しかし、上記従来の映像監視システムの殆どは、映像内で発生する「動き」全て、又は設定された閾値を超える「動き」全てを検出する。そのため、比較的「動き」の少ない屋内のみの監視や、「動き」全てが異常となるような屋外において特定の時間内での監視といった限定された条件下での使用でしか十分な信頼性を得ることができなかった。その上、このように規制された環境下でさえ、誤警報を発生する傾向があり、誤警報の原因を調査するには、多大なコストと時間が掛かることとなる。以上のような警報の乱発は、システムに対する信頼性を著しく低下させるという問題となっていた。
また、上記従来の映像監視システムは主にビルや住宅といった規制された屋内環境内での警備を目的としているため、「動き」の多い屋外環境には適していなかった。自然界では、水の波打ち,風による樹木の揺れや草木のざわめき,野生生物の通過といった「動き」が頻繁に発生している。従って、屋外環境を監視する際には、このような無害な「動き」と侵入者などの云わば有害な「動き」とを、区別しなければならないが、「動き」の大きさのみでの判別では、検出した「動き」が無害か有害か、どちらなのか区別することが出来ないという問題があった。とりわけ、地滑りの初期段階を特徴づける規模が小さい土石の「動き」などを検出することは非常に困難であった。
そこで本発明は上記問題点に鑑み、視覚的ノイズの多い環境内で実時間認識を使用した遠隔視覚監視や異常検出に適し、特定モデル(型式)の異常,危険,禁止行為などの事象とその他無害な事象とを区別することを可能とし、映像中の監視対象物以外の動きによる誤認警報を排除する動画像処理装置、及びそれらを用いた映像監視システムを提供することを目的とする。
本発明の請求項1における映像処理装置では、撮像手段から入力される撮像データに対して、隣接している画素群の加重平均値を計算する空間的フィルタリングを行ないスムーズ化映像とする空間フィルタ処理手段と、前記スムーズ化映像に対して、数フレームの一定時間内の再帰平均値を計算する時間的フィルタリングを行ない、参照映像及び背景映像を生成する時間フィルタ処理手段と、前記参照映像と前記背景映像とから動きのみを抽出し、所定の閾値を超える当該動きのみを動作映像として生成し、前記動作映像のうち所定の警報条件に適合する前記動きを検出して警報する動画像処理手段とを備えている。
このようにすると、入力映像から空間的かつ時間的に不必要な成分を除去することができる。即ち、空間的フィルタリングにより1フレームの画像中に発生する静的なノイズを除去し、時間的フィルタリングによりフレーム間に発生する一瞬の変化や短い変化などの動的なノイズを取り除くことができる。また、短時間参照映像と長時間参照映像とから「動き」のみを抽出し、閾値と比較することで、通常と違う特殊な「動き」のみを示す動作映像を生成することで、輝度の変化や、雲の動き、あるいは倒れた木のような永久的な変化を考慮した背景を除去した、特殊な「動き」だけの映像を生成することができる。従って、屋外などの自然環境に存在する無害な「動き」に対する誤検出を防ぐことができ、映像中の予め設定した条件を満たした事象に対してのみ警報を報知することができる。
本発明の請求項2における映像処理装置では、請求項1の構成に加え、前記時間フィルタ処理手段は、毎秒20乃至30フレームのデジタル画像の各画素の平均RGB色値を計算することにより、前記参照映像及び前記背景映像に逐次再帰平均処理を繰り返しながら更新させるものである。
このようにすると、異常のリアルタイム検出を実現することができ、輝度の変化や、雲の動き、あるいは倒れた木のような永久的な変化に対応しながら、長時間にわたる監視が可能となる。
本発明の請求項3における映像処理装置では、請求項2の構成に加え、前記時間フィルタ処理手段は、毎秒20乃至30フレームのデジタル画像の各画素の平均的YUV或いは輝度を表す画素値を計算することにより、前記参照映像及び前記背景映像に逐次再帰平均処理を繰り返しながら更新させるものである。
このようにすると、少ない画質の劣化で高いデータ圧縮率を得ることができ、データ量が少ないため処理を高速化することができる。
本発明の請求項4における映像処理装置では、請求項1乃至請求項3の構成に加え、検知器から入力される環境条件に応じて、前記空間フィルタ処理手段及び時間フィルタ処理手段のフィルタ強度及び前記閾値を変化させる。
このようにすると、光や熱など画像処理のエラーを起こす可能性のある環境条件を監視し、これらの条件を動画像処理における計算に含み、誤警報の原因になる誤ったデータを排除することができる。即ち、光の反射や熱気などが発生すると、画像中のノイズ(無害な「動き」)が増加するため、フィルタ強度を強くすることで、通常よりノイズを大きく減少させ、誤警報を防ぐことができる。
本発明の請求項5における映像処理装置では、請求項1乃至請求項4の構成に加え、前記動作映像中の画素群を小塊として検出する小塊検出手段と、前記小塊を構成する所定の画素を親配列として進化計算を行う物体追跡手段とを備え、前記動画像処理手段は、前記物体追跡手段により所定の評価関数を満たす動きが数世代にわたり検出されると、警報するものである。
このようにすると、小塊を構成する画素群のうち側面方向、または下方範囲などの警報条件を特徴づける所定の画素のみに対して、進化計算を行なうことができる。映像中の変化が継続するかどうか、変化が永久的か、変化しているとされた領域の周辺の画素がそれに続く映像内で変化が起こるかなどを計算により判別し、無害な「動き」と有害な「動き」とを区別することができる。
本発明の請求項6における映像監視システムでは、請求項1記載の動画像処理装置と、前記動画像処理装置を構成する前記動画像処理手段による警報条件の検出を契機として録画を開始する録画装置と、前記動画像処理装置から出力される映像を遅延させながら前記録画装置に入力する映像遅延装置とを備えている。
このようにすると、警報条件が満たされる数秒前からの録画を可能にし、地滑り発生前後の可視的な初段階を記録できる。
本発明は、以上説明したようなものであるから、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明の請求項1では、屋外などの自然環境に存在する無害な「動き」に対する誤検出を防ぐことができ、映像中の予め設定した条件を満たした事象に対してのみ警報を報知することができる。
本発明の請求項2では、異常のリアルタイム検出を実現することができ、長時間にわたる監視が可能となる。
本発明の請求項3では、異常のリアルタイム検出を実現することができ、長時間にわたる監視が可能となる。
本発明の請求項4では、光や熱など画像処理のエラーを起こす可能性のある環境条件を動画像処理における計算に含み、誤警報の原因になる誤ったデータを排除することができるため、誤警報を防ぐことができる。
本発明の請求項5では、警報条件を特徴づける所定の画素のみに対して、進化計算を行なうことができ、無害な「動き」と有害な「動き」とを区別することができる。
本発明の請求項6では、警報条件が満たされる数秒前からの録画を可能にするため、後に監視員等による映像検査を可能にする。
図1は、本実施例における映像監視システムの最小構成を示したものである。1は監視場所に設置される例えば監視カメラなどの撮像手段、2は監視映像に後述する動画像処理を施す動画像処理装置、3は動画像処理装置2から出力される映像を表示するための例えばCRTや液晶ディスプレイなどの映像と音声出力機能とを有する映像表示手段であり、それぞれ映像伝送用ケーブルなどの伝送手段4,5で相互に接続されている。その他、撮像手段1及び動画像処理装置2にそれぞれ電力を供給する例えば商用電源やバッテリー(充電電池)などの電源6,7が接続され、映像表示手段3にも図示しない商用電源などから電力が供給される。
撮像手段1は、監視対象を撮像し、アナログ信号又はデジタル信号など所定の形式に変換された入力映像Inを、撮像手段1から伝送手段4を介して動画像処理装置2に逐次伝送する。伝送された入力映像Inは、動画像処理装置2内でDMA(Direct Memory Access)により、映像プロセッサ上の例えばRAM(Random Access Memory)(またはソリッドステート・メモリ装置)などの記憶装置に転送される。そこでは、入力映像Inが入力される毎に、参照映像(背景)L2が更新されると共に、入力映像Inと参照映像L2とが画素毎に比較される。このような動画像処理の詳細については後述するが、動画像処理装置2は、所定の警報条件を満たす「動き」(地滑りなどの異常)をリアルタイム(実時間)で検出し、警報を報知する。そして、動画像処理装置2により動画像処理が施されたデジタル映像データは、伝送手段5を介して映像表示手段3に伝送され、モニター監視のため映像表示手段3の画面上に表示される。本実施例では、撮像手段1,動画像処理装置2,映像表示手段3をシステムとして別個に構成しているが、もちろん一体構成することにより一つの映像監視装置としてもよい。
以下、該映像監視システムの必須要素を構成する動画像処理装置2について、本発明における動画像処理内容と共に説明する。図2は動画像処理装置2の各構成手段を示したブロック図である。同図において、10は例えばビデオデコーダなどのA/D変換手段であり、撮像手段1からアナログ信号で伝送された場合に、入力映像Inを動画像処理に適した所定の形式のデジタルデータに変換する。このとき、入力映像Inはフレーム毎のデジタル画像データとなる。撮像手段1から伝送される入力映像Inが、予め該所定の形式のデジタルデータに変換されている場合は、A/D変換手段10を設ける必要はない。
デジタル化された入力映像Inは、空間フィルタ処理手段11,時間フィルタ処理手段12,小塊検出手段13,物体追跡手段14によりそれぞれ動画像処理が施される。20は、以上の各構成手段を有機的に結合し、一連の動画像処理方法を実行する画像処理制御手段である。各構成手段は、例えばマイコンやASICなどで構成してもよいし、電子計算機上で動作するプログラムとして構成してもよい。従って、構成態様に応じて記憶装置や映像プロセッサなどの演算装置が搭載される。
参考として、異常のリアルタイム検出を実現するためには、A/D変換手段10は毎秒20〜30フレームをデジタル化する能力が要求され、この処理率を維持するために、デジタル映像データ(入力映像In)を直接RAM(またはソリッドステート・メモリ装置)上で処理するようにし、さらに3GHz以上のCPU速度を持つコンピュータを使用するのが好ましい。
本発明の動画像処理は、デジタル化された入力映像Inを電子処理する際に実行され、入力映像Inの画素値をきめ細かく分析するために、空間的・時間的フィルタと進化計算とを使用する。これらを使用することにより、例えば地滑りの初期段階の「動き」などを一瞬の「動き」または無害な「動き」から区別して検出することが可能となるため、誤警報を防止し、映像中の予め設定した条件を満たした事象に対してのみ警報を報知することができる。
空間的・時間的フィルタとは、隣接している画素群の加重平均値を計算する(空間的フィルタリング)空間的ローパス・フィルタ、及び数フレームの一定時間内の再帰平均値を計算する(時間的フィルタリング)時間的ローパス・フィルタのことを指す。空間的ローパス・フィルタは、静止画から不必要な成分(ノイズ)を除去する雑音処理に相当する。これによりビデオ信号中のサンプリング誤差などにより入力映像Inに生じるノイズを取り除き、「動き」の誤検出を防ぐ。空間的フィルタリングを行なうと、隣接する画素間での画素値変化量が低減されるため、映像内の輪郭をぼやかせスムーズ化させる効果がある。一方、時間的ローパスフィルタは、動画から不必要な成分(ノイズ)を除去する雑音処理に相当し、動画ノイズは時間的にランダムである性質を利用することにより、複数の画像をもとにノイズを取り除く。すなわち、数フレーム分の入力映像Inの再帰的平均を画素ごとに任意の割合で計算することで、入力映像Inから短期で規則的な「動き」を取り除くことができ、「動き」の誤検出を防ぐ。
進化計算は、一般に遺伝的プログラミングとか遺伝的アルゴリズムと呼ばれるものを利用するものであり、入力映像In中の無害な「動き」と有害な「動き」とを区別するために該進化計算を利用した物体追跡アルゴリズムを採用している。この物体追跡アルゴリズムは、1999年に見浪、Agbanhan、及び朝倉氏らによって報告された研究において導入された進化計算を改良したものである。見浪、Agbanhan、朝倉氏は、金魚の特徴付けられる形から金魚を上方より確認し、追跡するために可変リスト管理の一種である「1-step-GA進化」を採用した。詳細は“Mamoru Minami, Julien Agbanhan, Toshiyuki Asakura(1999), “Manipulator visual serving and tracking of fish using a genetic algorithm”; Industrial Robot: An International Journal.Vol.26,No.4,pp.278-289”に記述されている。本発明の動画像処理方法に適用するにあたり、後述するように、指定した警報条件独特の動きのパターンを確認するためのプロセスを改良した。
次に、動画像処理装置2で実行される動画像処理について、図2乃至図4を参照しながら詳述する。
動画像処理装置2は、例えば毎秒20回から30回のように設定された時間間隔で撮像手段1から入力映像Inを得る(ステップS100)。入力映像Inは、前述したようにA/D変換手段10でデジタルデータ化されるが、変換後の入力映像Inは、撮像手段1の撮像視野内の撮像データをRGB(Red Green Blue),YUV(RGBの換算値),あるいはモノクロの輝度の値として表した二次元配列の画素値(画素マトリクス)を提供する。
空間フィルタ処理手段11は、デジタル化された際の量子誤差を抑える、即ち入力映像In中のノイズを減らす為に、入力映像Inを空間的ローパス・フィルタ11aによりろ過(スムーズ化)し、雑音処理されたスムーズ化映像Fnを出力する(ステップS101)。空間フィルタ処理手段11で行なう空間的ローパス・フィルタ処理は、入力映像Inの全画素にそれぞれ対応するスムーズ化映像Fnの画素を作成することで処理を終える。
空間的フィルタリングの具体的な処理方法の一例を示す。空間的ローパス・フィルタ11aを3×3の二次元マトリクスとする。空間的ローパス・フィルタには周知の技術として移動平均法やメディアンフィルタなどが知られているが、ここでは、処理される画素に使用される重み係数と処理される画素の周辺にある画素の重み係数を設定し、加重平均処理をすることにより雑音処理をする。画素と各々に対応する画素の相対的な重み係数の空間の配置は、表1のように設定する。
表1では、処理される画素すなわち中心の画素に4の重みを与え、隣接している画素すなわち処理される画素の上方、下方、右方、左方の画素は2の重みを与えている。そして、中心画素から斜めにある画素には1の重みを与えている。
ここで、入力映像Inの各画素値に対応する3×3の画素値を表2とする。
表2で示した3×3の画素値にそれぞれの表1で示した空間的ローパス・フィルタ11aの重み係数を掛け、その結果を合計する(5*1+3*2+4*1+3*2+10*4+5*2+3*1+4*2+5*1=87)。次に、その画素値の合計87を重み係数の合計16で割り、入力映像Inの全画素にそれぞれ対応するスムーズ化映像Fnの画素値を算出する(87/16=5.4375)。従って、小数点以下を丸めると処理後の画素値は5となり、隣接する画素との変化量が低減されスムーズ化される。
空間的ローパス・フィルタ11aは浮動小数点あるいは整数計算を使い画素値を処理するが、処理速度と処理系の負荷を考慮すると、整数計算のほうが好ましい。上記例では重み係数の合計が16なので、都合よくバイナリコンピュータが整数計算として使用できる約数を得ることができる。また、他のマトリクスの大きさ(例えば5×5)や重み係数を使用することで、様々な形態の空間的ローパス・フィルタ11aを使用できることは言うまでもない。同様に、他の重み係数をこの例の3×3のマトリクス重みマスクで使えるが、表1の重み係数は迅速な計算を実行する為に選ばれたものである。
空間フィルタ処理手段11で雑音処理されたノイズの少ないスムーズ化映像Fnは、時間フィルタ処理手段12で時間的フィルタリングが施される(ステップS102,S103)。このとき、スムーズ化映像Fnから、比較的短い時間的フィルタリングをかけることにより時間的にスムーズ化された短時間参照映像L1と、比較的長い時間的フィルタリングをかけた長時間参照(背景)映像L2が生成される(ステップS104,S105)。短時間参照映像L1は、フレーム間に発生する一瞬の変化や短い変化などの動的なノイズを除去した映像であるため、スムーズ化映像Fnの数フレームづつ再帰平均を計算する。一方、長時間背景映像L2は、スムーズ化映像Fn中の変化を検出する際の基準にするためのものであり、輝度の変化や、雲の動き、あるいは倒れた木のような永久的な変化を考慮したものである。すなわち、長時間背景映像L2は、入力されるスムーズ化映像Fnの全フレーム若しくは長時間にわたる複数のフレームに対して逐次再帰平均処理を繰り返すことにより、長時間にわたって変化,補正しながら、常に更新されることとなる。
時間的フィルタリングの具体的な処理方法の一例を示す。時間的ローパス・フィルター12a,12bは、共に以下の計算式を用いることで画素値の再帰平均処理を行なう。
Bn=[a*B(n−1)+b*Fn]/(a+b)
ここで、Bnはn時におけるピクセル毎の画像データであり、B(n−1)は(n−1)時におけるピクセル毎の画像データであり、B(n−1)とFnとを時定数パラメータであるaとbとの割合でBnを計算する。aとbとは、通常コンピュータで計算が速くなるようにaとbとを足したときに、2の乗数になるような値を選択する。例えば、a=15とb=1との場合、a+b=16なので、バイナリコンピュータが整数計算として使用できる。このようにして、時間的なローパス・フィルタを構築している。
この時間的に再帰平均された2つの映像L1,L2は各々別の時定数を用い計算される。短時間参照映像L1を生成するために使用する時間的ローパス・フィルタ12aは、短時定数を持ち、時定数が0(a=0)の時は、この時間的フィルター処理は迂回され、映像データに変化はなく、短時間参照映像L1=スムーズ化映像Fnとなる。一方、長時間背景映像L2を作り出す為に使用した時間的ローパス・フィルタ12bは、L1映像を作成するために使用する時間的ローパス・フィルタ12aに比べ比較的長い時定数を持つ。例えば、新しいスムーズ化映像Fnの影響が少なくなるようaをbに比べ比較的大きな値とする。
時間的ローパス・フィルタ12bの時定数は、動画像処理制御手段20によりフィルタ制御され、時間的フィルタリング処理対象の画素が、背景(変化のない画素)かそれとも動いている物体(変化している画素)かにより動的に調整される(ステップS103)。なお、背景か、動いている物体かの判別は、例えばスムーズ化映像Fnの前後のフレームを比較するなどに基づいて行なわれる。
動画像処理制御手段20は、所定の時間内でどの画素に変化があったかを決めるために、短時間参照映像L1と長時間背景映像L2の各々対応する画素間の差分あるいは相違であるDnをエラー計算する(ステップS110)。Dnは、BnとFnとの差を計算して得られる動いている物、即ち「動き」だけとなった画像データである。エラー計算20aでは、絶対的な相違の合計か、相違あるいは差の2乗の合計としての差分映像Ynを計算し求める。エラー計算20aで計算された差分映像Ynは、時間フィルタ処理手段12に戻され、統計処理を行なう。時間フィルタ処理手段12では、各画素での相違(あるいは典型的な動き)の評価を作成するため、もう1つの時間的ローパス・フィルタ12cを通すことにより、相違映像L3が生成される(ステップS111,S112)。時間的ローパス・フィルター12cは、前述した時間的ローパス・フィルター12a,12bと同様に、以下の計算式を用いることで画素値の再帰平均処理を行なう。
Vn=[c*V(n−1)+d*Yn]/(c+d)
ここで、Vnはn時におけるピクセル毎の画像データであり、V(n−1)は(n−1)時におけるピクセル毎の画像データであり、V(n−1)とYnとを時定数パラメータであるcとdとの割合でVnを計算する。これによって常に動いているような物は、高い画素値で出力される。該Vnに任意の値Kをかけたものが、相違映像L3となる。
通常、「動き」は単一の画素毎に起こらず、差を有する画素群の広がりを引き起こすために、空間的ローパス・フィルタ(SLPF)を時間的ローパス・フィルタ12cのフィードバック経路に挿入する(ステップS113)。即ち、相違映像L3は、動画像処理制御手段20,空間フィルタ処理手段11,及び時間フィルタ処理手段12という経路を巡回するようにして生成される(ステップS111,S112,S113)。なお、該時間的ローパス・フィルタの時定数c,dは前記画素群が有する差の大きさに応じて適当な値を設定する。
動画像処理制御手段20は、差分映像Ynと相違映像L3との各々対応する画素の相違と、その画素に予想される相違すなわち閾値とを比較する動き検出20bを行なう(ステップS114)。その結果が大きく違った場合には、通常と違う特殊な「動き」があったものとして検出する。動き検出20bの閾値は、全体の映像内で「動き」を検出した回数によって動的に調整するのが好ましく、動き検出20bの閾値により、感度を調節することができる。「動き」として検出された画素は、動作映像L4として生成され、以下の計算式に従い更新される(ステップS115)。
y(t)=y(t−1)+x(t)
動きが検出された場合は、x(t)=K:定数、それ以外ではx(t)=−1とする。y(t)の値は0の下限を持つ。
小塊検出手段13は、隣接している画素が形成する小塊(比較的大規模な動きを特徴づけるかもしれない)の中の画素か、あるいは孤立している画素(降っている雪を特徴づけるかもしれない)かを判別するために、小塊検出13aを動作映像L4に対して適用する(ステップS120)。小塊とは、「活動的」(小さな「動き」が頻繁に発生している状態)あるいは「移動中」として検出された画素のうち、一定の基準に適合する画素群の集まりである。小塊検出13aのアルゴリズムは、動作映像L4から活動的な画素群である小塊を見つけることに使用される。「動き」のクラスター(小塊)として見つかった時は、小塊を構成する画素群の側面方向、または下方範囲の画素で、「動き」が指定した警報条件(地滑りのような)を特徴づけるかどうかを決定するために、物体追跡手段14により物体追跡アルゴリズム14aを受ける。
物体追跡手段14は、「動き」の検出から変化があったとされる画素からなる動作映像L4に進化計算を適用し、その変化が継続するかどうか、変化が永久的か、変化しているとされた領域の周辺の画素がそれに続く映像内で変化が起こるかなどを計算する(ステップS121)。進化計算の結果が監視すべき「動き」のパターンと一致(例えば特定の範囲内における落石を特徴づける所定の速度を有する下向きの動き)すると、警報発生条件が満たされたこととなり、警報発生条件が満たされない場合には、その「動き」は今後の計算から取り除かれる。
ここで、物体追跡アルゴリズムについて詳述する。前記「1-step-GA進化」は、20固体の固定長の遺伝子情報を1世代進化させる毎に、その最良遺伝子情報を使いマニュピュレータを制御している。その際、固定長の遺伝子情報を1世代進化させるために通常使用される進化手法オペレータである、交叉,突然変異,エリート選択などを使用している。一方、本発明では、映像中の選択的動作検出のための画像処理法においては、1固体の可変長の遺伝子情報を1世代進化させる毎に、その遺伝子情報を使い、映像中の選択的動作検出を行なう。即ち、この遺伝子情報を進化させるために、現在画像処理中に検出された「動き」を、1世代前の遺伝子情報を基に、現在の遺伝子情報として再構築する。
地滑りを検出するためにこのプロセスが使用された場合、周辺に更なる「動き」が予想されるため、「動き」が確認された部分(小塊)の画素の下方範囲の映像を分析し計算する。このとき、小塊の側面方向、または下方範囲を構成する活動的な画素が、フレーム間で移動した、座標や角度などのベクトルデータを親配列とする。これらは警報条件を満たす可能性があり、もし、3つか4つの連続する映像フレーム(各々の映像フレームは1秒のおよそ30分の1を表す)上で、通常落石によって及ぶ範囲内である下方の隣接した画素群が、警報条件となる進化計算のための評価関数を満たせば、警報条件が確認される。数世代に及び前記評価関数を満足し続ける活動的な画素群または映像中の画素の小塊は、地滑りを示すかもしれず、落ちつつある岩石であるかもしれない。
前記進化計算の具体的な計算方法としては、例えば、前記親配列と更新された動作映像L4から新たに解析したベクトルデータとを交叉させ、数世代(数フレーム)にわたり進化した当該遺伝子情報が前記評価関数を満たした場合に、警報を発生するようにする。初期設定としては、遺伝子情報には現在の映像フレームで活動的な画素群、または落ちつつある小塊の大きさ、位置の情報とひとつ前の映像フレームで与えられた遺伝子情報が入る。rank=0(いくつの遺伝子情報が評価関数を満足しているかを示す変数)に設定する。現在の映像フレームの遺伝子情報とひとつ前の映像情報を比べる。例えば、遺伝子情報のi番が初めて評価関数を満足した場合、遺伝子情報i番目とrank番の遺伝子情報を交換する。そしてrankを1増やす。これを遺伝子情報全部に行う。最終的にrank個の遺伝子情報が評価関数を満足する遺伝子数となり、遺伝子情報の0番から(rank−1)番までが評価関数を満す遺伝子情報となる。そのため、突然変異,エリート選択等の進化手法オペレータを使用せず、交叉のみのオペレータを使用して進化計算を行なうことができる。従って、計算が簡素化され、遺伝子情報に対して選択や淘汰などの計算をする必要がなくなる。
そして、撮像手段1により撮像した入力映像Inを映像表示手段3で表示させる(ステップS122)。前述したように、物体検出手段14で警報条件が確認された場合は、警報として、異常な「動き」の表示をするために、図5及び図6のように、異常な「動き」を検出した部分を枠線で囲むか、若しくは出力映像中の該当部分の色を変化させる。図5では、法面30における地滑り31の「動き」を警報として検出した様子を示しており、図6では、法面30における複数の岩石32が落石した際の「動き」を警報として検出した様子を示している。
以上のように本発明では、撮像手段1から入力される撮像データとしての入力映像Inに対して、隣接している画素群の加重平均値を計算する空間的フィルタリングを行ないスムーズ化映像Fnとする空間フィルタ処理手段11と、前記スムーズ化映像Fnに対して、数フレームの一定時間内の再帰平均値を計算する時間的フィルタリングを行ない、参照映像たる短時間参照映像L1及び背景映像たる長時間参照映像L2を生成する時間フィルタ処理手段12と、短時間参照映像L1と長時間参照映像L2とから動きのみを抽出し、所定の閾値を超える当該動きのみを動作映像L4として生成し、前記動作映像L4のうち所定の警報条件に適合する前記動きを検出して警報する動画像処理手段たる動画像処理制御手段20とを備えている。
このようにすると、入力映像Inから空間的かつ時間的に不必要な成分を除去することができる。即ち、空間的フィルタリングにより1フレームの画像中に発生する静的なノイズを除去し、時間的フィルタリングによりフレーム間に発生する一瞬の変化や短い変化などの動的なノイズを取り除くことができる。また、短時間参照映像L1と長時間参照映像L2とから「動き」のみを抽出し、閾値と比較することで、通常と違う特殊な「動き」のみを示す動作映像L4を生成することで、輝度の変化や、雲の動き、あるいは倒れた木のような永久的な変化を考慮した背景を除去した、特殊な「動き」だけの映像を生成することができる。従って、屋外などの自然環境に存在する無害な「動き」に対する誤検出を防ぐことができ、映像中の予め設定した条件を満たした事象に対してのみ警報を報知することができる。
また本実施例では、空間フィルタ処理手段11及び時間フィルタ処理手段12は、毎秒20乃至30フレームのデジタル画像の各画素の平均RGB色値を計算することにより、短時間参照映像L1及び長時間参照映像L2に逐次再帰平均処理を繰り返しながら更新させている。
このようにすると、異常のリアルタイム検出を実現することができ、輝度の変化や、雲の動き、あるいは倒れた木のような永久的な変化に対応しながら、長時間にわたる監視が可能となる。
さらに本実施例では、空間フィルタ処理手段11及び時間フィルタ処理手段12は、RGB色値の代わりに、平均的YUV或いは輝度を表す画素値を用いるようにもしている。
このようにすると、少ない画質の劣化で高いデータ圧縮率を得ることができ、データ量が少ないため処理を高速化することができる。
また本実施例では、動作映像L4中の画素群を小塊として検出する小塊検出手段13と、前記小塊を構成する所定の画素を親配列として進化計算を行う物体追跡手段14とを備え、動画像処理制御手段20は、物体追跡手段14により所定の評価関数を満たす動きが数世代にわたり検出されると、警報するものである。
このようにすると、小塊を構成する画素群のうち側面方向、または下方範囲などの警報条件を特徴づける所定の画素のみに対して、進化計算を行なうことができる。映像中の変化が継続するかどうか、変化が永久的か、変化しているとされた領域の周辺の画素がそれに続く映像内で変化が起こるかなどを計算により判別し、無害な「動き」と有害な「動き」とを区別することができる。
本発明における第2実施例について、図7乃至図9を参照しながら説明する。
図7は、第1実施例で示した映像監視システムの最小構成40を組み込んだ地滑り監視システムの一態様を示すものである。従って、映像監視システムの最小構成40は、第1実施例と同様、監視場所に設置される例えば監視カメラなどの撮像手段1と、監視映像に動画像処理を施す動画像処理装置2と、映像と音声出力機能を有し動画像処理装置から出力される映像を表示する例えばCRTや液晶ディスプレイなどの映像表示手段3と、映像伝送用ケーブルなどの伝送手段4,5と、撮像手段1及び動画像処理装置2にそれぞれ電力を供給する例えば商用電源やバッテリー(充電電池)などの電源6,7から構成される。
本実施例においては、監視対象が地滑りであるため、撮像手段1は、動画像処理装置2から遠方の屋外に設置されることが多い。そこで、撮像手段1と動画像処理装置2との接続を無線で行なうべく、映像・音声受信機45を設置して、入力映像Inを送信するようにしている。伝送手段4若しくは映像・音声受信機45を介して送信される入力映像Inは、動画像処理装置2の他に、映像遅延装置46にも伝送される。映像遅延装置46は、警報条件が満たされる数秒前からの録画を可能にするものであり、少なくとも動画像処理装置2に入力映像Inが入力されてから、警報を検出し、録画装置47での録画が開始されるまでの時間分の映像を遅延させる必要がある。録画装置47は、動画像処理装置2が地滑りのような警報発生の条件を確認することにより起動される。これによって、地滑り発生前後の可視的な初段階を記録し、後に監視員等による映像検査を可能にする。48は、録画装置47で録画した映像を映像検査する際に使用する記録モニタである。もちろん、動画像処理装置2内に映像遅延装置46と録画装置47とを組み込むようにしてよい。
本実施例の変形例として、例えばパソコンなどの情報処理装置71を利用して、映像監視することも可能であり、撮像手段1からの入力映像Inを有線若しくは無線のモデム70を介して、本発明における動画像処理に従い動作するアプリケーションを備えた情報処理装置71に取り込み、当該処理結果をモニタ72に表示するようにする。
ところで、撮像手段1を、図8で示すような監視現場に設置する際には、屋外環境に適した遠隔監視ステーションとするのが好適である。同図は、本実施例における映像監視システムを監視現場に設置した様子を示す説明図であり、本発明の出願人が行なったテストの様子を示している。当該テストは、規制された地滑りが、予測可能な形で人工的かつ頻繁におこされる土砂採取のための「土取り場」で行なわれた。一連の成功したテスト例では、遠隔監視ステーション50は幅150mに及ぶ法面30の監視を維持的に行い、その映像とデータを現場の下方にある基地局51に送信し続けた。
基地局51には、図7で示した映像監視システムの内、撮像手段1以外の構成が設置されている。一方、遠隔監視ステーション50には、図9に示すように、撮像手段1が設置され、撮像手段1のレンズ部分が透明な例えば樹脂製の箱55で保護されている。該箱55は、プログラム可能なワイパーを設置すると、映像入力エラーを起こす雨やほこりを取り除くことができ、好ましい。さらに、撮像手段1と接続し、基地局51に設置された映像・音声受信機に映像を無線送信するビデオ送信機56と、センサ57で検知した例えば光,温度,湿度などの環境条件を収集するデータ収集装置58と、遠隔監視ステーション50の構成機器に電力を供給する為、再充電可能なバッテリ60及び太陽電池板61(及び/又は風力発電機)とを備え、データ収集装置58で収集された環境条件から、箱55に設けられた前記ワイパーや太陽電池板61に設けられたワイパー62を動作させる。もちろん、当該映像及びデータは遠隔監視ステーション50から基地局51まで有線、無線、光ケーブルなどいずれの通信手段で送信してもよい。なお、曇りや雨天などで太陽光が減少した際に、太陽電池61とバッテリ60とを切り替えるため、光センサパワースイッチ65を設けている。66は、前記環境条件を動画像処理装置2若しくは情報処理装置71にデータ送信するための無線モデムであり、光や熱など画像処理のエラーを起こす可能性のある環境条件を監視し、これらの条件を動画像処理における計算に含み、誤警報の原因になる誤ったデータを排除するために設けられる。即ち、動画像処理装置2を構成する空間フィルタ処理手段11,時間フィルタ処理手段12のフィルタ強度(前記重み係数や前記時定数など)を当該環境条件に応じて、動的に制御するようにしている。例えば、光の反射や熱気などが発生すると、画像中のノイズ(無害な「動き」)が増加するため、フィルタ強度を強くすることで、通常よりノイズを大きく減少させ、誤警報を防ぐ。動き検出20bにおいて、差分映像Ynと相違映像L3との各々対応する画素の相違と比較する閾値を変化させるようにしてもよい。
以上のように本実施例では、動画像処理装置2と、動画像処理装置2を構成する動画像処理制御手段20による警報条件の検出を契機として録画を開始する録画装置47と、動画像処理装置2から出力される映像を遅延させながら録画装置47に入力する映像遅延装置46とを備えている。
このようにすると、警報条件が満たされる数秒前からの録画を可能にし、地滑り発生前後の可視的な初段階を記録し、後に監視員等による映像検査を可能にする。
また本実施例では、検知器たるセンサ57から入力される環境条件に応じて、空間フィルタ処理11手段及び時間フィルタ処理手段12のフィルタ強度及び前記閾値を変化させている。
このようにすると、光や熱など画像処理のエラーを起こす可能性のある環境条件を監視し、これらの条件を動画像処理における計算に含み、誤警報の原因になる誤ったデータを排除することができる。即ち、光の反射や熱気などが発生すると、画像中のノイズ(無害な「動き」)が増加するため、フィルタ強度を強くすることで、通常よりノイズを大きく減少させ、誤警報を防ぐことができる。
上述の実施例は動作原理の説明のために過ぎず、これらの例に限らず多くの変化版と個別の修正を含んだシステムが本発明の原理の範囲から外れずに導入されうるものとする。映像処理システムは、フラッシュメモリを使い、監視目的に沿った典型的な動きを示す状況の映像データを分析するために、プログラムしてもよい。同様に、フラッシュメモリによりモニター感度の閾値を使用現場で調整することも可能である。もちろん、本発明における映像監視システムの対象は、地滑りに限らず、警報を検出するための前記評価関数を変更することで、様々な事象に対して警報を検出することが可能である。