JP2008273829A - 窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高強度、高靭性特性に加えて、特に摺動特性が優れた耐摩耗性部材の製造方法を提供する。
【解決手段】酸素1.5質量%以下、α相型窒化けい素75〜97質量%含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物換算で1〜10質量%と、AlおよびMgの少なくとも一方を酸化物換算で5質量%以下と、AlN5質量%以下と、Ti,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crの内少なくとも1種を酸化物換算で5質量%以下との原料を混合し成形体を調製し、該成形体を脱脂後、焼結する途中、0.01Pa以下の真空中で温度1250〜1600℃の温度又は窒素雰囲気中で温度1500℃〜1600℃で所定時間保持後、温度1650℃〜1850℃で本焼結し、焼結温度から、希土類元素により焼結時形成された液相が凝固するに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下の徐冷により、窒化けい素焼結体から成る耐摩耗性部材を製造する。
【選択図】図1

Description

本発明は窒化けい素を主成分とする耐摩耗性部材の製造方法に係り、特に耐摩耗性部材を転がり軸受け部材とした場合において、優れた耐摩耗性、特に転がり寿命特性を発揮でき、耐久性に優れた転がり軸受け部材として好適な窒化けい素製耐摩耗製部材の製造方法に関する。
耐摩耗性部材は、例えば軸受部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品など、各種の分野で使用されている。このような耐摩耗性部材には、従来からセラミックス材料が用いられている。特に、窒化けい素焼結体は機械的強度や耐摩耗性に優れることから、種々の分野で幅広く使用されている。
従来の窒化けい素焼結体の焼結組成としては窒化けい素−希土類酸化物−酸化アルミニウム系、窒化けい素−希土類酸化物−酸化アルミニウム−酸化チタニウム系等が知られている。上記焼結組成における希土類酸化物等の焼結助剤は、焼結中にSi−希土類元素−Al−O−N等からなる粒界相(液相)を生成させ、焼結体を緻密化し高強度化をするために添加されている(例えば、特許文献1参照)。
従来の窒化けい素焼結体は窒化けい素原料粉末に上記のような焼結助剤を添加物として加えて成形し、得られた成形体を焼成炉を使用して1650〜1900℃程度の高温で所定時間焼成した後に炉を自然冷却する方法で量産されている。一方で徐冷する方法も採用されている(例えば、特許文献2参照)。
上述した窒化けい素焼結体を用いた耐摩耗性部材の中でも、軸受部材は一般的に認知されてきている。このような軸受は種々の用途に用いられており、重要保安部品としての使用も検討されはじめている。このため、窒化けい素焼結体からなる軸受部材、すなわちボールやコロなどの転動体に対しては信頼性をより一層高めることが求められている。
例えば、転動体表面のキズや亀裂などの欠陥は、軸受自体はもとより、それを用いたシステム全体の破損などに繋がることから、そのような欠陥はできる限り排除するような工程がとられている。同様に、転動体の表面近傍に存在するポアなども信頼性の低下原因となるために、ボールやコロなどの最終形状に加工する際に除去している。
特開2001−328869号公報 特開平11−292632号公報
しかしながら、上記従来方法によって製造された窒化けい素焼結体では、曲げ強度や破壊靭性値、耐摩耗性が向上しているものの充分ではなく、特に優れた摺動特性を必要とする転がり軸受け部材としての耐久性については不十分であり、さらなる改良が要請されている。
近年、精密機器用部材としてのセラミックス材料の需要が増加しており、このような用途においては、高硬度で軽量で耐摩耗性が優れるというセラミックスの特長が、高耐食性と低熱膨張性という性質とともに利用されている。特に、高硬度と耐摩耗性との観点から、軸受などの摺動部を構成する耐摩耗性部材としての用途も急速に拡大している。
しかしながら、軸受などの転動ボールをセラミックス製耐摩耗性部材で構成した場合、転動ボールが高い応力レベルで繰り返し接触しながら転動したときに、耐摩耗性部材の転がり寿命が未だ十分ではなく、短期間の運転により耐摩耗性部材の表面が剥離したり、割れを生じてしまうため、軸受を装着した機器に振動を生じたり、損傷を引き起こす事故が発生し易く、いずれにしても機器構成部品材料としての耐久性および信頼性が低いという問題点があった。
また、従来の製造方法に基づく窒化けい素焼結体は、焼結後の段階で表面のみならず、比較的内部にまで達するようなキズや亀裂を有しており、これらが不良原因となったり、また製品不良にはならなくても、亀裂などを除去して信頼性の高い面を得るための製造工数(例えば亀裂が実質的になくなるところまで表面研磨を行う工程などに要する工数)が増大し、これにより転動体の製造コストの上昇を招いている。
すなわち、窒化けい素成形体を焼結する際には、窒化けい素粉末(原料粉末)中に含まれる不純物酸素や焼結助剤に含まれる酸素の一部が蒸発してガス成分が発生する。このガス成分は焼結時に窒化けい素成形体の収縮開始時期とほぼ同時に発生する。通常の焼結法では成形体の収縮開始に伴って焼結体の表面部から緻密化がはじまるため、焼結体内部のガス成分を除去することが困難となる。
上述したようなガス成分が焼結体中に残ると、窒化けい素焼結体中にポアが発生したり、また酸素がSiと結合してSiOとして残存することになる。従来の製造方法ではガス成分を十分に除去することができないため、ガス成分に起因するポアやSiOが比較的広範囲に残存し、これらによって内部に向けて伸びる亀裂などが発生する。このような亀裂を除去するためには、焼結体の表面をある程度の深さまで除去する必要があり、これにより不良発生や製造コストの上昇などを招いている。
また、焼結後に例えばHIP処理を施し、焼結助剤により形成される液相でポアを埋めることによって、窒化けい素焼結体を高密度化させることはできるものの、ポアが存在していた部分には液相成分の偏析が生じることになる。液相成分は窒化けい素結晶粒より強度や硬度が低いため、そのような液相成分の偏析は窒化けい素焼結体を耐摩耗性部材として使用した際に破壊の起点となってしまう。従って、このような偏析物も除去する必要がある。
いずれにしても、従来の窒化けい素焼結体の製造方法では、ガス成分に起因するポア、亀裂、液相成分の偏析などが、焼結体のある程度の深さまで分布することが避けられないという問題があった。これらの欠陥は不良原因となったり、また転動体の信頼性を高めることが可能な表面を得る際に、焼結体表面の加工しろ(加工により除去する幅)を増大させる原因となっており、これらが転動体などの耐摩耗性部材の製造コストを増大させている。
本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、高強度、高靭性特性に加えて、特に摺動特性が優れた耐摩耗性部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
特に、不良発生や製造コストの増大原因となるガス成分の除去を容易にし、これにより例えば耐摩耗性部材に求められる各種特性に加えて、製造コストの低減を図ることを可能にした耐摩耗性部材の製造方法を提供することを目的としている。
本発明者は上記目的を達成するため、従来の窒化けい素焼結体を製造する際に、一般的に使用されていた窒化けい素原料粉末の種類、焼結助剤や添加物の種類および添加量、焼成条件を種々変えて、それらの要素が焼結体の特性に及ぼす影響を実験により確認した。
その結果、微細な窒化けい素原料粉末に希土類酸化物、アルミナ、さらに必要に応じてマグネシア、窒化アルミニウム、酸化チタンなどを所定量ずつ添加した原料混合体を成形脱脂し、得られた成形体を焼結する途中において所定の条件で保持操作を実施することにより脱酸素処理(酸素濃度の低減化)を施した後に、本焼結を実施したとき、または焼結した後、所定の条件で熱間静水圧プレス(HIP)処理したときに、高強度および高靭性特性に加えて、特に摺動特性の転がり寿命が優れた窒化けい素焼結体製耐摩耗性部材が得られることが判明した。
また、前記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷したときに焼結体組織中の気孔径をさらに小さくできることが判明した。
さらに、窒化けい素の最終的な織密化焼結が生じる温度(1600〜1850℃)に到達する以前に、ある程度の温度まで真空中で昇温し、さらにそのような温度で所定時間保持することによって、焼結体中の酸素やSiOなどのガス成分を外部に向けて移動ならびに排出することができ、最終的に外周部の酸素濃度、すなわちポアや亀裂などの欠陥が内部にまで侵入する原因となるガス成分濃度を低下させることが可能であることを見出した。
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法は、酸素を1.5質量%以下、α相型窒化けい素を75〜97質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して1〜10質量%と、アルミニウムおよびマグネシウムの少なくとも一方を酸化物に換算して5質量%以下と、窒化アルミニウムを5質量%以下と、Ti,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下とを添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、焼結する途中、0.01Pa以下の真空中で温度1250〜1600℃の温度または窒素雰囲気中で温度1500℃〜1600℃で所定時間保持した後、温度1650℃〜1850℃で本焼結し、上記焼結温度から、前記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固するまでに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、全酸素が4.5質量%以下、気孔率が0.5%以下、粒界相中の最大気孔径が0.2μm以下である窒化けい素焼結体から成る耐摩耗性部材を調製することを特徴とする。
また、上記耐摩耗性部材において、前記窒化けい素焼結体の三点曲げ強度が900MPa以上であり、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であり、この窒化けい素焼結体からなる耐摩耗性部材の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.525mmである3個のSUJ2製転動鋼球を配置し、この転動鋼球に400Kgの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素製耐摩耗性部材の表面が剥離するまでの回転数で定義される転がり寿命が1×10回以上である耐摩耗性部材とすることも可能である。
さらに、前記窒化けい素焼結体の圧砕強度が200MPa以上であり、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であり、この窒化けい素焼結体からなる耐摩耗性部材から直径が9.525mmである3個の転動ボールを調製する一方、SUJ2製鋼板の上面に設定した直径40mmの軌道上に上記3個の転動ボールを配置し、この転動ボールに5.9GPaの最大接触応力が作用するように荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素焼結体製転動ボールの表面が剥離するまでの時間で定義される転がり疲労寿命が400時間以上である耐摩耗性部材とすることも可能である。
なお、耐摩耗性部材がボール形状である場合の耐摩耗性(転がり疲労寿命)の測定方法として、直径9.525mm(=3/8インチ)のボールを基準値として挙げているが、本発明はこのサイズに限定されるものではない。例えば、ボールのサイズが直径9.525mm(=3/8インチ)と異なる場合は、最大接触応力をボールのサイズに合せて変更して測定するものとする。この場合、最大接触応力の変更については、単位Paが1Pa=1.02×10−5kgf/cmであることから、測定対象のボールのサイズに合せて比例計算して算出するものとする。また、本発明の耐摩耗性部材はボールのサイズが異なったとしても転がり疲労寿命が400時間以上得られるものである。
また、本発明で得られる耐摩耗性部材において、前記窒化けい素焼結体がアルミニウム,マグネシウムの少なくとも一方を酸化物に換算して5質量%以下含有することが好ましい。また、前記窒化けい素焼結体が窒化アルミニウムを5質量%以下含有することが好ましい。さらに前記窒化けい素焼結体がTi,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下含有することが好ましい。
さらに、前記窒化けい素焼結体からなる耐摩耗性部材が転がり軸受け部材であるときに、特に優れた摺動特性および耐久性を発揮させることが可能である。
上記本発明で得られる耐摩耗性部材において、前記窒化けい素焼結体が窒化けい素を主成分とし、微量の酸素を含有する焼結体であって、前記酸素濃度が中心部に比べて0.2質量%以上2質量%以下の範囲で低減された低酸素濃度の外周部を有することが好ましい。また、窒化けい素焼結体が、ビッカース硬さでHv1200以上の硬度を有することが好ましい。
このように、窒化けい素焼結体の外周部の酸素濃度を低減することによって、ポアや亀裂などの欠陥の侵入深さが浅くなり、これら欠陥に起因する不良発生を抑制することができると共に、表面加工に要するコストや手間を削減することが可能となる。これらによって、窒化けい素焼結体から転動体などの耐摩耗性部材を作製する際の製造コストを低減することができる。
本発明で使用する窒化けい素焼結体の外周部は中心部に対する焼結助剤中の金属成分の濃度差が0.2質量%未満であることが好ましい。このように、本発明で使用する窒化けい素焼結体はあくまでも不要な酸素の除去を実現したものであり、他の金属成分の分布については従来の焼結体と同等であるため、窒化けい素焼結体としての本来の特性(強度や摺動特性など)は維持されている。
本発明で使用する窒化けい素焼結体においては、外周部と中心部との酸素濃度の差が0.2質量%以上2質量%以下であれば上述したような作用・効果を得ることができるものの、焼結体全体としての酸素濃度があまり高すぎると、窒化けい素焼結体本来の特性が損なわれるおそれがあるため、焼結体全体としての酸素濃度は6質量%以下とすることが好ましい。特に4.5質量%以下がさらに好ましい。
また、上記耐摩耗性部材において、前記中心部に対する前記酸素濃度の差が1質量%以下の中間部を形成することが好ましい。このような中間部を設けることにより、酸素濃度の傾斜をよりなだらかにでき、部材の不良発生率や表面加工に要するコストを一層抑制することができる。
本発明の耐摩耗性部材の製造方法は、窒化けい素粉末を主成分とする原料組成物を所望の形状に成形する工程と、前記成形工程により得られた成形体を、0.01Pa以下の真空中にて1200〜1500℃の範囲の温度まで昇温すると共に、前記1200〜1500℃の範囲の温度で1〜10時間保持する工程と、前記真空処理後の成形体を窒素雰囲気中にて1600〜1800℃の範囲の温度で焼結する工程とを有することが好ましい。
本発明の耐摩耗性部材は、上記のように調製した窒化けい素焼結体から成ることを特徴としている。本発明の耐摩耗性部材は、ベアリングボールのような軸受部材(転動体)に対して有効であり、特に、直径が9mm以上というような比較的大きいベアリングボールに対して効果的である。
本発明の好ましい態様として、窒化けい素焼結体が、窒化けい素を主成分とし、かつ微量の酸素を含有する焼結体であって、焼結体の中央部と外周部との間に0.2質量%以上2質量%以下の酸素濃度差が存在するものである。すなわち、外周部は中央部に比べて0.2質量%以上2質量%以下の範囲で酸素濃度が低減された、低酸素濃度領域とされている。
図2は本発明で得られる窒化けい素焼結体における酸素濃度が異なる各領域を模式的に示す図である。なお、図2はボール形状を有する窒化けい素焼結体2を一例として示したものであり、本発明はこれに限定されるものではない。ここでは、窒化けい素焼結体の中心Oから半径Rの5%までの範囲を中心部Aとする。さらに、外周部Bは窒化けい素焼結体の外表面Sから半径Rの1%までの範囲、言い換えると中心Oから半径Rの99%から100%までの範囲である。なお、板材などについては厚さを基準とした同様な領域を示すものとする。
上記した窒化けい素焼結体の中心部Aの酸素濃度をC(質量%)、外周部Bの酸素濃度をC(質量%)としたとき、外周部Bの酸素濃度Cは(C−2)〜(C−0.2)の範囲、すなわち(C−2)≦C≦(C−0.2)<Cを満足するものである。このような中心部Aと外周部Bの酸素濃度差(0.2質量%以上の濃度差)は、後に詳述する本発明の製造方法、すなわち窒化けい素の最終的な緻密化焼結が生じる温度に到達する以前に、ある程度の温度まで真空中で昇温すると共に、そのような温度で所定時間保持する工程を実施し、焼結体中の酸素やSiOなどのガス成分を外部に向けて移動させ、さらには焼結体外に排出することにより達成されたものである。
窒化けい素焼結体の外周部Bに低酸素濃度領域を形成するということは、外周部Bの残存酸素量やそれがSiと結合して生成されるSiO量が少ないことを意味する。従って、酸素やSiOなどのガス成分に起因するポアや亀裂などの欠陥の侵入深さが浅くなり、これら欠陥に起因する不良発生を抑制することができると共に、表面加工に要するコストや手間を削減することができる。すなわち、窒化けい素焼結体およびそれを用いた耐摩耗性部材の製造コストを低減することが可能となる。
ここで、中心部Aの酸素濃度Cと外周部Bの酸素濃度Cの差が0.2質量%未満であると、上述した低酸素濃度領域としての効果を外周部Bに付与することができない。一方、酸素濃度差が2質量%を超えるということは、外周部Bの酸素濃度が極端に減少していることを意味し、外周部Bの織密化が十分に進行しないおそれがあることから、逆に外周部Bの強度や耐摩耗性などが低下してしまう。中心部Aと外周部Bの酸素濃度差は0.5〜1.5質量%の範囲とすることがより好ましい。
さらに、本発明で得られる窒化けい素焼結体において、中心部Aと外周部Bの間の中間部(図1に示す窒化けい素焼結体では領域C)の酸素濃度Cは、中心部Aの酸素濃度Cに対して1質量%以下の濃度差を有している。このように、本発明で使用する窒化けい素焼結体は、中心部Aから外周部Bに向けて酸素濃度が徐々に減少する、すなわち濃度傾斜している。これによって、窒化けい素焼結体の不良発生率や表面加工に要するコストや手間をより一層抑制することができる。
本発明で得られる窒化けい素焼結体において、具体的な酸素濃度は焼結体全体の平均値として6質量%以下であることが好ましい。窒化けい素焼結体中の全酸素濃度(全酸素量)が6質量%を超えると、窒化けい素焼結体本来の特性が損なわれるおそれが大きい。また、外周部Bの具体的な酸素濃度は3〜4質量%の範囲であることが、酸素やSiOなどのガス成分に起因するポアや亀裂などの欠陥の発生を抑制する上で好ましい。また、欠陥の侵入深さを低減する上でも、上記した全酸素濃度範囲は有効である。上記酸素濃度は4.5質量%以下であることが特に好ましい。
なお、上述した中心部A、中間部Cおよび外周部Bの各酸素濃度は、各領域から任意の測定点を3点選び出し、これら各測定点の酸素濃度をEPMAなどで測定し、これら測定値を平均した値を示すものとする。焼結体中の全酸素濃度(全酸素量)は不活性ガス融解−赤外線吸収法に準ずる酸素分析計により求めた値とする。また、本発明における焼結体の全酸素量とは、窒化けい素焼結体を構成している酸素の全量を質量%で示したものである。従って、酸素が窒化けい素焼結体中に金属酸化物や酸窒化物などとして存在している場合は、その金属酸化物(および酸窒化物)量ではなく、金属酸化物(および酸窒化物)の酸素量に着目したものである。
本発明の好ましい態様において、前記窒化けい素焼結体は、上述したように酸素濃度に関しては中心部Aと外周部Bとの間に濃度差を有し、さらには焼結体全体として濃度頃斜しているものの、それ以外の成分すなわち焼結助剤として添加した化合物中の金属成分については従来の焼結体と同様に均一に分布されており、中心部Aと外周部Bとの金属成分の濃度差は0.2質量%未満とされている。
このように、本発明で得られる窒化けい素焼結体はあくまでも不要な酸素の除去を実現したものであり、他の金属成分の分布については従来の焼結体と同等とされており、窒化けい素結晶粒およびその間に存在する粒界相(ガラス相)により構成される基本的な焼結体の微構造は維持されているため、窒化けい素焼結体としての本来の特性、すなわち強度、硬度、破壊靱性値、摺動特性(転がり寿命特性など)などは維持されている。
耐摩耗性部材に要求される硬度に関しては、ビッカース硬さでHv1200以上の特性を有することが好ましい。窒化けい素焼結体の硬度がビッカース硬さでHv1200未満となると、耐摩耗性の低下が著しくなる。特に、ベアリングボールなどに求められる摺動特性(転がり寿命特性)を十分に満足させることができなくなる。窒化けい素焼結体のビッカース硬さはHv1300以上であることがより好ましい。
また本発明に係る窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法は、酸素を1.5質量%以下、α相型窒化けい素を75〜97質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して1〜10質量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、焼結する途中で温度1250℃〜1600℃で所定時間保持した後、温度1650℃〜1850℃で本焼結することを特徴とする。
さらに、上記製造方法において、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、気孔径をさらに小さくすることができる。
また上記製造方法において、前記窒化けい素粉末にアルミニウムおよびマグネシウムの少なくとも一方を酸化物に換算して5質量%以下添加することが好ましい。また、前記窒化けい素粉末に窒化アルミニウムを5質量%以下添加することが好ましい。さらに、前記窒化けい素粉末にTi,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下添加することが好ましい。
また焼結後、前記窒化けい素焼結体に対し、300気圧以上の非酸化性雰囲気中で温度1600℃〜1850℃で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することが好ましい。
上記製造方法によれば、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体を調製する際に、焼結途中で窒化けい素成形体を所定条件下で保持操作を実施した後に、本焼結して形成されているため、焼結体の酸素濃度が効果的に減少し、この酸素に起因する気孔の発生が抑制されて最大気孔径を極微小化することが可能である。そして、応力が作用した場合に疲労破壊の起点となり易い気孔が減少するため、疲労寿命および耐久性に優れた耐摩耗性部材が得られる。また保持操作による脱酸作用が進行しても焼結性が向上し気孔が減少することにより、全酸素量が6質量%以下、好ましくは4.5質量%以下であり、窒化けい素結晶組織中に希土類元素等を含む粒界相が形成され、その粒界相中の最大気孔径が0.3μm以下であり、気孔率が0.5%以下、三点曲げ強度が室温で900MPa以上であり、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であり、圧砕強度が200MPa以上の機械的特性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られる。
本発明方法において使用され、耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体の主成分となる窒化けい素粉末としては、焼結性、曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命を考慮して、酸素含有量が1.5質量%以下、好ましくは0.5〜1.2質量%であるα相型窒化けい素を75〜97質量%、好ましくは80〜95質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化けい素粉末を使用することが好ましい。
また、不純物酸素量が1.5質量%を超えるような窒化けい素粉末を用いると、中心部と外周部の酸素濃度差は大きくなるものの、焼結体全体としての酸素濃度が増加し、気孔率が増大するなどして窒化けい素焼結体が低強度化し易い。言い換えると、本発明では窒化けい素原料粉末が1.5質量%までの不純物酸素を含んでいても十分な効果が得られることから、必ずしも純度の高い原料粉末を使用する必要はなく、この点からもコストダウンが可能である。窒化けい素原料粉末のより好ましい酸素含有量は0.5〜1.2質量%の範囲である。
なお、窒化けい素原料粉末としてはα相型のものとβ相型のものとが知られているが、α相型の窒化けい素原料粉末では焼結体とした場合に強度が不足し易い傾向がある一方、β相型の窒化けい素原料粉末では高温度焼成が必要であるが、アスペクト比が高い窒化けい素結晶粒子が複雑に入り組んだ高強度の焼結体が得られる。したがって、本発明においてはα相型原料粉末を高温度で焼成して窒化けい素焼結体としては、β相型の窒化けい素結晶粒子を主成分とする焼結体とすることが好適である。
本発明において、α相型窒化けい素粉末の配合量を75〜97質量%の範囲に限定した理由は、75質量%以上の範囲で焼結体の曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命が格段に向上し、窒化けい素の優れた特性が顕著となるためである。一方、焼結性を考慮すると、97質量%までの範囲とする。好ましくは80〜95質量%の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは85〜90質量%の範囲である。
その結果、窒化けい素の出発原料粉末としては、焼結性、曲げ強度、破壊靭性値、転がり寿命を考慮して、酸素含有率が1.5質量%以下,好ましくは0.5〜1.2質量%であり、α相型窒化けい素を90質量%以上含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化けい素粉末を使用することが好ましい。
特に平均粒径が0.7μm以下の微細な原料粉末を使用することにより、少量の焼結助剤であっても気孔率が0.5%以下の緻密な焼結体を形成することが可能である。この焼結体の気孔率はアルキメデス法により容易に計測できる。
また本発明で得られる耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体に含有される全酸素量は6質量%以下に規定される。この焼結体の全酸素量が6質量%を超えると結晶粒界相中の最大気孔径が大きくなり疲労破壊の起点となり易く、耐摩耗性部材の転がり(疲労)寿命が低下する。好ましくは4.5質量%以下とする。
なお、本発明で規定する「焼結体の全酸素量」とは、窒化けい素焼結体を構成している酸素の全量を質量%で示したものである。したがって、酸素が窒化けい素焼結体中に金属酸化物や酸窒化物等として存在している場合は、その金属酸化物(および酸窒化物)量ではなく、その金属酸化物(および酸窒化物)中の酸素量に着目したものである。
さらに本発明で得られる耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体の粒界相中の最大気孔径は0.3μm以下に規定される。この最大気孔径が0.3μmを超えると、特に疲労破壊の起点となり易く、耐摩耗性部材の転がり(疲労)寿命が低下する。好ましくは0.2μm以下とする。
また窒化けい素原料粉末に焼結助剤として添加する希土類元素としては、YHo,Er,Yb,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Sm,Gdなどの酸化物もしくは焼結操作により、これらの酸化物となる物質が単独で、または2種以上の酸化物を組み合せたものを含んでもよい。これらの焼結助剤は、窒化けい素原料粉末と反応して液相を生成し、焼結促進剤として機能する。
上記焼結助剤の添加量は、酸化物換算で原料粉末に対して1〜10質量%の範囲とする。この添加量が1質量%未満の場合は、焼結体の緻密化あるいは高強度化が不十分であり、特に希土類元素がランタノイド系元素のように原子量が大きい元素の場合には、比較的低強度で比較的に低熱伝導率の焼結体が形成される。一方、添加量が10質量%を超える過量となると、過量の粒界相が生成し、気孔の発生量が増加したり、強度が低下し始めるので上記範囲とする。特に同様の理由により2〜8質量%とすることが望ましい。
また本発明において選択的な添加成分として使用するアルミニウム(Al)およびマグネシウム(Mg)の少なくとも一方の酸化物(Al,MgO)は、上記希土類元素の焼結促進剤の機能を促進し低温での緻密化を可能にし結晶組織において粒成長を制御する機能を果し、Si焼結体の曲げ強度および破壊靭性値などの機械的強度を向上させるために5質量%以下の範囲で添加される。このAlおよびMgの添加量が酸化物換算で0.2質量%未満の場合においては添加効果が不十分である一方、5質量%を超える過量となる場合には酸素含有量の上昇が起こるため、添加量は5質量%以下、好ましくは0.2〜5質量%の範囲とする。特に0.5〜3質量%とすることが望ましい。
さらに他の選択的な添加成分としての窒化アルミニウム(AlN)は、焼結過程における窒化けい素の蒸発などを抑制するとともに、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能をさらに助長する役目を果すものであり、5質量%以下の範囲で添加されることが望ましい。
AlNの添加量が0.1質量%未満の場合においては、より高温度での焼結が必要になる一方、5質量%を超える過量となる場合には過量の粒界相を生成したり、または窒化けい素に固溶し始め、気孔が増加し気孔率の上昇が起こるため、添加量は5質量%以下の範囲とする。特に焼結性,強度,転がり寿命共に良好な性能を確保するためには添加量を0.1〜3質量%の範囲とすることが望ましい。
また本発明において他の選択的な添加成分として、Ti,Hf,Zr,W,Mo,Nb,Crを、酸化物,炭化物、窒化物、けい化物、硼化物として添加してもよい。これらの化合物は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進すると共に、結晶組織において分散強化の機能を果しSi焼結体の機械的強度を向上させるものであり、特に、Ti,Moの化合物が好ましい。これらの化合物の添加量が酸化物換算で0.1質量%未満の場合においては添加効果が不十分である一方、5質量%を超える過量となる場合には機械的強度や転がり寿命の低下が起こるため、添加量は5質量%以下の範囲とする。特に0.2〜3質量%とすることが望ましい。
また上記Ti,Mo等の化合物は窒化けい素セラミックス焼結体を黒色系に着色し不透明性を付与する遮光剤としても機能する。
また焼結体の気孔率は耐摩耗性部材の転がり寿命および強度に大きく影響するため0.5%以下となるように製造する。気孔率が0.5%を超えると、疲労破壊の起点となる気孔が急増して耐摩耗性部材の転がり寿命が低下するとともに、焼結体の強度低下が起こる。
さらに上記のように窒化けい素焼結体の気孔率を0.5%以下にし、また窒化けい素結晶組織に形成される粒界相中の最大気孔径が0.3μm以下であり、全酸素量が4.5質量%以下であり、スラスト型転がり摩耗試験装置を使用した場合に、所定の転がり寿命を与えるような窒化けい素焼結体を得るためには、前記原料で調製した窒化けい素成形体を脱脂後、焼結する途中で温度1250〜1600℃で0.5〜10時間保持した後に、温度1650〜1850℃で2〜10時間程度、常圧焼結または加圧焼結することが重要である。また焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、気孔径をさらに小さくすることができる。
特に、焼結工程の途中において1250〜1600℃の温度で0.5〜10時間保持することにより生成する液相(結晶粒界相)中の酸素濃度を減少させ液相を高融点化し、液相の溶融時に生じる泡状の気孔の発生を抑制し、かつ最大気孔径を極微小化し、焼結体の転がり寿命を改善することが可能になる。この焼結途中における保持操作は、特に温度が1350〜1450℃の真空雰囲気で処理した場合に顕著な効果を発揮するが、温度が1500〜1600℃の窒素雰囲気中の処理でも同程度の効果が発揮される。
また、焼結後に液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷した場合に、液相中の酸素濃度の低減化がさらに促進されるので、転がり寿命を改善した焼結体が得られる。
焼結温度を1650℃未満とした場合には、焼結体の緻密化が不十分で気孔率が0.5vol.%を超えた値になり、機械的強度および転がり寿命が共に低下してしまう。一方焼結温度が1850℃を超えると窒化けい素成分自体が蒸発分解し易くなる。特に加圧焼結ではなく、常圧焼結を実施した場合には、1800℃付近より窒化けい素の分解蒸発が始まる。
上記焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度は気孔径を低減したり、粒界相を結晶化させるためにも重要な制御因子であり、冷却速度が毎時100℃を超えるような急速冷却を実施した場合には、焼結体組織の粒界相が非結晶質(ガラス相)となり、焼結体に生成した液相中での酸素濃度の低減化が不十分となり、焼結体の転がり寿命特性が低下してしまう。
上記冷却速度を厳密に調整すべき温度範囲は、所定の焼結温度(1650〜1850℃)から、前記の焼結助剤の反応によって生成する液相が凝固するまでの温度範囲で十分である。ちなみに前記のような焼結助剤を使用した場合の液相凝固点は概略1600〜1500℃程度である。そして少なくとも焼結温度から上記液相凝固温度に至るまでの焼結体の冷却速度を毎時100℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは25℃以下に制御することにより、焼結体の全酸素量が6質量%以下となり、また最大気孔径が0.3μm以下となり、気孔率も0.5%以下となり、転がり寿命特性および耐久性に優れた窒化けい素焼結体が得られる。前述の1300〜1600℃での途中保持処理と組み合わせると、さらに効果的である。
本発明で得られる耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体は、例えば以下のようなプロセスを経て製造される。すなわち前記所定の微細粒径を有し、また酸素含有量が少ない微細な窒化けい素粉末に対して所定量の焼結助剤、有機バインダ等の必要な添加剤および必要に応じてAl,Mg,AlN,Ti等の化合物を加えて原料混合体を調整し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。原料混合体の成形法としては、汎用の一軸プレス法、金型プレス法、ドクターブレード法、ラバープレス法、CIP法のような公知の成形法が適用できる。
上記金型プレス法で成形体を形成する場合において、特に焼結後において気孔が発生し難い粒界相を形成するためには、原料混合体の成形圧力を120MPa以上に設定することが必要である。この成形圧力が120MPa未満である場合には、主として粒界相を構成する成分となる希土類元素化合物が凝集した箇所が形成され易い上に、十分に緻密な成形体となり得ず、クラックの発生が多い焼結体しか得られない。上記粒界相の凝集した箇所は疲労破壊の起点となり易いため、耐摩耗性部材の寿命耐久性が低下してしまう。一方、成形圧力を200MPaを超えるように過大にした場合、成形型の耐久性が低下してしまうので、必ずしも製造性が良いとは言えない。そのため、上記成形圧力は120〜200MPaの範囲が好ましい。
上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中で温度600〜800℃、または空気中で温度400〜500℃で1〜2時間加熱して、予め添加していた有機バインダ成分を十分に除去し、脱脂する。
次に脱脂処理された成形体を焼結する途中で焼成炉内を減圧する真空処理を実施する。
すなわち、0.01Pa以下の真空中にて1250〜1600℃の範囲の温度まで昇温すると共に、この1250〜1600℃の範囲の温度で0.5〜10時間保持する。このような真空処理を実施することによって、焼結体中の酸素やSiOなどのガス成分を外部に向けて移動させ、さらにはガス成分を外部に排出することができる。ガス成分の排出は特に外周部から生じるため、最終的に外周部の酸素濃度を低下させることが可能となる。
真空処理時の温度が1250℃未満であると、ガス成分の排出が十分に進行せず、最終的な焼結体の外周部の酸素濃度を十分に低下させることができないおそれがある。一方、真空処理時の温度が1600℃を超えると実質的に本焼結と変わりがなくなり、外周部から早期に緻密化が始まるため、中間部などのガス成分の除去が行われなくなる場合が生じる。真空処理時の保持時間についても同様であり、上記した範囲から外れるとガス成分の排出が不十分となったり、あるいはガス成分を排出し過ぎるおそれがある。
次に上記真空処理(保持操作)に引き続いて、成形体について、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で1650〜1850℃の温度で所定時間、常圧焼結または雰囲気加圧焼結を行う。加圧焼結法としては、雰囲気加圧焼結、ホットプレス、HIP処理など各種の加圧焼結法が用いられる。
なお、上記焼結工程は真空処理工程に引き続いて行ってもよいし、あるいは一旦常温もしくはその近傍の温度まで炉冷し、その後に窒素を炉内に導入してから改めて焼結温度まで昇温して実施してもよい。
また上記焼結後、得られた窒化けい素焼結体に対し、さらに300気圧以上の非酸化性雰囲気中で温度1600℃〜1850℃で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することにより、疲労破壊の起点となる焼結体の気孔の影響をより低減できるため、さらに改善された摺動特性および転がり寿命特性を有する耐摩耗性部材が得られる。
特に、上記窒化けい素焼結体をベアリングボールのような軸受部材に適用する場合には、常圧焼結または雰囲気加圧焼結後にHIP処理を行うことが有効である。
上記製法によって製造された窒化けい素製耐摩耗性部材は全酸素量が6質量%以下で気孔率が0.5%以下、最大気孔径が0.3μm以下であり、また三点曲げ強度が常温で900MPa以上と機械的特性にも優れている。
また、圧砕強度が200MPa以上、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上である窒化けい素製耐摩耗性部材を得ることもできる。
さらに、本発明の製造方法によれば、ビッカース硬さでHv1200以上の硬度を有し、かつ焼結体の中央部に対して0.2質量%以上2質量%以下の酸素濃度差が設けられた外周部、すなわち低酸素領域とされた外周部を有する窒化けい素焼結体(耐摩耗性部材)を再現性よく得ることができる。
本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法によれば、焼結工程の途中で所定の保持操作を実施した後に本焼結を実施して形成されているため、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径を極微小化することが可能であり、転がり寿命特性および耐久性が優れた耐摩耗性部材が得られる。そのため、この耐摩耗性部材を転がり軸受部材として使用して軸受部を調製した場合には、長期間に亘って良好な摺動転動特性を維持することが可能であり、動作信頼性および耐久性に優れた回転機器を提供することができる。また、他の用途としては、エンジン部品、各種治工具、各種レール、各種ローラなど耐摩耗性を要求される様々な分野に適用可能である。
すなわち、本発明で使用する窒化けい素焼結体は各種の用途に使用することが可能であるものの、特に耐摩耗性部材に対して有効である。この窒化けい素焼結体を適用し得る耐摩耗性部材は、軸受部材、圧延用などの各種ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、カムローラなどのエンジン部品などが挙げられるが、これらのうちでもベアリングボールのように全面が摺動部となる軸受部材(転動体)に対して効果的である。特に、直径が9mm以上というような比較的大きいベアリングボールに対して本発明は効果的である。
なお、耐摩耗性部材として使用する窒化けい素焼結体には、必要に応じて表面研摩や被覆処理などの仕上げ加工を行ってもよいことは言うまでもない。言い換えると、窒化けい素焼結体がそのまま耐摩耗性部材として使用可能な場合は、窒化けい素焼結体が直接耐摩耗性部材となる。
本発明に係る耐摩耗性部材およびその製造方法によれば、焼結工程の途中で所定の保持操作を実施した後に本焼結を実施して形成されているため、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径を極微小化することが可能であり、転がり寿命特性および耐久性が優れた耐摩耗性部材が得られる。そのため、この耐摩耗性部材を転がり軸受部材として使用して軸受部を調製した場合には、長期間に亘って良好な摺動転動特性を維持することが可能であり、動作信頼性および耐久性に優れた回転機器を提供することができる。
次に本発明の実施形態を以下に示す実施例を参照して具体的に説明する。
[実施例1〜2]
実施例1として、酸素量が1.1質量%であり、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.55μmのSi(窒化けい素)原料粉末86質量%に、焼結助剤として平均粒径0.9μmのY(酸化イットリウム)粉末5質量%と、平均粒径0.7μmのAl(アルミナ)粉末5質量%と、平均粒径1.0μmのAlN(窒化アルミニウム)粉末2質量%、平均粒径0.5μmのTiO(酸化チタン)粉末2質量%を添加し、エチルアルコール中で粉砕媒体として窒化けい素製ボールを用いて96時間湿式混合したのち乾燥して原料混合体を調製した。
次に得られた原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加し調合造粒粉としたのち、130MPaの成形圧力でプレス成形し、曲げ強度測定用サンプルとして50mm×50mm×厚さ5mmの成形体と、転がり寿命測定用サンプルとして直径80mm×厚さ6mmの成形体とを多数製作した。次に得られた成形体を450℃の空気気流中において4時間脱脂したのち、常温から加熱し10−2Pa以下の真空雰囲気中にて温度1400℃で2時間にわたる途中保持操作を実施した後、0.7MPaの窒素ガス雰囲気中にて温度1750℃で4時間焼結した後に、1500℃まで温度降下するまでの冷却速度をそれぞれ100℃/hrとなるように調整して焼結体を徐冷した。次に得られた焼結体に対して窒素ガス雰囲気中で圧力100MPaにて温度1700℃で1時間加熱する熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することにより、実施例1に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を調製した。
また、実施例2として、焼結途中での保持操作を1×10Paの窒素ガス雰囲気中にて温度1600℃で2時間保持して実施した点以外は実施例1と同一条件で処理することにより実施例2に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を調製した。
[比較例1〜3]
比較例1として真空雰囲気中で温度1400℃での途中保持操作を実施しない点以外は実施例1と同一条件で処理することにより比較例1に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を調製した。また、本発明の好ましい範囲外の一例である比較例2として、焼結途中での保持操作を1×10Paの窒素ガス雰囲気中にて温度1600℃で2時間実施した点、さらに焼結後の冷却速度を従来の自然冷却による炉冷である500℃/hrとした点以外は実施例1と同一条件で処理して比較例2に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を調製した。さらに、比較例3として酸素量が1.7質量%であり、α相型窒化けい素を91%含む平均粒径1.5μmのSi(窒化けい素)原料粉末を使用した点以外は実施例1と同一条件で処理することにより比較例3に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を調製した。
こうして得られた実施例1〜2および比較例1〜3に係る各窒化けい素製耐摩耗性部材について全酸素量、気孔率、粒界相中の最大気孔径、室温での3点曲げ強度、マイクロインデンテーション法における新原方式による破壊靭性値および転がり寿命を測定して表1に示す結果を得た。
なお、焼結体の気孔率はアルキメデス法によって測定する一方、粒界相中の最大気孔径は、焼結体の断面の中から、単位面積100μm×100μmを任意の3個所選択しSEM等の拡大写真により測定し、その中から最も大きな気孔径を計測した。なお、最大気孔径としては拡大写真中に示される最も長い対角線を採用した。
また、窒化けい素焼結体中の全酸素量の計測は、不活性ガス融解−赤外線吸収法に準ずる酸素分析計により測定した。
また、三点曲げ強度については焼結体から3mm×40mm×厚さ4mmの曲げ試験片を作成し、スパン(支点距離)を30mmとし、荷重の印加速度を0.5mm/minに設定した条件で測定した。
また各耐摩耗性部材の転がり特性は、図1に示すようなスラスト型転がり摩耗試験装置を使用して測定した。この試験装置は、装置本体1内に配置された平板状の耐摩耗性部材2と、この耐摩耗性部材2上面に配置された複数の転動鋼球3と、この転動鋼球3の上部に配置されたガイド板4と、このガイド板4に接続された駆動回転軸5と、上記転動鋼球3の配置間隔を規制する保持器6とを備えて構成される。装置本体1内には、転動部を潤滑するための潤滑油7が充填される。上記転動鋼球3およびガイド板4は、日本工業規格(JIS G 4805)で規定される高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成される。上記潤滑油7としては、パラフィン系潤滑油(40℃での粘度:67.2mm/S)やタービン油が使用される。
本実施例に係る板状の耐摩耗性部材の転がり寿命は、耐摩耗性部材2の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.525mmである3個のSUJ2製転動鋼球を配置し、タービン油の油浴潤滑条件下で、この転動鋼球3に400Kgの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素製耐摩耗性部材2の表面が剥離するまでの回転数を転がり寿命として測定した。各測定結果を下記表1に示す。
Figure 2008273829
上記表1に示す結果から明らかなように各実施例に係る窒化けい素製耐摩耗性部材においては、焼結工程途中で所定の保持操作を実施した後に本焼結を実施して形成されているため、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径が微小化されており、強度特性が良好であり、転がり寿命が10回を超え耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られた。
一方、焼結工程の途中での保持操作を実施しない比較例1においては、酸素の低減効果が少なく気孔の残存が多く、強度特性および転がり寿命が低下した。
一方、比較例2のように焼結体の冷却速度を大きく設定し、急激に冷却した場合は脱酸素効果が十分ではなく、また最大気孔径の縮小効果が少なくなり転がり寿命が低下した。
また、原料粉末中の酸素量が過大である比較例3においては、焼結途中の保持操作および徐冷を実施しても気孔率が大きく、また最大気孔径も大きくなるため、強度および転がり寿命が共に低下することが判明した。
次に本発明に係る耐摩耗性部材を軸受材の転動ボールに適用した場合について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例1B〜2Bおよび比較例1B〜3B]
前記実施例1〜2および比較例1〜3において作成した調合造粒粉をそれぞれ金型に充填加圧して球状の予備成形体を調製した。さらに各予備成形体を120MPaの成形圧でラバープレス処理を実施することにより、圧砕強度測定用および転がり寿命測定用サンプルとしての直径11mmの球状成形体をそれぞれ調製した。
次に各球状成形体について、実施例1と同一条件で脱脂処理を行った後に、表2に示す焼結途中での保持条件,焼結条件,焼結後の冷却速度およびHIP条件で処理し、さらに得られた焼結体を研摩加工して直径が9.525mmであり、表面粗さが0.01μmRaであるボール状に形成することにより、それぞれ実施例1B〜2Bおよび比較例1B〜3Bに係る耐摩耗性部材としての軸受用転動ボールを調製した。なお、上記表面粗さは、触針式表面粗さ測定器を使用し、転動ボールの赤道上を測定して求めた中心線平均粗さ(Ra)として測定した。
また上記のようにして調製した各実施例および比較例に係る耐摩耗性部材としての転動ボールについて、全酸素量,気孔率,粒界相中の最大気孔径,圧砕強度,破壊靭性値および転がり疲労寿命を測定した。
なお、転がり疲労寿命は、図1に示すスラスト型転がり摩耗試験装置を使用して測定した。ここで前記実施例1等においては評価対象が平板状の耐摩耗性部材2であり、この耐摩耗性部材2の表面を転動するボールはSUJ2製転動鋼球3であったが、本実施例1B〜2Bおよび比較例1B〜3Bの窒化けい素製転動ボール8を評価対象とするため、耐摩耗性部材2の代わりにSUJ2製の軸受鋼板9を配置した。
そして各転動ボールの転がり疲労寿命は、上記のように各耐摩耗性部材から直径が9.525mmである3個の転動ボール8を調製する一方、SUJ2製鋼板9の上面に設定した直径40mmの軌道上に上記3個の転動ボール8を配置し、タービン油の油浴潤滑条件下でこの転動ボール8に5.9GPaの最大接触応力が作用するように荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させたときに、上記窒化けい素焼結体製転動ボール8の表面が剥離するまでの時間として転がり疲労寿命を測定した。測定結果を下記表2に示す。
Figure 2008273829
上記表2に示す結果から明らかなように各実施例に係る窒化けい素製転動ボールにおいては、焼結工程途中で所定の保持操作を実施した後に本焼結を実施して形成されているため、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径が微小化されており、圧砕強度が高く、転がり疲労寿命が400時間を超え耐久性に優れた窒化けい素製転動ボールが得られた。
一方、焼結工程の途中での保持操作を実施しない比較例1Bにおいては、酸素の低減効果が少なく気孔の残存が多く、圧砕強度および転がり疲労寿命が低下した。
一方、比較例2Bのように焼結体の冷却速度を大きく設定し、急激に冷却した場合は脱酸素効果が十分ではなく、また最大気孔径の縮小化効果が少なくなり転がり疲労寿命が低下した。
また、原料粉末中の酸素量が過大である比較例3Bにおいては、焼結途中の保持操作および徐冷を実施しても気孔率が大きく、また最大気孔径も大きくなるため、圧砕強度および転がり疲労寿命が共に低下することが判明した。
なお、上記各実施例に係る窒化けい素製転動ボールの転がり疲労寿命を測定する際に、直径9.525mmの転動ボールを3個使用したが、他の直径を選択するとともに配置個数を変えた場合においても、その荷重条件や転動条件に応じた転がり特性が得られることが確認されている。
次に前記実施例以外の組成または処理条件によって調製した板状の耐摩耗性部材について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例3〜27]
実施例3〜27として実施例1において使用した窒化けい素原料粉末と、Y粉末と、Al粉末と、表3に示すように平均粒径0.9〜1.0μmの各種希土類酸化物粉末の他に、平均粒径0.5μmのMgO粉末と、平均粒径1.0μmのAlN粉末の他に平均粒径0.4〜0.5μmの各種化合物粉末を表3に示す組成比となるように調合して原料混合体をそれぞれ調製した。
次に得られた各原料混合体を実施例1と同一条件で成形脱脂処理した後、焼結途中において表3に示す条件で保持操作を実施した後、本焼結を実施し、さらにHIP処理することにより、それぞれ実施例3〜27に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を製造した。
[比較例4〜9]
一方比較例4〜9として表3に示すようにYを過少量に添加したもの(比較例4)、Yを過量に添加したもの(比較例5)、TiOを過量に添加したもの(比較例6)、Alを過量に添加したもの(比較例7)、AlNを過量に添加したもの(比較例8)、MgOを過量に添加したもの(比較例9)の原料混合体をそれぞれ調製した。
次に得られた各原料混合体を実施例3と同一条件で成形脱脂処理した後、表3に示す条件で焼結途中において保持操作を実施した後、本焼結し、さらにHIP処理することにより、それぞれ比較例4〜9に係る窒化けい素製耐摩耗性部材を製造した。
こうして製造した各実施例および比較例に係る各窒化けい素製耐摩耗性部材について、実施例1と同一条件で全酸素量、気孔率、粒界相中の最大気孔径、室温での三点曲げ強度、破壊靭性値および転がり寿命を測定して下記表3に示す結果を得た。
Figure 2008273829
上記表3に示す結果から明らかなように、所定量の希土類元素を含み、酸素量を規定した原料成形体の焼結工程の途中で所定条件で保持操作を実施するとともに、焼結後に徐冷して製造された各実施例に係る耐摩耗性部材においては、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径が微小化されており、強度特性が良好であり、転がり寿命が10回を超えており、耐久性に優れた窒化けい素製耐摩耗性部材が得られている。
一方、比較例4〜9で示すように、希土類成分の添加量が本発明で規定する好ましい範囲外とした焼結体では、焼結途中での保持操作および焼結後の徐冷を実施しても、耐摩耗性部材表面の転がり寿命が低く、焼結体の全酸素量,気孔率,最大気孔径,三点曲げ強度等のいずれかの特性において本発明で規定する特性要件が満たされていないことが確認できる。
次に上記実施例3〜27および比較例4〜9に係る耐摩耗性部材を軸受材の転動ボールに適用した場合について以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。
[実施例3B〜27Bおよび比較例4B〜9B]
前記実施例3〜27および比較例4〜9において作成した調合造粒粉をそれぞれ金型に充填加圧して球状の予備成形体を調製した。さらに各予備成形体を100MPaの成形圧でラバープレス処理を実施することにより、圧砕強度測定用および転がり寿命測定用サンプルとしての直径11mmの球状成形体をそれぞれ調製した。
次に各球状成形体について、実施例1と同一条件で脱脂処理を行った後に、表4に示す焼結途中での保持条件,焼結条件,焼結後の冷却速度およびHIP条件で処理し、さらに得られた焼結体を研摩加工して直径が9.525mmであり、表面粗さが0.01μmRaであるボール状に形成することにより、それぞれ実施例3B〜27Bおよび比較例4B〜9Bに係る耐摩耗性部材としての軸受用転動ボールを調製した。なお、上記表面粗さは、触針式表面粗さ測定器を使用し、転動ボールの赤道上を測定して求めた算術平均粗さ(Ra)として測定した。
また上記のようにして調製した各実施例および比較例に係る耐摩耗性部材としての転動ボールについて、全酸素量,気孔率,粒界相中の最大気孔径,圧砕強度,破壊靭性値および転がり疲労寿命を実施例1Bと同様にして測定した。測定結果を下記表4に示す。
Figure 2008273829
上記表4に示す結果から明らかなように、所定量の希土類元素を含み、酸素量を規定した原料成形体の焼結工程の途中で所定条件で保持操作を実施するとともに、焼結後に徐冷して製造された各実施例に係る転動ボールにおいては、焼結体の酸素濃度が減少し、気孔の発生が抑制されて最大気孔径が微小化されており、圧砕強度特性が良好であり、転がり疲労寿命が400時間を超えており、耐久性に優れた窒化けい素製転動ボールが得られている。
一方、比較例4B〜9Bで示すように、希土類成分の添加量が本発明で規定する範囲外とした焼結体では、焼結途中での保持操作および焼結後の徐冷を実施しても、転動ボールの転がり疲労寿命が低く、焼結体の全酸素量,気孔率,最大気孔径,三点曲げ強度等のいずれかの特性において本発明で規定する特性要件が満たされていないことが確認できる。
次に、酸素濃度が異なる部位を形成した本発明の耐摩耗制部材の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
[実施例101〜105および比較例101〜102]
酸素含有量が1.2質量%の窒化けい素(Si)粉末に、焼結助剤として希土類化合物粉末とアルミニウム化合物粉末、さらに他の金属化合物粉末を、表5に示す組成で添加し、湿式ボールミルを用いて混合した後に乾燥して、それぞれ原料混合物を調製した。
次に、得られた各原料混合物に有機バインダを所定量添加して混合した後、CIP法(成形圧力=100MPa)により球状の成形体をそれぞれ作製した。得られた各成形体を450℃の空気気流中にて脱脂した後、常温から1200〜1500℃の温度まで0.01Pa以下の真空中で昇温し、さらに同温度で2〜6時間保持した。引き続いて炉内に窒素ガスを導入し、1600〜1700℃で2〜5時間焼結することにより、それぞれ直径10mmの球状焼結体(窒化けい素焼結体)を得た。
また、本発明との比較例101として、真空中での昇温および保持を実施せずに、窒素雰囲気中で常温から昇温して焼結する以外は、実施例102と同様にして球状焼結体(窒化けい素焼結体)を作製した。さらに、比較例102として、全酸素量が6質量%を超えるような組成比にする以外は、実施例101と同様にして球状焼結体(窒化けい素焼結体)を作製した。
このようにして得た実施例101〜105および比較例101〜102による各球状焼結体について、中心部と外周部の酸素濃度、およびビッカース硬さを測定した。酸素濃度の測定値については、球状焼結体の断面において、中心部と外周部から任意の測定点を3点選び出し、各測定点の酸素濃度をEPMAで測定し、これら測定値を平均した値を示す。ビッカース硬さはJIS R−1610(試験荷重98.07N)に準じて測定した。
さらに、各球状焼結体の中心部と外周部における焼結助剤の金属成分量の濃度差も求めた。また、各球状焼結体について、焼結後の割れやカケによる不良発生率を調べた。これらの測定結果を表5に示す。なお、各測定にあたり、焼結体は焼き上り面をそのまま残した状態で測定した。
Figure 2008273829
表5から明らかなように、本発明の実施例による各窒化けい素焼結体は中心部と外周部の酸素濃度差が大きいことが分かる。そして、外周部に欠陥の発生原因となるガス成分量が少ないことから、焼結体の割れやカケなどによる不良発生率が低いことが分かる。さらに、外周部の欠陥が少ないことから、表面加工に要する手間やコストも削減することができる。なお、各実施例による窒化けい素焼結体について、不活性ガス融解−赤外線吸収法に準ずる酸素分析計により全酸素量を測定したところ、いずれも全酸素量は6質量%以下であった。
[実施例106〜110および比較例103]
実施例101〜105および比較例101の各窒化けい素焼結体と同組成によって、それぞれ直径10mmのベアリングボール素球を作製した。各素球の焼結は、実施例101〜105および比較例101と同様に焼結したものに対し、さらにHIP処理を施した。これら各素球について、表面から30μmの外周部、表面から1mmの中間部、および中心部の3箇所の酸素濃度を、実施例101と同様にして測定した。その結果を表6に示す。また、各素球に対して、直径9.525mm、表面粗さRa0.3μmとなるように研磨加工を施して、それぞれ仕上げ球とした。
Figure 2008273829
表6から明らかなように、本発明の実施例による各ベアリングボール(仕上げ球)は、酸素濃度が中心部から外周部にいくに従って減少しており、実質的に酸素が濃度傾斜していることが分かる。
[実施例111〜113および比較例104〜108]
実施例107と同様な組成および製法を適用して、それぞれ表7に示す直径を有するベアリングボール素球を作製した。さらに、比較例104については、実施例107と同様な組成および製法を適用して、直径2mmのベアリングボール素球を作製した。比較例105〜108としては、比較例103と同様な組成および製法(真空昇温および保持なし)を適用して、それぞれ表7に示す直径を有するベアリングボール素球を作製した。これら各素球の外周部、中間部および中心部の酸素濃度を、実施例101と同様にして測定した。また、焼結後の焼結体の不良発生率についても測定した。焼結体の不良発生率としては、焼結後に目視により焼結体表面に割れが存在することが確認できるものの割合を測定した。その結果を表7に示す。
Figure 2008273829
表7から明らかなように、直径9mm以上のベアリングボール素球において、中心部と外周部に明確な酸素濃度差が生じることが分かる。そして、これら素球(窒化けい素焼結体)は不良発生率が低いことが分かる。一方、直径2mmのベアリングボール素球では、ほとんど酸素濃度傾斜が生じていない。これは直径2mmと小型のボールの場合、ボールの体積が小さいため、そこに存在する不要なガス成分が相対的に少なく、真空処理の効果が小さいためである。また、比較例105〜比較例108のように真空処理を実施していないベアリングボール素球(窒化けい素焼結体)は不良発生率が高いことが分かる。このことから、本発明は特に直径9mm以上のベアリングボールに対して有効であることが分かる。
なお、本発明の好ましい範囲外の一例である比較例104は直径2mmと小型のボールに対し真空処理を施しても酸素濃度の傾斜がみられないことを示した一例であり、耐摩耗性部材として直径2mmのベアリングボールを本発明から除外するものではない。例えば、比較例104と比較例108を比べて分かる通り、真空処理を施した比較例104の方が不良発生率は小さくなっており小型のボールに対しても本発明は有効であると言える。
[実施例114〜115]
酸素含有量が0.8質量%の窒化けい素粉末87.2質量%に対して、酸化イットリウム粉末を5質量%、酸化アルミニウム粉末を3質量%、窒化アルミニウム粉末を4質量%、および酸化チタン粉末を0.8質量%添加して混合し、原料混合物を調製した。
次に、得られた原料混合物に有機バインダを所定量添加して混合した後、CIP法(成形圧力=100MPa)により球状の成形体をそれぞれ作製した。得られた各成形体を450℃の空気気流中にて脱脂した後、表8に示す条件で真空昇温および真空処理を施した。その後、窒素雰囲気中にて1650℃×5時間の条件で焼結し、さらにHIP処理を行って、それぞれ直径15mmのベアリング素球(窒化けい素焼結体)を得た。
このようにして得た各素球について、外周部、中間部および中心部の3箇所の酸素濃度を、実施例101と同様にして測定した。さらに、各素球を表面粗さRaが0.1μmとなるように研磨加工した後、耐摩耗性試験を行った。耐摩耗性試験は、図1に示すスラスト試験機を用い、ベアリングボールの表面が薄利するまでの時間を測定した。これらの結果を表8に示す。
Figure 2008273829
表8から明らかなように、本発明の窒化けい素焼結体を用いたベアリングボールは耐摩耗性に優れることが分かる。
上記実施例の耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体によれば、例えば耐摩耗性部材に求められる各種特性を満足させた上で、不良発生率を低減することができると共に、加工に要するコストなどを削減することが可能となる。従って、各実施例に係る窒化けい素焼結体を用いることによって、信頼性や寿命特性に優れると共に、製造コストの低減を図った耐摩耗性部材を提供することが可能となる。
本発明で得られる耐摩耗性部材の転がり寿命特性を測定するためのスラスト型転がり摩耗試験装置の構成を示す断面図。 本発明で得られる耐摩耗性部材を構成する窒化けい素焼結体における酸素濃度が異なる各領域を模式図に示す図。
符号の説明
1 装置本体
2 耐摩耗性部材
3 転動鋼球
4 ガイド板
5 駆動回転軸
6 保持器
7 潤滑油
8 転動ボール(窒化けい素製)
9 軸受鋼板(SUJ2製)
A 中心部
B 外周部
C 中間部

Claims (10)

  1. 酸素を1.5質量%以下、α相型窒化けい素を75〜97質量%含有し、平均粒径が1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して1〜10質量%と、アルミニウムおよびマグネシウムの少なくとも一方を酸化物に換算して5質量%以下と、窒化アルミニウムを5質量%以下と、Ti,Hf,Zr,W,Mo,Ta,Nb,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して5質量%以下とを添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、焼結する途中、0.01Pa以下の真空中で温度1250〜1600℃の温度または窒素雰囲気中で温度1500℃〜1600℃で所定時間保持した後、温度1650℃〜1850℃で本焼結し、上記焼結温度から、前記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固するまでに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、全酸素が4.5質量%以下、気孔率が0.5%以下、粒界相中の最大気孔径が0.2μm以下である窒化けい素焼結体から成る耐摩耗性部材を調製することを特徴とする窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  2. 焼結後、前記窒化けい素焼結体に対し、300気圧以上の非酸化性雰囲気中で温度1600℃〜1850℃で熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することを特徴とする請求項1記載の窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  3. 前記所定時間が0.5〜10時間であることを特徴とする請求項1記載の窒化けい素製耐摩耗性部材の製造方法。
  4. 前記窒化けい素焼結体から成る耐摩耗性部材を転がり軸受け部材とすることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材の製造方法。
  5. 前記窒化けい素焼結体が、微量の酸素を含有する焼結体であって、酸素の濃度が中心部に比べて0.2質量%以上2質量%以下の範囲で低減された低酸素濃度の外周部を形成することを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材の製造方法。
  6. 前記窒化けい素焼結体の硬度をビッカース硬さでHv1200以上とすることを特徴とする請求項1記載の耐摩耗性部材の製造方法。
  7. 請求項5記載の耐摩耗性部材の製造方法において、前記外周部は前記中心部に対する焼結助剤中の金属成分の濃度差を0.2質量%未満とすることを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。
  8. 請求項5記載の耐摩耗性部材の製造方法において、前記中心部に対する前記酸素濃度の差が1質量%以下の中間部を形成することを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。
  9. 請求項5記載の耐摩耗性部材の製造方法において、前記耐摩耗性部材はベアリングボールであることを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。
  10. 請求項9記載の耐摩耗性部材の製造方法において、前記ベアリングボールの直径を9mm以上とすることを特徴とする耐摩耗性部材の製造方法。
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