JP2005003909A - 光学系の薄層斜光照明法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】試料における照明光の厚さをd、試料における照明光の入射角をθ、レンズ後焦点面における照明光の中心軸からの距離をX、照明光のレンズへの入射角をφ、照明光の対物レンズ入射の開き角の半分をδφとすると、試料における照明光の厚さをdを与える式 d=2r・cosθにおいて、試料への照明光の入射角θはXとφによって決まり、試料観察面での照射半径rはδφによって決まる値であることがわかる。従って、照明光の厚さdを薄くすることは、cosθおよびrを小さくすること、また、レンズへの照明光入射位置を、試料への照明光入射角度に応じて変えることにより実現できる。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、物質や分子を光を使って高感度検出する顕微鏡と同等の光学系の薄層斜光照明法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、物質や分子を光を使って高感度検出する光学顕微鏡の照明技術は種々のものが提案されており、その内の幾つかを以下に説明する。図10は、蛍光顕微鏡の照明として、現在一般的に使われている落射照明方法の概略図である。図に示すように、光源からの照射光6を、照射光5は反射し、蛍光は透過させるダイクロイックミラー7で反射させて、対物レンズ4の中央に入射し、オイル3、カバーガラス2を介して試料溶液1でなる試料観察面を照射するものである。
【0003】
また、ガラス表面近傍のみを局所的に照明する方法として、全反射照明法がある。全反射した際に生じるエバネッセント光(深さ100200nm程度)を使って照明するものである。プリズムを使う方法と対物レンズを使う方法があるが、図11に対物レンズ型全反射照明法の概略図を示す。対物レンズ4の開口数をNA、試料溶液1の屈折率をnとしたとき、開口数(NA)がNA>nの式を満たす対物レンズ4により全反射照明が可能となり、エバネッセント光5が得られる。この方法は、従来、極く限られた利用のみであったが、蛍光色素1分子を蛍光顕微鏡で観察する方法として有用であることが判明し、最近では1分子イメージング用に使用され始めている。
【0004】
更に、本発明者が提案した既に特許されている光照射切り替え方法の概略を図12に示す。1は試料溶液、2はカバーガラス、3はオイル、4は対物レンズ(レンズ群)、5は照射光、6は照射光、7はダイクロイックミラーである。落射照明から全反射照明の状態への変更を、ミラー等の光学部品を図12(A)→12(B)→図12(C)へと移動することのみで実現することができ、余分な光学系を必要とせず、簡単な原理で照射の切替を行えることができる。また、この方法では、入射光位置又は光源位置(例えば光ファイバーの出射位置)をずらすことによっても同等の状態変更を実現することができる(特許文献1参照。)。
【0005】
また、他の方法として、通常の光学顕微鏡や落射照明法による蛍光顕微鏡において、セクショニング像や3次元画像を得る方法としては、焦点を連続的に変化させて得た連続画像からデコンボリューションによって計算する方法が用いられている。これは、試料上の1点から出た光の像が、焦点からはずれた時にどうなるかを予め知っておくことにより、計算によって元の3次元像を計算するものであるが、厚みのある試料や、明るい中にある暗い部分を観察する場合には、この方法では限界がある。
【0006】
また、他の方法として、セクショニング像や3次元画像を用いる方法としては、現在、共焦点顕微鏡法が広く普及している。この方法は、高感度カメラに比べると感度が劣っており、特に蛍光試料の観察においては、レーザー光を1点に集光して照射するために、蛍光色素の退色が早くなったり、生物試料に損傷を与えるなどの難点がある。
【0007】
【特許文献1】
特許第3093145号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の方法では、厚みのある試料や明るい中にある暗い部分の観察において、高感度、高S/N比を得ることができなかった。そこで本発明は、顕微鏡と同等の光学系を用いて光を使って物質や分子を高感度検出することを可能とし、光学顕微鏡における低背景・高感度のセクショニング像や3次元画像を得ることにより、高感度観察を可能にする光学系の薄層斜光照明法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る光学系の薄層斜光照明法は、対物レンズあるいはコンデンサーレンズ等を用いたレンズ光学系の斜光照明で、試料への照明光入射角度をレンズ光軸に垂直に近くすることにより、薄い層状の光で試料を照明する薄層斜光照明法において、レンズへの照明光入射位置を、試料への照明光入射角度によって決まる値となるように構成した。
【0010】
これにより、レンズを用いた斜光照明において、レンズへの照明光入射位置を、試料への照明光入射角度によって決まる値となるようにして照射領域を絞ることにより、薄い層状の光で試料を照明することができ、光学顕微鏡においては、低背景・高感度のセクショニング像や3次元画像を得ることができる。
【0011】
この発明の請求項2に係る光学系の薄層斜光照明法は、対物レンズあるいはコンデンサーレンズ等を用いたレンズ光学系の斜光照明で薄い層状の光で試料を照明する薄層斜光照明法において、焦点位置を変えて異なる高さの試料面を観察する場合には、レンズへの照明光入射角度を、試料観察面の高さと試料への照明光入射角度に応じて変えるように構成した。
【0012】
これにより、レンズの焦点位置を変えて、試料観察面のカバーガラス表面からの高さを変えても、レンズへの照明光の入射角度を試料観察面の高さと試料への照明光入射角度に応じて変えることにより、薄い層状の光で試料を照明することができ、光学顕微鏡においては、低背景・高感度のセクショニング像や3次元画像を得ることができる。
【0013】
この発明の請求項3に係る光学系の薄層斜光照明法は、上記請求項1又は請求項2記載の光学系の薄層斜光照明法において、前記レンズとして、試料の屈折率よりも開口数が大きいレンズまたは試料の屈折率に起因する収差を補正したレンズを用いる構成した。
【0014】
これにより、レンズの開口数が大きいほど、レンズへの照明入射角度φを大きくすることができ、試料観察面の高さZを大きく、あるいは試料への照明光入射角度θを大きくできるので、その結果として、より高い位置Zまで観察できる、あるいは照明光の厚さを薄く、あるいは照射範囲を広くすることができる。更に、試料の屈折率よりもレンズの開口数の大きいレンズを用いることにより、この利点をさらに大きくすることができる。そして、試料の屈折率nとレンズ側の屈折率n’の違いは球面収差が生じるが、この収差を補正したレンズを用いることにより薄層斜光照明の性能を良くすることができる。
【0015】
この発明の請求項4に係る光学系の薄層斜光照明法は、上記請求項1乃至請求項3記載の光学系の薄層斜光照明法において、カメラ等の受光素子の受光面、あるいは結像レンズを傾けることにより、試料観察面を傾け、斜光照明光と試料観察面を平行若しくはほぼ平行にして観察可能にする構成とした。
【0016】
この発明の請求項5に係る光学系の薄層斜光照明法は、上記請求項1乃至請求項3記載の光学系の薄層斜光照明法において、カメラ等の受光素子の受光面、あるいは結像レンズを傾けることにより、試料観察面を傾け、斜光照明光と試料観察面を平行若しくはほぼ平行にして観察可能にし、試料観察面を傾ける場合に、レンズに入射する照明光の形を細長くすることにより、試料を照明する薄層光を薄くし試料照明範囲を広くする構成とした。
【0017】
これにより、試料観察面を傾けている場合には、観察視野の大きさは、カバーガラスに平行な面による照明光の断面形状の照明光進行方向の半径には依存せず、垂直な方向の半径によって決まるので、照明光進行方向に垂直な方向の半径は大きくし、照明光進行方向の半径は小さくした細長い形の入射光を用いると、観察視野を狭めることなく、照明光の厚さを薄くすることができる。
【0018】
この発明の請求項6に係る光学系の薄層斜光照明法は、上記請求項1乃至請求項3記載の光学系の薄層斜光照明法において、複数の入射光の使用や、回転等による入射位置の移動によって、偏りのない薄層斜光照明を行う構成とした。
【0019】
この発明の請求項7に係る光学系の薄層斜光照明法は、上記請求項1乃至請求項6の光学系が蛍光顕微鏡や暗視野顕微鏡などの光学顕微鏡、対物レンズを用いたレンズ光学系にも適用可能な構成とした。
【0020】
これにより、光学顕微鏡はもとより各種の顕微鏡及び光を用いた検出において、低背景の画像及び低バックグラウンドのシグナルを得ることができる。その結果として、高感度・高いS/N比の画像及びシグナルを得ることができる。
【0021】
この発明の請求項8に係る光学系の薄層斜光照明法は、蛍光顕微鏡、原子間力顕微鏡、トンネル顕微鏡、又はフォトトンネル顕微鏡の光学系において、薄層光照明を用いた顕微鏡観察を、焦点位置を移動させながら連続画像を得て、デコンボリューションによってセクショニング画像及び3次元画像を得る構成した。
【0022】
これにより、薄層光照明を用いた顕微鏡観察から、焦点位置を移動させながら連続画像を得て、デコンボリューションによってセクショニング画像及び3次元画像を得ることができ、背景光が低く高画質である。また、試料の照明が薄い層状領域のみの局所的であるので、得られる蛍光像を高感度カメラであるイメージングインテンシファイアーCCDによって観察することにより、蛍光色素1分子を可視化できる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明は、対物レンズあるいはコンデンサーレンズ等のレンズを用いたレンズ光学系の斜光照明において、試料を薄い層状の光で照明することにより、照明光のあたる領域が局所的に制限されて、背景光を低くすることができ、高感度で高いS/N比の画像およびシグナルを得ることができることに依拠するものである。光学系としては蛍光顕微鏡や暗視野顕微鏡などの光学顕微鏡はもとより、レンズを用いたレンズ光学系にも広く適用できるものである。次に、本発明の実施形態を図1乃至図9に基づいて以下に詳述する。
【0024】
図1に照明光の厚さを求める原理を示す。図において、試料観察面8での照射半径をr、試料1における照明光5の厚さをd、試料1における照明光5の入射角(又は、照明光5とレンズ光軸とのなす角)をθとすると、
【数1】
d=2r・cosθ ・・・・・・・(1)
の関係式により、試料1における照明光5の厚さdを求めることができる。
【0025】
図2に光学系の対物レンズに関連する部分拡大図を示す。図において、1は試料媒体(溶液等)、2はカバーガラス、3はオイル、4はレンズ(レンズ群)、5は照射光である。光源からの照射光はダイクロイックミラー(図示なし)で直角に屈折されて照射光5となり、オイル3、カバーガラス2を経て試料媒体1に斜光照明される。
【0026】
図2において、試料1における照明光5の厚さをd、試料1における照明光5の入射角をθ、レンズ4への照明光入射位置、即ち、レンズ後焦点面9における照明光5のレンズ光軸からの距離をX、照明光5のレンズへの入射角をφ、照明光のレンズ入射の開き角の半分をδφとすると、試料1における照明光5の厚さdを与える式 d=2r・cosθにおいて、試料への照明光の入射角θはXによって決まり、試料観察面での照射半径rはδφによって決まる値であることがわかる。従って、照明光の厚さdを薄くすることは、cosθおよびrを小さくすることに より実現できる。
【0027】
cosθを小さくするには、θを90度に近づければ良いが、そのためにXを大きくする。即ち、対物レンズの縁に光を入射し、試料において対物レンズ光軸と垂直に近い角度で斜光照明をおこなう。
【0028】
試料観察での照射半径rは、レンズへ4の入射の開き角2δφにより調節されるので、照射半径rを小さくするためには、δφを小さくすれば良い。その際、rを小さくすると観察視野が狭められるので、観察視野の許す範囲において、rを小さくする必要がある。
【0029】
また、試料1の屈折率をn、レンズの焦点距離をfとすると、試料1への照明光入射角θの照明は、レンズ4への照明光入射位置Xを次の関係式によって決まる値とすることにより得られる。従って、レンズ4への照明光入射位置Xを、試料1への照明光入射角度θによって決まるようにする必要がある。
【数2】
X=nf・sinθ ・・・・・・・(2)
尚、(2)式は理論的な式であり、実際的にはレンズ毎に補正した関係を用いる。
【0030】
こうして、レンズを用いた斜光照明において、試料への照明光入射角度をレンズ光軸に垂直に近い角度にし、照射領域を絞ることにより、薄い層状の光で試料を照明することができ、かつ、レンズへの照明光入射位置を、試料への照明光入射角度θによって決まるようにする。そして、光学顕微鏡においては、低背景・高感度のセクショニング像や3次元画像を得ることができる。
【0031】
次に、レンズの焦点位置を変えて、試料観察面のカバーガラス表面からの高さZを変える場合について図3を参照して説明する。図3(A)はレンズ4への照明光5の入射角φでは、試料観察面8のカバーガラス2表面からの高さはZであることを示す。
【0032】
図3(B)はレンズ4への照明光5の入射角が(φ+△φ)では、試料観察面8のカバーガラス表面からの高さは(Z+△Z)となることを示す。それ故、レンズ4の焦点位置を変えてもレンズへの照明光5の入射角φを変えることにより、同じ入射角θで試料1を照明することができる。
【0033】
試料観察面8の高さZが小さい時は、レンズへの照明光入射角度φは0度のままでも薄層照明が可能である。また、レンズへの照明光入射角度φを調整することにより、試料観察面8の高さZを大きく、あるいは試料への照明光入射角度θを大きく、照明光の厚みdを薄く、または照射範囲(直径2r)を広くすることが可能となる。
【0034】
そして、高さZの試料面を観察する場合の照明は、レンズへの照明光入射角度φを、試料への照明光入射角度θ、レンズ焦点距離f、試料の屈折率n、レンズ側の屈折率n’とレンズの特性とによって決まる数値をkとすると、実際的には、1次近似によりφをZに比例させる次の式で得られる。
【数3】
φ=k・Z ・・・・・・・・(3)
より精度の高い数値が必要とされる場合には、2次以上の近似の関係式を用いることにする。
【0035】
開口数の大きいレンズを用いるほど照明光を薄くできるが、試料の屈折率nよりも開口数NAが大きいレンズを用いて、試料への照明光入射角度を更に光軸に垂直に近くすることで、より薄い光で照明することができる。レンズの開口数NAが大きいほど、図2において照射光入射範囲Xを大きくすることができ、照明光の入射角θが大きくなるので、その結果として、照明光の厚さdを薄く、あるいは照射光照射範囲2rを広くすることができる。
【0036】
また、レンズの開口数が大きいほど、レンズへの照明入射角度φを大きくすることができるので、(3)式により、試料観察面8の高さZを大きく、あるいは試料1への照明光入射角度θを大きくできるので、その結果として、より高い位置Zまで観察できる、あるいは照明光の厚さdを薄く、あるいは照射範囲2rを広くすることができる。
【0037】
更に、試料の屈折率よりもレンズの開口数の大きいレンズを用いることにより、この利点をさらに大きくすることができる。そして、試料の屈折率nとレンズ側の屈折率n’の違いは球面収差が生じるが、この収差を補正したレンズを用いることにより薄層斜光照明の性能を良くすることができる。
【0038】
次に、カメラ等の受光素子の受光面を傾ける場合、あるいは結像レンズを傾ける場合について図4を参照して説明する。図4において、1は試料媒体(溶液等)、2はカバーガラス、3はオイル、4はレンズ(レンズ群)、5は照射光、8は試料観察面、9は結像レンズ、10はカメラ等の受光素子11である。図では、レンズ系を単純化して描いているが、実際には中間にレンズ群が入って構成されている。
【0039】
図4(A)はカメラ等の受光素子10の受光面を傾けることにより、試料観察面8を傾け、斜光照明光5と試料観察面8を平行、若しくはほぼ平行にして観察することができることを示している。
【0040】
また、図4(B)は結像レンズ9を傾けることにより、試料観察面8を傾け、斜光照明光5と試料観察面8を平行もしくはほぼ平行にして観察することができることを示している。結像レンズ9を傾ける方法では、中間の光学系の変更によっても同等のことを行うことができる。
【0041】
更に、図4(A)の試料観察面8を傾ける場合に、対物レンズ4に入射する照明光の形を細長くし、試料を照明する薄層光をさらに薄くすることができる。このことを図5を参照して説明する。符号は上述の例と同一である。
【0042】
図5(A)は図2と同じ構成であるので説明は省略する。図5(B)は試料領域の照射光を上側からみた拡大図である。照明光の厚さdを与える式 d=2r・cosθにおける、rはカバーガラスに平行な面による照明光の断面形状の、照明 光進行方向の半径である。試料観察面を傾けている場合には、観察視野の大きさはrには依存せず、rに垂直な方向の半径r’によって決まる。従って、r’は大きくし、rは小さくした細長い形の入射光を用いると、観察視野を狭めることなく、照明光の厚さdを薄くすることができる。
【0043】
こうして、薄層光照明を用いた顕微鏡観察から、焦点位置を移動させながら連続画像を得て、デコンボリューションによってセクショニング画像及び3次元画像を得ることができる。そして、本発明によると従来法とは違って、背景光が低く高画質であることに加え、試料の照明が薄い層状領域のみの局所的である。
【0044】
それ故に、試料観察面近傍の領域のみをデコンボリューションの計算対象とすれば良いという計算上・画質上ともに大きな利点がある。従って、厚みのある試料の観察、明るい中にある暗い部分の観察、1分子観察のような高感度観察の、セクショニング画像及び3次元画像を行うことを可能にする。
【0045】
更に、図6のように、複数の入射光または回転対称な入射光の使用や、回転等による入射位置の移動によって、複数の照明光5,5’が得られ、偏りのない薄層光照明を行うことができる。
【0046】
次に、本発明を適用して蛍光顕微鏡に薄層斜光照明法を用いた例を図7に示す。図において、符号は上述の例と同一物のものには同一符号を付しており、11は受光素子(カメラ)、12は光学フィルタ、13はミラー、14は集光用レンズ、Rは照明レーザー光の可変絞りの内径である。レーザー光を照明光として用い、集光用レンズ14によってレンズ4の後焦点面9にレーザー光を集光し、試料1における照明光を平行光にする。
【0047】
可変絞り径Rを変えて入射開き角2δφを変化させ、照射半径rを調節する。ミラー13と集光用レンズ14を一体としてtx方向に移動させることにより、入射位置Xを調節する。次に、ミラー13へのレーザー光の入射位置をtφ方向に移動すると、集光用レンズ14を通過後の光路の傾きが変化するので、tφによってレンズ4への入射角φを調節する。以上の調節によって、試料1における照明光の層の厚さ d=2r・cosθを数ミクロンに設定することができる。
【0048】
実施例を挙げると、油浸100倍 NA1.4の対物レンズを用い、試料観察面における照射領域の直径2r=30μmの時、試料における入射角θ=80.4°でd=5μm、入射角θ=84.3°でd=3μmとなる。油浸60倍 NA1.4の対物レンズを用い、試料観察面における照射領域の直径2r=45μmの時、試料における入射角θ=86.2°でd=3μmとなる。
【0049】
こうして、薄層斜光照明によって得られる蛍光像を、高感度カメラであるイメージングインテンシファイアーCCDによって観察することにより、蛍光色素1分子を可視化できる。
【0050】
また、他の適用例として、蛍光顕微鏡において、試料観察面を傾け、照明光を細長くし、高NA対物レンズを用いて、薄層照明光を薄くする例を説明する。図7の蛍光顕微鏡において、図4(B)の結像レンズを傾ける方法により試料観察面を傾け、図5の細長い照明光を使う方法を用いる。
【0051】
カバーガラスでの照明光の断面形状は、短径2r=30μm、長径2r’=100μmにする。このようにすれば、1辺100μmの観察視野を得ることができ、観察視野を狭めることなく、照明光の厚みを薄くできる。
【0052】
式 d=2r・cosθから、試料における照明光の層の厚さdは、油浸60倍 NA1.4の対物レンズを用いると、2r=30μm、試料における照明光の入射角θ=86°でd=2μmとなる。但し、厚さdが光の波長(可視光で0.4〜0.7μm)に近くなるため、回折現象により光の層の上下に光の広がりが見られ始める。
【0053】
更に、NAの大きい油浸60倍 NA1.45の対物レンズを用いると、試料における入射角θ=87.9°、即ち、カバーガラスとのなす角が3°となり、照明光とカバーガラスとがほとんど平行になる。このように平行に近づけることにより、結像レンズを傾けることによる画質への影響が無視できるようになる。光の厚さdに関しては、理論的には2μmより薄くなるが、回折光による厚みの広がりも強くなる。
【0054】
本発明の光学系の薄層斜光照明と従来の斜光照明法による照明光の厚みを実測比較すると、図8の表に示すように、例えば開口数NA=1.4の対物レンズを用いた場合、従来の斜光照明法による照明光の厚みの約半分の厚みが得られた。
【0055】
図9には、レンズへの照明入射角度と試料観察面の高さとの関係を例示したものであり、グラフ中の数値2rは、試料観察面での照射領域の直径である。図9(A)は油浸100倍 NA1.4の対物レンズを用い、照明光の厚みd=3μmの例である。図9(B)は油浸60倍 NA1.4の対物レンズを用い、照明光の厚みd=3μmの例である。図9(C)は油浸60倍 NA1.4の対物レンズを用い、照明光の厚みd=5μmの例である。
【0056】
本発明の薄層斜光照明法を用いた蛍光顕微鏡観察によって、細胞内においても明瞭な1分子イメージングが実現した。その結果、分子1個の動きや変化を直接観察できるようになった。それと共に、分子1個の蛍光強度を得ることによって、蛍光強度から細胞内における分子数を定量することも実現できた。更に、分子数の定量から細胞内における分子間相互作用の結合分子数と結合の強さを求めることを実現できた。
【0057】
現在、ナノテクノロジーのバイオへの応用が強い興味を集めているが、1分子レベルの高感度検出を可能にする本発明の薄層斜光照明法は、この分野における重要な要素技術になるものと考えられる。また、顕微鏡技術としても、新しい顕微鏡法として発展することが期待される。
【0058】
【発明の効果】
以上のように、本発明の光学系の薄層斜光照明法は、対物レンズを用いた斜光照明において、薄い層状の光で試料を照明することにより、光学顕微鏡はもとより各種の顕微鏡及び光を用いた検出において、低背景の画像及び低バックグラウンドのシグナルを得ることができる。その結果として、高感度・高いS/N比の画像及びシグナルを得ることができる。
【0059】
また、薄層光照明を用いた顕微鏡観察から、焦点位置を移動させながら連続画像を得て、デコンボリューションによってセクショニング画像及び3次元画像を得ることができ、背景光が低く高画質である。また、試料の照明が薄い層状領域のみの局所的であるので、得られる蛍光像を高感度カメラで観察することにより、蛍光色素1分子を可視化できると共に、分子1個の蛍光強度を得ることによって、蛍光強度から細胞内における分子数を定量することも実現できる。更に、分子数の定量から細胞内における分子間相互作用の結合分子数と結合の強さを求めることを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の照明光の厚さを求める原理図。
【図2】光学系の対物レンズに関連する部分拡大図。
【図3】対物レンズの焦点位置を変える方法の概略図。
【図4】受光素子の受光面あるいは結像レンズを傾ける方法の概略図。
【図5】対物レンズに入射する照明光の形を細長くする方法の概略図。
【図6】複数の入射光または回転対称な入射光を使用する方法の概略図。
【図7】蛍光顕微鏡の薄層斜光照明法の概略図。
【図8】本発明方法と従来方法の照明光の厚さの比較表。
【図9】レンズへの照明入射角度と試料観察面の高さとの関係図。
【図10】従来の蛍光顕微鏡の落射照明法の概略図。
【図11】従来の対物レンズ型全反射照明法の概略図。
【図12】光照射切り替え方法の概略図。
【符号の説明】
1 試料媒体(溶液等)
2 カバーガラス
3 オイル
4 対物レンズ(レンズ群)
5,6 照射光
7 ダイクロイックミラー
8 試料観察面
9 結像レンズ
10
11 受光素子(カメラ)
12 光学フィルタ
13 ミラー
14 集光用レンズ
Claims (8)
- 対物レンズあるいはコンデンサーレンズ等を用いたレンズ光学系の斜光照明で、試料への照明光入射角度をレンズ光軸に垂直に近くすることにより、薄い層状の光で試料を照明する薄層斜光照明法において、レンズへの照明光入射位置を、試料への照明光入射角度によって決まる値とすることを特徴とする光学系の薄層斜光照明法。
- 対物レンズあるいはコンデンサーレンズ等を用いたレンズ光学系の斜光照明で薄い層状の光で試料を照明する薄層斜光照明法において、焦点位置を変えて異なる高さの試料面を観察する場合には、レンズへの照明光入射角度を、試料観察面の高さと試料への照明光入射角度に応じて変えることを特徴とする光学系の薄層斜光照明法。
- 前記レンズとして、試料の屈折率よりも開口数が大きいレンズまたは試料の屈折率に起因する収差を補正したレンズを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光学系の薄層斜光照明法。
- カメラ等の受光素子の受光面、あるいは結像レンズを傾けることにより、試料観察面を傾け、斜光照明光と試料観察面を平行若しくはほぼ平行にして観察可能にすることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の光学系の薄層斜光照明法。
- 試料観察面を傾ける場合に、レンズに入射する照明光の形を細長くすることにより、試料を照明する薄層光を薄くし試料照明範囲を広くすることを特徴とする請求項4記載の光学系の薄層斜光照明法。
- 複数の入射光の使用や、回転等による入射位置の移動によって、偏りのない薄層斜光照明を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の光学系の薄層斜光照明法。
- 光学系が蛍光顕微鏡や暗視野顕微鏡などの光学顕微鏡、対物レンズを用いたレンズ光学系であることを特徴とする請求項1乃至請求項6記載の光学系の薄層斜光照明法。
- 薄層光照明を用いた顕微鏡観察において、焦点位置を移動させながら連続画像を得て、デコンボリューションによってセクショニング画像及び3次元画像を得ることを特徴とする請求項7記載の光学系の薄層斜光照明法。
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