JP2005013152A - 細胞分化抑制剤及びこれを用いた細胞培養方法、培養液、培養された細胞 - Google Patents
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Abstract
【課題】幹細胞あるいは胚性幹細胞を、フィーダー細胞を用いずに未分化な状態で培養させ得る分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを用い田培養液およびこの分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞を提供する。
【解決手段】低分子化合物、特にインドール誘導体に、未分化な、多能性の胚性幹細胞の増強効果を見出した。低分子化合物、特にインドール誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
インドール誘導体を用いて胚性幹細胞を培養することにより、フィーダー細胞非存在下で、大量にかつ安全で未分化に胚性幹細胞を培養する方法。
インドール誘導体を含む幹細胞の培養液。インドール誘導体を分化抑制剤として用いて培養、作製された細胞。
【選択図】 なし
【解決手段】低分子化合物、特にインドール誘導体に、未分化な、多能性の胚性幹細胞の増強効果を見出した。低分子化合物、特にインドール誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
インドール誘導体を用いて胚性幹細胞を培養することにより、フィーダー細胞非存在下で、大量にかつ安全で未分化に胚性幹細胞を培養する方法。
インドール誘導体を含む幹細胞の培養液。インドール誘導体を分化抑制剤として用いて培養、作製された細胞。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低分子化合物、特にインドール誘導体またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤、それを用いる幹細胞培養方法、培養液およびそれを用いて作製された幹細胞株に関する。
【0002】
【従来の技術】
外傷や病気、さらには加齢などによって傷害を受けた臓器・組織は、再生を促進し、その機能を回復させる必要がある。特に、心臓・肝臓・腎臓・膵臓などの実質臓器は生命維持に必須であるためその機能低下・廃絶は死に直結することから、臓器移植により救命を図る移植医療が盛んに行われている。しかし、恒常的なドナー不足からその解決には新たなアプローチが必要になっている。
【0003】
最近になり、胚、或いは成体に存在し、無制限に***して、ひとつ或いは複数の方向に分化する能力を有すると考えられる幹細胞を利用して組織・器官の作製を行い、欠損組織の補填を行う再生医療が、従来の臓器移植の欠点を凌駕する治療法として注目されている。
具体的には、幹細胞を増殖させた後、分化させ細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築を行い、それを生体内へ移植したり人工臓器として利用したりすることなどが考えられている。幹細胞を細胞移植治療や組織工学に利用できれば、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できると期待される。
幹細胞は、血管、神経、血液、軟骨、骨、肝臓、膵臓など数々の分野で同定されているが、そのなかでも特に全ての細胞型に分化する能力を有する全能性幹細胞は、上述の再生医療分野のほか、創薬、および遺伝子治療に用いるための細胞ならびに組織を容易に提供し得る細胞として特に注目されている。
全能性幹細胞の一例として、胚性幹(EmbryonicStem、以下ES)細胞や、胚性生殖(Embryonic Germ、以下EG)細胞が知られている。ES細胞は、マウスの胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass, ICM)から分離された細胞株である(Evansら、Nature, 292, p154, 1981年)。個体を構成する細胞は胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass,以下 ICM)あるいは原腸胚上層(epiblast、以下エピブラスト)から派生した一次外胚葉に由来しており、ICM およびエピブラストは全能性を持った幹細胞群であるといえる。ES細胞は各種個体形成組織への分化能を保持し、正常な胚とキメラ胚を形成させることにより、成体のあらゆる成熟細胞へと分化する能力を保有している。また、試験管内の分化誘導条件によっても、血液細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、色素細胞、膵内分泌細胞など様々な細胞を生成させる能力をもっている(仲野徹、最新医学別冊−再生医学、p81−89、2000)。
EG細胞は始原生殖細胞をLIF(Leukemia Inhibitory Factor)とbFGF(basic Fibroblast Growth Factor)存在下で培養することにより樹立された細胞であり(Matsuiら、Cell、70、p841、1992年、Resnicら、Nature、359、p550、1992年)、ES細胞と同様に各種組織への分化能を有している。
最近になって、マウス以外でもES細胞株の樹立が報告され、マウスES細胞と同様多分化能を有していることが示されている(ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology, 31, p15−17, 1989年、 豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology, 33:p901, 1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.De v.Biol.,196 :p185, 1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、 アカゲザルES細胞:Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 92、p7844、 1995年、マーモセットES細胞:Thomsonら、Biology of Production、55、p254、1996年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、Nature Biotech, 18, p399, 2000年)。
【0004】
ES細胞の未分化を維持するには、通常胎仔由来の線維芽細胞をフィーダー細胞として用いて共培養することが必要である。霊長類のES細胞株の未分化維持においても同様の方法が用いられている(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、 Nature Biotech, 18, p399, 2000年)。
しかし、マウス初代線維芽細胞の調製は煩雑である。即ち、妊娠マウスから13.5から15.5日の胚を取り出し、酵素処理によって胚体を分解し、ディッシュ上に得られた線維芽細胞を回収する。初代細胞であるため、品質管理は複雑で、GMP適応レベルの管理は困難であり、ES細胞の未分化維持能も、用いる胚体により異なる可能性が考えられる。この煩雑な調製作業を経由しないES細胞培養方法として、マウス胚線維芽細胞のセルラインであるSTO細胞(ATCC 56−X)を用いる方法がある。しかし、STO細胞のES細胞未分化維持能は変化しやすく、ES細胞の安定的な培養にはマウス初代線維芽細胞の方が優れている。
また、最近になって異種動物間での内在性ウィルスの感染例が報告されている(van der Laanら、Nature, 407, p90, 2000年)。医療用途でのヒトES細胞の利用を目的とした培養方法においては異種動物細胞間での接触をでき得る限り回避した培養方法の開発が望まれている。従って、マウス由来細胞を用いる上記のES細胞未分化維持培養方法は、医療用途を目的としたES細胞の培養には適していない。
マウス由来フィーダー細胞を用いない霊長類ES細胞の培養方法として、マウス初代線維芽細胞の分泌成分を培養培地中に加える方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。 しかし、この場合においても培養中のES細胞がマウス細胞から分泌される未同定の因子に曝されることから、このような環境で培養されたES細胞は医療用途の使用には適していないうえに、内在性ウィルスの感染の危険性も残されている。従って、マウス初代線維芽細胞との共培養による欠点が全く解消されていない。
マウス由来フィーダー細胞並びにマウスフィーダー細胞由来分泌成分を用いないマウスES細胞の未分化維持培養方法として、ゼラチンをコートした培養皿を用いる培養方法が既に知られているが、この場合には、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor, LIF)の培地への添加が必須である(例えば、非特許文献1参照)。。LIFはサイトカインであることから高コスト、保存性などの問題があり大量培養には適していない。加えて、LIFの効果は極めて特定のマウス系統(129/sv系やC57BL/6系)由来のES細胞に限定的であり、他種動物において顕著な効果は見られない。特に霊長類のES細胞においては、培地中へのLIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0005】
従って、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養することを可能にする分化抑制剤はこれまでなく、また、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養する方法も知られていなかった。
本発明の分化抑制剤は、低分子化合物を有効成分として含有するが、低分子化合物が全能性幹細胞の未分化状態を維持することはこれまで知られていなかった。従って、一般式(I)で示される低分子化合物が有する全能性幹細胞の未分化維持作用は全く知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−17163号公報
【非特許文献1】
Smithら、 Dev. Biol., 121, p1, 1987年
【非特許文献2】
Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、
【非特許文献3】
Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、幹細胞或いは胚性幹細胞を、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに、未分化状態で培養させ得る分化抑制剤を提供することにある。また、本発明の課題は、このような分化抑制剤を用いて、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに幹細胞或いは胚性幹細胞を未分化の状態で培養する方法を提供すること、このような分化抑制剤を含む細胞培養液を提供すること、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、幹細胞ならびに胚性幹細胞を未分化な状態で培養させ得る分化抑制剤、それを用いた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養方法、このような分化抑制剤を含む細胞培養液、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株に関する。
【0009】
すなわち、本発明は、低分子化合物、特にインドール誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤に関する。
本発明におけるインドール誘導体には、次の式(I)で示される化合物を挙げることができる。
【0010】
【化3】
【0011】
(式中、R1〜R9は、同一または異なった電子吸引基、電子供与基または水素電子を示す。具体的には、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アリールアミノビニル基、水素原子などが例示される)。
【0012】
さらに、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いて幹細胞、特に胚性幹細胞を未分化状態で培養する方法に関する。
また、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いた幹細胞の培養液に関する。
さらに、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いて培養し作製された細胞に関する。
【0013】
本発明によれば、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を、未分化なまま、期間を延長してまたは無期限に、大量にかつ安全に増殖させることができる。本発明によって提供される分化抑制剤、それを用いた培養方法、培養液は、細胞移植用途で用いる細胞ソースとしての幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を産生するために適用され得る。幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を利用することにより得られる多くの恩恵に加え、本発明によって提供される分化抑制剤およびそれを用いた培養方法は、1つもしくは多数の遺伝的な改変を有する胚性幹細胞を産生するために適用され得る。このような適用の例は、疾患について細胞ベースでのモデルの開発、ならびに遺伝病を処置するために移植について特異化された組織の開発を含むが、これに限定されない。
【0014】
以下の用語は他で述べない限り、この節中で提供されるように定義される。本明細書で使用される他の全ての用語は、他に述べない限り、その用語に関する特定の分野でのその語法に関して定義される。
幹細胞:幹細胞とは、特異化された機能を有する他の細胞型、即ち、最終的に分化した細胞、もしくは、より狭い範囲の細胞型に分化可能な他の幹細胞型に分化し得る細胞を指す。
全能性幹細胞:全能性幹細胞とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る細胞のことを言う。
多能性幹細胞:多能性幹細胞とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る細胞をいう。多能性細胞の1つの例は、骨髄幹細胞であり、この細胞は神経細胞以外の、リンパ球および赤血球のような種々の血液細胞型へと分化し得る。従って、全ての全能性細胞は多能性であるのに対して、全ての多能性細胞が全能性であるわけではないことが認識される。
胚性幹細胞:胚性幹細胞とは、幹細胞の中でも特に前着床段階の胚の、桑実胚または胚盤胞段階から得られた全能性の細胞をいい、ES細胞とも呼ばれる。 また、胚性幹細胞には、***あるいは卵子になると決まっている、胚または胎児(胎仔)の始原生殖細胞に由来する多能性の幹細胞のことをいう場合もある。ただし、この細胞は胚性生殖(Embryonic Germ、EG)細胞と呼ばれて胚性幹細胞と区別される場合もある。本明細書中で用いる胚性幹細胞は、いかなる動物種のものであってよく、例えばヒトを含む霊長類、霊長類以外の哺乳類、鳥類などの胚性幹細胞が挙げられる。
全能性:全能性とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る状態を言う。
多能性:多能性とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る状態をいう。
未分化:未分化とは、1つの細胞、或いは複数の細胞からなる任意の細胞集団が、1つまたは複数の、さらに分化が進んだ状態の細胞に分化し得る能力を有する状態である細胞、或いは該細胞を含む細胞集団である状態であることをいう。
フィーダー:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダーとは、 全能性幹細胞がその上にプレートされ、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供するものをいう。
フィーダー細胞:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダー細胞とは、 全能性幹細胞がその上にプレートされる非全能性幹細胞をいい、非全能性幹細胞は、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供する。
細胞由来成分:細胞から分泌される成分、内容物、および細胞膜成分など、細胞に由来する全ての成分をいう。
【0015】
本発明は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を未分化の状態で、増殖および維持させ得る分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを用いた培養液、それを用いて培養し作製された細胞株を提供する。本発明で提供する分化抑制剤、培養方法および培養液は、従来より簡便に、安全に、未分化の胚性幹細胞を増殖しそして維持する。本発明の分化抑制剤を含む細胞培養方法はまた、特定の分化誘導因子、および分化誘導因子の有用な組み合わせについてスクリーニングするために使用され得る。本発明の分化抑制剤、および培養方法を使用して、未分化な胚性幹細胞を増殖させる能力は、重要な治療適用を有する単一もしくは複数の遺伝的改変を有する胚性幹細胞系を産生する能力を含む重要な利益を提供する。
【0016】
本発明の分化抑制剤は、化学的に安定な低分子化合物で、幹細胞を未分化な状態で維持する活性を有するものであればいずれも用いることができるが、好ましくはインドール誘導体があげられる。さらに好ましくは式(I)で示される構造を有するインドール誘導体、その塩、またはエステル化合物が望ましい。式中、R1〜R9としては、同一または異なった電子吸引基、または電子供与基または水素原子から選ばれる基、または原子が挙げられる。電子供与基とは、ベンゼン環へ電子を供与し得る置換基、電子吸引基とはベンゼン環上のπ電子を吸引する性質を有する置換基をいう。また、Hammettの置換基定数σを用いてσ<0を電子供与基、σ>0を電子吸引基と定義することもできる(基礎有機反応論、橋本静信ら著、三共出版、1997年)。より好ましくは、 R1〜R9は、同一または異なった、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、フロイル基、テノイル基、ジアルキルカルバモイル基、アセチル基、ブタノイル基、メトキシカルボニル基、シクロアルキル基、ベンジルオキシ基、アダマンチルオキシ基、アリールアミノビニル基、ヒドロキシル基、ニトロ基よりなる群から選ばれる基、あるいはハロゲン原子または水素原子などが挙げられる。さらには、 R1〜R9はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アリールアミノビニル基、水素原子よりなる群から選ばれる基または原子であることが望ましい。
【0017】
本発明はこれらの化合物のうち、次の式(II)で示されるインドール誘導体またはその塩を用いることが特に好ましい。
【化4】
A1〜A3は同一であっても良い低級アルキル基、低級アルコキシ基、水素原子を表し、A4は低級アルキル基、アリールアミノビニル基を表す。
【0018】
化合物(II)において、A1〜A4で示される低級アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。特に好ましくはメチルである。
【0019】
化合物(II)において、A1〜A4で示される低級アルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどが挙げられるが、特に好ましくはメトキシである。
【0020】
化合物(II)において、A4で示されるアリールアミノビニル基としては式(III)で示される基を用いることが望ましい。式(III)で示されるAr(アリール基)としては、例えば、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられるが、特に好ましくは、4−メトキシフェニル基である。
【化5】
【0021】
化合物(II)の塩としては、薬学的に許容しうる塩が望ましい。例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などを形成しても良い。
【0022】
化合物IまたはIIのエステル化合物としては、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、無機酸エステルなどがあげられる。
【0023】
本発明の分化抑制剤の濃度としては、0.1ng/ml〜1mg/mlの範囲で使用することが望ましく、好ましくは10ng/ml〜100μg/ml、さらに好ましくは100ng/ml〜10μg/mlの範囲で使用することである。
【0024】
また、本発明の分化抑制剤はSTAT3(signal transducer and activator of transcription 3)の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物、特にイソキノリン誘導体を含む。特定のマウス系統の胚性幹細胞は、マウス胎仔由来の線維芽細胞からなるフィーダー細胞の存在、非存在にかかわらず、LIFによって未分化が維持される。LIFはSTAT3の活性化を介して下流にシグナルを伝えることが知られている(Matsudaら、EMBO Journal、18、15、p4261、1999年)。しかし、最近になってSTAT3を活性化せずに胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制因子が存在することが報告されたことから(Daniら、Developmental Biology、 203、 p149、 1998年)、STAT3を介さない胚性幹細胞の未分化維持機構が存在すると考えられている。さらに、LIFが、霊長類胚性幹細胞の未分化維持に効果を示さないことから(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、 Nature Biotech, 18, p399, 2000年)、霊長類胚性幹細胞には、LIFおよびSTAT3とは異なるシグナルによって未分化状態を維持する機構が存在することが示唆される。本発明の分化抑制剤にはSTAT3の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物が含まれる。いいかえれば、LIFとは異なる作用により胚性幹細胞の未分化を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
【0025】
また、最近の報告によれば、ある種の骨髄由来間葉系幹細胞においても胚性幹細胞と同様に、マウス由来の幹細胞の培養はLIF依存的であるが、ヒト由来の幹細胞はLIF非依存的であることが示されている。(Verfaillieら、Nature, 418, p41, 2002年)これは、多分化能を示す幹細胞は、胚性幹細胞と同様の未分化維持機構を有していることを示唆し、従って、霊長類幹細胞においても、胚性幹細胞と同様に、LIF−STAT3経路とは異なるシグナルによって未分化が維持されている可能性が示唆される。本発明の分化抑制剤には、STAT3を介さずに細胞の未分化状態を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
【0026】
本発明の分化抑制剤は、動物細胞培養用基礎培地である任意の哺乳類細胞培養基本培地に添加して使用することができる。動物細胞基本培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地:DMEM、ノックアウトDMEM、グラスゴーMEM:GMEM、RPMI1640、IMDM(以上 GIBCO社製、米国)などが挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施態様としての細胞培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。さらにこれらの基礎培地に血清または血清代替物としての各種増殖因子を添加して用いることもできる。血清は、幹細胞ならびに胚性幹細胞の増殖および生存性の維持に効果的である栄養素を供給する任意の血清、または、血清ベースの溶液であり得る。このような血清の例には、ウシ胎仔血清(FCS)、ウシ血清(CS)、馬血清(HS)などがあり、また、血清代替物としては当業者に周知のもの、蛋白質、アミノ酸、脂質、ビタミンなどを単独で、或いは組み合わせて用いることが出来る。蛋白質としてはインスリン、トランスフェリン、アルブミン、ペプトン、FGF(Fibroblast Growth Factor)、EGF(EpitherialGrowth Factor)などが、アミノ酸としてはアルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが、ビタミンとしては、パントテン酸、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸アミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシンなどが例示されるがこれらに限定されない。1つの実施態様において、血清はウシ胎仔血清である。より特定の実施態様において、ウシ胎仔血清は約25%と約1%との間の濃度で提供される。さらにより特定の実施態様において、細胞培地でのウシ胎仔血清濃度は15%である。また、他の実施態様において、血清代替物はノックアウト血清リプレースメント:KSR(GIBCOBRL社製、米国)である。
【0027】
細胞培地は、抗酸化剤(還元剤)(例えば、β−<メルカプトエタノール)も含む。ある好適な実施態様において、β−<メルカプトエタノールは、約0.1mMの濃度を有する。他の抗酸化剤 (例えば、モノチオグリセロール、もしくは、ジチオス レイトール(DTT)の単独もしくは組み合わせ)が同様の効果のために使用され得る。さらに他の等価な物質は、細胞培養の分野の当業者に周知である。
【0028】
本発明の分化抑制剤ならびにその有効成分は、任意の培養基材とともにあるいは培養基材に固定して使用することもできる。培養基材には多孔質体を使用することがでる。多孔質体とは、微細な孔を多数有する基材のことをいい、その材質、厚さ、形状、寸法などは特に限定はない。多孔質体の材質は、有機材料、無機材料及び有機材料と無機材料からなる複合材料であっても良い。多孔質体の形状は平板状、球状、棒状、繊維状、中空状のいずれの形態であっても良く、例えば、フィルム、シート、膜、板、不織布、ろ紙、スポンジ、織物、編物、塊、糸、中空糸、粒子等が挙げられる。細胞を培養するにあたって、3次元的に培養できるように細胞を支持する孔の大きさを簡単に制御できることや、基材作製の容易さ及びコストなどを考慮すると不織布がより好ましい。多孔質体の孔の大きさについては、特に限定はないが、細胞を3次元的に支持できるようにすることを考慮すると、平均孔径が、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下がさらに好ましい。繊維径については特に限定はないが、0.03デニール以下が好ましい。
【0029】
上記の多孔質体は、細胞の接着性や分化維持機能、増殖能を向上させるために、高分子化合物により表面コーティング処理を施されていても良い。高分子物質とは、1種以上の繰り返し構成単位の単量体が1次元、2次元、3次元的に連なった分子量数百以上の物質のことをいう。高分子物質は、大きく天然高分子物質、半合成高分子物質、合成高分子物質の3つに分類することができ、本発明においていずれの高分子物質も使用することができる。
【0030】
例えば、天然高分子物質としては、マイカ(雲母)、アスベスト(石綿)、グラファイト(石墨)、ダイアモンド、でんぷん、セルロース、アルギン酸等に代表される糖類及びゼラチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン等に代表されるタンパク質等が挙げられる。半合成高分子物質としては、ガラス、硝酸セルロース、酢酸セルロース、塩酸ゴム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。合成高分子物質としては、ポリホスホニトリルクロライド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体に代表されるような2種類以上の合成単量体からなる共重合体等が挙げられる。
コーティング処理のし易さを考慮すると、有機高分子物質が好ましく、タンパク質やペプチド並びに有機合成高分子物質がさらに好ましい。
【0031】
本発明の分化抑制剤を固定した培養基材を細胞捕捉材として用いることにより、複数の異なる細胞からなる集団から、幹細胞或いは胚性幹細胞を分離し、かつ、培養を行える方法及び装置が提供され得る。即ち、幹細胞或いは胚性幹細胞と、除去対象細胞を含む細胞含有液を本発明の分化抑制剤を固定した、多孔質体などの培養基材からなる細胞捕捉材が充填されている容器に導入し、細胞捕捉材に幹細胞或いは胚性幹細胞を捕捉させ、除去対象細胞を容器外に導出した後に容器ごと培養することを特徴とする幹細胞或いは胚性幹細胞培養方法であり、また本発明の分化抑制剤を固定化した培養基材からなる細胞捕捉材を容器に充填した細胞培養装置であって、前記細胞捕捉材は細胞培養用担体として使用し得るものであり、前記容器は細胞培養に使用し得るものであることを特徴とする細胞培養装置である。除去対象細胞とは、幹細胞或いは胚性幹細胞以外の全ての細胞をいう。また、幹細胞或いは胚性幹細胞から分化して、多分化能を失った細胞もこれに含まれる。細胞捕捉材に導入する細胞含有液としては、幹細胞或いは胚性幹細胞を含有する細胞液であればいかなるものでもよく、一例として、血液、骨髄、砕片組織液、或いは、幹細胞、胚性幹細胞の培養液などがあげられる。
【0032】
本発明は幹細胞ならびに胚性幹細胞を増殖するための方法に関する。本発明の分化抑制剤を用いて増殖させた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養物を提供することができる。
【0033】
本発明の分化抑制剤を用いて培養される細胞には、公知の方法および材料を使用して入手し得る全ての幹細胞および胚性幹細胞が含まれる。幹細胞には以下の公知の方法によって入手し得る幹細胞が一例として挙げられる。骨髄細胞(「骨髄移植ガイド」H.J.ディーグ、H.G.クリンゲマン、G.L.フィリップス著/笠倉新平訳)、骨髄幹細胞(Osawaら、 Science、 273、 p242−245、1996年、 Goodellら、 J.E.Med.183、 p1797−1806、1996年、Verfaillieら、Nature, 418, p41, 2002年)、神経幹細胞(Reynoldsら、Science、p1707−1710、1992年)、組織幹細胞(Goodellら、J.E.Med.183、p1797−1806、1996年、松崎ら、実験医学、19、p345−349、2001年、Blauら、Cell、105、p829−841、2001年)、間葉系幹細胞(Liechtyら、Nature Medicine、6、p1282−1286、2000年、Pittengerら、Science、284、p143−147、1999年)。
【0034】
また、培養されるべき胚性幹細胞としては、 以下に示す、公知の方法および材料を使用して入手し得る。マウス胚性幹細胞:Evansら、Nature, 292, p154, 1981年、ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology,31,p15−17,1989年、豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology,33:p901, 1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.De v.Biol.,196:p185,1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、 サルES細胞:Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、Nature Biotech, 18, p399, 2000年、ヒトEG細胞:Gearhartら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, p13726, 1998年。また、マウス胚性幹細胞(129SVおよびC57/BL6)は、大日本製薬より購入できる。
【0035】
本発明により提供される分化抑制剤は、全ての幹細胞および胚性幹細胞に用いることができるが、哺乳類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが望ましく、霊長類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが好ましい。
【0036】
幹細胞ならびに胚性幹細胞は、一旦単離されると、本発明の分化抑制剤を使用して未分化な状態で培養され得る。
【0037】
本発明の分化抑制剤を用いて培養した幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の未分化程度は幹細胞の細胞膜状に存在するアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定することにより確認することができる。未分化な胚性幹細胞ではALPの活性が維持され、分化すると減少することが知られている(Williamsら、Nature、336、pp684、1988年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年)。不溶性基質を用いた染色法、あるいは水溶性基質を用いた分光学的測定法などによりアルカリホスファターゼ(ALP)活性を検出する方法が挙げられる。
【0038】
一つの実施態様において、分光学的測定法によりALP活性を定量することができる。培養ディッシュ上の細胞にパラニトロフェニルホスフェイト(pNPP)のアルカリ性溶液を添加する。細胞膜上に存在するALPによってpNPPが加水分解され、パラニトロフェノールが生じる。生成した溶液の405nmの吸光度を測定することによって、アルカリホスファターゼ活性を定量することができる。実施例4に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞のALP活性を測定すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべ有意に高いALP活性を有していることが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認される。
【0039】
他の実施態様において、ALP染色法によりALP活性を検出することもできる。培養ディッシュ上の細胞に、基質としてリン酸エステル塩とジアゾニウム塩を含む反応溶液を添加する。細胞膜状に存在するアルカリホスファターゼによりリン酸エステル塩が加水分解され、次いでジアゾニウム塩とカップリング反応することによりアゾ色素が生じ、ALP活性部位に色素が沈殿する。染色されたコロニー数を計測することにより細胞のALP活性を定量化することが可能となり、即ち細胞の未分化度合いを定量することができる。本発明の分化抑制剤を用いて培養した胚性幹細胞をALP染色すると、分化抑制剤を用いないコントロール細胞に比べ有意にALP活性が高いことが示され、即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認され
る。
【0040】
また、胚性幹細胞の未分化程度はOct−3/4遺伝子の発現量を測定することによって確認することができる。Oct−3/4遺伝子はPOUファミリーに属する転写因子で、胚性幹細胞、胚性癌細胞(EC細胞)で、未分化状態特異的に発現し(Okamotoら、Cell、60、p461、1990年)、胚発生においても未分化細胞系譜においてのみ発現し(Scholer、Trends Genet、7、 p323、 1991年)、さらに、Oct−3/4遺伝子破壊マウスのホモ個体は胚盤胞期で発生を停止することから未分化状態維持に重要な機能を有していることが明らかにされている(Nicholsら、Cell、 95、 p379、 1998年)。また、一方、Oct−3/4遺伝子の過剰発現は胚性幹細胞の分化を促進することが最近明らかにされ(Niwaら、Nat .Genet. 24、 p372、2000年)、Oct−3/4の発現量をある一定の範囲に保つことが未分化状態の維持に重要である。Oct−3/4遺伝子の発現量を測定する一つの実施態様としては定量的PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いることができる。
【0041】
一つの実施態様においてはリアルタイムPCR法が用いられ、幅広いダイナミックレンジをもち、簡便で信頼性のある定量測定が可能である。リアルタイムPCR技術には、ABI PRISM7700TM (Applied Biosystems)を使用したTaq Manプローブを用いる方法や、LightCyclerTM(ロシュ・ダイアグノスティック)を用いた方法がある。特に後者の場合はPCRの温度サイクルが数十分で終了する高速反応サイクルのもとで、サイクルごとに合成されるDNAの増幅量変化をリアルタイムに検出できる。リアルタイムPCR法のDNA検出法としては、DNA結合色素(インターカレーター)、ハイブリダイゼーション・プローブ(キッシングプローブ)、TaqManプローブおよびSunriseユニプライマー(モレキュラー・ビーコン)を利用する4種類の方法がある。また、DNA結合色素、例えばSYBR GreenIを利用してOct−3/4遺伝子の発現量を解析することができる。SYBR GreenIはDNAの二本鎖特異的に結合色素であり、二本鎖に結合することで本来の蛍光強度が増強される。PCR反応時にSYBR GreenIを加え、伸張反応の各サイクルの終わりに蛍光強度を測定すれば、PCR産物の増加が検出できる。Oct−3/4遺伝子を検出するには通常のPCRと同様にOct−3/4遺伝子の配列をもとに、市販の遺伝子解析ソフトウェアなどを用いてプライマーを設計する。SYBR GreenIは非特異的産物も検出してしまうため最適なプライマーの設定が必要となる。設計基準としては、オリゴマーの長さ、配列の塩基組成、GC含量、およびTm値などに留意が必要である。
【0042】
多くの場合、定量PCRにおいて明らかにすることを目的とするのは、サンプル一定量当たりの目的DNA量である。このためには最初に反応系に加えたサンプル量の評価が必要である。この場合サンプル量を反映するような内部標準となる別のDNAを目的DNAとは別に測定し、最初に反応系に加えたサンプル量を補正することができる。サンプル量を補正する目的で用いる内部標準には、通常、組織によって発現量に差がないと考えられているハウスキーピング遺伝子を用いることができる。例えば、解糖系の主要酵素であるグリセロアルデヒドリン酸脱水素酵素(GAPDH)、細胞骨格の構成成分であるβアクチンまたはγアクチン、リボゾームの構成蛋白質であるS26などの遺伝子が挙げられる。
【0043】
Oct−3/4遺伝子の発現レベルは、本発明の分化抑制剤に暴露された細胞について決定することができる。分化抑制剤に暴露されていない、即ち、胚性幹細胞から分化誘導されたコントロール細胞のOct−3/4遺伝子発現量にくらべ、有意にOct−3/4遺伝子の発現量を維持させることができる活性を有する化合物が、胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制剤であるとみなされる。本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞のOct−3/4遺伝子の発現レベルを評価すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべOct−3/4遺伝子の発現レベルが有意に高いことが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持し得ることが確認される。
【0044】
最適化された胚性幹細胞の未分化維持培養基材をスクリーニングするさらに他の方法として、ステージ特異的胚抗原(Stage Specific Embryonic Antigen)(以後SSEAと記載)−1、 SSEA−3、 SSEA−4などの未分化な細胞に特異的に発現する抗原を検出方法が挙げられる(Smithら、 Nature、 336、 p688、 1988年、Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A、75、p5565、1978年、Kannagiら、EMBO J.2、p2355、1983年)。
【0045】
一つの実施態様において、SSEA−1などの表面抗原は、同抗原を認識する特異的抗体(一次抗体)とインキュベートし、さらに蛍光標識のようなレポーターと結合した第二の抗体(二次抗体)とインキュベートすることにより、標識することができる。この操作により目的の抗原を発現する細胞が、蛍光性になる。次いで、標識された細胞を標準的な方法、例えばフローサイトメーターを用いて、計数、さらには分取され得る。次いで、標識および非標識細胞の数は、目的とする培養基材の効果を決定するために比較され得る。あるいは、非標識細胞表面マーカー抗体に曝露された後、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)形式において、その細胞は、抗細胞表面抗原抗体(例えば抗SSEA−1抗体)に対して特異的な第二の抗体に曝露され得、そこから、所望の表面抗原を発現する細胞の数が、比色定量的に、または蛍光を測定することにより定量され得る。表面抗原を発現する細胞を定量するさらに他の方法も、細胞培養の当業者に周知である。実施例2に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞の表面抗原SSEA−1の発現レベルを評価すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべ表面抗原SSEA−1の発現レベルが有意に高いことが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持し得ることが確認される。
【0046】
本発明によって提供される、幹細胞、または胚性幹細胞の増殖に対する改善された分化抑制剤、培養方法、および培養液は、幹細胞または胚性幹細胞が有用であるすべての技術に対して適用されることが予想される。
【0047】
本発明の分化抑制剤、培養方法および培養液を用いて産生される細胞は、分化させ、細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築に使用され、生体内へ移植したり人工臓器として利用されうる。幹細胞の細胞移植治療や組織工学への利用は、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できる。
【0048】
本発明の分化抑制剤は、単独または賦形剤あるいは担体と混合して使用することができる。賦形剤および担体としては薬剤学的に許容されるものが選ばれる。例えば液状担体としては水、アルコール類、ジメチルスルフオキシド(DMSO)、もしくは動植物油、合成油などが用いられる。個体担体としては、乳糖、マルトース、シュクロースなどの糖類、アミノ酸類、ヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸塩などが使用される。また、本発明の分化抑制剤の組成中にpH調整等の目的で、酸やアルカリまたは適量の緩衝剤を加えてもよい。
製剤中の本発明における化合物の含量は製剤により種々異なるが、通常0.1〜100重量%、好ましくは1〜98%の有効成分を含む。
【0049】
本発明の分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを含む培養液により得られた、非改変および改変された幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の培養物は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞のモニタリングまたは幹細胞収集を改良する物質についてスクリーニングするために使用される。例えば、推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質は、上記の方法を用いて増殖させた細胞培養物へ添加され得る。推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質を欠損した対照細胞培養物と比較して、三胚葉系列への分化を誘導し得る物質は、胚性幹細胞分化誘導因子として同定される。
【0050】
【実施例】
次に本発明を具体化した実施例を示す。この実施例は、本発明を実施する当業者を補助するために提供される。これらの実施例は、いかなる様式においても、決して本発明の範囲を制限するものではない。
【0051】
【実施例1】
「ES細胞培地の作製」
ES細胞を増殖させる目的で、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(以下DMEM)(GIBCO BRL社製 Cat.No.11995)に、以下に示す最終濃度で因子を添加してES細胞培地を調製した:15% ウシ胎仔血清(GIBCO BRL社製) もしくは15%ノックアウト血清リプレースメント:KSR(GIBCOBRL社製)、0.1mM β−メルカプトエタノール(SIGMA社製)、1×非必須アミノ酸ストック(GIBCO BRL社製 Cat.No.11140−050)、2mM L−G1utamine(GIBCO BRL社製Cat.No.25030−081)、103unit/ml ES GRO(CHEMICON International Inc.,社製)。ただし、ES GROはマウスLIFを有効成分として含有する。ES細胞分化抑制アッセイ用の培地として、上記のES細胞培地からESGROを除いたアッセイ培地を作製した。
【0052】
「ES細胞の培養」
直径5cmの細胞培養用ディッシュに、蒸留水に0.1%の濃度でGelatin(SIGMA社製 TypeA:from porcinESkin、G2500)を溶解し、滅菌した0.1%ゼラチン水溶液5mlを添加し、37℃で30分以上静置した。ゼラチン水溶液を除いて、マイトマイシンC(協和発酵社製)処理したマウス胚性初代培養細胞(ライフテックオリエンタル社 Cat.No. YE9284400)2×106個を播種し、10%ウシ胎児血清(GIBCO BRL社製)を含むDMEM5mlで、37℃、5%CO2インキュベーター(タバイエスペック社製)で5時間以上培養した。マウス胚性幹細胞株D3ES細胞(Rolf Kemler、Max Planck Institutfur Immunbiologie、Stuheweg51、D−79108Freiburg、Germany、より入手可能)を、直径5cmのデイッシュに培養した繊維芽細胞フィーダー層上に播種し、5mlのES培地で、37℃、5% CO2インキュベーターで2日間培養して増殖させた。
【0053】
「ES細胞分化抑制アッセイ1」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を20mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径20cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。同様の操作をもう一度繰り返した。その後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁した。予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした96穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3072、米国)に、1ウェルあたり3200個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が100μlになるように播種した。各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または水、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜E: AはIF LAB Ltd.社、ウクライナ、B,CはPHARMEKS社、ロシア、D,EはSPECS社、オランダから購入)、あるいはESGROを10μl添加し、37℃、5% CO2インキュベーターで4日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。またコントロールウェルには、DMSOのみを最終濃度で0.1%となるように加えた。分化抑制剤A〜Eの構造を図1に示した。
【0054】
「アルカリホスファターゼ定量」
ES細胞のアルカリホスファターゼ活性を、p−NITROPHENYL PHOSPHATE SOLUTION(MOSS Inc.社製、PRODUCT NO.NPPD−1000、米国、またはSIGMA社製、A−3469、米国製)(以下、p−NPP)を用いて定量した。前記「ES細胞分化抑制アッセイ1」に記載の方法で4日間培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、p−NPP100μlを各ウェルに加え、室温で10分間静置した。各ウェルに12.5μlの8M水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応を停止させた。溶液の405nmの吸光度(O.D.405)と690nmの吸光度(O.D.690)を吸光度計(Molecular Devices社製、型式:SPECTRA MAX190)により測定し、O.D.405−O.D.690で算出される値をアルカリホスファターゼ活性とした。定量結果をグラフしたものを図2に示した。本発明の分化抑制剤、化合物A〜EはコントロールであるDMSO(0.1%)に比べて有意にアルカリホスファターゼ活性を増幅させた。即ち、本発明の分化抑制剤は未分化なES細胞の培養を支持したことがわかる。
【0055】
【実施例2】
「ES細胞分化抑制アッセイ2」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄した。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製 15090−046)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を20mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、再度、0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁した。予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに8×104個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が10mlになるように播種した。各ディッシュに40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜E)、あるいはESGROを1ml添加し、37℃、5% CO2インキュベーターで7日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。
【0056】
「SSEA−1抗原の発現量評価」
前記「ES細胞分化抑制アッセイ2」で培養した細胞をPBSで2回洗浄し、セルスクレイパーで細胞をディッシュから脱離した。細胞数が6×105個になるように2%FBSを含むHanks balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)を300μl加えた。HBSSで50倍希釈したMX−SSEA−1抗体(Kyowa Medex社製)を30μl加え40分間、氷上で静置した。HBSS (1ml)で二回洗浄後、HBSS (300μl)に再分散し、HBSSで20倍FITC−Goat anti Mouse IgM抗体(ZYMED社製)を30μl加え30分間、遮光して氷上で静置した。HBSS (1ml)で二回洗浄後、HBSS (1ml)に再分散し、20μg/ml PI溶液(Dojindo社製)を100μl加え、フローサイトメーター測定に用いるサンプルを得た。またフローサイトメーター測定に用いるサンプルは、凝集塊を除く目的で孔径100μmのナイロン・メッシュに通した後に測定を行った。フローサイトメーターはFACSCalibur(BECTON DICKINSON社製、米国)を用い、測定条件データ収集解析ソフトウェアはCELLQuest(BECTON DICKINSON社製、米国)を用いた。結果を図3に示した。各分化抑制剤を添加して培養した細胞の、1細胞あたりの平均蛍光強度、即ち、1細胞あたりのSSEA−1抗原発現強度は、分化抑制剤を含まない培地で培養した細胞にくらべ、有意に亢進していた。また、化合物B ̄Eについて同様の実験をしたところ、同様にSSEA−1の発現レベルが有意に高いことを示した。即ち、本発明の分化抑制剤は、未分化なES細胞を維持することが明らかになった。
【0057】
【実施例3】
「STAT3活性化アッセイ」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させる。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、 15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で800rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を5mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で800rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁する。
【0058】
予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした24穴細胞培養用ディッシュ(FALCON Cat.No.3047、米国)に、1ウェルあたり1×105個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞培地が500μlになるように播種し、37℃、5% CO2インキュベーターで12時間〜24時間培養した。次ぎに、LipofectAMINE 2000(Invitrogen社製、米国)を用いて、添付のプロトコールに従って、pSTAT3−TA−Luc、またはpTA−Lucベクター(クロンテック社製、米国)を1ウェルあたり0.9μgをES細胞にトランスフェクションした。また、内部コントロールとして、pRL−TKベクター(プロメガ社製、米国)を各ウェル0.1μg、同時にトランスフェクションした。37℃、5% CO2インキュベーターで4時間培養後、培地を吸引し、PBSで2回洗浄したのち、ESアッセイ培地を各ウェル500μlずつ加えた。次いで、各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)または水或いはその混合物に溶解した分化抑制剤、あるいは10〜10,000unit/mlとなるようにESアッセイ培地で希釈したESGROを50μl添加し37℃、5% CO2インキュベーターで6〜24時間培養した。続いて、ピッカジーンデュアル・シーパンジー(東洋インキ製造社製、日本)を用いて、添付のプロトコールに従って、各細胞のルシフェラーゼ・レポーター酵素による発光シグナルを測定した。図4に示すように、ESGROが容量依存的にpSTAT3−TA−Lucによるレポーター酵素の発現を亢進させたのに対し、本発明の化合物Bは、レポーター酵素の発現を誘導しなかった。
また、化合物A、C〜Eについて同様の実験をしたが、化合物Bを使用したときと同様にレポーター酵素の発現を誘導しなかった。
【0059】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化合物A〜Eの構造を示す。
化合物A〜Eは、式(I)のR1〜R9が下表に示す基または元素で表される。
【図2】本発明のアルカリホスファターゼ定量の結果を表す。
【図3】本発明のSSEA−1抗原の発現量評価における平均蛍光強度の結果を示す。
【図4】本発明のSTAT3活性化アッセイの結果を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、低分子化合物、特にインドール誘導体またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤、それを用いる幹細胞培養方法、培養液およびそれを用いて作製された幹細胞株に関する。
【0002】
【従来の技術】
外傷や病気、さらには加齢などによって傷害を受けた臓器・組織は、再生を促進し、その機能を回復させる必要がある。特に、心臓・肝臓・腎臓・膵臓などの実質臓器は生命維持に必須であるためその機能低下・廃絶は死に直結することから、臓器移植により救命を図る移植医療が盛んに行われている。しかし、恒常的なドナー不足からその解決には新たなアプローチが必要になっている。
【0003】
最近になり、胚、或いは成体に存在し、無制限に***して、ひとつ或いは複数の方向に分化する能力を有すると考えられる幹細胞を利用して組織・器官の作製を行い、欠損組織の補填を行う再生医療が、従来の臓器移植の欠点を凌駕する治療法として注目されている。
具体的には、幹細胞を増殖させた後、分化させ細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築を行い、それを生体内へ移植したり人工臓器として利用したりすることなどが考えられている。幹細胞を細胞移植治療や組織工学に利用できれば、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できると期待される。
幹細胞は、血管、神経、血液、軟骨、骨、肝臓、膵臓など数々の分野で同定されているが、そのなかでも特に全ての細胞型に分化する能力を有する全能性幹細胞は、上述の再生医療分野のほか、創薬、および遺伝子治療に用いるための細胞ならびに組織を容易に提供し得る細胞として特に注目されている。
全能性幹細胞の一例として、胚性幹(EmbryonicStem、以下ES)細胞や、胚性生殖(Embryonic Germ、以下EG)細胞が知られている。ES細胞は、マウスの胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass, ICM)から分離された細胞株である(Evansら、Nature, 292, p154, 1981年)。個体を構成する細胞は胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass,以下 ICM)あるいは原腸胚上層(epiblast、以下エピブラスト)から派生した一次外胚葉に由来しており、ICM およびエピブラストは全能性を持った幹細胞群であるといえる。ES細胞は各種個体形成組織への分化能を保持し、正常な胚とキメラ胚を形成させることにより、成体のあらゆる成熟細胞へと分化する能力を保有している。また、試験管内の分化誘導条件によっても、血液細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、色素細胞、膵内分泌細胞など様々な細胞を生成させる能力をもっている(仲野徹、最新医学別冊−再生医学、p81−89、2000)。
EG細胞は始原生殖細胞をLIF(Leukemia Inhibitory Factor)とbFGF(basic Fibroblast Growth Factor)存在下で培養することにより樹立された細胞であり(Matsuiら、Cell、70、p841、1992年、Resnicら、Nature、359、p550、1992年)、ES細胞と同様に各種組織への分化能を有している。
最近になって、マウス以外でもES細胞株の樹立が報告され、マウスES細胞と同様多分化能を有していることが示されている(ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology, 31, p15−17, 1989年、 豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology, 33:p901, 1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.De v.Biol.,196 :p185, 1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、 アカゲザルES細胞:Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 92、p7844、 1995年、マーモセットES細胞:Thomsonら、Biology of Production、55、p254、1996年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、Nature Biotech, 18, p399, 2000年)。
【0004】
ES細胞の未分化を維持するには、通常胎仔由来の線維芽細胞をフィーダー細胞として用いて共培養することが必要である。霊長類のES細胞株の未分化維持においても同様の方法が用いられている(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、 Nature Biotech, 18, p399, 2000年)。
しかし、マウス初代線維芽細胞の調製は煩雑である。即ち、妊娠マウスから13.5から15.5日の胚を取り出し、酵素処理によって胚体を分解し、ディッシュ上に得られた線維芽細胞を回収する。初代細胞であるため、品質管理は複雑で、GMP適応レベルの管理は困難であり、ES細胞の未分化維持能も、用いる胚体により異なる可能性が考えられる。この煩雑な調製作業を経由しないES細胞培養方法として、マウス胚線維芽細胞のセルラインであるSTO細胞(ATCC 56−X)を用いる方法がある。しかし、STO細胞のES細胞未分化維持能は変化しやすく、ES細胞の安定的な培養にはマウス初代線維芽細胞の方が優れている。
また、最近になって異種動物間での内在性ウィルスの感染例が報告されている(van der Laanら、Nature, 407, p90, 2000年)。医療用途でのヒトES細胞の利用を目的とした培養方法においては異種動物細胞間での接触をでき得る限り回避した培養方法の開発が望まれている。従って、マウス由来細胞を用いる上記のES細胞未分化維持培養方法は、医療用途を目的としたES細胞の培養には適していない。
マウス由来フィーダー細胞を用いない霊長類ES細胞の培養方法として、マウス初代線維芽細胞の分泌成分を培養培地中に加える方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。 しかし、この場合においても培養中のES細胞がマウス細胞から分泌される未同定の因子に曝されることから、このような環境で培養されたES細胞は医療用途の使用には適していないうえに、内在性ウィルスの感染の危険性も残されている。従って、マウス初代線維芽細胞との共培養による欠点が全く解消されていない。
マウス由来フィーダー細胞並びにマウスフィーダー細胞由来分泌成分を用いないマウスES細胞の未分化維持培養方法として、ゼラチンをコートした培養皿を用いる培養方法が既に知られているが、この場合には、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor, LIF)の培地への添加が必須である(例えば、非特許文献1参照)。。LIFはサイトカインであることから高コスト、保存性などの問題があり大量培養には適していない。加えて、LIFの効果は極めて特定のマウス系統(129/sv系やC57BL/6系)由来のES細胞に限定的であり、他種動物において顕著な効果は見られない。特に霊長類のES細胞においては、培地中へのLIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0005】
従って、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養することを可能にする分化抑制剤はこれまでなく、また、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養する方法も知られていなかった。
本発明の分化抑制剤は、低分子化合物を有効成分として含有するが、低分子化合物が全能性幹細胞の未分化状態を維持することはこれまで知られていなかった。従って、一般式(I)で示される低分子化合物が有する全能性幹細胞の未分化維持作用は全く知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−17163号公報
【非特許文献1】
Smithら、 Dev. Biol., 121, p1, 1987年
【非特許文献2】
Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、
【非特許文献3】
Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、幹細胞或いは胚性幹細胞を、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに、未分化状態で培養させ得る分化抑制剤を提供することにある。また、本発明の課題は、このような分化抑制剤を用いて、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに幹細胞或いは胚性幹細胞を未分化の状態で培養する方法を提供すること、このような分化抑制剤を含む細胞培養液を提供すること、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、幹細胞ならびに胚性幹細胞を未分化な状態で培養させ得る分化抑制剤、それを用いた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養方法、このような分化抑制剤を含む細胞培養液、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株に関する。
【0009】
すなわち、本発明は、低分子化合物、特にインドール誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤に関する。
本発明におけるインドール誘導体には、次の式(I)で示される化合物を挙げることができる。
【0010】
【化3】
【0011】
(式中、R1〜R9は、同一または異なった電子吸引基、電子供与基または水素電子を示す。具体的には、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アリールアミノビニル基、水素原子などが例示される)。
【0012】
さらに、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いて幹細胞、特に胚性幹細胞を未分化状態で培養する方法に関する。
また、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いた幹細胞の培養液に関する。
さらに、本発明は、前記の幹細胞分化抑制剤を用いて培養し作製された細胞に関する。
【0013】
本発明によれば、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を、未分化なまま、期間を延長してまたは無期限に、大量にかつ安全に増殖させることができる。本発明によって提供される分化抑制剤、それを用いた培養方法、培養液は、細胞移植用途で用いる細胞ソースとしての幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を産生するために適用され得る。幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を利用することにより得られる多くの恩恵に加え、本発明によって提供される分化抑制剤およびそれを用いた培養方法は、1つもしくは多数の遺伝的な改変を有する胚性幹細胞を産生するために適用され得る。このような適用の例は、疾患について細胞ベースでのモデルの開発、ならびに遺伝病を処置するために移植について特異化された組織の開発を含むが、これに限定されない。
【0014】
以下の用語は他で述べない限り、この節中で提供されるように定義される。本明細書で使用される他の全ての用語は、他に述べない限り、その用語に関する特定の分野でのその語法に関して定義される。
幹細胞:幹細胞とは、特異化された機能を有する他の細胞型、即ち、最終的に分化した細胞、もしくは、より狭い範囲の細胞型に分化可能な他の幹細胞型に分化し得る細胞を指す。
全能性幹細胞:全能性幹細胞とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る細胞のことを言う。
多能性幹細胞:多能性幹細胞とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る細胞をいう。多能性細胞の1つの例は、骨髄幹細胞であり、この細胞は神経細胞以外の、リンパ球および赤血球のような種々の血液細胞型へと分化し得る。従って、全ての全能性細胞は多能性であるのに対して、全ての多能性細胞が全能性であるわけではないことが認識される。
胚性幹細胞:胚性幹細胞とは、幹細胞の中でも特に前着床段階の胚の、桑実胚または胚盤胞段階から得られた全能性の細胞をいい、ES細胞とも呼ばれる。 また、胚性幹細胞には、***あるいは卵子になると決まっている、胚または胎児(胎仔)の始原生殖細胞に由来する多能性の幹細胞のことをいう場合もある。ただし、この細胞は胚性生殖(Embryonic Germ、EG)細胞と呼ばれて胚性幹細胞と区別される場合もある。本明細書中で用いる胚性幹細胞は、いかなる動物種のものであってよく、例えばヒトを含む霊長類、霊長類以外の哺乳類、鳥類などの胚性幹細胞が挙げられる。
全能性:全能性とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る状態を言う。
多能性:多能性とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る状態をいう。
未分化:未分化とは、1つの細胞、或いは複数の細胞からなる任意の細胞集団が、1つまたは複数の、さらに分化が進んだ状態の細胞に分化し得る能力を有する状態である細胞、或いは該細胞を含む細胞集団である状態であることをいう。
フィーダー:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダーとは、 全能性幹細胞がその上にプレートされ、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供するものをいう。
フィーダー細胞:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダー細胞とは、 全能性幹細胞がその上にプレートされる非全能性幹細胞をいい、非全能性幹細胞は、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供する。
細胞由来成分:細胞から分泌される成分、内容物、および細胞膜成分など、細胞に由来する全ての成分をいう。
【0015】
本発明は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を未分化の状態で、増殖および維持させ得る分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを用いた培養液、それを用いて培養し作製された細胞株を提供する。本発明で提供する分化抑制剤、培養方法および培養液は、従来より簡便に、安全に、未分化の胚性幹細胞を増殖しそして維持する。本発明の分化抑制剤を含む細胞培養方法はまた、特定の分化誘導因子、および分化誘導因子の有用な組み合わせについてスクリーニングするために使用され得る。本発明の分化抑制剤、および培養方法を使用して、未分化な胚性幹細胞を増殖させる能力は、重要な治療適用を有する単一もしくは複数の遺伝的改変を有する胚性幹細胞系を産生する能力を含む重要な利益を提供する。
【0016】
本発明の分化抑制剤は、化学的に安定な低分子化合物で、幹細胞を未分化な状態で維持する活性を有するものであればいずれも用いることができるが、好ましくはインドール誘導体があげられる。さらに好ましくは式(I)で示される構造を有するインドール誘導体、その塩、またはエステル化合物が望ましい。式中、R1〜R9としては、同一または異なった電子吸引基、または電子供与基または水素原子から選ばれる基、または原子が挙げられる。電子供与基とは、ベンゼン環へ電子を供与し得る置換基、電子吸引基とはベンゼン環上のπ電子を吸引する性質を有する置換基をいう。また、Hammettの置換基定数σを用いてσ<0を電子供与基、σ>0を電子吸引基と定義することもできる(基礎有機反応論、橋本静信ら著、三共出版、1997年)。より好ましくは、 R1〜R9は、同一または異なった、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、フロイル基、テノイル基、ジアルキルカルバモイル基、アセチル基、ブタノイル基、メトキシカルボニル基、シクロアルキル基、ベンジルオキシ基、アダマンチルオキシ基、アリールアミノビニル基、ヒドロキシル基、ニトロ基よりなる群から選ばれる基、あるいはハロゲン原子または水素原子などが挙げられる。さらには、 R1〜R9はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アリールアミノビニル基、水素原子よりなる群から選ばれる基または原子であることが望ましい。
【0017】
本発明はこれらの化合物のうち、次の式(II)で示されるインドール誘導体またはその塩を用いることが特に好ましい。
【化4】
A1〜A3は同一であっても良い低級アルキル基、低級アルコキシ基、水素原子を表し、A4は低級アルキル基、アリールアミノビニル基を表す。
【0018】
化合物(II)において、A1〜A4で示される低級アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられる。特に好ましくはメチルである。
【0019】
化合物(II)において、A1〜A4で示される低級アルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどが挙げられるが、特に好ましくはメトキシである。
【0020】
化合物(II)において、A4で示されるアリールアミノビニル基としては式(III)で示される基を用いることが望ましい。式(III)で示されるAr(アリール基)としては、例えば、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられるが、特に好ましくは、4−メトキシフェニル基である。
【化5】
【0021】
化合物(II)の塩としては、薬学的に許容しうる塩が望ましい。例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などを形成しても良い。
【0022】
化合物IまたはIIのエステル化合物としては、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、無機酸エステルなどがあげられる。
【0023】
本発明の分化抑制剤の濃度としては、0.1ng/ml〜1mg/mlの範囲で使用することが望ましく、好ましくは10ng/ml〜100μg/ml、さらに好ましくは100ng/ml〜10μg/mlの範囲で使用することである。
【0024】
また、本発明の分化抑制剤はSTAT3(signal transducer and activator of transcription 3)の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物、特にイソキノリン誘導体を含む。特定のマウス系統の胚性幹細胞は、マウス胎仔由来の線維芽細胞からなるフィーダー細胞の存在、非存在にかかわらず、LIFによって未分化が維持される。LIFはSTAT3の活性化を介して下流にシグナルを伝えることが知られている(Matsudaら、EMBO Journal、18、15、p4261、1999年)。しかし、最近になってSTAT3を活性化せずに胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制因子が存在することが報告されたことから(Daniら、Developmental Biology、 203、 p149、 1998年)、STAT3を介さない胚性幹細胞の未分化維持機構が存在すると考えられている。さらに、LIFが、霊長類胚性幹細胞の未分化維持に効果を示さないことから(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、 Nature Biotech, 18, p399, 2000年)、霊長類胚性幹細胞には、LIFおよびSTAT3とは異なるシグナルによって未分化状態を維持する機構が存在することが示唆される。本発明の分化抑制剤にはSTAT3の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物が含まれる。いいかえれば、LIFとは異なる作用により胚性幹細胞の未分化を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
【0025】
また、最近の報告によれば、ある種の骨髄由来間葉系幹細胞においても胚性幹細胞と同様に、マウス由来の幹細胞の培養はLIF依存的であるが、ヒト由来の幹細胞はLIF非依存的であることが示されている。(Verfaillieら、Nature, 418, p41, 2002年)これは、多分化能を示す幹細胞は、胚性幹細胞と同様の未分化維持機構を有していることを示唆し、従って、霊長類幹細胞においても、胚性幹細胞と同様に、LIF−STAT3経路とは異なるシグナルによって未分化が維持されている可能性が示唆される。本発明の分化抑制剤には、STAT3を介さずに細胞の未分化状態を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
【0026】
本発明の分化抑制剤は、動物細胞培養用基礎培地である任意の哺乳類細胞培養基本培地に添加して使用することができる。動物細胞基本培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地:DMEM、ノックアウトDMEM、グラスゴーMEM:GMEM、RPMI1640、IMDM(以上 GIBCO社製、米国)などが挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施態様としての細胞培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。さらにこれらの基礎培地に血清または血清代替物としての各種増殖因子を添加して用いることもできる。血清は、幹細胞ならびに胚性幹細胞の増殖および生存性の維持に効果的である栄養素を供給する任意の血清、または、血清ベースの溶液であり得る。このような血清の例には、ウシ胎仔血清(FCS)、ウシ血清(CS)、馬血清(HS)などがあり、また、血清代替物としては当業者に周知のもの、蛋白質、アミノ酸、脂質、ビタミンなどを単独で、或いは組み合わせて用いることが出来る。蛋白質としてはインスリン、トランスフェリン、アルブミン、ペプトン、FGF(Fibroblast Growth Factor)、EGF(EpitherialGrowth Factor)などが、アミノ酸としてはアルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが、ビタミンとしては、パントテン酸、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸アミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシンなどが例示されるがこれらに限定されない。1つの実施態様において、血清はウシ胎仔血清である。より特定の実施態様において、ウシ胎仔血清は約25%と約1%との間の濃度で提供される。さらにより特定の実施態様において、細胞培地でのウシ胎仔血清濃度は15%である。また、他の実施態様において、血清代替物はノックアウト血清リプレースメント:KSR(GIBCOBRL社製、米国)である。
【0027】
細胞培地は、抗酸化剤(還元剤)(例えば、β−<メルカプトエタノール)も含む。ある好適な実施態様において、β−<メルカプトエタノールは、約0.1mMの濃度を有する。他の抗酸化剤 (例えば、モノチオグリセロール、もしくは、ジチオス レイトール(DTT)の単独もしくは組み合わせ)が同様の効果のために使用され得る。さらに他の等価な物質は、細胞培養の分野の当業者に周知である。
【0028】
本発明の分化抑制剤ならびにその有効成分は、任意の培養基材とともにあるいは培養基材に固定して使用することもできる。培養基材には多孔質体を使用することがでる。多孔質体とは、微細な孔を多数有する基材のことをいい、その材質、厚さ、形状、寸法などは特に限定はない。多孔質体の材質は、有機材料、無機材料及び有機材料と無機材料からなる複合材料であっても良い。多孔質体の形状は平板状、球状、棒状、繊維状、中空状のいずれの形態であっても良く、例えば、フィルム、シート、膜、板、不織布、ろ紙、スポンジ、織物、編物、塊、糸、中空糸、粒子等が挙げられる。細胞を培養するにあたって、3次元的に培養できるように細胞を支持する孔の大きさを簡単に制御できることや、基材作製の容易さ及びコストなどを考慮すると不織布がより好ましい。多孔質体の孔の大きさについては、特に限定はないが、細胞を3次元的に支持できるようにすることを考慮すると、平均孔径が、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下がさらに好ましい。繊維径については特に限定はないが、0.03デニール以下が好ましい。
【0029】
上記の多孔質体は、細胞の接着性や分化維持機能、増殖能を向上させるために、高分子化合物により表面コーティング処理を施されていても良い。高分子物質とは、1種以上の繰り返し構成単位の単量体が1次元、2次元、3次元的に連なった分子量数百以上の物質のことをいう。高分子物質は、大きく天然高分子物質、半合成高分子物質、合成高分子物質の3つに分類することができ、本発明においていずれの高分子物質も使用することができる。
【0030】
例えば、天然高分子物質としては、マイカ(雲母)、アスベスト(石綿)、グラファイト(石墨)、ダイアモンド、でんぷん、セルロース、アルギン酸等に代表される糖類及びゼラチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン等に代表されるタンパク質等が挙げられる。半合成高分子物質としては、ガラス、硝酸セルロース、酢酸セルロース、塩酸ゴム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。合成高分子物質としては、ポリホスホニトリルクロライド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体に代表されるような2種類以上の合成単量体からなる共重合体等が挙げられる。
コーティング処理のし易さを考慮すると、有機高分子物質が好ましく、タンパク質やペプチド並びに有機合成高分子物質がさらに好ましい。
【0031】
本発明の分化抑制剤を固定した培養基材を細胞捕捉材として用いることにより、複数の異なる細胞からなる集団から、幹細胞或いは胚性幹細胞を分離し、かつ、培養を行える方法及び装置が提供され得る。即ち、幹細胞或いは胚性幹細胞と、除去対象細胞を含む細胞含有液を本発明の分化抑制剤を固定した、多孔質体などの培養基材からなる細胞捕捉材が充填されている容器に導入し、細胞捕捉材に幹細胞或いは胚性幹細胞を捕捉させ、除去対象細胞を容器外に導出した後に容器ごと培養することを特徴とする幹細胞或いは胚性幹細胞培養方法であり、また本発明の分化抑制剤を固定化した培養基材からなる細胞捕捉材を容器に充填した細胞培養装置であって、前記細胞捕捉材は細胞培養用担体として使用し得るものであり、前記容器は細胞培養に使用し得るものであることを特徴とする細胞培養装置である。除去対象細胞とは、幹細胞或いは胚性幹細胞以外の全ての細胞をいう。また、幹細胞或いは胚性幹細胞から分化して、多分化能を失った細胞もこれに含まれる。細胞捕捉材に導入する細胞含有液としては、幹細胞或いは胚性幹細胞を含有する細胞液であればいかなるものでもよく、一例として、血液、骨髄、砕片組織液、或いは、幹細胞、胚性幹細胞の培養液などがあげられる。
【0032】
本発明は幹細胞ならびに胚性幹細胞を増殖するための方法に関する。本発明の分化抑制剤を用いて増殖させた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養物を提供することができる。
【0033】
本発明の分化抑制剤を用いて培養される細胞には、公知の方法および材料を使用して入手し得る全ての幹細胞および胚性幹細胞が含まれる。幹細胞には以下の公知の方法によって入手し得る幹細胞が一例として挙げられる。骨髄細胞(「骨髄移植ガイド」H.J.ディーグ、H.G.クリンゲマン、G.L.フィリップス著/笠倉新平訳)、骨髄幹細胞(Osawaら、 Science、 273、 p242−245、1996年、 Goodellら、 J.E.Med.183、 p1797−1806、1996年、Verfaillieら、Nature, 418, p41, 2002年)、神経幹細胞(Reynoldsら、Science、p1707−1710、1992年)、組織幹細胞(Goodellら、J.E.Med.183、p1797−1806、1996年、松崎ら、実験医学、19、p345−349、2001年、Blauら、Cell、105、p829−841、2001年)、間葉系幹細胞(Liechtyら、Nature Medicine、6、p1282−1286、2000年、Pittengerら、Science、284、p143−147、1999年)。
【0034】
また、培養されるべき胚性幹細胞としては、 以下に示す、公知の方法および材料を使用して入手し得る。マウス胚性幹細胞:Evansら、Nature, 292, p154, 1981年、ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology,31,p15−17,1989年、豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology,33:p901, 1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.De v.Biol.,196:p185,1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、 サルES細胞:Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, p7844, 1995年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年、Reubinoffら、Nature Biotech, 18, p399, 2000年、ヒトEG細胞:Gearhartら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, p13726, 1998年。また、マウス胚性幹細胞(129SVおよびC57/BL6)は、大日本製薬より購入できる。
【0035】
本発明により提供される分化抑制剤は、全ての幹細胞および胚性幹細胞に用いることができるが、哺乳類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが望ましく、霊長類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが好ましい。
【0036】
幹細胞ならびに胚性幹細胞は、一旦単離されると、本発明の分化抑制剤を使用して未分化な状態で培養され得る。
【0037】
本発明の分化抑制剤を用いて培養した幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の未分化程度は幹細胞の細胞膜状に存在するアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定することにより確認することができる。未分化な胚性幹細胞ではALPの活性が維持され、分化すると減少することが知られている(Williamsら、Nature、336、pp684、1988年、Thomsonら、Science, 282, p1145, 1998年)。不溶性基質を用いた染色法、あるいは水溶性基質を用いた分光学的測定法などによりアルカリホスファターゼ(ALP)活性を検出する方法が挙げられる。
【0038】
一つの実施態様において、分光学的測定法によりALP活性を定量することができる。培養ディッシュ上の細胞にパラニトロフェニルホスフェイト(pNPP)のアルカリ性溶液を添加する。細胞膜上に存在するALPによってpNPPが加水分解され、パラニトロフェノールが生じる。生成した溶液の405nmの吸光度を測定することによって、アルカリホスファターゼ活性を定量することができる。実施例4に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞のALP活性を測定すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべ有意に高いALP活性を有していることが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認される。
【0039】
他の実施態様において、ALP染色法によりALP活性を検出することもできる。培養ディッシュ上の細胞に、基質としてリン酸エステル塩とジアゾニウム塩を含む反応溶液を添加する。細胞膜状に存在するアルカリホスファターゼによりリン酸エステル塩が加水分解され、次いでジアゾニウム塩とカップリング反応することによりアゾ色素が生じ、ALP活性部位に色素が沈殿する。染色されたコロニー数を計測することにより細胞のALP活性を定量化することが可能となり、即ち細胞の未分化度合いを定量することができる。本発明の分化抑制剤を用いて培養した胚性幹細胞をALP染色すると、分化抑制剤を用いないコントロール細胞に比べ有意にALP活性が高いことが示され、即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認され
る。
【0040】
また、胚性幹細胞の未分化程度はOct−3/4遺伝子の発現量を測定することによって確認することができる。Oct−3/4遺伝子はPOUファミリーに属する転写因子で、胚性幹細胞、胚性癌細胞(EC細胞)で、未分化状態特異的に発現し(Okamotoら、Cell、60、p461、1990年)、胚発生においても未分化細胞系譜においてのみ発現し(Scholer、Trends Genet、7、 p323、 1991年)、さらに、Oct−3/4遺伝子破壊マウスのホモ個体は胚盤胞期で発生を停止することから未分化状態維持に重要な機能を有していることが明らかにされている(Nicholsら、Cell、 95、 p379、 1998年)。また、一方、Oct−3/4遺伝子の過剰発現は胚性幹細胞の分化を促進することが最近明らかにされ(Niwaら、Nat .Genet. 24、 p372、2000年)、Oct−3/4の発現量をある一定の範囲に保つことが未分化状態の維持に重要である。Oct−3/4遺伝子の発現量を測定する一つの実施態様としては定量的PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いることができる。
【0041】
一つの実施態様においてはリアルタイムPCR法が用いられ、幅広いダイナミックレンジをもち、簡便で信頼性のある定量測定が可能である。リアルタイムPCR技術には、ABI PRISM7700TM (Applied Biosystems)を使用したTaq Manプローブを用いる方法や、LightCyclerTM(ロシュ・ダイアグノスティック)を用いた方法がある。特に後者の場合はPCRの温度サイクルが数十分で終了する高速反応サイクルのもとで、サイクルごとに合成されるDNAの増幅量変化をリアルタイムに検出できる。リアルタイムPCR法のDNA検出法としては、DNA結合色素(インターカレーター)、ハイブリダイゼーション・プローブ(キッシングプローブ)、TaqManプローブおよびSunriseユニプライマー(モレキュラー・ビーコン)を利用する4種類の方法がある。また、DNA結合色素、例えばSYBR GreenIを利用してOct−3/4遺伝子の発現量を解析することができる。SYBR GreenIはDNAの二本鎖特異的に結合色素であり、二本鎖に結合することで本来の蛍光強度が増強される。PCR反応時にSYBR GreenIを加え、伸張反応の各サイクルの終わりに蛍光強度を測定すれば、PCR産物の増加が検出できる。Oct−3/4遺伝子を検出するには通常のPCRと同様にOct−3/4遺伝子の配列をもとに、市販の遺伝子解析ソフトウェアなどを用いてプライマーを設計する。SYBR GreenIは非特異的産物も検出してしまうため最適なプライマーの設定が必要となる。設計基準としては、オリゴマーの長さ、配列の塩基組成、GC含量、およびTm値などに留意が必要である。
【0042】
多くの場合、定量PCRにおいて明らかにすることを目的とするのは、サンプル一定量当たりの目的DNA量である。このためには最初に反応系に加えたサンプル量の評価が必要である。この場合サンプル量を反映するような内部標準となる別のDNAを目的DNAとは別に測定し、最初に反応系に加えたサンプル量を補正することができる。サンプル量を補正する目的で用いる内部標準には、通常、組織によって発現量に差がないと考えられているハウスキーピング遺伝子を用いることができる。例えば、解糖系の主要酵素であるグリセロアルデヒドリン酸脱水素酵素(GAPDH)、細胞骨格の構成成分であるβアクチンまたはγアクチン、リボゾームの構成蛋白質であるS26などの遺伝子が挙げられる。
【0043】
Oct−3/4遺伝子の発現レベルは、本発明の分化抑制剤に暴露された細胞について決定することができる。分化抑制剤に暴露されていない、即ち、胚性幹細胞から分化誘導されたコントロール細胞のOct−3/4遺伝子発現量にくらべ、有意にOct−3/4遺伝子の発現量を維持させることができる活性を有する化合物が、胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制剤であるとみなされる。本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞のOct−3/4遺伝子の発現レベルを評価すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべOct−3/4遺伝子の発現レベルが有意に高いことが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持し得ることが確認される。
【0044】
最適化された胚性幹細胞の未分化維持培養基材をスクリーニングするさらに他の方法として、ステージ特異的胚抗原(Stage Specific Embryonic Antigen)(以後SSEAと記載)−1、 SSEA−3、 SSEA−4などの未分化な細胞に特異的に発現する抗原を検出方法が挙げられる(Smithら、 Nature、 336、 p688、 1988年、Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A、75、p5565、1978年、Kannagiら、EMBO J.2、p2355、1983年)。
【0045】
一つの実施態様において、SSEA−1などの表面抗原は、同抗原を認識する特異的抗体(一次抗体)とインキュベートし、さらに蛍光標識のようなレポーターと結合した第二の抗体(二次抗体)とインキュベートすることにより、標識することができる。この操作により目的の抗原を発現する細胞が、蛍光性になる。次いで、標識された細胞を標準的な方法、例えばフローサイトメーターを用いて、計数、さらには分取され得る。次いで、標識および非標識細胞の数は、目的とする培養基材の効果を決定するために比較され得る。あるいは、非標識細胞表面マーカー抗体に曝露された後、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)形式において、その細胞は、抗細胞表面抗原抗体(例えば抗SSEA−1抗体)に対して特異的な第二の抗体に曝露され得、そこから、所望の表面抗原を発現する細胞の数が、比色定量的に、または蛍光を測定することにより定量され得る。表面抗原を発現する細胞を定量するさらに他の方法も、細胞培養の当業者に周知である。実施例2に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞の表面抗原SSEA−1の発現レベルを評価すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべ表面抗原SSEA−1の発現レベルが有意に高いことが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持し得ることが確認される。
【0046】
本発明によって提供される、幹細胞、または胚性幹細胞の増殖に対する改善された分化抑制剤、培養方法、および培養液は、幹細胞または胚性幹細胞が有用であるすべての技術に対して適用されることが予想される。
【0047】
本発明の分化抑制剤、培養方法および培養液を用いて産生される細胞は、分化させ、細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築に使用され、生体内へ移植したり人工臓器として利用されうる。幹細胞の細胞移植治療や組織工学への利用は、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できる。
【0048】
本発明の分化抑制剤は、単独または賦形剤あるいは担体と混合して使用することができる。賦形剤および担体としては薬剤学的に許容されるものが選ばれる。例えば液状担体としては水、アルコール類、ジメチルスルフオキシド(DMSO)、もしくは動植物油、合成油などが用いられる。個体担体としては、乳糖、マルトース、シュクロースなどの糖類、アミノ酸類、ヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸塩などが使用される。また、本発明の分化抑制剤の組成中にpH調整等の目的で、酸やアルカリまたは適量の緩衝剤を加えてもよい。
製剤中の本発明における化合物の含量は製剤により種々異なるが、通常0.1〜100重量%、好ましくは1〜98%の有効成分を含む。
【0049】
本発明の分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを含む培養液により得られた、非改変および改変された幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の培養物は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞のモニタリングまたは幹細胞収集を改良する物質についてスクリーニングするために使用される。例えば、推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質は、上記の方法を用いて増殖させた細胞培養物へ添加され得る。推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質を欠損した対照細胞培養物と比較して、三胚葉系列への分化を誘導し得る物質は、胚性幹細胞分化誘導因子として同定される。
【0050】
【実施例】
次に本発明を具体化した実施例を示す。この実施例は、本発明を実施する当業者を補助するために提供される。これらの実施例は、いかなる様式においても、決して本発明の範囲を制限するものではない。
【0051】
【実施例1】
「ES細胞培地の作製」
ES細胞を増殖させる目的で、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(以下DMEM)(GIBCO BRL社製 Cat.No.11995)に、以下に示す最終濃度で因子を添加してES細胞培地を調製した:15% ウシ胎仔血清(GIBCO BRL社製) もしくは15%ノックアウト血清リプレースメント:KSR(GIBCOBRL社製)、0.1mM β−メルカプトエタノール(SIGMA社製)、1×非必須アミノ酸ストック(GIBCO BRL社製 Cat.No.11140−050)、2mM L−G1utamine(GIBCO BRL社製Cat.No.25030−081)、103unit/ml ES GRO(CHEMICON International Inc.,社製)。ただし、ES GROはマウスLIFを有効成分として含有する。ES細胞分化抑制アッセイ用の培地として、上記のES細胞培地からESGROを除いたアッセイ培地を作製した。
【0052】
「ES細胞の培養」
直径5cmの細胞培養用ディッシュに、蒸留水に0.1%の濃度でGelatin(SIGMA社製 TypeA:from porcinESkin、G2500)を溶解し、滅菌した0.1%ゼラチン水溶液5mlを添加し、37℃で30分以上静置した。ゼラチン水溶液を除いて、マイトマイシンC(協和発酵社製)処理したマウス胚性初代培養細胞(ライフテックオリエンタル社 Cat.No. YE9284400)2×106個を播種し、10%ウシ胎児血清(GIBCO BRL社製)を含むDMEM5mlで、37℃、5%CO2インキュベーター(タバイエスペック社製)で5時間以上培養した。マウス胚性幹細胞株D3ES細胞(Rolf Kemler、Max Planck Institutfur Immunbiologie、Stuheweg51、D−79108Freiburg、Germany、より入手可能)を、直径5cmのデイッシュに培養した繊維芽細胞フィーダー層上に播種し、5mlのES培地で、37℃、5% CO2インキュベーターで2日間培養して増殖させた。
【0053】
「ES細胞分化抑制アッセイ1」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を20mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径20cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。同様の操作をもう一度繰り返した。その後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁した。予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした96穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3072、米国)に、1ウェルあたり3200個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が100μlになるように播種した。各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または水、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜E: AはIF LAB Ltd.社、ウクライナ、B,CはPHARMEKS社、ロシア、D,EはSPECS社、オランダから購入)、あるいはESGROを10μl添加し、37℃、5% CO2インキュベーターで4日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。またコントロールウェルには、DMSOのみを最終濃度で0.1%となるように加えた。分化抑制剤A〜Eの構造を図1に示した。
【0054】
「アルカリホスファターゼ定量」
ES細胞のアルカリホスファターゼ活性を、p−NITROPHENYL PHOSPHATE SOLUTION(MOSS Inc.社製、PRODUCT NO.NPPD−1000、米国、またはSIGMA社製、A−3469、米国製)(以下、p−NPP)を用いて定量した。前記「ES細胞分化抑制アッセイ1」に記載の方法で4日間培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、p−NPP100μlを各ウェルに加え、室温で10分間静置した。各ウェルに12.5μlの8M水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応を停止させた。溶液の405nmの吸光度(O.D.405)と690nmの吸光度(O.D.690)を吸光度計(Molecular Devices社製、型式:SPECTRA MAX190)により測定し、O.D.405−O.D.690で算出される値をアルカリホスファターゼ活性とした。定量結果をグラフしたものを図2に示した。本発明の分化抑制剤、化合物A〜EはコントロールであるDMSO(0.1%)に比べて有意にアルカリホスファターゼ活性を増幅させた。即ち、本発明の分化抑制剤は未分化なES細胞の培養を支持したことがわかる。
【0055】
【実施例2】
「ES細胞分化抑制アッセイ2」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄した。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製 15090−046)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を20mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、再度、0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁した。予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに8×104個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が10mlになるように播種した。各ディッシュに40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜E)、あるいはESGROを1ml添加し、37℃、5% CO2インキュベーターで7日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。
【0056】
「SSEA−1抗原の発現量評価」
前記「ES細胞分化抑制アッセイ2」で培養した細胞をPBSで2回洗浄し、セルスクレイパーで細胞をディッシュから脱離した。細胞数が6×105個になるように2%FBSを含むHanks balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)を300μl加えた。HBSSで50倍希釈したMX−SSEA−1抗体(Kyowa Medex社製)を30μl加え40分間、氷上で静置した。HBSS (1ml)で二回洗浄後、HBSS (300μl)に再分散し、HBSSで20倍FITC−Goat anti Mouse IgM抗体(ZYMED社製)を30μl加え30分間、遮光して氷上で静置した。HBSS (1ml)で二回洗浄後、HBSS (1ml)に再分散し、20μg/ml PI溶液(Dojindo社製)を100μl加え、フローサイトメーター測定に用いるサンプルを得た。またフローサイトメーター測定に用いるサンプルは、凝集塊を除く目的で孔径100μmのナイロン・メッシュに通した後に測定を行った。フローサイトメーターはFACSCalibur(BECTON DICKINSON社製、米国)を用い、測定条件データ収集解析ソフトウェアはCELLQuest(BECTON DICKINSON社製、米国)を用いた。結果を図3に示した。各分化抑制剤を添加して培養した細胞の、1細胞あたりの平均蛍光強度、即ち、1細胞あたりのSSEA−1抗原発現強度は、分化抑制剤を含まない培地で培養した細胞にくらべ、有意に亢進していた。また、化合物B ̄Eについて同様の実験をしたところ、同様にSSEA−1の発現レベルが有意に高いことを示した。即ち、本発明の分化抑制剤は、未分化なES細胞を維持することが明らかになった。
【0057】
【実施例3】
「STAT3活性化アッセイ」
前記「ES細胞の培養」で培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン溶液(GIBCO BRL社製)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させる。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、 15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で800rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を5mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で800rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁する。
【0058】
予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした24穴細胞培養用ディッシュ(FALCON Cat.No.3047、米国)に、1ウェルあたり1×105個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞培地が500μlになるように播種し、37℃、5% CO2インキュベーターで12時間〜24時間培養した。次ぎに、LipofectAMINE 2000(Invitrogen社製、米国)を用いて、添付のプロトコールに従って、pSTAT3−TA−Luc、またはpTA−Lucベクター(クロンテック社製、米国)を1ウェルあたり0.9μgをES細胞にトランスフェクションした。また、内部コントロールとして、pRL−TKベクター(プロメガ社製、米国)を各ウェル0.1μg、同時にトランスフェクションした。37℃、5% CO2インキュベーターで4時間培養後、培地を吸引し、PBSで2回洗浄したのち、ESアッセイ培地を各ウェル500μlずつ加えた。次いで、各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)または水或いはその混合物に溶解した分化抑制剤、あるいは10〜10,000unit/mlとなるようにESアッセイ培地で希釈したESGROを50μl添加し37℃、5% CO2インキュベーターで6〜24時間培養した。続いて、ピッカジーンデュアル・シーパンジー(東洋インキ製造社製、日本)を用いて、添付のプロトコールに従って、各細胞のルシフェラーゼ・レポーター酵素による発光シグナルを測定した。図4に示すように、ESGROが容量依存的にpSTAT3−TA−Lucによるレポーター酵素の発現を亢進させたのに対し、本発明の化合物Bは、レポーター酵素の発現を誘導しなかった。
また、化合物A、C〜Eについて同様の実験をしたが、化合物Bを使用したときと同様にレポーター酵素の発現を誘導しなかった。
【0059】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化合物A〜Eの構造を示す。
化合物A〜Eは、式(I)のR1〜R9が下表に示す基または元素で表される。
【図2】本発明のアルカリホスファターゼ定量の結果を表す。
【図3】本発明のSSEA−1抗原の発現量評価における平均蛍光強度の結果を示す。
【図4】本発明のSTAT3活性化アッセイの結果を示す。
Claims (11)
- 低分子化合物を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
- 低分子化合物がインドール誘導体である、請求項1に記載の分化抑制剤。
- R1〜R9はアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アリールアミノビニル基、水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である請求項3に記載の分化抑制剤。
- 式(I)で表される化合物が、
2−メチル−3−ニトロ−1−フェニル−1H−インドール−6−オール、1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール、2−メチル−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オール、2−[2−(4−メトキシ−フェニルアミノ)−ビニル]−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オールまたは1−(2−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オールのいずれかの化合物、その塩またはそのエステル化合物である請求項2に記載の分化抑制剤。 - 低分子化合物が、STAT3(signal transducer and activator of transcription3)を活性化しない化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の分化抑制剤。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする幹細胞培養方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて胚性幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする胚性幹細胞培養方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の分化抑制剤を有効成分として含有する、幹細胞を未分化状態で増殖するための培養液。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて未分化状態で培養された幹細胞。
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