JP2006254766A - インスリン生理活性を調節する活性を有するタンパク質 - Google Patents
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Abstract
【課題】 II型糖尿病におけるインスリン抵抗性の発生機構を解明するために、インスリン生理活性発現機構の初期段階においてシグナル伝達の異常を引き起こす分子、特に、インスリンレセプター又はIGFレセプターによるIRSのチロシンリン酸化を調節する分子、または、IRSのチロシンリン酸化以降のシグナル伝達を調節する分子を見出すことを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ジアシルグルセロールキナーゼ(DGK)ζのスプライシングバリアントである新規ポリペプチド、該ポリペプチドを有効成分とするIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤、ならびにIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤をスクリーニングする方法を提供する。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明は、ジアシルグルセロールキナーゼ(DGK)ζのスプライシングバリアントである新規ポリペプチド、該ポリペプチドを有効成分とするIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤、ならびにIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤をスクリーニングする方法を提供する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、インスリンの生理活性を調節し、IRSのチロシンリン酸化および糖取込みを調節する活性を有する新規ポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNAに関する。
糖尿病は、今や有病率が全人口の約5%を占め、高齢化社会を迎える21世紀においては更に患者数は増加し、深刻な社会問題になろうことが予想されている。
糖尿病は、インスリンの絶対的または相対的欠乏を原因とし、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)とインスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)に大別される。特に、II型糖尿病においては、インスリンが血中に存在するにも拘わらず、インスリンの生理活性が発現されない、いわゆる「インスリン抵抗性」が認められ、臨床上大きな問題となっている。
インスリンは、糖代謝制御をはじめとした広範な生理活性を有し、代謝維持に重要な役割を果たしていることが示されている。一方、インスリン様成長因子(IGF)は、多くの細胞の増殖および分化を誘導し、in vivo系においても、動物の正常な発生、発達および成長に必須であることが示されている。しかし、IGF活性の増強機構またはインスリン抵抗性の発生機構の詳細は、未だ不明である。
IGF及びインスリンは、細胞膜上のレセプターに結合後レセプターチロシンキナーゼを活性化し、これらが複数種のインスリンレセプター基質(IRS)をチロシンリン酸化、引き続きIRSのリン酸化チロシン残基を認識してSH2ドメインを持つさまざまなシグナル分子が結合し、下流のシグナル伝達系の活性化を引き起こす結果、広範な生理活性を発現すると考えられている。
したがって、IGF活性の増強やインスリン活性の抑制には、このシグナル伝達系のいずれかの段階で、他の因子のシグナルとのクロストークが起こるというメカニズムが想定される。
本発明者らは、II型糖尿病の原因と考えられるインスリン抵抗性の発生機構を研究する過程で、インスリン抵抗性の一部は、IRSに相互作用するタンパク質(IRSAP)がIRSのチロシンリン酸化の減弱を引き起こし、その結果、インスリン活性の抑制が起こることを発見した(特許文献1)。
すなわち、IRSと相互作用するタンパク質が、インスリンレセプター又はIGFレセプターによるIRSのチロシンリン酸化に及ぼす影響を解析することができれば、インスリン抵抗性発生の分子機構に新たな観点を与えるものと期待される。さらに、IRSと相互作用する新たな分子または新たな分子機構が明らかとなれば、IRS結合タンパク質のインスリンシグナル抑制活性を特異的に阻害するような薬剤をスクリーニングする系を容易に構築できると考えられる。
一方、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)は、ジアシルグリセロール(DG)をホスファチジン酸(PA)に分解する酵素であり、これらはいずれも細胞内においてセカンドメッセンジャーとして働いている。また、DGKζは、DGによって活性化されるPKCαをはじめとしたいくつかのタンパク質と相互作用し、アダプタータンパク質として機能することも明らかにされている(非特許文献1〜3)。
本発明は、II型糖尿病におけるインスリン抵抗性の発生機構を解明するために、インスリン生理活性発現機構の初期段階においてシグナル伝達の異常を引き起こす分子、特に、インスリンレセプター又はIGFレセプターによるIRSのチロシンリン酸化を調節する分子、または、IRSのチロシンリン酸化以降のシグナル伝達を調節する分子を見出すことを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、IRSと結合したDGKζがDGK活性を有しインスリン刺激によってその活性が変化すること、インスリン標的細胞では、全長DGKζと同時に触媒ドメインを欠いたスプライシングバリアントであるshort−form DGKζ(sDGKζ)が発現していること、sDGKζとDGKζはIRSとの結合で競合すること、更に、sDGKζの過剰発現は基底状態およびインスリン依存的な糖取込みを増強すること見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の(a)または(b)のポリペプチド:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(1)以下の(a)または(b)のポリペプチド:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(a)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(3)(2)記載のDNAを備えたベクター。
(4)(2)記載のDNAを備えた形質転換体。
(5)(1)記載のポリペプチドまたは(2)記載のDNAを有効成分とするIRSのチロシンリン酸化調節剤。
(6)(1)記載のポリペプチドまたは(2)記載のDNAを有効成分とする、糖取込み調節剤。
(4)(2)記載のDNAを備えた形質転換体。
(5)(1)記載のポリペプチドまたは(2)記載のDNAを有効成分とするIRSのチロシンリン酸化調節剤。
(6)(1)記載のポリペプチドまたは(2)記載のDNAを有効成分とする、糖取込み調節剤。
(7)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に被検物質を接触させる工程と、
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、
IRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法。
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、
IRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法。
(8)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に被検物質を接触させる工程と、
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、糖取込み調節剤のスクリーニング方法。
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、糖取込み調節剤のスクリーニング方法。
(9)下記(i)〜(iii)記載の工程を含むIRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法:
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
(10)下記(i)〜(iii)記載の工程を含む糖取込み調節剤のスクリーニング方法:
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
(11)下記(i)〜(iii)記載の工程を含むIRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法:
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質をIRSチロシンリン酸化調節剤の候補として選択する工程。
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質をIRSチロシンリン酸化調節剤の候補として選択する工程。
(12)下記(i)〜(iii)記載の工程を含む糖取込み調節剤のスクリーニング方法:
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質を糖取込み調節剤の候補として選択する工程。
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質を糖取込み調節剤の候補として選択する工程。
本発明により、IRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤が提供される。また、本発明により、IRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤をスクリーニングする方法が提供される。
本発明者らは、チロシンキナーゼ活性がほとんど検出されない酵母を用いたツーハイブリッドスクリーニングを行い、インスリンレセプター基質(IRS)と相互作用するタンパク質をコードする遺伝子の単離および同定を進めた。そして、スクリーニングによって得られたcDNAの全塩基配列を決定したところ、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)のアイソフォームの1つであるDGKζのスプライシングバリアントを得た。このcDNAは、DGKζのN末端部分に存在している、ほぼC1ドメイン(cPKC、nPKCなどがジアシルグリセロールと結合する部分にホモロジーが高いドメイン)のみからなるポリペプチドをコードしていた(実施例1参照)。本発明は上記知見に基づくものである。
一実施形態において本発明は、short form DGKζ(sDGKζ)およびsDGKζをコードするDNAに関する。本明細書中sDGKζは、IRSと相互作用するDGKζのスプライシングバリアントであって、DGKζの触媒ドメインを欠いたものをさす。sDGKとDGKζはIRSとの結合に関して競合し、sDGKζは、IRSのチロシンリン酸化を調節する活性、より具体的にはIGF−I依存的なIRS−1のチロシンリン酸化を増強し、IGF−I依存的なIRS−2のチロシンリン酸化を抑制する活性を有するとともに、糖取込みを調節する活性、具体的には糖取込みを増強する活性を有するポリペプチドである。本発明においてポリペプチドには、オリゴペプチドおよびタンパク質が包含される。
本発明においてIRSのチロシンリン酸化を調節する活性とは、該ポリペプチドが細胞内に産生された細胞または組織において、該ポリペプチドの発現がIRSのチロシンリン酸化の調節に関与することを意味する。さらに詳しくは、該ポリペプチドの発現がIRSのチロシンリン酸化を促進又は抑制する活性を有することを意味する。
本発明において糖取込みを調節する活性とは、該ポリペプチドが細胞内に産生された細胞または組織において、該ポリペプチドの発現が基底状態またはインスリンもしくはIGF刺激依存の細胞の糖取込み量の調節に関与することを意味する。さらに詳しくは、該ポリペプチドの発現が細胞の糖取込み量を促進又は抑制する活性を有することを意味する。
本発明のsDGKζの具体例としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。sDGKζには、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドが包含される。「機能的に同等」とは、対象となるポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドとしては、配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。当該ポリペプチドは、上記のsDGKζの活性、すなわちIRSと相互作用し、IRSのチロシンリン酸化を調節する活性および糖取込みを調節する活性を有する。
本発明のポリペプチドのうち、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドについては、例えば、配列番号2の塩基配列における一連の3塩基を、当業者に公知の解析ソフトを用いて、その塩基の組合わせ(すなわち、コドン)によりコードされている1つのアミノ酸に置き換えることにより得ることができる。また、例えば配列番号1に示すように、一旦そのアミノ酸配列が決定された本発明のポリペプチドについては、その配列を元に当業者に公知の手法、例えば、アミノ酸1つ1つを化学的に重合してポリペプチドを合成する方法(ペプチド合成法)に従って調製することができる。さらに、sDGKζをコードする塩基配列からなるDNAを含む組換えベクターを作製し、該ベクターを適切な宿主細胞中に導入して得られる形質転換体を培地に培養または飼育し、その培養物または飼育体から採取することによっても本発明のポリペプチドを得ることができる。ここで使用する組換えベクター、宿主細胞、培地、各操作法および条件等については、当業者に公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
配列番号1のアミノ酸配列における、1または複数のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換は、常用される技術、例えば、部位特異的変異誘発法(Zollerら、Nucleic Acids Res.10 6478−6500,1982)により、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNAの配列(例えば、配列番号2の塩基配列)を改変することにより実施することができる。
ここで、ポリペプチドの構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にポリペプチド全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)またはアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換が知られている。
従って、配列番号1のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換が生じた結果得られたアミノ酸配列からなる変異型ポリペプチドであっても、その変異が配列番号1に記載のアミノ酸配列の3次元構造において保存性が高い変異であって、その変異型ポリペプチドが上記sDGKζの活性を有しているのであれば、これらの変異型ポリペプチドもまた本発明のポリペプチドに包含される。ここで、複数とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。
また本発明においてsDGKζには、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドも包含される。
sDGKζは、脳、心臓、大腸、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤などインスリンやIGFの標的組織の多くでその発現が認められ、特に心臓、肝臓において強く発現される(実施例2参照)。
本発明はまた、sDGKζをコードするDNAに関する。sDGKζをコードするDNAの具体例としては、配列番号2の塩基配列からなるDNAが挙げられる。本発明のsDGKζをコードするDNAには、配列番号2の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAが包含される。ここで「機能的に同等」とは、対象となるDNAによってコードされるポリペプチドが、配列番号2の塩基配列からなるDNAによってコードされるポリペプチドと同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
あるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドをコードするDNAを調製する当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press(1989))を利用する方法が挙げられる。
配列番号2の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが挙げられる。当該DNAによってコードされるポリペプチドは、上記のsDGKζの活性、すなわちIRSと相互作用し、IRSのチロシンリン酸化を調節する活性および糖取込みを調節する活性を有する。
ストリンジェントな条件とは、DIG DNA Labeling kit(ベーリンガー・マンハイム社製、カタログ番号1175033)でプローブをラベルした場合に、32℃のDIG Easy Hyb溶液(ベーリンガー・マンハイム社製カタログ番号1603558)中でハイブリダイズさせ、50℃の0.5×SSC溶液(0.1%[w/v]SDSを含む)中でメンブレンを洗浄する条件(1×SSCは0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムである)を意味する。
すなわち、配列番号2に記載の塩基配列全長において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断によるDNA断片の変異、欠失、連結等により、部分的にその配列が変化したものであっても、これらの変異型DNAが配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、上記sDGKζの活性を有するポリペプチドをコードするDNAであれば、配列番号2に示した塩基配列との相違に関わらず、本発明のsDGKζをコー祖するDNAに含まれる。
また本発明においてsDGKζをコードするDNAには、配列番号2の塩基配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%の同一性、さらに好ましくは少なくとも99%の同一性を有する塩基配列からなるDNAも包含される。
本発明はまた、sDGKζをコードするDNAを備えたベクターに関する。本発明のベクターは、本発明のDNAを、一般的な遺伝子組み換え技術に従って適当なベクターに挿入することにより得ることができる。
本発明のDNAを挿入する適当なベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pUC118他)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pC194他)、酵母由来のプラスミド(例、pSH19他)、さらにバクテリオファージやレトロウィルスやワクシニアウィルス等の動物ウィルス等が利用できる。
また、挿入した遺伝子が確実に発現されるようにするため、該遺伝子の上流に適当な発現プロモーターを接続する。使用する発現プロモーターは、宿主に応じて当業者が適宜選択すればよく、例えば宿主が大腸菌である場合には、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、λ−PLプロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合にはSPO系プロモーター等が、宿主が酵母である場合にはPHO5プロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が、宿主が動物細胞である場合にはSV40由来プロモーター、レトロウィルスプロモーター等が、それぞれ使用できるが、これらに限定されない。
本発明のベクターには更に、所望により、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合部位等を挿入してもよい。
本発明はまた、sDGKζをコードするDNAを備えた形質転換体に関する。本発明の形質転換体は、前記ベクターを、常法または各宿主に対して一般に用いられる形質転換方法に従って、sDGKζが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
本発明のベクターの宿主への導入は、限定するものではないが、例えばカルシウムイオン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法を用いて実施することができる。
宿主としては、限定するものではないが、エシェリヒア属菌であるEscherichia coliの各種菌株、バチルス属菌であるBacillussubtilisの各種菌株、酵母としてはSaccharomyces cerevisiaeの各種菌株、動物細胞としてはCOS−7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、L6細胞およびSH−SY5Y細胞等が利用できる。
本発明のポリペプチドは、前記形質転換体を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養物から本発明のポリペプチドを回収することにより製造できる。ここで「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞もしくは培養菌体または細胞もしくは菌体の破砕物のいずれをも包含する。
本発明のポリペプチドはまた、他のポリペプチド(例、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインAその他)との融合型ポリペプチドとして発現させてもよい。このようにして発現させた融合型ポリペプチドは、適当なプロテアーゼ(例、トロンビンその他)を用いて切り出すことができる。
本発明者らは、DGKζがIRS、特にIRS−1およびIRS−2と結合する特性を有すること、およびDGKのアイソフォームのうちDGKζのみがIRSと結合することを見いだした。また、DGKζとIRSの結合にはC1ドメインが必要であること、ならびにIRS−1およびIRS−2に結合したDGKζがDGK活性を有することを見いだした(実施例5参照)。
そして、DGKζが、該ポリペプチドを発現する細胞内におけるチロシンリン酸化に関する活性について、以下のような特徴を有することを見いだした。293T細胞では、IGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化を抑制するものの、IRS−2のチロシンリン酸化を増強する(実施例5参照)。さらに、DGKζが、IRSのチロシンリン酸化以降の(さらに下流の)シグナル伝達の調節に関して以下のような特性を有することも見いだした。DGKζはIGF−I刺激に応答したAktの活性化には影響しないが、Erkの活性化を抑制する(実施例5参照)。これらの結果は、DGKζがIGF−IによるPI 3−キナーゼ経路の活性化には影響を与えないが、MAPキナーゼ経路の活性化を抑制することを示すものである。以上から、IRSと結合したDGKζにおけるDGK活性が、インスリンまたはIGF−Iの生理活性、すなわちIRSのチロシンリン酸化および糖取込みを調節していることが示された。
一方、sDGKζは、DGKζのうちIRSとの結合に必須の領域であるC1ドメインの少なくとも一部を含むが、DGKζの触媒ドメインおよびAnkyrin repeatを含まない(図1参照)。sDGKζは、DGKζと同様に、IRS、特にIRS−1およびIRS−2と結合する特性を有する。そして、発現量依存的に、DGKζとIRS−1およびIRS−2との結合を抑制する、すなわちsDGKζはIRSとの結合に関してDGKζと競合する。
また、sDGKζは、該ポリペプチドを発現する細胞内におけるチロシンリン酸化に関する活性について、DGKζと相反する特徴を有する。すなわち、sDGKζは、293T細胞で、IGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化を増強するものの、IRS−2のチロシンリン酸化を抑制する(実施例5参照)。従って、本発明のsDGKζは、IRS−1およびIRS−2のIGF−I誘導性チロシンリン酸化を調節する活性を有するものである。
さらに、sDGKζは、IRSのチロシンリン酸化以降の(さらに下流の)シグナル伝達の調節に関しても、DGKと相反する特徴を有する。すなわち、sDGKζはIGF−I刺激に応答したAktの活性化には影響しないが、Erkの活性化を増強する。また、sDGKζは発現量依存的にErkの活性化を増強するが、Aktの活性化には影響しない(実施例5参照)。これらの結果は、sDGKζがIGF−IによるPI 3−キナーゼ経路の活性化には影響を与えないが、MAPキナーゼ経路の活性化を増強することを示すものである。
さらに、本発明者らは、sDGKζを細胞内で過剰発現させると、基底状態およびインスリン依存的な糖取込みが促進されることを見いだした(実施例6参照)。
以上から、IRSと結合したDGKζにおけるDGK活性がインスリン生理活性、すなわちIRSのチロシンリン酸化および糖取込みを調節していること、IRSとの結合に関してDGKζと競合するsDGKζによりインスリン生理活性、すなわちIRSのチロシンリン酸化および糖取込みを調節できることが示された。
従って、一実施形態において本発明は、sDGKζおよび/またはsDGKζをコードするDNAを有効成分とするIRSのチロシンリン酸化調節剤に関する。さらに本発明は、sDGKζおよび/またはsDGKζをコードするDNAを有効成分とする糖取込み調節剤に関する。本発明のIRSのチロシンリン酸化調節剤は、細胞におけるIRSのチロシンリン酸化を調節することができ、より具体的にはIRS−1のチロシンリン酸化を増強し、IRS−2のチロシンリン酸化を抑制することができる。本発明の糖取込み調節剤は、細胞の糖取込みを増強することができる。sDGKζおよびsDGKζをコードするDNAについては上記のとおりである。本発明のIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤により、インスリンの生理活性を調節できることから、これらは糖尿病に対する治療薬、特にII型糖尿病におけるインスリン抵抗性に対する治療薬として期待できる。
sDGKζおよび/またはsDGKζをコードするDNAは、通常は薬学的に許容される一つ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製剤化することができる。投与経路は、最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与を挙げることができる。
sDGKζをコードするDNAを投与する場合は、該DNAを注射により直接投与する方法のほか、該DNAが組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。また、本発明のDNAをリポソームなどのリン脂質小胞に導入し、そのリポソームを投与する方法を採用してもよい。sDGKζをコードするDNAの投与経路としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、免疫系組織(骨髄、リンパ節など)に局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与経路を採用することもできる。
本発明はまた、IRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤のスクリーニング方法に関する。
本発明のスクリーニング方法の一態様は、DGKζおよび/またはSDGKζの発現を指標とする方法である。ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現量を変化させる物質は、IRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤の候補物質となることが期待される。より具体的には、DGKζの発現を促進するおよび/またはsDGKζの発現を抑制する物質は、IRS−1のチロシンリン酸化を抑制しIRS−2のチロシンリン酸化を増強する物質および糖取込みを抑制する物質として期待できる。一方、DGKζの発現を抑制させるおよび/またはsDGKζの発現を促進する物質は、IRS−1のチロシンリン酸化を増強しIRS−2のチロシンリン酸化を抑制する物質および糖取込みを増強する物質として期待でき、さらには、糖尿病、特にII型糖尿病におけるインスリン抵抗性に対する医薬品候補物質となることが期待される。
本発明において、DGKζは、ジアシルグリセロール(DG)をホスファチジン酸(PA)に分解する酵素のアイソフォームの1つを指す。DGKζの具体例としては、配列番号3の塩基配列からなるポリペプチドが挙げられる。DGKζには、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドが包含される。配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等のポリペプチドとしては、配列番号3のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。当該ポリペプチドは、DGKζの活性、例えば、ジアシルグリセロールキナーゼ活性を有する。
DGKζをコードするDNAの具体例としては、配列番号4の塩基配列からなるDNAが挙げられる。DGKζをコードするDNAには、配列番号4の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAが包含される。配列番号4の塩基配列からなるDNAと機能的に同等のDNAとしては、配列番号4の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが包含される。当該DNAによってコードされるポリペプチドは、DGKζの活性、例えば、ジアシルグリセロールキナーゼ活性を有する。
一実施形態において本発明のスクリーニング方法は、ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に被検物質を接触させる工程と、前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程とを含む。
本方法においては、まず、ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に、被検物質を接触させる。本発明のスクリーニング方法において細胞の由来としては、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、鳥など、ペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。また本発明のスクリーニング方法においては、被検物質も特に制限されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、ならびに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられる。
ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞への被検物質の接触は、通常、ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞の培養液に被検物質を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検物質がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより接触を行うことができる。
本方法においては、次いで、該DGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する。ここで発現には、転写および翻訳の双方が含まれる。発現の検出は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT−PCR法を実施することによって転写レベルの測定を行うことができる。また、ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞からタンパク質画分を回収し、DGKζおよび/またはsDGKζの発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、翻訳レベルを検出することもできる。さらに、DGKζおよび/またはsDGKζに対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施してDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出することにより、翻訳レベルの検出を行うことも可能である。DGKζおよび/またはsDGKζの検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
DGKζおよび/またはsDGKζの発現は、レポーター遺伝子を用いて検出することもできる。
本方法においては、まず、DGKζおよび/またはsDGKζの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検物質を接触させる。機能的に結合したとは、DGKζおよび/またはsDGKζの転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、DGKζおよび/またはsDGKζの転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、DGKζおよび/またはsDGKζの転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであればよい。当業者であれば、DGKζおよび/またはsDGKζのcDNA塩基配列に基づいて、ゲノム中に存在するDGKζおよび/またはsDGKζの転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、変化させる物質を選択する。
本発明のスクリーニング方法の別の態様は、sDGKζの発現を指標とし、被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する方法である。sDGKζの発現を促進する物質は、IRSチロシンリン酸化調節剤、特にIRS−1のチロシンリン酸化を増強しIRS−2のチロシンリン酸化を抑制する物質、および糖取込み調節剤、特に糖取込みを増強する物質の候補物質となることが期待される。さらには、被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べてsDGKζの発現を促進する物質は、糖尿病、特にII型糖尿病におけるインスリン抵抗性に対する医薬品候補物質となることが期待される。
従って、一実施形態において本発明は、以下の(i)〜(iii)の工程を含むスクリーニング方法に関する:
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。
ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、使用する細胞、被検物質、被検物質と細胞との接触等については、上記と同様である。
本発明のスクリーニング方法の別の態様は、DGKζとIRSとの相互作用を指標とする方法である。IRSとの相互作用に関してDGKζと競合し、DGKζとIRSとの相互作用、すなわち結合を阻害する物質は、IRSチロシンリン酸化調節剤、特にIRS−1のチロシンリン酸化を増強しIRS−2のチロシンリン酸化を抑制する物質として、および糖取込み調節剤、特に糖取込みを増強する物質の候補として期待される。さらには、DGKζとIRSの相互作用を阻害する物質は、糖尿病、特にII型糖尿病におけるインスリン抵抗性に対する医薬品候補物質となることが期待される。
従って、一実施形態において本発明は、以下の(i)〜(iii)の工程を含むスクリーニング方法に関する:
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質をIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤の候補として選択する工程。
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質をIRSチロシンリン酸化調節剤および糖取込み調節剤の候補として選択する工程。
本方法において、IRSに相互作用したDGKζの測定は、DGKζとIRSとの相互作用の阻害または促進が確認できる方法であれば特に制限されないが、例えば、一例として以下のような方法が挙げられる。
例えば、標識(例えば、RI標識、蛍光標識など)を付したIRSを、非標識の被検物質とともに混合して用いる通常の競合アッセイ法が挙げられる。
また、ツーハイブリッド系の技術を利用し、形質転換体でのレポーター遺伝子の発現量を測定することにより検出する、ツーハイブリッドスクリーニング方法によっても実施できる。ツーハイブリッドスクリーニングは、当該技術分野で公知の方法を用いて実施することができるが、具体的には、以下のように行うことができる。
本発明のDGKζと転写制御因子のDNA結合ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターと、IRSと転写制御因子の転写活性化ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターとを導入した形質転換体内で、本発明のDGKζとIRSとが結合することによりレポーター遺伝子の転写が活性化されるツーハイブリッドスクリーニングにおいて、被験物質の存在化および非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量を比較することにより、被験物質がDGKζとIRSとの相互作用、すなわち結合を阻害または促進するか否かを確認する。
レポーター遺伝子およびレポーター遺伝子の発現量を測定する方法については、上記と同様である。宿主細胞としては、酵母、大腸菌等が使用可能であるが、特に、酵母CG−1945株(遺伝子型;MATa,ura3−52,his3−200,lys2−801,ade2−101,trp1−901,leu2−3,112,gal4−542,gal80−538,cyhr2,LYS2::GAL1UAS−GAL1TATA−HIS3,URA3::GAL417−mer(x3)−CyC1TATA−lacZ)を用いるのが好ましい。転写制御因子としては、GAL4等を利用することができる。
本発明のスクリーニング方法においては、被検物質の評価は、被検物質非存在下と比較して、2倍以上発現を増加または減少させる被検物質、または2倍以上相互作用を阻害する物質を選択することが好ましい。
以下に実施例を示すことにより本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(一般的方法)
大腸菌を用いたDNAの取り扱い
プラスミドの構築などの一般的な遺伝子操作の宿主としてはDH5α(遺伝子型;supE44 ΔlacU169(φ80lacZ ΔM15)hsdR1 recA1 endA1 gyrA96 thi−1 relA1)、XL1−Blue(遺伝子型;supE44 hsdR17 recA1 gyrA46 thi relA1 lac−F’[proAB+lacIq lacZΔM15 Tn10(tetr)])を用い、通常の培養にはTY培地(1%ポリペプトン,0.5%酵母抽出物,0.5%NaCl,pH7.0)を用いた。ベクターのもつ抗生物質耐性マーカーにより、アンピシリン(50μg/ml)またはカナマイシン(液体培地:50μg/ml、固体培地:15μg/ml)を加え、固体培地には上記の培地にアガーを1.5%添加して作成した。DNAの制限酵素による切断、結合、平滑末端化、アガロースゲル電気泳動、大腸菌の形質転換などの操作は標準的なプロトコールに従った(Sambrook et al.1989)。
大腸菌を用いたDNAの取り扱い
プラスミドの構築などの一般的な遺伝子操作の宿主としてはDH5α(遺伝子型;supE44 ΔlacU169(φ80lacZ ΔM15)hsdR1 recA1 endA1 gyrA96 thi−1 relA1)、XL1−Blue(遺伝子型;supE44 hsdR17 recA1 gyrA46 thi relA1 lac−F’[proAB+lacIq lacZΔM15 Tn10(tetr)])を用い、通常の培養にはTY培地(1%ポリペプトン,0.5%酵母抽出物,0.5%NaCl,pH7.0)を用いた。ベクターのもつ抗生物質耐性マーカーにより、アンピシリン(50μg/ml)またはカナマイシン(液体培地:50μg/ml、固体培地:15μg/ml)を加え、固体培地には上記の培地にアガーを1.5%添加して作成した。DNAの制限酵素による切断、結合、平滑末端化、アガロースゲル電気泳動、大腸菌の形質転換などの操作は標準的なプロトコールに従った(Sambrook et al.1989)。
プラスミド
p3×FLAG−CMV−DGKζ及びDGKζの欠失変異体はTopham博士(University of Utah,U.S.A)に御供与頂いた。pEGFP−DGKα、pEGFP−DGKγ、pEGFP−DGKδ、pEGFP−DGKηは坂根郁夫博士(札幌医科大学医学部)に御供与頂いた。pGEX−short form DGKζは、スクリーニングによって取得されたcDNA断片をEcoRI−XhoI断片で切断し、pGEX−4T−2のEcoRI−XhoI部位に挿入し、pEGFP−short form DGKζはスクリーニングによって取得されたcDNA断片をEcoRI−XhoI断片で切断し、pEGFP(CLONTECH)に挿入した。
p3×FLAG−CMV−DGKζ及びDGKζの欠失変異体はTopham博士(University of Utah,U.S.A)に御供与頂いた。pEGFP−DGKα、pEGFP−DGKγ、pEGFP−DGKδ、pEGFP−DGKηは坂根郁夫博士(札幌医科大学医学部)に御供与頂いた。pGEX−short form DGKζは、スクリーニングによって取得されたcDNA断片をEcoRI−XhoI断片で切断し、pGEX−4T−2のEcoRI−XhoI部位に挿入し、pEGFP−short form DGKζはスクリーニングによって取得されたcDNA断片をEcoRI−XhoI断片で切断し、pEGFP(CLONTECH)に挿入した。
細胞培養
COS−7細胞(東京大学大学院新領域創成科学研究科片岡宏誌博士から御供与頂いた)及び、HEK(human embryonic kidney)293T細胞(東京大学大学院農学生命科学研究科塩田邦郎博士から御供与頂いた)は、ダルベッコ改変イーグル培地(ニッスイ)に最終濃度10%になるように仔ウシ血清(ニチレイ)を加え、抗生物質を100unit/mlペニシリン(萬有製薬)、50μg/mlストレプトマイシン(Nacalai tesque)、100μg/mlカナマイシン(Nacalai tesque)となるように加えた培地で150cm2組織培養フラスコ(IWAKI)を用い、37℃、5%CO2インキュベーター条件下で培養した。培地交換は3日おきに行い、植え継ぎはPBS(リン酸緩衝化食塩水,ニッスイ)+0.25%トリプシン+0.02%EDTAで細胞を剥がして行った。
COS−7細胞(東京大学大学院新領域創成科学研究科片岡宏誌博士から御供与頂いた)及び、HEK(human embryonic kidney)293T細胞(東京大学大学院農学生命科学研究科塩田邦郎博士から御供与頂いた)は、ダルベッコ改変イーグル培地(ニッスイ)に最終濃度10%になるように仔ウシ血清(ニチレイ)を加え、抗生物質を100unit/mlペニシリン(萬有製薬)、50μg/mlストレプトマイシン(Nacalai tesque)、100μg/mlカナマイシン(Nacalai tesque)となるように加えた培地で150cm2組織培養フラスコ(IWAKI)を用い、37℃、5%CO2インキュベーター条件下で培養した。培地交換は3日おきに行い、植え継ぎはPBS(リン酸緩衝化食塩水,ニッスイ)+0.25%トリプシン+0.02%EDTAで細胞を剥がして行った。
細胞抽出液の調製及びタンパク濃度定量
イムノブロッティング分析に用いる細胞は、ディッシュから培地を除去した後、氷上で溶解バッファを400μl(または200μl)加え、細胞を溶解し、cell scraper(Nunc)を用いて回収後、パスツールピペットを用いて20回ピペッティングした。これを14,000×g、4℃で20分間遠心し、細胞抽出液を作製した後、−80℃で保存した。
イムノブロッティング分析に用いる細胞は、ディッシュから培地を除去した後、氷上で溶解バッファを400μl(または200μl)加え、細胞を溶解し、cell scraper(Nunc)を用いて回収後、パスツールピペットを用いて20回ピペッティングした。これを14,000×g、4℃で20分間遠心し、細胞抽出液を作製した後、−80℃で保存した。
リン酸カルシウム法により遺伝子導入を行った293T細胞を用いてIGF−I刺激後の細胞内シグナルの解析を行う際は、無血清培地[ダルベッコ改変イーグル培地(ニッスイ),0.1%BSA(ウシ血清アルブミン,Nacalai tesque),100unit/mlペニシリン(萬有製薬)、50μg/mlストレプトマイシン(Nacalai tesque)、100μg/mlカナマイシン(Nacalai tesque)]で24時間インキュベートし、細胞を静止期に同調した。この細胞を、100ng/mlIGF−I[組換えヒトIGF−I(藤沢薬品株式会社 大熊利明氏に御供与頂いた)を0.3N酢酸に溶解したもの]で種々の時間処理し、溶解バッファで掻き取った後、細胞抽出液を1mg/mlに調整し、解析まで−80℃で保存した。
凍結保存した細胞抽出液を融解後、Bio−Rad Protein Assay Kit(Bio−Rad)を用いて、ブラッドフォード法により、595nmの吸光度を測定してタンパク濃度を算出した。詳細は、添付されていたプロトコールに従った。
タンパク質のSDS−PAGE及びイムノブロッティング
SDS−PAGEは、Hoefer Standard Slab Gel Units SE600(Amersham−Pharmacia)を用いて、50〜75Vの定電圧下で10時間〜15時間泳動を行った。あるいは、AE−6500ラピダス・ミニスラブ電気泳動槽(ATTO)を用いて、30mAの定電流下で1〜3時間泳動を行った。分離ゲルのアクリルアミド濃度は、〜50kDaタンパク質を検出する場合で12%,50〜100kDaで10%,100kDa〜で7%とした。
SDS−PAGEは、Hoefer Standard Slab Gel Units SE600(Amersham−Pharmacia)を用いて、50〜75Vの定電圧下で10時間〜15時間泳動を行った。あるいは、AE−6500ラピダス・ミニスラブ電気泳動槽(ATTO)を用いて、30mAの定電流下で1〜3時間泳動を行った。分離ゲルのアクリルアミド濃度は、〜50kDaタンパク質を検出する場合で12%,50〜100kDaで10%,100kDa〜で7%とした。
ニトロセルロース膜(BA−85,Schleicher&Schuell)への転写はTrans Blot Cell(Bio−Rad)を用い、200mAの定電流下で〜50kDaタンパク質を検出する場合4時間、50〜100kDaで4.5時間、100〜150kDaで5時間,150kDa〜で5.5〜6時間行った。
転写終了後、ニトロセルロース膜をrinsing buffered solution[10mM Tris−HCl(pH7.2),50mM NaCl,1mM EDTA]で洗浄した後、ブロッキングバッファ溶液(BBS;rinsing buffered solution+3%ウシ血清アルブミン,0,025%NaN3)に浸し、室温で1時間、あるいは4℃で一晩ブロッキングした。抗原抗体反応は以下の方法で行った。すなわち、ブロッキング済のニトロセルロース膜を、抗GFP抗体(Santa Cruz)及び抗FLAG M2抗体(SIGMA)、抗DGKζ抗体(Topham博士に御供与頂いた,Topham et al.,Nature 394:697−700,1998)、抗リン酸化チロシン抗体(ICN)、抗phospho−Erk抗体[phospho−p44/42 MAPキナーゼ(Thr202/Tyr204)](New England BioLabs)、抗phospho−Akt抗体(Ser473)(New England BioLabs)の希釈液(BBSを用いて希釈)とともにパッキングし、室温で2時間、あるいは4℃で一晩インキュベートした。続いて、Tris buffered saline−Tween 20[TBS−T;20mM Tris−HCl(pH7.6),137mM NaCl,1mM EDTA,0.1%Tween 20]で10分間1回、5分間2回洗浄を行った。次に、ホースラディッシュペルオキシダーゼを結合した抗マウスIgG抗体または抗ウサギIgG抗体とともにパッキングし、40分〜2時間インキュベートした後、TBS−Tで先と同様に洗浄した。なお、室温での抗原抗体反応は、ベリーダンサー上で行った。
発光反応はEnhanced chemiluminescence kit(ECL kit,Du Pond)を用い、添付されたプロトコールに従って行い、X線フィルム(X−Omat,Kodak)に露光した。現像・定着後、分子量マーカーとの位置関係から目的のバンドを特定した。
(実施例1)酵母ツーハイブリッドスクリーニングを用いたIRSと結合するタンパク質の単離および同定
[方法]
出芽酵母の培養方法
出芽酵母株はCG−1945(遺伝子型;MATa,ura3−52,his3−200,lys2−801,ade2−101,trp1−901,leu2−3,112,gal4−542,gal80−538,cyhr2,LYS2::GAL1UAS−GAL1TATA−HIS3,URA3::GAL417−mer(x3)−CyC1TATA−lacZ)を用い、培養にはYPD(1%酵母抽出物,2%ポリペプトン,2%グルコース)、もしくは最小培地としてSD(Sherman et al.,1986)を用いた。またマーカーとして適宜アミノ酸を加え、SD/−His/−Leu/−Trp[0.67% yeast nitrogen base(w/o amino acid),1%グルコース,0.03%L−Isoleucine,0.15%L−Valine,0.02%L−Adenine hemisulfate salt,0.02%L−Arginine HCl,0.03%L−Lysine HCl,0.02%L−Methione,0.05%L−Phenylalanine,0.2%L−Threonine,0.02%L−Uracil]、SD/−Leu/−Trp(SD/−His/−Leu/−Trp+0.02%L−Histidine HCl monohydrate)、またはSD/−Trp(SD/−Leu/−Trp+0.1%L−Leucine)を用いた。固体培地は上記の培地にアガーを1.5%添加して作成した。
[方法]
出芽酵母の培養方法
出芽酵母株はCG−1945(遺伝子型;MATa,ura3−52,his3−200,lys2−801,ade2−101,trp1−901,leu2−3,112,gal4−542,gal80−538,cyhr2,LYS2::GAL1UAS−GAL1TATA−HIS3,URA3::GAL417−mer(x3)−CyC1TATA−lacZ)を用い、培養にはYPD(1%酵母抽出物,2%ポリペプトン,2%グルコース)、もしくは最小培地としてSD(Sherman et al.,1986)を用いた。またマーカーとして適宜アミノ酸を加え、SD/−His/−Leu/−Trp[0.67% yeast nitrogen base(w/o amino acid),1%グルコース,0.03%L−Isoleucine,0.15%L−Valine,0.02%L−Adenine hemisulfate salt,0.02%L−Arginine HCl,0.03%L−Lysine HCl,0.02%L−Methione,0.05%L−Phenylalanine,0.2%L−Threonine,0.02%L−Uracil]、SD/−Leu/−Trp(SD/−His/−Leu/−Trp+0.02%L−Histidine HCl monohydrate)、またはSD/−Trp(SD/−Leu/−Trp+0.1%L−Leucine)を用いた。固体培地は上記の培地にアガーを1.5%添加して作成した。
酵母の形質転換
スモールスケールでの形質転換は以下の方法に従った。酵母をYPD 4mlでOD260=0.2〜0.3となるまで培養した後、培養液を1.5mlチューブに3本に分注し、1,000×gで30秒間遠心後、菌体を回収した。次に1×TE/LiAc(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,0.1M 酢酸リチウム,pH7.5)を1ml加えて懸濁し、このうち0.1mlを新しい1.5mlチューブに移した。これにDNA0.1μg,1×PEG/LiAc(1×TE/LiAc+40%PEG6000)0.6mlを入れ攪拌した後、30℃で30分間インキュベートした。DMSO 70μlを加え攪拌した後、42℃で15分間インキュベートした。1,000×gで5分間遠心後、上清を取り除き、沈殿を滅菌水に縣濁して適当なアミノ酸マーカーを含むSDプレートに播種した。
スモールスケールでの形質転換は以下の方法に従った。酵母をYPD 4mlでOD260=0.2〜0.3となるまで培養した後、培養液を1.5mlチューブに3本に分注し、1,000×gで30秒間遠心後、菌体を回収した。次に1×TE/LiAc(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,0.1M 酢酸リチウム,pH7.5)を1ml加えて懸濁し、このうち0.1mlを新しい1.5mlチューブに移した。これにDNA0.1μg,1×PEG/LiAc(1×TE/LiAc+40%PEG6000)0.6mlを入れ攪拌した後、30℃で30分間インキュベートした。DMSO 70μlを加え攪拌した後、42℃で15分間インキュベートした。1,000×gで5分間遠心後、上清を取り除き、沈殿を滅菌水に縣濁して適当なアミノ酸マーカーを含むSDプレートに播種した。
ラージスケールでの形質転換は以下の方法に従った。酵母をSD/−Trp 50mlでOD260=0.2〜0.3となるまで培養した後、培養液をYPD 300mlに移し、30℃で3時間インキュベートした。この培養液を50mlの遠心管8本に分注し、1,000×gで5分間遠心後、上清を除去した。次に、酵母の沈殿を1本あたり5mlの滅菌水に懸濁し、これらを2本に20mlずつ集めた。1,000×gで5分間遠心後、上清を除去した。酵母の沈殿に1×TE/LiAc 1mlを加えて懸濁し、15mlの遠心管1本にまとめた。これにcDNAライブラリー100μg,1×PEG/LiAc 9mlを入れ攪拌した後、30℃で30分間インキュベートした。DMSO 1mlを加え攪拌した後、42℃で15分間インキュベートした。1,000×gで5分間遠心後、上清を取り除き、沈殿を滅菌水に懸濁して、適当なアミノ酸マーカーを含むSDプレート20枚に分けて播種した。
β−ガラクトシダーゼアッセイ
適当なアミノ酸マーカーを含むSDプレートの上にニトロセルロースフィルター(Schleicher&Schuell)を置き、このフィルター上にコロニーを播種し培養した。2日後、フィルターを取り出し、液体窒素をかけて細胞を破壊した。新しいディッシュに濾紙を置き、3mlのZバッファ/X−gal溶液[Zバッファ(Na2HPO4・7H2O 16.1mg/ml,NaH2PO4・H2O 5.5mg/ml,KCl 0.75mg/ml,MgSO4・7H2O 0.246mg/ml,pH7.0)3mlにβ−メルカプトエタノール 8.1μl,X−gal溶液(X−gal;5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド 3mgをN,N−ジメチルホルムアミド 30μlに溶解したもの)30μlを混合して作成]をしみこませ、この上に破壊した細胞の乗ったフィルターを置き、30℃で2時間インキュベートした。
適当なアミノ酸マーカーを含むSDプレートの上にニトロセルロースフィルター(Schleicher&Schuell)を置き、このフィルター上にコロニーを播種し培養した。2日後、フィルターを取り出し、液体窒素をかけて細胞を破壊した。新しいディッシュに濾紙を置き、3mlのZバッファ/X−gal溶液[Zバッファ(Na2HPO4・7H2O 16.1mg/ml,NaH2PO4・H2O 5.5mg/ml,KCl 0.75mg/ml,MgSO4・7H2O 0.246mg/ml,pH7.0)3mlにβ−メルカプトエタノール 8.1μl,X−gal溶液(X−gal;5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド 3mgをN,N−ジメチルホルムアミド 30μlに溶解したもの)30μlを混合して作成]をしみこませ、この上に破壊した細胞の乗ったフィルターを置き、30℃で2時間インキュベートした。
プラスミドの大腸菌への回収
適当なアミノ酸マーカーを含むSD液体培地4mlで陽性コロニーを培養し、この培養液を3本の1.5mlチューブに移し、1,000×gで30秒間遠心後、上清を除去した。次に、yeast lysis solution(2%TritonX−100,1%SDS,100mM NaCl,10mM Tris,1.0mM EDTA,pH8.0)0.2ml、フェノール:クロロホルム(1:1)0.2ml、酸洗浄ガラスビーズ(0.5mmのガラスビーズを一晩濃硝酸に浸した後、水で数回洗浄し、エタノールで1回洗浄し乾燥させた)0.3gを加え、5分間攪拌した後、10,000×gで5分間遠心し、上清を新しい1.5mlチューブに移した。エタノールによりDNAを沈殿し、TE 20μlに溶解した。この溶液を用いて大腸菌を形質転換し、アンピシリン耐性を賦与するプラスミドを回収した。
適当なアミノ酸マーカーを含むSD液体培地4mlで陽性コロニーを培養し、この培養液を3本の1.5mlチューブに移し、1,000×gで30秒間遠心後、上清を除去した。次に、yeast lysis solution(2%TritonX−100,1%SDS,100mM NaCl,10mM Tris,1.0mM EDTA,pH8.0)0.2ml、フェノール:クロロホルム(1:1)0.2ml、酸洗浄ガラスビーズ(0.5mmのガラスビーズを一晩濃硝酸に浸した後、水で数回洗浄し、エタノールで1回洗浄し乾燥させた)0.3gを加え、5分間攪拌した後、10,000×gで5分間遠心し、上清を新しい1.5mlチューブに移した。エタノールによりDNAを沈殿し、TE 20μlに溶解した。この溶液を用いて大腸菌を形質転換し、アンピシリン耐性を賦与するプラスミドを回収した。
酵母ツーハイブリッド系を用いたIRS結合タンパク質(IRSAP)のクローニング
Baitとしてrat IRS−1 cDNA(東京大学医学部門脇孝博士から供与された)をpAS2−1 Nde I−BamHI部位に導入したものを、CG−1945にスモールスケールで形質転換し、SD/−Trpプレートに播種した。このスモールスケール形質転換によりプレートに生えてきたコロニーを再び液体培地SD/−Trpで培養し、これにhuman placenta cDNAライブラリー(Clontech)がpACT2のEcoR I−Xho I部位に導入されたものをラージスケールで形質転換し、SD/−His/−Leu/−Trp+0.5mM 3AT(3−アミノ−1,2,4−トリアゾール,SIGMA)プレート20枚に分けて播種した。この際、一部をSD/−Leu/−Trpプレートに播種し、スクリーニングクローン数を計算した。以上2回の形質転換によりbait及びcDNAライブラリーが導入され、プレート上に生えてきたコロニーについてβ−ガラクトシダーゼアッセイを行った。このβ−ガラクトシダーゼアッセイにおいて陽性なコロニーは、さらにプラスミドの大腸菌への回収を行った。
Baitとしてrat IRS−1 cDNA(東京大学医学部門脇孝博士から供与された)をpAS2−1 Nde I−BamHI部位に導入したものを、CG−1945にスモールスケールで形質転換し、SD/−Trpプレートに播種した。このスモールスケール形質転換によりプレートに生えてきたコロニーを再び液体培地SD/−Trpで培養し、これにhuman placenta cDNAライブラリー(Clontech)がpACT2のEcoR I−Xho I部位に導入されたものをラージスケールで形質転換し、SD/−His/−Leu/−Trp+0.5mM 3AT(3−アミノ−1,2,4−トリアゾール,SIGMA)プレート20枚に分けて播種した。この際、一部をSD/−Leu/−Trpプレートに播種し、スクリーニングクローン数を計算した。以上2回の形質転換によりbait及びcDNAライブラリーが導入され、プレート上に生えてきたコロニーについてβ−ガラクトシダーゼアッセイを行った。このβ−ガラクトシダーゼアッセイにおいて陽性なコロニーは、さらにプラスミドの大腸菌への回収を行った。
塩基配列の決定
スクリーニングによって取得された、DGKζ遺伝子を含む約2.0kbpのEcoRI−XhoI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)に導入した。その後EcoRI−HindIII断片、HindIII−XhoI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)に再導入した。さらに、EcoRI−HindIII断片を導入したものからApaI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)導入し、HindIII−XhoI断片を導入したものからSmaI断片、PstI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)導入した。これらを鋳型DNAとしてBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)及び、ABI PRISM 3100−Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて、5’側と3’側の両方向に塩基配列を決定した。PCRのプライマーには、M13U(5’−FCGACGTTGTAAAACGACGGCCAGT−3’(配列番号5),Amersham Biosciences)及びM13R(5’−FTTTCACACAGGAAACAGCTATGAC−3’(配列番号6),Amersham Biosciences)を用いた。また、決定した塩基配列の解析は、塩基配列解析用ソフト DYNASIS(日立)及び、BLASTサーバー(URL= http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、UCSC Genome Browser(URL=http://genome.ucsc.edu/)を用いて行った。
スクリーニングによって取得された、DGKζ遺伝子を含む約2.0kbpのEcoRI−XhoI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)に導入した。その後EcoRI−HindIII断片、HindIII−XhoI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)に再導入した。さらに、EcoRI−HindIII断片を導入したものからApaI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)導入し、HindIII−XhoI断片を導入したものからSmaI断片、PstI断片をpBluescript−KS+(Stratagene)導入した。これらを鋳型DNAとしてBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)及び、ABI PRISM 3100−Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて、5’側と3’側の両方向に塩基配列を決定した。PCRのプライマーには、M13U(5’−FCGACGTTGTAAAACGACGGCCAGT−3’(配列番号5),Amersham Biosciences)及びM13R(5’−FTTTCACACAGGAAACAGCTATGAC−3’(配列番号6),Amersham Biosciences)を用いた。また、決定した塩基配列の解析は、塩基配列解析用ソフト DYNASIS(日立)及び、BLASTサーバー(URL= http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、UCSC Genome Browser(URL=http://genome.ucsc.edu/)を用いて行った。
[結果]
スクリーニングにより得られたcDNAは354bp、118アミノ酸からなるORF(オープンリーディングフレーム)をコードしている
スクリーニングにより得られたプラスミドは、約2.0kbpからなるcDNAを含んでいた。そこで、この約2.0kbpからなるcDNAの全塩基配列を決定したところ、354bp、118アミノ酸からなるORFが存在し、これまで報告されているDGKζと相同な部分が一部存在していることが分かった。
スクリーニングにより得られたcDNAは354bp、118アミノ酸からなるORF(オープンリーディングフレーム)をコードしている
スクリーニングにより得られたプラスミドは、約2.0kbpからなるcDNAを含んでいた。そこで、この約2.0kbpからなるcDNAの全塩基配列を決定したところ、354bp、118アミノ酸からなるORFが存在し、これまで報告されているDGKζと相同な部分が一部存在していることが分かった。
short form DGKζcDNAは、DGKζcDNAのスプライシングバリアントであり、DGKζcDNAと282bp、94アミノ酸が相同な配列である
スクリーニングにより得られたcDNAの塩基配列を、BLASTサーバー、UCSC Genome Browserを利用してさらに解析を進めた。その結果、このcDNAはヒト11番染色体短腕11.2に位置し、既知のDGKζ遺伝子座から生成することが明らかとなった。既知のDGKζは、31エキソンからなり、2,787bp、928アミノ酸のORFを持つのに対し、今回得られたcDNAは4エキソンから構成されていた。また、それぞれのエキソン配列を解析したところ、得られたcDNAは、DGKζと第1エキソンは異なるが、第2、第3エキソンと第4エキソンの途中までは同じエキソンであるという、スプライシングバリアントであることが明らかとなった(図1)。
スクリーニングにより得られたcDNAの塩基配列を、BLASTサーバー、UCSC Genome Browserを利用してさらに解析を進めた。その結果、このcDNAはヒト11番染色体短腕11.2に位置し、既知のDGKζ遺伝子座から生成することが明らかとなった。既知のDGKζは、31エキソンからなり、2,787bp、928アミノ酸のORFを持つのに対し、今回得られたcDNAは4エキソンから構成されていた。また、それぞれのエキソン配列を解析したところ、得られたcDNAは、DGKζと第1エキソンは異なるが、第2、第3エキソンと第4エキソンの途中までは同じエキソンであるという、スプライシングバリアントであることが明らかとなった(図1)。
スプライシングサイトの指標として、イントロンとエキソンの間にはアデニンとグアニンを含み、エキソンとイントロンの間にはグアニンとチミンを含むというAG−GTルールが知られている。sDGKζの第1エキソンにおいてもエキソンとイントロンの間にグアニン、チミンを含んでおり、この法則が満たされていたため、スプライシングが起こりうる場所であるといえる。同様の法則がDGKζの第4エキソンについても満たされた。
今回、このスクリーニングにより得られた分子を、short form DGKζ(sDGKζ)と命名した。sDGKζとDGKζの間では、282bpが相同な配列であり、その部分は互いにフレームも一致していたため、94アミノ酸がsDGKζとDGKζとの間で相同であることが明らかとなった(図1)。この相同である部分は、DGKζにおいてC1ドメインを構成している部分である。このように、sDGKζは、ほぼC1ドメインのみで構成されている分子であることが明らかになった。
(実施例2)sDGKζが発現する組織の同定
発現組織の同定
プローブは、sDGKζcDNA EcoRI−XhoI断片を鋳型として、Megaprome DNA Labelling System(Amersham Biosciences)を用いて、添付のプロトコールに従って作製した。また、cDNAのラベルには、[α−32P]dCTP(3000Ci/mmple,Amersham Bioscience)を用いた。ラベル後のプローブは、スピンカラム法(Sambrook et al.,1989)によって、STEバッファ[100mM Tris(pH8.0),10mM EDTA(pH8.0),100mM NaCl]で膨潤させたSephadex G−50(Amersham Biosciences)を用いて精製した。以上のように作製した物をプローブとし、Human 12−Lane Multiple Tissue Northern Blot(Clontech)を用いてノーザンブロットを行った。手順としては、メンブレンをプレハイブリダイゼーション溶液[20mM Tris−HCl(pH7.5),0.75M NaCl,2.5mM EDTA,50% ホルムアミド,5×Denhardt’s solution(0.1%BSA,1%Ficoll4000,1%ポリビニルピロリドン),salmon sperm(100μg/ml,熱変性後使用)]に浸し、42℃で2時間以上、ハイブリダイゼーション用オーブン内でインキュベート後、[32P]で標識したcDNAプローブ(5×105cpm/mlプレハイブリダイゼーション溶液)を添加し、さらに42℃で12時間以上インキュベートした。
発現組織の同定
プローブは、sDGKζcDNA EcoRI−XhoI断片を鋳型として、Megaprome DNA Labelling System(Amersham Biosciences)を用いて、添付のプロトコールに従って作製した。また、cDNAのラベルには、[α−32P]dCTP(3000Ci/mmple,Amersham Bioscience)を用いた。ラベル後のプローブは、スピンカラム法(Sambrook et al.,1989)によって、STEバッファ[100mM Tris(pH8.0),10mM EDTA(pH8.0),100mM NaCl]で膨潤させたSephadex G−50(Amersham Biosciences)を用いて精製した。以上のように作製した物をプローブとし、Human 12−Lane Multiple Tissue Northern Blot(Clontech)を用いてノーザンブロットを行った。手順としては、メンブレンをプレハイブリダイゼーション溶液[20mM Tris−HCl(pH7.5),0.75M NaCl,2.5mM EDTA,50% ホルムアミド,5×Denhardt’s solution(0.1%BSA,1%Ficoll4000,1%ポリビニルピロリドン),salmon sperm(100μg/ml,熱変性後使用)]に浸し、42℃で2時間以上、ハイブリダイゼーション用オーブン内でインキュベート後、[32P]で標識したcDNAプローブ(5×105cpm/mlプレハイブリダイゼーション溶液)を添加し、さらに42℃で12時間以上インキュベートした。
その後、メンブレンを洗浄液1(1×SSC,0.1%SDS)を用いて室温で10分間洗浄を2回行い、洗浄液2(0.1×SSC,0.1%SDS)を用いて65℃で5分間、さらに必要な場合は時間を徐々に増やして洗浄した。バックグラウンド放射活性の十分な減少を確認したのち、プラスチックバックに密封し、BAS2000 Bio Image Analyzer(Fujix)、あるいは、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーに供した。
[結果]
sDGKζmRNAは心臓、肝臓に多く発現している
sDGKζの様々な組織における発現様式を調べるために、ヒト各組織由来のmRNAから作られたメンブレンを用いてノーザンブロットを行った。その結果、約1.5kbpの位置にsDGKζmRNAのバンドが確認された(図2)。また、sDGKζは調べたすべての組織に発現しており、特に心臓、肝臓に多く発現していることが明らかとなった。
sDGKζmRNAは心臓、肝臓に多く発現している
sDGKζの様々な組織における発現様式を調べるために、ヒト各組織由来のmRNAから作られたメンブレンを用いてノーザンブロットを行った。その結果、約1.5kbpの位置にsDGKζmRNAのバンドが確認された(図2)。また、sDGKζは調べたすべての組織に発現しており、特に心臓、肝臓に多く発現していることが明らかとなった。
(実施例3)sDGKζおよびDGKζの内在的発現
[方法]
sDGKζがmRNAレベルで発現していることが確認されたため、タンパク質レベルでの、内在的な発現を確認した。3T3−L1細胞から細胞抽出液を調製し、抗DGKζ抗体を用いてイムノブロットを行った。
[方法]
sDGKζがmRNAレベルで発現していることが確認されたため、タンパク質レベルでの、内在的な発現を確認した。3T3−L1細胞から細胞抽出液を調製し、抗DGKζ抗体を用いてイムノブロットを行った。
[結果]
3T3−L1細胞において、sDGKζ、DGKζは内在的に発現している
抗DGKζ抗体はDGKζのアミノ末端の配列を用いて作られた抗体であるため(Topham et al.,1998)、相同な配列を有する部分もあることから、sDGKζもこの抗体で認識できると予想した。その結果、約30kDaの位置にsDGKζのバンドが検出された(図3)。同時に、約110kDaの位置に全長のDGKζのバンドが検出された(図3)。このことから、DGKζ、sDGKζともに、3T3−L1細胞において内在的に発現していることが明らかとなった。
3T3−L1細胞において、sDGKζ、DGKζは内在的に発現している
抗DGKζ抗体はDGKζのアミノ末端の配列を用いて作られた抗体であるため(Topham et al.,1998)、相同な配列を有する部分もあることから、sDGKζもこの抗体で認識できると予想した。その結果、約30kDaの位置にsDGKζのバンドが検出された(図3)。同時に、約110kDaの位置に全長のDGKζのバンドが検出された(図3)。このことから、DGKζ、sDGKζともに、3T3−L1細胞において内在的に発現していることが明らかとなった。
(実施例4)sDGKζとIRS−1の結合の確認
[方法]
大腸菌からGSTの精製
pGEX−4T−2ベクターで形質転換した大腸菌HB101(遺伝子型;supE44 hsdS20(rB −mB −)recA13 ara−14 proA2 lacY1 galK2 rpsL20 xyl−5 mtl−1)をTY培地4mlで一晩培養した後、100mlのTY培地に希釈した。37℃で1.5時間培養した後、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド,TAKARA)を終濃度0.4mMとなるように添加してGSTの発現を誘導し、さらに3時間30℃で培養した。
[方法]
大腸菌からGSTの精製
pGEX−4T−2ベクターで形質転換した大腸菌HB101(遺伝子型;supE44 hsdS20(rB −mB −)recA13 ara−14 proA2 lacY1 galK2 rpsL20 xyl−5 mtl−1)をTY培地4mlで一晩培養した後、100mlのTY培地に希釈した。37℃で1.5時間培養した後、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド,TAKARA)を終濃度0.4mMとなるように添加してGSTの発現を誘導し、さらに3時間30℃で培養した。
以下の実験は、4℃で行った。培養液を7500×gで遠心し、大腸菌を回収し、溶解バッファ 10mlに懸濁後、超音波処理により大腸菌を破壊した。7500×gで遠心し、上清をろ過後、カラムを用いた精製を行った。まず、グルタチオン−セファロース(Amersham Biosciences)500μlをカラムに詰め、PBS 10mlで洗浄後、サンプルをカラムに吸着させた。さらにPBS 5mlで洗浄後、溶離バッファ[10mM 還元型グルタチオン,50mM Tris−HCl(pH8.0)]5mlを用いてGSTを溶出した。GST−short form DGKζの精製は、pGEX−short form DGKζベクターを用いて、GSTの精製と同様に行った。
COS−7細胞への遺伝子導入(DEAE−デキストラン法)
COS−7細胞を、60mm組織培養ディッシュ(IWAKI)で50%コンフルエントになるまで培養した。トランスフェクションバッファ(10g/L DMEM,50mM Tris−HCl,pH7.4)2mlに20mg/ml DEAE−デキストラン0.03ml、1μg/μlプラスミドDNA溶液 5μlを混合してDNA−DEAE−デキストラン溶液を調製した。培地を取り除いた後HBSSで3回洗浄し、DNA−DEAE−デキストラン溶液を2ml加え、37℃で4時間から8時間インキュベートした。その後培地を取り除き、グリセロールバッファ(10%グリセロール,10g/L DMEM,50mM Tris−HCl,pH7.4)を2mlを加えて2分間刺激した。HBSSで3回洗浄後、DMEM/CS培地を加え37℃で2日間インキュベートし、実験に用いた。
COS−7細胞を、60mm組織培養ディッシュ(IWAKI)で50%コンフルエントになるまで培養した。トランスフェクションバッファ(10g/L DMEM,50mM Tris−HCl,pH7.4)2mlに20mg/ml DEAE−デキストラン0.03ml、1μg/μlプラスミドDNA溶液 5μlを混合してDNA−DEAE−デキストラン溶液を調製した。培地を取り除いた後HBSSで3回洗浄し、DNA−DEAE−デキストラン溶液を2ml加え、37℃で4時間から8時間インキュベートした。その後培地を取り除き、グリセロールバッファ(10%グリセロール,10g/L DMEM,50mM Tris−HCl,pH7.4)を2mlを加えて2分間刺激した。HBSSで3回洗浄後、DMEM/CS培地を加え37℃で2日間インキュベートし、実験に用いた。
プルダウンアッセイ
pEGFP−IRS−1をDEAE−デキストラン法によりトランスフェクションし、GFP−IRS−1を高発現させたCOS7細胞を、100mmディッシュ1枚あたり溶解バッファ(50mM Tris−HCl(pH7.4),1%TritonX−100,150mM NaCl,1.5mM MgCl2,500μM Na3VO4,10μg/mlロイペプチン,5μg/mlペプスタチン,20μg/mlPMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド),100KIU/mlアプロチニン,10mg/mlPNPP(p−ニトロフェニルホスフェート)250μlで掻き取った。2枚分のサンプルを合わせ、500μlとし、10000×gで遠心した。上清20μlに3×Laemmli’s buffered solution[30mM Tris−HCl(pH7.8),9%SDS,15%グリセロール,6%2−ME(2−メルカプトエタノール),0.05%ブロモフェノールブルー]10μlを加え、5分間煮沸してインプット用のサンプルとした。
pEGFP−IRS−1をDEAE−デキストラン法によりトランスフェクションし、GFP−IRS−1を高発現させたCOS7細胞を、100mmディッシュ1枚あたり溶解バッファ(50mM Tris−HCl(pH7.4),1%TritonX−100,150mM NaCl,1.5mM MgCl2,500μM Na3VO4,10μg/mlロイペプチン,5μg/mlペプスタチン,20μg/mlPMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド),100KIU/mlアプロチニン,10mg/mlPNPP(p−ニトロフェニルホスフェート)250μlで掻き取った。2枚分のサンプルを合わせ、500μlとし、10000×gで遠心した。上清20μlに3×Laemmli’s buffered solution[30mM Tris−HCl(pH7.8),9%SDS,15%グリセロール,6%2−ME(2−メルカプトエタノール),0.05%ブロモフェノールブルー]10μlを加え、5分間煮沸してインプット用のサンプルとした。
以下の実験は、4℃で行った。上清200μlずつにそれぞれGST 100pmol、GST−short form DGKζ 100pmolを加え、2時間インキュベート後、それぞれにグルタチオン−セファロース 30μlを加え、さらに2時間インキュベートした。7000×gで遠心し、上清を除いた後、溶解バッファを用いて4回ビーズを洗浄し、溶解バッファ 20μlと3×Laemmli’s buffered solution 10μlを加え、5分間煮沸してサンプルとし、SDS−PAGEに供した。なお、Na3VO4,ロイペプチン,ペプスタチン,PMSF,アプロチニン,PNPPは使用する直前に細胞溶解液に加えた。また、ロイペプチン,ペプスタチンは、青柳高明博士(微生物化学研究所・東京)より御供与頂いた。
[結果]
無細胞系において、GST−sDGKζとGFP−IRS−1は結合する
無細胞系でのDGKζとIRS−1との相互作用を確認するためにプルダウンアッセイを行った。まず、大腸菌を用いてGSTタンパク質、GST−sDGKζタンパク質を発現させ、精製した。GFP−IRS−1を高発現させたCOS7の細胞抽出液とGST−sDGKζまたはGSTをインキュベートし、グルタチオン−セファロースビーズを用いてプルダウンアッセイを行った。GST−sDGKζとIRS−1が結合するため、抗GFP抗体によりGFP−IRS−1のバンドが検出された(図4)。
無細胞系において、GST−sDGKζとGFP−IRS−1は結合する
無細胞系でのDGKζとIRS−1との相互作用を確認するためにプルダウンアッセイを行った。まず、大腸菌を用いてGSTタンパク質、GST−sDGKζタンパク質を発現させ、精製した。GFP−IRS−1を高発現させたCOS7の細胞抽出液とGST−sDGKζまたはGSTをインキュベートし、グルタチオン−セファロースビーズを用いてプルダウンアッセイを行った。GST−sDGKζとIRS−1が結合するため、抗GFP抗体によりGFP−IRS−1のバンドが検出された(図4)。
(実施例5)HEK293T細胞を用いたDGKζおよびsDGKζの機能解析
[方法]
293T細胞への遺伝子導入(リン酸カルシウム法)
293T細胞を遺伝子導入24時間前に100mmディッシュに1×106個ずつ培養した。トランスフェクション溶液は以下のように調製した。滅菌水440μlにDNAを8μg加え、2×Hebs(290mM NaCl,42mM HEPES,pH7.1)500μl、70mM Na2HPO4を10μl混合した後、2.5M CaCl2を徐々に滴下してよく混ぜあわせ、室温にて30分間放置した。インキュベート後、この溶液1mlを攪拌してトランスフェクション溶液とした。その後、1ディッシュあたり1mlのトランスフェクション溶液を滴下しながら加え、37℃で6〜9時間インキュベートした。その後、培養液を交換し、さらに24時間後、BSA/DMEM培養液に交換し、細胞を24時間休止させた。その後、溶解バッファを用いてタンパク質を回収し、実験に用いた。
[方法]
293T細胞への遺伝子導入(リン酸カルシウム法)
293T細胞を遺伝子導入24時間前に100mmディッシュに1×106個ずつ培養した。トランスフェクション溶液は以下のように調製した。滅菌水440μlにDNAを8μg加え、2×Hebs(290mM NaCl,42mM HEPES,pH7.1)500μl、70mM Na2HPO4を10μl混合した後、2.5M CaCl2を徐々に滴下してよく混ぜあわせ、室温にて30分間放置した。インキュベート後、この溶液1mlを攪拌してトランスフェクション溶液とした。その後、1ディッシュあたり1mlのトランスフェクション溶液を滴下しながら加え、37℃で6〜9時間インキュベートした。その後、培養液を交換し、さらに24時間後、BSA/DMEM培養液に交換し、細胞を24時間休止させた。その後、溶解バッファを用いてタンパク質を回収し、実験に用いた。
免疫沈降
リン酸カルシウム法により、それぞれのプラスミドを導入した293T細胞から、タンパク質を回収した後にタンパク濃度を定量してそれぞれを1mg/mlに調製した。それらの細胞抽出液に抗IRS−1抗体、抗IRS−2抗体、非免疫血清もしくは、抗GFP抗体を3μg加え4℃で2時間インキュベートした。その後、それぞれにプロテインA−セファロース(Amersham Biosciences)を20μl加え、さらに4℃で30分間インキュベートした後、7000×gで遠心して上清を除き、溶解バッファを用いて4回ビーズを洗浄した。これに溶解バッファ 20μlと3×Laemmli’s buffered solution 10μlを加え、5分間煮沸してサンプルとし、SDS−PAGEに供した。
リン酸カルシウム法により、それぞれのプラスミドを導入した293T細胞から、タンパク質を回収した後にタンパク濃度を定量してそれぞれを1mg/mlに調製した。それらの細胞抽出液に抗IRS−1抗体、抗IRS−2抗体、非免疫血清もしくは、抗GFP抗体を3μg加え4℃で2時間インキュベートした。その後、それぞれにプロテインA−セファロース(Amersham Biosciences)を20μl加え、さらに4℃で30分間インキュベートした後、7000×gで遠心して上清を除き、溶解バッファを用いて4回ビーズを洗浄した。これに溶解バッファ 20μlと3×Laemmli’s buffered solution 10μlを加え、5分間煮沸してサンプルとし、SDS−PAGEに供した。
なお、抗IRS−1抗体及び抗IRS−2抗体は、Ogiharaらが用いたペプチド(IRS−1:RRSSEDLSNYASINFQKQPEDRQ(配列番号7),IRS−2:TYASIDFLSHHLKEATVVKE(配列番号8))と同様の配列を有する物を合成し、ウサギに免疫して作製した(Ogihara et al.,J.Biol.Chem.272:12868−73,1997)。
DGK活性アッセイ
293T細胞に種々のプラスミドをリン酸カルシウム法で導入した。2日後に溶解バッファ(20mM Tris−HCl,pH7.4,0.25M スクロース,1mM DTT)で細胞を掻き取り、超音波破砕機で細胞を破砕したのち、遠心し上清を細胞抽出液とした。それぞれの細胞抽出液1mgに抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を加え、2時間撹拌しながら4℃でインキュベートした。プロテインA−セファロースを10ml加え、さらに1時間撹拌しながら4℃でインキュベートした。LiClバッファ(0.5M LiCl,100mM Tris−HCl,pH7.5)、水、TNE(10mM Tris−HCl pH7.5,150mM NaCl,1mM EDTA)で一度ずつ洗浄し、免疫沈降サンプルとした。免疫沈降サンプルまたは細胞抽出液を反応液量50ml、反応液(50mM MOPS pH7.2,20mM NaF,1mM DTT,10mM ホスファチジルセリン,2mM ジアシルグリセロール(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール),50mM オクチル−β−D−グリコピラノシド,10mM MgCl2,1mM[γ−32P]ATP)の条件下で、30℃、10分間反応した。1M HClを加えて反応を停止し、クロロホルム/メタノール(1:1)および0.1M HCl/メタノール(1:1)で生成物であるホスファチジン酸を抽出した。抽出物を展開溶媒[酢酸エチル/イソオクタン/酢酸/水(90:50:20:10)]でTLCプレート(Silicagel 60)に展開し、イメージアナライザー(FLA−3000)を用いて、ホスファチジン酸のスポットを定量した。この値をジアシルグリセロールキナーゼ活性とした。
293T細胞に種々のプラスミドをリン酸カルシウム法で導入した。2日後に溶解バッファ(20mM Tris−HCl,pH7.4,0.25M スクロース,1mM DTT)で細胞を掻き取り、超音波破砕機で細胞を破砕したのち、遠心し上清を細胞抽出液とした。それぞれの細胞抽出液1mgに抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を加え、2時間撹拌しながら4℃でインキュベートした。プロテインA−セファロースを10ml加え、さらに1時間撹拌しながら4℃でインキュベートした。LiClバッファ(0.5M LiCl,100mM Tris−HCl,pH7.5)、水、TNE(10mM Tris−HCl pH7.5,150mM NaCl,1mM EDTA)で一度ずつ洗浄し、免疫沈降サンプルとした。免疫沈降サンプルまたは細胞抽出液を反応液量50ml、反応液(50mM MOPS pH7.2,20mM NaF,1mM DTT,10mM ホスファチジルセリン,2mM ジアシルグリセロール(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール),50mM オクチル−β−D−グリコピラノシド,10mM MgCl2,1mM[γ−32P]ATP)の条件下で、30℃、10分間反応した。1M HClを加えて反応を停止し、クロロホルム/メタノール(1:1)および0.1M HCl/メタノール(1:1)で生成物であるホスファチジン酸を抽出した。抽出物を展開溶媒[酢酸エチル/イソオクタン/酢酸/水(90:50:20:10)]でTLCプレート(Silicagel 60)に展開し、イメージアナライザー(FLA−3000)を用いて、ホスファチジン酸のスポットを定量した。この値をジアシルグリセロールキナーゼ活性とした。
[結果]
293T細胞において、GFP−sDGKζ及びFLAG−DGKζはIRS−1、IRS−2と結合する
無細胞系でのsDGKζとIRS−1の結合が確認されたため、細胞内におけるsDGKζとIRS−1およびIRS−2との結合の確認を試みた。pEGFPにsDGKζcDNAを導入したプラスミドを作製し、293T細胞に導入したところ、GFP−sDGKζは効率よく細胞内で発現した。そこで、GFP−sDGKζを高発現する293T細胞の細胞抽出液を用いて共免疫沈降アッセイを行った。すなわち、抗GFP抗体で免疫沈降後、抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体でイムノブロットを行った結果、sDGKζがIRS−1およびIRS−2と結合することを示す、IRS−1、IRS−2のバンドが検出された(図5のAおよびB)。
293T細胞において、GFP−sDGKζ及びFLAG−DGKζはIRS−1、IRS−2と結合する
無細胞系でのsDGKζとIRS−1の結合が確認されたため、細胞内におけるsDGKζとIRS−1およびIRS−2との結合の確認を試みた。pEGFPにsDGKζcDNAを導入したプラスミドを作製し、293T細胞に導入したところ、GFP−sDGKζは効率よく細胞内で発現した。そこで、GFP−sDGKζを高発現する293T細胞の細胞抽出液を用いて共免疫沈降アッセイを行った。すなわち、抗GFP抗体で免疫沈降後、抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体でイムノブロットを行った結果、sDGKζがIRS−1およびIRS−2と結合することを示す、IRS−1、IRS−2のバンドが検出された(図5のAおよびB)。
次に、DGKζの全長もIRS−1およびIRS−2と結合することを確認するため、同様に共免疫沈降アッセイを行った。FLAG−DGKζを高発現する293T細胞の細胞抽出液を非免疫血清(NIS)または抗IRS−1抗体、抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でイムノブロットを行った。その結果、DGKζとIRS−1、IRS−2との結合を示す、抗FLAG抗体によるFLAG−DGKζのバンドが検出された(図5のCおよびD)。
293T細胞において、IRS−1とIRS−2には、DGK活性を有したDGKが結合している
pFLAGにDGKζcDNAを導入したプラスミドを作製し、293T細胞に導入し、非免疫抗血清、抗IRS−1抗血清、抗IRS−2抗血清でそれぞれ免疫沈降後、免疫沈降物中のDGK活性を測定した。その結果、IRS−1とIRS−2の免疫沈降物中には、有意なDGK活性が確認され、IRS−1またはIRS−2にDGKが結合していることが明らかとなった(図6)。
pFLAGにDGKζcDNAを導入したプラスミドを作製し、293T細胞に導入し、非免疫抗血清、抗IRS−1抗血清、抗IRS−2抗血清でそれぞれ免疫沈降後、免疫沈降物中のDGK活性を測定した。その結果、IRS−1とIRS−2の免疫沈降物中には、有意なDGK活性が確認され、IRS−1またはIRS−2にDGKが結合していることが明らかとなった(図6)。
293T細胞において、FLAG−DGKζとIRS−2との結合にはC1ドメインが必要である
次に、DGKζがどの部分においてIRS−2と結合するかを検討するため、DGKζの欠失変異体であるB、L、Bsu(Luo et al.,J.Cell Biol,,160:929−937,2003)を用いて共免疫沈降アッセイを行った。それぞれのプラスミドは、効率よく293T細胞内で発現したため、それらが高発現する293T細胞の細胞抽出液を非免疫血清(NIS)及び抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でイムノブロットを行った。その結果、B、Bsuにおいて、抗FLAG抗体によってIRS−2との結合を示す欠失変異体のバンドが検出されたが、Lにおいては、バンドは検出されなかった(図7)。この結果から、DGKζとIRS−2との結合において、C1ドメインが必要であることが明らかとなった。
次に、DGKζがどの部分においてIRS−2と結合するかを検討するため、DGKζの欠失変異体であるB、L、Bsu(Luo et al.,J.Cell Biol,,160:929−937,2003)を用いて共免疫沈降アッセイを行った。それぞれのプラスミドは、効率よく293T細胞内で発現したため、それらが高発現する293T細胞の細胞抽出液を非免疫血清(NIS)及び抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でイムノブロットを行った。その結果、B、Bsuにおいて、抗FLAG抗体によってIRS−2との結合を示す欠失変異体のバンドが検出されたが、Lにおいては、バンドは検出されなかった(図7)。この結果から、DGKζとIRS−2との結合において、C1ドメインが必要であることが明らかとなった。
293T細胞において、DGKの他のアイソフォームはIRSと結合しない
上記の結果から、DGKζとIRS−2との結合において、C1ドメインが必要であることが示された。C1ドメインは、相同性は異なるもののDGKのすべてのアイソフォームに共通するドメインである(図8)。そのため、ζ以外のアイソフォームについても共免疫沈降アッセイによりIRSとの結合を検討した。それぞれのアイソフォームが高発現する293T細胞の細胞抽出液を非免疫血清及び抗IRS−1抗体、抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗GFP抗体でイムノブロットを行った。その結果、ζ以外のアイソフォームでは、IRSとの結合は確認できなかった(図9)。
上記の結果から、DGKζとIRS−2との結合において、C1ドメインが必要であることが示された。C1ドメインは、相同性は異なるもののDGKのすべてのアイソフォームに共通するドメインである(図8)。そのため、ζ以外のアイソフォームについても共免疫沈降アッセイによりIRSとの結合を検討した。それぞれのアイソフォームが高発現する293T細胞の細胞抽出液を非免疫血清及び抗IRS−1抗体、抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗GFP抗体でイムノブロットを行った。その結果、ζ以外のアイソフォームでは、IRSとの結合は確認できなかった(図9)。
293T細胞において、sDGKζは発現量依存的に、DGKζとIRS−2との結合を抑制する
細胞内においてsDGKζ、DGKζともにIRS−2と結合することを確認したため、DGKζとIRS−2との結合にsDGKζが影響を及ぼすかどうかを共免疫沈降アッセイによって検討した。一定量のFLAG−DGKζと、種々の量のGFP−sDGKζを293T細胞に共に高発現させた。その後、細胞抽出液を非免疫血清または抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でイムノブロットを行った。その結果、DGKζとIRS−2との結合を示す、抗FLAG抗体によるFLAG−DGKζのバンドがIRS−2で免疫沈降した時にのみ検出された。また、GFP−sDGKζの発現量依存的にFLAG−DGKζとIRS−2の結合量が減少することを見出した(図10)。同様な方法で、IRS−2と結合しているDGK活性を測定したところ、sDGKζの高発現によって、結合しているDGK活性が抑制される、言い換えれば、sDGKζの発現によって、IRS−2と結合しているDGKが競合的に追い出されるということが明らかとなった(図11)。
細胞内においてsDGKζ、DGKζともにIRS−2と結合することを確認したため、DGKζとIRS−2との結合にsDGKζが影響を及ぼすかどうかを共免疫沈降アッセイによって検討した。一定量のFLAG−DGKζと、種々の量のGFP−sDGKζを293T細胞に共に高発現させた。その後、細胞抽出液を非免疫血清または抗IRS−2抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でイムノブロットを行った。その結果、DGKζとIRS−2との結合を示す、抗FLAG抗体によるFLAG−DGKζのバンドがIRS−2で免疫沈降した時にのみ検出された。また、GFP−sDGKζの発現量依存的にFLAG−DGKζとIRS−2の結合量が減少することを見出した(図10)。同様な方法で、IRS−2と結合しているDGK活性を測定したところ、sDGKζの高発現によって、結合しているDGK活性が抑制される、言い換えれば、sDGKζの発現によって、IRS−2と結合しているDGKが競合的に追い出されるということが明らかとなった(図11)。
293T細胞において、sDGKζはIRS−2のみでなくIRS−1とDGKζとの結合も抑制する
sDGKζがDGKζとIRS−2との結合を抑制することが明らかとなったため、sDGKζがDGKζとIRS−1との結合においても同様の機能を有するか検討した。同時に、IGF−I刺激時間に応じて、sDGKζによるIRSとDGKζの結合の抑制に変化が生じるかを検討するために、種々の時間IGF−Iで刺激した後に共免疫沈降アッセイを行った。FLAG−DGKζとGFPまたはGFP−sDGKζを共に一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激した。その後、細胞抽出液を抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降し、抗FLAG抗体を用いたイムノブロットに供した。その結果、sDGKζはいずれのIGF−I刺激時間においても、DGKζとIRS−1及びIRS−2の結合を抑制することが示された(図12)。また、IGF−Iによる刺激を行っていない細胞の免疫沈降物においても結合を確認できたことから、DGKζはIRS−1及びIRS−2のチロシンリン酸化を介さずに、IRS−1、IRS−2と結合していることが確認できた(図12)。
sDGKζがDGKζとIRS−2との結合を抑制することが明らかとなったため、sDGKζがDGKζとIRS−1との結合においても同様の機能を有するか検討した。同時に、IGF−I刺激時間に応じて、sDGKζによるIRSとDGKζの結合の抑制に変化が生じるかを検討するために、種々の時間IGF−Iで刺激した後に共免疫沈降アッセイを行った。FLAG−DGKζとGFPまたはGFP−sDGKζを共に一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激した。その後、細胞抽出液を抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降し、抗FLAG抗体を用いたイムノブロットに供した。その結果、sDGKζはいずれのIGF−I刺激時間においても、DGKζとIRS−1及びIRS−2の結合を抑制することが示された(図12)。また、IGF−Iによる刺激を行っていない細胞の免疫沈降物においても結合を確認できたことから、DGKζはIRS−1及びIRS−2のチロシンリン酸化を介さずに、IRS−1、IRS−2と結合していることが確認できた(図12)。
更に、IRSとDGKζとの結合量は、IGF−I刺激時間に応じて変化することを見出した。IRS−1とDGKζの結合量は、IGF−I刺激時間に応じて減少するが、IRS−2とDGKζの結合量は、IGF−I刺激時間に応じて増加することが明らかとなった(図12)。
293T細胞において、DGKζはIGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化を抑制し、IRS−2のチロシンリン酸化を増強する
DGKζがIRS−1、IRS−2と相互作用することが明らかとなったため、DGKζ高発現がIGF−I受容体キナーゼによるIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化に与える影響について検討した。FLAG−DGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降を行い、その後抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットに供した。
DGKζがIRS−1、IRS−2と相互作用することが明らかとなったため、DGKζ高発現がIGF−I受容体キナーゼによるIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化に与える影響について検討した。FLAG−DGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗IRS−1抗体または抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降を行い、その後抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットに供した。
その結果、DGKζを高発現させた細胞では、FLAGのみを発現させた細胞と比較して、IGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化が抑制されることが明らかとなった。これに対して、IGF−I刺激に応答したIRS−2のチロシンリン酸化は、DGKζを高発現させた細胞において増強された(図13)。
さらに、これらの免疫沈降物について抗FLAG抗体を用いてイムノブロットを行ったところ、FLAG−DGKζとIRS−1及びIRS−2との結合も確認された(図13)。また、その結合量はIRS−1においてはIGF−I刺激時間に応じて減少し、IRS−2においては刺激時間に応じて増加した(図13)。
この結果から、DGKζはIGF−I刺激依存性チロシンリン酸化において、IRS−1とIRS−2とで異なる修飾を行うことが明らかとなった。
293T細胞において、DGKζはIGF−I刺激に応答したAktの活性化には影響しないが、Erkの活性化を抑制する
続いて、DGKζがIRS下流のシグナルに与える影響について検討した。IGF−Iの刺激に応答してMAPキナーゼ経路、PI3−キナーゼ経路が活性化されると、下流経路にあるセリン/スレオニンキナーゼがリン酸化を介して活性化される。今回は、MAPキナーゼ経路の下流キナーゼであるErk、PI3−キナーゼ経路の下流キナーゼであるAktの活性化をそれぞれのキナーゼリン酸化抗体を用いて解析した。すなわち、FLAG−DGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、DGKζ高発現は、IGF−I刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を抑制することが明らかとなった(図13)。
続いて、DGKζがIRS下流のシグナルに与える影響について検討した。IGF−Iの刺激に応答してMAPキナーゼ経路、PI3−キナーゼ経路が活性化されると、下流経路にあるセリン/スレオニンキナーゼがリン酸化を介して活性化される。今回は、MAPキナーゼ経路の下流キナーゼであるErk、PI3−キナーゼ経路の下流キナーゼであるAktの活性化をそれぞれのキナーゼリン酸化抗体を用いて解析した。すなわち、FLAG−DGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、DGKζ高発現は、IGF−I刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を抑制することが明らかとなった(図13)。
これらの結果から、DGKζは、IGF−IによるIRSのチロシンリン酸化の変動を介して、PI3−キナーゼ経路の活性化には影響を与えないが、MAPキナーゼ経路の活性化を抑制すると結論した。
293T細胞において、sDGKζはIGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化を増強し、IRS−2のチロシンリン酸化を抑制する
続いて、sDGKζが受容体キナーゼによるIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化に与える影響について検討した。FLAG−sDGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗IRS−1抗体あるいは抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降を行い、その後抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロット分析を行った。
続いて、sDGKζが受容体キナーゼによるIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化に与える影響について検討した。FLAG−sDGKζを一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗IRS−1抗体あるいは抗IRS−2抗体を用いて免疫沈降を行い、その後抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロット分析を行った。
その結果、FLAG−sDGKζを高発現させた細胞では、GFPのみを発現させた細胞と比較して、IGF−I刺激に応答したIRS−1のチロシンリン酸化が増強されることが明らかとなった(図13)。一方、IGF−I刺激に応答したIRS−2のチロシンリン酸化は、sDGKζを高発現させた細胞において抑制されることがわかった。
さらに、これらの免疫沈降物について抗DGKζ抗体を用いてイムノブロットを行ったところ、293T細胞に内在的に発現しているDGKζとIRS−1及びIRS−2との結合が確認され、その結合はsDGKζの高発現によって減少していた(図13)。また、IGF−Iによる刺激を行っていない細胞の免疫沈降物においても結合を確認できたことから、内在的に発現しているDGKζも過剰発現させた際と同様に、IRS−1及びIRS−2のチロシンリン酸化を介さずに、IRS−1、IRS−2と結合していることが明らかとなった(図13)。
この結果から、sDGKζは、IGF−I刺激依存性チロシンリン酸化においてIRS−1、IRS−2とで異なる修飾を行い、DGKζの修飾とは逆の変動が起こることが明らかとなった。
293T細胞において、sDGKζはIGF−I刺激に応答したAktの活性化には影響しないが、Erkの活性化を増強する
次に、先と同様の実験系を用いて、sDGKζの高発現が、下流のPI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化に及ぼす影響について調べた。抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った結果、sDGKζ高発現はIGF−Iの刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を増強することが明らかとなった(図13)。
次に、先と同様の実験系を用いて、sDGKζの高発現が、下流のPI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化に及ぼす影響について調べた。抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った結果、sDGKζ高発現はIGF−Iの刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を増強することが明らかとなった(図13)。
これらの結果は、sDGKζの発現がIGF−IによるPI3−キナーゼ経路の活性化には影響を与えないが、MAPキナーゼ経路の活性化を増強することを示している。
293T細胞において、sDGKζは発現量依存的にErkの活性化を増強するが、Aktの活性化には影響しない
sDGKζの発現量がDGKζとIRS−2との結合を抑制することから、一定量のFLAG−DGKζと、種々の量のGFP−sDGKζを293T細胞に一過的に高発現させた際の、PI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化に及ぼす影響について調べた。それぞれの細胞を種々の時間IGF−Iで刺激した後、抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、sDGKζはIGF−Iの刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を発現量依存的に増強することが明らかとなった(図14)。
sDGKζの発現量がDGKζとIRS−2との結合を抑制することから、一定量のFLAG−DGKζと、種々の量のGFP−sDGKζを293T細胞に一過的に高発現させた際の、PI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化に及ぼす影響について調べた。それぞれの細胞を種々の時間IGF−Iで刺激した後、抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、sDGKζはIGF−Iの刺激によるAktの活性化には影響を与えないが、Erkの活性化を発現量依存的に増強することが明らかとなった(図14)。
DGKζを高発現した293T細胞において、sDGKζの高発現はErkの活性化を増強する
sDGKζはIGF−Iのいずれの刺激時間においても、DGKζとIRS−1及びIRS−2の結合を抑制することが示されたことから(図13)、結合の抑制が、PI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化にどのように反映されるかについて調べることにした。FLAG−DGKζとGFPまたはGFP−sDGKζを共に一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、FLAG−DGKζとGFP−sDGKζの高発現は、FLAG−DGKζとGFPの高発現と比較してErkの活性化が増強されていることが明らかとなった(図15)。また、Aktの活性化には違いは認められなかった(図15)。
sDGKζはIGF−Iのいずれの刺激時間においても、DGKζとIRS−1及びIRS−2の結合を抑制することが示されたことから(図13)、結合の抑制が、PI3−キナーゼ経路及びMAPキナーゼ経路の活性化にどのように反映されるかについて調べることにした。FLAG−DGKζとGFPまたはGFP−sDGKζを共に一過的に高発現させた293T細胞を種々の時間IGF−Iで刺激し、その細胞抽出液を抗phospho−Akt抗体及び抗phospho−Erk抗体を用いてイムノブロットを行った。その結果、FLAG−DGKζとGFP−sDGKζの高発現は、FLAG−DGKζとGFPの高発現と比較してErkの活性化が増強されていることが明らかとなった(図15)。また、Aktの活性化には違いは認められなかった(図15)。
この結果から、sDGKζ高発現によるErkの活性化は、DGKζとIRSとの結合の抑制によると考えられた。
DGKζはIRSと相互作用することにより、sDGKζはDGKζとIRSとの相互作用を競合阻害することにより、IGFシグナルを修飾する
293T細胞にDGKζまたはsDGKζを一過的に高発現し、IGF−I刺激に応答したIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化の動態を解析した。その結果、DGKζの高発現は、IRS−1のIGF−I依存性チロシンリン酸化を抑制したのに対して、IRS−2のチロシンリン酸化を増強することを見出した。一方、sDGKζの高発現は、IRS−1のIGF−I依存性チロシンリン酸化を増強、IRS−2のチロシンリン酸化を抑制するという、DGKζ高発現細胞とは逆の挙動を示した。そこで、高発現細胞における、IRS下流のシグナルを検討した。MAPキナーゼ経路及びPI3−キナーゼ経路の活性化の指標として、Erk、Aktの活性化の様子を調べたところ、高発現は、Aktの活性化には影響を与えなかったが、Erkの活性化は、DGKζを高発現させた場合には抑制されるが、sDGKζを高発現させた場合に増強されるというように、異なる影響が観察された。また、DGKζ、sDGKζ共に高発現させた場合、sDGKζの発現量依存的にErkの活性化が増強された。先に述べたDGKζとIRSの相互作用の結果も併せると、内在性DGKζはIRSと相互作用することにより、IRS−1を介したシグナルを抑制しているという新しい機構が考えられた。
293T細胞にDGKζまたはsDGKζを一過的に高発現し、IGF−I刺激に応答したIRS−1、IRS−2のチロシンリン酸化の動態を解析した。その結果、DGKζの高発現は、IRS−1のIGF−I依存性チロシンリン酸化を抑制したのに対して、IRS−2のチロシンリン酸化を増強することを見出した。一方、sDGKζの高発現は、IRS−1のIGF−I依存性チロシンリン酸化を増強、IRS−2のチロシンリン酸化を抑制するという、DGKζ高発現細胞とは逆の挙動を示した。そこで、高発現細胞における、IRS下流のシグナルを検討した。MAPキナーゼ経路及びPI3−キナーゼ経路の活性化の指標として、Erk、Aktの活性化の様子を調べたところ、高発現は、Aktの活性化には影響を与えなかったが、Erkの活性化は、DGKζを高発現させた場合には抑制されるが、sDGKζを高発現させた場合に増強されるというように、異なる影響が観察された。また、DGKζ、sDGKζ共に高発現させた場合、sDGKζの発現量依存的にErkの活性化が増強された。先に述べたDGKζとIRSの相互作用の結果も併せると、内在性DGKζはIRSと相互作用することにより、IRS−1を介したシグナルを抑制しているという新しい機構が考えられた。
(実施例6)GLUT4細胞膜移行の解析
[方法]
3T3−L1細胞を脂肪細胞へ分化させる際は、次の方法で分化誘導を行った。予め、細胞を約1×106cells/3ml CS培地/60mm組織培養ディッシュ(IWAKI)の条件で播種し、3〜4日間培養した。細胞密度がコンフルエントに達してから2日後に、細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地に最終濃度10%になるようにウシ胎児血清(JRH Bioscience)を加え、抗生物質を100unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、100μg/mlカナマイシンとなるように加えた培地に0.1μg/mlデキサメタゾン、27.8μg/mlイソブチルメチルキサンチン、1.0μg/mlインスリンを加えた培地で4日間培養し、続いて、10%FBS培地に1.0μg/mlインスリンを含む培地で4日間培養することによって、脂肪細胞へ分化させた。
[方法]
3T3−L1細胞を脂肪細胞へ分化させる際は、次の方法で分化誘導を行った。予め、細胞を約1×106cells/3ml CS培地/60mm組織培養ディッシュ(IWAKI)の条件で播種し、3〜4日間培養した。細胞密度がコンフルエントに達してから2日後に、細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地に最終濃度10%になるようにウシ胎児血清(JRH Bioscience)を加え、抗生物質を100unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、100μg/mlカナマイシンとなるように加えた培地に0.1μg/mlデキサメタゾン、27.8μg/mlイソブチルメチルキサンチン、1.0μg/mlインスリンを加えた培地で4日間培養し、続いて、10%FBS培地に1.0μg/mlインスリンを含む培地で4日間培養することによって、脂肪細胞へ分化させた。
GLUT4細胞膜移行の解析
pGFP−DGKz、pGFP−sDGKzを100mg、pGlut4−myc 200mgとともにエレクトロポレーションで3T3−L1脂肪細胞に遺伝子導入し、これらを共に発現させた細胞をBSA培地で培養し、静止期に同調させた。3時間後に10−7M インスリンで25分間処理、あるいは処理せず、PBS(−)で洗浄後、PBS/4% パラホルムアルデヒドで10分間固定した。次に、PBS(−)で3回洗浄後PBS/3% BSAを用い室温で1時間ブロッキングを行った後、一次抗体としてPBS/3% BSAで1:100に希釈した抗myc抗体(Upstate Biochemical Institute)で4℃、一晩インキュベートした。PBS(−)で10分間ずつ3回緩やかに振とうしながら洗浄し、二次抗体として1:1,000にPBS/3% BSAで希釈したAlexa594抗ヤギIgG抗体(Moleculer Probes)で37℃、1時間インキュベートした。その後PBS(−)で10分間ずつ3回緩やかに振とうしながら洗浄した。スライドガラス上にVECTASHIELD mounting mediumを滴下し、カバーガラスをその上に置き、マニキュアで周囲を固定した。これらのサンプルを共焦点顕微鏡で観察した。GFPの蛍光が観察された細胞を計数し、そのうち細胞膜上にmycが染色された細胞を計数した。各サンプルについて50個を計数し、mycが染色された細胞の割合を計算した。実験は、1細胞処理群について3試料以上同時に行い、統計処理を施した。得られた各データについて、ANOVAにより有意水準5%で有意差の有無の検討を行った。
pGFP−DGKz、pGFP−sDGKzを100mg、pGlut4−myc 200mgとともにエレクトロポレーションで3T3−L1脂肪細胞に遺伝子導入し、これらを共に発現させた細胞をBSA培地で培養し、静止期に同調させた。3時間後に10−7M インスリンで25分間処理、あるいは処理せず、PBS(−)で洗浄後、PBS/4% パラホルムアルデヒドで10分間固定した。次に、PBS(−)で3回洗浄後PBS/3% BSAを用い室温で1時間ブロッキングを行った後、一次抗体としてPBS/3% BSAで1:100に希釈した抗myc抗体(Upstate Biochemical Institute)で4℃、一晩インキュベートした。PBS(−)で10分間ずつ3回緩やかに振とうしながら洗浄し、二次抗体として1:1,000にPBS/3% BSAで希釈したAlexa594抗ヤギIgG抗体(Moleculer Probes)で37℃、1時間インキュベートした。その後PBS(−)で10分間ずつ3回緩やかに振とうしながら洗浄した。スライドガラス上にVECTASHIELD mounting mediumを滴下し、カバーガラスをその上に置き、マニキュアで周囲を固定した。これらのサンプルを共焦点顕微鏡で観察した。GFPの蛍光が観察された細胞を計数し、そのうち細胞膜上にmycが染色された細胞を計数した。各サンプルについて50個を計数し、mycが染色された細胞の割合を計算した。実験は、1細胞処理群について3試料以上同時に行い、統計処理を施した。得られた各データについて、ANOVAにより有意水準5%で有意差の有無の検討を行った。
[結果]
sDGKζ高発現は、3T3−L1細胞において、基底状態のGLUT4の細胞膜移行を促進する
GFP−DGKζ、GFP−sDGKζを一過的に高発現させた3T3−L1細胞にGULU4−mycを共発現させ、これをインスリンで処理し、20分後にGLUT4−mycが細胞膜への移行している細胞数を調べた。この値は、糖の取込み量を反映していると考えられている。インスリン刺激によって、GLUT4の細胞膜移行が観察され、系は機能していることが確認された。GFP−sDGKζを発現した細胞では、インスリン依存性GLUT4の細胞膜移行には大きな影響はなかったが、インスリン非依存的糖取込み、すなわち基底状態のGLUT4の膜移行を促進することを発見した。これに対してGFP−DGKζの発現は、GLUT4の膜移行には有意な影響を及ぼさなかった(図16)。
sDGKζ高発現は、3T3−L1細胞において、基底状態のGLUT4の細胞膜移行を促進する
GFP−DGKζ、GFP−sDGKζを一過的に高発現させた3T3−L1細胞にGULU4−mycを共発現させ、これをインスリンで処理し、20分後にGLUT4−mycが細胞膜への移行している細胞数を調べた。この値は、糖の取込み量を反映していると考えられている。インスリン刺激によって、GLUT4の細胞膜移行が観察され、系は機能していることが確認された。GFP−sDGKζを発現した細胞では、インスリン依存性GLUT4の細胞膜移行には大きな影響はなかったが、インスリン非依存的糖取込み、すなわち基底状態のGLUT4の膜移行を促進することを発見した。これに対してGFP−DGKζの発現は、GLUT4の膜移行には有意な影響を及ぼさなかった(図16)。
Claims (12)
- 以下の(a)または(b)のポリペプチド:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入または置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。 - 以下の(a)または(b)のDNA:
(a)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。 - 請求項2記載のDNAを備えたベクター。
- 請求項2記載のDNAを備えた形質転換体。
- 請求項1記載のポリペプチドまたは請求項2記載のDNAを有効成分とするIRSのチロシンリン酸化調節剤。
- 請求項1記載のポリペプチドまたは請求項2記載のDNAを有効成分とする、糖取込み調節剤。
- ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に被検物質を接触させる工程と、
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、
IRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法。 - ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞に被検物質を接触させる工程と、
前記細胞におけるDGKζおよび/またはsDGKζの発現を検出する工程と、を含む、糖取込み調節剤のスクリーニング方法。 - 下記(i)〜(iii)記載の工程を含むIRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法:
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。 - 下記(i)〜(iii)記載の工程を含む糖取込み調節剤のスクリーニング方法:
(i)ゲノムDGKζのDNAを備えた細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(ii)被検物質を接触させた後に前記細胞におけるsDGKζの発現を検出する工程、
(iii)被検物質非存在下におけるsDGKζの発現と比べて、sDGKζの発現を促進する被検物質を選択する工程。 - 下記(i)〜(iii)記載の工程を含むIRSチロシンリン酸化調節剤のスクリーニング方法:
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質をIRSチロシンリン酸化調節剤の候補として選択する工程。 - 下記(i)〜(iii)記載の工程を含む糖取込み調節剤のスクリーニング方法:
(i)被検物質存在下または非存在下でDGKζとIRSとを相互作用させる工程
(ii)IRSに相互作用したDGKζを測定する工程
(iii)被検物質存在下における相互作用DGKζ量が被検物質非存在下における相互作用DGKζ量よりも低いときに、当該被検物質を糖取込み調節剤の候補として選択する工程。
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JP2005075627A JP2006254766A (ja) | 2005-03-16 | 2005-03-16 | インスリン生理活性を調節する活性を有するタンパク質 |
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JP2005075627A Pending JP2006254766A (ja) | 2005-03-16 | 2005-03-16 | インスリン生理活性を調節する活性を有するタンパク質 |
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