JP2006160712A - 5−ノルボルネン−2−カルボン酸、そのエステルおよびそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの加水分解、または5−ノルボルネン−2−カルボン酸のラクトン化によって、エキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る方法;および、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの異性化、または5−ノルボルネン−2−カルボン酸のエステル化によって、エキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る方法。
【選択図】 なし
Description
ところが、5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸tert−ブチルに酸性条件下でメタクリル酸を付加させようとすると、下記式(3−1)または(3−2)で表されるラクトンが多量に副生する。
しかしながら、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、有用であるにも関わらず、エキソ体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが記載された文献はなく、その製造方法もこれまで知られていなかった。
すなわち、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、下記式(1)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸であって、下記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含むことを特徴とするものである。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法は、上記式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルおよび下記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの混合物から、式(2−1)で表されるエキソ体のエステルを優先的に分解して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程を有することを特徴とする。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法は、上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを異性化し、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有することを特徴とする。
また、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法は、上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを上記式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルに異性化しながら、式(2−1)で表されるエキソ体のエステルを優先的に分解して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程を有することを特徴とする。
5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、下記式(1)で表される。
上記式(1)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、通常、以下の反応式(I)で表されるシクロペンタジエンとアクリル酸とのディールス・アルダー反応によって合成される。
5−ノルボルネン−2−カルボン酸のうち、エキソ体の比率は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。エキソ体の比率は、高ければ高いほど好ましく、上限は100モル%である。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
(i)下記式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルおよび下記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの混合物から、式(2−1)で表されるエキソ体のエステルを優先的に分解して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程を有する方法。
(ii)上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物から、式(1−2)で表されるエンド体を優先的に反応させて下記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを得る工程と、式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンを除去して、上記式(1−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得る工程とを有する方法。
式(2−1)、式(2−2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのカルボキシ基周辺の立体障害は、エキソ体の方がエンド体に比べ小さいため、エステルを分解してカルボン酸とする際の反応速度は、エキソ体の方がエンド体に比べ速いと考えられる。したがって、このエステル分解反応の反応速度の差を利用して、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸を優先的に生成させることができる。
反応温度は、通常−80℃以上であり、−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましい。これより低いと反応が進みにくい場合がある。また、反応温度は、通常100℃以下であり、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。これより高いと、式(2−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを優先的に加水分解することが困難になる場合がある。
式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、酸性条件下において、分子内環化反応により上記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンとなる。一方、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、このような分子内環化反応は起こりにくい。これは、前述したように、分子内におけるカルボン酸の立体配置の違いによるものと考えられる。したがって、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸の混合物を酸性条件下において、加熱するとエンド体を優先的に反応させ、上記式(3−1)または式(3−2)で表されるラクトンとすることができる。
反応時間は、バッチサイズ、酸の種類・量、反応条件により異なるが、1〜12時間が好ましく、2〜8時間がさらに好ましい。反応時間が短すぎると、反応が十分進行しない場合があり、反応時間が長すぎると、副生成物が増加する場合がある。
ラクトンを有機層として除去した後、5−ノルボルネン−2−カルボン酸が溶解した水層に酸を加え、酸性化した後に有機溶剤により抽出することで、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を得ることができる。加える酸としては、アルカリを中和・酸性化するものであれば特に限定されないが、取り扱いが容易な点で塩酸または硫酸の水溶液が好ましい。抽出に用いる有機溶剤は、水に混和しないものであれば特に限定されないが、5−ノルボルネン−2−カルボン酸の溶解性が高い点で、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましい。
5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、下記式(2)で表される。
以下、特に断らない限り、上記式(2−1)と(2−1’)、(2−2)と(2−2’)とは区別せず、それぞれ上記式(2−1)および式(2−2)で表すこととする。
シクロペンタジエンとアクリル酸エステルとのディールス・アルダー反応は、エンド選択的であることが知られており、得られる5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのエキソ体の比率は、30モル%未満である。一方、本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含むものである。
5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルのうち、エキソ体の比率は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。エキソ体の比率は、高ければ高いほど好ましく、上限は100モル%である。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
(iii)上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを異性化し、上記式(2−1)で表されるエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを得る工程を有する方法。
上記式(2−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの異性化は、塩基性条件において行うことが好ましい。この異性化反応は、塩基によりカルボキシ基に隣接した炭素原子に結合した水素原子が引き抜かれ、再結合するものと考えられる。この水素引き抜き、再結合反応は、平衡的に起こると考えられ、反応条件によっては、エキソ体の比率を更に高めることができる。
異性化を行う温度は、通常0℃以上であり、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。これより低いと異性化が起こりにくい場合がある。また、異性化を行う温度は、通常200℃以下であり、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。これより高いと、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルが分解する場合がある。
上記式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸および上記式(1−2)で表されるエンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸のカルボキシ基周辺の立体障害は、前述した5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの場合と同様に、エキソ体のほうが小さいと考えられ、エステル化反応もエキソ体のほうがエンド体よりも早く進行する。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法においては、上記(i)〜(iv)の方法に記載された工程を2回以上行ってもよい。この場合、同一の工程を2回以上行ってもよいし、異なる2つ以上の工程を組み合わせて行ってもよい。エキソ体比率を高くすることができる工程を、2回以上行うことで、エキソ体比率のより高い5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを製造することができる。
また、この方法で5−ノルボルネン−2−カルボン酸を製造する際には、反応の進行に従って、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のアルカリ金属塩が生じ、析出する場合がある。析出が起こると攪拌が困難になるおそれがあるが、溶媒を用いることが析出防止に有効である。用いる溶媒としては、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のアルカリ金属塩の溶解性が高いこと、反応後の除去が容易であることから、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、下記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルの原料として用いることができる。本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、下記式(III)または式(IV)で表される反応によって製造することができる。
これらの反応において、式(1−2)で表されるエンド体を多く含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸または式(2−2)で表される5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルを原料に用いると、多量の副生成物を生じ、好ましくない。この副生成物は、主として下記式(V)で表されるように、エンド体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸が分子内環化反応を起こしたラクトンであると考えられる。
本発明の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルは、エキソ体を多く含むものであり、上記(V)で表される副反応が抑制され、収率よく上記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルを得ることができる。これは、式(1−1)で表されるエキソ体の5−ノルボルネン−2−カルボン酸は、カルボキシ基の立体配置により分子内環化反応を起こしにくい構造となっているためと考えられる。
(5−ノルボルネン−2−カルボン酸の合成)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル(大阪有機化学工業(株)製、ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は27:73(モル比))123g(0.89モル)を仕込んだ。室温で攪拌しながら、ナトリウムメトキシド28質量%メタノール溶液(和光純薬工業(株)製)312gを滴下ロートを用いて30分かけて滴下した。この溶液を70℃で1.5時間加熱した後、内温を70℃±5℃に保ったまま、メタノール202mlを加えた。さらに、内温を70℃±5℃に保ったまま、メタノール202ml、純水12mlの混合溶液を加えた。その後、70℃で12時間攪拌を行い、その後、室温まで冷却した。これに、純水350ml、濃塩酸(和光純薬工業(株)製、35〜37質量%)173gを加えた。この溶液をロータリーエバポレーターにて濃縮した。さらにトルエン300mlを加え、分液ロートに移した。水層を除去した後、トルエン層を濃縮し、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を109g得た。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、74:26(モル比)であった。
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))69.0g(0.50モル)、メタクリル酸129.0g(1.5モル)、メタンスルホン酸4.8g(0.05モル)を仕込み、攪拌しながら130℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を130℃に保ったまま、2時間反応させた。反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン200ml、水100mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、下記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを含む組成物が110.0g得られた。この組成物中に含まれる下記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの割合をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、78モル%であった。
(5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルの合成)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた300mlガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))10gを仕込んだ。これを脱水メタノール(和光純薬工業(株)製)100mlに溶解した後、強酸性イオン交換樹脂アンバーリスト15DRY(ロームアンドハース社製)を1.0g加え、攪拌しながら加熱し、1時間加熱還流を行った。この反応液を室温まで冷却し、イオン交換樹脂をろ別した後、8質量%の水酸化ナトリウム水溶液50ml、トルエン200mlを加え、よく攪拌した。分液ロートを用いて、水層を除去した後、トルエン層を濃縮したところ、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルが8.5g得られた。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルをガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、85:15(モル比)であった。
(5−ノルボルネン−2−カルボン酸の合成)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた500Lガラス製三口フラスコに、実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸(ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は74:26(モル比))25gを仕込んだ。これをトルエン100mlに溶解した後、攪拌しながら硫酸3.5gを加え、加熱し、3時間加熱還流を行った。この反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら20質量%水酸化ナトリウム40mlを加えた。分液ロートを用いてトルエン層を除去した後、水層に濃塩酸(和光純薬工業(株)製、35〜37質量%)25.3gを加え酸性化した後、トルエン75mlを加え抽出した。トルエン層を濃縮したところ、5−ノルボルネン−2−カルボン酸を16.0g得た。得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、エキソ体:エンド体の比率は、95:5(モル比)であった。
(メタクリル酸エステルの合成)
実施例1にて得られた5−ノルボルネン−2−カルボン酸の代わりに、市販の5−ノルボルネン−2−カルボン酸(東京化成工業(株)製、ガスクロマトグラフィーにて分析したエキソ体:エンド体の比率は22:88(モル比))を用いた以外は、実施例1と同様にして上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを合成したところ、上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルを含む組成物が109.5g得られた。この組成物中に含まれる上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの割合をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、45モル%であった。
一方、比較例1のように、エキソ体の比率の低い市販の5−ノルボルネン−2−カルボン酸を用いた場合には、上記式(4)で表されるメタクリル酸エステルの収率および副生成物の生成の面で劣っていた。
Claims (8)
- 請求項3ないし6のいずれか一項に記載の5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法において、
前記工程を2回以上行うことを特徴とする5−ノルボルネン−2−カルボン酸または5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルの製造方法。
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