以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。以下に詳しく説明するように、本発明によるコンロッドは、破断工法によって形成された分割型コンロッド(「破断分割型」と呼ばれることもある。)である。破断工法は、大端部を一体に形成した後に、脆性破断によってロッド部とキャップ部とに分割する手法である。従来、チタン合金製のコンロッドには、破断工法が用いられることはなかった。なぜならば、チタン合金は靭性が高いので、脆性破断が必要である破断工法をチタン合金製のコンロッドに対して行うことは極端に難しいと考えられていたからである。例えば、非特許文献1に開示されているチタン合金製コンロッドには破断工法は用いられていない。従来、チタン合金製の分割型コンロッドを形成する際には、ロッド部とキャップ部とを別体に形成するか、あるいは、大端部を一体に形成した後に機械加工によって切断していた。
図1および図2に、本実施形態におけるチタン合金製のコンロッド1を示す。図1および図2は、それぞれ破断分割前のコンロッド1を模式的に示す斜視図および平面図である。
コンロッド1は、図1および図2に示すように、棒状のロッド本体部10と、ロッド本体部10の一端に設けられた小端部20と、ロッド本体部10の他端に設けられた大端部30とを備えている。
小端部20には、ピストンピンを通すための貫通孔(「ピストンピン孔」と呼ばれる。)25が形成されている。一方、大端部30には、クランクピンを通すための貫通孔(「クランクピン孔」と呼ばれる。)35が形成されている。クランクピン孔35は、典型的にはピストンピン孔25よりも大径である。
大端部30は、ロッド本体部10から両側方に広がる肩部31aおよび31bを有している。また、大端部30には、図2に示すようにボルト孔32が形成されている。本実施形態におけるボルト孔32は、キャップ部34側からロッド部33側に向かって延びており、ロッド部33内部に底面32sを有する有底孔である。
以下の説明においては、ロッド本体部10の延びる方向を「長手方向」と呼び、クランクピン孔35の中心軸(図1中に一点鎖線で示されている)の方向を「軸方向」と呼ぶ。また、長手方向および軸方向に直交する方向を「幅方向」と呼ぶ。また、図面において、長手方向を矢印Zで示し、軸方向を矢印Xで示し、幅方向を矢印Yで示す。
破断分割前の大端部30では、図1および図2に示すように、ロッド部33およびキャップ部34が一体に形成されている。大端部30は、軸方向Xおよび幅方向Yに平行な(すなわち長手方向Zに直交する)破断予定面Aに沿って破断分割される。破断予定面Aは、例えばクランクピン孔35の中心軸を通るように設定される。
図3に、破断分割後のコンロッド1を示す。コンロッド1の大端部30は、ロッド本体部10の他端に連続するロッド部33と、ロッド部33に結合部材(ここではボルト40)によって結合されるキャップ部34とに分割されている。
破断分割によって、ロッド部33およびキャップ部34には、それぞれ微細な凹凸形状を有する破断面Fが形成される。ロッド部33の破断面Fとキャップ部34の破断面Fとを互いに当接させ、ボルト孔32にボルト40をねじ込むことによって、ロッド部33とキャップ部34とが互いに結合される。
上述したように、本実施形態におけるコンロッド1は、破断分割型のコンロッドである。破断分割型のコンロッド1では、ロッド部33およびキャップ部34の破断面Fは、互いに相補的な凹凸形状を有するので、ロッド部33およびキャップ部34の位置決めが正確になされる。また、破断面Fの凹凸同士が嵌合することによって、ロッド部33とキャップ部34との結合が強固となり、大端部30全体の剛性が向上する。特に、ロッド部33を内側にすぼませようとする力を、ロッド部33だけでなくキャップ部34でも受け止めることが可能になるので、図44に示したような変形を抑制できる。
本願発明者が実際に種々の仕様のチタン合金製コンロッドを試作して検討した結果、破断面Fの最も高い部分と最も低い部分との高さの差を230μm以上(より好ましくは300μm以上)とすることによって、破断面F同士をいっそう強固に嵌合させ、大端部30の剛性を十分に高くすることができることがわかった。従って、破断面Fの高低差を230μm以上とすることによって、ロッド部33を図45に示したように厚肉化することなく、大端部30の変形を効果的に抑制することができる。
本実施形態におけるコンロッド1では、上述したように、破断面Fの高低差が230μm以上であることによってロッド部33の剛性が高くなるので、肩部31aおよび31bを厚肉化しなくても十分な剛性を確保することができる。コンロッド1の肩部31a、31b近傍を拡大して図4に示す。図4には、比較のために、図45に示したロッド部533を厚肉化したコンロッド501の形状を破線で併せて示している。図4からわかるように、本実施形態におけるコンロッド1では、図45に示したコンロッド501よりも肩部31a、31bの肉厚が小さく、その分軽量化が図られている。
破断面Fの高低差を大きくし、上述したように230μm以上とするためには、ロッド部33およびキャップ部34は、破断面Fの近傍に介在物を含んでいることが好ましい。図5は、後述するようにして実際に試作したコンロッドの断面を示す顕微鏡写真である。図5に示すように、チタン合金のマトリクス中に介在物8が存在している。介在物8は、異方的な形状を有し、例えば図5に示したような針状(繊維状)や楕円状である。介在物8の長さは、典型的には、10μm〜400μm程度である。なお、図5に例示した介在物8は、希土類元素と硫黄の化合物である。
ロッド部33およびキャップ部34が破断面Fの近傍に(つまり破断分割前の破断予定面Aの近傍に)介在物8を含んでいると、介在物8によって脆性破断が助長されるので、破断面Fに比較的大きな凹凸が形成されやすい。そのため、破断面Fの高低差を十分に大きくし、230μm以上とすることが容易となる。
図6および図7に、介在物8を含む試作例のコンロッドについて破断面の断面曲線(表面粗さ)を示す。また、図8に、介在物8を含まない比較例のコンロッドについて破断面の断面曲線(表面粗さ)を示す。なお、図6、図7および図8に示す表面粗さは、幅方向Yの粗さをプロットしたものである。
図6および図7と図8との比較から、介在物8を含んでいる方が破断面の高低差が大きいことがわかる。具体的には、破断面の高低差(JIS B0601−1994により算出される最大高さRy)は、図6に示す試作例では約299μm、図7に示す試作例では約232μmであるのに対し、図8に示す比較例では約100μmである。
また、これらの試作例および比較例のコンロッドを実際にエンジンに組み込んで、エンジンテストを行った。図8に断面曲線を示した比較例のコンロッドでは、大端部の変形が大きく、軸受けメタルのクランクピンへの焼付きが発生することがあった。一方、図6および図7に断面曲線を示した試作例のコンロッドでは、そのような焼付きが発生しなかった。この結果からも、破断面の高低差を230μm以上とすることによって、大端部30の変形を抑制できることがわかる。
参考までに、鋼製の破断分割型コンロッドについて破断面の断面曲線を図9に示す。図9に示す例では、破断面の高低差は約88μmである。このことからもわかるように、チタン合金製のコンロッド1に介在物8を含ませることにより、従来よりも著しく大きな(具体的には2倍以上の)高低差を破断面Fに付与することができる。
また、本願発明者の検討によれば、介在物8の長手方向を所定の方向に向けることによって、チタン合金製のコンロッド1の破断分割をより容易に、より確実に行うことができることがわかった。
図10に、介在物8の長手方向の破断性が好適な例を示す。図10は、ロッド部33とキャップ部34との合わせ面P近傍における介在物8の様子を模式的に示す図であり、この図では、合わせ面P近傍の断面Bにおける介在物8を図中右下に拡大して示している。
なお、本願明細書では、ロッド部33とキャップ部34との「合わせ面」は、ロッド部33とキャップ部34の表面に形成された微細な凹凸を含む実際の破断面Fではなく、破断分割前のコンロッド1における破断予定面Aと一致する仮想的な面Pを指す。本実施形態では、図1に示したように長手方向Zに直交する(つまり軸方向Xおよび幅方向Yに平行な)破断予定面Aに沿って破断分割が行われるので、合わせ面Pは、長手方向Zに直交し、軸方向Xおよび幅方向Yに平行な平面である。なお、破断予定面Aおよび合わせ面Pは、ここで例示したものに限定されない。破断予定面Aおよび合わせ面Pは、長手方向Zに直交していなくてもよいし、軸方向Xおよび幅方向Yに平行でなくてもよい。
図10に示す例では、介在物8は、合わせ面Pに略平行に延びている。言い換えると、介在物8は、その長手方向が合わせ面Pに対して略平行となるように並んでいる。ここでは、キャップ部34の断面内の介在物8を示したが、ロッド部33の断面においても、介在物8の長手方向は合わせ面Pに略平行である。
また、図11に、図10に示したように介在物8を含むコンロッド1のメタルフロー(「ファイバーフロー」とも呼ばれる。)を示す。メタルフローは、鍛造製品にみられる金属組織の流れであり、鍛流線とも呼ばれる。鍛造製品の切断面を腐食させると、メタルフローは繊維状の金属組織として視認される。
図11中に実線MFで模式的に示すように、合わせ面P近傍におけるメタルフローは、合わせ面Pに略平行である。従って、合わせ面P近傍におけるメタルフローは、介在物8の長手方向に略平行である。このように、介在物8は、典型的には、その長手方向がメタルフローに沿うように並ぶ。これは、メタルフローが形成される際の金属組織の流れに追従して介在物8が伸びるためであると考えられる。従って、後述するように、メタルフローを合わせ面Pに略平行に設定することにより、介在物8の長手方向を合わせ面Pに略平行にすることができる。
なお、型設計の容易さや、強度向上、歩留まりの向上の観点から、図12に示すように、メタルフローがコンロッドの長手方向に平行になるように設計を行うことも考えられる。ただし、このように設計されたコンロッドの大端部を破断分割するためには、メタルフローを横切るように、つまり、繊維状の金属組織を切断するように脆性破断を行わなければならない。
これに対し、図11に示すように、メタルフローが合わせ面P(破断分割前の破断予定面A)に対して略平行であると、メタルフローを横切らないように破断分割を行うことができるので、靭性の高いチタン合金製のコンロッドにおいて破断分割を容易に行うことができる。
さらに、図10に示したように、ロッド部33とキャップ部34との合わせ面Pの近傍に、長手方向が合わせ面Pに略平行な介在物8を含んでいると、破断分割をより容易に、より確実に行うことができる。これは、異方的な形状を有する介在物8が破断の起点となることによって、介在物8の長手方向に平行な面に沿った脆性破断が助長されるためであると考えられる。
なお、ここでは、介在物8の長手方向およびメタルフローが軸方向Xに略平行な場合(図10および図11)を例示したが、本発明はこれに限定されない。介在物8の長手方向およびメタルフローは、合わせ面Pに略平行であればよく、合わせ面P内のいずれの方位に向いていてもよい。介在物8の長手方向およびメタルフローは、例えば、図13および図14に示すように幅方向Yに対して略平行(つまり軸方向Xに対して略直交)であってもよいし、軸方向Xおよび幅方向Yに交差していてもよい。
ただし、運転時の大端部30の変形をより効果的に抑制する観点からは、介在物8の長手方向は、図13に示すように幅方向Yに略平行であるよりも、図10に示すように軸方向Xに略平行である方が好ましい。異方的な形状を有する介在物8が破断の起点となる結果、破断面Fの凹凸は、介在物8の長手方向に平行に稜線が延びるように形成される傾向がある。従って、介在物8の長手方向を軸方向Xに略平行に設定すると、破断面Fの凹凸も稜線が軸方向Xに平行に延びるように形成される。そのため、大端部30のロッド部33を内側にすぼませようとする力(軸方向Xに直交する幅方向Yに平行に働く力)に対する剛性がより高くなり、図44に示したような変形をより効果的に抑制することができる。
また、介在物8の長手方向およびメタルフローは、図15に示すように、合わせ面Pに対して比較的小さな角度であれば傾斜していてもよい。介在物8の長手方向と合わせ面Pとのなす角θが、0°以上30°以下であれば、破断分割を従来に比べ容易に行うことができる。この理由を図16(a)〜(c)を参照しながら説明する。
図16(a)に示すように、介在物8の長手方向と合わせ面Pとのなす角θが90°である場合、メタルフローに直交する面に沿って破断を行うことになる。そのため、繊維状の金属組織を切断するように破断分割を行わなければならない。
これに対し、図16(b)に示すように、介在物8の長手方向が合わせ面Pに対して比較的小さな角度で傾斜している場合には、メタルフローに交差する面に沿って破断を行うことにはなるが、図16(a)に示す場合よりも破断を容易に行うことができる。これは、メタルフローを模式的に示す実線MFが合わせ面Pを横切る数を図16(a)と図16(b)とで比較することからもわかるように、切断すべき繊維状組織の数が少なくなるからである。例えば、図16(b)に例示したように、介在物8の長手方向と合わせ面Pとのなす角θが30°であると、切断すべき繊維状組織の数が約1/2となる。
また、図16(c)に示すように、介在物8の長手方向およびメタルフローと合わせ面Pとのなす角θが0°である場合には、メタルフローに平行な面に沿って破断を行うことになる。そのため、破断分割をさらに容易に行うことができる。
このように、介在物8の長手方向と合わせ面Pとのなす角θを0°以上30°以下とすることによって、θ=90°である場合と比較して破断すべき繊維状組織の数を約1/2以下とすることができ、そのため、破断分割を十分に容易に行うことができる。
また、本実施形態におけるコンロッド1の大端部30には、図2に示したように、ボルト孔32として、キャップ部34側からロッド部33側に向かって延び、ロッド部33内部に底面32sを有する有底孔が形成されている。従って、ボルト孔32の底に相当する部分がロッド部33を補強する役割を果たすので、ボルト孔として貫通孔が形成されている場合に比べ、ロッド部33の剛性を高くすることができる。
より高い剛性を実現する観点からは、ボルト孔32の底に相当する部分の厚さがある程度以上大きいことが好ましい。具体的には、ボルト孔32の底面32sからロッド部33の外側表面までの最短距離が3mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。
なお、ボルト孔として貫通孔を形成してもよい。ボルト孔が貫通孔であっても、破断面Fの高低差が230μm以上であれば、十分な剛性を確保することができる。
次に、本実施形態におけるコンロッド1の製造方法を説明する。ここでは、図17および図18に示すコンロッド1を例として製造方法を説明する。図17および図18は、破断分割前のコンロッド1を示す図であり、クランクピン孔35の内周面に形成される好ましい構造の一例を具体的に示している。以下、簡単にこの構造を説明し、続いて、コンロッド1の製造方法を説明する。
クランクピン孔35の内周面には、軸方向Xに延びる破断起点溝50が形成されている。破断起点溝50は、クランクピン孔35の内周面と破断予定面Aとが交差する部分の中央部に位置している。破断起点溝50は、クランクピン孔35の内周面の互いに対向する位置のそれぞれに形成されている。
また、破断起点溝50の両側には、ベアリングとして機能する軸受けメタルを係止するための軸受け係止溝51が形成されている。軸受け係止溝51により軸受けメタルの回転が阻止される。各軸受け係止溝51は、曲面状の底面を有する凹部からなり、クランクピン孔35の周方向に延びるように設けられている。軸受け係止溝51の底面は、軸方向Xに垂直な断面で円弧状に湾曲している。
さらに、軸受け係止溝51の両側に、切り欠き部52がそれぞれ設けられている。各切り欠き部52は、曲面状の底面を有し、クランクピン孔35の周方向に延びるように設けられている。各切り欠き部52の底面は、軸方向Xに垂直な断面で円弧状に湾曲している。また、クランクピン孔35の縁部を面取りすることによりクランクピン孔35の周方向に延びる面取り部53がそれぞれ設けられている。
続いて、このコンロッド1の製造方法を説明する。図19は、本実施形態における製造方法を示すフローチャートである。
まず、チタン合金を用いて鍛造により、ロッド本体部10、小端部20および大端部30を備えたコンロッド1の素体を形成する(ステップS1)。例えば、チタン合金のインゴットを用意し、このインゴットを熱間鍛造することによって、図20および図21に示すような板状部材60および62を形成する。その後、これらの板状部材60および62から、図20および図21中に点線で示すように切り出しを行う。介在物8の長手方向およびメタルフローは、圧延や鍛造などの塑性加工の際の変形方向に沿うように形成される。従って、塑性変形の方向とコンロッド素体の長手方向とが直交するようにコンロッド素体を形成することによって、介在物8の長手方向およびメタルフローを破断予定面A(分割後の合わせ面P)に対して略平行とすることができる。なお、コンロッド素体を形成する方法は、ここで例示した熱間鍛造に限定されるものではなく、冷間鍛造や圧延素材からの機械加工であってもよい。
本実施形態では、材料のチタン合金として、組成がTi−3Al−2V−S−REM(希土類元素、具体的にはLaとCeが用いられる)のチタン合金(例えば大同特殊鋼社製DAT52F)を用いる。なお、本願明細書において、チタン合金とは、チタンを主成分として含み、Al、V、Fe、Mo、CrおよびCの少なくとも1つを(好ましくは少なくともAlを)0.5wt%以上10.0wt%以下添加された合金をいう。
希土類元素および硫黄を含むチタン合金を用いることにより、これらの化合物を介在物としてチタン合金中に存在させることができ、それによって既に述べたように破断分割を容易に行うことができる。また、これにより、破断面Fの高低差を容易に230μm以上とすることができる。チタン合金中に介在物を形成するためには、希土類元素(例えばLa、Ce、Pr、Nd)の含有量は、0.05wt%以上0.7wt%以下であることが好ましく、硫黄の含有量は、0.05wt%以上0.2wt%以下であることが好ましい。
また、2.5wt%以上6.75wt%以下のアルミニウムおよび1.6wt%以上4.5wt%以下のバナジウムを含むチタン合金は、硬さに優れるので、このようなチタン合金を用いることにより、強度の向上を図るとともに脆性破断を行いやすくすることができる。
次に、コンロッド1に機械加工を行う(ステップS2)。図22は、機械加工の詳細な工程を示すフローチャートである。まず、コンロッド1の厚さ面(軸方向Xに垂直な面)を研削し(ステップS21)、続いて、小端部20および大端部30にそれぞれピストンピン孔25およびクランクピン孔35を形成する(ステップS22)。
次に、大端部30のクランクピン孔35の内周面に軸受け係止溝51を形成し(ステップS23)、その後、軸受け係止溝51の両側に切り欠き部52を形成する(ステップS24)。続いて、クランクピン孔35の縁部に面取り部53を形成する(ステップS25)。ピストンピン孔25、クランクピン孔35、軸受け係止溝51、切り欠き部52および面取り部53の形成は、切削により行う。
その後、大端部30にボルト孔32として有底孔を形成する(ステップS26)。ボルト孔32の形成は、例えばドリルを用いた切削により行われる。また、典型的には、ボルト孔32の形成は、ボルト孔32の底面32sからロッド部33の外側表面までの最短距離が0.5mm〜5mm程度(好ましくは3mm以上)となるように行われる。
最後に、クランクピン孔35の内周面に破断起点溝50を形成する(ステップS27)。本実施形態では、破断起点溝50をワイヤカット放電加工により形成する。
ワイヤカット放電加工では、クランクピン孔35の内周面の軸方向Xに沿って導電性ワイヤを配置し、この導電性ワイヤとクランクピン孔35の内周面との間にパルス状の高電圧を印加する。それにより、導電性ワイヤとクランクピン孔35の内周面との間にコロナ放電が引き起こされ、クランクピン孔35の内周面が線状に削り取られる。その結果、クランクピン孔35の内周面の中央部に、軸方向Xに直線状に延びる破断起点溝50が形成される。ワイヤカット放電加工によれば、複数のコンロッド1に同時に破断起点溝50を形成することができる。そのため、生産効率が向上する。なお、レーザ加工、切削等の他の機械加工により破断起点溝50を形成してもよい。
また、コンロッド1の厚さ面の研削、ピストンピン孔25およびクランクピン孔35の形成、軸受け係止溝51の形成、切り欠き部52の形成、面取り部53の形成、ボルト孔32の形成および破断起点溝50の形成は、図22に例示した順序に限定されず、任意の順序で行うことができる。例えば、破断起点溝50の形成後に軸受け係止溝51、切り欠き部52および面取り部53を形成してもよい。
続いて、コンロッド1に対して熱処理を行う(図19のステップS3)。本実施形態では、焼なまし処理、固溶化処理および時効処理を順次行う。それぞれの処理の条件の一例を表1に示す。また、表1には、焼なまし処理後と、固溶化処理および時効処理後のそれぞれについて、コンロッド1のロックウェル硬さ(HRC)を併せて示している。
コンロッド1の強度を向上する観点および脆性破断を行いやすくする観点からは、熱処理後のロックウェル硬さが33HRC以上であることが好ましい。
続いて、コンロッド1に表面硬化処理を行い(ステップS4)、その後、大端部30のボルト孔32内に雌ねじ加工を行う(ステップS5)。表面硬化処理は、例えば、コンロッド1の表面に窒化クロムをPVD法によってコーティングすることによって行われる。なお、表面硬化処理は、後述する内周面の研削(ステップS8)の後に行ってもよい。
次に、コンロッド1の大端部30をロッド部33とキャップ部34とに破断分割する(ステップS6)。
図23に、破断分割の手法の一例を示す。図23に示すように、水平方向に移動可能なスライダ200、201の凸部をコンロッド1の大端部30のクランクピン孔35内に挿入し、スライダ200、201の凸部間にくさび202を錘203により打ち込む。これにより、コンロッド1の大端部30が破断起点溝50を起点として破断予定面Aに沿ってロッド部33とキャップ部34とに破断分割される。
なお、大端部30を破断分割する工程の前に、予め大端部30を所定の温度以下(例えば−40℃以下)に冷却しておくことが好ましい。大端部30の冷却は、例えば、コンロッド1を液体窒素に浸すことによって行うことができる。破断分割工程の前にこのような冷却工程を行うことにより、チタン合金製のコンロッド1の破断分割を容易に行うことができる。
従来、このような冷却工程は、鋼製の破断分割型コンロッドに対して行われることはあった。鋼製のコンロッドの場合、荷重を加えられた際の破壊様式が延性破壊から脆性破壊に変化する温度(「延性―脆性遷移温度」と呼ばれる)が室温以下であるため、冷却工程を行うことによって破断分割を容易に行うことができるようになるからである。
しかしながら、チタン合金では、この延性―脆性遷移温度がもともと室温以上である。そのため、冷却工程を行う意味は一見ないようにも思える。ところが、本願発明者が、このような技術常識にとらわれることなく敢えて冷却工程を行ったところ、チタン合金製のコンロッドについても破断分割が容易になることが実験的に確認された。この理由は、靭性が若干でも低下することによって破断分割が容易になったのではないかと推測される。
続いて、ロッド部33の破断面Fとキャップ部34の破断面Fとを位置合わせして接触させた状態でボルト孔32にボルト40を挿し込むことにより、ロッド部33とキャップ部34とを組み付ける(図19のステップS7)。
次に、組み付けられたコンロッド1の小端部20のピストンピン孔25および大端部30のクランクピン孔35の内周面を研削する(ステップS8)。このようにして、分割型のコンロッド1が製造される。
その後、組み付けられたコンロッド1の大端部30からボルト40を外すことにより、ロッド部33およびキャップ部34を分解する(ステップS9)。最後に、分解されたロッド部33およびキャップ部34をクランクシャフトのクランクピンに組み付ける(ステップS10)。
本実施形態の製造方法では、上述したように、介在物の長手方向が破断予定面に略平行なコンロッドを用意し、このコンロッドに対して破断分割を行うので、破断分割を容易に行うことができる。また、破断予定面の近傍に介在物を含むコンロッドを用意するので、破断面の高低差を十分に大きくすることが容易である。
図24(a)〜(e)に、実際に試作したコンロッド1の大端部30の破断面の写真を示す。図24(b)、(c)および(d)は、図24(a)中の円で囲まれた部分24B、24Cおよび24Dの拡大写真であり、図24(e)は、図24(b)中の円で囲まれた部分24Eの拡大写真である。介在物8およびメタルフローは、軸方向X(紙面上下方向)に平行である。図24(a)〜(e)に示すように、破断面Fの全面にわたって微細な凹凸を有する脆性破面が得られており、破断分割が好適に行われたことがわかる。また、凹凸の稜線が軸方向Xに略平行に延びており、凹凸の稜線が介在物8の長手方向に平行に延びていることがわかる。破断面Fの高低差を測定したところ、230μm以上であった。
なお、本実施形態では、介在物の長手方向が破断予定面に対して略平行なコンロッドを用意する場合を例示したが、介在物の長手方向は、破断予定面に対して30°以下の角度である限り傾斜していてもよい。介在物の長手方向と合わせ面とのなす角が0°以上30°以下であれば、破断分割を容易に行うことができる。
また、図25に示すように、介在物8の長手方向は合わせ面Pに対して略垂直であってもよい。介在物8の長手方向が合わせ面Pに対して略垂直であると、メタルフローはコンロッド1の長手方向Zに略平行である(図12参照)ので、破断分割は難しくなるものの、コンロッド1の強度が向上する。具体的には、コンロッド1の軸を曲げる方向の応力に対して疲労強度が5〜10%向上する。また、型設計が容易になり、歩留まりも向上する。
メタルフローがコンロッド1の長手方向Zに略平行である場合にも、ロッド部33およびキャップ部34が破断面Fの近傍に介在物8を含んでいることにより、破断面Fの高低差を十分に大きくし、230μm以上とすることが容易となる。
図26、図27および図28に、長手方向Zに略平行なメタルフローを含むコンロッドの破断面の断面曲線(表面粗さ)を示す。図26および図27は、長手方向が合わせ面Pに対して略垂直な介在物8を含む試作例のコンロッドの表面粗さを示し、また、図28は、介在物8を含まない比較例のコンロッドの表面粗さを示している。
図26および図27と図28との比較から、介在物8を含んでいる方が破断面の高低差が大きいことがわかる。具体的には、破断面の高低差は、図26に示す試作例(材料のチタン合金の組成はTi−3Al−2V)では約279μm、図27に示す試作例(材料のチタン合金の組成はTi−3Al−2V)では約248μmであるのに対し、図8に示す比較例(材料のチタン合金の組成はTi−6Al−4V)では約85μmである。
これらの試作例および比較例のコンロッドを実際にエンジンに組み付け、エンジンテストを行った。図28に断面曲線を示した比較例のコンロッドでは、軸受けメタルのクランクピンへの焼付きが発生することがあった。一方、図26および図27に断面曲線を示した試作例のコンロッドでは、大端部30の変形が抑制された結果、そのような焼付きが発生しなかった。
なお、メタルフローが合わせ面Pに対して略垂直である場合には、メタルフローが合わせ面Pに対して略平行な(あるいは比較的小さな角度で傾斜している)場合に比べて破断分割が難しくなるので、破断分割の速度を上げるとともにより大きなエネルギーを与えることが好ましい。
また、本実施形態では、図17および図18に示したように、クランクピン孔35の内周面には、破断起点溝50、軸受け係止溝51および切欠き部52が形成されている。これらを、破断分割の際の応力が破断起点溝50に集中するような形状に形成すると、破断分割の際の「二重割れ」を防止することができるので、より好ましい。以下、より詳しく説明する。
図29(a)、(b)および(c)に、破断起点溝50、切り欠き部52および軸受け係止溝51の断面形状をそれぞれ示す。
図29(a)に示すように、破断起点溝50は、略平行に対向する面および半円形の底面から構成される。破断起点溝50の深さH1は例えば0.5mmであり、底面の曲率半径R1は例えば0.1mmである。
図29(b)に示すように、切り欠き部52は、円弧状の底面から構成される。切り欠き部52の深さH2は例えば0.5mmであり、底面の曲率半径R2は例えば6.5mmである。
図29(c)に示すように、軸受け係止溝51は円弧状の底面から構成される。軸受け係止溝51の深さH3は例えば1.6mmであり、底面の曲率半径R3は例えば6.5mmである。
切り欠き部52の深さH2および軸受け係止溝51の深さH3は、破断起点溝50の深さH1以上である。本実施形態では、切り欠き部52の深さH2は、破断起点溝50の深さH1とほぼ等しく、軸受け係止溝51の深さH3は、破断起点溝50の深さH1よりも大きい。また、切り欠き部52の底面の曲率半径R2は、破断起点溝50の底面の曲率半径R1よりも大きく、軸受け係止溝51の底面の曲率半径R3は、破断起点溝50の底面の曲率半径R1よりも大きい。
一般に、応力集中係数αは下記式(1)により求められる。なお、式(1)において、Hは切り欠きの深さを表わし、Rは切り欠きの曲率半径を表わす。
α=1+2√(H/R) …(1)
破断起点溝50の深さH1が0.5mmであり、曲率半径R1が0.1mmである場合には、上式(1)より応力集中係数αは5.5となる。また、切り欠き部52の深さH2が0.5mmであり、曲率半径R2が6.5mmである場合には、上式(1)より応力集中係数αは1.6となる。また、軸受け係止溝51の深さH3が1.6mmであり、曲率半径R3が6.5mmである場合には、上式(1)より応力集中係数αは2.0となる。
このように、破断起点溝50の応力集中係数は切り欠き部52および軸受け係止溝51の応力集中係数よりも大きくなっている。
したがって、クランクピン孔35の内周面の破断起点溝50に応力が集中し、切り欠き部52および軸受け係止溝51では応力集中が緩和される。それにより、クランクピン孔35の内周面の中央部に応力が集中する。
ここで、大端部30の破断分割時の破断起点溝50および切り欠き部52の作用をより詳しく説明する。まず、切り欠き部52が設けられていない場合の大端部30において破断が進行する様子を図30から図33を参照しながら説明し、続いて、切り欠き部52が設けられている場合の大端部30において破断が進行する様子を図34〜図36を参照しながら説明する。
図30に示す大端部30では、クランクピン孔35の内周面の中央部に形成された破断起点溝50の両側に1対の軸受け係止溝51が形成されており、さらに、これらの軸受け係止溝51の外側(クランクピン孔35の内周面の両端部)にも破断起点溝50が形成されている。
通常、応力は肉薄部分および端部に集中しやすい。大端部30の中央部にボルト孔32が設けられているので、クランクピン孔35の内周面の中央部が肉薄部分となる。そのため、クランクピン孔35の内周面の中央部および両端部に応力が集中する。
したがって、図30に示す大端部30では、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の中央部の破断起点溝50および両端部の破断起点溝50の3箇所となる。その結果、図30に矢印で示すように、破断がクランクピン孔35の内周面の中央部および両端部の3箇所から進行する。
この場合、図31および図32に示すように、クランクピン孔35の内周面の中央部からの破断により形成される破断面aとクランクピン孔35の内周面の両端部からの破断により形成される破断面bとが異なる高さに発生すると、図33(a)に示すように、破断面aと破断面bとが間隔をおいて重なり合う領域350が生じ、二重割れが発生する。
なお、図32に示すように、後の工程でクランクピン孔35の内周面がD−D線まで研削される。また、従来の分割型コンロッドの製造方法では、破断分割後の工程でクランクピン孔35の縁部がE−E線まで面取りされる。
次に、図33(b)に示すように、ロッド部33とキャップ部34とが分離されると、破断面aと破断面bとの合流部Mに段差が生じる。図31に示すように、合流部Mは、大端部30の幅方向Yにおける中心線L1よりもクランクピン孔35に近い位置に発生する。
その後、図33(c)に示すように、ロッド部33とキャップ部34とが組み付けられた後、D−D線までクランクピン孔35の内周面が研削される。ロッド部33とキャップ部34とが分解されると、図33(d)に示すように、破断面aと破断面bとが重なり合う領域350から破片341の欠落が起こる。
これに対し、図34に示す大端部30では、クランクピン孔35の内周面の中央部に形成された破断起点溝50の両側に1対の軸受け係止溝51が形成されており、これらの軸受け係止溝51の外側(クランクピン孔35の両端部)に切り欠き部52が形成されている。さらに、クランクピン孔35の縁部には面取り部53が形成されている。
切り欠き部52の応力集中係数は、破断起点溝50の応力集中係数に比べて小さいので、クランクピン孔35の両端部での応力集中が緩和される。また、クランクピン孔35の縁部には面取り部53が形成されているので、クランクピン孔35の縁部での応力集中が緩和される。そのため、クランクピン孔35の内周面の中央部に応力が集中する。
したがって、図34に示す例では、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所となる。その結果、図34に矢印で示すように、破断がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所から進行する。
この場合、図35に示すように、クランクピン孔35の内周面の中央部からの破断により破断面Fが形成される。図36(a)に示すように、1つの破断面Fによりロッド部33とキャップ部34とが破断分割され、二重割れが発生しない。
したがって、図36(b)に示すように、ロッド部33とキャップ部34とが分離されたときに、破断面Fに段差が生じない。
その後、図36(c)に示すように、ロッド部33とキャップ部34とが組み付けられた後に、D−D線までクランクピン孔35の内周面が研削される。図36(d)に示すように、ロッド部33とキャップ部34とが分解された場合にも、破片の欠落が起こらない。
このように、切り欠き部52が設けられている場合、図35に示すように、大端部30の幅方向Yにおける中心線L1とクランクピン孔35の内周面との間の領域に複数の破断面の重なり合う領域が存在しない。少なくとも軸方向Xに平行なボルト孔32の接線L2とクランクピン孔35の内周面との間の領域に複数の破断面の重なり合う領域が存在しない場合には、クランクピン孔35の内周面の研削の際に破片が欠落することが防止される。
上述したように、クランクピン孔35の内周面に、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の1箇所となるような構造を形成すると、大端部30が1つの破断面Fによりロッド部33とキャップ部34とに破断分割されるので、二重割れの発生を防止できる。したがって、破断面Fに大きな突起部が生じることが防止されるとともに破断面Fから破片が欠落することが防止される。その結果、ロッド部33とキャップ部34との組み付け時に高い真円度および真筒度が得られるとともに、製造不良品の発生率が低減される。
なお、クランクピン孔35の内周面に形成する構造は、ここで例示したものに限定されない。
図37に示す大端部30では、クランクピン孔35の内周面の中央部に形成された破断起点溝50の両側に1対の軸受け係止溝51が形成されているとともに、クランクピン孔35の縁部に面取り部53が形成されている。軸受け係止溝51の外側の部分には破断起点溝50および切り欠き部52は形成されずに平坦面となっている。
平坦面の応力集中係数は、破断起点溝50の応力集中係数に比べて小さいので、クランクピン孔35の内周面の両端部での応力集中が緩和される。また、クランクピン孔35の縁部には面取り部53が形成されているので、クランクピン孔35の縁部での応力集中が緩和される。そのため、クランクピン孔35の内周面の中央部に応力が集中する。
したがって、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所となる。その結果、図37に矢印で示すように、破断がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所から進行する。
この場合、クランクピン孔35の内周面の中央部からの破断により破断面が形成される。従って、大端部30が1つの破断面によりロッド部33とキャップ部34とに破断分割されるので、二重割れが発生しない。
図38に示す大端部30では、クランクピン孔35の内周面の中央部に切り欠き部52が形成されており、この切り欠き部52の両側に1対の軸受け係止溝51が形成されている。一方の軸受け係止溝51の外側には破断起点溝50が形成され、他方の軸受け係止溝51の外側にはさらなる切り欠き部52が形成されている。さらに、クランクピン孔35の縁部には面取り部53が形成されている。
この場合、クランクピン孔35の内周面のうち、切り欠き部52が設けられている中央部および端部での応力集中が緩和される。また、クランクピン孔35の縁部には面取り部53が形成されているので、クランクピン孔35の縁部での応力集中が緩和される。そのため、クランクピン孔35の内周面の、破断起点溝50が形成されている端部に応力が集中する。
したがって、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の一端部の1箇所となる。その結果、図38に矢印で示すように、破断がクランクピン孔35の内周面の一端部の1箇所から進行する。
この場合、クランクピン孔35の内周面の一端部からの破断により破断面が形成される。従って、大端部30が1つの破断面によりロッド部33とキャップ部34とに破断分割されるので、二重割れが発生しない。
図39に示す大端部30では、クランクピン孔35の内周面の中央部に形成された破断起点溝50の両側に1対の軸受け係止溝51が形成されており、これらの軸受け係止溝51の外側に切り欠き部52が形成されている。クランクピン孔35の縁部には面取り部53は形成されていない。
切り欠き部52の応力集中係数は、破断起点溝50の応力集中係数に比べて小さいので、クランクピン孔35の内周面の両端部での応力集中が緩和される。そのため、クランクピン孔35の内周面の中央部に応力が集中する。
したがって、破断の起点がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所となる。その結果、図39に矢印で示すように、破断がクランクピン孔35の内周面の中央部の1箇所から進行する。
この場合、クランクピン孔35の内周面の中央部からの破断により破断面が形成される。従って、大端部30が1つの破断面によりロッド部33とキャップ部34とに破断分割されるので、二重割れが発生しない。
本実施形態におけるコンロッド1は、自動車両用や機械用の各種の内燃機関(エンジン)に広く用いられる。図40に、本実施形態におけるコンロッド1を備えたエンジン100の一例を示す。
エンジン100は、クランクケース110、シリンダブロック120およびシリンダヘッド130を有している。
クランクケース110内にはクランクシャフト111が収容されている。クランクシャフト111は、クランクピン112およびクランクウェブ113を有している。
クランクケース110の上に、シリンダブロック120が設けられている。シリンダブロック120には、円筒状のシリンダスリーブ121がはめ込まれており、ピストン122は、シリンダスリーブ121内を往復し得るように設けられている。
シリンダブロック120の上に、シリンダヘッド130が設けられている。シリンダヘッド130は、シリンダブロック120のピストン122やシリンダスリーブ121とともに燃焼室131を形成する。シリンダヘッド130は、吸気ポート132および排気ポート133を有している。吸気ポート132内には燃焼室131内に混合気を供給するための吸気弁134が設けられており、排気ポート内には燃焼室131内の排気を行うための排気弁135が設けられている。
ピストン122とクランクシャフト111とは、コンロッド1によって連結されている。具体的には、コンロッド1の小端部10の貫通孔(ピストンピン孔)にピストン122のピストンピン123が挿入されているとともに、大端部20の貫通孔(クランクピン孔)にクランクシャフト111のクランクピン112が挿入されており、そのことによってピストン122とクランクシャフト111とが連結されている。大端部20の貫通孔の内周面とクランクピン112との間には、軸受けメタル114が設けられている。軸受けメタル114は、軸受け係止溝51によって係止されている。
図40に示すエンジン100は、本実施形態におけるチタン合金製の分割型コンロッド1を有しているので、軽量化、高燃費化および高出力化を実現できる。
図41に、図40に示したエンジン100を備えた自動二輪車を示す。
図41に示す自動二輪車では、本体フレーム301の前端にヘッドパイプ302が設けられている。ヘッドパイプ302には、フロントフォーク303が車両の左右方向に揺動し得るように取り付けられている。フロントフォーク303の下端には、前輪304が回転可能なように支持されている。
本体フレーム301の後端上部から後方に延びるようにシートレール306が取り付けられている。本体フレーム301上に燃料タンク307が設けられており、シートレール306上にメインシート308aおよびタンデムシート308bが設けられている。
また、本体フレーム301の後端に、後方へ延びるリアアーム309が取り付けられている。リアアーム309の後端に後輪310が回転可能なように支持されている。
本体フレーム301の中央部には、図40に示したエンジン100が保持されている。エンジン100には、本実施形態におけるコンロッド1が用いられている。エンジン100の前方には、ラジエータ311が設けられている。エンジン100の排気ポートには排気管312が接続されており、排気管312の後端にマフラー313が取り付けられている。
エンジン100には変速機315が連結されている。変速機315の出力軸316に駆動スプロケット317が取り付けられている。駆動スプロケット317は、チェーン318を介して後輪310の後輪スプロケット319に連結されている。変速機315およびチェーン318は、エンジン100により発生した動力を駆動輪に伝える伝達機構として機能する。
図41に示した自動二輪車は、本実施形態におけるコンロッド1が用いられたエンジン100を備えているので、好適な性能が得られる。