JP2005344849A - 変速機用クラッチの同期装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 変速機用クラッチにおいて、コーン面の引き摺り抵抗が低減されるマルチコーンシンクロ機構の同期装置を提供する。
【解決手段】 スリーブ22が中立位置での車両走行時には、ミドルリング30の内周テーパ面30bとインナシンクロナイザリング28の外周テーパ面28aとの引き摺りによりキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置が円周方向にずらされる力が作用して、キー24のテーパ面24bによりインナシンクロナイザリング28を変速歯車16側へ向かわせる推力が発生させられてインナシンクロナイザリング28がそのテーパ面24bに沿って移動させられる。これにより、アウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28との相対位置が径方向に離れることになってスリーブ22が中立位置での車両走行時で発生する一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の引き摺り抵抗が低減される。
【選択図】 図1
【解決手段】 スリーブ22が中立位置での車両走行時には、ミドルリング30の内周テーパ面30bとインナシンクロナイザリング28の外周テーパ面28aとの引き摺りによりキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置が円周方向にずらされる力が作用して、キー24のテーパ面24bによりインナシンクロナイザリング28を変速歯車16側へ向かわせる推力が発生させられてインナシンクロナイザリング28がそのテーパ面24bに沿って移動させられる。これにより、アウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28との相対位置が径方向に離れることになってスリーブ22が中立位置での車両走行時で発生する一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の引き摺り抵抗が低減される。
【選択図】 図1
Description
本発明は、変速機用噛合クラッチの同期装置に係り、特に、マルチコーンシンクロ機構が用いられる場合において変速機用噛合クラッチの中立位置でのコーン面の引き摺り抵抗を低減する技術に関するものである。
車両用の変速機として噛合クラッチによって変速段が切り換えられる常時噛合い方式のものが広く知られている。一般に、このような変速機用噛合クラッチには同期装置が備えられており変速段の切換えが速やかに実行される。例えば、その同期装置としてコーン面(テーパ面)を有するアウタシンクロナイザリングおよびインナシンクロナイザリングと、それらの間にあってそれらテーパ面とそれぞれ摺接させられるテーパ面を有するミドルリングとで、構成される所謂マルチコーンシンクロ機構が用いられている。このマルチコーンシンクロ機構は摺接させられるテーパ面すなわち摺接面を複数有することで同期のための摩擦力がより大きくされて強力なシンクロ作用が得られる。反面、それら摺接面の隙間は非常に小さいか或いは隙間が設けられる構造とはなっていないため、動力伝達が遮断される噛合クラッチの中立位置では上記摺接面に引き摺りが発生して変速機の伝達効率を低下させ燃費を悪化させる要因となっている。
そこで、特許文献1には、ダブルコーンシンクロ機構において、アウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとの間にスプリングを設けることで噛合クラッチの中立位置のときには、上記摺接面の隙間を確保する技術が提案されている。また、特許文献2には、同様にダブルコーンシンクロ機構において、アウタシンクロナイザリング、インナシンクロナイザリング、およびミドルリングのそれぞれに遠心力でボールが溝の斜面に沿って入り込み、摺接面が離れる方向にアウタシンクロナイザリング、インナシンクロナイザリング、およびミドルリングの相対位置が移動させられるような機構を設けることで噛合クラッチの中立位置のときには、上記摺接面の隙間を確保する技術が提案されている。
しかしながら、特許文献1では、シフト時に摺接面を引き離しているスプリングを押し縮めて摺接面を摺接させる必要がありシフト操作力の増加につながっている。また、特許文献2では、シフト時にも遠心力による摺接面を引き離す作用が加えられ続けるためシフト操作力の増加につながっている。つまり、スプリング力や遠心力で摺接面を引き離しているがシフト時にもその引き離し作用が加えられ続けるため、通常のシフト操作力に加えて引き離し作用を相殺するための力が必要となり速やかに同期させられない可能性があった。また、ダブルコーンシンクロ機構を構成するための部品点数が増加するという課題もあった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速機用噛合クラッチにおいて、部品点数が増加することなく変速機用噛合クラッチの中立位置では摺接面の引き摺り抵抗が低減されるとともにシフト時には速やかに同期させられるマルチコーンシンクロ機構の同期装置を提供することにある。
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) 外周歯を有し、回転軸に相対回転不能に配設されたクラッチハブと、(b) そのクラッチハブの外周歯と噛み合う内周歯と、幅方向の中央部において内周側に突き出す凸部とを有し、そのクラッチハブの外周に相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に嵌合されるとともに、軸方向へ移動させられることにより動力伝達を行う伝達位置および動力伝達を遮断する中立位置に位置決めされるスリーブと、(c) 前記クラッチハブに隣接して、前記回転軸に対して相対回転可能に配設されるとともに、前記スリーブの内周歯と噛み合うための噛合歯と、そのクラッチハブに向かうほど小径となる外周テーパ面とを備えた変速歯車と、(d) 前記クラッチハブとその変速歯車との間において、その変速歯車とともに回転し且つ軸心方向の移動が許容される状態で配設されるとともに、そのクラッチハブに向かうほど小径となる内周テーパ面および外周テーパ面を備えたミドルリングと、(e) 径方向に長手状を成し且つ外周側へ付勢されたキーと、そのキーを径方向のみ相対移動可能に受け入れる嵌合孔部と、そのミドルリングの外周テーパ面に摺接させられる内周テーパ面と、前記スリーブと前記変速歯車とが相対回転する間は前記スリーブの内周歯と係合してそのスリーブの軸方向移動を阻止するための外周係合歯とを備え、前記クラッチハブに所定量以上の相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に配設されたアウタシンクロナイザリングと、(f) 前記ミドルリングの内周側に配設されるとともに、前記キーを受け入れる係合凹部と、前記ミドルリングの内周テーパ面と摺接するための外周テーパ面と、前記変速歯車の外周テーパ面と摺接するための内周テーパ面とを備えて、前記アウタシンクロナイザリングとでそのキーを介して一対のシンクロナイザリングが構成されるインナシンクロナイザリングとを有し、(g) 前記クラッチハブスリーブが前記中立位置から伝達位置へ移動させられることにともなって前記アウタシンクロナイザリングが変速歯車側へ移動させられると共に前記キーが前記スリーブの凸部によって押し下げられ、前記一対のシンクロナイザリングと前記ミドルリングとの間の摩擦力およびそのシンクロナイザリングと前記変速歯車との間の摩擦力でそのシンクロナイザリングとその変速歯車とが同期回転させられたとき、前記スリーブの内周歯と前記変速歯車の噛合歯とが噛み合わせられる変速機用クラッチの同期装置であって、(h) 前記キーの側面であって、前記スリーブが前記中立位置とされて外周側へ位置させられている場合に前記インナシンクロナイザリングが接触する部位に設けられ、そのインナシンクロナイザリングからの回転トルクが作用するとそのインナシンクロナイザリングを前記変速歯車側へ向かう推力を発生させるテーパ面を含むことにある。
このようにすれば、スリーブが中立位置での車両走行時には、ミドルリングの内周テーパ面とインナシンクロナイザリングの外周テーパ面との摺接面における引き摺りによりキーとインナシンクロナイザリングとの相対位置が円周方向にずらされる力が作用して、インナシンクロナイザリングがキーのテーパ面と接触しインナシンクロナイザリングを変速歯車側へ向かわせる推力が発生させられてインナシンクロナイザリングがそのテーパ面に沿って移動させられる。これにより、アウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとの相対位置が径方向に離れることになる。言い換えれば、ミドルリングの内周テーパ面とインナシンクロナイザリングの外周テーパ面との隙間が広がることになる。この結果、スリーブが中立位置での車両走行時で発生する前記一対のシンクロナイザリングとミドルリングとの間の引き摺り抵抗が低減されて、変速機の動力伝達効率の低下が抑制され燃費の悪化が抑制される。また、スリーブが中立位置から伝達位置へ移動させられる途中となるシフト時には、スリーブによりキーが内周側に押し込まれ、インナシンクロナイザリングはキーのテーパ面に沿って上記とは逆方向に移動させられてキーとインナシンクロナイザリングとの軸方向の相対位置が戻される。よって、シフト時には前記一対のシンクロナイザリングとミドルリングとの摺接面が速やかに摺接させられる。そしてこの摺接面で発生する摩擦力がスリーブの中立位置に比較して増大させられるので、前記一対のシンクロナイザリングと変速歯車との同期回転のための摩擦力が速やかに増大させられる。さらに、キーにはアウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとの相対位置を引き離す機能と連結する機能との双方の機能が兼ね備えられているので、部品点数が少なくなる利点がある。
ここで、好適には、請求項2にかかる発明では、前記キーは、その厚み方向において、前記クラッチハブ側に前記テーパ面を備えるとともに、そのテーパ面の前記インナシンクロナイザリング側に隣接して平坦な第1係合面を備えるものである。このようにすれば、前記テーパ面によりインナシンクロナイザリングを変速歯車側へ向かわせる推力が発生させられてインナシンクロナイザリングが第1係合面に当接させられる位置まで移動させられた状態となると共に、インナシンクロナイザリングが第1係合面に当接させられると平坦な第1係合面によりこの状態が維持される。また、平坦な第1係合面によりこの状態が維持されることで、インナシンクロナイザリングがさらに変速歯車側へ移動させられて変速歯車の外周テーパ面とインナシンクロナイザリングの内周テーパ面との摺接面における引き摺り抵抗が発生する或いは増加することが抑制される。
また、好適には、請求項3にかかる発明では、前記キーは、その側面であって前記テーパ面が設けられた部位の外周側に隣接する部位には、前記第1係合面よりも大きい間隔の第2係合面を備えるものである。このようにすれば、シフト時には、インナシンクロナイザリングの係合凹部に第2係合面が当接するようにスリーブによりキーが内周側に押し込まれるので、キーのテーパ面による作用すなわちアウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとの相対位置を引き離す作用が速やかに解消され、アウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとがキーを介して一体に連結される。このように一体に連結されることで、アウタシンクロナイザリングとインナシンクロナイザリングとがキーを介して一体回転し、スリーブが中立位置から伝達位置へ移動させられる途中となるシフト時には、ミドルリングおよび変速歯車の外周テーパ面とのそれぞれの摺接面における摩擦力が一体に連結されない場合に比較して増大する。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、良く知られた常時噛合い方式の車両用変速機10(以下、変速機10と表す)の一部分であって本発明の一実施例であるマルチコーンシンクロ機構の同期装置が適用されるクラッチ12を説明する部分断面図である。例えば、変速機10は、走行用の駆動力源としてのガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン或いは電動機等によって回転駆動される入力軸、入力歯車対を介してその入力軸により常時回転させられるカウンタシャフト、およびそのカウンタシャフトとの間に複数の変速歯車対が配設される出力軸を備えており、出力軸上に相対回転可能に配設される変速歯車対の一方と出力軸とを一体回転させるためのクラッチ12を介してエンジンからの動力を差動歯車装置(終減速機)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪へ伝達する。図1において、上記出力軸に相当するものが回転軸14であり、変速歯車対の一方に相当するものが変速歯車16或いは変速歯車18である。なお、変速機10は回転軸14の軸心Cに対して対称的に構成されているため、図1の変速機10を表す部分においてはその下側が省略されている。また、クラッチ12は中心線Aに対して左右が略同一に構成されており、変速歯車16と変速歯車18とは異なる変速段を構成するためにギヤ数が異なるだけである。以下の各実施例についても同様である。
クラッチ12は、回転軸14上にクラッチハブ20、スリーブ22、キー24、アウタシンクロナイザリング26、インナシンクロナイザリング28、ミドルリング30、およびギヤピース32を同心に備えている。また、図2はキー24が配設されていない部分の図1に相当する断面図である。図1は図3に示す回転軸14の軸心C方向から見た図における3箇所のT部分での断面図であり、図2はそのT部分以外での断面図である。よって、キー24はクラッチ12の円周方向に略等角度間隔で複数(本実施例では3つ)配設されている。
クラッチハブ20は、図2に示す外周歯20aを有し、スプライン嵌合によって回転軸14に相対回転不能に配設されるとともに、図示しないスナップリングや軸方向の両側に配設された変速歯車16、18によって軸方向の位置が決められている。
スリーブ22は、略円筒形状を成しており、クラッチハブ20の外周歯20aと噛み合う図2に示す内周歯22aと、幅方向の中央部において内周側に突き出す凸部22bとを有し、クラッチハブ20の外周に相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能にスプライン嵌合されるとともに、図示しないシフトフォークによって動力伝達が可能な状態である伝達位置例えば図4に示すようにスリーブ22が軸方向右側に移動させられた位置および図1に示すように動力伝達を遮断する状態である中立位置へ移動可能に配設される。例えば、シフトフォークは運転者のシフトレバー操作に連動して機械的に図1の左右方向へ移動させられるようになっている。
変速歯車16は、クラッチハブ20に隣接して、ニードルベアリング36等により回転軸14に相対回転可能に配設されるているとともに、図示しないスナップリング等によって軸方向の位置が決められている。また、変速歯車16は、スリーブ22が前記伝達位置に移動させられるクラッチ12の作動時に、スリーブ22の内周歯22aと噛み合うための噛合歯32aを有している。この噛合歯32aは、変速歯車16のクラッチハブ20側に例えば圧入や溶接により相対回転不能に固設されているギヤピース32の外周面に備えられているものである。よって、クラッチ12の作動時には、変速歯車16からスリーブ22およびクラッチハブ20を介して回転軸14に動力伝達が行われる。また、変速歯車16はクラッチハブ20に隣接してクラッチハブ20に向かうほど小径となる外周テーパ面(外周コーン面)16aを備えている。
ミドルリング30は、クラッチハブ20と変速歯車16との間において、ギヤピース32のクラッチハブ20側の円周方向に複数設けられた穴部32bに対応する位置に設けられた突起部30aが穴部32bに差し込まれることで位置決めされて、変速歯車16とともに回転し且つ軸心方向の移動が許容される状態で配設されている。また、ミドルリング30は、クラッチハブ20に向かうほど小径となる内周テーパ面(内周コーン面)30bおよび外周テーパ面(外周コーン面)30cを備えている。
アウタシンクロナイザリング26は、径方向に長手状を成し且つ外周側へ付勢されたキー24と、キー24を相対回転不能且つ軸方向の相対移動不能であって径方向のみ相対移動可能に受け入れる嵌合孔部26cと、ミドルリング30の外周テーパ面30cに摺接させられる内周テーパ面(内周コーン面)26aと、スリーブ22と変速歯車16とが相対回転している間すなわちスリーブ22と変速歯車16とが同期回転するまではスリーブ22の内周歯22aと係合してスリーブ22の軸方向移動を阻止するための外周係合歯26bとを備え、クラッチハブ20に所定量以上の相対回転不能すなわち周方向の所定角度Aの相対回転が許容されつつ相対回転不能、且つ軸方向の相対移動可能にミドルリング30の外周側に配設されている。
上記アウタシンクロナイザリング26は、図2に示すようにアウタシンクロナイザリング26の外周面26dがクラッチハブ20の外周歯20aが設けられている外周環20bの内周面20cに当接するように配設され、キー24が配設される図3のT部分においてクラッチハブ20の外周環20bに設けられた切り欠き部分にアウタシンクロナイザリング26の外周面26dに設けられた凸部26e(図1参照)が嵌められて、クラッチハブ20に周方向の所定角度Aの相対回転が許容されつつ相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に配設されている。上記所定角度Aの相対回転はスリーブ22と変速歯車16とが同期回転するまでスリーブ22の軸方向移動が阻止されるように例えばスリーブ22の内周歯22aとアウタシンクロナイザリング26と外周係合歯26bとの周方向の相対位置が歯幅の半分程度のずれが生じるように設けられている。
また、上記キー24は図1に示すように外周側においてはアウタシンクロナイザリング26の嵌合孔部26cに受け入れられる形状であるが、内周側においてはその嵌合孔部26cに受入不能にすなわちキー24がアウタシンクロナイザリング26の嵌合孔部26cを外周方向へ抜けないようにクラッチハブ側へ段付のストッパ24fが設けられている。また、図1に示すようにスリーブ22の中立位置においてはスリーブ22の凸部22bがクラッチハブ20の両側に配設された2つのキー24、25のそれぞれの外周端に挟まれるような状態となってスリーブ22がキー24、25により軸方向の略中央すなわち中立位置に位置決めされるようになっている。そして、スリーブ22を軸方向へ移動させるための所定の負荷がスリーブ22に作用すると、スリーブ22が伝達位置側(変速歯車16側)へ移動させられることにともなってキー24がスリーブ22の凸部22bによりキー24に作用している外周側への付勢力に抗して内周側へ押し下げられ相対移動させられる。
キー24に作用している外周側への付勢力は、例えばスプリング34により生じさせられる。このスプリング34は、略U字形状或いは略V字形状の板バネであって、クラッチハブ20の外周面とキー24の内周端との間でそれらに当接するように配設されると共に、このスプリング34が当接するクラッチハブ20の外周面に形成された凹部20dに径方向の弾性変形自由に嵌め入れられて周方向の位置が決められている。
インナシンクロナイザリング28は、ミドルリング30の内周側に配設されるとともに、キー24を周方向の所定角度Bの相対回転が許容されつつ相対回転不能に受け入れる係合凹部28bと、ミドルリング30の内周テーパ面30bと摺接するための外周テーパ面(外周コーン面)28aと、変速歯車16の外周テーパ面16aと摺接するための内周テーパ面(内周コーン面)28cとを備えている。
以上のように構成されたクラッチ12には、キー24を介してアウタシンクロナイザリング26およびインナシンクロナイザリング28で構成される一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間に外周テーパ面30cと内周テーパ面26aとの摺接面および内周テーパ面30bと外周テーパ面28aとの摺接面、および一対のシンクロナイザリングと変速歯車16との間に外周テーパ面16aと内周テーパ面28cとの摺接面を有するマルチコーンシンクロ機構の同期装置が構成されている。
また、本実施例では上記キー24の形状を工夫することでスリーブ22が中立位置にある場合には、前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の引き摺り抵抗が低減されるようになっている。以下に、そのキー24の形状と作用を具体的に説明する。
図5はスリーブ22が中立位置での車両停止時の場合のキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置関係を示す図であって、図5(a)は図1の軸心方向の右側から見たキー24の正面図であり、図5(b)は図1の円周方向の手前側から見たキー24の側面図であり、図5(c)は図1の径方向の下側から見たキー24の底面図である。
図5に示すようにキー24は略直方体であり、キー24の側面の内周側であって、スリーブ22が中立位置とされてキー24が外周側へ位置させられている車両走行時の場合(図6参照)にインナシンクロナイザリング28が接触する部位にはテーパ部24aが設けられている。テーパ部24aは、キー24の厚み方向においてクラッチハブ20側に、インナシンクロナイザリング28からの回転トルクが作用するとインナシンクロナイザリング28を変速歯車16側へ向かわせる推力を発生させるテーパ面24bと、テーパ面24bのインナシンクロナイザリング28側に隣接して平坦な第1係合面24cとを備えている。またキー24の側面のテーパ部24aが設けられた部位に隣接する外周側であって、シフト時の場合(図7参照)にインナシンクロナイザリング28が接触する部位には第1係合面24cよりも大きい間隔の第2係合面24dを備えている。この第2係合面24dには常にアウタシンクロナイザリング26の嵌合孔部26cが当接している。
図6はスリーブ22が中立位置での車両走行時の場合のキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置関係を示す図であって、図5に相当する図である。図6(a)は図1の軸心方向の右側から見たキー24の正面図であり、図6(b)は図1の円周方向の手前側から見たキー24の側面図であり、図6(c)は図1の径方向の下側から見たキー24の底面図である。
スリーブ22が中立位置での車両走行時には、内周テーパ面30bと外周テーパ面28aとの摺接面に引き摺りが発生する。その引き摺りによりキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置が円周方向にずらされるようにインナシンクロナイザリング28からの回転トルクが作用すると、インナシンクロナイザリング28がテーパ面24bと接触し図6の矢印に示すようにインナシンクロナイザリング28を変速歯車16側へ向かわせる推力が発生させられてインナシンクロナイザリング28がそのテーパ面24bに沿って第1係合面24cに当接させられる位置まで移動させられた状態となる。第1係合面24cは平坦であるためインナシンクロナイザリング28を変速歯車16側へ向かわせる推力が発生しないのでこの状態が維持される。
このようにしてキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置が図5の状態から図6の状態へと変化させられる。この結果、アウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28との相対位置が径方向に離れることになる。言い換えれば、内周テーパ面30bと外周テーパ面28aとの隙間が広がることになる。本明細書ではこれをキー24の「引き離し機能」と称する。
また、インナシンクロナイザリング28が第1係合面24cに当接させられた状態が維持されることで、インナシンクロナイザリング28がさらに変速歯車16側へ移動させられて変速歯車16の外周テーパ面16aとインナシンクロナイザリング28の内周テーパ面28cとの摺接面における引き摺り抵抗が発生する或いは増加することが抑制される。すなわち、キー24は第1係合面24cによりキー24の上記「引き離し機能」に対する行き過ぎ防止の機能を有する。
また、キー24とインナシンクロナイザリング28との周方向の相対位置すなわち周方向の相対回転が許容される所定角度Bは、図6に示すようにキー24の厚み方向におけるテーパ面24bの長さHで決定される。また、アウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28との相対位置の離される量すなわち内周テーパ面30bと外周テーパ面28aとの隙間もテーパ面24bの長さHで決定される。また、この長さHは変速歯車16の外周テーパ面16aとインナシンクロナイザリング28の内周テーパ面28cとの隙間によって上限が定められる。従って、前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の引き摺り抵抗の低減やシフト時の速やかな摺接による同期回転等を考慮して予め実験等により外周テーパ面16aと内周テーパ面28cとの隙間の範囲内で上記長さHが設定されればよい。
図7はスリーブ22が中立位置から伝達位置へ移動させられる途中となるシフト時の場合のキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置関係を示す図であって、図5に相当する図である。図7(a)は図4の軸心方向の右側から見たキー24の正面図であり、図7(b)は図4の円周方向の手前側から見たキー24の側面図であり、図7(c)は図4の径方向の下側から見たキー24の底面図である。
シフト時にはスリーブ22の凸部22bによりキー24が内周側に押し込まれる。すると、図6に示すようなインナシンクロナイザリング28が第1係合面24cに当接させられている位置から、図7に示すようにキー24の第2係合面24dがインナシンクロナイザリング28と当接するようにキー24がインナシンクロナイザリング28の係合凹部28bに入り込むことになる。このとき、インナシンクロナイザリング28はテーパ面24bに沿って図6の矢印とは逆方向に移動させられてキー24とインナシンクロナイザリング28との軸方向の相対位置が図5に示すような軸方向の相対位置に戻される。
言い換えれば、シフト時には、係合凹部28bに第2係合面24dが当接するようにスリーブ22によりキー24が内周側に押し込まれるので、キー24の「引き離し機能」が解消される。このようにしてキー24とインナシンクロナイザリング28との相対位置がスリーブ22と変速歯車16とが同期回転する前に図6の状態から図7の状態へと変化させられる。この結果、アウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28とは、図7に示す第2係合面24dの長さRの範囲ではテーパ部24aにおいて許容される所定角度の相対回転が無くなってスリーブ22と変速歯車16とが同期回転する前に相対回転不能にキーを介して一体に連結されることになる。本明細書ではこれをキー24の「連結機能」と称する。
このようにアウタシンクロナイザリング26とインナシンクロナイザリング28とが一体に連結されて一体回転可能となることで、スリーブが中立位置から伝達位置へ移動させられる途中となるシフト時には、ミドルリングおよび変速歯車の外周テーパ面とのそれぞれの摺接面における摩擦力が一体に連結されない場合に比較して増大する。
また、図7に示すようにキー24において第2係合面24dの長さRの範囲が確保される必要があるので、テーパ部24aの底面から外周側への長さはインナシンクロナイザリング28の係合凹部28bの厚みよりも短くされる必要がある。さらに、キー24がインナシンクロナイザリング28の係合凹部28bに入り込み易いように、第1係合面24cの外周側に隣接して第2係合面24dに連続するようにテーパ面24eを備えている。
また、スリーブ22が中立位置から伝達位置への移動が開始されるシフト開始時には、キー24がスリーブ22により内周側に押し込まれ始める際に変速歯車16側に押されることで、アウタシンクロナイザリング26がミドルリング30に押圧され、アウタシンクロナイザリング26とミドルリング30との相対回転で発生する摩擦力によりスリーブ22とアウタシンクロナイザリング26とが相対回転させられる。そして、スリーブ22とアウタシンクロナイザリング26とはキー24により周方向に所定角度Aで相対回転させられた状態でそれ以上の相対回転が阻止されるように位置決めされる。これにより、アウタシンクロナイザリング26とミドルリング30とが相対回転している間すなわちスリーブ22と変速歯車16とが同期回転するまでの間は、スリーブ22の内周歯22aとアウタシンクロナイザリング26の外周係合歯26bとの係合によりスリーブ22の軸方向移動が阻止される。本明細書ではこれをキー24の「インデックス機能」と称する。
そして、キー24を介して一体となった前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の摩擦力と、変速歯車16の外周テーパ面16aによるインナシンクロナイザリング28の内周テーパ面28cへの押圧力すなわち前記一対のシンクロナイザリングと変速歯車16との間の摩擦力とで前記一対のシンクロナイザリングと変速歯車16とが同期回転させられたとき、すなわちスリーブ22と変速歯車16とが同期回転させられたときスリーブ22の軸方向移動を阻止するスリーブ22の内周歯22aとアウタシンクロナイザリング26の外周係合歯26bとの係合作用がなくなり内周歯22aが外周係合歯26bの間を抜けてスリーブ22がさらに変速歯車16側へ移動させられ、内周歯22aとギヤピース32の噛合歯32aとが噛み合わせられて所定の変速段で動力伝達可能な状態が構成される。
なお、図1、図2、および図4における前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の摺接面およびインナシンクロナイザリング28の内周テーパ面28cと変速歯車16の外周テーパ面16aとの間の摺接面のそれぞれの隙間は、その隙間がわかりやすいように図示したものであって実際の隙間は略接触している程極めて小さいものである。特に、図4においては同期後の状態であり当然接触している。
上述のように、本実施例によれば、スリーブ22が中立位置での車両走行時には、キー24の「引き離し機能」によりスリーブ22が中立位置での車両走行時で発生する前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の引き摺り抵抗が低減されて、変速機の動力伝達効率の低下が抑制され燃費の悪化が抑制される。
また、本実施例によれば、スリーブ22が中立位置から伝達位置へ移動させられる途中となるシフト時には、キー24の「連結機能」により前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間の2つの摺接面が速やかに摺接させられる。そして、前記一対のシンクロナイザリングとミドルリング30との間で発生する摩擦力が非連結と比較して大きくされると共に、インナシンクロナイザリング28の内周テーパ面28cと変速歯車16の外周テーパ面16aとの間の摺接面で発生する摩擦力がキー24を介してアウタシンクロナイザリング26に適切に伝達されるので、前記一対のシンクロナイザリングと変速歯車16との同期回転のための摩擦力が非連結と比較して増大する。
また、本実施例によれば、キー24に「引き離し機能」、「連結機能」、および「インデックス機能」の複数の機能が兼ね備えられているので、部品点数が少なくなる利点がある。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、運転者のシフトレバー操作に連動して機械的に左右方向へ移動させられるシフトフォークによってスリーブ22が軸方向へ移動させられる形式の変速機のクラッチであったが、油圧アクチュエータなどの駆動手段によってスリーブ22を軸方向へ移動させることにより変速段を自動で切り換える形式の変速機のクラッチ、車両用変速機以外のクラッチ、或いは変速機以外のクラッチにも適用され得る。また、前述の実施例の変速機10は入力軸を省略して、カウンタシャフトに直接エンジン出力が入力されるようになっていても良いなど、変速機10自体の構成は種々の態様が可能である。また、クラッチ12は、回転軸14側に配設することが望ましいが、カウンタシャフト側に配設することも可能である。
また、前述の実施例では、キー24は段付のストッパ24fにより外周側へ抜けることが防止されたが、この段付のストッパ24fに替えてキー24の外周端がスリーブ22に内接させられて外周側へ抜けることが防止されてもよい。
また、前述の実施例では、クラッチハブ20の中心線Aに対して軸方向の両側にクラッチ(シンクロ機構)および変速歯車が配設されていたが、いずれか一方のみが配設される構成であっても本発明は適用され得る。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:変速機
12:クラッチ
14:回転軸
16、18:変速歯車
16a:外周テーパ面
20:クラッチハブ
20a:外周歯
22:スリーブ
22a:内周歯
22b:凸部
24:キー
24b:テーパ面
24c:第1係合面
24d:第2係合面
26:アウタシンクロナイザリング
26a:内周テーパ面
26b:外周係合歯
26c:嵌合孔部
28:インナシンクロナイザリング
28a:外周テーパ面
28b:係合凹部
28c:内周テーパ面
30:ミドルリング
30b:内周テーパ面
30c:外周テーパ面
12:クラッチ
14:回転軸
16、18:変速歯車
16a:外周テーパ面
20:クラッチハブ
20a:外周歯
22:スリーブ
22a:内周歯
22b:凸部
24:キー
24b:テーパ面
24c:第1係合面
24d:第2係合面
26:アウタシンクロナイザリング
26a:内周テーパ面
26b:外周係合歯
26c:嵌合孔部
28:インナシンクロナイザリング
28a:外周テーパ面
28b:係合凹部
28c:内周テーパ面
30:ミドルリング
30b:内周テーパ面
30c:外周テーパ面
Claims (3)
- 外周歯を有し、回転軸に相対回転不能に配設されたクラッチハブと、
該クラッチハブの外周歯と噛み合う内周歯と、幅方向の中央部において内周側に突き出す凸部とを有し、該クラッチハブの外周に相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に嵌合されるとともに、軸方向へ移動させられることにより動力伝達を行う伝達位置および動力伝達を遮断する中立位置に位置決めされるスリーブと、
前記クラッチハブに隣接して、前記回転軸に対して相対回転可能に配設されるとともに、前記スリーブの内周歯と噛み合うための噛合歯と、該クラッチハブに向かうほど小径となる外周テーパ面とを備えた変速歯車と、
前記クラッチハブと該変速歯車との間において、その変速歯車とともに回転し且つ軸心方向の移動が許容される状態で配設されるとともに、該クラッチハブに向かうほど小径となる内周テーパ面および外周テーパ面を備えたミドルリングと、
径方向に長手状を成し且つ外周側へ付勢されたキーと、該キーを径方向のみ相対移動可能に受け入れる嵌合孔部と、該ミドルリングの外周テーパ面に摺接させられる内周テーパ面と、前記スリーブと前記変速歯車とが相対回転する間は前記スリーブの内周歯と係合して該スリーブの軸方向移動を阻止するための外周係合歯とを備え、前記クラッチハブに所定量以上の相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に配設されたアウタシンクロナイザリングと、
前記ミドルリングの内周側に配設されるとともに、前記キーを受け入れる係合凹部と、前記ミドルリングの内周テーパ面と摺接するための外周テーパ面と、前記変速歯車の外周テーパ面と摺接するための内周テーパ面とを備えて、前記アウタシンクロナイザリングとで該キーを介して一対のシンクロナイザリングが構成されるインナシンクロナイザリングと
を有し、前記クラッチハブスリーブが前記中立位置から伝達位置へ移動させられることにともなって前記アウタシンクロナイザリングが変速歯車側へ移動させられると共に前記キーが前記スリーブの凸部によって押し下げられ、前記一対のシンクロナイザリングと前記ミドルリングとの間の摩擦力および該シンクロナイザリングと前記変速歯車との間の摩擦力で該シンクロナイザリングと該変速歯車とが同期回転させられたとき、前記スリーブの内周歯と前記変速歯車の噛合歯とが噛み合わせられる変速機用クラッチの同期装置であって、
前記キーの側面であって、前記スリーブが前記中立位置とされて外周側へ位置させられている場合に前記インナシンクロナイザリングが接触する部位に設けられ、該インナシンクロナイザリングからの回転トルクが作用すると該インナシンクロナイザリングを前記変速歯車側へ向かう推力を発生させるテーパ面を含むことを特徴とする変速機用クラッチの同期装置。 - 前記キーは、その厚み方向において、前記クラッチハブ側に前記テーパ面を備えるとともに、該テーパ面の前記インナシンクロナイザリング側に隣接して平坦な第1係合面を備えるものである請求項1の変速機用クラッチの同期装置。
- 前記キーは、その側面であって前記テーパ面が設けられた部位の外周側に隣接する部位には、前記第1係合面よりも大きい間隔の第2係合面を備えるものである請求項1または2の変速機用クラッチの同期装置。
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ID=35497415
Family Applications (1)
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JP2004165805A Pending JP2005344849A (ja) | 2004-06-03 | 2004-06-03 | 変速機用クラッチの同期装置 |
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Cited By (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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-
2004
- 2004-06-03 JP JP2004165805A patent/JP2005344849A/ja active Pending
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US9777800B2 (en) | 2006-09-15 | 2017-10-03 | OERLIKON FRICTION SYSTEMS (GERMANY) GmbH | Synchronizer ring |
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