JP2008120838A - 配位結合を利用した薬物−高分子複合体製剤の調製方法 - Google Patents

配位結合を利用した薬物−高分子複合体製剤の調製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 簡易な薬物−高分子複合体の調整方法を提供する。
【解決手段】 生体内で不安定な薬物を高分子運搬体に、化学結合ではなく、金属イオンを介して配位的に結合させる。キレート能を有する薬物、該薬物を包含した運搬体または診断薬と、キレート能を有する高分子材料とを金属イオンの存在下にて混合することにより、薬物−高分子複合体が容易に得られ、しかも薬効発現が極めて顕著である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、金属イオンを介した配位結合による治療薬あるいは診断薬と高分子とからなる薬物−高分子複合体製剤、および高分子との複合体化による薬物の体内動態の修飾ならびにその徐放化とその作用の増強に関する。
一般に、薬物は、生体内半減期が短く、水溶液として投与しただけでは期待する薬効は得られない。そのため、薬物の生体内での安定性を高める(例えば、薬物の血中寿命の延長など)とともに、ある一定の期間、薬物を徐々に放出できるように製剤化すること(薬物の徐放化)が望ましい。また、生体内に投与された薬物のうちの、活性を保持したまま標的作用部位に到達した薬のみが治療および診断効果を示し、残りの部分は無効となるか、場合によっては不必要な部位に作用して副作用の原因となることが知られている。そこで、薬物を標的部位に選択的に作用させること(薬物のターゲティング)によって、薬物治療法を有効に行わせることが必要である。これらの目的のために、現在、高分子材料を用いた薬物のドラッグデリバリーシステム的な修飾が行われている。診断薬に関しても同じことがいえる。すなわち、診断を行なおうとする標的部位への薬物のターゲティングはその診断効果をさらに高めることになる。したがって、もしも薬物にターゲティング能を付与することができるならば、治療薬の薬理作用ならびに診断薬の効果を発現させるための薬物投与量を低下できるとともに、多量投与による治療薬で特に問題となっている薬物の副作用の低減も期待できる。
運搬体(キャリアー)を用いた薬物体内動態の修飾には、運搬体自身の体内での運命を知っておく必要がある。例えば、生体に対する特別な親和性のない合成および天然水溶性高分子の生体内分布はその分子量ならびに電荷などの影響を強くうけること、糖鎖をもつ水溶性高分子修飾によって薬物を特定臓器へ能動的ターゲティングできることなどが、これまでに報告されている(例えば、Takakura,Y.など、Pharm.Res,7巻、p339、1990、Yamaoka,T.など、DrugDelivery、1巻、p75,1993、およびTakakura,Y.など、Adv.DrugDeliveryRev.,19巻、p377、1996など)。また、薬物運搬体としてよく用いられているリポソームなどもその表面を水溶性高分子で修飾することにより、生体内分布が変化することが報告されている(例えば、Woodle,M.C.など、Biochim.Biophys.Acta,1113巻,p171、1992、および原耕平など、ターゲティング療法、医薬ジャーナル社、p125、1985など)。さらに、癌組織と正常組織との間の解剖学的な違いを利用して、高分子化合物およびリポソームなどの運搬体を用いた治療薬の癌組織への受動的ターゲティングが試みられている(例えばMaeda,H.など、Crit.Rev.Therap.DrugCarrier Sys.,6巻,p193,1989など)。
以上のように、薬物運搬体としての高分子材料あるいはリポソームと薬物、あるいは薬物含有リポソーム、薬物含有高分子ミセル、あるいは薬物含有高分子微粒子と高分子材料とを適当に組み合わせることによって、薬物を特定部位へターゲティングすることができると考えられる。すでに、これらの高分子材料と薬物、あるいは高分子材料と上述の薬物包含運搬体との複合体化に関しては、非常に多くの報告が出されている。しかし、これまでの複合体調製においては、ほとんど必ず、薬物と高分子材料との両者の間に化学的な結合反応が行われているため、その化学反応の煩雑さ、ならびに化学結合による薬物の活性低下の問題が常につきまとう。このことが、高分子との複合体化によって薬物の有効性が高められるという多くの報告があるにもかかわらず、それらの企業化を遅らせている一つの原因と考えられる。そこで、このような化学結合反応を行うことなく、より簡便に薬物と高分子とを結合させ、複合体を調製する方法が望まれていた。
これまでにも生体内分解吸収性あるいは非分解吸収性の高分子材料を用いた治療薬の徐放化の報告は多い(例えば、瀬崎仁編集、医薬品の開発、第13巻、薬物送達法、廣川書店、1988年など)。例えば、代表的な生体内分解吸収性高分子であるグリコール酸−乳酸共重合体などの高分子材料と薬物とを混合し、薬物を徐放する試みがある。しかし、それらの高分子が油溶性であるため、相溶性の不足から、水溶性薬物の徐放化には問題があった。そこでその一つの解決策として、生体内にて分解吸収する高分子ハイドロゲルを薬物徐放用マトリックスとして利用しようという試みが報告されている(例えば、Gombotz,W.R.など、BioconjugateChcm.,6巻,p332,1995など)。しかしながら、この場合の薬物の徐放期間は、基本的にはハイドロゲル内における薬物の自己拡散性により決定されるため、その徐放性を広範囲にわたって変化させることは困難である。このため、特に、注射可能な小さなサイズをもつ高分子ハイドロゲルにおいては、薬物の徐放化は事実上、不可能となる。そこで、何らかの方法によってハイドロゲル内へ薬物を固定化し、ハイドロゲルマトリックスの分解性を制御することによって、分解に伴って放出される薬物の徐放をコントロールするアプローチが現実的である。ハイドロゲルへの薬物の固定化には化学結合法と物理結合法とがあるが、前者の方法では、放出された薬物にマトリックスフラグメントが化学的に結合しているため、薬効発現の点からは後者の固定化法のほうが好ましい。後者の物理結合を介した薬物の固定化の一例としては、薬物とハイドロゲルマトリックスとの間の静電的相互作用を利用する試みがあり、注射可能な粒子状ハイドロゲルマトリックスからのタンパク質薬物の徐放化が報告されている(Tabata,Y.など、Proc.4thJapan InternationalSAMP Symposium,p25,1995)。
担体に固定化されたキレート配位子へ金属イオンを介した結合力(配位結合力)により物質を相互作用させ、その相互作用の強弱によって物質を分離精製しようとする金属アフィニティクロマトグラフィと呼ばれる方法がある(例えば、Porath,J.など,Nature,258巻,p598,1975など)。例えば、ペプチド、タンパク質、あるいは核酸などは、それ自体に金属イオンに対するキレート能をもつため、あらかじめ金属イオンにキレートさせておいたアフィニティカラムにそれらの物質を単に流すことによって物質は担体に吸着する。次に、pHあるいはイオン強度の異なる溶液をカラム内に流すことにより、吸着した物質は容易に担体より脱着される。この場合、カラムと物質との間のアフィニティは、物質と金属イオンとの組み合わせによって変化する。この方法により、すでに種々の生理活性タンパク質などの分離精製が行われるとともに、脱離された後のタンパク質の生物活性が保持されていることが報告されている(例えば、Victor,G.など,J.Biol.Chem.,252巻,p5934,1977など)。
英国特許1972年1−388−580には、金属アフィニティ結合力を薬物の固定化とその徐放に利用するという記載があるが、これは、水不溶性の高分子ハイドロゲルに対するものであり、キレート能をもつ水溶性の高分子物質を用いた応用(例えば、薬物の血中寿命の延長、薬物のターゲティングなど)については示唆されていない。さらに、この特許では、キレート能をもつ高分子物質、薬物、および金属イオンの3者を同時に混合する方法によって作製された高分子ハイドロゲルをホモジェナイズすることによって、それらの体内への注射投与が可能であるとの記述がある。しかしながら、あらかじめ作製しておいた注射可能なサイズをもつ高分子ハイドロゲル(例えば、粒子状、マイクロゲル状、および流動性固体状の高分子ハイドロゲルなど)を金属イオンの存在下にて薬物と混合することによって、簡易に薬物が固定化された高分子ハイドロゲルの作製が可能となることについては記載されていない。また、適用できる薬物として、分子量が3,000以上の薬物、例えば、ホルモン、酵素、インターフェロン誘導用のRNAなどが挙げられているが、本発明においては、後述するように、それらの薬物を含み、あるいはそれ以外の治療薬、治療薬を包含した薬物運搬体、および診断薬に対しても適用拡大が可能である。
金属イオンを介して高分子ハイドロゲルを作製することに関する報告があるが(例えば、Bonaccorsi,F.など,Int.J.PolymericMater.,18巻,p165,1992など)、得られたハイドロゲルへの薬物の固定化、およびその徐放化への応用については示唆されていない。
診断薬に関しては、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(以下DTPAという)残基などのキレート配位子をポリエチレングリコール、デキストラン、あるいは血清アルブミンなどの水溶性高分子に導入し、ガドリニウムなどをキレートさせた後、核磁気共鳴イメージ(以下MRIという)の増感剤として利用するという報告があり(例えば、Dessor,T.S.など、J.MagneticResonanceImaging,4巻,p467,1994など)、すでに、配位結合が診断薬分野に応用されている。しかしながら、これは単にMRI増感効果の高い金属イオンを水溶性高分子に導入するという報告であり、これらの高分子−金属増感剤に金属イオンを介して、さらに生理活性物質も結合した薬物−増感性金属−高分子複合体を作製し、診断と同時に治療にも利用しようということに関しては記載されていない。
英国特許1972年1−388−580 Takakura,Y.など、Pharm.Res,7巻、p339、1990 Yamaoka,T.など、Drug Delivery、1巻、p75,1993 Takakura,Y.など、Adv.DrugDeliveryRev.,19巻、p377、1996 Woodle,M.C.など、Biochim.Biophys.Acta,1113巻,p171、1992、 原耕平、ターゲティング療法、医薬ジャーナル社、p125、1985 Maeda,H.など、Crit.Rev.Therap.DrugCarrier Sys.,6巻,p193,1989 瀬崎仁編集、医薬品の開発、第13巻、薬物送達法、廣川書店、1988年 Gombotz,W.R.など、BioconjugateChcm.,6巻,p332,1995 Tabata,Y.、Proc.4th Japan InternationalSAMP Symposium,p25,1995 Porath,J.など,Nature,258巻,p598,1975 Victor,G.など,J.Biol.Chem.,252巻,p5934,1977 Bonaccorsi,F.など,Int.J.PolymericMater.,18巻,p165,1992 Dessor,T.S.など、J.Magnetic ResonanceImaging,4巻,p467,1994
本発明は、生体内で不安定な薬物を高分子運搬体に化学結合させるのではなく、金属イオンを介して配位的に結合させることによって、薬物−高分子複合体の簡易な製法を提供する。これらの配位結合を利用して調製された薬物−高分子複合体は、従来の化学結合法によって作製されてきた薬物−高分子複合体と同様に、薬物の血中寿命の延長およびそのターゲティング、ならびに薬物の徐放化を可能とする。
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討した結果、キレート配位子を有する高分子材料あるいはそれ自身でキレート能を有する高分子材料と薬物とを金属イオンの存在下に単に混合することにより、薬物と高分子との複合体を容易に得ること、さらに、得られた複合体が薬物体内動態の修飾ならびに薬物の徐放化などの特性を有し、従来の化学結合法により作製されてきた薬物−高分子複合体と同様に、薬効発現が極めて有利となることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明の技術的構成を説明する。本発明の薬物−高分子複合体製剤は以下の方法によって得ることができる。アミノ基あるいは水酸基をもつ高分子のジメチルホルムアミド溶液にDTPA酸無水物を加え、高分子にキレート能をもつDTPA残基を導入する。反応後、水に対する透析を行って高分子に結合していないDTPAを除去し、凍結乾燥により金属キレート配位子のDTPA残基をもつ高分子を得る。次に、これらのDTPA残基導入高分子と金属イオンとを混合し、室温にて撹拌する。混合物をゲル濾過することにより、結合していない金属イオンを分離除去し、金属アフィニティ結合力を有する水溶性の高分子を作製する。この水溶性高分子をタンパク質薬物を含む水溶液内に投入する。得られた混合物をゲル濾過することにより、結合していない薬物を分離除去し、水溶性のタンパク質薬物−高分子複合体を得る。タンパク質薬物と金属イオンとを同時にDTPA残基導入高分子と混合、室温にて撹拌することによっても、同様に水溶性のタンパク質薬物−高分子複合体を得ることができる。一方、DTPA残基をもつ高分子を化学架橋すること、あるいはあらかじめ作製しておいた架橋高分子ハイドロゲル粒子へDTPA残基を導入することによって、金属キレート配位子を有する高分子ハイドロゲル粒子を作製する。これらの高分子ハイドロゲル粒予を金属イオン水溶液に浸漬させることによって、金属キレートを形成させた後、遊離金属イオンを除去し、金属アフィニティ結合力を有する高分子ハイドロゲル粒子を作製する。次に、これらの高分子ハイドロゲル粒子をタンパク質薬物を含む水溶液中に投入する。得られたハイドロゲルを水洗することにより、結合していない薬物を分離除去し、タンパク質薬物が固定化された高分子ハイドロゲル粒子を得る。
本発明に用いる薬物としては、それ自体にキレート能をもつ物質であれば、その分子量ならびに種類に関係はない。例えば、抗ガン剤、抗菌剤、抗炎症剤などの低分子治療薬、インターフェロン、インターロイキン、種々の酵素薬物、種々の分化因子、および増殖因子などのぺプチドおよびタンパク質薬物、ムラミルジペプチドあるいはポリI−Cなどの免疫を賦活する作用をもつ薬物、インターフェロン誘導用RNA、さらにプラスミドおよびアンチセンスDNAなどの遺伝子治療に用いられる核酸薬物などを用いることができる。得られた薬物−高分子複合体の安定性の点から、薬物としては高分子量治療薬の使用が好ましい。また、治療薬単独ではなく、薬物を含有したリポソーム、高分子ミセル、あるいは高分子微粒子などの薬物包含運搬体、ならびに超音波造影剤、MRI増感剤などの診断薬に対しても本発明の複合体調製方法は適用可能である。
本発明に用いる高分子材料としては、特に限定されるものではないが、それ自身に金属に対するキレート能をもつポリエチレングリコール(以下PEGという)、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、あるいは核酸などが挙げられる。しかしながら、もし高分子材料がキレート能の弱い、あるいはそれをもたない場合には、キレート配位子を分子内に積極的に導入することによって本発明の目的に用いることができる。キレート能をもたないあるいは弱い高分子として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸、あるいは多糖類などが挙げられるが、これらの高分子は、その側鎖に金属キレート残基を導入することによって本発明に用いることができる。さらに、PEG分子の末端に金属キレート残基を導入することによって、PEGの末端のみを用いたシンプルな薬物との複合化も可能である。本発明では、これらの高分子材料を水溶液のまま、あるいは化学架橋により得られるハイドロゲルとの2つの形態で用いることができる。前者は薬物あるいは薬物含有運搬体との複合体化に用いられ、それらの血中寿命の延長ならびに特定臓器へのターゲティングなどを目的としている。一方、後者は薬物の固定化のための担体として用いられる。あらかじめ作製しておいた生体内分解吸収性の高分子材料からなる注射可能な形状をもつ高分子ハイドロゲルに、金属アフィニティ結合力を利用するとことによって薬物を固定化する。ハイドロゲル本体の分解とともに、薬物は徐放化されていく。
高分子材料へ化学的に導入されるキレート配位子としては、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、アミノ基、イミダゾール基、チオール基、あるいは水酸基など、金属イオンを配位結合する化学構造をもつものであれば、特に限定されるものではない。例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(以下EDTAという)、DTPA、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミノトリ酢酸、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(以下EGDTAという)、およびエチレンジアミンテトラプロピオン酸などのコンプレクサン型配位子、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、あるいはα−アミノ酸(グルタミン酸、リジン、アスパラギン酸、シスチン、ヒスチジン、およびチロシンなど)などが挙げられる。これらのキレート配位子の高分子への導入反応については、種々の方法が考えられる。例えば、水酸基を分子内にもつ高分子の場合には、塩化シアヌル法、臭化シアン法、あるいはエピクロルヒドリン法などで水酸基とキレート配位子のアミノ基との間に化学結合を形成させる。また、多糖類に対しては、これら以外に、過ヨウ素酸酸化法による結合反応も有効である。水酸基をカルボニルイミダゾールにより活性化した後、配位子のカルボキシル基あるいはアミノ基と結合させることも可能である。カルボキシル基をもつ高分子では、カルボジイミド、N−ヒドロキシスクシンイミドとカルボジイミド、クロロ炭酸エチルなどを用いたカルボキシル基と配位子のアミノ基との間の結合反応、アミノ基をもつ高分子材料に対してはカルボジイミドなどを用いた配位子のカルボキシル基との間の結合反応、ならびに塩化シアヌルなどを用いた配位子とアミノ基との間の結合反応なども、キレート配位子の高分子材料への導入反応のために有用である。上述の結合反応に加えて、DTPA酸無水物、およびEDTAのアミノベンジルあるいはイソチオシアノベンジル誘導体などは、混合するだけで容易に高分子のアミノ基あるいは水酸基などと反応し、キレート配位子を高分子鎖に導入することができるため好ましい。その他、キレート能に優れた2、2’−ジピリジン、1、10−フェナントロリン残基の高分子への導入も有効である。以上のように、キレート能をもつ配位子残基を高分子鎖へ直接導入する方法に加えて、キレート配位残基と高分子との間にスペーサーを導入することもできる。例えば、まず、アミノ基を両末端にもつ、N1,N1−ビス(3−アミノプロピル)1、3−プロピルジアミン、ビス(3−アミノプロピル)アミン、炭素鎖長の異なる脂肪族ジアミン、あるいはリジンのエステル誘導体などを高分子鎖へ導入しておく。その後、未反応の片末端アミノ基へキレート配位子を導入し、スペーサーを介してキレート配位子が導入された高分子材料を調製する。上述の例以外に、分子両末端に水酸基、カルボキシル基などの化学反応性官能基をもつ他のスペーサー分子を利用することも可能であり、上述の反応を組み合わせることによって、スペーサーを介在したキレート配位残基導入高分子を合成できる。なお、配位子/高分子材料の配合比は特に限定されるものではないが、1/1000から1/10の配合比が好ましい。
使用される金属としては、生体に安全であれば、特に限定されるものではなく、2価あるいはそれ以上の原子価をもつ遷移およびアルカリ土類金属など、高分子に導入されたキレート配位残基と安定なキレートを形成するものであればよい。金属キレートの安定性およびその毒性の観点から、銅、亜鉛、マンガン、あるいは鉄などが好ましい。これらの金属の生体毒性に関しては多くの報告(例えば、銅と衛生、財団法人日本銅センター発行、あるいは糸川嘉則、DiabetesFrontier、3巻,p425,1992など)があり、毒性のきわめて高いと考えられている銅のLD50値は>4、000mg/kg(マウス経口)である。本研究の目的に使用される銅の量は1〜1.5mg/kg程度であり、文献値に比較して1/1000以下である。ちなみに、日本人では毎日銅を0.78〜2.54mg/kg摂取していることが知られており、使用金属イオンの生体毒性は問題にならないと考えられる。それらの金属は塩化物、硫酸塩、あるいは酢酸塩などとして薬物−高分子複合体の調製に使用される。
キレート能を有する高分子物質または化学的に導入されたキレート配位子を有する高分子物質を金属イオンと混合し金属キレートを形成させる条件は、特に限定されるものではないが、用いる高分子物質の濃度として0.1〜50wt%、混合温度としては4〜50℃が望ましい。また、溶液のpHは3〜10が望ましい。必要に応じて、水酸化ナトリウムあるいは塩化水素水溶液を添加することによって反応水溶液のpHを調製することができる。金属イオンの添加量はキレート配位子に対して0.1〜10倍等量が望ましい。金属キレートを形成した金属アフィニティ結合力を有する高分子物質と薬物との混合条件は、特に限定されるものではないが、薬物の添加量は金属キレート形成配位子に対して1〜10倍等量が望ましい。また、その混合温度としては4〜50℃、溶液のpHは3〜10が望ましい。必要に応じて、水酸化ナトリウムあるいは塩化水素水溶液を添加することによって反応水溶液のpHを調製することができる。
用いる薬物−高分子複合体は、水溶性および水不溶性のいずれでもよい。その形状も水溶液状、マイクロゲル状、粒子状、あるいは流動性固体状など、特に限定されるものではない。とりわけ、前3者は、薬物あるいは薬物含有運搬体の血中寿命の延長ならびにその特定臓器へのターゲティングなどの用途に適している。また、後2者の水不溶性の複合体は薬物の徐放化に適している。すなわち、水不溶性の高分子担体に金属イオンを介して固定化された薬物は、主に、担体自身の分解によって放出される。担体の分解とともに水可溶化された高分子フラグメントとともに薬物が担体より遊離、放出される。薬物の放出パターンは高分子担体の分解パターンにより制御できる。
本発明の薬物−高分子複合体製剤は、そのまま用いてもよく、さらには緩衝液、生理食塩水、注射用溶媒などの希釈剤に溶解、あるいは分散してAssayあるいは治療、診断に用いることもできる。さらに、凍結乾燥後、使用時に希釈剤に溶解、あるいは分散してから用いてもよい。
本発明の金属キレート配位結合を利用した薬物−高分子複合体製剤は次の優れた特徴をもつ。
1)薬物と高分子とを単に混合するだけで複合体が作製できる。
2)薬物と高分子とのアフィニティは薬物、金属イオン、およびキレート配位子の3者の組み合わせによって調節できる。
3)薬物単独に対してだけではなく、薬物と運搬体とからなる製剤に対しても適用可能である。
以下、実施例を挙げて本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
110mgのプルラン(分子量200,000、東京化成工業株式会社製)を含む10mlのジメチルスルホキシド溶液中へ3.3,6.6,13.2,26.5,66.2,および132.4mgのDTPA酸無水物(株式会社同仁化学研究所製)と4.97mgの4−ジメチルアミノピリジン(ナカライテスク株式会社製)を加えた。この混合溶液を40℃、24時間、撹拌し、プルランの水酸基へDTPA残基を導入した。反応後、2日間の水に対する透析と凍結乾燥を行い、DTPA残基導入プルランを得た。DTPA残基の導入率を伝導度滴定より求めたところ、上述のDTPA酸無水物の添加量の増加とともに、導入率は0.062,0.12,0.22,0.34,0.53,および0.73μmole/mgプルランと増加した。反応前後におけるプルランの分子量変化をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー株式会社製、カラム:TSKgel3000PWXL+TSKgel6000PWXL、カラム温度:40℃、溶出液:0.2Mリン酸緩衝溶液(pH6.8)、溶出速度:0.9ml/min、検出器:示差屈折計)を用いて評価したところ、DTPA導入反応によるプルランの分子量変化は認められなかった。この結果は、DTPA酸無水物によるプルラン分子間の架橋反応は生じておらず、この反応により側鎖にDTPA残基の導入されたプルランが得られていることを示している。
用いる水溶性高分子がポリビニルアルコール(以下PVAという、ユニチカ株式会社製、重量平均分子量70,000、ケン化度99.8%)である以外は、実施例1と同様の方法でDTPA残基導入PVAを作製した。加えたDTPA酸無水物は6.6,13.2,26.5,42.4,および53.0mgである。DTPA残基導入率はDTPA酸無水物の添加量の増加とともに、0.15,0.21,0.26,0.39,および0.62μmole/mgPVAと増加した。DTPA残基導入反応によるPVAの分子量変化は認められなかった。
実施例1において作製したDTPA残基導入プルラン(DTPA残基導入率:0.062μmole/mg)5mgを0.125mg/ml濃度の硫酸銅水溶液へ溶解させた。30分間の撹拌の後、混合物をゲル濾過し(Sephacryl−S200、0.5cm内径,36cm長のカラム、溶出液PB、溶出速度0.33ml/min)、遊離銅イオンを反応系から分離除去した。銅イオンをキレートしているDTPA残基導入プルランの銅キレート量および糖質量(プルラン量)は、それぞれ、原子吸光法およびアンスロン−硫酸法によって定量した。溶出曲線によれば、プルランの溶出位置と銅イオンの溶出位置が一致した。ゲル濾過後のDTPA残基導入プルランの回収率は95%であり、銅イオンのキレート結合率は1.20個/DTPA残基であった。なお、DTPA残基の導入されていない元のプルランを同様に硫酸銅水溶液へ溶解させたところ、銅イオンのプルランへの結合は認められなかった。このことは、銅イオンが金属配位子であるDTPA残基を介してキレートされていることを示している。
0.22gの生体内分解吸収性アミロペクチン(ナカライテスク株式会社製、ポテトより精製)を2mlの水へ投入後、80℃、数分間の撹拌により、アミロぺクチン水溶液を調製した。この水溶液を400mlのオリーブ油(和光純薬株式会社製)に加え、25℃、450rpmに条件にて、1時間撹拌することによって、W/0型エマルジョンを調製した。次に、このエマルジョン中へアセトンを加え、アミロペクチンを沈澱固化させた。粒子をアセトンにより遠心洗浄(25℃、3、000rpm、10分間)することによってアミロペクチン粒子を得た。このアミロペクチン粒子(66.6mg)を10mmoleのエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−810、ナガセ化成工業株式会社製)を溶解させたアセトン/1N水酸化ナトリウムの等量混合溶液10ml内へ投入した。30℃にて、3時間、撹拌条件下、架橋反応を行わせた後、さらにアセトン/0.1N水酸化ナトリウムの等量混合溶液10ml中で、40℃にて2時間、処理した。アセトン/水の等量混合溶液と、ジメチルスルホキシドにて粒子を遠心洗浄し、最終的に架橋ハイドロゲル粒子をジメチルスルホキシド中にて膨潤させた。架橋ハイドロゲル粒子の37℃、水中での膨潤操作前後の粒子径変化より粒子の含水率を評価したところ、95.6%であった。また、水膨潤時における粒子径は20〜100μmであった。膨潤架橋ハイドロゲル粒子を含むジメチルスルホキシド溶液中へ1.46mgのDTPA酸無水物および10.0mgの4−ジメチルアミノピリジンを加え、40℃にて1、3、6、12、および24時間反応させた。反応終了後、架橋ハイドロゲル粒子を水にてよく遠心洗浄した。架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子へのDTPA残基の導入率を伝導度滴定より求めたところ、DTPA残基導入率は反応時間の増加とともに、0.063,0.069,0.088,0.10,および0.12μmole/mg乾燥粒子と増加した。ハイドロゲルの含水率はDTPA残基の導入とともに95.6から97.5%へと増加した。DTPA残基導入反応による粒子径の変化はほとんど見られなかった。
実施例4において作製したDTPA残基をもつ架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子(DTPA残基導入率:0.10μmole/mg乾燥ハイドロゲル)の乾燥重量6mgを濃度の異なる硫酸銅水溶液へ浸漬後、40℃にて、1時間、放置した。水溶液中の銅イオン濃度をキレート滴定により定量し、スキャッチャード解析を行ったところ、ハイドロゲル粒子への銅イオンのキレート率は1.50個/DTPA残基であった。
実施例1において作製したDTPA残基導入プルラン(DTPA残基導入率:0.062μmole/mgプルラン)の5mg/ml濃度の水溶液へ、最終濃度が10μg/mlとなるようにヒト遺伝子組み換え型インターフェロンαA/D(以下IFNという)水溶液を(2x107国際単位(IU)/100μgprotein/ml)投入した。次に、この混合水溶液へ最終濃度が1.9mg/mlとなるように塩化亜鉛水溶液を加えた。室温にて1時間撹拌し、IFNを亜鉛イオンを介して配位結合にてDTPA残基導入プルランに結合させた。反応前後におけるIFNの分子量変化をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー株式会社製、カラム:TSKgel3000PWXL+TSKgel6000PWXL.カラム温度:40℃、溶出液:0.05Mリン酸緩衝溶液(pH6.8)+0.3M塩化ナトリウム水溶液、溶出速度:0.9ml/min、検出器:蛍光分光光度計(励起波長278nm、発光波長348nm))を用いて評価した。コントロールとして、IFN、DTPA残基導入プルラン、およびIFNとDTPA残基導入プルランとの混合物を用いた。
その結果を図1に示す。
亜鉛イオンの存在下において、IFNとDTPA残基導入プルランとを混合することによって、IFN自体の蛍光ピークが短時間側にシフトした。しかしながら、亜鉛イオンが存在しない場合には、IFNピークの移動は認められなかった。なお、DTPA残基導入プルラン自身には蛍光吸収は見られなかった。亜鉛イオンの代わりに銅イオンを用いて同様の検討を行ったが、銅イオンの添加によるIFNピークの移動は認められなかった。これらの結果は、亜鉛イオンを介してIFNとDTPA残基導入プルランとが配位結合し、IFNの分子サイズが大きくなっていること、また金属イオンの種類によって、DTPA残基導入プルランとIFNとの配位結合力が変化することを示している。この例が示すように、水溶性高分子とタンパク質とを単に水中で混ぜ合わせることによって、金属イオンを介した配位結合を通した複合体が容易に形成できることがわかる。
実施例2において作製したDTPA残基導入PVA(DTPA残基導入率:0.15μmole/mgPVA)5mg/ml濃度の水溶液へ、最終濃度が10μg/mlとなるようにリゾチーム(以下Lyzという,ナカライテスク株式会社製)水溶液を投入した。次に、この混合水溶液へ最終濃度が1.9mg/mlとなるように硫酸銅水溶液を加えた。室温にて1時間撹拌し、銅イオンを介した配位結合にてLyzをDTPA残基導入PVAに結合させた。反応前後におけるLyzの分子量変化を実施例6に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて評価した。コントロールとして、Lyz、DTPA残基導入PVA、およびLyzとDTPA残基導入PVAとの混合物を用いた。銅イオン存在下にてLyzとDTPA残基導入PVAとを混合することにより、Lyz自体の蛍光ピークが短時間側にシフトした。しかしながら、銅イオンが存在しない場合には、Lyzピークの移動は認められなかった。これらの結果は、亜鉛イオンを介してLyzとプルランとが配位結合により結合し、Lyzの分子サイズが大きくなっていることを示している。以上のように、この場合にも、DTPA残基導入PVAとタンパク質とを単に水中で混ぜ合わせることによって、両者の複合体が形成できることがわかった。
実施例4と同様の方法にて作製したDTPA残基をもつ架橋アミロペタチンハイドロゲル粒子(DTPA残基導入率:0.10μmole/mg乾燥ハイドロゲル)の乾燥重量20mgを濃度の異なる硫酸銅水溶液へ浸漬後、40℃にて1時間、放置した。その後、ハイドロゲル粒子を水にてよく遠心洗浄し、キレートされていない銅イオンを除去した。水溶液中の銅イオンをキレート滴定により定量することによってハイドロゲル粒子へキレートされた銅イオン量を評価したところ、0.0005,0.001,0.006,および0.04μmole/mg乾燥ハイドロゲル粒子であった。銅イオンをキレートさせたDTPA残基導入架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子を1mg/ml濃度の牛血清アルブミン(以下BSAという、和光純薬株式会社製)の水溶液3.2ml中へ浸漬した。時間毎に上澄み中のタンパクを定量することによってハイドロゲル粒子へのタンパク質吸着を評価した。タンパク質はBio−radProteinAssay法により定量した。
その結果を図2に示す。
銅イオンをキレートしているDTPA残基導入架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子においては、タンパク質の吸着量は時間および銅イオンキレート量の増加とともに増加した。一方、銅イオンをキレートしていないDTPA残基導入架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子へのタンパク質吸着は認められなかった。DTPA残基を導入していない架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子に対しても、同様のタンパク質吸着を調べたが、銅イオンの有無に関係なく、いずれのハイドロゲルにおいてもタンパク質の吸着は認められなかった。以上の結果より、金属イオンをキレート固定化したアミロペクチンハイドロゲル粒子をタンパク質水溶液中へ浸漬することによって、タンパク質をハイドロゲル粒子へ結合できることがわかった。
実施例1において作製したDTPA残基導入プルラン(DTPA残基導入率:0.062μmole/mg)の15mg/ml濃度の水溶液へ、最終濃度が100μg/mlとなるようにIFN水溶液(2x107国際単位(IU)/100μgprotein/ml)を投入した。次に、この混合液へ最終濃度が18.2mg/mlとなるように塩化亜鉛水溶液を加えた。室温にて3時間撹拌し、IFNを亜鉛イオンを介して配位結合にてDTPA残基導入プルランに結合させた。次に、混合物のゲル濾過(Sephacryl−S200、0.5cm内径,36cm長のカラム、溶出液0.01Mリン酸緩衝溶液+0.25NNaCl、溶出速度0.33ml/min)を行い、遊離亜鉛イオンと遊離IFNとをIFN−DTPA残基導入プルラン結合体から分離除去した。IFN−プルラン結合体のタンパク質量(IFN量)および糖質量(プルラン量)を、それぞれ、Bio−RadProteinAssay法およびアンスロン−硫酸法にて定量したところ、プルランの回収率は95%であり、結合体へ結合されているタンパク質量は、仕込みタンパク質量の56%であった。IFN−プルラン結合体のIFN活性をinvitroにおけるその抗ウイルス活性から評価(Rubinstein,S.など、J.Virol.,37巻、p755,1981)したところ、その活性は7.2x107IU/mg結合体であり、結合反応前後におけるIFN活性の回収率は36%であった。
IFN濃度として20μg/mlの水溶液100μlと200μlの0.5Mリン酸緩衝溶液(pH7.5)とを混合した。この混合溶液中へ4μlのNa125I(3.7GBq/ml0.1MNaOH solution,NENResearchProducts社製)を加えた。0.2mg/ml濃度のクロラミンTの0.05Mリン酸緩衝溶液(pH7.2)を200μl加えた後、室温にて2分間、IFNの放射ラベル化反応を行った。次に、200μlの4mg/ml二亜硫酸ナトリウムの0.5Mリン酸緩衝溶液(pH7.2)を加えて反応を停止させた。陰イオン交換樹脂(Dowex1−X8)を詰めたカラムに反応物を通過させ、ラベル化されていない125I−を分離除去した。このようにして得られた125Iラベル化遊離IFN(最終濃度3.92μg/ml)を実施例1において作製したDTPA残基導入プルラン(DTPA導入率:0.062μmole/mg)の6.53mg/ml濃度の水溶液へ投入した。次に、この混合水溶液へ最終濃度が370μg/mlとなるように塩化亜鉛あるいは硫酸銅水溶液を加えた。室温にて3時間撹拌し、金属イオンを介した配位結合によってIFNをDTPA残基導入プルランに結合させた。125Iラベル化遊離IFNあるいは125Iラベル化IFN−DTPA残基導入プルラン結合体をBalb/cマウス(9週齢、メス、三匹/グループ)の尾静脈内へ投与した。投与30分後に、血液、心臓、肺、胸腺、肝臓、牌臓、腎臓、胃腸管、甲状腺、それ以外の部位、および尿、糞などを回収し、それぞれの臓器の放射活性をガンマカウンターにて計測した。コントロールとして金属イオンを加えていないDTPA残基導入プルランと125Iラベル化IFNとの混合物を用いた。結果を表1に示す。
Figure 2008120838
体内分布に明らかな違いが認められる臓器は肝臓であった。亜鉛イオン存在下にてDTPA残基導入プルランと混合したIFNでは、その肝臓への蓄積量が遊離IFNに比較して有意に高くなっている。また、亜鉛イオンがない状態における両者の混合は、IFNの肝臓への蓄積には影響を与えなかった。肝臓以外の臓器に関しては、遊離IFNとIFN−プルラン結合体との間に大きな差は認められなかった。これらの結果は、肝臓へIFNを移行させるプルランに金属配位結合を介してIFNを複合化することによって、肝臓へのIFNのターゲティングが達成できたことを示している。この優れた肝臓ターゲティング能ハイドロゲルは化学結合によってIFNとプルランとを結合させた場合と同様の結果を示している。このことは、DTPA残基導入プルランとIFNとを、単に水溶液中で混ぜ合わせるだけで金属配位結合を介してIFNがプルラン修飾され、その結果、肝臓へのターゲティング効果が現れたことを示している。しかしながら、金属イオンとして銅イオンを用いた場合には、IFNの肝臓へのターゲティング効果は認めらなかった。銅イオンの存在がゲルパーミエーションクロマトグラフィのIFNピークを高分子量側にシフトできなかったことを考えると、金属配位結合を介したIFNとDTPA残基導入プルランとの結合は、用いる金属イオンの種類に影響されることがわかる。
実施例2において作製したDTPA残基導入PVA(DTPA残基導入率:0.15μmole/mgPVA)、タンパク質としてLyz、および銅イオンを用いる以外は実施例6と同様の方法で、銅イオンを介したLyzとDTPA残基導入PVAとの結合体を作製し、それらの結合体ならびに遊離Lyzの血液動態を調べた。遊離Lyz、LyzとDTPA残基導入PVAとの混合物、銅イオンを介したDPTA−PVAとLyzとの結合体の血中半減期は、それぞれ、約30、32、および800分間であった。このように、DTPA残基導入PVAを銅イオン存在下にて混ぜ合わせるだけで、Lyzの血中半減期が有意に延長した。一方、銅イオンのない状態で両者を混合した場合には、Lyzの血中半減期の有意な増加は見られなかった。化学結合法にてLyz−PVA結合体を作製した場合にも、Lyzの血中半減期の増加が見られたことから、Lyz分子が金属イオンを介した配位結合とDTPA残基導入PVAによって修飾された結果、Lyzの血中動態が変化したと考えられる。
実施例4と同様の方法にて作製したDTPA残基をもつ架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子(DTPA残基導入率:0.10μmole/mg乾燥ハイドロゲル)の乾燥重量10mgを2.5μM濃度の硫酸銅水溶液2mlへ浸漬し、40℃1時間、放置した。その後、ハイドロゲル粒子を水にてよく遠心洗浄し、キレートされていない銅イオンを除去し、凍結乾燥した。水溶液中の銅イオンをキレート滴定により定量したところ、ハイドロゲル粒子ヘキレートされた銅イオン量は、0.3μmole/mg乾燥ハイドロゲル粒子であった。次に、IFNの代わりにBSAを用いる以外、実施例10と同様の方法にて125Iラベル化BSAを調製した。この水溶液(1mg/ml濃度)の0.1mlを乾燥ハイドロゲル粒子に滴下し、ゲル内へBSAを含浸させた。これらの125Iラベル化BSA含浸銅イオンキレート架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子を、マウス背部皮下へ注射投与した後、ハイドロゲル粒子重量とハイドロゲル粒子内に残存している放射活性を経時的に測定した。ハイドロゲル粒子は時間とともにinvivoで分解され、その残存重量は、注射1、4、7、14日後で、それぞれ、90、73、40、0%であった。ハイドロゲル内に残存している放射活性は時間とともに、85、67、43、0%と減少した。一方、銅イオン処理していないDTPA残基をもつ架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子を用いて同様の検討を行ったところ、その残存重量は、注射1、4、7、14日後で、それぞれ、89、70、46、0%と、invivo分解性に関しては、銅イオン処理ハイドロゲル粒子群に比べて相違は見られなかった。しかしながら、残存放射活性は、注射1日後に初期含浸量の20%まで低下し、4日後にはその活性は認められなかった。以上のように、銅イオンを介して配位固定されたタンパク質は、invivoにおいてもハイドロゲル粒子からはずれることとなく、ハイドロゲルの分解とともに、ハイドロゲル粒子から徐放されたと考えられる。
本発明は、生体内で不安定な薬物を高分子運搬体に、化学結合ではなく、金属イオンを介して配位的に結合させることを特徴とする、簡易な薬物−高分子複合体調製方法である。この調製方法に適用される薬物は、治療薬、治療薬を包含した薬物運搬体、および診断薬のいずれでもよい。キレート配位子を有する高分子材料あるいはそれ自身でキレート能を有する高分子材料と薬物とを金属イオンの存在下にて混合することにより、薬物と高分子との複合体が容易に得られること、さらに、得られた複合体が薬物の血中寿命の延長およびそのターゲティング、ならびに薬物の徐放化などを通して、従来の化学結合法によって作製されてきた薬物−高分子複合体と同様に、薬効発現が極めて容易であり、本発明の産業利用性は非常に大きいといえる。
亜鉛イオンの存在下におけるIFNとDTPA残基導入プルランとの混合によるIFN分子サイズの変化を示す図である。 DTPA残基導入架橋アミロペクチンハイドロゲル粒子へのBSAの吸着を示す図である。

Claims (4)

  1. キレート能を有する薬物とキレート能を有する高分子物質または化学的に導入されたキレート配位子を有する高分子物質とを金属イオンの存在下で混合することを特徴とする、薬物−高分子複合体製剤の調製方法。
  2. キレート能を有する高分子物質が水溶性あるいはマイクロゲル状、粒子状、流動性固体状等の注射可能な形状であることを特徴とする請求項1に記載の薬物−高分子複合体製剤の調製方法。
  3. キレート能を有する薬物含有リポソーム、高分子ミセル、あるいは高分子微粒子などの薬物包含運搬体と請求項1に記載の高分子物質とを金属イオンの存在下で混合することを特徴とする、薬物−高分子複合体製剤の調製方法。
  4. キレート能を有する薬物を含有した超音波造影剤あるいは核磁気共鳴増感剤などの診断薬と請求項1に記載の高分子物質とを金属イオンの存在下で混合することを特徴とする、薬物−高分子複合体製剤の調製方法。
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