JP2006077305A - 無方向性電磁鋼板および時効熱処理用無方向性電磁鋼板、ならびにそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、冷間圧延性に優れ、降伏強度が高く高周波での鉄損の低い無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供することにより、上記目的を達成する。
【選択図】 無し
【解決手段】 本発明は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供することにより、上記目的を達成する。
【選択図】 無し
Description
本発明は、高速で回転するモータのロータ用鉄心の素材として好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。特に、本発明は、回転時の応力あるいは加減速時の応力変動に耐え、優れた強度特性および磁気特性が要求される、磁石埋め込み型モータ(IPMモータ)や突極型表面磁石モータ(突極型SRMモータ)のロータ用鉄心の素材として好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
地球温暖化ガスを削減するため、自動車や家電製品などの分野では消費エネルギーの少ない新製品開発が必要である。例えば、自動車分野では低燃費化するためガソリンエンジンとモータとのハイブリッド駆動自動車(HEV)あるいはモータ駆動の電気自動車がある。家電製品分野では年間電気消費量の少ない高効率エアコンや冷蔵庫などがある。それらの共通した技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。モータ高効率化の過程において、モータの駆動システムは高度化し、さまざまな回転駆動制御が可能になっている。すなわち、駆動電源の周波数制御により、可変速運転、商用周波数以上での高速運転を可能としたモータが増加してきている。
このような高速回転機の実現には、高速回転に耐え得る構造のロータを開発する必要がある。一般に、ロータに作用する遠心力は回転半径に比例し、回転速度の二乗に比例する。このため高速回転で運転する際には、そのロータに作用する力が例えば500MPaを超える場合もある。したがって、ロータには降伏強度の高い材料が必要となる。通常、モータロータには、積層した無方向性電磁鋼板が使用されるが、上記のような高速回転するモータでは所要の強度を満足できない場合がある。その際にはロータ材料として高強度の鋳鋼などが用いられている。しかしながら、モータロータは、回転時に磁気的性質を利用するものであるから、その材料としては、上述のように、機械特性とともに磁気特性に優れていることが要求される。すなわち、一体物の鋳鋼製ロータでは、渦電流損が非常に大きくなるのでモータの効率が低下してしまうという問題がある。また、IPMモータの場合はそのロータでの損失による発熱で磁石特性が劣化するという問題も生じる。
このように、上記のような高速回転するモータのロータ鉄心材料としては、機械的には高い降伏強度を有し、かつ磁気的には高周波低鉄損を有するものでなければならない。鋼板の強度を高める手段として、冷延鋼板の分野では一般に、固溶強化、析出強化、細粒化強化、変態強化などの方法が用いられるが、高い降伏強度および高周波低鉄損という優れた磁気特性は一般に相反する関係にあり、これらを同時に満足させることは極めて困難であった。
しかしながら、最近では、高い抗張力を有する無方向性電磁鋼板についてのいくつかの提案がなされてきている。
例えば特許文献1では、Si含有量を3.5〜7.0%と高め、これに固溶強化の大きい元素を添加し、抗張力を高める方法が提案されている。しかしながら、この方法により得られる鋼板は非常に脆いため、冷間圧延時に破断しやすく歩留まりが非常に低いという問題がある。
また、特許文献2では、通常の無方向性電磁鋼板のハイグレード品程度にSiを含有させると同時に、Nb,Zrの1種または2種、あるいはTi,Vの1種または2種の炭窒化物を活用し、さらには熱間圧延条件および仕上げ焼鈍条件を制御することにより、機械特性および磁気特性を兼備した降伏強度の高い無方向性電磁鋼板を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法では仕上げ焼鈍温度が低いために、鋼板の結晶粒径が非常に小さく、鉄損が非常に劣るという問題がある。
さらに、特許文献3では、鋼材内部に直径1.0μm以下のCuからなる金属相を含有させることにより、抗張力を高める方法が提案されている。しかしながら、そのCuからなる金属相は軟質であるため、強化能が小さく改良の余地があった。
例えば特許文献1では、Si含有量を3.5〜7.0%と高め、これに固溶強化の大きい元素を添加し、抗張力を高める方法が提案されている。しかしながら、この方法により得られる鋼板は非常に脆いため、冷間圧延時に破断しやすく歩留まりが非常に低いという問題がある。
また、特許文献2では、通常の無方向性電磁鋼板のハイグレード品程度にSiを含有させると同時に、Nb,Zrの1種または2種、あるいはTi,Vの1種または2種の炭窒化物を活用し、さらには熱間圧延条件および仕上げ焼鈍条件を制御することにより、機械特性および磁気特性を兼備した降伏強度の高い無方向性電磁鋼板を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法では仕上げ焼鈍温度が低いために、鋼板の結晶粒径が非常に小さく、鉄損が非常に劣るという問題がある。
さらに、特許文献3では、鋼材内部に直径1.0μm以下のCuからなる金属相を含有させることにより、抗張力を高める方法が提案されている。しかしながら、そのCuからなる金属相は軟質であるため、強化能が小さく改良の余地があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、冷間圧延性に優れ、降伏強度が高く高周波での鉄損の低い無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
本発明者らは、時効熱処理による析出強化で強度を高め、かつ優れた磁気特性を有する鋼板ができないかとの観点から鋭意研究を積み重ねた結果、磁気特性および強度特性の両方に有利なSi含有の鋼をベースに、析出強化としてV炭化物およびCu析出物を活用することにより、強度特性および磁気特性を兼ね備えた無方向性電磁鋼板が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。
本発明においては、無方向性電磁鋼板の鋼組成、降伏強度および鉄損を所定の範囲とすることにより、冷間圧延性、磁気特性および強度特性に優れたものとすることができる。また、本発明の無方向性電磁鋼板を例えばモータロータに用いた場合、運転中に変形や破壊が生じることなく安定して使用可能なモータロータとすることができる。
また、本発明は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなることを特徴とする時効熱処理用無方向性電磁鋼板を提供する。
本発明においては、時効熱処理用無方向性電磁鋼板を所定の鋼組成とすることにより、冷間圧延性および磁気特性に優れたものとすることができる。また、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板に時効熱処理を施すことにより、強度特性も良好な無方向性電磁鋼板を得ることができる。
さらに、本発明は、上述した鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する冷却工程と
を有することを特徴とする時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する冷却工程と
を有することを特徴とする時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
本発明においては、冷延鋼板の鋼組成と、仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度と、冷却工程での平均冷却速度とを適正に制御することにより、冷間圧延性および磁気特性が良好な時効熱処理用無方向性電磁鋼板を製造することができる。また、本発明により得られた時効熱処理用無方向性電磁鋼板に時効熱処理を施すことにより、強度特性も改善された無方向性電磁鋼板を製造することができる。
本発明は、また、上述した時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用いて行われるものであり、上記時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す時効熱処理工程を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
本発明においては、上述した時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用い、時効熱処理工程での時効熱処理温度および熱処理パラメータを適正に制御することにより、強度特性および磁気特性のいずれも改善された無方向性電磁鋼板を製造することができる。
本発明によれば、降伏強度が高く高周波での鉄損の低い無方向性電磁鋼板を効率よく製造することが可能である。また、この無方向性電磁鋼板を用いて製造した鉄心が高速回転するモータロータに組み込まれれば、モータ効率が高くなることはもちろん、運転中に変形や破壊することなく長期間にわたり安定して使用可能となる。このような省エネルギー効果により地球環境に負荷の少ない未来社会創造に貢献できる。
本発明者らは、強度が高く、かつ磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を得るために、時効熱処理を用いた析出強化により無方向性電磁鋼板を高強度化することを新たに着想し、時効熱処理による鋼板の強度特性および磁気特性への影響を調査した。その結果、磁気特性および強度特性の両方に有利なSi含有の鋼をベースに、析出強化元素としてVおよびCuを活用し、強度特性および磁気特性を兼ね備えた無方向性電磁鋼板が得られることを見出した。以下、本発明をなすに至った知見およびそれに至る実験結果について説明する。
真空溶解炉にて、主要成分が質量%で、C:0.02%、Si:2%、Mn:0.2%、P:0.01%、S:0.001%、Al:0.7%、N:0.002%、Cu:2.0%であり、V含有量が0.01%未満または0.2%である鋳片を作製し、1100℃で加熱した後、仕上げ温度を850℃として熱間圧延を施し、厚さ2.5mmの熱延鋼板を作製した。上記熱延鋼板を厚さ2.1mmまで研削加工し、750℃10時間炉冷の焼鈍を施し、厚さ0.35mmまで冷間圧延を施した。この冷間圧延により得られた冷延鋼板に950℃で20秒間の仕上げ焼鈍を施し、次いで20℃/sの平均冷却速度で300℃以下まで冷却し、400〜700℃で30分間の時効熱処理を施した。得られた鋼板より幅55mm、長さ55mmの単板試験片を打ち抜き加工し、鉄損W10/400を測定した。また、得られた鋼板よりJIS5号の引張試験片を加工し、引張試験を行った。
図1に時効熱処理温度と降伏強度との関係、および図2に時効熱処理温度と鉄損W10/400との関係を示す。図1および図2より明らかなように、本実験条件では400℃から600℃の時効熱処理にて降伏強度が500MPa以上となり、かつ鉄損がその時効によりほとんど劣化しないことがわかった。また、Vを0.2%含有する鋼板は、Vを0.01%未満で含有する鋼板よりも磁気特性がやや劣化するが、降伏強度が高くなることがわかった。
さらに、上記と同様にして熱間圧延、冷間圧延、仕上げ焼鈍および冷却を行って得られた、Vを0.2%含有する鋼板を、種々の温度・時間条件の組合せにて時効熱処理を施し、下記式(1)で示される熱処理パラメータPと降伏強度との関係を求めた。結果を図3に示す。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。
ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。
図3に示すように、熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内で降伏強度500MPa以上が得られることが明らかとなった。
従来では、磁気特性に対して析出相が悪影響を及ぼすとされていた。これは、析出相はその周囲の静磁エネルギーを減少させるために新たな磁区を生成したり、磁壁移動の障害になったりするため、磁気特性が劣化すると考えられていたからである。しかしながら上述の実験結果より、時効析出により生成した微細なV炭化物もしくはCu相は磁気特性を劣化させないことが今回はじめて明らかとなった。その機構については明らかではないが、本発明者らは次のように推定する。すなわち、析出強化が最も顕著になる粒子サイズ(10〜40nm)は磁壁の厚みと同等以下であるため、新たな磁区が生成せず、磁壁移動の障害にもならないものと推定される。
また、析出強化としてCu析出物を単独で活用する場合と比較して、Cu相とV炭化物とを複合して析出させる方が、より一層の強度上昇が得られた理由は次のように推定する。すなわち、Cu析出物は結晶粒内に均一に分散して、V炭化物の析出サイトとなり、V炭化物の均一微細分散に寄与すると推定される。Cu析出粒子は軟質な金属相であり、転位運動の障壁としては弱く強化能が小さいが、V炭化物粒子は硬質であるため強化能が大きい。こうしたV炭化物とCu析出物との複合分散により、従来のCu析出強化鋼より高い強度が得られたと考えられる。
また、析出強化としてCu析出物を単独で活用する場合と比較して、Cu相とV炭化物とを複合して析出させる方が、より一層の強度上昇が得られた理由は次のように推定する。すなわち、Cu析出物は結晶粒内に均一に分散して、V炭化物の析出サイトとなり、V炭化物の均一微細分散に寄与すると推定される。Cu析出粒子は軟質な金属相であり、転位運動の障壁としては弱く強化能が小さいが、V炭化物粒子は硬質であるため強化能が大きい。こうしたV炭化物とCu析出物との複合分散により、従来のCu析出強化鋼より高い強度が得られたと考えられる。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板および時効熱処理用無方向性電磁鋼板、ならびにそれらの製造方法について詳細に説明する。
A.無方向性電磁鋼板
まず、本発明の無方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とするものである。
まず、本発明の無方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とするものである。
なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。また、本発明において、「残部が実質的にFeおよび不純物からなる」とは、本発明の効果を阻害しない範囲で他の元素を含有する場合を含むことを意味する。
本発明においては、無方向性電磁鋼板の鋼組成、降伏強度および鉄損を所定の範囲とすることにより、冷間圧延性、磁気特性および強度特性に優れたものとなるので、本発明の無方向性電磁鋼板を例えばモータロータに用いた場合、運転中に変形や破壊が生じることなく安定して使用可能なモータロータとすることができる。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板の鋼成分、降伏強度および鉄損について説明する。
以下、本発明の無方向性電磁鋼板の鋼成分、降伏強度および鉄損について説明する。
1.鋼成分
(1)C
CはV炭化物となり、鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。その析出強化を図るには、C含有量を少なくとも0.005%以上に制御することが必要である。しかしながら、C含有量が0.05%を超えるとセメンタイト、εカーバイドなどの炭化物が粗大に析出し、磁気特性劣化が顕著になる場合がある。一方、C含有量が0.05%以下であれば、V炭化物が微細に析出するので、磁気特性を劣化させずに強度上昇を図ることができる。よって、C含有量は0.005%以上0.05%以下に限定する。
(1)C
CはV炭化物となり、鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。その析出強化を図るには、C含有量を少なくとも0.005%以上に制御することが必要である。しかしながら、C含有量が0.05%を超えるとセメンタイト、εカーバイドなどの炭化物が粗大に析出し、磁気特性劣化が顕著になる場合がある。一方、C含有量が0.05%以下であれば、V炭化物が微細に析出するので、磁気特性を劣化させずに強度上昇を図ることができる。よって、C含有量は0.005%以上0.05%以下に限定する。
(2)Si
Siは鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。また、Siは固溶強化により鋼板の強度を高めるのにも有効である。Si含有量は必要な鉄損特性および強度特性に応じて決定すればよい。しかしながら、Si含有量が0.5%未満では必要な降伏強度および鉄損が得られない可能性がある。一方、Si含有量が3%を超えるとCu析出状態が不均一になり、所望のCu析出強化が得られなくなる場合がある。また、冷間圧延において破断しやすくなり製造コストが著しく増大する場合がある。したがって、Si含有量は0.5%以上3%以下とする。さらに、Cu析出強化およびSi固溶強化をトータルで高めるには、Si含有量を1%以上2.5%以下にするのが好ましい。
Siは鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。また、Siは固溶強化により鋼板の強度を高めるのにも有効である。Si含有量は必要な鉄損特性および強度特性に応じて決定すればよい。しかしながら、Si含有量が0.5%未満では必要な降伏強度および鉄損が得られない可能性がある。一方、Si含有量が3%を超えるとCu析出状態が不均一になり、所望のCu析出強化が得られなくなる場合がある。また、冷間圧延において破断しやすくなり製造コストが著しく増大する場合がある。したがって、Si含有量は0.5%以上3%以下とする。さらに、Cu析出強化およびSi固溶強化をトータルで高めるには、Si含有量を1%以上2.5%以下にするのが好ましい。
(3)Mn
Mnは不可避的不純物であり、添加する必要はない。しかしながら、Mnは鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。その効果を得るには0.1%以上含有させることが好ましい。一方、Mn含有量が1%を超えると原料コストが大きくなる場合がある。したがって、Mn含有量は1%以下に限定する。
Mnは不可避的不純物であり、添加する必要はない。しかしながら、Mnは鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。その効果を得るには0.1%以上含有させることが好ましい。一方、Mn含有量が1%を超えると原料コストが大きくなる場合がある。したがって、Mn含有量は1%以下に限定する。
(4)P
Pは不可避的不純物であり、添加する必要はない。しかしながら、Pは固溶強化により鋼板の強度を高めるのに有効な元素であり、その効果を得るには0.05%以上含有させることが好ましい。一方、P含有量が0.2%を超えると鋼の靱性が劣化し、冷間圧延時に破断するおそれがある。したがって、P含有量は0.2%以下に限定する。
Pは不可避的不純物であり、添加する必要はない。しかしながら、Pは固溶強化により鋼板の強度を高めるのに有効な元素であり、その効果を得るには0.05%以上含有させることが好ましい。一方、P含有量が0.2%を超えると鋼の靱性が劣化し、冷間圧延時に破断するおそれがある。したがって、P含有量は0.2%以下に限定する。
(5)S
Sは不可避的不純物であり、添加する必要はない。S含有量が0.03%を超えると粗大なMn,Cu含有硫化物が形成され、鋼の靭性が劣化し、冷間圧延時に破断するおそれがある。したがって、S含有量は0.03%以下に限定する。
Sは不可避的不純物であり、添加する必要はない。S含有量が0.03%を超えると粗大なMn,Cu含有硫化物が形成され、鋼の靭性が劣化し、冷間圧延時に破断するおそれがある。したがって、S含有量は0.03%以下に限定する。
(6)Al
AlはSiと同様に鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。また、耐酸化性にも優れ、Cu添加鋼特有の表面疵を抑制するのにも有効である。しかしながら、Al含有量が3%を超えると飽和磁束密度が著しく低下し鉄心性能が劣化する可能性がある。一方、Cuによる表面疵を抑制するにはAl含有量を0.2%以上含有させることが必要である。したがって、Al含有量は0.2%以上3%以下に限定する。さらに、上記の効果を総合的に得るためには、Al含有量は0.5%以上2.5%以下であることが好ましい。
AlはSiと同様に鋼の比抵抗を高め、鉄損低減に有効である。また、耐酸化性にも優れ、Cu添加鋼特有の表面疵を抑制するのにも有効である。しかしながら、Al含有量が3%を超えると飽和磁束密度が著しく低下し鉄心性能が劣化する可能性がある。一方、Cuによる表面疵を抑制するにはAl含有量を0.2%以上含有させることが必要である。したがって、Al含有量は0.2%以上3%以下に限定する。さらに、上記の効果を総合的に得るためには、Al含有量は0.5%以上2.5%以下であることが好ましい。
(7)Cu
Cuは本発明において必須の元素である。上述したように、Cu析出物が非常に微細である場合には、磁気特性をほとんど劣化させることなく、強度特性を向上させる効果がある。しかしながら、Cu含有量が1%以下ではCu析出による強度上昇が十分得られない可能性がある。一方、Cu含有量が増加するにつれて時効強化量は大きくなるが4%を超えると析出強化現象が飽和し、また鋼板の磁束密度も低下する場合がある。したがって、Cu含有量は1%超4%以下に限定する。また、析出強化が最も顕著になるという点から、Cu含有量は2%以上3%以下であることが好ましい。
Cuは本発明において必須の元素である。上述したように、Cu析出物が非常に微細である場合には、磁気特性をほとんど劣化させることなく、強度特性を向上させる効果がある。しかしながら、Cu含有量が1%以下ではCu析出による強度上昇が十分得られない可能性がある。一方、Cu含有量が増加するにつれて時効強化量は大きくなるが4%を超えると析出強化現象が飽和し、また鋼板の磁束密度も低下する場合がある。したがって、Cu含有量は1%超4%以下に限定する。また、析出強化が最も顕著になるという点から、Cu含有量は2%以上3%以下であることが好ましい。
(8)V
Vは炭化物を生成し強度上昇に有効であり、本発明において必須の元素である。時効熱処理による時効析出強化を得るにはV含有量が0.01%以上必要である。一方、V含有量が1.5%を超えると粗大なV炭化物が生成し、磁気特性が著しく劣化する可能性がある。したがって、V含有量は0.01%以上1.5%以下に限定する。また、V炭化物による析出強化が最も顕著になるという点から、V含有量は0.05%以上0.5%以下であることが好ましい。
Vは炭化物を生成し強度上昇に有効であり、本発明において必須の元素である。時効熱処理による時効析出強化を得るにはV含有量が0.01%以上必要である。一方、V含有量が1.5%を超えると粗大なV炭化物が生成し、磁気特性が著しく劣化する可能性がある。したがって、V含有量は0.01%以上1.5%以下に限定する。また、V炭化物による析出強化が最も顕著になるという点から、V含有量は0.05%以上0.5%以下であることが好ましい。
2.降伏強度
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の降伏強度について説明する。本発明の無方向性電磁鋼板の降伏強度は、500MPa以上であり、好ましくは600MPa以上とする。降伏強度を上記範囲とすることにより、本発明の無方向性電磁鋼板を用いて例えばモータロータとした際に、運転中に変形や破壊が発生することなく安定して使用することが可能となるからである。
また、降伏強度の上限値としては特に限定されないが、通常1000MPa以下とする。
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の降伏強度について説明する。本発明の無方向性電磁鋼板の降伏強度は、500MPa以上であり、好ましくは600MPa以上とする。降伏強度を上記範囲とすることにより、本発明の無方向性電磁鋼板を用いて例えばモータロータとした際に、運転中に変形や破壊が発生することなく安定して使用することが可能となるからである。
また、降伏強度の上限値としては特に限定されないが、通常1000MPa以下とする。
なお、上記降伏強度は、JIS−Z−2241に規定の方法にて測定することができる。
3.鉄損
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の鉄損について説明する。本発明の無方向性電磁鋼板の鉄損は、高周波400Hz、最大磁束密度1Tにて測定した値で30W/kg以下であり、好ましくは25W/kg以下とする。高周波での鉄損を上記範囲とすることにより、本発明の無方向性電磁鋼板を用いて例えばモータロータとした際に、モータ損失が低減されるだけでなく、磁石の温度上昇を抑制してトルク特性を低下させずに使用することが可能となるからである。
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の鉄損について説明する。本発明の無方向性電磁鋼板の鉄損は、高周波400Hz、最大磁束密度1Tにて測定した値で30W/kg以下であり、好ましくは25W/kg以下とする。高周波での鉄損を上記範囲とすることにより、本発明の無方向性電磁鋼板を用いて例えばモータロータとした際に、モータ損失が低減されるだけでなく、磁石の温度上昇を抑制してトルク特性を低下させずに使用することが可能となるからである。
なお、上記鉄損は、JIS−C−2550に規定の方法にて測定することができる。
B.時効熱処理用無方向性電磁鋼板
次に、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなることを特徴とするものである。
次に、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなることを特徴とするものである。
本発明においては、時効熱処理用無方向性電磁鋼板を所定の鋼組成とすることにより、冷間圧延性および磁気特性に優れたものとすることができる。また、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板は、時効熱処理に供する無方向性電磁鋼板であるので、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板に時効熱処理を施すことにより、磁気特性および強度特性に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。
なお、鋼成分については、上述した「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。また、時効熱処理については、後述する「D.無方向性電磁鋼板の製造方法」の項に記載するため、ここでの説明は省略する。
C.時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する冷却工程とを有することを特徴とするものである。
次に、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する冷却工程とを有することを特徴とするものである。
本発明においては、冷延鋼板の鋼組成と、仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度と、冷却工程での平均冷却速度とを適正に制御することにより、冷間圧延性および磁気特性が良好な時効熱処理用無方向性電磁鋼板を製造することができる。また、本発明により得られた時効熱処理用無方向性電磁鋼板に時効熱処理を施すことにより、磁気特性だけでなく強度特性も改善された無方向性電磁鋼板を製造することができる。
以下、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法の各工程について説明する。
以下、本発明の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法の各工程について説明する。
1.仕上げ焼鈍工程
本発明における仕上げ焼鈍工程は、上述した鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す工程である。
本発明における仕上げ焼鈍工程は、上述した鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す工程である。
本工程における仕上げ焼鈍温度の制御は、鋼板の時効熱処理前の強度特性と、時効熱処理後の強度特性および磁気特性とを改善する上で非常に重要である。仕上げ焼鈍温度が900℃未満では、再結晶粒成長が不十分となり磁気特性が著しく劣化する可能性がある。一方、1150℃を超えると鋼板の平坦度が著しく劣化し、打ち抜き加工性が劣化する場合がある。したがって、仕上げ焼鈍温度は900℃以上1150℃以下に限定する。また、より一層の鉄損低減には仕上げ焼鈍温度が高ければ高いほどよく、950℃以上とすることが好ましい。
なお、冷延鋼板の鋼成分については、上述した「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
2.冷却工程
本発明における冷却工程は、上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する工程である。
本発明における冷却工程は、上記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する工程である。
本発明において冷却速度を制御することは、冷却工程にてCuを過飽和固溶状態とし、上記冷却工程後に後述の「D.無方向性電磁鋼板の製造方法」に記載する時効熱処理工程を行うことによりCuの析出を促して、目的とする降伏強度を得るのに重要である。このため、Cuの析出が盛んとなる900℃以下600℃以上の温度域を冷却する際には、平均冷却速度1℃/s以上で冷却することが必要である。900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s未満である場合には、冷却過程においてCuの析出が過剰に進行するため、時効熱処理工程を行う前にCuの過飽和固溶状態を実現できず、その後時効熱処理を施したとしても目的とする降伏強度を得ることができない場合があるからである。また、時効熱処理工程前に過飽和固溶状態を実現できればよいのであるから、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度が過大となると平坦度が悪くなり鉄心製造(打ち抜き積層)が困難となるので、平均冷却速度を100℃/s以下とすることが好ましい。
また、冷却工程では、鋼板を室温まで冷却させてもよく、後述する時効熱処理温度まで冷却させてもよい。鋼板を時効熱処理温度まで冷却させた場合は、後述する時効熱処理工程にて鋼板の温度を時効熱処理温度まで再度上昇させる必要がないため、製造工程が簡便となり冷却工程と時効熱処理工程とを連続して行うことができる。
3.その他
本発明においては、上記仕上げ焼鈍工程前に、通常、上述した鋼成分を有する鋼塊または鋼片(以下、スラブということもある。)に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、この熱間圧延工程により得られる熱延鋼板に冷間圧延を施す冷間圧延工程とが行われる。
本発明においては、上記仕上げ焼鈍工程前に、通常、上述した鋼成分を有する鋼塊または鋼片(以下、スラブということもある。)に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、この熱間圧延工程により得られる熱延鋼板に冷間圧延を施す冷間圧延工程とが行われる。
本発明における熱間圧延および冷間圧延としては一般的な方法を用いることができ、熱間圧延工程および冷間圧延工程での温度、圧延方向に対する張力等の条件は、スラブの鋼組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
また本発明においては、上記熱間圧延工程後に、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を行ってもよい。
さらに本発明においては、上記冷間圧延工程は、熱延鋼板に中間焼鈍をはさんだ二回以上の冷間圧延を施す工程であってもよい。
このような熱延板焼鈍や中間焼鈍は必ずしも必須の工程ではないが、熱延板焼鈍または中間焼鈍を行うことにより、鋼板の延性が向上し冷間圧延での破断が少なくなる。熱延板焼鈍および中間焼鈍は、いずれか一方を行ってもよく、両方を行ってもよい。
また、熱延板焼鈍および中間焼鈍における焼鈍温度は、500℃未満であるとかえって鋼板の強度が高くなりすぎ、冷間圧延が困難となる可能性がある。一方、熱延板焼鈍および中間焼鈍における焼鈍温度が900℃を超えてもCuの固溶・再析出が起こり、鋼板強度が高くなり、冷間圧延が困難となる可能性がある。したがって、熱延板焼鈍や中間焼鈍を施す場合は、焼鈍温度を500℃以上900℃以下とすることが好ましい。
なお、本発明により製造された時効熱処理用無方向性電磁鋼板については、上述した「B.時効熱処理用無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
D.無方向性電磁鋼板の製造方法
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用いて行われるものであり、上記時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す時効熱処理工程を有することを特徴とするものである。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用いて行われるものであり、上記時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す時効熱処理工程を有することを特徴とするものである。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
本発明においては、上述の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用い、時効熱処理工程での時効熱処理温度および熱処理パラメータを適正に制御することにより、強度特性および磁気特性のいずれも改善された無方向性電磁鋼板を製造することができる。
なお、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法における時効熱処理工程以外の製造工程については、上述した「C.時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法」の項に記載したものと同様である。以下、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法の時効熱処理工程について説明する。
1.時効熱処理工程
本発明における時効熱処理工程は、上述の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す工程である。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
本発明における時効熱処理工程は、上述の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す工程である。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
本発明において、時効熱処理は無方向性電磁鋼板の強度を高めるのに必要である。この時効熱処理を施すことにより無方向性電磁鋼板の強度を高めることができ、例えば鋼板の打ち抜き加工後に時効熱処理を施した場合であっても、無方向性電磁鋼板の強度を高めることができる。その時効強化による効果を得るには、時効熱処理温度を400℃以上とすることが必要である。時効熱処理温度が400℃未満では時効熱処理時間が長大となるため生産性に劣る場合があるからである。一方、時効熱処理温度が700℃を超えると過時効になりCu析出粒子は粗大化して所望の降伏強度が得られず、磁気特性も劣化する可能性がある。したがって、時効熱処理温度は400℃以上700℃以下と限定する。
さらに本発明においては、時効熱処理温度T(℃)と時効熱処理時間t(h)とにより上記式(1)で示される熱処理パラメータPが、12000以上18000以下となる条件を満足する必要がある。熱処理パラメータPが12000未満の場合には時効析出が不十分となり、熱処理パラメータPが18000を超える場合には過時効となり、それぞれ所望の降伏強度が得られない可能性があるからである。
また、時効熱処理工程は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、例えば水素、窒素あるいはアルゴンなどが挙げられる。
なお、本発明により製造された無方向性電磁鋼板については、上述した「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を例示して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
転炉で脱炭脱硫した溶鋼230tonを取鍋内に出鋼し、取鍋をRH式真空脱ガス装置に移動した。RH式真空脱ガス装置で減圧脱炭を行い、鋼中のC含有量を0.05%以下とした後に、Si,Mn,P,S,Al,CuおよびVの含有量を調整し、連続鋳造機にてスラブとした。
[実施例1]
転炉で脱炭脱硫した溶鋼230tonを取鍋内に出鋼し、取鍋をRH式真空脱ガス装置に移動した。RH式真空脱ガス装置で減圧脱炭を行い、鋼中のC含有量を0.05%以下とした後に、Si,Mn,P,S,Al,CuおよびVの含有量を調整し、連続鋳造機にてスラブとした。
上記スラブを加熱炉で1150℃まで加熱し、仕上げ温度780〜850℃、巻き取り温度450℃で熱間圧延し、厚さ2.2mmとした。次いで、酸洗脱スケールして750℃で10時間焼鈍後、厚さ0.35mmまで冷間圧延し、950〜1020℃で仕上げ焼鈍した。そして、900℃以下600℃以上の温度域を20℃/sまたは25℃/sの平均冷却速度で冷却した。さらに、450℃で10時間の時効熱処理を施し、全ての鋼板表面に絶縁皮膜を塗布した。この鋼板から28cmエプスタイン試験片を採取してJIS−C−2550規定の方法により鉄損を測定した。また、上述した引張試験により降伏強度および引張強度を測定した。
製品の成分分析値、磁気特性および強度特性の評価結果を表1および表2に示す。
製品の成分分析値、磁気特性および強度特性の評価結果を表1および表2に示す。
本発明に従って製造した鋼板は、降伏強度が500MPa以上でかつ鉄損W10/400が25W/kg以下となり、所要の強度特性および磁気特性が得られた。また、鋼No.A6はAl含有量が少なく、鋼板表面に疵が発生した。
[実施例2]
実施例1にて製造した鋼No.A5およびA9の冷延鋼板を用いて、仕上げ焼鈍温度を850℃から1160℃まで変化させて仕上げ焼鈍を行った。さらに、種々の時効熱処理を施し、全ての鋼板表面に絶縁皮膜を塗布した。この鋼板から28cmエプスタイン試験片を採取してJIS−C−2550規定の方法により鉄損を測定し、さらに引張試験により降伏強度を測定した。
仕上げ焼鈍温度および時効熱処理温度、ならびに製品の磁気特性、強度特性および平坦度を表3に示す。
実施例1にて製造した鋼No.A5およびA9の冷延鋼板を用いて、仕上げ焼鈍温度を850℃から1160℃まで変化させて仕上げ焼鈍を行った。さらに、種々の時効熱処理を施し、全ての鋼板表面に絶縁皮膜を塗布した。この鋼板から28cmエプスタイン試験片を採取してJIS−C−2550規定の方法により鉄損を測定し、さらに引張試験により降伏強度を測定した。
仕上げ焼鈍温度および時効熱処理温度、ならびに製品の磁気特性、強度特性および平坦度を表3に示す。
ここで、平坦度とは、仕上げ焼鈍後の鋼帯から長手方向に3mの鋼板を採取して、水平な定盤上にのせ、側波の高さ(h)および波長(L)を測定することにより得られるh/L値を基準とするものである。表3では、平坦度100h/L値が0.4以下のものを「○」印で表し、平坦度100h/L値が0.4を超えるものを「×」印で表す。
本発明に従って、仕上げ焼鈍温度、時効熱処理温度、および熱処理パラメータを制御して製造した鋼板は、降伏強度が500MPa以上の所要の強度特性が得られ、さらに鉄損W10/400が25W/kg以下と磁気特性に優れるものであった。一方、本発明の規定外の条件で製造された鋼板は、降伏強度が500MPaを下回っていたり、鉄損W10/400が30W/kgを超えていたりして、本発明例より明らかに劣っていた。また、仕上げ焼鈍温度を1160℃で製造した鋼板は、平坦度が非常に劣っていることが判明した。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなり、降伏強度が500MPa以上であり、かつ、鉄損W10/400が30W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
- 質量%で、C:0.005%以上0.05%以下、Si:0.5%以上3%以下、Mn:1%以下、P:0.2%以下、S:0.03%以下、Al:0.2%以上3%以下、V:0.01%以上1.5%以下、およびCu:1%超4%以下を含有し、残部が実質的にFeおよび不純物からなることを特徴とする時効熱処理用無方向性電磁鋼板。
- 請求項1に記載の鋼組成を備える冷延鋼板に、900℃以上1150℃以下の範囲内の仕上げ焼鈍温度で仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
前記仕上げ焼鈍工程後の鋼板を、900℃以下600℃以上の温度域での平均冷却速度が1℃/s以上の範囲となるように冷却する冷却工程と
を有することを特徴とする時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項3に記載の時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法を用いて行われるものであり、前記時効熱処理用無方向性電磁鋼板の製造方法により得られる時効熱処理用無方向性電磁鋼板に、400℃以上700℃以下の範囲内の時効熱処理温度で、下記式(1)で示される熱処理パラメータPが12000以上18000以下の範囲内となるように時効熱処理を施す時効熱処理工程を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
P=(T+273)×(20+log(t)) … (1)
(ここで、Tは時効熱処理温度(℃)であり、tは時効熱処理時間(h)である。)
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---|---|---|---|---|
CN106282781A (zh) * | 2016-10-11 | 2017-01-04 | 东北大学 | 一种基于纳米Cu析出强化制备高强度无取向硅钢的方法 |
CN113564325A (zh) * | 2021-08-12 | 2021-10-29 | 上汽大众汽车有限公司 | 一种新能源车用电机铁芯热处理工艺 |
-
2004
- 2004-09-10 JP JP2004264717A patent/JP2006077305A/ja active Pending
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