遺伝子が発現している組織として骨格筋、心臓、肝臓、膵臓が例示できる。MKK7遺伝子が発現している組織として骨格筋、心臓、脳、精巣が例示できる。p38 MAPK遺伝子が発現している組織として骨格筋、骨髄、リンパ節が例示できる。JNK遺伝子が発現している組織として心臓、骨格筋、脳が例示できる。
起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。また、市販されているcDNAライブラリーを用いることもできる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を使用できる。例えば、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法を挙げることができる。ここで用いるプローブとして、MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子の塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できる。また、該遺伝子の塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをこのようなプローブとして使用できる。cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能を指標にして実施できる。
遺伝子の取得にはその他、PCR(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354))によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−)、特に5´−RACE法(フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、DNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。例えばゲル電気泳動法等によりDNA/RNA断片の単離精製を実施できる。
遺伝子は、その機能、例えばコードする蛋白質の発現や、発現された蛋白質の機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子が、1つまたは2つ以上付加されたDNAであることができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施できる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子を含む組み換えベクターを構築し、該組み換えベクターを用いて適当な宿主細胞で該遺伝子を発現させることにより、これら遺伝子のうち少なくとも1を発現する細胞を取得できる。また、該細胞から、公知の方法でMAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKを調製することができる。
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なものとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAを例示できる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクター等、いずれを用いることもできる。
ベクターDNAには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー等から選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとして、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子を例示できる。
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組み換えベクターが得られる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子を含む組み換えベクターを宿主に導入することにより、形質転換体が得られる。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、これら遺伝子のうち少なくとも1を発現する細胞を取得でき、さらに該細胞用いて公知の方法によりMAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKを製造できる。該形質転換体には、MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKをそれぞれコードする遺伝子以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。
宿主として、原核生物および真核生物のいずれも使用できる。原核生物として、例えば大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。真核生物として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトHEK293T細胞等の動物細胞を例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用でき、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を挙げることができるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的な方法として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染を例示できる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKは、これら蛋白質をそれぞれコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、本蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を含む細胞において発現しているものであり得る。該細胞は、本蛋白質をコードする遺伝子を含むベクターをトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKはさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変できる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等として、GST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光色素類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンを例示できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することもできる。標識化に用いる物質は、1つまたは2つ以上を組合せて付加できる。これら標識化に用いた物質自体、またはその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出または精製でき、また、例えば本蛋白質と他の蛋白質との相互作用を検出できる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKは、具体的には例えば、これら蛋白質をそれぞれコードする遺伝子を含むベクターDNAをトランスフェクションした形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することにより製造できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体またはその機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
目的とする蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、目的とする蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、およびJNKはまた、一般的な化学合成法により製造できる。例えば、成書(「ペプチド合成」、丸善株式会社、1975年および「ペプチド シンテシス(Peptide Synthesis)」、インターサイエンス(Interscience)、ニューヨーク(New York)、1996年)に記載の方法により、これら蛋白質を製造できるが、これらに限らず公知の方法が広く利用できる。蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれを用いることもできる。このような蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法を例示できる。また、市販のアミノ酸合成装置を用いてペプチドを製造することができる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、またはJNKに、変異が導入されたものも本発明において使用できる。蛋白質、ポリペプチドおよびポリペプチドに変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(ウルマー(K.M.Ulmer)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用して実施できる。このような変異の導入において、当該の基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性等)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるポリペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変することができる。
MAST205、DCTN1、TIAM1、MLK3、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7、p38 MAPK、またはJNKは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により精製および/または分離できる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
(MAST205とDCTN1およびTIAM1との結合解析)
MAST205とDCTN1およびTIAM1との結合を、ヒト培養細胞における一過性共発現系を用いて免疫沈降法により検討した。
細胞数5.0×10/5ml mediumのHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養後、MAST205遺伝子を組み込んだpCI/Myc発現ベクター 4μgと、DCTN1遺伝子またはTIAM1遺伝子を組み込んだpCI/FLAG発現ベクター 4μgとを、15μLのリポフェクトアミン2000(Lipofectamine2000、Invitrogen社製)を用いて細胞にトランスフェクションした。これらベクターにより、それぞれMyc−tagで標識されたMAST205(以下、Myc−MAST205と称する)、FLAG−tagで標識されたDCTN1(以下、FLAG−DCTN1と称する)、FLAG−tagで標識されたTIAM1(以下、FLAG−TIAM1と称する)が細胞内で発現される。コントロールとして、MAST205遺伝子を組み込んだpCI/Myc発現ベクターの代わりにMAST205遺伝子を組み込んでいないpCI/Myc発現ベクター、あるいはDCTN1遺伝子またはTIAM1遺伝子を組み込んだpCI/FLAG発現ベクターの代わりにDCTN1遺伝子またはTIAM1遺伝子を組み込んでいないpCI/FLAG発現ベクターを、同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。トランスフェクションして48時間培養した後、培養上清を除き、細胞を冷たいリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略称する)で2回洗浄し、0.01容となるようにプロテアーゼ阻害カクテル(protease inhibitor cocktail、Sigma社製)を加えた1×細胞溶解バッファー(Cell Signaling社製)を500μL添加した。氷上で15分間放置した後、15,000rpmにて4℃で30分間遠心処理し、その上清を細胞溶解液として用いた。細胞溶解液の蛋白質濃度は、クマシー プラス−200 プロテインアッセイ試薬(Coomassie Plus−200 Protein Assay Reagent、Pierce社製)を用いて定量した。一部の細胞溶解液は、2×SDS サンプルバッファーを加え、熱変性させた(以下、細胞溶解液サンプルと称する)。細胞から抽出した細胞溶解液は、各サンプル間で蛋白質量を同一にし、0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングした20μL(50% v/v)のプロテインG セファロース 4 ファストフロー(Protein G Sepharose 4 Fast Flow、Amersham Biosciences社製)を加え、4℃で1時間回転させて攪拌した。その後、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を回収した。回収した上清に1μgの抗体を加え、4℃で一晩回転させて攪拌した。その後、0.1% BSAでブロッキングした60μL(50% v/v)のProtein G Sepharose 4 Fast Flowを加え、4℃で2時間回転させて攪拌した。次いで、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。500μLの1×細胞溶解バッファーを加え、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。この洗浄操作を3回繰り返した後に、2×SDS サンプルバッファーをレジンと等量(30μL)加え、吸着した蛋白質を抽出し熱変性させた(以下、免疫沈降サンプルと称する)。細胞溶解液サンプルおよび免疫沈降サンプルを5−20% SDS−PAGEにより分離し、1次抗体および2次抗体で染色後、ECL試薬(Amersham Biosciences社製)またはECL Plus試薬(Amersham Biosciences社製)を用いて蛋白質の検出を行った。免疫沈降サンプルの調製に用いた抗体および1次抗体として、マウス抗FLAGモノクローナル抗体(Sigma社製)およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体(Santa Cruz社製)を、2次抗体としてHRP結合ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)を用いた。
図1に、MAST205とDCTN1の結合解析の結果を示す。図1の中パネルおよび右パネルに示すように、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1を共発現させた細胞(レーン1)から、マウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)およびマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図中、IP:FLAGと示す)においてのみ、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、Myc−MAST205非発現細胞(レーン2)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はFLAG−DCTN1のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1の結合を示すものと判定した。また、FLAG−DCTN1非発現細胞(レーン3)、並びにMyc−MAST205およびFLAG−DCTN1非発現細胞(レーン4)から同様に調製した免疫沈降サンプルでもMyc−MAST205とFLAG−DCTN1の共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現、およびFLAG−DCTN1発現細胞から調製したサンプルにおけるFLAG−DCTN1の発現は、いずれも同程度であった(図1の左パネル)。
具体的には、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1を共発現させた細胞の細胞溶解液をマウス抗c−Mycモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図1の中パネル、レーン1)において、FLAG−DCTN1を示すバンド(図中、矢印で示す)およびMyc−MAST205を示すバンドが検出された。これに対して、MycとFLAG−DCTN1を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の中パネル、レーン2)では、FLAG−DCTN1およびMyc−MAST205を示すバンドはいずれも検出されなかった。また、Myc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の中パネル、レーン3)ではMyc−MAST205を示すバンドのみが検出され、MycとFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の中パネル、レーン4)ではいずれのバンドも検出されなかった。
また、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1を共発現させた細胞の細胞溶解液をマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図1の右パネル、レーン1)において、Myc−MAST205を示すバンド(図中、矢印で示す)およびFLAG−DCTN1を示すバンドが検出された。これに対して、MycとFLAG−DCTN1を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の右パネル、レーン2)では、FLAG−DCTN1を示すバンドのみが検出された。また、Myc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の右パネル、レーン3)およびMycとFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図1の右パネル、レーン4)ではいずれのバンドも検出されなかった。
上記結果から、MAST205とDCTN1が細胞内で結合することが明らかになった。
図2に、MAST205とTIAM1の結合解析の結果を示す。図2の中パネルおよび右パネルに示すように、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1を共発現させた細胞(レーン1)から、マウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)およびマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図中、IP:FLAGと示す)においてのみ、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、Myc−MAST205非発現細胞(レーン2)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はFLAG−TIAM1のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1の結合を示すものと判定した。また、FLAG−TIAM1非発現細胞(レーン3)、並びにMyc−MAST205およびFLAG−TIAM1非発現細胞(レーン4)から同様に調製した免疫沈降サンプルでもMyc−MAST205とFLAG−TIAM1の共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現、およびFLAG−TIAM1発現細胞から調製したサンプルにおけるFLAG−TIAM1の発現は、いずれも同程度であった(図2の左パネル)。
具体的には、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1を共発現させた細胞の細胞溶解液をマウス抗c−Mycモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図2の中パネル、レーン1)において、FLAG−TIAM1を示すバンド(図中、矢印で示す)およびMyc−MAST205を示すバンドが検出された。これに対して、MycとFLAG−TIAM1を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の中パネル、レーン2)では、FLAG−TIAM1およびMyc−MAST205を示すバンドはいずれも検出されなかった。また、Myc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の中パネル、レーン3)ではMyc−MAST205を示すバンドのみが検出され、MycとFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の中パネル、レーン4)ではいずれのバンドも検出されなかった。
また、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1を共発現させた細胞の細胞溶解液をマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図2の右パネル、レーン1)において、Myc−MAST205を示すバンド(図中、矢印で示す)およびFLAG−TIAM1を示すバンドが検出された。これに対して、MycとFLAG−TIAM1を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の右パネル、レーン2)では、FLAG−TIAM1を示すバンドのみが検出された。また、Myc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の右パネル、レーン3)およびMycとFLAGを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図2の右パネル、レーン4)ではいずれのバンドも検出されなかった。
上記結果から、MAST205とTIAM1が細胞内で結合することが明らかになった。
(MAST205によるDCTN1のリン酸化解析)
MAST205によるDCTN1のリン酸化をin vitroで解析した。
リン酸化試験に用いたMAST205およびDCTN1は以下のようにして調製した。細胞数10×10/10ml mediumのHEK293T細胞を10cm ディッシュに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養後、MAST205遺伝子を組み込んだpCI/Myc発現ベクター 4μg、またはDCTN1遺伝子を組み込んだpCI/FLAG発現ベクター 4μgを、30μLのLipofectamine2000(Invitrogen社製)を用いて細胞にトランスフェクションした。これらベクターにより、それぞれMyc−MAST205およびFLAG−DCTN1が細胞内で発現される。コントロールとして、MAST205遺伝子を組み込んでいないpCI/Myc発現ベクター、あるいはDCTN1遺伝子を組み込んでいないpCI/FLAG発現ベクターを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。各蛋白質はトランスフェクションの48時間後に抽出した。具体的には、上記細胞をPBSで洗浄後、0.01容となるようにプロテアーゼ阻害カクテル(Sigma社製)を加えた1×細胞溶解バッファー(Cell Signaling社製)を添加し、氷上で35分間放置した後、15,000rpmにて4℃で30分間遠心処理し、その上清を細胞溶解液とした。細胞溶解液の蛋白質濃度は、Coomassie Plus−200 Protein Assay Reagent(Pierce社製)を用いて定量した。細胞溶解液(0.2mL〜0.5mL)に0.1% BSAでブロッキングした20μL(50% v/v)のProtein G Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences社製)を加え、4℃で1時間回転させて攪拌した。次いで、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を回収した。回収した上清に抗体を2μg添加し、4℃で一晩回転させて攪拌した。抗体は、マウス抗FLAGモノクローナル抗体(Sigma社製)およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体(Santa Cruz社製)を用いた。その後、0.1% BSAでブロッキングした66μL(50% v/v)のProtein G Sepharose 4 Fast Flowを加え、4℃で2時間回転させて攪拌した。次いで、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。500μLの1×細胞溶解バッファーを加え、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。この操作を3回繰り返した。次に500μLのキナーゼバッファー(50mM HEPES,pH7.5,20mM MgCl,2mM ジチオスレイトール(DTT))を加え、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理後、上清を除去した。この操作を3回繰り返した。最後に、33μLの割合でキナーゼバッファーを加え、使用時まで−80℃で保存した。
リン酸化試験には上記調製したMyc−MAST205を6μL(50% v/v)およびFLAG−DCTN1を13μL(50% v/v)使用した。これらを混合し、ATPミクスチャーを6μL加えて(ATP終濃度200μM、[γ−32P]ATP 2.5μCi/sample)、30℃で15分間反応させた。5×SDSサンプルバッファーを6.25μL/sample加え、熱変性させ、これを5%あるいは5−20%アクリルアミドゲルで電気泳動(10μL/lane)し、ゲルドライヤーでゲルを乾燥後、イメージングプレートに露出、FLA3000(富士フィルム社製)にて解析した。
図3に示すように、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1を反応させたときに、FLAG−DCTN1のリン酸化を示すバンドが検出された(レーン1)。これに対して、MycとFLAG−DCTN1を反応させたときにはこのようなバンドはほとんど検出されなかった(レーン2)。また、FLAG−DCTN1の代わりにFLAGを用いて同様の反応を行ったときには、FLAG−DCTN1のリン酸化を示すバンドは検出されなかった(レーン3および4)。
この結果から、MAST205がDCTN1をリン酸化することが明らかになった。
(MAST205発現阻害によるp38 MAPK、JNK、MKK6のリン酸化阻害)
MAST205はDCTN1と結合してこれをリン酸化する(実施例2参照)。DCTN1は、p38 MAPKあるいはその上流のMKK6/MKK3を介した情報伝達経路に関与することが知られている(チェウン(Cheung P.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2004年、第279巻、第44号、p.45308−45311)。
そこで、MAPKK(MAPK kinase)あるいはMAPKが関与する情報伝達経路へのMAST205の影響を解析するため、ストレス刺激により活性化されるMAPKKおよびその下流に位置する蛋白質のリン酸化を、MAST205の発現を阻害した細胞と該発現を阻害しない細胞とを用いて比較検討した。
細胞は、HeLa細胞(ヒト子宮頚部癌細胞株)を用いた。細胞におけるMAST205の発現阻害は、MAST205に対するsiRNA(以下、MAST205 siRNAと称する)を用いて行った。ここで用いたMAST205 siRNAは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチド(Dharmacon社へ製造委託)である。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。コントロールとして、非特異的コントロール デュープレックスVIII(Dharmacon社製)を用いた。非特異的コントロール デュープレックスVIIIは、配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである(以下、コントロールsiRNAと称することがある)。
蛋白質リン酸化の検討は、p38 MAPK、MKK6、MKK3、JNK、およびERK1/2について行った。
具体的には、2×10/1mL mediumのHeLa細胞を12ウエルプレートの各ウエルに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養した。次いで、3μLのLipofectamine2000(Invitrogen社製)を用いて、100pmolのMAST205 siRNAまたはコントロールsiRNA(20μM siRNAを5μL)を細胞にトランスフェクションし、さらに24時間、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で培養した。その後、細胞を回収し、2等分にして12ウエルプレートにまきなおし、さらに24時間、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で培養した。次いで、細胞を0.4M ソルビトールで20分間刺激した。刺激後、培養上清を除去し、冷トリス緩衝生理食塩水(TBS)にて2回洗浄後、0.01容となるようにプロテアーゼ阻害カクテル(Sigma社製)、およびそれぞれ終濃度で1.5mM MgCl、10μM フッ化ナトリウム、1μM パラニトロフェニルホスフェート、2μM DTT、0.5μM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を加えた1×細胞溶解バッファー(Cell Signaling社製)を100μL/well添加し、氷上で20分間放置した後、15,000rpmにて4℃で30分間遠心処理し、その上清を細胞溶解液とした。細胞溶解液はCoomassie Plus−200 Protein Assay Reagent(Pierce社製)を用いて定量した。一部の細胞溶解液は、5×SDS サンプルバッファーを加え、熱変性させた(以下、細胞溶解サンプルと称する)。これらのサンプルを5−20% SDS−PAGEにより分離、1次抗体および2次抗体で染色後、ECL試薬(Amersham Biosciences社製)またはECL Plus試薬(Amersham Biosciences社製)を用いて検出した。各蛋白質を検出するための1次抗体として、ウサギ抗p38 MAP Kinaseポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、ウサギ抗MKK3ポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、ウサギ抗MKK6ポリクローナル抗体(R&D Systems社製)、ウサギ抗SAPK/JNKポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、ウサギ抗p44/42 MAP Kinaseポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、およびウサギ抗MAST205ポリクローナル抗体を用いた。リン酸化蛋白質を検出するための1次抗体として、ウサギ抗リン酸化p38 MAP Kinase(Thr180/Tyr182)ポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、ウサギ抗リン酸化MKK3/MKK6(Ser189/207)ポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、ウサギ抗リン酸化SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)ポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)、およびウサギ抗リン酸化p44/42 MAP Kinase(Thr202/Tyr204)ポリクローナル抗体(Cell Signaling社製)を用いた。2次抗体として、HRP結合ロバ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(Amersham Biosciences社製)を用いた。
図4の左パネルに各蛋白質の検出結果を示す。MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激の有無に関わらず、MAST205が検出されなかった。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞ではMAST205が検出され、該細胞におけるMAST205の発現量はソルビトール刺激の有無に関わらず同程度であった。p38 MAPK、MKK6、MKK3、JNK、およびERK1/2の発現量は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞およびMAST siRNAをトランスフェクションした細胞で、ソルビトール刺激の有無に関わらず、ほぼ同程度であった。
この結果から、MAST205 siRNAをトランスフェクションすることにより、MAST205の発現が阻害されることが確認できた。
図4の右パネルにリン酸化蛋白質の検出結果を示す。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激をしないときには、p38 MAPK、MKK3、MKK6、およびJNKのリン酸化は検出されず、ソルビトール刺激により、これら蛋白質のリン酸化が検出された。一方、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激によっても、p38 MAPK、MKK3、MKK6およびJNKのリン酸化は検出されないか、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞と比較してその程度が低かった。ERK1/2のリン酸化は、ソルビトール刺激の有無に関わらず、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞およびMAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞のいずれにおいても検出された。
MAST205の発現阻害により、ソルビトール刺激によるp38 MAPK、MKK3、MKK6、およびJNKのリン酸化が著しく低減したことから、MAST205がp38 MAPK、MKK3、MKK6およびJNKのリン酸化に関与することが明らかになった。一方、MAST205は、MAPKKが関与する情報伝達経路のうちMEK1およびMEK2の下流に位置するERK1/2のリン酸化に関与しなかった。このように、MAST205はDCTN1と結合することにより、MKK3およびMKK6のリン酸化に関与し、さらにこれらの下流に位置するp38 MAPKのリン酸化に関与すると発明者らは考えている。MAST205が関与するJNKのリン酸化過程は明らかではないが、DCTN1および/またはTIAM1との結合によりMKK7/MKK4を介してJNKのリン酸化に関与しているかもしれない。
(細胞遊走試験)
細胞の遊走へのMAST205の影響を、MAST205の発現を阻害した細胞と該発現を阻害しない細胞とを用いて比較検討した。
細胞は、MDA−MB−231細胞(ヒト乳癌細胞株)を用いた。細胞におけるMAST205の発現阻害はMAST205 siRNAを用いて行った。ここで用いたMAST205 siRNAは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチド(Dharmacon社へ製造委託)である。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドコントロールとして、非特異的コントロール デュープレックスVIII(Dharmacon社製)を用いた。非特異的コントロール デュープレックスVIIIは、配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである(以下、コントロールsiRNAと称することがある)。
細胞遊走試験は、セルカルチャーインサート(上層)をコンパニオンプレート(下層)に載せることにより構成されたチャンバー(以下、細胞遊走試験用チャンバーと称することがある)を用いて実施した。セルカルチャーインサート(上層)には0.1% BSAを含む培養培地(medium)に懸濁した細胞溶液を添加し、コンパニオンプレート(下層)には10% ウシ胎仔血清(FBS)を含む培養培地を添加した。セルカルチャーインサート(上層)に添加された細胞は、コンパニオンプレート(下層)に添加された培養培地に含まれる10% FBSにより遊走が誘導されると、該セルカルチャーインサートのメンブレンの細孔を通過してその裏面に移動する。細胞遊走のバックグラウンドとして、10% FBS含む培養培地の代わりに0.1% BSAを含む培養培地を用い、同様の方法で細胞遊走試験を実施した。
細胞遊走の判定は、セルカルチャーインサートとして、フルオロブロック セルカルチャーインサート(BD Falcon社製)を用い、セルカルチャーインサートのメンブレンの裏面に上層から移動した細胞を蛍光色素染色し、次いで蛍光強度を測定することにより実施した。蛍光強度は、フルオロブロック セルカルチャーインサートのメンブレンの裏面に上層から移動した細胞の数を反映する。
細胞遊走へのMAST205の影響の検討は、具体的には、次のように実施した。まず、細胞数1×10/5mL mediumのMDA−MB−231細胞を6cm ディッシュに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養した。培養培地は、10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いた。次いで、15μLのLipofectamine2000 (Invitrogen社製)を用いて、500pmolのMAST205 siRNAまたはコントロールsiRNA(20μM siRNAを25μL)を細胞にトランスフェクションし、さらに48時間、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で培養した。その後、細胞を回収し、0.1% BSA/DMEMに再懸濁して細胞数2×10/mLに調整した。細胞遊走試験用チャンバーの上層であるフルオロブロック セルカルチャーインサートに細胞懸濁液を250μLずつ添加し、該チャンバーの下層である24ウエルプレート(BD Falcon社製)に10% FBS/DMEMあるいは0.1% BSA/DMEMを750μL添加した。37℃にて5% CO/95% エアの条件下でさらに6時間培養した後、フルオロブロック セルカルチャーインサートを2mM カルセイン−AM(Calcein−AM、Molecular Probes社製)を含むハンクス緩衝平衡塩溶液(HBSS)で37℃にて1時間染色し、FlexStation II(Molecular Devices社)を用いてEx485/Em530の波長で蛍光を測定した。siRNAをトランスフェクションして培養した細胞の一部は、6cm ディッシュに播種し、MAST205の発現の測定に用いた。MAST205の発現の測定は、細胞から蛋白質を抽出し、ウエスタンブロッティングにより実施した。細胞からの蛋白質の抽出およびウエスタンブロッティングは実施例1に記載の方法と同様の方法で実施した。
図5に示すように、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときの蛍光強度は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときのものと比較して有意に低下した。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞ではMAST205の高い発現が認められたが、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞ではMAST205の発現はほとんど認められなかった。
蛍光強度は、フルオロブロック セルカルチャーインサートのメンブレンの裏面に遊走した細胞の数を反映する。すなわち、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞の遊走は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞と比較して有意に低減していることが判明した。また、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、MAST205の発現が著しく阻害されていることが分かった。
このように、MAST205を阻害することにより、細胞の遊走が抑制されることが明らかになった。
(細胞浸潤試験)
細胞の浸潤へのMAST205の影響を、MAST205の発現を阻害した細胞と該発現を阻害しない細胞とを用いて比較検討した。
細胞は、MDA−MB−231細胞(ヒト乳癌細胞株)を用いた。細胞におけるMAST205の発現阻害はMAST205 siRNAを用いて行った。ここで用いたMAST205 siRNAは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチド(Dharmacon社へ製造委託)である。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。コントロールとして、非特異的コントロール デュープレックスVIII(Dharmacon社製)を用いた。非特異的コントロール デュープレックスVIIIは、配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである(以下、コントロールsiRNAと称することがある)。
細胞浸潤試験は、マトリゲルが被覆されたセルカルチャーインサート(上層)をコンパニオンプレート(下層)に載せることにより構成されたチャンバー(以下、細胞浸潤試験用チャンバーと称することがある)を用いて実施した。マトリゲルが被覆されたセルカルチャーインサート(上層)には0.1% BSAを含む培養培地(medium)に懸濁した細胞溶液を添加し、コンパニオンプレート(下層)には10% ウシ胎仔血清(FBS)を含む培養培地を添加した。マトリゲルが被覆されたセルカルチャーインサート(上層)に添加された細胞は、コンパニオンプレート(下層)に添加された培養培地に含まれる10% FBSにより浸潤が誘導されると、セルカルチャーインサートに被覆されたマトリゲルに浸潤し、セルカルチャーインサートのメンブレンの細孔を通過してその裏面に移動する。細胞浸潤のバックグラウンドとして、10% FBS含む培養培地の代わりに0.1% BSAを含む培養培地を用い、同様の方法で細胞浸潤試験を実施した。
細胞浸潤の判定は、セルカルチャーインサートとして、100μg/cmでマトリゲル(GROWTH FACTOR REDUCED BD MATRIGEL MATRIX、BD Biosciences社製)を被覆したフルオロブロック セルカルチャーインサート(BD Falcon社製)を用い、該セルカルチャーインサートのメンブレンの裏面に上層から移動した細胞を蛍光色素染色し、次いで蛍光強度を測定することにより実施した。蛍光強度は、マトリゲルが被覆されたフルオロブロック セルカルチャーインサートのメンブレンの裏面に上層から移動した細胞の数を反映する。
細胞浸潤へのMAST205の影響の検討は、具体的には、次のように実施した。まず、細胞数1×10/5mL mediumのMDA−MB−231細胞を6cm ディッシュに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養した。培養培地は、10% FBSを含むDMEMを用いた。次いで、15μLのLipofectamine2000 (Invitrogen社製)を用いて、500pmolのMAST205 siRNAまたはコントロールsiRNA(20μM siRNAを25μL)を細胞にトランスフェクションし、さらに48時間、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で培養した。その後、細胞を回収し、0.1% BSA/DMEMに再懸濁して細胞数8×10/mLに調整した。細胞浸潤試験用チャンバーの上層であるマトリゲルが被覆されたフルオロブロック セルカルチャーインサートに細胞懸濁液を250μLずつ添加し、該チャンバーの下層である24ウエルプレート(BD Falcon社製)に10% FBS/DMEMあるいは0.1% BSA/DMEMを750μL添加した。37℃にて5% CO/95% エアの条件下でさらに24時間培養した後、フルオロブロック セルカルチャーインサートを2mM カルセイン−AM(Calcein−AM、Molecular Probes社製)を含むハンクス緩衝平衡塩溶液(HBSS)で37℃にて1時間染色し、FlexStation II(Molecular Devices社)を用いてEx485/Em530の波長で蛍光を測定した。siRNAをトランスフェクションして培養した細胞の一部は、6cm ディッシュに播種し、MAST205の発現の測定に用いた。MAST205の発現の測定は、細胞から蛋白質を抽出し、ウエスタンブロッティングにより実施した。細胞からの蛋白質の抽出およびウエスタンブロッティングは実施例1に記載の方法と同様の方法で実施した。
図6−Aに示すように、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときの蛍光強度は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときのものと比較して有意に低下した。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞ではMAST205の高い発現が認められたが、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞ではMAST205の発現はほとんど認められなかった(図6−B)。一方、β−チューブリンの発現量は、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞とコントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞でほぼ同程度であった。
蛍光強度は、マトリゲルを被覆したメンブレンの裏面に移動した細胞の数を反映する。すなわち、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞のマトリゲルへの浸潤は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞と比較して有意に低減していることが判明した。また、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、MAST205の発現が著しく阻害されていることが分かった。
このように、MAST205を阻害することにより、細胞の浸潤が抑制されることが明らかになった。
(MAST205とキナーゼとの結合解析)
MAST205と6種類のキナーゼ(p38 MAPK、MKK3、MKK4、MKK6、MKK7およびMLK3)それぞれとの結合を、ヒト培養細胞における一過性共発現系を用いて免疫沈降法により検討した。以下、各キナーゼを候補蛋白質と称することがある。
細胞数5.0×10/5ml mediumのHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養した。その後、MAST205遺伝子を組み込んだpCI/Myc発現ベクター 4μgと、候補蛋白質遺伝子を組み込んだpCI−neo/HA(p38 MAPK、MKK3、MKK4、MKK7およびMLK3)またはpCMV/HA発現ベクター(MKK6) 0.5−4μgとを、15μLのFuGENE(Roche社製)を用いて細胞にトランスフェクションした。これらベクターにより、それぞれMyc−tagで標識されたMAST205(以下、Myc−MAST205と称する)、HA−tagで標識されたp38 MAPK(以下、HA−p38と称する)、HA−tagで標識されたMKK3(以下、HA−MKK3と称する)、HA−tagで標識されたMKK4(以下、HA−MKK4と称する)、HA−tagで標識されたMKK7(以下、HA−MKK7と称する)、HA−tagで標識されたMLK3(以下、HA−MLK3と称する)およびHA−tagで標識されたMKK6(以下、HA−MKK6と称する)が細胞内で発現される。コントロールとして、MAST205遺伝子を組み込んだpCI/Myc発現ベクターの代わりにMAST205遺伝子を組み込んでいないpCI/Myc発現ベクター、あるいは候補蛋白質遺伝子を組み込んだpCI/HA発現ベクターまたはpCMV/HA発現ベクターの代わりに、候補蛋白質遺伝子を組み込んでいないpCI/HA発現ベクターまたはpCMV/HA発現ベクターを、同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。トランスフェクションして48時間培養した後、培養上清を除き、細胞を冷たいPBSで2回洗浄し、0.01容となるようにプロテアーゼ阻害カクテル(Sigma社製)を加えた1×細胞溶解バッファー(Cell Signaling社製)を500μL添加した。氷上で15分間放置した後、15,000rpmにて4℃で30分間遠心処理し、その上清を細胞溶解液として用いた。細胞溶解液の蛋白質濃度は、クマシー プラス−200 プロテインアッセイ試薬(Pierce社製)を用いて定量した。細胞から抽出した細胞溶解液は、各サンプル間で蛋白質量を同一にし、0.1% BSAでブロッキングした80μL(50% v/v)のプロテインG セファロース 4 ファストフロー(Amersham Biosciences社製)を加え、4℃で1時間回転させて攪拌した。その後、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を回収した。回収した細胞溶解液の一部は、2×SDS サンプルバッファーを加え、熱変性させた(以下、細胞溶解液サンプルと称する)。回収した上清に1μgの抗体を加え、4℃で一晩回転させて攪拌した。その後、0.1% BSAでブロッキングした80μL(50% v/v)のプロテインG セファロース 4 ファストフローを加え、4℃で2時間回転させて攪拌した。次いで、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。500μLの1×細胞溶解バッファーを加え、10,000rpmにて4℃で1分間遠心処理し、その上清を除去した。この洗浄操作を3回繰り返した後に、2×SDS サンプルバッファーを50μL加え、吸着した蛋白質を抽出し熱変性させた(以下、免疫沈降サンプルと称する)。細胞溶解液サンプルおよび免疫沈降サンプルを5−20% SDS−PAGEにより分離し、1次抗体および2次抗体で染色後、ECL試薬(Amersham Biosciences社製)またはECL Plus試薬(Amersham Biosciences社製)を用いて蛋白質の検出を行った。免疫沈降サンプルの調製および各種蛋白質の検出には、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体(A14、Santa Cruz Biotechnology社製)、マウス抗c−Mycモノクローナル抗体(9E10、ウェスタンブロッティングに1:1000倍希釈して使用、Santa Cruz社製)マウス抗HAモノクローナル抗体(12CA5、ウェスタンブロッティングに1:1000倍希釈して使用、Roche社製)、およびHRP結合ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(ウェスタンブロッティングに1:2000倍希釈して使用、Cell Signaling社製)を用いた。
図7に、MAST205とp38 MAPK、MLK3またはMKK6との結合解析の結果を示す。図7の右上パネルに示すように、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを共発現させた細胞(レーン4、6および8)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)において、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6との共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、MycとHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを共発現させた細胞(レーン3、5または7)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAS205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はHA−p38、HA−MLK3およびHA−MKK6のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3およびHA−MKK6それぞれとの結合を示すものと判定した。また、Myc−MAST205を発現させたがHA−p38、HA−MLK3およびHA−MKK6のいずれをも発現させていない細胞(レーン2)、並びにMyc−MAST205、HA−p38、HA−MLK3およびHA−MKK6のいずれをも発現させていない細胞(レーン1)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、上記のような共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現は、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図7の右下パネルおよび左下パネル:レーン2、4、6および8)。また、HA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6を発現させた細胞における各蛋白質の発現も、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図7の左上パネル:レーン3−8)。
具体的には、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを共発現させた細胞の細胞溶解液をウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図7の右上パネル:レーン4、6および8)について、マウス抗HAモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、HA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6を示すバンド(図中、矢印で示す)が検出された。これに対して、MycとHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図7の右上パネル:レーン3、5および7)では、HA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6を示すバンドは検出されなかった。また、Myc−MAST205とHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図7の右上パネル:レーン2)、およびMycとHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図7の右上パネル:レーン1)ではHAを示すバンドしか検出されなかった。
上記結果から、MAST205とp38 MAPK、MLK3およびMKK6それぞれとが細胞内で結合することが明らかになった。
図8に、MAST205とMKK3との結合解析の結果を示す。図8の右上パネルに示すように、Myc−MAST205とHA−MKK3を共発現させた細胞(レーン4)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)において、Myc−MAST205とHA−MKK3との共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、MycとHA−MKK3を共発現させた細胞(レーン3)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAST205とHA−MKK3の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はHA−MKK3のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とHA−MKK3の結合を示すものと判定した。また、Myc−MAST205を発現させたがHA−MKK3を発現させていない細胞(レーン2)、並びにMyc−MAST205およびHA−MKK3をいずれも発現させていない細胞(レーン1)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、上記のような共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現は、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図8の右下パネルおよび左下パネル:レーン2および4)。また、HA−MKK3を発現させた細胞におけるHA−MKK3の発現も、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図8の左上パネル:レーン3および4)。
具体的には、Myc−MAST205とHA−MKK3を共発現させた細胞の細胞溶解液をウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図8の右上パネル:レーン4)について、マウス抗HAモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、HA−MKK3を示すバンド(図中、矢印で示す)が検出された。これに対して、MycとHA−MKK3を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図8の右上パネル:レーン3)では、HA−MKK3を示すバンドは検出されなかった。また、Myc−MAST205とHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図8の右上パネル:レーン2)、およびMycとHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図8の右上パネル:レーン1)ではHAを示すバンドしか検出されなかった。
上記結果から、MAST205とMKK3が細胞内で結合することが明らかになった。
図9に、MAST205とMKK4との結合解析の結果を示す。図9の右上パネルに示すように、Myc−MAST205とHA−MKK4を共発現させた細胞(レーン3)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)において、Myc−MAST205とHA−MKK3との共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、MycとHA−MKK4を共発現させた細胞(レーン2)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAST205とHA−MKK3の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はHA−MKK4のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とHA−MKK4の結合を示すものと判定した。また、Myc−MAST205およびHA−MKK3をいずれも発現させていない細胞(レーン1)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、上記のような共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現は、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図9の右下パネルおよび左下パネル:レーン1および3)。また、HA−MKK4を発現させた細胞におけるHA−MKK4の発現も、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図9の左上パネル:レーン2および3)。
具体的には、Myc−MAST205とHA−MKK4を共発現させた細胞の細胞溶解液をウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図9の右上パネル:レーン3)について、マウス抗HAモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、HA−MKK4を示すバンド(図中、矢印で示す)が検出された。これに対して、MycとHA−MKK4を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図9の右上パネル:レーン2)では、HA−MKK4を示すバンドは検出されなかった。また、MycとHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図9の右上パネル:レーン1)ではHAを示すバンドしか検出されなかった。
上記結果から、MAST205とMKK4が細胞内で結合することが明らかになった。
図10に、MAST205とMKK7との結合解析の結果を示す。図10の右上パネルに示すように、Myc−MAST205とHA−MKK7を共発現させた細胞(レーン4)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)において、Myc−MAST205とHA−MKK7との共沈(図中、矢印で示す)が検出された。一方、MycとHA−MKK7を共発現させた細胞(レーン3)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、Myc−MAST205とHA−MKK7の共沈が検出されなかった。このことから、この共沈降はHA−MKK7のレジンへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−MAST205とHA−MKK7の結合を示すものと判定した。また、Myc−MAST205を発現させたがHA−MKK7を発現させていない細胞(レーン2)、並びにMyc−MAST205およびHA−MKK7をいずれも発現させていない細胞(レーン1)から同様に調製した免疫沈降サンプルでは、上記のような共沈は検出されなかった。Myc−MAST205発現細胞から調製したサンプルにおけるMyc−MAST205の発現は、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図10の右下パネルおよび左下パネル:レーン2および4)。また、HA−MKK7を発現させた細胞におけるHA−MKK7の発現も、ウェスタンブロッティングにより確認できた(図10の左上パネル:レーン3および4)。
具体的には、Myc−MAST205とHA−MKK7を共発現させた細胞の細胞溶解液をウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプル(図10の右上パネル:レーン4)について、マウス抗HAモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、HA−MKK7を示すバンド(図中、矢印で示す)が検出された。これに対して、MycとHA−MKK7を共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図10の右上パネル:レーン3)では、HA−MKK7を示すバンドは検出されなかった。また、Myc−MAST205とHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図10の右上パネル:レーン2)、およびMycとHAを共発現させた細胞から同様に調製した免疫沈降サンプル(図10の右上パネル:レーン1)ではHAを示すバンドしか検出されなかった。
上記結果から、MAST205とMKK7が細胞内で結合することが明らかになった。
(MAST205発現阻害によるMKK4のリン酸化阻害)
MAST205の発現を阻害することにより、JNKのリン酸化が阻害された(実施例3参照)。JNKは、細胞増殖や細胞死または免疫炎症応答に関与することが知られており、MKK7/MKK4によってリン酸化されることによりその機能が調節されている。
そこで、MAST205の発現阻害によるJNKのリン酸化阻害が、MAST205によるMKK4の機能阻害に起因するか否かを解析した。MKK4は、ストレス刺激によりリン酸化されて活性化する。ストレス刺激によるMKK4のリン酸化を、MKK4の機能の指標として測定した。具体的には、ストレス刺激によるMKK4のリン酸化を、MAST205の発現を阻害した細胞と該発現を阻害しない細胞とを用いて比較検討した。
細胞は、HeLa細胞を用いた。HeLa細胞は、40μm メッシュによりろ過してから用いた。
細胞におけるMAST205の発現阻害は、MAST205 siRNAを用いて行った。ここで用いたMAST205 siRNAは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチド(Dharmacon社へ製造委託)である。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである。コントロールとして、非特異的コントロール デュープレックスVIII(Dharmacon社製)を用いた。非特異的コントロール デュープレックスVIIIは、配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである(以下、コントロールsiRNAと称することがある)。
具体的には、5×10/1mL mediumのHeLa細胞を6ウエルプレートの各ウエルに播種し、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養した。次いで、7.5μLのLipofectamine2000(Invitrogen社製)を用いて、250pmolのMAST205 siRNAまたはコントロールsiRNAを細胞にトランスフェクションした(最終液量は3mL)。37℃にて5% CO/95% エアの条件下で24時間培養後、細胞を回収し、4等分にして12ウエルプレートにまきなおし、さらに24時間、37℃にて5% CO/95% エアの条件下で培養した。次いで、0.4M ソルビトールで20分間、または、20ng/mLのIL−1で15分間、細胞を刺激した。刺激後、培養上清を除去し、冷TBSにて2回洗浄後、0.01容となるようにプロテアーゼ阻害カクテル(Sigma社製)、およびそれぞれ終濃度で1.5mM MgCl、10μM フッ化ナトリウム、1μM パラニトロフェニルホスフェート、2μM DTT、0.5μM PMSFを加えた1×細胞溶解バッファー(Cell Signaling社製)を100μL/well添加し、氷上で20分間放置した後、15,000rpmにて4℃で30分間遠心処理し、その上清を細胞溶解液とて用いた。細胞溶解液はCoomassie Plus−200 Protein Assay Reagent(Pierce社製)を用いて定量した。一部の細胞溶解液は、5×SDS サンプルバッファーを加え、熱変性させた(以下、細胞溶解サンプルと称する)。これらのサンプルを5−20% SDS−PAGEにより分離し、1次抗体および2次抗体で染色後、ECL試薬(Amersham Biosciences社製)またはECL Plus試薬(Amersham Biosciences社製)を用いて検出した。蛋白質を検出するための1次抗体として、ウサギ抗SEK1/MKK4ポリクローナル抗体(ウエスタンブロッティングに1:500希釈して用いた、Cell Signaling社製)、ウサギ抗MAST205ポリクローナル抗体(ウエスタンブロッティングに1:1000希釈して用いた、スクラム社へ製造委託)、およびウサギ抗β−チューブリンポリクローナル抗体(ウエスタンブロッティングに1:300希釈して用いた、Santa Cruz社製)を用いた。リン酸化蛋白質を検出するための1次抗体として、ウサギ抗リン酸化SEK1/MKK4(Thr261)ポリクローナル抗体(ウエスタンブロッティングに1:500希釈して用いた、Cell Signaling社製)を用いた。2次抗体として、HRP結合ロバ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(ウエスタンブロッティングに1:2000希釈して用いた、Amersham Biosciences社製)を用いた。
図11の各パネルにそれぞれ、MAST205、リン酸化MKK4(図中、P−MKK4と示す)MKK4、およびβ−チューブリン(図中、β−tubulinと示す)をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す。
リン酸化MKK4(図11、左から2番目のパネル中で矢印により示す)は、コントロールsiRNAをトランスフェクションし且つソルビトール刺激またはIL−1刺激した細胞で検出された(レーン2および3)。それに対し、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激やIL−1刺激を行っても、リン酸化MKK4が検出されなかった(レーン5および6)。ソルビトール刺激やIL−1刺激を行わない場合は、MAST205 siRNAのトランスフェクションの有無に関らず、リン酸化MKK4は検出されなかった(レーン1および4)。
MAST205の発現(図11、左パネル中で矢印により示す)は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞において検出され、その発現量はソルビトール刺激やIL−1刺激の有無に関わらずほぼ同程度であった(レーン1−3)。一方、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、MAST205の発現はほとんど検出されなかった(レーン4−6)。MKK4の発現(図11、左から3番目のパネル中で矢印により示す)は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞およびMAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞のいずれにおいても検出され、その発現量はソルビトール刺激やIL−1刺激の有無に関わらずほぼ同程度であった。また、内因性蛋白質であるβ−チューブリンの発現量が、用いたいずれの細胞溶解液においてもほぼ同程度であることから、ウェスタンブロッティングに用いた細胞溶解液中の蛋白質量は、いずれのレーンにおいてもほぼ同程度であることが明らかである。
MAST205の発現阻害により、ソルビトール刺激またはIL−1刺激によるMKK4のリン酸化が著しく低減したことから、MAST205がMKK4のリン酸化に関与することが明らかになった。一方、MAST205の発現を阻害することにより、JNKのリン酸化が阻害された(実施例3参照)。また、MAST205はMKK4と結合した(実施例6)。したがって、MAST205はMKK4と結合することにより、MKK4のリン酸化に関与し、さらにこれらの下流に位置するJNK3のリン酸化に関与すると発明者らは考えている。
本発明によれば、MAST205の発現および/または機能を阻害する細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤を提供できる。具体的には本発明により、MAST205の発現、MAST205とDCTN1の結合、MAST205とTIAM1の結合、MAST205とMLK3の結合、MAST205とMKK3の結合、MAST205とMKK4の結合、MAST205とMKK6の結合、MAST205とMKK7の結合、MAST205とp38 MAPKの結合、およびMAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性から選ばれる少なくとも1を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法および遊走阻害剤を提供できる。MAST205の発現および/または機能を阻害することにより、癌転移、血管新生、および免疫炎症応答の抑制を実施できると発明者らは考えている。
本発明は、細胞の遊走および浸潤、癌転移、血管新生、並びに免疫炎症応答に関する基礎的研究直に有用である。さらに、癌転移、血管新生を伴う疾患、炎症性疾患の防止および/または治療に有用である。
MAST205とDCTN1とのin vivoでの結合を、Myc−MAST205およびFLAG−DCTN1を一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左パネルは、細胞溶解液(図中、lysateと示す)を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。中パネルは抗c−Myc抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、抗FLAG抗体および抗c−Myc抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す。右パネルは、抗FLAG抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:FLAGと示す)について、抗FLAG抗体および抗c−Myc抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMyc−MAST205およびFLAG−DCTN1を共発現させた細胞、レーン2はMycとFLAG−DCTN1を共発現させた細胞、レーン3はMyc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞、レーン4はMycとFLAGを共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とFLAG−DCTN1を共発現させた細胞(レーン1)から、マウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルおよびマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とFLAG−DCTN1の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例1) MAST205とTIAM1とのin vivoでの結合を、Myc−MAST205およびFLAG−TIAM1を一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左パネルは、細胞溶解液(図中、Cell lysateと示す)を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。中パネルは抗c−Myc抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、抗FLAG抗体および抗c−Myc抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す。右パネルは、抗FLAG抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:FLAGと示す)について、抗FLAG抗体および抗c−Myc抗体を用いてイムノブロットを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMyc−MAST205およびFLAG−TIAM1を共発現させた細胞、レーン2はMycとFLAG−TIAM1を共発現させた細胞、レーン3はMyc−MAST205とFLAGを共発現させた細胞、レーン4はMycとFLAGを共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とFLAG−TIAM1を共発現させた細胞(レーン1)から、マウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルおよびマウス抗FLAGモノクローナル抗体で処理した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とFLAG−TIAM1の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例1) MAST205によるDCTN1のリン酸化をin vitroで解析した結果を示す図である。レーン1はMyc−MAST205とFLAG−DCTN1、レーン2はMycとFLAG−DCTN1、レーン3はMyc−MAST205とFLAG、レーン4はMycとFLAGを反応させた結果を示す。Myc−MASTとFLAG−DCTN1を反応させたときのみ、DCTN1のリン酸化を示すバンドが検出された(レーン1)。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例2) ソルビトール(Sorbitol)刺激により活性化されるMAPKKおよびその下流に位置する蛋白質のリン酸化を、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞と、コントロールsiRNA(Control siRNA)をトランスフェクションした細胞を用いて比較検討した結果を示す図である。右パネルは、各リン酸化蛋白質を検出した結果を示す。左パネルは、各蛋白質をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激をしないときには、p38 MAPK、MKK3、MKK6、およびJNKのリン酸化は検出されず、ソルビトール刺激により、これら蛋白質のリン酸化が検出された。一方、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激によっても、p38 MAPK、MKK3、MKK6およびJNKのリン酸化は検出されないか、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞と比較してその程度が低かった。ERK1/2のリン酸化は、ソルビトール刺激の有無に関わらず、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞およびMAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞のいずれにおいても検出された。(実施例3) 細胞の遊走へのMAST205の影響を、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞と、コントロールsiRNA(Control siRNA)をトランスフェクションした細胞を用いて比較検討した結果を示す図である。細胞の遊走は、フルオロブロック セルカルチャーインサートを用いて実施した。遊走した細胞は蛍光染色し、蛍光強度(Fluorescence(Ex485/Em530))により細胞の遊走を判定した。蛍光強度の低下は、細胞の遊走の低減を反映する。MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときの蛍光強度は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときのものと比較して有意に低下した。(実施例4) 細胞の浸潤へのMAST205の影響を、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞と、コントロールsiRNA(Control siRNA)をトランスフェクションした細胞を用いて比較検討した結果を示す図である。細胞の浸潤は、マトリゲルを被覆したフルオロブロック セルカルチャーインサートを用いて実施した。マトリゲルに浸潤した細胞は蛍光染色し、蛍光強度(Fluorescence(Ex485/Em530))により細胞の浸潤を判定した。蛍光強度の低下は、細胞の浸潤の低減を反映する。MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときの蛍光強度は、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いたときのものと比較して有意に低下した。(実施例5) 細胞の浸潤の検討に用いた、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞とコントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞におけるMAST205の発現量をウエスタンブロッティングにより測定した結果を示す図である。MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞(レーン2)では、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞(レーン1)と比較して、MAST205の発現が著しく低減していた。一方、β−チューブリン(β−tubulin)の発現量はいずれの細胞でも同程度であった。図中の矢印は各蛋白質を示す。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例5) MAST205とp38 MAPK、MLK3またはMKK6とのin vivoでの結合を、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左上パネルおよび左下パネルは、細胞溶解液(図中、lysateと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。右上パネルおよび左下パネルは、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMycとHAを共発現させた細胞、レーン2はMyc−MAST205とHAを共発現させた細胞、レーン3はMycとHA−p38を共発現させた細胞、レーン4はMyc−MAST205とHA−p38を共発現させた細胞、レーン5はMycとHA−MLK3を共発現させた細胞、レーン6はMyc−MAST205とHA−MLK3を共発現させた細胞、レーン7はMycとHA−MKK6を共発現させた細胞、およびレーン8はMyc−MAST205とHA−MKK6を共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6とを共発現させた細胞(レーン4、6および8)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とHA−p38、HA−MLK3またはHA−MKK6との共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例6) MAST205とMKK3のin vivoでの結合を、Myc−MAST205とHA−MKK3を一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左上パネルおよび左下パネルは、細胞溶解液(図中、lysateと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。右上パネルおよび右下パネルは、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMycとHAを共発現させた細胞、レーン2はMyc−MAST205とHAを共発現させた細胞、レーン3はMycとHA−MKK3を共発現させた細胞、およびレーン4はMyc−MAST205とHA−MKK3を共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とHA−MKK3を共発現させた細胞(レーン4)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とHA−MKK3の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例6) MAST205とMKK4のin vivoでの結合を、Myc−MAST205とHA−MKK4を一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左上パネルおよび左下パネルは、細胞溶解液(図中、lysateと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。右上パネルおよび右下パネルは、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMycとHAを共発現させた細胞、レーン2はMycとHA−MKK4を共発現させた細胞、およびレーン3はMyc−MAST205とHA−MKK4を共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とHA−MKK4を共発現させた細胞(レーン3)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とHA−MKK4の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例6) MAST205とMKK7のin vivoでの結合を、Myc−MAST205とHA−MKK7を一過性共発現させたヒト培養細胞を用いて免疫沈降法により検出した結果を示す図である。左上パネルおよび左下パネルは、細胞溶解液(図中、lysateと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。右上パネルおよび右下パネルは、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体による免疫沈降サンプル(図中、IP:Mycと示す)について、それぞれマウス抗HAモノクローナル抗体およびマウス抗c−Mycモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果を示す。各パネルともレーン1はMycとHAを共発現させた細胞、レーン2はMyc−MAST205とHAを共発現させた細胞、レーン3はMycとHA−MKK7を共発現させた細胞、およびレーン4はMyc−MAST205とHA−MKK7を共発現させた細胞を用いた結果を示す。Myc−MAST205とHA−MKK7を共発現させた細胞(レーン4)から、ウサギ抗c−Mycポリクローナル抗体を用いて調製した免疫沈降サンプルにおいてのみ、Myc−MAST205とHA−MKK7の共沈(図中、矢印で示す)が検出された。図中の矢頭および数字は分子量を表す。(実施例6) ソルビトール(図中、Sorbと示す)刺激またはIL−1(図中、IL1と示す)刺激により活性化されるMKK4のリン酸化を、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞と、コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いて比較検討した結果を示す図である。左パネルは、MAST205を検出した結果を示す。左から2番目のパネルは、リン酸化MKK4(図中、P−MKK4と示す)を検出した結果を示す。左から3番目のパネルは、MKK4を検出した結果を示す。右パネルはβ−チューブリン(β−tublin)を検出した結果を示す。各蛋白質の検出は、各蛋白質に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングにより行った。図中の矢印は、各蛋白質を示す。図中の矢頭と数値は分子量を示す。コントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激またはIL−1刺激をしないときには、MKK4のリン酸化は検出されず、ソルビトール刺激またはIL−1刺激により、MKK4のリン酸化が検出された。一方、MAST205 siRNAをトランスフェクションした細胞では、ソルビトール刺激またはIL−1刺激によっても、MKK4のリン酸化は検出されなかった。(実施例7)
配列番号1:MAST205。
配列番号1:(512):(785)キナーゼドメイン。
配列番号1:(1105):(1186)PDZドメイン。
配列番号2:MAST205遺伝子の発現を阻害するために該遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたRNA。
配列番号3:配列番号2に記載の塩基配列を有し、その3´末端にdTdTを有する設計されたRNA/DNA。
配列番号4:非特異的コントロール デュープレックスVIIIを構成するセンスRNA。
配列番号5:配列番号2に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有し、その3´末端にdTdTを有する設計されたRNA/DNA。

Claims (48)

  1. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害方法。
  2. MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項1に記載の細胞の遊走阻害方法:
    (1)MAST205とDCTN1(dynactin 1)の結合、
    (2)MAST205とTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)の結合、
    (3)MAST205とMLK3(mixed liniage kinase 3)の結合、
    (4)MAST205とMKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)の結合、
    (5)MAST205とMKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)の結合、
    (6)MAST205とMKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)の結合、
    (7)MAST205とMKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)の結合、
    (8)MAST205とp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)の結合、
    および
    (9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
  3. MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である請求項2に記載の細胞の遊走阻害方法。
  4. 細胞が癌細胞である請求項1に記載の細胞の遊走阻害方法。
  5. 細胞が内皮細胞である請求項1に記載の細胞の遊走阻害方法。
  6. MAST205に対するRNA干渉によりMAST205の発現および/または機能を阻害する請求項1に記載の細胞の遊走阻害方法。
  7. MAST205に対するRNA干渉がMAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを用いて行うRNA干渉である請求項6に記載の細胞の遊走阻害方法。
  8. MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項7に記載の細胞の遊走阻害方法。
  9. MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項7に記載の細胞の遊走阻害方法。
  10. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞の遊走阻害剤。
  11. MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項10に記載の細胞の遊走阻害剤:
    (1)MAST205とDCTN1(dynactin 1)の結合、
    (2)MAST205とTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)の結合、
    (3)MAST205とMLK3(mixed liniage kinase 3)の結合、
    (4)MAST205とMKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)の結合、
    (5)MAST205とMKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)の結合、
    (6)MAST205とMKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)の結合、
    (7)MAST205とMKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)の結合、
    (8)MAST205とp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)の結合、
    および
    (9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
  12. MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である請求項11に記載の細胞の遊走阻害剤。
  13. 細胞が癌細胞である請求項10に記載の細胞の遊走阻害剤。
  14. 細胞が内皮細胞である請求項10に記載の細胞の遊走阻害剤。
  15. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを有効成分として含む請求項10に記載の細胞の遊走阻害剤。
  16. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項15に記載の細胞の遊走阻害剤。
  17. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項15に記載の細胞の遊走阻害剤。
  18. 請求項1から9のいずれか1項に記載の細胞の遊走阻害方法を用いることを特徴とする癌の転移抑制方法。
  19. 請求項10から17のいずれか1項に記載の細胞の遊走阻害剤を用いることを特徴とする癌の転移抑制方法。
  20. 請求項10から17のいずれか1項に記載の細胞の遊走阻害剤を含んでなる癌の転移抑制剤。
  21. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)の発現および/または機能を阻害することを特徴とする血管新生の抑制方法。
  22. MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項21に記載の血管新生の抑制方法:
    (1)MAST205とDCTN1(dynactin 1)の結合、
    (2)MAST205とTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)の結合、
    (3)MAST205とMLK3(mixed liniage kinase 3)の結合、
    (4)MAST205とMKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)の結合、
    (5)MAST205とMKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)の結合、
    (6)MAST205とMKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)の結合、
    (7)MAST205とMKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)の結合、
    (8)MAST205とp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)の結合、
    および
    (9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
  23. MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である請求項22に記載の血管新生の抑制方法。
  24. MAST205に対するRNA干渉によりMAST205の発現および/または機能を阻害する請求項21に記載の血管新生の抑制方法。
  25. MAST205に対するRNA干渉がMAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを用いて行うRNA干渉である請求項24に記載の血管新生の抑制方法。
  26. MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項25に記載の血管新生の抑制方法。
  27. MAST205に対する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項25に記載の血管新生の抑制方法。
  28. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)の発現および/または機能を阻害することを特徴とする血管新生の抑制剤。
  29. MAST205の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項28に記載の血管新生の抑制剤:
    (1)MAST205とDCTN1(dynactin 1)の結合、
    (2)MAST205とTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)の結合、
    (3)MAST205とMLK3(mixed liniage kinase 3)の結合、
    (4)MAST205とMKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)の結合、
    (5)MAST205とMKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)の結合、
    (6)MAST205とMKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)の結合、
    (7)MAST205とMKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)の結合、
    (8)MAST205とp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)の結合、
    および
    (9)MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性。
  30. MAST205のセリンスレオニンキナーゼ活性が、DCTN1および/またはTIAM1に対するセリンスレオニンキナーゼ活性である請求項29に記載の血管新生の抑制剤。
  31. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドを有効成分として含む請求項28に記載の血管新生の抑制剤。
  32. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項31に記載の血管新生の抑制剤。
  33. MAST205に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖オリゴヌクレオチドである請求項31に記載の血管新生の抑制剤。
  34. 細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法であって、MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)および/または下記の群から選択される1つ以上の蛋白質とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205と該蛋白質との結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205と該蛋白質との結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法:
    (i)DCTN1(dynactin 1)、
    (ii)TIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)、
    (iii)MLK3(mixed liniage kinase 3)、
    (iv)MKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)、
    (v)MKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)、
    (vi)MKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)、
    (vii)MKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)、
    および
    (viii)p38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)。
  35. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とDCTN1(dynactin 1)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはDCTN1とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とDCTN1の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とDCTN1の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  36. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはTIAM1とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とTIAM1の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とTIAM1の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  37. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とMLK3(mixed liniage kinase 3)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMLK3とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とMLK3の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMLK3の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  38. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とMKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK3とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とMKK3の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK3の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  39. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とMKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK4とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とMKK4の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK4の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  40. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とMKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK6とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とMKK6の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK6の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  41. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とMKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはMKK7とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とMKK7の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とMKK7の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  42. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)の結合を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはp38 MAPKとある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205とp38 MAPKの結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205とp38 MAPKの結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  43. 細胞の遊走を抑制する活性を有する化合物の同定方法であって、MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205のリン酸化活性を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205のリン酸化活性を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  44. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)によるDCTN1(dynactin 1)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはDCTN1とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205によるDCTN1のリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205によるDCTN1のリン酸化を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  45. MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)によるTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)のリン酸化を阻害する化合物の同定方法であって、MAST205および/またはTIAM1とある化合物(被検化合物)とを接触させ、MAST205によるTIAM1のリン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がMAST205によるTIAM1のリン酸化を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
  46. 下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キット:
    ここで、A群は、
    (a)MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)、
    (b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
    (c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなり、
    B群は、
    (e)DCTN1(dynactin 1)およびTIAM1(T−cell lymphoma invasion and metastasis 1)から選ばれるいずれか1の蛋白質、
    (f)上記(e)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
    (g)上記(f)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (h)上記(g)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなる。
  47. 下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キット:
    ここで、A群は、
    (a)MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)、
    (b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
    (c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなり、
    B群は、
    (i)MLK3(mixed liniage kinase 3)、MKK3(mitogen−activated protein kinase kinase 3)、MKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)、MKK6(mitogen−activated protein kinase kinase 6)およびp38 MAPK(p38 mitogen−activated protein kinase)から選ばれるいずれか1の蛋白質、
    (j)上記(i)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
    (k)上記(j)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (l)上記(k)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなる。
  48. 下記A群から選択される1つ以上の成分と、下記B群から選択される1つ以上の成分とを有してなる試薬キット:
    ここで、A群は、
    (a)MAST205(microtubule associated testis specific ST protein kinase−205kDa)、
    (b)MAST205をコードするポリヌクレオチド、
    (c)上記(b)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (d)上記(c)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなり、
    B群は、
    (m)MLK3(mixed liniage kinase 3)、MKK4(mitogen−activated protein kinase kinase 4)、MKK7(mitogen−activated protein kinase kinase 7)およびJNK(c−Jun N−terminal kinase)から選ばれるいずれか1の蛋白質、
    (n)上記(m)の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
    (o)上記(n)のポリヌクレオチドを含有する組み換えベクター、および
    (p)上記(o)の組み換えベクターを含有する形質転換体、
    からなる。
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