JP2005264264A - 溶鋼の真空精錬方法及び装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 真空脱ガス等の精錬能を犠牲にすることなく、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽の槽底の耐火物の損傷を防止し、スラグの吸い上げを抑制し、さらには浸漬管の開口部が大きいことに起因する熱スポール割れを抑制することによって、耐火物の寿命を向上しながら、工業的規模で溶鋼を真空精錬する。
【解決手段】 真空槽12の下部に連通して設けられる一本の浸漬管13を、浸漬管13の下方に配置された取鍋15に収容された溶鋼16に浸漬し、攪拌ガスGを浸漬管13の内部の溶鋼16に吹き込んで浸漬管13の内部を上昇及び下降する循環流を生じさせることにより溶鋼16の真空精錬を行う。この際に、浸漬管13の少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管13を用いて、溶鋼16の真空精錬を行う。
【選択図】 図1
【解決手段】 真空槽12の下部に連通して設けられる一本の浸漬管13を、浸漬管13の下方に配置された取鍋15に収容された溶鋼16に浸漬し、攪拌ガスGを浸漬管13の内部の溶鋼16に吹き込んで浸漬管13の内部を上昇及び下降する循環流を生じさせることにより溶鋼16の真空精錬を行う。この際に、浸漬管13の少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管13を用いて、溶鋼16の真空精錬を行う。
【選択図】 図1
Description
本発明は、溶鋼の真空精錬方法及び真空精錬装置に関し、例えば、真空雰囲気と接する溶鋼の表面に酸化性ガスを吹き付けながら行う溶鋼の真空精錬方法及び真空精錬装置に関する。
溶鋼の真空精錬方法として、例えばVOD法のように取鍋に収容された溶鋼の全体を真空雰囲気下に置いて脱ガス等を行う方法や、RH脱ガス法やDH脱ガス法等のように真空槽の下部に設けた浸漬管を取鍋に収容された溶鋼に浸漬し、真空槽の内部を真空雰囲気として真空精錬を行う方法等が知られている。
ここで、VOD法では、フリーボードを大きく確保できないために溶鋼横溢を生じる危険があることから溶鋼の撹拌力を増加させることが難しく、真空精錬能力に限界がある。また、DH脱ガス法では1本の浸漬管を溶鋼に浸漬した状態で取鍋又は浸漬管を下部に装着された真空槽のいずれかを機械的に高速で繰り返し昇降させる必要があるため、設備費が著しく嵩む。
これに対し、図10にその原理を模式的に示すRH脱ガス法では、同図に示すように、2本の浸漬管である上昇管1及び下降管2を下部に有する真空槽3を取鍋4に収容された溶鋼5に浸漬し、上昇管1から環流用ガスGを吹き込むことによって、溶鋼5を上昇管1を介して真空槽3の内部へ供給した後に下降管2から取鍋4へ戻すことにより、取鍋4及び真空槽3間で溶鋼の循環流を形成する。このように、このRH脱ガス法では、環流用ガスGの吹き込みにより溶鋼5の循環流を形成でき、上述したDH脱ガス法のように取鍋4又は真空槽3を機械的に高速で繰り返し昇降させる必要がないため、設備費の上昇を抑制でき、現在は広く利用されている。
図11は、このRH脱ガス法において、さらに、真空槽3の内部に存在する溶鋼5の表面に酸化性ガスを吹き付ける状況を模式的に示す説明図である。同図に示すように、RH脱ガス法では、真空槽3における真空脱炭反応(C+O=CO)の酸素源として、又は溶鋼5中のAlと酸素との反応熱により溶鋼5を加熱する場合の酸素源として、真空槽3の内部の溶鋼5の表面に真空槽3の内部に配置された上吹きランス6から酸素ガスO2 を代表とする酸化性ガスを吹き付けることも広く行われている。
一般的に、RH脱ガス法やDH脱ガス法等の真空脱ガス法を行う際に、真空環境下での脱ガス反応速度を確保するためには反応界面積を増大する必要があり、反応界面積を増大するためには真空槽3の内部における浴表面積を充分確保する必要がある。ここで、浴表面積を充分確保するために最も有利なのは、浴面の水平断面形状を円形とすることである。また、真空槽3の下部に設ける浸漬管の形状は真空槽3と同径の円形とすることが、設備構造的な観点から最も有利である。そこで、真空脱ガス法を行う真空脱ガス装置では、水平断面形状が円形である浴面を有する円形の真空槽の下部に、この真空槽と同径の円形の浸漬管を装着している。
一方、このような従来から広く知られているDH脱ガス法やRH脱ガス法の脱ガス能力を高めて真空精錬を行うための発明がこれまでにも多数提案されている。
例えば、特許文献1には、取鍋に収容された溶鋼に大きな内径を有するシュノーケルを浸漬し、このシュノーケルの内部を減圧排気して溶鋼を内部に吸い上げながら、このシュノーケルの内部の下端部の内周面の全域からアルゴンガスを吹き込むことにより脱ガスを行う発明が開示されている。この発明では、溶鋼は、シュノーケルの内周壁面に添って上昇するアルゴンガスバブリングによってシュノーケルの内周壁面に沿う上昇流を形成し、この上昇量に見合う下降量でシュノーケルの中央部で下降流を形成するため、シュノーケルの内部に溶鋼の循環流が形成され、真空脱ガスが行われる。
例えば、特許文献1には、取鍋に収容された溶鋼に大きな内径を有するシュノーケルを浸漬し、このシュノーケルの内部を減圧排気して溶鋼を内部に吸い上げながら、このシュノーケルの内部の下端部の内周面の全域からアルゴンガスを吹き込むことにより脱ガスを行う発明が開示されている。この発明では、溶鋼は、シュノーケルの内周壁面に添って上昇するアルゴンガスバブリングによってシュノーケルの内周壁面に沿う上昇流を形成し、この上昇量に見合う下降量でシュノーケルの中央部で下降流を形成するため、シュノーケルの内部に溶鋼の循環流が形成され、真空脱ガスが行われる。
また、特許文献2には、減圧槽の主体部を形成する下向きに開口した筒体の内部の減圧時、吸い上げる溶融金属の量をできるだけ多くしておき、筒体の内部に吸い上げられた溶融金属に対して、羽口側の溶融金属には上昇流を与えるとともに対面側の溶融金属には下降流を与え、処理する溶融金属の全体を撹拌混合させるように偏って設置させた1以上の羽口から、撹拌兼精錬用ガスを溶融金属に吹き込むことにより、溶融金属を減圧精錬する発明が開示されている。
また、特許文献3には、上部に減圧排気口を設けた円筒容器の下部を溶鋼に浸漬し、円筒容器の内部を減圧することにより溶鋼を円筒容器の内部に吸上げながら、円筒容器の下端付近の内面側から溶鋼へ不活性ガスを吹込み、円筒容器の内部で溶鋼を上昇及び下降させる循環流を形成することにより真空脱ガスを行う発明が開示されている。
一方、真空槽を用いて真空雰囲気にある溶鋼の表面に酸化性ガスを吹き付ける発明として、以下に説明する発明も知られている。
特許文献4には、特許文献4に記載された発明を模式的に示す図12に示すように、円形の水平断面形状を有する真空槽7の内部の浴深さ及びRH溶鋼環流速度を規定して真空槽7の内部の溶鋼8の表面に取鍋9の炉底に設けられた羽口10から酸素ガスを吹き付けて真空脱炭を行う発明が開示されている。この発明によれば、真空槽7の内部の浴深さを0.4m以上と大きく設定することにより、吹き付けた酸素ガスが真空槽7の槽底を構成する耐火物を損傷することを防止できるとしている。
特許文献4には、特許文献4に記載された発明を模式的に示す図12に示すように、円形の水平断面形状を有する真空槽7の内部の浴深さ及びRH溶鋼環流速度を規定して真空槽7の内部の溶鋼8の表面に取鍋9の炉底に設けられた羽口10から酸素ガスを吹き付けて真空脱炭を行う発明が開示されている。この発明によれば、真空槽7の内部の浴深さを0.4m以上と大きく設定することにより、吹き付けた酸素ガスが真空槽7の槽底を構成する耐火物を損傷することを防止できるとしている。
さらに、特許文献5には、特許文献5に記載された発明を模式的に示す図13に示すように、取鍋9の内径の0.4〜0.8倍の内径を有する1本の浸漬管7を取鍋9に収容された溶鋼8に浸漬し、取鍋9の内部の溶鋼8に、下部(底を含む)から攪拌ガスを吹き込むとともに上吹きランス6から酸化性ガスを吹き付ける発明が開示されている。
しかしながら、上述した特許文献1〜3により開示された発明には、以下に列記する共通の課題がある。
第1の課題として、特許文献1〜3により開示された発明では、脱ガス処理に際して取鍋に収容された溶鋼の上部に存在するスラグを大量に浸漬管から吸い上げてしまい、吸い上げられたスラグによって浸漬管を構成する耐火物が早期に損傷する。
第1の課題として、特許文献1〜3により開示された発明では、脱ガス処理に際して取鍋に収容された溶鋼の上部に存在するスラグを大量に浸漬管から吸い上げてしまい、吸い上げられたスラグによって浸漬管を構成する耐火物が早期に損傷する。
すなわち、特許文献1〜3により開示された発明は、いずれも、円形の真空槽の下部に同径の円形の浸漬管を装着するため、浸漬管の下端部の水平断面積は必然的に真空槽と同程度に大きくなり、取鍋に収容された溶鋼の上部に存在するスラグを大量かつ不可避的に浸漬管の内部に吸い込んでしまう。このようにして、真空槽の内部に大量のスラグを吸い込んでしまうと、吸い込まれたスラグが浸漬管や真空槽の内壁の耐火物と接触して耐火物と反応することにより低融点化した化合物を形成するため、耐火物を溶損させたり、耐火物の表面に浸潤して耐火物の表層の特性を変化させ、耐火物の損耗速度を速めてしまう。したがって、耐火物の寿命が低下し、耐火物の補修コストが嵩むとともに、耐火物の補修サイクルが短縮するために真空脱ガス装置の実稼動時間率が低下して生産性が低下する。
第2の課題として、浸漬管の下端部の開口部が大きいため、脱ガス処理を終了した後の浸漬管の内壁を構成する耐火物の温度は急激に低下し易い。したがって、次ヒートでの吸い上げの際に高温の溶鋼に接触すると、耐火物に加えられる熱履歴(温度差)が大きくなって温度変化や温度勾配が大きく発生する。このため、温度変化に伴なう耐火物の膨張及び収縮が大きくなることに起因して、耐火物に亀裂が発生し、亀裂の進展によりスポール割れや剥離を引き起こし易くなるため、耐火物の寿命が低下する。したがって、耐火物の補修コストが嵩むとともに耐火物の補修サイクルが短縮するため、真空脱ガス装置の実稼動時間率が低下して生産性が低下する。
このように、特許文献1〜3により開示された発明によっては、耐火物の寿命が低下し、耐火物の補修コストが嵩むとともに、耐火物の補修サイクルが短縮するために真空脱ガス装置の実稼動時間率が低下して生産性も低下する。
一方、真空槽7の内部に収容された溶鋼8の表面に酸化性ガスを吹き付ける特許文献4又は特許文献5により開示された発明には、以下に説明する課題がある。
特許文献4により開示された発明では、特許文献4には真空槽7の浴深はいくらでも大きく取れるとも解される記載があるが、実際には真空槽7の槽底の煉瓦厚みや溶鋼8に浸漬される部分のフランジ厚み等を勘案すると、真空槽7の内部に収容された溶鋼8に酸素を吹き付ける場合の浴深さを0.4m以上確保すること自体、一般的には容易ではなく、特許文献4において望ましいとされる0.5mを確保することは設備コスト等を勘案すると現実には実現できない。このように、特許文献4により開示された発明は実際に行うことが難しいため、酸素を強く吹き付けた場合に発生する、真空槽7の槽底を構成する耐火物の損傷を解決することは事実上不可能である。
特許文献4により開示された発明では、特許文献4には真空槽7の浴深はいくらでも大きく取れるとも解される記載があるが、実際には真空槽7の槽底の煉瓦厚みや溶鋼8に浸漬される部分のフランジ厚み等を勘案すると、真空槽7の内部に収容された溶鋼8に酸素を吹き付ける場合の浴深さを0.4m以上確保すること自体、一般的には容易ではなく、特許文献4において望ましいとされる0.5mを確保することは設備コスト等を勘案すると現実には実現できない。このように、特許文献4により開示された発明は実際に行うことが難しいため、酸素を強く吹き付けた場合に発生する、真空槽7の槽底を構成する耐火物の損傷を解決することは事実上不可能である。
さらに、特許文献5により開示された発明では、真空槽7に槽底が存在しないために酸素を強く吹き付けても真空槽7の槽底を構成する耐火物の損傷は生じない。しかし、浸漬管7の径を取鍋9の径の0.4倍以上と大きく確保するため、取鍋9に収容された溶鋼8の上部に存在するスラグを大量に浸漬管7の内部へ吸い上げてしまうこととなり、上述したように吸い上げられたスラグによって浸漬管7を構成する耐火物が損傷し、やはり、耐火物の寿命が低下する。
このように、特許文献1〜5により開示されたいずれの発明によっても、真空脱ガス等の精錬能を犠牲にすることなく、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽の槽底の耐火物の損傷を防止し、スラグの吸い上げを抑制し、さらには浸漬管の開口部が大きいことに起因する熱スポール割れを抑制することによって、耐火物の寿命を向上しながら、工業的規模で溶鋼を真空精錬することは不可能であった。
本発明の目的は、真空脱ガス等の精錬能を犠牲にすることなく、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽の槽底の耐火物の損傷を防止し、スラグの吸い上げを抑制し、さらには浸漬管の開口部が大きいことに起因する熱スポール割れを抑制することによって、耐火物の寿命を向上しながら、工業的規模で溶鋼を真空精錬することができる溶鋼の真空精錬方法及び装置を提供することである。
はじめに、本発明者らは、水平断面形状が円形の真空槽の下部に、水平断面形状が円形であって同径の浸漬管を装着して溶鋼の脱ガス処理を行うと、真空槽の内部に大量のスラグが吸い込まれることに起因して耐火物の寿命が低下することを防止するために、まず、浸漬管を取鍋に収容された溶鋼に浸漬する前に、取鍋の底部に設けた羽口から攪拌ガスを溶鋼に吹き込むことによって攪拌ガスが形成する上昇流によって羽口の直上部に位置する浴面の溶鋼を盛り上がらせてスラグが介在しない溶鋼の裸面を出現させ、出現した溶鋼の裸面に浸漬管を浸漬することによりスラグの吸い込みを抑制できるのではと考えた。
しかし、通常の250トン超クラスの溶鋼を処理する場合に用いられる真空槽の内径、すなわち浸漬管の内径は約2m程度であり、取鍋の底部に設けた羽口から吹き込まれる攪拌ガスによって直径が約2mもの大きさの溶鋼の裸面を形成することは難しい。また、この方法では、溶鋼の裸面を形成するために行うガス攪拌によってスラグが溶鋼に懸濁してしまうため、仮に所望の大きさの溶鋼の裸面を形成することができたとしても、懸濁したスラグが溶鋼とともに真空槽の内部に吸い上げられるおそれが高い。
このように、水平断面形状が円形の真空槽の下部に同径の水平断面形状が円形の浸漬管を装着して溶鋼の脱ガス処理を行うことを前提としたのでは、スラグの吸い込みを抑制することは事実上困難である。
次に、本発明者らは、真空槽へのスラグの吸い込み、及び浸漬管の内壁を構成する耐火物の温度変化による剥離をいずれも抑制するには、浸漬管の下端部の内側の水平断面積を小さくすることが有効ではないかと考え、円形の真空槽の下部に同じく円形であるものの真空槽よりも小径の浸漬管を設置することを検討した。この手段は、浸漬管の下端部の耐火物の内側の水平断面積が小さくなることから、浸漬管の径を小さくすればするほど、溶鋼に浸漬された浸漬管から吸い上げられるスラグの吸い込み量を低減することができ、浸漬管の内壁を構成する耐火物の剥離を確実に抑制できる。
しかし、この手段は、水平断面形状が円形の浸漬管の内径を小さくするものであるため、浸漬管の内部を流れる上昇流及び下降流の存在領域を必然的に狭めることとなる。このため、浸漬管の内部における溶鋼の上昇流及び下降流が互いに干渉するようになり、下降流の一部は取鍋には到達せずに上昇流に直接随伴して真空槽に導かれてしまう。このため、取鍋の内部における下降流の勢いが低下し、取鍋及び真空槽間の溶鋼の循環が不充分なものとなる。このため、脱ガス速度が悪化して溶鋼の成分調整が困難となる。特に、浸漬管の径Dと取鍋の径Do との比D/Do が0.5未満になるとこの傾向が顕著になる。
このように、円形の真空槽の下部にこの真空槽よりも小径の浸漬管を設置して真空脱ガス処理を行うことは、スラグ吸い上げ抑制による耐火物の寿命確保の点では確かに優れるものの、精錬性能の劣化は否めないため、実際の操業に適用することはできない。
そこで、本発明者らは、真空槽及び浸漬管についてのこれまでの技術常識を前提とするのではなく、この技術常識を抜本的に覆した新規な技術思想を創作する必要性を痛感し、さらに鋭意検討を重ねた。
その結果、後述する図1に示すように、円形の水平断面形状を有する真空槽の下部に、一本の浸漬管の少なくとも下端開口部の内面がこの下端開口部において循環流が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管を真空槽に連通させて一つ配置して、浸漬管の内部を流れる上昇流及び下降流の存在領域を狭めないようにしながら溶鋼の真空精錬を行えば、精錬性能を低下させずに、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽の槽底の耐火物の損傷を防止でき、スラグの真空槽への吸い上げを抑制でき、さらに浸漬管の開口部が大きいことに起因する熱スポール割れを抑制でき、耐火物の寿命を向上しながら工業的な規模で溶鋼を真空精錬できるという、新規かつ重要な技術思想を創作でき、本発明を完成した。
本発明は、水平断面形状が円形である真空槽の下部に連通して設けられる一本の浸漬管を、この一本の浸漬管の下方に配置された取鍋に収容された溶鋼に浸漬し、攪拌ガスをこの一本の浸漬管の内部の溶鋼に吹き込んでこの一本の浸漬管の内部を上昇及び下降する循環流を生じさせることにより溶鋼の真空精錬を行う際に、一本の浸漬管の少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有することを特徴とする溶鋼の真空精錬方法である。
この本発明に係る溶鋼の真空精錬方法では、非円形の水平断面形状が、円形を一の方向へ偏平させた長円形状であることが望ましい。この場合に、長円形状が、一の方向へ向けた長径を形成する長径部と、この長径よりも短いとともに一の方向と交差する少なくとも一の方向へ向けた少なくとも一つの短径を形成する短径部とを有する形状であることが、望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬方法では、攪拌ガスの流量が処理溶鋼1トン当たり3NL/min以上15NL/min以下であることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬方法では、真空槽の内部に昇降可能に配置されるランスの下端とこの真空槽の内部に存在する溶鋼の表面との間の鉛直方向の距離Hと、浸漬管の短径の長さSとの比(H/S)が2以上8以下となるようにこのランスを昇降させながら、このランスから酸化性ガスを真空槽に収容された溶鋼に吹付けることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬方法では、真空槽の内部に昇降可能に配置されるランスの下端とこの真空槽の内部に存在する溶鋼の表面との間の鉛直方向の距離Hと、浸漬管の短径の長さSとの比(H/S)が2以上8以下となるようにこのランスを昇降させながら、このランスから酸化性ガスを真空槽に収容された溶鋼に吹付けることが望ましい。
さらに、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬方法では、真空槽の内部に昇降可能に配置されるランスの下端とこの真空槽の内部に存在する溶鋼の表面との間の鉛直方向の距離Hと、真空槽の内径の長さVとの比(H/V)が3以下となるようにこのランスを昇降させながら、このランスから酸化性ガスを真空槽に収容された溶鋼に吹付けることが望ましい。
別の観点からは、本発明は、上昇及び下降を繰り返す溶鋼の循環流を内部に発生する一本の浸漬管と、この一本の浸漬管の上部に連通して配置されて循環流に脱ガス処理を行う真空槽と、攪拌ガスをこの一本の浸漬管の内部の溶鋼に吹き込むことにより循環流を生じさせる攪拌ガス導入装置とを備える溶鋼の真空精錬装置であって、一本の浸漬管の少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有することを特徴とする溶鋼の真空精錬装置である。
この本発明に係る溶鋼の真空精錬装置では、非円形の水平断面形状が、円形を一の方向へ偏平させた長円形状であることが望ましい。この場合に、長円形状が、一の方向へ向けた長径を形成する長径部と、この長径よりも短いとともに一の方向と交差する少なくとも一の方向へ向けた少なくとも一つの短径を形成する短径部とを有する形状であることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置では、長径の長さLと短径の長さSとの比(L/S)が1.5以上であることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置では、水平断面において、浸漬管の下端開口部の外縁形状が、真空槽の外縁形状に包囲されることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置では、水平断面において、浸漬管の下端開口部の外縁形状が、真空槽の外縁形状に包囲されることが望ましい。
また、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置では、攪拌ガス導入装置が長径部に設けられることが望ましい。
さらに、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置は、真空槽の内部に昇降可能に配置されて、酸化性ガスを該真空槽の内部に存在する溶鋼に吹付けるためのランスを備えることが望ましい。
さらに、これらの本発明に係る溶鋼の真空精錬装置は、真空槽の内部に昇降可能に配置されて、酸化性ガスを該真空槽の内部に存在する溶鋼に吹付けるためのランスを備えることが望ましい。
本発明に係る溶鋼の真空精錬方法及び装置によれば、(i)取鍋に収容された溶鋼の上部に存在するスラグを大量に浸漬管から吸い上げることを防止できるために吸い上げられたスラグによって浸漬管を構成する耐火物が早期に損傷することを防止でき、(ii)脱ガス処理を終了した後において浸漬管の内壁を構成する耐火物に発生する亀裂に起因したスポール割れや剥離を抑制でき、耐火物の寿命の低下を防止でき、さらに(iii)低廉な設備コストで確実に実施できる。
このように、本発明に係る溶鋼の真空精錬方法及び装置によれば、真空脱ガス等の精錬能を犠牲にすることなく、上吹きランスから酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽の槽底の耐火物の損傷を防止し、スラグの吸い上げを抑制し、さらには浸漬管の開口部が大きいことに起因する熱スポール割れを抑制することによって、耐火物の寿命を向上しながら、工業的規模で溶鋼を真空精錬することができる。
また、本発明によれば、真空槽に収容された溶鋼に酸化性ガスを導入することにより、耐火物損耗速度を悪化させずに酸化性ガスと溶鋼中の各元素との反応効率を向上することができる。
以下、本発明に係る溶鋼の真空精錬方法及び装置を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における溶鋼の真空精錬装置11の構造を、一部を透視して簡略化した状態で示す斜視図である。また、図2(a)は図1に示す真空精錬装置11の垂直断面図であり、図2(b)は図1におけるA−A断面図である。
図1は、本実施の形態における溶鋼の真空精錬装置11の構造を、一部を透視して簡略化した状態で示す斜視図である。また、図2(a)は図1に示す真空精錬装置11の垂直断面図であり、図2(b)は図1におけるA−A断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施の形態の真空精錬装置11は、真空槽12と、浸漬管13と、攪拌ガス導入装置14と、ランス17とを備える。そこで、この真空精錬装置11の構成要素である真空槽12、浸漬管13、攪拌ガス導入装置14及びランス17を、以下に順次説明する。
[真空槽12、ランス17]
本実施の形態で用いる真空槽12は、円形の水平断面形状を有する筒状体であって、内壁に耐火煉瓦が装着されている。この真空槽12の内径はVである。
本実施の形態で用いる真空槽12は、円形の水平断面形状を有する筒状体であって、内壁に耐火煉瓦が装着されている。この真空槽12の内径はVである。
本実施の形態では、この真空槽12自体は慣用されるものを用いればよく、このような真空槽は当業者にとっては周知であることから、真空槽12に関する説明は省略する。
また、真空槽12の上面12aの中央部にはシール装置18が装着されており、このシール装置18を介してランス17が設けられている。ランス17は、図示しない昇降機構により真空槽12に対して昇降自在に設けられている。本実施の形態では、ランス17は、酸化性ガスを真空槽12の内部に存在する溶鋼に吹付けるために配置されており、これにより、後述する脱炭処理及び加熱処理の効率を高めるものである。
また、真空槽12の上面12aの中央部にはシール装置18が装着されており、このシール装置18を介してランス17が設けられている。ランス17は、図示しない昇降機構により真空槽12に対して昇降自在に設けられている。本実施の形態では、ランス17は、酸化性ガスを真空槽12の内部に存在する溶鋼に吹付けるために配置されており、これにより、後述する脱炭処理及び加熱処理の効率を高めるものである。
ランス17自体は慣用されるものを用いればよく、このようなランスは当業者にとっては周知であることから、ランス17に関する説明は省略する。
本実施の形態の真空槽12及びランス17は、以上のように構成される。
本実施の形態の真空槽12及びランス17は、以上のように構成される。
[浸漬管13]
この真空槽12の下端の槽底には浸漬管13が一つ装着されている。本実施の形態では、浸漬管13は、真空槽12の水平断面形状である円形(図1においては二点鎖線で示す)を、少なくとも一の偏平方向(図示例では両矢印で指示する方向)へ偏平させて得られる長円形状の水平断面形状を有しており、真空槽12に連通して配置される。
この真空槽12の下端の槽底には浸漬管13が一つ装着されている。本実施の形態では、浸漬管13は、真空槽12の水平断面形状である円形(図1においては二点鎖線で示す)を、少なくとも一の偏平方向(図示例では両矢印で指示する方向)へ偏平させて得られる長円形状の水平断面形状を有しており、真空槽12に連通して配置される。
図1における拡大図に示すように、本実施の形態では、この真空精錬装置11の浸漬管13は、水平断面において、偏平方向へ向けた長さがLの長径を形成する一対の半円状の長径部13a、13aと、この長径の長さLよりも短いとともに偏平方向と交差する少なくとも一の方向(図示例では偏平方向と90°交差する一の方向)へ向けた長さがSの短径を形成する直線状の短径部13b、13bとを有する。
また、本実施の形態では、上述した長径の長さLと短径の長さSとの比(L/S)は1.5以上であることが望ましい。以下、この理由を説明する。
本発明者らは、水モデルを用いて、浸漬管13の長径の長さLが真空槽12の内径Vを超えない範囲で、長径の長さLと短径の長さSとの比(L/S)を種々変更して、脱ガス速度を測定した。この際、水平断面形状が円形である浸漬管(比(L/S)=1)での脱ガス速度を1.0とし、その相対値を用いて脱ガス速度指数として求めた。比(L/S)=1の場合における浸漬管の内径Dと取鍋の内径Do との比は0.45とした。得られた脱ガス速度指数を図4にグラフで示す。
本発明者らは、水モデルを用いて、浸漬管13の長径の長さLが真空槽12の内径Vを超えない範囲で、長径の長さLと短径の長さSとの比(L/S)を種々変更して、脱ガス速度を測定した。この際、水平断面形状が円形である浸漬管(比(L/S)=1)での脱ガス速度を1.0とし、その相対値を用いて脱ガス速度指数として求めた。比(L/S)=1の場合における浸漬管の内径Dと取鍋の内径Do との比は0.45とした。得られた脱ガス速度指数を図4にグラフで示す。
図4にグラフで示すように、比(L/S)が1.5未満では、浸漬管13の長径の長さLが短過ぎるため、浸漬管13の内部における溶鋼16の上昇流及び下降流からなる循環流20(図1及び図2(a)において白抜き矢印で示す)が干渉し易くなり、下降流の勢いが低下して取鍋15の内部における溶鋼16の混合及び、取鍋15と真空槽12との間の溶鋼16の混合がいずれも不十分となって脱ガス速度が低下するため、後述するように真空槽12の内部に配置したランス17 から真空槽12の内部の溶鋼16に酸化性ガスを吹き込む場合にはAl反応効率も低下してしまう。
以上の理由により、本実施の形態では、長径の長さLと短径の長さSとの比(L/S)を1.5以上とした。
なお、比(L/S)が5.0を超えると、浸漬管13の内部における溶鋼16の上昇流及び下降流の分離は良好であるが、浸漬管13の短径の長さSが短過ぎるため、下降流の流域幅も小さくなり、取鍋15に収容された溶鋼16を十分に混合できなくなって脱ガス速度が低下するとともに、真空槽12の内部に配置したランス17から真空槽12の内部の溶鋼16に酸化性ガスを吹き込む場合にはAl反応効率も低下してしまう。
なお、比(L/S)が5.0を超えると、浸漬管13の内部における溶鋼16の上昇流及び下降流の分離は良好であるが、浸漬管13の短径の長さSが短過ぎるため、下降流の流域幅も小さくなり、取鍋15に収容された溶鋼16を十分に混合できなくなって脱ガス速度が低下するとともに、真空槽12の内部に配置したランス17から真空槽12の内部の溶鋼16に酸化性ガスを吹き込む場合にはAl反応効率も低下してしまう。
このような観点から、比(L/S)の好ましい範囲は1.85以上5.0以下であり、同様の観点から2.0以上4.5以下であることがより好ましい。
さらに、この真空精錬装置11では、図1における拡大図に示すように、水平断面における浸漬管13の外縁形状は、水平断面における真空槽12の外縁形状に包囲される。これにより、浸漬管13の下端開口部の水平断面積は真空槽12の下端開口部の水平断面積よりも小さく構成されているため、溶鋼16換言すればスラグを吸い込む浸漬管13の下端開口部の面積を、確実に小さくして、スラグの吸い上げ量を低減することができる。
さらに、この真空精錬装置11では、図1における拡大図に示すように、水平断面における浸漬管13の外縁形状は、水平断面における真空槽12の外縁形状に包囲される。これにより、浸漬管13の下端開口部の水平断面積は真空槽12の下端開口部の水平断面積よりも小さく構成されているため、溶鋼16換言すればスラグを吸い込む浸漬管13の下端開口部の面積を、確実に小さくして、スラグの吸い上げ量を低減することができる。
図1中の拡大図や図2(b)に明確に示すように、本実施の形態の浸漬管13の下端開口部の内面の形状は、公知の浸漬管における円形とは異なり、この下端開口部において溶鋼16の循環流20が存在する領域(図1の拡大図におけるハッチングをしていない部分)の外縁形状に略沿った長円形状、すなわち非円形の水平断面形状を有する。このため、本実施の形態の浸漬管13の内面は、その下端開口部の内面も含めて、循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する。
すなわち、本実施の形態の浸漬管13を概念的に説明すると、図1及びその拡大図において二点鎖線で示す公知の円形の水平断面形状を有する浸漬管から、内部における溶鋼16の循環流20には干渉しないデッドスペースD1 、D2 (図1及びその拡大図にハッチングして示した領域)を圧縮して、水平断面形状が長円形状を有する非円形の浸漬管13としたものである。
本実施の形態の浸漬管13の「長円形状」とは、円形を少なくとも一の方向へ偏平させた形状を意味しており、より具体的に説明すると、浸漬管13の内部における溶鋼16の循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿う内面形状を有することによりこの循環流20の形成を阻害しない形状を意味する。浸漬管13の内面の水平断面形状は、このような形状であればよく、そのような形状は無数に考えられるが、これらは、浸漬管13の内部における溶鋼16の循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿う内面形状を有することによりこの循環流20の形成を阻害しない形状である限り、全て本発明に包含されるものである。
図3(a)及び図3(b)は、いずれも、本実施の形態の浸漬管13の「非円形の水平内面形状」の一例を示す説明図である。本実施の形態の浸漬管13は、例えば図2(a)や図3(b)に示すような長方形を両側から二つの半円でそれぞれ挟み込んでなる長円形状や、図3(a)に示すような楕円形状、さらにはこれらを適宜組み合わせた形状等の水平断面形状を有することが例示される。これらの形状はあくまでも例示であり、これら以外の水平断面形状であっても構わないことはいうまでもない。
浸漬管13について上述した以外の構成は、この種の浸漬管として慣用されるものと同じでよく、当業者にとっては特段の説明を要さないと考えられることから、浸漬管13についてのこれ以上の説明は省略する。
本実施の形態の浸漬管13は、以上のように構成される。
[攪拌ガス導入装置14]
さらに、この真空精錬装置11では、浸漬管13の一方の長径部13aに攪拌ガス導入装置14が設けられる。この攪拌ガス導入装置14により攪拌ガス又は環流ガスGが浸漬管13の内部に吹き込まれて溶鋼16の循環流20が形成される。攪拌ガスGの吹き込み位置は本実施の形態のように浸漬管13に限定されるものではなく、溶鋼16の循環流20を形成することができる位置であればよく、特定の位置には限定されない。例えば、取鍋15に収容された溶鋼16の内部や取鍋15の底部から吹き込むようにしてもよい。
[攪拌ガス導入装置14]
さらに、この真空精錬装置11では、浸漬管13の一方の長径部13aに攪拌ガス導入装置14が設けられる。この攪拌ガス導入装置14により攪拌ガス又は環流ガスGが浸漬管13の内部に吹き込まれて溶鋼16の循環流20が形成される。攪拌ガスGの吹き込み位置は本実施の形態のように浸漬管13に限定されるものではなく、溶鋼16の循環流20を形成することができる位置であればよく、特定の位置には限定されない。例えば、取鍋15に収容された溶鋼16の内部や取鍋15の底部から吹き込むようにしてもよい。
ただし、攪拌ガスGを取鍋15の底部から吹き込むと、取鍋15の内部に収容された溶鋼16中で気泡となり、浮力により上昇する際に気泡の一部は水平方向へ分散し、取鍋15や溶鋼16の条件によっては水平方向へも分散しながら上昇した気泡が浸漬管13の内部に入りきらなくなる。これにより、取鍋15に収容された溶鋼の表面で浴面が揺動したり、スラグ粒や溶鉄粒が飛散したり、最悪の場合にはスラグや溶鉄が取鍋15から横溢して操業を中断せざるを得なくなることもある。
また、取鍋15の底部から攪拌ガスを吹込むと、転炉で溶製された溶鋼16を収容した取鍋15は、取鍋15の底部のガス吹込み羽口に溶鋼16が接したまま、かつ、ガスを吹き込まれることなく真空精錬処理される位置まで搬送され、ここでガス配管を接続された後に初めて攪拌ガスを吹き込まれることとなる。この際、ガス配管を接続して圧力を付与しても、羽口に差し込んで凝固した溶鋼16が羽口に固着して羽口を閉塞し、溶鋼16の内部に攪拌ガスを導入することができなくなる事態が発生することもある。このような場合には、取鍋15内の溶鋼は真空処理されることなく、本来組まれていた工程から逸脱したバックアップ工程で処理されることとなる。このため、当然のことながら、予定していた鋳込みは変更され、生産工程の組み直しを余儀なくされ、生産阻害が発生するという実際の操業上では大きな問題を生じる。
以上の理由により、本実施の形態では、取鍋15の羽口開口率を心配することなく、かつ、吹込みガスGが浸漬管13外の取鍋15の表面で離脱することによるスプラッシュや浴面の揺動等も心配することなく操業するために、浸漬管13の下部に攪拌ガス導入装置14を設けた。これにより、浸漬管13から吹き込みガスGを吹き込めば、吹き込まれた全ての気泡は浸漬管13の内部を上昇し、真空槽12の内部における溶鋼16の浴面から真空雰囲気へ離脱するため、取鍋15に収容された溶鋼16の表面で浴面が揺動したり、スラグ粒や溶鉄粒が飛散することを、確実に防止できる。
図2(a)に示すように、浸漬管13から攪拌ガスGを吹き込む場合には、浸漬管13の内部の全周に均一に吹き込むよりも、長径方向に粗密分布を持たせるようにして吹き込むこと、具体的には、図2(a)における浸漬管13の左側部分のガス導入量を右側部分のガス導入量よりも大きく、あるいは、その逆にすることが望ましい。当然のことだが、左側部分からのみ(あるいは、逆に右側部分からのみ)攪拌ガスを導入するようにしてもよい。これにより、左側部分が右側部分よりも気泡密度が大きくなるか、あるいはその逆となるようにガスを導入することができるため、図2(a)中に矢印で示すように、浸漬管13の内部で長径方向(図2(a)の左右方向)に大きな溶鋼流ループを形成できる。したがって、真空槽12と取鍋15との間で、活発な溶鋼の循環流20を形成できる。
ここで、本実施の形態のように吹き込みガスGを吹き込みながら真空脱ガス処理を行う場合、吹き込みガスGの気泡の表面における脱ガス反応の観点から最適なガス流量範囲が存在する。図5は、上述した脱ガス速度指数に攪拌ガス流量が与える影響の一例を示すグラフである。
図5に示すグラフから、攪拌ガス流量が処理溶鋼1トン当たり3NL/min未満であると脱ガス速度指数は小さくなる。これは、溶鋼16の循環流20が弱まって後述するAl反応効率が低下するためだけでなく、脱ガス反応サイトであるガス気泡の生成個数が減少するためであると考えられる。攪拌ガス流量が3NL/min未満であると、溶鋼16の循環速度の絶対値が小さくなるため、Al反応効率が低下してしまう可能性がある。このため、攪拌ガス流量は処理溶鋼1トン当たり3NL/min以上であることが望ましい。
一方、攪拌ガス流量が処理溶鋼1トン当たり15NL/minを超えて大きくしても、Al反応効率の向上効果が飽和して脱ガス速度は向上しなくなる。攪拌ガス流量を15NL/minを超えて増大させ過ぎても脱水素速度が向上しないのは、気泡同士の合体により気泡径が増大してトータルの反応界面積が効果的に増加しないためである。一方、攪拌ガス流量をむやみに増加すると、攪拌ガス気泡が溶鋼16の表面で破泡する際に溶鋼16の表面から溶鉄粒が飛散しランス17に付着してしまうという、いわゆる、地金付き現象が発生し、ランス17が損傷し易くなったり、あるいは真空系に負荷がかかる。地金がランス17の先端のノズルに付着すると、実質のノズル形状が変化する。また、高温の溶鉄粒が付着するとランス17の先端が熱変形する。これらの現象により、ランス17が本来有するジェット特性を発揮できなくなる。したがって、環流ガス流量は処理溶鋼1トン当たり15NL/min以下とすることが望ましい。
本発明に係る真空精錬装置11は、以上のように構成される。次に、この真空精錬装置11を用いて溶鋼の精錬を行う状況を説明する。
本実施の形態では、水平断面形状が円形である真空槽12の下部に、少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管13を一本装着し、この浸漬管13を、取鍋15に収容された溶鋼16に浸漬し、浸漬管13の下部に装着した攪拌ガス導入装置14から攪拌ガスを浸漬管13の内部の溶鋼16に吹き込むことによって浸漬管13の内部で上昇及び下降する溶鋼16の循環流20を形成しながら、溶鋼16の真空精錬を行う。
本実施の形態では、水平断面形状が円形である真空槽12の下部に、少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管13を一本装着し、この浸漬管13を、取鍋15に収容された溶鋼16に浸漬し、浸漬管13の下部に装着した攪拌ガス導入装置14から攪拌ガスを浸漬管13の内部の溶鋼16に吹き込むことによって浸漬管13の内部で上昇及び下降する溶鋼16の循環流20を形成しながら、溶鋼16の真空精錬を行う。
本実施の形態では、このように、長円形状の水平断面形状を有する浸漬管13を用いて溶鋼16を真空槽12へ吸い上げるため、取鍋15に収容された溶鋼16の上部に存在するスラグを真空槽12に吸い込む量を、円形の水平断面形状を有する従来の浸漬管を用いる場合に比較すると、上述した図1及びその拡大図にハッチングして示した領域であるデッドスペースD1 、D2 から流入する分だけ低減することができる。
また、本実施の形態では、浸漬管13に短径部13b、13bを設けて浸漬管13の水平断面積を真空槽12の水平断面積よりも小さく設定しているものの、浸漬管13に長径部13a、13aを設けているため、浸漬管13の内部を上昇及び下降する溶鋼16の循環流20を、長径部13aに攪拌ガス吹き込み装置14を設けることによって長径方向、すなわち浸漬管13の偏平方向に略一致させることにより、この循環流20の形成を殆ど阻害せずに確保できる。このため、浸漬管13の内部における溶鋼16の上昇流及び下降流が互いに干渉することを防止でき、これら上昇流及び下降流を確実に分離して真空脱ガス等の精錬能を充分に確保することができる。
また、本実施の形態では、真空槽12の内部に昇降可能に配置されるランス17の下端と、真空槽12に収容された溶鋼16の表面との間の鉛直方向の距離Hと、浸漬管13の短径Sとの比(H/S)が2以上8以下となるようにランス17を昇降させながら、ランス17から酸素等の酸化性ガスを真空槽12に収容された溶鋼16に吹付けながら、真空精錬を行うことが望ましい。この理由を説明する。
真空環境下で例えば酸素等の酸化性ガスを溶鋼16の表面に吹き付けながら精錬を行う一つの目的に、溶鋼16中の炭素と酸化性ガスとを反応させてC+(1/2)O2 =COという反応により溶鋼16中の炭素を除去する、いわゆる脱炭処理がある。この脱炭処理を行う場合には、吹き付ける酸化性ガスと溶鋼16中の炭素との反応を促進すること、すなわち脱炭効率を向上させることが精錬上重要である。脱炭効率が低ければ脱炭処理時間が長くなり、生産性の低下や処理コストの増大につながるからである。
また、真空環境下で例えば酸素等の酸化性ガスを溶鋼16の表面に吹き付ける精錬を行うもう一つの目的に、溶鋼16中のAlと酸化性ガスとを反応させて2Al+(3/2)O2 =Al2 O3 という発熱反応により溶鋼16の温度を上昇させる、いわゆる加熱処理がある。この加熱処理を行う場合には、吹き付ける酸化性ガスと溶鋼16中のAlとの反応を促進してAl反応効率を高めることが重要となる。Al反応効率が低いと、溶鋼16中のMnやFe等が吹き付けた酸化性ガスと反応して、MnOやFeO等といったいわゆる低級酸化物が生成する。これらの低級酸化物は、取鍋スラグの酸素ポテンシャルを高めるため、真空精錬処理後の鋳込み待ち中あるいは鋳込み中にゆっくりと溶鋼16中のAlと反応して介在物であるAl2 O3 を生成させるため、鋼の清浄性が低下する。したがって、Al反応効率を高める必要がある。
一方、真空環境下で酸化性ガスを溶鋼16の表面に吹き付ける際に、酸化性ガスジェットと真空槽12の耐火物の内壁との距離が近過ぎると、耐火物の内壁の損傷が著しくなることが知られている。このため、真空槽12の水平断面形状を楕円のように部分的に酸化性ガスジェットと耐火物の内壁との距離が近くなる形状よりも、円形もしくは円形に近い形状とする必要がある。
本実施の形態では、上述したように、少なくとも下端開口部の内面が、下端開口部において循環流20が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有する浸漬管13を用いるため、このような浸漬管13を用いる効果として、単にスラグの吸い上げ量を低減できるというだけではなくて、浸漬管13の内部で長径方向に流れのループが形成され易くなるために、真空槽12及び取鍋15それぞれの内部における溶鋼16の循環流20が活発なものとなり、これにより、上述した脱炭効率又はAl反応効率がいずれも向上する。
本実施の形態で、真空槽12の内部の溶鋼16に例えば酸素等の酸化性ガスを供給する方法としては、真空槽12の側面の浸漬羽口から溶鋼16の内部に酸化性ガスをインジェクションする方法、真空槽12の側壁の非浸漬羽口から溶鋼16の表面に酸化性ガスを吹き付ける方法、さらには真空槽12の内部に昇降可能に配置されたランスに装着したノズルから酸化性ガスを溶鋼16の表面に吹き付ける方法等を適宜採用すればよい。
しかし、真空槽12の内部に昇降可能に配置されたランスに装着したノズルから酸化性ガスを溶鋼16の表面に吹き付ける方法は、他の方法と比較すると、以下のメリットがある。
すなわち、真空槽12の側壁羽口から酸化性ガスを溶鋼16に供給すると、羽口は溶鋼16と接しているか溶鋼16の極近傍に存在するため、酸化性ガスを供給する必要がない場合でも羽口の健全性を維持するために大量のパージガスを流す必要がある。大量のパージガスを流すと、真空精錬に必要な高真空状態が得難くなるため、真空精錬性能が低下する。また、浸漬羽口の場合に顕著であるが、パージガスが気泡となって真空槽12の内部の溶鋼16を上昇して溶鋼16の表面で気泡が破裂する際に溶鉄粒を吹き上げるスプラッシュと呼ばれる現象が発生し、この溶鉄粒が真空槽12の側壁に付着成長する、いわゆる地金付が発生し操業上問題となる。非浸漬羽口でも程度の差はあるものの同様の問題がある。
一方、昇降可能なランス17を真空槽12の内部に配置して酸化性ガスを吹き付ける方法では、酸化性ガスを吹き付ける必要がない場合には、ランス17を上方へ引き上げて必要最低限のパージガスを導入すればよいため、上述した問題を回避することができる。
また、本実施の形態で用いる浸漬管13を水平断面形状が円形の真空槽12の下部に装着して真空槽12の内部に昇降自在に配置されたランス17から酸化性ガスを真空槽12内の溶鋼に吹き付けることは過去に例がないため、ランス17の条件を検討した。
先ず、 ランス17の高さHと浸漬管13の短径Sとの比(H/S)を種々変更してAl反応効率に与える影響を調査した。結果を図6にグラフで示す。
図6にグラフで示すように、比(H/S)の値が2以下と小さい場合、ランス17の高さは小さく、酸化性ガスジェットは相対的に動圧が高い状態で溶鋼16の表面に到達し、溶鋼16中のAlとの反応性が高くなる。また、この場合、短径の長さSが相対的に大きいために真空槽12に到達した溶鋼16の上昇流が真空槽12の浴表面で水平流に移行した際に、酸化性ガスジェット直下に供給される溶鋼流20が増加するため、酸化性ガスジェットと溶鋼16中のAlとの反応性が高くなる。
図6にグラフで示すように、比(H/S)の値が2以下と小さい場合、ランス17の高さは小さく、酸化性ガスジェットは相対的に動圧が高い状態で溶鋼16の表面に到達し、溶鋼16中のAlとの反応性が高くなる。また、この場合、短径の長さSが相対的に大きいために真空槽12に到達した溶鋼16の上昇流が真空槽12の浴表面で水平流に移行した際に、酸化性ガスジェット直下に供給される溶鋼流20が増加するため、酸化性ガスジェットと溶鋼16中のAlとの反応性が高くなる。
しかし、比(H/S)が増加するにつれて、ランス17の高さは高くなり相対的にジェット動圧は低い状態で溶鋼16の表面に到達するため、あるいは、短径が相対的に小さくなりジェットの直下への溶鋼流20の供給が低下するため、酸化性ガスと溶鋼16中のAlとの反応性が低下し、比(H/S)が8を超えると急激に反応性は低下する。
以上から、Al反応効率を確保するには比(H/S)を8以下として操業することが有効であることがわかる。また、比(H/S)を低下させ過ぎるとランス17の高さが低下し、上吹きジェットによるスプラッシュが発生して真空槽12の内部に地金付きが増加することと、ランス17自体への地金付及び溶鋼16面からの輻射熱によりランス17の変形等が発生する。このため、比(H/S)は2以上を確保することが有効である。
また、同時に真空槽12の槽底の耐火物の寿命指数と、比(H/S)との関係を調べた。真空槽12の槽底の耐火物の損耗速度を測定し、煉瓦積み時の煉瓦厚みを損耗速度で割ることにより計算寿命を算出し、槽底耐火物寿命指数として算出した。槽底耐火物寿命指数は、比(H/S)=2.0での計算寿命を基準値1.0としたときの相対値である。結果を図7にグラフで示す。
比(H/S)の値が例えば1程度と小さい場合は、ランス17の高さHが低く酸化性ガスジェットの水平方向の広がりが小さいか、あるいは、浸漬管13の短径Sが大きく損耗される可能性のある真空槽12の槽底の存在領域が狭いために、槽底の耐火物の寿命指数は高位に維持される。
しかし、比(H/S)の値が高くなると、ランス17の高さHが高く酸化性ガスジェットの水平方向の広がりが大きいか、あるいは、浸漬管13の短径Sが小さく真空槽12の槽底領域が広い。したがって、比(H/S)の増加に伴ない槽底の耐火物の寿命指数は低下し、比(H/S)の値が8を超えると急激に低下する。
以上から、比(H/S)の値が2以上8以下となるように操業することが、酸化性ガスの反応効率を高位に維持するとともに真空槽12の槽底耐火物の寿命を確保するために有効である。
さらに、本実施の形態では、真空槽12の内部に昇降可能に配置されるランス17の下端と、真空槽12の内部の溶鋼16の表面との間の鉛直方向の距離(H)と、真空槽12の内径(V)との比(H/V)が3以下となるようにランスを昇降させながら、ランスから酸化性ガスを真空槽12に収容された溶鋼16に吹付けることが望ましい。以下、この理由を説明する。
上述したように、酸化性ガスを吹き付けて行う精錬の反応効率と、真空槽12の槽底の耐火物の寿命とに関しては、比(H/V)が支配的であるが、ある条件により真空槽12の側壁の耐火物の損耗が著しくなることがわかった。真空槽12の側壁の耐火物は真空槽12の寿命を決定して、生産性及び耐火物コストを左右する重要な因子である。
上吹きした酸化性ガスは、溶鋼16との発熱反応を引き起こし、溶鋼16の表面に高温領域を形成する。攪拌ガスや真空槽12へのリークガス、あるいは、反応による生成ガスさらには溶鋼16と未反応の上吹き酸化性ガス等は、基本的に、真空槽12の上部の排気系から排出されるものの、その一部は上吹きガスジェットに巻込まれて酸化性ガスジェットともに溶鋼16の表面の高温領域に吹き付けられる。これらの巻込まれたガスは、高温領域を通過することによりガス温度が上昇し、さらに一部は再び酸化性ガスジェットに巻込まれる。
このように、酸化性ガスジェットをランス17から上吹きすると、真空槽12のランス17の下方領域に高温ガス領域が形成され、形成されたこの高温ガス領域が真空槽12の側壁の耐火物の寿命に悪影響を与えるものと推定される。
そこで、これらの高温ガス領域が極力悪影響を及ぼさない条件を指標(H/R)を用いて検討した。Hは上述したランス17の下端の溶鋼16の表面からの高さであり、Rはランス中心軸から真空槽12の内壁までの距離である。この指標(H/R)を用いて真空槽12の側壁耐火物の寿命指数を求めた。真空槽12の側壁耐火物の損耗速度を測定し、煉瓦積み時の煉瓦厚みを損耗速度で割ることにより計算寿命を算出した。指数は比(H/V)が4である時の計算寿命を基準値1.0としたときの相対値である。なお、Vは真空槽12の内径を示す。結果を図8にグラフで示す。
図8にグラフで示すように、比(H/V)の値が例えば1.0程度と小さい場合、ランス17の高さHが小さく周囲の雰囲気ガスの巻込み量が小さく、あるいは、真空槽12の内径Vが大きく排気されるガスの割合が高い。このため、真空槽12の内壁に接触するガスの温度は相対的に低く、側壁耐火物の寿命も相対的に高位に維持される。
これに対し、比(H/V)の値が大きくなると、ランス17の高さHが大きく周囲の雰囲気ガスの巻込み量が大きい、あるいは、真空槽12の内径Vが小さく排気されるガスの割合が低い。したがって、真空槽12の内壁に接触するガスの温度は相対的に高く、側壁耐火物の寿命も相対的に低位となる。そして、比(H/V)の値が3を超えると側壁耐火物の寿命の低下は著しくなる。
このため、比(H/V)の値が3以下となるようにして操業することが、真空槽12の側壁耐火物の寿命を確保するためには望ましい。
本実施の形態によれば、下端開口部の面積が縮小化された上述した浸漬管13を用いるため、浸漬管13の下端部の水平断面積は必然的に真空槽12よりも小さくなり、取鍋15に収容された溶鋼16の上部に存在するスラグの、浸漬管13の内部への吸い込み量を低減できる。このため、耐火物の損耗速度の上昇を抑制でき、耐火物の延命を図ることができ、耐火物の補修コストの上昇を抑制できるとともに、耐火物の補修サイクルを長期化できるために真空脱ガス装置の実稼動時間率を向上でき生産性を向上できる。
本実施の形態によれば、下端開口部の面積が縮小化された上述した浸漬管13を用いるため、浸漬管13の下端部の水平断面積は必然的に真空槽12よりも小さくなり、取鍋15に収容された溶鋼16の上部に存在するスラグの、浸漬管13の内部への吸い込み量を低減できる。このため、耐火物の損耗速度の上昇を抑制でき、耐火物の延命を図ることができ、耐火物の補修コストの上昇を抑制できるとともに、耐火物の補修サイクルを長期化できるために真空脱ガス装置の実稼動時間率を向上でき生産性を向上できる。
また、本実施の形態によれば、下端開口部の面積が縮小化された上述した浸漬管13を用いるため、脱ガス処理を終了した後の浸漬管の内壁を構成する耐火物の温度の急激な低下を抑制できる。したがって、次ヒートでの吸い上げの際に高温の溶鋼に接触した際に耐火物に加えられる熱履歴(温度差)が小さくなり温度変化や温度勾配が小さくなる。このため、温度変化に伴なう耐火物の膨張及び収縮が小さくなり、耐火物の亀裂や、この亀裂の進展によるスポール割れや剥離を生じ難くなるため、耐火物の延命を図ることができる。したがって、耐火物の補修コストを抑制できるとともに耐火物の補修サイクルを長期化できるため、真空脱ガス装置の実稼動時間率を向上でき生産性を向上できる。
また、本実施の形態は、略述すると、形状を円柱型から長円型に変更した浸漬管13を製作するだけで行うことができるので、簡単に実際に行うことができ、極めて実用的である。
このように、本実施の形態によれば、真空脱ガス等の精錬能を犠牲にすることなく、ランス17から酸化性ガスを吹き付けることによる真空槽12の槽底の耐火物の損傷を防止し、スラグの吸い上げを抑制し、さらには浸漬管13の下端開口部が大きいことに起因する熱スポール割れ等を抑制することによって、耐火物の寿命及び脱ガス速度をいずれも向上しながら溶鋼16の真空精錬を行うことができる。
また、本実施の形態によれば、真空槽12に収容された溶鋼16に酸化性ガスを導入することにより、耐火物損耗速度を悪化させずに酸化性ガスと溶鋼16中の各元素との反応効率を向上することができる。
さらに、本発明を実施例を参照しながら具体的に説明する。
転炉で吹錬した240トンの溶鋼を、図1に示す取鍋15に出鋼し、図1に示す浸漬管13(長径L/短径S=1.8m、2.6m)と浸漬管13を下部に備えた真空槽12からなる真空精錬装置11を用いて溶鋼の真空精錬を行った。
転炉で吹錬した240トンの溶鋼を、図1に示す取鍋15に出鋼し、図1に示す浸漬管13(長径L/短径S=1.8m、2.6m)と浸漬管13を下部に備えた真空槽12からなる真空精錬装置11を用いて溶鋼の真空精錬を行った。
真空槽12の上方には、合金を添加する合金添加口及び真空用排気ダクト(いずれも図示しない)を設けてあり、真空用排気ダクトは所定の真空排気装置に接続されている。なお、本発明例及び比較例のいずれにおいても攪拌ガス(あるいは環流ガス)流量を2.0Nm3 /min(8.3Nl/min・ton)とした。
本発明例の浸漬管13及び比較例の浸漬管それぞれの下端開口部の水平断面を図9(a)及び図9(b)にそれぞれ示す。
本発明例及び比較例ともに、図の左側の円弧部の側面に浸漬管下端から0.3mの高さの位置に、攪拌ガス導入用羽口を12本設けた。左側円弧部の羽口導入開き角度θは本発明例及び比較例のいずれにおいても180 度開いた半円状とし、羽口間角度は16度とした。なお、羽口はステンレス製の単管を用いた。
本発明例及び比較例ともに、図の左側の円弧部の側面に浸漬管下端から0.3mの高さの位置に、攪拌ガス導入用羽口を12本設けた。左側円弧部の羽口導入開き角度θは本発明例及び比較例のいずれにおいても180 度開いた半円状とし、羽口間角度は16度とした。なお、羽口はステンレス製の単管を用いた。
なお、比較例は、浸漬管の内径Dと取鍋の内径D0 との比D/D0 を0.45としたA−1と、比D/D0 を0.6としたA−2の2種類により試験した。また、従来のRH真空脱ガスRHを使用した試験を比較例Bとした。
以上の前提のもと、実施例1では、転炉で炭素濃度0.04質量%まで吹錬した溶鋼16を取鍋15に出鋼し、真空脱水素処理を行った。本発明例及び比較例A、Bいずれも攪拌ガス(あるいは環流ガス)流量を2.0Nm3 /min(8.3Nl/min・ton)とし、脱水素速度を測定した。耐火物の寿命は真空槽12の耐火物厚みを耐火物損耗速度で割ることにより算出し、比較例Bでの耐火物損耗速度を1.0 とした相対値で示した。試験の結果を表1にまとめて示す。
表1から、浸漬管13を本発明例の形状とすることにより比較例A、B以上の脱水素速度を得ることができることがわかる。また、比(L/S)を最適な範囲とすることにより脱水素速度をさらに向上できることがわかる。
また、本発明例によれば、耐火物寿命指数も比較例A、Bのいずれに対しても改善できることがわかる。これは、比較例Aの浸漬管を本発明例の浸漬管に置換することにより取鍋スラグの真空槽12内持込量が減少し、スラグによる耐火物損耗が減少したためと考えられる。また、比較例A、Bと比較しても耐火物寿命指数が増加したのは、本発明法の浸漬管13を用いることにより、スラグの取鍋15への排出が促進されたためと考えられる。
上述した前提のもと、転炉で炭素濃度0.04質量%まで吹錬した溶鋼16を取鍋15に出鋼し、真空脱炭処理を行った。本発明例及び比較例のいずれも攪拌ガス(あるいは環流ガス)流量を2.0Nm3 /min(8.3Nl/min・ton)とし、炭素濃度が20ppm未満となるまでの脱炭時間を測定した。試験結果を表2にまとめて示す。
表2から、浸漬管12を本発明例の形状とすることにより脱炭時間が比較例A、Bいずれに対しても短縮できることがわかる。
上述した前提のもと、本発明例の浸漬管13の、長径の長さと短径の長さとの比を2.6として、攪拌ガス(あるいは環流ガス)流量を変更して脱水素速度に及ぼす影響を調査した。試験の結果を表3にまとめて示す。
表3において、ガス流量を低下させ過ぎると脱水素速度が低下するのは、溶鋼循環速度が低下するとともに気泡生成数自体が減少して反応界面積が低下するからである。ガス流量を増大させ過ぎても脱水素速度が向上しないのは、気泡同士の合体により気泡径が増大してトータルの反応界面積が効果的に増加しないためである。
上述した前提のもと、本実施例では、真空槽12の内部に配置したランス17の先端のノズルから、酸素ガスを真空槽12の内部の溶鋼16の浴面に吹き付けた。
なお、比較例Aでは浸漬管の内径Dと取鍋内径D0 の比D/D0 =0.42とし、浸漬管の内壁の開き角度180度の範囲に設けた12本の羽口から攪拌ガスを流した。
そして、試験の結果を表4にまとめて示す。
なお、比較例Aでは浸漬管の内径Dと取鍋内径D0 の比D/D0 =0.42とし、浸漬管の内壁の開き角度180度の範囲に設けた12本の羽口から攪拌ガスを流した。
そして、試験の結果を表4にまとめて示す。
表4に示すように、浸漬管13を本発明例の形状とすることによりAl反応効率が比較例A、Bのいずれに対しても向上することがわかる。
また、比(H/S)の値が増加するにつれてAl反応効率は徐々に低下し、比(H/S)の値が8を超えると急激に低下することがわかる。これは、比(H/S)が増加するとランス17の高さH が増えて溶鋼16の表面に衝突するジェットが弱まるためである。
次に槽底耐火物寿命指数を比較した。真空槽12の槽底の耐火物損耗量を使用チャージ数で割り算し、比(H/S)が2.0での槽底耐火物寿命を1.0とした相対値で示した。
本発明例は、比較例Aに対して、槽底耐火物寿命指数が向上することがわかる。なお、比較例Bは、真空槽槽底が存在しないために槽底耐火物寿命指数は空欄としてある。
槽底耐火物の寿命は比(H/S)の増加とともにゆるやかに低下し、比(H/S)が8を超えると急激に低下することがわかる。これは、ランス17の高さが高くなりジェットの水平方向の広がりが大きくなって真空槽槽底領域に悪影響を与えるためである。
槽底耐火物の寿命は比(H/S)の増加とともにゆるやかに低下し、比(H/S)が8を超えると急激に低下することがわかる。これは、ランス17の高さが高くなりジェットの水平方向の広がりが大きくなって真空槽槽底領域に悪影響を与えるためである。
実施例4と同様の試験を行い、真空槽12の側壁耐火物の寿命を調査した。側壁耐火物寿命指数は真空槽12の側壁の耐火物損耗量を使用チャージ数で割り算出し、H/V=4での槽底耐火物寿命を1.0とした相対値で示した。
そして、試験の結果を表5に示す。
そして、試験の結果を表5に示す。
比の値(H/V)の増加にともない側壁寿命指数は徐々に低下し、(H/V)が3を超えると急激に低下することがわかる。
Claims (13)
- 水平断面形状が円形である真空槽の下部に連通して設けられる一本の浸漬管を、該一本の浸漬管の下方に配置された取鍋に収容された溶鋼に浸漬し、攪拌ガスを該一本の浸漬管の内部の溶鋼に吹き込んで該一本の浸漬管の内部を上昇及び下降する循環流を生じさせることにより溶鋼の真空精錬を行う際に、
前記一本の浸漬管の少なくとも下端開口部の内面は、該下端開口部において前記循環流が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有すること
を特徴とする溶鋼の真空精錬方法。 - 前記非円形の水平断面形状は、円形を一の方向へ偏平させた長円形状である請求項1に記載された溶鋼の真空精錬方法。
- 前記長円形状は、一の方向へ向けた長径を形成する長径部と、該長径よりも短いとともに該一の方向と交差する少なくとも一の方向へ向けた少なくとも一つの短径を形成する短径部とを有する形状である請求項2に記載された溶鋼の真空精錬方法。
- 前記攪拌ガスの流量は処理溶鋼1トン当たり3NL/min以上15NL/min以下である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された溶鋼の真空精錬方法。
- 前記真空槽の内部に昇降可能に配置されるランスの下端と該真空槽の内部に存在する溶鋼の表面との間の鉛直方向の距離(H)と、前記浸漬管の短径の長さ(S)との比(H/S)が2以上8以下となるように該ランスを昇降させながら、該ランスから酸化性ガスを前記真空槽に収容された溶鋼に吹付ける請求項3又は請求項4に記載された溶鋼の真空精錬方法。
- 前記真空槽の内部に昇降可能に配置されるランスの下端と該真空槽の内部に存在する溶鋼の表面との間の鉛直方向の距離(H)と、該真空槽の内径の長さ(V)との比(H/V)が3以下となるように該ランスを昇降させながら、該ランスから酸化性ガスを前記真空槽に収容された溶鋼に吹付ける請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載された溶鋼の真空精錬方法。
- 上昇及び下降を繰り返す溶鋼の循環流を内部に発生する一本の浸漬管と、該一本の浸漬管の上部に連通して配置されて前記循環流に脱ガス処理を行う真空槽と、攪拌ガスを該一本の浸漬管の内部の溶鋼に吹き込むことにより前記循環流を生じさせる攪拌ガス導入装置とを備える溶鋼の真空精錬装置であって、
前記一本の浸漬管の少なくとも下端開口部の内面は、該下端開口部において前記循環流が存在する領域の外縁形状に略沿った非円形の水平断面形状を有すること
を特徴とする溶鋼の真空精錬装置。 - 前記非円形の水平断面形状は、円形を一の方向へ偏平させた長円形状である請求項7に記載された溶鋼の真空精錬装置。
- 前記長円形状は、一の方向へ向けた長径を形成する長径部と、該長径よりも短いとともに該一の方向と交差する少なくとも一の方向へ向けた少なくとも一つの短径を形成する短径部とを有する形状である請求項8に記載された溶鋼の真空精錬装置。
- 前記長径の長さ(L)と前記短径の長さ(S)との比(L/S)は1.5以上である請求項9に記載された溶鋼の真空精錬装置。
- 水平断面において、前記浸漬管の前記下端開口部の外縁形状は、前記真空槽の外縁形状に包囲される請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載された溶鋼の真空精錬装置。
- 前記攪拌ガス導入装置は前記長径部に設けられる請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載された溶鋼の真空精錬装置。
- さらに、前記真空槽の内部に昇降可能に配置されて、酸化性ガスを該真空槽の内部に存在する溶鋼に吹付けるためのランスを備える請求項7から請求項12までのいずれか1項に記載された溶鋼の真空精錬装置。
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CN102312052A (zh) * | 2011-10-18 | 2012-01-11 | 马钢(集团)控股有限公司 | 扁平单管型真空精炼装置 |
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