JP2007007814A - SiC/カーボンナノチューブ複合材料およびその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】 SiC基材上に高配向のカーボンナノチューブが密に形成された領域を有する複合材料であって、良好な耐摩耗性および/または衝撃吸収特性を示すSiC/カーボンナノチューブ複合材料を提供する。
【解決手段】 本発明によると、SiC基材上に該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されているSiC/カーボンナノチューブ複合材料であって、該CNT領域には前記カーボンナノチューブが高配向かつ高密度に形成されており、前記CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって該領域の摩擦係数を異ならせることができる、SiC/カーボンナノチューブ複合材料が提供される。例えば、10nN〜100nNの範囲の垂直応力に対して摩擦係数が三段階に変化する複合材料が提供される。
【選択図】 図4
【解決手段】 本発明によると、SiC基材上に該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されているSiC/カーボンナノチューブ複合材料であって、該CNT領域には前記カーボンナノチューブが高配向かつ高密度に形成されており、前記CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって該領域の摩擦係数を異ならせることができる、SiC/カーボンナノチューブ複合材料が提供される。例えば、10nN〜100nNの範囲の垂直応力に対して摩擦係数が三段階に変化する複合材料が提供される。
【選択図】 図4
Description
本発明は、SiC(炭化珪素)基板上に多数のカーボンナノチューブが高配向かつ高密度に設けられている複合材料および該材料を利用する技術に関する。
SiC基材上に高配向のカーボンナノチューブが密に形成された構成の複合材料が知られている。特許文献1には、このような材料を利用した転動装置が記載されている。カーボンナノチューブに関する他の従来技術文献として特許文献2〜4が挙げられる。
本発明は、SiC基材上に高配向のカーボンナノチューブが密に形成された領域を有する複合材料であって、良好な耐摩耗性および/または衝撃吸収特性を示すSiC/カーボンナノチューブ複合材料を提供する。本発明の他の一つの目的は、かかる材料特性を効果的に生かしたSiC/カーボンナノチューブの使用方法を提供することである。
本発明によると、SiC基材上に該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されたSiC/カーボンナノチューブ複合材料が提供される。前記CNT領域には前記カーボンナノチューブが高配向かつ高密度に形成されている。そして、前記CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって、該領域の摩擦係数を異ならせることができる。
一般に摩擦係数は摩擦力と垂直応力との比として求められる。したがって通常の材料は、垂直応力の変化に対して、摩擦力は変化するが摩擦係数は維持される。本発明の複合材料は、外部から付与されるエネルギー量(例えば、垂直荷重と変位との積)の変化に対してCNT領域の摩擦係数を異ならせ得るという特異な性質を有するものである。このことは、該複合材料が、前記CNT領域に加わる外力(例えば、他の材料との摺動や衝突等により加わり得る)に対して通常の材料とは異なる挙動を示し得ることを意味している。
本発明者の検討によれば、本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料の有する上記性質は、CNT領域に構成する多数のカーボンナノチューブが適度な撓み性(弾性変形)を示すことに関連するものと推察される。このような複合材料によると、該カーボンナノチューブの撓みを利用して、該CNT領域に加わる外力を効果的に分散させることができる。したがって、上記特性を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、優れた耐摩耗性および/または衝撃吸収特性を示すものであり得る。
一般に摩擦係数は摩擦力と垂直応力との比として求められる。したがって通常の材料は、垂直応力の変化に対して、摩擦力は変化するが摩擦係数は維持される。本発明の複合材料は、外部から付与されるエネルギー量(例えば、垂直荷重と変位との積)の変化に対してCNT領域の摩擦係数を異ならせ得るという特異な性質を有するものである。このことは、該複合材料が、前記CNT領域に加わる外力(例えば、他の材料との摺動や衝突等により加わり得る)に対して通常の材料とは異なる挙動を示し得ることを意味している。
本発明者の検討によれば、本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料の有する上記性質は、CNT領域に構成する多数のカーボンナノチューブが適度な撓み性(弾性変形)を示すことに関連するものと推察される。このような複合材料によると、該カーボンナノチューブの撓みを利用して、該CNT領域に加わる外力を効果的に分散させることができる。したがって、上記特性を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、優れた耐摩耗性および/または衝撃吸収特性を示すものであり得る。
ここに開示される複合材料の好ましい一つの態様では、前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径が凡そ1〜10nm(好ましくは凡そ2〜7nm、より好ましくは凡そ3〜5nm)の範囲にある。また、該カーボンナノチューブの平均長さが凡そ30〜500nm(好ましくは凡そ50〜300nm)の範囲にある。かかる形状のカーボンナノチューブにより構成されたCNT領域によると、該領域を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料において、より良好な耐摩耗性および/または衝撃吸収特性が発揮され得る。
ここに開示される複合材料の他の一つの好ましい態様では、前記CNT領域に、前記カーボンナノチューブが凡そ1×108本/mm2以上(典型的には凡そ1×108本/mm2〜1×1011本/mm2、好ましくは凡そ1×109本/mm2〜1×1011本/mm2、例えば1010本/mm2オーダー)の密度で形成されている。このような密度でカーボンナノチューブが形成されたCNT領域によると、該領域を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料において、より良好な耐摩耗性および/または衝撃吸収特性が発揮され得る。
ここに開示される複合材料の他の一つの好ましい態様では、前記CNT領域に付与される凡そ10nN〜100nN(ナノニュートン)の範囲の垂直応力によって該領域の摩擦係数を段階的に異ならせることができる。このような性質を有するCNT領域を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料によると、前記耐摩耗性および/または衝撃吸収特性がより適切に発揮され得る。
ここに開示される複合材料の他の一つの好ましい態様では、前記CNT領域が、原SiC基材の表面部から珪素原子を除去することにより形成されたものである。換言すれば、前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブに含まれる炭素原子の一部または実質的に全部として、原SiC基材の表面部を構成していた炭素原子が利用されている。このようにして形成されたカーボンナノチューブにより構成されたCNT領域は、該カーボンナノチューブのSiC基材に対する結合力(密着性)が高い。したがって、かかるCNT領域を有するSiC/カーボンナノチューブ複合材料によると、より良好な耐摩耗性および/または衝撃吸収特性が発揮され得る。
本発明によると、また、前述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料を耐摩耗材として用いたデバイスが提供される。そのようなデバイスの好ましい一つの態様では、該デバイスの全体が10mm程度またはそれ以下のサイズであるか、または該デバイスの一部(例えば、該デバイスの使用目的に鑑みて比較的影響の大きい部分)が10mm程度またはそれ以下のサイズである。本発明によると、また、前記複合材料を耐摩耗材として用いたマイクロデバイスが提供される。ここで「マイクロデバイス」とは、該デバイスの全体がμmオーダー以下のサイズであるデバイスに限らず、該デバイスの一部(例えば、該デバイスの使用目的に鑑みて比較的影響の大きい部分)がμmオーダー以下のサイズを有するデバイスをも含む意味である。したがって、該デバイスの全体または一部がnmオーダーのサイズを有するデバイス(ナノデバイス)は、ここでいうマイクロデバイスの概念に包含され得る。
前記SiC/カーボンナノチューブ複合材料は前述のように優れた耐摩耗性を示す。したがって、該複合材料は各種デバイス用の耐摩耗材として好適である。また、前記CNT領域はカーボンナノチューブにより構成されているので、μmオーダー以下のサイズにおいても所望の耐摩耗性を与えることが可能である。したがって、該複合材料はマイクロデバイス用の耐摩耗材として好適である。
前記SiC/カーボンナノチューブ複合材料は前述のように優れた耐摩耗性を示す。したがって、該複合材料は各種デバイス用の耐摩耗材として好適である。また、前記CNT領域はカーボンナノチューブにより構成されているので、μmオーダー以下のサイズにおいても所望の耐摩耗性を与えることが可能である。したがって、該複合材料はマイクロデバイス用の耐摩耗材として好適である。
本発明によると、また、前述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料を衝撃吸収材として用いたデバイスが提供される。そのようなデバイスの好ましい一つの態様では、該デバイスの全体または一部が10mm程度またはそれ以下のサイズである。本発明によると、また、該複合材料を衝撃吸収材として用いたマイクロデバイスが提供される。
前記SiC/カーボンナノチューブ複合材料は前述のように優れた衝撃吸収特性を示す。したがって、該複合材料は各種デバイス用の衝撃吸収材として好適である。また、該特性はカーボンナノチューブを構成要素とするCNT領域により発揮されるので、μmオーダー以下のサイズであっても所望の衝撃吸収性能を付与することが可能である。したがって、該複合材料はマイクロデバイス用の衝撃吸収材として好適である。
前記SiC/カーボンナノチューブ複合材料は前述のように優れた衝撃吸収特性を示す。したがって、該複合材料は各種デバイス用の衝撃吸収材として好適である。また、該特性はカーボンナノチューブを構成要素とするCNT領域により発揮されるので、μmオーダー以下のサイズであっても所望の衝撃吸収性能を付与することが可能である。したがって、該複合材料はマイクロデバイス用の衝撃吸収材として好適である。
上述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって該領域の摩擦係数を異ならせることができる。このような複合材料によると、上記エネルギー量の変化を利用して摩擦抵抗を調節(制御)することができる。したがって、本発明によると、上述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料を摩擦抵抗調節(制御)材として用いた各種デバイス(好ましくはマイクロデバイス)が提供される。
本発明によると、また、SiC基材上に、該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されているSiC/カーボンナノチューブ複合材料の使用方法が提供される。その使用方法は、該CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって生じる該領域の摩擦係数の変化を利用することを特徴とする。かかる使用方法の好適な一態様として、SiC/カーボンナノチューブ複合材料を摩擦抵抗調節材として利用する態様が挙げられる。さらに、該摩擦抵抗調節材を各種デバイス(好ましくはマイクロデバイス)として用いる態様が挙げられる。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本発明により提供されるSiC/カーボンナノチューブ複合材料の全体形状およびサイズは特に限定されず、該複合材料の用途に応じて適切な形状およびサイズを適宜選択することができる。例えば、板状(典型的には平板状)、棒状、筒状、塊状、粒子状等の全体形状を有する複合材料であり得る。かかる複合材料のうちCNT領域が形成される範囲は、SiC基材の一部表面であってもよく実質的に全表面であってもよい。このSiC/カーボンナノチューブ複合材料を構成するSiC基材は、SiC単結晶からなるものであってもよく、多結晶のSiC基材であってもよい。該基材を構成するSiCの結晶構造は、α型(α−SiC)であってもよく、β型(β−SiC)であってもよい。あるいは、これらの結晶構造が混在していてもよい。SiC基材のうちCNT領域を有する面(結晶面)は特に限定されない。後述のようにSiCの表面分解によりCNT領域を形成する場合には、該CNT領域を設ける面として、α−SiCの(0001)面および/またはβ−SiCの(111)面を好ましく選択し得る。これらの結晶面は、該結晶面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブを形成するのに適している。
CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径は、例えば凡そ1〜10nmの範囲であり得る。該平均直径が凡そ2〜7nmの範囲にあることが好ましく、凡そ3〜5nmの範囲にあることがより好ましい。大まかな傾向として、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径が大きくなると該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量は多くなり、該平均直径が小さくなると該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量は少なくなる。このため、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径が上記範囲よりも大きすぎると、該カーボンナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量が多くなりすぎて、耐摩耗性および/衝撃吸収特性が低下傾向となる場合がある。あるいは、摩擦係数を変化させるために必要なエネルギー量が多くなりすぎた結果、予定した使用条件においてSiC/カーボンナノチューブ複合材料の特性が十分に発揮されず、本発明の適用効果が少なくなる場合がある。一方、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径が上記範囲よりも小さすぎると、該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量が少なすぎて、耐摩耗性および/衝撃吸収特性が十分に発揮されない場合がある。
CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均長さは、例えば凡そ30〜500nmの範囲であり得る。該平均長さが凡そ50〜300nmの範囲にあることが好ましい。大まかな傾向として、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均長さが大きくなる(長くなる)と該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量が小さくなり、該平均長さが小さくなる(短くなる)と該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量は多くなる。このため、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均長さが上記範囲よりも小さすぎると、該カーボンナノチューブを適度に撓ませるために要するエネルギー量が多くなりすぎて、耐摩耗性および/衝撃吸収特性が低下傾向となる場合がある。あるいは、摩擦係数を変化させるために必要なエネルギー量が多くなりすぎた結果、予定した使用条件においてSiC/カーボンナノチューブ複合材料の特性が十分に発揮されず、本発明の適用効果が少なくなる場合がある。一方、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均長さが上記範囲よりも大きすぎると、該ナノチューブを撓ませるために要するエネルギー量が少なすぎて、耐摩耗性および/衝撃吸収特性が十分に発揮されない場合がある。
前述のように、前記CNT領域に付与されるエネルギー量の変化によって該領域の摩擦係数が異なるという事象は、該CNT領域を構成するカーボンナノチューブの撓みによって生じるものと考えられる。したがって、該領域を構成するカーボンナノチューブは、エネルギーの付与によって適切に撓み得るように、該エネルギーが付与されていない状態において、SiC基材の表面から立ち上がる方向に配向している必要がある。ここで「立ち上がる方向」とは、SiC基材の表面から離隔する方向をいう。SiC基材の表面とカーボンナノチューブの配向方向とのなす角度が凡そ45〜90度の範囲にあることが好ましく、凡そ60〜90度の範囲がより好ましい。SiC基材の表面とカーボンナノチューブの配向方向とのなす角度が凡そ80〜90度の範囲にある(典型的には、SiC基材の表面に対してほぼ垂直である)ことが特に好ましい。かかる方向に配向したカーボンナノチューブにより構成されたCNT領域は、上記エネルギー量の変化に対して段階的に異なる摩擦係数を示すという特性を発揮するために好適である。
CNT領域を構成するカーボンナノチューブは高配向かつ高密度に形成されている。この「高配向」の程度としては、例えば、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの全体の配向方向(平均的な配向方向、典型的には基板表面にほぼ垂直な方向)に対して、該領域を構成するカーボンナノチューブの50%以上(より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)の本数が、前記配向方向から45°以下(より好ましくは30°以下、更に好ましくは15°以下)の角度範囲に収まる程度の配向性を有することが好ましい。また、前記「高密度」の程度としては、前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブの密度が1×108本/mm2以上(典型的には凡そ1×108本/mm2〜1×1011本/mm2、好ましくは凡そ1×109本/mm2〜1×1011本/mm2、例えば100億本/mm2〜1000億本/mm2)である程度の密度が好ましい。後述のようにSiCの表面分解によりCNT領域を形成する場合には、本発明の目的にとり十分に高密度かつ高配向のカーボンナノチューブが容易に形成され得る。
なお、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの好ましい形状および形成密度は、該CNT領域を有する複合材料の用途によっても異なり得る。例えば、凡そ10nN〜100nNの範囲の垂直応力(垂直荷重)によってCNT領域の摩擦係数を段階的に異ならせることが望ましい用途においては、平均直径3nm〜5nmかつ平均長さ50nm〜300nmのカーボンナノチューブが1×109本/mm2〜1×1011本/mm2の密度で形成されたCNT領域を有する複合材料が好ましい。
かかる構成のSiC/カーボンナノチューブ複合材料を製造する方法としては、所望の形状の原SiC基材の表面部(CNT領域を形成しようとする部分)から珪素原子(Si)を除去する方法を用いることができる。いわゆる炭化珪素(SiC)の表面分解法が特に好ましく採用される。この表面分解法は、SiC結晶を高度の減圧下で該SiC結晶から珪素原子が失われる程度の温度に加熱するか、あるいは珪素原子の除去を促進し得るガス(COガス、CO2ガス、フッ素ガス、CF4ガス、酸素ガス、水蒸気等)が存在する雰囲気下で該SiC結晶から珪素原子が失われる程度の温度に加熱することにより実施することができる。例えば、SiC/カーボンナノチューブ複合材料の作製に用いる原SiC基材を、数Pa〜10-8Pa程度の圧力で、1300〜1900℃程度の温度に1〜30分程度加熱するとよい。あるいは、上記原SiC基材を、COガス分圧が数Pa〜10-8Pa程度の雰囲気下で、1300〜1900℃程度の温度に1〜30分程度加熱するとよい。このときの圧力、加熱雰囲気、加熱条件(昇温速度、最高温度、降温速度等の温度プロファイルを含む概念である。)および加熱時間等のうち一または二以上の条件によって、得られるカーボンナノチューブの形状および/または形成密度が上述した好ましい範囲となるように調節することが可能である。
ここに開示されるSiC/カーボンナノチューブ複合材料のCNT領域が垂直応力の変化によって異なる摩擦係数を示すことは、例えば、AFM(原子間力顕微鏡)用のプローブを用いて垂直荷重(垂直応力)と摩擦力との関係を測定することにより把握することができる。例えば、バネ定数0.12N/m程度のV型窒化シリコン製カンチレバーを使用して、摺動速度0.5μm/秒の条件で、垂直荷重(垂直応力)を変化させて摩擦力を測定することにより、該垂直荷重の変化に対して摩擦力の値をプロットすることができる。そして、ある垂直荷重の範囲における摩擦力の推移から摩擦係数の値を求めることができる。より具体的には、ある垂直荷重の範囲における摩擦力のプロットから得られる直線の傾き(すなわち比例係数)を摩擦係数の値として採用することができる。
本発明によると、例えば、垂直応力10nN〜100nNの範囲(典型的には、垂直応力10nN〜80nNの範囲)で摩擦係数が少なくとも二段階に変化するCNT領域を備えたSiC/カーボンナノチューブ複合材料が提供され得る。例えば、上記垂直応力の範囲のうち一部範囲(例えば、垂直応力が凡そ30nNまでの範囲。以下「低荷重領域」ともいう。)における摩擦係数よりも、該範囲よりも垂直応力の大きい範囲(例えば、垂直応力が凡そ30nN〜50nN未満の範囲。以下、「中荷重領域」ともいう。)における摩擦係数が大きい複合材料が提供される。さらに、前記第二の範囲よりも垂直応力が大きい範囲(例えば、垂直応力が凡そ50nNよりも大きい範囲。以下、「高荷重領域」ともいう。)では再び摩擦係数が小さくなる複合材料であってもよい。すなわち、垂直応力の増加につれてCNT領域の摩擦係数が小、大、小の順に三段階に変化する複合材料であってもよい。
本発明の範囲を特に限定するものではないが、垂直応力の増加に対してCNT領域の摩擦係数が上記のように段階的に変化する理由は例えば以下のように推察される。すなわち、図1に模式的に示すように、SiC基板10上に形成されたCNT領域20の摩擦係数をプローブ30を用いて測定する場合、相対的に垂直応力の小さい範囲(低荷重領域)では、CNT領域20を構成する多数のカーボンナノチューブ22の先端を擦るようにプローブ30が移動する。この範囲では、垂直応力が増加してもプローブ30の高さは略一定である。また、該垂直応力の増加にともなって摩擦力は概ね直線的に増加する。
そして、垂直応力がある値よりも大きくなると、図2に模式的に示すように、該垂直応力によってカーボンナノチューブ22が撓む(弾性変形する)ようになる。かかる現象は、プローブ30の高さが明白に減少することによっても把握され得る。この垂直応力の範囲(中荷重領域)では、プローブ30はカーボンナノチューブ22を弾性変形させつつ移動する。この弾性変形に要する力がプローブ30の移動に対する抵抗となることから、低荷重領域に比べて摩擦係数が増加するものと考えられる。
さらに垂直応力が大きくなると、図3に模式的に示すように、撓んだ状態のカーボンナノチューブ22を擦るようにプローブ30が移動するようになる。この垂直応力の範囲(高荷重領域)では、中荷重領域とは異なり、カーボンナノチューブ22を新たに撓ませるために要する力は不要か、少なくとも中荷重領域に比べれば小さくてすむ。したがって、この高荷重領域では中荷重領域に比べて摩擦係数が小さくなるものと考えられる。
そして、垂直応力がある値よりも大きくなると、図2に模式的に示すように、該垂直応力によってカーボンナノチューブ22が撓む(弾性変形する)ようになる。かかる現象は、プローブ30の高さが明白に減少することによっても把握され得る。この垂直応力の範囲(中荷重領域)では、プローブ30はカーボンナノチューブ22を弾性変形させつつ移動する。この弾性変形に要する力がプローブ30の移動に対する抵抗となることから、低荷重領域に比べて摩擦係数が増加するものと考えられる。
さらに垂直応力が大きくなると、図3に模式的に示すように、撓んだ状態のカーボンナノチューブ22を擦るようにプローブ30が移動するようになる。この垂直応力の範囲(高荷重領域)では、中荷重領域とは異なり、カーボンナノチューブ22を新たに撓ませるために要する力は不要か、少なくとも中荷重領域に比べれば小さくてすむ。したがって、この高荷重領域では中荷重領域に比べて摩擦係数が小さくなるものと考えられる。
本発明により提供されるSiC/カーボンナノチューブ複合材料において、CNT領域の摩擦係数を異ならせる要因たる機械的エネルギーの典型例としては垂直応力(垂直荷重または垂直抗力ともいえる。)が挙げられる。例えば、10nN〜100nN程度の範囲の垂直応力またはこれに相当する量の機械的エネルギーによって摩擦係数を異ならせ得る(換言すれば、この範囲の機械的エネルギーによってCNT領域を構成するカーボンナノチューブが適度に撓み得る)CNT領域を有する複合材料が好ましい。
本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、CNT領域を構成するカーボンナノチューブが適度な撓み性を示すことから、例えば、衝撃吸収材として有用なものとなり得る。すなわち、ここに開示される発明には、上述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料からなる衝撃吸収材、そのような衝撃吸収材を備えるデバイス(例えばマイクロデバイス)、および、該SiC/カーボンナノチューブ複合材料の衝撃吸収材としての利用が含まれる。該衝撃吸収材は、例えば磁気記録装置の読み取りヘッドに取り付けられて、該読み取りヘッドと記録媒体(ディスク)との接触時の衝撃を緩和することができる。このような磁気記録装置の読み取りヘッドは、本発明により提供されるデバイス(典型的にはマイクロデバイス)の好ましい一例である。
また、本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、CNT領域を構成するカーボンナノチューブが適度な撓み性を示すことから、例えば、耐摩耗材として有用なものとなり得る。すなわち、ここに開示される発明には、上述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料からなる耐摩耗材、そのような耐摩耗材を備えるデバイス(例えばマイクロデバイス)、および、該SiC/カーボンナノチューブ複合材料の耐摩耗材としての利用が含まれる。該耐摩耗材は、例えば半導体装置の製造プロセス等のように、僅かな摩耗カスの発生であっても問題となり得る場面で用いられるデバイスとして好適である。例えば、シリコンウェハの位置決めに用いられるモータのヘッド部分等に好ましく適用され得る。このようなシリコンウェハの位置決め用モータ(特に該モータのヘッド部分)は、本発明により提供されるデバイス(典型的にはマイクロデバイス)の好ましい一例である。
また、本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、該CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって生じる該領域の摩擦係数の変化を利用して、例えば、かかるエネルギー量によって摩擦抵抗を調節することのできる摩擦抵抗調節材として有用なものとなり得る。すなわち、ここに開示される発明には、上述したいずれかのSiC/カーボンナノチューブ複合材料からなる摩擦抵抗調節材、そのような摩擦抵抗調節材を備えるデバイス(例えばマイクロデバイス)、および、該SiC/カーボンナノチューブ複合材料の摩擦抵抗調節材としての利用が含まれる。例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)またはNEMS(Nano
Electro Mechanical Systems)用の各種アクチュエータ、超音波モータの駆動部等は、該摩擦抵抗調節材を備えるデバイス(典型的にはマイクロデバイス)の好適例である。
Electro Mechanical Systems)用の各種アクチュエータ、超音波モータの駆動部等は、該摩擦抵抗調節材を備えるデバイス(典型的にはマイクロデバイス)の好適例である。
また、本発明に係るSiC/カーボンナノチューブ複合材料は、CNT領域を構成するカーボンナノチューブが適度な撓み性を示すことから、該CNT領域の摩擦係数を著しく小さくすることができる。したがって該複合材料は、例えば、各種工作機械において高精度に位置決めを行うための基準となるリニアスケールの摺動部に好ましく適用され得る。従来、このような摺動部には摩擦抵抗軽減のため油膜あるいは油膜付ベアリングが用いられているので、該油膜を形成する潤滑油自体の汚染や該潤滑油による周囲の汚染等の不都合が生じがちであった。本発明の複合材料をリニアスケールの摺動部に適用することにより、該摺動部に潤滑油を使用することなく、実用上十分に低い摩擦抵抗を示すリニアスケールを実現することができる。
SiC/カーボンナノチューブ複合材料は、CNT領域を構成するカーボンナノチューブが適度な撓み性を示すとともに該カーボンナノチューブのSiC基材に対する結合力が高く、かつ、前記CNT領域に該カーボンナノチューブが高密度(典型的には、1×108本以上)に形成されており、かつ、前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブが微細(典型的には、平均直径1〜10nm)に形成されていることから、各種光学レンズ等のように高精度な仕上げ表面が要求される物品の仕上げ研磨工程に用いられる研磨器として有用である。例えば、従来のバフ研磨のような仕上げ研磨工程では、研磨器から研磨材自体が剥離(脱落)し、その剥離した研磨材が製品の品質に好ましからざる影響を与えることを回避するために、仕上げ研磨後に被研磨物(光学レンズ等)をよく清浄する、研磨器を頻繁に交換する、等の対応が必要であった。ここに開示される複合材料を研磨器として用いることにより、CNT領域を構成するカーボンナノチューブ(該研磨器における研磨材として機能し得る。)のSiC基材に対する結合力が高いことから、上記洗浄および/または研磨器交換の頻度を大幅に低減することが可能である。また、例えばCNT領域を構成するカーボンナノチューブが微細(典型的には、平均直径1〜10nm)な繊維であるので、従来の研磨材よりもさらに平滑な仕上げ面(研磨面)を得ることが可能である。また、本発明に係る複合材料を研磨器に適用するにあたっては、前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径、平均長さ、形成密度、先端形状等を適宜選定することにより、目的に応じた仕上げ状態(平滑さ等)の研磨面を形成することができる。また、かかる選定によって研磨効率を調整することが可能である。例えば、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの先端が開口している複合材料を用いることにより、研磨速度をより高めることができる。一方、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの先端が球状に閉口している複合材料を用いることにより、より平滑な研磨面を得ることが可能である。なお、カーボンナノチューブの先端を開口する方法、および、カーボンナノチューブの先端を球状に閉口する方法としては、従来公知の各種の方法を適宜採用することができる。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
[SiC/カーボンナノチューブ複合材料の作製]
サンプルA:
原SiC基材としては、表面に(000−1)面が表れている平板状のα−SiC単結晶を使用した。この原SiC基材を真空炉内に配置して、圧力10-2PaのCOガス雰囲気下において1500℃に30分間加熱した。これにより原SiC基材の表面において主として下記式(1)で表される反応(SiCの表面分解)を進行させて、SiC基材の表面((000−1)面)にCNT領域が形成されたサンプルを得た。以下、このサンプルを「サンプルA」という。
サンプルA:
原SiC基材としては、表面に(000−1)面が表れている平板状のα−SiC単結晶を使用した。この原SiC基材を真空炉内に配置して、圧力10-2PaのCOガス雰囲気下において1500℃に30分間加熱した。これにより原SiC基材の表面において主として下記式(1)で表される反応(SiCの表面分解)を進行させて、SiC基材の表面((000−1)面)にCNT領域が形成されたサンプルを得た。以下、このサンプルを「サンプルA」という。
このサンプルAのCNT領域を透過型電子顕微鏡により観察したところ、該領域には、SiC基材の表面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブが約300億本/mm2の密度で形成されていた。それらのカーボンナノチューブの平均直径は約5nmであり、平均長さは約50nmであった。
サンプルB:
原SiC基材の表面分解を行う圧力、温度および時間をそれぞれ0.2Pa、1500℃および10時間として、SiC基材の表面にCNT領域が形成されたサンプル(以下、これを「サンプルB」という。)を得た。
このサンプルBのCNT領域を透過型電子顕微鏡により観察したところ、該領域には、SiC基材の表面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブが約800億本/mm2の密度で形成されていた。それらのカーボンナノチューブの平均直径は約3nmであり、平均長さは約210nmであった。
原SiC基材の表面分解を行う圧力、温度および時間をそれぞれ0.2Pa、1500℃および10時間として、SiC基材の表面にCNT領域が形成されたサンプル(以下、これを「サンプルB」という。)を得た。
このサンプルBのCNT領域を透過型電子顕微鏡により観察したところ、該領域には、SiC基材の表面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブが約800億本/mm2の密度で形成されていた。それらのカーボンナノチューブの平均直径は約3nmであり、平均長さは約210nmであった。
サンプルC:
原SiC基材の表面分解を行う圧力、温度および時間をそれぞれ0.2Pa、1700℃および60分とした点以外はサンプルAと同様にして、SiC基材の表面にCNT領域が形成されたサンプル(以下、これを「サンプルC」という。)を得た。
このサンプルBのCNT領域を透過型電子顕微鏡により観察したところ、該領域には、SiC基材の表面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブが約300億本/mm2の密度で形成されていた。それらのカーボンナノチューブの平均直径は約5nmであり、平均長さは約300nmであった。
原SiC基材の表面分解を行う圧力、温度および時間をそれぞれ0.2Pa、1700℃および60分とした点以外はサンプルAと同様にして、SiC基材の表面にCNT領域が形成されたサンプル(以下、これを「サンプルC」という。)を得た。
このサンプルBのCNT領域を透過型電子顕微鏡により観察したところ、該領域には、SiC基材の表面にほぼ垂直な方向によく配向したカーボンナノチューブが約300億本/mm2の密度で形成されていた。それらのカーボンナノチューブの平均直径は約5nmであり、平均長さは約300nmであった。
[摩擦特性の評価]
上記で得られたサンプルAについて、AFM用プローブを用いて下記条件で垂直荷重(Normal load)を変化させ、その垂直荷重の変化(負荷過程)に対する摩擦力(Friction
force)および高さの変化(Height difference)を測定した。
カンチレバー:V型、窒化シリコン製、バネ定数約0.12N/m(撓み);
垂直荷重:約2nN〜80nN;
プローブ摺動速度:0.5μm/秒;
プローブ摺動距離:0.5μm。
上記で得られたサンプルAについて、AFM用プローブを用いて下記条件で垂直荷重(Normal load)を変化させ、その垂直荷重の変化(負荷過程)に対する摩擦力(Friction
force)および高さの変化(Height difference)を測定した。
カンチレバー:V型、窒化シリコン製、バネ定数約0.12N/m(撓み);
垂直荷重:約2nN〜80nN;
プローブ摺動速度:0.5μm/秒;
プローブ摺動距離:0.5μm。
それらの測定結果を図4に示す。この図4において、丸で示したプロットは垂直荷重に対する摩擦力(左側の軸)の推移を示し、三角で示したプロットは垂直荷重に対する高さの変化(右側の軸)の推移を示している。この図から判るように、低荷重領域(ここでは凡そ30nNまでの範囲)および高荷重領域(ここでは凡そ50nN以上の範囲)における摩擦係数(点線の傾き)に比べて、中荷重領域(ここでは凡そ40〜50nNの範囲)の摩擦係数は明らかに大きい。また、低荷重領域から中荷重領域に移行する際および中荷重領域から高荷重領域に移行する際にはプローブの高さが大きく変化している。これらの高さの変化は、CNT領域を構成するカーボンナノチューブの撓み(図1〜図3参照)が摩擦係数を変化させるということを支持している。
また、上記で得られたサンプルBおよびサンプルCについても、サンプルAと同様にして垂直荷重の変化(負荷過程)に対する摩擦力および高さの変化を測定した。サンプルBについての測定結果を図5に示す。丸で示したプロットは垂直荷重に対する摩擦力(左側の軸)の推移を示し、三角で示したプロットは垂直荷重に対する高さの変化(右側の軸)の推移を示している。この図から判るように、低荷重領域(ここでは凡そ25nNまでの範囲)および高荷重領域(ここでは凡そ45nN以上の範囲)における摩擦係数(点線の傾き)に比べて、中荷重領域(ここでは凡そ30〜40nNの範囲)の摩擦係数は明らかに大きい。また、低荷重領域から中荷重領域に移行する際および中荷重領域から高荷重領域に移行する際にはプローブの高さが比較的大きく変化している。サンプルCについても概ね同様の結果が得られた。
図4(サンプルA)と図5(サンプルB)とを比較すると、低荷重領域と中荷重領域との摩擦係数の違いおよび中荷重領域と高荷重領域との摩擦係数の違いはサンプルAのほうが明らかに大きい。また、低荷重領域から中荷重領域に移行する荷重および中荷重領域から高荷重領域に移行する荷重は、いずれもサンプルAのほうが高い。これらの結果は、サンプルAのCNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均長さがサンプルBに比べて短く、かつ、サンプルAのCNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径がサンプルBに比べて大きいことに関連していると考えられる。すなわち、サンプルAのCNT領域はサンプルBに比べてより短くかつ太いカーボンナノチューブにより構成されていることから、該カーボンナノチューブを撓ませるためにより大きな機械的エネルギー(ここでは垂直荷重)を要し、このことが摩擦係数が変化する荷重およびその変化の程度に影響したものと考えられる。
[耐摩耗性評価]
サンプルA〜CのCNT領域に、0.4MPaの空気で加速したダイヤモンド粒子(平均粒径2μm)を60秒間吹き付けた。このとき吹き付けられたダイヤモンド粒子の数は概ね1億〜5億個程度である。比較のため、SiC基板の表面に常法によりサファイア膜を作製したサンプル(以下、「サンプルX」という。)およびダイヤモンド膜を作製したサンプル(以下「サンプルY」という。)についても同様にダイヤモンド粒子の吹きつけを行った。そして、吹きつけの前後の質量変化を測定することにより、各サンプルの摩耗量を求めた。その結果、サンプルA〜Cの摩耗量はいずれも極めて少なく、サンプルX(サファイア膜)との比較ではその一万分の1〜十万分の1程度であり、サンプルY(ダイアモンド膜)との比較でもその千分の1程度であった。サンプルA〜Cにおいてこのように優れた耐摩耗性が実現されたのは、これらのサンプルのCNT領域を構成するカーボンナノチューブの撓みによってダイヤモンド粒子の衝突による衝撃が効率よく緩和(分散)されたためと推察される。
サンプルA〜CのCNT領域に、0.4MPaの空気で加速したダイヤモンド粒子(平均粒径2μm)を60秒間吹き付けた。このとき吹き付けられたダイヤモンド粒子の数は概ね1億〜5億個程度である。比較のため、SiC基板の表面に常法によりサファイア膜を作製したサンプル(以下、「サンプルX」という。)およびダイヤモンド膜を作製したサンプル(以下「サンプルY」という。)についても同様にダイヤモンド粒子の吹きつけを行った。そして、吹きつけの前後の質量変化を測定することにより、各サンプルの摩耗量を求めた。その結果、サンプルA〜Cの摩耗量はいずれも極めて少なく、サンプルX(サファイア膜)との比較ではその一万分の1〜十万分の1程度であり、サンプルY(ダイアモンド膜)との比較でもその千分の1程度であった。サンプルA〜Cにおいてこのように優れた耐摩耗性が実現されたのは、これらのサンプルのCNT領域を構成するカーボンナノチューブの撓みによってダイヤモンド粒子の衝突による衝撃が効率よく緩和(分散)されたためと推察される。
[衝撃吸収特性評価]
サンプルA〜CのCNT領域に対し、JIS R1607に準拠して、ビッカース圧子を用いたIF法(Indentation Fracture 法)による破壊靭性試験を行った。この結果、印加荷重50gにおいて、原SiC基板およびサンプルAでは亀裂の進展が確認されたが、サンプルAにおける亀裂の進展は原SiC基板における亀裂の進展よりも明らかに少なかった。また、サンプルBおよびCでは亀裂が進展しないことを確認した。これらの結果は、サンプルA〜CではCNT領域の有する衝撃吸収性能によって亀裂の進展が抑えられたことによるものと考えられる。特にサンプルBおよびCでは、CNT領域の厚さ(すなわち、該領域を構成するCNTの平均長さ)が十分に大きいことから亀裂の進展を阻止できたものと考えられる。
サンプルA〜CのCNT領域に対し、JIS R1607に準拠して、ビッカース圧子を用いたIF法(Indentation Fracture 法)による破壊靭性試験を行った。この結果、印加荷重50gにおいて、原SiC基板およびサンプルAでは亀裂の進展が確認されたが、サンプルAにおける亀裂の進展は原SiC基板における亀裂の進展よりも明らかに少なかった。また、サンプルBおよびCでは亀裂が進展しないことを確認した。これらの結果は、サンプルA〜CではCNT領域の有する衝撃吸収性能によって亀裂の進展が抑えられたことによるものと考えられる。特にサンプルBおよびCでは、CNT領域の厚さ(すなわち、該領域を構成するCNTの平均長さ)が十分に大きいことから亀裂の進展を阻止できたものと考えられる。
10:SiC基板
20:CNT領域
22:カーボンナノチューブ
30:プローブ
20:CNT領域
22:カーボンナノチューブ
30:プローブ
Claims (9)
- SiC基材上に該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されているSiC/カーボンナノチューブ複合材料であって、
該CNT領域には前記カーボンナノチューブが高配向かつ高密度に形成されており、
前記CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって該領域の摩擦係数を異ならせることができる、SiC/カーボンナノチューブ複合材料。 - 前記CNT領域を構成するカーボンナノチューブの平均直径が1〜10nmの範囲にあり、かつ、該カーボンナノチューブの平均長さが30〜500nmの範囲にある、請求項1に記載の材料。
- 前記CNT領域には、前記カーボンナノチューブが1×108本/mm2以上の密度で形成されている、請求項1または2に記載の材料。
- 前記CNT領域に付与される10nN〜100nNの垂直応力によって該領域の摩擦係数を段階的に異ならせることができる、請求項1〜3のいずれかに記載の材料。
- 前記CNT領域は、原SiC基材の表面部から珪素原子を除去することにより形成されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の材料。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のSiC/カーボンナノチューブ複合材料を耐摩耗材として用いたデバイス。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のSiC/カーボンナノチューブ複合材料を衝撃吸収材として用いたデバイス。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のSiC/カーボンナノチューブ複合材料を摩擦抵抗制御材として用いたデバイス。
- SiC基材上に該基材表面から立ち上がる多数のカーボンナノチューブを有するCNT領域が形成されているSiC/カーボンナノチューブ複合材料を使用する方法であって、
該CNT領域に付与される機械的エネルギー量の変化によって生じる該領域の摩擦係数の変化を利用することを特徴とする、SiC/カーボンナノチューブ複合材料の使用方法。
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---|---|---|---|---|
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- 2005-07-01 JP JP2005193923A patent/JP2007007814A/ja active Pending
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