JP2006024437A - 燃料電池システムの寿命推定法、及び燃料電池システムの運転方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 酸素を含む酸化剤がカソードに供給され、水素を含む燃料ガスがアノードに供給されて発電する高分子電解質型燃料電池の劣化、特に電解質劣化を予測する有効な方法がなく、寿命予測が困難であった。
【解決手段】所定の運転条件での燃料電池の運転中に、燃料電池の電圧又はインピーダンスを所定時間計測する計測工程と、燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係、及び燃料電池の温度と、燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係を有するデータベースに基づいて、所定時間における出力電圧又はインピーダンスの変化から所定の運転条件の温度換算を行うことにより、温度換算の値から導いた寿命までの時間と、計測工程までの燃料電池の運転時間とから、所定の運転条件における燃料電池の寿命を算出する算出工程とを備えた、燃料電池システムの寿命測定方法。
【選択図】図9
【解決手段】所定の運転条件での燃料電池の運転中に、燃料電池の電圧又はインピーダンスを所定時間計測する計測工程と、燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係、及び燃料電池の温度と、燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係を有するデータベースに基づいて、所定時間における出力電圧又はインピーダンスの変化から所定の運転条件の温度換算を行うことにより、温度換算の値から導いた寿命までの時間と、計測工程までの燃料電池の運転時間とから、所定の運転条件における燃料電池の寿命を算出する算出工程とを備えた、燃料電池システムの寿命測定方法。
【選択図】図9
Description
本発明は、燃料電池システムの耐久劣化による寿命推定法、又は残時間を延ばす燃料電池システムの運転方法に関する。
燃料電池に供給する燃料ガスは、都市ガス等の燃料から水素生成装置を介して水素を含むガスが作られる。酸化剤ガスは、一般には空気をブロアーで供給する。また燃料ガスおよび酸化剤ガスは、加湿器等を介して適度に加湿して供給される。燃料電池は、これら供給されたガスにより電気化学反応を引き起こし、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムである。そして、種々ある燃料電池の中でも特に高い出力密度を有する固体高分子電解質型燃料電池が、自動車用の移動体電源あるいは家庭用の定置電源として注目されている。
これらの燃料電池の性能低下は、一般的には燃料電池セルの電圧をモニターすることで検知している。
又、燃料電池セルの電圧低下が、ガス拡散が阻害されて拡散抵抗が増大したことが原因であるのか、電極の反応性が低下して反応抵抗が増大したことが原因であることなのかといった電圧低下原因の詳細を判別するための技術として、例えば特許文献1が挙げられる。
この特許文献1では、特定周波数について交流インピーダンスを予め測定し、その特定周波数の交流を発電中に印加してインピーダンスを測定し、両者を比較するものである。より具体的には、印加する交流電圧は、少なくとも5Hzと40Hzの周波数で行い、それぞれの周波数におけるインピーダンスの虚数部から拡散抵抗と反応抵抗を求めている。
特開2002−367650号公報
しかしながら、上述した従来の判定技術では、性能低下状態の有無は検知できるが、寿命予測することは困難である。
又、特許文献1の方法においても電圧の低下が、ガス拡散性の阻害によるものか電極の反応性の低下によるものかは特定できるが、燃料電池の耐久性を予測することまでは出来ない。
本発明は、上記従来の課題を考慮し、より簡便な方法で、又より高精度に燃料電池の性能低下を検知でき、寿命を予測することが出来る燃料電池システムの寿命推定方法を提供することを目的とする。
又、他の本発明は、寿命を延ばすことが可能な燃料電池の運転方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、第1の本発明は、
所定の運転条件での燃料電池の運転中に、前記燃料電池の電圧又はインピーダンスを所定時間計測する計測工程と、
前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係、及び前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係を有するデータベースに基づいて、前記所定時間における出力電圧又はインピーダンスの変化から前記所定の運転条件の温度換算を行うことにより、前記温度換算の値から導いた前記寿命までの時間と、前記計測工程までの前記燃料電池の運転時間とから、前記所定の運転条件における燃料電池の寿命を算出する算出工程とを備えた、燃料電池システムの寿命測定方法である。
所定の運転条件での燃料電池の運転中に、前記燃料電池の電圧又はインピーダンスを所定時間計測する計測工程と、
前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係、及び前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係を有するデータベースに基づいて、前記所定時間における出力電圧又はインピーダンスの変化から前記所定の運転条件の温度換算を行うことにより、前記温度換算の値から導いた前記寿命までの時間と、前記計測工程までの前記燃料電池の運転時間とから、前記所定の運転条件における燃料電池の寿命を算出する算出工程とを備えた、燃料電池システムの寿命測定方法である。
又、第2の本発明は、
前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係とは、前記燃料電池の温度と運転時間の対数に対する前記出力電圧又は前記インピーダンスとの関係である、第1の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係とは、前記燃料電池の温度と運転時間の対数に対する前記出力電圧又は前記インピーダンスとの関係である、第1の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
又、第3の本発明は、
前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係とは、前記温度に対する前記時間のアレーニウスの関係である、第1又は2の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係とは、前記温度に対する前記時間のアレーニウスの関係である、第1又は2の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
又、第4の本発明は、
前記インピーダンスとは、複数の周波数での測定によって算出された、前記燃料電池の等価回路における少なくとも1つの抵抗値である、第1の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
前記インピーダンスとは、複数の周波数での測定によって算出された、前記燃料電池の等価回路における少なくとも1つの抵抗値である、第1の本発明の燃料電池システムの寿命推定方法である。
又、第5の本発明は、
所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
初期状態での前記計測条件における前記複数の抵抗値と、前記算出された複数の抵抗値を比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
初期状態での前記計測条件における前記複数の抵抗値と、前記算出された複数の抵抗値を比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
又、第6の本発明は、
所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
前記計測条件における前記複数の抵抗値の時間変化のデータベースと、前記計測工程で得られた前記複数の抵抗値とを比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
前記計測条件における前記複数の抵抗値の時間変化のデータベースと、前記計測工程で得られた前記複数の抵抗値とを比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
又、第7の本発明は、
所定の運転条件での燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗計測工程と、
前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程と、
前記初期抵抗計測工程で得られた初期の複数の抵抗値と、前記計測工程で得られた複数の抵抗値との比較に基づいて、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
所定の運転条件での燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗計測工程と、
前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程と、
前記初期抵抗計測工程で得られた初期の複数の抵抗値と、前記計測工程で得られた複数の抵抗値との比較に基づいて、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法である。
又、第8の本発明は、
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガス及び/又は酸化剤ガスに対する加湿量に関して変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガス及び/又は酸化剤ガスに対する加湿量に関して変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
又、第9の本発明は、
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される冷却水の量を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される冷却水の量を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
又、第10の本発明は、
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池の負荷電流を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池の負荷電流を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
又、第11の本発明は、
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガスの改質器の温度を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガスの改質器の温度を変化させた条件である、第5〜7のいずれかの本発明の燃料電池システムの運転方法である。
又、第12の本発明は、
第5又は6の本発明の燃料電池の運転方法の、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
第5又は6の本発明の燃料電池の運転方法の、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
又、第13の本発明は、
第7の本発明の燃料電池の運転方法の、所定の運転条件での燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗値計測工程、前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
第7の本発明の燃料電池の運転方法の、所定の運転条件での燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗値計測工程、前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
又、第14の本発明は、
第12又は13の本発明のプログラムを担持した記録媒体であって、コンピュータにより処理可能な記録媒体である。
第12又は13の本発明のプログラムを担持した記録媒体であって、コンピュータにより処理可能な記録媒体である。
本発明によれば、より簡便な方法で、又より高精度に燃料電池の性能低下を検知でき、寿命予測することができる燃料電池の寿命推定方法を提供することができる。
又、他の本発明によれば、残時間を延ばすことが可能な燃料電池の運転方法を提供することができる。
(実施の形態1)
はじめに、本発明にかかる実施の形態1の燃料電池発電システムの構成図である図5を参照しながら、本実施の形態1の燃料電池発電システムの構成について説明を行う。
はじめに、本発明にかかる実施の形態1の燃料電池発電システムの構成図である図5を参照しながら、本実施の形態1の燃料電池発電システムの構成について説明を行う。
図5に示すように、本実施の形態1の燃料電池発電システムは、アノードに供給される水素リッチな燃料ガスと、カソードに供給される酸化剤ガスとしての空気から、電気化学反応によって発電を行う燃料電池1を備えている。また、都市ガスから水素改質反応によって水素リッチな燃料ガスを生成するための水素生成装置2と、水素生成装置2に水を供給するためのポンプ3が設置されている。尚、水素生成装置は改質器、バーナー、一酸化炭素除去器などから構成されるものであり、都市ガス中のメタンと水を反応させて、主に水素と二酸化炭素からなる改質ガスを作り出す装置である。
又、酸化剤ガスとしての空気を供給するためのブロア9と、ブロア9に供給される空気中の不純物を除去するためのフィルター5が設置されている。このブロア9から燃料電池1へと供給する前に、空気の加湿を行うための加湿器6と、加湿器6へ水を供給するためのポンプ7が設置されている。
通常発電時には燃料電池の負荷電流をインバーターに流して交流に変換して外部に取り出している。発電時に発生する熱は冷却水を介して外部に取り出している。
次に、本実施の形態1による燃料電池システムの寿命推定方法について説明を行う。
燃料電池の性能低下を検知する基準として、定格運転で初期の電池電圧値に対し例えば1割低下までを燃料電池の寿命と仮定する。
本実施の形態1の燃料電池システムを(表1)に記載の定格運転の条件で連続運転を行った。ここで定格運転における電池温度は、冷却水が燃料電池1に流入する温度(表1のinに相当)である60℃とする。又、定格運転より10℃高温である温度試験1、定格運転より20℃高温である温度試験2、及び定格運転より30℃高温である温度試験3の条件での連続運転も行った。結果を図6に示す。
図6のグラフの横軸である発電時間を対数で表したグラフを図7に示す。図7のグラフから各温度における電池電圧は、発電時間の対数に対して相関関係が得られることが分かる。そして、この相関関係から得られる傾きである変化率を、電池温度に対してプロットすることにより図8に示す相関関係が得られる。この図8に示すグラフから電池電圧が高温になるに従って、電圧の経時変化率が大きくなる関係が有ることが分かる。
又、電池電圧が、定格運転での初期の出力電圧に対して一割低下するまでの到達時間を電池温度に対してアレーニウスプロットすると、図9に示されるような相関関係が得られた。
ここで、90℃の場合を例に挙げて、到達時間の測定について説明する。
この到達時間は定格運転での電圧を基準として閾値を設定している。そのため、例えば90℃での寿命を測定する際においても、始めに60℃の定格条件での燃料電池システムの発電を行い、電池電圧が安定した時点の電池電圧を測定する。
ここで、当然のことながら、燃料電池システムは連続運転を行うと電池電圧は低下していく。しかし電池電圧が安定するまでの時間は2〜3時間程度であるため、電池電圧が安定した時点では、ほとんど電池電圧は低下しておらず実質上電圧低下していない状態の電池電圧に相当する。この実質上電圧低下していない状態が、本発明の初期状態の一例に相当する。
次に、90℃で連続運転を行うのであるが、連続運転中に定期的に定格運転である60℃に温度を低下させて電池電圧を測定する。そして、この定期的に測定した電池電圧が定格運転での初期の電池電圧の一割低下した時の値になったときを到達時間とした。
以上より、電池の劣化現象は電池温度に依存していることを示すことが出来る。
本実施の形態1における燃料電池システムは、図8に示される電池温度と電池電圧の変化率の関係と、図9に示される電池温度と到達時間の関係をデータベースとして搭載している。
ここで寿命推定対象の燃料電池システムを、ある所定の条件での連続運転中に所定の時間、例えば24時間、電池電圧を計測する(第1の本発明の計測工程の一例に相当する。)。
次に、所定時間の対数に対して電池電圧の変化量の割合を求め、図8のグラフにこの変化率を当てはめ、温度換算値を求める。これは、所定の運転条件での電池電圧の劣化が、図8のグラフ中の何度における電池電圧の劣化に相当するかを求めることである。
次に、温度換算値を図9のグラフに当てはめることにより、その温度において燃料電池が寿命に達するまでの時間がわかる。この到達時間は、連続運転を始めてから閾値に到達するまでの時間であるため、この時間と計測工程終了時までの連続運転の時間との差をとることにより、残りの寿命時間を推定することが出来る(第1の本発明の算出工程の一例に相当する。)。
この様に本実施の形態1の燃料電池システムの寿命推定方法は、定格運転の温度条件のみ変化させた燃料電池の特性を予めデータベースとして搭載し、実際の運転時での運転条件が前記データベースのどの温度の特性に相当するかを決定し、寿命を推定することが出来る。
(実施の形態2)
本実施の形態2による燃料電池システムの基本構成は、実施の形態1と同様であるが、電池電圧ではなく、交流インピーダンスを測定することにより残時間を推定する点が異なる。そのため、本相違点を中心に説明を行う。
本実施の形態2による燃料電池システムの基本構成は、実施の形態1と同様であるが、電池電圧ではなく、交流インピーダンスを測定することにより残時間を推定する点が異なる。そのため、本相違点を中心に説明を行う。
始めに、本実施の形態2である燃料電池システムの寿命推定方法についての説明を行うに先立ち、その理解をより容易にするために、本発明の原理について説明を行う。
図1は、周波数をスイープさせて測定したインピーダンスをプロットした、典型的な燃料電池セルのインピーダンスの実数部に対する虚数部のプロットである。又、図2は、燃料電池セルのインピーダンスを表す、本発明者が見いだした、最も高い精度を有する等価回路の図である。
ここで、インピーダンス特性の測定方法について説明を行う。
燃料電池から取り出す直流電流の電流振幅値を10%程度以下の微小振幅、周波数fの交流電流を、直流電流に重畳して取出す。
そして、その時に測定される電池電圧の交流成分および電池電流の交流成分において、振幅および位相からインピーダンスを演算する。
通常、印加する交流電流の振幅が大きいほどシグナル/ノイズ比(S/N比)が向上する。しかし図3に示すように、交流電流の振幅が直流電流の5%を超えるとS/N比は飽和し、それ以上振幅を増やしてもS/N比は向上しない。
一方、燃料電池の場合、電池を流れる電流は化学反応による電荷の移動を伴うため、交流電流の振幅を増大させると供給ガス量に対する反応量(ガス利用率)が変動することになる。通常、直流電流の10%以下での振幅の交流電流の印加であれば、ガス利用率の変動はわずかであり、測定値に影響を与えないが、10%を超えるとガス利用率の変動の影響を無視できず、測定値に誤差を生ずる。よって、印加する交流電流の振幅は、直流電流の1%〜10%程度が望ましい。
又、等価回路の複素インピーダンスをZとし、その実数部をZrとし、その虚数部Ziとすると、
(数1)
Z=Zr−jZi
と記述される(ただし虚数単位をjとした、以下同様)。
(数1)
Z=Zr−jZi
と記述される(ただし虚数単位をjとした、以下同様)。
また、測定時のセル電圧交流成分を複素数Eとし、その実数部をErとし、その虚数部をEiとし、セル電流交流成分を複素数Iとし、その実数部をIrとし、その虚数部をIiとすると、
(数2)
E=Er−jEi
I=Ir−jIi
Z=E/I=(Er−jEi)/(Ir−jIi)
と記述される。
(数2)
E=Er−jEi
I=Ir−jIi
Z=E/I=(Er−jEi)/(Ir−jIi)
と記述される。
よって、周波数fの交流電流取出し時に測定されたE、Iから複素インピーダンスが演算できる。
さらに、取り出す交流電流の周波数fを0.1Hz程度から1000Hz程度まで掃引し、各周波数における複素インピーダンスを同様にして演算する。
そして、その実数部Zrを横軸に、虚数部Ziにマイナス符号を付けた−Ziを縦軸にした複素平面にプロットし、図1に示されているようなコール−コールプロット(Cole−Cole plot)を作成する。
等価回路が一対の抵抗、コンデンサ並列回路の場合のコール−コールプロットは、横軸上に中心点をもつ一定の半径の半円形状となる(いわゆるコール−コールの円弧則による)。
図2のような、抵抗(抵抗値)Rm、Rct−an、Rct−ca、コンデンサ(容量値)Cdl−an、Cdl−ca、およびワールブルグインピーダンスW−caを有する等価回路の場合のコール−コールプロットは、3つの円弧を重ね合わせた形状になる。
様々な周波数fにおける複素インピーダンスを測定し、その複素インピーダンスにフィットする等価回路のコンポーネント(Rm、Rct−an、Rct−ca、Cdl−an、Cdl−ca、およびW−ca)の値を算出する。
等価回路のコンポーネントにおける、それぞれ物理的な意味は、Rmは電解質膜の抵抗値、Rct−anはアノード電荷移動抵抗、Rct−caはカソード電荷移動抵抗、Cdl−anはアノード電気二重層容量、Cdl−caはカソード電気二重層容量、W−caはカソード拡散抵抗を表す。
ここで、周波数は、できるだけ細かく変化させた方がコンポーネントの算出の精度は高いが、Rm、Rct−an、Rct−ca、W−caの4つを算出するだけであれば、最低限4つの周波数における複素インピーダンスの実数成分を測定すれば、前記4つの抵抗値を近似的に算出できる。
すなわち、図1で示されるコールコールプロットは、図4(a)では4aで示されており、4aを分解した3対の円弧が4b、4c、4dに相当する。そして、この4bの曲線は図4(b)の等価回路で示され、同様に4c、4dはそれぞれ図4(c)、図4(d)の等価回路で示される。この3対の円弧の実軸との交点における周波数から、図4に示すように、高周波数(例えば1000Hz)における複素インピーダンスの実数成分はRmとほぼ等しく、200Hzの実数成分はRm+Rct−an、10Hzの実数成分はRm+Rct−an+Rct−ca、0.1Hzの実軸成分はRm+Rct−an+Rct−ca+Wcaとほぼ等しくなる。
上述した様に、燃料電池セルの運転条件を変化させて、等価回路中の抵抗値の変化を調べた。
その結果、酸素含有ガスである空気の利用率を変化させた場合には、Wcaが主に変化した。又、燃料ガス中の水素の濃度を変化させた場合には、Rct−anが主に変化した。更に、燃料電池セルの温度分布を変化させた場合には、Rmが主に変化した。
以上のようにして、あらかじめ決められた運転条件、例えば定格条件における燃料電池セルのインピーダンスを測ることにより、等価回路の各コンポーネントの定格値を求め、記憶しておく。
そして、実施の形態1と同様に温度の運転条件をそれぞれ変化させたときのインピーダンスを定期的に図って求めたそれぞれの等価回路のコンポーネントの値を、発電時間の対数に対してプロットすることで相関関係が得られる。また、電池電圧が定格運転での初期の出力電圧に対して一割低下するときの等価回路のコンポーネントの変化値までの到達時間を電池温度に対してアレーニウスプロットし相関関係が得られる。これら相関関係をデータベースとして、システムに搭載されている。
次に、本実施の形態2の燃料電池の寿命推定方法について説明する。
本実施の形態2の燃料電池システムを、実施の形態1と同様に(表1)の条件に従い、電池温度を変化させ、各電池温度において連続運転を行った。この連続運転中にインピーダンスの測定をして等価回路のコンポーネント値を求める。このとき一例として、各電池温度における運転時間に対するRct−caのコンポーネント値をプロットすると図10に示すような結果が得られた。
図10のグラフの横軸である発電時間を対数で表したグラフを図11に示す。図11のグラフから各電池温度におけるRct−caのコンポーネント値と発電時間の対数には相関関係が得られることが分かる。
又、図11のグラフから得られる相関関係から得られる傾きである、発電時間の対数に対するRct−caのコンポーネント値の変化率を、電池温度に対してプロットすると図12に示す結果が得られた。図12から、電池温度を高く設定するとRct−caのコンポーネントの変化率が大きくなることがわかる。
次に、例えば、温度試験1では定格運転を定期的に行い、等価回路のコンポーネント値を測定する。この測定を、(表1)に従って、温度試験2及び温度試験3についても行う。そして、定格運転における初期の出力電圧に対して電池電圧が一割低下したときのRct−ca値への到達時間を求める。各温度での到達時間を温度に対してアレーニウスプロットすると、図13に示されるような相関関係が得られた。
本実施の形態2における燃料電池システムは、上記図12に示される電池温度とコンポーネント値の関係と、図13に示される電池温度と到達時間の関係をデータベースとして、システムに搭載されている。
この結果を用い、燃料電池システムの定格運転時のインピーダンス計測をすることにより、性能低下状態を検知できて寿命を予測することができる。尚、上記グラフでは、例としてRct−caを例に挙げたが、図14−1、図14−2及び図15に示されているように、他のコンポーネント値(Rm、Rct−an、W−ca)に対しても上記関係は成り立つので、これらのグラフをデータベースとして搭載することによって、他のコンポーネント値を用いたり、また併用し寿命予測することが可能である。尚、図14−1には、電池温度とRct−ca、Rct−an、Wcaの値の関係、図14−2には、電池温度とRmの値の関係が示されている。
寿命推定対象の燃料電池システムを、第1の本発明による運転条件の一例である所定の運転条件で連続運転中に所定の時間、インピーダンス測定を行うことにより各コンポーネント値を計測する(第1の本発明の計測工程の一例に相当する)。
次に、所定時間の対数に対してコンポーネント値の変化量の割合を求め、図14のグラフに当てはめることにより、温度換算値を求める。この温度換算値を図15のグラフに当てはめることにより、その温度において燃料電池が寿命に到達するまでの時間がわかる。この到達時間は、連続運転を始めてから閾値に到達するまでの時間であるため、この時間と計測工程終了時までの連続運転の時間との差を取ることで、残りの寿命を推定することが出来る(第1の本発明の算出工程の一例に相当する。)。
例えば、Rct−ca値を例に挙げ、具体的に述べると任意の運転条件で燃料電池システムの連続運転を行い、5000時間経過後にインピーダンス測定を100時間連続で測定を行い、各コンポーネントを求める。
そして、Rct―caの変化率を図12と比較する。図12より得られたこのときの電池温度は、例えば75℃の劣化に相当し、この温度を図13のアレーニウスプロットに当てはめる。すると、75℃相当では初期から電池寿命までの到達時間が約5500時間であるから、5500時間から連続測定を行った100時間と連続測定前の運転時間5000時間を引くことにより、寿命が残り約400時間相当であると予測することができる。尚、インピーダンスの連続測定は、上記例では理解を容易にするために100時間としたが、実施の形態1と同様に24時間としても良く、任意の時間でよい。
上述した様に、インピーダンス測定によって得られた各コンポーネント値の変化率から求めた温度換算値を、温度における各コンポーネント値の寿命までの到達時間のアレーニウスプロットに当てはめることにより、各コンポーネント値による寿命までの到達時間を求めることが出来、それらの整合性を調べることが出来るので、実施の形態1において説明した電池電圧測定のみから寿命を推定するよりも、より正確に寿命時間の推定を行うことが出来る。
尚、本発明の閾値は、実施の形態1及び2では、定格運転で初期の電池電圧から一割低下した値に相当するが、電池電圧、各コンポーネントを発電時間の対数に対してプロットしたときに十分な相関関係が得られる範囲であるならば、定格運転で初期の一割劣化よりも大きくすることで、より広範囲な性能低下検知が可能であり、寿命予測の幅が広がる。
尚、実施の形態1及び2の燃料電池システムは、定格運転の温度条件のみ変化させた燃料電池の特性をデータベース(実施の形態1では図8及び図9に相当、実施の形態2では図14及び図15に相当)として搭載しているが、定格運転に限らなくても良く、要するに温度のみ変化させ他の条件が同一である様に条件を変更した燃料電池の特性をデータベースとして搭載すればよい。
(実施の形態3)
本実施の形態3における燃料電池システムの運転方法は、実施の形態2にてインピーダンス測定を用いて計測した各コンポーネント値に基づいて劣化部位を特定し、運転条件を変更することにより燃料電池の寿命を延ばす方法である。
本実施の形態3における燃料電池システムの運転方法は、実施の形態2にてインピーダンス測定を用いて計測した各コンポーネント値に基づいて劣化部位を特定し、運転条件を変更することにより燃料電池の寿命を延ばす方法である。
以下に、本実施の形態3における燃料電池システムの運転方法について説明する。
始めに、定格運転における初期状態での各コンポーネント値を求めて記憶しておく。ここで、初期状態とは実質上各コンポーネント値が変化していない状態であり、実施の形態1で述べた実質上出力電圧が低下していない状態と同じである。続いて、所定の運転条件での燃料電池システムの連続運転を行い、任意の時間で定格運転を行う。この際、インピーダンス測定を行い、各コンポーネントを求める(第5の本発明の計測工程の一例に相当する。)。この結果、各コンポーネント値の中で、初期の各コンポーネント値と比較してWcaが大きく変化しているとする。
これは、運転の進行により各部位の濡れが進行し、酸化剤の触媒層の白金への拡散性の低下、ガス拡散層のガス透過性の低下、セパレータの流路のガス透過性が低下したものなどが原因として考えられる。
これらは、いずれもガス透過性がいずれも関与していると考えられる。そこで、空気極の酸化剤の流速を上げるような、本発明の他の運転条件の一例に相当する運転条件に変更した(第5の本発明の制御工程の一例に相当する。)。これにより、電池電圧が上昇し、Wcaが低下した。また、電池温度を上昇させて空気極の加湿を下げることを行った時も同様に、Wcaが低下した。
また、上述したインピーダンス測定により求めた各コンポーネント値の中で、Rmが劣化し大きく変化しているとする。そこで加湿器で加湿する水の量を増やすと、Rmが基の状態にほぼ回復できた。
また、上述したインピーダンス測定により求めた各コンポーネント値の中で、Rct−anが劣化し大きく変化しているとする。この場合、改質器の転稼率が低下していることが考えられる。そこで、改質器のバーナーを調節し、温度が上昇することで、Rct−anが基の状態にほぼ回復できた。
このように、任意の条件で連続運転している燃料電池システムについて、定格運転における実質上電圧が低下していない初期状態の各コンポーネント値と比較し、大きく変化しているコンポーネント値を回復させるような運転条件を変更することで残時間をのばすことが出来る。
この流速や、電池温度を上げることをシステム制御として定期的に行うことで、各コンポーネントの変化を制御をしていないときと比べ低下し、燃料電池の寿命が向上した。
尚、本実施の形態3では、任意の運転条件で連続運転する前に、定格運転の初期状態における各コンポーネント値を測定したが、予め本実施の形態3と同様の構成の燃料電池での本発明の計測条件の一例である定格運転における各コンポーネントの初期状態での値がデータベースとして搭載されていてもよい。そうすることで、定格運転の初期状態における各コンポーネント値の測定を省略することが出来る。
更に、定格運転における各コンポーネント値の初期状態からの時間経過がデータベースとして搭載されていても良い。この場合、連続運転中に、定格運転に変更し各コンポーネント値を測定する(第6の本発明の計測工程の一例に相当する。)。次に、測定した各コンポーネント値と、データベースの該当する時間における各コンポーネント値を比較し、通常の劣化の程度と異なるコンポーネント値を見つけ出し、そのコンポーネント値を回復させるように運転条件を変更する(第6の本発明の制御工程の一例に相当する。)。
又、本実施の形態3では、任意の条件での連続運転中に定格運転に変更し、各コンポーネント値を測定し、定格運転の初期状態における各コンポーネント値と比較していたが、定格運転に戻さなくともよい。
この場合、はじめに任意の条件での連続運転の初期状態における各コンポーネント値を測定する(第7の本発明の初期抵抗計測工程の一例に相当する。)。次に、連続運転中の任意の時に各コンポーネント値を測定する(第7の本発明の計測工程の一例に相当する。)。
そして、初期状態における各コンポーネント値と、任意の時に測定した各コンポーネント値を比較して運転条件を変更する(第7の本発明の制御工程の一例に相当する。)。この様にすることで、上記と同様に残時間を伸ばすことが出来る。
もちろん、実施の形態1、2及び3の燃料電池発電システムにおいては、燃料電池として1つの燃料電池からなるものを代表的に示しているが、複数の燃料電池が積層された燃料電池スタックを燃料電池セルの代わりに接続し、燃料電池スタック全体のインピーダンスを測定することもできる。
以下、本発明の燃料電池システムの寿命推定方法及び運転方法について実施例にて、より具体的に説明する。
(実施例1)
始めにガス拡散層を以下の方法で作製した。
始めにガス拡散層を以下の方法で作製した。
カーボンペーパー(東レ(株)製TGPH−060)にポリテトラフルオロエチレンの分散液(ダイキン工業(株)製:ルブロンLDW−40)を乾燥重量として10重量%含侵させた後、熱風乾燥機を用いて350℃で加熱することで撥水処理を行った。
さらに炭素粉末とフッ素樹脂からなる高分子含有導電層を形成した。すなわち炭素粉末としての電気化学工業(株)製:デンカブラックに、フッ素樹脂としてのポリテトラフルオロエチレンの分散液(ダイキン製:ルブロンLDW−40)を、乾燥重量として30重量%混合して作製した分散液を、前記撥水処理したカーボンペーパーに塗工し、熱風乾燥機を用いて350℃で加熱することで高分子含有導電層を含むガス拡散層を作製した。
次に電解質膜−電極接合体(MEA)を以下の方法で作製した。導電性炭素粉末に平均粒径約30Åの白金粒子を50重量%担持したもの(田中貴金属工業(株)製:TEC10E50E)10gに、水10gを加え、水素イオン伝導性高分子電解質の9重量%エタノール溶液(旭硝子(株)製:フレミオン)55gを混合し、触媒ぺ−ストを作製した。このペーストをポリプロピレンフィルム上にワイヤーバーを用いたバーコーティングにより塗布し、乾燥することで、酸化剤極側触媒層とした。触媒層の塗布量は、白金の含有量が1cm2当り0.3mgになるように調整した。
又、導電性炭素粉末に白金−ルテニウム合金を担持したもの(田中貴金属工業(株)製:TEC61E54)10gに、水10gを加え、水素イオン伝導性高分子電解質の9%エタノール溶液(旭硝子(株)製:フレミオン)50gを混合し、触媒ぺ−ストを作製した。このペーストをポリプロピレンフィルム上にワイヤーバーを用いたバーコーティングにより塗布し、乾燥することで、燃料極側触媒層とした。触媒層の塗布量は、白金の含有量が1cm2当り0.3mgになるように調整した。
この触媒層付きポリプロピレンフィルムをそれぞれ6cm角に切り、水素イオン伝導性高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス(株)社製:ゴア−セレクト、膜厚30μm)を、前述した触媒層付きの2組のポリプロピレンフィルムで触媒層が内側になるように挟み、130℃で10分間ホットプレスした後、ポリプロピレンフィルムを除去し、触媒層付高分子電解質膜を得た。
この触媒層付高分子電解質膜の両側にガス拡散層を、その高分子含有導電層が内側になるように挟んでMEAとした。一方、黒鉛板にガス流路と冷却水流路を切削加工してセパレータ板を作製した。MEAを一対のセパレータ板で挟み、燃料電池セルを構成した。
この燃料電池セルを用いて、図5の構成の燃料電池発電システムを作製した。燃料極側には、都市ガスに水を添加して水素生成装置で改質した改質ガス(水素80%、二酸化炭素20%、一酸化炭素20ppm、露点60℃)を供給し、酸素極側には露点が60℃となるように加湿した空気をそれぞれ供給し、燃料利用率80%、酸素利用率40%、電流密度200mA/cm2で発電を行った。尚、冷却水を燃料電池セルの入口側で60℃、出口側で62℃〜65℃になるように調整した。又、燃料電池の電池電圧は0.75Vであった。
図16に電池電圧の経時変化を示す。電池電圧は時間と共に徐々に低下し、運転を開始してから6000時間経過後にセル電圧は0.70V以下に低下した。このときをこの燃料電池システムの寿命とした。
このときに負荷電流をインバーターからインピーダンス測定器につなぎ換えて1000Hz、200Hz、10Hz、0.1Hzにおける複素インピーダンスを測定した。
インピーダンス測定器は周波数応答アナライザー(SOLARTRON SI1250)と電子負荷(SCRIBNER Fuel Cell Test System SERIES890B)の組み合わせで構成した。又、負荷電流は、200mA/cm2の直流に±10mA/cm2の正弦波を重畳した電流とした。
1000Hzにおける複素インピーダンスの実数成分をRmとし、200Hzの実数成分をRm+Rct−an、10Hzの実数成分をRm+Rct−an+Rct−ca、0.1Hzの実数成分をRm+Rct−an+Rct−ca+Wcaとして、定格時のRm、Rct−an、Rct−ca、Wcaをそれぞれ算出した。この各コンポーネント値が、この燃料電池システムの寿命時の値(定格運転時のセル電圧0.70V時の値)である。
一方、(表1)に示すように電池温度条件を変化させて、燃料極側には、都市ガスに水を添加して水素生成装置で改質した改質ガス(水素80%、二酸化炭素20%、一酸化炭素20ppm、露点60℃)を供給し、酸素極側には露点が60℃となるように加湿した空気をそれぞれ供給し、燃料利用率80%、酸素利用率40%、電流密度200mA/cm2で発電を行った。
そして各電池温度で連続運転を行い、インピーダンスを測定する。このとき各コンポーネント値に対し、耐久時間の対数をプロットし、得られた変化率を各電池温度に対しプロットした。このプロットしたグラフを図14に示す。これを基に、例えば温度試験1の場合では、温度試験1から定格運転に定期的に変更し、インピーダンス測定を行う。すると、定格運転時の電池電圧が0.70V以下の時の各コンポーネント値に到達するまでの時間は、電池温度が高くなるほど速くなる結果になった。
そして定格運転時の電池電圧が0.70V以下の時の各コンポーネント値に到達するまでの時間を、電池温度に対してアレーニウスプロットすると図15になり相関関係が得られた。
上記測定を行った燃料電池と同様の燃料電池を構成し、図5の構成の燃料電池システムを作製し、各コンポーネントに対し得られた温度との関係(図14)や到達時間と電池温度のアレーニウスデータ(図15)をデータベースとして新たに搭載した燃料電池システムAを用いて耐久試験を実施した。
この燃料電池システムAは、寿命6000時間に対し、初期から2000時間、2000時間から4000時間及び4000時間から残りまでそれぞれ青色、黄色及び赤色の3種類のゾーンを設け、モニターに残寿命を表示出来るようにする。運転6000時間までの間、任意で定格運転を行い、この時に定常状態でインピーダンス測定も同時に行う。
そして等価回路より各コンポーネントを求め、図14及び図15から寿命予測を行った結果を基に、一例としてRct−ca値を任意で測定したインピーダンスより残寿命を求め、予測し、表示モニターが残寿命に併せて表示するのを確認した。このときの結果を(表2)に示す。
これより、寿命を表示してから、それぞれの寿命である電池電圧0.70V以下に到達するまでの時間は、10%以内で一致した。
(実施例2)
実施例1と同様に燃料電池セルを構成し、この燃料電池セルを用いて実施例1と同様に図5の構成の燃料電池発電システムBを作製した。
実施例1と同様に燃料電池セルを構成し、この燃料電池セルを用いて実施例1と同様に図5の構成の燃料電池発電システムBを作製した。
実施例1と同様に運転を行い、セル電圧が0.75Vであることを確認した。3000時間時の、インピーダンス測定を行った。そして等価回路より各コンポーネントを求めた。初期の各コンポーネント値に比べ大きく変化していたのがWcaのため、カソードのフラッディングが起こっていることが分かり、この後電池温度2℃高め電池内の相対湿度を下げることを行った。
その後、再度発電を再開したところ、セル電圧は0.73Vに回復し、Wcaも元に戻った。そして、電池温度は元の温度に戻した。
さらに発電を継続したところ、セル電圧は時間と共に徐々に低下し、定格運転時の電池電圧が0.71V以下に低下したときの合計運転時間が7000時間を到達していた。
図17にセル電圧の経時変化を示す。これよりこの燃料電池システムBが電池電圧0.70Vに到達するまでの時間は、7010時間であり、図16の寿命6000時間に比べて、約16%延命することが確認できた。
(比較例1)
実施例1と同様の構成の燃料電池発電システムを作製した。
実施例1と同様の構成の燃料電池発電システムを作製した。
実施例1と同様に運転を行い、運転5000時間でインピーダンス測定を全く行わないで発電を継続した。図18は、電池電圧の経時変化のグラフである。図に示すように、電池電圧の運転時間に対する変化率は5mV/1000時間となり、電池電圧が0.70V以下に到達するまで10000時間の寿命を予測した。
しかしながら、実際に、電池電圧が、0.70Vに到達する時間は、6000時間であった。これより運転制御をしていないため、寿命が延命することは無かった。
上述の実施例1〜2と比較例とを比較することにより、本発明によれば、燃料電池システムの寿命推定が可能でより精度が高い。また、インピーダンス測定より求めた各コンポーネントから、運転条件を制御し燃料電池システムを最適な状態に維持できるため、長時間安定して燃料電池の発電を維持できることが明らかとなる。
又、本発明のプログラムは、上述した本発明による燃料電池の運転方法の全部または一部の工程の動作をコンピュータにより実行させるためのプログラムであって、コンピュータと協働して動作するプログラムである。
又、本発明の記録媒体は、上述した本発明燃料電池の運転方法の全部又は一部の工程の全部又は一部の動作をコンピュータにより読みとり可能且つ、読みとられた前記プログラムが前記コンピュータと協働して前記動作を実行する記録媒体である。
尚、本発明の上記「一部の工程」とは、それらの複数の工程の内の、一つ又は幾つかの工程を意味する。
又、本発明の上記「工程の動作」とは、前記工程の全部又は一部の動作を意味する。
又、本発明のプログラムの一利用形態は、コンピュータにより読みとり可能な記録媒体に記録され、コンピュータと協働して動作する様態であっても良い。
又、本発明のプログラムの一利用形態は、伝送媒体中を伝送し、コンピュータにより読みとられ、コンピュータと協労して動作する態様であっても良い。
又、記録媒体としては、ROM等が含まれ、伝送媒体としては、インターネット等の伝送媒体、光・電波・音波等が含まれる。
又、上述した本発明のコンピュータは、CPU等の純然たるハードウェアに限らず、ファームウェアや、OS、更に周辺機器を含むものであっても良い。
尚、以上説明した様に、本発明の構成は、ソフトウェア的に実現しても良いし、ハードウェア的に実現しても良い。
本発明の燃料電池の寿命推定法は、より簡便な方法で、又より高精度に燃料電池の性能低下を検知でき、寿命を予測できる効果を有し、家庭用コージェネレーション燃料電池等の寿命推定法として有用である。
又は、他の本発明による燃料電池の運転方法は、残時間を延ばすことが可能な効果を有し、家庭用コージェネレーション燃料電池の運転方法等として有用である。
1 燃料電池
2 水素生成装置
3 ポンプ
4a 周波数をスイープさせた際のインピーダンス
4b 等価回路bで表せるインピーダンス
4c 等価回路cで表せるインピーダンス
4d 等価回路dで表せるインピーダンス
5 フィルター
6 加湿器
7 ポンプ
8 インバータ
9 ブロア
2 水素生成装置
3 ポンプ
4a 周波数をスイープさせた際のインピーダンス
4b 等価回路bで表せるインピーダンス
4c 等価回路cで表せるインピーダンス
4d 等価回路dで表せるインピーダンス
5 フィルター
6 加湿器
7 ポンプ
8 インバータ
9 ブロア
Claims (14)
- 所定の運転条件での燃料電池の運転中に、前記燃料電池の電圧又はインピーダンスを所定時間計測する計測工程と、
前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係、及び前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係を有するデータベースに基づいて、前記所定時間における出力電圧又はインピーダンスの変化から前記所定の運転条件の温度換算を行うことにより、前記温度換算の値から導いた前記寿命までの時間と、前記計測工程までの前記燃料電池の運転時間とから、前記所定の運転条件における燃料電池の寿命を算出する算出工程とを備えた、燃料電池システムの寿命測定方法。 - 前記燃料電池の温度と出力電圧又はインピーダンスの時間変化との関係とは、前記燃料電池の温度と運転時間の対数に対する前記出力電圧又は前記インピーダンスとの関係である、請求項1記載の燃料電池システムの寿命推定方法。
- 前記燃料電池の温度と、前記燃料電池の出力電圧又はインピーダンスが前記燃料電池の寿命として設定した閾値に達するまでの時間との関係とは、前記温度に対する前記時間のアレーニウスの関係である、請求項1又は2記載の燃料電池システムの寿命推定方法。
- 前記インピーダンスとは、複数の周波数での測定によって算出された、前記燃料電池の等価回路における少なくとも1つの抵抗値である、請求項1記載の燃料電池システムの寿命推定方法。
- 所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
初期状態での前記計測条件における前記複数の抵抗値と、前記算出された複数の抵抗値を比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法。 - 所定の運転条件での燃料電池の運転中、前記運転条件を予め決められた計測条件に変更し、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程と、
前記計測条件における前記複数の抵抗値の時間変化のデータベースと、前記計測工程で得られた前記複数の抵抗値とを比較し、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法。 - 所定の運転条件での燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗計測工程と、
前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程と、
前記初期抵抗計測工程で得られた初期の複数の抵抗値と、前記計測工程で得られた複数の抵抗値との比較に基づいて、前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程とを備えた、燃料電池システムの運転方法。 - 前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガス及び/又は酸化剤ガスに対する加湿量に関して変化させた条件である、請求項5〜7のいずれかに記載の燃料電池システムの運転方法。
- 前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される冷却水の量を変化させた条件である、請求項5〜7のいずれかに記載の燃料電池システムの運転方法。
- 前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池の負荷電流を変化させた条件である、請求項5〜7のいずれかに記載の燃料電池システムの運転方法。
- 前記他の運転条件とは、前記所定の運転条件に対して、前記燃料電池に供給される燃料ガスの改質器の温度を変化させた条件である、請求項5〜7のいずれかに記載の燃料電池システムの運転方法。
- 請求項5又は6記載の燃料電池の運転方法の、前記燃料電池の等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
- 請求項7記載の燃料電池の運転方法の、所定の運転条件での前記燃料電池の初期状態での、等価回路における複数の抵抗値を、複数の周波数での測定によって算出する初期抵抗値計測工程、前記所定の運転条件での運転中、前記複数の抵抗値を計測する計測工程、及び前記所定の運転条件を他の運転条件に変更する制御工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
- 請求項12又は13に記載のプログラムを担持した記録媒体であって、コンピュータにより処理可能な記録媒体。
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