自由形状製造は最近、最終仕上げ製品、プロトタイプ部品またはモデル、作業ツールを含む立体物体を製造するための一般的な方法になりつつある。例えば、自由形状製造は、構造セラミックスやセラミックスシェル型などの製品を作成するために使用される。自由形状製造のいくつかの方法は、所望の最終製品の層を順次形成するプロセスを含む。
自由形状製造が層を順次形成するプロセスを含むとき、いくつかの平面層が組み合わされて平面または非平面の立体物体が形成される。物体は、一層ずつ形成され、各層の部分が最終的な所望の製品の断面を表す。所望の製品を作成するために隣り合って形成された層が所定のパターンで互いに付着される。
ある自由形状製造方法では、所望の製品の各個別の層を形成するために粉末材料が使用される。図1に示したように、自由形状製造ユニット(100)は、粉末構造材料の供給を含む。供給チャンバから適度な量の粉末が計量供給される。可動ステージ(103)上のローラが製造チャンバ(102)の上に粉末を散布し圧縮する。次に、インクジェット印刷技術が利用される場合がある多チャネル噴射ヘッドが、製造チャンバ(102)内の粉末に接着剤またはバインダを2次元パターンで付着させる。噴射ヘッドは、可動ステージ(103)上に配置されることもある。この2次元パターンは、所望の製品の断面である。また、この噴射ヘッドは、所望の製品の特定の断面に所望の色または色パターンを提供するインクまたはトナーを射出することがある。
粉末は、接着剤が付着された領域に付着され、それにより所望の製品の1つの層が形成される。このプロセスが繰り返され、前の層の上に新しい層の粉末が付着される。次に所望の製品の次の断面が新しい粉末層に形成される。接着剤は、所望の製品の隣り合った層を接着するはたらきもする。
このプロセスは、製造チャンバ(102)内の粉体層内で物体全体が形成されるまで続く。次に接着剤で接着されていない余分な粉末がブラシで除去され、基本物体すなわち「未完成」物体が残る。ユーザインタフェース(104)によってユーザは製造プロセスを開始し制御することができる。
この方法には、製造が迅速で材料コストが安いという長所がある。これは、最も高速な自由形状製造方法の1つと考えられ、また様々な色の製品を作成することができる。
しかしながら、従来の自由形状製造方法には、得られた製品のもろさを含むいくつかの欠点がある。最終製品の低い機械的特性は、部分的には粉末の接着が不十分であることによる低い圧縮弾性率によるものである。また、低い機械的特性は、伸びに対するもろさ、すなわち低い破壊強度によって示される。層内と層間の両方のレベルで粉末粒子は緩く接着されているだけである。より詳細には、現在市場で使用されている粉末は、デンプンやポリ(ビニルアルコール)などの水膨潤性高分子およびそのような水膨潤性高分子の混合物と供に、セッコウおよび/または焼きセッコウなどの、充填材の無機粒子を主成分とする。
そのようなタイプのシステムを使用するとき、粉末表面に水溶性バインダが印刷され、水溶性バインダの吸収により高分子粒子が膨脹する。高分子粒子の膨潤により粘着性が生じる。そのような粉末と水溶性バインダの相互作用によって、未完成物体の機械的強度が低下し多孔性が高くなる。
また、粉末を利用した自由形状製造ならびに噴射式の直接形成型自由形状製造によって作成される部品は強度が低くなる。後者は、高分子量の高分子の粘性が高すぎるので、低分子量の高分子しか噴射できないという事実による。
さらに、前述の方法の結合高分子の膨潤プロセスは、きわめてゆっくりと行われる傾向がある。また、水と焼きセッコウの相互作用もきわめてゆっくり生じる。そのような理由のため、従来のプロセスは、反応した材料が硬化し製造した製品を粉体層から取り出すのに1時間以上必要とする。
従来の粉末を利用した自由形状製造と直接関連するもう1つの問題は、最終製品の密度が高いことである。粉末中の出発物質は、従来の方法によって生成されたプロトタイプが一般に1g/cm3を超える密度を有することになるほどの高密度である。プロトタイプの高い密度は、特に大きな物体の1:1スケールモデルを作成するときには深刻な問題である。
さらに、得られる製品の低い機械的特性は、粉体層内で層を作成することによって製造した未完成物体を大きな労力を必要とする後処理にかけなければならないという事実と関連する。この後処理は、印刷物体の表面をシアノアクリレート接着剤などの補強剤に浸漬することを必要とする場合がある。現在利用可能なセッコウを主成分とする粉末と水膨潤性高分子は、30分以上の場合もの長い膨脹時間を必要とする。以上および類似の方法のもう1つの欠点は、得られた製品が、外観がざらざらしていることによって、製品の精細度が低くなる可能性があることである。
前述のように、自由形状製造に現在使用できる方法は、結合の弱い高分子と無機物粒子を使用して低い機械的特性とざらざらした外観を有する製品を作成する。得られた物品の後処理の乾燥によって機械的特性がわずかに向上するが、この改善は微小であり、乾燥工程はきわめて遅い。他の後処理手段には、シアノアクリレートなどの重合可能接着剤による補強すなわち表面仕上げがあるが、これらの手段は、コストが高く大きな労力を必要とする。
以下は、自由形状製造用のシステム、そのシステムに含まれる構成物、およびシステムを実現する自由形状製造方法を示す。自由形状製造システムは、低密度の粒子を結合する高分子電解質合成物を形成することができる高分子電解質によって強化されることが好ましい。製造された製品の密度が製品を構成する材料の密度によってある程度決まるので、システムに含まれる構成要素は低密度の粒子を含むことが好ましい。システム内の構成要素は、また、多塩基の電解質として働くカチオン高分子と、ポリ酸の電解質として働くアニオン高分子を含むことが好ましい。システム内の構成要素は、さらに、システムの高分子電解質を溶かすことができる極性溶媒を主成分とするバインダを含む。
溶液に溶かされかつ/または混合されたとき、逆の極性に帯電した高分子電解質が高分子電解質複合体(PEC)を形成する。通常、PECは、高分子チェーンの集塊を形成するように反応した複雑なポリアニオンとポリカチオン(またはポリ酸とポリ塩基)からなる。複雑な高分子PECを使用して、反応溶液中で反応しないような他の材料を結合することができる。帯電した高分子電解質に水や他の極性溶媒を加えたとき、高分子電解質は溶解しイオン化する。高分子電解質が反対の極性に帯電した場合は続いてPECが形成される。PEC反応溶液に反応性が低いかまたは実質的に反応性でない適切なサイズの粒子が含まれる場合、PECの複雑な構成要素は、粒子を結合するバインダとして働く。低密度の粒子を強力に結合させるには、カチオン高分子電解質とアニオン高分子電解質の少なくとも1つが粒子表面に吸着できることが重要である。例えば、多くのカチオン高分子電解質は、液相と接しているときに粒子に吸着して負電荷を得やすい。水を含む環境内で負電荷を有する粒子の例には、ガラス、多くのアルミノケイ酸塩、ゼオライト、土粒子(フミン酸)などがある。また、高分子電解質と粒子表面との間の水素結合がPECの結合能力を高める。例えば、側鎖にアミド基を含むポリアミドアミンや他の可溶性高分子は、アミド基と表面の水酸基との水素結合によって、シリカ、ガラスまたはアルミノケイ酸塩の表面に吸着しやすい。
PECが低密度の粒子を結合するバインダとして働くときに製品を迅速に作成できることが分かった。さらに、PECと低密度の粒子で作成された三次元製品は、0.1g/cm3よりかなり低い密度を有することができ、特に通常実施される方法によって作成される高密度な製品よりも大型の製品を容易に処理することができる。さらに、PECは、約数秒以下できわめて迅速に形成される。したがって、バインダとしてPECを使用して粒子と個別の層を結合することによって、この方法によって作成した製品を、製品を作成した未結合粒体の層から直ちに取り出すことができる。
本発明によるアニオン高分子電解質成分は、1つまたは複数の負に帯電したポリ酸またはポリ酸塩でよい。そのようなポリ酸類またはその塩類の例には、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリホスホン酸、またはポリアクリレート、ポリメタクリレート、アニオン改質デンプン、多糖類などの他のアニオン高分子がある。これらのアニオンポリ酸類またはその塩類は、単にホモポリマーとして、あるいは1つまたは複数のポリ酸類またはポリ酸塩類の共重合体として表されることがある。さらに、アニオン高分子電解質は、非イオン系のモノマとアニオンモノマの共重合体でもよい。
本発明によるカチオン高分子電解質成分は、1つまたは複数の帯電したポリ塩基またはポリ塩基塩でよい。そのようなポリ塩基類またはその塩類の例には、ポリ(アミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アミドアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩類)、ポリクオテルナリアンモニウム塩類、様々なカチオンアクリル共重合体、ポリ(ビニルピリジン)などがある。これらのカチオンポリ塩基類またはその塩類はまた、単にホモポリマーとして、あるいは1つまたは複数のポリ塩基類またはポリ塩基塩類の共重合体として表されることがある。さらに、カチオン高分子電解質は、非イオン系のモノマとカチオンモノマの共重合体でもよい。当然ながら、以上は、本発明の原理に従って粒子を結合し製品を迅速に形成するために、PECを形成する高分子電解質として働くことができる無数のポリアニオンとポリカチオンの単なる例である。
PECをバインダとして含めるもう1つの大きな利点は、粒子がお互いにおよびPECに対して実質的に未反応性の場合でもPECが低密度の粒子を結合できることである。0.1g/cm3をかなり下回るきわめて低密度の製品を作成するために、低密度の粒子は、シリカ、金属酸化物、セラミックス材料、ガラス球、中空シリコン粒子、中空金属球、エーロゲル、および独立気孔金属スポンジなどの複合物の中から選択することができる。密度、構造、強度などのパラメータを制御するために製品を形成する同じタイプの粒子を有することが有益なことが多いが、低密度の粒子の混合物は均質でなくてもよい。
1つの実施形態によれば、カチオン高分子電解質とアニオン高分子電解質は両方とも、未反応状態で低密度の粒子と混合される。高分子電解質は、水などの極性溶媒に溶解できるが、極性溶媒は水に限定されるものでは決してない。水や他の極性溶媒に溶解する高分子は、前述のようなポリ塩基類とポリ酸類またはその塩類でよい。ポリ塩基類とポリ酸類は、そのそれぞれの塩類より好ましい。
より詳細には、多孔質シリカ、金属酸化物、セラミックス、中空ガラス球、中空シリコン粒子、中空金属球、エーロゲル、および独立気孔金属スポンジなどの低密度の粒子は、粉末混合物中に約40〜約99.9重量%の濃度範囲で存在する。乾燥形態のカチオン高分子は、粉末混合物中に0.05〜50重量%の濃度範囲で存在する。乾燥形態のカチオン高分子の濃度は、0.1〜10重量%の範囲であることが好ましい。また、乾燥形態のアニオン高分子は、粉末混合物中に0.05〜50重量%の濃度範囲で存在する。乾燥形態のアニオン高分子の濃度は、0.1〜10重量%の範囲であることが好ましい。
粉末混合物は、所望の製品のそれぞれの層を形成するために使用される。図1を再び参照すると、最初に或る量の粉末が供給チャンバから計量供給される。次に、その粉末は、製造チャンバ(102)の上に可動ステージ(103)によって分散され圧縮される。
次に、やはり可動ステージ(103)上に配置されることが好ましい多チャネル噴射ヘッドが、製造チャンバ(102)内の粉末に水溶性または極性溶媒を主成分とするバインダを2次元的に付着させる。粉末中の高分子電解質はすぐにバインダ溶剤に溶け、PECを形成する。
高分子電解質粒子の溶解速度はきわめて重要である。溶解速度を改善するにはいくつかの方法がある。第1の方法は、小さいサイズの高分子電解質粒子を使用することである。粒子は平均直径が30マイクロメートル未満であることが好ましく、10マイクロメートル未満であることがより好ましい。粒子が平均直径1〜2マイクロメートル未満であることが最も好ましい。
溶解速度を改善する第2の方法は、乾燥粉末中の高分子と化学的に類似した1つまたは複数の高分子を含む噴出バインダ溶液を使用することである。高分子粒子の濡れが改善されるので溶解速度がこのように改善される。例えば、粉末がポリアクリル酸エステルを含む場合、噴射されるバインダは、液体の噴射を可能にするために、好ましくは粉末中の類似の高分子よりも分子量が小さいかまたは濃度が低いポリアクリル酸エステルを含むことができる。バインダ溶液中に低分子量高分子または低濃度高分子がある主な利点は、高粘性高分子溶液が噴射しにくいことである。一般に、バインダ中に高分子量高分子が低濃度であるよりも低分子量高分子が高い濃度である方が好ましい。
溶解速度を改善する第3の方法は、乾燥粉末中の高分子をバインダ溶液でプレコートすることである。これにより確実に、1)粒子のすべての面に接着剤が付き、2)すべての反応と反応速度が一定になる、3)構造がより均質になり、4)反応が完全になる。
バインダが粉末上に噴射される2次元パターンは、所望の立体製品の断面である。バインダ溶媒は、また、製品のこの特定の断面に所望の色または色パターンを提供するために、染料やインク、顔料などの着色剤を含むことができる。
単一の2次元層に対して前述のプロセスが繰り返され、製造チャンバ(102)内で粉末の新しい層が前の層の上に付着される。次に、所望の製品の次の断面が、新しい粉末層内に作成される。バインダは、所望の製品の隣り合った層内の粒子を結合する働きもする。
このプロセスは、製造チャンバ(102)内の粉体層内で物体全体が形成されるまで続く。次に、接着剤により結合されていない余分な粉末がブラシで除去され、基本物体すなわち「未完成」物体が残る。野外または炉による乾燥によって物体が強化され、その密度がさらに減少する。
もう1つの実施形態によれば、高分子電解質の一方、すなわちカチオン高分子電解質とアニオン高分子電解質のどちらかが、未反応状態で低密度の粒子と混合される。高分子電解質が溶解する溶剤が混合物に加えられてスラリが形成される。低密度の粒子のスラリとカチオンまたはアニオン高分子電解質は、バインダが選択的に加えられる印刷可能材料を形成する。層が互いに隣り合って形成されて、バインダはスラリの個々の層の領域に塗布される。
バインダは、スラリを構成する高分子電解質と逆の電荷の高分子電解質を含む。バインダは、スラリ中の溶剤と混和する水または別の極性溶媒を含む。したがって、印刷可能なスラリが、カチオン高分子電解質の溶液を含む場合、バインダは、アニオン高分子電解質の溶液を含み、またはその逆でもよい。低密度の粒子は、80〜99.9重量%の濃度範囲で存在する。低密度の粒子と混合されたカチオンまたはアニオン高分子電解質は、約0.1〜約20重量%の濃度範囲で存在する。また、スラリ中にある高分子電解質と逆の極性に帯電した高分子電解質は、約0.1〜約20重量%の濃度範囲で存在する。これらの重量パーセントは、高分子電解質と低密度の粒子の乾燥合計重量に基づく。溶剤は、染料やインクまたは顔料などの着色剤を含むこともできる。
全部の個々の層が、その層内および層間のPECの形成により選択的に結合された後で、未加工物体がスラリ層から取り出され、残りの未反応のスラリが未加工物体から除去される。未反応スラリは、未完成物体を水槽に入れることにより洗浄することができる。結合されていないスラリは分散し、その中で結合されたPECと粒子は、最終製品としてそのままで残る。次に、その製品を野外でまたは炉を利用して乾燥させることができる。乾燥段階は、製品を強化し、その密度をさらに低くする働きをする。乾燥後に、シアノアクリレート接着剤や他の補強剤に浸漬することによって印刷された物体を強化することができる。
以上の説明は、本発明の実施形態を例示し説明するためにのみ示した。以上の説明は、網羅的なものでもなく、本発明を開示した厳密な形態に限定するものでもない。以上の教示を鑑みて多くの修正と変更が可能である。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。