一般に、送変電機器や家庭用分電盤等に通電される交流電流量を非接触で測定するための電流センサとして、貫通型の電流センサが多く用いられている。このような貫通型の電流センサに用いられる交流電流検出用コイルの従来例を図21、図22に示す(特許文献1参照)。これらの図において、交流電流検出用コイル200は、円形の基板開口部201を有する両面積層基板202(以下、プリント基板という)と、この基板開口部201の周囲に配置されたコイル本体203とを備える空芯コイルである。プリント基板202の材質は、ガラス入りエポキシ樹脂である。トロイダルコイル203は、基板開口部201を中心として放射状にプリントされた導電膜の導体部を備え、この導体部はプリント基板202の厚み方向すなわちコイル本体203の軸方向に貫通する接続部を介して直列に結合することにより、プリント基板202にトロイダルコイルを形成している。接続部は、プリント基板202の貫通孔の内面に形成された導電膜のスルーホールである。プリント基板202に巻かれているコイルは、2方向に一定ピッチで巻き回され、時計回り(矢印204の向き)のトロイダルコイルからなる巻き進みコイル205(以下、進みコイルという)と反時計回り(矢印206の向き)のトロイダルコイルからなる戻しコイル207(以下、戻しコイルという)とからなり、進みコイル205の終端と戻しコイル207の始端を接続することにより、両コイル205、207は、直列接続されている。図20において、進みコイル205は、プリント基板202の表面に形成された導体部が太実線で、裏面に形成された導体部を太破線で示し、戻しコイル207は、プリント基板202の表面に形成されている導体部を二重実線で示し、裏面に形成された導体部を二重破線で示している。プリント基板202の表面及び裏面では、両コイル205、207の各導体部が交互に一定ピッチで配列されている。進みコイル205は、表面及び裏面で、長さの異なる導体部が交互に一定ピッチで配列され、戻しコイル207も、同様に表面及び裏面で長さの異なる導体部が交互に一定ピッチで配列されている。また、進みコイル205では、各導体部が基板開口部201から離れた側で各導体部のピッチ間が接続部(スルーホール)により接続され、戻しコイル207では、各導体部が基板開口部201の近い側で各導体部のピッチ間が接続部により接続されている。
また、上記交流電流検出用コイル200を用いた電流測定では、基板開口部201に被測定導体が通され、この被測定導体に流れる電流による磁束が両コイル205、207のプリント基板202の矢印204又は矢印206の方向から視たときの導体部によって囲まれる断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を検出する。一方、トロイダルコイル本体203の軸方向に視たとき、両コイル205、207の導体部によって囲まれる領域の正面面積内には、被測定導体からの検出されるべき磁界(測定磁界という)以外に、被測定導体以外の電線から発生された磁界(外部磁界という)の磁束も通っていることがある。この外部磁界は、本来の電流測定にとって不要なものである。しかしながら、円形で形成される両コイル205、207は、それら自体が等価的に一つの大きなコイルと見なされるので、それらの正面面積内に、不要な外部磁界が通過すると、この外部磁界による電流も同時に検出される。この外部磁界による検出電流は測定誤差となるため、できるだけ影響が小さいことが望ましい。そして、この測定誤差を抑制するには、外部磁界に対して巻き方向が互いに逆方向である両コイル205、207の各正面面積を同等にして、不要検出電流を相殺する必要がある。
しかしながら、上記従来の電流センサは、両コイル205、207を軸方向に視たとき、進みコイル205の正面面積は、戻しコイル207の正面面積よりも大きく、それぞれの正面面積が異なっている。従って、両コイル205、207で外部磁界による誘導電圧の検出量が異なり、完全に相殺されないので、測定誤差を抑制することが困難となっていた。
また、上記電流測定では、測定感度を上げるには、両コイル205、207の測定に寄与する測定磁界からの誘導電圧を多くする必要があり、両コイル205、207において、基板に直交する面で断面したとき導体部によって囲まれる断面領域の各断面面積を同等にし、均一に誘導電圧を発生させることが望ましい。しかしながら、両コイル205、207の断面面積は巻き回ピッチ毎に異なっており、従って、測定感度が劣化するという問題があった。
さらに、この両コイル205、207間において、断面面積が異なると、この断面面積を通過する外部磁界の磁束量が異なるので、両コイル間で検出される外部磁界の検出量に差を生じ、相殺される外部磁界量が少なくなり、測定誤差をさらに増大する。特に、この断面面積の違いによる外部磁界の検出の差は、電流センサと検出不要な外部磁界を発生する電線との距離が近いほど大きく現れる。すなわち、検出不要な外部磁界を発生する電線が検出コイルの近くにあると、遠くにある場合に比べて、斜め成分の磁束が相対的に多くなることから、進みコイルと戻しコイルの断面面積の違いにより、外部磁界の検出に差が生じて、不要磁界の相殺作用が低下することになる。
このように、検出用コイル200では、たとえ進みコイル及び戻しコイルの正面面積が等しい場合でも、それらのコイルの断面面積が異なると、検出不要の外部磁界を発生する電線の近傍においては、相殺される外部磁界の量が低下し、測定誤差が増大する。従って、外部磁界の影響を厳密に削減するためには、進みコイル及び戻しコイルの各正面面積が略同じであると共に、コイルの断面方向の断面面積も略同じであることが必要となる。
しかしながら、上記のような交流電流検出用コイル200に用いられるトロイダルコイルでは、両面プリント基板にコイルを形成するので、両面プリント基板の構造上コイルの形状が制限されるため、コイルの正面面積及び断面方向の断面面積とも略同じにトロイダルコイルを設計することが困難であった。また、両面プリント基板によるコイル製作プロセスにおいては、エッチング処理や、スルーホール加工を必要とし、製作プロセスが複雑化すると共に、プリント基板の導体箔パターン間をスルーホールで接続するため、パターンの接続部において、環境変化による亀裂等が生じる惧れがあり信頼性に問題があった。また、導体箔パターンの厚みは、エッチング処理上、厚くすることが困難であった。このため、導体箔の抵抗値が大きくなり、コイルの導体損が多かった。また、プリント基板のトロイダルコイルでは、空芯に誘電体を含むため誘電体損失によるコイルロスが生じていた。
なお、交流電流検出用コイルとして、絶縁性基板に基板開口の周囲にコイル本体を配置し、導電膜でコイル状に形成された巻き進みコイルと巻き戻しコイルを有し、これらを直列に接続した空芯コイルが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この従来例においても、トロイダルコイルをプリント基板で形成しており、この空芯コイルでは、コイルの軸方向から視たとき、巻き進みコイルは、鋸歯状の模様を形成し、巻き戻しコイルは三角状の形状をしており、両コイルで形状が異なっている。このため、両コイルが囲む面積が同じでないので、両コイルで通過する外部磁界の磁束量に差が出ることになり、前記同様に外部磁界の影響を十分排除することができないという問題があった。
特開平06−176947号公報
特開2004−87619号公報
以下、本発明の第1の実施形態に係るトロイダルコイル構造について、図1乃至図4を参照して説明する。図1、図2及び図3において、本実施形態のトロイダルコイル1(コイル体)は、金属薄板を打ち抜いて螺線形状で円周方向に連続した導電体パターン2で形成される。この導電体パターン2は、円周上に螺線形状が連続することによりドーナツ型の円形状に構成され、内側に円形の開口4があり、パターンの中心をXとする。そして、この導電体パターン2は、放射線状に形成された放射状ライン3と、ドーナツ型の外周側及び内周側で互に隣接する放射状ライン3の両端を交互に接続する接続部51、52と、検出電流信号を取り出すコイル引出端子61、62とを備えている。また、放射状ライン3は、直線形の放射状ライン31と、折り曲がる屈曲部32xを有する屈曲形の放射状ライン32とを備え、この放射状ライン3の隣接するライン間隔は、全て略等しく形成されている。これらの放射状ライン31、32と接続部51、52による連続する放射状ラインパターンは、円周上で等ピッチ間隔で配置され、中心軸に対して軸対称になる。
上記放射状ライン32は、屈曲部32xが形成されることにより、図2(a)、(b)に示すように、金属薄板の打抜き状態において、その放射状ラインパターンの略両端の一部分にS字型の曲げパターン32sがそれぞれ形成されている。この曲げパターン32sは、図3(a)に示すように、折り曲げ加工において、矢印で示す厚み方向に点線で示す折り曲げ前の放射状ラインに力を加えると、矢印方向にパターン32sのS字の曲線部分が直線状に延びて長くなり、隣接する放射状ライン31と段違いになる放射状ライン32が形成される。この屈曲部32xは、図3(b)に示すように、側辺32p、32qと底辺32rを結ぶ略台形型をなす。図3(b)の点線で囲まれたB部に示すように、放射状ライン31の1ラインと、屈曲部32xを設けた放射状ライン32の1ラインは、略台形型の立体的な1ターンコイル(コイルTという)を形成する。このコイルTは、複数個連結されて、円周状に一周する形に形成される。これにより、一枚の金属薄板から、立体的コイルが円周状に連続して形成されることにより、トロイダルコイル1が形成される。また、図3(c)に示すように、トロイダルコイル1の円周方向の断面は、放射状ライン32の屈曲部32xの側辺32p、32qと底辺32r及び放射状ライン31とに囲まれた略台形状をなし、この台形面積がトロイダルコイル1の断面面積Saとなる。このトロイダルコイル1を用いた電流検出では、開口4に電流が流れる被測定導体が通され、この電流による磁界(測定磁界と呼ぶ)の磁束がトロイダルコイル1の断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を検出する。
また、図4(a)、(b)に示すように、トロイダルコイル1は、コイルを構成する隣接する放射状ライン3の長さ及び間隔が全て等しいので、トロイダルコイル1の正面から見て、このトロイダルコイル1の中心Xを通る中心軸に関して略対称となる。そして、同じコイルTが、コイル引出端子61に繋がるコイルの始端のコイルT1からスタートし、次々連続してコイルTが円周方向に周回して接続され、始端のコイルT1に隣接する終端のコイルTnに戻ることにより、トロイダルコイル1を形成する。そして、コイル引出端子61と、終端のコイルTnに接続するコイル引出端子62の両端子から、トロイダルコイル1の中心Xを通る電線を流れる電流により生じる起電流に基づく検出電流が取り出される。また、トロイダルコイル1の中心軸上から見た平面パターンでは、隣接する放射状ライン3で形成される各コイルT間で、全て略同一の平面面積Sb(斜線部)を有する。従って、トロイダルコイル1の中心軸上からくる磁界に対して各コイルTで同じ検出電流出力が得られる。
上記構成により、打抜きと曲げ加工だけのプロセスによりトロイダルコイル1を形成できるので、コイルの製作が容易となると共に、トロイダルコイル1を立体的に同じ形状に精度良く形成できる。これにより、このトロイダルコイル1を組合わせて高精度の交流検出センサを得ることが可能となる。また、プリント基板によるトロイダルコイルに比較して、継ぎ目やスルーホールの接続部が無い1枚の金属薄板から連続したトロイダルコイル1を形成することができるので、コイルの信頼性を向上することができる。また、打抜きと曲げ加工は、エッチングを必要とするプリント基板のトロイダルコイルに比べ、コイル導体の厚みを厚くすることできるので、コイルの導体損失を低減できる。さらに、コイル構造を立体的にしたことにより、コイルの空芯内を空間にできるので、従来の空芯を誘電体とするプリント基板のコイルと比べて、コイルの誘電体ロスを低減することができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係るトロイダルコイル構造による交流電流検出用コイル100ついて、図5乃至図10を参照して説明する。本実施形態の交流電流検出用コイル100は、巻き進み方向のトロイダルコイル1(以下、巻き進みコイル1という)と、巻き戻し方向のトロイダルコイル10(以下、巻き戻しコイル10という)の2種類のトロイダルコイルを近接配置し、一方の終端と他方の始端を連結して、交流電流検出用コイル100を形成したものである。また、これらの巻き進みコイル1と巻き進戻しコイル10は、基本的には前記第1の実施形態のトロイダルコイル1と同じ構造を成し、両コイル1、10の巻き方向は互いに逆方向に形成される。
本実施形態の交流電流検出用コイル100は、金属薄板を打ち抜いて螺線形状で円周方向に連続した導電体パターン2aを折り曲げ加工により形成されたトロイダルコイルによる巻き進み方向に進む巻き進みコイル1と、同じく金属薄板を打ち抜いて螺線形状で円周方向に連続した導電体パターン2bを折り曲げ加工により形成されたトロイダルコイルによる巻き戻し方向に進む巻き戻しコイル10とを備える。そして、これら巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10とは、図6に示すように、厚み方向に互いに重ねて接近配置され、樹脂等の絶縁体7で電気的に絶縁され、位置決めされている。この巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10とを用いた電流検出では、開口4に電流が流れる被測定導体が通され、この電流による磁界(測定磁界と呼ぶ)の磁束が巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を検出する。
導電体パターン2a、2bは、図7(a)、(b)に示されるように、それぞれ円周上に螺線形状が連続することによりドーナツ型の円形状に構成され、内側に円形の開口4があり、パターンの中心をXとする。この導電体パターン2a、2bは、放射線状に形成された放射状ライン3と、ドーナツ型の外周側及び内周側で互に隣接する放射状ライン3の両端を交互に接続するそれぞれの接続部51、52及び53、54と、検出電流信号を取り出すコイル引出端子61、62及び63、64をそれぞれ備えている。
放射状ライン3では、直線形の放射状ライン31と屈曲形の放射状ライン32とが交互に形成され、放射状ライン32は、その両端近傍にそれぞれ折り曲げ用のS字パターン32sを有している。また、導電体パターン2a、2bのパターン形状は、各パターンのコイル引出端子61、62間、及び63、64間を通る直径ラインY1、Y2に関して、それぞれ左右反転すると互いに同形状となる線対称形をなす。すなわち、両パターン2a、2bでは、直径ラインY1、Y2から見てS字パターン32sの存在する屈曲形の放射状ライン32の位置が、左右対称となる。
この左右対称のパターン2a、2bは、図8(a)、(b)に示すように、曲げ加工により、前記実施形態と同様に立体的なトロイダルコイルよりなる巻き進みコイル1及び巻き戻しコイル10となる。また、図8(a)、(b)の点線で囲ったT部に示すように、巻き進みコイル1は、コイルの始端をコイル引出端子61とし、このコイル引出端子61は、巻き進みコイル1の放射状ライン3の内、屈曲形の放射状ライン32に最初に接続され、次いで隣接する直線形の放射状ライン31に接続されて行く。この結果、巻き進みコイル1は、各コイルTはその断面内で右回転を成し、コイル全体として反時計方向に進む。一方、巻き戻しコイル10は、コイルの始端をコイル引出端子63とし、このコイル引出端子63は巻き戻しコイル10の放射状ライン3の内、直線形の放射状ライン32に最初に接続され、次いで隣接する屈曲形の放射状ライン32に接続されて行く。この結果、巻き戻しコイル10は、各コイルTはその断面内で左回転を成し、コイル全体として時計方向に進み、巻き進みコイル1に対して逆方向に巻き戻る。
次に、これら巻き進みコイル1と、巻き戻りコイル10を接近配置して接続する交流電流検出用コイル100の構成について、図9(a)、(b)を参照して説明する。この交流電流検出用コイル100では、巻き進みコイル1と、巻き戻りコイル10は、円周方向の断面において、共に厚み方向の上側に放射状ライン31が位置し、下側に放射状ライン32が位置する方向に並べられ、厚み方向に間隔dを設けて配置される。そして、両コイル1、10は、それらの電気的絶縁が保てる範囲で接近されて、間隔dの隙間は樹脂等の絶縁体7で絶縁され、位置決めされている。
また、パターン2a、2bが左右対称のため、巻き進みコイル1と巻き戻りコイル10の外周側の接続部51、53において、両接続部が接続する直線形の放射状ライン31と屈曲形の放射状ライン32の位置が左右逆となっている。ここで、両コイル1、10を接近して重ねる場合、平面的に見てコイル引出端子61、63(又は、62、64)を重ねて合せると、コイル引出端子61に接続される屈曲形の放射状ライン32がコイル引出端子63に接続される直線形の放射状ライン31上に乗って重なる形になるので、重ねたときの両コイル1、10間隔がこれらのコイル断面の高さとなって広がってしまう。このため、両コイルを平面的に見て、隣接する放射状ライン3間の間隔分(1ターンコイルのコイルピッチ分)だけ互いにずらせて接続する。これにより、両コイル1、10間で互いの放射状ライン31及び各放射状ライン32がそれぞれ互いに重なるように配置され、両コイル1、10間隔dが小さくでき、一体化された両コイル1、10による交流電流検出用コイル100が形成される。また、両コイル1、10の円周方向のそれぞれの断面面積は、各コイル1、10のそれぞれの放射状ライン31、32とで囲まれた面積となり、導電体パターン2a、2bが同形をなすことから、共に等しい面積Saを有する。
図10(a)、(b)は、巻き進みコイル1、巻き戻しコイル10を重ねて配置して形成された交流電流検出用コイル100の平面を示す。この交流電流検出用コイル100では、放射状ライン3と接続部51、52又は接続部53、54とで囲まれるコイルTが円周に亘ってコイルT1からコイルTnまで両コイル1、10毎に形成される。そして、コイル引出端子62、63間の接続により両コイル1、10が直列接続され、コイル引出端子61、64からコイル出力の誘起電圧が取り出される。この交流電流検出用コイル100は、隣接する放射状ライン3の長さと間隔が全て等しいので、この交流電流検出用コイル100の正面から見て、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の各平面面積が等しくなる。これにより、両コイル1、10が同じ平面面積Sbを持つので、これら両コイル1、10の中心軸上から来る不要な外部磁界を精度良く相殺することができる。
次に、上記巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を用いた交流電流検出用コイル100の製作プロセスについて図11を参照して説明する。この製作プロセスは、リードフレーム工法と樹脂モールドを用いて行う。図11に示すように、この製作プロセスにおいて、巻き進みコイル1及び巻き戻しコイル10の形成は、先ず、金属薄板の打抜き加工プロセス(S1)により、金属薄板内に導電体パターン2a、2bが形成され、続いて曲げ加工プロセス(S2)により金属薄板の中にリードフレーム形の巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10が形成される。そして、これら巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10は、厚み方向を合わせて絶縁間隔を空けながら重ねられ(S3)、その後、この重ねられたコイル1、10は、樹脂モールド等で一体にモールドされる(S4)。一方、別途、交流電流検出用コイル100を実装するコイル実装用基板41を用意し、この基板41の一部には、コイルと嵌合できるようにコイル挿入穴41aを設けられている(S5)。そして、このモールドされた交流電流検出用コイル100は、金属薄板から切り離されて(S6)、コイル実装用基板41に装着され、コイル引出端子61〜64がコイル実装用基板41上の信号処理回路41bと結合され電流センサとして完成する(S7)。これにより、パッケージなしの交流電流検出用コイル100がリードフレーム加工からコイル実装用基板41に直接装着することができ、パッケージの不要な小型で低コストの交流電流検出用コイル100を簡単なプロセスで容易に実現することができる。
このように、本実施形態によれば、金属薄板の打抜きと曲げ加工によるトロイダルコイルで簡単に巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を対称に立体的に形成できるので、両コイル1、10を略同一位置に接近して配置することができ、コイルピッチが重なるように配置することが可能となる。従って、このような巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10により形成された交流電流検出用コイル100では、軸方向及び円周方向のコイル断面積を精度良くほぼ等しくでき、各コイル1、10の1巻きのピッチを精度良く等しく形成できるので、両コイル1、10のコイル正面方向からの平面面積と円周方向の断面面積の両方を極めて等しくすることができる。特に、両コイル1、10を略同一位置に配置にしたことにより、両コイル1、10における外部磁界発生源から距離が等しくなるので、検出不要な外部磁界に対して両コイルの誘導電圧が略等しくなり、誘導電圧の相殺誤差を最小にでき、電流測定精度を高めることができる。
次に、本発明の第3の実施形態に係るトロイダルコイル構造による交流電流検出用コイルついて、図12(a)、(b)及び図13(a)、(b)、(c)を参照して説明する。本実施形態の交流電流検出用コイル100は、前記第2の実施形態における巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10をケース70に内蔵して一体化したものである。これらの図において、交流電流検出用コイル100は、巻き進みコイル1及び巻き戻しコイル10と、これら両コイル1、10の内周側の接続部52、54間を電気的に絶縁する絶縁体リング9aと、これら両コイル1、10を近接に配置して絶縁を保持しながら収納する絶縁性材料で形成されたケース70とを備える。このケース70では、図12(a)に示されるように、巻き戻しコイル10、絶縁体リング9a、巻き進みコイル1の順で重ねて挿入される。そして、これらのコイル1、10を用いた交流電流検出用コイル100の電流検出では、開口4に電流が流れる被測定導体が通され、この電流による磁界の磁束が両コイル1、10の断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を検出する。
ケース70は、内部に円形の空洞72を持つドーナツ型の円筒形をなす筐体71を備え、この筺体71は、底面73と円形の外周壁74及び内周壁75とを有し、これら外周壁74及び内周壁75に沿って両コイル1、10を保持するための同じ高さの円形の支持台76、77が筺体71内に形成されている。これら支持台76、77は、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の外周側及び内周側の接続部51〜54の部分だけを支持し、放射状ライン3の部分は支持しないように構成されている。また、これら支持台76、77の間には、巻き戻しコイル10の放射状ライン3の中間部を支持する略直方体の絶縁性の支持台78が放射状に設けられている。また、支持台76の上部には、コイル導体の厚みより高い支持部76aが設けられ、この支持部76a上に巻き進みコイル1を支持することにより、外周側における巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の絶縁を保つようになっている。そして、隣接する支持部76a間の空間間隔L1と、巻き進みコイル10の接続部53の隣接する2つの放射状ライン3間の外寸幅L2とは略等しくして、隣接する支持部76a間に接続部53が嵌合され、巻き戻しコイル10が固定されるようになっている。また、支持部76aの円周方向の幅L3と接続部51の接続する放射状ライン3間の外周側の内寸幅L4とは略等しくして、この内寸幅L4に支持部76aに設けた突起部76bが略嵌合して、巻き進みコイル1を固定するようになっている。
この交流電流検出用コイル100では、上記ケース70に順に巻き進みコイル1、巻き戻しコイル10、絶縁体リング9aが挿入されと、巻き戻しコイル10がその外周側及び内周側の接続部53、54において、支持台76、77上でそれぞれ保持され、外周側の接続部53は、支持台76上の隣接する支持部76a間の隙間に略嵌合されて狭持される。次に、保持された内周側の接続部54上には、内周壁75の外径より大きい内径を有し、磁界検出に影響の少ない接続部54の近傍のみを覆う円盤状の絶縁体リング9aが装着される。さらに、絶縁体リング9a上に巻き進みコイル1が装着され、その内周側の接続部52が絶縁体リング9aにより絶縁を保ちながら支持される。また、その外周側の接続部51は、支持台76上の支持部76aに装着されて、支持部76a上に設けられた突起部76bにより略嵌合されて保持される。
また、図13(c)に示すように、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の円周方向の断面面積は、両コイル1、10では、それぞれの放射状ライン31、32に囲まれる面積となり、対応する互いの放射状ラインが同形なので、同じ断面面積(Sa)となる。
次に、上記巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を用いた交流電流検出用コイル100の製作プロセスについて図14を参照して説明する。この製作プロセスは、リードフレーム工法と樹脂パッケージを用いて行う。この製作プロセスにおいて、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の形成は、先ず、打抜き加工ステップ1(S1)で、金属薄板が打抜き加工され、打ち抜かれた導電体パターン2a、2bが金属薄板から分離され、それぞれ別個に形成され、さらに曲げ加工ステップ(S2)によりリードフレーム形の巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10が形成される。そして、これら両コイル1、10は、別途準備したコイル用のケース70に、巻き戻しコイル10、絶縁体リング9a、巻き進みコイル1の順に挿入され樹脂埋めされる(S4)。その後、両コイル1、10間の接続処理が行われ(S5)、コイル実装用基板41に実装され、コイル引出端子が基板41上の信号処理回路41bと接続されて交流電流検出用コイル100として完成する(S6)。これにより、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10をリードフレーム工法により金属薄板から簡単に形成し、パッケージ内に装着することにより、両コイル1、10の位置ズレの少ない信頼性の高い交流電流検出用コイル100を簡単なプロセスで容易に実現することができる。
このように、上記本実施形態の巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を用いる交流電流検出用コイル100によれば、両コイル1、10を、互いに厚み方向に精度良く接近して配置できるので、不要な外部磁界を相殺して電流検知誤差を削減することができると共に、かつ絶縁を保ちながら密着してケース内に固定して保持することができるので、高性能でコンパクトで取扱易く、信頼性の高い交流電流検出用コイル100を形成することができる。
次に、本発明の第4の実施形態に係るトロイダルコイル構造による交流電流検出用コイルについて、図15(a)〜(d)及び図16を参照して説明する。本実施形態の交流電流検出用コイル100は、2つの同じ形状のトロイダルコイル1(図1参照)(コイル体)を備え、一方を他方に対して裏返しに配置することにより、巻き進み方向に巻き進むトロイダルコイル1(以下、巻き進みコイル1という)と巻き戻し方向に巻き戻すトロイダルコイル10(以下、巻き戻しコイル10という)を形成し、これら両コイル1、10を近接配置して一方の終端と他方の始端を連結したものである。これらの巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10は、基本的には前記第1の実施形態のトロイダルコイル1と同じ構造を成し、裏返えして重ねられることにより、両コイル1、10の巻き方向が互いに逆方向になるように形成される。
本実施形態の交流電流検出用コイル100は、金属薄板を打ち抜いて螺線形状で円周方向に連続した導電体パターン2を折り曲げ加工により形成された前記第1の実施形態と同様のトロイダルコイル1(図1参照)を2つ備え、図15(b)、(c)に示すように、一方のトロイダルコイル1を巻き進みコイル1とし、他方のトロイダルコイル1を裏返したものを巻き戻しコイル10として形成し、両コイル1、10を重ねて接近配置したものである。そして、両コイル1、10のコイル引出端子61、62及びコイル引出端子63、64のうち、巻き進みコイル1の終端のコイル引出端子62と、巻き戻しコイル10の始端のコイル引出端子63とが接続され、両コイル1、10が直列接続されると共に、コイル引出端子61、64から検出電流が取り出される。
上記のように2つの同一コイルを反転して配置したことにより、図16に示すように、巻き進みコイル1の直線形の放射状ライン31と巻き戻しコイル10の屈曲形の放射状ライン32とが近接して重なり、反対に巻き進みコイル1の屈曲形の放射状ライン32と巻き戻しコイル10の直線形の放射状ライン31とが重なるように配置される。そして、両コイル1、10は、厚み方向に互いに重ねて樹脂等の絶縁物で電気的に絶縁して位置決めされる。このような構成により、図16(b)に示すように、巻き進みコイル1との巻き戻しコイル10における各放射状ライン31、32で形成される円周方向の断面面積Sc(斜線部)は略等しくなる。これにより、これらの両コイル1、10を用いた電流検出では、開口4に電流が流れる被測定導体が通され、この電流による磁界の磁束が両コイル1、10の断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を精度良く検出する。
図17は、巻き進みコイル1、巻き戻しコイル10を重ねて配置して形成された交流電流検出用コイル100の平面を示す。この交流電流検出用コイル100では、放射状ライン3と接続部51、52又は接続部53、54とで囲まれるコイルTが円周に亘ってコイルT1からコイルTnまで両コイル1、10毎に形成される。そして、コイル引出端子62、63間の接続により両コイル1、10が直列接続され、コイル引出端子61、64からコイル出力の誘起電圧が取り出される。この交流電流検出用コイル100は、隣接する放射状ライン3の長さと間隔が全て等しいので、この交流電流検出用コイル100の正面から見て、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の各平面面積が等しくなる。これにより、両コイル1、10が同じ平面面積Sdを持つので、これら両コイル1、10の中心軸上から来る不要な外部磁界を精度良く相殺することができる。
このように、本実施形態の交流電流検出用コイル100によれば、同じ形状のコイルパターンで巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を形成できるので、トロイダルコイル用のコイルパターンの形状が1種類でよく、打抜きの金型が少なくて済み、生産コストを低減できる。また、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10において、各正面方向の平面面積及び円周方向の断面面積が等しくなるので、不要な外部磁界を相殺して、検出誤差を低減することができる。
次に、本発明の第5の実施形態に係るトロイダルコイル構造による交流電流検出用コイルについて、図18(a)、(b)、図19及び図20(a)、(b)を参照して説明する。本実施形態におけるトロイダルコイルによる交流電流検出用コイル100は、前記第4の実施形態における巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10をケース70に内蔵して一体化したものである。これらの図において、交流電流検出用コイル100は、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の両コイルの内周側の接続部52、54間を電気的に絶縁する絶縁体リング9bと、これら両コイル1、10を近接に配置して絶縁を保持しながら収納する絶縁性材料で形成されたケース70とを備える。このケース70には、図18(a)に示されるように、巻き戻しコイル10、絶縁体リング9b、巻き進みコイル1が、順に重ねて装着され、巻き進みコイル1の終端と、巻き戻しコイル10の始端が直列に接続されている。これら両コイル1、10を用いた電流検出では、開口4に電流が流れる被測定導体が通され、この電流による磁界の磁束が巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の断面領域を通ることにより発生する誘導電圧を検出する。
ケース70は、図18(b)に示されるように、内部に円形の空洞72を持つドーナツ型の円筒形をなす筐体71を備え、この筺体71は、底面73と円形の外周壁74及び内周壁75とを有し、この外周壁74の内側に沿って両コイル1、10の外周側の接続部51、53を保持するための略長方形の支持台79が放射状に等間隔に形成されている。この支持台79は、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の外周側の接続部51、53の部分だけを支持し、それ以外の放射状ライン3の部分は支持しないように、ケース70の半径方向への長さが制限されて構成されている。また、図19に示すように、隣接する支持台79間の間隔L1は、その隙間内に巻き戻しコイル10の外周側の接続部53で接続される隣接する放射状ライン3間の間隔の外寸幅(巻き進みコイル1の接続部51で接続される隣接する放射状ライン3間の間隔L2に相当)とは略等しくして、接続部53が略嵌合されるように形成されている。これにより、巻き戻しコイル10は、筺体71内の底面73側に密着して固定される。一方、支持台79の上部には、巻き進みコイル1の外周側の接続部51を保持するため支持部79aが、放射状ライン3に対応して放射状に等間隔に設けられている。そして、支持部79aの円周方向の幅L3と接続部51で接続される隣接する放射状ライン3間の内寸幅L4とは略等しくして、この内寸幅L4に支持部79aが略嵌合するように形成されている。これにより、巻き進みコイル1が支持部79aで保持される。
上記ケース70に、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10及び絶縁体リング9bを収納した本実施形態の交流電流検出用コイル100を図20(a)、(b)に示す。ケース70では、先ず、巻き戻しコイル10が挿入され、この巻き戻しコイル10は、その外周側の接続部53が隣接する支持台79間に嵌合して装着される。内周側の接続部54上には、内周壁75より大きい内周を有し、磁界検出に影響の少ない接続部54の近傍部分のみを覆う円筒状の絶縁体リング9bが装着される。この絶縁体リング9bの高さd1は、このd1にコイル導体板厚dpを加えた高さ(d1+dp)が、一方の支持台79の高さd3と略等しくなるように設けられる。そして、この高さd3は、厚み方向の断面における放射状ライン31と放射状ライン3間の外寸間隔d2より大きくして、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の直線形の放射状ライン31と屈曲形の放射状ライン32とが接触せず、電気的に絶縁されるように構成されている。これにより、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の円周方向の各断面は上下で線対称となり、各断面積の大きさを等しくすることができる。従って、コイル内に検出磁界がスムーズに流れ、電流検出感度が向上すると共に、不要な外部磁界に対して相殺作用を高めることができる。
以上の構成により、本実施形態の交流電流検出用コイル100によれば、同じ形状で互いに裏返しの関係のコイルパターンによる巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を、両コイル1、10の両端の各接続部(51〜52)でのみ支持し両コイル1、10間を接近させながら絶縁性を確実に保持することができる。従って、磁界を検出する放射状ライン3には、前記第3の実施形態に比べ、放射状ラインの中間部支持用の支持台が存在しないため構成が簡単になると共に、磁界検出エリアにおけるこの支持台による磁界の乱れが発生しないので、スムーズな磁界検出ができ、電流検出感度も良くなる。
上述した各実施形態に係るトロイダルコイル構造による交流電流検出用コイル100の構成によれば、打抜きと曲げ加工によるトロイダルコイル製作プロセスによりコイルの製作が容易となると共に、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10を立体的に同じ形状に精度良く形成することができる。これにより、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の2つのコイルを、精度良くほぼ一体になるように接近配置させ、それらのコイルピッチを重なるように配置することができる。これにより、巻き進みコイル1と巻き戻しコイル10の軸方向及び円周方向のコイル断面積を極めて精度良くほぼ等しくできるので、コイル内の磁界の流れをスムーズにして測定磁界に対する測定感度を向上し、検出不要な外部磁界に対しては、相殺効果を向上できるので、外部磁界の影響を少なくして誘導電圧の相殺誤差を最小にし、電流測定精度を高めることができる。
また、プリント基板によるトロイダルコイルに比較して、継ぎ目やスルーホールの接続部が無く1枚の金属薄板から連続したトロイダルコイルを形成できるので、コイルの信頼性を向上することができる。また、打抜きと曲げ加工によるトロイダルコイルは、エッチングを必要とするプリント基板のトロイダルコイルに比べ、コイル導体の厚みを厚くすることできるので、コイルの導体損失を低減できる。さらに、コイル構造を立体的にしたことにより、コイルの空芯内を空間にできるので、従来の空芯を誘電体とするプリント基板のコイルと比べて、コイルの誘電体ロスを低減することができる。これにより、小型、高性能で、かつ量産し易く低コストの電流センサを実現することができる。
なお、上述した各種実施形態では、放射状ラインを連結する接続部のコーナ部分を略矩形で形成したが、特に矩形でなくてもよく、コイルパターンがコイル中心軸に対して軸対称であればよい。また、上記各種実施形態は電流センサ以外に、高周波チョークコイルや、信号フィルタ、小型アンテナ、及び各種トランス等にも応用することができる。