JP2006075080A - 植物繊維の特性を変える方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率、電気抵抗値といった植物繊維の特性を変更する。
【解決手段】 1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入して形質転換体を得る工程と、 上記工程で得た形質転換体を植物体に成長させる工程とを含む植物繊維の特性を変える方法。
【選択図】 なし
【解決手段】 1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入して形質転換体を得る工程と、 上記工程で得た形質転換体を植物体に成長させる工程とを含む植物繊維の特性を変える方法。
【選択図】 なし
Description
本発明は、例えば強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率、電気抵抗値といった植物繊維の特性を変える方法に関する。
木質と石油系プラスチックとの複合材料(以下、WPC製品(wood and p1astic combination)と呼ぶ。)は、プラスチックのモノマーを植物系バイオマスヘ充填し、加熱触媒処理によるポリマー化を行う事により生産されている製品群として知られている。WPC製品は、天然繊維素をプラスチックポリマー化する事により、疎水性等の向上を目的とした工業製品である。プラスチックポリマー化された繊維素は、各種特性が変化することによって、糸、パルプ、紙及び建材などの様々な製品に使用することが可能となる。
WPC製品の生産方法としては、プラスチックのモノマーを植物系バイオマスヘ浸透させ、加熱触媒処理によりポリマー化を行うといった生産方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法ではモノマー充填や重合の際に多くのエネルギーが必要となるため、この方法には生産コストが高いといった問題がある。また、重合に際して放射線照射法を使用する場合には、特に、製造工程での労働従事者の人体への影響の可能性が問題点として考えられる。
さらに、モノマー充填に際して、減圧法及び加圧法のいずれで行ったとしても、バイオマスの微細構造が原因で、樹種によってはモノマーを充填しにくい場合がある。言い換えると、この方法には、WPC製造に適さない樹種があり、樹種による制限を受るといった問題がある。
さらにまた、プラスチックモノマーとしては、スチレン、不飽和ポリエステル・スチレン、スチレン・アクロニトリルなどを使用している。これらは人体に有毒なVOC(揮発性有機物質)や環境ホルモンとなる可能性があるため、特に完全に重合しないでバイオマス中に残存した場合、人体や環境への負荷が大きいなどの問題の発生する恐れがある。
そこで、本発明者らは、モノマー供給系酵素遺伝子とモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とをゲノム中に含み、これら遺伝子の作用により生産された高分子材料を含有する高分子材料含有植物に関する特許を出願した(特願2003-46436号)。この特許出願に係る発明によれば、建材、製品又は工業原料といった幅広い用途に高分子材料含有植物を利用することができる。
ところが、現在、植物繊維の特性を変えるといった技術は知られておらず、様々な用途に適した特性を示す植物繊維を取得することが求められている。
木質新素材ハンドブック、技報堂出版、木質新素材ハンドブック編集委員会、461〜774頁、1996年、
木質新素材ハンドブック、技報堂出版、木質新素材ハンドブック編集委員会、461〜774頁、1996年、
そこで、本発明は上述したような実状に鑑み、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率、電気抵抗値といった植物繊維の特性を変える方法を提供することを目的とする。
上述した目的を達成した本発明は、以下を包含する。
(1) 1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入して形質転換体を得る工程と、上記工程で得た形質転換体を植物体に成長させる工程とを含む植物繊維の特性を変える方法。
(2) 上記モノマー供給系酵素遺伝子が生物由来のpha Bであり、上記重合酵素遺伝子が生物由来のpha Cであることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(3) 上記生物がRalstonia eutrophaであることを特徴とする(2)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(4) 上記高分子材料がポリヒドロキシアルカン酸であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(5) 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子が脂肪酸のβ-酸化経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(6) 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子がDe novo脂肪酸合成経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(7) 上記特性は、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率及び電気抵抗値から選ばれる少なくとも1以上の特性であることを特徴とする(1)乃至(6)いずれか1に記載の植物繊維の特性を変える方法。
(1) 1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入して形質転換体を得る工程と、上記工程で得た形質転換体を植物体に成長させる工程とを含む植物繊維の特性を変える方法。
(2) 上記モノマー供給系酵素遺伝子が生物由来のpha Bであり、上記重合酵素遺伝子が生物由来のpha Cであることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(3) 上記生物がRalstonia eutrophaであることを特徴とする(2)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(4) 上記高分子材料がポリヒドロキシアルカン酸であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(5) 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子が脂肪酸のβ-酸化経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(6) 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子がDe novo脂肪酸合成経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする(1)記載の植物繊維の特性を変える方法。
(7) 上記特性は、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率及び電気抵抗値から選ばれる少なくとも1以上の特性であることを特徴とする(1)乃至(6)いずれか1に記載の植物繊維の特性を変える方法。
本発明によれば、様々な用途に利用される植物繊維の特性を変えることができる。本発明に係る植物繊維の特性を変える方法によれば、建材、製品又は工業原料といった幅広い用途に利用可能な高分子材料含有植物を作出することが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る高分子材料含有植物の製造方法は、先ず、1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入する。
本発明に係る高分子材料含有植物の製造方法は、先ず、1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入する。
ここでモノマー供給系酵素遺伝子とは、植物内におけるモノマー生合成に関与する全ての酵素の遺伝子を含む意味である。例えば、モノマー供給系酵素遺伝子としては、モノマー合成酵素遺伝子、及びモノマー合成酵素が利用する基質を合成する酵素遺伝子を挙げることができる。モノマー合成酵素遺伝子とは、植物内に存在する基質を利用し、高分子化合物を構成するモノマーを合成する機能を有する酵素をコードする遺伝子である。例えば、モノマー合成酵素遺伝子としては、特に限定されないが、アセトアセチル-CoAリダクターゼ遺伝子(以下、phbB遺伝子と呼ぶ)を例示することができる。phbB遺伝子は、植物内で合成されたアセトアセチル-CoAを基質として、3-ヒドロキシアセチル-CoAを合成するアセトアセチル-CoAリダクターゼ(以下、phbBと呼ぶ)をコードする遺伝子である。
phbB遺伝子は、Ralstonia eutropha由来のものを使用することが好ましい。Ralstonia eutropha由来のphbB遺伝子は、Ralstonia eutrophaのゲノムライブラリー或いはcDNAライブラリーから定法に従って取得することもできるし、phbB遺伝子の塩基配列に基づいて設計された一対のプライマーを用いてRalstonia eutrophaゲノムを鋳型としたPCRによっても取得することができる。Ralstonia eutropha由来phbB遺伝子の塩基配列の一例を配列番号1に示し、phbB遺伝子がコードするphbBのアミノ酸配列の一例を配列番号2に示す。
なお、本発明において、phbB遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列からなるものに限定されず、phbBをコードするならば配列番号1と異なる塩基配列であっても良い。また、本発明において、phbBとしては、配列番号2のアミノ酸配列からなるものに限定されず、配列番号2のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸を欠失、置換、付加或いは挿入したアミノ酸配列からなり、且つ、アセトアセチル-CoAを基質として3-ヒドロキシアセチル-CoAを合成する活性を示すアミノ酸配列からなるものであっても良い。
また、本発明において、phbB遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列において1又は複数の塩基が欠失、置換、付加或いは挿入された塩基配列であって且つアセトアセチル-CoAを基質として3-ヒドロキシアセチル-CoAを合成する活性を示す酵素(phbB)をコードする塩基配列からなるものであっても良い。また、本発明において、phbB遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であってアセトアセチル-CoAを基質として3-ヒドロキシアセチル-CoAを合成する活性を示す酵素(phbB)をコードする塩基配列からなるものであっても良い。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が500〜1000mM、好ましくは700mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは65℃での条件をいう。
一方、重合酵素遺伝子とは、phbB等のモノマー合成酵素によって合成されたモノマーを基質として高分子化合物を合成する酵素をコードする遺伝子である。例えば、重合酵素遺伝子としては、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素(以下、phbC)をコードする遺伝子(以下、phbC遺伝子と呼ぶ)が挙げられる。なお、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素は、3-ヒドロキシアセチル-CoAを基質としてポリ-3-ヒドロキシアルカン酸を生成する触媒機能を有するほか、3-ヒドロキシペンタノイル-CoA又は3-ヒドロキシヘキサノイル-CoAを基質としてポリ-3-ヒドロキシアルカン酸を生成する触媒機能を有する酵素である。
phbC遺伝子は、Ralstonia eutropha由来のものを使用することが好ましい。Ralstonia eutropha由来のphbC遺伝子は、Ralstonia eutrophaのゲノムライブラリー或いはcDNAライブラリーから定法に従って取得することもできるし、phbC遺伝子の塩基配列に基づいて設計された一対のプライマーを用いてRalstonia eutrophaゲノムを鋳型としたPCRによっても取得することができる。Ralstonia eutropha由来phbC遺伝子の塩基配列の一例を配列番号3に示し、phbC遺伝子がコードするphbCのアミノ酸配列の一例を配列番号4に示す。
なお、本発明において、phbC遺伝子は、配列番号3に示す塩基配列からなるものに限定されず、phbCをコードするならば配列番号3と異なる塩基配列であっても良い。また、本発明において、phbCとしては、配列番号4のアミノ酸配列からなるものに限定されず、配列番号4のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸を欠失、置換、付加或いは挿入したアミノ酸配列からなり、且つ、3-ヒドロキシアセチル-CoAを基質としてポリ-3-ヒドロキシアルカン酸を生成する触媒機能を有するアミノ酸配列からなるものであっても良い。
また、本発明において、phbC遺伝子としては、配列番号3に示す塩基配列において1又は複数の塩基が欠失、置換、付加或いは挿入された塩基配列であって且つ3-ヒドロキシアセチル-CoAを基質としてポリ-3-ヒドロキシアルカン酸を生成する触媒機能を有する酵素(phbC)をコードする塩基配列からなるものであっても良い。また、本発明において、phbC遺伝子は、配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって3-ヒドロキシアセチル-CoAを基質としてポリ-3-ヒドロキシアルカン酸を生成する触媒機能を有する酵素(phbC)をコードする塩基配列からなるものであっても良い。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が500〜1000mM、好ましくは700mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは65℃での条件をいう。
ところで、これらモノマー合成酵素遺伝子及び重合酵素遺伝子を機能しうるかたちで染色体に導入するには、これらモノマー合成酵素遺伝子及び重合酵素遺伝子を含む発現ベクターを構築する。発現ベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNA(バイナリーベクター)としては、大腸菌やアグロバクテリウムからアルカリ抽出法(Birnboim,H.C. & Doly,J.(1979) Nucleic acid Res 7: 1513)等により調製することができる。バイナリーベクターとしては、例えばpBI121、pBI101等が挙げられる。また、市販のプラスミドとして例えばpUC118(宝酒造社製)、pUC119 (宝酒造社製)、pBluescript SK+(Stratagene 社製)、pGEM-T(Promega社製)、pCR2.1(Invitrogen社製)等を用いてもよい。ファージ DNAとしては、例えば、M13mp18、M13mp19、M13tv18等が挙げられる。
ベクターにプロモーターを挿入するには、まず、精製されたモノマー合成酵素遺伝子及び重合酵素遺伝子を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して連結する方法などが採用される。プロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチンプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター等が挙げられる。ここで、発現の目的となるモノマー合成酵素遺伝子及び重合酵素遺伝子は、いずれもその遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、発現用ベクターには、上記プロモーター及び上記遺伝子のほか、ターミネーター、薬物耐性遺伝子等を組み込むことができる。この場合、ターミネーターとしてはノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターなどが挙げられ、エンハンサーとしてはタバコモザイクウイルスΩ配列などが挙げられ、薬物耐性遺伝子としてはカナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子などが挙げられる。
具体的には、例えば、図1に示すように、phbB遺伝子及びphbC遺伝子をそれぞれカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(35S)の下流につなぎ、その下流にノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(NosT)をそれぞれつなぐ(それぞれphbB遺伝子カセット及びphbC遺伝子カセットという)。また、phbC遺伝子カセットの下流に、カナマイシン耐性遺伝子(NPT)及びノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(NosT)をつないだカセットも作製する(NPTカセットという)。そして、phbB遺伝子カセット、phbC遺伝子カセット及びNPTカセットの順で連結し、発現ベクターを得ることができる。
得られた発現ベクターを用いて、宿主となる植物を形質転換することによって、モノマー合成酵素遺伝子及び重合酵素遺伝子を機能しうるかたちで染色体に導入することができる。
ここで、宿主とは、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)又は植物培養細胞のいずれであってもよい。形質転換に用いられる植物としては、いかなる植物であってもよいが、例えば、イネ科、アブラナ科、キク科、ゴマ科、モクセイ科、フトモモ科、バラ科、マメ科、ヤシ科、アカネ科、マツ科、ヒノキ科、カバノキ科(カバ科)、ブナ科、ナンヨウスギ科、ギョリュウ科、ヤナギ科、ツツジ科、スギ科、ニレ科、モクレン科、クルミ科、クスノキ科、ウコギ科、モクセイ科、トチノキ科、センダン科、イヌガヤ科、トチュウ科、ゴム科、マンサク科、シナノキ科、カエデ科、ツゲ科に属する植物が挙げられる。
植物体、植物器官又は植物組織を宿主とする場合、形質転換は、採取した植物切片に、上述した発現用ベクターをアグロバクテリウム法で導入することにより行うことができる。また、プロトプラストにエレクトロポレーション法で導入することもでき、あるいはパーティクルボンバードメント法で植物器官又は植物組織に導入することにより行うこともできる。
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモンの投与などにより植物体に再生させることができる。植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、上述した発現用ベクターをエレクトロポレーション法又はアグロバクテリウムのバイナリーベクター法等で培養細胞に導入し、その後、前記と同様にして細胞培養、組織培養、器官培養を行うことで植物体を得ることができる。
このようにして得られた形質転換体を培養又は栽培すれば、高分子材料を含有する植物体を生産することができる。
形質転換体が植物細胞又は植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地(Murashige, T. & Skoog, F. (1962) Physiol. Plant. 15: 473)、LS基本培地(Linsmaier, E. M. & Skoog, F. (1965) Physiol. Plant. 18: 100)、プロトプラスト培養培地(LS培地を改変したもの)等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法でもよいが、液体培養法を採用することが好ましい。
上記培地に、細胞、組織又は器官を0.5〜40g新鮮重/l接種し、必要によりNAA、2,4-D、BA、カイネチン等を適宜添加して培養する。培養開始時の培地の pH は5.6〜5.8に調節し、培養は通常25〜30℃、好ましくは25℃前後で、20〜120rpm攪拌で1〜8週間培養する。形質転換体が植物体である場合は、圃場やガラスハウスなどで栽培又は水耕培養することができる。
以上のようにして、培養された植物体内部には、上記モノマー合成酵素遺伝子及び上記重合酵素遺伝子によって高分子材料が合成されることとなる。特に、モノマー合成酵素遺伝子としてphbB遺伝子を導入するとともに重合酵素遺伝子としてphbC遺伝子を導入することによって、植物内で合成されたアセトアセチル-CoAを出発物質として、最終的にポリ-(R)-3-ヒドロキシブチレート(以下、PHBと呼ぶ)を蓄積した植物体を生産することができる。ここで、出発物質であるアセトアセチル-CoAは、植物が本来有するβケトチオラーゼ(以下、phbA)によってアセチル-CoAから生合成される。
このような高分子材料含有植物の製造方法によれば、生物反応を利用して細胞体内にPHBのような高分子材料を充填させるので、天然繊維へのプラスチックモノマーの浸透、熱触媒によるポリマー化工程(以下、従来法と呼ぶ)を経ることなく、生物的にWPCが作出される。すなわち、このような高分子材料含有植物の製造方法は、従来法と比較してより簡易であり、且つ、光合成による太陽エネルギーを利用するために環境負荷が少なく、優れた生産効率を達成することができる。
特に、以上のようにして作出された高分子材料含有植物においては、植物繊維の特性が大きく変化することとなる。植物繊維の特性としては、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率及び電気抵抗値を挙げることができる。すなわち、以上のようにして作出された高分子材料含有植物においては、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率及び電気抵抗値のなかから選ばれる1以上の植物繊維の特性を大きく変化させることができる。より具体的には、本発明によれば、植物繊維の強度を向上させることができ、植物繊維の吸湿性を低下させることができ、吸湿に起因する植物繊維の寸法安定性を向上させることができ、植物繊維の熱膨張率を低下させることができ、植物繊維の電気抵抗値を増大させることができる。
これら植物繊維の特性は、上述したように作出された高分子材料含有植物から採取した各種組織を用いて評価しても良いし、当該高分子材料含有植物を粉体とした後に当該粉体から圧縮ボード等のファイバボードを製造し、当該ファイバボードを用いて評価しても良い。
ここで強度は、機械的強度を示す物性値により評価することができる。機械的強度を示す物性値としては、弾性率、破断強度、曲げ強さ、曲げヤング係数、引張り強さ、表面硬さ、耐摩耗性、剥離強さ、せん断強さ、せん断弾性係数、疲労強さ等を挙げることができる。これらの物性値の測定方法は、林業試験場監修「木材工業ハンドブック」等を参照して当業者が容易に実施することができる。
また、吸湿性とは、所定の湿度条件下における吸湿に伴う重量変化により評価することができる。なお、重量変化は、含水量の変化と言い換えることもできる。したがって、植物繊維の含水量を測定することで、植物繊維の吸湿性を評価することができる。また、吸湿性に起因する寸法安定性とは、植物繊維又は植物繊維から形成された各種材料が吸湿することによる形状変化の評価を意味する。吸湿性に起因する寸法安定性が向上するとは、吸湿による形状変化が小さいことを意味する。
さらに、熱膨張率とは、所定の温度条件下における、植物繊維又は植物繊維から形成された各種材料の膨張率を意味する。熱膨張率が低下するとは、植物繊維又は植物繊維から形成された各種材料の熱膨張係数が低下することと同義である。また、電気抵抗値とは、所定の条件下で植物繊維又は植物繊維から形成された各種材料の交流インピーダンスを測定することによって評価することができる。
このように、本発明によれば、従来法により得られたプラスチック含有植物と比較して、植物繊維の特性特性が変化した新たな高分子材料含有植物を取得することができる。取得された高分子材料含有植物は、WPC製品として広く利用することができる。高分子材料含有植物の利用範囲としては、特に限定されないが、建材、製品又は工業原料を挙げることができる。その他にも、洋風床材、床暖房用床材、家具(テーブル、学童机、脚物など)、運道具(ゴルフクラブヘッド、木刀、銃床、ビリヤードのキュー)、食器などの日用品、工芸品、楽器、アセチル化WPC床材用の原料、紙、糸などの原料、ちょうちん用油紙の代替え品などにも用途が見込める。
特に、得られた高分子材料含有植物は、天然植物性ポリマーと比較して疎水性の高い高分子材料を蓄積させることができるため、例えば建材・船舶用材等に利用する場合の寸法安定性(吸湿・吸水による体積変化の抑制)ならびに耐朽性の向上(腐食低下、虫害低下などによる)を達成したものとなる。
また、得られた高分子材料含有植物は、植物全組織に高分子材料を含有するため、全体をWPC製品の材料として利用できる。このため、本発明に係る高分子材料含有植物の製造方法は、廃棄物が出ないゼロエミッション型の工業原料生産技術となる。
ところで、本発明において高分子材料としては、PHBに限定されず、例えばPHBと同等の効力をもつバイオポリエステル、ポリヒドロキシアルカン酸、つまり、P(3HB-3HV)、P(3HB-4HB)、P(3HO-3HB)などを挙げることができる。
例えば、モノマー合成酵素遺伝子としてRalstonia eutropha由来のphb Bを用い、重合酵素遺伝子としてRalstonia eutropha由来のphb Cを用いることによって、高分子材料としてポリ(3-ヒドロキシブタン酸)を蓄積した高分子材料含有植物を製造することができる。また、モノマー合成酵素遺伝子としてAeromonas cavie由来のpha Jを用い、重合酵素遺伝子としてAeromonas cavie由来のpha Cを用いることによって、高分子材料としてポリ(3-ヒドロキシアルカン酸)共重合体を蓄積した高分子材料含有植物を製造することができる。さらに、モノマー合成酵素遺伝子としてComamonus acidvorans由来のpha Bを用い、重合酵素遺伝子としてComamonus acidvorans由来のpha Cを用いることによって、高分子材料としてポリ(3-ヒドロキシブタン酸)蓄積した高分子材料含有植物を製造することができる。
また、モノマー合成酵素遺伝子としては、生物由来の遺伝子(pha B)であれば上述の例示列挙された遺伝子に限定されず、如何なる遺伝子を用いてもよい。さらに、1つのモノマー合成酵素遺伝子を用いてもよいが、複数のモノマー合成酵素遺伝子を用いてもよい。
いずれの場合であっても、本発明に係る高分子材料含有植物の製造方法によれば、充填した繊維素(セルロース、ヘミセルロース、リグニンなど)を、植物等の繊維素生産生物を用いて生産することができる。本発明に係る高分子材料含有植物の製造方法においては、植物の持つ光合成機能から生産される化学エネルギーを利用してポリマー化を行い、バイオポリエステルを充填した植物細胞(ポリマー充填繊維素或いはハイブリッドファイバーとも呼ばれる)を生産することができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕発現ベクターの構築
本例では、Ralstonia eutropha由来のphbB遺伝子及びphbC遺伝子を機能しうるかたちで有する発現ベクターを構築した(図1参照)。なお、一般的なDNAの実験方法は、『Molecular cloning-a laboratory manual-second edition Cold Spring Harbor Laboratory Press New York (1989)』に従った。まず、Ralstonia eutropha起源のphbA遺伝子、phbB遺伝子およびphbC遺伝子(PHB合成遺伝子断片)をThe Journal of Biological Chemistry, Vol. 264, No. 26, 15293-15297 (1989)およびThe Journal of Biological Chemistry, Vol.264, No. 26, 15298-15303 (1989)に記載されている方法で調整した。一方、得られたPHB合成遺伝子断片をプラスミドに導入するため、プラスミドpBluescript II SK+(Staratagene社製)を用意し、制限酵素EcoRI(東洋紡製)およびSma I(東洋紡製)を反応させた。エタノール沈澱してプラスミドを回収の後、アルカリホスファターゼ(ロッシュ製)用いて脱リン酸化反応をおこない、さらにフェノール抽出により精製した。次に、EcoRIとSmaI処理したpBluescript II SK+とPHB合成遺伝子断片を連結するために、PHB合成遺伝子断片を制限酵素EcoRI(東洋紡製)およびSma I(東洋紡社製)処理し、フェノール抽出により精製した。その後、宝 バイオ社製のライゲーションキットver. Iを用いて、PHB合成遺伝子断片(約5.3kb)とプラスミドpBluescript II SK+のライゲーション反応を行った。このようにして、pBluescript II SK+にPHB合成遺伝子断片を導入したものをpRE-cabと名付けた。
本例では、Ralstonia eutropha由来のphbB遺伝子及びphbC遺伝子を機能しうるかたちで有する発現ベクターを構築した(図1参照)。なお、一般的なDNAの実験方法は、『Molecular cloning-a laboratory manual-second edition Cold Spring Harbor Laboratory Press New York (1989)』に従った。まず、Ralstonia eutropha起源のphbA遺伝子、phbB遺伝子およびphbC遺伝子(PHB合成遺伝子断片)をThe Journal of Biological Chemistry, Vol. 264, No. 26, 15293-15297 (1989)およびThe Journal of Biological Chemistry, Vol.264, No. 26, 15298-15303 (1989)に記載されている方法で調整した。一方、得られたPHB合成遺伝子断片をプラスミドに導入するため、プラスミドpBluescript II SK+(Staratagene社製)を用意し、制限酵素EcoRI(東洋紡製)およびSma I(東洋紡製)を反応させた。エタノール沈澱してプラスミドを回収の後、アルカリホスファターゼ(ロッシュ製)用いて脱リン酸化反応をおこない、さらにフェノール抽出により精製した。次に、EcoRIとSmaI処理したpBluescript II SK+とPHB合成遺伝子断片を連結するために、PHB合成遺伝子断片を制限酵素EcoRI(東洋紡製)およびSma I(東洋紡社製)処理し、フェノール抽出により精製した。その後、宝 バイオ社製のライゲーションキットver. Iを用いて、PHB合成遺伝子断片(約5.3kb)とプラスミドpBluescript II SK+のライゲーション反応を行った。このようにして、pBluescript II SK+にPHB合成遺伝子断片を導入したものをpRE-cabと名付けた。
次に、植物遺伝子導入用の発現ベクターへ導入するため、phbC遺伝子断片をプラスミドpRE-cabを制限酵素BstB I(BioLab社製)とSbf I(BioLab社製)で処理し、phbC遺伝子断片(約1.9kb)を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)をもちいて精製した。このphb C遺伝子断片をさらに宝バイオ社製のブランテイングキットを用いて平滑末端化し、フェノール抽出により精製した。次いで発現ベクターpIG121 Hm(Plant Cell Report, Vol. 12, 7-11 (1992)、名古屋大学 中村研三氏より入手)を制限酵素Xba I(東洋紡社製)とSac I (東洋紡社製)処理してGUS遺伝子断片とプラスミドベクター断片を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)をもちいてベクター断片を精製した。さらに宝バイオ社製のブランテイングキットでベクター断片を平滑末端化した。その後、宝 バイオ社製のライゲーションキットver. Iを用いて、phbC遺伝子断片とバイナリーベクター断片のライゲーション反応を行い、プラスミドベクター pIG121Hmの35Sプロモーター部分に対してセンス方向にphbC遺伝子断片が挿入したクローンを選抜した。このようにして、発現ベクターpIG121 HmのGUS遺伝子部分をphbC遺伝子断片と置換したものをpBI121Hm-cとした。
次に、phbB遺伝子断片をpBI121Hm-cに導入するため、まず、プラスミドpRE-cabをXcm I(New England BioLab社製)とXmn I(New England BioLab社製)で処理し、phbB遺伝子断片(約0.9kb)を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、キアゲン社製ゲル抽出キットをもちいてphbB遺伝子断片を精製した。このphb B遺伝子断片をさらに宝バイオ社製のブランテイングキットを用いて平滑末端化し、フェノール抽出により精製した。プラスミドpBI 221(クロンテック社製)をXba IとSac I (東洋紡社製)で制限酵素処理してGUS遺伝子断片とプラスミドベクター断片を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、ゲル抽出キット(キアゲン社製)をもちいてpBI221ベクター断片を精製した。さらに宝バイオ社製のブランテイングキットでベクター断片を平滑末端化した。その後、宝 バイオ社製のライゲーションキットver. Iを用いて、phbB遺伝子断片とベクター断片のライゲーション反応を行い、プラスミドベクターpBI 221の35Sプロモーター部分に対してセンス方向にphbB遺伝子断片が挿入したクローンを選抜した。このようにして、pBI 221のGUS部分をphbB遺伝子断片と置換したものをpBI 221-Bとした。
このpBI 221-BをHind IIIとEcoR I(東洋紡社製)で制限酵素処理し、phb B遺伝子発現カセット断片(35Sプロモーター:phbB遺伝子断片:Nosターミネーター、約2kb)を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、キアゲン社製ゲル抽出キットをもちいて精製した。このphb B遺伝子発現カセット断片をさらに宝バイオ社製のブランテイングキットを用いて平滑末端化し、フェノール抽出により精製した。次に、pBI121Hm-cをHindIIIで制限酵素処理し、宝バイオ社製のブランテイングキットを用いて平滑末端化し、フェノール抽出により精製した。その後、宝 バイオ社製のライゲーションキットver. Iを用いて、phb B遺伝子発現カセット断片とpBI121Hm-c断片のライゲーション反応を行い、pBI121Hm-cのHind IIIのサイトにphb B遺伝子発現カセット断片が挿入したものを選抜した。このようにして、プラスミドベクターpIG121 HmのGUS遺伝子部分がphbC遺伝子断片と置換され、更にHind IIIのサイトにphb B遺伝子発現カセット断片が挿入した植物用の発現ベクターをpBI 121Hm-b, cとした。
〔実施例2〕形質転換
イネ組換え法
実施例1で調製した発現ベクターを用いてアグロバクテリウム法によりイネに形質導入した。本例では、T-DNA領域を削除したアグロバクテリウム、LBA4404(ATCC 37349より入手)またはEHA101(Prodi-gene社のHood E.E.氏より入手した。)を使用した。
イネ組換え法
実施例1で調製した発現ベクターを用いてアグロバクテリウム法によりイネに形質導入した。本例では、T-DNA領域を削除したアグロバクテリウム、LBA4404(ATCC 37349より入手)またはEHA101(Prodi-gene社のHood E.E.氏より入手した。)を使用した。
先ず、BioRad社製エレクトロポレーション装置ジーンパルサーIIを用い、発現ベクターpBI121Hm-b, cをアグロバクテリウムに導入した。具体的には、予め氷冷した電極板間0.2mmのキュベットに40μLのコンピテントセルを入れ、そこへ1μLの滅菌水に溶かした50ngの発現ベクターpBI121Hm-b, cを添加した。抵抗200Ω、電気容量25μF、電圧2.5kVで電気パルスを1回与えた後、1mlの冷やしたYM培地(インビトロジェン社製)を、ピペットを用いてキュベットへ添加し、28℃で1時間振騰培養した後、50μg/Lカナマイシン、100μg/Lのストレプトマイシンまたは、50μg/Lハイグロマイシン、50μg/Lカナマイシン、100μg/Lのクロラムフェニコールを含むYM固形培地で2〜3日28℃で培養した。得られたコロニーを同様の抗生物質を含むLB培地(インビトロジェン社製)で、28℃で2〜3日間、液体培養した。増殖したクローンからプラスミドを抽出し、制限酵素処理によりプラスミドの有無およびプラスミドの変異の確認を行った。
正常に、発現ベクターpBI121Hm-b, cの導入されたクローンを50μg/Lカナマイシン、50μg/Lハイグロマイシン、100μg/Lのストレプトマイシンまたは50μg/Lハイグロマイシン、50μg/Lカナマイシン、100μg/Lのクロラムフェニコール、12.5μg/Lリファンピシンを含むAB固形培地(Drica K.A. and Kado C. I. 1974 ; Proc. Natl Acad. Sci. USA Vol. 71: 3677-3681,)上で28℃で2〜3日間増殖した。増殖したコロニーを滅菌した薬匙で書き取り、10mg/Lのアセトシリンゴンを添加したアグロバクテリウム懸濁培地(AA)(Hiei et al. 1994; Plant J. 6, 271-282、横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール93〜98秀潤社)に懸濁し、OD 600が0.16〜0.2になるように菌濃度を調節した。
次に、イネ種子(品種:日本晴、滋賀県農協より種籾を入手可能)をカルス誘導培地N6C1(横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール93〜98、秀潤社)に置床して、28℃、16時間日長で3〜4週間培養した。そして、得られた大きさ約1mm程度のカルス塊を種子よりはずして、同じカルス誘導培地N6C1培地に植え変え、25℃、暗黒下で3日間、前培養した。前培養の後、培地を滅菌した茶漉しに入れ、前述したアグロバクテリウムの懸濁液に1〜3分浸漬した。浸漬後、滅菌ろ紙でカルス表面のアグロバクテリウム懸濁液を拭き取り、滅菌ろ紙を引いた共存培養培地N6CO(横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール93〜98、秀潤社)にカルスを置床した。これを25℃、暗黒下で3日間培養した。培養後、250μg/Lセフォタキシム(和光純薬)を含むカルス誘導液体培地N6C1にカルスを浸漬し、3分間洗浄した。このカルスを選抜培地N6SE(横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール93〜98、秀潤社)に置床し、28℃、16時間日長で2週間培養し、新しい選抜培地N6SEに植え換え、さらに2週間培養した。全てのカルスを再分化培地MSRE(横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール、93〜98、秀潤社)に植え、28℃、16時間日長で培養し、さらに3〜4週間培養した。
次に、再分化植物体をカルス塊からはずし、検定培地MSHF(横井修司、鳥山欽哉、1996、植物細胞工学シリーズ、モデル植物の実験プロトコール、93〜98、秀潤社)に置床した。そして、発根してくる個体を選抜し、選抜した個体についてシャーレの蓋を開けて、滅菌水をシャーレの培地上に注ぎ、1週間馴化を行った。この時、培地が乾かないように2日に1回滅菌水を供給した。馴化後、選抜された植物体(形質転換イネ)をイネ育成用土壌(三菱化学):赤玉(1:1)隔離温室に出して育成した。
次に、形質転換イネからのゲノムDNAの抽出は、若葉を1〜3cmの長さに切り、滅菌したエッペンドルフチューブに入れ、100μLのTE 緩衝液(10 mM Tris HCl pH8.0, 1 mM EDTA)を更に添加し、エッペンドルフチューブ用のホモジェナイザーで1〜3分磨砕した。磨砕後は氷上に保管し、4℃、15000rpmで2分間遠心し、上清を新しい滅菌チューブに移した。この上清をゲノムDNA画分とした。
次に、phbB遺伝子の存在を確認するためにPCRを行った。このPCRにおいては、配列番号5に示す10 pmolesのセンスプライマー、配列番号6に示す10 pmolesのアンチセンスプライマーを用い、酵素として1.25 UのKOD-Dashを(東洋紡製)用い、0.2 mMのdNTP及び反応用緩衝液(終濃度:20mM Tris-HCl (pH7.5)、8mM MgCl2、7.5 mM DTT、2.5 μg/50μL BSA)を用いた。また、鋳型となるゲノムDNAは、20μLのPCR反応液全量に対して10μLを使用した。反応装置は、ABI社製のGene Amp PCRシステム9600またはGene Amp PCRシステム9700を使用した。PCRの条件は、98℃で2分維持した後、98℃で30秒、続いて50℃で2秒、続いて74℃で30秒を1サイクルとして30サイクル行い、最後に74℃で5分反応させた後、4℃で保存するものとした。
このPCRの結果を図2に示す。図2において矢印はphbB遺伝子の内部配列398bpのバンドの位置を示している。また、図2において、Vレーンは発現ベクターpBI121Hm-b, cを鋳型とした場合であり、NTレーンは非組み換えイネのゲノムDNAを鋳型とした場合である。図2から、78個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、30個体にphbB遺伝子を示すバンドを確認する事ができた。
一方、同様にphbC遺伝子の存在を確認するためにPCRを行った。このPCRにおいては、配列番号7に示す10 pmolesのセンスプライマー、配列番号8に示す10 pmolesのアンチセンスプライマーを用いた以外は、上述した「phbB遺伝子の存在を確認するためのPCR」と同様に行った。このPCRの結果を図3に示す。図3において矢印はphbC遺伝子の内部配列633bpのバンドの位置を示している。また、図3において、Vレーンは発現ベクターpBI121Hm-b, cを鋳型とした場合であり、NTレーンは非組み換えイネのゲノムDNAを鋳型とした場合である。図3から、78個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、34個体にphbC遺伝子を示すバンドを確認する事ができた。
次に、形質転換イネにおいて、phbB遺伝子の転写を確認するためのRT-PCRを行った。まず、形質転換イネからのトータルRNAの抽出は、Rneasy Plant Miniキット(キアゲン社製)を用いて行った。次に、Dnase処理した後のトータルRNA10μgを用いて、Life Sciences社製の合成キットにより1st Strand cDNAを作成した。この1st strand cDNAを鋳型として、RT-PCRにより遺伝子の発現の確認を行った。
phbB遺伝子の転写を確認するためのRT-PCRにおいては、配列番号5に示す10 pmolesのセンスプライマー、配列番号6に示す10 pmolesのアンチセンスプライマーを用い、酵素として1.25 UのKOD-Dashを(東洋紡製)を用い、0.2mMのdNTP及び反応用緩衝液(終濃度:20mM Tris-HCl (pH7.5)、8mM MgCl2、7.5 mM DTT、2.5 μg/50μL BSA)を用いた。また、鋳型となる1st strand cDNAは、20μLのPCR反応液全量に対して0.2〜10μLを使用した。反応装置及び反応条件は上述したPCRと同様とした。
phbB遺伝子の転写を確認するためのRT-PCRの結果の一部を図4に示す。図4において矢印はphbB遺伝子の内部配列398bpのバンドの位置を示している。また、図4において、Vレーンは発現ベクターpBI121Hm-b, cを鋳型とした場合であり、NTレーンは非組み換えイネの1st strand cDNAを鋳型とした場合である。図4から、11個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、1個体にphbB遺伝子の転写を示すバンドを確認する事ができた。全体では、40個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、3個体にphbB遺伝子の転写を示すバンドを確認する事ができた。
また、同様に、形質転換イネにおいて、phbC遺伝子の転写を確認するためのRT-PCRを行った。このRT-PCRにおいては、配列番号7に示す10 pmolesのセンスプライマー、配列番号8に示す10 pmolesのアンチセンスプライマーを用いた以外は、上述した「phbB遺伝子の転写を確認するためのRT-PCR」と同様に行った。このRT-PCRの結果の一部を図5に示す。図5において矢印はphbC遺伝子の内部配列633bpのバンドの位置を示している。また、図5において、Vレーンは発現ベクターpBI121Hm-b, cを鋳型とした場合であり、NTレーンは非組み換えイネの1st strand cDNAを鋳型とした場合である。図5から、10個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、3個体にphbC遺伝子の転写を示すバンドを確認する事ができた。全体では、30個体のハイグロマイシン耐性イネのうち、7個体にphbC遺伝子の転写を示すバンドを確認する事ができた。
次に、形質転換イネにおけるphbB遺伝子の翻訳を確認するため、タンパク質の粗抽出を行った。具体的には、0.1gの若葉を採取し、液体窒素下で粉砕し、300μLの抽出緩衝液A(10mMのHepes(pH7.5)、10%のSorbitol、5mMのDTT、ロッシュ製Complete miniプロテアーゼ阻害剤カクテル1錠/10ml)または電気泳動用抽出緩衝液B(10mMのHepes(pH 7.5)、10%のSorbitol、1%のメルカプトエタノール、0.02%のSDS、ロッシュ製Complete miniプロテアーゼ阻害剤カクテル1錠/10ml)、0.1gポリクラールAT、0.1g石英砂を添加し、氷上で磨砕した。磨砕液をエッペンドルフチューブに回収し、4℃、15000rpm、20分の条件で遠心した。上清を粗蛋白抽出画分として、ブラッドフォード法(バイオラッド社製)によりBSA をスタンダードとして定量した。
phbB遺伝子について翻訳の確認は、phbB遺伝子の翻訳産物であるアセトアセチル-CoAレダクターゼ活性を測定(Nakashita H. et al. 1999; Biosci. Biotechnol. Biochem. 63: 870-874.)することで行った。反応は、得られた粗蛋白抽出画分に、12μMのMgSO4、0.5mMのDTT、0.1mMのNADPH、0.1mMのacetoacetyl-CoAを加えることで行った。測定条件は、500μLの液量で波長340nmの吸光度を光路長1cmで測定した。吸光度測定にはBeckman DU-640を用いた。
より詳細には、上述した形質転換イネからの粗蛋白抽出画分を、1回の反応あたり200μg用いた。まず、基質となる0.1mM acetoacetyl-CoAを添加しない状態で、粗蛋白抽出画分を添加して340nmの吸光度低下速度Δ340a/minを5分間測定し、次に0.1mM acetoacetyl-CoAを添加して340nmの吸光度低下速度Δ340b/minを5分間測定した。このΔ340b/minからΔ340a/minを引いた値Δ340b-a/minをもとめ、下記式を用いて活性を算出した。
活性(U/ml)=Δ340b-a/min÷(6.22×103)×103×(反応液量÷酵素液量)
活性(U/ml)=Δ340b-a/min÷(6.22×103)×103×(反応液量÷酵素液量)
phbB遺伝子の翻訳を確認するためのアセトアセチル-CoAレダクターゼ活性の測定結果を図6に示す。図6に示すように非形質転換イネではアセトアセチル-CoAレダクターゼ活性は全く認められなかった。調査した20個体のハイグロマイシン耐性イネのうち3個体にアセトアセチル-CoAレダクターゼ活性の高いものが認められ、phbB遺伝子の翻訳を確認する事が出来た。これは、上述のRT-PCRの結果と一致した。
また、phbC遺伝子の翻訳を確認するため、phbC蛋白質のC末端の配列(N-GNARYRAIEPAPGRYVKAKA-C)の合成ペプチドに対する抗血清を用いて、ウエスタンブロット解析を行った。この抗血清は理化学研究所の高分子化学研究室の土肥氏より使用許可を受けた(Nakashita H. et al. 1999; Biosci. Biotechnol. Biochem. 63: 870-874.)。上述の粗蛋白質の画分20μgをLemmliサンプル緩衝液(Biorad社製)と混合し、100℃で10分間加熱処理した後、10〜20%SDSポリアクリルアミドミニゲル(7×9cm、Ready Gel J、BioRad社製)を用い、電気泳動を定電圧100V、75分の条件で行った。その後、電気泳動ゲル上の蛋白質をセミドライのブロッテング装置(Trans Blot SD、BioRad社製)を用い、PVDF膜(Hybond P、アマシャムバイオサイエンス社製)に転写した。1次抗体として上述の抗血清とECLPlus検出キット(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて、キットのプロトコールに従って、phbC蛋白質の検出を行った。PhbC遺伝子の翻訳を確認するためのウエスタンブロッテイングによるphbC蛋白質の検出結果を図7に示す。図7において矢印はphbC蛋白質の位置(分子量約64.3kD)を示している。また、図7において「R. eutropha」レーンはRalstonia eutrophaから抽出したタンパク質20μgを用いた結果を示している。図7から、Ralstonia eutrophaから抽出したタンパク質では、phbC蛋白質のバンドが強く検出され、NTの非形質転換イネの場合では全くバンドが検出されなかった。また、図7から、上述したRT-PCR検出によりphbCが確認された7個体の形質転換イネのうち、5個体にphbC蛋白質の存在を示すバンドを確認する事ができた。
また、形質転換イネにおけるポリ(3-ヒドロキシブタン酸)の確認はガスクロマトグラフィーを用いて行った。形質転換イネからのサンプルは以下のように調製した。すなわち、先ず、10gの生葉を100mlの50%エタノールで55℃にて30分間4回洗浄し、さらに100mlのメタノールで55℃にて30分間4回洗浄した。洗浄した葉をすり潰し、100mlのクロロホルムで60℃にて12時間抽出操作を行った。次に、抽出物を濃縮し、-20℃で冷やしたメタノールを加え、-20℃にて一晩放置した。これを4℃にて、10000rpm、20分間の遠心操作を行い、沈澱物を回収した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、クロロホルムに溶かし、n-ヘキサンで再度沈澱させた。この沈殿物を1mlのクロロホルムに溶かし、これを0.5mlとり、1.7mlのエタノールと0.2mlの塩酸を加えて、100℃で4時間処理した(Nakashita H. et al. 1999; Biosci. Biotechnol. Biochem. 63: 870-874.)。
また、Ralstonia eutrophaにおけるポリ(3-ヒドロキシブタン酸)の確認をガスクロマトグラフィーを用いて同様に行うために、以下のようにしてサンプルを調製した。すなわち、乾燥菌体30mgを耐圧スクリュー管に移し、酸性メタノール(メタノール85%、硫酸15%)2mlとクロロホルム2mlを加えて密封し、100℃で140分間処理した。
その後、形質転換イネ由来のサンプルおよびRalstonia eutropha由来のサンプルを室温になるまで放冷し、蒸留水を1ml加えて約1分間激しく撹拌した。その後、静置して2層に分離させ、下層(クロロホルム層)を取り出し、等量の0.1%カプリル酸メチルのクロロホルム溶液と混合して測定サンプルとした。
ガスクロマトグラフの装置には、パーキンエルマー社製のオートシステムXLガスクロマトグラフィーを用い、カラムにはGLサイエンス社製のNeutra Bond-1(30m×0.25m、I.D. 0.4μm)を用いた。キャリアーガスにはヘリウムを用い、検出は水素炎イオン化検出器(FID)により行った。温度と時間設定は、インジェクター温度280℃、デイテクター温度280℃、カラム初期温度100℃、カラム初期温度保持時間0分、カラム昇温速度6℃/分、カラム最終温度280℃、最終温度保持時間5分とした。ガス流量は、AIRが500ml/分、水素が50ml/分、ヘリウムが60ml/分とした。また、サンプル注入量は1μLとした。
標品である3-ヒドロキシブタン酸の保持時間は約5分で、これを図8において矢印で示す。また、Ralstonia eutropha由来のサンプルにおけるポリ(3-ヒドロキシブタン酸)の確認結果を図9に示し、形質転換イネ由来のサンプルにおける同確認結果を図10に示し、非形質転換イネ由来のサンプルにおける同確認結果を図11に示す。
図8〜11に示すように、3-ヒドロキシブタン酸のピークはRalstonia eutropha由来のサンプルと形質転換イネ由来のサンプルにおいて検出されたが、非形質転換イネ由来のサンプルでは検出されなかった。この結果から、上述したように作出した形質転換イネにおいては、ポリ(3-ヒドロキシブタン酸)が合成されており、ピーク面積から乾燥重量あたり0.01%〜0.1%の合成量である事が示された。
タマリクス組換え法
実施例1で調製した発現ベクターpBI 121Hm-b, cにおけるNosp:HPTII:NosTのカセット部分を35S:sGFPintron:NosTの発現カセットと入れ換えたものを作製し、導入用ベクターとして用いた。発現カセットsGFPintronを作製する手法としては、先ず、pIG121Hm(Ohta et al. 1990, Plant Cell Physiol. 31., 805-813.)を鋳型として、配列番号9(5’-GGTCTAGAACATGGATCCCTAC-3’)のプライマー及び配列番号10(5’-CCGATATCGTTCTGTAACTATCATC-3’)のプライマー及びPfu DNA polymeraseを用いてPCRを行い、5’側にXba Iの切断サイトを持ち、3’側にEcoRVの切断サイトを持つ、225bpのヒマカタラーゼイントロンPCR断片を取得した。このPCR断片を2%のアガロース電気泳動で分離し、切り出してキアゲンのゲル抽出キットを用いて精製した。次に、CaMV35S-sGFP(S65T)-nos3’/PUC18(静岡県立大学の丹羽康夫氏より入手可能)のNco Iサイトを切断し、東洋紡のブランテイング・ハイを用いてブラント処理を行った。CaMV35S-sGFP(S65T)-nos3’/PUC18をブラント処理後、更にXba Iで処理した。これとヒマカタラーゼイントロンのPCR断片(Xba I - EcoRVで処理後)をライゲーション処理した。このライゲーション処理したものをクローニングし、DNA配列を決定した。この時、sGFPの開始コドンが残っていた。この開始コドンから翻訳が始まる可能性を排除するため、ストラタジーン社製のQuick Change Multi Site Mutagenesis Kitを用いて、ATGをAAGに改変した。このようにして、イントロンsGFP/ PUC18を作成した。このイントロンsGFP/PUC18をHindIIIとEcoRIで処理して、35S:Intron-sGFP(S65T):nosT部分を切り出し、pIG121Hm-b, cのNosp:HPTII:NosTのカセット部分と入れ換えて、ベクターpIG121Hm-b, c, sGFPintronとした。このベクターpIG121Hm-b, c, sGFPintronを上述したイネの場合と同様にアグロバクテリムEHA101にエレクトロポレーションにより導入した。
実施例1で調製した発現ベクターpBI 121Hm-b, cにおけるNosp:HPTII:NosTのカセット部分を35S:sGFPintron:NosTの発現カセットと入れ換えたものを作製し、導入用ベクターとして用いた。発現カセットsGFPintronを作製する手法としては、先ず、pIG121Hm(Ohta et al. 1990, Plant Cell Physiol. 31., 805-813.)を鋳型として、配列番号9(5’-GGTCTAGAACATGGATCCCTAC-3’)のプライマー及び配列番号10(5’-CCGATATCGTTCTGTAACTATCATC-3’)のプライマー及びPfu DNA polymeraseを用いてPCRを行い、5’側にXba Iの切断サイトを持ち、3’側にEcoRVの切断サイトを持つ、225bpのヒマカタラーゼイントロンPCR断片を取得した。このPCR断片を2%のアガロース電気泳動で分離し、切り出してキアゲンのゲル抽出キットを用いて精製した。次に、CaMV35S-sGFP(S65T)-nos3’/PUC18(静岡県立大学の丹羽康夫氏より入手可能)のNco Iサイトを切断し、東洋紡のブランテイング・ハイを用いてブラント処理を行った。CaMV35S-sGFP(S65T)-nos3’/PUC18をブラント処理後、更にXba Iで処理した。これとヒマカタラーゼイントロンのPCR断片(Xba I - EcoRVで処理後)をライゲーション処理した。このライゲーション処理したものをクローニングし、DNA配列を決定した。この時、sGFPの開始コドンが残っていた。この開始コドンから翻訳が始まる可能性を排除するため、ストラタジーン社製のQuick Change Multi Site Mutagenesis Kitを用いて、ATGをAAGに改変した。このようにして、イントロンsGFP/ PUC18を作成した。このイントロンsGFP/PUC18をHindIIIとEcoRIで処理して、35S:Intron-sGFP(S65T):nosT部分を切り出し、pIG121Hm-b, cのNosp:HPTII:NosTのカセット部分と入れ換えて、ベクターpIG121Hm-b, c, sGFPintronとした。このベクターpIG121Hm-b, c, sGFPintronを上述したイネの場合と同様にアグロバクテリムEHA101にエレクトロポレーションにより導入した。
また、タマリクスの若枝切片を多芽体形成培地(WPM、3%ショ糖、0.05 ppm Thidiazuron、0.6 %寒天、pH5.8)に植え、25℃、照度3000lxで培養を行った。培養開始から18日後の多芽体形成中切片にpIG121Hm-b, c, sGFPintronを導入したアグロバクテリウムEHA101を感染させた。感染に用いる菌液はアグロバクテリウムEHA101を50mg/Lのハイグロマイシンを含むAB培地に植え付け、28℃で3日培養し、増殖した菌を40mg/Lのアセトシリンゴンを含む1/2 MS、ショ糖:3%、TWEEN20:0.02%、pH5.2の液体培地に懸濁し、O.D. 660 nmを0.8に調整することにより得た。感染は、この菌液に多芽体形成中の切片を浸漬し、15分の超音波処理の後、0.05Mpaの減圧処理を行った。遺伝子導入後、40mg/Lのアセトシリンゴンを添加した多芽体形成培地(同上)に組織切片を置床し、22℃、暗所にて3日間共存培養を行った。共存培養後、GFPの発色している個体のみを1次選抜し、50mg/Lのハイグロマイシンを含む多芽体形成培地に植え付けた。2週間毎に新しい培地に植え変えて培養した結果、4ヶ月後に生存個体を収穫し、形質転換イネの場合と同様に、ゲノムPCRおよびガスクロマトグラフィーによるPHB定量に供した。
その結果、形質転換タマリクスにおいても、phbB遺伝子及びphbC遺伝子を示すバンドを確認する事ができた。また、形質転換タマリクスにおいても、ポリ(3-ヒドロキシブタン酸)が合成されていることを確認することができた。
ポプラ組換え方法
ポプラ(Poplus alba)については、常法(Mathunaga E. ら、2002年、Molecular Breeding 10: 95-106または我彦広悦、2002年、木材科学講座11、バイオテクノロジー、41〜46p)に従って形質転換を行った。無菌状態で育成した茎または葉切片にpIG121Hm-b, cを導入したアグロバクテリム(LBA4404)を感染させた。この切片を100mg/Lのカナマイシンおよび500mg/Lのカルベニシリンを含む修正MS(MS無機塩のNH4NO3を10μM、KNO3を25μMに修正)、MSビタミン、2%ショ糖、0.5 mg/L trans-Zeatinに植え付け、2週間毎に植え変え、2ヶ月後に再分化した形質転換体を得た。この再分化した形質転換体を50mg/Lのカナマイシンを含む発根培地(2/3に希釈したMS無機塩培地、MSビタミン、0.05mg/Lのインドール酪酸、pH5.8)に植え変え、約1ヶ月半後に組換え植物体を得た。この植物体を収穫して、形質転換イネの場合同様に、ゲノムPCRおよびガスクロマトグラフィーによるPHB定量に供した。
ポプラ(Poplus alba)については、常法(Mathunaga E. ら、2002年、Molecular Breeding 10: 95-106または我彦広悦、2002年、木材科学講座11、バイオテクノロジー、41〜46p)に従って形質転換を行った。無菌状態で育成した茎または葉切片にpIG121Hm-b, cを導入したアグロバクテリム(LBA4404)を感染させた。この切片を100mg/Lのカナマイシンおよび500mg/Lのカルベニシリンを含む修正MS(MS無機塩のNH4NO3を10μM、KNO3を25μMに修正)、MSビタミン、2%ショ糖、0.5 mg/L trans-Zeatinに植え付け、2週間毎に植え変え、2ヶ月後に再分化した形質転換体を得た。この再分化した形質転換体を50mg/Lのカナマイシンを含む発根培地(2/3に希釈したMS無機塩培地、MSビタミン、0.05mg/Lのインドール酪酸、pH5.8)に植え変え、約1ヶ月半後に組換え植物体を得た。この植物体を収穫して、形質転換イネの場合同様に、ゲノムPCRおよびガスクロマトグラフィーによるPHB定量に供した。
その結果、形質転換ポプラにおいても、phbB遺伝子及びphbC遺伝子を示すバンドを確認する事ができた。また、形質転換ポプラにおいても、ポリ(3-ヒドロキシブタン酸)が合成されていることを確認することができた。
〔実施例3〕高分子材料含有植物の植物繊維の特性評価
実施例2で得られた形質転換イネを隔離温室内で、水稲育苗土(ジフィーポット)に移植し、水を張った状態で栽培した。開花後、着粒した籾を採取し、次世代(T1世代)を育成した。実施例2と同様な方法で、4〜5葉期の葉を採取し、ゲノムPCR、RT-PCR、蛋白質発現、PHB定量を行い、0.01%以下程度の蓄積の確認された個体の地上部(茎葉部)を収穫した。この地上部を60℃で1昼夜、通風乾燥した。また、実施例2で得られた形質転換タマリクスの多芽体を新鮮重量1kg、実施例2で得られた形質転換ポプラを新鮮重量500g生産し、75℃で1週間乾燥させた。
実施例2で得られた形質転換イネを隔離温室内で、水稲育苗土(ジフィーポット)に移植し、水を張った状態で栽培した。開花後、着粒した籾を採取し、次世代(T1世代)を育成した。実施例2と同様な方法で、4〜5葉期の葉を採取し、ゲノムPCR、RT-PCR、蛋白質発現、PHB定量を行い、0.01%以下程度の蓄積の確認された個体の地上部(茎葉部)を収穫した。この地上部を60℃で1昼夜、通風乾燥した。また、実施例2で得られた形質転換タマリクスの多芽体を新鮮重量1kg、実施例2で得られた形質転換ポプラを新鮮重量500g生産し、75℃で1週間乾燥させた。
乾燥した形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラをそれぞれ5mm角切片に切り分け、粉砕機(Wonder Blender WB-1、Osaka Chemical Co., LTD.)で15分処理し粉体を得た。そして、得られた粉体を圧縮装置(Specac社製、錠剤成型機25.011)で圧力20ton、15分の条件で固形化して試験円板(サイズ:直径1cm、厚み1mm)を作製した。また、野生型イネの植物体を用いて同様にして試験円板を作製した。
形質転換イネから作製した試験円板及び形質転換タマリクスから作製した試験円板に対して、テンシロン(圧縮試験装置(東洋ホールドウィン社製、商品名UTM-500))を用いて、試験円板の荷重と変位の関係を調査した。結果を図12(形質転換イネ)及び図13(形質転換タマリクス)に示す。図12及び図13から判るように、形質転換イネ及び形質転換タマリクスともに、荷重変位曲線の傾き(=弾性率)が対照区よりも数%増大し、また最大点(破断強度)も数%増大した。このように、植物内にPHBを蓄積することによって、植物繊維の強度が変化することが判った。
また、形質転換イネから作製した試験円板及び形質転換タマリクスから作製した試験円板を、飽和水蒸気中のチャンバーに置き、吸湿に伴う重量変化を測定した。結果を図14(形質転換イネ)及び図15(形質転換タマリクス)に示す。図14及び図15から判るように、形質転換イネ及び形質転換タマリクスともに、吸湿に伴う重量増加が数%低下した。このように、植物内にPHBを蓄積することによって、植物繊維の吸湿性が変化することが判った。
曲げ強度の測定
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ3mmの円板を作製した。この円板を加工して、縦3mm、横2mm、長さ30mmの角材をそれぞれの植物粉体について作製した。この角材の曲げ強度をインストロン万能試験機5582型(ロードセル100N)を用いて測定した。このとき、クロスヘッド速度は0.5mm/min、曲げスパン距離はL=16mm、温度は室温で行った。
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ3mmの円板を作製した。この円板を加工して、縦3mm、横2mm、長さ30mmの角材をそれぞれの植物粉体について作製した。この角材の曲げ強度をインストロン万能試験機5582型(ロードセル100N)を用いて測定した。このとき、クロスヘッド速度は0.5mm/min、曲げスパン距離はL=16mm、温度は室温で行った。
形質転換イネから作製した角材を用いた試験の結果を図16に示す。また、形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラそれぞれから作製した角材を用いた試験の結果を表1に示す。
図16から判るように、形質転換イネでは非組換え体よりも破壊荷重が大きくなっていた。また、表1から判るように、形質転換イネでは荷重変位曲線から算出される曲げ強さは24%増大しており、同様に形質転換タマリクス及び形質転換ポプラにおいても、曲げ強さの増大が認められた。
熱膨張率の測定
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ3mmの円板を作製した。この円板を加工して、縦3mm、横2mm、長さ40mmの角材をそれぞれの植物粉体について作成した。この角材を熱機械分析装置8141BH型(リガク社製)を用いて、線膨張率を測定した。温度範囲は常温〜80℃とし、昇温速度は10℃/分、標準試料はシリカとした。
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ3mmの円板を作製した。この円板を加工して、縦3mm、横2mm、長さ40mmの角材をそれぞれの植物粉体について作成した。この角材を熱機械分析装置8141BH型(リガク社製)を用いて、線膨張率を測定した。温度範囲は常温〜80℃とし、昇温速度は10℃/分、標準試料はシリカとした。
形質転換イネから作製した角材を用いた試験の結果を図17に示す。また、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラそれぞれから作製した角材を用いた試験の結果を表2に示す。
図17から判るように、形質転換イネでは温度上昇に伴う角材の長さの変化が非組換え体の対照区と比較して小さく、平均線膨張率は常温〜50℃の範囲で70%の低下、常温〜80℃の範囲で65%の低下となった。また、表2から判るように、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラにおいても、熱膨張率の低下が認められた。これらの結果から、植物内にPHBを蓄積させることによって、植物繊維の熱膨張率が低下し、温度変化に対する寸法安定性が増大する事が分かった。
抵抗値の測定
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ1mmの円板を作製した。この円板の抵抗値を交流インピーダンス測定により求めた。交流インピーダンス測定は単一正弦波を掃引して測定するFRA方式を使用した(東陽テクニカ社製、Solartron 1260/1287)。
形質転換イネ、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラの乾燥粉体より、上述した錠剤成形機で直径50mm、厚さ1mmの円板を作製した。この円板の抵抗値を交流インピーダンス測定により求めた。交流インピーダンス測定は単一正弦波を掃引して測定するFRA方式を使用した(東陽テクニカ社製、Solartron 1260/1287)。
形質転換イネから作製した円板を用いた試験の結果を図18に示す。なお、図18に示すグラフにおいて、横軸はインピーダンスの実成分Z’、縦軸は虚数成分Z”をそれぞれ意味する(Cole-Coleプロット)。また、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラそれぞれから作製した円板を用いた試験の結果(抵抗値)を表3に示す。
図18から判るように、形質転換イネでは、非組換え体の場合と比較してプロットにより描かれる円の直径が大きくなる事が分かり、このプロットから算出した抵抗値は11倍に増大している。また、表3から判るように、形質転換タマリクス及び形質転換ポプラにおいても、抵抗値の増大が認められた。
配列番号5〜10は合成DNA(プライマー)である。
Claims (7)
- 1又は複数のモノマー供給系酵素遺伝子と、合成されたモノマーから高分子化合物を合成する重合酵素遺伝子とを、機能しうるかたちで染色体に導入して形質転換体を得る工程と、上記工程で得た形質転換体を植物体に成長させる工程とを含む植物繊維の特性を変える方法。
- 上記モノマー供給系酵素遺伝子が生物由来のpha Bであり、上記重合酵素遺伝子が生物由来のpha Cであることを特徴とする請求項1記載の植物繊維の特性を変える方法。
- 上記生物がRalstonia eutrophaであることを特徴とする請求項2記載の植物繊維の特性を変える方法。
- 上記高分子材料がポリヒドロキシアルカン酸であることを特徴とする請求項1記載の植物繊維の特性を変える方法。
- 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子が脂肪酸のβ-酸化経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の植物繊維の特性を変える方法。
- 上記複数のモノマー供給系酵素遺伝子がDe novo脂肪酸合成経路を経てモノマーを供給する複数の遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の植物繊維の特性を変える方法。
- 上記特性は、強度、吸湿性、吸湿性に起因する寸法安定性、熱膨張率及び電気抵抗値から選ばれる少なくとも1以上の特性であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項記載の植物繊維の特性を変える方法。
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