以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態において同一又は同様の要素には同一の符号を付して説明を省略することとする。
本実施形態に係る乗員保護装置は、車両が衝突等したときに乗員の両脚を身体外側に押し広げ、そのうえで乗員の膝頭に入力する衝撃を緩和するものである。
まず、本実施形態に係る乗員保護装置を説明するのに先立って、一般的な車両の車室内構成、衝突時における車内の様子、及び乗員に加わる衝撃について説明する。図1は、一般的な車両の車室内構成を示す説明図である。
同図に示すように、車室空間は車体骨格100により形成されており、車室の床面101上に乗員が着座するシート102が設けられている。また、シート102の側方には乗降用ドア103が設けられている。
シート102のうち運転席の前方には車両の挙動を制御するためのステアリング104及びペダル類105が設けられている。ペダル類105は、アクセルペダル105a及びブレーキペダル105bからなっており、ブレーキペダル105bの側方には、乗員が運転時に脚を置くフットレスト106が備えられている。
運転席と助手席との双方のシート102前方には、運転装置やエアコンなど様々な部品を覆い隠すダッシュボード107が横断的に配置されている。また、運転席と助手席との間には、ナビゲーションや空調装置等の操作を行うための操作パネル108が配されている。さらに、運転席及び助手席の前方のダッシュボード107下部、特にシート102に着座した乗員の膝頭略前方にはニーボルスタ109が設置されている。
次に、車両衝突時における乗員の挙動を説明する。図2は、車両が前面衝突する場合の乗員の挙動を示す説明図であり、(a)は衝突発生前の乗員の様子を上方から示しており、(b)は衝突発生前の乗員の様子を側方から示している。また、(c)は衝突発生後の乗員の様子を上方から示しており、(d)は衝突発生後の乗員の様子を側方から示している。
図2(a)及び(b)に示すように、衝突前において着座した乗員Dの膝頭Kr,Klとニーボルスタ109との間には幾らか空間がある。ここで、前面衝突が発生すると、乗員Dの身体は前方へと移動する。そして、図2(c)及び(d)に示すように、衝突時の速度等が大きいときには、エアバッグ110が展開して乗員Dの上半身を拘束することとなる。
このとき、乗員Dの膝頭Kr,Klはダッシュボード107の下部に当たり、乗員Dの膝頭Kr,Klには衝撃が加わることとなる。ところが、ダッシュボード107下部にはニーボルスタ109が設けられているため、膝頭Kr,Klへの衝撃は緩和されることとなる。
図3は、車両がオフセット衝突したときの様子及び乗員Dの挙動を示す説明図であり、(a)はオフセット衝突前の車両の様子を示し、(b)はオフセット衝突後の車両の様子を示している。また、(c)はオフセット衝突前の乗員Dの様子を示し、(d)はオフセット衝突後の乗員Dの様子を示している。
まず、図3(a)に示すように、車両が走行している。このとき、乗員Dは、図3(b)に示すように、正規の着座姿勢(すなわち適度な開脚状態)をとっている。ここで、車両の前方左側に電柱などの物体Oが衝突したとする。すなわち、オフセット衝突したとする。このとき、車両を上方から見た場合、図3(c)に示すように、車両は反時計回りに位置Iから位置I’まで回転することがある。また、この場合、図3(d)に示すように、乗員Dの左右膝頭Kr,Klは車両の回転に伴って右側に移動しつつダッシュボード107に当たる。すなわち、乗員Dの膝頭Kr,Klは身体に対してずれた状態でニーボルスタ109に当たることとなる。
ここで、乗員Dの膝頭Kr,Klが身体に対してずれた状態でニーボルスタ109に当たった場合、乗員Dが感じる感覚についても異なってくる。図4は、ダッシュボード107への干渉により乗員Dへ入力する荷重を示す説明図であり、(a)は正規の着座姿勢時の様子を示し、(b)は開脚時の様子を示し、(c)は閉脚時の様子を示している。なお、ここでは右膝頭Krに荷重が入力する場合を例に説明する。
これらの図に示すように、右膝頭Krへ入力した荷重は、大腿骨T及び股関節Hを介して骨盤Bへ伝達する。また、これらの図に示すように、正規の着座姿勢時において、乗員Dの骨盤Bに対する大腿骨Tの角度は、θ1となっている。これに対し、開脚時では、乗員Dの骨盤Bに対する大腿骨Tの角度は、θ2となり、正規姿勢時よりも大きくなっている。また、閉脚時では、乗員Dの骨盤Bに対する大腿骨Tの角度は、θ3となり、正規姿勢時よりも小さくなっている。
ここで、車両乗員Dは、自己の背骨方向に加わる荷重に関して衝撃を感じにくいのに対し、背骨から外れる方向に関して衝撃を感じやすくなる傾向にある。このため、車両衝突の際に膝頭Kr,Klがダッシュボード107等に当たった場合、乗員Dは、骨盤に対する大腿骨の角度が小さいときほど、衝撃を感じやすくなってしまう。故に、従来のニーボルスタ109では、乗員Dの姿勢によっては衝撃の緩和が正常な着座姿勢と同等の性能でなくになってしまう可能性がある。
次に、本実施形態に係る乗員保護装置の具体的構成について説明する。図5は、本実施形態に係る乗員保護装置の構成図であり、(a)は全体構成を示し、(b)はシート102の周辺部構成を示し、(c)は車室内全体構成を示している。まず、図5(a)に示すように、本実施形態に係る乗員保護装置1は、衝突検出部10と、姿勢矯正部(姿勢矯正手段)20と、衝撃吸収部(衝撃吸収手段)30とを備えている。
衝突検出部10は、車両の衝突を検出するためのものである。具体的に衝突検出部10は、衝撃及び急激な減速度の少なくとも一方から障害物との接触を検出するセンサにより構成されている。
姿勢矯正部20は、図5(b)に示すように、車両の乗員着座用シート102の略前端下方に配されている。また、姿勢矯正部20は、図5(c)に示すように、エアバッグ21を有している。エアバッグ21は、内部に高圧ガスが噴出されることにより、運転席及び助手席に着座した乗員Dの左右大腿部の間で展開するものである。
衝撃吸収部30は、従来のニーボルスタ109に相当する位置、すなわちシート102より前方で且つ乗員Dの膝頭Kr,Klに向かい合う位置に配されている。また、衝撃吸収部30は、内部にエアバッグ(後述の図7に示す符号31)を有している。このエアバッグ31は、内部に高圧ガスが噴出されることにより、運転席及び助手席に着座した乗員Dの膝頭Kr,Klの前方で展開するものである。
さらに、乗員保護装置1は、衝突検出部10からの信号に基づいて、姿勢矯正部20及び衝撃吸収部30を制御するコントローラ40を備えている。具体的にコントローラ40は、衝突時に損傷を受けにくい車両の中心付近に設置されており、車両衝突時に姿勢矯正部20及び衝撃吸収部30に対しエアバッグ21,31の展開指令信号を送出する構成とされている。
図6は、図5に示した姿勢矯正部20の詳細を示す構成図であり、(a)はエアバッグ21の展開前における断面図であり、(b)はエアバッグ21の展開後における前方斜視図であり、(c)はエアバッグ21の展開後における後方斜視図である。まず、図6(a)に示すように、姿勢矯正部20の内部には、展開可能なエアバッグ21が折り畳まれて格納されている。また、姿勢矯正部20の一側壁(展開側の壁)には、エアバッグ展開用の切欠部20a,20bが形成されている。このため、エアバッグ21は、展開時に切欠部20a,20bに沿って一側壁を突き破るようになっている。
また、切欠部20a,20bが形成される反対側内部には、インフレータ22及び気化材23が設けられている。インフレータ22は、電気配線24を通じてコントローラ40から展開指令信号を入力するようになっている。また、インフレータ22は、展開指令信号を入力すると、気化材23を点火して高圧ガス化させるものである。
気化材23は、エアバッグ21の内部空間につながって配置されている。このため、気化材23は、インフレータ22により点火されると高圧ガスとなってエアバッグ21内に噴出し、エアバッグ21を展開させることとなる。
展開後のエアバッグ21は、図6(c)に示すように、背面側に排気口25が現れるようになる。排気口25は、エアバッグ21の内部ガスを排出するものである。このため、エアバッグ21は、展開後、排気口25からガスが排出されて収縮することとなる。
図7は、図5に示した衝撃吸収部30の詳細を示す構成図であり、(a)は衝撃吸収部30の分解斜視図であり、(b)は衝撃吸収部30の水平断面図であり、(c)はエアバッグ21の展開後における斜視図である。
まず、図7(a)及び(b)に示すように、衝撃吸収部30の内部には、展開可能なエアバッグ31が蛇腹状に折り畳まれて格納されている。このエアバッグ31は中央と左右とがそれぞれ別々に折り畳まれており、左右及び中央の3つのエアバッグ31a〜31cを構成するようになっている。また、これら3つのエアバッグ31a〜31cは、それぞれ別々に折り畳まれているものの、内部空間が連続しており、1気室となっている。
エアバッグ31の背面には衝撃吸収部30を車体に取り付けるための鋼板材32が設けられている。この鋼板材32はエアバッグ31の背面側をカバーする役割を有しており、表面にインフレータ33が設けられている。
インフレータ33は、コントローラ40からの展開指令信号に応じて気化材(図示せず)を高圧ガス化し、発生した高圧ガスをエアバッグ31の内部に噴出するものである。より詳しくはインフレータ33は中央エアバッグ31bの背面に取り付けられている。このため、インフレータ33は中央エアバッグ31bに直接的に高圧ガスを噴出し、左右のエアバッグ31a,31cには中央エアバッグ31bを介して間接的に高圧ガスを流入させることとなる。
また、エアバッグ31の前面には、樹脂材34が設けられている。樹脂材34は、ダッシュボード107と連続的に形成されており、概観上エアバッグ31などの存在を目立たないようにするものである。また、樹脂材34の表面には、溝部34aが形成されている。このため、エアバッグ31は、展開の際に、溝部34aを切り裂いて樹脂材34から飛び出していくこととなる。
また、図7(c)に示すように、展開後において各エアバッグ31a〜31cは略三角柱形状になる。また、図7(c)から明らかなように、エアバッグ31の下面には、内部ガスを排出する排気口35a,35bが設けられている。詳しくは、排気口35a,35bは左右のエアバッグ31a,31cの下面に設けられている。このため、左右エアバッグ31a,31cは中央エアバッグ31bよりも内部ガスを排出しやすいようになっている。
次に、乗員保護装置1の動作の一例を説明する。図8は、本実施形態に係る乗員保護装置1の動作の一例を示すフローチャートである。まず、図8に示すように、コントローラ40は、車両衝突の検出を開始すべく、衝突検出部10に検出開始信号を発する(ST10)。これにより、衝突検出部10は、車両衝突の検出を開始することとなる。その後、コントローラ40は、衝突検出部10からの信号を入力し、これに基づいて車両衝突が発生したか否かを判断する(ST11)。
車両衝突が発生していないと判断した場合(ST11:NO)、コントローラ40は、衝突が発生したと判断するまで、この処理を繰り返すこととなる。一方、車両衝突が発生したと判断した場合(ST11:YES)、コントローラ40は、姿勢矯正部20に対してエアバッグ21の展開指令信号を送出する(ST12)。これにより、姿勢矯正部20のエアバッグ21は展開することとなる。ここで、姿勢矯正部20はシート102の前端下方に設置されている。このため、姿勢矯正部20のエアバッグ21は、シート102の前端下方にて展開して、乗員Dの両膝Kr,Klを身体内側から外側に向けて押し広げることとなる。従って、乗員Dの姿勢が閉脚気味であったりオフセット衝突により両膝Kr,Klが片側にずれたりしても、両膝頭Kr,Klは所定の位置に移動させられることとなる。
その後、コントローラ40は、衝撃吸収部30に対してエアバッグ31の展開指令信号を送出する(ST13)。これにより、衝撃吸収部30のエアバッグ31は展開することとなる。ここで、衝撃吸収部30はシート102の前方且つ両膝頭Kr,Klに向かい合う位置に配されている。このため、衝突の衝撃で乗員Dが前方に移動し、両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に干渉する場合であっても、両膝頭Kr,Klに加わる衝撃は展開したエアバッグ31により緩和されることとなる。
さらに、上記の如く、姿勢矯正部20は、車両衝突の際に、乗員Dの両脚を広げる方向に姿勢矯正して、両膝頭Kr,Klを所定の位置に移動させている。このため、衝撃吸収部30は、姿勢矯正された乗員Dの膝頭Kr,Klに入力する衝撃を緩和することとなる。故に、衝撃吸収部30は、図4(c)に示すように衝撃を感じ易い状態で膝頭Kr,Klを受け止めることがない。このように、乗員保護装置1は、乗員Dにとって衝撃を感じにくい姿勢に矯正したうえで衝撃吸収を行うこととなり、衝撃の緩和が不充分になってしまう事態が生じず、安定した効果を発揮できることとなる。
図9は、車両オフセット衝突時における乗員保護装置1の作用を示す説明図であり、(a)及び(b)は姿勢矯正部20の作動前の様子を示し、(c)及び(d)は姿勢矯正部20の作動後の様子を示し、(e)及び(f)は衝撃吸収部30の作動後の様子を示している。なお、図9(a)、(c)及び(e)はシート102の上方からの様子を示し、図9(b)、(d)及び(f)はシート102の側方からの様子を示している。また、図9においては説明をわかりやすくするために頭部及び胸部を保護するエアバッグ等について図示を省略する。
まず、図9(a)及び(b)に示すように、乗員Dは、正規の状態で着座している。このとき、オフセット衝突が発生したとすると、乗員Dの身体は斜め前方に移動し、且つ両膝頭Kr,Klについても斜め前方に移動する。すなわち、乗員Dは衝撃を感じやすい状態となる。
ところが本実施形態では、図9(c)及び(d)に示すように、衝突時に姿勢矯正部20が作動する。そして、姿勢矯正部20は、乗員Dの膝頭Kr,Klを身体内側から外側に押し広げることとなる。このため、乗員Dの上半身は斜め前方に移動しているものの、両膝頭Kr,Klについては、移動せず、姿勢矯正部20により正規の姿勢のまま保持されることとなる。これにより、たとえ乗員Dの両膝頭Kr,Klが車室内構成物に当たったとしても、衝突に際し乗員Dが感じる衝撃は、比較的抑えられることとなる。
その後、図9(e)及び(f)に示すように、衝撃吸収部30が作動する。そして、衝撃吸収部30の左右エアバッグ31a,31cは、乗員Dの両膝頭Kr,Klを受け止める。このため、乗員Dの姿勢を矯正して乗員Dが感じる衝撃を抑えたうえで、さらに衝撃吸収部30により衝撃を緩和するようにしている。従って、乗員保護装置1は、衝撃の緩和が不充分とならず、安定した効果を発揮できることとなる。
また、図9からも明らかなように、姿勢矯正部20は乗員着座用シート102の略前端下方に配されている。すなわち、乗員Dの両脚の内側に配されていることとなる。このように、姿勢矯正部20は、乗員Dの両膝頭Kr,Klを内側から外側方向へ押し広げやすい位置に配されており、確実に両膝頭Kr,Klを内側から外側方向へ押し広げることができることとなる。
また、姿勢矯正部20のエアバッグ21は、展開後、排気口25からガスが排出されて徐々に収縮するようになる。このため、乗員Dの両膝頭Kr,Klが衝撃吸収部30のエアバッグ31に当たる際には、姿勢矯正部20のエアバッグ21がやや収縮しており、乗員Dは過度な開脚姿勢とならない。
さらに、衝撃吸収部30のエアバッグ31には、排気口35a,35bが設けられている。また、排気口35a,35bは左右のエアバッグ31a,31cの下面に設けられている。このため、中央エアバッグ31bは左右のエアバッグ31a,31cに比して収縮しにくくなっている。故に、衝突後において姿勢矯正部20のエアバッグ21が収縮し、乗員Dの両膝頭Kr,Klが左右に移動可能となったとしても、その移動は中央エアバッグ31bによって規制されるようになる。
図10は、車両正面衝突時における乗員保護装置1の作用の一例を示す説明図であり、(a)及び(b)は乗員保護装置1の作動前の様子を示し、(c)及び(d)は姿勢矯正部20の作動後の様子を示し、(e)及び(f)は衝撃吸収部30の作動後の様子を示している。なお、図10(a)、(c)及び(e)はシート102の上方からの様子を示し、図10(b)、(d)及び(f)はシート102の側方からの様子を示している。また、図10においては説明をわかりやすくするために頭部及び胸部を保護するエアバッグ等について図示を省略する。
まず、図10(a)及び(b)に示すように、乗員Dは、右傾斜した状態で着座している。このとき、正面衝突が発生したとすると、乗員Dの両膝頭Kr,Klは右側へ寄ったままの状態で前方に移動する。すなわち、両膝頭Kr,Klは、衝撃を感じやすい状態で車室内構成物に衝突しようとする。
ところが本実施形態では、図10(c)及び(d)に示すように、衝突時に姿勢矯正部20が作動して、乗員Dの膝頭Kr,Klを身体内側から外側に押し広げる。このため、乗員Dの右膝Krの位置は殆ど矯正されないが、左膝Klは姿勢矯正部20により身体外側に押し広げられることとなる。これにより、たとえ乗員Dの両膝頭Kr,Klが車室内構成物に当たったとしても、衝突に際し乗員Dが感じる衝撃は、比較的抑えられることとなる。
その後、図10(e)及び(f)に示すように、衝撃吸収部30が作動する。そして、衝撃吸収部30の左右エアバッグ31a,31cは、乗員Dの両膝頭Kr,Klを柔らかく受け止める。このため、乗員Dの姿勢を矯正して乗員Dが感じる衝撃を抑えたうえで、さらに衝撃吸収部30により衝撃を緩和することとなる。従って、乗員保護装置1は、衝撃の緩和が不充分とならず、安定した効果を発揮できることとなる。
また、姿勢矯正部20は両膝頭Kr,Klの確実な押し広げが可能となっていると共に、乗員Dは過度な開脚姿勢とならないようになっている。さらに、衝撃吸収部30のエアバッグ31は、乗員Dの両膝頭Kr,Klの左右への移動を規制するようになっている。
図11は、車両正面衝突時における乗員保護装置1の作用の他の例を示す説明図であり、(a)及び(b)は乗員保護装置1の作動前の様子を示し、(c)及び(d)は姿勢矯正部20の作動後の様子を示し、(e)及び(f)は衝撃吸収部30の作動後の様子を示している。なお、図11(a)、(c)及び(e)はシート102の上方からの様子を示し、図11(b)、(d)及び(f)はシート102の側方からの様子を示している。また、図11においては説明をわかりやすくするために頭部及び胸部を保護するエアバッグ等について図示を省略する。
まず、図11(a)及び(b)に示すように、乗員Dがタイトスカートを着用しているなどの理由から、閉脚姿勢で着座しているとする。そして、正面衝突が発生したとすると、乗員Dの両膝頭Kr,Klは身体と共に前方に移動する。すなわち、両膝頭Kr,Klは、衝撃を感じやすい状態で車室内構成物に衝突しようとする。
ところが本実施形態では、図11(c)及び(d)に示すように、衝突時に姿勢矯正部20が作動して、乗員Dの膝頭Kr,Klを身体内側から外側に押し広げる。このため、たとえ乗員Dの両膝頭Kr,Klが車室内構成物に当たったとしても、衝突に際し乗員Dが感じる衝撃は、比較的抑えられることとなる。
その後、図11(e)及び(f)に示すように、衝撃吸収部30が作動する。そして、衝撃吸収部30の左右エアバッグ31a,31cは、乗員Dの両膝頭Kr,Klを受け止めることとなる。このため、乗員Dの姿勢を矯正して乗員Dが感じる衝撃を抑えたうえで、さらに衝撃吸収部30により衝撃を緩和することとなる。従って、乗員保護装置1は、衝撃の緩和が不充分とならず、安定した効果を発揮できることとなる。
また、姿勢矯正部20は両膝頭Kr,Klの確実な押し広げが可能となっていると共に、乗員Dは過度な開脚姿勢とならないようになっている。さらに、衝撃吸収部30のエアバッグ31は、乗員Dの両膝頭Kr,Klの左右への移動を抑制するようになっている。
以上の図9〜図11の説明からも明らかなように、乗員保護装置1は、オフセット衝突が発生した場合や、乗員Dが正規の姿勢で着座していない場合であっても、乗員保護に関し安定的な効果を発揮することができる。
このようにして、第1実施形態に係る乗員保護装置1によれば、姿勢矯正部20は車両衝突の際に乗員Dの両脚を広げる方向に姿勢矯正している。このため、例えばオフセット衝突などのように、衝突に際して車両横方向に加速度が加わって乗員Dの膝頭Kr,Klが身体内側に移動してしまう場合であっても、内側への移動を規制することができる。さらに、乗員Dの膝頭Kr,Klが内側にある場合には、外側へ押し広げるように矯正することができる。
また、衝撃吸収部30は姿勢矯正部20により姿勢矯正された乗員Dの両膝Kr,Klへ入力する衝撃を緩和している。このため、衝撃吸収部30は、適度に押し広げられた両膝Kr,Klへ入力する衝撃を緩和することとなる。すなわち、両膝頭Kr,Klが適度に押し広げられることにより衝撃が抑えられ、さらに衝撃吸収部30により衝撃を吸収して、乗員Dに入力する衝撃を緩和するようにしている。故に、衝突時に乗員Dの膝頭Kr,Klが身体内側に移動しようとし、又は乗員Dの膝頭Kr,Klがもともと身体内側にあったとしても、衝撃吸収部30によって不充分にしか衝撃を緩和できなくなるという事態の発生を軽減することができる。
従って、安定した効果を期待できる乗員保護装置を提供することができる。
また、姿勢矯正部20は乗員着座用シートの略前端下方に配されている。このため、姿勢矯正部20は、確実に乗員Dの両膝Kr,Klを内側から外側方向へ押し広げることができる。すなわち、乗員Dの両膝Kr,Klを内側から外側に押し広げるためには姿勢矯正部20が乗員Dの両脚の内側にあることが望ましいところ、本実施形態では内側の位置に設けられているため、確実に両膝頭Kr,Klを外側に押し広げることができる。
また、姿勢矯正部20のエアバッグ21は、展開後、ガスが排出されて徐々に収縮するようになる。このため、乗員Dの両膝頭Kr,Klが衝撃吸収部30のエアバッグ31に当たる際には、姿勢矯正部20のエアバッグ21がやや収縮することとなる。従って、乗員Dを、過度な開脚姿勢とせず、適度な開脚姿勢とすることができる。
また、衝撃吸収部30は中央及び左右のエアバッグ31a〜31cを有し、左右のエアバッグ31a,31cには排気口35a,35bが設けられている。このため、左右のエアバッグ31a,31cは内部ガスを排出しながら乗員Dの両膝頭Kr,Klを柔らかく受け止めるようになっている。また、中央エアバッグ31bは収縮しにくくなっており、車両衝突後において姿勢矯正部20のエアバッグ21が収縮し、乗員Dの両膝頭Kr,Klが左右に移動可能となったとしても、その移動は中央エアバッグ31bによって規制される。従って、開脚状態を維持することができる。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る乗員保護装置2は、第1実施形態のものと同様であるが、新たに姿勢検出部、着座位置検出部及び衝突予測部を備える点で、第1実施形態のものと異なっている。また、姿勢矯正部20及び衝撃吸収部30の構成も一部異なっている。さらには、コントローラ40の処理内容も一部異なっている。
以下、第1実施形態との相違点について説明する。図12は、第2実施形態に係る乗員保護装置2の構成図であり、(a)は全体構成を示し、(b)はシート102の周辺部構成を示し、(c)は車室内全体構成を示している。
図12(a)及び(c)に示すように、姿勢検出部(姿勢検出手段)50は、乗員Dの着座姿勢を検出するためのものであり、着座した乗員Dの略上方もしくは略前方に配されている。また、姿勢検出部50は、超音波ソナーにて構成されている。このソナーは、送信器と受信器とにより構成され、送信器から超音波を発し、跳ね返ってきた超音波を受信器にて受信して、信号レベルを検出するものである。また、信号レベルは、早くに跳ね返ってきたものほど高く、乗員Dの膝頭Kr,Klの位置にて跳ね返った場合に高い値が得られる。故に、姿勢検出部50は、乗員Dの両膝頭Kr,Klを検出できるようになっている。さらに、姿勢検出部50は、コントローラ40に接続されており、計測した信号レベルの情報をコントローラ40に伝える構成とされている。
また、図12(a)及び(b)に示すように、着座位置検出部(位置検出手段)60は、乗員Dの着座位置を検出するためのものである。具体的に、着座位置検出部60は、圧力センサが用いられ、シート102の座面102bに設けられている。また、着座位置検出部60は、荷重が加わると、その荷重を電気信号に変換して計測するものである。この着座位置検出部60としては、小型のロードセルを2次元状に配置したものが用いられ、着座面のうち最も圧力が高い部分(荷重が加わる部分)を検出できる構成とされている。ここで、圧力は乗員Dの坐骨下面に相当する位置で最も高くなる。故に、着座位置検出部60は、坐骨位置を検出できるようになっている。さらには、着座位置検出部60は、コントローラ40に接続されており、圧力が最も高くなる部分の情報をコントローラ40に伝える構成とされている。
また、図12(a)に示す衝突予測部70は、障害物との接近をレーダにより検出し、車両の衝突を予測するためのものである。また、衝突予測部70は、第1実施形態に示した衝突検出部10と同様に車両が衝突したときには、その衝突を検出することも可能となっている。さらに衝突予測部70は、乗員Dの運転操作、具体的にブレーキペダル105bを操作したか否かを検出することも可能となっている。
図13は、第2実施形態の姿勢矯正部20の詳細を示す構成図であり、(a)は姿勢虚勢部20の断面図であり、(b)は姿勢矯正部20の作動例を示す斜視図である。また、(c)は姿勢矯正部20の他の作動例を示す斜視図である。
まず、図13(a)に示すように、姿勢矯正部20は、左右に2つのエアバッグ26a,26bを含み、それぞれのエアバッグ26a,26bを収納するように2分割された対象構造になっている。
エアバッグ26a,26bは、ゴム等の超弾性の素材が用いられており、内部にガスが供給されていないときには収縮して折り畳まれることなく格納されている。両エアバッグ26a,26bの中間部には、高圧ガス封入ボンベ27が装備されている。この高圧ガス封入ボンベ27は、配管28a,28bを通じてエアバッグ26a,26bの内部につながっている。また、配管28a,28bは、姿勢矯正部20の外部へも通じており、外部への排気管としての役割を果たしている。
さらに、配管28a,28bの中間部、具体的に高圧ガス封入ボンベ27とエアバッグ26a,26bとの間には、封入弁29a1,29b1が設けられている。この封入弁29a1,29b1は、ボンベ27からエアバッグ26a,26bへ流れ込む高圧ガスの量を制御する機能を有している。
また、配管28a,28bの中間部、具体的にエアバッグ26a,26bと外部との間には、排出弁29a2,29b2が設けられている。この排出弁29a2,29b2は、エアバッグ26a,26b内部から外部へ排出される高圧ガスの量を制御する機能を有している。
また、これら弁29は、コントローラ40に電気的に接続されており、コントローラ40からの信号により開閉制御されるようになっている。そして、双方の封入弁29a1,29b1が開動作することにより、エアバッグ26a,26bは、高圧ガスを導入して図13(b)に示すように膨張する。一方、双方の封入弁29a1,29b1が閉動作し、且つ双方の排出弁29a2,29b2が開動作すると、エアバッグ26a,26bは、図13(a)に示すように収縮する。
また、姿勢矯正部20の一側壁(エアバッグ26a,26bが膨張して飛び出していく側)には、切欠部20a,20bが形成されている。このため、エアバッグ26a,26bは、膨張時に切欠部20a,20bを突き破って飛び出していくようになっている。また、一側壁は、高弾性樹脂により形成されている。このため、エアバッグ26a,26bが切欠部20a,20bを突き破って膨張した場合、一側壁は、図13(b)に示すように弾性変形するのみで、破壊されることはない。そして、一側壁は、エアバッグ26a,26bから高圧ガスが排出されると、再度、図13(a)に示すように収縮したエアバッグ26a,26bを格納するようになっている。
また、高圧ガス封入ボンベ27は、エアバッグ26a,26bを複数回膨張させるだけのガス量が封入されている。従って、第2実施形態の姿勢矯正部20は、複数回膨張可能であり、複数回の姿勢矯正ができるようになっている。
また、エアバッグ26a,26bは、双方のみでなく一方のみが膨張可能となっている。すなわち、エアバッグ26a,26bは、コントローラ40により封入弁29a1,29b1のうちいずれか一方が開動作されることにより、一方のみの膨張が可能となっている。例えば、図13(c)に示すように、一方のエアバッグ26aのみが膨張可能となっている。そして、エアバッグ26a,26bは、一方のみが膨張することにより、乗員Dの片脚のみを姿勢矯正することが可能となっている。
図14は、第2実施形態の衝撃吸収部30の詳細を示す構成図であり、(a)は衝撃吸収部30の分解斜視図であり、(b)は衝撃吸収部30の水平断面図であり、(c)はエアバッグ21の膨張後における斜視図である。
まず、図14(a)及び(b)に示すように、第2実施形態の衝撃吸収部30は、第1実施形態と同様に、中央及び左右の3つのエアバッグ31a〜31cが蛇腹状に折り畳まれて収納されている。但し、第2実施形態において、これらのエアバッグ31a〜31cは、1気室を成すことなく、それぞれ独立の気室を構成している。
また、鋼板材32には、3つのエアバッグ31a〜31cに対応して、3つインフレータ33a〜33cが設けられている。すなわち、左エアバッグ31aの背面に、3つインフレータ33a〜33cのうち1つが設けられ、中央エアバッグ31bの背面にも、3つインフレータ33a〜33cのうち1つが設けられている。さらに右エアバッグ31cについても同様である。このため、各エアバッグ31a〜31cは、それぞれのインフレータ33a〜33cによりガスが噴出されて、独立に展開可能となっている。従って、例えば中央エアバッグ31bを左右のエアバッグ31a,31cよりも早くに展開させるなど、それぞれ独立した制御が可能となっている。
また、例えば、各エアバッグ31a〜31cがそれぞれのインフレータ33a〜33cによりガスが噴出されるため、エアバッグ31a〜31cそれぞれの内圧を変えることも可能である。すなわち、左右のエアバッグ31a,31cについては、乗員Dの両膝頭Kr,Klを柔らかく受け止めるために比較的内圧を小さくし、中央エアバッグ31bについては、両膝頭Kr,Klの横方向の移動を規制するために比較的内圧を高くすることが可能である。
また、図14(c)に示すように、展開後において各エアバッグ31a〜31cは第1実施形態と同様に略三角柱形状になる。また、図14(c)からの明らかなように、各エアバッグ31の下面には、内部ガスを排出する排気口35a〜35cがそれぞれ設けられている。すなわち、第1実施形態と異なり、第2実施形態では左右のエアバッグ31a,31cの下面のみでなく、中央エアバッグ31bの下面にも排気口35cが設けられている。
また、中央エアバッグ31bの排気口35cは、左右エアバッグ31a,31cの排気口35a,35bより径が小さくされている。このため、中央エアバッグ31bは、左右のエアバッグ31a,31cよりも内部ガスを排出しにくいようになっている。
また、コントローラ40は、姿勢検出部50及び着座位置検出部60からの信号により、乗員Dの開脚度を検知することが可能となっている。図15は、乗員Dの開脚度の説明図であり、(a)は正規の着座姿勢での開脚度を示し、(b)は開脚姿勢での開脚度を示している。また、(c)は閉脚姿勢での開脚角度を示し、(d)は右側傾斜姿勢での開脚角度を示している。
まず、これらの図においては、着座位置検出部60にて検出された荷重のうち最大荷重点をHa,Hbとしている。また、最大荷重点Ha,Hbは、上記した如く、乗員Dの坐骨位置に相当する箇所で検出される。ここで、本図では、右側の坐骨に相当する位置がHaとされ、左側の坐骨に相当する位置はHbとされている。
図15(a)に示す例の場合、乗員Dは正規の姿勢で着座している。このとき、開脚度Φr,Φlは、検出された乗員Dの膝位置Kr,Klと、坐骨位置Ha,Hbとを結ぶ線分から求めることができる。具体的に、右脚の開脚度Φrについては、右側の坐骨位置Haから乗員Dの右膝の位置Krに向かう方向と、車両前方方向とが為す角を求めることにより得ることができる。また、左脚の開脚度Φlについては、左側の坐骨位置Hbから左膝の位置Klに向かう方向と、車両前方方向とが為す角を求めることにより算出することができる。
また、コントローラ40は、開脚度を求めた後、乗員Dが開脚、閉脚、及び左右の傾斜などのいずれの姿勢にあるかを、比較処理を行って求めることが可能となっている。まず、図15(a)に示した正規の着座姿勢での開脚度Φr、Φlを基準開脚度とする。また、本実施形態のコントローラ40は、基準開脚度Φr,Φlを予め記憶しているものとする。
例えば、図15(b)に示すように乗員Dが開脚姿勢となっているとする。このとき、乗員Dの膝位置Kr,Klは、正規の姿勢時よりも身体外側にある。このため、開脚姿勢時における開脚度θr,θlと基準開脚度Φr,Φlとは、θr>Φr,θl>Φlの関係が成立するようになっている。コントローラ40は、比較処理により、このような関係が導き出された場合に、乗員Dが開脚姿勢であると判断する。
また、図15(c)に示す例の場合、乗員Dが閉脚姿勢となっている。このとき、乗員Dの膝位置はKr,Klは、両者とも正規の姿勢時より身体内側にある。このため、閉脚姿勢時における開脚度θr,θlと基準開脚度Φr,Φlとは、θr<Φr,θl<Φlの関係が成立するようになっている。すなわち、コントローラ40は、この関係が得られると、乗員Dが閉脚姿勢であると判断する。
また、図15(d)に示す例の場合、乗員Dが右側傾斜姿勢となっている。このとき、乗員Dの右膝位置Krは、正規の姿勢時の右膝位置より身体外側にある。一方、乗員Dの左膝位置Klは、正規の姿勢時の左膝位置より身体内側にある。このため、右傾斜姿勢時における開脚度θr,θlと基準開脚度Φr,Φlとは、θr>Φr,θl<Φlの関係が成立するようになっている。そして、コントローラ40は、この関係から乗員Dが右側傾斜姿勢であると判断する。
次に、第2実施形態に係る乗員保護装置2の動作を説明する。図16は、第2実施形態に係る乗員保護装置2の動作の一例を示すフローチャートである。まず、コントローラ40は、着座位置検出部60に検出開始信号を送信する(ST20)。これにより、着座位置検出部60は、最大荷重点Ha,Hbを求めることとなる。その後、コントローラ40は、姿勢検出部50に検出開始信号を送信する(ST21)。これにより、姿勢検出部50は、乗員Dの膝位置Kr,Klを検出することとなる。
そして、コントローラ40は、衝突予測部70に検出開始信号を送信する(ST22)。これにより、衝突予測部70は、衝突の予測及び検出を開始する。そして、コントローラ40は、衝突予測部70からの信号に基づいて車両衝突を検出及び予測することとなる。その後、コントローラ40は、衝突予測部70からの信号に基づいて車両衝突が予測されたか否かを判断する(ST23)。
車両衝突が予測されていないと判断した場合(ST23:NO)、コントローラ40は、衝突を予測したと判断するまで、この処理を繰り返すこととなる。一方、車両衝突が予測されたと判断した場合(ST23:YES)、コントローラ40は姿勢矯正判断処理を実行する(ST24)。
ここで、姿勢矯正判断処理とは、双方のエアバッグ26a,26bのうちいずれを膨張させて姿勢矯正するかを判断する処理である。すなわち、まず、コントローラ40は、ステップST20,ST21において検出を開始した最大荷重点Ha,Hbと両膝位置Kr,Klとから開脚度θr,θlを求める。その後、コントローラ40は、求めた開脚度θr,θlと予め記憶する基準開脚度Φr,Φlとを比較して大小関係を判断する。
ここで、例えば、コントローラ40は、θr>Φrが成立している場合、既に乗員Dの右膝Krは正規の位置よりも外側に位置することから、姿勢矯正しないと判断する。また、コントローラ40は、θr=Φrが成立している場合、乗員Dの右膝Krは正規の位置となっているが、今後右膝頭Krが身体内側に移動する可能性があるため、エアバッグ26aを膨張させると判断する。さらに、コントローラ40は、θr<Φrが成立している場合、乗員Dの右膝Krは正規の位置よりも内側に位置することから、外側に押し広げるべく、エアバッグ26aと膨張させると判断する。また、コントローラ40は、左膝Klについても同様にして姿勢矯正の可否を決定する。
さらには、コントローラ40は、ステップST24の姿勢矯正判断処理において、ブレーキペダル105bの操作の有無を判断し、姿勢矯正の可否を決定する。すなわち、コントローラ40は、ブレーキペダル105bが操作されているか否かを衝突予測部70からの信号によって判断する。そして、コントローラ40は、ブレーキペダル105bが操作されていると判断した場合、ブレーキ操作の邪魔とならないようにするために、姿勢矯正しないと判断する。なお、乗員Dは、ブレーキペダル105bを右脚にて操作することから、ブレーキペダル105bが操作されている場合には、右脚について姿勢矯正しないこととなる。
そして、以上の判断を行った後、コントローラ40は、上記の判断結果に応じて姿勢矯正部20を作動させる(ST25)。このように、第2実施形態においてコントローラ40は、姿勢検出部50及び着座位置検出部60からの信号に基づいて姿勢矯正部20を制御することとなる。すなわち、乗員姿勢を検出して姿勢矯正部20を制御することとなり、乗員姿勢に応じた適切な姿勢矯正が行えることとなる。また、コントローラ40は、姿勢検出部50及び着座位置検出部60からの信号に基づいて開脚度θr,θlを求めて姿勢矯正部20を制御している。このため、衝突の際に両膝頭Kr,Klから入力する衝撃が自己の背骨方向に加わるものであるか否かを容易に判断でき、一層適切な姿勢矯正を行うことができる。
また、第2実施形態においてコントローラ40は、衝突予測部70からの信号により姿勢矯正部20を制御していることとなる。このように、衝突前に姿勢矯正部20を制御することにより、乗員Dを望ましい姿勢とし又は望ましい姿勢を維持するようにして、衝撃吸収を確実且つ充分に行うことができるようにしている。
再度、フローチャートを説明する。姿勢矯正後、コントローラ40は、衝突予測部70からの信号に基づいて車両衝突が発生したか否かを判断する(ST26)。車両衝突が発生していないと判断した場合(ST26:NO)、コントローラ40は、姿勢矯正を解除する(ST27)。すなわち、コントローラ40は、ステップST24において作動させると判断し、且つステップST25において実際に膨張させたエアバッグ26a,26bを収縮させることとなる。そして、処理はステップST23に戻る。
一方、車両衝突が発生したと判断した場合(ST26:YES)、コントローラ40は姿勢矯正部20を作動させる(ST28)。このとき、コントローラ40は、ステップST25にて膨張させていないエアバッグ26a,26bを膨張させることとなる。すなわち、コントローラ40は、乗員Dが開脚姿勢であったとしても、またブレーキペダル105bを操作していたとしても、エアバッグ26a,26bを膨張させて姿勢矯正を行うこととなる。
その後、コントローラ40は、衝撃吸収部30を作動させる(ST29)。これにより、乗員Dの両膝頭Kr,Klは柔らかく受け止められることとなる。そして、処理は終了する。
なお、上記の処理において、コントローラ40は、衝突予測部70からの信号により衝突を予測した場合に、衝撃吸収部30の作動準備を行うようにすることが望ましい。例えば、上記の処理において、衝撃吸収部30は、衝突検知後にコントローラ40からの信号によって作動するようになっている(ステップST26,ST29)。このため、乗員Dの両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に近接している場合には、衝撃吸収部30のエアバッグ31が完全に展開する前に両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に当たってしまう可能性がある。そこで、これを防止するためにコントローラ40は、衝突予測部70からの信号により衝突を予測し、その衝突が確実である場合には、衝突が発生する少し前であっても衝撃吸収部30を作動させるようにする。これにより、たとえ両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に近接していたとしても、衝撃の吸収を確実に行うことができる。
次に、図16に示したフローチャートを図17及び図18を参照して更に説明する。図17は、車両正面衝突時における乗員保護装置2の作用を示す説明図であり、(a)及び(b)は乗員保護装置2の作動前の様子を示し、(c)及び(d)は衝突予測時における乗員保護装置2の様子を示し、(e)及び(f)は衝突回避後における乗員保護装置2の様子を示している。なお、図17(a)、(c)及び(e)はシート102の上方からの様子を示し、図17(b)、(d)及び(f)はシート102の側方からの様子を示している。また、図17においては説明をわかりやすくするために頭部及び胸部を保護するエアバッグ等について図示を省略する。
まず、図17(a)及び(b)に示すように、乗員Dは、右傾斜した状態で着座している。このとき、正面衝突が発生したならば、乗員Dの両膝頭Kr,Klは右側へ寄ったままの状態で前方に移動し、左膝頭Klのみが衝撃を感じやすい状態で車室内構成物に干渉してしまう。
そこで、衝突予測時においてコントローラ40は、開脚度θr,θlと基準開脚度Φr,Φlとを比較する。そして、図17(c)及び(d)に示すように、エアバッグ26bのみを膨張させて、衝撃を感じやすい状態となっている左膝頭Klのみの姿勢矯正を行うようにする。このように、図16に示したステップST25では、開脚度θr,θlを判断することで必要な部分のみを矯正することができる。
その後、衝突が回避されたとすると、コントローラ40は、図17(e)及び(f)に示すように、エアバッグ26bを収縮させる。なお、乗員Dの姿勢は、エアバッグ26bが収縮したとしても、正規姿勢ままの状態となる。
図18は、車両正面衝突時における乗員保護装置2の作用を示す説明図であり、(a)は作動前の乗員保護装置2の様子を示し、(b)は衝突する直前の乗員保護装置2の様子を示している。また、(c)は衝突直後の乗員保護装置2の様子を示し、(d)は乗員Dの両膝頭Kr,Klが前方に移動してきたときの乗員保護装置2の様子を示している。
まず、乗員Dは運転中に前方の障害物を確認したとする。このとき、乗員Dは衝突を避けようとして、図18(a)に示すように、ブレーキペダル105bを操作する。
そして、衝突予測部70が車両の衝突を予測すると、図18(b)に示すように、姿勢矯正部20が作動する。このとき、乗員Dは衝突を回避しようとしてブレーキペダル105bを操作している。故に、図16のステップST24において説明したように、右膝Krは正規位置よりも身体内側に位置しているが、姿勢矯正されることなく、左膝Klのみが姿勢矯正されることとなる。
その後、車両が障害物と正面衝突したとする。このとき、図18(c)に示すように、姿勢矯正部20が作動し、図18(b)の時点において作動していなかったエアバッグ26aが膨張することとなる。すなわち、図16のステップST25において膨張していなかったエアバッグ26aがコントローラ40からの信号により膨張させられることとなる。
その後、衝突の衝撃により乗員Dの身体は車両前方に移動する。しかし、コントローラ40からの信号により衝撃吸収部30が作動するため、乗員Dの両膝頭Kr,Klは、衝撃吸収部30のエアバッグ31により柔らかく受け止められることとなる。
このようにして、第2実施形態に係る乗員保護装置2によれば、第1実施形態と同様に、安定した効果を期待できる乗員保護装置を提供することができる。
また、確実に両膝頭Kr,Klを外側に押し広げることができ、過度な開脚姿勢とならないようにすることができ、好適に乗員Dを保護することができる。
さらに、本実施形態では、乗員Dの着座姿勢を検出する姿勢検出部50からの信号に基づいて姿勢矯正部20を制御している。このため、乗員Dの姿勢に応じて姿勢矯正することができ、後の衝撃吸収を効果的に行うことが可能となる。従って、姿勢に応じて好適に乗員Dを保護することができる。
特に、本実施形態では、姿勢検出部50及び着座位置検出部60からの信号に基づいて開脚度θr,θlを求め、開脚度θr,θlをもとに姿勢矯正部20を制御している。このため、衝突の際に両膝頭Kr,Klへ入力する衝撃が自己の背骨方向に加わるものであるか否かを容易に判断でき、一層適切な姿勢矯正を行うことができる。
また、車両の衝突を予測する衝突予測部70からの信号により姿勢矯正部20及び衝撃吸収部30を制御している。このため、衝突前に姿勢矯正部20を制御することにより、乗員Dを望ましい姿勢とし又は望ましい姿勢を維持して、衝撃吸収を確実且つ充分に行うことができるようにしている。また、乗員Dの両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に近接している場合には、衝撃吸収部30のエアバッグ31が完全に展開する前に両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に当たってしまう可能性がある。ところが、衝突前に衝撃吸収部30を制御することにより、衝突が発生する少し前に衝撃吸収部30を作動させるなどが可能となり、衝撃の吸収を確実に行うことができるようになる。
従って、乗員保護効果を高めることができる。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る乗員保護装置3は、第2実施形態のものと同様であるが、コントローラ40の処理内容が一部異なっている。
図19は、第3実施形態に係る乗員保護装置3の動作の一例を示すフローチャートである。まず、図19に示すステップST30〜ST37の処理は、図16に示すステップST20〜ST27の処理と同様であるため説明を省略する。
コントローラ40は、車両衝突が発生したと判断した場合(ST36:YES)、姿勢矯正判断処理を実行する(ST38)。このとき、コントローラ40は、膨張させていないエアバッグ26a,26bを新たに膨張させるのではなく、再度開脚度θr,θlに基づいてエアバッグ26a,26bを膨張させるか否かを決定する。すなわち、コントローラ40は、図16に示したステップST25と同様の処理を行う。
その後、コントローラ40は、姿勢矯正部20を作動させる(ST39)。そして、コントローラ40は、着座位置検出部60からの信号に基づいて乗員Dの坐骨位置Ha,Hbを求める。そして、コントローラ40は、着座位置判断処理を行う(ST40)。その後、コントローラ40は、着座位置判断処理に基づいて衝撃吸収部30を作動させる(ST41)。そして、処理は終了する。
図20は、図19に示した着座位置判断処理(ST40)及びその処理に基づく衝撃吸収部30の作動タイミングの説明図であり、(a)は車両衝突前の車室内の様子を示し、(b)は衝突直後の車室内の様子を示している。また、(c)は衝突から一定時間経過後の車室内の様子を示している。
なお、これらの図においては、ダッシュボード107から乗員Dの坐骨位置Ha,Hbまでの距離をLとしている。また、衝撃吸収部30を作動させる臨界距離をL0としている。ここで、この臨界距離L0とは衝撃吸収部30を作動させる最低距離である。このため、上記距離Lが臨界距離L0より短くなった場合には、衝撃吸収部30を作動させたとしてもエアバッグ31の展開が間に合わず、乗員Dの両膝頭Kr,Klを充分に保護しきれないこととなる。
まず、図20(a)に示すように、車両の衝突前では、乗員Dはシート102に深く座っており、距離Lは臨界距離L0よりも長い。その後、車両衝突が発生したとすると、姿勢矯正部20のエアバッグ26a,26bが膨張すると共に、乗員Dの身体は衝突による慣性力により前方に移動する。また、これに伴って、坐骨位置Ha,Hbが前方に移動する。
ここで、距離Lが臨界距離L0よりも長い場合、すなわちL>L0の関係が成立している場合、コントローラ40は、図19のステップST40において、衝撃吸収部30を作動させるべきタイミングでないと判断する。
その後、図20(b)に示す如く、距離Lは臨界距離L0に近づく。このとき、距離Lが臨界距離L0とほぼ等しくなる。すなわち、L=L0の関係が成立する。このような場合、コントローラ40は、図19のステップST40において、衝撃吸収部30を作動させるべきと判断する。そして、コントローラ40は、衝撃吸収部30を作動させて、エアバッグ31を展開させることとなる。
その後、乗員Dの身体が更に前方に移動し、L<L0の関係が成立する。この場合、衝撃吸収部30のエアバッグ31を展開させたとしても、乗員Dの両膝頭Kr,Klの保護は間に合わない。ところが、上記したように、コントローラ40は、L=L0の関係が成立した時点で、衝撃吸収部30のエアバッグ31は展開させている。
このため、乗員Dの両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に近づいたとしても、エアバッグ31は、既に展開した状態となっており、乗員Dの両膝頭Kr,Klを充分に保護できることとなる。また、早すぎるタイミングで衝撃吸収部30のエアバッグ31を膨張させたことにより、エアバッグ31が早めに収縮してしまい、充分に衝撃を吸収できなくなることがない。
なお、図20において臨界距離L0は、平均体格を有する成人男性の脚長に基づいて臨界距離L0を定めている。しかし、乗員Dの体格やシート位置を検出して臨界距離L0を定めるようにしてもよい。
このようにして、第3実施形態に係る乗員保護装置3によれば、第2実施形態と同様に、安定した効果を期待できる乗員保護装置を提供することができる。また、確実に両膝頭Kr,Klを外側に押し広げることができ、過度な開脚姿勢とならないようにすることができ、好適に乗員Dを保護することができる。
また、姿勢に応じて好適に乗員Dを保護することができ、乗員保護効果を高めることができる。
さらに、本実施形態では、コントローラ40は、着座位置検出部60からの信号、すなわち坐骨位置Ha,Hbに基づいて衝撃吸収部30の作動を制御している。このため、衝突後の坐骨位置Ha,Hbの移動状態に基づいて衝撃吸収部30を最適なタイミングで作動させることができる。例えば、衝撃吸収部30が両膝頭Kr,Klを受け止めるに際して、両膝頭Kr,Klがダッシュボード107に近接したときにエアバッグ31が完全に展開しているようにすることができる。このため、確実に、乗員Dの両膝頭Kr,Klを保護することができる。また、早すぎるタイミングで衝撃吸収部30のエアバッグ31を展開させたことにより、エアバッグ31が早めに収縮してしまい、充分に衝撃を吸収できなくなることがない。
さらに、第2実施形態でも説明したように、コントローラ40は、着座位置検出部60からの信号により姿勢矯正部20の作動を制御している。具体的に、コントローラ40は、着座位置検出部60からの信号により開脚度θr,θlを求め、この開脚度θr,θlに基づいて姿勢矯正部20を制御している。このため、衝突の際に両膝頭Kr,Klから入力する衝撃が自己の背骨方向に加わるものであるか否かを容易に判断でき、一層適切な姿勢矯正を行うことができる。
従って、着座位置検出部60からの信号により姿勢矯正部20及び衝撃吸収部30の作動を制御することで、様々な姿勢や体格等の乗員Dに対して効率良く姿勢矯正及び衝撃吸収を行うことができる。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各実施形態を組み合わせてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。例えば、衝突予測部70は、それ自体が衝突を予測してもよいし、衝突を予測せずに、衝突の予測に必要な信号のみをコントローラ40に出力するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、衝突発生後に坐骨位置Ha,Hbから距離Lを判断して、衝撃吸収部30の作動タイミングを決定していたが、坐骨位置Ha,Hbに限らず、両膝位置Kr,Klを検出して衝撃吸収部30の作動を制御してもよい。この場合であっても、衝突後の両膝頭Kr,Klの移動状態に基づいて衝撃吸収部30を最適なタイミングで作動させることができ、効果的に乗員Dに加わる衝撃を緩和することができる。
また、坐骨位置Ha,Hbや両膝頭Kr,Klの位置に限らず、開脚度θr,θlを検出して衝撃吸収部30の作動を制御してもよい。例えば、同じだけエアバッグ26a,26bを膨張させたとしても、大柄な乗員Dと小柄な乗員Dとでは、膨張後の開脚度θr,θlが異なってくる。すなわち、大柄な乗員Dの場合には、開脚度θr,θlが小さくなりすぎる傾向にある。そして、開脚度θr,θlが小さくなりすぎた場合には、衝撃吸収が充分に行えなくなる可能性がある。そこで、例えば、車両衝突後の開脚度θr,θlに応じてエアバッグ31の内圧を調整することとする。これにより、衝撃吸収が不充分となることがなく、効果的に乗員Dに加わる衝撃を緩和することができる。
また、上記実施形態では、姿勢矯正部20が乗員姿勢を矯正すると、両膝頭Kr,Klが正規の位置に移動するという前提のもとに成されたものである。ところが、実際の姿勢矯正では、乗員Dの緊張状態によって両膝頭Kr,Klが正規の位置に移動するか否かが異なってくる。すなわち、乗員Dが緊張状態にあり、脚に力を入れている場合などには、両膝頭Kr,Klを正規の位置へ移動できない場合がある。このため、姿勢矯正後に、再度乗員姿勢を検出して衝撃吸収部30を制御することが望ましい。これにより、たとえ乗員Dが緊張状態にあって、両膝頭Kr,Klが正規の位置に移動しなくとも、その移動しなかった分については衝撃吸収部30の内圧等を調整することにより、補うことができる。従って、一層適格に乗員Dに加わる衝撃を緩和することができる。