以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
1.基本構成
1.1 記録システムの概要
図1は、本発明の一実施形態で適用する記録システムにおける画像データ処理の流れを説明するための図である。この記録システムJ0011は、記録すべき画像を示す画像データの生成やそのデータ生成のためのUI(ユーザインタフェース)の設定等を行うホスト装置J0012を具える。またこのホスト装置J0012で生成された画像データに基づいて記録媒体に記録を行う記録装置J0013を具える。記録装置J0013は、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)、グリーン(G)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)の10色インクによって記録を行う。そのために、これら10色のインクを吐出する記録ヘッドH1001が用いられる。これら10色のインクは、色材として顔料を含む顔料インクである。
ホスト装置J0012のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションJ0001は記録装置で記録するための画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。本実施形態のホスト装置は、まずデジタルカメラで撮像した例えばJPEG形式の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、スキャナで読み取った例えばTIFF形式の画像データやCD−ROMに格納される画像データをも取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウェブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホスト装置のモニタに表示されてアプリケーションJ0001を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面において、ユーザは、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行うと共に記録指示を出す。この記録指示に応じて画像データR、G、Bがプリンタドライバに渡される。
プリンタドライバはその処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正処理J0004、ハーフトーニング処理J0005および記録データ作成処理J0006を有している。以下、プリンタドライバで行われる各処理J0002〜J0006について簡単に説明する。
(A)前段処理
前段処理J0002は色域(Gamut)のマッピングを行う。本実施形態では、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置J0013によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を行う。具体的には、R、G、Bのそれぞれが8ビットで表現された256階調の画像データR、G、Bを、3次元LUTを用いることにより、記録装置J0013の色域内の8ビットデータR、G、Bに変換する。
(B)後段処理
後段処理J0003では、上記色域のマッピングがなされた8ビットデータR、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した8ビット・10色の色分解データを求める。すなわち、Y、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayの色分解データを求める。本実施形態では、この処理は前段処理と同様3次元LUTに補間演算を併用して行う。
(C)γ処理
γ補正J0004は、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータごとにその濃度値(階調値)変換を行う。具体的には、記録装置J0013の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データがプリンタの階調特性に線形的に対応づけられるような変換を行う。
(D)ハーフトーニング
ハーフトーニングJ0005は、γ補正がなされた8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では、誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、記録装置におけるドット配置のパターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
(E)記録データの作成処理
プリンタドライバで行う処理の最後には、記録データ作成処理J0006によって、上記4ビットのインデックスデータを内容とする記録画像データに記録制御情報を加えた記録データを作成する。
図2はかかる記録データの構成例を示した図である。記録データは、記録の制御を司る記録制御情報および記録すべき画像を示す記録画像データ(上述の4ビットのインデックスデータ)で構成されている。記録制御情報は、「記録媒体情報」、「記録品位情報」、および給紙方法等のような「その他制御情報」から構成されている。記録媒体情報には、記録の対象となる記録媒体の種類およびサイズ等の情報が記述されている。記録媒体種類とは、普通紙,光沢紙,マット紙、はがき,プリンタブルディスクなどである。記録媒体のサイズとは、A4判,A3判などである。また、記録品位情報には、記録の品位が記述されており、「きれい(高品位記録)」、「標準」、「はやい(高速記録)」等のうち、いずれか1種の品位が規定されている。なお、これらの記録制御情報は、ホスト装置J0012のモニタおけるUI画面にてユーザが指定した内容に基づいて形成されるものである。また、記録画像データは、前述のハーフトーン処理J0005によって生成された画像データが記述さているものとする。以上のようにして生成された記録データは、記録装置J0013へ供給される。
記録装置J0013は、ホスト装置J0012から供給された当該記録データに対して、次に述べるドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008を行う。
(F)ドット配置パターン化処理
上述したハーフトーン処理J0005では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)まで階調レベル数を下げている。しかし、実際に記録装置J0013が記録できるデータは、インクドットを記録するか否かの2値データ(1ビットデータ)である。そこで、ドット配置パターン化処理J0007では、ハーフトーン処理J0005からの出力値である階調レベル0〜8の4ビットデータで表現される各画素ごとに、その画素の階調値(レベル0〜8)に対応したドット配置パターンを割当てる。これにより1画素内の複数のエリア各々にインクドットの記録の有無(ドットのオン・オフ)を定義し、1画素内の各エリアごとに「1」または「0」の1ビットの2値データを配置する。ここで、「1」はドットの記録を示す2値データであり、「0」は非記録を示す2値データである。
図3は、本実施形態のドット配置パターン化処理で変換する、入力レベル0〜8に対する出力パターンを示している。図の左に示した各レベル値は、ホスト装置側のハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0〜レベル8に相当している。右側に配列した縦2エリア×横4エリアで構成される領域は、ハーフトーン処理で出力される1画素の領域に対応するものである。また、1画素内の各エリアは、ドットのオン・オフが定義される最小単位に相当するものである。なお、本明細書において「画素」とは、階調表現可能な最小単位のことであり、複数ビットの多値データの画像処理(上記前段、後段、γ補正、ハーフトーニング等の処理)の対象となる最小単位である。
図において、丸印を記入したエリアがドットの記録を行うエリアを示しており、レベル数が上がるに従って、記録するドット数も1つずつ増加している。本実施形態においては、最終的にこのような形でオリジナル画像の濃度情報が反映されていることになる。
(4n)〜(4n+3)は、nに1以上の整数を代入することにより、記録すべき画像データの左端からの横方向の画素位置を示している。その下に示した各パターンは、同一の入力レベルにおいても画素位置に応じて互いに異なる複数のパターンが用意されていることを示している。すなわち、同一のレベルが入力された場合にも、記録媒体上では(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが巡回されて割当てられる構成となっているのである。
図3においては、縦方向を記録ヘッドの吐出口が配列する方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。このように同一レベルに対して複数の異なるドット配置で記録できる構成にしておくことは、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと下段に位置するノズルとで吐出回数を均等化させたり、記録装置特有の様々なノイズを分散させるという効果がある。
以上説明したドット配置パターン化処理を終了した段階で、記録媒体に対するドットの配置パターンが全て決定される。
(G)マスクデータ変換処理
上述したドット配置パターン化処理J0007により、記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定されたので、このドット配置を示す2値データを記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力すれば、所望の画像を記録することが可能である。ここで、マスクデータ変換処理J0008を介さずに、ドット配置パターン化処理J0007で得られた2値データを駆動回路J0009に入力すれば、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を1回の走査によって完成させる、いわゆる1パス記録を実行することが可能である。一方、マスクデータ変換処理J0008を介在させれば、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を複数回の走査によって完成させる、いわゆるマルチパス記録を実行することができる。ここで、マルチパス記録を説明する。
図4は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示したものである。本実施形態に適用される記録ヘッドH1001は実際には768個のノズルを有するが、ここでは簡単のため16個のノズルを有するものとして説明する。ノズルは、図のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つずつのノズルが含まれている。マスクP0002は、第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)で構成される。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は、それぞれ、第1〜第4のノズル群が記録可能なエリアを定義している。マスクパターンにおける黒塗りエリアは記録許容エリアを示し、白塗りエリアは非記録エリアを示している。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は互いに補完の関係にあり、これら4つのマスクパターンを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分(この図では4ノズル分)ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の記録走査によって初めて画像が完成される構成となっている。以上のように、記録媒体の各同一領域が複数回の走査で複数のノズル群によって形成されることは、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等を低減させる効果がある。
図5は、本実施形態で実際に適用可能なマスクの一例を示したものである。本実施形態で適用する記録ヘッドH1001は768個のノズルを有しており、4つのノズル群にはそれぞれ192個ずつのノズルが属している。マスクパターン大きさは、縦方向がノズル数と同等の768エリア、横方向は256エリアとなっており、4つのノズル群それぞれに対応する4つのマスクパターンで互いに補完の関係を保つような構成となっている。
ところで、本実施形態で適用するような、多数の小液滴を高周波数で吐出するようなインクジェット記録ヘッドにおいては、記録動作時に記録部近傍に気流が生じることが知られている。そして、この気流が特に記録ヘッドの端部に位置するノズルの吐出方向に影響を与えることが確認されている。よって、本実施形態のマスクパターンにおいては、図5からも判るように、各ノズル群また同一のノズル群の中でも、領域によって記録許容率の分布に偏りを持たせている。図5で示すように、端部のノズルの記録許容率を中央部の記録許容率よりも小さくした構成のマスクパターンを適用することにより、端部のノズルにより吐出されるインク滴の着弾位置ずれによる弊害を目立たなくすることが可能となるのである。
なお、このような記録許容率に偏りを持たせたマスクパターンを適用することは、本実施形態において必須ではない。本実施形態においては、記録許容率が均等なマスクパターンを適用することも可能である。
なお、マスクパターンで定められる記録許容率とは、つぎのようなものである。つまりマスクパターンを構成する記録許容エリア(図4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)の黒塗りエリア)と非記録許容エリア(図4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)の白塗りエリア)の合計数に対する記録許容エリアの数の割合を百分率で表したものである。すなわち、マスクパターンの記録許容エリアをM個、非記録許容エリアをN個とすると、そのマスクパターンの記録許容率(%)は、M÷(M+N)×100となる。
本実施形態においては、図5で示したマスクデータが記録装置本体内のメモリに格納してある。そして、マスクデータ変換処理J0008においては、当該マスクデータと上述したドット配置パターン化処理で得られた2値データとの間でAND処理をかけることにより、各記録走査での記録対象となる2値データが決定される。そして、その2値データを駆動回路J0009へ送る。これにより、記録ヘッドH1001が駆動されて2値データに従ってインクが吐出される。
なお、図1では、前段処理J0002、後段処理J0003、γ処理J0004、ハーフトーニングJ0005および記録データ作成処理J0006がホスト装置J0012で実行されるものとした。また、ドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008が記録装置J0013で実行されるものとした。しかし本発明は、この形態に限られるものではない。例えば、ホスト装置J0012で実行している処理J0002〜J0005の一部を記録装置J0013にて実行する形態であってもよいし、すべてをホスト装置J0012にて実行する形態であってもよい。あるいは、処理J0002〜J0008を記録装置J0013にて実行する形態であってもよい。
1.2 機構部の構成
本実施形態で適用する記録装置における各機構部の構成を説明する。本実施形態における記録装置本体は、各機構部の役割から、概して、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、フラットパス記録部、およびクリーニング部等に分類することができ、これらは外装部に収納されている。
図6、図7、図8、図12および図13は、本実施形態で適用する記録装置の外観を示す斜視図である。ここで、図6は記録装置の非使用時における前面から見た状態、図7は記録装置の非使用時における背面から見た状態、図8は記録装置の使用時における前面から見た状態をそれぞれ示している。また、図12はフラットパス記録時における前面から見た状態、図13はフラットパス記録時における背面から見た状態をそれぞれ示している。また、図9〜図11および図14〜図16は、記録装置本体の内部機構を説明するための図である。ここで、図9は右上部からの斜視図、図10は左上部からの斜視図、図11は記録装置本体の側断面図である。図14はフラットパス記録時の断面図である。さらに、図15はクリーニング部の斜視図、図16はクリーニング部におけるワイピング機構の構成および動作を説明するための断面図、図17はクリーニング部におけるウエット液(wetting liquid)転写部の断面図をそれぞれ示したものである。
以下、これらの図面を適宜参照しながら、各部を順次説明する。
(A)外装部(図6、図7)
外装部は、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、クリーニング部、フラットパス部およびウエット液転写部の回りを覆うように取り付けられている。外装部は主に、下ケースM7080、上ケースM7040、アクセスカバーM7030、コネクタカバーおよびフロントカバーM7010から構成されている。
下ケースM7080の下部には、不図示の排紙トレイレールが設けられており、分割された排紙トレイM3160が収納可能に構成されている。また、フロントカバーM7010は、非使用時に排紙口を塞ぐ構成になっている。
上ケースM7040には、アクセスカバーM7030が取り付けられており、回動可能に構成されている。上ケースの上面の一部は開口部を有しており、この位置で、インクタンクH1900および記録ヘッドH1001(図21)が交換可能となるように構成されている。なお、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001は、1色のインクを吐出可能な吐出部を複数色分、一体的に構成したユニットの形態である。そして、インクタンクH1900が色毎に独立に着脱可能な記録ヘッドカートリッジH1000として構成されている。上ケースM7040には、アクセスカバーM7030の開閉を検知用の不図示のドアスイッチレバー、LEDの光を伝達・表示するLEDガイドM7060、電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004等が設けられている。また、多段式の給紙トレイM2060が回動可能に取り付けられており、給紙部が使われない時は、給紙トレイM2060を収納することにより、給紙部のカバーにもなるように構成されている。
上ケースM7040と下ケースM7080は、弾性を持った嵌合爪で取り付けられており、その間のコネクタ部分が設けられている部分を、不図示のコネクタカバーが覆っている。
(B)給紙部(図8、図11)
図8および図11を参照するに、給紙部は次のように構成されている。すなわち、記録媒体を積載する圧板M2010、記録媒体を1枚ずつ給紙する給紙ローラM2080、記録媒体を分離する分離ローラM2041、記録媒体を積載位置に戻すための戻しレバーM2020等がベースM2000に取り付けられることで構成されている。
(C)用紙搬送部(図8〜図11)
曲げ起こした板金からなるシャーシM1010には、記録媒体を搬送する搬送ローラM3060が回動可能に取り付けられている。搬送ローラM3060は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされた構成となっており、両軸の金属部分を不図示の軸受けが受ける状態で、シャーシM1010に取り付けられている。搬送ローラM3060にはローラテンションバネ(不図示)が設けられており、搬送ローラM3060を付勢することにより、回転時に適量の負荷を与えて安定した搬送が行えるようになっている。
搬送ローラM3060には、従動する複数のピンチローラM3070が当接して設けられている。ピンチローラM3070は、ピンチローラホルダM3000に保持されているが、不図示のピンチローラバネによって付勢されることで、搬送ローラM3060に圧接し、ここで記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダM3000の回転軸は、シャーシM1010の軸受けに取り付けられ、この位置を中心に回転する。
記録媒体が搬送されてくる入口には、記録媒体をガイドするためのペーパガイドフラッパM3030およびプラテンM3040が配設されている。また、ピンチローラホルダM3000には、PEセンサレバーM3021が設けられている。PEセンサレバーM3021は、記録媒体の先端および後端の検出をシャーシM1010に固定されたペーパエンドセンサ(以下PEセンサと称す)E0007に伝える役割を果たす。プラテンM3040は、シャーシM1010に取り付けられ、位置決めされている。ペーパガイドフラッパM3030は、不図示の軸受け部を中心に回転可能で、シャーシM1010に当接することで位置決めされる。
搬送ローラM3060の記録媒体搬送方向における下流側には、記録ヘッドH1001(図21)が設けられている。
上記構成における搬送の過程を説明する。用紙搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラーホルダM3000およびペーパガイドフラッパM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。この時、PEセンサレバ−M3021が、記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体に対する記録位置が求められている。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。プラテンM3040には、搬送基準面となるリブが形成されており、このリブにより、記録ヘッドH1001と記録媒体表面との間のギャップが管理されている。また同時に、当該リブが、後述する排紙部と合わせて、記録媒体の波打ちを抑制する役割も果たしている。
搬送ローラM3060が回転するための駆動力は、例えばDCモータからなるLFモータE0002の回転力が、不図示のタイミングベルトを介して、搬送ローラM3060の軸上に配設されたプーリM3061に伝達されることによって得られている。また、搬送ローラM3060の軸上には、搬送ローラM3060による搬送量を検出するためのコードホイールM3062が設けられている。そして、隣接するシャーシM1010には、コードホイールM3062に形成されたマーキングを読み取るためのエンコードセンサM3090が配設されている。なお、コードホイールM3062に形成されたマーキングは、150〜300lpi(ライン/インチ;参考値)のピッチで形成されているものとする。
(D)排紙部(図8〜図11)
排紙部は、第1の排紙ローラM3100および第2の排紙ローラM3110、複数の拍車M3120およびギア列などから構成されている。
第1の排紙ローラM3100は、金属軸に複数のゴム部を設けて構成されている。第1の排紙ローラM3100の駆動は、搬送ローラM3060の駆動が、アイドラギアを介して第1の排紙ローラM3100まで伝達されることによって行われている。
第2の排紙ローラM3110は、樹脂の軸にエラストマの弾性体M3111を複数取り付けた構成になっている。第2の排紙ローラM3110の駆動は、第1の排紙ローラM3100の駆動が、アイドラギアを介して伝達すること行われる。
拍車M3120は、周囲に凸形状を複数設けた例えばSUSでなる円形の薄板を樹脂部と一体としたもので、拍車ホルダM3130に複数取り付けられている。この取り付けは、コイルバネを棒状に設けた拍車バネによって行われているが、同時に拍車バネのばね力は、拍車M3120を排紙ローラM3100およびM3110に対し所定圧で当接させている。この構成によって拍車M3120は、2つの排紙ローラM3100およびM3110に従動して回転可能となっている。拍車M3120のいくつかは、第1の排紙ローラM3100のゴム部、あるいは第2の排紙ローラM3110の弾性体M3111の位置に設けられており、主に記録媒体の搬送力を生み出す役割を果たしている。また、その他のいくつかは、ゴム部あるいは弾性体M3111が無い位置に設けられ、主に記録時の記録媒体の浮き上がりを抑える役割を果たしている。
また、ギア列は、搬送ローラM3060の駆動を排紙ローラM3100およびM3110に伝達する役割を果たしている。
以上の構成によって、画像形成された記録媒体は、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。排紙トレイM3160は、複数に分割され、後述する下ケースM7080の下部に収納できる構成になっている。使用時は、引出して使用する。また、排紙トレイM3160は、先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高い位置に保持されるよう設計されており、排出された記録媒体の積載性を向上し、記録面の擦れなどを防止している。
(E)キャリッジ部(図9〜図11)
キャリッジ部は、記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており、キャリッジM4000は、ガイドシャフトM4020およびガイドレールM1011によって支持されている。ガイドシャフトM4020は、シャーシM1010に取り付けられており、記録媒体の搬送方向に対して直角方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。ガイドレールM1011は、シャーシM1010に一体に形成されており、キャリッジM4000の後端を保持して記録ヘッドH1001と記録媒体との隙間を維持する役割を果たしている。また、ガイドレールM1011のキャリッジM4000との摺動側には、ステンレス等の薄板からなる摺動シートM4030が張設され、記録装置の摺動音の低減化を図っている。
キャリッジM4000は、シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。また、タイミングベルトM4041は、アイドルプーリM4042によって張設、支持されている。さらに、タイミングベルトM4041は、キャリッジM4000とゴム等からなるキャリッジダンパを介して結合されており、キャリッジモータE0001等の振動を減衰することで、記録される画像のむら等を低減している。
キャリッジM4000の位置を検出するためのエンコーダスケールE0005(図18について後述)が、タイミングベルトM4041と平行に設けられている。エンコーダスケールE0005上には、150lpi〜300lpiのピッチでマーキングが形成されている。そして、当該マーキングを読み取るためのエンコーダセンサE0004(図18について後述)が、キャリッジM4000に搭載されたキャリッジ基板E0013(図18について後述)に設けられている。キャリッジ基板E0013には、記録ヘッドH1001と電気的な接続を行うためのヘッドコンタクトE0101も設けられている。また、キャリッジM4000には、電気基板E0014から記録ヘッドH1001へ、駆動信号を伝えるための不図示のフレキシブルケーブルE0012(図18について後述)が接続されている。
記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に固定するための構成として次のものが設けられている。すなわち、記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に押し付けながら位置決めするための不図示の突き当て部と、所定の位置に固定するための不図示の押圧手段が、キャリッジM4000上に設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバーM4010に搭載され、記録ヘッドH1001をセットする際に、ヘッドセットレバーM4010を回転支点を中心に回して、記録ヘッドH1001に作用する構成になっている。
さらに、キャリッジM4000には、CD−R等の特殊メディアへ記録を行う際や、記録結果や用紙端部等の位置検出用として、反射型の光センサからなる位置検出センサM4090が取り付けられている。位置検出センサM4090は、発光素子より発光し、その反射光を受光することで、キャリッジM4000の現在位置を検出することができる。
上記構成において記録媒体に画像形成する場合、列方向の位置に対しては、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が、記録媒体を搬送して位置決めする。また、行方向の位置に対しては、キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と垂直な方向に移動させて、記録ヘッドH1001を目的の画像形成位置に配置させる。位置決めされた記録ヘッドH1001は、電気基板E0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。記録ヘッドH1001についての詳細な構成および記録システムは後述する。本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する記録主走査と、搬送ローラM3060により記録媒体が行方向に搬送される副走査とを交互に繰り返す。これにより、記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。
(F)フラットパス記録部(図12〜図14)
給紙部からの給紙は、図11に示したように記録媒体が通る経路がピンチローラに達するまで曲がっているため、記録媒体を曲げた状態で行われることになる。従って、例えば0.5mm程度以上の厚い記録媒体等を給紙部から給紙しようとすると、曲げられた記録媒体の反力が発生し、給紙抵抗が増えて給紙が行えない場合がある。また、給紙が可能であっても、排紙後の記録媒体が曲がったままとなったり、折れたりすることもある。
厚い記録媒体等、曲げたくない記録媒体や、CD−R等、曲げることのできない記録媒体に対して記録を行うのがフラットパス記録である。
ここで、フラットパス記録には本体背面のスリット上の開口部から(給紙装置の下)、手差し給紙の態様で記録媒体を本体のピンチローラにニップさせ、記録を行うタイプがある。しかし本実施形態のフラットパス記録は、記録媒体を本体手前の排紙口から記録位置まで給紙し、スイッチバックしてから記録を行う形態のものである。
フロントカバーM7010は、通常記録した記録媒体を数十枚程度積載しておくためのトレイを兼ねるために排紙部より下方にある(図8)。フラットパス記録時には、記録媒体を排紙口から水平に、通常の搬送方向とは反対方向に給紙するために、フロントトレイM7010を排紙口の位置まで上げる(図12)。フロントカバーM7010には不図示のフック等が設けられており、フラットパス給紙位置にフロントカバーM7010を固定可能である。フロントカバーM7010がフラットパス給紙位置にあることはセンサで検知可能であり、当該検知に応じてフラットパス記録モードと判断することができる。
フラットパス記録モードでは、記録媒体をフロントトレイM7010に載せて排紙口から記録媒体を挿入するために、まずフラットパスキーE3004を操作する。これによって、想定している記録媒体の厚みより高い位置まで、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを不図示の機構により持ち上げる。また通紙領域内にキャリッジM4000が存在するような場合などは、キャリッジM4000を不図示のリフト機構により持ち上げることにより、記録媒体を挿入し易くすることができる。またリアトレイボタンM7110を押すことによってリアトレイM7090を開き、さらにリアサブトレイM7091をV字に開くことも可能である(図13)。リアトレイM7090およびリアサブトレイM7091は、長い記録媒体を本体前面から挿入した場合は本体背面から突出するので、長い記録媒体を本体背面でも支えるためのトレイである。厚い記録媒体は記録中にフラットな姿勢を保たないと吐出面と擦れたり、搬送負荷が変化したりすることから記録品位に影響を及ぼすおそれがあるので、これらのトレイの配設は有効である。しかし本体背面からはみ出ない程度の長さの記録媒体であれば、リアトレイM7090等を開く必要はない。
以上によって、記録媒体を排紙口から本体内に挿入可能となる。記録媒体の後端部(ユーザに最も近く位置する手前側の端部)と右端部とをフロントトレイM7010のマーカ位置に揃えて、フロントトレイM7010に載せる。
ここで再度フラットパスキーE3004を操作すると、拍車ホルダ3130が降りて排紙ローラM3100およびM3110と拍車3120とで記録媒体をニップする。その後、排紙ローラM3100,M3110で記録媒体を所定量本体内に引き込む(通常記録時の搬送方向とは逆方向)。最初に記録媒体をセットした際に記録媒体の手前側の端部(後端部)を揃えているので、短い記録媒体の前端部(ユーザから見て最も奥側の端部)は搬送ローラM3060まで届いていないことがある。従って所定量とは、想定している一番短い記録媒体の後端が搬送ローラM3060に届くまでの距離とする。所定量送られた記録媒体は搬送ローラM3060に届いているので、その位置でピンチローラホルダM3000を降ろして、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とで記録媒体をニップさせる。そして記録媒体をさらに送り、その後端部が搬送ローラM3060とピンチローラM3070とでニップされるようにする。これで記録媒体のフラットパス記録のための給紙が終了したことになる(記録待機位置)。
排紙ローラM3100およびM3110と拍車M3120とのニップ力は、通常記録時の排紙時に形成画像に影響を与えないよう、比較的低く設定されている。従って、フラットパス記録時には記録を行うまでに記録媒体の位置がずれてしまうおそれがある。しかし本実施形態では、ニップ力が比較的高い搬送ローラM3060とピンチローラM3070とによって記録媒体をニップさせるので、記録媒体のセット位置が確保されたことになる。また、記録媒体を上記所定量だけ本体内に送るとき、フラットパス紙検知センサレバー(以下FPPEセンサレバーと称す)M3170が、ここでは図示しない赤外線センサであるFPPEセンサE9001の光路を遮蔽または形成する。これにより、記録媒体の後端位置(記録時の前端位置となる)を検知することができる。なお、FPPEセンサレバーはプラテンM3040と拍車ホルダM3130の間に回動可能に設けられたものとすることができる。
記録媒体が上記記録待機位置に設定されると、記録コマンドを実行する。すなわち、記録ヘッドH1001による記録位置まで搬送ローラM3060で記録媒体を搬送し、後は通常の記録動作と同じように記録を行い、記録後フロントトレイM7010に排紙することになる。
フラットパス記録をさらに行いたい場合は、記録した記録媒体をフロントトレイM7010から取り出し、次の記録媒体をセットして、後は前述した処理を繰り返せばよい。具体的には、フラットパスキーE3004を押すことによって、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを持ち上げて、記録媒体をセットすることから始まる。
一方、フラットパス記録を終了する場合は、フロントトレイM7010を通常記録位置に戻すことによって通常記録モードに戻すことができる。
(G)クリーニング部(図15、図16)
クリーニング部は記録ヘッドH1001のクリーニングを行うための機構である。これは、ポンプM5000、記録ヘッドH1001の乾燥を抑えるためのキャップM5010、記録ヘッドH1001の吐出口形成面をクリーニングするためのワイパ部M5020などから構成されている。
本実施形態では、クリーニング部の主な駆動力は、APモータE3005(図18)から伝達される。そして不図示のワンウェイクラッチにより、一方向の回転でポンプM5000を作動させ、もう一方向の回転ではワイパ部M5020の移動およびキャップM5010の昇降を行わせるようになっている。なお、APモータE3005は記録媒体の給紙動作の駆動源にも用いられるものであるが、クリーニング部の動作を行うための専用のモータが設けられていてもよい。
キャップM5010はモータE0003から不図示の昇降機構を介して昇降可能に駆動される。そして、上昇位置では、記録ヘッドH1001に設けた数個の吐出部の吐出面毎にキャッピングを施し、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行うことが可能である。また、記録動作時には記録ヘッドH1001との干渉を避ける下降位置に設定され、また吐出面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。例えば記録ヘッドH1001に10個の吐出部が設けられ、5個の吐出部の吐出面毎に一括してキャッピングを施すことが可能となるよう、図示の例ではキャップM5010は2つ設けられている。
ゴム等の弾性部材でなるワイパ部M5020は不図示のワイパホルダに固定されている。ワイパホルダは図16の+Yおよび−Y方向(吐出部における吐出口の配列方向)に移動可能である。そして、記録ヘッドH1001がホームポジションに到達したときに、矢印−Y方向にワイパホルダが移動することによって、ワイピングが可能である。ワイピング動作が終了すると、キャリッジをワイピング領域の外に退避させてから、ワイパが吐出面等と干渉しない位置に戻す。なお、本例のワイパ部M5020には、全吐出部の吐出面を含む記録ヘッドH1001の面全体をワイピングするワイパブレードM5020Aが設けられている。また、5つの吐出部の吐出面毎に、ノズル近傍をするワイピングする2つのワイパブレードM5020B,M5020Cが設けられている。
そして、ワイピング後には、ワイパ部M5020がブレードクリーナM5060に当接することにより、ワイパブレードM5020A〜M5020C自身へ付着したインクなども除去することができる構成になっている。また、ワイピングに先立ってワイパブレードM5020A〜M5020Cにウエット液を転写させておくことによりワイピングによるクリーニング性を向上する構成(ウエット液転写部)が設けられている。このウエット液転写部の構成およびワイピング動作については後述する。
吸引ポンプM5000は、キャップM5010を吐出面に接合させてその内部に密閉空間を形成した状態で負圧を発生させることが可能である。これにより、インクタンクH1900から吐出部内にインクを充填させたり、吐出口もしくはその内方のインク路に存在する塵埃、固着物、気泡等を吸引除去したりすることができる。
吸引ポンプM5000としては、例えばチューブポンプ形態のものが用いられる。これは、可撓性を有するものとしたチューブの少なくとも一部を沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。これに伴い、キャップM5010が形成する密閉空間に負圧が生じてインクが吐出口より吸引され、キャップM5010からチューブないし吸引ポンプに引き込まれる。そして、引き込まれているインクはさらに下ケースM7080に設けた適宜の部材(廃インク吸収体)に向けて移送される。
なお、キャップM5010の内側部分には、吸引後の記録ヘッドH1001の吐出面に残るインクを削減するために、吸収体M5011が設けられている。また、キャップM5010を開放した状態で、キャップM5010ないし吸収体M5011に残っているインクを吸引することにより、残インクによる固着およびその後の弊害が起こらないように配慮されている。ここで、インク吸引経路の途中に大気開放弁(不図示)を設け、キャップM5010を吐出面から離脱させる際に予めこれを開放しておくことで、吐出面に急激な負圧が作用しないようにしておくことが好ましい。
また、吸引ポンプM5000は、吸引回復だけでなく、キャップM5010が吐出面に対向した状態で行われる予備吐出動作によってキャップM5010に受容されたインクを排出するためにも作動させることができる。すなわち、予備吐出されてキャップM5010に保持されたインクが所定量に達したときに吸引ポンプM5000を作動させることで、キャップM5010内に保持されていたインクを、チューブを介して廃インク吸収体に移送することができる。
以上のワイパ部M5020の動作、キャップM5010の昇降および弁の開閉など、連続して行われる一連の動作は、モータE0003の出力軸上に設けた不図示のメインカムおよびこれに従動する複数のカム,アーム等によって制御可能である。すなわち、モータE0003の回転方向に応じたメインカムの回動によってそれぞれの部位のカム部,アーム等が作動することで、所定の動作を行うことが可能である。メインカムの位置はフォトインタラプタ等の位置検出センサで検出することができる。
(H)ウエット液転写部(図17、図16)
最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料成分を含有するインク(以下、顔料インクという)が使用されることが多くなってきている。顔料インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。従って、吐出面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、吐出面に与えるダメージが大きい。また、また顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料インク以外でも生じる問題である。
この課題に対し、本実施形態では、ワイパ部M5020のブレードに液体を転写・付着させ、これによって濡れたブレードでワイピングを行う。これにより、顔料インクによる吐出面の劣化を防ぎ、かつワイパの磨耗を軽減し、さらには吐出面に蓄積したインク残渣を溶解させることによって蓄積物を除去するようにしている。かかる液体をその機能から本明細書ではウエット液と称し、これを用いるワイピングをウエットワイピングと称する。
本実施形態では、ウエット液を記録装置本体内部に貯蔵する構成がとられている。M5090はウエット液タンクであり、ウエット液としてグリセリン溶液等を収納している。M5100はウエット液保持部材で、ウエット液がウエット液タンクM5090から漏れないように適度な表面張力を有する繊維質部材等であり、ウエット液を含浸保持している。M5080はウエット液転写部材であり、例えば、多孔質であって適度な毛管力を備えた材質でなり、ワイパブレードと接触するウエット液転写部分M5081を有している。ウエット液転写部材M5080はウエット液が染み込んだウエット液保持部材M5100とも接しており、従ってウエット液転写部材M5080もウエット液が染み込むことになる。ウエット液転写部材M5080は、ウエット液が残り少なくなってもウエット液転写部分M5081へウエット液を供給できるだけの毛管力を有した材質である。
かかるウエット液転写部およびワイパ部の動作を説明する。
まず、キャップM5010を下降位置に設定し、キャリッジM4000がブレードM5020A〜M5020Cに触れない位置に退避させる。この状態で、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させ、ブレードクリーナM5060の部位を通過させて、ウエット液転写部分M5081に接触させる(図17)。適切な時間だけ接触状態を維持することで、ワイパ部M5020にウエット液が適量転写される。
次にワイパ部M5020を+Y方向に移動させるが、ブレードがブレードクリーナM5060に触れるのはウエット液が付着していない面であるので、ウエット液はブレードに保持されたままになる。
ブレードをワイピング開始位置まで戻した後、キャリッジM4000をワイピング位置まで移動させる。再度、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させることによって、ウエット液が付いた面で記録ヘッドH1001の吐出面をワイピングすることが可能となる。
1.3 電気回路構成
次に本実施形態における電気的回路の構成を説明する。
図18は、記録装置J0013における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。本実施形態で適用する記録装置では、主にキャリッジ基板E0013、メイン基板E0014、電源ユニットE0015およびフロントパネルE0106等によって構成されている。
ここで、電源ユニットE0015は、メイン基板E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4000に搭載されたプリント基板ユニットであり、ヘッドコネクタE0101を通じて記録ヘッドH1001との信号の授受、ヘッド駆動電源の供給を行うインターフェースとして機能する。ヘッド駆動電源の制御に供する部分として、記録ヘッドH1001の各色吐出部に対する複数チャネルのヘッド駆動電圧変調回路E3001を有する。そして、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014から指定された条件に従ってヘッド駆動電源電圧を発生する。また、キャリッジM4000の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づいて、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出する。更にその出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力する。
キャリッジ基板E0013には、図20に示すように、2つの発光素子(LED)E3011および受光素子E3013でなる光学センサE3010および周囲温度を検出するためのサーミスタE3020が接続されている。以下、これらのセンサをマルチセンサE3000として参照する。マルチセンサE3000により得られる情報は、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力される。
メイン基板E0014は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットである。その基板上にホストインタフェース(ホストI/F)E0017を有しており、ホスト装置J0012(図1)からの受信データをもとに記録動作の制御を行う。また、キャリッジモータE0001、LFモータE0002、APモータE3005、PRモータE3006など、各種モータと接続されてこれらを制御している。キャリッジモータE0001は、キャリッジM4000を主走査させるための駆動源となるモータである。LFモータE0002、記録媒体を搬送するための駆動源となるモータである。APモータE3005は、記録ヘッドH1001の回復動作および記録媒体の給紙動作の駆動源となるモータである。PRモータE3006は、フラットパス記録動作の駆動源となるモータである。さらに、PEセンサ、CRリフトセンサ、LFエンコーダセンサ、PGセンサのような、プリンタ各部の動作状態を検出する様々なセンサに対して、制御信号および検出信号の送受信を行うためのセンサ信号E0104に接続される。また、メイン基板E0014は、CRFFC E0012および電源ユニットE0015にそれぞれ接続されるとともに、さらにパネル信号E0107を介してフロントパネルE0106と情報の授受を行うためのインターフェースを有している。
フロントパネルE0106は、ユーザ操作の利便性のために、記録装置本体の正面に設けたユニットである。これは、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018およびフラットパスキーE3004を有するほか(図6)、さらにデジタルカメラ等の周辺デバイスとの接続に用いるデバイスI/F E0100を有している。
図19は、メイン基板E1004の内部構成を示すブロック図である。
図において、E1102はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。これは、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続され、ROM E1004に格納されたプログラムに従って、各種制御を行っている。例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104や、マルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003の送受信を行う。そのほか、エンコーダ信号E1020、フロントパネルE0106上の電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004からの出力の状態を検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/F E0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、インクジェット記録装置の駆動制御を司っている。
E1103はドライバ・リセット回路である。これは、ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従って、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、APモータ駆動信号E4001およびPRモータ駆動信号E4002を生成し、各モータを駆動する。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有しており、メイン基板E0014、キャリッジ基板E0013、フロントパネルE0106など各部に必要な電源を供給する。さらには電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015の発生および初期化を行う。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。
ホストI/F E0017は、ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に伝達し、またこのケーブルE1029からの信号をASIC E1102に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは電力が供給される。供給された電力は、メイン基板E0014内外の各部へ、必要に応じて電圧変換された上で供給される。また、ASIC E1102からの電源ユニット制御信号E4000が電源ユニットE0015に接続され、記録装置本体の低消費電力モード等を制御する。
ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。さらに、センサ信号E0104を通じてPEセンサ、ASFセンサ等各部センサ類により状態を検知する。さらに、マルチセンサ信号E4003を通じてマルチセンサE3000を制御するとともに状態を検知する。またパネル信号E0107の状態を検知して、パネル信号E0107の駆動を制御してフロントパネル上のLED E0020の点滅を行う。
さらにASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドH1001とのインターフェースをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はCRFFC E0012を通じて入力されるエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012を通じてキャリッジ基板E0013に接続される。そして、前述のヘッド駆動電圧変調回路E3001およびヘッドコネクタE0101を経て記録ヘッドH1001に供給されるとともに、記録ヘッドH1001からの各種情報をASIC E1102に伝達する。このうち吐出部毎のヘッド温度情報については、メイン基板上のヘッド温度検出回路E3002で信号増幅された後、ASIC E1102に入力され、各種制御判断に用いられる。
図中、E3007はDRAMであり、記録用のデータバッファ、ホストコンピュータからの受信データバッファ等として、また各種制御動作に必要なワーク領域しても使用されている。
1.4 記録ヘッド構成
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。 本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクタンクH1900を搭載する手段およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有している。そして、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
図21は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000に対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、10色の顔料インクによって画像を形成する。10色とはシアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、レッド(R)、グリーン(G)およびグレー(Gray)である。従ってインクタンクT0001もこれら10色分のものが独立に用意されている。そして、図に示すように、インクタンクそれぞれがヘッドカートリッジH1000に対して着脱自在となっている。なお、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行えるようになっている。
1.5 インク構成
以下に本発明で使用する10色のインクについて説明する。
本発明に用いられる10色とは、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)、レッド(R)およびグリーン(G)である。各色に用いられる着色剤は全てが顔料であることが好ましい。ここで、顔料の分散を行うためには、公知一般の分散剤を用いてもよいし、また公知一般の方法で顔料表面を改質し、自己分散性を付与してもよい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種ふくんでもよい。また本発明に用いられる10色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤・添加剤・界面活性剤・バインダー・防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
2.特徴構成の第1例
記録を行うために選択された条件に応じた記録媒体の先後端部での記録制御の第1例として、選択された記録モードで使用可能なインク色数によらず良好な画質を得るための記録制御を説明する。すなわち本例は、記録に使用可能なインク色数が少なくても、記録媒体の先端部および/または後端部でのドットの着弾位置のずれが目立たず、高い画像品位の記録物を出力できるようにするものである。
2.1 インク色数と画質劣化との関係
ここで、使用するインク色数と画質劣化との関係についてより詳しく述べる。
図22(a)および(b)は、それぞれ、通常のカラー記録モードおよびモノクローム記録モードにおいてグレーライン(白から黒に至るライン)を再現する場合の、階調とインク使用率との関係を示した図である。図では256階調とする場合を例示しており、横軸が階調を示している。また、縦軸はインク使用率(最大が「1」)を表している。
これらの図の中間調領域を比較すると、記録媒体に付与されるインク量はモノクローム記録モードの方が明らかに少ないのがわかる。また、モノクローム記録モードでは、低階調から中間調においてもブラックインクを積極的に用いており、付与インク総量におけるブラックインクの比率は非常に高いものとなっている。
無彩色インクとして使用されるブラックインクでも単位面積あたりのインクの使用量が増大すれば、記録媒体の種類によっては、多少の彩度を持つことになり、モノクローム写真としてはふさわしくない色調に仕上がることがある。そのため、本来の無彩色にするために、調色成分として本実施形態ではシアンインクおよびイエローインクを微量加えている。しかし調色成分としてはこれに限られるものではなく、記録媒体によってはマゼンタなど他の色のインクを用いてもよいことは言うまでもない。いずれにしても、ここで重要なことは、これら有彩色インクはあくまで調色成分としてのみ用いるものであり、階調変化を滑らかにするためにグレーやプロセスカラーのブラックを生成するためのものではないということである。
さらにモノクローム写真の色調と階調性を作成しやすくするために、ハイライト部分から最高濃度部分までのそれぞれのインクの使用量を、単調増加となるように設計している。こうすることで、インクジェット記録装置の量産ばらつきがあっても、ハイライト部分から中濃度部分、さらには最高濃度部分までの各色調をそろえることができるのである。
図23(a)および(b)は、それぞれ、モノクローム記録モードにおけるブラックインクのドット配置および通常のカラー記録モードにおけるカラーインクのドッド配置を説明するための概略図である。図23(a)は、モノクローム記録モードにおいてブラックインクだけを用いてある濃度の一様な画像を記録した場合のドット配置を表している。一方、図23(b)は、通常のカラーモードにおいて、全10色のインクの中から、一例としてシアン、マゼンタおよびイエローの3色のインクを用いて濃度の一様な画像を記録した場合のドット配置を表している。これらの図はともに着弾位置のずれがない状態でドットが配置された状態を示している。すなわち、図23(a)および(b)ともにドットは一様に配置されており、画像にはザラツキ感が生じない。
図24(a)および(b)は、それぞれ、図23(a)および(b)と同じ画像を形成した場合において、着弾位置のずれが生じた場合のドット配置を表している。図24(a)に示すモノクローム記録モードでは、この画像を形成するドットの数が少なく、すなわち被覆率が低く、記録媒体に付与されるインク量が通常カラーモードに比べて明らかに少ない。このため、カラー記録モードにおいて着弾位置のずれが生じている場合(図24(b))に比べて、着弾位置のずれが目立っていることがわかる。
2.2 記録媒体先後端部での記録
本実施形態の記録装置は、銀塩写真と同等の品位の出力物を提供するものであり、余白のない画像、所謂「余白無し記録」を実現可能な記録装置として構成される。
図25は、本実施形態の記録装置でA4サイズ(294mm×210mm)の記録媒体に余白無し記録を実行する際の、先端部、中央部および後端部の領域をそれぞれ示した図である。すなわち、図41〜図43を用いて説明したように、搬送ローラM3060および排紙ローラM3100の双方にて記録媒体が保持された状態で記録を行うことができる領域を中央部としている。また、記録媒体の先端が排紙ローラに支持される以前に記録される領域を先端部、さらに記録媒体の後端が搬送ローラから外れた後に記録される領域を後端部としている。
本実施形態では、副走査方向(記録媒体搬送方向)に配列されるノズル群のうち、より下流側(排紙ローラ側)に位置する一部分の領域に含まれるノズルによって、先端部および後端部への記録を行っている。従って、先端部として扱われる領域よりも後端部として扱われる領域のほうが若干広くなっている。
2.3 記録モードの構成
以上の検討結果を踏まえ、本実施形態では、有彩色系のインクを中心に使用して記録する通常カラー記録モード、および無彩色系のインクを中心に使用して記録するモノクローム記録モードの2つの記録モードにて、余白無し記録を実現する場合について説明する。
図26は、本実施形態で採用した記録ヘッドH1001のノズル形成面側から見た状態を模式的に示している。本例の記録ヘッドH1001は上記10色のうち5色ずつのノズル列を形成した2つの記録素子基板H3700および記録素子基板H3701を有している。H2700〜H3600は、それぞれ異なる10色のインクに対応するノズル列である。
一方の記録素子基板H3700には、グレー、ライトシアン、第1ブラック、第2ブラックおよびライトマゼンタのインクが供給されて吐出動作を行う各ノズル列H3200、H3300、H3400、H3500およびH3600が形成されている。他方の記録素子基板H3701には、シアン、レッド、グリーン、マゼンタおよびイエローのインクが供給されて吐出動作を行うノズル列H2700、H2800、H2900、H3000およびH3100が形成されている。各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインク滴を吐出させる。各ノズルすなわち吐出口における開口面積は、およそ100平方μmに設定されている。
図25に示した記録媒体中央部の記録に際しては、通常カラー記録モードおよびモノクローム記録モードの双方とも、各ノズル列の全範囲Mすなわち768個のノズルが使用されるようにする。これに対し、通常カラーモードの先後端部記録に際しては、各列の使用ノズル範囲を縮小し、列の中央から記録媒体搬送方向上流側(搬送ローラ側)に位置する256個のノズルを含む領域Ecを用いるようにしている。すなわち、1回の走査における記録幅を小さくすることで画像の劣化を防ぐようにしている。モノクローム記録モードの先後端部記録に際してはさらに、領域Ecに相当する領域のうち記録媒体搬送方向下流側に位置する128個のノズルを不使用とし、残りの128個のノズルを含む領域Emを用いるようにしている。すなわち、1回の走査における記録幅をさらに小さくすることで画像の劣化を防ぐようにしている。
図27は記録媒体中央部の記録時における記録動作の説明図である。図28および図29は、それぞれ、通常カラーモードの後端部記録時およびモノクローム記録モードの後端部記録時における記録動作の説明図である。図30および図31は、それぞれ、通常カラーモードの先端部記録時およびモノクローム記録モードの先端部記録時における記録動作の説明図である。
これらの図において、202は、記録ヘッドH1001ないし記録素子基板H3700,H3701上に配設された各ノズル列の768本のノズル領域(図25の領域M)を示している。また、211は通常カラーモードの後端部および先端部記録時に使用される256本のノズルに対応する領域(図25の領域Ec)を示している。さらに、212はモノクローム記録モードの後端部および先端部記録時に使用される128本のノズルに対応する領域(図25の領域Em)を示している。
記録領域を通過する記録媒体を支持するプラテンM3040は溝208を有し、溝208には、余白無し記録を実行する際に記録媒体の先後縁および側縁からはみ出して吐出されたインクを受容するためのインク吸収体208Aが設置されている。インク吸収体208Aに吸収されたインクは、その後、記録装置本体の下部に設けられている不図示の廃インク吸収体に移動していく構成となっている。
209は、プラテンM3040に取り付けられたリブの一部である。余白無し記録を行う際には、記録媒体中央部の記録時であっても、記録媒体左右側縁からもインクがはみ出して吐出される。よって、図中の右側に位置する上流側リブ部分209と左側に位置する下流側リブ209部分との間隔は、記録媒体中央部の記録時に用いられる最大ノズル数(本実施形態の場合は768ノズル)に対応した長さよりも大とする。これにより、左右端部の記録時に左右側縁からはみ出して吐出されるインクによってリブ部分209が汚れないようにする。また、210もプラテンに取り付けられたリブの一部である。これらのリブ部分210は記録媒体先後端部の支持に係るものである一方、先後端部の記録時には、先後縁および先後端部の左右側縁からはみ出して吐出されるインクによって汚されないように配置されていることが好ましい。よって記録媒体の左右側縁が位置する部位から適切に外れた位置に配置する一方で、上流側リブ部分210と下流側リブ部分210との間隔を、記録媒体の先後端記録時に用いられる最大ノズル数(本実施形態の場合は256ノズル)に対応した長さよりも大とする。
図27は、図25に示した記録媒体Pの中央部を記録している状態を示している。この図に示されるように、記録媒体の中央部を記録する際には、768本の全てのノズルを使用している。
図28は、通常のカラーモードにおける記録媒体Pの後端部への記録状態を示している。この場合は、記録媒体搬送方向上流側に位置する256本のノズルを含む領域211を用いて記録が行われる。
図29は、モノクローム記録モードにおける記録媒体Pの後端部への記録状態を示している。この場合は、記録媒体搬送方向上流側に位置する128本のノズルを含む領域212を用いて記録が行われる。
図30は、通常のカラーモードにおける記録媒体Pの先端部への記録状態を示している。この場合は、記録媒体搬送方向上流側に位置する256本のノズルを含む領域211を用いて記録が行われる。
図31は、モノクローム記録モードにおける記録媒体Pの先端部への記録状態を示している。この場合は、記録媒体搬送方向上流側に位置する128本のノズルを含む領域212を用いて記録が行われる。
記録媒体Pは排紙ローラM3100および拍車M3120間、ないしは排紙ローラM3110および拍車M3120間に挟持される前は搬送ローラM3060だけで搬送が行われ、一般に図30や図31に示すように湾曲することが知られている。また、記録媒体Pは搬送ローラM3060およびピンチローラM3070による挟持位置から外れた後は、一般に搬送ローラM3060に比べてローラ径も小さく、記録媒体の搬送精度が劣る排紙ローラM3100ないしはM3110だけで搬送が行われる。そして先端部と同様、一般に図28や図29に示すように後端部が湾曲することが知られている。また、先後端部が逆に上方に反っていることもある。
湾曲の程度は、記録時の環境や、記録媒体の材質、さらには画像の記録デューティなどに影響されるが、多かれ少なかれ湾曲は起こり、記録ヘッドのノズル形成面との距離(紙間距離)は、最先端部領域および最後端部領域において急激に変化する。このように紙間距離が急激に変化することは画像品位へ影響を与える。特に後端部では、記録媒体の搬送精度が劣る排紙ローラM3100,M3110だけで搬送が行われるので、画像品位への影響が一層著しくなる。
先後端部記録時の画像品位は、記録ヘッドH1101の1回の記録走査(スキャン)で記録される領域の、記録媒体搬送方向における長さ(記録幅)に依存する。すなわち、記録幅が大きいほど画像の乱れが大きくなり、記録幅が小さいほど画像の乱れが小さくなる。これは記録幅が小さいほど、当該記録幅内における紙間距離の変動幅が小さくてすむことが一つの要因である。従って、記録に関与するノズル使用範囲を縮小し、1回のスキャンによる記録幅を縮小することで、紙間距離の変動に起因した着弾位置のずれ量を小さくでき、画像の乱れを少なくすることができる。
記録に関与するノズル使用範囲の縮小は、換言すれば、各スキャン間での記録媒体搬送量の低減である。搬送量を低減することで、例えばマルチパス記録で記録媒体上の領域の記録を完成させる場合、マルチパス記録を行うのに要するトータルの搬送量が小さく、搬送量の誤差の積算量が小さくてすむことになる。
従って、本実施形態では、画像の乱れが発生しやすい最先端部および最後端部に対する記録時には、記録幅を小さくし、すなわちノズル使用範囲を縮小し、これとともに記録媒体の搬送量を低減することで、画像の乱れを抑えている。
そして本実施形態ではさらに、選択された記録モードに応じて、ノズル使用範囲の大きさないし記録媒体搬送量を異ならせるようにしている。
通常のカラー記録モードでは、有彩色系のインクを複数色使用して記録を行っており、搬送精度の低下や紙間距離の変動に起因した着弾位置のずれが生じても、上述したように画像の乱れは比較的目立ちにくいものとなる。しかし、用いるインク色数が少ない、例えば無彩色系のインクであるブラックインクが主に使用されるモノクローム記録モードでは、通常カラー記録モードに比べて記録媒体上のインク被覆率が小さいため、着弾位置ずれによる画像の乱れが顕著に目立ってしまう。すなわち、白スジや黒スジ、あるいはザラツキ感などの画像弊害を引き起こすことがわかっている。そのために、本実施形態では、通常のカラーモードで後端部あるいは先端部を記録する際には256本のノズルに対応した記録幅としている(図28、図30)。これに対し、モノクローム記録モードで後端部あるいは先端部を記録する際には128本のノズルに対応した記録幅としているのである(図29、図31)。
図32は通常カラー記録モードにおけるスキャンおよびノズル使用の態様を説明するための図である。ここで、同図(a)は記録媒体Pの先端部付近の記録から中央部の記録に移行してゆく状態、同図(b)は記録媒体Pの中央部から後端部付近の記録に移行してゆく状態を示している。
まず、図32(a)において、nf〜nf+6は順次行われるスキャンの番号である。そして、番号nf+1のスキャンまでは、記録媒体最先端部が排紙ローラによって支持されておらず、搬送ローラM3060のみによって搬送が行われているものとする。
この状態では、図30に示した領域211の256ノズルのみを使用したスキャンを行う一方、各スキャン間では64ノズル分の記録媒体の搬送を行って、記録媒体Pの先端部に対する画像形成が行われる。すなわち、図における記録媒体上の所定の領域Nに対応した画像は合計4回のスキャン(マルチパス記録)で完成される。この際には、256ノズル分について図5と同様としたマスクパターンを適用することができる。
記録媒体最先端部が排紙ローラによって完全に支持されると768個のすべてのノズル(図27に示した領域202)を使用したスキャンを行う。一方、各スキャン間では192ノズル分の搬送を行って、記録媒体Pの中央部に対する画像形成が行われる(番号nf+5のスキャン以降)。すなわち、記録媒体中央部に含まれる領域に関しても合計4回のスキャン(マルチパス記録)で画像が完成する。この際には図5に示したマスクパターンを適用することができる。
先端部の記録から中央部の記録に移行する過程(番号nf+2〜nf+4のスキャン)では、当初領域211に含まれるノズルによって記録が行われた部分に関し、同じ領域に含まれる他のノズルによってマルチパス記録が行われるよう適切なデータ設定を行う。これとともに、中央部への記録を行うために使用ノズル範囲を拡大して行く一方、適切な量の搬送が行われる。
次に、図32(b)において、nr〜nr+6は記録媒体Pの中央部から後端部付近の記録に移行してゆく際に順次行われるスキャンの番号である。中央部に対しては、上述と同様、全768ノズルを使用したスキャンを行う一方、スキャンごとに192ノズル分の記録媒体の搬送を行うようにしたマルチパス記録が行われる(番号nr+1のスキャンまで)。また、記録媒体後端部が搬送ローラによって支持されていない後端部に対しては、先端部と同様、領域211の256ノズルを使用したスキャンを行う一方、スキャンごとに64ノズル分の記録媒体の搬送を行うようにした記録が行われる(番号nr+5のスキャン以降)。そして移行過程(番号nr+2〜番号nr+4のスキャン)においても、上記と同様のデータ設定および適当量の搬送が行われる一方、使用ノズル範囲が縮小されて行く。
図33はモノクローム記録モードにおけるスキャンおよびノズル使用の態様を説明するための図である。ここで、図33(a)は記録媒体Pの先端部付近の記録から中央部の記録に移行してゆく状態、同図(b)は記録媒体Pの中央部から後端部付近の記録に移行してゆく状態を示している。
まず、図33(a)において、番号nf+1のスキャンまでは、記録媒体最先端部が排紙ローラによって支持されておらず、搬送ローラM3060のみによって搬送が行われている。この状態では、図29に示した領域212の128ノズルのみを使用したスキャンを行う一方、各スキャン間では32ノズル分の記録媒体の搬送を行って、記録媒体Pの先端部に対する画像形成が行われる。すなわち、図における記録媒体上の所定の領域Nに対応した画像は合計4回のスキャン(マルチパス記録)で完成される。この際には、128ノズル分について図5と同様としたマスクパターンを適用することができる。
記録媒体最先端部が排紙ローラによって完全に支持されると、768個のすべてのノズル(図27に示した領域202)を使用したスキャンを行う。一方、各スキャン間では192ノズル分の記録媒体の搬送を行って、記録媒体Pの中央部に対する画像形成が行われる(番号nf+5のスキャン以降)。すなわち、記録媒体中央部に含まれる領域に関しても合計4回のスキャン(マルチパス記録)で画像が完成する。この際には図5に示したマスクを適用することができる。
先端部の記録から中央部の記録に移行する過程(番号nf+2〜nf+4のスキャン)では、当初領域212に含まれるノズルによって記録が行われた部分に関し、同じ領域に含まれる他のノズルによってマルチパス記録が行われるよう適切なデータ設定を行う。これとともに、中央部への記録を行うために使用ノズル範囲を拡大して行く一方、適切な量の搬送が行われる。
次に、図33(b)において、中央部に対しては、上述と同様、全768ノズルを使用したスキャンを行う一方、スキャンごとに192ノズル分の搬送を行うようにしたマルチパス記録が行われる(番号nr+1のスキャンまで)。また、記録媒体後端部が搬送ローラによって支持されていない後端部に対しては、先端部と同様、領域212の128ノズルを使用したスキャンを行う一方、スキャンごとに32ノズル分の記録媒体の搬送を行うようにした記録が行われる(番号nr+5のスキャン以降)。そして移行過程(番号nr+2〜番号nr+4のスキャン)においても、上記と同様のデータ設定および適当量の搬送が行われる一方、使用ノズル範囲が縮小されて行く。
このように、本実施形態においては、通常のカラー記録モードに対して、モノクローム記録モードを用意し、それぞれに適切な記録方法で記録媒体の先端部および後端部の記録を実施している。これにより、モノクローム記録モードにおいて特に画質劣化の発生しやすい記録媒体先後端部においても、画像の乱れが少ない記録を行うことが可能となる。
なお、記録媒体Pが上流側搬送手段(搬送ローラ)および下流側搬送手段(排紙ローラ)によって支持されているか、あるいはその一方のみによって支持されているかの判断は、上記PEセンサの検出等に基づき、ASIC E1102が行うことができる。すなわち、PEセンサE0007によって記録媒体の先縁または後縁が検出されてから、排紙ローラまたは搬送ローラまでの距離と搬送速度とに基づいて、先端部、中央部または後端部あるいは移行領域の記録実行を判定することができる。
2.3 モード設定および記録装置の制御
ユーザは、記録を実行する際、好みに応じて上記2つのモードから1つを選択することができる。この選択は、例えば、ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面に対して、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行う際に実行することができる。ホスト装置J0012では、これに応じた画像処理を行い、記録装置J0013に対して画像データを供給する。
一方記録装置では、これに応じて次のような制御を実行することができる。
図34は記録装置J0013が実行する記録処理手順の一例を示す。
本手順では、まず記録モードが通常のカラー記録モードであるかモノクローム記録モードであるかを認識する(ステップS1)。これは、ユーザが選択したモード情報をホスト装置J0012が通知することで行うことができる。あるいは、ホスト装置J0012から受信した画像データについてその内容を判定すること、すなわちブラック用のデータのみが著しく多いか否かを判定することで、モノクローム記録モードであるかカラー記録モードであるかを認識することもできる。
次に、認識したモードに応じて、記録媒体先端部および後端部の記録に使用するノズル領域の設定と、搬送量とを設定する(ステップS3)。すなわち、通常のカラー記録モードでは図28および図30に示した領域211が設定されるとともに、図32に示した搬送動作が行われるよう設定される。また、モノクローム記録モードでは図29および図31に示した領域212が設定されるとともに、図33に示した搬送動作が行われるよう設定される。
次に、設定された使用ノズルおよび搬送量に応じたデータ展開を行い(ステップS5)、記録媒体先端部ないし中央部への移行領域において図32(a)または図33(a)で説明したような記録動作を実行する(ステップS7)。そして中央部への記録動作(ステップS9)を実行した後、記録媒体後端部や、これに至る移行領域において図32(b)または図33(b)で説明したような記録動作を実行する(ステップS11)。
以上説明した特徴構成の第1例によれば、通常のカラー記録モードやモノクローム記録モードなど、使用可能なインク色数が異なる記録モードの選択が可能な構成において、記録媒体の先後端部の記録に用いる記録ヘッドのノズル使用範囲の大きさないしは記録走査間の記録媒体搬送量が切り替えられる。これにより、記録モードに適した速度と品位で先後端記録を実現でき、記録速度低下の抑制と画質低下の抑制を両立させることができる。
3.特徴構成の第2例
記録を行うために選択された条件に応じた記録媒体の先後端部での記録制御の第2例として、使用する記録媒体の種類に応じた記録制御を説明する。
3.1 記録媒体先後端部での記録
本例においても、記録装置は、余白のない画像、所謂「余白無し記録」を実現可能な記録装置として構成される。
各種サイズの記録媒体に余白無し記録を実行する際の、先端部、中央部および後端部の領域の定義については、上記第1例において図25を参照して説明したものと同様である。また、記録ヘッドの構成およびノズル列の使用範囲についても、図26を参照して説明したものと同様とする。
記録媒体の先後端部における紙間距離の変動の程度や、搬送精度は、実際には記録媒体により異なる。しかるに従来の制御では、記録媒体の先端部および後端部の記録時における記録幅および記録媒体搬送量が一律に設定されるものであった。
そのために本例は、記録媒体先後端部の記録に用いるノズル使用範囲の縮小および記録媒体搬送量の低減を行うとともに、そのノズル使用範囲の大きさおよび搬送量を記録媒体の種類に応じて異ならせることができるようにする。ここで、図2に関連して説明したように、記録媒体情報には記録の対象となる記録媒体の種類の情報が記述されている。一方、記録媒体の厚み、剛度、表面粗度の差異、およびインク受容層の存否やその特性など、記録媒体の種類によってローラとの摩擦係数が異なり、また先後端部に生じるカールの程度も異なる。そこで、記録処理に先立って、ユーザが選択した記録媒体の種類に関する情報を送信し、記録装置では、先後端部の記録に用いるノズル使用範囲および搬送量を記録媒体の種類ないしは性質に応じて適切に低減することで、画像品位および記録速度の向上を両立する。
まず図25に示した記録媒体中央部の記録に際しては、記録媒体の種類によらず、図26に示すように、各ノズル列の全範囲Mすなわち768個のノズルが使用されるようにする。これに対し、先後端部記録に際しては、各列のノズル使用範囲を縮小し、1回の走査における記録幅を小さくすることで画質の低下を防ぐようにする。また、これとともに、その縮小の程度が記録媒体の種類に応じて異なるようにする。すなわち、領域Ecまたは領域Emの選択を可能としている。記録媒体が搬送方向上流側および下流側のいずれか一方の搬送手段のみによって支持されている場合の搬送精度は、使用ノズル数が少なくなれば概ねこれに比例して改善される。例えば、256ノズルが使用されている場合の搬送ずれが11μmであれば、128ノズルが使用される場合には、搬送ずれは6μm程度となる。
さらに、本例では、記録媒体上の同一エリアについて複数回数の記録走査を行い画像を形成する所謂マルチパス記録を併用する。
本発明者らは、マルチパス記録の各記録走査に適用されるマスクパターンのデューティと形成した画像の品位との関係を確認するために、以下のような実験を行った。
図35は実験に使用したマスクパターンのデューティの設定を示す模式図である。図中、横軸はマスクパターンのデータが対応する記録ヘッドのノズル位置を示し、1ノズル列の一端部から他端部までの768個のノズルの各位置に対応している。縦軸はそれぞれのマスクの記録許容率(デューティ)を示す。4回の記録走査で画像を完成する(つまり4パス記録を行う)にあたり、ノズルの位置によりデューティを変えない設定である場合、すなわち均等デューティのマスクパターンを適用する場合には、デューティは25%となる。これに対し、実験で採用したマスクにおいては、4パス記録を行うために分割された各ノズル群(図5における第1〜第4ノズル群)の相互の関係だけでなく、各ノズル群の中でも、位置によってデューティを異ならせている。
図中、実験で用いたマスクパターンの分布(a)では、ノズル列中央に対応する位置のノズルについてデューティが最も高く、端部に向かうほどデューティが漸減する傾向の分布特性となっている。そして、ノズル列中央に対応する位置のノズルについてのマスクのデューティ(以下、中央デューティと称する)は35%、ノズル列端部に対応する位置のノズルについてのマスクパターンのデューティ(以下、端部デューティと称する)は15%である。この端部デューティの値は、均等デューティ(25%)の0.6倍の15%である(以下、この倍率を端部デューティ比と称する)。
実験で用いたマスクパターンの分布(b)〜(e)についても分布(a)と同様の傾向の分布特性を有する。しかし、中央デューティ、端部デューティおよび端部デューティ比が異なっている。
図36はマスクパターンの分布(a)〜(e)について中央デューティ、端部デューティおよび端部デューティ比をまとめた説明図である。なお、本実施形態では、記録媒体中央部の記録に際しては各ノズル列の全範囲すなわち768個のノズルが使用される。また、先後端部記録に際しては、記録媒体の種類に応じて、256個のノズルまたは128個のノズルが使用される。しかしいずれの場合でも、使用されるノズルの範囲に応じて、上述の分布特性を持ち、中央デューティ、端部デューティおよび端部デューティ比が適切に定められたマスクが選択されて使用されるものとする。
図37は上記分布(a)のマスクパターンを例示している。図中(a)は768ノズルを使用して4パス記録を行うためのマスクパターン、図中(b)は256ノズルを使用して4パス記録を行うためのマスクパターン、図中(c)は128ノズルを使用して4パス記録を行うためのマスクパターンである。また、図38は分布(d)のマスクパターンを例示している。図中(a)は768ノズルを使用して4パス記録を行うためのマスクパターン、図中(b)は256ノズルを使用して4パス記録を行うためのマスクパターンである。
上記各分布を持つマスクパターンを、グレーや各色相の一様性が高い複数のテストパターンの記録に適用して実験を行った。実験に際しては、1200dpi間隔で配置された768個のノズルのうち隣接する256個のノズル群を使用し、このノズル群を4分割して4回の記録走査で画像を完成するマルチパス記録を行うものとした。このとき、各記録パス間で実施される記録媒体の搬送に関して、ずれがないとした場合の搬送量(理想搬送量)は、
25.4(mm/インチ)/1200(ドット/インチ)×256(ドット)/4≒1.3547(mm)
となる。そして、この理想搬送量に対し、搬送量が小さくなる方向(−方向)および大きくなる方向(+方向)に搬送量を1μm単位でずらし、所定のずれ範囲でテストパターンの形成実験を行った。そして、理想搬送量に対し搬送量が小さい場合のスジ状の高濃度部分、および搬送量が大きい場合のスジ状の低濃度部分の発生ついて調べ、各分布(a)〜(e)のマスクパターンについてそれら画質低下要因の発生が認められない搬送ずれ許容範囲を確認した。
図39はその確認結果を示す。ここで、横軸は端部デューティ比であり、左に向かうほど端部デューティ比が低いことを示している。また、縦軸は理想搬送量からのずれを示している。
この図から明らかなように、スジ状の高濃度部分および低濃度部分が認められない搬送ずれ許容範囲は、端部デューティ比が小さくなるほど広くなっている。つまり、実験においては、分布(e)を適用した場合で搬送ずれ許容範囲が最も広く、実験の範囲における搬送量ずれ量ではスジ状の高濃度部分および低濃度部分のいずれもが認められなかった。
一方、テストパターンの形成結果からは、分布(b)〜(e)ではノズル列の中央部にあるノズルによって記録された記録媒体上の領域に、部分的に濃度が高くなるバンド状のムラが発生することがわかった。ムラは、分布(a)では現れず、分布(b)では存在がかすかに認められる程度であり、分布(c)、分布(d)、分布(e)と端部デューティ比が小さくなるにつれてはっきり現れてくる傾向にあった。勿論これは記録媒体の種類によっても異なる。本実験は記録媒体として光沢紙を用いたものであるが、中には、端部デューティ比を小さくすると顕著なムラが発生する記録媒体もある。このような媒体に対しては、端部デューティ比を小さくすることは良好な画像品位を確保する上で好ましくない。以上の検討より、搬送精度不足に起因した画質低下は、端部デューティ比を小さくしたマスクパターンを使用するほど現れにくくなることがわかった。しかし、端部デューティ比を小さくすると、ノズル列の中央部にあるノズルによって記録された記録媒体上の領域にバンド状のムラが発生することがわかった。
また、記録媒体の先端部または後端部の記録において、記録媒体が上流側搬送手段(搬送ローラ)または下流側搬送手段(排紙ローラ)によってのみ支持・搬送されている状態での紙間距離の変動に対しても、搬送精度が不足している場合と同様の傾向がある。すなわち、端部デューティ比が小さくなるほど画質低下が生じにくくなる傾向がある。
この現象のメカニズムとしては、次のことが推定される。まず端部デューティないし端部デューティ比が小さくなると、つまり実際の記録走査において端部ノズルを使用してインクを記録媒体に吐出するデューティが低くなると、1回の記録走査で形成される画像の端部ノズルに対応する位置の画像が薄くなる。それにより、搬送量が理想搬送量に対し+方向にずれても、あるいは−方向にずれても、それらのずれに起因した画質低下部分を視認しにくくなるのではないかと推定される。また、マルチパス記録のパス数が偶数である場合には、1記録走査においてノズル列の端部のノズルによって記録される記録媒体上の領域は、異なる記録走査においてノズル列中央部のノズルによっても記録されることになる。このとき、ノズル列の中央部にあるノズルによって記録された記録媒体上の領域に、端部デューティ比が小さいことに起因して軽微なバンド状のムラが発生しているとする。搬送量が理想搬送量に対し+方向にずれた場合でも、ズル列の中央部にあるノズルに対応する位置に現れるバンド状のムラが、当該ずれにより発生する低濃度部分と重なることで、それを視認しにくくするのではないかとも考えられる。
3.2 記録制御の例
以下、記録に用いられる記録媒体の種類に応じた、ないしはユーザの要望に応じた、適切な先後端部での記録制御を行うことができるようにするための記録制御の例を説明する。
ユーザは、より早く記録を行って例えば画像確認を行うことを望む場合や、逆に記録に少し時間をかけてでも品位を上げて記録することを望む場合がある。そして、その要望に合せて記録媒体の種類を選択することが多いと考えられる。そこで本実施形態では、ユーザが選択した記録媒体の種類に応じて、速度優先の記録または品位優先の記録を実施するようにする。
具体的には、速度優先の記録を行うに際しては、先後端記録時に図26における領域Ecの256ノズルを使用し、図35における分布(d)のマスクパターンを適用したマルチパス(4パス)記録を実施する記録制御を行う(以下、第1の記録制御という)。この場合、使用ノズル数が比較的多いために記録走査間の搬送量が大となって記録速度が高くなる一方、搬送量のずれが比較的大きくなる。そこで分布(d)のマスクパターンを使用することで、搬送ずれ許容範囲を拡大し、スジ状の高濃度部分および低濃度部分が視認しづらくなるようにすることができる。換言すれば、速度が優先される際にも、その要望に応えつつ画像品位を犠牲にしない記録を行うことが可能となる。これは、ローラの寸法精度等、搬送に関わる部品精度を落とした低廉な装置構成とする場合にも有効である。また、記録媒体先後端におけるこの第1の記録制御は、紙間距離の変動や搬送ずれ量が比較的生じにくい性質の記録媒体が使用される場合にも好適である。
また、品位優先の記録を行うに際しては、先後端記録時に図26における領域Emの128ノズルを使用し、図35における分布(a)のマスクパターンを適用したマルチパス(4パス)記録を実施する記録制御を行う(以下、第2の記録制御という)。この場合、使用ノズル数が比較的少ないために記録走査間の搬送量ないしは搬送誤差が小さくなり、高品位の記録を行うことができる。また、この際分布(a)のマスクパターンを使用することで、ノズル列中央部に相当する記録媒体上の領域におけるバンド上のムラの発生を抑制することができる。すなわち、画像品位の一層の向上を図ることができる。また、記録媒体先後端におけるこの第2の記録制御は、紙間距離の変動や搬送ずれ量が比較的生じ易い記録媒体が使用される場合にも好適である。
なお、記録媒体中央部の記録に際しては、いずれの場合でも全ノズル(768ノズル)を使用し、分布(a)のマスクパターンを適用したマルチパス(4パス)記録を実施することができる。
記録媒体中央部の記録時における記録動作は、第1例において図27を参照して説明したものと同様となる。第1および第2の記録制御による後端部記録時の記録動作は、それぞれ、第1例において図28および図29を参照して説明したものと同様となる。第1および第2の記録制御による先端部記録時の記録動作は、それぞれ、第1例において図30および図31を参照して説明したものと同様となる。
すなわち、図25に示した記録媒体Pの中央部を記録する際には、図27に示されるように、768本の全てのノズルを使用している。この場合、記録媒体は上流側のローラおよび下流側のローラの双方で支持搬送されており、十分な搬送精度が確保されている。従って、分布(a)のマスクパターンを適用した4パス記録を実施しつつ一様性の高い画像部分を形成する場合でも、画質低下が生じることがない。
第1の記録制御による後端部への記録を行う際には、図28に示すように、記録媒体搬送方向上流側に位置する256本のノズルを含む領域211を用いて記録が行われる。
第2の記録制御による後端部への記録を行う際に、図29に示すように、記録媒体搬送方向上流側に位置する128本のノズルを含む領域212を用いて記録が行われる。
第1の記録制御による先端部への記録を行う際には、図30に示すように、記録媒体搬送方向上流側に位置する256本のノズルを含む領域211を用いて記録が行われる。
第2の記録制御による先端部への記録を行う際には、図31に示すように、記録媒体搬送方向上流側に位置する128本のノズルを含む領域212を用いて記録が行われる。
上述したように、記録媒体が搬送方向上流側または下流側の搬送手段のみで支持されている場合、先端部または後端部に湾曲が生じる。
従って、本例では、基本的に、画像の乱れが発生しやすい最先端部および最後端部に対する記録時には、記録幅を小さくし、これとともに記録媒体の搬送量を低減することで、画像の乱れを抑えている。
そして本例ではさらに、記録媒体の種類に応じて、ないしはユーザの要望に応じて、低減されるノズル使用範囲の寸法および低減される記録媒体搬送量のが異なるようにし、高速記録の要望と高品位記録の要望とに応えるようにしている。すなわち本例では、高速記録に好適な第1の記録制御にて後端部あるいは先端部を記録する際には256本のノズルに対応した記録幅としている(図28、図30)。例えば、普通紙が選択された場合には第1の記録制御を実行する。これに対し、高品位記録に好適な第2の記録制御にて後端部あるいは先端部を記録する際には128本のノズルに対応した記録幅としているのである(図29、図31)。例えば、光沢紙が選択された場合には第2の記録制御を実行する。
第1の記録制御を適用して記録を行う際のスキャンおよびノズル使用の態様は、第1例において図32(a)および(b)を参照して説明したものと同様に定めることができる。すなわち、記録媒体Pの先端部付近の記録から中央部の記録に移行してゆく状態では、図32(a)と同様のスキャンおよび記録媒体搬送を行う。
そして、記録媒体最先端部が排紙ローラによって支持されておらず、搬送ローラM3060のみによって搬送が行われている番号nf+1のスキャンまでは、図30に示した領域211の256ノズルのみを使用した4パス記録を行い、256ノズル分について図35に示した分布(d)のマスクパターンを適用する。
記録媒体最先端部が排紙ローラによって完全に支持されると(番号nf+5のスキャン以降)、768個のすべてのノズル(図27に示した領域202)を使用した4パス記録にて、記録媒体Pの中央部に対する画像形成が行われる。この際には図35に示した分布(a)のマスクパターンを適用する。
先端部の記録から中央部の記録に移行する過程(番号nf+2〜nf+4のスキャン)では、当初領域211に含まれるノズルによって記録が行われた部分に関し、同じ領域に含まれる他のノズルによってマルチパス記録が行われるよう適切なデータ設定を行う。これとともに、中央部への記録を行うために使用ノズル範囲を拡大して行く一方、適切な量の搬送が行われる。
次に、記録媒体Pの中央部から後端部付近の記録に移行してゆく状態では、図32(b)と同様のスキャンおよび記録媒体搬送を行う。すなわち、記録媒体後端部が搬送ローラによって支持されていない後端部に対しては、先端部と同様、領域211の256ノズルを使用して4パス記録を行い(番号nr+5のスキャン以降)、256ノズル分について図35に示した分布(d)のマスクパターンを適用する。そして移行過程(番号nr+2〜番号nr+4のスキャン)においては、上記と同様のデータ設定および適当量の搬送が行われる一方、使用ノズル範囲が縮小されて行く。
第2の記録制御を適用して記録を行う際のスキャンおよびノズル使用の態様は、第1例において図33(a)および(b)を参照して説明したものと同様に定めることができる。すなわち、記録媒体Pの先端部付近の記録から中央部の記録に移行してゆく状態では、図33(a)と同様のスキャンおよび記録媒体搬送を行う。
そして、記録媒体最先端部が排紙ローラによって支持されておらず、搬送ローラM3060のみによって搬送が行われている番号nf+1のスキャンまでは、図29に示した領域212の128ノズルのみを使用した4パス記録を行い、図35に示した分布(a)のマスクパターンを適用する。
記録媒体最先端部が排紙ローラによって完全に支持されると(番号nf+5のスキャン以降)、768個のすべてのノズル(図27に示した領域202)を使用した4パス記録にて、記録媒体Pの中央部に対する画像形成が行われる
先端部の記録から中央部の記録に移行する過程(番号nf+2〜nf+4のスキャン)では、当初領域212に含まれるノズルによって記録が行われた部分に関し、同じ領域に含まれる他のノズルによってマルチパス記録が行われるよう適切なデータ設定を行う。これとともに、中央部への記録を行うために使用ノズル範囲を拡大して行く一方、適切な量の搬送が行われる。
次に、記録媒体Pの中央部から後端部付近の記録に移行してゆく状態では、図33(b)と同様のスキャンおよび記録媒体搬送を行う。すなわち、記録媒体後端部が搬送ローラによって支持されていない後端部に対しては、先端部と同様、領域212の128ノズルを使用して4パス記録を行い(番号nr+5のスキャン以降)、図35に示した分布(a)のマスクパターンを適用する。そして移行過程(番号nr+2〜番号nr+4のスキャン)においても、上記と同様のデータ設定および適当量の搬送が行われる一方、使用ノズル範囲が縮小されて行く。
以上のように、本実施形態においては、記録媒体先後端部への記録に際し、記録媒体の種類に応じて、ノズル使用範囲の大きさ、搬送量、およびマルチパス記録に適用するマスクパターンが異なる第1または第2の記録制御を行うようにしている。これにより、記録媒体の種類に応じて、ないしはユーザの要望に応じて、高速記録の要望と高品位記録の要望とに応えることができる。また、各記録制御において適切なマスクパターンを適用することで、速度が優先される際には画質低下要因の発生を抑制し、画像品位を極力犠牲にしない記録を行うことが可能となる一方、品位が優先される際には画像品位の一層の向上を図ることができる。
なお、記録媒体Pが上流側搬送手段(搬送ローラ)および下流側搬送手段(排紙ローラ)によって支持されているか、あるいはその一方のみによって支持されているかの判断は、上記と同様に行うことができる。
また、以上の説明では、記録媒体の先端部と後端部とに対し第1または第2の記録制御が等しく適用されるものとしたが、異なる記録制御が適用されるものでもよい。
例えばマスクパターンに関して、使用するマスクパターンの端部デューティないし端部デューティ比を、後端部の記録時にのみ記録媒体中央部の記録に使用するマスクパターンに対して、小さく設定してもよい。上述したように、記録媒体後端部の記録時には、搬送精度がより劣る排紙ローラのみで搬送が行われるため、搬送量のずれに起因した画質低下が発生しやすい場合があるためである。また、記録媒体先端部、中央部および後端部で、それぞれ端部デューティないし端部デューティ比が異なるマスクパターンを使用してもよい。しかし、記録媒体先端部と記録媒体後端部とで同一のマスクパターンを使用することは、制御を簡単化する上で有利である。
さらに、上例では、先後端部のいずれに対しても搬送ローラM3060に偏倚した領域のノズル群を用いるものとした。しかし、先後端部で使用するノズル領域は適宜定めることが可能であり、また先端部と後端部とで使用領域を変更してもよい。例えば、特開2004‐98668号公報に開示されたもののように、先端部に対しては上流側の搬送手段に、後端部に対しては下流側の搬送手段に偏倚した領域のノズル群を用いてもよい。また、第2の記録制御では、第1の記録制御に用いる領域のうち搬送方向上流側に位置する領域のノズル群を用いるものとしたが、その使用領域についても適宜定め得ることは勿論である。
3.3 記録装置の制御
ユーザは、記録を実行する際、記録媒体の種類を選択することができる。この選択は、例えば、ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面に対して実行することができる。一方記録装置では、これに応じて次のような制御を実行することができる。
図40は本例において記録装置J0013が実行する記録処理手順の一例を示す。
本手順では、まず記録媒体の種類を認識する(ステップS21)。これは、ユーザが選択した記録媒体情報をホスト装置J0012が通知することで行うことができる。あるいは、記録装置に設けた適宜のセンサによって記録媒体の種類を認識するようにしてもよい。
次に、認識した記録媒体の種類に応じて、その先端部および後端部の記録に適用する第1または第2の記録制御を選択する。すなわち、ノズル使用領域、搬送量およびマスクパターンを選択設定する(ステップS23)。
このような設定は、例えば次のように行うことができる。すなわち、記録装置のROM E1004には、予め記録媒体の種類(例えば、普通紙、光沢紙、マット紙、はがき、厚紙など)と、記録媒体端部および中央部それぞれにおける使用ノズル数、搬送量およびマスクパターンとの関係を定めたテーブルを格納しておく。そして、ユーザ選択指定した記録媒体の種類情報に基き、テーブルを参照して、その記録媒体に適した記録制御を決定することができる。例えば、認識した記録媒体の種類が普通紙の場合には第1の記録制御を選択し、認識した記録媒体の種類が光沢紙あるいはマット紙の場合には第2の記録制御を選択することが好ましい一形態である。
次に、このように設定された使用ノズルおよび搬送量等に応じたデータ展開を行い(ステップS25)、記録媒体先端部ないし中央部への移行領域において図32(a)または図33(a)で説明したような記録動作を実行する(ステップS27)。そして中央部への記録動作(ステップS29)を実行した後、記録媒体後端部や、これに至る移行領域において図32(b)または図33(b)で説明したような記録動作を実行する(ステップS31)。
以上の特徴構成の第2例では、基本的に記録媒体先後端部の記録に用いる記録素子(ノズル)の範囲の縮小および記録媒体搬送量の低減を行うとともに、その縮小される範囲の寸法および低減される搬送量が記録媒体の種類に応じて異なるようにしている。これは、ユーザの要望を想定し、これを記録制御に反映させるようにすることで、記録装置のユーザビリティを向上する観点からも好ましいものである。
すなわち、特徴構成の第2例によれば、記録媒体の種類に応じて、記録媒体の先後端部の記録に用いる記録素子の範囲の大きさないしは記録走査間の記録媒体搬送量が切り替えられるので、画質低下が生じない記録を行うことが可能となる。また、画像品位を優先させたい場合や、記録速度を優先させたい場合など、ユーザが要望に応じて選択した記録媒体に対して、その要望に沿った記録制御を行うことができるので、ユーザビリティの高い記録装置を提供することが可能となる。
また、マルチパス記録を行うようにするとともに、記録媒体の種類に応じ、先後端部の少なくとも一方についてマルチパス記録に適用されるマスクパターンを変更するようにすることができる。これによれば、記録媒体の種類に応じ、画像品位と記録速度との両立を図ることが可能となる。
4 その他
なお、以上の実施形態においては、余白無し記録を実現する際の記録方法として説明してきたが、本発明は余白無し記録に限定されるものではない。また、余白無し記録が実現されるのは記録媒体先端部および後端部のいずれか一方であってもよい。要は、先端部および後端部の少なくとも一方において、一方のローラでのみ支えられるために紙間距離の変動やや搬送精度の低下が生じる構成であれば、余白の有無とは関わりなく本発明を有効に適用できる。
また、記録を行うために選択された条件は、第1例のような記録モードに関する条件や、第2例のような記録媒体種類に関する条件に限られず、記録モードと記録媒体種類の組み合わせの条件であってもよい。この場合、記録モードと記録媒体種類の組み合わせ条件と、第1、第2の記録制御とを対応付けておく。例えば、表1に示すように対応付けておき、記録モードと記録媒体種類の組み合わせ条件から第1、第2の記録制御を選択する。表1の例では、モノクロモード且つ光沢紙の組み合わせに対して第2の記録制御が選択され、カラーモード且つ普通紙の組み合わせに対して第1の記録制御が選択される。
また、上記特徴構成の第1例、第2例に適宜の変形を加えることも可能である。例えば、特徴構成の第1例では通常カラー記録モードとモノクローム記録モードとで、記録媒体先後端部に対する縮小されるノズル使用範囲の寸法ないし記録媒体の低減される搬送の量を異ならせるようにし、後者のモードにおいて使用範囲および搬送量がより小さくなるようにした。しかしモードとしては上述のものに限られることはなく、他のモードであってもよい。すなわち本発明は、画像形成に使用可能なインク(記録剤)色数が異なる複数の記録モードの中から1つのモードを選択可能とし、選択された記録モードによっては先後端部の記録に際して画像品位の劣化が目立つようなものであれば、有効に適用可能である。例えば、ブラックを基調とするモノクローム記録モードだけでなく、用いるインク色数が少ないために被覆率が小さくなり、これによって先後端部の記録に際して画像品位の劣化が目立つようなモードが選択可能なものであれば、本発明の構成は有効である。
また特徴構成の第2例では、記録媒体の種類に応じて設定される記録制御を2種類としたが、記録媒体種類と記録制御との組み合わせを増すことも可能である。このようにすることで、様々な種類の記録媒体に対し、ユーザビリティを一層向上しつつ、記録品位と記録速度とのバランスの取れた記録を行うことが可能となる。
さらに、用いるインクの色調(色や濃度など)の数、インクの種類、ノズル(記録素子)の数、使用ノズル範囲や記録媒体の搬送量の設定の態様、マルチパス記録のパス数および適用されるマスクパターンの種類などは、あくまでも例示である。すなわち、適宜のものを採用することができるのは言うまでもない。
例えば、上例ではノズル列中央に対応する位置のノズルについてデューティが最も高く、端部に向かうほどデューティが連続的に漸減する傾向の分布特性のマスクを用いたが、段階的にデューティが変化して行く分布特性のマスクを用いてもよい。
また、上記特徴構成の第2例において、マスクパターンの端部デューティ比を変更しないものとすることも可能である。記録装置によっては、寸法精度の高い搬送手段(ローラ等)を使用し、先後端部の搬送精度を確保できる構成も考えられる。そのときには、比較的多い数(例えば256本)のノズルを使用しても、記録媒体によってはスジ状の高濃度または低濃度部分が発生しない精度を確保できるため、端部デューティが低いマスクパターンを設定する必要がなくなる。またこれにより、ノズル列中央部に相当する記録媒体領域のバンド上のムラも発生しにくくなる。
さらに、第1例および第2例のいずれにおいても、例えば図4に示したような、規則的なパターンが周期的に繰り返されるようなマスクパターンを用いるものでもよい。また、特開平6‐330616号公報に開示されているような、ランダム性を持たせた配列のマスクパターンを用いるものでもよい。さらに、特開2002‐144552号公報に開示されたような、所定の分散性をもった画素配列を規定する疑似周期的マスクパターンを用いることも可能である。また、記録許容エリアが千鳥・逆千鳥に配列されたマスクパターンを用いることも可能である。
これらとは逆に、様々な種類の記録媒体に対し、ユーザビリティを一層向上しつつ、記録品位と記録速度とのバランスの取れた記録を行うことが可能である限り、ノズルの数ないしは記録媒体搬送量のみを変更し、マルチパス記録を実施しなくてもよい。