JP2005015677A - ポリエステル系樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】成形加工性および機械的特性に優れ、しかもシャープなノッチに対しても高い衝撃強度を有するポリエステル系樹脂組成物ならびにかかるポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品を提供すること。
【解決手段】(A)ポリエステル系樹脂100重量部に対して、(B)ポリオレフィン系樹脂5〜80重量部、(C)スチレン系エラストマー3〜80重量部、(D)相溶化剤0.1〜50重量部及び(E)ポリカーボネート系樹脂0〜100重量部を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、好ましくは40kJ/m2であるポリエステル系樹脂組成物および該ポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品である。
【選択図】 図1
【解決手段】(A)ポリエステル系樹脂100重量部に対して、(B)ポリオレフィン系樹脂5〜80重量部、(C)スチレン系エラストマー3〜80重量部、(D)相溶化剤0.1〜50重量部及び(E)ポリカーボネート系樹脂0〜100重量部を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、好ましくは40kJ/m2であるポリエステル系樹脂組成物および該ポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル系樹脂組成物に関し、詳しくは、(A)ポリエステル系樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂、(C)スチレン系エラストマーおよび(D)相溶化剤を必須成分とし、(E)ポリカーボネート系樹脂を任意成分とする耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度に優れた、しかも溶融成形性および常温下における塑性加工性が良好なポリエステル系樹脂組成物、ならびに該ポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTということがある)に代表されるポリエステル系樹脂は、機械的強度、耐薬品性、ガスバリヤ性、耐熱性、電気絶縁性などに優れるため、繊維や包装用フィルム、食品用や医療用の容器類、電気・電子部品、自動車部品その他の機械部品などに幅広く用いられている。とりわけポリエチレンテレフタレートは、その延伸強度が高いことから、繊維、フィルム、テープ、ボトルなどの延伸特性を活かした分野で広く使われており、なかでも各種清涼飲料分野等のボトル用途に大量使用されている。しかしながら、ポリエステル系樹脂からなる成形品の耐衝撃性は必ずしも十分なものではなく、特にPETの場合には、PBTに比べ結晶化速度が遅く成形性にも問題があることから、射出成形や押出成形分野で使用する時には主に小型成形品への利用に限られていた。
【0003】
一方で、大量使用に伴い廃棄される使用済みPET容器の処理が大きな社会問題となり、その膨大化する廃棄容器を利用した有効なリサイクル技術が求められている。一般にポリエステル系樹脂は、加水分解による劣化を受け易いため、その再生材を使用した成形品は耐衝撃性が低下してしまうという問題点がある。例えば、PETボトルの再生化にあたっては、使用済みPETボトルを回収後、粉砕、洗浄・乾燥工程を経てフレーク状とし、これを原料として各種製品が製造されているが、このPETフレークは成形加工時の熱履歴によって低分子量化していること、洗浄処理によって水分を含有していることなどから、乾燥が不十分であると再成形時に加水分解が起こり、耐衝撃性の極めて低い脆弱な製品しか得られず、実用に耐え得るプラスチック製品への再使用は困難である。また、たとえ成形前の乾燥が十分になされたとしても、成形品に鋭角部や傷などがあると、この部分がノッチとなって応力が集中し破壊しやすいという問題があり、PETフレークのみでは品質的に安定で耐衝撃性のある製品は得られない。PETのこのような分子量低下による物性への影響を補いつつ、PETが本来有する優れた機械的および熱的性質を活かし、さらに成形性および耐衝撃性の向上が実現されるならば、再生品を含むPET系樹脂の射出成形や押出成形分野への利用範囲も広がるものと期待されている。
【0004】
【先行技術の開示】
上述のPETフレークのような、熱履歴を経て低分子量化したポリエステル系樹脂から耐衝撃性の改善された製品を得る手段として、ポリエステルの末端と結合を起すような極性基を有するゴム状重合体を配合する方法が知られている。例えば、PETなどの熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる成形加工品を粉砕して得られる樹脂片に、エポキシ基含有エチレン系共重合体を配合して溶融混練する方法(特許文献1)やエポキシ化ジエン系共重合体を配合して溶融混練する方法(特許文献2)が開示されている。特許文献3、特許文献4、特許文献5などには、ポリエステル樹脂にエチレンとエチレン系不飽和エステル化合物との共重合体ならびにエポキシ基含有エチレン系共重合体を配合して溶融混練する方法が開示されている。また、特許文献6には、熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品の粉砕物に硬質層を最外層として有するとともにゴム層を内部に有する多層構造重合体粒子を配合して溶融混合する方法が開示され、特許文献7、特許文献8、特許文献9などには、熱可塑性ポリエステルにポリオルガノシロキサン系ゴムおよびポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られる共重合体を配合して溶融混練する方法が開示されている。さらに、特許文献10には、ポリエチレンテレフタレートに不飽和カルボン酸化合物で変性されたエチレン系またはスチレン系重合体とポリプロピレンをドライブレンドして直接成形する方法が開示され、特許文献11には、ポリエステル樹脂にエラストマーおよび親エラストマー部とエポキシ基などの官能基を有する相溶化剤をドライブレンドして直接成形する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法を用いることによって、確かに再生PETの衝撃強度はある程度改善されるが、成形品表面にレザー状のシャープな傷が入った時に脆く壊れてしまう場合があり、必ずしも耐衝撃強度は満足できるものではなかった。
【0005】
【特許文献の目録】
1.特許文献1 特開平6−298991号公報
2.特許文献2 特開平8−245756号公報
3.特許文献3 特開平10−152607号公報
4.特許文献4 特開平11−255906号公報
5.特許文献5 特開2002−212406号公報
6.特許文献6 特開平11−60922号公報
7.特許文献7 特開平2−15044号公報
8.特許文献8 特開2001−55495号公報
9.特許文献9 特開2002−37994号公報
10.特許文献10 特開2001−114995号公報
11.特許文献11 特開2001−139782号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、成形加工性および機械的特性に優れ、しかもシャープなノッチに対しても高い衝撃強度を有するポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。また、本発明は再生PETの持つ有効な潜在能力を発揮させ、従来以上にその有効活用を達成することを課題とする。さらに、本発明はかかるポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すでに本発明者は、PETボトルの粉砕品について実用に耐える再生方法を検討してきた中で、PETフレークにポリオレフィン系樹脂と特定のゴム状ブロック共重合体および特定の多層構造重合体を配合し、PETの融点未満の温度でせん断混練することによって得られる再生PET樹脂組成物が、加水分解劣化が抑制され、優れた機械的特性および押出成形性を示すことを見出しているが(特願2002−20252号)、そのなかで、極めて高い衝撃強度を発現する事例も見出している(実施例3)。本発明者は、この再生PETの持つ高耐衝撃性付与素材としての潜在能力に注目するとともに、未使用のバージンPET等を使用したポリエステル系樹脂組成物に関して、その配合処方および製造方法の観点から高耐衝撃化の可能性について鋭意研究を重ね、ついに本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち請求項1に記載の発明は、(A)ポリエステル系樹脂100重量部、(B)ポリオレフィン系樹脂5〜80重量部、(C)スチレン系エラストマー3〜80重量部、(D)相溶化剤0.1〜50重量部及び(E)ポリカーボネート系樹脂0〜100重量部を含有し、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を提供するものである。ここで着目した特性はレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度であり、これは成形品表面に浅いシャープな傷が入った場合の耐衝撃強度を念頭においた耐衝撃性評価指標で、本発明者の試行によれば、ポリエステル系樹脂組成物においては、同一試験片であっても従来のU字ノッチ付きやV字ノッチ付きのシャルピー衝撃強度に比較し、その衝撃強度は低い値になる。すなわち、ポリエステル系樹脂組成物は表面ノッチ感度に対して敏感であり、このような表層傷に対する抵抗力を指標にすることは実用上重要である。本発明に従うポリエステル系樹脂組成物は、実用的に優れた耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度を有し、さらには良好な転写性および形状セット性を示す。このような特徴を有するポリエステル系樹脂組成物を素材として、公知の成形方法または加工方法を適用することにより優れた機械的特性を有する多くの成形品、加工品等が得られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記(A)成分としてポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートである前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。請求項3に記載の発明は、前記(A)成分の加熱重量減率が0.1重量%以上である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。一般にポリエステル系樹脂組成物は、その溶融混練や成形に際して、ポリエステル系樹脂の加水分解劣化を避けるために、その原料は水分含有率を少ない乾燥した状態で使用されるが、本発明においては、混練に際し、乾燥状態の原料を用いるよりも水分等の揮発成分をある一定量以上含有する原料を用いたほうが、より高い衝撃強度を有するポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。また、請求項4に記載の発明は、前記(A)成分の末端カルボキシル基濃度が35meq/kg以上である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。ポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基濃度が上記以上にあると、前記(D)成分との反応が起こりやすく、耐衝撃性および延伸性に優れたポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。さらに、請求項5に記載の発明は、前記(A)成分の一部または全量が少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有する前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものであって、請求項6に記載の発明は、この少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有するポリエステル系樹脂として、廃棄PETボトル粉砕品等の再生ポリエチレンテレフタレートを使用した前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。そして、通常、かかる再生ポリエチレンテレフタレートは請求項3および4の条件を満足している場合が多い。
【0010】
請求項7に記載の発明は、前記(B)成分がポリエチレン系樹脂である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものであり、請求項8に記載の発明は、前記(B)成分が直鎖状低密度ポリエチレンである前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。また、請求項9に記載の発明は、前記(D)成分がエポキシ基変性オレフィン共重合体とビニル系(共)重合体のグラフト共重合体である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。
【0011】
請求項10に記載の発明は、本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関係するものであって、前記(A)〜(D)の各成分を、前記ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度以上であって、(A)成分の溶融温度未満の範囲の温度に設定されたせん断混練装置を用いて、せん断混練することによって得られる前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。一般にポリエステル系樹脂の加水分解や熱分解は、その含有水分量および末端カルボキシル基量に大きく左右され、これらの含有量が多いほど、溶融混練時の分解反応は急速に進行し、物性低下の顕著な混練物となる。しかしながら、本発明においては、かかる製造方法によって、ポリエステル系樹脂の分解反応が適度に制御され、該ポリエステル系樹脂と相溶化剤との反応が効率よくなされ、結果として、優れた機械的特性および成形加工性を発現する。
【0012】
また、このようにして得られるポリエステル系樹脂組成物を素材として、請求項13に示すように様々な溶融成形品を得ることができる。さらには請求項14以降に示すように、これらの溶融成形品に常温下で塑性加工を施した種々の常温塑性加工品も得ることができる。このようにして得られる加工品は十分な機械的強度と耐衝撃性を示す。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明で用いられる(A)成分のポリエステル系樹脂としては特に限定されるものではなく、例えば、ジカルボン酸単位とジオール単位との重縮合物などが挙げられる。ここで、ジカルボン酸単位の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、こはく酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環状基を含むジカルボン酸、ジカルボン酸のメチルあるいはエチルエステル、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0014】
また、ジオール単位の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオール等の炭素数2〜20程度の直鎖若しくは分岐状の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環状基を含むジオール、分子量400〜6000程度のポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の長鎖グリコールを挙げることができる。
【0015】
これらジカルボン酸単位およびジオール単位は共に上記化合物を各々単独で使用しても2種またはそれ以上組み合わせて使用してもよい。さらに、ここで使用されるポリエステル系樹脂は、全構造単位に基づいて1モル%以下程度の少量であれば、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上のモノマーから誘導される分子間架橋が可能な構造成分を有していてもよい。
【0016】
本発明において使用されるポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジエチレンテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート等を挙げることができる。これらは単独で用いても2種以上の組み合わせで用いてもよいが、なかでもポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートが好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。また、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートの混合物(好ましくはPETが50重量%以上の混合物)も好ましく使用できる。
【0017】
上記ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸単位とエチレングリコール単位とを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、特に限定されることはないが、全ジカルボン酸単位に対するテレフタル酸単位の割合および全ジオール単位に対するエチレングリコール単位の割合が約70モル%以上のポリエチレンテレフタレートが好適に使用できる。一般にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸単位とエチレングリコール単位からのみ誘導される重合体であっても、重合時の副反応生成物としてジオール成分100モル%中、約0.5〜5モル%程度のジエチレングリコール成分を含有する。また、テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位以外の共重合成分の割合が多くなるほど非晶性の度合いが増す傾向にある。ジエチレングリコールを共重合成分とするポリエチレンテレフタレート以外にも、例えばイソフタル酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、アジピン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、ナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、デカンジカルボン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、エチレングリコールおよびプロピレングリコールとテレフタル酸との重縮合物、エチレングリコールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸との重縮合物、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールとテレフタル酸との重縮合物などの共重合ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられ、これらは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0018】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂の固有粘度としては特に限定はないが、概ね0.50〜1.50dl/g、好ましくは0.60〜1.20dl/gの範囲である。固有粘度が小さすぎると十分な耐衝撃性、延伸性が得られず、また耐薬品性も低下するおそれがある。逆に固有粘度が大きすぎると、得られるポリエステル系樹脂組成物の成形加工性が低下するおそれがある。ここで固有粘度はフェノール/テトラクロロエタン(重量比:1/1)混合溶媒を用いて30℃で測定したときの値である。
【0019】
本発明においては、固有粘度が上記範囲にあれば、(A)成分として、その一部または全部が少なくとも1回以上の加熱溶融履歴(以下、単に熱履歴ということがある)を受けたポリエステル系樹脂であってもよく、例えば、再生ポリエチレンテレフタレート(以下、再生PETということがある)を好適に使用することができる。より具体的には、廃棄物として回収されたポリエチレンテレフタレート製品であるボトル、シート、衣類、それにこれらの製造工程で生じたバリ、耳、スプルー、ランナー、不良品、繊維屑などを、適当な大きさに粉砕したものを使用することができ、なかでも、一般消費者から大量に排出される飲料用PETボトルの粉砕品を好適に使用することができる。一般に、PETボトルは分別回収後、異材質除去、粉砕、洗浄工程を経て大きさ約3〜10mmの透明なクリアフレークに再生される。通常、かかるクリアフレークの固有粘度は概ね0.60〜0.75dl/gである。
【0020】
また、上記再生ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基の濃度は、通常10〜200meq/kg程度であるが、本発明においては35meq/kg以上、好ましくは40meq/kg以上、さらに好ましくは50meq/kg以上である。末端カルボキシル基濃度が35meq/kg未満では相溶化剤との反応が不十分となり、耐衝撃性の向上効果が小さくなる場合がある。しかしながら、末端カルボキシル基濃度が35meq/kg未満のポリエステル系樹脂であっても、例えば、一旦押出機で溶融混練するなどの熱履歴を加えることによって、末端カルボキシル基濃度を容易に増やすことができるため、最初の出発原料としてのポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基濃度は特に限定されるものではない。すなわち、(B)〜(E)成分との混合・混練時において、(A)成分の末端カルボキシル基量が上記濃度条件を満たしていればよく、最初のポリエステル系樹脂原料の末端カルボキシル基量がたとえ少量でも、熱履歴を加え末端カルボキシル基量を上記濃度に調整することによって、(A)成分として使用することができる。一般にバージンのポリエステル系樹脂原料は、熱安定性を付与するために末端カルボキシル基の濃度は低め(通常30meq/kg以下)に調整されている場合が多いが、熱履歴を有する再生ポリエチレンテレフタレートにおいては必然的に上記条件を満たすものが多い。このような点からも、再生ポリエチレンテレフタレートは本発明に用いることができる好適なポリエステル系樹脂のひとつである。尚、ここで末端カルボキシル基濃度は、ポリエステルをベンジルアルコールに加熱溶融後、クロロホルムを加えて希釈し、フェノールレッドを指示薬として水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液で滴定することにより定量された、末端カルボキシ基のポリエステルに対する割合である。また、バージンの原料とは、その製造後にまだ市場において使用されていない原料のことをいう。
【0021】
一般にポリエステル系樹脂は、溶融混練や成形加工時に、加水分解による劣化を避けるために、その含有水分率を極力少なくして使用することが必要とされている。例えばPETやPBTは、含有水分率をおよそ0.02重量%以下に調整して使用することが推奨されている。そのため、通常バージンのポリエステル系樹脂原料ペレットはアルミヒートシールパックなどの防湿処理された荷造りがなされている場合が多い。これに対し、本発明において好適なポリエステル系樹脂は、吸湿状態にあるポリエステルである。その目安として、120℃、5時間乾燥における乾燥前に対する乾燥後の加熱重量減率が0.1重量%以上、好ましくは0.1〜1.0重量%である。ここで、乾燥に使用する装置は、槽内温度が均質に保持できる乾燥機であれば特に限定はなく、温風乾燥機、真空乾燥機、除湿乾燥機などを使用することができる。加熱重量減率が0.1重量%未満であると、混練時の相溶化剤との反応が不十分となり良好な耐衝撃性や延伸性を有するポリエステル系樹脂組成物が得難くなるので好ましくない。一方、加熱重量減率が1.0重量%を超えると、ポリエステル系樹脂の加水分解反応が必要以上に進行し、得られるポリエステル系樹脂組成物が脆化するおそれがある。ただし、加熱重量減率が1.0重量%以上であっても、後述する低温混練条件を適宜設定することによって、ポリエステル系樹脂の加水分解劣化を低減することができるため、特に上限は制限されるものではない。加熱重量減率を上記範囲に調整する方法に特に制限はなく、例えばポリエステル系樹脂の原料ペレットや粉砕物などを大気中に自然放置することによって容易に調整することができる。なかでも、リペレットした非晶状態にあるPETは吸湿能が高く、数時間の自然放置によって本発明に適う吸湿状態に容易に調整することができる。このように本発明のポリエステル系樹脂組成物は、その製造工程において、通常必要とされるポリエステル系樹脂の乾燥処理や防湿処理が省けるという利点がある。
【0022】
上述のように、本発明に使用されるポリエステル系樹脂は、従来の概念に反して、吸湿状態にあって、しかも末端カルボキシル基を多く含有するものが好ましい。通常、このようなポリエステル系樹脂を用いて溶融混練した場合、該ポリエステル系樹脂の加水分解や熱分解等が顕著に起こり、機械的特性の良好な混練物は得ることができない。本発明におけるポリエステル系樹脂組成物の基本的な設計概念は、ポリエステル系樹脂をあえて加水分解反応やエステル交換反応等を助長するような状態に保ち、そして、これらの反応を混練方法によって適度に制御することで、またこれらの反応過程で生成される極性基も活用することで、相溶化剤との反応を十分足らしめ、安定した相構造を形成させようとするものである。
【0023】
本発明に用いられる(B)ポリオレフィン系樹脂は、その製法や物性は特に限定されず、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、不飽和有機カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体などを使用することができる。具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度あるいは高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン単独重合体、マレイン酸で変性されたポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロック共重合体やランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などが挙げられる。これらは単独でも、2種類以上の組み合わせでも使用することができるが、なかでもHDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン系樹脂が好ましく、特に好ましくはLLDPEである。LLDPEはチグラー触媒、メタロセン触媒を用いてエチレンと他のα−オレフィンを共重合させて得ることができる。一般には中・低圧法で製造されるが高圧法で製造することもでき、気相法、溶液法、スラリー法等のいずれにおいても製造される。そしてLLDPEの密度は、一般的に0.900〜0.940g/cm2程度である。
【0024】
ポリエチレン系樹脂としては、特に制限なく広範囲の分子量のものを使用できるが、JIS K7210で規定される190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分、好ましくは0.05〜50g/10分のものがよい。樹脂組成物を押出成形やブロー成形に用いる場合には、MFRが0.01〜20g/10分程度のポリエチレン系樹脂が好適である。さらに、MFRがかかる範囲にあれば、前記ポリエチレン系樹脂の成形加工製品や成形屑等の粉砕品又はそれらを溶融混練して得られるリペレットも好適に使用することができる。尚、ポリオレフィン系樹脂は、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系化合物共重ゴム(例えばEPDMなど)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合ゴム、これらの水素添加物などのゴム類を含有してもよい。
【0025】
(B)成分のポリオレフィン系樹脂は(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対し、5〜80重量部、好ましくは10〜50重量部配合する。(B)成分が5重量部未満では相構造のバランスが崩れ耐衝撃性が損なわれる。また(B)成分が80重量部よりも多いと、得られるポリエステル系樹脂組成物の曲げ強度や弾性率等の機械強度が低下する。
【0026】
本発明の(C)成分であるスチレン系エラストマーは、本発明のポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性および延伸性付与のために必要な成分であって、少なくとも1個のビニル芳香族化合物の重合体を含むブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物の重合体を含むブロックを有する共重合体である。スチレン系エラストマーの構成単位であるビニル芳香族化合物としては、芳香族部が単環でも多環でもよく、例えばスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン等から1種またはそれ以上選択でき、これらの中でもスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが好ましい。また、スチレン系エラストマーのもうひとつの構成単位である共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(通称、イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等のうちから1種又はそれ以上が選択でき、これらの中でも1,3−ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。そして、そのブロックにおけるミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えばポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ビニル結合含有量が20〜50%、好ましくは25〜40%である。
【0027】
このようなスチレン系エラストマーにおけるビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとの結合形態は特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはそれらの二つ以上が組み合わさった結合形態のいずれであってもよいが、これらの中でも直鎖状の結合形態が好ましい。スチレン系エラストマーの形態例としては、ビニル芳香族化合物重合体ブロックをXで、共役ジエン化合物重合体ブロックをYで表したときに、X(YX)m、(XY)n又はY(XY)p(ここでm、n及びpは1以上の整数)で示される結合形態を有するブロック共重合体を挙げることができる。その中でも、2個以上のビニル芳香族化合物重合体ブロックXと1個以上の共役ジエン化合物重合体ブロックYが直鎖状に結合したブロック共重合体、特にX−Y−X型のトリブロック共重合体が好ましく用いられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIR)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等が挙げられる。さらに、加熱溶融時の熱安定性や成形加工品の耐熱老化性向上、耐候性低下防止の観点から、共役ジエン化合物に基づく残留不飽和結合の少なくとも一部が水素添加処理(水素化処理)により飽和されているスチレン系エラストマーが好適に使用できる。なかでも残留する不飽和結合の50%以上、好ましくは80%以上が水素添加され、共役ジエン化合物を主体とする重合ブロックを形態的にオレフィン性化合物重合体ブロックに変換させたものが好ましい。具体的には、例えば部分水素化・スチレン−ブタジエンブロック共重合体、部分水素化・スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素化・スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体)、水素化・スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体)、水素化・スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体)等が挙げられ、これらの中でもSEBSやSEPS等の直鎖状のX−Y−X型結合形態のブロック共重合体が最も好ましい。
【0028】
本発明で用いるスチレン系エラストマーは、上記した構造を有するものであれば、どのような製造方法で得られるものであってもかまわないが、全構造単位に対して、ビニル芳香族化合物に由来する構造単位の含有量が10〜60重量%(即ち、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が90〜40重量%)であることが好ましく、15〜40重量%(即ち、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が85〜60重量%)であることがさらに好ましい。この範囲を逸脱すると、本発明のポリエステル系樹脂組成物の相構造が不安定化し耐衝撃性が低下する。また、スチレン系エラストマーの分子量としては、小さすぎるとブロック共重合体自体の破断時の強度、伸度等の機械的性質が低下し、組成物とした場合にその強度を低下させるおそれがあり、また大きすぎると加工性が悪くなり、十分な性能を有する組成物が得られないおそれがあるので、通常、数平均分子量で30,000〜500,000の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは50,000〜300,000の範囲である。
【0029】
これらスチレン系エラストマーは単独でも、あるいは2種以上の組み合わせでも使用できる。また、カルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、水酸基、エポキシ基などの極性基を有する変性剤により一部あるいは全部が変性されていてもかまわない。特に好ましい極性基は酸無水物とエポキシ基であり、酸無水物の中では無水マレイン酸基が好ましい。さらには、他のスチレン系樹脂、例えばホモポリスチレン、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体などを含有してもかまわない。ホモポリスチレンは、アタクチック構造、アイソタクチック構造およびシンジオタクチック構造のものを包含する。
【0030】
(C)成分のスチレン系エラストマーは、(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対して、3〜80重量部、好ましくは5〜70重量部、より好ましくは8〜50重量部の範囲で配合する。(C)成分が3重量部未満では得られるポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性、延伸性が十分ではなく、80重量部より多くなると、該ポリエステル系樹脂組成物が柔軟化し、機械的強度、耐熱性が低下する。
【0031】
本発明の(D)成分である相溶化剤は、本発明のポリエステル系樹脂組成物の相構造を安定化させるために必要な成分であって、(A)ポリエステル系樹脂中への(B)ポリオレフィン系樹脂の分散安定化および(B)成分中への(C)スチレン系エラストマーの分散安定化をなし得るものであれば特に限定されず、公知の相溶化剤を用いることができる。このような相溶化剤としては、例えば、分子内の主鎖中または側鎖に極性基を導入した変性オレフィン系重合体とビニル系重合体のグラフト共重合体を挙げることができる。一般に極性基としては、例えば、酸ハイドライド、カルボキシル基、酸無水物、酸アミド、カルボン酸エステル、酸アジド、スルフォン基、ニトリル基、シアノ基、イソシアン酸エステル、アミノ基、イミド基、水酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、チオール基等が挙げられるが、本発明に使用される相溶化剤の好ましい極性基は、カルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、イソシアン酸エステル、エポキシ基、オキサゾリン基であり、なかでもカルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ基が好ましい。かかる相溶化剤は、その骨格であるオレフィン系重合体相が(B)成分のポリオレフィン系樹脂相と相溶し、極性基が(A)成分のポリエステル系樹脂と反応を起すために、(A)成分中への(B)成分の安定した分散形態を形成させることが可能で、さらにビニル系重合体を持つために(B)成分と(C)成分のスチレン系エラストマーとの親和性向上、すなわち(B)成分中への(C)成分の安定分散を図ることが可能である。
【0032】
次に、本発明に使用される好適な相溶化剤をより具体的に説明する。まず、本発明に使用される好適な相溶化剤の構成要素である極性基含有変性オレフィン系重合体として、不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体とエポキシ基変性オレフィン系重合体を挙げることができる。
【0033】
不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体としては、オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物との共重合体、またはオレフィン系重合体にα、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物を付加反応させた変性体(グラフト変性体)を挙げることができる。ここでα、β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。また、これらのカルボン酸のエステル、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどをランダム共重合またはグラフト変性したものも使用できる。前者の共重合体の場合、オレフィンとしては特にエチレンが好ましく用いられ、その合成された具体的な共重合体としては、エチレン−アクリル酸メチル、エチレン−メタクリル酸メチル、エチレン−アクリル酸エチル、エチレン−アクリル酸nブチル、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸などを例示することができる。また、後者のグラフト変性体の場合に好適なオレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1、ポリ−4−メチルペンテン−1などの単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体等のエチレンを主成分とする他のα−オレフィンとの共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等のプロピレンを主成分とする他のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル−等のエステルとの共重合体、エチレン−マレイン酸共重合体、さらにはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン−共重合体等のゴム状共重合体も挙げることができる。これらの不飽和カルボン酸化合物により変性されたオレフィン系重合体は、1種に限らず2種以上を混合して使用することもできる。また、変性重合体中の不飽和カルボン酸化合物の量は、一般に0.1〜20重量%程度である。
【0034】
エポキシ基変性オレフィン系重合体としては、オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との二元共重合体および更に他の不飽和単量体が加わった三元または多元の共重合体、またはオレフィン系重合体に不飽和グリシジル基含有単量体を付加反応させた変性体を挙げることができる。ここで、前者に使用されるオレフィンおよび後者に使用されるオレフィン系重合体の具体例は前記の不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体の場合と同様である。不飽和グリシジル基含有単量体としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、およびα−クロロアリル、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられるが、特に好ましいものとしてメタクリル酸グリシジル、アクリルグリシジルエーテルが挙げられる。他の不飽和単量体としては、オレフィン類、ビニルエステル類、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体から選ばれた少なくとも1種の単量体で、具体的にはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等のオレフィン類、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルベンゾエート等のビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、ブチル−、2−エチルヘキシル−、シクロヘキシル−、ドデシル−、オクタデシル−等のエステル類、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸モノおよびジ−エステル、塩化ビニル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル類およびアクリル酸アミド系化合物が挙げられるが、特にアクリル酸エステルが好ましい。このようなエポキシ基変性オレフィン系重合体の具体例としては、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−一酸化炭素−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。なかでも好ましいのは、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体である。これらのエポキシ基変性オレフィン系重合体は、1種に限らず2種以上を混合して使用することもできる。また、変性重合体中の不飽和グリシジル基含有化合物の量は、一般に0.5〜40重量%程度、好ましくは1〜30重量%である。
【0035】
極性基含有変性オレフィン系重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、単量体をラジカル発生剤の存在下に、重合圧力500〜4000気圧程度、反応温度100〜300℃程度、適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下または不存在下に共重合させる方法、オレフィン系重合体に極性基を有する化合物、ラジカル発生剤等を混合し、押出機中で溶融グラフト共重合させる方法などが挙げられる。
【0036】
本発明に使用される好適な相溶化剤のもうひとつの構成要素であるビニル系(共)重合体としては、具体的には、スチレン、核置換スチレン例えばメチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン、α−置換スチレン例えばα−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のビニル芳香族単量体、アクリル酸もしくはメタクリル酸の炭素数1〜7のアルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル−等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、アクリロニトリルもしくはメタクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸およびそのアミド、イミド、エステル、無水物等の誘導体のビニル単量体の1種または2種以上を重合して得られた(共)重合体である。これらの中でも、ビニル芳香族単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリロニトリル単量体およびビニルエステル単量体が好ましく使用される。これらの単量体を重合して得られる具体的なビニル系(共)重合体としては、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられ、特にポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましい。ビニル系(共)重合体の数平均重合度は5〜10000、好ましくは10〜5000である。数平均重合度が5未満であると、本発明のポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性の低下を招くおそれがあり、数平均重合度が10000を超えると、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度が高くなり成形性を損なうおそれがある。
【0037】
前記極性基含有変性オレフィン系重合体に上記ビニル系(共)重合体をグラフト化する方法に特に限定はなく、一般によく知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法、あるいは特公平6−51767号公報や特公平6−102702号公報に記載の方法などを用いて製造することができる。これら公報に記載の方法は、ビニル単量体に特定の有機過酸化物およびラジカル重合開始剤を加え、この有機過酸化物が分解しない低温で各種ビニル単量体を重合することにより、過酸化物をペンダントにもつ各種のビニル系重合体を合成し、この重合体と変性オレフィン系重合体を押出機などで加熱溶融混練することにより、過酸化物の分解ラジカルによりグラフト共重合体を得る方法である。
【0038】
本発明に使用される好適な相溶化剤としては、前記不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体と前記ビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体または前記エポキシ基変性オレフィン系重合体と前記ビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体が挙げられるが、後者のほうが前者よりも熱安定性に優れるため、より好ましくは後者のエポキシ基変性オレフィン系重合体とビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体である。具体的には、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体とポリスチレンとのグラフト共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体とアクリロニトリル−スチレン共重合体とのグラフト共重合体などを挙げることができる。
【0039】
本発明に用いられる相溶化剤は、極性基含有変性オレフィン系重合体が10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、ビニル系(共)重合体が90〜10重量%、好ましくは、80〜20重量%にあるものがよい。極性基含有変性オレフィン系重合体が10重量%未満であると、(A)成分のポリエステル系樹脂と(B)成分のポリオレフィン系樹脂との親和性が不十分であり、また、極性基含有変性オレフィン系重合体が90重量%を超えると、(C)成分のスチレン系エラストマーとの親和性が低下し、ゲル化物が生じやすくなる。
【0040】
本発明において、(D)成分の相溶化剤の配合量は、(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部当り0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは3〜20重量部である。相溶化剤が0.1重量部未満では(A)成分と(B)成分および(B)成分と(C)成分の親和性が不十分であり、得られるポリエステル系樹脂組成物の相構造が不安定化するので好ましくない。また相溶化剤が50重量部を超えると、得られるポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度が増大し成形性が損なわれるので好ましくない。
【0041】
本発明の樹脂組成物には、さらに上記の成分の他に任意成分として(A)成分のポリエステル系樹脂とエステル交換反応能を有する(E)成分のポリカーボネート系樹脂を配合することができる。この(E)成分を配合することによって、耐衝撃性に優れ、耐熱性を向上せしめたポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。ここでポリカーボネート系樹脂とは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネートである。その製造方法自体は公知であり、二価フェノールにホスゲン等のカーボネート前駆体を直接反応させる方法(界面重合法)、又は二価フェノールとジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体とを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが知られている。
【0042】
二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び核にアルキル基やハロゲン原子等が置換しているこれらの誘導体などが挙げられる。特に好適な二価フェノールの代表例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス{(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)フェニル}スルホン等が挙げられ、これらは単独又はそれ以上を混合して使用できる。これらの中で、特にビスフェノールAの使用が好ましい。
【0043】
カーボネート前駆体としては、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ホスゲン等のカルボニルハライド、二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジフェニルカーボネートを使用する。これらカーボネート前駆体もまた、単独でもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、本発明に使用可能なポリカーボネート系樹脂は、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、得られたポリカーボネート系樹脂の2種類又はそれ以上を混合した混合物であってもよい。
【0045】
ポリカーボネート系樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量で1×104〜1×105程度であるが、本発明に使用できるポリカーボネート系樹脂の分子量は12,000〜35,000程度が好ましく、13,000〜30,000が更に好ましい。
【0046】
(E)成分のポリカーボネート系樹脂としては、バージン原料だけではなく、使用済み製品から再生されたポリカーボネート(以下、再生PCということがある)も使用することができる。使用済み製品としては、例えば、防音壁、窓、透光屋根材、および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、ならびにCD、CD−R、DVD、MD等の光記録媒体などが挙げられ、これらを10mm程度以下の大きさに粉砕、洗浄・乾燥した樹脂片であれば特に限定なく、本発明において使用できる。また、これらの製造工程で生じたバリ、耳、スプルー、ランナー、不良品などを粉砕したものも好適に使用できる。これら粉砕樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。
【0047】
本発明においては(E)成分のポリカーボネート系樹脂を(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対し0〜100重量部、好ましくは50重量部、さらに好ましくは30重量部以下の範囲で配合することができる。ポリカーボネート系樹脂が100重量部を超えると、必要以上に(A)成分とのエステル交換反応を招くおそれがあるばかりでなく、相構造のバランスが崩れ、また耐薬品性も損なわれるので好ましくない。
【0048】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、前記成分(A)〜(E)を含有する樹脂組成物であって、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、好ましくは30kJ/m2以上、さらに好ましくは40kJ/m2以上であることを特徴とする。ここでレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度とは、ノッチ形状以外はJIS K7111に準拠したシングルノッチタイプのシャルピー衝撃強度であって、ノッチはその深さが0.50±0.05mmで先端がシャープな形状のものであればよく、市販のノッチ入れ装置やカミソリ刃、ナイフなどを用いて試験片に導入することができる。例えば市販の予亀裂導入装置(例えば(株)丸東製作所製RD−29)を用いれば、連続的、高能率でしかも高精度でレザーノッチ付き試験片を加工することができる。このレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2未満であると、該ポリエステル系樹脂組成物の実用的な耐衝撃性は不十分であり、例えばこの成形品表面に浅い傷が入った状態で衝撃力を受けた場合、簡単に破壊してしまうおそれがある。また、釘打ち加工時や常温下におけるせん断加工に亀裂が入ったり壊れたりするおそれがある。
【0049】
本発明のポリエステル系樹脂組成物には、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂成分の混合時または混練時に、もしくは成形時に、慣用のほかの添加剤、例えば顔料、染料、香料、補強材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、粘土鉱物、チタン酸カリウム繊維、天然繊維など)、充填剤(カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、金属粉、木粉、籾殻など)、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、結晶化促進剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、発泡剤、架橋剤、架橋促進剤、軟化剤、防腐剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することができる。なかでも、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、ポリエステル系樹脂の熱分解やポリカーボネート系樹脂とのエステル交換反応等の分解反応を抑制し必要以上に起こさせないようにするために、熱安定剤や酸化防止剤などの各種安定剤を好ましく添加することができる。
【0050】
上記エステル交換反応や熱分解を抑制するための熱安定剤としては、リン化合物からなる安定剤を挙げることができる。かかる安定剤としては、例えば、酸性リン酸塩、縮合リン酸、リンのオキソ酸、周期律表第1B族または第2B族金属のリン酸塩、ホスファイト、ホスホナイトおよびホスフェート等が挙げられる。酸性リン酸塩の具体例としては、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸モノ亜鉛、リン酸水素カリウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。縮合リン酸は、リン酸の2量体(ピロリン酸)および3量体(トリポリリン酸)等であり、例えばNa3HP2O7、K2H2P2O7、Na4P2O7、Na2H2P2O7等が挙げられる。リンのオキソ酸としては、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸および次亜リン酸などが挙げられる。周期律表第1B族または第2B族金属のリン酸塩としては、例えばリン酸亜鉛、リン酸銅が挙げられる。ホスファイトとしては、例えばトリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−i−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)フルオロホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。ホスホナイトとしては、例えばテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトなどが挙げられる。また、ホスフェートとしては、例えばトリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、ジフェニルクレジシルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどを挙げることができる。これらのリン化合物からなる安定剤は1種、または2種以上を併用することができる。また、リン化合物からなる安定剤の添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。かかる安定剤の添加タイミングは、特に限定されることはないが、前記(A)〜(D)成分の混練により安定した相構造が形成された後に添加、混練するか、もしくは成形時に添加するのがよい。
【0051】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを挙げることができる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。また、イオウ系酸化防止剤としては、例えばジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステル、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種、または2種以上を併用することができ、上記熱安定剤と組み合わせて用いることができる。また、その添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
【0052】
その他の安定剤として、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、各種公知のベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などの紫外線吸収剤やヒンダードアミン系の光安定剤なども好適に使用できる。これらの安定剤は1種、または2種以上を併用することができ、前記熱安定剤や酸化防止剤と組み合わせて用いることができる。その添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。
【0053】
また、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0054】
次に、本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法について説明する。このポリエステル系樹脂組成物を製造するために必要な装置はせん断混練装置であって、上記各成分をせん断混練できるものであって、かつ加熱および冷却の温度調節手段を有するものであれば特に限定なく、例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ローラー式混練機、ギア式押出機、石臼式混練機などを挙げることができるが、なかでも、二軸押出機、バンバリーミキサー、ローラー式混練機が好ましく、より好ましくは脱気効率のよいベント(脱気口)を一つ以上備える二軸押出機である。通常、二軸押出機やバンバリーミキサーのような外殻を有する混練装置の温度調節はシリンダやチャンバーなどの外殻部のみで制御されるが、後述するような低温混練においては、せん断発熱による混練樹脂の過加熱を制御する目的で、スクリューやローターなどの内部の回転体側にも内部冷却手段を有する混練装置も好適に使用することができる。また、これらは1種の装置を単独で使用してもよく、2種以上の装置を組み合わせて使用することもできる。なお、成分の混合順は特に限定されない。
【0055】
本発明において、前記混練装置を用いて混練する際の装置の設定温度は、(A)成分のポリエステル系樹脂の溶融温度以上(溶融混練)であってもよいが、好ましくは、(A)成分のポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上であって、その樹脂の溶融温度未満である(以下、低温混練ということがある)。より好ましくは、(B)成分のポリオレフィン系樹脂の溶融温度以上であって、(A)成分の溶融温度未満である。ここで、ポリエステル系樹脂の溶融温度とは、通常その融点(Tm)のことをいい、非晶性ポリエステル系樹脂やゴム状ポリオレフィン系樹脂等のようにその融点が明確でない場合は、2.16kgfの荷重でMFRを測定したときに、充填された樹脂がオリフィスから流れ出す温度を指すこととする。また、ここでTmは示差走査熱量計(DSC)による昇温測定時に発現する結晶融解吸熱ピークの終点温度をいい、TgはJIS K7172に準拠したDSCによる測定において、そのサーモグラフから求められる転移温度である。設定温度がポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満であると、混練装置への負荷が大きくなり装置を損傷するおそれがあるので好ましくない。
【0056】
せん断混練装置の設定温度が上記のようなポリエステル系樹脂の溶融温度未満であっても、前記(A)〜(E)成分をせん断混練することは十分に可能であり、例えば二軸押出機を用いる場合、スクリューデザイン、チップクリアランス、スクリュー回転数などを適宜設定することによって、容易に混練を行うことができる。低温混練にあっては、上記条件を変更することによって、混練物が未溶融から半溶融の状態で混練することができるが、せん断発熱を利用することによって混練物を一時的に溶融状態にすることも可能であり、またその溶融状態にある時間を制御することも可能である。このような低温混練によって、ポリエステル系樹脂の加水分解反応や熱分解反応、あるいはポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂のエステル交換反応などを抑制、制御することができ、しかも相溶化剤との反応を効率よく行わせることが可能となる。ポリエステル系樹脂またはポリエステル系樹脂組成物においては、低温混練は混練前の乾燥処理を必要とせず、しかも従来の溶融混練に比較し混練条件の幅が広く取れるという利点があり、特に再生PETや再生PCのような一回以上の熱履歴を有するポリエステル系樹脂やポリカーボネート系樹脂を使用する場合には好適な混練方法である。
【0057】
また、低温混練においては、ポリエステル系樹脂が透明感のある非晶状態にある性状のものを用いるのが好ましく、さらに、その形状が一般的なペレット状よりもフレーク状、チップ状、短冊状、繊維状などのアスペクト比が大きいものを用いたほうが、せん断変形を効率よく受けることができ、混練装置への負荷も少なく、より好ましい。ここでアスペクト比とは、その形状の最長軸と最短軸の長さの比(最長長さ/最短長さ)を意味し、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。このような形状に加工する方法に特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂の原体がペレット状である場合、予め押出機等で一旦溶融させたのち、吐出した溶融ストランドを冷却水中においてローラー通しして、これをペレタイザーでカッティングすることによって、あるいは、ダイ孔断面形状がスリット状や長方形または長楕円状の形状を有する押出機等で溶融押出し、これを水冷、ペレタイズすることによって、高アスペクト比の扁平形状に変えることができる。また、プレス成形やロール成形によってシート状やフィルム状に加工したのち、適宜サイズにカッティングしてもよい。(A)成分のポリエステル系樹脂と同様に、(B)成分のポリオレフィン系樹脂および(E)成分のポリカーボネート系樹脂においても、その形状が高アスペクト比であれば、低温混練はさらに効率的となる。
【0058】
押出機を用いて低温混練する場合、混練物が大きさや形状が不規則な未溶融もしくは半溶融の状態で吐出されるため、押出は先端部のダイヘッドを開放した状態で行ってもよい。この場合、その吐出物を粉砕機に通すことで容易に射出成形等が可能な細破片状に変えることができる。例えば、押出機先端の吐出口直下に粉砕機を設置することによって、連続的に細破片化処理まで行うことができる。また、ダイヘッドを閉めた状態でも、吐出部付近の設定温度をポリエステル系樹脂の溶融温度近傍の高温側に設定することで、混練物を一時的に溶融させてストランドとして引くことが可能であり、これを公知の方法でペレット化することができる。
【0059】
本発明に従うポリエステル系樹脂組成物は、慣用の溶融成形性に優れるばかりでなく、物性的には優れた耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度を有し、さらには良好な転写性および形状セット性を示す。このような特性を有する本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材として、例えば射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形、発泡成形、プレス成形、紡糸成形などによって各種成形品を得ることができる。また、このような溶融成形によって得られる繊維、モノフィラメント、ストランド、バンド、フィルム、シート、ラミネート、ホース、チューブ、丸棒、各棒、中空棒などを中間加工品とし、これらに各種加工を施すことによって各種加工製品を得ることができる。これらは用途に応じて単品で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの加工品とその他の素材、例えば繊維、布、木材、金属、コンクリート、他のプラスチック、ゴムなどを適宜組み合わせて加工することにより、目的に応じた様々な形態および機能を備えた複合製品を得ることができる。
【0060】
上記中間加工品に対する加工方法に特に制限はなく、例えば機織加工、編織加工、延伸加工、引抜加工、曲げ加工、せん断加工、転造加工、圧延加工、鍛造加工、切削加工、釘打ち・ねじ止め加工、溶着加工などの各種加工方法を用いることができる。これらの加工方法は単独であっても2種以上組み合わせてもよい。
【0061】
以下に本発明に従う具体的用途を例示するが、本発明のポリエステル系樹脂組成物の特性を活用できる用途であれば、特にこれらに限定されるものではない。まず、高耐衝撃性や強靭性が要求される加工品としては、例えばバンパー、ドアパネル、フェンダー、ボンネット、マッドガード、防傷プロテクター、アンダーガード、インスツルメントパネル、室内衝撃緩和材、チャイルドシートシェル等の自動車その他車両関連部品、ヘルメット、防護マスク、安全靴芯材、防弾チョッキ芯材、防護ネットなどの安全保護用品、ガードレール、交通標識、カーブミラー、街路灯などの支柱、踏み切り遮断棒、カラーコーン、ポストコーン、コーンバーなどの交通安全・道路工事関連用品等を挙げることができる。また、強靭性、延伸性、転写性、形状セット性などを活かした用途としては、例えばブラジャー、コルセット、ボディスーツ等のワイヤー、襟芯、肩パッド、防塵マスクや医療用マスク等のフレーム、眼鏡フレーム、ギブス等の体形補正・矯正用品や装着フィット感を必要する用品、版木、転写版、点字シート、クレジットカード、キャッシュカード、メンバーズカード、ICカード、切符類等の刻印や情報表示が必要とされる製品、ドレンホースやコルゲートチューブ、カップ麺や菓子容器等の蓋類やチューブ容器類などの形状保持が必要とされる用品および部材、オフィス、ベランダ、デッキ、浴室などの床材、人口芝、ガーデンマット、汚水升蓋、車止めなどの荷重や衝撃に対し長期耐久性が必要とされる製品などを挙げることができる。
【0062】
本発明のポリエステル系樹脂組成物のフィルム成形品およびシート成形品は、常温下におけるせん断加工(打抜加工)、延伸加工、絞り加工および曲げ加工が可能なことから、冷延鋼板のように常温プレス加工を行うことによって、簡便かつ大量に様々な形状のものを製造することができる。かかる加工方法を用いて得られる加工品としては、例えば各種の機械製品や電気・電子製品等の構成部品類を挙げることができる。特に衝撃、振動、騒音、熱などを緩和する働きを必要とする小型(精密)部品に好適に使用することができる。また、金属プレス加工時の金型保護緩衝フィルム、シリコンウエハーマット、液晶保護フィルム、ICトレイなどのような機械部品、電気・電子部品等を製造する際の加工補助材、クロス仕上げコーナーフィルム(室内壁コーナーを覆う下地材でコーナー部の上塗りあるいはクロス貼り仕上げをよくする目的で使用する)のような建築関連の内・外装仕上げなどの補助資材としての活用も可能である。さらに、本発明のポリエステル系樹脂組成物からなるシート材や中空棒材等は、釘打ち・釘抜きおよびネジ込み加工も可能なことから、壁材、波板、化粧板、積層板、支柱や杭などの建築、土木、園芸資材として、また看板類、パチンコ台等の用途にも使用することが可能である。かかるポリエステル系樹脂組成物からなるフィルム、シート、中空円筒体、を構成材料とする積層体や同心円状積層体、それに該ポリエステル系樹脂組成物からなる発泡成形板や中空押出成形板などは、密封材、防振材、緩衝材、防音材、断熱材としても有用であり、例えばリチウムイオンバッテリー等のバッテリー電解液漏れ防止密封材、洗濯機や掃除機等の防音・防振材、建築・建造物の防震台部材、ダンボール材、トラックやバンなど貨物車両の荷台用の軽量パネル材などに使用することもできる。
【0063】
上述の用途例以外にも、例えば、スキー、ゴルフクラブ、釣竿、プレジャーボートなどの強化プラスチック製品や強化コンクリートの補強繊維材料、椅子の座面や背もたれ、便座、トイレや浴室などの手摺、車椅子フレーム、介護や育児用のフォーク・スプーン類、自動車やビル・住宅用等の各種モール、シーリング材、粘着テープ等のテープ基材、その他各種のボックス類、トレイ類および包装材などが挙げられる。
【0064】
上述のように、本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材とした加工品は、衣料・非衣料用品、包装材料、家庭・雑貨用品、家具部品、機械部品、電気・電子部品、自動車その他乗り物の部品、工業製品の部材、土木・建築材料、農業用品、園芸用品、衛生用品、医療・介護用品、スポーツ・レジャー用品などの広範な用途に使用することができる。
【0065】
さらに本発明にかかる加工品は、本発明のポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂成分および/またはポリカーボネート系樹脂成分として、各種飲料、調味料、酒類、その他液体製品の容器として爆発的に利用拡大しているペットボトル回収品から得られるPETボトル粉砕品やCD、DVD等の記憶メディアの廃棄物から得られるPCディスク粉砕品などを利用することが可能である。したがって、廃棄物再利用を推進することができるため、環境問題を改善することができ、さらにこれら廃棄物資源再利用の観点から省資源及び省エネルギーにも大きく寄与することができる。
【0066】
【実施例】
以下、本発明の理解をさらに容易にするため実施例及び比較例を開示するが、本発明の精神と技術範囲を超えない限り、これらの実施例によってその技術的範囲が限定されるものではない。
【0067】
まず、本発明に従うポリエステル系樹脂組成物の製造方法およびその基本特性に関する実施例及び比較例を開示する。ここで用いた原材料およびせん断混練装置は以下の通りである。
【0068】
1.原材料
(A)成分:ポリエステル系樹脂
PET:固有粘度0.81dl/g、加熱重量減率0.32重量%、末端カルボキシル基濃度23meq/kgのバージンポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(非防湿パッケージ品)。このPETの昇温速度10℃/分におけるDSC法(パーキンエルマー社製DSC7使用)による結晶融解ピークの終点の温度は252℃であり、同DSC法によるガラス転移温度は78℃であった。
R−PET(1):上記PETを、孔の断面形状がスリット状のダイヘッドを取り付けた二軸押出機を用いて、真空減圧下、シリンダ温度290℃、スクリュー回転数200min−1の条件で溶融押出して帯状のストランドとしたのち、これをローリング、ペレタイズすることによって得られた大きさが約0.5mm×5mm×8mmの透明なフレーク状R−PET(アスペクト比16)で、これを大気中に自然放置して吸湿させたもの。このR−PET(1)の加熱重量減率は0.48重量%で、末端カルボキシル基濃度は61meq/kgであった。また、昇温速度10℃/分におけるDSC法(パーキンエルマー社製DSC7使用)による結晶融解ピークの終点の温度は255℃であり、同DSC法によるガラス転移温度は77℃であった。
R−PET(2):固有粘度0.69dl/g、加熱重量減率0.50重量%、末端カルボキシル基濃度59meq/kgの使用済みの廃棄PETボトルの大きさ2〜5mmのフレーク状に粉砕したPET粉砕品。前記同様のDSC法によるR−PET(2)の融点は253℃で、ガラス転移温度は76℃であった。
R−PET(3):上記R−PET(2)の粉砕フレークを、除湿乾燥機を用いて、加熱重量減率を0.03重量%としたもの。
PBT:固有粘度0.70dl/g、加熱重量減率0.21重量%、末端カルボキシル基濃度52meq/kgのバージンポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット(非防湿パッケージ品)。前記同様のDSC法によるPBTの融点は227℃で、ガラス転移温度は32℃であった。
【0069】
なお、上記ポリエステル系樹脂の加熱重量減率および末端カルボキシル基濃度は次の方法により求めた。
加熱重量減率:温風乾燥機恒温槽内に試料約10gを入れ120℃、5時間乾燥処理したのち下記式により求めた。
W=(1−S1/S2)×100
ここに、 W:加熱重量減率(重量%)
S1:乾燥処理後の試料の重量(g)
S2:乾燥処理前の試料の重量(g)
末端カルボキシル基濃度:試料0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
【0070】
(B)成分:ポリオレフィン系樹脂
LLDPE(線状低密度ポリエチレン):0134(出光石油化学(株)製、密度=0.919、MFR=1.2g/10分)尚、前記同様のDSC法による当該LLDPEの融点は125℃であった。
【0071】
(C)成分:スチレン系エラストマー
SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体):Septon8006((株)クラレ製、スチレン含有量33重量%)
【0072】
(D)成分:相溶化剤
EGMA−g−PS(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体とポリスチレンのグラフト共重合体):モディパーA4100(日本油脂(株)製、EGMA/PS=70/30重量%)
【0073】
(E)成分:ポリカーボネート系樹脂
PC(ポリカーボネート):ユーピロンS−3000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)
【0074】
2.せん断混練装置
混練装置は(株)日本製鋼所製の二軸押出機TEX30αを用いた。この装置のシリンダ部は温調ブロックごとにC1〜C12の12ブロックから成り、C1部に原材料供給口を、C6部及びC11部にベントを設置し、C11のベントには減圧装置(真空ポンプ)を接続した。また、スクリューの混練部(ニーディングゾーン)をC4〜C5及びC9〜C10部の位置になるように配置した。
【0075】
また、実施例および比較例における基本特性は以下の方法で評価した。
(1)引張特性および耐衝撃性
射出成形機((株)日本製鋼所製J55EL2)を用いて、シリンダ設定温度260℃、金型温度40℃で、JIS1号形引張試験片および100mm×10mm×4mmの短冊試験片を成形し、しかるのち該引張試験片を用いて引張試験(JIS K7113に準拠)を、また該短冊試験片を用いてシャルピー衝撃試験(JIS K7111に準拠)を行った。ここでシャルピー衝撃試験片は、そのノッチをレザーノッチとし、予亀裂導入装置((株)丸東製作所製RD−29)を用いて、0.5mmの深さになるように調整した。また、参考値として、従来のVノッチ付きシャルピー衝撃強度も求めた。
【0076】
(2)絞り性および延伸性
前記(1)と同様の射出成形条件で50mm×50mm×1mmのシートを作製した後、油圧式疲労試験機((株)島津製作所製、サーボパルサーEHF−EB5−10L)を用いて、直径20mm、先端半径10mmの先端が丸形のプランジャー(突っ込み棒)によるシート成形品の常温押込み試験を行った。試験条件は温度23℃にて、押込み速度1m/分、押込みストローク25mm、試料固定支持台のウィンドウ径30mm(シートを支持台の上に載せ、ウィンドウの周囲を把持板で支持台に固定。よって試料の変形できる領域はこのウィンドウ内の範囲に限られる。)で行った。試験後のサンプルの状態から、下記判断基準にて評価を行った。
○:シートはプランジャーが押し込まれても突き抜けて破壊することなく、プランジャーで押し込まれた部分だけがホール状に延伸され、プランジャーの先端形状を型取った形に変形しセットされた。
×:プランジャーがシートを突き抜けるなど、シートに亀裂や破れなどの損傷が生じた。
【0077】
(3)釘打ち性
前記(1)の1号ダンベル試験片の掴み部平面中心付近に径2.15mm、長さ38mmの釘を金槌で打ち込み、さらに釘抜きで抜いた時のサンプルの状態から、下記判断基準にて評価を行った。
○:サンプルが割れることなく釘が突き抜けた。釘頭部を横から叩いても緩むことなく、また引き抜く時は適度な締め付け力があり、引き抜いた後の釘孔の周囲に亀裂などの損傷が認められなかった。
△:サンプルが割れることなく釘が突き抜けたが、釘孔の周囲に若干の亀裂が認められた。しかし、釘は緩むことなく締め付け力は十分であった。
×:サンプルが割れてしまい、釘をサンプルに固定することができなかった。
【0078】
表1に示す量(重量部)の各成分を、前記二軸押出機の原材料供給口から投入し、減圧下、下記混練条件にて、混練押出して樹脂片を作成し、射出成形を行った。なお、射出成形前には予備乾燥として、100℃、5時間の乾燥を行った。
【0079】
実施例1〜4および比較例2
シリンダ設定温度:C2〜C3/C4〜C8/C9〜C10/C11〜ダイ=100/150/200/240℃
スクリュー回転数:200min−1
実施例5および比較例1
シリンダ設定温度:C2〜C8/C9〜C10/C11〜ダイ=200/220/240℃
スクリュー回転数:200min−1
比較例3
シリンダ設定温度:C2〜ダイ=270℃
スクリュー回転数:200min−1
【0080】
以上の評価結果を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1および2はポリエステル系樹脂として、本発明に好適な熱履歴を有するPETを使用し、かつ低温混練を行った例である。両者共に優れた耐衝撃性および延伸性を示している。これに対し、比較例1は吸湿状態にあるバージンPETを使用した例であるが、末端カルボキシル基量が足りないため、延伸性はいいものの耐衝撃性が十分ではない。また、ここでレザーノッチ付きシャルピー衝撃値とVノッチ付きシャルピー衝撃値の間に大きな違いを確認することができる。すなわち前者では脆性的であることを示し、後者では延性的であることを示している。これは、ポリエステル系樹脂組成物においては、従来のVノッチ付きシャルピー衝撃値よりもレザーノッチ付きシャルピー衝撃値のほうが厳しい評価指標であることを意味し、表面ノッチ感度を反映する評価指標として有用性が高いことを示唆しているものといえる。
【0083】
実施例3は再生PETとバージンPETの混合物を使用し、かつ低温混練を行った事例であるが、この場合も再生PETの効果で高い衝撃強度、延伸性を維持している。実施例4は熱履歴を有するPETにバージンPCを配合した例であるが、この場合、PETとPCのエステル交換反応も安定した相構造形成に寄与するものと考えられ、さらに優れた耐衝撃性を示している。実施例5は本発明に好適なバージンPBTを使用した例であって、熱履歴を有するPETを使用した場合に比べ若干見劣りはするものの、十分な耐衝撃性と延伸性を有していることがわかる。
【0084】
一方、比較例2はポリエステル系樹脂として、乾燥状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用し、実施例2と同様の低温混練を行った例であるが、吸湿状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用した場合(実施例2)に比較し、その衝撃強度および延伸性は著しく低い。これは、PETの加水分解反応が起こり難く、相溶化剤との反応が十分に進まなかったためと考えられる。また、比較例3は吸湿状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用し溶融混練した例であるが、この場合もその衝撃強度および延伸性は十分ではない。この場合は、比較例2とは逆に、加水分解反応が過度に進行して物性低下をもたらしたものと考えられる。
【0085】
このように、本発明にかかるポリエステル系樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、延伸性を有し、常温下における絞り加工や釘打ち加工においても十分な耐力を示す。
【0086】
次に、本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材とした成形加工品の具体例として、前記実施例1で得られたポリエステル系樹脂組成物を用いて、これに常温下における塑性加工を施した加工品を例示する。
【0087】
実施例7
(a)小型部品の試作
実施例1で得られたポリエステル系樹脂組成物をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、30C150)に1軸押出機及びTダイを連結して250℃の温度で押出した帯状シート(厚さ1mm×幅45mm)を原反として、順送り金型を用いた常温プレス加工(プレス機;アイダエンジニアリング(株)製、NC1−110)を行い、図1の正面図(a)およびX−X矢視側断面図(b)に示すような外径10mmのフランジF付きスリーブ状の小形部品を試作した。その他寸法は、内径6mm、首長さ4mmである。ここで使用した順送り金型は、通常の冷延鋼板の常温プレス加工に用いられている金型で、以下の加工工程を経て、7回プレス/1サイクルで1個の製品が得られる。
穴抜き加工工程:シートから円盤状の絞り用ブランクの周囲を切り落とす工程(2段階)
絞り加工工程:円盤状の絞り用ブランクを徐々に絞り込んでカップ状に丸絞り加工する工程(3段階)。具体的には雄型のコーナーのRを徐々に小さくする。
穴抜き加工工程:カップの底を打ち抜く工程(1段階)
打ち抜き加工工程:絞り部周囲のフランジを1mm残して、所望の小型部品を切り落とす工程(1段階)
まず、該ポリエステル系樹脂組成物からなる帯状シートを用いた場合に通常の7回プレス/1サイクルの工程で所望の部品が加工出来るかどうかを確認し、その仕上がり状態を目視観察した。次いで、上記絞り加工工程の最初の2段階を省いた3段階目のみの絞り加工を直接施した場合(5回プレス/1サイクル)についても同様な評価を行った。なお、比較例として、一般の冷延鋼板(SPCE)を用いた場合について同様な評価を行った。その結果、通常の7回プレス/1サイクルの工程では、該ポリエステル系樹脂組成物からなる帯状シートを用いても、全ての工程で損傷やバリなどの問題もなく冷延鋼板の場合と同様に加工可能なことが確認された。また、その仕上がり状態は寸法的にも外観的にも良好であった。一方、5回プレス/1サイクルの工程で加工した場合は、該ポリエステル系樹脂組成物では何ら問題なく良品を得ることができたが、冷延鋼板では絞り加工工程において破損してしまう問題が生じ、良品を得ることができなかった。このように、本発明のポリエステル系樹脂組成物は従来の冷延鋼板の常温加工プロセスをそのまま利用することができ、しかも、冷延鋼板よりも絞り加工性に優れるため、1サイクルの加工時間を低減できるという利便性を図ることができる。特に、このような小型の機械部品や電子・電気部品に好適に利用することができる。
【0088】
実施例8
(b)フレキシブルスプーンの試作
前記(1)の1号ダンベル試験片(4mm厚)を、万能力学試験機((株)島津製作所製、オートグラフAGS−20KNG)を用いて常温下で100%延伸した後、一方のつかみ部を切断して、もう一方のつかみ部に対しプレス機(榎本機工(株)製、400t鍛造プレス機)を用いて常温下で鍛造加工を施し、スプーン先端部状の窪みのある形状(つぼ)に加工した。加工後の柄の部分の厚さは約2.5mm、先端のつぼ部の厚さは約1mmであった。この加工品のスプーンとしての使い勝手は極めて良好で、柄の部分は腕力で自在に曲げることができ、かつ、通常のスプーンとしての使用に際してはその形状を十分に保持できる剛性と形状セット性を有することが分かった。また、先端のつぼの部分は薄肉にもかかわらず、適度な剛性と強度があり歯で噛んでも変形することはなかった。かかる加工品は軽量で柄の部分が自在に変形可能なことから、育児、介護、リハビリ用のスプーンとして有用である。
【0089】
実施例9
(c)コイニング
前記(1)と同様の射出成形条件で作製した50mm×50mm×2mmのシート上に、10円硬貨を表裏別に2枚置き、プレス機((株)東洋精機製作所製、ミニテストプレス10)を用いて、常温下(23℃)、ゲージ圧力で50kgf/cm2の圧力を加え5秒間プレスし、シート面に転写された10円硬貨の凹凸の状態を目視観察した。その結果、10及び発行年度の数字や文字がシート上に明瞭に刻印され、しかも、国名および平等院鳳凰堂表わす図柄の細部に至るまで形状が保持され鮮明な立体像が得られた。このように、微細な形状も鮮明に写し出せることから、微細加工品、表面装飾加工品及び版木などに好適に利用できる。
【0090】
【発明の効果】
以上の通り、本発明に従えば、ポリエステル系樹脂をベースとしたポリマーアロイの耐衝撃性を大きく向上せしめることができ、特に表面ノッチ感度に鈍感な実用性の高いポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。それも使用済みのポリエステル系樹脂を用いても成しえるところに大きな意義があり、再生PETのリサイクル技術としても極めて有用である。本発明のポリエステル系樹脂組成物からなる成形品は、耐衝撃性のみならず、延伸性、靭性及び強度にも優れ、しかも、いわゆる金属材料のような常温塑性加工性能も有しているため、その特質を活かして広範な新規かつ有用な用途展開が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるポリエステル系樹脂組成物により成形されたフランジ付き小形スリーブ状部品を示す正面図(a)及びX−X矢視断面図(b)である。
【符号の説明】
F フランジ
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル系樹脂組成物に関し、詳しくは、(A)ポリエステル系樹脂、(B)ポリオレフィン系樹脂、(C)スチレン系エラストマーおよび(D)相溶化剤を必須成分とし、(E)ポリカーボネート系樹脂を任意成分とする耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度に優れた、しかも溶融成形性および常温下における塑性加工性が良好なポリエステル系樹脂組成物、ならびに該ポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTということがある)に代表されるポリエステル系樹脂は、機械的強度、耐薬品性、ガスバリヤ性、耐熱性、電気絶縁性などに優れるため、繊維や包装用フィルム、食品用や医療用の容器類、電気・電子部品、自動車部品その他の機械部品などに幅広く用いられている。とりわけポリエチレンテレフタレートは、その延伸強度が高いことから、繊維、フィルム、テープ、ボトルなどの延伸特性を活かした分野で広く使われており、なかでも各種清涼飲料分野等のボトル用途に大量使用されている。しかしながら、ポリエステル系樹脂からなる成形品の耐衝撃性は必ずしも十分なものではなく、特にPETの場合には、PBTに比べ結晶化速度が遅く成形性にも問題があることから、射出成形や押出成形分野で使用する時には主に小型成形品への利用に限られていた。
【0003】
一方で、大量使用に伴い廃棄される使用済みPET容器の処理が大きな社会問題となり、その膨大化する廃棄容器を利用した有効なリサイクル技術が求められている。一般にポリエステル系樹脂は、加水分解による劣化を受け易いため、その再生材を使用した成形品は耐衝撃性が低下してしまうという問題点がある。例えば、PETボトルの再生化にあたっては、使用済みPETボトルを回収後、粉砕、洗浄・乾燥工程を経てフレーク状とし、これを原料として各種製品が製造されているが、このPETフレークは成形加工時の熱履歴によって低分子量化していること、洗浄処理によって水分を含有していることなどから、乾燥が不十分であると再成形時に加水分解が起こり、耐衝撃性の極めて低い脆弱な製品しか得られず、実用に耐え得るプラスチック製品への再使用は困難である。また、たとえ成形前の乾燥が十分になされたとしても、成形品に鋭角部や傷などがあると、この部分がノッチとなって応力が集中し破壊しやすいという問題があり、PETフレークのみでは品質的に安定で耐衝撃性のある製品は得られない。PETのこのような分子量低下による物性への影響を補いつつ、PETが本来有する優れた機械的および熱的性質を活かし、さらに成形性および耐衝撃性の向上が実現されるならば、再生品を含むPET系樹脂の射出成形や押出成形分野への利用範囲も広がるものと期待されている。
【0004】
【先行技術の開示】
上述のPETフレークのような、熱履歴を経て低分子量化したポリエステル系樹脂から耐衝撃性の改善された製品を得る手段として、ポリエステルの末端と結合を起すような極性基を有するゴム状重合体を配合する方法が知られている。例えば、PETなどの熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる成形加工品を粉砕して得られる樹脂片に、エポキシ基含有エチレン系共重合体を配合して溶融混練する方法(特許文献1)やエポキシ化ジエン系共重合体を配合して溶融混練する方法(特許文献2)が開示されている。特許文献3、特許文献4、特許文献5などには、ポリエステル樹脂にエチレンとエチレン系不飽和エステル化合物との共重合体ならびにエポキシ基含有エチレン系共重合体を配合して溶融混練する方法が開示されている。また、特許文献6には、熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品の粉砕物に硬質層を最外層として有するとともにゴム層を内部に有する多層構造重合体粒子を配合して溶融混合する方法が開示され、特許文献7、特許文献8、特許文献9などには、熱可塑性ポリエステルにポリオルガノシロキサン系ゴムおよびポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムからなる複合ゴムにビニル系単量体をグラフト重合して得られる共重合体を配合して溶融混練する方法が開示されている。さらに、特許文献10には、ポリエチレンテレフタレートに不飽和カルボン酸化合物で変性されたエチレン系またはスチレン系重合体とポリプロピレンをドライブレンドして直接成形する方法が開示され、特許文献11には、ポリエステル樹脂にエラストマーおよび親エラストマー部とエポキシ基などの官能基を有する相溶化剤をドライブレンドして直接成形する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法を用いることによって、確かに再生PETの衝撃強度はある程度改善されるが、成形品表面にレザー状のシャープな傷が入った時に脆く壊れてしまう場合があり、必ずしも耐衝撃強度は満足できるものではなかった。
【0005】
【特許文献の目録】
1.特許文献1 特開平6−298991号公報
2.特許文献2 特開平8−245756号公報
3.特許文献3 特開平10−152607号公報
4.特許文献4 特開平11−255906号公報
5.特許文献5 特開2002−212406号公報
6.特許文献6 特開平11−60922号公報
7.特許文献7 特開平2−15044号公報
8.特許文献8 特開2001−55495号公報
9.特許文献9 特開2002−37994号公報
10.特許文献10 特開2001−114995号公報
11.特許文献11 特開2001−139782号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、成形加工性および機械的特性に優れ、しかもシャープなノッチに対しても高い衝撃強度を有するポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。また、本発明は再生PETの持つ有効な潜在能力を発揮させ、従来以上にその有効活用を達成することを課題とする。さらに、本発明はかかるポリエステル系樹脂組成物を素材とする加工品を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すでに本発明者は、PETボトルの粉砕品について実用に耐える再生方法を検討してきた中で、PETフレークにポリオレフィン系樹脂と特定のゴム状ブロック共重合体および特定の多層構造重合体を配合し、PETの融点未満の温度でせん断混練することによって得られる再生PET樹脂組成物が、加水分解劣化が抑制され、優れた機械的特性および押出成形性を示すことを見出しているが(特願2002−20252号)、そのなかで、極めて高い衝撃強度を発現する事例も見出している(実施例3)。本発明者は、この再生PETの持つ高耐衝撃性付与素材としての潜在能力に注目するとともに、未使用のバージンPET等を使用したポリエステル系樹脂組成物に関して、その配合処方および製造方法の観点から高耐衝撃化の可能性について鋭意研究を重ね、ついに本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち請求項1に記載の発明は、(A)ポリエステル系樹脂100重量部、(B)ポリオレフィン系樹脂5〜80重量部、(C)スチレン系エラストマー3〜80重量部、(D)相溶化剤0.1〜50重量部及び(E)ポリカーボネート系樹脂0〜100重量部を含有し、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物を提供するものである。ここで着目した特性はレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度であり、これは成形品表面に浅いシャープな傷が入った場合の耐衝撃強度を念頭においた耐衝撃性評価指標で、本発明者の試行によれば、ポリエステル系樹脂組成物においては、同一試験片であっても従来のU字ノッチ付きやV字ノッチ付きのシャルピー衝撃強度に比較し、その衝撃強度は低い値になる。すなわち、ポリエステル系樹脂組成物は表面ノッチ感度に対して敏感であり、このような表層傷に対する抵抗力を指標にすることは実用上重要である。本発明に従うポリエステル系樹脂組成物は、実用的に優れた耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度を有し、さらには良好な転写性および形状セット性を示す。このような特徴を有するポリエステル系樹脂組成物を素材として、公知の成形方法または加工方法を適用することにより優れた機械的特性を有する多くの成形品、加工品等が得られる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記(A)成分としてポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートである前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。請求項3に記載の発明は、前記(A)成分の加熱重量減率が0.1重量%以上である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。一般にポリエステル系樹脂組成物は、その溶融混練や成形に際して、ポリエステル系樹脂の加水分解劣化を避けるために、その原料は水分含有率を少ない乾燥した状態で使用されるが、本発明においては、混練に際し、乾燥状態の原料を用いるよりも水分等の揮発成分をある一定量以上含有する原料を用いたほうが、より高い衝撃強度を有するポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。また、請求項4に記載の発明は、前記(A)成分の末端カルボキシル基濃度が35meq/kg以上である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。ポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基濃度が上記以上にあると、前記(D)成分との反応が起こりやすく、耐衝撃性および延伸性に優れたポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。さらに、請求項5に記載の発明は、前記(A)成分の一部または全量が少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有する前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものであって、請求項6に記載の発明は、この少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有するポリエステル系樹脂として、廃棄PETボトル粉砕品等の再生ポリエチレンテレフタレートを使用した前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。そして、通常、かかる再生ポリエチレンテレフタレートは請求項3および4の条件を満足している場合が多い。
【0010】
請求項7に記載の発明は、前記(B)成分がポリエチレン系樹脂である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものであり、請求項8に記載の発明は、前記(B)成分が直鎖状低密度ポリエチレンである前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。また、請求項9に記載の発明は、前記(D)成分がエポキシ基変性オレフィン共重合体とビニル系(共)重合体のグラフト共重合体である前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。
【0011】
請求項10に記載の発明は、本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関係するものであって、前記(A)〜(D)の各成分を、前記ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度以上であって、(A)成分の溶融温度未満の範囲の温度に設定されたせん断混練装置を用いて、せん断混練することによって得られる前記ポリエステル系樹脂組成物にかかるものである。一般にポリエステル系樹脂の加水分解や熱分解は、その含有水分量および末端カルボキシル基量に大きく左右され、これらの含有量が多いほど、溶融混練時の分解反応は急速に進行し、物性低下の顕著な混練物となる。しかしながら、本発明においては、かかる製造方法によって、ポリエステル系樹脂の分解反応が適度に制御され、該ポリエステル系樹脂と相溶化剤との反応が効率よくなされ、結果として、優れた機械的特性および成形加工性を発現する。
【0012】
また、このようにして得られるポリエステル系樹脂組成物を素材として、請求項13に示すように様々な溶融成形品を得ることができる。さらには請求項14以降に示すように、これらの溶融成形品に常温下で塑性加工を施した種々の常温塑性加工品も得ることができる。このようにして得られる加工品は十分な機械的強度と耐衝撃性を示す。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明で用いられる(A)成分のポリエステル系樹脂としては特に限定されるものではなく、例えば、ジカルボン酸単位とジオール単位との重縮合物などが挙げられる。ここで、ジカルボン酸単位の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、こはく酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環状基を含むジカルボン酸、ジカルボン酸のメチルあるいはエチルエステル、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0014】
また、ジオール単位の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオール等の炭素数2〜20程度の直鎖若しくは分岐状の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環状基を含むジオール、分子量400〜6000程度のポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の長鎖グリコールを挙げることができる。
【0015】
これらジカルボン酸単位およびジオール単位は共に上記化合物を各々単独で使用しても2種またはそれ以上組み合わせて使用してもよい。さらに、ここで使用されるポリエステル系樹脂は、全構造単位に基づいて1モル%以下程度の少量であれば、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上のモノマーから誘導される分子間架橋が可能な構造成分を有していてもよい。
【0016】
本発明において使用されるポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジエチレンテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート等を挙げることができる。これらは単独で用いても2種以上の組み合わせで用いてもよいが、なかでもポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートが好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。また、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートの混合物(好ましくはPETが50重量%以上の混合物)も好ましく使用できる。
【0017】
上記ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸単位とエチレングリコール単位とを主たる繰り返し単位とするポリエステルであって、特に限定されることはないが、全ジカルボン酸単位に対するテレフタル酸単位の割合および全ジオール単位に対するエチレングリコール単位の割合が約70モル%以上のポリエチレンテレフタレートが好適に使用できる。一般にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸単位とエチレングリコール単位からのみ誘導される重合体であっても、重合時の副反応生成物としてジオール成分100モル%中、約0.5〜5モル%程度のジエチレングリコール成分を含有する。また、テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位以外の共重合成分の割合が多くなるほど非晶性の度合いが増す傾向にある。ジエチレングリコールを共重合成分とするポリエチレンテレフタレート以外にも、例えばイソフタル酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、アジピン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、ナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、デカンジカルボン酸およびテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物、エチレングリコールおよびプロピレングリコールとテレフタル酸との重縮合物、エチレングリコールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸との重縮合物、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールとテレフタル酸との重縮合物などの共重合ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられ、これらは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0018】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂の固有粘度としては特に限定はないが、概ね0.50〜1.50dl/g、好ましくは0.60〜1.20dl/gの範囲である。固有粘度が小さすぎると十分な耐衝撃性、延伸性が得られず、また耐薬品性も低下するおそれがある。逆に固有粘度が大きすぎると、得られるポリエステル系樹脂組成物の成形加工性が低下するおそれがある。ここで固有粘度はフェノール/テトラクロロエタン(重量比:1/1)混合溶媒を用いて30℃で測定したときの値である。
【0019】
本発明においては、固有粘度が上記範囲にあれば、(A)成分として、その一部または全部が少なくとも1回以上の加熱溶融履歴(以下、単に熱履歴ということがある)を受けたポリエステル系樹脂であってもよく、例えば、再生ポリエチレンテレフタレート(以下、再生PETということがある)を好適に使用することができる。より具体的には、廃棄物として回収されたポリエチレンテレフタレート製品であるボトル、シート、衣類、それにこれらの製造工程で生じたバリ、耳、スプルー、ランナー、不良品、繊維屑などを、適当な大きさに粉砕したものを使用することができ、なかでも、一般消費者から大量に排出される飲料用PETボトルの粉砕品を好適に使用することができる。一般に、PETボトルは分別回収後、異材質除去、粉砕、洗浄工程を経て大きさ約3〜10mmの透明なクリアフレークに再生される。通常、かかるクリアフレークの固有粘度は概ね0.60〜0.75dl/gである。
【0020】
また、上記再生ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基の濃度は、通常10〜200meq/kg程度であるが、本発明においては35meq/kg以上、好ましくは40meq/kg以上、さらに好ましくは50meq/kg以上である。末端カルボキシル基濃度が35meq/kg未満では相溶化剤との反応が不十分となり、耐衝撃性の向上効果が小さくなる場合がある。しかしながら、末端カルボキシル基濃度が35meq/kg未満のポリエステル系樹脂であっても、例えば、一旦押出機で溶融混練するなどの熱履歴を加えることによって、末端カルボキシル基濃度を容易に増やすことができるため、最初の出発原料としてのポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基濃度は特に限定されるものではない。すなわち、(B)〜(E)成分との混合・混練時において、(A)成分の末端カルボキシル基量が上記濃度条件を満たしていればよく、最初のポリエステル系樹脂原料の末端カルボキシル基量がたとえ少量でも、熱履歴を加え末端カルボキシル基量を上記濃度に調整することによって、(A)成分として使用することができる。一般にバージンのポリエステル系樹脂原料は、熱安定性を付与するために末端カルボキシル基の濃度は低め(通常30meq/kg以下)に調整されている場合が多いが、熱履歴を有する再生ポリエチレンテレフタレートにおいては必然的に上記条件を満たすものが多い。このような点からも、再生ポリエチレンテレフタレートは本発明に用いることができる好適なポリエステル系樹脂のひとつである。尚、ここで末端カルボキシル基濃度は、ポリエステルをベンジルアルコールに加熱溶融後、クロロホルムを加えて希釈し、フェノールレッドを指示薬として水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液で滴定することにより定量された、末端カルボキシ基のポリエステルに対する割合である。また、バージンの原料とは、その製造後にまだ市場において使用されていない原料のことをいう。
【0021】
一般にポリエステル系樹脂は、溶融混練や成形加工時に、加水分解による劣化を避けるために、その含有水分率を極力少なくして使用することが必要とされている。例えばPETやPBTは、含有水分率をおよそ0.02重量%以下に調整して使用することが推奨されている。そのため、通常バージンのポリエステル系樹脂原料ペレットはアルミヒートシールパックなどの防湿処理された荷造りがなされている場合が多い。これに対し、本発明において好適なポリエステル系樹脂は、吸湿状態にあるポリエステルである。その目安として、120℃、5時間乾燥における乾燥前に対する乾燥後の加熱重量減率が0.1重量%以上、好ましくは0.1〜1.0重量%である。ここで、乾燥に使用する装置は、槽内温度が均質に保持できる乾燥機であれば特に限定はなく、温風乾燥機、真空乾燥機、除湿乾燥機などを使用することができる。加熱重量減率が0.1重量%未満であると、混練時の相溶化剤との反応が不十分となり良好な耐衝撃性や延伸性を有するポリエステル系樹脂組成物が得難くなるので好ましくない。一方、加熱重量減率が1.0重量%を超えると、ポリエステル系樹脂の加水分解反応が必要以上に進行し、得られるポリエステル系樹脂組成物が脆化するおそれがある。ただし、加熱重量減率が1.0重量%以上であっても、後述する低温混練条件を適宜設定することによって、ポリエステル系樹脂の加水分解劣化を低減することができるため、特に上限は制限されるものではない。加熱重量減率を上記範囲に調整する方法に特に制限はなく、例えばポリエステル系樹脂の原料ペレットや粉砕物などを大気中に自然放置することによって容易に調整することができる。なかでも、リペレットした非晶状態にあるPETは吸湿能が高く、数時間の自然放置によって本発明に適う吸湿状態に容易に調整することができる。このように本発明のポリエステル系樹脂組成物は、その製造工程において、通常必要とされるポリエステル系樹脂の乾燥処理や防湿処理が省けるという利点がある。
【0022】
上述のように、本発明に使用されるポリエステル系樹脂は、従来の概念に反して、吸湿状態にあって、しかも末端カルボキシル基を多く含有するものが好ましい。通常、このようなポリエステル系樹脂を用いて溶融混練した場合、該ポリエステル系樹脂の加水分解や熱分解等が顕著に起こり、機械的特性の良好な混練物は得ることができない。本発明におけるポリエステル系樹脂組成物の基本的な設計概念は、ポリエステル系樹脂をあえて加水分解反応やエステル交換反応等を助長するような状態に保ち、そして、これらの反応を混練方法によって適度に制御することで、またこれらの反応過程で生成される極性基も活用することで、相溶化剤との反応を十分足らしめ、安定した相構造を形成させようとするものである。
【0023】
本発明に用いられる(B)ポリオレフィン系樹脂は、その製法や物性は特に限定されず、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、不飽和有機カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体などを使用することができる。具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度あるいは高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン単独重合体、マレイン酸で変性されたポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロック共重合体やランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などが挙げられる。これらは単独でも、2種類以上の組み合わせでも使用することができるが、なかでもHDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン系樹脂が好ましく、特に好ましくはLLDPEである。LLDPEはチグラー触媒、メタロセン触媒を用いてエチレンと他のα−オレフィンを共重合させて得ることができる。一般には中・低圧法で製造されるが高圧法で製造することもでき、気相法、溶液法、スラリー法等のいずれにおいても製造される。そしてLLDPEの密度は、一般的に0.900〜0.940g/cm2程度である。
【0024】
ポリエチレン系樹脂としては、特に制限なく広範囲の分子量のものを使用できるが、JIS K7210で規定される190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分、好ましくは0.05〜50g/10分のものがよい。樹脂組成物を押出成形やブロー成形に用いる場合には、MFRが0.01〜20g/10分程度のポリエチレン系樹脂が好適である。さらに、MFRがかかる範囲にあれば、前記ポリエチレン系樹脂の成形加工製品や成形屑等の粉砕品又はそれらを溶融混練して得られるリペレットも好適に使用することができる。尚、ポリオレフィン系樹脂は、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系化合物共重ゴム(例えばEPDMなど)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合ゴム、これらの水素添加物などのゴム類を含有してもよい。
【0025】
(B)成分のポリオレフィン系樹脂は(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対し、5〜80重量部、好ましくは10〜50重量部配合する。(B)成分が5重量部未満では相構造のバランスが崩れ耐衝撃性が損なわれる。また(B)成分が80重量部よりも多いと、得られるポリエステル系樹脂組成物の曲げ強度や弾性率等の機械強度が低下する。
【0026】
本発明の(C)成分であるスチレン系エラストマーは、本発明のポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性および延伸性付与のために必要な成分であって、少なくとも1個のビニル芳香族化合物の重合体を含むブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物の重合体を含むブロックを有する共重合体である。スチレン系エラストマーの構成単位であるビニル芳香族化合物としては、芳香族部が単環でも多環でもよく、例えばスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン等から1種またはそれ以上選択でき、これらの中でもスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが好ましい。また、スチレン系エラストマーのもうひとつの構成単位である共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(通称、イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等のうちから1種又はそれ以上が選択でき、これらの中でも1,3−ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。そして、そのブロックにおけるミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えばポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ビニル結合含有量が20〜50%、好ましくは25〜40%である。
【0027】
このようなスチレン系エラストマーにおけるビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックとの結合形態は特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはそれらの二つ以上が組み合わさった結合形態のいずれであってもよいが、これらの中でも直鎖状の結合形態が好ましい。スチレン系エラストマーの形態例としては、ビニル芳香族化合物重合体ブロックをXで、共役ジエン化合物重合体ブロックをYで表したときに、X(YX)m、(XY)n又はY(XY)p(ここでm、n及びpは1以上の整数)で示される結合形態を有するブロック共重合体を挙げることができる。その中でも、2個以上のビニル芳香族化合物重合体ブロックXと1個以上の共役ジエン化合物重合体ブロックYが直鎖状に結合したブロック共重合体、特にX−Y−X型のトリブロック共重合体が好ましく用いられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIR)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等が挙げられる。さらに、加熱溶融時の熱安定性や成形加工品の耐熱老化性向上、耐候性低下防止の観点から、共役ジエン化合物に基づく残留不飽和結合の少なくとも一部が水素添加処理(水素化処理)により飽和されているスチレン系エラストマーが好適に使用できる。なかでも残留する不飽和結合の50%以上、好ましくは80%以上が水素添加され、共役ジエン化合物を主体とする重合ブロックを形態的にオレフィン性化合物重合体ブロックに変換させたものが好ましい。具体的には、例えば部分水素化・スチレン−ブタジエンブロック共重合体、部分水素化・スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素化・スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体)、水素化・スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体)、水素化・スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体)等が挙げられ、これらの中でもSEBSやSEPS等の直鎖状のX−Y−X型結合形態のブロック共重合体が最も好ましい。
【0028】
本発明で用いるスチレン系エラストマーは、上記した構造を有するものであれば、どのような製造方法で得られるものであってもかまわないが、全構造単位に対して、ビニル芳香族化合物に由来する構造単位の含有量が10〜60重量%(即ち、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が90〜40重量%)であることが好ましく、15〜40重量%(即ち、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が85〜60重量%)であることがさらに好ましい。この範囲を逸脱すると、本発明のポリエステル系樹脂組成物の相構造が不安定化し耐衝撃性が低下する。また、スチレン系エラストマーの分子量としては、小さすぎるとブロック共重合体自体の破断時の強度、伸度等の機械的性質が低下し、組成物とした場合にその強度を低下させるおそれがあり、また大きすぎると加工性が悪くなり、十分な性能を有する組成物が得られないおそれがあるので、通常、数平均分子量で30,000〜500,000の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは50,000〜300,000の範囲である。
【0029】
これらスチレン系エラストマーは単独でも、あるいは2種以上の組み合わせでも使用できる。また、カルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、水酸基、エポキシ基などの極性基を有する変性剤により一部あるいは全部が変性されていてもかまわない。特に好ましい極性基は酸無水物とエポキシ基であり、酸無水物の中では無水マレイン酸基が好ましい。さらには、他のスチレン系樹脂、例えばホモポリスチレン、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体などを含有してもかまわない。ホモポリスチレンは、アタクチック構造、アイソタクチック構造およびシンジオタクチック構造のものを包含する。
【0030】
(C)成分のスチレン系エラストマーは、(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対して、3〜80重量部、好ましくは5〜70重量部、より好ましくは8〜50重量部の範囲で配合する。(C)成分が3重量部未満では得られるポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性、延伸性が十分ではなく、80重量部より多くなると、該ポリエステル系樹脂組成物が柔軟化し、機械的強度、耐熱性が低下する。
【0031】
本発明の(D)成分である相溶化剤は、本発明のポリエステル系樹脂組成物の相構造を安定化させるために必要な成分であって、(A)ポリエステル系樹脂中への(B)ポリオレフィン系樹脂の分散安定化および(B)成分中への(C)スチレン系エラストマーの分散安定化をなし得るものであれば特に限定されず、公知の相溶化剤を用いることができる。このような相溶化剤としては、例えば、分子内の主鎖中または側鎖に極性基を導入した変性オレフィン系重合体とビニル系重合体のグラフト共重合体を挙げることができる。一般に極性基としては、例えば、酸ハイドライド、カルボキシル基、酸無水物、酸アミド、カルボン酸エステル、酸アジド、スルフォン基、ニトリル基、シアノ基、イソシアン酸エステル、アミノ基、イミド基、水酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、チオール基等が挙げられるが、本発明に使用される相溶化剤の好ましい極性基は、カルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、イソシアン酸エステル、エポキシ基、オキサゾリン基であり、なかでもカルボキシル基、酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ基が好ましい。かかる相溶化剤は、その骨格であるオレフィン系重合体相が(B)成分のポリオレフィン系樹脂相と相溶し、極性基が(A)成分のポリエステル系樹脂と反応を起すために、(A)成分中への(B)成分の安定した分散形態を形成させることが可能で、さらにビニル系重合体を持つために(B)成分と(C)成分のスチレン系エラストマーとの親和性向上、すなわち(B)成分中への(C)成分の安定分散を図ることが可能である。
【0032】
次に、本発明に使用される好適な相溶化剤をより具体的に説明する。まず、本発明に使用される好適な相溶化剤の構成要素である極性基含有変性オレフィン系重合体として、不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体とエポキシ基変性オレフィン系重合体を挙げることができる。
【0033】
不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体としては、オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物との共重合体、またはオレフィン系重合体にα、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物を付加反応させた変性体(グラフト変性体)を挙げることができる。ここでα、β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。また、これらのカルボン酸のエステル、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどをランダム共重合またはグラフト変性したものも使用できる。前者の共重合体の場合、オレフィンとしては特にエチレンが好ましく用いられ、その合成された具体的な共重合体としては、エチレン−アクリル酸メチル、エチレン−メタクリル酸メチル、エチレン−アクリル酸エチル、エチレン−アクリル酸nブチル、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸などを例示することができる。また、後者のグラフト変性体の場合に好適なオレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1、ポリ−4−メチルペンテン−1などの単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体等のエチレンを主成分とする他のα−オレフィンとの共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等のプロピレンを主成分とする他のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル−等のエステルとの共重合体、エチレン−マレイン酸共重合体、さらにはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン−共重合体等のゴム状共重合体も挙げることができる。これらの不飽和カルボン酸化合物により変性されたオレフィン系重合体は、1種に限らず2種以上を混合して使用することもできる。また、変性重合体中の不飽和カルボン酸化合物の量は、一般に0.1〜20重量%程度である。
【0034】
エポキシ基変性オレフィン系重合体としては、オレフィンと不飽和グリシジル基含有単量体との二元共重合体および更に他の不飽和単量体が加わった三元または多元の共重合体、またはオレフィン系重合体に不飽和グリシジル基含有単量体を付加反応させた変性体を挙げることができる。ここで、前者に使用されるオレフィンおよび後者に使用されるオレフィン系重合体の具体例は前記の不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体の場合と同様である。不飽和グリシジル基含有単量体としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、およびα−クロロアリル、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられるが、特に好ましいものとしてメタクリル酸グリシジル、アクリルグリシジルエーテルが挙げられる。他の不飽和単量体としては、オレフィン類、ビニルエステル類、α、β−エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体から選ばれた少なくとも1種の単量体で、具体的にはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等のオレフィン類、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルベンゾエート等のビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、ブチル−、2−エチルヘキシル−、シクロヘキシル−、ドデシル−、オクタデシル−等のエステル類、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸モノおよびジ−エステル、塩化ビニル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル類およびアクリル酸アミド系化合物が挙げられるが、特にアクリル酸エステルが好ましい。このようなエポキシ基変性オレフィン系重合体の具体例としては、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−一酸化炭素−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。なかでも好ましいのは、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体である。これらのエポキシ基変性オレフィン系重合体は、1種に限らず2種以上を混合して使用することもできる。また、変性重合体中の不飽和グリシジル基含有化合物の量は、一般に0.5〜40重量%程度、好ましくは1〜30重量%である。
【0035】
極性基含有変性オレフィン系重合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、単量体をラジカル発生剤の存在下に、重合圧力500〜4000気圧程度、反応温度100〜300℃程度、適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下または不存在下に共重合させる方法、オレフィン系重合体に極性基を有する化合物、ラジカル発生剤等を混合し、押出機中で溶融グラフト共重合させる方法などが挙げられる。
【0036】
本発明に使用される好適な相溶化剤のもうひとつの構成要素であるビニル系(共)重合体としては、具体的には、スチレン、核置換スチレン例えばメチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン、α−置換スチレン例えばα−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のビニル芳香族単量体、アクリル酸もしくはメタクリル酸の炭素数1〜7のアルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル−等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、アクリロニトリルもしくはメタクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸およびそのアミド、イミド、エステル、無水物等の誘導体のビニル単量体の1種または2種以上を重合して得られた(共)重合体である。これらの中でも、ビニル芳香族単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリロニトリル単量体およびビニルエステル単量体が好ましく使用される。これらの単量体を重合して得られる具体的なビニル系(共)重合体としては、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられ、特にポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましい。ビニル系(共)重合体の数平均重合度は5〜10000、好ましくは10〜5000である。数平均重合度が5未満であると、本発明のポリエステル系樹脂組成物の耐衝撃性の低下を招くおそれがあり、数平均重合度が10000を超えると、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度が高くなり成形性を損なうおそれがある。
【0037】
前記極性基含有変性オレフィン系重合体に上記ビニル系(共)重合体をグラフト化する方法に特に限定はなく、一般によく知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法、あるいは特公平6−51767号公報や特公平6−102702号公報に記載の方法などを用いて製造することができる。これら公報に記載の方法は、ビニル単量体に特定の有機過酸化物およびラジカル重合開始剤を加え、この有機過酸化物が分解しない低温で各種ビニル単量体を重合することにより、過酸化物をペンダントにもつ各種のビニル系重合体を合成し、この重合体と変性オレフィン系重合体を押出機などで加熱溶融混練することにより、過酸化物の分解ラジカルによりグラフト共重合体を得る方法である。
【0038】
本発明に使用される好適な相溶化剤としては、前記不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体と前記ビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体または前記エポキシ基変性オレフィン系重合体と前記ビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体が挙げられるが、後者のほうが前者よりも熱安定性に優れるため、より好ましくは後者のエポキシ基変性オレフィン系重合体とビニル系(共)重合体とのグラフト共重合体である。具体的には、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体とポリスチレンとのグラフト共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体とアクリロニトリル−スチレン共重合体とのグラフト共重合体などを挙げることができる。
【0039】
本発明に用いられる相溶化剤は、極性基含有変性オレフィン系重合体が10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、ビニル系(共)重合体が90〜10重量%、好ましくは、80〜20重量%にあるものがよい。極性基含有変性オレフィン系重合体が10重量%未満であると、(A)成分のポリエステル系樹脂と(B)成分のポリオレフィン系樹脂との親和性が不十分であり、また、極性基含有変性オレフィン系重合体が90重量%を超えると、(C)成分のスチレン系エラストマーとの親和性が低下し、ゲル化物が生じやすくなる。
【0040】
本発明において、(D)成分の相溶化剤の配合量は、(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部当り0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは3〜20重量部である。相溶化剤が0.1重量部未満では(A)成分と(B)成分および(B)成分と(C)成分の親和性が不十分であり、得られるポリエステル系樹脂組成物の相構造が不安定化するので好ましくない。また相溶化剤が50重量部を超えると、得られるポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度が増大し成形性が損なわれるので好ましくない。
【0041】
本発明の樹脂組成物には、さらに上記の成分の他に任意成分として(A)成分のポリエステル系樹脂とエステル交換反応能を有する(E)成分のポリカーボネート系樹脂を配合することができる。この(E)成分を配合することによって、耐衝撃性に優れ、耐熱性を向上せしめたポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。ここでポリカーボネート系樹脂とは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネートである。その製造方法自体は公知であり、二価フェノールにホスゲン等のカーボネート前駆体を直接反応させる方法(界面重合法)、又は二価フェノールとジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体とを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが知られている。
【0042】
二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び核にアルキル基やハロゲン原子等が置換しているこれらの誘導体などが挙げられる。特に好適な二価フェノールの代表例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス{(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)フェニル}スルホン等が挙げられ、これらは単独又はそれ以上を混合して使用できる。これらの中で、特にビスフェノールAの使用が好ましい。
【0043】
カーボネート前駆体としては、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ホスゲン等のカルボニルハライド、二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、ジフェニルカーボネートを使用する。これらカーボネート前駆体もまた、単独でもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、本発明に使用可能なポリカーボネート系樹脂は、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、得られたポリカーボネート系樹脂の2種類又はそれ以上を混合した混合物であってもよい。
【0045】
ポリカーボネート系樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量で1×104〜1×105程度であるが、本発明に使用できるポリカーボネート系樹脂の分子量は12,000〜35,000程度が好ましく、13,000〜30,000が更に好ましい。
【0046】
(E)成分のポリカーボネート系樹脂としては、バージン原料だけではなく、使用済み製品から再生されたポリカーボネート(以下、再生PCということがある)も使用することができる。使用済み製品としては、例えば、防音壁、窓、透光屋根材、および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、ならびにCD、CD−R、DVD、MD等の光記録媒体などが挙げられ、これらを10mm程度以下の大きさに粉砕、洗浄・乾燥した樹脂片であれば特に限定なく、本発明において使用できる。また、これらの製造工程で生じたバリ、耳、スプルー、ランナー、不良品などを粉砕したものも好適に使用できる。これら粉砕樹脂片の形状としては、例えばフレーク状、ブロック状、粉状及びペレット状などが好ましく、特に好ましい形状はフレーク状である。
【0047】
本発明においては(E)成分のポリカーボネート系樹脂を(A)成分のポリエステル系樹脂100重量部に対し0〜100重量部、好ましくは50重量部、さらに好ましくは30重量部以下の範囲で配合することができる。ポリカーボネート系樹脂が100重量部を超えると、必要以上に(A)成分とのエステル交換反応を招くおそれがあるばかりでなく、相構造のバランスが崩れ、また耐薬品性も損なわれるので好ましくない。
【0048】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、前記成分(A)〜(E)を含有する樹脂組成物であって、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上、好ましくは30kJ/m2以上、さらに好ましくは40kJ/m2以上であることを特徴とする。ここでレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度とは、ノッチ形状以外はJIS K7111に準拠したシングルノッチタイプのシャルピー衝撃強度であって、ノッチはその深さが0.50±0.05mmで先端がシャープな形状のものであればよく、市販のノッチ入れ装置やカミソリ刃、ナイフなどを用いて試験片に導入することができる。例えば市販の予亀裂導入装置(例えば(株)丸東製作所製RD−29)を用いれば、連続的、高能率でしかも高精度でレザーノッチ付き試験片を加工することができる。このレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2未満であると、該ポリエステル系樹脂組成物の実用的な耐衝撃性は不十分であり、例えばこの成形品表面に浅い傷が入った状態で衝撃力を受けた場合、簡単に破壊してしまうおそれがある。また、釘打ち加工時や常温下におけるせん断加工に亀裂が入ったり壊れたりするおそれがある。
【0049】
本発明のポリエステル系樹脂組成物には、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂成分の混合時または混練時に、もしくは成形時に、慣用のほかの添加剤、例えば顔料、染料、香料、補強材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、粘土鉱物、チタン酸カリウム繊維、天然繊維など)、充填剤(カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、金属粉、木粉、籾殻など)、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、結晶化促進剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、発泡剤、架橋剤、架橋促進剤、軟化剤、防腐剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することができる。なかでも、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、ポリエステル系樹脂の熱分解やポリカーボネート系樹脂とのエステル交換反応等の分解反応を抑制し必要以上に起こさせないようにするために、熱安定剤や酸化防止剤などの各種安定剤を好ましく添加することができる。
【0050】
上記エステル交換反応や熱分解を抑制するための熱安定剤としては、リン化合物からなる安定剤を挙げることができる。かかる安定剤としては、例えば、酸性リン酸塩、縮合リン酸、リンのオキソ酸、周期律表第1B族または第2B族金属のリン酸塩、ホスファイト、ホスホナイトおよびホスフェート等が挙げられる。酸性リン酸塩の具体例としては、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸モノ亜鉛、リン酸水素カリウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。縮合リン酸は、リン酸の2量体(ピロリン酸)および3量体(トリポリリン酸)等であり、例えばNa3HP2O7、K2H2P2O7、Na4P2O7、Na2H2P2O7等が挙げられる。リンのオキソ酸としては、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸および次亜リン酸などが挙げられる。周期律表第1B族または第2B族金属のリン酸塩としては、例えばリン酸亜鉛、リン酸銅が挙げられる。ホスファイトとしては、例えばトリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−i−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)フルオロホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。ホスホナイトとしては、例えばテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトなどが挙げられる。また、ホスフェートとしては、例えばトリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、ジフェニルクレジシルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどを挙げることができる。これらのリン化合物からなる安定剤は1種、または2種以上を併用することができる。また、リン化合物からなる安定剤の添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。かかる安定剤の添加タイミングは、特に限定されることはないが、前記(A)〜(D)成分の混練により安定した相構造が形成された後に添加、混練するか、もしくは成形時に添加するのがよい。
【0051】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを挙げることができる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。また、イオウ系酸化防止剤としては、例えばジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β−ラウリルチオプロピオネート)エステル、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種、または2種以上を併用することができ、上記熱安定剤と組み合わせて用いることができる。また、その添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
【0052】
その他の安定剤として、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、各種公知のベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などの紫外線吸収剤やヒンダードアミン系の光安定剤なども好適に使用できる。これらの安定剤は1種、または2種以上を併用することができ、前記熱安定剤や酸化防止剤と組み合わせて用いることができる。その添加量は、本発明のポリエステル系樹脂組成物100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。
【0053】
また、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0054】
次に、本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法について説明する。このポリエステル系樹脂組成物を製造するために必要な装置はせん断混練装置であって、上記各成分をせん断混練できるものであって、かつ加熱および冷却の温度調節手段を有するものであれば特に限定なく、例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ローラー式混練機、ギア式押出機、石臼式混練機などを挙げることができるが、なかでも、二軸押出機、バンバリーミキサー、ローラー式混練機が好ましく、より好ましくは脱気効率のよいベント(脱気口)を一つ以上備える二軸押出機である。通常、二軸押出機やバンバリーミキサーのような外殻を有する混練装置の温度調節はシリンダやチャンバーなどの外殻部のみで制御されるが、後述するような低温混練においては、せん断発熱による混練樹脂の過加熱を制御する目的で、スクリューやローターなどの内部の回転体側にも内部冷却手段を有する混練装置も好適に使用することができる。また、これらは1種の装置を単独で使用してもよく、2種以上の装置を組み合わせて使用することもできる。なお、成分の混合順は特に限定されない。
【0055】
本発明において、前記混練装置を用いて混練する際の装置の設定温度は、(A)成分のポリエステル系樹脂の溶融温度以上(溶融混練)であってもよいが、好ましくは、(A)成分のポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上であって、その樹脂の溶融温度未満である(以下、低温混練ということがある)。より好ましくは、(B)成分のポリオレフィン系樹脂の溶融温度以上であって、(A)成分の溶融温度未満である。ここで、ポリエステル系樹脂の溶融温度とは、通常その融点(Tm)のことをいい、非晶性ポリエステル系樹脂やゴム状ポリオレフィン系樹脂等のようにその融点が明確でない場合は、2.16kgfの荷重でMFRを測定したときに、充填された樹脂がオリフィスから流れ出す温度を指すこととする。また、ここでTmは示差走査熱量計(DSC)による昇温測定時に発現する結晶融解吸熱ピークの終点温度をいい、TgはJIS K7172に準拠したDSCによる測定において、そのサーモグラフから求められる転移温度である。設定温度がポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満であると、混練装置への負荷が大きくなり装置を損傷するおそれがあるので好ましくない。
【0056】
せん断混練装置の設定温度が上記のようなポリエステル系樹脂の溶融温度未満であっても、前記(A)〜(E)成分をせん断混練することは十分に可能であり、例えば二軸押出機を用いる場合、スクリューデザイン、チップクリアランス、スクリュー回転数などを適宜設定することによって、容易に混練を行うことができる。低温混練にあっては、上記条件を変更することによって、混練物が未溶融から半溶融の状態で混練することができるが、せん断発熱を利用することによって混練物を一時的に溶融状態にすることも可能であり、またその溶融状態にある時間を制御することも可能である。このような低温混練によって、ポリエステル系樹脂の加水分解反応や熱分解反応、あるいはポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂のエステル交換反応などを抑制、制御することができ、しかも相溶化剤との反応を効率よく行わせることが可能となる。ポリエステル系樹脂またはポリエステル系樹脂組成物においては、低温混練は混練前の乾燥処理を必要とせず、しかも従来の溶融混練に比較し混練条件の幅が広く取れるという利点があり、特に再生PETや再生PCのような一回以上の熱履歴を有するポリエステル系樹脂やポリカーボネート系樹脂を使用する場合には好適な混練方法である。
【0057】
また、低温混練においては、ポリエステル系樹脂が透明感のある非晶状態にある性状のものを用いるのが好ましく、さらに、その形状が一般的なペレット状よりもフレーク状、チップ状、短冊状、繊維状などのアスペクト比が大きいものを用いたほうが、せん断変形を効率よく受けることができ、混練装置への負荷も少なく、より好ましい。ここでアスペクト比とは、その形状の最長軸と最短軸の長さの比(最長長さ/最短長さ)を意味し、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。このような形状に加工する方法に特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂の原体がペレット状である場合、予め押出機等で一旦溶融させたのち、吐出した溶融ストランドを冷却水中においてローラー通しして、これをペレタイザーでカッティングすることによって、あるいは、ダイ孔断面形状がスリット状や長方形または長楕円状の形状を有する押出機等で溶融押出し、これを水冷、ペレタイズすることによって、高アスペクト比の扁平形状に変えることができる。また、プレス成形やロール成形によってシート状やフィルム状に加工したのち、適宜サイズにカッティングしてもよい。(A)成分のポリエステル系樹脂と同様に、(B)成分のポリオレフィン系樹脂および(E)成分のポリカーボネート系樹脂においても、その形状が高アスペクト比であれば、低温混練はさらに効率的となる。
【0058】
押出機を用いて低温混練する場合、混練物が大きさや形状が不規則な未溶融もしくは半溶融の状態で吐出されるため、押出は先端部のダイヘッドを開放した状態で行ってもよい。この場合、その吐出物を粉砕機に通すことで容易に射出成形等が可能な細破片状に変えることができる。例えば、押出機先端の吐出口直下に粉砕機を設置することによって、連続的に細破片化処理まで行うことができる。また、ダイヘッドを閉めた状態でも、吐出部付近の設定温度をポリエステル系樹脂の溶融温度近傍の高温側に設定することで、混練物を一時的に溶融させてストランドとして引くことが可能であり、これを公知の方法でペレット化することができる。
【0059】
本発明に従うポリエステル系樹脂組成物は、慣用の溶融成形性に優れるばかりでなく、物性的には優れた耐衝撃性、延伸性、靭性及び強度を有し、さらには良好な転写性および形状セット性を示す。このような特性を有する本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材として、例えば射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形、発泡成形、プレス成形、紡糸成形などによって各種成形品を得ることができる。また、このような溶融成形によって得られる繊維、モノフィラメント、ストランド、バンド、フィルム、シート、ラミネート、ホース、チューブ、丸棒、各棒、中空棒などを中間加工品とし、これらに各種加工を施すことによって各種加工製品を得ることができる。これらは用途に応じて単品で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの加工品とその他の素材、例えば繊維、布、木材、金属、コンクリート、他のプラスチック、ゴムなどを適宜組み合わせて加工することにより、目的に応じた様々な形態および機能を備えた複合製品を得ることができる。
【0060】
上記中間加工品に対する加工方法に特に制限はなく、例えば機織加工、編織加工、延伸加工、引抜加工、曲げ加工、せん断加工、転造加工、圧延加工、鍛造加工、切削加工、釘打ち・ねじ止め加工、溶着加工などの各種加工方法を用いることができる。これらの加工方法は単独であっても2種以上組み合わせてもよい。
【0061】
以下に本発明に従う具体的用途を例示するが、本発明のポリエステル系樹脂組成物の特性を活用できる用途であれば、特にこれらに限定されるものではない。まず、高耐衝撃性や強靭性が要求される加工品としては、例えばバンパー、ドアパネル、フェンダー、ボンネット、マッドガード、防傷プロテクター、アンダーガード、インスツルメントパネル、室内衝撃緩和材、チャイルドシートシェル等の自動車その他車両関連部品、ヘルメット、防護マスク、安全靴芯材、防弾チョッキ芯材、防護ネットなどの安全保護用品、ガードレール、交通標識、カーブミラー、街路灯などの支柱、踏み切り遮断棒、カラーコーン、ポストコーン、コーンバーなどの交通安全・道路工事関連用品等を挙げることができる。また、強靭性、延伸性、転写性、形状セット性などを活かした用途としては、例えばブラジャー、コルセット、ボディスーツ等のワイヤー、襟芯、肩パッド、防塵マスクや医療用マスク等のフレーム、眼鏡フレーム、ギブス等の体形補正・矯正用品や装着フィット感を必要する用品、版木、転写版、点字シート、クレジットカード、キャッシュカード、メンバーズカード、ICカード、切符類等の刻印や情報表示が必要とされる製品、ドレンホースやコルゲートチューブ、カップ麺や菓子容器等の蓋類やチューブ容器類などの形状保持が必要とされる用品および部材、オフィス、ベランダ、デッキ、浴室などの床材、人口芝、ガーデンマット、汚水升蓋、車止めなどの荷重や衝撃に対し長期耐久性が必要とされる製品などを挙げることができる。
【0062】
本発明のポリエステル系樹脂組成物のフィルム成形品およびシート成形品は、常温下におけるせん断加工(打抜加工)、延伸加工、絞り加工および曲げ加工が可能なことから、冷延鋼板のように常温プレス加工を行うことによって、簡便かつ大量に様々な形状のものを製造することができる。かかる加工方法を用いて得られる加工品としては、例えば各種の機械製品や電気・電子製品等の構成部品類を挙げることができる。特に衝撃、振動、騒音、熱などを緩和する働きを必要とする小型(精密)部品に好適に使用することができる。また、金属プレス加工時の金型保護緩衝フィルム、シリコンウエハーマット、液晶保護フィルム、ICトレイなどのような機械部品、電気・電子部品等を製造する際の加工補助材、クロス仕上げコーナーフィルム(室内壁コーナーを覆う下地材でコーナー部の上塗りあるいはクロス貼り仕上げをよくする目的で使用する)のような建築関連の内・外装仕上げなどの補助資材としての活用も可能である。さらに、本発明のポリエステル系樹脂組成物からなるシート材や中空棒材等は、釘打ち・釘抜きおよびネジ込み加工も可能なことから、壁材、波板、化粧板、積層板、支柱や杭などの建築、土木、園芸資材として、また看板類、パチンコ台等の用途にも使用することが可能である。かかるポリエステル系樹脂組成物からなるフィルム、シート、中空円筒体、を構成材料とする積層体や同心円状積層体、それに該ポリエステル系樹脂組成物からなる発泡成形板や中空押出成形板などは、密封材、防振材、緩衝材、防音材、断熱材としても有用であり、例えばリチウムイオンバッテリー等のバッテリー電解液漏れ防止密封材、洗濯機や掃除機等の防音・防振材、建築・建造物の防震台部材、ダンボール材、トラックやバンなど貨物車両の荷台用の軽量パネル材などに使用することもできる。
【0063】
上述の用途例以外にも、例えば、スキー、ゴルフクラブ、釣竿、プレジャーボートなどの強化プラスチック製品や強化コンクリートの補強繊維材料、椅子の座面や背もたれ、便座、トイレや浴室などの手摺、車椅子フレーム、介護や育児用のフォーク・スプーン類、自動車やビル・住宅用等の各種モール、シーリング材、粘着テープ等のテープ基材、その他各種のボックス類、トレイ類および包装材などが挙げられる。
【0064】
上述のように、本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材とした加工品は、衣料・非衣料用品、包装材料、家庭・雑貨用品、家具部品、機械部品、電気・電子部品、自動車その他乗り物の部品、工業製品の部材、土木・建築材料、農業用品、園芸用品、衛生用品、医療・介護用品、スポーツ・レジャー用品などの広範な用途に使用することができる。
【0065】
さらに本発明にかかる加工品は、本発明のポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂成分および/またはポリカーボネート系樹脂成分として、各種飲料、調味料、酒類、その他液体製品の容器として爆発的に利用拡大しているペットボトル回収品から得られるPETボトル粉砕品やCD、DVD等の記憶メディアの廃棄物から得られるPCディスク粉砕品などを利用することが可能である。したがって、廃棄物再利用を推進することができるため、環境問題を改善することができ、さらにこれら廃棄物資源再利用の観点から省資源及び省エネルギーにも大きく寄与することができる。
【0066】
【実施例】
以下、本発明の理解をさらに容易にするため実施例及び比較例を開示するが、本発明の精神と技術範囲を超えない限り、これらの実施例によってその技術的範囲が限定されるものではない。
【0067】
まず、本発明に従うポリエステル系樹脂組成物の製造方法およびその基本特性に関する実施例及び比較例を開示する。ここで用いた原材料およびせん断混練装置は以下の通りである。
【0068】
1.原材料
(A)成分:ポリエステル系樹脂
PET:固有粘度0.81dl/g、加熱重量減率0.32重量%、末端カルボキシル基濃度23meq/kgのバージンポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(非防湿パッケージ品)。このPETの昇温速度10℃/分におけるDSC法(パーキンエルマー社製DSC7使用)による結晶融解ピークの終点の温度は252℃であり、同DSC法によるガラス転移温度は78℃であった。
R−PET(1):上記PETを、孔の断面形状がスリット状のダイヘッドを取り付けた二軸押出機を用いて、真空減圧下、シリンダ温度290℃、スクリュー回転数200min−1の条件で溶融押出して帯状のストランドとしたのち、これをローリング、ペレタイズすることによって得られた大きさが約0.5mm×5mm×8mmの透明なフレーク状R−PET(アスペクト比16)で、これを大気中に自然放置して吸湿させたもの。このR−PET(1)の加熱重量減率は0.48重量%で、末端カルボキシル基濃度は61meq/kgであった。また、昇温速度10℃/分におけるDSC法(パーキンエルマー社製DSC7使用)による結晶融解ピークの終点の温度は255℃であり、同DSC法によるガラス転移温度は77℃であった。
R−PET(2):固有粘度0.69dl/g、加熱重量減率0.50重量%、末端カルボキシル基濃度59meq/kgの使用済みの廃棄PETボトルの大きさ2〜5mmのフレーク状に粉砕したPET粉砕品。前記同様のDSC法によるR−PET(2)の融点は253℃で、ガラス転移温度は76℃であった。
R−PET(3):上記R−PET(2)の粉砕フレークを、除湿乾燥機を用いて、加熱重量減率を0.03重量%としたもの。
PBT:固有粘度0.70dl/g、加熱重量減率0.21重量%、末端カルボキシル基濃度52meq/kgのバージンポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット(非防湿パッケージ品)。前記同様のDSC法によるPBTの融点は227℃で、ガラス転移温度は32℃であった。
【0069】
なお、上記ポリエステル系樹脂の加熱重量減率および末端カルボキシル基濃度は次の方法により求めた。
加熱重量減率:温風乾燥機恒温槽内に試料約10gを入れ120℃、5時間乾燥処理したのち下記式により求めた。
W=(1−S1/S2)×100
ここに、 W:加熱重量減率(重量%)
S1:乾燥処理後の試料の重量(g)
S2:乾燥処理前の試料の重量(g)
末端カルボキシル基濃度:試料0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
【0070】
(B)成分:ポリオレフィン系樹脂
LLDPE(線状低密度ポリエチレン):0134(出光石油化学(株)製、密度=0.919、MFR=1.2g/10分)尚、前記同様のDSC法による当該LLDPEの融点は125℃であった。
【0071】
(C)成分:スチレン系エラストマー
SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体):Septon8006((株)クラレ製、スチレン含有量33重量%)
【0072】
(D)成分:相溶化剤
EGMA−g−PS(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体とポリスチレンのグラフト共重合体):モディパーA4100(日本油脂(株)製、EGMA/PS=70/30重量%)
【0073】
(E)成分:ポリカーボネート系樹脂
PC(ポリカーボネート):ユーピロンS−3000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)
【0074】
2.せん断混練装置
混練装置は(株)日本製鋼所製の二軸押出機TEX30αを用いた。この装置のシリンダ部は温調ブロックごとにC1〜C12の12ブロックから成り、C1部に原材料供給口を、C6部及びC11部にベントを設置し、C11のベントには減圧装置(真空ポンプ)を接続した。また、スクリューの混練部(ニーディングゾーン)をC4〜C5及びC9〜C10部の位置になるように配置した。
【0075】
また、実施例および比較例における基本特性は以下の方法で評価した。
(1)引張特性および耐衝撃性
射出成形機((株)日本製鋼所製J55EL2)を用いて、シリンダ設定温度260℃、金型温度40℃で、JIS1号形引張試験片および100mm×10mm×4mmの短冊試験片を成形し、しかるのち該引張試験片を用いて引張試験(JIS K7113に準拠)を、また該短冊試験片を用いてシャルピー衝撃試験(JIS K7111に準拠)を行った。ここでシャルピー衝撃試験片は、そのノッチをレザーノッチとし、予亀裂導入装置((株)丸東製作所製RD−29)を用いて、0.5mmの深さになるように調整した。また、参考値として、従来のVノッチ付きシャルピー衝撃強度も求めた。
【0076】
(2)絞り性および延伸性
前記(1)と同様の射出成形条件で50mm×50mm×1mmのシートを作製した後、油圧式疲労試験機((株)島津製作所製、サーボパルサーEHF−EB5−10L)を用いて、直径20mm、先端半径10mmの先端が丸形のプランジャー(突っ込み棒)によるシート成形品の常温押込み試験を行った。試験条件は温度23℃にて、押込み速度1m/分、押込みストローク25mm、試料固定支持台のウィンドウ径30mm(シートを支持台の上に載せ、ウィンドウの周囲を把持板で支持台に固定。よって試料の変形できる領域はこのウィンドウ内の範囲に限られる。)で行った。試験後のサンプルの状態から、下記判断基準にて評価を行った。
○:シートはプランジャーが押し込まれても突き抜けて破壊することなく、プランジャーで押し込まれた部分だけがホール状に延伸され、プランジャーの先端形状を型取った形に変形しセットされた。
×:プランジャーがシートを突き抜けるなど、シートに亀裂や破れなどの損傷が生じた。
【0077】
(3)釘打ち性
前記(1)の1号ダンベル試験片の掴み部平面中心付近に径2.15mm、長さ38mmの釘を金槌で打ち込み、さらに釘抜きで抜いた時のサンプルの状態から、下記判断基準にて評価を行った。
○:サンプルが割れることなく釘が突き抜けた。釘頭部を横から叩いても緩むことなく、また引き抜く時は適度な締め付け力があり、引き抜いた後の釘孔の周囲に亀裂などの損傷が認められなかった。
△:サンプルが割れることなく釘が突き抜けたが、釘孔の周囲に若干の亀裂が認められた。しかし、釘は緩むことなく締め付け力は十分であった。
×:サンプルが割れてしまい、釘をサンプルに固定することができなかった。
【0078】
表1に示す量(重量部)の各成分を、前記二軸押出機の原材料供給口から投入し、減圧下、下記混練条件にて、混練押出して樹脂片を作成し、射出成形を行った。なお、射出成形前には予備乾燥として、100℃、5時間の乾燥を行った。
【0079】
実施例1〜4および比較例2
シリンダ設定温度:C2〜C3/C4〜C8/C9〜C10/C11〜ダイ=100/150/200/240℃
スクリュー回転数:200min−1
実施例5および比較例1
シリンダ設定温度:C2〜C8/C9〜C10/C11〜ダイ=200/220/240℃
スクリュー回転数:200min−1
比較例3
シリンダ設定温度:C2〜ダイ=270℃
スクリュー回転数:200min−1
【0080】
以上の評価結果を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1および2はポリエステル系樹脂として、本発明に好適な熱履歴を有するPETを使用し、かつ低温混練を行った例である。両者共に優れた耐衝撃性および延伸性を示している。これに対し、比較例1は吸湿状態にあるバージンPETを使用した例であるが、末端カルボキシル基量が足りないため、延伸性はいいものの耐衝撃性が十分ではない。また、ここでレザーノッチ付きシャルピー衝撃値とVノッチ付きシャルピー衝撃値の間に大きな違いを確認することができる。すなわち前者では脆性的であることを示し、後者では延性的であることを示している。これは、ポリエステル系樹脂組成物においては、従来のVノッチ付きシャルピー衝撃値よりもレザーノッチ付きシャルピー衝撃値のほうが厳しい評価指標であることを意味し、表面ノッチ感度を反映する評価指標として有用性が高いことを示唆しているものといえる。
【0083】
実施例3は再生PETとバージンPETの混合物を使用し、かつ低温混練を行った事例であるが、この場合も再生PETの効果で高い衝撃強度、延伸性を維持している。実施例4は熱履歴を有するPETにバージンPCを配合した例であるが、この場合、PETとPCのエステル交換反応も安定した相構造形成に寄与するものと考えられ、さらに優れた耐衝撃性を示している。実施例5は本発明に好適なバージンPBTを使用した例であって、熱履歴を有するPETを使用した場合に比べ若干見劣りはするものの、十分な耐衝撃性と延伸性を有していることがわかる。
【0084】
一方、比較例2はポリエステル系樹脂として、乾燥状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用し、実施例2と同様の低温混練を行った例であるが、吸湿状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用した場合(実施例2)に比較し、その衝撃強度および延伸性は著しく低い。これは、PETの加水分解反応が起こり難く、相溶化剤との反応が十分に進まなかったためと考えられる。また、比較例3は吸湿状態にあるPETボトル粉砕フレークを使用し溶融混練した例であるが、この場合もその衝撃強度および延伸性は十分ではない。この場合は、比較例2とは逆に、加水分解反応が過度に進行して物性低下をもたらしたものと考えられる。
【0085】
このように、本発明にかかるポリエステル系樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、延伸性を有し、常温下における絞り加工や釘打ち加工においても十分な耐力を示す。
【0086】
次に、本発明のポリエステル系樹脂組成物を素材とした成形加工品の具体例として、前記実施例1で得られたポリエステル系樹脂組成物を用いて、これに常温下における塑性加工を施した加工品を例示する。
【0087】
実施例7
(a)小型部品の試作
実施例1で得られたポリエステル系樹脂組成物をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、30C150)に1軸押出機及びTダイを連結して250℃の温度で押出した帯状シート(厚さ1mm×幅45mm)を原反として、順送り金型を用いた常温プレス加工(プレス機;アイダエンジニアリング(株)製、NC1−110)を行い、図1の正面図(a)およびX−X矢視側断面図(b)に示すような外径10mmのフランジF付きスリーブ状の小形部品を試作した。その他寸法は、内径6mm、首長さ4mmである。ここで使用した順送り金型は、通常の冷延鋼板の常温プレス加工に用いられている金型で、以下の加工工程を経て、7回プレス/1サイクルで1個の製品が得られる。
穴抜き加工工程:シートから円盤状の絞り用ブランクの周囲を切り落とす工程(2段階)
絞り加工工程:円盤状の絞り用ブランクを徐々に絞り込んでカップ状に丸絞り加工する工程(3段階)。具体的には雄型のコーナーのRを徐々に小さくする。
穴抜き加工工程:カップの底を打ち抜く工程(1段階)
打ち抜き加工工程:絞り部周囲のフランジを1mm残して、所望の小型部品を切り落とす工程(1段階)
まず、該ポリエステル系樹脂組成物からなる帯状シートを用いた場合に通常の7回プレス/1サイクルの工程で所望の部品が加工出来るかどうかを確認し、その仕上がり状態を目視観察した。次いで、上記絞り加工工程の最初の2段階を省いた3段階目のみの絞り加工を直接施した場合(5回プレス/1サイクル)についても同様な評価を行った。なお、比較例として、一般の冷延鋼板(SPCE)を用いた場合について同様な評価を行った。その結果、通常の7回プレス/1サイクルの工程では、該ポリエステル系樹脂組成物からなる帯状シートを用いても、全ての工程で損傷やバリなどの問題もなく冷延鋼板の場合と同様に加工可能なことが確認された。また、その仕上がり状態は寸法的にも外観的にも良好であった。一方、5回プレス/1サイクルの工程で加工した場合は、該ポリエステル系樹脂組成物では何ら問題なく良品を得ることができたが、冷延鋼板では絞り加工工程において破損してしまう問題が生じ、良品を得ることができなかった。このように、本発明のポリエステル系樹脂組成物は従来の冷延鋼板の常温加工プロセスをそのまま利用することができ、しかも、冷延鋼板よりも絞り加工性に優れるため、1サイクルの加工時間を低減できるという利便性を図ることができる。特に、このような小型の機械部品や電子・電気部品に好適に利用することができる。
【0088】
実施例8
(b)フレキシブルスプーンの試作
前記(1)の1号ダンベル試験片(4mm厚)を、万能力学試験機((株)島津製作所製、オートグラフAGS−20KNG)を用いて常温下で100%延伸した後、一方のつかみ部を切断して、もう一方のつかみ部に対しプレス機(榎本機工(株)製、400t鍛造プレス機)を用いて常温下で鍛造加工を施し、スプーン先端部状の窪みのある形状(つぼ)に加工した。加工後の柄の部分の厚さは約2.5mm、先端のつぼ部の厚さは約1mmであった。この加工品のスプーンとしての使い勝手は極めて良好で、柄の部分は腕力で自在に曲げることができ、かつ、通常のスプーンとしての使用に際してはその形状を十分に保持できる剛性と形状セット性を有することが分かった。また、先端のつぼの部分は薄肉にもかかわらず、適度な剛性と強度があり歯で噛んでも変形することはなかった。かかる加工品は軽量で柄の部分が自在に変形可能なことから、育児、介護、リハビリ用のスプーンとして有用である。
【0089】
実施例9
(c)コイニング
前記(1)と同様の射出成形条件で作製した50mm×50mm×2mmのシート上に、10円硬貨を表裏別に2枚置き、プレス機((株)東洋精機製作所製、ミニテストプレス10)を用いて、常温下(23℃)、ゲージ圧力で50kgf/cm2の圧力を加え5秒間プレスし、シート面に転写された10円硬貨の凹凸の状態を目視観察した。その結果、10及び発行年度の数字や文字がシート上に明瞭に刻印され、しかも、国名および平等院鳳凰堂表わす図柄の細部に至るまで形状が保持され鮮明な立体像が得られた。このように、微細な形状も鮮明に写し出せることから、微細加工品、表面装飾加工品及び版木などに好適に利用できる。
【0090】
【発明の効果】
以上の通り、本発明に従えば、ポリエステル系樹脂をベースとしたポリマーアロイの耐衝撃性を大きく向上せしめることができ、特に表面ノッチ感度に鈍感な実用性の高いポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。それも使用済みのポリエステル系樹脂を用いても成しえるところに大きな意義があり、再生PETのリサイクル技術としても極めて有用である。本発明のポリエステル系樹脂組成物からなる成形品は、耐衝撃性のみならず、延伸性、靭性及び強度にも優れ、しかも、いわゆる金属材料のような常温塑性加工性能も有しているため、その特質を活かして広範な新規かつ有用な用途展開が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるポリエステル系樹脂組成物により成形されたフランジ付き小形スリーブ状部品を示す正面図(a)及びX−X矢視断面図(b)である。
【符号の説明】
F フランジ
Claims (15)
- (A)ポリエステル系樹脂100重量部に対して、(B)ポリオレフィン系樹脂5〜80重量部(C)スチレン系エラストマー3〜80重量部(D)相溶化剤0.1〜50重量部及び(E)ポリカーボネート系樹脂0〜100重量部を含有するポリエステル系樹脂組成物であって、その室温におけるレザーノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上であることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエステル系樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエステル系樹脂(A)の120℃、5時間乾燥後における加熱重量減率が0.1重量%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエステル系樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度が35meq/kg以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエステル系樹脂(A)の一部または全量が少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記少なくとも1回以上の加熱溶融履歴を有するポリエステル系樹脂が再生ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項5に記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリオレフィン系樹脂(B)がポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項7に記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記相溶化剤(D)がエポキシ基変性オレフィン共重合体とビニル系(共)重合体のグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記(A)〜(D)の各成分を、前記ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度以上であって、(A)成分の溶融温度未満の範囲の温度に設定されたせん断混練装置を用いて、せん断混練して得られたことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 前記ポリエステル系樹脂(A)の形状がフレーク状、チップ状、短冊状、繊維状等の、その最長軸と最短軸の長さの比(アスペクト比)が3以上であることを特徴とする請求項1ないし10いずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
- 請求項1ないし11のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物を素材とすることを特徴とする加工品。
- 前記加工品が、該ポリエステル系樹脂組成物からなる射出成形品、押出成形品、真空成形品、ブロー成形品、発泡成形品、プレス成形品、紡糸成形品等の溶融成形品であることを特徴とする請求項12に記載の加工品。
- 前記溶融成形品が、繊維、モノフィラメント、ストランド、バンド、フィルム、シート、ラミネート、ホース、チューブ、丸棒、角棒、中空棒等であることを特徴とする請求項13に記載の加工品。
- 前記加工品が、請求項14に記載の少なくとも1つの成形品に対して、常温下において、圧延加工、鍛造加工、延伸加工、引抜加工、絞り加工、曲げ加工、転造加工、せん断加工等の少なくとも1つの塑性加工を施して得られる常温塑性加工品であることを特徴とする請求項12に記載の加工品。
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