このように、適合値の書き込まれたマップや数式を用いることによって、単段噴射(メイン噴射のみ)の場合と同様、多段噴射の場合も、都度のエンジン運転状態に適した噴射態様(噴射パターン)で、エンジンに対して燃料の供給を行うことが可能になる。しかしながら、こうした装置を用いて多段噴射を行った場合には、短いインターバル(間隔)で連続的に噴射が行われることによる影響で、単段噴射の場合と比べて、目標のエンジン運転状態に対する制御誤差がより大きくなってしまうことが、発明者によって確認されている。例えば連続的に噴射された各噴射(特にメイン噴射以外の微量のサブ噴射)は、その噴射の前後で噴射を行ったことにより様々な影響を受ける。その1つが燃料噴射弁(例えばインジェクタ)の噴射特性、特にその個体差に係るものである。
すなわち、例えばエンジン制御システムの各要素を大量生産して大量販売しようとする場合には通常、例えばエンジン間で、また多気筒エンジンの場合は気筒(シリンダ)間でも、上記燃料噴射弁を含めた各種の制御部品の特性について幾らかの個体差が生じることになる。しかし大量生産する場合にその全て(例えば大量生産されて車両に搭載された全てのシリンダ)について、個体差も加味した適合値(最適な噴射パターン)を求めることは、現行の生産システムで考えた場合、手間がかかり過ぎて実情に即したものとはいえない。したがって、適合値の書き込まれたマップや数式を用いた場合でも、個体差による影響の全てが考慮された制御を行うことは困難である。
しかも上述の多段噴射を行う場合には、単段噴射の場合とは異なり、通常の噴射特性とは別に、多段噴射(複数回の連続噴射)に係る噴射特性(噴射間の影響など)についても、個体差の影響を受けることが発明者によって確認されている。したがって、上記多段噴射を通じて狙いどおりのエンジン運転状態を高い精度で得るためには、単段噴射の噴射特性とは別に、多段噴射の噴射特性も考える必要がある。このため、前述した特許文献1に記載される装置を含めた従来の装置では、特に多段噴射の制御に適用した場合において、エンジン運転状態の制御を高い精度で行うことが困難となる。
また、噴射制御を高い精度で行う場合には、制御部品の経年変化等に起因する特性変化も無視することができないものとなる。この点、前述した特許文献1に記載される装置を含めた従来の装置では、初期の段階において高い精度で最適値が得られたとしても、その後の特性変化の影響については知ることができない。このため、時間の経過と共に最適値からのずれが懸念されるようになる。またこの場合において、予め実験値等により劣化係数(経時的な劣化の度合に係る係数)の適合値を求めておき、これをマップや数式等として保持する構成なども考えられる。しかし、こうした経時的な特性変化についても部品ごとに上述の個体差があるため、やはり完全にその影響を消し去ることは困難である。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を取得することのできる燃料噴射特性検出装置及びエンジン制御システムを提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するための手段、及び、その作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明では、対象エンジンに対して燃料を噴射供給する際の燃料噴射特性を検出する燃料噴射特性検出装置として、所定の燃料噴射弁により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内又はその吸気通路又は排気通路へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を逐次検出することにより同燃料噴射弁の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンを検出する脈動パターン検出手段と、前記脈動パターン検出手段により検出された脈動パターン及びその規則性に基づいて、同パターンの未検出部分を導出する未検出パターン導出手段と、を備えることを特徴とする。
燃料噴射弁の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターン(燃料圧力の推移)を検出する場合には、その全ての部分で高い精度の検出を行うことができるとは限らない。この点、上記請求項1に記載の装置であれば、未検出パターン導出手段を備えることにより、高い精度で検出された部分(検出部分)から、他の未検出部分を導き出すことが可能になる。そしてこれにより、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を把握することができるようになる。
そしてこの場合、請求項2に記載の発明のように、上記請求項1に記載の装置における前記未検出パターン導出手段についてはこれを、前記エンジンの所定シリンダで1燃焼サイクル中に行われた多段燃料噴射のうち、その最終段ではない所定段目の特定噴射について、前記脈動パターン検出手段により検出された前記特定噴射のみによる脈動パターン及びその規則性に基づいて、その後ろに続く前記特定噴射による脈動とその後段の噴射による脈動とが干渉する部分の脈動パターンのうち、前記特定噴射のみによる脈動パターンを、前記未検出部分として導出するものとすることが有効である。
発明者の実験等では、多段燃料噴射に係る脈動パターン(燃料圧力の波形)を検出した場合、その検出結果において、前段噴射に係る脈動パターンと後段噴射に係る脈動パターンとが互いに干渉してしまっていることが多かった。しかし上記請求項2に記載の装置であれば、前記未検出パターン導出手段を備えることにより、こうした場合でも、その干渉部分について、前段噴射のみによる脈動パターンを導出することが可能になる。そしてその脈動パターンにより各種の信号処理を行って、より詳細な噴射特性を取得することが可能になる。
なおこの場合、前記未検出パターン導出手段にて用いられる脈動パターン(検出パターン)のパターン開始点(基点)が重要になる。したがって、上記請求項2に記載の装置において、前記未検出パターン導出手段にて用いられる脈動パターン(検出パターン)が、所定のタイミングをパターン開始点(基点)とするものであることが有効である。より具体的には、前記特定噴射の噴射開始タイミング、前記特定噴射の噴射終了タイミング、前記特定噴射の噴射終了後に所定の条件が満足されたタイミング、等々を、上記検出パターンのパターン開始点(基点)とすることが有効である。
請求項3に記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の装置において、前記未検出パターン導出手段にて用いられる脈動パターンの規則性に、同パターンの振幅及び周期の少なくとも一方の、時間経過に伴う変化率又は伝播に伴う変化率が含まれることを特徴とする。
一般に波動は、エネルギーの放出により、伝播距離が長くなるほど、また時間が経過するほど、振幅がより小さくなり、また周期がより長くなる。そして、発明者の実験等によれば、その時の変化率(振幅の減衰率や周期の伸長率)は略一定になる。すなわち、上記請求項3に記載の装置のように、こうした規則性を利用することで、上記未検出部分をより容易且つ的確に導出することが可能になる。なお、発明者の実験等により、周期の伸長率についてはこれが、ほとんどの噴射態様で、略「0」になることが確認された。したがって、演算処理の単純化を図る上では、周期は一定であるとして(「周期=一定」とみなして)、上記未検出部分の導出を行うことが有効である。また、振幅の減衰率は、隣り合う極大点及び極小点の振幅比率として算出することが有効である。
請求項4に記載の発明では、上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置における前記未検出パターン導出手段についてはこれを、前記脈動パターンの未検出部分について、節及び極大点及び極小点の少なくとも1つを基準点として求めるとともに、その基準点をもとに補間及び外挿の少なくとも一方を行うことにより、該脈動パターンの未検出部分を導出するものとすることが有効である。こうすることで、高い精度で効率よく上記未検出部分を導出することが可能になる。なお、上記脈動パターン(圧力波形)の、節、極大点、極小点は、燃料圧力の時間微分値に基づいて検出する(極大点、極小点=微分値「0」、節=微分値最大)ことも有効である。
なお、未検出部分の導出(推定)を高い精度で行うためには、より正確な脈動パターンの規則性を取得することが望ましい。一般に、上記脈動パターンのような波は、極小点、節(第1の節)、極大点、節(第2の節)を含んで構成される。そして、発明者の実験等では、これら4つのうち、3つ以上を検出することができれば、上記未検出部分を高い精度で導出(推定)できることが確認された。したがって、上記未検出パターン導出手段にて用いられる脈動パターンは、「3/4」周期以上(より好ましくは「1」周期以上)のパターンであることが望ましい。
請求項5に記載の発明では、上記請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置において、前記脈動パターンが、基準レベルを境に大側及び小側に交互に振動する圧力波形からなり、前記未検出パターン導出手段にて用いられる脈動パターンの規則性に、前記基準レベルの傾向が含まれることを特徴とする。
基準レベルは、いわば節部分の圧力値に相当するものである。したがって、未検出部分を導出する上では、その基準レベルの傾向を知ることが重要になる。この点、上記請求項5に記載の装置であれば、検出部分における基準レベルの傾向から、未検出部分における基準レベルの傾向を推定することができる。そしてこれにより、上記未検出部分をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
また、発明者の実験等によれば、基準レベルの傾向は、前記燃料供給システムの燃料リーク量や、前記燃料噴射弁に対して燃料を供給する燃料ポンプの圧送量(燃料吐出量)によって変化する。例えば、燃料リーク量が大きいほど基準レベルは下降傾向になる(圧力下降の傾き(単位時間あたりの燃料圧力の減少量)が大きくなる)ことが確認された。また例えば、燃料ポンプの圧送タイミングと噴射タイミングとが重なった場合には、燃料ポンプの圧送量が大きくなる。そして、噴射時の燃料ポンプの圧送量が大きいほど基準レベルは上昇傾向になる(圧力上昇の傾き(単位時間あたりの燃料圧力の増大量)が大きくなる)ことが確認された。したがって、上記請求項5に記載の装置に関しては、請求項6に記載の発明のように、前記未検出パターン導出手段を、前記燃料供給システムの燃料リーク量と、前記燃料噴射弁に対して燃料を供給する燃料ポンプの圧送量との少なくとも一方に基づいて、前記基準レベルの傾向を検出するものとすることが有効である。こうすることで、上記未検出部分をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
請求項7に記載の発明では、上記請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置において、前記燃料供給システムが、前記燃料噴射弁へ供給する燃料を蓄圧保持するコモンレールと、該コモンレールから前記燃料噴射弁の燃料噴射口までの燃料通路のうち、前記コモンレールの燃料吐出口近傍よりも燃料下流側に位置する所定箇所についてその燃料通路内を流れる燃料の圧力を検出する一乃至複数の燃料圧力センサと、を備えるコモンレール式燃料噴射システムであり、前記脈動パターン検出手段が、前記燃料圧力センサの少なくとも1つの出力に基づいて、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を逐次検出するものであることを特徴とする。
上記特許文献1に記載の装置も含め、コモンレール式燃料噴射システムでは一般に、コモンレール内の圧力(レール圧)を測定するレール圧センサのみにより上記燃料噴射弁の噴射圧力を制御している。したがって、こうした装置では、噴射動作に伴う圧力変動(脈動パターン)が、燃料噴射弁の燃料噴射口(噴孔)からコモンレールに到達するまでに減衰してしまい、レール圧の変動としては現れない。これに対し、上記請求項7に記載の装置では、レール圧センサ(コモンレール及びその近傍に設けられたセンサ)よりも燃料噴射口に近い位置で噴射圧力を測定する燃料圧力センサを備える。そのため、この圧力センサにより、圧力変動(脈動パターン)が減衰する前に、これを的確に捉えることが可能になる。したがって、このような装置によれば、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を示す脈動パターン(うねり特性)を高い精度で検出することが可能になる。
ちなみに、圧力変動(脈動パターン)がだいぶ減衰されるとはいえ、コモンレール内の圧力(レール圧)によっても、ある程度の圧力変動態様(脈動特性)を検出することは可能である。具体的には、例えば圧力推移の傾き(圧力の時間微分値)を算出することにより、所定の噴射に係る噴射率をその微分値に基づいて推定することが可能である。しかしこの構成は、いわば減衰前の圧力値を微分値として推定するものであり、上記噴射率の推移、ひいてはその噴射率の積分値に相当する噴射量を、高い精度で検出することは難しい。これに対し、上記請求項7に記載の装置では、上記燃料圧力センサにより減衰前の圧力値を直接的に測定することが可能である。このため、例えば所定の噴射に係る噴射率の推移や噴射量を求める場合には、その圧力測定値から直接的に噴射率の推移、ひいては噴射量を求めることで、上記微分値を介した構成よりも高い精度でそれら噴射特性を検出することが可能になる。
なお、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を逐次検出する場合には、前記燃料圧力センサのセンサ出力を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡が描かれる程度に短い間隔にて逐次取得することが有効である。より具体的には、同燃料圧力センサのセンサ出力を「50μsec」よりも短い間隔で逐次取得することが有効である。
上記脈動パターンは通常、圧力推移波形として検出することができる。そして、こうした圧力推移波形を高い精度で的確に検出するためには、上記構成のように、前記燃料圧力センサのセンサ出力を、その圧力推移波形が把握可能な程度に短い間隔で逐次取得する構成が有益である。そして発明者の実験等によれば、「50μsec」よりも短い間隔で上記センサ出力を逐次取得する構成が、上述した脈動パターン、ひいては圧力変動の傾向を的確に捉える上で特に有効である。ただし、高い精度で上記脈動パターンを得る上では、より短い間隔でセンサ出力を逐次取得する構成がより好ましい。したがって通常、上記センサ出力(燃料圧力信号)の取得間隔は、センサ出力の取得回数が増えることによる不都合、例えば演算負荷の増大等の不都合を加味しつつ、より短い間隔に設定することが望ましい。
また、前記燃料圧力センサの配設位置に鑑みた場合には、例えば次のような構成が有効である。
・前記燃料圧力センサの少なくとも1つ(複数ある場合はその一部又は全部)が、前記燃料噴射弁の内部又は近傍に設けられた構成。
・前記燃料圧力センサの少なくとも1つ(複数ある場合はその一部又は全部)が、前記燃料噴射弁の燃料取込口に設けられた構成。
・前記燃料圧力センサの少なくとも1つ(複数ある場合はその一部又は全部)が、前記コモンレールの燃料吐出側に接続された配管のうち、前記コモンレールよりも前記燃料噴射弁の燃料噴射口の方に近い位置に設けられた構成。
等々の構成とすることが有効である。
また、前記燃料圧力センサに加えて、さらに前記コモンレール内の圧力を測定するレール圧センサを備える構成とすることも有効である。こうした構成であれば、上記燃料圧力センサによる圧力測定値に加え、コモンレール内の圧力(レール圧)も取得することができるようになり、より高い精度で燃料圧力を検出することができるようになる。
請求項8に記載の発明では、上記請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置において、前記未検出パターン導出手段により導出された脈動パターンの未検出部分に基づいて、前記エンジンの所定シリンダで1燃焼サイクル中に行われた多段燃料噴射に係る脈動パターンから、その多段燃料噴射の2段目以降の所定段に相当するn段目以降の燃料噴射だけ(例えば4段噴射の2段目以降だけ、あるいは6段噴射の4段目以降だけ、さらにはn段目が最終段であればその最終段の噴射だけ、等々)に係る脈動パターンを抽出する脈動パターン抽出手段を備えることを特徴とする。
発明者の実験等では、多段燃料噴射に係る脈動パターン(燃料圧力の波形)を検出した場合、その検出結果において、前段噴射に係る脈動パターンと後段噴射に係る脈動パターンとが互いに干渉してしまっていることが多かった。そしてこの干渉により、後段噴射の噴射開始タイミングでの急峻な圧力変動(燃料噴射開始に伴う燃料圧力低下)が識別困難となり、その脈動パターンから噴射開始タイミングを知ることは難しかった。この点、上記請求項8に記載の装置では、脈動パターン抽出手段を備えることにより、前段噴射からの干渉の影響を取り除いた脈動パターンが得られるようになる。詳しくは、例えば前記未検出パターン導出手段により脈動パターンの未検出部分として上記干渉部分を導出してこれを、上記多段燃料噴射に係る脈動パターンとの比較や適宜の演算等に用いることによって、その多段燃料噴射に係る脈動パターンから、n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出することができる。そしてこれにより、n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンが高い精度で求められ、ひいてはn段目の噴射に係る噴射タイミング等を高い精度で検出することが可能になる。
より具体的には、上記請求項8に記載の装置において、前記脈動パターン抽出手段についてはこれを、請求項9に記載の発明のように、前記未検出パターン導出手段により導出された脈動パターンの未検出部分に基づいて、前記n段よりも小さい段数の燃料噴射に係る脈動パターンを求めるとともに、そのn段よりも小さい段数の燃料噴射に係る脈動パターンと前記多段燃料噴射に係る脈動パターンとを比較(例えば減算又は除算等)することによって、前記n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出するものとすることで、上記抽出処理を、より容易且つ的確に実現することができる。
そして、上記請求項8又は9に記載の装置において、脈動パターン抽出手段により抽出された脈動パターンは、燃料噴射特性の補正に用いることが有効である。
すなわち請求項10に記載の発明のように、前記脈動パターン抽出手段により抽出されたn段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンに基づいて、前記燃料噴射弁に対する指令信号(例えば噴射タイミングや噴射時間に係る指令信号)を補正する補正手段を備える構成とすることで、より高い精度での燃料噴射制御が可能になる。
また、請求項11に記載の発明のように、前記燃料噴射弁により2段目以降の所定段に相当するn段目の噴射を実行している時に、前記脈動パターン抽出手段によりそのn段目の噴射だけに係る脈動パターンを抽出するとともに、その抽出された脈動パターンに基づいて該n段目の噴射の噴射終了タイミングを決定する手段を備える構成とすることも有効である。
現在開発段階にある直動式インジェクタ等が将来実用化され、且つ、演算速度も高まれば、時々の燃料圧力を検出しつつ前記脈動パターン抽出手段による脈動パターン抽出についてもこれを同時に行うことが可能になる。そして、その高い同時性で(リアルタイムに)検出された脈動パターンに基づいて都度の噴射終了タイミングを決定するとともに、直動式インジェクタの高速動作を通じてその噴射終了タイミングで都度の噴射を終了させることにより、高精度の燃料噴射が可能になる。
ところで、業種や用途等によっては、上記燃料噴射特性検出装置の単位ではなく、より大きな単位で、例えばこの装置をエンジン制御に用いる場合には、該燃料噴射特性検出装置だけでなく他の関連装置(例えばセンサやアクチュエータ等の制御に係る各種装置)も含んで構築されるエンジン制御システムとして扱われる場合がある。上記請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置も、用途の1つとして、エンジン制御システムに組み込んで用いられることが想定される。請求項12に記載の発明は、そうした用途に対応するものであり、すなわちエンジン制御システムとして、上記請求項1〜11のいずれか一項に記載の燃料噴射特性検出装置と、該燃料噴射特性検出装置の適用対象として、前記燃料噴射弁、及び、同燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力センサを備える燃料供給システムと、該燃料供給システムの作動に基づいて、前記エンジンに関する所定の制御(例えばエンジン出力軸のトルク制御や回転速度制御など)を行うエンジン制御手段と、を備えることを特徴とする。上記請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置は、エンジン制御システムに組み込んで用いて特に有益である。
以下、本発明に係る燃料噴射特性検出装置及びエンジン制御システムを具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の装置は、例えば4輪自動車用エンジン(内燃機関)を対象にするコモンレール式燃料噴射システム(高圧噴射燃料供給システム)に搭載されている。すなわちこの装置も、先の特許文献1に記載の装置と同様、ディーゼルエンジンのエンジンシリンダ内の燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する際に用いられる。
はじめに、図1を参照して、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射制御システム(車載エンジンシステム)の概略について説明する。なお、本実施形態のエンジンとしては、4輪自動車用の多気筒(例えば直列4気筒)エンジンを想定している。詳しくは、4ストロークのレシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)である。このエンジンでは、吸排気弁のカム軸に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。図中のインジェクタ20は、燃料タンク10側から、それぞれシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力(検出結果)を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給系を構成する各装置の駆動を制御するように構成されている。ECU30は、吸入調整弁11cに対する電流供給量を調整して燃料ポンプ11の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール12内の燃料圧力(燃圧センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、コモンレール12、及びインジェクタ20の順に配設されている。このうち、燃料タンク10と燃料ポンプ11とは、燃料フィルタ10bを介して配管10aにより接続されている。
ここで、燃料タンク10は、対象エンジンの燃料(軽油)を溜めておくためのタンク(容器)である。また、燃料ポンプ11は、高圧ポンプ11a及び低圧ポンプ11bを有し、低圧ポンプ11bによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11aにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11aに送られる燃料圧送量、ひいては燃料ポンプ11の燃料吐出量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)11cによって調量されるようになっている。すなわち、この燃料ポンプ11では、吸入調整弁11c(例えば非通電時に開弁するノーマリオン型の調整弁)の駆動電流量(ひいては弁開度)を調整することで、同ポンプ11からの燃料吐出量を所望の値に制御することができるようになっている。
燃料ポンプ11を構成する2種のポンプのうち、低圧ポンプ11bは、例えばトロコイド式のフィードポンプとして構成されている。これに対し、高圧ポンプ11aは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カム(エキセントリックカム)にて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。いずれのポンプも、駆動軸11dによって駆動されるものである。ちなみにこの駆動軸11dは、対象エンジンの出力軸であるクランク軸41に連動し、例えばクランク軸41の1回転に対して「1/1」又は「1/2」等の比率で回転するようになっている。すなわち、上記低圧ポンプ11b及び高圧ポンプ11aは、対象エンジンの出力によって駆動される。
こうした燃料ポンプ11により燃料タンク10から燃料フィルタ10bを介して汲み上げられた燃料は、コモンレール12へ加圧供給(圧送)される。そして、コモンレール12は、その燃料ポンプ11から圧送された燃料を高圧状態で蓄えてこれを、シリンダごとに設けられた配管14(高圧燃料通路)を通じて、各シリンダ#1〜#4のインジェクタ20(燃料噴射弁)へそれぞれ供給する。これらインジェクタ20(#1)〜(#4)の燃料排出口は、それぞれ余分な燃料を燃料タンク10へ戻すための配管18とつながっている。図2に、上記インジェクタ20の詳細構造を示す。なお、上記4つのインジェクタ20(#1)〜(#4)は基本的には同様の構造(例えば図2に示す構造)となっている。いずれのインジェクタ20も、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室Cd(コマンド室)を介して行われる。
同図2に示されるように、このインジェクタ20は、内開弁タイプの燃料噴射弁であり、非通電時に閉弁状態となる、いわゆるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。このインジェクタ20には、コモンレール12から高圧燃料が送られてくるようになっている。また、このインジェクタ20の燃料取込口には、燃圧センサ20a(図1も併せ参照)が設けられており、同燃料取込口における燃料圧力(インレット圧)の随時の検出が可能とされている。具体的には、この燃圧センサ20aの出力により、当該インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンや、燃料圧力レベル(安定圧力)、燃料噴射圧力等を検出(測定)することができるようになっている。
このインジェクタ20の燃料噴射に際しては、二方電磁弁を構成するソレノイド20bに対する通電状態(通電/非通電)に応じて、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル20cの背圧に相当)が増減される。そして、その圧力の増減により、スプリング20d(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル20cが弁筒内(ハウジング20e内)を往復動(上下)することで、噴孔20f(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル20cが着座又は離座するテーパ状のシート面)で開閉される。ここで、ニードル20cの駆動制御は、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)制御を通じて行われる。すなわち、ニードル20cの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からパルス信号(通電信号)が送られる。そして、ニードル20cのリフト量(シート面からの離間度合)が、そのパルス幅(通電時間に相当)に基づいて可変制御され、その制御に際しては、通電時間が長いほどリフト量が大きくなり、リフト量が大きくなるほど噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)が大きくなる。ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール12からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管18(図1)を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻されることによって行われる。
このように、上記インジェクタ20は、弁本体(ハウジング20e)内部での所定の往復動作に基づいて噴孔20fまでの燃料供給通路を開閉(開放・閉鎖)することにより当該インジェクタ20の開弁及び閉弁を行うニードル20cを備える。そして、非駆動状態では、定常的に付与される閉弁側への力(スプリング20dによる伸張力)でニードル20cが閉弁側へ変位するとともに、駆動状態では、駆動力が付与されることにより上記スプリング20dの伸張力に抗してニードル20cが開弁側へ変位するようになっている。そしてこの際、それら非駆動状態と駆動状態とでは、ニードル20cのリフト量が略対称に変化する。
本実施形態では、上記インジェクタ20(#1)〜(#4)の近傍、特にその燃料取込口に対して、それぞれ燃圧センサ20aが設けられている。そして、これら燃圧センサ20aの出力に基づいて、所定の噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターン(うねり特性)を高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
また、図示しない車両(例えば4輪乗用車又はトラック等)には、上記各センサのほかにもさらに、車両制御のための各種のセンサが設けられている。例えば対象エンジンの出力軸であるクランク軸41の外周側には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ42(例えば電磁ピックアップ)が、同クランク軸41の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度)等を検出するために設けられている。また、アクセルペダル(運転操作部)には、同ペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ44が、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出するために設けられている。
こうしたシステムの中で、本実施形態の燃料噴射特性検出装置として機能するとともに、電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU30である。このECU30(エンジン制御用ECU)は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記吸入調整弁11cやインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。また、このECU30に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリとしてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)やバックアップRAM(ECU30の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)、さらにはA/D変換器やクロック発生回路等の信号処理装置、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等といった各種の演算装置、記憶装置、信号処理装置、通信装置、及び電源回路等によって構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
本実施形態では、ECU30が、随時入力される各種のセンサ出力(検出信号)に基づいて、その時に出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク)、ひいてはその要求トルクを満足するための燃料噴射量を算出する。こうして、インジェクタ20の燃料噴射量を可変設定することで、各シリンダ内(燃焼室)での燃料燃焼を通じて生成される図示トルク(生成トルク)、ひいては実際に出力軸(クランク軸41)へ出力される軸トルク(出力トルク)を制御する(要求トルクへ一致させる)ようになっている。すなわち、このECU30は、例えば時々のエンジン運転状態や運転者によるアクセルペダルの操作量等に応じた燃料噴射量を算出し、所望の噴射時期に同期して、その燃料噴射量での燃料噴射を指示する噴射制御信号(駆動量)を上記インジェクタ20へ出力する。そしてこれにより、すなわち同インジェクタ20の駆動量(例えば開弁時間)に基づいて、対象エンジンの出力トルクが目標値へ制御されることになる。本実施形態では、こうした制御を行う部分(詳しくはECU30に搭載されるプログラム)が「エンジン制御手段」に相当する。
なお周知のように、ディーゼルエンジンにおいては、定常運転時、新気量増大やポンピングロス低減等の目的で、同エンジンの吸気通路に設けられた吸気絞り弁(スロットル弁)が略全開状態に保持される。したがって、定常運転時の燃焼制御(特にトルク調整に係る燃焼制御)としては燃料噴射量のコントロールが主となっている。以下、図3を参照して、本実施形態に係る燃料噴射制御の基本的な処理手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、対象エンジンの各シリンダについてそれぞれ1燃焼サイクルにつき1回の頻度で順に実行される。すなわち、このプログラムにより、1燃焼サイクルで休止シリンダを除く全てのシリンダに燃料の供給が行われることになる。
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS11で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度(クランク角センサ42による実測値)及び燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、さらには運転者によるその時のアクセル操作量(アクセルセンサ44による実測値)等を読み込む。そして、続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて(必要に応じて外部負荷による損失等も含めた要求トルクを別途算出して)噴射パターンを設定する。例えば単段噴射の場合にはその噴射の噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合にはトルクに寄与する各噴射の総噴射量(総噴射時間)が、それぞれ上記出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク、いわばその時のエンジン負荷に相当)に応じて可変設定される。そして、その噴射パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令値(指令信号)が設定されることになる。これにより、車両の状況等に応じて、前述したパイロット噴射、プレ噴射、アフタ噴射、ポスト噴射等が適宜メイン噴射と共に実行されることになる。
なお、この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(噴射制御用マップ、数式でも可)及び補正係数に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め上記所定パラメータ(ステップS11)の想定される範囲について実験等により最適噴射パターン(適合値)を求め、そのマップに書き込んでおく。ちなみに、この噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、並びにそれら各噴射の噴射時期(噴射タイミング)及び噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。そして、このマップで取得された噴射パターンを、別途更新(詳しくは後述)されている補正係数(例えばECU30内のEEPROMに記憶)に基づいて補正する(例えば「設定値=マップ上の値/補正係数」なる演算を行う)ことで、その時に噴射すべき噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応した上記インジェクタ20に対する指令信号を得る。なお、上記噴射パターンの設定(ステップS12)には、同噴射パターンの要素(上記噴射段数等)ごと別々に設けられた各マップを用いるようにしても、あるいはこれら噴射パターンの各要素を幾つか(例えば全て)まとめて作成したマップを用いるようにしてもよい。
こうして設定された噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応する指令値(指令信号)は、続くステップS13で使用される。すなわち、同ステップS13では、その指令値(指令信号)に基づいて(詳しくは上記インジェクタ20へその指令信号を出力して)、同インジェクタ20の駆動を制御する。そして、このインジェクタ20の駆動制御をもって、図3の一連の処理を終了する。
本実施形態では、図3のステップS12で用いられる補正係数(厳密には複数種の係数のうちの所定の係数)が、逐次更新されている。図4に、その補正係数の更新に係る一連の処理をフローチャートとして示す。なお、この図4に示す一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定処理間隔で(例えば「20μsec」間隔で)逐次実行される。また、同図4の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図4に示すように、この一連の処理に際しては、まずステップS21で、いずれかのシリンダで多段噴射が行われるか否かに基づいて、燃圧データ(時々の燃料圧力)を記録する必要があるか否かを判断する。詳しくは、燃圧データ記録開始前であれば、所定時間内に多段噴射が行われるか否かを判断し、多段噴射が行われる旨判断された場合には、記録の必要があるとして、続くステップS22へ進む。また、燃圧データ記録開始後であれば、記録が完了したか否かを判断し、まだ記録が完了していない(記録中である)旨判断された場合には、まだ記録の必要があるとして、続くステップS22へ進む。他方、同ステップS21で多段噴射が行われない(記録の必要がない)旨判断された場合には、この図4の一連の処理を終了する。すなわち、この図4の一連の処理では、ステップS21で記録の必要がある旨判断された場合にのみ、ステップS22以降の処理を実行する。
ステップS22では、燃圧センサ20aによりその時の燃料圧力を実測するとともに、その実測データを所定の記憶装置(第1記憶装置、例えばECU30内のRAM等)に格納する。そして、続くステップS23では、記録完了の条件が成立しているか否かを判断する。こうして、ステップS23で記録完了の条件が成立している旨判断されるまでは、この判断処理に続けて図4の一連の処理を終了しつつ先のステップS22で継続的にその時々の燃料圧力(燃圧データ)を記録し続けるようになっている。なおここで、上記記録完了の条件としては、所望のデータが得られたこと(データ取得完了のタイミング)を示すような条件を設定しておくことが望ましい。例えば上記ステップS21で対象とする噴射開始の少し前から記録を開始するとともに、その噴射が終了して燃料圧力の変動が十分減衰したことを条件に、その記録を終了する。
ステップS23で記録完了の条件が成立している旨判断された場合には、続くステップS24で、上記ステップS22の処理を通じて検出された脈動パターン及びその規則性(振幅の減衰率など)に基づいて、同パターンの未検出部分を導出(推定)する。詳しくは、多段噴射では、前段噴射に係る脈動パターンと後段噴射に係る脈動パターンとが互いに干渉して、後段噴射の噴射開始タイミングでの急峻な圧力変動(燃料噴射開始に伴う燃料圧力低下)を識別することが難しくなることが多い。そこで、その前段噴射(特定噴射)について、上記ステップS22の処理を通じて検出された前段噴射のみによる脈動パターン及びその規則性に基づいて、その後ろに続く脈動パターン、すなわち前段噴射による脈動とその後段の噴射による脈動とが干渉する部分の脈動パターンについて、そのうちの前段噴射のみによる脈動パターンを導出(推定)する。なお、特定噴射としては、最終段ではない任意の噴射を設定することができる。
以下、図5〜図7を参照して、この脈動パターン(圧力波形)の推定処理について説明する。なお、図5は、図4中のステップS24の処理内容の詳細を示すフローチャート、図6は、図5中のステップS35の処理内容の詳細を示すフローチャートである。また、図7は、圧力波形の推定態様を示すタイミングチャートである。ここでは、同図7に示す圧力波形のうち、上記ステップS22の処理を通じて検出(実測)された部分、すなわち図中に実線L11にて示す実測部分(タイミングt16までの期間)の脈動パターンに基づいて、その後ろに続く部分、すなわち図中に破線L12にて示す未検出部分(干渉部分に相当、タイミングt16以降の期間)の脈動パターンを推定する場合について説明する。ちなみに、この脈動パターンは、図中に一点鎖線TR1(脈動傾向に相当)にて示す基準圧力P0(基準レベル)を境に、その大側及び小側に交互に振動する圧力波形である。
図5の処理は、図4に示す一連の処理において、先のステップS24の処理が実行されることにより実行されるものである。はじめに、この図5の処理においては、ステップS31〜S34で、上記ステップS22の処理を通じて検出(実測)された燃圧データ、すなわち圧力波形実測部分(図7の実線L11)に基づいて、圧力波形未検出部分(図7の破線L12)を推定するために必要となる所望のデータを得る。
まずステップS31で、圧力波形実測部分(実線L11)の基点データとして、噴射終了(タイミングt12)後の最初の節(基点)に関する波形データ、すなわちタイミングt13とその時の燃料圧力P0(図7)とを取得する。次いで、続くステップS32で、基点(タイミングt13)から1周期に相当するタイミングt16(図7)を取得する。そして、さらに続くステップS33では、基点から1周期の間(期間t13〜t16)における極小点及び極大点について、それぞれそのタイミングとその時の燃料圧力値とを取得する。すなわち、極小点に関する波形データとして、タイミングt14及び燃料圧力P1(図7)を、極大点に関する波形データとして、タイミングt15及び燃料圧力P2(図7)をそれぞれ取得する。
続くステップS34では、これらステップS31〜S33で取得したデータに基づいて、当該圧力波形の規則性に相当する変化率K0(振幅の減衰率)を算出する。詳しくは、上記極小点(タイミングt14)の振幅ΔP1(=|P0−P1|、図7)と上記極大点(タイミングt15)の振幅ΔP2(=|P0−P2|、図7)との比率として、変化率K0(=ΔP2/ΔP1)を求める。
続くステップS35では、上記ステップS31〜S34で取得したデータに基づいて、タイミングt16以降の部分、すなわち圧力波形未検出部分(図7の破線L12)を推定する。図6に、この推定演算処理の詳細をフローチャートとして示す。なお、この図6の処理は、所望の脈動パターンが得られるまで(所定の推定完了条件が成立するまで)繰り返し実行される。ここでは、基点から2周期目のデータを取得する場合を例にとって、この推定演算処理についての説明を行う。
同図6に示すように、この一連の処理においては、極小点、節(第1の節)、極大点、節(第2の節)の順に、波形データを求めるようにしている。
すなわち、まずステップS41で、次の極点(2周期目の極小点)に関する波形データを取得する。詳しくは、直前の極点(タイミングt15の極大点)の振幅ΔP2と、図5のステップS34で算出した変化率K0とに基づいて、これら両値の乗算値として2周期目の極小点の振幅ΔP3(=ΔP2×K0)を算出する。そして、燃料圧力P0よりも振幅ΔP3だけ小さい圧力値として、その極小点での燃料圧力P3(=P0−ΔP3、図7)を算出する。また一方、2周期目の極小点のタイミングt17(図7)は、タイミングt16(ステップS32にて算出)と周期T0(=t16−t13、タイミングt16とタイミングt13との差分)とに基づいて算出する。詳しくは、タイミングt16に対して4分の1周期(=T0/4)を足した(加算した)時刻を、タイミングt17(=t16+(T0/4))とする。
続くステップS42では、次の節(2周期目の第1の節)に関する波形データを取得する。詳しくは、この第1の節の燃料圧力は、燃料圧力P0(図7)に等しい。また、この第1の節のタイミングt18(図7)は、タイミングt16(ステップS32にて算出)に対して2分の1周期(=T0/2)を足した(加算した)時刻(=t16+(T0/2))として算出する。
続くステップS43では、次の極点(2周期目の極大点)に関する波形データを取得する。詳しくは、直前の極点(タイミングt17の極小点)の振幅ΔP3と、図5のステップS34で算出した変化率K0とに基づいて、これら両値の乗算値として2周期目の極大点の振幅ΔP4(=ΔP3×K0)を算出する。そして、燃料圧力P0よりも振幅ΔP4だけ大きい圧力値として、その極大点での燃料圧力P4(=P0+ΔP4、図7)を算出する。また一方、2周期目の極大点のタイミングt19(図7)は、タイミングt16(ステップS32にて算出)と周期T0とに基づいて算出する。詳しくは、タイミングt16に対して4分の3周期(=(3/4)×T0)を足した(加算した)時刻を、タイミングt19(=t16+(3/4)×T0)とする。
続くステップS44では、次の節(2周期目の第2の節)に関する波形データを取得する。詳しくは、この第2の節の燃料圧力は、燃料圧力P0(図7)に等しい。また、この第2の節のタイミングt20(図7)は、タイミングt16(ステップS32にて算出)に対して1周期(=T0)を足した(加算した)時刻(=t16+T0)として算出する。
こうして基点から2周期目のデータを取得することができる。さらに、3周期目以降のデータも同様に、すなわち3周期目は2周期目のデータに基づいて、4周期目は3周期目のデータに基づいて、…というように、上記図6の処理(ステップS41〜S44)を繰り返し実行することで順に算出することができる。なお、発明者の実験等により、圧力波形の周期は略一定(≒周期T0)となることが確認されている。そのため、これら各点(極小点、第1の節、極大点、第2の節)のデータさえ求めることができれば、各データ間を補間することで、脈動パターンを取得することができる。
図4のステップS24では、こうして圧力波形(脈動パターン)が推定される。そして、続くステップS25では、上記ステップS24で推定した前段噴射の脈動パターンと、先のステップS22の処理を通じて検出された多段噴射(対象噴射)の脈動パターンとに基づいて、その対象噴射の噴射特性を取得(検出)する。以下、図8〜図11を参照して、このステップS25の処理における噴射特性の検出態様について説明する。なお、これら各図において、(a)はインジェクタ20に対する指令信号(通電パルス)を示すタイミングチャート、(b)は、その指令信号に基づく燃料噴射での燃料圧力の脈動パターンを示すタイミングチャートである。
図8は、先のステップS22で取得した対象噴射の燃圧データを示すタイミングチャートである。すなわち、この燃圧データでは、同図8(a)中に実線L2aにて示す通電パルスに対して、脈動パターンが、同図8(b)に実線L2bにて示すようなパターンとなっている。すなわち、図中に示す2つの噴射のうち、後段側の噴射(後段噴射)の噴射開始タイミング近傍においては、この後段噴射の脈動パターンと前段側の噴射(前段噴射)の脈動パターンとが互いに干渉してしまっており、これら噴射の各脈動パターンを単独で認識することは困難である。
図9は、先のステップS24で推定した脈動パターン(推測データ)、すなわち対象噴射(図8)の前段噴射の脈動パターンを示すタイミングチャートである。この推測データでは、同図9(a)中に実線L1aにて示す通電パルスに対して、脈動パターンが、同図9(b)に実線L1bにて示すようなパターンとなっている。
先の図4のステップS25では、対象噴射の燃圧データ(図8の実線L2b)と推測データ(図9の実線L1b)とを比較することにより、対象噴射の燃圧データから推測データを減算(対応箇所をそれぞれ減算)した波形として、対象噴射の2段目の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出する。
図10は、対象噴射の1段目の噴射(前段噴射)に係る脈動パターンとそれに対応する推測データの脈動パターンとを一致させた状態で、上記対象噴射の燃圧データ(実線L2a,L2b)と推測データ(破線L1a,L1b)とを重ねて示したものである。
先の図4のステップS25では、この図10に示すような状態で、対象噴射の燃圧データから推測データを減算(対応箇所をそれぞれ減算)する。こうすることで、図11に示すように、対象噴射の2段目の燃料噴射(後段噴射、実線L2c)だけに係る脈動パターン(実線L2c)が抽出されることになる。そして、この抽出した脈動パターン(実線L2c)に基づいて、2段目の噴射の噴射特性(噴射開始タイミングや噴射時間等)を求め、その噴射特性の誤差が大きい場合には(あるいは誤差が小さい場合も含めて常に)、続くステップS26で、その誤差を補償するための補正係数を算出、更新する。なお、ここで更新される補正係数は、例えば図3のステップS12で用いられる補正係数の1つとする。
このステップS26の処理をもって、この図4の処理は終了する。本実施形態では、上記図4の処理が逐次実行されることで、燃料噴射制御に係る補正係数が逐次更新され、また上記図3の処理により、その補正係数の反映された噴射条件で燃料の噴射が逐次実行されるようになっている。これにより、制御部品の経年変化等に起因する特性変化についてもこれが的確に補償されるようになり、噴射制御の精度についてもこれが高く維持されることになる。
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射特性検出装置及びエンジン制御システムによれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)所定の燃料噴射弁(インジェクタ20)により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、対象エンジンに対して燃料を噴射供給する際の燃料噴射特性を検出する燃料噴射特性検出装置(エンジン制御用ECU30)として、インジェクタ20に供給される燃料の圧力を逐次検出することにより同インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンを検出するプログラム(脈動パターン検出手段、図4のステップS22)と、同ステップS22にて検出された脈動パターン(図7の実線L11)及びその規則性に基づいて、同パターンの未検出部分(図7の破線L12)を導出するプログラム(未検出パターン導出手段、図4のステップS24)と、を備える構成とした。これにより、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を把握することができるようになる。
(2)図4のステップS24においては、対象エンジンの所定シリンダで1燃焼サイクル中に行われた多段燃料噴射のうち、その最終段ではない所定段目(例えば2段噴射の前段噴射)の特定噴射について、図4のステップS22を通じて検出されたその特定噴射のみによる脈動パターン及びその規則性に基づいて、その後ろに続く同特定噴射による脈動とその後段の噴射による脈動とが干渉する部分の脈動パターンのうち、該特定噴射のみによる脈動パターン(図7の破線L12)を導出するようにした。こうした構成であれば、その導出された前段噴射のみによる脈動パターンにより各種の信号処理を行って、より詳細な噴射特性を取得することが可能になる。
(3)図4のステップS24にて用いられる脈動パターン(検出パターン)のパターン開始点(基点)を、特定噴射(例えば2段噴射の前段噴射)の噴射終了後に所定の条件(例えば最初の節)が満足されたタイミングとした(図5のステップS31)。これにより、圧力変動のより安定した状態での検出パターン、すなわちより信頼性の高い検出パターンに基づいて、上記未検出部分(図7の破線L12)をより高い精度で導出することが可能になる。
(4)図4のステップS24にて用いられる脈動パターンの規則性を、同パターンの振幅の時間経過に伴う変化率(振幅の減衰率)とした。こうすることで、上記未検出部分(図7の破線L12)をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
(5)変化率K0(振幅の減衰率)を、隣り合う極大点及び極小点の振幅比率(=ΔP2/ΔP1)として算出した(図5のステップS34)。こうすることで、上記未検出部分(図7の破線L12)をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
(6)周期T0は一定であるとして(「周期=一定」とみなして)、上記未検出部分(図7の破線L12)の導出を行った。こうすることで、演算処理の単純化を図ることができる。
(7)図4のステップS24においては、特定噴射(例えば1段目)の脈動パターンの未検出部分について、節及び極大点及び極小点を基準点として求めるとともに、その基準点をもとに補間及び外挿を行うことにより、該脈動パターンの未検出部分を導出するようにした。こうすることで、高い精度で効率よく上記未検出部分(図7の破線L12)を導出することが可能になる。
(8)図4のステップS24にて用いられる脈動パターン(検出パターン)を、「1」周期以上のパターンとした。こうすることで、上記未検出部分(図7の破線L12)をより高い精度で導出することが可能になる。
(9)燃料圧力P0(基準レベル)を境に大側及び小側に交互に振動する脈動パターン(圧力波形)について、その燃料圧力P0の傾向を上記未検出部分の導出(推定)に用いるようにした。これにより、上記未検出部分(図7の破線L12)をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
(10)上記インジェクタ20へ供給する燃料を蓄圧保持するコモンレール12と、該コモンレール12からインジェクタ20の燃料噴射口(噴孔20f)までの燃料通路(配管14)のうち、コモンレール12の燃料吐出口近傍よりも燃料下流側に位置する所定箇所についてその燃料通路内を流れる燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ(燃圧センサ20a)と、を備えるコモンレール式燃料噴射システムを適用対象とした。詳しくは、燃料圧力を検出するための燃圧センサ20aを、コモンレール12の燃料吐出側に接続された配管14のうち、コモンレール12よりもインジェクタ20の燃料噴射口の方に近い位置、より具体的には上記インジェクタ20の燃料取込口に取り付けるようにした。そして、図4のステップS22においては、燃圧センサ20aの出力に基づいて、上記インジェクタ20に供給される燃料の圧力を逐次検出するようにした。こうすることで、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を示す脈動パターン(うねり特性)を高い精度で検出することが可能になる。
(11)図4のステップS22においては、燃圧センサ20aのセンサ出力を「50μsec」よりも短い間隔、詳しくは「20μsec」間隔で逐次取得するようにした。これにより、上述した脈動パターン、ひいては圧力変動の傾向をより的確に捉えることができるようになる。
(12)図4のステップS24にて導出された脈動パターンの未検出部分(推測データ)に基づいて、対象エンジンの所定シリンダで1燃焼サイクル中に行われた多段燃料噴射(例えば図8〜図11に示した2段噴射)に係る脈動パターンから、その多段燃料噴射の2段目以降の所定段に相当するn段目の燃料噴射以降だけ(例えば図11に示した2段目の噴射だけ)に係る脈動パターンを抽出するプログラム(脈動パターン抽出手段、図4のステップS25)を備える構成とした。これにより、n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンが高い精度で求められ、ひいてはn段目の噴射に係る噴射タイミング等を高い精度で検出することが可能になる。
(13)図4のステップS25においては、図4のステップS24にて導出された脈動パターンの未検出部分に基づいて、n段よりも小さい段数(例えば単段)の燃料噴射に係る脈動パターンを求めるとともに、そのn段よりも小さい段数の燃料噴射に係る脈動パターンと上記n段の多段燃料噴射(例えば2段噴射)に係る脈動パターンとを比較(減算)することによって、上記n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出するようにした。こうすることで、上記抽出処理を、より容易且つ的確に実現することができる。
(14)図4のステップS25にて抽出されたn段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令信号(例えば噴射タイミングや噴射時間に係る指令信号)を補正するプログラム(補正手段、図3のステップS12及び図4のステップS26)を備える構成とした。こうすることで、より高い精度での燃料噴射制御が可能になる。
(15)上記各プログラムと共に、図1に示した燃料供給システムの作動に基づいて、対象エンジンに関する所定の制御を行うプログラム(エンジン制御手段)を、上記ECU30に搭載して、エンジン制御システムとして、このECU30の他に、各種センサ(燃圧センサ20a等)及びアクチュエータ(図1参照)をさらに備える構成とした。こうした構成では、上述のように燃料噴射制御態様が改善されることで、より信頼性の高いエンジン制御を行うことが可能になる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・発明者の実験等によれば、燃料圧力P0(基準レベル)の傾向は、燃料供給システム(図1)の燃料リーク量や、上記インジェクタ20に対して燃料を供給する燃料ポンプ11の圧送量(燃料吐出量)によって変化する。図12(a)及び(b)に、その実験結果をタイミングチャートとして模式的に示す。例えば燃料リーク量が大きいほど、図12(a)中に一点鎖線TR2で示す基準レベルは下降傾向になる(圧力下降の傾き(単位時間あたりの燃料圧力の減少量)が大きくなる)ことが確認された。また、例えば燃料ポンプ11の圧送タイミングと上記インジェクタ20による噴射タイミングとが重なった場合には、燃料ポンプ11の圧送量が大きくなる。そして、噴射時の燃料ポンプ11の圧送量が大きいほど、図12(b)中に一点鎖線TR3で示す基準レベルは上昇傾向になる(圧力上昇の傾き(単位時間あたりの燃料圧力の増大量)が大きくなる)ことが確認された。
そして、このような実験結果から、基準レベルの傾向(一点鎖線TR1〜TR3)を「y=Ax+B」(y:燃料圧力、x:時間)のような関係式で表した場合、燃料供給システム(図1)の燃料リーク量、上記インジェクタ20に対して燃料を供給する燃料ポンプ11の圧送量、時間等に基づいて、上記関係式「y=Ax+B」中の傾きAや切片Bを可変設定するプログラムを備える構成とすることも有効である。より具体的には、例えば上記傾きAや切片Bを、上記各パラメータの関数で規定しておき、図5のステップS31に先立って、その関数に基づいて基準レベルの傾向を決定する。あるいは、図5のステップS31に先立って、基点(タイミングt13)よりも前の燃圧データによって基準レベルの傾向を算出する。こうすることで、上記未検出部分(図7の破線L12)をより容易且つ的確に導出することが可能になる。
・上記脈動パターン(圧力波形)の、節、極大点、極小点を、燃料圧力の時間微分値に基づいて検出する(極大点、極小点=微分値「0」、節=微分値最大)構成なども有効である。
・上記実施形態では、予め実験等により適合値を定めた適合マップ(図3のステップS12にて使用)を採用することを想定して、その適合マップによる噴射特性を補正するための補正係数を更新するようにした。しかしこれに限られず、例えばその補正係数に代えて補正後の値(補正係数を反映させた値)を、EEPROM等に格納する構成としてもよい。そしてこうした構成として、その補正後の値に十分な信頼性が得られれば、上記適合マップを必要としない構成、いわゆる適合レスの構成を採用することも可能になる。
・図2に例示した電磁駆動式のインジェクタ20に代えて、ピエゾ駆動式のインジェクタを用いるようにしてもよい。また、圧力リークを伴わない燃料噴射弁、例えば駆動動力の伝達に油圧室(コマンド室Cd)を介さない直動式のインジェクタ(例えば近年開発されつつある直動式ピエゾインジェクタ)等を用いることもできる。そして、直動式のインジェクタを用いた場合には、噴射率の制御が容易となる。
・そして、例えば現在開発段階にある直動式インジェクタ等が将来実用化され、且つ、演算速度も高まれば、時々の燃料圧力を検出しつつ上記未検出部分(図7の破線L12)の抽出についてもこれを同時に行うことが可能になる。そして、その高い同時性で(リアルタイムに)検出された脈動パターンに基づいて都度の噴射終了タイミングを決定するとともに、直動式インジェクタの高速動作を通じてその噴射終了タイミングで都度の噴射を終了させることにより、高精度の燃料噴射が可能になる。すなわち、例えば上記インジェクタ20により2段目以降の所定段に相当するn段目(例えば2段噴射における2段目の噴射)の噴射を実行している時に、図4のステップS25にてそのn段目(例えば2段目)の噴射だけに係る脈動パターンを抽出するとともに、図3のステップS13にてその抽出された脈動パターンに基づいて該n段目の噴射の噴射終了タイミングを決定するプログラムを備える構成とすることも有効である。
・図4のステップS24にて用いられる脈動パターン(検出パターン)のパターン開始点(基点)を、特定噴射(例えば2段噴射の前段噴射)の噴射終了後に所定の条件(例えば最初の節)が満足されたタイミングとした。しかしこれに限られず、例えば特定噴射の噴射開始タイミング、又は特定噴射の噴射終了タイミング等々を、上記検出パターンのパターン開始点(基点)とすることが有効である。
・上記実施形態では、燃料圧力を検出するための燃圧センサ20a(燃料圧力センサ)を、上記インジェクタ20の燃料取込口に取り付けるようにした。しかしこれに限られず、この燃圧センサ20aを、上記インジェクタ20の内部(例えば図2の噴孔20f近傍)に設けるようにしてもよい。また、こうした燃料圧力センサの数は任意であり、例えば1つのシリンダの燃料流通経路に対して2つ以上のセンサを設けるようにしてもよい。また上記実施形態では、燃圧センサ20aを各シリンダに対して設けるようにしたが、このセンサを一部のシリンダ(例えば1つのシリンダ)だけに設け、他のシリンダについてはそのセンサ出力に基づく推定値を用いるようにしてもよい。
・上記実施形態では、図4のステップS24にて用いられる脈動パターンの規則性を、同パターンの振幅の時間経過に伴う変化率(振幅の減衰率)とした。しかしこれに代えて(又はこれと共に)、周期の時間経過に伴う変化率(周期の伸長率)を用いるようにしてもよい。また、これら振幅や周期の変化率としては、時間経過に伴う変化率ではなく、伝播に伴う変化率を用いてもよい。なお、伝播(圧力波形の伝播)に伴う変化率(例えば振幅の減衰率)は、例えば燃料流通経路に対して2つ以上のセンサを設けることで、容易に計算することができる。
・上記実施形態では、「20μsec」間隔(周期)で上記燃圧センサ20aのセンサ出力を逐次取得する構成について言及したが、この取得間隔は、上述した圧力変動の傾向を捉えることができる範囲で適宜に変更可能である。ただし、発明者の実験によると、「50μsec」よりも短い間隔が有効である。
・上記燃圧センサ20aに加えて、さらにコモンレール12内の圧力を測定するレール圧センサを備える構成とすることも有効である。こうした構成であれば、上記燃圧センサ20aによる圧力測定値に加え、コモンレール12内の圧力(レール圧)も取得することができるようになり、より高い精度で燃料圧力を検出することができるようになる。
・上記実施形態では、脈動パターンを抽出する際に減算を行うようにしたが、除算した場合にも、図11に示した波形に準ずるものを得ることができる。もっとも、推測データの種類に応じて、演算態様は任意に設定することができる。
・制御対象とするエンジンの種類やシステム構成も、用途等に応じて適宜に変更可能である。
例えば上記実施形態では、一例としてディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について言及したが、例えば火花点火式のガソリンエンジン(特に直噴エンジン)等についても、基本的には同様に本発明を適用することができる。また、本発明に係る装置及びシステムは、シリンダ内に燃料を直接的に噴射する燃料噴射弁に限らず、エンジンの吸気通路又は排気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁についても、その燃料噴射圧力の制御等のために用いることができる。また、対象とする燃料噴射弁は、図2に例示したインジェクタに限られず、任意である。そして、上記実施形態についてこうした構成の変更を行う場合には、上述した各種の処理(プログラム)についても、その細部を、実際の構成に応じて適宜最適なかたちに変更(設計変更)することが好ましい。
・上記実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。