以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明の透明導電性フィルムとは、主鎖に環構造を有し、ガラス転移温度が120℃以上のアクリル樹脂を主成分とする基材フィルムの少なくとも片面に、透明導電層を有するところに特徴を有するものである。
上記環構造としては、ラクトン環、N−置換マレイミド環、無水マレイン酸環、N−置換メタクリルイミド環などが挙げられるが、これらの中でも特に、ラクトン環を有するものであるのが好ましい。主鎖にラクトン環構造を有する重合体を主成分とするものは、優れた透明性や耐熱性に加えて、高い光学適等方性(低位相差、低服屈折)を有するからである。そこで、まず、本発明に係る基材フィルムの主成分であるラクトン環含有重合体について説明する。
[ラクトン環含有重合体]
本発明の透明導電性フィルムに係る基材フィルムとは、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムである。上記基材フィルムの主成分であるラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1):
[式中、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;なお、有機残基は、水素、酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲンの各原子を含有していてもよい]
で表されるラクトン環構造を有するものであるのが好ましい。
本明細書において「有機残基」とは、炭素原子と、この炭素原子に共有結合を介して、水素、酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲンの各原子を有していてもよい基である。なお、上記炭素数1〜20の有機残基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基などのアリール基、ベンジル基などのアラルキル基が挙げられる。
ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で示されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。また、ラクトン環構造は、重合体に正の位相差を与えるので、ラクトン環構造の含有割合が多い場合には、得られる重合体の位相差が大きくなる傾向があり、かかる場合には、後述する他の構造体単位(負の位相差を与える)を共重合あるいはブレンドしても、面方向の位相差を調整し難い場合がある。なお、上記ラクトン環構造の含有割合は、NMR、ラクトン環構造を有する(共)重合体のダイナミックTG測定(150〜300℃)による質量減少から算出される脱アルコール反応率と、使用した原料単量体におけるヒドロキシ基を有する原料単量体のモル比との値から求められる。
ラクトン環含有重合体は、上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記式(2):
[式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、または−C(O)−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素数1〜20の有機残基(上記式(1)と同様)を表す]
で示される単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。上記ラクトン環構造は、得られる重合体の耐熱性の向上に寄与するものの、過度に存在する場合には、ラクトン環構造に由来する正の位相差が大きくなる。したがって、ラクトン環構造の含有量を調整するため、重合体にラクトン環構造以外の構造を与え得る単量体や、負の位相差を与え得る単量体を採用するのが好ましい。
ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、ヒドロキシ基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、上記式(2)で示される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重合工程によって分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
重合工程においては、例えば、下記式(3):
[式中、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基(上記式(1)と同様)を表す]
で示される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体が得られる。
上記式(3)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。上記一般式(3)であらわされる単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
重合工程に供する単量体成分中における上記式(3)で示される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。上記式(3)で示される単量体の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が不十分になることがある。逆に、上記式(3)で示される単量体の含有割合が90質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が生じたり、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
重合工程に供する単量体成分には、上記式(3)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、および、下記式(2):
[式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、または−C(O)−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素数1〜20の有機残基(上記式(1)と同様)を表す。]
で示される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
上記式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
ヒドロキシ基含有単量体としては、上記式(3)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシ基含有単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記式(3)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中における不飽和カルボン酸の含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。特に、上記式(2)中、Xがアリール基である単量体は、重合体に負の位相差を与える構造単位となる。具体的には、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、オクタクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンを用いることが特に好ましい。
上記式(2)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。上記式(2)で示される単量体が、重合体に負の位相差を与えるものである場合、当該単量体の含有量が少なすぎると、ラクトン環構造に由来する面方向の位相差を充分に相殺できないことがあり、一方、多すぎると、負の位相差が大きくなりすぎ、正の位相差を与えるラクトン環構造で位相差を相殺できないことがある。但し、上記式(2)で表される単量体を用いずとも、後述するフィルム化の際の熱可塑性樹脂組成物に上記式(2)より選択される単量体成分からなる(共)重合体をブレンドすることでも位相差を調整することができる。
単量体成分を重合して分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の溶剤を用いるのが好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。なお、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるため、分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の主鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1):
[式中、R1、R2、R3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を(上記式(1)と同様)表す;なお、有機残基、水素、酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲンの各原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造を有する。
重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させると共に、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。また、有機リン化合物を触媒として用いた場合には、後述の脱揮工程を併用する場合に起こり得る分子量低下が抑制されるので、ラクトン環含有重合体の優れた機械的強度を確保できる。
環化縮合反応の際に触媒として用いられる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオロメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色したり、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
前述したように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、いったん溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度180℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは100〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
ラクトン環含有重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
ラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できないことがある。
ラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
本発明に係るラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、特に好ましくは140℃以上である。なお、可撓性の点からは、200℃以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度が高すぎる場合には、フィルム成形が困難になる場合がある。
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
<ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルム>
本発明に係る透明導電性フィルムに使用される基材フィルムは、上述のラクトン環含有重合体を主成分として含むものであるのが好ましい。
基材フィルムにおけるラクトン環含有重合体の含有割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。基材フィルム中のラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できないことがある。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムには、その他の成分として、ラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルム状とした際の透明性向上の観点から、100nm以下である事が好ましく、70nm以下である事が更に好ましい。また、ゴム質重合体は、その表面に、本発明で用いるラクトン環構造を有する重合体と相溶し得る組成のグラフト部を有するのが好ましい。
上記他の重合体の中でも、ラクトン環構造を有する重合体(あるいはラクトン環構造を有する共重合体)と熱力学的に相溶する重合体は、得られる樹脂フィルムの透明性や機械強度を低下させ難いため好ましい。なお、ラクトン環構造を有する重合体(あるいは共重合体)とその他の重合体とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた樹脂組成物のTgを示差走査熱量測定器などで測定した場合に、観測されるTgが1点であることにより確認できる。
基材フィルムにおけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムは、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルム中における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体と、必要により、その他の重合体や添加剤などを、従来公知の混合方法で充分に混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、これをフィルム成形する方法;ラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを溶媒にそれぞれ溶解あるいは分散させた後、これらを混合して均一な混合液とし、フィルム状に成形する方法などが挙げられる。また、上述のようにして得られた未延伸フィルムを延伸することによって延伸フィルムとしてもよい。
なお、熱可塑性樹脂組成物を製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記のフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練すればよい。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
具体的なフィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムは、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持することができる。
延伸温度は、フィルム原料である熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)を超えると、樹脂組成物の流動(フロー)が起こり、安定した延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
なお、ラクトン環含有重合体を主成分とするフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行ってもよい。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
ラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下する。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下したり、タッチパネルが厚くなる上、コスト面が問題となる場合がある。
なお、本発明に係るラクトン環含有重合体を主成分とする基材フィルムは、必要に応じて、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
本発明に係る基材フィルムは、高透明性を有するものであるが、液晶ディスプレイやフラットパネルディスプレイなどの画像表示装置などと組み合わせて用いるタッチパネルとして用いる観点からは、ASTM−D−1003に準じた方法で測定される可視光線透過率(400〜700nmにおける平均透過率)が、80%以上であるのが好ましく、より好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。
本発明に係る基材フィルムは、光弾性係数が−1.0×10-10m2/N以上、1.0×10-10以下であることが好ましい。より好ましくは−1.0×10-11m2/N以上、1.0×10-11以下であり、さらに好ましくは−1.0×10-12m2/N以上、1.0×10-12m2/N以下である。光弾性係数とは、材料に固有の値であり、応力複屈折の起こりやすさの目安となる。本発明に係る基材フィルムは、各種表示装置などと組み合わせて用いるタッチパネルなどの光学関連の用途に用いることも視野に入れているため、応力複屈折はできるだけ低減されているのが望ましく、光弾性係数は小さいほど好ましい。光弾性係数が10-10m2/Nより大きい場合には、基材フィルムに負荷をかけた時の位相差が大きくなり、当該基材フィルムを表示装置と組み合わせて用いた場合に、充分な視覚特性が得られ難い場合がある。
なお、応力複屈折とは、応力負荷によって発現する複屈折のことをいい、基材フィルムに応力ひずみが残っている場合や、外力が加えられた場合に発現する。応力複屈折は、以下の式で表される値である。
Δn=C・δ
(上記式中、Δnは応力複屈折、Cは光弾性係数(m2/N)、δは応力(gf)を示す。)
また、一般的に、光弾性係数は、エスプリ法で求めることができる。エスプリ法とは、適当なサイズの試験片を引張治具にセットし、複数の応力をかけた際のレタデーションの変化を位相差測定装置で測定し、得られた値を、縦軸:レタデーション、横軸:応力としてプロットし、直線近似したときの傾きとして求めることができる。
本発明に係る基材フィルムのガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であるのが好ましく、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上であり、200℃以下であるのが好ましく、より好ましくは170℃以下である。基材フィルムのガラス転移温度が高すぎる場合には、基材フィルムの可撓性が低下する虞がある。
本発明に係る基材フィルムは、ASTM−D−882−61Tに基づいて測定した引張強度が10MPa以上、300MPa未満であることが好ましく、より好ましくは30MPa以上、250MPa以下である。10MPa未満の場合には、十分な機械的強度を発現できなくなるおそれがあるため好ましくない。300MPaを超えると、加工性が悪くなるため好ましくない。
さらに、本発明に係る基材フィルムは、面方向の厚さ100μmあたりの位相差が−100nm以上、100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは−50nm以上、50nm以下、さらに好ましくは−10nm以上、10nm以下である。面方向の位相差は複屈折の指標であり、本発明に係る基材フィルムは複屈折が低い。面方向の厚さ100μmあたりの位相差が−100nm未満、もしくは100nmを超える場合には、屈折率の異方性が上昇し、低複屈折を要求される用途には使用し難い場合がある。
本発明に係る基材フィルムは、同一面内における位相差分布が10nm以下であるのが好ましい。より好ましくは5nm以下である。
本発明に係る基材フィルムの260℃以下における揮発成分の含有量は3000ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは2000ppm以下であり、さらに好ましくは1000ppm以下である。基材フィルムに含まれる揮発成分量が多い場合には、後述する透明導電層を形成する際に、導電性や透明性が均一な透明導電層の形成を妨げることがある。また、発泡し、基材フィルムの透明性が失われたり、変形したり、さらには機械的強度が低下する場合がある。なお、揮発成分の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
<透明導電層>
本発明の透明導電性フィルムは、上記基材フィルムの少なくとも片面に、透明導電層を有するものである。上記透明導電層を構成する材料としては、従来、当該分野で導電性材料として用いられているものはいずれも使用可能であり、具体的には、有機導電性化合物、有機導電性ポリマー、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、インジウム−錫酸化物(ITO)、アンチモン−錫酸化物(ATO)、亜鉛−アルミニウム酸化物、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物;金、銀、銅、パラジウム、アルミニウムなどの金属が挙げられる。これらの中でも、酸化亜鉛、又は、酸化インジウムを主成分として含むものが好ましく、特に、酸化インジウムを主成分として含むものが好ましい。中でも、インジウム−錫酸化物は、高い透明性と導電性を兼ね備えているため好ましい。
なお、上記「主成分」とは、透明導電層中、酸化インジウムが60質量%以上含まれることを意味し、好ましくは酸化インジウムの含有量は80〜99質量%であり、より好ましくは90〜95質量%である。
上記透明導電層の厚みは、20〜300nmとするのが好ましい。より好ましくは25〜200nmであり、さらに好ましくは30〜100nmである。透明導電層の厚みが薄すぎる場合には、厚みや組成が不均一になるおそれがあり、一方、厚すぎる場合には、透明性が失われるおそれがある。
本発明において、基材フィルム上に透明導電層を形成する方法としては、コーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの薄膜形成手段が挙げられる。これらの中でも、透明導電層の膜厚および組成の制御が容易で、基材フィルムへの密着性、生産性に優れるスパッタリング法を採用するのが好ましい。
スパッタリング法を採用する場合、所望の透明導電層と同一の組成を有する金属酸化物ターゲットを用いる通常のスパッタリング法や、金属のターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素、窒素などを混合したものを用い、ターゲットまたは基板上で反応させることによって所望の組成の透明導電層を成膜してもよい。スパッタの方式も特に限定されず、2極スパッタ、3極スパッタ、4極スパッタ、マグネトロンスパッタ、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法、アンバランスドマグネトロンスパッタなどのプラズマ方式、イオンビームスパッタ、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタなどのビーム方式などが挙げられる。これらの中でも、マグネトロンスパッタ法、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法が好ましい。なお、使用する電源は、高周波電源(RF)、直流電源(DC)のいずれであってもよい。
スパッタリング法で透明導電層を形成する際のスパッタガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの希ガスが用いられる。また、反応性ガスとして、酸素や窒素などを用いてもよい。なお、スパッタリング時の真空度は、0.01〜2.0Paとするのが好ましい。より好ましくは0.1〜1.0Paである。真空度が上記範囲内であれば、放電が安定に起こるため、スパッタリングが安定し、均一な膜厚、組成の透明導電膜(層)が得られ易い。また、透明導電層と基材フィルムとの密着性も良好となり易い。なお、本発明に係る基材フィルムにラクトン環が含まれる場合には、当該ラクトン環と金属酸化物との間に分子間力が働くため、基材フィルムと透明導電膜と密着性がより良好となる。
また、透明導電性層を積層する工程では、基材フィルムの表面温度が、基材フィルムのガラス転移温度+30℃を超えない範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、基材フィルムのガラス転移温度+20℃を超えない範囲であり、最も好ましいのは、基材フィルムのガラス転移温度を超えない範囲である。基材フィルムのガラス転移温度+30℃を超えると、基材フィルムが変形したり、基材フィルムの表面平滑性が失われるおそれがある。
<透明導電性フィルム>
本発明の透明導電性フィルムは、上述のように、主鎖に環構造を融資ガラス転移温度が120℃以上のアクリル樹脂を主成分とする基材フィルム、より好ましくはラクトン環構造含有重合体を主成分とする基材フィルムの少なくとも片面に、透明導電層を有するものである。本発明の透明導電性フィルムは、ASTM−D−1003に準拠した方法で測定される可視光線透過率が、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率が80%未満では、透明性が低下し、高い透明性が要求される用途に用いることが困難な場合がある。
さらに、本発明の透明導電性フィルムは、位相差測定装置により測定される面方向の厚さ100μmあたりの位相差が−100nm以上、100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは−50nm以上、50nm以下、さらに好ましくは−10nm以上、10nm以下である。面方向の位相差は複屈折の指標であり、本発明に係る透明導電性フィルムは複屈折が低い。面方向の厚さ100μmあたりの位相差が−100nm未満、もしくは100nmを超える場合には、屈折率の異方性が上昇し、低複屈折を要求される用途には使用し難い場合がある。
また、本発明の導電性フィルムは、同一面内における位相差分布が10nm未満であるのが好ましい。より好ましくは5nm以下である。
<タッチパネル>
本発明の透明導電性フィルムは、高い透明性を有し、かつ、耐久性および低複屈折性を兼ね備えたものであるため、各種表示装置と組み合わせて使用するタッチパネルに好適に用いられる。また、基材フィルムと透明導電層との密着性が良好であるため、ペンなどで繰り返し入力を行った場合にも、電極(透明導電層)間の摩擦による透明導電層の剥離が生じ難い。本発明の透明導電性フィルムを用いたタッチパネルとは、上方と、下方の2枚の透明導電性フィルムが、透明導電層が対向し、かつ、上下の透明導電層間に所定の間隙が保たれるようにスペーサーを介して積層された構造を有するものである。当該積層構造体を、タッチパネルとして使用する場合、一方(上方)の透明導電性フィルムの透明導電層非形成面が、指やペンで押され、その押圧で上下の透明導電層が接触することで、指やペンによる入力情報が認識される。すなわち、上下の透明導電層が接触箇所でショートされるため、これが電気信号として処理され、指やペンによる入力内容が認識されるのである。なお、本発明に係るタッチパネルは上述のように、2枚の透明導電性フィルムからなるものであっても良く、また、フィルム表面のギラツキや映り込み、耐キズ付き性、耐指紋性、繰り返し使用時の耐久性を向上させるため透明導電層非形成面に表面処理(ハードコート処理、耐指紋付着処理)を施したり、機能性層を設けてもよい。また、使用時における入力のし易さを確保するため、透明導電層非形成面に、ガラスや、高分子樹脂フィルムを積層することもできる。
本発明のタッチパネルは、透明性に優れ、且つ、光学的に等方である(実質的に複屈折を有さない)本発明の透明導電性フィルムを使用するものであるため、これを液晶ディスプレイパネルや、プラズマディスプレイパネル、CRTなどの表示装置に重ねて用いた場合にも、コントラストの低下が生じ難く、高い視認性を有するなど、優れた表示品位を示す。